説明

自己アルドール縮合によるアルデヒドの調製方法

10℃以上の温度で弱酸性条件下、アミン触媒の使用により、プレニルアルデヒド(3−メチル−2−ブテナール)の自己アルドール縮合生成物を調製する方法が開示される。プレニルアルデヒドのα−1,2−付加物及びγ−1,2−付加物の選択的形成方法、及び、香味料及び香料産業で有用な特別な組成物の形成方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、少なくとも2つのγ水素を持つα,β−不飽和アルデヒドの自己アルドール縮合生成物の調製方法に関する。より具体的にいうと、本開示は、プレニルアルデヒドとしても知られる3−メチル−2−ブテナールからの風味及び芳香性化合物の合成で有用な中間体の調製方法を記載する。1つの実施形態では、デヒドロラヴァンジュラールとしても知られる、下記式で示されるような(2E)−5−メチル−2−(1−メチルエテニル)−2,4−ヘキサジエナール(1)が形成される。
【化1】

【0002】
他の実施形態では、デヒドロシトラールとしても知られる、下記式で示されるような(2E,4E)−3,7−ジメチル−2,4,6−オクタトリエナール(2)が形成される。
【化2】

【背景技術】
【0003】
デヒドロラヴァンジュラール(1)への公知のルートは酸性条件下でのプレニルアルデヒドへの高価な試薬2−メチル−3−ブチン−2−オールの付加を含む。続く脱水及び転移により、スキーム1で示すように、デヒドロラヴァンジュラール(1)が生成する(Fisherら、DE2,212,948を参照)。これに対し、本開示は、プレニルアルデヒドからアミン触媒自己アルドール縮合反応を経てデヒドロラヴァンジュラール(1)を得る、費用効率の高い方法を提供する。
【化3】


スキーム1
【0004】
デヒドロシトラール(2)への以前のルートについては、Traasら、Tetrahedron Lett.,1977,2129−2132を参照。デヒドロシトラール(2)を調製する別法は、スキーム2で示すとおり、乾燥剤の存在下、弱酸条件下で、プレニルアルデヒドとプレニルアルデヒドのイミン誘導体とのカップリングによりデヒドロシトラール(2)を得ることを含む。
【化4】


スキーム2
【0005】
プレニルアルデヒドの自己アルドール縮合から種々の生成物を得ることができ、その反応の特定の位置化学的結果は特定の反応条件により決定される。自己アルドール縮合反応は、例えば、スキーム3で示すようにγ−1,4−付加生成物を優先的に生成するよう制御できる。例えば、γ−1,4−縮合物である4,6,6−トリメチル−1,3−シクロヘキサジエン−1−カルボキサアルデヒド(3)は、−70℃〜−20℃でテトラヒドロフラン中、プレニルアルデヒドとプレニルアルデヒドのリチウムジエノラートとを反応させることにより単独で得られる(Duhamelら,Tetrahedron Lett.,32:4495(1991))。
【化5】


スキーム3
【0006】
−10℃〜0℃(熱力学的支配)では、プレニルアルデヒドとプレニルアルデヒドのカリウムジエノラートとの主要な縮合生成物もγ−1,4−付加物である(Cahardら,Tetrahedron Lett.,39:7093−7096(1998))。粗反応物中、α−付加物は検出されなかった。速度支配下−78℃で同じカリウムジエノラートがプレニルアルデヒドと反応すると、スキーム4で示すように、主要生成物は、環化し脱水したγ−1,2−付加生成物の混合物である(Cahardら,Tetrahedron Lett,39:7093−7096(1998))。
【化6】


スキーム4
【0007】
γ−1,4−又はγ−1,2−付加生成物を形成するプレニルアルデヒドの公知の自己アルドール反応に対し、本開示は、10℃以上の温度で弱酸及び触媒量の第一級アミンの使用により、スキーム5で示すように、プレニルアルデヒドのα−1,2−付加生成物を調製する方法を提供する。また本開示は、弱酸及び触媒量の第二級又は第三級アミンの使用により、−78℃ではなく10℃以上という穏やかな反応温度で、スキーム4で示すように、プレニルアルデヒドのγ−1,2−付加物を調製する方法も提供する。
【化7】


スキーム5
【発明の概要】
【0008】
3−メチル−2−ブテナールの自己アルドール縮合生成物を調製する方法を提供する。本方法は、少なくとも10℃、例えば約10℃〜約90℃の温度でアミン及び弱酸と3−メチル−2−ブテナールを反応させることを含む。ここで示した条件下で、形成される付加生成物は1,2−縮合生成物である。
【0009】
一実施形態では、第一級アミンが使用され、3−メチル−2−ブテナールのα−1,2−縮合生成物が形成される。別の実施形態では、第二級又は第三級アミンが使用され、3−メチル−2−ブテナールのγ−1,2−縮合生成物が形成される。
【0010】
弱酸はプロピオン酸、ノナン酸、安息香酸等のカルボン酸であってよい。一実施形態では、第一級アミンは、シクロヘキシルアミン等のアルキルアミンであってよく、tert−オクチルアミン、tert−ブチルアミン等の三級アルキル基を持つアルキル第一級アミンも挙げることができる。別の実施形態では、第二級アミンは、モルホリン、ジイソブチルアミン等のジアルキルアミンであってよい。さらに別の実施形態では、第三級アミンはジイソプロピルエチルアミン等のトリアルキルアミンであってよい。
【0011】
本開示に従い調製される自己アルドール反応生成物は、香味料及び香料として有用な各種化合物の合成のための中間体を提供する。一実施形態では、デヒドロラヴァンジュラール(1)としても知られる(2E)−5−メチル−2−(1−メチルエテニル)−2,4−ヘキサジエナール(1)を形成できる。デヒドロラヴァンジュラール(1)はラヴァンジュロール又はテトラヒドロラヴァンジュロールに還元することができ、両化合物はバラの香りを持ち、人工のラベンダー油及び香料で有用である。別の実施形態では、デヒドロシトラール(2)としても知られる(2E,4E)−3,7−ジメチル−2,4,6−オクタトリエナール(2)を形成できる。デヒドロシトラール(2)は、サフラナールsafranalとしても知られる2,6,6−トリメチル−1,3−シクロヘキサジエン−1−カルボキサアルデヒドの直接前駆体である。サフラナールはサフランの匂いを持ち、香味料及び香料として商業的に価値が高い。
【0012】
開示する方法は、腐食性の高い酸及び塩基の使用を回避する。開示する方法の全合成ステップは比較的簡単な変換を含み、必要最小限しか廃棄物を出さない。開示する方法はアルキルハライド又は有機金属試薬の使用を回避する。加えて、水性の作業手順を最小限にするか又は排除することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示はプレニルアルデヒドの自己アルドール付加生成物(付加物)の調製方法に関する。自己アルドール付加生成物はプレニルアルデヒド、アミン及び弱酸を含む反応混合物から調製できる。ここで開示する手順によれば、プレニルアルデヒドのα−1,2−付加物及びγ−1,2−付加物を選択的に形成できる。ここでは依拠しないが、最初に形成された自己アルドール付加生成物が系中で脱水され、自己アルドール縮合生成物を生成すると理論化される。反応は任意に加熱されて、室温を超える反応温度としてもよい。あるいは、反応は冷却されて、室温未満で少なくとも10℃の反応温度としてもよい。
【0014】
本開示によれば、α−1,2−付加物は、触媒量の第一級アミン(HNR)及び触媒量の弱酸(RCOH)の存在下、プレニルアルデヒドの自己アルドール反応により得ることができ、ここでRはC〜C17アルキル、アリール又は置換アリールであり、RはC〜C12アルキル又はC〜C12シクロアルキルである(スキーム6)。ここでは依拠しないが、スキーム6で示すように、最初に形成されたプレニルアルデヒドのα−1,2−付加物が系中で脱水され、自己アルドール縮合生成物デヒドロラヴァンジュラール(1)を生成すると理論化される。
【化8】


