自己免疫疾患および炎症疾患の治療
本発明は、多発性硬化症および他の自己免疫疾患または炎症障害の新規な治療方法、ならびにその新規な方法で使用される単離結合タンパク質などの拮抗薬を提供する。CD127またはIL-7に結合することによる生理活性の中和を含む多発性硬化症の治療方法が提供される。単離結合タンパク質は、TSLPの生理活性を中和することもできる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多発性硬化症および他の自己免疫疾患の新規な治療方法、ならびにこれらの方法で使用される新規な単離結合タンパク質を提供する。IL-7またはIL-7Rの生理活性を中和する段階を有する多発性硬化症の治療方法も提供される。
【背景技術】
【0002】
多発性硬化症(MS)は、中枢神経系に影響する慢性の炎症性脱髄疾患である。MSにおいては、髄鞘と称される脂肪層の形成および維持を担当する細胞である乏突起膠細胞の破壊に浸潤性炎症性免疫細胞が関与すると考えられている。MSによって、ミエリンの菲薄化および完全喪失を生じる。ミエリンが失われると、ニューロンはもはや電気信号を効果的に伝えることができず、多くの神経機能障害に至る。MS患者では、神経線維の髄鞘に沿った炎症性病変の形成に関与する自己反応性T細胞が生じる。活性MS患者の脳脊髄液は活性化T細胞を含み、その細胞が脳組織に浸潤し、特徴的な炎症性病変を生じてミエリンを破壊する。多発性硬化症の症状および病気の経過は人によって変わり得るものであるが、その疾患には再発寛解型MS、二次進行型MS、および一次進行型MSという3種類の型がある。
【0003】
MSの早期では、炎症発作が起こり、短い間隔で疾患活動性が急性的に亢進する。これらの発作の後には、回復および寛解の期間がある。寛解期間中、神経系病変での局所的腫脹が消散し、免疫細胞の活性が低下するか不活性となり、ミエリン酸性細胞が軸索を再ミエリン化する。神経シグナル伝達が改善し、炎症によって生じた能力障害は重度が低下し、完全に消失する。疾患のこの病期は再発寛解型MS(RRMS)と称される。しかしながら、病変が完全に治癒するとは限らない。「慢性」病変として残るものがあり、それは通常、免疫細胞を持たない脱髄した核領域を有する。時間経過に伴い、そのような病変の中心にある細胞はほとんど死ぬが、それらの縁部では炎症が続く場合が多い。脳はいくつかのニューロンの喪失には良好に適応することができ、長年にわたって永久的な能力障害は回避され得る。しかしながら、MS患者のうちの50%超が、最終的に 二次進行型MS(SPMS)と称される進行性劣化の段階に入る。この段階ではもはや、疾患は疾患改善薬に対して良好に応答することはなく、患者の能力障害は確実に悪化していく。MSの自然経過における早期からのニューロン破壊は、SPMSの進行性能力障害が蓄積されたニューロン喪失の結果であり、それが最終的に脳の代償能力を凌駕し得ることを示唆するものである。一次進行性MSは、再発のない種類の多発性硬化症であるが、長年の期間にわたり、身体機能および認知機能が徐々に失われる。
【0004】
再発寛解型多発性硬化症の患者における治療の目標は、再発の頻度および重度を低下させ(そして、それによって増悪を防止し)、疾患の進行期の開始を防止または延期することにある。この目標を達成するため、特に過去においては、免疫調節薬または免疫抑制薬が使用されてきたが、それらは効力に限界があり、かなり毒性が強いために広く受け入れられることはなかった。例えば、大規模な無作為対照試験が、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1bおよび酢酸ガラティラメルで良好に実施されている。
【0005】
自己免疫T細胞応答の変化および免疫系の調節ネットワークの機能不全の両方が、MSおよび関節リウマチなどのヒト自己免疫病において重要な役割を果たしている(Kuchroo et al., (2002) Annu. Rev. Immunol. 20:101-123; Sospedra and Martin (2005) Annu. Rev. Immunol. 23:683-747; Toh and Miossec (2007) Curr. Opin. Rheumatol. 19:284-288)。
【0006】
MSの病因および発症機序はまだ不明であるが、それはTH1細胞およびTH17細胞などの病因となり得る自己反応性T細胞が重要な役割を果たすと思われる自己免疫病理と考えられている。これらのエフェクターT細胞が疾患経過中にイン・ビボで活性化され、中枢神経系(CNS)炎症の原因となり得ることを示す証拠がある。これらのT細胞が疾患の活動期にEAEおよびMSの病変におけるミエリン発現細胞の破壊に介在することを示す証拠もある。他方、通常は病原性のTH1細胞およびTH17細胞を抑制する調節性T細胞(Treg)がMS患者において欠乏しており、免疫系を前炎症状態にさらに向かわせるものである。
【0007】
最近、三つの別個のグループが、MSのあるまたはMSのない合計17947名の供与者でのゲノム規模の一塩基変異多型(SNP)スキャンの結果を報告している。334923のSNPのスキャンを行った後、彼らはヒトIL-7受容体α鎖(IL-7Rα)における非同義コードSNPがMS感受性と有意性が非常に高い関連性を有することを見出している(全体でP=2.9×10-7)。SNPは、CD127のエキソン6(IL-7Rαとも称される)におけるTからCへの変化に相当する。この変化は、RNAスプライシング時におけるエキソン6読み飛ばしによって、可溶型のCD127が生じる確率を高めるものである。さらに、MS患者の脳脊髄液(CSF)でのCD127およびIL-7RNAの発現は、他の神経障害患者のCSFと比較して有意に高率である。
【0008】
IL-7およびIL-7受容体(IL-7R)は、主として胸腺環境でのT細胞およびB細胞の発達および恒常性において重要な役割を果たすことが知られている。実際、胸腺間質細胞、胎児胸腺および骨髄が、IL-7産生部位である。IL-7受容体は、CD127およびIL-2、IL-4、IL-9、IL-15およびIL-21の受容体によって共有される共通鎖(γ鎖またはγc)という二つのサブユニットからなる。
【0009】
CD127は、IL-7受容体α(IL-7Rα)およびp90 IL-7Rとも称される。ヒトCD127(SwissProt受託番号P16871)は、合計459個のアミノ酸(20個のシグナル配列)を有する。それは、219個のアミノ酸の細胞外領域、25個のアミノ酸の膜貫通領域および195個のアミノ酸の細胞内領域を含む。本明細書で使用される場合のCD127内の残基の番号付け(例えば、抗体エピトープの説明のため)は、シグナル配列残基を含む全長タンパク質に基づいたものである。CD127は、4種類のイソタイプで存在することができ、イソタイプH20(Swissprot受託番号P16871-1)は、下記のアミノ酸配列を有する(シグナル配列を含む)。
【0010】
CD127は、胸腺間質由来リンパポイエチン(lymphopoietin)(TSLP)の受容体でも認められる。TSLP受容体は、CD127およびサイトカイン受容体様因子2(CRLF2)のヘテロ二量体である。
【0011】
IL-7のIL-7Rへの結合によって、JAKキナーゼ1および3の活性化を含む複数のシグナル伝達経路が活性化されて、Stat5のリン酸化および活性化を生じる。Stat5の活性化が抗アポトーシスタンパク質Bcl-2の誘発およびアポトーシス促進タンパク質Baxのミトコンドリアへの進入の防止において必要であることから、この経路は胸腺発育T細胞前駆体の生存において必須である。別のIL-7R介在経路はPI3キナーゼの活性化であり、それによってアポトーシス促進タンパク質Badのリン酸化およびそれの細胞質保持が行われる。CD127は末梢休止および記憶T細胞で発現される。T細胞の生存および恒常性のIL-7調節の機序ならびに末梢でのIL-7源は完全には解明されていない。さらに、自己免疫疾患における病原性T細胞の分化および機能においてそれが果たし得る役割についてはほとんど研究されておらず、未知の部分がかなりある。IL-7が自己免疫疾患の病因に寄与し得ることを示唆する報告はほとんどない。
【0012】
CD127はWO9015870に記載されており、多発性硬化症の治療におけるIL-7およびCD127の拮抗薬がWO2006052660およびUS20060198822に記載されている。TSLPの拮抗薬は、例えばUS7304144およびWO2007096149に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】WO9015870
【特許文献2】WO2006052660
【特許文献3】US20060198822
【特許文献4】US7304144
【特許文献5】WO2007096149
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Kuchroo et al., (2002) Annu. Rev. Immunol. 20:101-123.
【非特許文献2】Sospedra and Martin (2005) Annu. Rev. Immunol. 23:683-747.
【非特許文献3】Toh and Miossec (2007) Curr. Opin. Rheumatol. 19:284-288.
【発明の概要】
【0015】
本発明者らは、IL-7/CD127拮抗作用が実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)の寛解において有効であることを明らかにした。その治療によって、TH17の顕著な低下が生じ、それより程度は低いが、治療を受けたマウスの脾臓および脊髄の両方におけるTH1細胞でも低下が生じ、それにはFoxp3+Tregレベルの上昇が伴っていた。本発明者らは、IL-7がTH17細胞の増殖および生存に必須であるが、前駆体T細胞のTH17細胞集団への分化時におけるそれの必要性が非常に小さいことも明らかにした。
【0016】
自己反応性炎症性TH17およびTH1細胞とTregの機能的比率のバランスがCD127またはIL-7の拮抗薬によって回復されれば、多発性硬化症および他の自己免疫疾患の治療法として高い可能性が得られる。
【0017】
TH17細胞およびTH1細胞の選択的感受性は、活性化病原性T細胞におけるCD127の高い発現および増殖および生存におけるそれらのIL-7要求性によるものであった。CD127を遮断すると、リン酸化JAK-1およびSTAT-5およびBCL-2のダウンレギュレーションおよびBAXの活動亢進を特徴とするシグナル伝達事象の変化が生じて、CD127+TH17およびTH1細胞はアポトーシスに対して感受性となる。対照的に、Foxp3+Treg(誘発性Treg)は、CD127を発現しないか、相対的に低いレベルでしか発現しなかったことから、CD127拮抗作用に対して抵抗性であった。IL-7/IL-7R相互作用の下流のアポトーシス経路を含むシグナル伝達事象は、抗CD127抗体を中和することでFoxp3+Tregにおいて影響を受けなかった。さらに、CD127拮抗作用の同様の効果が、Tregを持たないヒトTH17およびTH1の増殖および生存において認められた。これらの所見は、病原性T細胞の分化および維持におけるIL-7の役割を支持する新たな証拠を提供するものであり、MSおよび他のヒト自己免疫疾患において重要な治療的示唆を有するものである。
【0018】
従って、本発明の第1の態様では、対象者に対してIL-7受容体介在TH17増殖およびIL-7受容体介在TH17生存のうちの少なくとも一つの拮抗薬を投与する段階を有する、ヒト対象者での自己免疫疾患または炎症性障害の治療方法が提供される。
【0019】
IL-7受容体介在TH17増殖および/または生存は、TH17細胞カウントの増加もしくは維持により、または他のCD4+T細胞の数と比較したTH17細胞数の比における増加により、またはより具体的にはTH17:TH1比、TH17:Treg比、(TH17+TH1):Treg比、および/またはTH17:(TH1+Treg)比における増加によって細胞レベルで観察することができる。
【0020】
分子レベルでは、CD4+T細胞の集団による(またはTH17細胞の集団による)IL-17産生での増加により、TH17増殖および/または生存を観察することができる。従って1実施形態では、IL-7受容体介在TH17増殖および/またはIL-7受容体介在TH17生存の拮抗薬は、CD4+T細胞の集団によるIL-17産生を低下させる。IL-7受容体介在TH17増殖および生存は、CD4+T細胞の集団による(またはTH17細胞の集団による)IFN-γ産生の増加によっても観察することができる。従って、1実施形態において、本発明の拮抗薬は、CD4+T細胞の集団によるIFN-γ産生を阻害する。分子レベルでは、IL-7受容体介在TH17増殖および/または生存の拮抗薬は、IL-7受容体介在STAT-5リン酸化を阻害することができる。
【0021】
従って、別の態様において、本発明は、患者におけるTH17細胞カウントを低下させる上で十分な量でIL-7またはCD127の拮抗薬を患者に対して投与する段階を有する、自己免疫疾患または炎症性障害の治療方法を提供する。
【0022】
別の態様において、本発明は、対象者に対してIL-7受容体介在STAT-5リン酸化の拮抗薬を投与する段階を有する、ヒト対象者の自己免疫疾患の治療方法を提供する。
【0023】
別の態様において、本発明は、患者に対してIL-7またはCD127の拮抗薬を投与する段階を有し、前期患者が再発寛解型多発性硬化症を患っている、患者における多発性硬化症の治療方法を提供する。
【0024】
別の態様において、本発明は、対象者に対してTH17細胞のTH1細胞に対する比を低下させる上で有効な量でIL-7またはIL-7Rの拮抗薬を投与する段階を有する、ヒト対象者における自己免疫または炎症疾患を治療する方法を提供する。
【0025】
別の態様において、本発明は、対象者に対してTH細胞の(Foxp3+)Treg細胞に対する比を低下させる上で有効な量でIL-7またはIL-7Rの拮抗薬を投与する段階を有する、ヒト対象者における自己免疫または炎症疾患を治療する方法を提供する。
【0026】
上記の方法の1実施形態において、前期拮抗薬は、(a)CD127(配列番号1)に特異的に結合する結合タンパク質;(b)IL-7に特異的に結合する結合タンパク質、(c)可溶性CD127ポリペプチド;および(d)2以上の前記拮抗薬の組み合わせからなる群から選択される。
【0027】
1実施形態において、CD127またはIL-7に特異的に結合する結合タンパク質は、単離されたヒト、ヒト化またはキメラ抗体である。1実施形態において、CD127に特異的に結合する結合タンパク質(抗CD127結合タンパク質)は、抗体またはそれの抗原結合フラグメントである。一部の実施形態において、前記抗CD127結合タンパク質は、IL-7のIL-7R受容体複合体への結合を阻害する。
【0028】
本発明の方法で有用なある種の抗CD127抗体について本明細書で説明するが、それには9B7、6C5、6A3、R34.34、GR34および1A11、それらのヒト化もしくはキメラ版、それらのアナログ、ならびにそれらの抗原結合フラグメントなどがある。
【0029】
1実施形態において、IL-7に特異的に結合する結合タンパク質(抗IL-7結合タンパク質)は、抗体またはそれの抗原結合フラグメントである。
【0030】
別の態様において、本発明は、CD127に結合し、IL-7介在TH17増殖の阻害を行うことができるキメラ、ヒト化または完全ヒト抗体またはそれらの抗原結合フラグメントを提供する。
【0031】
本発明者らは、抗CD127結合タンパク質がIL-7経路またはIL-7R介在シグナル伝達の機能的中和において均一に効果的ではないことを確認した。それに反して、シグナル伝達経路において何らかの重要な役割を果たすように見えるヒトCD127ポリペプチドのある種の領域があり、その役割は、ヒトCD127のそれら領域のうちの1以上に結合することができる抗体がIL-7経路またはIL-7R介在シグナル伝達を中和する上で特に効果的となる程度のものである。それらの領域は、
というアミノ酸残基によって規定される。
【0032】
これらの領域が、リガンドIL-7とCD127受容体との間の相互作用において何らかの役割を果たすアミノ酸を含むことが想到される。下記のアミノ酸は、IL-7/CD127相互作用において特に重要であると考えられている。すなわち、アミノ酸
(a)51 SQH 53(配列番号122)、
(b)77 LVE 79(配列番号123)、
(c)97 KKFLLIG 103(配列番号124)、
(d)158 KY 159(配列番号125)、および
(e)212 YF 213(配列番号126)
である。
【0033】
これらの領域のうちの複数との結合は、IL-7R機能の阻害において重要なものとなり得る。
【0034】
1実施形態において、抗原結合タンパク質は、少なくとも一つまたは複数の上記で定義の領域(i)から(iv)内の少なくとも1個のアミノ酸、またはその領域に隣接するか構造的に隣接するアミノ酸に結合する能力を有する。別の実施形態において、抗原結合タンパク質は、少なくとも一つの上記で定義の領域(a)から(e)内の少なくとも1個のアミノ酸またはアミノ酸に結合する能力を有する。
【0035】
1実施形態において、本発明は、配列番号1のアミノ酸残基202から219によって規定される領域内の少なくとも1個のアミノ酸に結合する能力を有する抗原結合タンパク質を提供する。この実施形態による抗原結合タンパク質はさらに、配列番号1のアミノ酸残基(i)41から63、(ii)65から80、(iii)84から105および(iv)148から169によって規定される領域のうちの1個、2個、3個もしくは4個全ての中の少なくとも1個のアミノ酸に結合する能力をさらに有することができる。
【0036】
1実施形態において、抗原結合タンパク質は、配列番号1のアミノ酸(v)202から219によって規定される領域内の少なくとも1個のアミノ酸および配列番号1のアミノ酸(iv)148から169によって規定される領域内の少なくとも1個のアミノ酸に結合する。本実施形態による抗原結合タンパク質は、配列番号1のアミノ酸(ii)65から80および/または(iii)84から105によって規定される領域内の少なくとも1個のアミノ酸に結合する能力をさらに有することができる。ある特定の実施形態において、前記抗原結合タンパク質は、配列番号1のペプチド(ii)65から80、(iii)84から105、(iv)148から169、および(v)202から219のそれぞれの中の少なくとも1個のアミノ酸に結合している。
【0037】
別の実施形態において、本発明は、配列番号1のアミノ酸残基(e)212から213によって規定される領域内の少なくとも1個のアミノ酸、または隣接もしくは構造的に隣接するアミノ酸に結合する能力を有する抗原結合タンパク質を提供する。本実施形態による抗原結合タンパク質は、配列番号1のアミノ酸残基(a)51から53、(b)77から79、(c)97から103および(d)158から159によって規定される領域のうちの1個、2個、3個もしくは4個全ての中、それらに隣接もしくは構造的に隣接する少なくとも1個のアミノ酸に結合する能力をさらに有することができる。
【0038】
1実施形態において、前記結合タンパク質は、配列番号1のアミノ酸(e)212から213によって規定される領域内の少なくとも1個のアミノ酸、または隣接もしくは構造的に隣接するアミノ酸、および配列番号1のアミノ酸(d)158から159によって規定される領域の中の、それに隣接する、もしくは構造的に隣接する少なくとも1個のアミノ酸に結合する。本実施形態による結合タンパク質は、配列番号1のアミノ酸(b)77から79および/または(c)97から103によって規定される領域内の、それに隣接する、または構造的に隣接する少なくとも1個のアミノ酸に結合する能力をさらに有することができる。ある特定の実施形態において、前記結合タンパク質は、配列番号1のペプチド(b)77から79、(c)97から103、(d)158から159、および(e)212から213のそれぞれの中の少なくとも1個のアミノ酸に結合している。
【0039】
本発明のこれらの態様による抗体には、6A3、1A11、6C5および9B7、それらの抗原結合フラグメントおよびそれらのキメラもしくはヒト化変異体などがある。本発明のこれらの態様の別の抗体は、R3434またはGR34のキメラもしくはヒト化変異体、またはR3434もしくはGR34の抗原結合フラグメントである。
【0040】
別の態様において、本発明は、ヒト、ヒト化またはキメラ抗体またはそれらのフラグメントを提供し、その抗体またはフラグメントは残基番号80で開始し、残基番号190で終了する領域内の少なくとも1個のアミノ酸残基を含むヒトCD127のエピトープに結合する。
【0041】
1実施形態において、本発明は、ヒトCD127(配列番号1)のエピトープに結合する抗体またはそれのフラグメントを提供し、前記エピトープは配列番号20から28、45から50、67から70、87から89、および106から116のCD127の領域のうちの少なくとも一つに存在するアミノ酸残基を有する。この結合は、とりわけ、ペプチドELISA、表面プラズモン共鳴(BIAcore)またはファージディスプレイによって測定することができる。
【0042】
特定の実施形態において、前記抗体またはそれのフラグメントは、ヒトCD127(配列番号1)のエピトープに結合し、前記エピトープは、配列番号66から70の領域のうちの1個、2個、3個もしくは4個;配列番号87から89のCD127の領域のうちの1個、2個もしくは3個;または配列番号114から116のCD127の領域のうちの1個、2個もしくは3個に存在するアミノ酸残基を有する。
【0043】
1実施形態において、本発明は、ヒトCD127のエピトープに結合する抗体またはフラグメントを提供し、前記エピトープは、CD127の領域:35から49(配列番号20)、84から105(配列番号21)、171から180(配列番号22)、または直鎖ペプチド35から49(配列番号20)、84から105(配列番号21)、171から180(配列番号22)のうちの少なくとも一つに結合する抗体もしくはフラグメントのうちの少なくとも一つに存在するアミノ酸残基を有する。この結合は、とりわけ、ペプチドELISA、表面プラズモン共鳴(BIAcore)またはファージディスプレイによって測定することができる。 1実施形態において、本発明は、ヒトCD127(配列番号1)のエピトープに結合する抗体またはそれのフラグメントを提供し、そのエピトープはCD127(配列番号1)の領域:80から94(配列番号23)、95から109(配列番号24)、170から184(配列番号25)内に存在するアミノ酸残基を有するか、そのエピトープがそれら領域内に存在する。1実施形態において、本発明は、ヒトCD127(配列番号1)のエピトープに結合する抗体またはそれのフラグメントを提供し、前記エピトープがCD127(配列番号1)の領域:35から49(配列番号26)、84から105(配列番号27)、139から184(配列番号28)内に存在するアミノ酸残基を有するか、前記エピトープがそれら領域内に存在する。
【0044】
本発明の別の態様では、表面プラズモン共鳴による測定でCD127の残基35から49、84から105、171から180を含むC末端ビオチン化CD127ペプチドに結合する抗体またはそれのフラグメントが提供され、前記ペプチドはストレプトアビジンセンサーチップに結合している。
【0045】
別の実施形態では、前記抗体またはそれのフラグメントはさらに、結合を行う上で、CD127の35から49、84から105または171から180領域のうちの前記少なくとも1個の残基に対する少なくとも1個の隣接残基または構造的に隣接する残基を必要とする。
【0046】
当業者であれば、例えばELISAアッセイでアラニン置換スキャニングを用いて、そのような抗体またはそれのフラグメントを容易に同定することができる。この点において、前記抗体が、結合する上でCD127の上記で定義の領域において残基または隣接残基もしくは構造的に隣接する残基を必要とするか否かは、CD127の前記残基をアラニンで独立に置換し、アラニン置換CD127ペプチドに対する抗体の結合アフィニティを野生型CD127に対する抗体の結合アフィニティと比較することで決定することができる。CD127の上記で定義の領域における残基が必要であるか否かは、野生型CD127と比較したアラニン置換CD127に対する抗体の結合アフィニティにおける低下によって定義され、その低下は、BiacoreまたはELISAアフィニティ測定による測定で、1、2、3、4もしくは5倍より大きい。
【0047】
さらに、この文脈での構造的に隣接する残基は、対象となる残基に対して3次元空間で近位にあり、抗体によって結合している残基である。抗原エピトープが直鎖状もしくは非直鎖状ペプチド配列であり得ることは、当業者には明らかである。後者の非直鎖状の場合、残基はペプチド鎖の異なる領域からのものであるが、それらは抗原の3次元構造において近位にあることができる。そのような構造的に隣接する残基は、コンピュータモデリングプログラムにより、またはX線結晶解析などの当業界で公知の方法によって得られる3次元構造を介して確認することができる。
【0048】
本発明の別の態様は、CD127に対して特異的であり、自己免疫および/または炎症性障害の治療で有用な治療用抗体およびそれの抗原結合フラグメントに関するものである。その抗体および抗原結合フラグメントは、本明細書で定義のアッセイで、TH17の増殖および生存を阻害し、ないしはpSTAT-5を阻害することができる。これらの抗体および抗原結合フラグメントは、本発明の方法で有用な拮抗薬を代表し得るものである。
【0049】
より詳細には、1態様において、CD127に結合し、少なくとも9B7-CDRH3(配列番号6);6C5-CDRH3(配列番号33)、6A3-CDRH3(配列番号55)または1A11-CDRH3(配列番号75)からなる群から選択される第3の重鎖CDR(CDRH3)を含む抗体または抗原結合フラグメントおよび/またはそれらの誘導体が提供される。
【0050】
1実施形態において、前記の抗体または抗原結合フラグメントおよび/またはそれらの誘導体は、抗体9B7(配列番号6)および9B7の1個、2個、3個、4個もしくは5個全ての別のCDR(配列番号4、5、7、8、9);抗体6C5(配列番号33)および6C5の1個、2個、3個、4個もしくは5個全ての別のCDR(配列番号31、32、34、35、36);抗体6A3(配列番号55)および6A3の1個、2個、3個、4個もしくは5個全ての別のCDR(配列番号53、54、56、57、58);または抗体1A11(配列番号75)および1A11の1個、2個、3個、4個もしくは5個全ての別のCDR(配列番号73、74、76、77、78)のCDRH3を含む。
【0051】
別の態様では、CD127に結合し、下記のCDRを含む抗体または抗原結合性フラグメントおよび/またはそれの誘導体、またはそれのアナログである治療用抗体が提供される。
【0052】
別の態様では、CD127に結合し、下記のCDRおよびを含むヒト、ヒト化もしくはキメラ抗体または抗原結合性フラグメントおよび/またはそれの誘導体である治療用抗体またはそれのアナログが提供される。
【0053】
本明細書を通じて、「CDR」、「CDRL1」、「CDRL2」、「CDRL3」、「CDRH1」、「CDRH2」、「CDRH3」という用語は、カバットの著作(Kabat et al; Sequences of proteins of Immunological Interest NIH, 1987)に記載のカバット番号付けシステムに従うものである。従って、下記のものは本発明におるCDRを定義するものである。
【0054】
CDR:残基
CDRH1:31から35、35(A)、35(B)
CDRH2:50から65
CDRH3:95から97
CDRL1:24から34
CDRL2:50から56
CDRL3:80から97。
【0055】
別の態様では、
(i)配列番号2の重鎖可変領域および/または配列番号3の軽鎖可変領域;
(ii)配列番号29の重鎖可変領域および/または配列番号30の軽鎖可変領域;
(iii)配列番号51の重鎖可変領域および/または配列番号52の軽鎖可変領域;または
(iv)配列番号71の重鎖可変領域および/または配列番号72の軽鎖可変領域
を含むモノクローナル抗体が提供される。
【0056】
本発明により、配列番号2、3、29、30、51、52、71および72の配列の全長にわたり、少なくとも90%同一性、または少なくとも95%同一性、または少なくとも98%同一性、または少なくとも99%同一性を有する抗体可変ドメイン配列も提供される。
【0057】
本発明により、患者に対して抗CD127抗体を投与する段階を有し、前記抗体が
(i)配列番号2の重鎖可変領域および/または配列番号3の軽鎖可変領域;
(ii)配列番号29の重鎖可変領域および/または配列番号30の軽鎖可変領域;
(iii)配列番号51の重鎖可変領域および/または配列番号52の軽鎖可変領域;
(iv)配列番号71の重鎖可変領域および/または配列番号72の軽鎖可変領域;または
(v)配列番号90の重鎖可変領域および/または配列番号91の軽鎖可変領域、あるいは
これらの重鎖および/または軽鎖可変領域に対して少なくとも90%同一性、または少なくとも95%同一性、または少なくとも98%同一性、または少なくとも99%同一性を有する重鎖および軽鎖可変領域を有するモノクローナル抗体
を含む、自己免疫疾患または炎症性障害を治療する方法も提供される。
【0058】
別の態様において、本発明は、CD127に結合し、IL-7介在TH17増殖の阻害を行う能力を有し、前記抗体がR.34.34(デンドリティクス社(Dendritics Inc.)、#DDX0700)以外である抗体またはそれの抗原結合フラグメントを提供する。
【0059】
本発明の別の態様では、複数の独立の抗体または抗体フラグメント集団のスクリーニングを行って、各抗体集団が
i.IL-7のIL-7Rへの結合を阻害する能力、
ii.IL-7誘発STAT-5リン酸化を中和する能力、および/または
iii.TH17細胞によるIL-17の産生を阻害する能力
を確認する段階、