スキーム6
【0015】
さらに本開示によれば、γ−1,2−付加物は、触媒量の第二級アミンHNR又は第三級アミンNR、及び触媒量の弱酸RCOHの存在下、プレニルアルデヒドの自己アルドール反応により得ることができ、ここでRはC〜C17アルキル、アリール又は置換アリールであり、R、R及びRは独立して、C〜Cアルキル、シクロアルキル、アリール又は置換アリールから選択される(スキーム7)。第二級アミンとしては環状及び複素環式アミンも挙げられる。環状アミンとしては、例えば、少なくとも1個の窒素原子と4〜15個の炭素原子を含む環状化合物が挙げられる。複素環式アミンとしては、例えば、少なくとも1個の窒素原子、4〜15個の炭素原子、並びに、1〜3個の酸素及び/又は硫黄原子を含む環状化合物が挙げられる。第三級アミンとしては、例えば、N−置換環状アミン及びN−置換複素環式アミンが挙げられる。好適なN−置換基としてはC〜Cアルキル基が挙げられる。
【0016】
ここでは依拠しないが、スキーム7で示すように、最初に形成されたプレニルアルデヒドのγ−1,2−付加物が系中で脱水され、自己アルドール縮合生成物デヒドロシトラール(2)を生成すると理論化される。
【化9】


スキーム7
【0017】
反応は約10℃〜約90℃の温度で行なうことができる。好ましくは、反応は室温を超える反応温度になるよう加熱してもよい。好適な反応温度としては限定されないが、約30℃〜約90℃、及び約40℃〜約70℃が挙げられる。また反応は90℃を超える温度で行なうこともできる。揮発性試薬を失うことなく高い反応温度を容易に得るために、加圧装置を用いて反応を行なうことができる。反応は室温で行なうことができ、また、任意に、室温未満で少なくとも10℃の温度まで冷却することができる。適切な反応温度としては約10℃〜約30℃、例えば約15℃〜約25℃、そして約20℃が挙げられる。
【0018】
一実施形態では、反応混合物は有機溶媒又は有機溶媒の混合物を含む。溶媒中のプレニルアルデヒド濃度は当業者により決定されるが、通常、約0.5M〜約2Mである。有機溶媒の適切な例としては限定されないが、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、およびデカンなどの鎖状及び分枝状アルカン;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタンなどのシクロアルカン;トルエンなどの芳香族炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン(glyme)、及びジエチレングリコールジメチルエーテル(diglyme)などのエーテル;アセトン、及び2−ブタノンなどのケトン;並びに、tert−ブチルアルコール及び2−メチル−2−ブタノール(tert−アミルアルコール)などのアルコールが挙げられる。溶媒の混合物も本開示の範囲であるが、そのような混合物の使用は時に、反応選択性を改善し、副産物の形成を低減することがある。代表的な溶媒混合物としては限定されないが、ヘプタンとtert−アミルアルコールの混合物、オクタンとtert−アミルアルコールの混合物、及び、テトラヒドロフランとトルエンの混合物が挙げられる。
【0019】
別の実施形態では、反応混合物は任意の乾燥剤を含む。乾燥剤の適切な例は限定されないが、硫酸ナトリウム及び分子篩が挙げられる。
【0020】
反応混合物は弱有機酸又は弱無機酸等の弱酸を含む。好ましい実施形態では、弱酸は反応混合物中に触媒量で存在する。ここで開示するように、触媒量の弱酸とは、弱酸のモル濃度が反応混合物中、プレニルアルデヒドのモル濃度よりも少ないことを意味する。弱酸のモル濃度はプレニルアルデヒドのモル濃度の約0.5%〜約95%、例えば約1%〜約50%、約5%〜約30%、又は約10%〜約25%であってよい。あるいは、弱酸のモル濃度は、実施例2で示すように、プロセスに悪影響を及ぼさずにプレニルアルデヒドのモル濃度よりわずかに大きくともよい。
【0021】
弱酸は、一般に、水に対するpKが約2〜約6である。一実施形態では、弱酸は、水に対するpKが約2〜約6のカルボン酸を含む。別の実施形態では、当該カルボン酸は、式RCOHで表されるアルカン酸を含み、ここでRは好ましくはC〜C17アルキル、より好ましくはC〜C10アルキル、最も好ましくはC〜Cアルキルである。本開示で使用される弱アルカン酸の適切な例は限定されないが、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、およびヘキサデカン酸(パルミチン酸)が挙げられる。前記カルボン酸としては芳香族カルボン酸及び置換芳香族カルボン酸も挙げられる。芳香族カルボン酸の例は安息香酸である。適切な芳香族カルボン酸置換基はハロゲン化物、C−Cアルキル基、C−Cアルキルエーテル等が挙げられる。別の実施形態では、前記カルボン酸はアルカン二酸を含む。弱アルカン二酸の適切な例はヘキサン二酸(アジピン酸)及び酒石酸を含む。弱酸の別の適切な例はクエン酸である。別の実施形態では、弱酸は弱酸性のイオン交換樹脂を含む。1以上の弱酸の混合物も使用できる。
【0022】
反応混合物は第一級アミン、第二級アミン又は第三級アミン等のアミンを含む。好ましい実施形態では、アミンは反応混合物中に触媒量で存在する。ここで開示するように、触媒量のアミンとは、アミンのモル濃度が反応混合物中、プレニルアルデヒドのモル濃度よりも少ないことを意味する。アミンのモル濃度はプレニルアルデヒドのモル濃度の約0.5%〜約95%、例えば約1%〜約50%、約5%〜約30%、又は約10%〜約25%であってよい。
【0023】
アミンは式HNRで表される第一級アミンであってよく、ここでRは好ましくはC〜C12アルキル又はC〜C12シクロアルキルであり、より好ましくはC〜C10アルキル又はC〜C10シクロアルキルであり、最も好ましくはC〜Cアルキルである。一実施形態では、Rは二級アルキル基、シクロアルキル基又は三級アルキル基であってよい。本開示で使用される第一級アミンの適切な例としては限定されないが、2−アミノブタン、tert−ブチルアミン、1−メチルブチルアミン(2−アミノペンタンとしても公知)、1−エチルプロピルアミン(3−アミノペンタンとしても公知)、2−アミノヘキサン、3−アミノヘキサン、シクロヘキシルアミン、tert−オクチルアミン、及びこれらの混合物が挙げられる。好ましい第一級アミンとしては、tert−オクチルアミン、tert−ブチルアミン、シクロヘキシルアミン等のヒンダードアミン又は三級アルキルアミンが挙げられる。
【0024】
別の実施形態では、アミンは第二級アミン又は第三級アミンである。適切な第二級アミンは式HNRで表すことができ、適切な第三級アミンは式NRで表すことができ、ここでR、R及びRは独立して、C〜Cアルキル、シクロアルキル、アリール又は置換アリールから選択される。第二級アミンとしては環状及び複素環式アミンも挙げられる。環状アミンとしては、例えば、少なくとも1個の窒素原子と4〜15個の炭素原子を含む環状化合物が挙げられる。複素環式アミンとしては、例えば、少なくとも1個の窒素原子、4〜15個の炭素原子、並びに、1〜3個の酸素及び/又は硫黄原子を含む環状化合物が挙げられる。第三級アミンとしては、例えば、N−置換環状アミン及びN−置換複素環式アミンが挙げられる。好適なN−置換基としてはC〜Cアルキル基が挙げられる。本開示で使用される第二級アミンの適切な例としては限定されないが、ジエチルアミン、ジイソブチルアミン、モルホリン、ピロリジン、及びこれらの混合物が挙げられる。本開示で使用される第三級アミンの適切な例としては限定されないが、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0025】
本開示は、少なくとも2つのγ水素を持つα,β−不飽和アルデヒドの自己アルドール縮合生成物の調製方法にも及ぶ。当該自己アルドール縮合生成物は、少なくとも10℃の温度でアミン及び弱酸の存在下、少なくとも2つのγ水素を持つα,β−不飽和アルデヒドを反応させることで調製することができる。適切なα,β−不飽和アルデヒドとしては特に限定されないが、(E)−2−ブテナール(クロトンアルデヒド)、トランス−2−メチル−2−ブテナール(チグリンアルデヒド)、及び(E)−2−ペンテナールが挙げられる。
プレニルアルデヒドからのテトラヒドロラヴァンジュロール及びラヴァンジュロールの合成
【0026】
本開示によれば、スキーム6で示すように、プレニルアルデヒド(3−メチル−2−ブテナール)を触媒量の第一級アミン及びカルボン酸で処置すると、デヒドロラヴァンジュラール(1)が生成する。香味料及び香料として有用な化合物を得るために、デヒドロラヴァンジュラール(1)はスキーム8で示すように、接触水素化により2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキサノール(テトラヒドロラヴァンジュロール)に変換することができる。テトラヒドロラヴァンジュロールはバラの香りを持ち、香料分野で広く使用される。テトラヒドロラヴァンジュロールの従来の合成法については、Suzukamoら,米国特許No.4,547,586を参照。
【化10】


スキーム8
【0027】
また、デヒドロラヴァンジュラールは、スキーム9で示すように、メタノール中、水素化ホウ素ナトリウムにより(2E)−5−メチル−2−(1−メチルエテニル)−2,4−ヘキサジエン−1−オール(デヒドロラヴァンジュロール)に変換でき、次いで、次亜リン酸ナトリウム水和物及びカーボン担持の触媒パラジウムを用いてテトラヒドロラヴァンジュロールに還元できる。
【化11】


スキーム9
【0028】
デヒドロラヴァンジュラール(1)をデヒドロラヴァンジュロールに還元するのに公知の他の方法も使用できる。例えば、不飽和炭素−炭素二重結合の存在下でアルデヒドのアルコールへの選択的還元は、スキーム10でシトラールからゲラニオールへの公知の変換について示すように、接触水素化により達成できる。このシトラールからゲラニオールへの還元はデヒドロラヴァンジュラール(1)からデヒドロラヴァンジュロールへの変換に類似している。この変換で有用な適切な触媒としては、Ru化合物と共にFe又はZn塩(例えば、日本公開特許公報74 133,312(1974))、並びにCu−Cr−Cd(例えば、Pauloseら,Chem.Abstracts,78:111523e(1973)及びPauloseら,Chem.Abstracts,83:10440w(1975)を参照)がある。
【化12】