ならびにイン・ビボでIL-7のIL-7Rへの結合を阻害し、IL-7誘発STAT-5リン酸化を阻害し、および/またはTH17細胞によるIL-17の産生を阻害することができる抗体または抗体フラグメント集団を選択する段階を有する、自己免疫疾患または炎症疾患の治療での使用に好適な抗体または抗体フラグメントを確認する方法が提供される。
【0060】
組成物または物質(試験薬剤)がIL-7受容体介在TH17増殖またはIL-7受容体介在TH17生存の拮抗薬として作用する能力、またはTH17細胞カウントを低減させる能力は、通常の方法によって求めることができる。例えば、未感作CD4+細胞を、当業者には公知の適切な条件を用いて刺激して、TH17に分化させることができる(例えば、TGF-β1、IL-23、IL-6、抗IFN-γおよび抗IL-4、またはIL-1β、IL-6およびIL-23)。次に、TH17集団の細胞を試験薬剤およびIL-7に曝露することができ、その後にTH17細胞カウントを求めることができる。対照と比較したTH17細胞における減少が、その試験薬剤がTH17の増殖または生存を阻害する能力を有することを示すものと考えられる。
【0061】
本発明の別の態様では、抗CD127もしくは抗IL-7抗体またはそれの抗原結合フラグメントおよび1以上の賦形剤を製薬上許容される剤形に製剤する段階を有する、自己免疫または炎症疾患を治療するための医薬品の製造方法が提供される。この方法は、本明細書において上記で定義の抗体を確認する段階および/またはそのような抗体を組換えによって産生する段階という予備段階を有する場合がある。
【0062】
本発明の結合タンパク質および抗体によって結合されるCD127のエピトープの定義において、使用される番号付けシステムは、シグナル配列を含むCD127の全長配列を対象とするものである。1実施形態において、ヒトCD127のエピトープが、配列番号1の引用された残基内に認められる。
【0063】
1実施形態において、本発明の結合タンパク質は、表面プラズモン共鳴(BIAcore)による測定で20nM未満、15nM未満、10nM未満、5nM未満、1nM未満または0.5nM未満のアフィニティ(KD)でヒトCD127に結合する。
【0064】
1実施形態において、前記結合タンパク質は、9B7、6C5、3A6、1A11またはR34.34(デンドリティクス社、#DDX0700)またはそれの抗原結合フラグメントのヒトCD127への結合を競合的に阻害する。
【0065】
競合的阻害は、当業者が、例えば競合ELISAアッセイで、BIAcoreまたはスキャッチャード分析によって確認することができる。
【0066】
本発明の1態様では、CD127に対する結合に関して、
i.抗体R34.34(デンドリティクス社、#DDX0700);
ii.配列番号2に示した可変重鎖領域および配列番号3に示した可変軽鎖領域を有する抗体;
iii.配列番号29に示した可変重鎖領域および配列番号30に示した可変軽鎖領域を有する抗体;
iv.配列番号51に示した可変重鎖領域および配列番号52に示した可変軽鎖領域を有する抗体;
v.配列番号71に示した可変重鎖領域および配列番号72に示した可変軽鎖領域を有する抗体;または
vi.配列番号90に示した可変重鎖領域および配列番号91に示した可変軽鎖領域を有する抗体
と競合する単離結合タンパク質であって、前記抗体がR.34.34(デンドリティクス社、#DDX0700)以外である単離結合タンパク質が提供される。
【0067】
ある特定の実施形態では、本発明の単離結合タンパク質は、CD127に対する結合に関して、
i.抗体R34.34(デンドリティクス社、#DDX0700);
ii.配列番号51に示した可変重鎖領域および配列番号52に示した可変軽鎖領域を有する抗体;
iii.配列番号71に示した可変重鎖領域および配列番号72に示した可変軽鎖領域を有する抗体;または
iv.配列番号90に示した可変重鎖領域および配列番号91に示した可変軽鎖領域を有する抗体と競合する抗体またはそれの抗原結合フラグメントであり、前記抗体はR.34.34(デンドリティクス社、#DDX0700)以外である。
【0068】
本発明により、多発性硬化症の治療で用いられる結合タンパク質であって、前記結合タンパク質が、ヒトCD127(配列番号1)に対する結合に関して、
i.抗体R34.34(デンドリティクス社、#DDX0700);
ii.配列番号2に示した可変重鎖領域および配列番号3に示した可変軽鎖領域を有する抗体;
iii.配列番号29に示した可変重鎖領域および配列番号30に示した可変軽鎖領域を有する抗体;
iv.配列番号51に示した可変重鎖領域および配列番号52に示した可変軽鎖領域を有する抗体;
v.配列番号71に示した可変重鎖領域および配列番号72に示した可変軽鎖領域を有する抗体;または
vi.配列番号90に示した可変重鎖領域および配列番号91に示した可変軽鎖領域を有する抗体
と競合する結合タンパク質も提供される。
【0069】
(ヒトCD127の)特異的結合部位に関して抗体またはフラグメント(抗体またはフラグメントA)が抗体R34.34、GR34、6A3、1A11、6C5または9B7(抗体B)と競合するためには、抗体Aが前記アッセイにおいて効果を有するだけの量で存在しなければならないことは、当業者には明らかである。例えば、抗体Aおよび抗体Bは等モル量で存在することができる。抗体Aが競合抗体である場合、抗体Aが存在することで、ELISAアッセイでの抗体BのヒトCD127への結合が10%、20%、30%、40%または50%より高率で低下し得る。競合抗体(抗体A)は、抗体Bのプレート結合ヒトCD127への結合を低下させ得るが、非抗CD127特異的対照では低下は起こさない。そのようなELISAアッセイでは、ヒトCD127は免疫アッセイプレートに結合することができる。別のアッセイシステムでは、表面プラズモン共鳴を用いて、抗体間の競合を求めることができる。
【0070】
CD127に対する結合に関して抗体R34.34または本発明の抗体と競合する能力を有する単離結合タンパク質、配列番号2のVHおよび配列番号3のVLを有する単離結合タンパク質、配列番号76のVHおよび配列番号77のVLを有する単離結合タンパク質、または配列番号193のVHおよび配列番号194のVLを有する単離結合タンパク質を、MSおよび他の自己免疫疾患の治療で用いることができる。
【0071】
本発明の結合タンパク質は、R34.34、GR34、9B7、6A3、1A11または6C5のCDRを含むことができるか、それらのアナログを含むことができる。
【0072】
本発明によって、R34.34、GR34、9B7、6A3、1A11または6C5のCDR(またはそれらのアナログ)が重鎖または軽鎖可変領域枠組みにグラフトされたヒト化抗体も提供される。
【0073】
本発明の別の態様では、本発明の結合タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列が提供される。特に、9B7(配列番号4から9)、6C5(配列番号31から36)、6A5(配列番号53から58)、1A11(配列番号73から78)またはGR34(配列番号92から97)で認められるCDRのうちの一つまたは全てを含む抗体またはそれのフラグメントをコードするポリヌクレオチド配列が提供される。本発明の関連する態様では、本発明のポリヌクレオチドでトランスフェクションされた宿主細胞が提供される。
【0074】
本発明の結合タンパク質、抗体、抗原結合フラグメント、それらのヒト化、ヒトもしくはキメラ変異体、およびアナログは、処置を必要とする患者に対して安全かつ有効な用量の本発明の結合タンパク質を投与する段階を有する、多発性硬化症の治療方法で用いることができる。本発明のこの態様では、結合タンパク質は、9B7(配列番号4から9)、6C5(配列番号31から36)、6A5(配列番号53から58)、1A11(配列番号73から78)またはGR34(配列番号92から97)で認められるCDRのうちの一つまたは全てを含む抗体であることができる。
【0075】
本発明のこの態様では、処置を必要とする患者が再発期間近であるか再発期にある再発/寛解型MS(RRMS)患者である方法も提供される。
【0076】
別の態様において、本発明は、処置を必要とする対象者に対して、治療上有効量のIL-7もしくはIL-7Rの拮抗薬および別の治療薬を投与する段階を有する、自己免疫または炎症疾患の治療方法を提供する。
【0077】
前記別の治療薬は、インターフェロンβ(IFNβ-1aまたはIFNβ-1b)および酢酸ガラティラメルなどの免疫調節剤、シクロホスファミド、メトトレキセート、アザチオプリン、クラドリビン、シクロスポリンおよびミトキサントロンなどの免疫抑制剤、静脈免疫グロブリン(IVIg)、血漿補充およびスルファサラジンなどの他の免疫療法からなる群から選択することができる。前記別の治療薬は、医師が処方した形態(用量、タイミング、機序)で投与することができる。1実施形態では、前記別の治療薬は、本発明の拮抗薬と同時もしくは順次、または別個に投与することができる。1実施形態において、前記別の治療薬および前記拮抗薬は、患者に対するそれらの薬理効果が重なるように投与する。すなわち、それらは、同時に患者に対してそれらの生理効果を発揮する。
【0078】
本発明の別の実施形態では、IL7/IL7R拮抗薬は可溶性CD127ポリペプチドである。可溶性CD127ポリペプチドは、CD127(配列番号1)の細胞外ドメインから選択されるポリペプチド、または配列番号1のアミノ酸21から219からなるポリペプチドと90%以上同一であるポリペプチドを含むことができる。ある種の実施形態では、前記可溶性CD127は、配列番号1のアミノ酸21から219であるポリペプチドを含む。さらに別の実施形態では、前記可溶性CD127ポリペプチドは非CD127部分に融合していることができる。非CD127部分は、可溶性CD127ポリペプチドに融合した異種ペプチドであることができる。1実施形態において、前記非CD127部分は血清アルブミン、標的タンパク質、免疫グロブリンフラグメント、レポータータンパク質または精製促進タンパク質からなる群から選択される。ある特定の実施形態において、可溶性CD127ポリペプチドは免疫グロブリンのFc領域に融合している。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1A】抗マウスCD127抗体によるIL-7介在pSTAT5の阻害を示す図である。
【図1B】抗マウスCD127抗体によるTSLP介在pSTAT5の阻害を示す図である。
【図2】9B7についてのCD127 ELISA結合曲線を示す図である。
【図3A】MAb9B7(実線)がCD127トランスフェクションCHO細胞系の表面で発現されたCD127を認識する能力を有することを示す図である(意味のないイソタイプ対照抗体を点線として示している)。
【図3B】抗体9B7(実線)がMockトランスフェクションCHO細胞系におけるCD127を認識できないことを示す図である(意味のないイソタイプ対照抗体を点線として示している)。
【図4】精製マウス抗CD127mAb9B7によるIL7介在pStat5シグナル伝達の阻害の1例を示す図である。
【図5A】MOG-EAE臨床スコアがラット抗マウスCD127抗体SB/14によって改善したことを示す図である。
【図5B】SB/14によるMOGペプチド誘発T細胞増殖の阻害を示す図である。
【図5C】SB/14によって抗CD127抗体によるサイトカイン産生が阻害されることを示す図である。
【図5D】ヘルパーT細胞サブタイプに対する抗mCD127抗体(SB/14)治療の選択的効果を示す図である。
【図5E】ヘルパーT細胞サブタイプに対する抗mCD127抗体(SB/14)治療の選択的効果を示す図である。
【図5F】MOG-EAE臨床スコアが抗mCD127抗体(SB/14)治療によって改善したことを示す図である。
【図6】エクス・ビボでEAEマウスの脾臓または脊髄由来のTreg、TH1およびTH17細胞におけるCD127発現を示す図である。
【図7A】TH17分化の促進に対するIL-7の効果がIL-6の効果と比較して高くなかったことを示す図である。
【図7B】STAT-3リン酸化の誘発がIL-7から独立にIL-6によって大きく進むことを示す図である。
【図7C】RORα発現に対するIL-7の効果が、やはりIL-6の効果と比較して高くないことを示す図である。
【図7D】抗mCD127抗体(SB/14)治療の効果が、EAEにおける疾患発症時に高くなかったことを示す図である。
【図8A】CNSにおけるTH17細胞、γ-インターフェロン分泌TH1細胞、およびTreg細胞のパーセントを示す図である。
【図8B】脾細胞におけるTH17細胞、γ-インターフェロン分泌TH1細胞、およびTreg細胞のパーセントを示す図である。
【図8C】治療マウスおよび対照マウスの両方でのEAEの経過におけるTH17、TH1およびTregのパーセントを示す図である。
【図9A】分化開始においてCD127抗体を加えた場合に、TH17およびTH1細胞カウントの抗CD127抗体(SB/14)の効果が阻害されたが、Tregカウントでは阻害されなかったことを示す図である。
【図9B】図9(A)での抗mCD127抗体(SB/14)が分化したTH17に対して効果があるが、TH1およびTreg二は効果がないことを示す図である。
【図10】第9日にEAE MOG特異的T細胞を培養した場合に、IL-7の添加がTH17増殖/生存を促進し、それより程度は低いがTH1でも促進したが、TregにおけるFoxp3は促進しなかったことを示す図である。
【図11A】リン酸化JAK-1およびリン酸化STAT-5の低下および主要なアポトーシス促進分子であるBCL-2レベルの顕著な低下、ならびに抗アポトーシス分子であるBAXの活性上昇を特徴とする抗CD127抗体治療によるJAK-STAT関連のシグナル伝達経路およびアポトーシスにおける変化を示す、エクス・ビボで治療もしくは対照EAEマウスに由来するCD4+T細胞のイムノブロット解析を示す図である。
【図11B】抗CD127抗体治療によって、治療EAEマウス由来のCD4+CD127-T細胞の場合と比較したCD4+CD127+T細胞間でのアネキシン-V+アポトーシス細胞のパーセントが上昇したことを示す図である。
【図11C】EAEマウス由来の分化TH17細胞がIL-7によって回復し得るアポトーシスを受けるが、細胞を抗CD127抗体で前インキュベートすると、このプロセスが遅れることを示す図である。
【図11D】IL-7の効果にJAK/STAT-5経路が介在していることを示す図である。
【図12】mAb9B7およびR34.34が、ヒト全CD4+細胞からのTH17の分化に対して非常に小さい阻害効果を有することを示す図である。
【図13】CD127-ECDの固定化IL-7への結合のmAb6C5による阻害を示す図である。
【図14】CD127への結合に関して、mAb6C5がIL-7と競合することを示す図である。
【図15】mAb6C5および樹状細胞抗体R.34.34がCD127への結合に関して競合することを示す図である。
【図16A】CD127-ECDの固定化IL-7への結合のmAb6A3による阻害を示す図である。
【図16B】各種抗体濃度での抗体6A3、6C5およびR34.34の阻害比曲線であって、CD127-ECDのIL-7への結合に対するこれら抗体の効果を示す図である。
【図17】CHO細胞で発現されるCD127への結合に関して、mAb6A3がIL-7と競合することを示す図である。
【図18】mAb6C5および抗体R.34.34の両方が、IL-7刺激PBMCによるIFNγの産生を阻害することを示す図である。
【図19】抗体BD、R34.34、1A11および6C5がIL-7刺激PBMCによって誘発されるStat5シグナル伝達を遮断する能力を示す図である。
【図20】抗体BD、R34.34、1A11および6C5がIL-7刺激CCF-CEM細胞によって誘発されるStat5シグナル伝達を遮断する能力を示す図である。
【図21】mAb6A3がTH17増殖アッセイにおいてIL-17およびIFN-γ産生を阻害する能力を示す図である。
【図22】IL-7刺激下にhCD4+細胞によるIL-17の産生に対する各種抗CD127抗体の阻害効果を示す図である。
【図23】TH17細胞によるIFN-γ産生およびIL-17産生に対するmAb6A3の阻害効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0080】
本発明は、IL-7/IL-7Rシグナル伝達がマウスおよびヒトの両方の系において関係するTH17細胞の生存および増殖に必須であるが、TH17分化におけるそれの役割は、IL-6の場合と比較してあまり重要ではないという発見に基づくものである。驚くべきことに、IL-7R拮抗作用による免疫系に対するイン・ビボでの効果は、多発性硬化症の動物モデルであるEAEにおいて高度に選択的であり、TH17細胞に影響し、それより程度は低いが、主として記憶表現型のTH1細胞にも影響し、Treg細胞には影響しない。この選択性は、EAEにおけるIL-7R拮抗作用による病原性TH17細胞およびTreg細胞の比のバランス取り戻しにおいて重要な役割を果たすように思われ、治療効力を生じさせる。上記で記載のTH17細胞の生存および増殖におけるIL-7/IL-7Rシグナル伝達の新規な作用機序は、EAEにおけるIL-7R拮抗作用の治療効力についての強力な説明を提供し、MSなどのヒト自己免疫疾患における治療的示唆を提供するものである。IL-7中和またはIL-7R拮抗作用は、特有の治療上の利点を有するように思われる。一方で、その治療は、病原性のTH1およびTH17細胞をTregおよび無関係の免疫細胞から区別する選択性を提供する。他方、IL-7R拮抗作用の別の治療上の利点には、TH17分化とは対照的に、分化したTH17の生存および増殖に対するそれの選択的効果が関与する。TH17分化に対する関係するTH17のイン・ビボでの維持を目標とすることは、治療の文脈においてより効果的であると考えられる。
【0081】
従って、IL-7受容体介在シグナル伝達の阻害によって、自己免疫または炎症疾患の治療のための有望な治療的介入が提供される。
【0082】
本明細書で使用されるIL-7R介在シグナル伝達という用語は、リガンドであるIL-7によって結合された時にIL-7受容体によって誘発される生理効果を意味する。従って、IL-7R介在シグナル伝達には、STAT-5のIL-7誘発リン酸化、TH17細胞のIL-7誘発増殖およびTH17細胞のIL-7誘発生存のうちの1以上または全てなどがあるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0083】
拮抗薬
本明細書で使用される場合のIL-7経路拮抗薬は、アッセイによって測定可能なIL-7の生理効果を機能的に遮断する物である。分子レベルでは、IL-7誘発P-STAT5またはBcl-2などのアッセイによって遮断効果を観察および測定することができる。p-STAT5アッセイの例を、本明細書に記載する。細胞レベルで、IL-17またはIFNγのTh17分泌などのアッセイによって、遮断効果を観察および測定することができる。そのアッセイ例も本明細書に記載する。
【0084】
本発明で使用されるIL-7/IL-7R経路拮抗薬は、部分的または完全に、IL-7によって誘発されるSTAT-5のリン酸化を阻害する能力を有する。STAT-5リン酸化は、当業界で通常の方法によって、例えば本明細書に記載のもの(実施例2.3)などのアッセイで測定することができる。そのようなアッセイでは、試験薬剤の存在下および非存在下で、PBMCをIL-7によって刺激する。次に、例えばpSTAT-5についての染色(例えば、標識抗pSTAT-5抗体によって)とそれに続く蛍光活性化細胞の選別により、細胞について、pSTAT-5レベルを定量的に評価する。リン酸化STAT-5のレベルは、ELISAによっても求めることができる。リン酸化STAT-5のレベルを低下させる薬剤は、自己免疫疾患に対する治療候補薬となり得る。
【0085】
拮抗薬は、拮抗薬の非存在下でのSTAT-5レベルと比較した場合に、または陰性対照もしくは未処理細胞と比較した場合に、リン酸化STAT-5のレベルを少なくとも20%、50%、75%、80%、85%、90%、95%または100%低下させる能力を有し得る。拮抗薬は、50μg/mL、25μg/mL以下、10μg/mL以下、5μg/mL以下、または2μg/mL以下のIC50を有し得る。1実施形態において、拮抗薬は、1μg/mL以下、0.75μg/mL以下、0.5μg/mL以下、0.25μg/mL以下、または0.1μg/mL以下のIC50を有する。
【0086】
本発明の拮抗薬は、TH17細胞の増殖を阻害する上で特に有効である。TH17細胞の増殖は、試験薬剤の存在下および非存在下に未感作T細胞の集団を刺激して増殖させ、次にその細胞を刺激してIL-17を産生させ、試験薬剤の存在下および非存在下で細胞によって産生されたIL-17のレベルを評価する段階を有するTH17増殖アッセイで求めることができる。
【0087】
1実施形態において、拮抗薬は、陰性対照と比較してそのようなアッセイで20%以上のIL-17分泌阻害を行うことができる。より代表的には、拮抗薬は、対照と比較して50%以上、75%以上、85%以上または90%以上のIL-17分泌阻害を行うことができる。一部の実施形態において拮抗薬は、そのアッセイで、50μg/mL以下のIC50を示し得る。他の実施形態では、IC50は20μg/mL以下、10μg/mL以下または5μg/mL以下となり得る。
【0088】
このアッセイの1実施形態において、IL-1、IL-6、およびIL-23の存在下にT細胞受容体活性化による刺激によって、ヒトCD4+T細胞をTH17に分化させる。5日間の分化後、CCR6+細胞を選別して、濃縮TH17集団を作る。次に、この集団をヒトIL-7で刺激し、上清でのIL-17およびIFN-γにおける増加を測定する。インキュベーション期間での機能性IL-7/IL-7R経路拮抗薬(例:抗CD127抗体)によるIL-7とCD127の間の相互作用の遮断により、TH17細胞の増殖が防止されて、結果的にIL-17およびIFN-γ産生が低下するはずである。
【0089】
この実施形態では、CD4+T細胞は、市販のキット(例えば、CD4+T細胞単離キットII、#130-091-155、Miltenyi Biotec)を用いてヒト末梢血単核球から単離することができる。次に、代表的には、10%FCSを含むRPMI培地に、1.5×10E6/mLの濃度でCD4+T細胞を再懸濁させる。代表的に30分間にわたり、細胞を、対照または抗IL-7Rγ抗体とともに前インキュベートする。次に、10ng/mLのIL-7の存在下または非存在下に、細胞を37℃で72時間培養した。インキュベーション終了後、細胞を、50ng/mLのPMAおよび1μg/mLのイオノマイシンで5時間刺激する。細胞培養上清を回収し、ELISA(eBiosciences)によってIL-17濃度を測定する。
【0090】
結合タンパク質
本発明の単離結合タンパク質は、無傷抗体、ヒト、ヒト化もしくはキメラ抗体などの抗体もしくは免疫グロブリン、または前記抗体のフラグメントもしくはドメインの形態であることができる。本発明のこれらの抗体は、9B7(配列番号4から9)、6C5(配列番号31から36)、6A5(配列番号53から58)、1A11(配列番号73から78)またはGR34(配列番号92から97)で認められるCDRのうちの1以上または全てを含むことができる。
【0091】
この文脈での「結合」とは、本質的に、抗体などの結合タンパク質が抗原結合性ドメインを介してCD127(それのエピトープ)に結合すること、およびその結合が抗原結合性ドメインとCD127(それのエピトープ)との間の若干の相補性を伴うことを意味する。従って、結合タンパク質は、無作為で無関係のポリペプチドや無作為で無関係のエピトープに結合する場合より容易に、CD127またはCD127のエピトープに結合する。すなわち、結合タンパク質とCD127(それのエピトープ)の間には特異性がある。
【0092】
本発明の結合タンパク質は、可溶性CD127ポリペプチドの形態であることもできる。
【0093】
本発明の結合タンパク質は、CD127に特異的に結合するモノクローナル抗体などのCD127に結合することができる。その結合タンパク質は、IL-7およびTSLPリガンドまたはこの効果を与えると考えられるIL-7RおよびTSLPRの要素、またはリガンドおよび受容体の組み合わせに結合する二重特異性結合タンパク質など、多発性硬化症の治療のために、TSLPのTSLP受容体への結合を低減し、IL-7のIL-7受容体への結合をも低減する物であることもできる。この点に関して、TSLP拮抗薬が、例えばUS7304144およびWO2007096149に記載されており、上記で言及したように、TSLP受容体はCD127を含む。従って、本発明の拮抗薬は、TSLPの拮抗薬として有用となり得る。
【0094】
単離
本明細書で使用される場合の「単離」という用語は、結合タンパク質が、それらが天然に存在する環境から取り出されること、例えば、それらが通常自然において存在すると考えられる物質から精製して取り出され得ることを意味する。これらの結合タンパク質は、サンプル中のタンパク質の質量が少なくとも50%または少なくとも80%の結合タンパク質から構成されるという点で実質的に純粋なものであることができる。
【0095】
競合
結合タンパク質は、CD127またはCD127のフラグメントまたはCD127内のエピトープへの比較結合タンパク質の結合をある程度遮断する程度に、それがそのエピトープに優先的に結合する場合、CD127、CD127のそのフラグメントまたはCD127内のエピトープへの比較結合タンパク質の結合を競合的に阻害すると称される。競合的阻害は、例えば競合ELISAアッセイ、表面プラズモン共鳴(BIAcore)またはスキャッチャード分析などの当業界で公知の方法によって測定することができる。結合タンパク質は、比較抗体の結合が少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%または少なくとも50%低減される場合に、所定のエピトープへの比較結合タンパク質の結合を競合的に阻害すると言うことができる。
【0096】
インタクトな抗体
本発明の結合タンパク質はインタクトな抗体でありうる。インタクトな抗体は通常、少なくとも2つの重鎖および2つの軽鎖を含んでなるヘテロ多量体糖タンパク質である。IgMを除いて、インタクトな抗体は通常、2つの同一の軽(L)鎖、および2つの同一の重(H)鎖からなる、約150 kDaのヘテロ四量体糖タンパク質である。典型的には、それぞれの軽鎖は、1つのジスルフィド共有結合によって重鎖に連結されているが、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間のジスルフィド結合の数はさまざまである。それぞれの重鎖および軽鎖は、鎖内ジスルフィド橋も有している。それぞれの重鎖は、一端に1つの可変領域(VH)を有し、続いていくつかの定常領域がある。それぞれの軽鎖は1つの可変領域(VL)およびその他端に1つの定常領域を有する;軽鎖の定常領域は重鎖の最初の定常領域と並んでおり、軽鎖可変領域は重鎖可変領域と並んでいる。ほとんどの脊椎動物種由来の抗体の軽鎖は、定常領域のアミノ酸配列に基づいて、κおよびλと呼ばれる2タイプのうち1つに帰属することができる。それらの重鎖の定常領域のアミノ酸配列に応じて、ヒト抗体は5つの異なるクラス、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMに帰属することができる。IgGおよびIgAは、サブクラスIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4;ならびにIgA1およびIgA2に、さらに細かく分類することができる。動物種による変異体が存在し、マウスおよびラットは、少なくともIgG2a、IgG2bを有する。抗体の可変領域は、抗体に結合特異性を付与し、特定の領域が相補性決定領域(CDR)と呼ばれる特別な可変性を示す。可変領域のうち比較的保存される部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。インタクトな重鎖および軽鎖のそれぞれの可変領域は、3つのCDRによって結合された4つのFRを含んでなる。各鎖のCDRは、FR領域によってきわめて近接してまとまった状態で保持され、他方の鎖のCDRとともに、抗体の抗原結合部位の形成をもたらす。定常領域は、直接的には、抗体の抗原との結合に関与しないが、抗体依存性細胞傷害(ADCC)への関与、Fcγ受容体への結合を介した食作用への関与、新生児Fc受容体(FcRn)による半減期/クリアランス速度への関与、ならびに補体カスケードのC1q成分を介した補体依存性細胞傷害への関与といった、さまざまなエフェクター機能を示す。ヒトIgG2定常領域は、古典的経路により補体を活性化するまたは抗体依存性細胞傷害性を仲介する能力を実質的に欠いていると報告されている。IgG4定常領域は、古典的経路により補体を活性化する能力を欠いており、抗体依存性細胞傷害性を弱く仲介するにとどまると報告されている。こうしたエフェクター機能を実質的に欠いている抗体を、「非溶解性」抗体と呼ぶことができる。
【0097】
ヒト抗体
本発明の結合タンパク質は「ヒト抗体」でありうる。ヒト抗体は、当業者に知られているいくつかの方法によって作製することができる。ヒト抗体は、ヒト骨髄腫もしくはマウス-ヒトヘテロ骨髄腫細胞株を用いて、ハイブリドーマ法によって作製することができる。Kozbor、 J.Immunol 133, 3001, (1984)、およびBrodeur, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, 51-63ページ (Marcel Dekker Inc, 1987)を参照されたい。別法としては、ファージライブラリもしくはトランスジェニックマウスの使用が挙げられるが、これらはいずれもヒトV領域レパートリーを利用する(Winter G, (1994), Annu.Rev.Immunol 12,433-455, Green LL (1999), J.Immunol.methods 231, 11-23を参照されたい)。
【0098】