スキーム10
【0029】
5−メチル−2−(1−メチルエテニル)−4−ヘキセン−1−オール(ラヴァンジュロール)は薬草のバラ様の匂いを持ち、人工のラベンダー油で使用するため香水産業で極めて重視されている。ラヴァンジュロールはスキーム11で示すように、デヒドロラヴァンジュロールの接触水素化により得ることができる。
【化13】


スキーム11
【0030】
デヒドロラヴァンジュロールからラヴァンジュロールへの還元は、スキーム12で示すゲラニオールからシトロネロールへの選択的還元に類似している。この選択的水素化で有用な適切な触媒としては銅クロマイトが挙げられる(例えば、Phoutiら,Chem.Abstracts,80:37307h(1973)を参照)。
【化14】


スキーム12
【0031】
不規則性テルペノイドであるデヒドロラヴァンジュラールは香水産業での有用性に加えて、(2E)−5−メチル−2−(1−メチルエチル)−2,4−ヘキサジエン−1−オールの酢酸エステルの直接前駆体としても利用される。この化合物はパッションフラワー・コナカイガラムシPlanococcus minorの性ホルモンであることが最近示された(Millar,J.G.,Tetrahedron Lett.49,315−317(2008)を参照)。この昆虫は、とうもろこし、大豆、トマト、オレンジやレモンなどの木の果実、米、ブドウ、ピーナッツ、コーヒー、綿、及びじゃがいもと同じくらいさまざまの主要作物を含む250種類以上の宿主植物の重大な害虫である。米国で立証されつつあるこの害虫の可能性及び深刻な経済的結果についてはVenette,R.C.とDavis,E.E.,”Mini Risk Assessment.Passionvine mealybug:Planococcus minor (Maskell),”1−30(2004)で議論されており、ここでは、この侵襲的害虫を制御するためホルモン仕掛けによるトラップの使用可能性が記載されている。
プレニルアルデヒドからのサフラナールの合成
【0032】
本開示によれば、スキーム7で示すように、プレニルアルデヒド(3−メチル−2−ブテナール)を触媒量の第二級又は第三級アミン及びカルボン酸で処置すると、デヒドロシトラール(2)が生成し得る。デヒドロシトラール(2)は、スキーム13のルートにより、2,6,6−トリメチル−1,3−シクロヘキサジエン−1−カルボキサアルデヒド(サフラナール)に変換できる(例えば、Retamarら,Essenze,Derivati Agrumari,63:407−413(1993)を参照。)。サフラナールはサフランの香りを持ち、香味料及び香料として商業的に価値が高い。
【化15】