マウスの免疫グロブリン遺伝子座がヒト免疫グロブリン遺伝子セグメントで置き換えられた、いくつかの系統のトランスジェニックマウスが現在利用可能である(Tomizuka K, (2000) PNAS 97, 722-727; Fishwild D. M (1996) Nature Biotechnol. 14,845-851, Mendez MJ, 1997, Nature Genetics, 15,146-156を参照されたい)。抗原によるチャレンジ後に、上記のマウスはヒト抗体のレパートリー(そこから目的の抗体を選択することができる)を産生することができる。
【0099】
ファージディスプレイ技術を用いて、ヒト抗体(およびそのフラグメント)を作製することができる。McCafferty、Nature, 348, 552-553 (1990) およびGriffiths ADら、 (1994) EMBO 13:3245-3260を参照されたい。
【0100】
キメラおよびヒト化抗体
本発明の結合タンパク質は「キメラ」または「ヒト化」抗体とすることができる。インタクトな非ヒト抗体をヒトの疾患もしくは障害の治療に使用することは、現在十分に立証されている免疫原性の可能性の問題を伴い、これは特に抗体の反復投与においてそうであり、すなわち、患者の免疫系はインタクトな非ヒト抗体を非自己と認識して、中和応答を開始する可能性がある。完全ヒト抗体(上記参照)を開発することに加え、こうした問題を克服するために、長年にわたってさまざまな技法が開発されてきたが、こうした技法は、一般に、免疫した動物、たとえばマウス、ラットもしくはウサギから非ヒト抗体を得ることの相対的な容易さを維持する一方で、インタクトな治療用抗体における非ヒトアミノ酸配列の構成割合を減らすことを必要とする。概して、これを達成するために2つのアプローチが用いられてきた。第1はキメラ抗体であって、これは一般に、ヒト定常領域に融合された非ヒト(たとえば、マウスなどの齧歯類)可変領域を含んでなる。抗体の抗原結合部位は可変領域内に局在するので、キメラ抗体は、抗原に対するその結合親和性を維持するが、ヒト定常領域のエフェクター機能を獲得しているため、エフェクター機能を果たすことができる。キメラ抗体は、典型的には、組換えDNA法を用いて作製される。従来の方法を用いて(たとえば、本発明の抗体のHおよびL鎖可変領域をコードする遺伝子、例としては上記の配列番号2および3のDNAと、特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)、抗体をコードするDNA(たとえばcDNA)を単離し、配列を決定する。DNAは、ヒトLおよびH鎖のコード配列を、対応する非ヒト(たとえばマウス)HおよびL定常領域の代わりに用いることによって、改変することができる。たとえば、Morrison; PNAS 81, 6851 (1984)を参照されたい。したがって本発明の別の実施形態において、ヒト定常領域(それはIgGアイソタイプ、例えばIgG1のものでありうる)に融合された配列番号3の配列を有するVLドメインおよび配列番号2を有するVHドメインを有するキメラ抗体を提供する。
【0101】
第2のアプローチは、可変領域をヒト化することによって抗体の非ヒト含量を減少させる、ヒト化抗体の作製に関する。ヒト化について2つの技術が広く支持されている。第1は、CDRグラフティングによるヒト化である。CDRは抗体のN末端近くにループを作り、そこで、フレームワーク領域によってもたらされるスキャフォールドに嵌め込まれた表面を形成する。抗体の抗原結合特異性は、主として、その抗体のCDR表面のトポグラフィーおよび化学的性質によって決まる。次いで、これらの特徴は、個別のCDRのコンフォメーションによって、CDRの相対的配置によって、ならびにCDRを構成する残基の側鎖の性質および配置によって決定される。免疫原性の大幅な低下は、非ヒト(たとえばマウス)抗体(「ドナー」抗体)のCDRのみを、適当なヒトのフレームワーク(「アクセプターフレームワーク」)および定常領域上にグラフティングすることによって達成することができる(Jonesら、 (1986) Nature 321,522-525、ならびにVerhoeyen Mら、(1988) Science 239, 1534-1536を参照されたい)。しかしながら、CDRグラフティングは本質的に、抗原結合特性の完全な保持をもたらさない可能性があり、有意な抗原結合親和性を回復したいならば、ドナー抗体のフレームワーク残基の一部をヒト化分子内に保持する必要がある(「復帰突然変異」と呼ばれることもある)ことが、多くの場合、明らかになっている(Queen C ら、(1989) PNAS 86, 10,029-10,033, Co, Mら、(1991) Nature 351, 501-502を参照されたい)。この場合、ヒトフレームワーク(FR)を用意するために、非ヒトドナー抗体に対して最大の配列相同性を示す(典型的には60%以上)ヒトV領域をデータベースから選択することができる。ヒトFRは、ヒトコンセンサスもしくは個別のヒト抗体のどちらからも選択することができる。必要ならば、ドナー抗体由来の重要残基を、ヒトアクセプターフレームワーク内に置換して入れて、CDRコンフォメーションを保存する。抗体のコンピューターモデリングを用いることができるが、それは、このような構造的に重要な残基を同定するのに役立つ。国際公開WO99/48523を参照されたい。
【0102】
別法として、ヒト化は、「veneering」のプロセスによって行うことができる。特異なヒトおよびマウス免疫グロブリンの重鎖および軽鎖可変領域の統計分析によって、露出した残基の正確なパターンがヒトとマウスの抗体で異なること、ならびにほとんどの個々の表面位置は、少数の異なる残基を強く優先して選ぶことが明らかになった(Padlan E.A.ら、(1991) Mol.Immunol.28, 489-498、およびPedersen J.T.ら、(1994) J.Mol.Biol. 235; 959-973を参照されたい)。したがって、そのフレームワーク領域内の、ヒト抗体に通常存在するものとは異なる、露出した残基を取り替えることによって、非ヒトFvの免疫原性を低下させることができる。タンパク質の抗原性は、表面への接近可能性と相関しうるので、表面残基を置き換えることは、マウス可変領域をヒトの免疫系に「見えない」ようにするのに十分であると考えられる(Mark G.E.ら、(1994)、実験薬理学ハンドブック(Handbook of Experimental Pharmacology)第113号より:モノクローナル抗体の薬理学(The pharmacology of monoclonal Antibodies)、Springer-Verlag、105-134ページも参照されたい)。こうしたヒト化の手順は、抗体の表面だけを変更し、支持する残基はそのままになっているので、「veneering」と呼ばれる。さらなる別の手法としては、WO04/006955に記載のもの、およびHumaneeringTM (Kalobios)の手法(これは細菌発現系を利用し、配列としてヒト生殖系列に近い抗体を生じるものである(Alfenito-M Advancing Protein Therapeutics January 2007, San Diego, California))が挙げられる。
【0103】
当業者には明白なことであるが、「由来する」という用語は、それが物質の物理的起源であるという意味で、起源を明らかにするのみならず、その物質と構造的に同一であるもののその基準起源から生じたのではない物質も明示することを意図するものである。したがって、「ドナー抗体に存在する残基」は、かならずしも当該ドナー抗体から精製されたものである必要はない。
【0104】
したがって本発明の一の態様は、マウス抗体9B7(配列番号: 4-9)に見出されるCDRの1以上またはすべてを有するヒト化抗体である。
【0105】
複数特異的または二重特異的抗体
本発明の結合タンパク質は「複数特異的」または「二重特異的」抗体でありうる。複数特異的または二重特異的抗体とは、IL-7およびTSLPの両方の、それらの受容体への結合を防止または低減する抗体誘導体であって、ここで該抗体はIL-7, TSLP, CD127, IL7Rγ鎖またはCRLF2から選択される少なくとも2つのタンパク質に対する結合特異性を有するものであり、本発明の一部をなす。本発明の結合タンパク質はまた、TH17細胞の細胞表面において発現されるIL-23に対して結合特異性を有することができ、例えば該結合タンパク質はIL-23R (もしくはIL-23)およびCD127、またはIL-2R(もしくはIL-23)およびIL-7の両方に対して特異性を有しうる。
【0106】
こうした抗体を作製する方法は当技術分野で知られている。従来、二重特異性抗体の組換え生産は、2つの免疫グロブリンH鎖-L鎖対の同時発現を基本とし、その2つのH鎖が異なる結合特異性を有する。Millsteinら、Nature 305 537-539 (1983)、国際公開WO93/08829 およびTrauneckerら、EMBO, 10, 1991, 3655-3659を参照されたい。H鎖とL鎖のランダムな組み合わせのため、10種の異なる抗体構造の混合物が生じる可能性があり、そのうち1つだけが求める結合特異性を有するものである。別のアプローチは、ヒンジ領域の少なくとも一部、CH2およびCH3領域を含む重鎖定常領域に、望ましい結合特異性を有する可変領域を融合することが必要となる。軽鎖との結合に必要な部位を含有するCH1領域が、融合物の少なくとも1つに存在するようにすることが好ましい。これらの融合物、および、必要ならば、L鎖をコードするDNAを、別々の発現ベクターに挿入した後、適当な宿主生物にコトランスフェクトする。2つの鎖、もしくは3つすべての鎖のコード配列を1つの発現ベクターに挿入することも可能ではある。ある好ましいアプローチにおいて、二重特異性抗体は、一方のアームに第1の結合特異性を有するH鎖と、他方のアームに第2の結合特異性を与えるH-L鎖対とから構成される。国際公開WO94/04690を参照されたい。また、Sureshら、Methods in Enzymology 121, 210, 1986も参照されたい。
【0107】
一つの可能性のあるアプローチは、第一の特異性がIL-7のエプトープに対するものであり、第2の特異性がTSLPに対するものである、上記に記載した二重特異性抗体または二重特異性フラグメントを製造することである。別の可能性のあるアプローチは、第一の特異性がIL-7のエプトープに対するものであり、第2の特異性がIL-6に対するものである、上記に記載した二重特異性抗体または二重特異性フラグメントを製造することである。
【0108】
抗体フラグメント
本発明の結合タンパク質は「抗体フラグメント」とすることができる。本発明のある実施形態において、抗原結合フラグメントである治療用抗体が提供されるが、この場合、たとえば、該フラグメントはhIL-13とその受容体との相互作用を阻害する。こうしたフラグメントは、インタクトな、および/またはヒト化された、および/またはキメラな抗体の機能的抗原結合フラグメント、たとえば、上記抗体のFab、Fd、Fab'、F(ab')2、Fv、ScFvフラグメントとすることができる。該フラグメントはまた、ヒト、ラクダ、もしくはサメ、または他の種のものとすることができ、単一可変ドメイン抗体もしくはそれらを含むより大きな構築物とすることができる。定常領域を欠くフラグメントは、古典的経路による補体を活性化する能力または抗体依存性細胞傷害性を仲介する能力を欠いている。従来、こうしたフラグメントは、インタクトな抗体のタンパク質分解によって、たとえばパパイン分解によって(たとえば、国際公開WO 94/29348を参照されたい)作製されるが、遺伝子組換えによる形質転換宿主細胞から直接産生させることもできる。ScFvの作製については、Birdら、(1988) Science, 242, 423-426を参照されたい。それに加えて、抗体フラグメントは、下記のさまざまな遺伝子工学技術を用いて作製することができる。
【0109】
Fvフラグメントは、その2つの鎖の相互作用エネルギーがFabフラグメントより低いと思われる。VHおよびVLドメインの結合を安定化するために、これらのドメインは、ペプチド(Birdら、(1988) Science 242, 423-426、Hustonら、PNAS, 85, 5879-5883)、ジスルフィド橋(Glockshuberら、(1990) Biochemistry, 29, 1362-1367)、および「knob in hole」変異(Zhuら、(1997), Protein Sci., 6, 781-788)によって連結されている。ScFvフラグメントは、当業者によく知られている方法によって作製することができる。Whitlowら、(1991) Methods companion Methods Enzymol, 2, 97-105 およびHustonら、(1993) Int.Rev.Immunol 10, 195-217を参照されたい。ScFvは、大腸菌(E. coli)などの細菌細胞内で産生させることができるが、真核細胞内で産生させる方が典型的である。ScFvの不利な点は、産物が一価であること、そのために多価結合による結合力の増加が不可能になること、ならびに半減期が短いことである。こうした問題を克服するための試みには、二価(ScFv')2があるが、これは、追加のC末端システインを含有するScFvから、化学的カップリングによって(Adamsら、(1993) Can.Res 53, 4026-4034、およびMcCartneyら、(1995) Protein Eng. 8, 301-314)、または不対C末端システイン残基を含有するScFvの、自然発生的な部位特異的二量体化によって(Kipriyanovら、(1995) Cell. Biophys 26, 187-204を参照されたい)作製される。あるいはまた、ペプチドリンカーを3〜12残基に短縮して「ダイアボディ(diabody)」を形成することによって、ScFvに多量体を形成させることができる。Holligerら、PNAS (1993), 90, 6444-6448を参照されたい。リンカーをさらに小さくすることで、ScFv三量体(「トリアボディ」、Korttら、(1997) Protein Eng, 10, 423-433を参照されたい)および四量体(「テトラボディ」、Le Gallら、(1999) FEBS Lett, 453, 164-168を参照されたい)をもたらすことができる。二価ScFv分子の構築は、「ミニ抗体(miniantibody)」(Packら、(1992) Biochemistry 31, 1579-1584を参照されたい)および「ミニボディ」(Huら、(1996), Cancer Res. 56, 3055-3061を参照されたい)を形成することができるタンパク質二量体化モチーフとの遺伝子融合によっても、達成することができる。ScFv-ScFvタンデム((ScFv)2)は、第3のペプチドリンカーによって2つのScFv単位を連結することによって作製することもできる。Kuruczら、(1995) J.Immol.154, 4576-4582を参照されたい。二重特異性ダイアボディは、ある抗体のVLドメインに短いリンカーで連結された、別の抗体由来のVHドメインからなる、2つの一本鎖融合産物の非共有結合によって作製することができる。Kipriyanovら、(1998), Int. J. Can 77, 763-772を参照されたい。このような二重特異性ダイアボディの安定性は、ジスルフィド橋、もしくは上記の「knob in hole」変異を導入することによって、または2つのハイブリッドScFvフラグメントがペプチドリンカーを介して連結される、一本鎖ダイアボディ(ScDb)を形成することによって、高めることができる。Kontermannら、(1999) J. Immunol. Methods 226 179-188を参照されたい。四価の二重特異性分子は、たとえば、ScFvフラグメントを、IgG分子のCH3ドメインに、またはヒンジ領域を介してFabフラグメントに、融合することによって得られる。Colomaら、(1997) Nature Biotechnol. 15, 159-163を参照されたい。あるいはまた、四価の二重特異性分子は、二重特異性一本鎖ダイアボディの融合によって作製されている(Altら、(1999) FEBS Lett 454, 90-94を参照されたい)。より小さい四価の二重特異性分子は、ヘリックス-ループ-ヘリックスモチーフ含有リンカーによるScFv-ScFvタンデムの二量体化(DiBiミニ抗体、Mullerら、(1998) FEBS Lett 432, 45-49を参照されたい)、または分子内対合を妨げる配向で4つの抗体可変領域(VHおよびVL)を含む一本鎖分子の二量体化(タンデムダイアボディ、Kipriyanovら、 (1999) J.Mol.Biol. 293, 41-56を参照されたい)のいずれかによって、作製することもできる。二重特異性F(ab')2フラグメントは、Fab'フラグメントの化学的カップリングによって、またはロイシンジッパーによるヘテロ二量体化によって作製することができる(Shalabyら、(1992) J.Exp.Med. 175, 217-225、およびKostelnyら、(1992), J.Immunol. 148, 1547-1553を参照されたい)。また、単離されたVHおよびVLドメインも利用できる。米国特許第6, 248,516号;第6,291,158号;第6, 172,197号を参照されたい。
【0110】
他の改変
本発明の結合タンパク質は、そのエフェクター機能を強化または変化させるために他の改変を有しうる。抗体のFc領域と、さまざまなFc受容体(FcγR)との相互作用は、抗体のエフェクター機能を仲介すると考えられるが、このエフェクター機能には、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体結合、食作用、および抗体の半減期/クリアランスが含まれる。希望するエフェクター特性に応じて、本発明の抗体のFc領域のさまざまな改変を行うことができる。とりわけ、a)古典的経路による補体の活性化、およびb)抗体依存性細胞傷害性を仲介すること、という機能を本質的に欠いているヒト定常領域としては、特定の変異、例えばEP0307434 (WO8807089), EP 0629 240 (WO9317105)およびWO 2004/014953に開示されている、位置234, 235, 236, 237, 297, 318, 320および/または322に変異を有するIgG4定常領域、IgG2定常領域およびIgG1定常領域が挙げられる。重鎖定常領域のCH2ドメイン内の残基235もしくは237(Kabatナンバリング; EUインデックスシステム)における変異は、別々に、FcγRI, FcγRIIおよびFcγRIIIへの結合を低減し、したがって抗体依存性細胞傷害性(ADCC)を低減すると記載されている(Duncan et al. Nature 1988, 332; 563-564; Lund et al. J. Immunol. 1991, 147; 2657-2662; Chappel et al. PNAS 1991, 88; 9036-9040; Burton and Woof, Adv. Immunol. 1992, 51;1-84; Morgan et al., Immunology 1995, 86; 319-324; Hezareh et al., J. Virol. 2001, 75 (24); 12161-12168)。さらに、いくつかの報告はまた、これらの残基の一部が補体依存性細胞傷害性(CDC)をリクルートするまたは仲介することに関与することを記載している (Morgan et al., 1995; Xu et al., Cell. Immunol. 2000; 200:16-26; Hezareh et al., J. Virol. 2001, 75 (24); 12161-12168)。残基235および237はしたがって、補体により仲介されるおよびFcγRにより仲介される効果の両方を低減するためにいずれもアラニン残基に変異された(Brett et al. Immunology 1997, 91; 346-353; Bartholomew et al. Immunology 1995, 85; 41-48;およびWO9958679)。こうした定常領域を有する抗体を、「非溶解性」抗体とよぶことができる。
【0111】
抗体にサルベージ(salvage)受容体結合エピトープを組み込んで、血中半減期を延ばすことができる。米国特許第5,739,277を参照されたい。
【0112】
ヒトFcγ受容体にはFcγR(I)、FcRγIIa、FcγRIIb、FcγRIIIaおよび新生児FcRnが含まれる。Shieldsら、(2001) J. Biol. Chem 276, 6591-6604は、共通のIgG1残基のセットがすべてのFcγRとの結合に関与しているが、FcγRIIおよびFcγRIIIは、この共通のセットの外側にある別個の部位を利用することを明らかにした。一群のIgG1残基は、Pro-238、Asp-265、Asp-270、Asn-297およびPro-239をアラニンに変えると、すべてのFcγRへの結合を低下させた。いずれもIgG CH2ドメインに存在し、CH1およびCH2をつなぐヒンジ部の近くでクラスターを形成している。FcγRIは、結合のためにIgG1残基の共通セットのみを用いるが、FcγRIIおよびFcγRIIIは、共通セットに加えて、別個の残基とも相互作用する。一部の残基の変更は、FcγRIIとの結合のみを低下させ(たとえば、Arg-292)、またはFcγRIIIとの結合のみを低下させた(たとえば、Glu-293)。ある変異体は、FcγRIIもしくはFcγRIIIに対する結合の強化を示したが、もう一方の受容体との結合には影響を与えなかった(たとえば、Ser-267Alaは、FcγRIIに対する結合は強化したが、FcγRIIIとの結合には影響しなかった)。また他の変異体は、FcγRIIもしくはFcγRIIIに対する結合の強化を示したが、もう一方の受容体との結合は低下した(たとえば、Ser-298AlaはFcγRIIIに対する結合を強化したが、FcγRIIとの結合は低下した)。FcγRIIIaに関して、もっともよく結合するIgG1変異体は、Ser-298、Glu-333およびLys-334でのアラニン置換の組み合わせを有していた。新生児FcRn受容体は、IgG分子を分解から保護しそれにより血清半減期を延長することおよび組織にわたるトランスサイトーシスに関与していると考えられる(Junghans R. P (1997) Immunol. Res 16. 29-57 およびGhetieら、(2000) Annu. Rev. Immunol. 18, 739-766を参照されたい)。ヒトFcRnと直接相互作用すると確定されたヒト残基には、Ile253、Ser254、Lys288、Thr307、Gln311、Asn434およびHis435がある。
【0113】
本発明の治療用抗体は、上記定常領域の改変のいずれをも組み入れうる。
【0114】
ある特定の実施形態においては、治療用抗体は、a)古典的経路による補体の活性化、およびb)抗体依存性細胞傷害性を仲介するという機能を実質的に欠く。より具体的な実施形態では、本発明は、半減期/クリアランスおよび/またはエフェクター機能、例えばADCCおよび/または補体依存性細胞傷害性および/または補体溶解を改変するために、上述した残基変更のいずれか1以上を有する本発明の治療用抗体を提供する。
【0115】
本発明のさらなる態様においては、治療用抗体は、アラニン(もしくは他の破壊的な)置換を位置235 (例えばL235A)および237 (例えばG237A) (ナンバリングはKabatに概略されるEUスキームに従ったものである)に有するアイソタイプヒトIgG1の定常領域を有する。
【0116】
本発明の他の誘導体には、本発明の抗体のグリコシル化変異体がある。抗体の定常領域内の保存された位置でのグリコシル化は、抗体機能、特に上記のようなエフェクター機能に重大な影響を及ぼすことが知られている。たとえば、Boydら、(1996), Mol. Immunol. 32, 1311-1318を参照されたい。1つもしくは複数の糖鎖を付加、置換、欠失もしくは修飾した、本発明の治療用抗体のグリコシル化変異体が想定される。
【0117】
アナログ
本発明のこの文脈において、記載されている抗体のアナログも提供する。したがって、本発明はR34.34, GR34, 9B7, 6A3, 1A11 または6C5 CDRのアナログを提供する (R34.34アナログ, GR34アナログ, 9B7 アナログ, 6A3 アナログ, 1A11 アナログもしくは6C5アナログ)。親抗体 (例えば6A3もしくは9B7)のアナログは、9B7アナログ抗体もしくは6A3アナログ抗体は同一または類似の結合親和性をもって同一の標的タンパク質もしくはエピトープに結合する、という意味においてそれぞれ、親抗体のCDRを有するものと同一または類似の機能的特性を有する。アナログはそのCDRのそれぞれもしくは全てにおいて1以上のアミノ酸置換を有することができ、ある実施形態においては親抗体のCDRにおけるアミノ酸残基の少なくとも75%もしくは80%は変更されておらず、別の実施形態においてはCDRの少なくとも90%が変更されておらず、また別の実施形態ではCDRのアミノ酸残基の少なくとも95%が変更されていない。別の実施形態において、親抗体のCDR H3はその全体において変更されておらず、このとき他のCDRは対応する親抗体CDRと同一であってもよくまたはそのアナログであってもよい。
【0118】
生産方法
本発明の結合タンパク質は当業者に公知の方法により製造することができる。本発明の抗体は、ヤギ(Pollockら、(1999), J. Immunol. Methods 231:147-157を参照されたい)、ニワトリ(Morrow KJJ (2000) Genet. Eng. News 20:1-55を参照されたい)、マウス(Pollockら前掲)、または植物(Doran PM, (2000) Curr. Opinion Biotechnol. 11, 199-204、Ma JK-C (1998), Nat. Med. 4; 601-606、Baez Jら、BioPharm (2000) 13: 50-54、Stoger Eら、(2000) Plant Mol. Biol. 42:583-590を参照されたい)といったトランスジェニック生物内で産生することができる。抗体はまた、化学合成によっても作製することができる。しかしながら、本発明の抗体は、典型的には、当業者によく知られている組換え細胞培養技術を用いて作製される。抗体をコードするポリヌクレオチドを単離し、その後の宿主細胞内での増幅もしくは発現のために、複製可能なベクターに挿入する。特に宿主細胞がCHOもしくはNSOである場合(下記を参照されたい)、1つの有用な発現系は、グルタミン酸シンテターゼ系(Lonza Biologicsが販売しているものなど)である。抗体をコードするポリヌクレオチドは、従来の方法(たとえば、オリゴヌクレオチドプローブ)によって、容易に単離され、配列決定される。使用可能なベクターには、プラスミド、ウイルス、ファージ、トランスポゾン、ミニ染色体(プラスミドがその典型的な具体例である)がある。一般にこうしたベクターは、発現を促進するために、軽鎖および/または重鎖ポリヌクレオチドに機能的に連結された、シグナル配列、複製起点、1つもしくは複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、および転写終結配列をさらに含有する。軽鎖および重鎖をコードするポリヌクレオチドは、別々のベクター内に挿入し、同時にまたは順次、同一の宿主細胞に(形質転換、トランスフェクション、エレクトロポレーションまたは形質導入により)導入することができ、また、所望により、かかる導入に先だって、重鎖および軽鎖をともに同一ベクター内に挿入することができる。
【0119】
シグナル配列
本発明の抗体は、成熟タンパク質のN末端に特異的な切断部位を有する、異種シグナル配列を含む融合タンパク質として作製することができる。シグナル配列は、宿主細胞によって認識されて、プロセシングされることとなる。原核生物の宿主細胞については、シグナル配列は、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、または耐熱性エンテロトキシンIIリーダーとすることができる。酵母分泌のためには、シグナル配列は、酵母インベルターゼリーダー、α因子リーダー、または酸ホスファターゼリーダーとすることができる。国際公開WO90/13646を参照されたい。哺乳類細胞株では、ウイルス分泌リーダー、たとえば単純ヘルペスgDシグナル、ならびに天然免疫グロブリンシグナル配列(例えばヒトIg重鎖)が利用できる。典型的には、シグナル配列は、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドに、リーディングフレーム内で連結される。
【0120】
選択マーカー
典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質もしくは他の毒素(たとえば、アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセートもしくはテトラサイクリン)に対する耐性を付与するタンパク質をコードするか、または(b)栄養要求性の欠乏を補完する、もしくは複合培地で利用できない栄養素を補充するタンパク質、あるいは(c)その両方の組み合わせをコードする。選択方式は、ベクター(1つまたは複数)を有しない宿主細胞の増殖の停止を伴ってもよい。本発明の治療用抗体をコードする遺伝子による形質転換が成功した細胞は、たとえば共に送達された選択マーカーによって付与された薬剤耐性のために、生き残る。一つの例はDHFR選択系であるが、この場合、形質転換体はDHFR陰性宿主細胞において作製される(例えば、Page and Sydenham 1991 Biotechnology 9: 64-68を参照のこと)。この系では、DHFR遺伝子は本発明の抗体ポリヌクレオチド配列と共送達され、次いでヌクレオシド使用中止によりDHFR陽性細胞を選択する。必要であれば、DHFR阻害剤メトトレキセートもまたDHFR遺伝子増幅を有する形質転換体を選択するために利用する。DHFR遺伝子を本発明の抗体コード配列もしくはその機能性誘導体と機能的に連結することにより、DHFR遺伝子増幅は対象の所望抗体配列の付随的増幅をもたらす。CHO細胞はこのDHFR/メトトレキセート選択に特に有用な細胞系であり、DHFR系を用いて宿主細胞を増幅し選択する方法は本技術分野において十分に確立されている。Kaufman R.J. et al J.Mol.Biol. (1982) 159, 601-621を参照されたい。概説については、Werner RG, Noe W, Kopp K,Schluter M,” Appropriate mammalian expression systems for biopharmaceuticals”, Arzneimittel-Forschung. 48(8):870-80, 1998 Augを参照されたい。さらなる例は、グルタミン酸合成酵素発現系である(Bebbington et al Biotechnology 1992 Vol 10 p169)。酵母に用いるのに適当な選択遺伝子はtrp1遺伝子である。Stinchcomb et al Nature 282, 38, 1979を参照のこと。