スキーム13
【0033】
以下の実施例は例示目的で提示され、特許請求の範囲で説明されている開示を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0034】
実施例1
65℃で安息香酸及びTert−オクチルアミンの存在下3−メチル−2−ブテナール(プレニルアルデヒド)の自己アルドール縮合による(2E)−5−メチル−2−(1−メチルエテニル)−2,4−ヘキサジエナール(1)(デヒドロラヴァンジュラール)の調製
【0035】
92mg(1.1mmol)の3−メチル−2−ブテナール(Aldrich Chemical Co.,Milwaukee,WIから購入)、1.00mLのテトラヒドロフラン(99.5+%、25ppmのBHTで阻害;Aldrich Chemical Co.,Milwaukee,WIから購入)、1.00mLのトルエン(A.C.S.試薬等級)、16mgの安息香酸(0.13mmol)、250mgの無水硫酸ナトリウム(粒状、99+%、A.C.S.試薬)、10μL(0.06mmol)のtert−オクチルアミン(Aldrich Chemical Co.,Milwaukee,WIから購入)、及びTEFLON(R)被覆回転バーを、反応の途中フラスコ内の混合物が大気条件から保護されるようにJohnsonとSchneider(Org.Synth.,30,18(1950))で記載されたものと同様の装置に接続した還流冷却器を装着した25mLの一口反応フラスコに添加した。
【0036】
窒素ガス流で系を短時間パージした後、混合物を穏やかな還流(65−67℃、外部のオイルバス温度)で3.5時間加熱した。混合物を室温に冷却した後、5mLのヘキサン及び50mgの無水炭酸カリウムをフラスコに添加し、次いで混合物を60分間室温で撹拌して安息香酸を中和した。次にHYFLO SUPER−CEL(R)の小さなパッドに通して固形材料をろ別し、次に減圧下での蒸発により揮発性有機溶媒を除去することで生成物を単離した。次に未反応の3−メチル−2−ブテナール及び微量のtert−オクチルアミンを高真空(0.25mmHg)下、室温で除去することで、21mgの生成混合物を得た。その特定及び比率はプロトンNMR分析(300MHzでCDCl溶液中で記録)により確認した。
【0037】
そのプロトンNMRスペクトルデータを、デヒドロシトラール(2)について公表されているスペクトルデータ(Kamiら,J.Org.Chem.55,5312−5323(1990))及び4,6,6−トリメチル−1,3−シクロヘキサジエン−1−カルボキサアルデヒド(3)について公表されているスペクトルデータ(Hongら,Org.Letters,8,2217(2006))と比較した後、前記混合物は、デヒドロラヴァンジュラール(1)、(2E,4E)−3,7−ジメチル−2,4,6−オクタトリエナール(2)(デヒドロシトラール)、及び4,6,6−トリメチル−1,3−シクロヘキサジエン−1−カルボキサアルデヒド(3)をそれぞれ76:12:12の比率で含有することが分かった。デヒドロラヴァンジュラール(1)のプロトンNMRスペクトルは、δ9.44(CH=O)にシングレット;δ7.10(CのビニルH)にダブレット(J=12Hz);δ6.35(CのビニルH)に幅広のダブレット(J=12Hz);δ5.27及びδ4.80(C=CH)に幅広のシングレット;並びに、δ1.97,1.94,及び1.90(3個のCH基)に幅広のシングレットを示した。デヒドロシトラール(2)のプロトンNMRスペクトルは、δ10.10(CH=O、E立体異性体)にダブレット(J=8.1Hz);δ6.97(CのビニルH)にダブレットのダブレット(J=15,11Hz);δ6.24(CのビニルH)にダブレット(J=15Hz);δ6.00(CのビニルH)に幅広のダブレット(J=11Hz);δ5.95(CのビニルH)に幅広のダブレット(J=8.1Hz);δ2.30(CのCH)にダブレット(J=1.2Hz);及びδ1.88(Cの2つのCH基)で重なり合っている幅広のシングレットにより特定された。デヒドロラヴァンジュラールの存在はさらに、実施例5で示すようにデヒドロラヴァンジュラールの水素化により公知の化合物テトラヒドロラヴァンジュロールを得ることで確認された。生成混合物中の微量成分である4,6,6−トリメチル−1,3−シクロヘキサジエン−1−カルボキサアルデヒドの存在はδ9.40(CH=O)のシングレット及びδ1.20(6H;Cの2つのCH基)のシングレットにより示された。後者の環状アルデヒドの完全なスペクトル特性についてはB.C.Hongら,Org.Letters,8,2217(2006)を参照。
【0038】
3−メチル−2−ブテナールのN−tert−オクチルイミン誘導体の相当量(全生成物の約70%)が単離され、そのイミンは、δ8.14(CH=N)のダブレット(J=9.3Hz);δ6.03(CのビニルH)のカルテットのダブレット(J=9.3,1.2Hz);δ1.92及びδ1.87(2つのビニルCH基)のダブレット(J=1.2Hz);δ1.63(CH)のシングレット;δ1.24(6H;NC(CH)のシングレット;及び、δ0.92(9H;C(CH)のシングレットというプロトンNMRスペクトルにより特定された。3−メチル−2−ブテナール及びtert−オクチルアミンから調製された基準サンプルのプロトンNMRスペクトルとの比較によりイミン誘導体の同一性を確認した。
【0039】
特定の機構に同意するものではないが、3−メチル−2−ブテナールのN−tert−オクチルイミン誘導体は自己アルドール反応プロセスでの「中間体」であり得る。反応時間が長くなり、より高い変換率まで反応が進行すると、反応産物中のイミン誘導体の存在は減少する。
【0040】
反応の温度を上げても、反応の速度は増加する。実施例1の手順を、例えば3:1(v/v)シクロヘキサン:トルエン、又は、1:1(v/v)2−ブタノン:シクロヘキサンを含む溶媒を用いて約80℃の温度で繰り返したところ、ポリエナールの同様の混合物が得られた。
【0041】
第一級アミン触媒は反応が進行するのに不可欠である。tert−オクチルアミンを存在させずに実施例1の手順を繰り返すと、粗反応産物のプロトンNMR分析により確認したところ、3−メチル−2−ブテナールの自己アルドール縮合を経て実質的にポリエナールは得られなかった。tert−オクチルアミンを、同等の触媒量のシクロヘキシルアミン(立体障害が少ない第一級アミン)に置き換えると、反応はゆっくりとした速度で進行したが、3−メチル−2−ブテナールの自己アルドール産物が形成された。加えて、乾燥剤(例えば無水NaSO)の存在はこの自己アルドール縮合で任意である。
実施例2
20℃でプロピオン酸、tert−オクチルアミン及び分子篩の存在下、3−メチル−2−ブテナール(プレニルアルデヒド)の自己アルドール縮合による(2E)−5−メチル−2−(1−メチルエテニル)−2,4−ヘキサジエナール(1)(デヒドロラヴァンジュラール)の調製
【0042】
91mg(1.1mmol)の3−メチル−2−ブテナール、0.50mLのヘプタン、0.50mLの2−メチル−2−ブタノール(tert−アミルアルコール);微量の抗酸化剤BHT(「ブチル化ヒドロキシトルエン」)、0.10mL(1.34mmol)のプロピオン酸(99+%;Aldrich Chemical Co.,Milwaukee,WIから購入);4Å分子篩(22mg;Fisher Scientificから購入し、使用前にすり鉢及び乳棒で粉砕);及び10ミクロリットル(0.06mmol)のtert−オクチルアミンを、TEFLON(R)被覆回転バーを含むコック付き10mLの一口反応フラスコに添加した。次いでこの混合物を室温で19時間撹拌し、その後、8mLのヘキサンで希釈し、HYFLO SUPER−CEL(R)の小さなパッドを通してろ過して分子篩を除去した。300mgの無水炭酸カリウムをろ液に添加し、次いでこれを室温で30分間撹拌してプロピオン酸を中和した。次にHYFLO SUPER−CEL(R)の小さなパッドに通して固形材料をろ別し、次に減圧下での蒸発により揮発性有機溶媒を除去することで生成物を単離した。次に未反応の3−メチル−2−ブテナールを高真空下、室温で除去することで、20mgの生成混合物を得た。その特定及び比率はプロトンNMR分析(300MHzでCDCl溶液中で記録)により確認した。
【0043】
前記ポリエナール混合物は、デヒドロラヴァンジュラール(1)、デヒドロシトラール(2)、及び4,6,6−トリメチル−1,3−シクロヘキサジエン−1−カルボキサアルデヒド(3)をそれぞれ86:7:7の比率で含有していた。さらに、生成混合物は実施例1の反応と比較して少ない3−メチル−2−ブテナールのN−tert−オクチルイミン誘導体を含有していた(実施例1の生成物の70%に対し生成物の約50%)。
【0044】
以上の手順を乾燥剤である4Å分子篩に代えて27mgの無水硫酸ナトリウム(粒状)を用いて繰り返した。これらの条件下では、同じ「生成物選択性」(すなわちポリエナールの比率)が得られた。しかし、乾燥剤として硫酸ナトリウムを使用した時は、分子篩と比較して、自己アルドールプロセスはゆっくりと進行した。しかしアルドールプロセスは乾燥剤の添加がなくともゆっくりと進行するので、乾燥剤は反応に不可欠のものではない。
実施例3
20℃でプロピオン酸、tert−オクチルアミン及び硫酸ナトリウムの存在下、3−メチル−2−ブテナール(プレニルアルデヒド)の自己アルドール縮合による(2E)−5−メチル−2−(1−メチルエテニル)−2,4−ヘキサジエナール(1)(デヒドロラヴァンジュラール)の調製
【0045】
174mg(2.07mmol)の3−メチル−2−ブテナール、1.00mLのヘプタン、1.00mLのtert−アミルアルコール、0.20mL(2.7mmol)のプロピオン酸(99+%)、58mgの無水硫酸ナトリウム(粒状)、及び17mgのtert−オクチルアミンを、TEFLON(R)被覆回転バーを含むコック付き25mLの一口反応フラスコに添加した。この反応混合物を室温で4日間撹拌し、その後、10mLのヘキサンで希釈した。600mgの無水炭酸カリウムを添加し、次いでこの混合物を室温で45分間撹拌してプロピオン酸を中和した。次に生成物を実施例2に記載の方法で単離して、デヒドロラヴァンジュラール(1)、デヒドロシトラール(2)、及び4,6,6−トリメチル−1,3−シクロヘキサジエン−1−カルボキサアルデヒド(3)をそれぞれ83:10:7の比率で含有する69mgを得た。この生成混合物の約30%は3−メチル−2−ブテナールのN−tert−オクチルイミン誘導体であったが、これは実施例に記載の加水分解の手順に従いポリエナールから除去できる。
【0046】
カルボン酸触媒の追加は自己アルドール反応を行なうのに適切であることが分かった。例えば、カルボン酸触媒は反応混合物に不溶性であり得る。プロピオン酸をAMBERLITE(R)IRC−50イオン交換樹脂(弱酸性樹脂、20−50メッシュ)に置き換え、20℃で1:1(v/v)ヘプタン:tert−アミルアルコール中、触媒量のtert−オクチルアミンと併用すると、3−メチル−2−ブテナールの自己アルドール縮合生成物が得られた。プロピオン酸と比較してAMBERLITE(R)の使用は、反応速度を遅くすることが分かった。プロピオン酸(又は同等の酸性を持つ化合物)が存在しないと、3−メチル−2−ブテナールの自己アルドール縮合は非常にゆっくりと進行するか、又は進行は認められない。
実施例4
(2E)−5−メチル−2−(1−メチルエテニル)−2,4−ヘキサジエナール(1)(デヒドロラヴァンジュラール)、(2E,4E)−3,7−ジメチル−2,4,6−オクタトリエナール(2)(デヒドロシトラール)、及び4,6,6−トリメチル−1,3−シクロヘキサジエン−1−カルボキサアルデヒド(3)の調製
【0047】
実施例3記載のように調製した69mgのデヒドロラヴァンジュラール(1)、デヒドロシトラール(2)、4,6,6−トリメチル−1,3−シクロヘキサジエン−1−カルボキサアルデヒド(3)、及び3−メチル−2−ブテナールのN−tert−オクチルイミン誘導体の混合物を、1.0mLのトルエン(A.C.S.試薬等級)に溶かした後、1:1(v/v)水:氷酢酸に溶かした酢酸ナトリウム(400mg)の溶液2.0mLと混合した。この不均一な混合物を室温で2時間激しく撹拌した後、20mLの3:1(v/v)ヘキサン:ジクロロメタンで希釈した。次いで有機相を順番に、20mLの5%(w/v)NaCl水溶液と2.0mLの2M HCl水溶液を混合したもの;20mLの10%(w/v)NaCl水溶液;15mLの重炭酸ナトリウム飽和水溶液;及び15mLの飽和塩水で洗浄した。次に有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過した。減圧下の蒸発により揮発性有機溶媒を除去した後、高真空(0.25mmHg)下、室温で3−メチル−2−ブテナールを除去することで、デヒドロラヴァンジュラール(1)、デヒドロシトラール(2)、及び4,6,6−トリメチル−1,3−シクロヘキサジエン−1−カルボキサアルデヒド(3)をそれぞれ25:3:2の比率で含有する49mgを得た(実施例3で使用した3−メチル−2−ブテナールの量に基づき28%変換)。この生成物の比率はこれらポリエナール各々のアルデヒド・プロトンにより現れたNMRシグナル(実施例1で示した)の積分値により決定した。主要生成物(ポリエナール混合物の>83%)としてのデヒドロラヴァンジュラール(1)の形成は予想外のことであった。なぜなら、3−メチル−2−ブテナールの自己アルドール縮合の以前の研究ではそれが検出されなかったためである。
実施例5
2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキサノール(テトラヒドロラヴァンジュロール)の調製
【0048】
2.0mLのエチルアルコール中の35mg(0.23mmole)のデヒドロラヴァンジュラール(1)(>83%純度;実施例4に従い製造)及び25mg(0.66mmole)の水素化ホウ素ナトリウムの溶液を室温で60分間撹拌した後、混合物に0.50mLの水を添加して、さらに5分間撹拌を継続した。25mLの4:1(v/v)ヘキサン:ジクロロメタンで混合物を希釈した後、有機相を順番に、20mL容の10%(w/v)NaCl水溶液及び飽和塩水で洗浄した。次に有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過した。減圧下の蒸発により揮発性有機溶媒を除去することで、29mg(82%収率)の(2E)−5−メチル−2−(1−メチルエテニル)−2,4−ヘキサジエン−1−オール(デヒドロラヴァンジュロール)(ただし、出発原料に含まれていたデヒドロシトラール(2)、及び4,6,6−トリメチル−1,3−シクロヘキサジエン−1−カルボキサアルデヒド(3)の還元により得られた少量のアルコールを伴う)を得た。デヒドロラヴァンジュロールの同定はプロトンNMR分析により確認した(300MHzでCDCl溶液中で記録)。このスペクトルは、δ6.25(CのビニルH)のダブレット(J=11.4Hz);δ6.06(CのビニルH)の幅広のダブレット(J=11.4Hz);δ5.15及びδ4.86(C=CH)の幅広のシングレット;δ4.19(CHO)の幅広のシングレット;δ1.89(3H、ビニルCH)の幅広のシングレット;及びδ1.79(6H、2個のCH基)のシングレットを示した。