【0121】
プロモーター
本発明の抗体の発現に適したプロモーターは、抗体をコードするDNA/ポリヌクレオチドに、機能するように連結される。原核生物宿主のためのプロモーターには、proAプロモーター、βラクタマーゼおよびラクトースプロモーター系、アルカリホスファターゼ、トリプトファンおよびハイブリッドプロモーター、たとえばTacがある。酵母細胞での発現に適したプロモーターには、3-ホスホグリセリン酸キナーゼまたは他の解糖系酵素、たとえばエノラーゼ、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース6リン酸イソメラーゼ、3-ホスホグリセリン酸ムターゼおよびグルコキナーゼがある。誘導性酵母プロモーターには、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソチトクロームC、酸ホスファターゼ、メタロチオネイン、および窒素代謝またはマルトース/ガラクトース利用を担う酵素が含まれる。哺乳類細胞株における発現のためのプロモーターには、RNAポリメラーゼIIプロモーターが挙げられこれにはウイルスプロモーター、たとえば、ポリオーマ、鶏痘およびアデノウイルス(たとえばアデノウイルス2)、ウシパピローマウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス(具体的には前初期遺伝子プロモーター)、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、アクチン、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、ならびに初期もしくは後期シミアンウイルス40ならびに非ウイルス性プロモーター、例えばEF-1α(Mizushima and Nagata Nucleic Acids Res 1990 18(17):5322がある。プロモーターの選択は、発現に用いる宿主細胞のとの適切な適合性に基づいてすることができる。
【0122】
エンハンサーエレメント
適当な場合には、例えば高等真核生物における発現のためには、上記のプロモーターに配置されることの見出される他のエンハンサーエレメントをそれらのかわりにまたはそれらに加え、追加することができる。適当な哺乳動物エンハンサー配列としては、グロブリン、エラスターゼ、アルブミン、フェトプロテイン、メタロチオネインおよびインスリン由来のエンハンサーエレメントが挙げられる。あるいはまた、真核細胞ウイルス由来のエンハンサーエレメント、例えばSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス早期プロモーターエンハンサー、ポリオーマエンハンサー、バキュロウイルスエンハンサーまたはマウスIgG2a遺伝子座を用いることができる(WO04/009823参照のこと)。かかるエンハンサーは典型的にはプロモーターの上流の位置でベクターに配置されるが、それらはまた、他の箇所に配置されることもでき、例えば非翻訳領域内もしくはポリアデニル化シグナルの下流に配置されうる。エンハンサーの選択および配置は、発現に用いる宿主細胞との適当な適合性に基づいてすることができる。
【0123】
ポリアデニル化/終結化
真核細胞系では、ポリアデニル化シグナルが、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドに、機能しうるように連結される。こうしたシグナルは典型的には、オープンリーシングフレームの3'側に置かれる。哺乳類の系で、限定的でないシグナルの例としては、成長ホルモン、伸長因子1αおよびウイルス(たとえば、SV40)遺伝子、またはレトロウイルスのロング・ターミナル・リピート由来のものが挙げられる。酵母系では、ポリアデニル化/終結シグナルの限定的でない例として、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)およびアルコールデヒドロゲナーゼ1(ADH)遺伝子由来のシグナルが挙げられる。原核細胞系では、ポリアデニル化シグナルは一般的には必要とされず、その代わりにもっと短く明確な転写終結配列を用いるのが通例である。ポリアデニル化/終結配列の選択は、発現に使用される宿主との適切な適合性に基づいて行われる。
【0124】
収率増強のための他の手法/エレメント
上記に加え、収率を増強するために用いることのできる他の構成としては、クロマチンリモデリングエレメント、イントロンおよび宿主細胞特異的コドン改変が挙げられる。本発明の抗体のコドン使用頻度は、宿主細胞のコドンバイアスに適合するように改変することができ、それにより転写および/または産生収率を増大させることができる(例えばHoekema A et al Mol Cell Biol 1987 7(8):2914-24)。コドンの選択は発現に用いる宿主細胞との適当な適合性に基づいてすることができる。
【0125】
宿主細胞
本発明の抗体をコードするベクターをクローニングし、または発現させるのに適した宿主細胞は、原核細胞、酵母、もしくは高等真核細胞である。適当な原核細胞には、真正細菌、例を挙げると、腸内細菌科、エシェリキア属(Escherichia)たとえば大腸菌(E. coli)(たとえば、ATCC 31,446; 31,537; 27,325)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、クレブシエラ属(Klebsiella)、プロテウス属(Proteus)、サルモネラ属(Salmonella)たとえばネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、セラチア属(Serratia)たとえばSerratia marcescens、および赤痢菌属(Shigella)など、ならびにバシラス属(Bacilli)の枯草菌(B. subtilis)およびB. licheniformis(DD 266 710を参照されたい)など、シュードモナス属(Pseudomonas)の緑膿菌(P. aeruginosa)など、さらにストレプトミセス属(Streptomyces)がある。酵母宿主細胞のうち、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(schizosaccharomyces pombe)、クルイベロミセス属(Kluyveromyces)(たとえば、ATCC 16,045; 12,424; 24178; 56,500)、ヤロウィア属(yarrowia)(欧州特許第402, 226号)、ピキア・パストリス(Pichia Pastoris)(欧州特許第183, 070号、Pengら、J.Biotechnol. 108 (2004) 185-192も参照されたい)、カンジダ属(Candida)、トリコデルマ・リーシア(Trichoderma reesia)(欧州特許第244, 234号)、ペニシリン属(Penicillin)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)ならびにアスペルギルス属(Aspergillus)宿主、たとえばアスペルギルス・ニデュランス(A. nidulans)およびクロコウジカビ(A. niger)も想定される。
【0126】
原核生物および酵母宿主細胞は、具体的に本発明で想定はされるが、しかしながら、本発明の宿主細胞は、高等脊椎動物細胞であることが典型的である。適当な脊椎動物宿主細胞には、哺乳類細胞、たとえば、COS-1 (ATCC番号 CRL 1650)、COS-7 (ATCC CRL 1651)、ヒト胚性腎細胞株293、PerC6(Crucell)、仔ハムスター腎細胞(BHK) (ATCC CRL.1632)、BHK570 (ATCC番号: CRL 10314)、293 (ATCC番号CRL 1573)、チャイニーズハムスター卵巣細胞CHO(たとえば、CHO-K1、ATCC番号: CCL 61、DHFR-CHO細胞株、たとえばDG44など(Urlaubら、Somat Cell Mol Genet (1998) Vol. 12, pp. 555-556を参照されたい))、特に懸濁培養に適したCHO細胞株、マウスセルトリ細胞、サル腎細胞、アフリカミドリザル腎細胞(ATCC CRL-1587)、HELA細胞、イヌ腎細胞(ATCC CCL 34)、ヒト肺細胞(ATCC CCL 75)、Hep G2および骨髄腫もしくはリンパ腫細胞、たとえばNS0(米国特許第5,807,715号を参照されたい)、Sp2/0、Y0が含まれる。
【0127】
したがって、本発明のある実施形態において、本明細書に記載の治療用抗体の重鎖および/または軽鎖をコードするベクターを含んでなる、安定して形質転換された宿主細胞が提供される。こうした宿主細胞は、典型的には、軽鎖をコードする第1のベクター、および前記重鎖をコードする第2のベクターを含んでなる。
【0128】
かかる宿主細胞はまた、本発明の抗体の性質、機能および/または収率を改変するように、遺伝子操作または適合化させることができる。非限定的な例としては特定の修飾(例えばグリコシル化)酵素およびタンパク質フォールディングシャペロンの発現が挙げられる。
【0129】
細胞培養法
本発明の治療用抗体をコードするベクターで形質転換された宿主細胞は、当業者に公知の任意の方法により培養することができる。宿主細胞はスピナー フラスコ、振盪フラスコ、ローラーボトル、ウェーブリアクター(例えば、wavebiotech.com製のシステム 1000)または中空繊維システム中にて培養し得るが、大規模生産については、好ましくは攪拌型タンクリアクターまたはバッグリアクター(例えば、Wave Biotech, Somerset, New Jersey USA)を懸濁培養に特に用いる。典型的には、撹拌型タンカーは、例えば、スパージャー、バッフルまたは低せん断インペラを使用して、吸気に適合されている。気泡塔およびエアリフトリアクターには、空気または酸素の気泡を用いた直接吸気を使用し得る。宿主細胞を無血清培地中で培養する場合、細胞保護剤(例えば、プルロニックF-68)を添加して吸気法による細胞の損傷を防ぐことができる。宿主細胞の特性に応じて、マイクロキャリアを足場依存性細胞株の増殖基質として用いてもよいし、細胞を典型的な懸濁培養に適合させてもよい。宿主細胞、特に脊椎動物宿主細胞の培養には、様々な方式(例えば、バッチ式、フェドバッチ式、反復バッチ式(Drapeauら、(1994)cytotechnology 15: 103-109)、延長型バッチ式、またはかん流培養を用いることができる。組換え技術により形質転換した哺乳動物の宿主細胞は血清含有培地(例えば、ウシ胎仔血清(FCS)含有培地)中で培養できるが、このような宿主細胞は、Keenら、(1995)cytotechnology 17:153-163に開示されているように無血清培地中で、または市販の培地(例えば、ProCHO-CDMもしくはUltraCHOTM(Cambrex NJ, USA))中で、必要に応じてエネルギー源(例えば、グルコース)および合成増殖因子(例えば、組換えインスリン)を添加し、培養するのが好ましい。宿主細胞の無血清培養においては、これらの細胞が無血清条件での増殖に適合されていることが必要とされ得る。適合法の一つは、血清含有培地中にて宿主細胞を培養し、その後、繰り返し培地の80%を無血清培地に交換し、そうして宿主細胞は無血清条件に適合するようになる(例えば、Scharfenberg Kら、(1995) Animal Cell Technology: Developments towards the 21st century(Beuvery E.C.ら編), pp619-623, Kluwer Academic publishersを参照のこと)。
【0130】
培地中に分泌された本発明の抗体は、企図される用途に適した精製度をもたらす種々の方法を用いて、培地から回収および精製することができる。例えば、ヒト患者の治療のための本発明の治療用抗体の使用は、典型的には、還元SDS-PAGEにより測定した場合に、治療用抗体を含む培地に使用する場合と比べて、少なくとも95%の純度、より典型的には、98%または99%の純度を必要とする。第1の例において、培地の細胞残屑は典型的には、遠心分離し、その後、例えば、精密ろ過、限外ろ過および/または深層ろ過によって上清を清澄化する工程によって除去する。あるいは、抗体を事前に遠心分離を行うことなく精密ろ過、限外ろ過または深層ろ過を行うことによって回収し得る。種々の他の方法(例えば、透析およびゲル電気泳動)ならびにクロマトグラフ法(例えば、ヒドロキシアパタイト(HA)、アフィニティクロマトグラフィー(必要に応じて、ポリヒスチジンなどのアフィニティタグシステムを含む)および/または疎水性相互作用クロマトグラフィ(HIC,米国特許第5,429,746号参照))が利用可能である。一実施形態において、本発明の抗体は種々の清澄化工程の後に、プロテインAまたはプロテインGアフィニティクロマトグラフィー、その後さらに、さらなるクロマトグラフィ工程(例えばイオン交換および/またはHAクロマトグラフィ、アニオンもしくはカチオン交換、サイズ排除クロマトグラフィおよび硫安分画)を使用してキャプチャーする。典型的には、様々なウイルス除去工程も用いる(例えば、DV-20フィルターなどを使用するナノろ過)。このような様々な工程を経た後、少なくとも10mg/ml以上、例えば、100mg/ml以上の本発明の抗体を含む精製(典型的には、モノクローナル)製剤が提供され、これは、本発明の一実施形態をなす。100mg/ml以上の濃度は超遠心分離によって生じ得る。好ましくは、このような製剤は、凝集した形状の本発明の抗体を実質的に含まない。
【0131】
細菌系は、抗体フラグメントの発現に特に適している。こうしたフラグメントは、細胞内、もしくはペリプラズム内に局在する。当業者に知られている方法にしたがって、不溶性ペリプラズムタンパク質を抽出し、リフォールディングして活性タンパク質を形成することができる。Sanchezら、(1999) J. Biotechnol. 72, 13-20およびCupit PMら、(1999) Lett Appl Microbiol, 29, 273-277を参照されたい。
【0132】
医薬組成物
上記の本発明の抗体の精製調製物(特にモノクローナル調製物)を、上記のヒトの疾患および障害の治療に用いる医薬組成物に組み入れることができる。典型的には、こうした組成物は、さらに、許容される医薬慣習で知られ、必要とされる、製薬上許容される(すなわち不活性な)担体を含んでなる。たとえば、Remingtons Pharmaceutical Sciences, 第16版、(1980), Mack Publishing Coを参照されたい。このような担体の例としては、適当なバッファー(例えば酢酸ナトリウム三水和物など)で製薬上許容されるpH、例えばpH5〜8の範囲内に緩衝化された、生理食塩水、リンガー溶液もしくはブドウ糖溶液のような滅菌担体がある。注射用(たとえば、静脈内、腹腔内、皮内、皮下、筋肉内もしくは門脈内投与による)または持続点滴用の医薬組成物は、目に見える粒子状物質のない適切な状態で、1mg〜10gの治療用抗体、典型的には5mg〜1g、より具体的には5mg〜25mgまたは50mgの抗体を含有することができる。このような医薬組成物を調製する方法は、当業者によく知られている。ある実施形態において、医薬組成物は、1mg〜10gの本発明の治療用抗体を、状況に応じて使用説明書と共に、単位投与剤形中に含んでなる。本発明の医薬組成物は、当業者に周知の、もしくは明白な方法にしたがって投与前に再調製されるように、凍結乾燥されていてもよい。本発明の実施形態がIgG1アイソタイプを有する本発明の抗体を含んでなる場合、クエン酸塩(たとえば、クエン酸ナトリウム)またはEDTAまたはヒスチジンといった銅のような金属イオンのキレート剤を医薬組成物に添加して、このアイソタイプの抗体の、金属を介した分解の度合いを低下させることができる。欧州特許第0612251号を参照されたい。医薬組成物はまた、アルギニン基剤のような可溶化剤、ポリソルベート80のような洗剤/抗凝集剤、バイアルの頭部空間の酸素を置換するための窒素ような不活化ガスを含みうる。
【0133】
本発明の抗体を投与するための有効投与量および治療計画は、一般に、経験的に決定され、患者の年齢、体重および健康状態、ならびに治療すべき疾患もしくは障害といった要因に左右される。こうした要因は主治医の裁量の範囲内にある。適当な投与量を選択する際の指針は、たとえばSmithら、(1977)「ヒトの診断および治療における抗体」(Antibodies in human diagnosis and therapy)、Raven Press, New Yorkに見出すことができる。
【0134】
臨床用途
本発明の拮抗薬は、多発性硬化症および他の自己免疫または炎症疾患、特には病原性TH17細胞が示唆される疾患の治療法で用いることができる。そのような疾患には、高レベルのIL-17発現が伴う。MS患者の血清およびCSF(Matusevicius, D. et al.; Mult. Scler. 5, 101-104; 1999)および関節リウマチ患者から得られた滑液において、IL-17レベルの上昇が報告されている。IL-17は乾癬においても示唆されているが(Homey et al.; J. Immunol. 164(12):6621-32; 2000)、ハムザーウィ(Hamzaoui)はベーチェット病において高レベルのIL-17を報告している(Scand. J. Rhuematol.; 31:4, 205-210; 2002)。高IL-17レベルは、全身性エリテマトーデス(SLE)においても認められている(Wong et al.; Lupus 9(8):589-93; 2000)。
【0135】
IL-7受容体介在シグナル伝達の阻害は、喘息のように高IL-17が示唆されている炎症性(非自己免疫)疾患の治療においても有用となり得る。
【0136】
従って、本発明の炎症性および/または自己免疫疾患には、乾癬およびアトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患;全身性強皮症および硬化症;炎症性腸疾患(IBD);クローン病;潰瘍性大腸炎;手術組織再潅流損傷、心筋梗塞、心停止、心臓手術後の再潅流および経皮的冠動脈形成術後の狭窄、卒中、および腹部大動脈瘤などの心筋虚血状態などの虚血再潅流障害;卒中に続発する脳浮腫;頭蓋外傷、血液量減少性ショック;窒息;成人呼吸窮迫症候群;急性肺障害;ベーチェット病;皮膚筋炎;多発性筋炎;多発性硬化症(MS);皮膚炎;髄膜炎;脳炎;ブドウ膜炎;骨関節炎;ループス腎炎;関節リウマチ(RA)、シェーグレン症候群、脈管炎などの自己免疫疾患;白血球の血管外遊出が関与する疾患;中枢神経系(CNS)炎症性障害、敗血症もしくは外傷に続発する多臓器損傷症候群;アルコール性肝炎;細菌性肺炎;糸球体腎炎などの抗原-抗体複合体介在疾患;敗血症;サルコイドーシス;組織/臓器移植に対する免疫病理学的応答;胸膜炎、肺胞炎、脈管炎、肺炎、慢性気管支炎、気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎、過敏性肺炎、特発性肺線維症(IPF)および嚢胞性線維症などの肺の炎症;乾癬性関節炎;視神経脊髄炎、ギラン・バレー症候群(GBS)、COPD、I型糖尿病などがある。
【0137】
特に、本発明の拮抗薬は、視神経脊髄炎などのあらゆる形態での多発性硬化症の治療法において有用となり得る。本発明の拮抗薬による治療は、活動性炎症疾患との関連で投与する場合に、すなわち臨床的に孤立した症候群または再発型のMSの治療で使用される場合に最も有効であることが予想される。これらの疾患段階は、臨床的におよび/またはガドリニウム増強その他のより感度の高い技術などの画像診断基準、および/または活動性疾患の他のまだ確定されていない生物マーカーによって確定することができる。特に、患者が再発に入りつつあるか再発している場合に、本発明の拮抗薬を用いて、RRMSを治療することができる(静脈、皮下、経口または筋肉投与を介して)。1実施形態では、本発明の拮抗薬は、再発開始時に、または再発開始から1時間、2時間、3時間、6時間、12時間、24時間、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日または10日以内に患者に投与する。
【0138】
CD127発現および細胞内サイトカイン染色(例:IL-17染色)などの生物マーカーを用いることで、治療用抗CD127結合タンパク質の適用に関する基準が得られる。CD4+T細胞におけるTH17増加があるMS患者の下位群が、その治療の一次候補である。1実施形態において、本発明の治療方法は、T細胞で高レベルのCD127を発現することで抗CD127治療に対して感受性となっている患者を治療する方法である。抗CD127による治療は、再発の期間を短縮し、EDSSまたはMRIによって測定可能な臨床活性の減弱を早める可能性がある。患者が寛解に入ると、治療を停止して、正常T細胞の成長および恒常性の阻害などの合併症を回避することができる。抗CD127抗体を用いることで、再発間の期間を長くし、患者の生活の質を改善することもできる。
【0139】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語はいずれも、一般に使用され、当業者が理解するものと同じ意味を有する。
【実施例】
【0140】
実施例およびそこで使用される材料は、例示のみを目的としたものであり、本発明を限定するものではない。
【0141】
【0142】
実施例1:マウスCD127に結合するモノクローナル抗体の特性決定
方法
1.1:pStat5検出アッセイでFACSを用いることによるマウスCD127に対する市販のマウス抗体の評価
本実施例において、発明者らは、IL-7誘発Stat5リン酸化(pStat5)を阻害する市販の抗マウスCD127抗体を確認した。すなわち、標準的なプロトコールにより、C57B/6マウス脾臓から脾細胞を得た。次に、ミルテニー(Miltenyi)磁気単離キット(カタログ番号130-049-201)を用いて脾細胞からCD4+T細胞を精製した。CD4+T細胞100万個/mLを最初に下記の図に示した方法に従って、指定の抗体と濃度で37℃で30分間にわたってインキュベートした。使用した抗体はBD Biosciencesの対照ラットIgG2a(#553926)、BD Biosciencesの抗CD127(クローンSB/14、#550426)、eBiosciencesの抗CD127(クローン:A7R34、#16-1271)、Abcam抗CD127(クローンSB199、#ab36428)、R&D抗CD127(MAB7471および7472)であった。次に、細胞を未処置とするか、1ng/mLマウスIL-7によって37℃で60分間処理した。細胞を回収し、IL-7処理後に直ちに氷上に置いた。次に、細胞を氷冷PBSで1回洗浄し、1%パラホルムアルデヒド中にて37℃で10分間固定した。細胞をPBSで洗浄し、90%メタノール/PBS 500μLとともに氷上で30分間インキュベートした。細胞をPBSで再度洗浄し、細胞ペレットをPBS 100uLに再懸濁させた。細胞を、抗pStat5-Alexa Fluor 647抗体(BD Biosciences、#612599)5μLによって室温で暗所にて1時間染色した。次に、細胞をPBSで2回洗浄し、BD Biosciences Facscalibur装置を用いるフローサイトメトリーにより、製造者マニュアルに従って分析した。結果を図1に示してある。
【0143】
そのグラフでは、細胞数を細胞内pStat5の平均蛍光強度(MFI)に対してプロットした。ヒストグラムでは、未処理CD4+T細胞のMFIが示されている。IL-7による処理によって、MFIが右側に移動し、ヒストグラム中のバーによって示した適切なゲートによって、pStat5の増加した細胞を決定した。対照IgGはpStat5を阻害しなかった。しかしながら、A7R34はpStat5を強力に阻害した。抗体クローンSB/14も阻害を示したが、それはA7R34ほど強くなかった。abcamクローンSB199およびR&D systems抗体は、高濃度で部分的にStat5-pを阻害することができたのみであった。
【0144】
SB/14について、イン・ビトロでの分化TH17のIL-7によって推進される増殖の阻害も調べた。下記の実施例3に記載の方法に従って、ミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質(MOG)の免疫感作により、マウスにおいて実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)を誘発した。EAEマウスの脾臓またはリンパ節からCD4+T細胞を回収し、IL-7の非存在下または存在下にイン・ビトロで3日間培養した。図11Cに示したように、IL-7により、IL-17細胞内染色によって検出可能なTH17細胞の増殖が促進された。マウスIL-7Raに対する抗体SB/14は、Th17細胞のIL-7が推進する増殖を阻害したが、対照IgGでは阻害されなかった。
【0145】
前記抗体については、マウス胸腺細胞でのTSLP介在pStat5の阻害も調べた。胸腺細胞におけるCD4-細胞は、機能性TSLP受容体を発現し、FACS分析でゲーティングした。図1Bに示したように、IL-7誘発およびTSLP誘発pStat5は、SB/14(BD)およびA7R34(eBio)によって阻害された。従って、マウスCD127(SB/14およびA7R34)に対する抗体は、IL-7介在シグナル伝達およびTSLP介在シグナル伝達の両方を阻害した。
【0146】
1.2:ペプチドELISAによるエピトープの確認
マウスIL7RECDの7個の重複ペプチドを有する15量体を、Shanghai Science Peptide Biology TechnologyおよびGL Biochem (Shanghai) Ltdが合成した。ペプチドはいずれも、連続流固相ペプチド合成によって製造した。次に、ペプチドとビオチン部分の間にスペーサーAcpを設けて、ペプチドのN末端でペプチドをビオチン化し、すなわちビオチン-Acp-ペプチドとした。
【0147】
1μg/mLの各試験抗体の炭酸緩衝液中溶液(15mM Na2CO3、35mM NaHCO3、0.2g/L NaN3、pH9.6)100μLを入れた96ウェルプレートのウェルを、4℃で終夜コーティングした。翌日、プレートを洗浄緩衝液(0.05%Tween-20を含む1倍PBS)で200μL/ウェルにて3回洗浄し、200μL/ウェルのブロッキング緩衝液(10mg/mLウシ血清アルブミン(BSA)のPBST中溶液)を37℃で1時間インキュベートした。プレートを3回洗浄した後、2μg/mLの合成ビオチン化ペプチド100μLを加えて37℃で1時間経過させた。3回の洗浄後、100μL/ウェルの1/2000希釈HRP-SAを加え、37℃で30分間インキュベートした。5回の洗浄後に、100μL/ウェルのTMB基質溶液を用いた。室温で2から5分間インキュベートしてから、2N HClで停止した。適切な時間分解プレートリーダーを用いてプレートを450nmで読み取った。
【0148】
1.3:ファージペプチドディスプレイのバイオパニングによるエピトープの予測
糸状バクテリオファージM13上でディスプレイされたランダムペプチドライブラリーを手段として用いて、モノクローナル抗体のエピトープのマッピングを行った(Scott and Smith, 1990, searching for peptide ligands with an epitope library, Science, 249:386-390)。本発明者らは、市販のファージディスプレイランダムペプチドライブラリーおよび社内のファージディスプレイランダムペプチドライブラリーを用いて、マウス抗体に結合するファージペプチドを同定した。富化ファージディスプレイペプチドコンセンサス配列または確認されたファージペプチドからのミモトープを用いて、マウス抗体の可能なエピトープ(ファージペプチドミモトープ:ファージペプチドまたはエピトープのミミックによって模倣される抗原の表面上の抗体相互作用部位)を予測した(Geysen et al., 1986, a priori delineation of a peptide which mimics a discontinuous antigenic determinant. Mol. Immunol., 23:709-715; Luzzago et al., 1993, mimicking of discontinuous epitopes by phage-displayed peptides, I. epitope mapping of human H ferritin using a phage library of constrained peptides, Gene, 128: 51-57)。前記二つのランダムライブラリーから確認されたファージペプチドミモトープにより、マウス抗体の二つの可能な不連続エピトープが予測された。
【0149】
ランダムペプチドライブラリー
1.Ph.D-12ファージディスプレイランダムペプチドライブラリー(New England Biolabs Inc.から、#E8110S)
2.fGWX10ファージディスプレイランダムペプチドライブラリー(GSK社内ライブラリー)。
【0150】