【0049】
/Pdを用いた接触水素化に代えて、前記トリエナールにおける炭素−炭素二重結合を、Salaら,Tetrahedron Lett.,25,4565(1984)により報告された方法に従い飽和させた。この方法は、50℃で、触媒量の10%Pd−Cを含むエタノール中トリエナールの混合物に対し、大過剰の次亜リン酸ナトリウムを含む水溶液をゆっくりと添加する(4時間以上をかけて)ことを含む。この方法により得られた主要生成物は、プロトンNMR分析により2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキサノール(テトラヒドロラヴァンジュロール)であることが示された。このプロトンNMRスペクトルは、日本の産業技術総合研究所が保持するSpectral Data Base System(SDBS)で見ることのできるテトラヒドロラヴァンジュロールの基準サンプルで現れたものと比較した。
実施例6
45℃での1:1(v/v)tert−アミルアルコール:オクタンの濃縮溶液中での3−メチル−2−ブテナールの自己アルドール縮合
【0050】
92mg(1.1mmol)の3−メチル−2−ブテナール、0.25mLのオクタン、0.25mLのtert−アミルアルコール、微量(1mg未満)の抗酸化剤BHT、14mg(0.11mmol)の安息香酸、43mgの無水硫酸ナトリウム、10ミクロリットル(0.06mmol)のtert−オクチルアミン、及びTEFLON(R)被覆回転バーを、反応の途中フラスコ内の混合物が大気条件から保護されるようにJohnsonとSchneider(Org.Synth.,30,18(1950))で記載されたものと同様の装置に接続したアダプターを装着した25mLの一口反応フラスコに添加した。
【0051】
窒素ガス流で系を短時間パージした後、混合物を18時間加熱した(43−45℃、外部のオイルバス温度)。混合物を室温に冷却した後、5mLのヘキサン及び50mgの無水炭酸カリウムをフラスコに添加し、次いで混合物を60分間室温で撹拌して安息香酸を中和した。次にHYFLO SUPER−CEL(R)の小さなパッドに通して固形材料をろ別し、次に減圧下での蒸発により揮発性有機溶媒を除去することで生成物を単離した。次に未反応の3−メチル−2−ブテナール及び微量のtert−オクチルアミンを高真空(0.25mmHg)下、室温で除去することで、38mg(約40%の変換)の生成混合物を得た。その特定及び比率はプロトンNMR分析(300MHzでCDCl溶液中で記録)により確認した。
【0052】
そのポリエナール混合物は、デヒドロラヴァンジュラール(1)、デヒドロシトラール(2)、及び4,6,6−トリメチル−1,3−シクロヘキサジエン−1−カルボキサアルデヒド(3)をそれぞれ10:2:1の比率で含有するものであった。粗生成物の約45%は、3−メチル−2−ブテナールのN−tert−オクチルイミンからなるものであった。反応温度を70℃に上げると、変換率は改善され(15時間後に65%より大きい)、回収された3−メチル−2−ブテナールイミン誘導体の量は大きく減少した。しかし、デヒドロラヴァンジュラール(1)とデヒドロシトラール(2)との比率は好ましくなかった(約3:1)。
【0053】
デヒドロラヴァンジュラール(1)に対するデヒドロシトラール(2)の形成は高温でわずかに増加したが、これら2つの化合物は生成混合物のうち90%以上含まれ分別蒸留により分離できるので、芳香化合物の製造についてはこのプロセスは魅力あるものである。デヒドロシトラール(2)の完全水素化は3,7−ジメチルオクタン−1−オール(テトラヒドロゲラニオール)を与えるが、この化合物はバラ花弁様の匂いを持ち、家庭用品に香りをつけるのに使われることがある。
実施例7
カルボン酸及び第二級アミンの存在下3−メチル−2−ブテナールの自己アルドール縮合
【0054】
86mg(1.02mmol)の3−メチル−2−ブテナール、1.00mLのテトラヒドロフラン(99.5+%;Aldrich Chemical Co.,Milwaukee,WIから購入)、1.00mLのトルエン、微量(1mg未満)の抗酸化剤BHT、16mg(0.13mmol)の安息香酸、90mgの無水硫酸ナトリウム(粒状)、10ミクロリットル(0.057mmol)のジイソブチルアミン(Aldrich Chemical Co.,Milwaukee,WIから購入)、及びTEFLON(R)被覆回転バーを、コック付き15mLの一口反応フラスコに添加した。この混合物を室温で18時間撹拌し、その後、4.0mLのヘキサンで希釈し、50mgの無水炭酸カリウムをフラスコに添加した。次いでこの混合物を室温で60分間撹拌して安息香酸を中和した。次にHYFLO SUPER−CEL(R)の小さなパッドに通して固形材料をろ別し、次に減圧下での蒸発により揮発性有機溶媒を除去することで生成物を単離した。次に未反応の3−メチル−2−ブテナール及び少量のジイソブチルアミンを高真空(0.25mmHg)下、室温で除去することで、28mg(約32%の変換)の生成物を得た。プロトンNMR分析(300MHzでCDCl溶液中で記録)により、ほんの微量(<2%)のデヒドロラヴァンジュラール(1)及び4,6,6−トリメチル−1,3−シクロヘキサジエン−1−カルボキサアルデヒド(3)を含むことが示された。化合物(3)の不在は予想外のことであった、なぜなら、Watanabeら,J.Org.Chem.,71,9458(2006)が、3−メチル−2−ブテナールは、化学量論量のプロリンの存在下、室温で自己縮合を受けて4,6,6−トリメチル−1,3−シクロヘキサジエン−1−カルボキサアルデヒド(3)のみを与えると報告していたからである。
【0055】
このプロセスで得られたポリエナールはデヒドロシトラール(2)の2E:2Z立体異性体の3:1混合物であり、この自己アルドールプロセスに関与した「エナミン中間体」が少量含まれていた。デヒドロシトラールの(2E)−立体異性体のプロトンNMRスペクトルは、δl0.10(CH=O)のダブレット(J=8.1Hz);δ5.95(CのビニルH)の幅広のダブレット(J=8.1Hz);δ2.30(CのCH)のダブレット(J=1.2Hz);及び実施例1で報告した他のピーク(δ6.97(CのビニルH)のダブレットのダブレット(J=15,11Hz);δ6.24(C4のビニルH)のダブレット(J=15Hz);δ6.00(CのビニルH)の幅広のダブレット(J=11Hz);δ1.88(Cの2つのCH基)で重なり合っている幅広のシングレット)を示した。(2Z)立体異性体について対応のシグナルは、δ10.19(CH=O)のダブレット(J=8Hz);δ5.82(CのビニルH)のダブレット(J=8Hz)、及びδ2.12(CのCH)のダブレット(J=1.2Hz)であった。
【0056】
3−メチル−2−ブテナールの自己アルドール縮合を、いずれも触媒量のカルボン酸(例えば、安息香酸又はプロピオン酸)及び第二級アミン(例えばモルホリン又はジイソブチルアミン)を含む1:1(v/v)tert−アミルアルコール:ヘプタン中で行なったところ、同様の結果が得られた。乾燥剤(例えば、NaSO)の存在は不可欠ではないが、第二級アミン又はカルボン酸のいずれかが存在しないと自己アルドール生成物はわずかしか、又はまったく形成されなかった。
【0057】
3−メチル−2−ブテナールからデヒドロシトラール(2)への変換率を約35%より高く増加させる試みは、δ10.11(CH=O)のダブレット(J=7.8Hz)及びビニル水素シグナルの数の増加で特定される「C−15付加体」の漸進的形成につながった。特定の機構に同意するものではないが、生成物デヒドロシトラール(2)の濃度が上昇すると、3−メチル−2−ブテナールのエナミン誘導体とデヒドロシトラール(2)の反応によりC−15付加体が形成された。中程度の変換率(35%)に関わらず、このプロセスで得られるデヒドロシトラール(2)の純度は高い。結果、この方法は、特に未反応の3−メチル−2−ブテナールが容易に回収されることから、高価なサフラナールの産生法として魅力的なルートである。
実施例8
カルボン酸及び第三級アミンの存在下での3−メチル−2−ブテナールの自己アルドール縮合
【0058】
実施例1で記載した手順に従い、97mg(1.15mmol)の3−メチル−2−ブテナール、1.00mLのテトラヒドロフラン(99.5+%、25ppmのBHTで阻害)、1.00mLのトルエン(A.C.S.試薬等級)、0.10mL(0.57mmol)のノナン酸、250mgの無水硫酸ナトリウム(粒状)、及び40ミクロリットル(0.23mmol)のN−ジイソプロピルエチルアミンの混合物を、穏やかな還流(65−67℃、外部のオイルバス温度)で3時間加熱した。混合物を室温に冷却した後、4.0mLのヘキサン及び150mgの無水炭酸カリウムをフラスコに添加し、次いで混合物を60分間室温で撹拌してノナン酸を中和した。次に実施例1の手順に記載のように生成物を単離して、8mgの物質を得た。この物質のプロトンNMR分析より、デヒドロシトラール(2)、デヒドロラヴァンジュラール(1)、及び4,6,6−トリメチル−1,3−シクロヘキサジエン−1−カルボキサアルデヒド(3)をそれぞれ6:1:1の比率で含有する混合物であることがアルデヒドのプロトンシグナルの積分値に基づいて分かった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−メチル−2−ブテナールの1,2−自己アルドール縮合生成物を調製する方法であって、
3−メチル−2−ブテナールの1,2−自己アルドール縮合生成物を形成するのに十分な条件下、10℃以上の温度で弱酸及びアミンの存在下、3−メチル−2−ブテナールを反応させることを含む、方法。
【請求項2】
前記アミンが第一級アミンを含み、3−メチル−2−ブテナールのα−1,2−縮合生成物が形成される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記アミンが第二級アミン又は第三級アミンを含み、3−メチル−2−ブテナールのγ−1,2−縮合生成物が形成される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記弱酸は、水に対するpKが約2〜約6である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記弱酸は、水に対するpKが約2〜約6のカルボン酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記カルボン酸は、式RCOHを持つアルカン酸を含み、RはC〜C17アルキルである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記アルカン酸は、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、及びこれらの混合物からなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記カルボン酸は芳香族カルボン酸を含む、請求項5記載の方法。
【請求項9】
前記芳香族カルボン酸は安息香酸を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記カルボン酸はアルカン二酸を含む、請求項5記載の方法。
【請求項11】
前記アルカン二酸は、ヘキサン二酸、酒石酸、及びこれらの混合物からなる群より選択される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記弱酸は弱酸性のイオン交換樹脂を含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記アミンはアルキル第一級アミンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記アミンは式HNRを持つアルキル第一級アミンを含み、Rは二級アルキル、シクロアルキル及び三級アルキルからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記アルキル第一級アミンは、tert−オクチルアミン、tert−ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、及びこれらの混合物からなる群より選択される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記アミンはジアルキル第二級アミンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記ジアルキル第二級アミンは、ジエチルアミン、ジイソブチルアミン、モルホリン、ピロリジン、及びこれらの混合物からなる群より選択される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記アミンはトリアルキル第三級アミンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項19】
前記トリアルキル第三級アミンは、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、及びこれらの混合物からなる群より選択される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
(2E)−5−メチル−2−(1−メチルエテニル)−2,4−ヘキサジエナールが形成される、請求項2記載の方法。
【請求項21】
(2E,4E)−3,7−ジメチル−2,4,6−オクタトリエナールが形成される、請求項3記載の方法。
【請求項22】
1,2−自己アルドール縮合生成物を調製する方法であって、
1,2−自己アルドール縮合生成物を形成するのに十分な条件下、10℃以上の温度で弱酸及びアミンの存在下、少なくとも2つのγ水素を持つα,β−不飽和アルデヒドを反応させることを含む、方法。
【請求項23】
前記少なくとも2つのγ水素を持つα,β−不飽和アルデヒドは、(E)−2−ブテナール、トランス−2−メチル−2−ブテナール、及び(E)−2−ペンテナールからなる群より選択される、請求項22記載の方法。

【公表番号】特表2011−518832(P2011−518832A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506384(P2011−506384)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【国際出願番号】PCT/US2009/041187
【国際公開番号】WO2009/131966
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(500160734)ロヨラ ユニバーシティ オブ シカゴ (5)
【Fターム(参考)】