Ph.D-12ファージディスプレイランダムペプチドライブラリーを用いるバイオパニング手順
固定化mAb9B7に対するPh.D-12ファージディスプレイランダムペプチドライブラリーのバイオパニングを、実質的に製造者マニュアルに従って実施した。すなわち、
1)12ウェルプレートのウェルに100μg/mLの各試験抗体(0.1M NaHCO3中溶液、pH8.6)のコーティングを行い、緩やかに撹拌下に4℃で終夜インキュベートする。
2)ブロッキング緩衝液(抗マウス抗体手順に0.1M NaHCO3、pH8.6、5mg/mL BSA、0.02 NaN3を用い、次に抗ヒト抗体手順に1%ミルクを用いた)で4℃にて1時間インキュベートし、TBST洗浄を6回行う(TBS+0.1%[体積比]Tween-20)。
3)コーティングされたプレート上にTBST中の希4×1010ファージを加え、室温で60分間緩やかに揺らす。
4)結合していないファージを廃棄し、プレートをTBSTで10回洗浄する。
5)結合したファージを0.2Mグリシン-HCl(pH2.2)300μL、1mg/mLのBSAで溶離し、1M Tris-HCl(pH9.1)45μLで中和して、さらに2回のバイオパニングに供する。
6)接種した大腸菌ER2738培養液に溶出液を加え、高振盪下に4.5時間にわたって37℃でインキュベートする。次に、遠心した培養上清を、4℃で終夜にわたりPEG/NaCl中で沈澱させる。
7)得られた3回目の増幅溶出物をLB/IPTG/Xgalプレート上で力価測定する。力価測定プレートからのプラークをDNA配列決定に用いた。
【0151】
fGWX10ファージディスプレイランダムペプチドライブラリーを用いるバイオパニング手順
10量体ランダムペプチド配列のディスプレイを行う社内ファージライブラリーfGWX10を、既報の方法に従って構築した(Deng et al., 2004, Identification of Peptides that inhibit the DNA binding, trans-activator, and DNA replication functions of the human papillomavirus type 11 E2 protein, J. Virol., 78: 2637-2641)。すなわち、
1)各試験抗体(0.1M NaHCO3中溶液、pH 8.6)100μg/mLを12ウェルプレートのウェルにコーティングし、緩やかに撹拌しながら4℃で終夜インキュベートする。
2)LB培地10mLの入った1本の管に大腸菌K91を接種する。培地を高振盪しながら37℃でインキュベートする。
3)ブロッキング緩衝液(抗マウス抗体手順に0.1M NaHCO3、pH8.6、5mg/mL BSA、0.02 NaN3を用い、次に抗ヒト抗体手順に1%ミルクを用いた)で4℃にて1時間インキュベートし、TBST洗浄を6回行う(TBS+0.1%[体積比]Tween-20)。
4)コーティングされたプレート上にTBST 350mLとともに希fGWX10 ファージ(多様性1×1010)50μLを加え、室温で60分間緩やかに揺らし、プレートをTBSTで10回洗浄する。
5)0.2MグリシンHCl(pH2.2)300μL、1mg/mL BSAで結合したファージを微小遠心管中に溶離し、1M Tris-HCl、pH9.1 45μLで中和して、さらに2回のバイオパニングを行う。
6)LB/Tetプレート上で接種大腸菌K91細胞を用いて未増幅の3回溶出物を力価測定する。力価測定からのコロニーを用いてDNA配列決定を行った。残った溶出物は4℃で保存する。
【0152】
1.4:Biacoreによるマウス抗体のエピトープ結合の測定
マウスCD127における抗マウスCD127抗体の結合エピトープを、Biacore T100システム(GE Healthcare)を用いて評価した。すなわち、標準的なアミンカップリングキットおよび手順を用い、最終レベル約100RU(応答単位)でCM5バイオセンサーチップ上に抗マウスCD127抗体を固定化した。HBS-EP緩衝液pH7.4(10mM HEPES、0.15M塩化ナトリウム、3mM EDTAおよび0.005体積%界面活性剤P20からなる)を流動緩衝液として用いた。EDC/NHS/エタノールアミンを用いて賦活/失活させる比較細胞に対してセンソグラム(sensogram)を行った。IL7R ECDの7個の重複ペプチドを有する15量体を、Shanghai Science Peptide Biology TechnologyおよびGL Biochem (Shanghai) Ltdが合成した。各ペプチドを、流量30μL/分で120秒間にわたり各種濃度で注入した。Biacore評価ソフトウェアパッケージを用いてKd値を計算した。試験は25℃で行った。
【0153】
表1に、ファージペプチドライブラリー、ペプチドELISAおよびBiacoreの方法のうちの1以上によって確認された2種類のマウス抗体であるBD BiosciencesクローンSB/14およびeBiosciencesクローンA7R34についてのマウスCD127(NP_032398)のエピトープ領域を示した。
【0154】
表1:抗マウスCD127抗体SB/14およびA7R34についてのエピトープ試験のまとめ
【表1】
【0155】
実施例2:ヒトCD127(hCD127)に結合するモノクローナル抗体の形成
文献(E Harlow and D Lane, Antibodies a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)に記載の方法にほぼ従って、ハイブリドーマ細胞により、モノクローナル抗体(mAb)を作った。
【0156】
9B7および6C5などのハイブリドーマを形成するのに用いた抗原は、ヒトCD127(配列番号1)のアミノ酸21から262を含む二量体組換えヒトCD127細胞外ドメイン(ECD)-Fc(R&D Systems、#306-IR)であった。6A3および1A11などのハイブリドーマを形成するのに用いた抗原は、CD127の全ECD(配列番号1のアミノ酸21から219)を含む構築物であった。
【0157】
抗原のFCAまたはFIA中溶液(Sigma-Aldrich、#F5881、#F5506)(体積比1:1)を腹腔内注射することで、Balb/cマウスを初回抗原刺激および追加免疫した。応答者動物からの脾臓を回収し、SP/0骨髄腫細胞に融合させて、ハイブリドーマを形成した。対象のハイブリドーマを、半固体培地(メチルセルロース溶液)を用いてモノクローン化し、手作業で96ウェルプレートに拾い入れた。ハイブリドーマ上清材料について、ELISA、CHO-CD127トランスフェクション細胞FACS、pStat5 FACSおよびBIAcore T100を用いてCD127ECDに対する結合のスクリーニングを行った(結果は下記に示した)。
【0158】
特定の精製mAb(ハイブリドーマ上清9B7、6C5、6A3および1A11から単離)について、TH17増殖アッセイで、IL-7誘発IFN-γおよびIL-17の阻害を調べた。さらに、市販の抗hCD127 R34.34が、TH17増殖アッセイでIL-7誘発IFN-γおよびIL-17を阻害することが示され、それもさらなる分析用に選択した。
【0159】
方法
2.1:ELISAによるCD127に結合するハイブリドーマの選択
5μg/mLの組換えヒトCD127ECDを、ELISAプレート上にコーティングした。試験ハイブリドーマ上清または精製物からの抗CD127抗体を、プレート全体で力価測定した。西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗マウスIgG抗体によって処理することで、結合レベルを検出した。TMB基質を用いてELISAを作成した。9B7ハイブリドーマ上清についての結果は、図2に示した。
【0160】
2.2:蛍光活性化細胞分類(FACS)分析
MockトランスフェクションCHOまたはCHO-CD127細胞(細胞2×106個/mL)を、4%FCSのPBS中溶液(FACS緩衝液)とともに1時間にわたり、1μg/mLのハイブリドーマ上清または精製抗体によって染色した。細胞はさらに、好適な陰性対照マウス抗体および抗ヒトCD127陽性対照(R34.34デンドリティクス社、#DDX0700)でも染色した。細胞をFACS緩衝液で洗浄し、抗マウスIgG ALEXA488二次抗体1:2000(Invitrogen Inc.、#13-A11017)で染色した。FACS緩衝液で洗浄後、細胞をLSR II(BD Biosciences Inc.)で分析した。9B7抗体についての結果を図3に示した。
【0161】
2.3:9B7によるIL7刺激IL7受容体シグナル伝達Stat5リン酸化の阻害
冷凍PBMCを実験前夜に解凍し、それを回収用の10%FBSを含むRPMI1640培地に入れた状態とする。CD127に対する機能性抗体のスクリーニングを行うため、2μg/mLおよび0.2μg/mLのハイブリドーマ培地、陽性対照抗体(R34.34、デンドリティクス社)または試験上清サンプルを、PBMC細胞5×105個とともに30分間インキュベートしてから、1ng/mLのIL-7による刺激を行った。未処理細胞をバックグラウンドシグナルとして分析し、IL-7処理細胞を陰性対照として設定した。それらの対照または試験サンプルとともに30分間インキュベートした後、細胞を1ng/mLのIL-7で37℃にて15分間刺激した。次に、細胞を1.6%のパラホルムアルデヒド/PBSで37℃にて10分間固定し、100%メタノール中にて20から30分間にわたって透過性化した。次に、細胞を染色緩衝液(1%BSAのPBS中溶液)で2回洗浄し、Alexa-647標識抗pStat5抗体 BD Biosciences Inc、#612599)7μLで1時間染色した。サンプルを、BD LSR II FACS装置で分析した。9B7についての結果を図4に示した。
【0162】
セクション3.19に記載の方法に従って、抗体R34.34、6A3、1A11および6C5について最適化された方法を用いた。
【0163】
2.4:ヒトTh17増殖アッセイでのIL-7誘発IL-17産生の阻害
正常ヒトCD4+T細胞の集団における記憶TH17細胞を刺激して3日間増殖させる。次に、これらのTH17細胞をPMAおよびイオノマイシンによって活性化して、IL-17産生を刺激する。3日間のインキュベーション期間における機能性抗CD127抗体によるIL-7とCD127との間の相互作用の遮断により、TH17細胞の増殖が防止されて、結果的にIL-17産生の低減を生じるはずである。
【0164】
市販のキット(CD4+T細胞単離キットII、#130-091-155、Miltenyi Biotec)を用いて、ヒト抹消血単核球からCD4+T細胞を単離した。CD4+T細胞を、1.5×10E6/mLの濃度で、10%FCSを含むRPMI培地に再懸濁させた。細胞を、対照または抗IL-7Rα抗体とともに30分間前インキュベートした。次に、10ng/mLのIL-7の存在下または非存在下に細胞を37℃で72時間培養した。インキュベーション終了後、細胞を50ng/mLのPMAおよび1μg/mLのイオノマイシンで5時間刺激した。細胞培養上清を回収し、IL-17濃度をElisa(eBiosciences)によって測定した。このアッセイを抗体9B7に利用した。
【0165】
下記のプロトコールに従って、抗体6C5、6A3およびR34.34のアッセイを行った。マニュアル(#130-091-155、Miltenyi)に従って、CD4+細胞を単離した。100μL中約1×106/mLのCD4+細胞を、同体積の2×Th17分化培地(2μg/mL抗CD28+10μg/mL抗IFN-γ+10μg/mL抗IL-4+12.5ng/mL IL-1β+20ng/mL IL-23+50ng/mL IL-6)と混合し、5%CO2下に5日間にわたり37℃で培養した。TH17培地での各種サイトカイン類および増殖因子による処理によって、優先的にCD4+細胞がTH17細胞に分化した。第5日の分化培養細胞からのCCR6+細胞を、BD FACS SORP Aria IIを用いて分別した。次に、CCR6+細胞を2×106/mLに調節して、IL-17産生アッセイに供した。
【0166】
IL-17およびIFN-γレベルを測定するため、CCR6+細胞100μLを37℃で1時間にわたり、試験抗体とともにインキュベートし、10ng/mLのIL-7 100μLと混合した。5%CO2を補充して、37℃で24から40時間にわたり、細胞を培養した。培養上清におけるIFN-γおよびIL-17レベルをFlowCytomix(Bender MedSystems)によって、それぞれ24時間目および40時間目に測定した。
【0167】
2.5:表面プラズモン共鳴による結合の動力学の測定
ヒトCD127における抗CD127抗体の結合動力学を、Biacore T100システム(GE Healthcare)を用いて評価した。すなわち、標準的なアミンカップリングキットおよび手順を用いて、組換えヒトCD127 ECDを、最終レベル約100RU(応答単位)でCM5バイオセンサーチップに固定化した。HBS-EP緩衝液pH7.4(10mM HEPES、0.15M塩化ナトリウム、3mM EDTAおよび0.005体積%界面活性剤P20からなる)を流動緩衝液として用いた。EDC/NHS/エタノールアミンを用いて賦活/失活させる比較細胞に対してセンソグラムを行った。分析物(抗CD127抗体)を、流量30μL/分で120秒間にわたり各種濃度で注入した。抗原表面を、10mMグリシンHCl、pH2.5を用いて再生した。Biacore評価ソフトウェアパッケージを用いてKd値を計算した。試験は25℃で行った。
【0168】
表2. 9B7の上清物についての動力学データ。試験は37℃で行った。
【表2】
【0169】
9B7のイソタイプを、κ軽鎖定常部を有するIgG1であると決定した。
【0170】
下記のアッセイを用いて、抗CD127抗体6C5、6A3、1A11およびGR34の結合動力学を評価した。抗体の動力学を、反応温度25℃でBiacore T100システム(GE Healthcare)を用いて評価した。標準的なアミンカップリングキットおよび手順を用い、最終レベル約10000RU(応答単位)でCM5バイオセンサーチップ上にウサギ抗マウスIgG抗体を固定化した。HBS-EP緩衝液pH7.4(10mM HEPES、0.15M塩化ナトリウム、3mM EDTAおよび0.005体積%界面活性剤P20からなる)を流動緩衝液として用いた。EDC/NHS/エタノールアミンを用いてブランク固定化した比較細胞に対してセンソグラムを行った。リガンド捕捉のため、25nMの6C5を10μL/分で30秒間にわたりチップ表面全体に注いだ。分析物(組換えヒトCD127 ECD)を、30μL/分で500秒間にわたり各種濃度で注入した。センサーチップ表面を10mMグリシンHCl、pH1.7によって再生した。Biacore評価ソフトウェアパッケージを用いて、Kd値を計算した。
【0171】
表3. 6C5および6A3の動力学データ
【表3】
【0172】
2.6:抗体プロファイルのまとめ
抗体9B7は、556pMの解離定数でCD127に強固に結合することが認められた。それは、ヒトCD4細胞におけるIL-7誘発STAT-5リン酸化の部分的遮断と相関して、IL-7のCD127への結合を部分的に遮断する能力も有している(図4)。
【0173】
抗体6C5(マウスIgG1)は、50μg/mLのIC50でpSTAT5シグナル伝達を阻害することが確認された。
【0174】
抗体6A3(マウスIgG1)は、本明細書に記載のアッセイで0.099μg/mLのIC50でpSTAT5シグナル伝達を阻害することが確認された。それは、7.99nMのIL-7Rα EDCに対するアフィニティ(KD)および3.34×10-4のKdを有していた。それは、0.19μg/mLのEC50でCHOで発現されたIL-7Rαに結合することができ、1.92μg/mLのIC50でIL-7/IL-7Rαを遮断した。6A3は、CD127エピトープ領域2、3、4および5(配列番号118から121)内のアミノ酸に結合することが確認された。
【0175】
抗体1A11(マウスIgG1)は、本明細書に記載のアッセイで0.088μg/mLのIC50でpSTAT5シグナル伝達を阻害することが確認された。それは、3.44nMのIL-7Rα EDCに対するアフィニティ(KD)および2.51×10-4のKdを有していた。それは、0.16μg/mLのEC50でCHOで発現されたIL-7Rαに結合することができ、1.79μg/mLのIC50でIL-7/IL-7Rαを遮断した。1A11は、CD127エピトープ領域2、3、4および5(配列番号118から121)内のアミノ酸に結合することが確認された。
【0176】
抗体GR34(マウスIgG1)は、本明細書に記載のアッセイで0.22μg/mLのIC50でpSTAT5シグナル伝達を阻害することが確認された。それは、15.3nMのIL-7Rα EDCに対するアフィニティ(KD)および8.75×10-4のKdを有していた。それは、0.27μg/mLのEC50でCHOで発現されたIL-7Rαに結合することができ、2.29μg/mLのIC50でIL-7/IL-7Rαを遮断した。GR34は、CD127エピトープ領域2、3、4および5(配列番号118から121)内のアミノ酸に結合することが確認された。
【0177】
市販の抗体R.3434(デンドリティクス社)は、本明細書に記載のアッセイで0.67μg/mLのIC50でpSTAT5シグナル伝達を阻害することが確認された。それは、7.74nMのIL-7Rα EDCに対するアフィニティ(KD)および1.46×10-4のKdを有していた。それは、0.01μg/mLのEC50でCHOで発現されたIL-7Rαに結合することができ、1.38μg/mLのIC50でIL-7/IL-7Rαを遮断した。R.3434は、CD127エピトープ領域2、3、4および5(配列番号118から121)内のアミノ酸に結合することが確認された。
【0178】
2.7:各種ドメインの配列決定
2.7.1:9B7
キアゲン(Qiagen)からのOligotex Direct mRNAキットを用いて、製造者のマニュアルに従い、2×107個の9B7クローン細胞のペレットから総RNAを抽出した。マウスVHおよびVK遺伝子に対する従来のプライマーを用いて製造者マニュアルに従い、ImProm-II(商標名)逆転写システム(Promega)によって、mRNAのcDNAへの逆転写を行った。重鎖可変領域についての7つの反応および軽鎖可変領域についての6つの反応を増幅した。
【0179】
精製RT-PCRフラグメントをpMD18-Tベクター(Takara)にクローニングし、配列アラインメント、データベース検索およびKABATに列記された既知の免疫グロブリン可変配列とのアライメントにより、各ハイブリドーマについてコンセンサス配列を得た(Kabat, E.A., Wu, T.T., Perry, H.H., Gottesman, K.S., Foeller, C., 1991. Sequences of proteins of Immunological Interest, 5th edition, US Department of Health and Human Services, Public Health Service, NIH)。
【0180】
mAb 9B7のコンセンサス配列は下記の通りであった:
mAb 9B7の再構成VHはIgh-VQ52 VH2ファミリーのV断片を用いた。
【0181】
【0182】
(CDR領域は太字である。Ig遺伝子:免疫グロブリン遺伝子。VH:抗体重鎖可変領域。VL:抗体軽鎖可変領域。FR:フレームワーク領域。CDR:相補性決定領域)。
【0183】
2.7.2:6C5
6C5抗体は、下記の重鎖および軽鎖可変領域を有することが確認された(Kabatに従い、6C5のCDRを太字で示してある。
【0184】
【0185】
2.7.3:6A3
6A3抗体は、下記の重鎖および軽鎖可変領域を有することが確認された(カバットに従い、6A3のCDRを太字で示してある。
【0186】
【0187】
2.7.4:1A11
1A11抗体は、下記の重鎖および軽鎖可変領域を有することが確認された(カバットに従い、1A11のCDRを太字で示してある。
【0188】
mAb 1A11のVH
【0189】
2.7.5:R3434
R3434は、デンドリティクス社から市販されている。ゲル内消化タンパク質の社内での配列分析では、ABI Procise 494自動タンパク質配列決定装置(Applied Biosystems, Foster City, Ca., USA)でのエドマン分解を用いるN末端配列分析、ペプチド質量指紋法およびブルカー(Bruker)のUltraflex lll Maldi-TOF質量分析装置でのMALDI-LIFT-MS/MS配列決定およびブルカーのHCT+イオントラップ質量分析装置でのさらなるLC-ESI-MS/MS配列決定(いずれもBruker Daltonics社(Bremen, Germany)から)を行った。そのリバースエンジニアリングクローンはGR34と称し、それの配列は下記の通りである。
【0190】
mAb GR34の再構成VH
【0191】
2.8:ペプチドELISAによる9B7エピトープの確認
抗hCD127抗体9B7のエピトープを、前述の方法(1.2)に従って、ペプチドELISAによって決定した。このマッピングの結果を表3に示した。
【0192】
表4は、クローン9B7を用いるペプチドELISAによって確認されたhCD127の3つの陽性を示す。
【表4】
【0193】
2.9:表面プラズモン共鳴(BIAcore)による6C5およびR.34.34の抗体結合エピトープの決定
CD127 ECDの7から8個の重複ペプチドを有する15量体を、Shanghai Science Peptide Biology TechnologyおよびGL Biochem (Shanghai) Ltdが合成した。ペプチドはいずれも、連続流固相ペプチド合成によって製造した。次に、ペプチドとビオチン部分の間にスペーサーAcpを設けて、ペプチドのN末端でペプチドをビオチン化し、すなわちビオチン-Acp-ペプチドとした。
【0194】
ヒトCD127の15量体合成ペプチドへの抗CD127抗体の結合を、Biacore T100システム(GE Healthcare)を用いて評価した。すなわち、標準的なアミンカップリングキットおよび手順を用い、最終レベル約1000RU(応答単位)でCM5バイオセンサーチップ上に抗CD127抗体を固定化した。HBS-EP緩衝液pH7.4(10mM HEPES、0.15M塩化ナトリウム、3mM EDTAおよび0.005体積%界面活性剤P20からなる)を流動緩衝液として用いた。EDC/NHS/エタノールアミンを用いて賦活/失活させる比較細胞に対してセンソグラムを行った。1μMのペプチドを、流量10μL/分で120秒間にわたり注入した。Biacore評価ソフトウェアパッケージを用いてデータを解析した。試験は25℃で行った。
【0195】
表5は、BIAcoreによって確認された6C5およびR34.34抗体における陽性領域を示す。
【表5】
【0196】
2.10:ファージペプチドディスプレイのバイオパニングによるエピトープの予測
抗hCD127抗体のエピトープを予測するため、抗体9B7、6C5、R3434、6A3および1A11について前述の方法(セクション1.3)に従ってファージディスプレイを行った。
【0197】
2.10.1:9B7
2つのランダムペプチドライブラリーから確認されたファージペプチドコンセンサス配列モチーフまたはミモトープにより、mAb 9B7の不連続エピトープ(表4)を予測した。
【0198】
表6に、クローン9B7を用いるファージペプチドライブラリーによって確認されたhCD127の3つの陽性領域を示した。
【表6】
【0199】
ファージペプチドディスプレイおよびペプチドELISAによるエピトープマッピングのまとめ:下記のように、9B7モノクローナル抗体におけるCD127の可能なエピトープとして、3つの領域を確認した。
【0200】
【0201】
2.10.2:6C5
2つのランダムライブラリーから確認されたファージペプチドミモトープにより、抗体6C5の2つの可能な不連続エピトープを予測した。
【0202】
表7に、ファージペプチドライブラリーによって確認された6C5エピトープ領域を示した。
【表7】
【0203】
ファージペプチドディスプレイおよびペプチドBIAcoreによるエピトープマッピングのまとめ:下記のように、6C5におけるCD127の可能なエピトープとして、3つの領域を確認した。
【0204】
【0205】
2.10.3:R.34.34
表8に、ファージペプチドライブラリーによって確認されたR34.34エピトープ領域を示した。
【表8】
【0206】
ファージペプチドディスプレイおよびペプチドBIAcoreによるエピトープマッピングのまとめ:下記のように、R34.34におけるCD127の可能なエピトープとして、3つの領域を確認した。
【0207】
【0208】
2.10.4:6A3
2つのランダムペプチドライブラリーから確認したファージペプチドコンセンサス配列モチーフまたはミモトープにより、mAb 6A3の不連続エピトープを予測した。
【0209】
表9に、ファージペプチドライブラリーによって確認された6A3エピトープ領域を示した。
【表9】
【0210】
これらの領域が、IL-7結合の部位に関与する可能性がある、CD127の重要なエフェクター部位内の非常に近接した領域である可能性があることが推定される。
【0211】
2.10.5:1A11
2つのランダムペプチドライブラリーから確認されたファージペプチドコンセンサス配列モチーフまたはミモトープにより、mAb 1A11の不連続エピトープを予測した。
【0212】
表10に、ファージペプチドライブラリーによって確認された1A11エピトープ領域を示した。
【表10】
【0213】
これらの領域が、IL-7結合の部位に関与する可能性がある、CD127の重要なエフェクター部位内の非常に近接した領域である可能性があることが推定される。
【0214】
2.11:BIAcoreによる抗体結合中和アッセイ
25℃の温度でBIAcore T100システム(GE Healthcare)を用いてアッセイを行った。標準的なアミンカップリングキットおよび手順を用い、最終レベル約500RU(応答単位)でCM5バイオセンサーチップ上に組換えヒトIL-7を固定化した。HBS-EP緩衝液pH7.4(10mM HEPES、0.15M塩化ナトリウム、3mM EDTAおよび0.005体積%界面活性剤P20からなる)を流動緩衝液として用いた。EDC/NHS/エタノールアミンを用いてブランク固定化した比較細胞に対してセンソグラムを行った。別のバイアル中にて、10μg/mL組換えヒトCD127 ECDを各種濃度の抗CD127抗体と混合し、4℃で30分間インキュベートした。これらの混合物、ならびに10μg/mL組換えヒトCD127 ECD単独とを、10μL/分で30秒間にわたり、チップ表面上に注いだ。各注液後、センサーチップ表面を10mMグリシンHCl、pH2.0で再生した。100μg/mLで、抗体6C5はセンサーチップ上のIL-7へのCD127-ECDの結合を完全に阻害した。6C5についての結果を図13に示した。
【0215】
反応温度25℃でBiacore T100システム(GE Healthcare)を用いて、6A3について前記アッセイを繰り返した。標準的なアミンカップリングキットおよび手順を用い、最終レベル約1000RU(応答単位)でCM5バイオセンサーチップ上に組換えヒトIL-7を固定化した。HBS-EP緩衝液pH7.4(10mM HEPES、0.15M塩化ナトリウム、3mM EDTAおよび0.005体積%界面活性剤P20からなる)を流動緩衝液として用いた。EDC/NHS/エタノールアミンを用いてブランク固定化した比較細胞に対してセンソグラムを行った。別のバイアル中にて、10μg/mL組換えヒトCD127 ECDを各種濃度の抗CD127抗体と混合し、4℃で1時間インキュベートした。これらの混合物、ならびに10μg/mL組換えヒトCD127 ECD単独とを、10μL/分で60秒間にわたり、チップ表面上に注いだ。各注液後、センサーチップ表面を10mMグリシンHCl、pH2.0で再生した。10μg/mLで、抗体6A3はセンサーチップ上のIL-7へのCD127-ECDの結合を完全に阻害した。結果を図16Aおよび16Bに示した。阻害比を、次の式:阻害比=1-RU(サンプル)/RU(ECD)によって計算した。
【0216】
2.12:FACSによるIL-7競合
CHO-CD127細胞を取得し、冷ダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)で3回洗浄し、別個のバイアル中にて2×105個の細胞を2μg/mLの組換えIL-7とともに4℃で30分間インキュベートした。インキュベーション後、抗CD127抗体を加え、4%FCS/DPBS(FACS緩衝液)中にてインキュベーションをさらに30分間続けた。その後、細胞をFACS緩衝液で3回洗浄し、1:2000希釈で抗マウスIgG ALEXA488二次抗体(Invitrogen Inc.、#13-A11017)による染色を行った。細胞をFACS緩衝液で3回洗浄し、LSR II(BD Biosciences Inc.)で分析した。
【0217】
IL7の濃度を上昇させていくと、6A3、R34.34または6C5のCHO-CD127への結合は低下し、それはCHO細胞上で発現されたCD127へのこれら抗体とIL-7との結合競合を示している(図14に6C5で得られた結果を示し、図17に6A3で得られた結果を示した)。9B7結合に対する効果は相対的に顕著ではなく、それは9B7がこのアッセイではIL-7競合に対して効果が相対的に低かったことを示している。
【0218】
2.13:FACSによる抗体結合交差競合アッセイ
CHO-CD127細胞を取得し、冷DPBSで3回洗浄した。蛍光標識抗CD127抗体(BD Biosciences Inc、#552853)をFACS緩衝液で希釈し、各種濃度の標識されていない同抗体と混合するか、試験抗CD127抗体、R34.34および6C5と混合した。得られた抗体混合物をCHO-CD127細胞とともに4℃で30分間インキュベートした。FACS緩衝液で3回洗浄した後、蛍光標識BD抗体の結合をLSR II(BD Biosciences Inc.)で測定する。得られた結果から、未標識BD抗体以外に、mAb R34.34および6C5が標識BD抗体との結合に関して競合していることが明らかになり、それは抗体BD、R34.34および6C5がCHO細胞上で発現されたCD127上で同様のエピトープを認識することを示している(図15)。
【0219】
実施例3:EAEでのIL-7R抗体の治療効果
MSを治療する上での実施例1に記載のマウス抗体の可能性を、マウスEAEモデルで評価した。この実験を複数回繰り返したが、下記では一つの代表的な例について説明する。
【0220】
方法
3.1:実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)の誘発および評価
雄C57BL/6マウス(6から8週齢;Shanghai Laboratory Animal Center, Chinese Academy of Sciences, Shanghai, China)を、ミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質の合成ペプチド(MOG残基35から55)(300μg)で皮下投与によって免疫感作した。免疫感作は、完全フロインドアジュバント(CFA、5mg/mL結核菌の加熱殺菌H37Ra株(Difco Laboratories)を含む)中のMOGペプチドを混合することで実施した。PBS中の百日咳毒素200ng(List Biological Laboratories)を免疫感作当日およびその48時間後に静脈注射した。
【0221】
治療プロトコールには、市販の抗マウスCD127 mAbを用い(BD Bioscience、ラット抗マウスCD127 SB/14、カタログ番号550426)、IL-7のみを中和した第2のモノクローナル抗体も調べた(R&D systems)。試験抗体または対照IgGを、200μg/マウスで第10日から1日おきに腹腔内投与して、合計5回注射した。一部の実験で、対照に関して、対照IgGに代えてPBSを用いた。1日1回、マウスを秤量し、疾患徴候について調べた。それらのマウスについて、EAE評点スケール:0、臨床兆候なし;1、尾の引きずり;2、不全対麻痺(衰弱、一方もしくは両方の後肢の不完全麻痺);3、対麻痺(両方の後肢の完全麻痺);4、前肢の衰弱もしくは麻痺を伴う対麻痺;5、瀕死状態もしくは死亡を用いて疾患の評点を行った。
【0222】
3.2:組織検査および免疫組織化学検査
組織分析用の組織を、免疫感作21日後のマウスから摘出し、直ちに4%パラホルムアルデヒドで固定した。パラフィン包埋した5から10μmの脊髄切片をルクソールファースト青またはH&Eで染色し、次に光学顕微鏡で調べた。CD4+T細胞およびCD11b+単核球/マクロファージに免疫蛍光染色のため、脊髄をマウスから摘出し、PBSで潅流し、4℃で終夜にわたり30%ショ糖中でインキュベートした。次に、組織を切開し、最適切削温度(OCT)化合物に包埋した。冷凍検体をクリオスタットで7μmで切り取り、その切片をスライドガラス上に乗せ、風乾し、100%アセトンで10分間固定した。3%BSAでブロックした後、切片を一次ラット抗マウスCD4またはCD11b Ab(BD Biosciences)とともにインキュベートし、次にそれらをCy3 AffiniPureロバ抗ラットIgG(Jackson ImmunoResearch Laboratories)で標識し、免疫蛍光顕微鏡検査(Nikon)によって調べた。イソタイプを一致させたAbを陰性対照として用いた。既報の手順を用いて群当たり合計でマウス5匹についてマウス当たり3つの脊髄横断面の平均で、脱髄、白血球、CD4+T細胞およびCD11b+単核球/マクロファージの浸潤の程度を定量した。
【0223】
3.3:増殖およびサイトカインアッセイ
増殖アッセイでは、EAEマウス由来の脾細胞(5×105個/ウェル)を96ウェルプレートで、RPMI 1640中にて3連で培養した。細胞は、5%CO2下に37℃で72時間にわたり、MOGペプチド(20μg/mL)またはCon A(2μg/mL)の存在下または非存在下に培養した。培養の最終16から18時間の間、細胞に1μCiの[3H]チミジンを加えてから回収した。MicroBetaカウンタ(PerkinElmer)により、cpm単位での[3H]チミジン取り込みを測定した。
【0224】
サイトカイン測定の場合、48時間目に細胞培養液から上清を回収し、希釈して、製造者マニュアルに従って、マウスTH1/TH2 Flowcytomix MultiplexキットおよびマウスIL-23 Flowcytomix Simplexキット(Bender MedSystem)を用いることでIL-1α、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-17、IFN-γ、IL-23の測定を行った。すなわち、暗所にて2時間にわたり室温で、培養上清を捕捉抗体およびビオチン結合第二抗体混合物でコーティングしたビーズ混合物とともにインキュベートし、PE標識ストレプトアビジンを加え、暗所にて室温で1時間インキュベートした。BD LSR II(Becton Dickinson)でデータを収集し、BMS FlowCytomixソフトウェア(Bender MedSystem)で解析した。製造者のマニュアルに従い、Duoset ELISAキット(R&D Systems)によって、マウスTGF-βおよびIL-21を測定した。各プレートについて標準曲線を作成し、それを用いて指定のサイトカインの絶対濃度を計算した。
【0225】
3.4:イムノブロット解析
タンパク質抽出物を10%または12%SDS-ポリアクリルアミドゲルに乗せ、それについて電気泳動を行った。イムノブロット解析は、最初にMini Trans-Blot装置(Bio-Rad)を用いてImmobilon-P膜(Millipore)上にタンパク質を移動させることで行った。2時間のブロッキング後、P-JAK1、JAK1、P-AKT、AKT、P-Stat3、Stat3、P-Stat5、Stat5、Bcl-2、Bcl-xL、Bim、Bad、P-Bad(これら言及した抗体はいずれもCell Signalから入手したものである)、MCL-1(Bio-legend)、Bax(BD Bioscience)、RORγt(Abcam)、Foxp3(Santa Cruz Biotechnology)、アクチン(Santa Cruz Biotechnology)それぞれに対する特異的一次Abとともに、膜を4℃で終夜インキュベートした。洗浄を行い、次にHRPと結合したヤギ抗ウサギ(Sigma-Aldrich)またはヤギ抗ウサギAb(Jackson ImmunoResearch)とともに室温で1時間インキュベートし、十分に洗浄した後、ECL基質(Pierce)によってシグナルを肉眼観察できるようにした。
【0226】
3.5:cDNAアレイ解析
アポトーシスおよびJAK-STATシグナル伝達経路に関連する選択された遺伝子の発現プロファイルを、バリデーション済みcDNAアレイシステム(GEArray S Series, SuperArray Bioscienceの詳細な遺伝子リストが製造者のウェブサイト:www.superarray.com/gene_array_product/HTML/MM-602.3.htmlに記載されている)を用いることで解析した。すなわち、未処置EAEマウスまたは抗CD127 mAbもしくはPBSを投与した第21日のEAEマウスから脾細胞を単離した。CD4+CD25+TregおよびCD4+CD25-非Treg細胞を、磁気ビーズ分離によって得た(Mitenyi Biotec)。総RNAを、トリゾル(Trizol)試薬(Invitrogen)を用いて抽出した。AmpLabeling-LPRキット(SuperArray)を用いて、総RNA 3μgをビオチン-16-デオキシ-UTP標識1本鎖cDNAに逆転写した。プレハイブリダイゼーション後に、膜をビオチン標識サンプルcDNAでハイブリダイズし、アルカリホスファターゼ結合ストレプトアビジン(化学発光検出キット;SuperArray)とともにインキュベートして、シグナルを肉眼観察できるようにした。GEArray発現解析パッケージソフト(GEArray Analysis Suite; SuperArray)を用いて結果を解析した。結果は、独立の脾細胞標本を用いた3つの実験を代表するものである。
【0227】
3.6:アポトーシス分析
アネキシンV-FITCアポトーシス検出キット(BD Biosciences)を用いてアポトーシスの分析を行い、EAEマウス由来の脾細胞を洗浄し、アネキシンV-FITC 5μLおよび7-AAD 5μLとともに室温で15分間インキュベートした。次に、1時間以内に、染色した細胞を、FACS LSRII装置(BD)を用いて分析した。
【0228】
3.7:マウスCNS組織からの単核球の単離
勾配遠心分離を用いて、脳および脊髄から単核球を得た。すなわち、マウスをPBS 30mLで潅流して、内臓から血液を除去した。解離した脳および脊髄組織を粉砕し、70μm細胞濾過器で濾過した。得られた細胞溶液をパーコール勾配で遠心した。二つの勾配(37%および70%パーコール、Pharmaica)の間の界面の単核球を回収し、培地とともに遠心することで洗浄してから、FACS解析を行った。
【0229】
3.8:CD4+T細胞の単離
未処置マウスの脾臓を摘出し、分散させて単個細胞浮遊液とした。未処置T細胞の精製のため、最初に、未処置マウスの脾臓およびリンパ節からCD4マイクロビーズ(Miltenyi)を用いてCD4+T細胞を精製した。次に、得られた細胞をCD44、CD62LおよびCD25抗体で標識し、FACS選別(FACSAria II、Becton Dickinson)によってCD44loCD62LhiCD25-集団についての精製をさらに行った。CD4+CD25hiおよびCD4+CD25- T細胞を得るため、単個細胞浮遊液を、氷上で30分間にわたりFITC標識抗CD4抗体およびPE標識抗CD25抗体(BD Biosciences)とともにインキュベートした。CD4+CD25hiおよびCD4+CD25- T細胞をFACSAria装置(Becton Dickinson)によって選別した。同様の手法を用いて、ヒトCD4+CD25+およびCD4+CD25- T細胞を単離した。最初に、CD4+ No-touch T細胞単離キット(Miltenyi Biotec)を用いてPBMCからCD4+ T細胞を精製し、抗CD25マイクロビーズ(Miltenyi Biotec)を用いる陰性選択により、CD4+CD25- T細胞を単離した。CD4+、CD4+CD25+およびCD4+CD25- T細胞画分の純度は常に95%より高かった。
【0230】
3.9:TH17、TH1およびTregの誘発
未処置マウスCD4+T細胞を、密度細胞1×106個/mLで96ウェルの平底プレート(Costar)で平板培養した。完全培地中、プレートに結合した抗CD3 Ab(5μg/mL;BD Bioscience)および抗CD28 Ab(5μg/mL;BD Bioscience)で細胞を刺激した。
【0231】
T細胞を、TH1条件{組換えIL-12(10ng/mL;eBioscience)+抗IL-4(10μg/mL;BD Bioscience)}またはTH17条件{TGF-β1(1ng/mL;R&D Systems)、IL-23(10ng/mL;R&D Systems)およびIL-6(10ng/mL;eBioscience)+抗IFNγ(10μg/mL;BD Bioscience)および抗IL-4(10μg/mL)}で4日間培養した。
【0232】
CD4+CD25- T細胞からCD4+CD25+ Tregを誘発/変換するため、コーティング抗CD3抗体(5μg/mL)および5μg/mL抗CD28抗体の存在下に、精製ヒトまたはマウスCD4+CD25- T細胞を、TGF-β1(10ng/mL)およびIL-2(50IU/mL、R&D Systems)とともに細胞2×106個/mLで4日間培養した。一部の場合で、培地を上記培養系から洗い出し、次に細胞を新鮮な培地中でIL-7(10ng/mL)の存在下もしくは非存在下に1時間もしくは48時間培養した。ヒトTH17細胞を分化させるため、総ヒトCD4+細胞を、IL-1β、IL-6およびIL-23の存在下に6日間にわたって抗CD3および抗CD28中で刺激した。第3日に、分化系にIL-7、IL-2および抗体を加えた。
【0233】
3.10:フローサイトメトリー分析
CD4、CD25、CD8、B220およびCD127の表面染色のため、細胞を1%BSA(Sigma-Aldrich)および0.1%アジ化ナトリウムを含むPBSに再懸濁させ、氷上で30分間にわたり、指定の細胞表面マーカーに対する蛍光色素結合抗体(BD BioscienceまたはeBioscience)とともにインキュベートした。細胞内サイトカイン染色のため、EAEマウスのリンパ節、脾臓およびCNSから単離したばかりの単核球またはイン・ビトロ培養細胞を、PMA(20ng/mL)およびイオノマイシン(1μM)の存在下にGolgiPlug(1:1000希釈したもの;BD Bioscience)で5時間再刺激した。細胞を蛍光標識抗体で表面染色し、固定/透過化溶液(BD Bioscience)に再懸濁させ、製造者のマニュアルに従って細胞内サイトカインについての染色を行った。特に、IL-7細胞内染色のため、細胞を最初に、4℃で30分間にわたり、マウスCD16/CD32に対する抗体(BD Bioscience)とともにインキュベートし、次にBD Bioscience溶液を用いて固定/透過化し、次に一次抗体としてのヤギ抗マウスIL-7 IgG(R&D Systems)もしくはヤギIgG(R&D Systems)および二次抗体としてのAlexa Fluor(登録商標)488ロバ抗ヤギIgG(Jackson Immunol)で細胞を染色した。Bcl-2細胞内染色を、同じプロトコールを用いたが、PMAおよびイオノマイシン刺激を行わずに実施した。Foxp3の細胞内染色に関しては、Foxp3染色緩衝液(eBioscience)を用いて細胞を固定および透過化した。透過化細胞をPEまたはFITC結合抗ヒトまたは抗マウスFoxp3 mAb(0.5μg/106細胞;eBioscience)で染色した。リン酸化yesの細胞内染色のため、2%(重量/体積)パラホルムアルデヒドで細胞を37℃にて10分間固定し、氷上にて90%(体積比)メタノールで30分間透過化し、抗リン酸化Stat5(BD Bioscience)染色の染色を行った。フローサイトメトリー分析をBD LSR II(Becton Dickinson)装置で実施し、結果をFlowJoソフトウェア(Tree Star Inc.)を用いて解析した。
【0234】
3.11:統計解析
群間の遺伝子発現における差を、マン・ホイットニーのU検定によって解析した。両側スチューデントのt検定を用いて、群間の差を解析した。最初に一元配置分散分析を行って、全体的な統計的に有意な変化があるか否かを確認してから、両側の対応のあるまたは対応のないスチューデントのt検定を用いた。0.05未満のP値を統計的に有意と見なした。
【0235】
結果
3.12:IL-7RまたはIL-7拮抗作用によるEAEの寛解
図5に示したように、第10日以降から3回投与した時に、抗CD127抗体治療によって、イソタイプ対照と比較して疾患重度が低下することで、EAEの臨床経過が顕著に変化した(図5A)。その治療計画により、対照マウスと比較して、患部脊髄における炎症および脱髄の軽減を伴う疾患重度での顕著な低下があった。処置マウスから得られた脾細胞は、MOGに対するT細胞の反応性に有意な低下を示したが、ConAによって誘発される非特異的T細胞活性化ではそれがなかった(図5B)。顕著な点として、治療効果は、MOG反応性T細胞での他の炎症関連サイトカインの中でIL-17の産生(図5C)と、処置EAEマウスの脾臓および脊髄の両方におけるTH17細胞およびそれより低い程度でTH1細胞のパーセント(図5D)における選択的低下と相関していた。CNS-浸潤性TH17細胞の絶対数には、対照マウスの場合と比較して処置マウスにおいて10倍の低下があった。対照的に、Treg細胞は、EAEの経過を通じて相反的に増加した(図5D)。3つの下位集合においてIL-7R発現に差があった(図5E)。
【0236】
さらに、EAE発症後(免疫感作から12日または21日)に認められたTH17およびTH1細胞は専らCD44+CD62L-記憶表現型であり、IL-7R抗体処置に対して感受性であることが明らかになった(データは示していない)。脊髄におけるCD4+ T細胞浸潤は顕著に低減したが、末梢CD4+およびCD8+ T細胞およびB220+ B細胞の絶対数および全体的な組成はほとんど変化しなかった(データは示していない)。EAEにおける記憶表現型のCD4+ T細胞は、病原性TH17およびTH1下位集合が非常に富化されており、IL-7R拮抗作用に対して感受性であって、それはTH17/TH1のTregに対する比を処置EAEマウスにおいて新たなバランスに向かわせるものであることが結果から示される。
【0237】
IL-7に対する抗体もEAE臨床評点を低下させたが(図5F)、抗CD127抗体で認められた程ではなかった。さらに、図6に示したように、CD127はEAEマウスの脾臓または脊髄にエクス・ビボで由来するTH1およびTH17細胞で高度に発現されたが、CD127発現はFoxp3+Tregでは有意に低かった。
【0238】
3.13:TH17分化におけるIL-7の役割
病原性TH17のイン・ビボでの発生および機能は、分化および生存および増殖から構成される二段プロセスである。EAEにおけるTH17分化および自己免疫炎症の開始にはIL-6、IL-1βおよびIL-21などの炎症性サイトカイン類が必須であるが、TH17細胞の生存および増殖についてはほとんど解明されておらず、IL-23が関与している可能性がある。
【0239】
本発明者らは、CD44loCD62LhiCD25-表現型の精製未処置CD4+ T細胞を用いて、IL-7/IL-7Rシグナル伝達がTH17分化に関連しているか否かを調べた。TGF-βの存在下および非存在下に、得られた細胞をCD3/CD28抗体で刺激することで、IL-7の効果を調べた。IL-7は、TGF-βと組み合わせるとTH17分化を促進したが、その効果は、IL-6と比較して程度は中等度であって、IL-6から独立であり(図7A)、それはIL-7によるSTAT-3リン酸化およびRORα発現のわずかな誘発と相関していた(図7B、図7C)。IL-6と同様、IL-7単独ではTH17分化を誘発しなかった(データは示していない)。IL-7のTH17分化に対する中等度の効果を考慮して、本発明者らは、観察された効果がEAEにおいてイン・ビボでの有意性を有するか否かを検討した。EAE発症前に投与した場合(第0、2および4日に注射)、対照抗体で処置したマウスと比較して、IL-7R抗体処置によって発症に若干の遅延があったとしても、その処置は疾患重度に影響しなかった(図7D)。これらのデータは総合的に、IL-7/IL-7Rシグナル伝達がTH17分化にわずかに関与しているが、その分化に必須ではないことを示唆している。
【0240】
3.14:処置EAEマウスにおけるTH17およびTH1細胞の選択的阻害およびTH17発生におけるCD127拮抗作用の役割
次に本発明者らは、イン・ビボおよびイン・ビトロの両方の実験設定で、TH17の分化および維持/増殖におけるCD127抗体の役割を調べた。図8Aに示したように、TH17細胞およびγ-インターフェロン分泌TH1細胞のパーセントは、対照マウスの場合と比較して処置EAEマウスでの脾細胞およびCNS浸潤物において、あまり大きくないが低下したが、Foxp3+Tregのレベルは有意に上昇した(図8B)。処置マウスおよび対照マウスの両方でのEAE経過におけるTH17、TH1およびTregのパーセントを図8Cに示してある。別のイン・ビトロ実験設定では、CD127抗体の存在下および非存在下に異なる誘発プロトコールを用いて、TH17、TH1およびTregを未処理脾細胞からそれぞれ分化させた。
【0241】
得られた結果は、分化開始においてCD127抗体を加えた場合、TH17の分化とそれより程度は低いがTH1の分化は阻害されたが、Tregの分化は阻害されなかったことを示唆している(図9A)。分化TH17に対するCD127抗体の同様の効果が認められたが、TH1またはTregに対しては認められなかった(図9B)。しかしながら、このプロトコールを後に再度実施しても、この最初の所見を再現することはできず、それはIL-7/IL-7Rシグナル伝達の役割がTH17細胞の分化においてごく小さいものであることを示唆している。
【0242】
3.15:TH17の生存および増殖におけるIL-7の関与
IL-7がTH17分化に必要であるか否かを調べることは興味深いことであった。この点に関して、最初の結果からは、第8日にEAE MOG特異的T細胞を培養した場合に、IL-7単独を加えることでTH17の分化が増加し、それより程度は低いがTH1でもそれが認められたが、TregでのFoxp3では認められなかったことが示唆される(図10)。
【0243】
しかしながら、本明細書に記載のように(セクション3.17)、さらなる研究でTH17発生の二段プロセスが明らかになり、それはTH17細胞の促進が主として分化の増加の結果ではなく、IL-7がより大きい重要な役割を果たすTH17の増殖および生存における増加の結果であったことを示唆している。
【0244】
3.16:IL-7R拮抗作用によって誘発されるアポトーシスに対するTH17の感受性とTregにおける感受性の不在
次に本発明者らは、抗CD127抗体によるTH17の選択的低減および感受性の基礎となる機序を調べた。図11Aに示したように、エクス・ビボで処置もしくは対照EAEマウスに由来するCD4+T細胞のイムノブロット分析により、抗CD127抗体処理によって、リン酸化JAK-1およびリン酸化STAT-5の低下および主要なアポトーシス促進分子であるBCL-2の顕著なレベル低下および抗アポトーシス分子であるBAXの活性上昇を特徴とするJAK-STAT関連のシグナル伝達経路およびアポトーシスに特異的な変化が生じたことが明らかになった。アポトーシス促進タンパク質および抗アポトーシスタンパク質の調節は、抗体処置マウスでのCD4+細胞におけるアポトーシスレベル上昇と相関していた。図11Bに示したように、CD127抗体処置により、処置EAEマウス由来のCD4+CD127-T細胞の場合と比較して、CD4+CD127+T細胞の中のアネキシン-V+アポトーシス細胞のパーセントに顕著な上昇が生じた。
【0245】
EAEマウス由来の分化TH17細胞が自発開始のもしくはプログラムされたアポトーシスを受けており、それはIL-7を加えることで元に戻り得るように思われる。そのプロセスは、感受性細胞を抗IL-7R抗体とともに前インキュベートすることで消失したが、対照抗体の場合にそれは起こらなかった。IL-7は、アネキシン-V+アポトーシス細胞のレベルと相反的に相関しているBCL-2の発現レベルを有意に変えた(図11C)。
【0246】
IL-7の観察された効果には、STAT-5が介在していたことは明らかであり、その効果はSTAT-5特異的阻害剤によって遮断され得たが、STAT-3阻害薬(図11D)やPI3-K阻害薬によっては遮断できなかった(データは示していない)。
【0247】
これらの所見は、STAT-5リン酸化および抗アポトーシスタンパク質およびアポトーシス促進タンパク質のレベルを調節することで、分化TH17細胞が増殖する上での非常に重要な生存シグナルとしてのIL-7の役割をさらに裏付けるものである。
【0248】
3.17:ヒトIL-7Rに対する中和抗体のヒトTH17細胞に対する効果
マウス実験系での本発明者らの研究から、TH17発生が2段階プロセスであることが明らかになっており、「段階1」はTH前駆細胞分化であり、「段階2」はTH17生存/増殖である。これら二つのプロセスは、異なるサイトカインによって制御され、それらの発現はさらに、各種転写因子によって制御される。いずれのプロセスも、自己免疫疾患の臨床的結果に対して非常に重要な寄与をする。TH17分は主として、JAK/STAT-3経路を介したIL-6によって誘発される。
【0249】
TH17分化におけるCD127拮抗作用の役割について、ヒト実験系でさらにバリデーションした。本発明に従って抗CD127抗体を用いてIL-7/IL-7Rを遮断した場合、図12に示したようにTH17分化はわずかな影響しか受けず、それはIL-7がこのプロセスにおいてごく小さい役割しか果たさないことを示している。対照的に、本発明者らの結果からは、この2段階細胞発生プロセスにおけるIL-7/IL-7Rシグナル伝達の主要な役割が段階2の病原性TH17細胞の生存および増殖におけるものであることが明らかになった。この第2段階では、IL-7の役割はJAK/STAT-5経路を介したIL-23より優れている。細胞がすでにTH17細胞と関わった後に抗ヒトIL-7R mAbを与えた場合、その細胞は図22に示したようにアポトーシスに対して感受性である。その試験は、EAEでの病原性TH17細胞の発生および機能におけるIL-7/IL-7Rシグナル伝達の新規な役割を示す有力な証拠を提供し、MSおよび他の自己免疫状態の強力な治療としてのIL-7R拮抗作用に強い理論的根拠を与えるものである。
【0250】
3.18:IL-7刺激PBMCによるIFNγ産生の阻害
最初に、抗体R34.34(デンドリティクス社)による陽性結果に基づいて、PBMCをスクリーニングおよび選択した。新鮮または解凍のPBMCを、96個のウェルにおいて10%FBS含有RPMI1640中で細胞2×105個/ウェルにて平板培養した。精製試験抗体6C5、陽性対照抗体R34.34(デンドリティクス社)および抗ヒトIL-7(R&D)、そしてイソタイプ対照抗体マウスIgG1(R&D)を10μg/mLおよび100μg/mLで細胞とともに37℃にて30分間インキュベートしてから、10ng/mLのIL-7を補充した。IL-7で短時間処理した細胞を陰性対照として用い、未処理細胞をバックグラウンドとして用いた。2μg/mLの可溶性抗CD3および抗CD28(eBiosciences)を全ての条件に加え、プレートを5%CO2で37℃にてさらに24時間インキュベートした。培養上清中のIFN-γレベルを、ヒトIFN-γELISA(ヒトIFN-γELISAキット、eBiosciences)によって分析した。これらの条件下で、mAb 6C5および抗体R34.34は、IL-7誘発IFNγ産生を阻害した(図18)。
【0251】
3.19:IL7刺激IL7-受容体シグナル伝達Stat5リン酸化の阻害
CD127のシグナル伝達機能を遮断する能力を有する抗体についてのスクリーニングを行うため、機能試験の前夜に、冷凍保存PBMCを急速に解凍し、10%のFBSを含むRPMI 1640培地中で平板培養した。当初濃度120μg/mLから開始して3倍連続希釈で試験サンプル抗体および陽性対照抗体(R34.34、デンドリティクス社、#DDX0700;BD抗CD127、BD Biosciences Inc #552853)を調製し、2×105PBMC細胞に37℃で加えて30分間経過させてから、IL-7で1ng/mLにて37℃で15分間刺激した。抗体およびIL7処理を行わない細胞をバックグラウンド対照として用いた。IL7で処理したが抗体サンプルで処理しない細胞を、完全活性対照として用いた。処理後の細胞を溶解緩衝液(PerkinElmer #TGRS5S500)によって37℃で5分間溶解させ、溶解物をアルファスクリーン(AlphaScreen;登録商標)アクセプタービーズ(PerkinElmer #6760617C)を含む反応緩衝液+活性化緩衝液混合液(PerkinElmer #TGRS5S500)とともに室温で2時間インキュベートした。その後、アルファスクリーン(登録商標)ドナービーズ(PerkinElmer #6760617C)を含む希釈緩衝液(PerkinElmer #TGRS5S500)を加え、さらに2時間インキュベートした。アルファスクリーンビーズからの発光(RFU)を、Envisionで、それのデフォルトのアルファスクリーンモードにて分析した(上方測定;Ex 680nm;Em 570nm)。試験サンプルの結果を、下記式に基づいて相対活性に変換した。
相対活性(%)=(RFU(サンプル)-RFU(バックグラウンド対照))/(RFU(完全活性対照)-RFU(バックグラウンド対照))
この計算の結果は図19に示してある。
【0252】
CCF-CEM細胞を増殖培地(RPMI1640、10%FBS、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、1mM酪酸ナトリウム)で培養し、1μMのデキサメタゾン(Sigma、#D4902)で終夜処理してIL7受容体誘発を行ってから実験に供した。試験サンプル抗体および陽性対照抗体(R34.34、デンドリティクス社、#DDX0700;BD抗CD127、BD Biosciences Inc、#552853)を、当初濃度120μg/mLから開始する3倍連続希釈で調製し、2×105CCF-CEM細胞に37℃で加えて30分間経過させてから、1ng/mLのIL-7による刺激を37℃で15分間行った。抗体およびIL7処置を行わない細胞をバックグラウンド対照として用いた。IL7で処理したが抗体サンプルによる処理を行わない細胞を完全活性対照として用いた。処理後の細胞を溶解緩衝液(PerkinElmer #TGRS5S500)によって37℃で5分間溶解させ、溶解物をアルファスクリーン(登録商標)アクセプタービーズ(PerkinElmer #6760617C)を含む反応緩衝液+活性化緩衝液混合液(PerkinElmer #TGRS5S500)とともに室温で2時間インキュベートした。その後、アルファスクリーン(登録商標)ドナービーズ(PerkinElmer #6760617C)を含む希釈緩衝液(PerkinElmer #TGRS5S500)を加え、さらに2時間インキュベートした。アルファスクリーンビーズからの発光(RFU)を、Envisionで、それのデフォルトのアルファスクリーンモードにて分析した(上方測定;Ex 680nm;Em 570nm)。試験サンプルの結果を、下記式に基づいて相対活性に変換した。
相対活性(%)=(RFU(サンプル)-RFU(バックグラウンド対照))/(RFU(完全活性対照)-RFU(バックグラウンド対照))
この計算の結果は図20に示してある。
【0253】
この実験を、下記のように抗体6A3について基本的に繰り返した。新鮮なPBMCを血清を含まないRPMI 1640培地に懸濁させた。試験サンプル抗体および陽性対照抗体(6A3およびR34.34、デンドリティクス社、#DDX0700)を希釈して、培地中20μg/mLから0.01μg/mLの最終濃度を得て、それを1×106PBMC細胞/サンプルに加えた。PBMCを抗体とともに37℃で50分間インキュベートしてから、1ng/mLのIL-7で15分間刺激した。リン酸化STAT5の細胞内染色のため、37℃で10分間にわたり、1%(重量/体積)パラホルムアルデヒドで細胞を固定し、氷上にて90%(体積比)メタノールで30分間透過化し、抗リン酸化Stat5(BD Bioscience)染色についての染色を行った。BD LSR II (Becton Dickinson)装置でフローサイトメトリー分析を行い、結果をFlowJoソフトウェア(Tree Star Inc.)を用いて解析した。
【0254】
抗体およびIL7処理を行わない細胞をバックグラウンド対照として用いた。IL7で処理したが抗体サンプルでは処理しなかった細胞を完全活性対照として用いた。図21に、R34.34および6A3の濃度を上昇させながら、抗体なしの対照と比較したIL-7誘発P-STAT5の阻害を示してある。
【0255】
3.20:分化T細胞におけるIL-7誘発IL-17産生の阻害
6名の供与者からのCD4+細胞を、マニュアルに従って単離した(#130-091-155、Miltenyi)。100μL中約1×106/mLのCD4+細胞を、等体積の2倍TH17培地(2μg/mL抗CD28+10μg/mL抗IFNγ+10μg/mL抗IL-4+12.5ng/mL IL-1β+20ng/mL IL-23+50ng/mL IL-6)と混合し、5%CO2にて37℃で5日間培養した。TH17培地中での各種サイトカインおよび増殖因子による処理により、CD4+細胞をTH17細胞に優先的に分化させた。第5日における分化培養細胞からのCCR6+細胞を、BD FACS SORP Aria IIを用いて選別した。次に、CCR6+細胞を2×106/mLに調節してIL-17産生アッセイに供した。
【0256】
IL-17レベルを測定するため、100μLのCCR6+細胞を、試験抗体とともに37℃で1時間前インキュベートし、20ng/mLのIL-7 100μLと混合した。5%CO2を補充して、細胞を37℃で3日間培養した。培養上清100μL中のIL-17レベルを、FlowCytomix(Bender MedSystems)によって測定した。表11に、図22における結果の発生で用いたIL-7および試験抗体(R34.34および6C5)の濃度を示した(単一の供与者からの結果)。R34.34は、6名の供与者中6名で、IL-7誘発分化T細胞でのIL-17産生を阻害した。6C5は、4/6名の供与者中4名でIL-7誘発分化T細胞でのIL-17産生を阻害した。
【0257】
表11
【表11】
【0258】
この実験を、抗体6A3について基本的に繰り返した。CD4+細胞をマニュアルに従って単離した(#130-091-155、Miltenyi)。100μL中約7×105/mLのCD4+細胞を、等体積の2倍TH17培地(2μg/mL抗CD28+10μg/mL抗IFNγ+10μg/mL抗IL-4+12.5ng/mL IL-1β+20ng/mL IL-23+50ng/mL IL-6)と混合し、5%CO2にて37℃で5日間培養した。TH17培地中での各種サイトカインおよび増殖因子による処理により、CD4+細胞をTH17細胞に優先的に分化させた。第5日における分化培養細胞からのCCR6+細胞を、BD FACS SORP Aria IIを用いて選別した。次に、CCR6+細胞を2×106/mLに調節してIL-17産生アッセイに供した。
【0259】
IL-17およびIFN-γレベルを測定するため、個々の供与者からの100μLのCCR6+細胞を、試験抗体とともに37℃で1時間前インキュベートし、20ng/mLのIL-7 100μLと混合した。5%CO2を補充して、細胞を37℃で3日間培養した。培養上清100μL中のIFN-γおよびIL-17レベルを、FlowCytomix(Bender MedSystems)によって、それぞれ24時間および40時間で測定した。表12に、図23における結果の発生で用いたIL-7および試験抗体の濃度を示した。結果は、6名の供与者中5名の代表的なものである。
【0260】
表12
【表12】
【0261】
結論
本明細書に記載の試験は、多発性硬化症(MS)におけるIL-7およびIL-7Rの潜在的な役割を裏付ける最初の免疫学的証拠を提供するものである。
【0262】
本発明者らは、IL-7/IL-7Rシグナル伝達がマウスおよびヒトの両方の系で関与するTH17細胞の生存および増殖に必須であり、TH17分化におけるそれの役割はIL-6の場合と比較してあまり重要ではないことを示す有力な証拠を提供した。EAE発症後に投与されたIL-7またはIL-7R拮抗作用は、疾患の臨床経過に大きく影響する。従って本発明者らは、IL-7またはIL-7R拮抗作用が、病原性TH17細胞が示唆される自己免疫疾患および炎症性障害、特にはMS、さらに詳細には再発/寛解経過のMS(RRMS)の治療における実際の治療上の潜在力を提供することを示した。
【0263】
TH17の発生および機能は主として、TH17分化の場合はJAK/STAT-3を介してIL-6により、TH17維持の場合はJAK/STAT-5を介してIL-7によって制御される。IL-7は病原性TH17細胞の生存シグナルを提供するだけでなく、イン・ビボのTH17細胞増殖を直接誘発し、EAEにおける自己免疫病理維持に必須の寄与をするものである。
【0264】
本試験で明らかになったように、関与する記憶表現型のTH17細胞は、イン・ビボ病原性T細胞下位集合を代表するものであり、自発開始またはプログラムされたアポトーシスに対して感受性である。このプロセスは、感受性TH17細胞におけるBcl-2およびBaxなどのアポトーシス促進タンパク質および抗アポトーシスタンパク質の制御を介したIL-7/IL-7Rシグナル伝達に依存するように思われる。これに関連して、IL-7は、分化TH17細胞がプログラムされたアポトーシスを起こすのを防止する必須の生存シグナルとして働く。さらに、自己免疫疾患の急性期に認められるような病原性T細胞でのIL-7産生の増加および高発現IL-7Rは、T細胞の生存および増殖持続に必要な環境を提供する。IL-7のそれの受容体との相互作用により、αおよびγc鎖の凝集および下流キナーゼの活性化が誘発されることが提案される。結果的に、そのプロセスがキナーゼリン酸化のカスケードを変え、Bcl-2およびMcl-1の上昇に必要なSTAT-5リン酸化に対するドッキング部位を形成する可能性が高く、BimおよびBadがBaxおよびBakを活性化するのを遮断することでミトコンドリア介在アポトーシスを防止する。従ってそれは、STAT-5の関与およびIL-7によって病原性TH17細胞で誘発される抗アポトーシス変化とのそれの関連の説明を提供するものである。
【0265】
驚くべき点として、IL-7R拮抗作用による免疫系に対するイン・ビボでの効果がEAEにおいて高度に選択的であり、TH17細胞に影響を与え、それより程度は低いが主として記憶表現型のTH1細胞に影響を与え、Treg細胞には影響しない。本発明者らは、TH17細胞維持がIL-7/IL-7Rシグナル伝達によって影響されることを示した。同じ実験条件下で、TH1細胞はイン・ビトロ系では変化を受けるが、イン・ビボ系では受けない。その不一致は、外因性IL-7を加えるイン・ビトロ設定と複数のサイトカインの相互作用が関与するイン・ビボでの微小環境の間でのサイトカイン環境の違いによって説明することができる。Tregと比較したTH17に対する選択性は、IL-7Rの発現の差により、IL-7R拮抗作用に対してTH17細胞が感受性となり、Treg細胞が抵抗性となることで容易に説明される。この選択性は、EAEでのIL-7R拮抗作用による病原性TH17細胞とTreg細胞の比の再バランスにおいて重要な役割を果たすように思われ、治療効力に起因するものである。しかしながら、TH17とTH1の間のIL-7R拮抗作用に対するIL-7誘発応答性および感受性の大きさにおける不一致は、両方の下位集合がIL-7Rを高度に発現することから、IL-7Rの発現によって単純に説明することはできなかった。SOCS-1の固有の発現および活性が、その不一致の原因である。すなわち、SOCS-1がIL-7シグナル伝達に必要なSTAT-5のリプレッサー遺伝子として作用することから、自然においてTH1で発現されるか、実験的にIFN-γによってTH17で誘発されるSOCS-1は、IL-7またはIL-7R拮抗作用に対する感受性低下が原因である。従って、記憶表現型のTH17細胞に対する選択性には、EAEの経過において活性化された時にIL-7が生存するためのこれら病原性細胞の固有の要件が関与しているように思われる。この治療上の特異性は、多くの場合で広いスペクトラムの免疫系/機能に影響を与える自己免疫疾患で提案されている多くの他の治療様式に優る明白な利点を代表するものである。
【0266】
上記で記載のTH17細胞の生存および増殖におけるIL-7/IL-7Rシグナル伝達の新規な作用機序は、EAEでのIL-7R拮抗作用の治療効力についての強力な説明ならびにMSなどのヒト自己免疫疾患についての治療上の示唆を提供するものである。IL-7中和またはIL-7R拮抗作用は、特有の治療的利点を有する可能性が高い。一方で、その治療は病原性TH1およびTH17細胞をTregおよび無関係の免疫細胞から区別する選択性を提供する。他方、IL-7R拮抗作用の別の治療上の利点には、TH17分化とは対照的に分化TH17の生存および増殖に対するそれの選択的効果が関与する。IL-7/IL-7R経路の阻害薬を用いてTH17分化との比較での関与するTH17のイン・ビボでの維持を標的とすることは、治療との関連においてより有効である可能性がある。
【技術分野】
【0001】
本発明は、多発性硬化症および他の自己免疫疾患の新規な治療方法、ならびにこれらの方法で使用される新規な単離結合タンパク質を提供する。IL-7またはIL-7Rの生理活性を中和する段階を有する多発性硬化症の治療方法も提供される。
【背景技術】
【0002】
多発性硬化症(MS)は、中枢神経系に影響する慢性の炎症性脱髄疾患である。MSにおいては、髄鞘と称される脂肪層の形成および維持を担当する細胞である乏突起膠細胞の破壊に浸潤性炎症性免疫細胞が関与すると考えられている。MSによって、ミエリンの菲薄化および完全喪失を生じる。ミエリンが失われると、ニューロンはもはや電気信号を効果的に伝えることができず、多くの神経機能障害に至る。MS患者では、神経線維の髄鞘に沿った炎症性病変の形成に関与する自己反応性T細胞が生じる。活性MS患者の脳脊髄液は活性化T細胞を含み、その細胞が脳組織に浸潤し、特徴的な炎症性病変を生じてミエリンを破壊する。多発性硬化症の症状および病気の経過は人によって変わり得るものであるが、その疾患には再発寛解型MS、二次進行型MS、および一次進行型MSという3種類の型がある。
【0003】
MSの早期では、炎症発作が起こり、短い間隔で疾患活動性が急性的に亢進する。これらの発作の後には、回復および寛解の期間がある。寛解期間中、神経系病変での局所的腫脹が消散し、免疫細胞の活性が低下するか不活性となり、ミエリン酸性細胞が軸索を再ミエリン化する。神経シグナル伝達が改善し、炎症によって生じた能力障害は重度が低下し、完全に消失する。疾患のこの病期は再発寛解型MS(RRMS)と称される。しかしながら、病変が完全に治癒するとは限らない。「慢性」病変として残るものがあり、それは通常、免疫細胞を持たない脱髄した核領域を有する。時間経過に伴い、そのような病変の中心にある細胞はほとんど死ぬが、それらの縁部では炎症が続く場合が多い。脳はいくつかのニューロンの喪失には良好に適応することができ、長年にわたって永久的な能力障害は回避され得る。しかしながら、MS患者のうちの50%超が、最終的に 二次進行型MS(SPMS)と称される進行性劣化の段階に入る。この段階ではもはや、疾患は疾患改善薬に対して良好に応答することはなく、患者の能力障害は確実に悪化していく。MSの自然経過における早期からのニューロン破壊は、SPMSの進行性能力障害が蓄積されたニューロン喪失の結果であり、それが最終的に脳の代償能力を凌駕し得ることを示唆するものである。一次進行性MSは、再発のない種類の多発性硬化症であるが、長年の期間にわたり、身体機能および認知機能が徐々に失われる。
【0004】
再発寛解型多発性硬化症の患者における治療の目標は、再発の頻度および重度を低下させ(そして、それによって増悪を防止し)、疾患の進行期の開始を防止または延期することにある。この目標を達成するため、特に過去においては、免疫調節薬または免疫抑制薬が使用されてきたが、それらは効力に限界があり、かなり毒性が強いために広く受け入れられることはなかった。例えば、大規模な無作為対照試験が、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1bおよび酢酸ガラティラメルで良好に実施されている。
【0005】
自己免疫T細胞応答の変化および免疫系の調節ネットワークの機能不全の両方が、MSおよび関節リウマチなどのヒト自己免疫病において重要な役割を果たしている(Kuchroo et al., (2002) Annu. Rev. Immunol. 20:101-123; Sospedra and Martin (2005) Annu. Rev. Immunol. 23:683-747; Toh and Miossec (2007) Curr. Opin. Rheumatol. 19:284-288)。
【0006】
MSの病因および発症機序はまだ不明であるが、それはTH1細胞およびTH17細胞などの病因となり得る自己反応性T細胞が重要な役割を果たすと思われる自己免疫病理と考えられている。これらのエフェクターT細胞が疾患経過中にイン・ビボで活性化され、中枢神経系(CNS)炎症の原因となり得ることを示す証拠がある。これらのT細胞が疾患の活動期にEAEおよびMSの病変におけるミエリン発現細胞の破壊に介在することを示す証拠もある。他方、通常は病原性のTH1細胞およびTH17細胞を抑制する調節性T細胞(Treg)がMS患者において欠乏しており、免疫系を前炎症状態にさらに向かわせるものである。
【0007】
最近、三つの別個のグループが、MSのあるまたはMSのない合計17947名の供与者でのゲノム規模の一塩基変異多型(SNP)スキャンの結果を報告している。334923のSNPのスキャンを行った後、彼らはヒトIL-7受容体α鎖(IL-7Rα)における非同義コードSNPがMS感受性と有意性が非常に高い関連性を有することを見出している(全体でP=2.9×10-7)。SNPは、CD127のエキソン6(IL-7Rαとも称される)におけるTからCへの変化に相当する。この変化は、RNAスプライシング時におけるエキソン6読み飛ばしによって、可溶型のCD127が生じる確率を高めるものである。さらに、MS患者の脳脊髄液(CSF)でのCD127およびIL-7RNAの発現は、他の神経障害患者のCSFと比較して有意に高率である。
【0008】
IL-7およびIL-7受容体(IL-7R)は、主として胸腺環境でのT細胞およびB細胞の発達および恒常性において重要な役割を果たすことが知られている。実際、胸腺間質細胞、胎児胸腺および骨髄が、IL-7産生部位である。IL-7受容体は、CD127およびIL-2、IL-4、IL-9、IL-15およびIL-21の受容体によって共有される共通鎖(γ鎖またはγc)という二つのサブユニットからなる。
【0009】
CD127は、IL-7受容体α(IL-7Rα)およびp90 IL-7Rとも称される。ヒトCD127(SwissProt受託番号P16871)は、合計459個のアミノ酸(20個のシグナル配列)を有する。それは、219個のアミノ酸の細胞外領域、25個のアミノ酸の膜貫通領域および195個のアミノ酸の細胞内領域を含む。本明細書で使用される場合のCD127内の残基の番号付け(例えば、抗体エピトープの説明のため)は、シグナル配列残基を含む全長タンパク質に基づいたものである。CD127は、4種類のイソタイプで存在することができ、イソタイプH20(Swissprot受託番号P16871-1)は、下記のアミノ酸配列を有する(シグナル配列を含む)。
【0010】
CD127は、胸腺間質由来リンパポイエチン(lymphopoietin)(TSLP)の受容体でも認められる。TSLP受容体は、CD127およびサイトカイン受容体様因子2(CRLF2)のヘテロ二量体である。
【0011】
IL-7のIL-7Rへの結合によって、JAKキナーゼ1および3の活性化を含む複数のシグナル伝達経路が活性化されて、Stat5のリン酸化および活性化を生じる。Stat5の活性化が抗アポトーシスタンパク質Bcl-2の誘発およびアポトーシス促進タンパク質Baxのミトコンドリアへの進入の防止において必要であることから、この経路は胸腺発育T細胞前駆体の生存において必須である。別のIL-7R介在経路はPI3キナーゼの活性化であり、それによってアポトーシス促進タンパク質Badのリン酸化およびそれの細胞質保持が行われる。CD127は末梢休止および記憶T細胞で発現される。T細胞の生存および恒常性のIL-7調節の機序ならびに末梢でのIL-7源は完全には解明されていない。さらに、自己免疫疾患における病原性T細胞の分化および機能においてそれが果たし得る役割についてはほとんど研究されておらず、未知の部分がかなりある。IL-7が自己免疫疾患の病因に寄与し得ることを示唆する報告はほとんどない。
【0012】
CD127はWO9015870に記載されており、多発性硬化症の治療におけるIL-7およびCD127の拮抗薬がWO2006052660およびUS20060198822に記載されている。TSLPの拮抗薬は、例えばUS7304144およびWO2007096149に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】WO9015870
【特許文献2】WO2006052660
【特許文献3】US20060198822
【特許文献4】US7304144
【特許文献5】WO2007096149
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Kuchroo et al., (2002) Annu. Rev. Immunol. 20:101-123.
【非特許文献2】Sospedra and Martin (2005) Annu. Rev. Immunol. 23:683-747.
【非特許文献3】Toh and Miossec (2007) Curr. Opin. Rheumatol. 19:284-288.
【発明の概要】
【0015】
本発明者らは、IL-7/CD127拮抗作用が実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)の寛解において有効であることを明らかにした。その治療によって、TH17の顕著な低下が生じ、それより程度は低いが、治療を受けたマウスの脾臓および脊髄の両方におけるTH1細胞でも低下が生じ、それにはFoxp3+Tregレベルの上昇が伴っていた。本発明者らは、IL-7がTH17細胞の増殖および生存に必須であるが、前駆体T細胞のTH17細胞集団への分化時におけるそれの必要性が非常に小さいことも明らかにした。
【0016】
自己反応性炎症性TH17およびTH1細胞とTregの機能的比率のバランスがCD127またはIL-7の拮抗薬によって回復されれば、多発性硬化症および他の自己免疫疾患の治療法として高い可能性が得られる。
【0017】
TH17細胞およびTH1細胞の選択的感受性は、活性化病原性T細胞におけるCD127の高い発現および増殖および生存におけるそれらのIL-7要求性によるものであった。CD127を遮断すると、リン酸化JAK-1およびSTAT-5およびBCL-2のダウンレギュレーションおよびBAXの活動亢進を特徴とするシグナル伝達事象の変化が生じて、CD127+TH17およびTH1細胞はアポトーシスに対して感受性となる。対照的に、Foxp3+Treg(誘発性Treg)は、CD127を発現しないか、相対的に低いレベルでしか発現しなかったことから、CD127拮抗作用に対して抵抗性であった。IL-7/IL-7R相互作用の下流のアポトーシス経路を含むシグナル伝達事象は、抗CD127抗体を中和することでFoxp3+Tregにおいて影響を受けなかった。さらに、CD127拮抗作用の同様の効果が、Tregを持たないヒトTH17およびTH1の増殖および生存において認められた。これらの所見は、病原性T細胞の分化および維持におけるIL-7の役割を支持する新たな証拠を提供するものであり、MSおよび他のヒト自己免疫疾患において重要な治療的示唆を有するものである。
【0018】
従って、本発明の第1の態様では、対象者に対してIL-7受容体介在TH17増殖およびIL-7受容体介在TH17生存のうちの少なくとも一つの拮抗薬を投与する段階を有する、ヒト対象者での自己免疫疾患または炎症性障害の治療方法が提供される。
【0019】
IL-7受容体介在TH17増殖および/または生存は、TH17細胞カウントの増加もしくは維持により、または他のCD4+T細胞の数と比較したTH17細胞数の比における増加により、またはより具体的にはTH17:TH1比、TH17:Treg比、(TH17+TH1):Treg比、および/またはTH17:(TH1+Treg)比における増加によって細胞レベルで観察することができる。
【0020】
分子レベルでは、CD4+T細胞の集団による(またはTH17細胞の集団による)IL-17産生での増加により、TH17増殖および/または生存を観察することができる。従って1実施形態では、IL-7受容体介在TH17増殖および/またはIL-7受容体介在TH17生存の拮抗薬は、CD4+T細胞の集団によるIL-17産生を低下させる。IL-7受容体介在TH17増殖および生存は、CD4+T細胞の集団による(またはTH17細胞の集団による)IFN-γ産生の増加によっても観察することができる。従って、1実施形態において、本発明の拮抗薬は、CD4+T細胞の集団によるIFN-γ産生を阻害する。分子レベルでは、IL-7受容体介在TH17増殖および/または生存の拮抗薬は、IL-7受容体介在STAT-5リン酸化を阻害することができる。
【0021】
従って、別の態様において、本発明は、患者におけるTH17細胞カウントを低下させる上で十分な量でIL-7またはCD127の拮抗薬を患者に対して投与する段階を有する、自己免疫疾患または炎症性障害の治療方法を提供する。
【0022】
別の態様において、本発明は、対象者に対してIL-7受容体介在STAT-5リン酸化の拮抗薬を投与する段階を有する、ヒト対象者の自己免疫疾患の治療方法を提供する。
【0023】
別の態様において、本発明は、患者に対してIL-7またはCD127の拮抗薬を投与する段階を有し、前期患者が再発寛解型多発性硬化症を患っている、患者における多発性硬化症の治療方法を提供する。
【0024】
別の態様において、本発明は、対象者に対してTH17細胞のTH1細胞に対する比を低下させる上で有効な量でIL-7またはIL-7Rの拮抗薬を投与する段階を有する、ヒト対象者における自己免疫または炎症疾患を治療する方法を提供する。
【0025】
別の態様において、本発明は、対象者に対してTH細胞の(Foxp3+)Treg細胞に対する比を低下させる上で有効な量でIL-7またはIL-7Rの拮抗薬を投与する段階を有する、ヒト対象者における自己免疫または炎症疾患を治療する方法を提供する。
【0026】
上記の方法の1実施形態において、前期拮抗薬は、(a)CD127(配列番号1)に特異的に結合する結合タンパク質;(b)IL-7に特異的に結合する結合タンパク質、(c)可溶性CD127ポリペプチド;および(d)2以上の前記拮抗薬の組み合わせからなる群から選択される。
【0027】
1実施形態において、CD127またはIL-7に特異的に結合する結合タンパク質は、単離されたヒト、ヒト化またはキメラ抗体である。1実施形態において、CD127に特異的に結合する結合タンパク質(抗CD127結合タンパク質)は、抗体またはそれの抗原結合フラグメントである。一部の実施形態において、前記抗CD127結合タンパク質は、IL-7のIL-7R受容体複合体への結合を阻害する。
【0028】
本発明の方法で有用なある種の抗CD127抗体について本明細書で説明するが、それには9B7、6C5、6A3、R34.34、GR34および1A11、それらのヒト化もしくはキメラ版、それらのアナログ、ならびにそれらの抗原結合フラグメントなどがある。
【0029】
1実施形態において、IL-7に特異的に結合する結合タンパク質(抗IL-7結合タンパク質)は、抗体またはそれの抗原結合フラグメントである。
【0030】
別の態様において、本発明は、CD127に結合し、IL-7介在TH17増殖の阻害を行うことができるキメラ、ヒト化または完全ヒト抗体またはそれらの抗原結合フラグメントを提供する。
【0031】
本発明者らは、抗CD127結合タンパク質がIL-7経路またはIL-7R介在シグナル伝達の機能的中和において均一に効果的ではないことを確認した。それに反して、シグナル伝達経路において何らかの重要な役割を果たすように見えるヒトCD127ポリペプチドのある種の領域があり、その役割は、ヒトCD127のそれら領域のうちの1以上に結合することができる抗体がIL-7経路またはIL-7R介在シグナル伝達を中和する上で特に効果的となる程度のものである。それらの領域は、
というアミノ酸残基によって規定される。
【0032】
これらの領域が、リガンドIL-7とCD127受容体との間の相互作用において何らかの役割を果たすアミノ酸を含むことが想到される。下記のアミノ酸は、IL-7/CD127相互作用において特に重要であると考えられている。すなわち、アミノ酸
(a)51 SQH 53(配列番号122)、
(b)77 LVE 79(配列番号123)、
(c)97 KKFLLIG 103(配列番号124)、
(d)158 KY 159(配列番号125)、および
(e)212 YF 213(配列番号126)
である。
【0033】
これらの領域のうちの複数との結合は、IL-7R機能の阻害において重要なものとなり得る。
【0034】
1実施形態において、抗原結合タンパク質は、少なくとも一つまたは複数の上記で定義の領域(i)から(iv)内の少なくとも1個のアミノ酸、またはその領域に隣接するか構造的に隣接するアミノ酸に結合する能力を有する。別の実施形態において、抗原結合タンパク質は、少なくとも一つの上記で定義の領域(a)から(e)内の少なくとも1個のアミノ酸またはアミノ酸に結合する能力を有する。
【0035】
1実施形態において、本発明は、配列番号1のアミノ酸残基202から219によって規定される領域内の少なくとも1個のアミノ酸に結合する能力を有する抗原結合タンパク質を提供する。この実施形態による抗原結合タンパク質はさらに、配列番号1のアミノ酸残基(i)41から63、(ii)65から80、(iii)84から105および(iv)148から169によって規定される領域のうちの1個、2個、3個もしくは4個全ての中の少なくとも1個のアミノ酸に結合する能力をさらに有することができる。
【0036】
1実施形態において、抗原結合タンパク質は、配列番号1のアミノ酸(v)202から219によって規定される領域内の少なくとも1個のアミノ酸および配列番号1のアミノ酸(iv)148から169によって規定される領域内の少なくとも1個のアミノ酸に結合する。本実施形態による抗原結合タンパク質は、配列番号1のアミノ酸(ii)65から80および/または(iii)84から105によって規定される領域内の少なくとも1個のアミノ酸に結合する能力をさらに有することができる。ある特定の実施形態において、前記抗原結合タンパク質は、配列番号1のペプチド(ii)65から80、(iii)84から105、(iv)148から169、および(v)202から219のそれぞれの中の少なくとも1個のアミノ酸に結合している。
【0037】
別の実施形態において、本発明は、配列番号1のアミノ酸残基(e)212から213によって規定される領域内の少なくとも1個のアミノ酸、または隣接もしくは構造的に隣接するアミノ酸に結合する能力を有する抗原結合タンパク質を提供する。本実施形態による抗原結合タンパク質は、配列番号1のアミノ酸残基(a)51から53、(b)77から79、(c)97から103および(d)158から159によって規定される領域のうちの1個、2個、3個もしくは4個全ての中、それらに隣接もしくは構造的に隣接する少なくとも1個のアミノ酸に結合する能力をさらに有することができる。
【0038】
1実施形態において、前記結合タンパク質は、配列番号1のアミノ酸(e)212から213によって規定される領域内の少なくとも1個のアミノ酸、または隣接もしくは構造的に隣接するアミノ酸、および配列番号1のアミノ酸(d)158から159によって規定される領域の中の、それに隣接する、もしくは構造的に隣接する少なくとも1個のアミノ酸に結合する。本実施形態による結合タンパク質は、配列番号1のアミノ酸(b)77から79および/または(c)97から103によって規定される領域内の、それに隣接する、または構造的に隣接する少なくとも1個のアミノ酸に結合する能力をさらに有することができる。ある特定の実施形態において、前記結合タンパク質は、配列番号1のペプチド(b)77から79、(c)97から103、(d)158から159、および(e)212から213のそれぞれの中の少なくとも1個のアミノ酸に結合している。
【0039】
本発明のこれらの態様による抗体には、6A3、1A11、6C5および9B7、それらの抗原結合フラグメントおよびそれらのキメラもしくはヒト化変異体などがある。本発明のこれらの態様の別の抗体は、R3434またはGR34のキメラもしくはヒト化変異体、またはR3434もしくはGR34の抗原結合フラグメントである。
【0040】
別の態様において、本発明は、ヒト、ヒト化またはキメラ抗体またはそれらのフラグメントを提供し、その抗体またはフラグメントは残基番号80で開始し、残基番号190で終了する領域内の少なくとも1個のアミノ酸残基を含むヒトCD127のエピトープに結合する。
【0041】
1実施形態において、本発明は、ヒトCD127(配列番号1)のエピトープに結合する抗体またはそれのフラグメントを提供し、前記エピトープは配列番号20から28、45から50、67から70、87から89、および106から116のCD127の領域のうちの少なくとも一つに存在するアミノ酸残基を有する。この結合は、とりわけ、ペプチドELISA、表面プラズモン共鳴(BIAcore)またはファージディスプレイによって測定することができる。
【0042】
特定の実施形態において、前記抗体またはそれのフラグメントは、ヒトCD127(配列番号1)のエピトープに結合し、前記エピトープは、配列番号66から70の領域のうちの1個、2個、3個もしくは4個;配列番号87から89のCD127の領域のうちの1個、2個もしくは3個;または配列番号114から116のCD127の領域のうちの1個、2個もしくは3個に存在するアミノ酸残基を有する。
【0043】
1実施形態において、本発明は、ヒトCD127のエピトープに結合する抗体またはフラグメントを提供し、前記エピトープは、CD127の領域:35から49(配列番号20)、84から105(配列番号21)、171から180(配列番号22)、または直鎖ペプチド35から49(配列番号20)、84から105(配列番号21)、171から180(配列番号22)のうちの少なくとも一つに結合する抗体もしくはフラグメントのうちの少なくとも一つに存在するアミノ酸残基を有する。この結合は、とりわけ、ペプチドELISA、表面プラズモン共鳴(BIAcore)またはファージディスプレイによって測定することができる。 1実施形態において、本発明は、ヒトCD127(配列番号1)のエピトープに結合する抗体またはそれのフラグメントを提供し、そのエピトープはCD127(配列番号1)の領域:80から94(配列番号23)、95から109(配列番号24)、170から184(配列番号25)内に存在するアミノ酸残基を有するか、そのエピトープがそれら領域内に存在する。1実施形態において、本発明は、ヒトCD127(配列番号1)のエピトープに結合する抗体またはそれのフラグメントを提供し、前記エピトープがCD127(配列番号1)の領域:35から49(配列番号26)、84から105(配列番号27)、139から184(配列番号28)内に存在するアミノ酸残基を有するか、前記エピトープがそれら領域内に存在する。
【0044】
本発明の別の態様では、表面プラズモン共鳴による測定でCD127の残基35から49、84から105、171から180を含むC末端ビオチン化CD127ペプチドに結合する抗体またはそれのフラグメントが提供され、前記ペプチドはストレプトアビジンセンサーチップに結合している。
【0045】
別の実施形態では、前記抗体またはそれのフラグメントはさらに、結合を行う上で、CD127の35から49、84から105または171から180領域のうちの前記少なくとも1個の残基に対する少なくとも1個の隣接残基または構造的に隣接する残基を必要とする。
【0046】
当業者であれば、例えばELISAアッセイでアラニン置換スキャニングを用いて、そのような抗体またはそれのフラグメントを容易に同定することができる。この点において、前記抗体が、結合する上でCD127の上記で定義の領域において残基または隣接残基もしくは構造的に隣接する残基を必要とするか否かは、CD127の前記残基をアラニンで独立に置換し、アラニン置換CD127ペプチドに対する抗体の結合アフィニティを野生型CD127に対する抗体の結合アフィニティと比較することで決定することができる。CD127の上記で定義の領域における残基が必要であるか否かは、野生型CD127と比較したアラニン置換CD127に対する抗体の結合アフィニティにおける低下によって定義され、その低下は、BiacoreまたはELISAアフィニティ測定による測定で、1、2、3、4もしくは5倍より大きい。
【0047】
さらに、この文脈での構造的に隣接する残基は、対象となる残基に対して3次元空間で近位にあり、抗体によって結合している残基である。抗原エピトープが直鎖状もしくは非直鎖状ペプチド配列であり得ることは、当業者には明らかである。後者の非直鎖状の場合、残基はペプチド鎖の異なる領域からのものであるが、それらは抗原の3次元構造において近位にあることができる。そのような構造的に隣接する残基は、コンピュータモデリングプログラムにより、またはX線結晶解析などの当業界で公知の方法によって得られる3次元構造を介して確認することができる。
【0048】
本発明の別の態様は、CD127に対して特異的であり、自己免疫および/または炎症性障害の治療で有用な治療用抗体およびそれの抗原結合フラグメントに関するものである。その抗体および抗原結合フラグメントは、本明細書で定義のアッセイで、TH17の増殖および生存を阻害し、ないしはpSTAT-5を阻害することができる。これらの抗体および抗原結合フラグメントは、本発明の方法で有用な拮抗薬を代表し得るものである。
【0049】
より詳細には、1態様において、CD127に結合し、少なくとも9B7-CDRH3(配列番号6);6C5-CDRH3(配列番号33)、6A3-CDRH3(配列番号55)または1A11-CDRH3(配列番号75)からなる群から選択される第3の重鎖CDR(CDRH3)を含む抗体または抗原結合フラグメントおよび/またはそれらの誘導体が提供される。
【0050】
1実施形態において、前記の抗体または抗原結合フラグメントおよび/またはそれらの誘導体は、抗体9B7(配列番号6)および9B7の1個、2個、3個、4個もしくは5個全ての別のCDR(配列番号4、5、7、8、9);抗体6C5(配列番号33)および6C5の1個、2個、3個、4個もしくは5個全ての別のCDR(配列番号31、32、34、35、36);抗体6A3(配列番号55)および6A3の1個、2個、3個、4個もしくは5個全ての別のCDR(配列番号53、54、56、57、58);または抗体1A11(配列番号75)および1A11の1個、2個、3個、4個もしくは5個全ての別のCDR(配列番号73、74、76、77、78)のCDRH3を含む。
【0051】
別の態様では、CD127に結合し、下記のCDRを含む抗体または抗原結合性フラグメントおよび/またはそれの誘導体、またはそれのアナログである治療用抗体が提供される。
【0052】
別の態様では、CD127に結合し、下記のCDRおよびを含むヒト、ヒト化もしくはキメラ抗体または抗原結合性フラグメントおよび/またはそれの誘導体である治療用抗体またはそれのアナログが提供される。
【0053】
本明細書を通じて、「CDR」、「CDRL1」、「CDRL2」、「CDRL3」、「CDRH1」、「CDRH2」、「CDRH3」という用語は、カバットの著作(Kabat et al; Sequences of proteins of Immunological Interest NIH, 1987)に記載のカバット番号付けシステムに従うものである。従って、下記のものは本発明におるCDRを定義するものである。
【0054】
CDR:残基
CDRH1:31から35、35(A)、35(B)
CDRH2:50から65
CDRH3:95から97
CDRL1:24から34
CDRL2:50から56
CDRL3:80から97。
【0055】
別の態様では、
(i)配列番号2の重鎖可変領域および/または配列番号3の軽鎖可変領域;
(ii)配列番号29の重鎖可変領域および/または配列番号30の軽鎖可変領域;
(iii)配列番号51の重鎖可変領域および/または配列番号52の軽鎖可変領域;または
(iv)配列番号71の重鎖可変領域および/または配列番号72の軽鎖可変領域
を含むモノクローナル抗体が提供される。
【0056】
本発明により、配列番号2、3、29、30、51、52、71および72の配列の全長にわたり、少なくとも90%同一性、または少なくとも95%同一性、または少なくとも98%同一性、または少なくとも99%同一性を有する抗体可変ドメイン配列も提供される。
【0057】
本発明により、患者に対して抗CD127抗体を投与する段階を有し、前記抗体が
(i)配列番号2の重鎖可変領域および/または配列番号3の軽鎖可変領域;
(ii)配列番号29の重鎖可変領域および/または配列番号30の軽鎖可変領域;
(iii)配列番号51の重鎖可変領域および/または配列番号52の軽鎖可変領域;
(iv)配列番号71の重鎖可変領域および/または配列番号72の軽鎖可変領域;または
(v)配列番号90の重鎖可変領域および/または配列番号91の軽鎖可変領域、あるいは
これらの重鎖および/または軽鎖可変領域に対して少なくとも90%同一性、または少なくとも95%同一性、または少なくとも98%同一性、または少なくとも99%同一性を有する重鎖および軽鎖可変領域を有するモノクローナル抗体
を含む、自己免疫疾患または炎症性障害を治療する方法も提供される。
【0058】
別の態様において、本発明は、CD127に結合し、IL-7介在TH17増殖の阻害を行う能力を有し、前記抗体がR.34.34(デンドリティクス社(Dendritics Inc.)、#DDX0700)以外である抗体またはそれの抗原結合フラグメントを提供する。
【0059】
本発明の別の態様では、複数の独立の抗体または抗体フラグメント集団のスクリーニングを行って、各抗体集団が
i.IL-7のIL-7Rへの結合を阻害する能力、
ii.IL-7誘発STAT-5リン酸化を中和する能力、および/または
iii.TH17細胞によるIL-17の産生を阻害する能力
を確認する段階、
ならびにイン・ビボでIL-7のIL-7Rへの結合を阻害し、IL-7誘発STAT-5リン酸化を阻害し、および/またはTH17細胞によるIL-17の産生を阻害することができる抗体または抗体フラグメント集団を選択する段階を有する、自己免疫疾患または炎症疾患の治療での使用に好適な抗体または抗体フラグメントを確認する方法が提供される。
【0060】
組成物または物質(試験薬剤)がIL-7受容体介在TH17増殖またはIL-7受容体介在TH17生存の拮抗薬として作用する能力、またはTH17細胞カウントを低減させる能力は、通常の方法によって求めることができる。例えば、未感作CD4+細胞を、当業者には公知の適切な条件を用いて刺激して、TH17に分化させることができる(例えば、TGF-β1、IL-23、IL-6、抗IFN-γおよび抗IL-4、またはIL-1β、IL-6およびIL-23)。次に、TH17集団の細胞を試験薬剤およびIL-7に曝露することができ、その後にTH17細胞カウントを求めることができる。対照と比較したTH17細胞における減少が、その試験薬剤がTH17の増殖または生存を阻害する能力を有することを示すものと考えられる。
【0061】
本発明の別の態様では、抗CD127もしくは抗IL-7抗体またはそれの抗原結合フラグメントおよび1以上の賦形剤を製薬上許容される剤形に製剤する段階を有する、自己免疫または炎症疾患を治療するための医薬品の製造方法が提供される。この方法は、本明細書において上記で定義の抗体を確認する段階および/またはそのような抗体を組換えによって産生する段階という予備段階を有する場合がある。
【0062】
本発明の結合タンパク質および抗体によって結合されるCD127のエピトープの定義において、使用される番号付けシステムは、シグナル配列を含むCD127の全長配列を対象とするものである。1実施形態において、ヒトCD127のエピトープが、配列番号1の引用された残基内に認められる。
【0063】
1実施形態において、本発明の結合タンパク質は、表面プラズモン共鳴(BIAcore)による測定で20nM未満、15nM未満、10nM未満、5nM未満、1nM未満または0.5nM未満のアフィニティ(KD)でヒトCD127に結合する。
【0064】
1実施形態において、前記結合タンパク質は、9B7、6C5、3A6、1A11またはR34.34(デンドリティクス社、#DDX0700)またはそれの抗原結合フラグメントのヒトCD127への結合を競合的に阻害する。
【0065】
競合的阻害は、当業者が、例えば競合ELISAアッセイで、BIAcoreまたはスキャッチャード分析によって確認することができる。
【0066】
本発明の1態様では、CD127に対する結合に関して、
i.抗体R34.34(デンドリティクス社、#DDX0700);
ii.配列番号2に示した可変重鎖領域および配列番号3に示した可変軽鎖領域を有する抗体;
iii.配列番号29に示した可変重鎖領域および配列番号30に示した可変軽鎖領域を有する抗体;
iv.配列番号51に示した可変重鎖領域および配列番号52に示した可変軽鎖領域を有する抗体;
v.配列番号71に示した可変重鎖領域および配列番号72に示した可変軽鎖領域を有する抗体;または
vi.配列番号90に示した可変重鎖領域および配列番号91に示した可変軽鎖領域を有する抗体
と競合する単離結合タンパク質であって、前記抗体がR.34.34(デンドリティクス社、#DDX0700)以外である単離結合タンパク質が提供される。
【0067】
ある特定の実施形態では、本発明の単離結合タンパク質は、CD127に対する結合に関して、
i.抗体R34.34(デンドリティクス社、#DDX0700);
ii.配列番号51に示した可変重鎖領域および配列番号52に示した可変軽鎖領域を有する抗体;
iii.配列番号71に示した可変重鎖領域および配列番号72に示した可変軽鎖領域を有する抗体;または
iv.配列番号90に示した可変重鎖領域および配列番号91に示した可変軽鎖領域を有する抗体と競合する抗体またはそれの抗原結合フラグメントであり、前記抗体はR.34.34(デンドリティクス社、#DDX0700)以外である。
【0068】
本発明により、多発性硬化症の治療で用いられる結合タンパク質であって、前記結合タンパク質が、ヒトCD127(配列番号1)に対する結合に関して、
i.抗体R34.34(デンドリティクス社、#DDX0700);
ii.配列番号2に示した可変重鎖領域および配列番号3に示した可変軽鎖領域を有する抗体;
iii.配列番号29に示した可変重鎖領域および配列番号30に示した可変軽鎖領域を有する抗体;
iv.配列番号51に示した可変重鎖領域および配列番号52に示した可変軽鎖領域を有する抗体;
v.配列番号71に示した可変重鎖領域および配列番号72に示した可変軽鎖領域を有する抗体;または
vi.配列番号90に示した可変重鎖領域および配列番号91に示した可変軽鎖領域を有する抗体
と競合する結合タンパク質も提供される。
【0069】
(ヒトCD127の)特異的結合部位に関して抗体またはフラグメント(抗体またはフラグメントA)が抗体R34.34、GR34、6A3、1A11、6C5または9B7(抗体B)と競合するためには、抗体Aが前記アッセイにおいて効果を有するだけの量で存在しなければならないことは、当業者には明らかである。例えば、抗体Aおよび抗体Bは等モル量で存在することができる。抗体Aが競合抗体である場合、抗体Aが存在することで、ELISAアッセイでの抗体BのヒトCD127への結合が10%、20%、30%、40%または50%より高率で低下し得る。競合抗体(抗体A)は、抗体Bのプレート結合ヒトCD127への結合を低下させ得るが、非抗CD127特異的対照では低下は起こさない。そのようなELISAアッセイでは、ヒトCD127は免疫アッセイプレートに結合することができる。別のアッセイシステムでは、表面プラズモン共鳴を用いて、抗体間の競合を求めることができる。
【0070】
CD127に対する結合に関して抗体R34.34または本発明の抗体と競合する能力を有する単離結合タンパク質、配列番号2のVHおよび配列番号3のVLを有する単離結合タンパク質、配列番号76のVHおよび配列番号77のVLを有する単離結合タンパク質、または配列番号193のVHおよび配列番号194のVLを有する単離結合タンパク質を、MSおよび他の自己免疫疾患の治療で用いることができる。
【0071】
本発明の結合タンパク質は、R34.34、GR34、9B7、6A3、1A11または6C5のCDRを含むことができるか、それらのアナログを含むことができる。
【0072】
本発明によって、R34.34、GR34、9B7、6A3、1A11または6C5のCDR(またはそれらのアナログ)が重鎖または軽鎖可変領域枠組みにグラフトされたヒト化抗体も提供される。
【0073】
本発明の別の態様では、本発明の結合タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列が提供される。特に、9B7(配列番号4から9)、6C5(配列番号31から36)、6A5(配列番号53から58)、1A11(配列番号73から78)またはGR34(配列番号92から97)で認められるCDRのうちの一つまたは全てを含む抗体またはそれのフラグメントをコードするポリヌクレオチド配列が提供される。本発明の関連する態様では、本発明のポリヌクレオチドでトランスフェクションされた宿主細胞が提供される。
【0074】
本発明の結合タンパク質、抗体、抗原結合フラグメント、それらのヒト化、ヒトもしくはキメラ変異体、およびアナログは、処置を必要とする患者に対して安全かつ有効な用量の本発明の結合タンパク質を投与する段階を有する、多発性硬化症の治療方法で用いることができる。本発明のこの態様では、結合タンパク質は、9B7(配列番号4から9)、6C5(配列番号31から36)、6A5(配列番号53から58)、1A11(配列番号73から78)またはGR34(配列番号92から97)で認められるCDRのうちの一つまたは全てを含む抗体であることができる。
【0075】
本発明のこの態様では、処置を必要とする患者が再発期間近であるか再発期にある再発/寛解型MS(RRMS)患者である方法も提供される。
【0076】
別の態様において、本発明は、処置を必要とする対象者に対して、治療上有効量のIL-7もしくはIL-7Rの拮抗薬および別の治療薬を投与する段階を有する、自己免疫または炎症疾患の治療方法を提供する。
【0077】
前記別の治療薬は、インターフェロンβ(IFNβ-1aまたはIFNβ-1b)および酢酸ガラティラメルなどの免疫調節剤、シクロホスファミド、メトトレキセート、アザチオプリン、クラドリビン、シクロスポリンおよびミトキサントロンなどの免疫抑制剤、静脈免疫グロブリン(IVIg)、血漿補充およびスルファサラジンなどの他の免疫療法からなる群から選択することができる。前記別の治療薬は、医師が処方した形態(用量、タイミング、機序)で投与することができる。1実施形態では、前記別の治療薬は、本発明の拮抗薬と同時もしくは順次、または別個に投与することができる。1実施形態において、前記別の治療薬および前記拮抗薬は、患者に対するそれらの薬理効果が重なるように投与する。すなわち、それらは、同時に患者に対してそれらの生理効果を発揮する。
【0078】
本発明の別の実施形態では、IL7/IL7R拮抗薬は可溶性CD127ポリペプチドである。可溶性CD127ポリペプチドは、CD127(配列番号1)の細胞外ドメインから選択されるポリペプチド、または配列番号1のアミノ酸21から219からなるポリペプチドと90%以上同一であるポリペプチドを含むことができる。ある種の実施形態では、前記可溶性CD127は、配列番号1のアミノ酸21から219であるポリペプチドを含む。さらに別の実施形態では、前記可溶性CD127ポリペプチドは非CD127部分に融合していることができる。非CD127部分は、可溶性CD127ポリペプチドに融合した異種ペプチドであることができる。1実施形態において、前記非CD127部分は血清アルブミン、標的タンパク質、免疫グロブリンフラグメント、レポータータンパク質または精製促進タンパク質からなる群から選択される。ある特定の実施形態において、可溶性CD127ポリペプチドは免疫グロブリンのFc領域に融合している。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1A】抗マウスCD127抗体によるIL-7介在pSTAT5の阻害を示す図である。
【図1B】抗マウスCD127抗体によるTSLP介在pSTAT5の阻害を示す図である。
【図2】9B7についてのCD127 ELISA結合曲線を示す図である。
【図3A】MAb9B7(実線)がCD127トランスフェクションCHO細胞系の表面で発現されたCD127を認識する能力を有することを示す図である(意味のないイソタイプ対照抗体を点線として示している)。
【図3B】抗体9B7(実線)がMockトランスフェクションCHO細胞系におけるCD127を認識できないことを示す図である(意味のないイソタイプ対照抗体を点線として示している)。
【図4】精製マウス抗CD127mAb9B7によるIL7介在pStat5シグナル伝達の阻害の1例を示す図である。
【図5A】MOG-EAE臨床スコアがラット抗マウスCD127抗体SB/14によって改善したことを示す図である。
【図5B】SB/14によるMOGペプチド誘発T細胞増殖の阻害を示す図である。
【図5C】SB/14によって抗CD127抗体によるサイトカイン産生が阻害されることを示す図である。
【図5D】ヘルパーT細胞サブタイプに対する抗mCD127抗体(SB/14)治療の選択的効果を示す図である。
【図5E】ヘルパーT細胞サブタイプに対する抗mCD127抗体(SB/14)治療の選択的効果を示す図である。
【図5F】MOG-EAE臨床スコアが抗mCD127抗体(SB/14)治療によって改善したことを示す図である。
【図6】エクス・ビボでEAEマウスの脾臓または脊髄由来のTreg、TH1およびTH17細胞におけるCD127発現を示す図である。
【図7A】TH17分化の促進に対するIL-7の効果がIL-6の効果と比較して高くなかったことを示す図である。
【図7B】STAT-3リン酸化の誘発がIL-7から独立にIL-6によって大きく進むことを示す図である。
【図7C】RORα発現に対するIL-7の効果が、やはりIL-6の効果と比較して高くないことを示す図である。
【図7D】抗mCD127抗体(SB/14)治療の効果が、EAEにおける疾患発症時に高くなかったことを示す図である。
【図8A】CNSにおけるTH17細胞、γ-インターフェロン分泌TH1細胞、およびTreg細胞のパーセントを示す図である。
【図8B】脾細胞におけるTH17細胞、γ-インターフェロン分泌TH1細胞、およびTreg細胞のパーセントを示す図である。
【図8C】治療マウスおよび対照マウスの両方でのEAEの経過におけるTH17、TH1およびTregのパーセントを示す図である。
【図9A】分化開始においてCD127抗体を加えた場合に、TH17およびTH1細胞カウントの抗CD127抗体(SB/14)の効果が阻害されたが、Tregカウントでは阻害されなかったことを示す図である。
【図9B】図9(A)での抗mCD127抗体(SB/14)が分化したTH17に対して効果があるが、TH1およびTreg二は効果がないことを示す図である。
【図10】第9日にEAE MOG特異的T細胞を培養した場合に、IL-7の添加がTH17増殖/生存を促進し、それより程度は低いがTH1でも促進したが、TregにおけるFoxp3は促進しなかったことを示す図である。
【図11A】リン酸化JAK-1およびリン酸化STAT-5の低下および主要なアポトーシス促進分子であるBCL-2レベルの顕著な低下、ならびに抗アポトーシス分子であるBAXの活性上昇を特徴とする抗CD127抗体治療によるJAK-STAT関連のシグナル伝達経路およびアポトーシスにおける変化を示す、エクス・ビボで治療もしくは対照EAEマウスに由来するCD4+T細胞のイムノブロット解析を示す図である。
【図11B】抗CD127抗体治療によって、治療EAEマウス由来のCD4+CD127-T細胞の場合と比較したCD4+CD127+T細胞間でのアネキシン-V+アポトーシス細胞のパーセントが上昇したことを示す図である。
【図11C】EAEマウス由来の分化TH17細胞がIL-7によって回復し得るアポトーシスを受けるが、細胞を抗CD127抗体で前インキュベートすると、このプロセスが遅れることを示す図である。
【図11D】IL-7の効果にJAK/STAT-5経路が介在していることを示す図である。
【図12】mAb9B7およびR34.34が、ヒト全CD4+細胞からのTH17の分化に対して非常に小さい阻害効果を有することを示す図である。
【図13】CD127-ECDの固定化IL-7への結合のmAb6C5による阻害を示す図である。
【図14】CD127への結合に関して、mAb6C5がIL-7と競合することを示す図である。
【図15】mAb6C5および樹状細胞抗体R.34.34がCD127への結合に関して競合することを示す図である。
【図16A】CD127-ECDの固定化IL-7への結合のmAb6A3による阻害を示す図である。
【図16B】各種抗体濃度での抗体6A3、6C5およびR34.34の阻害比曲線であって、CD127-ECDのIL-7への結合に対するこれら抗体の効果を示す図である。
【図17】CHO細胞で発現されるCD127への結合に関して、mAb6A3がIL-7と競合することを示す図である。
【図18】mAb6C5および抗体R.34.34の両方が、IL-7刺激PBMCによるIFNγの産生を阻害することを示す図である。
【図19】抗体BD、R34.34、1A11および6C5がIL-7刺激PBMCによって誘発されるStat5シグナル伝達を遮断する能力を示す図である。
【図20】抗体BD、R34.34、1A11および6C5がIL-7刺激CCF-CEM細胞によって誘発されるStat5シグナル伝達を遮断する能力を示す図である。
【図21】mAb6A3がTH17増殖アッセイにおいてIL-17およびIFN-γ産生を阻害する能力を示す図である。
【図22】IL-7刺激下にhCD4+細胞によるIL-17の産生に対する各種抗CD127抗体の阻害効果を示す図である。
【図23】TH17細胞によるIFN-γ産生およびIL-17産生に対するmAb6A3の阻害効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0080】
本発明は、IL-7/IL-7Rシグナル伝達がマウスおよびヒトの両方の系において関係するTH17細胞の生存および増殖に必須であるが、TH17分化におけるそれの役割は、IL-6の場合と比較してあまり重要ではないという発見に基づくものである。驚くべきことに、IL-7R拮抗作用による免疫系に対するイン・ビボでの効果は、多発性硬化症の動物モデルであるEAEにおいて高度に選択的であり、TH17細胞に影響し、それより程度は低いが、主として記憶表現型のTH1細胞にも影響し、Treg細胞には影響しない。この選択性は、EAEにおけるIL-7R拮抗作用による病原性TH17細胞およびTreg細胞の比のバランス取り戻しにおいて重要な役割を果たすように思われ、治療効力を生じさせる。上記で記載のTH17細胞の生存および増殖におけるIL-7/IL-7Rシグナル伝達の新規な作用機序は、EAEにおけるIL-7R拮抗作用の治療効力についての強力な説明を提供し、MSなどのヒト自己免疫疾患における治療的示唆を提供するものである。IL-7中和またはIL-7R拮抗作用は、特有の治療上の利点を有するように思われる。一方で、その治療は、病原性のTH1およびTH17細胞をTregおよび無関係の免疫細胞から区別する選択性を提供する。他方、IL-7R拮抗作用の別の治療上の利点には、TH17分化とは対照的に、分化したTH17の生存および増殖に対するそれの選択的効果が関与する。TH17分化に対する関係するTH17のイン・ビボでの維持を目標とすることは、治療の文脈においてより効果的であると考えられる。
【0081】
従って、IL-7受容体介在シグナル伝達の阻害によって、自己免疫または炎症疾患の治療のための有望な治療的介入が提供される。
【0082】
本明細書で使用されるIL-7R介在シグナル伝達という用語は、リガンドであるIL-7によって結合された時にIL-7受容体によって誘発される生理効果を意味する。従って、IL-7R介在シグナル伝達には、STAT-5のIL-7誘発リン酸化、TH17細胞のIL-7誘発増殖およびTH17細胞のIL-7誘発生存のうちの1以上または全てなどがあるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0083】
拮抗薬
本明細書で使用される場合のIL-7経路拮抗薬は、アッセイによって測定可能なIL-7の生理効果を機能的に遮断する物である。分子レベルでは、IL-7誘発P-STAT5またはBcl-2などのアッセイによって遮断効果を観察および測定することができる。p-STAT5アッセイの例を、本明細書に記載する。細胞レベルで、IL-17またはIFNγのTh17分泌などのアッセイによって、遮断効果を観察および測定することができる。そのアッセイ例も本明細書に記載する。
【0084】
本発明で使用されるIL-7/IL-7R経路拮抗薬は、部分的または完全に、IL-7によって誘発されるSTAT-5のリン酸化を阻害する能力を有する。STAT-5リン酸化は、当業界で通常の方法によって、例えば本明細書に記載のもの(実施例2.3)などのアッセイで測定することができる。そのようなアッセイでは、試験薬剤の存在下および非存在下で、PBMCをIL-7によって刺激する。次に、例えばpSTAT-5についての染色(例えば、標識抗pSTAT-5抗体によって)とそれに続く蛍光活性化細胞の選別により、細胞について、pSTAT-5レベルを定量的に評価する。リン酸化STAT-5のレベルは、ELISAによっても求めることができる。リン酸化STAT-5のレベルを低下させる薬剤は、自己免疫疾患に対する治療候補薬となり得る。
【0085】
拮抗薬は、拮抗薬の非存在下でのSTAT-5レベルと比較した場合に、または陰性対照もしくは未処理細胞と比較した場合に、リン酸化STAT-5のレベルを少なくとも20%、50%、75%、80%、85%、90%、95%または100%低下させる能力を有し得る。拮抗薬は、50μg/mL、25μg/mL以下、10μg/mL以下、5μg/mL以下、または2μg/mL以下のIC50を有し得る。1実施形態において、拮抗薬は、1μg/mL以下、0.75μg/mL以下、0.5μg/mL以下、0.25μg/mL以下、または0.1μg/mL以下のIC50を有する。
【0086】
本発明の拮抗薬は、TH17細胞の増殖を阻害する上で特に有効である。TH17細胞の増殖は、試験薬剤の存在下および非存在下に未感作T細胞の集団を刺激して増殖させ、次にその細胞を刺激してIL-17を産生させ、試験薬剤の存在下および非存在下で細胞によって産生されたIL-17のレベルを評価する段階を有するTH17増殖アッセイで求めることができる。
【0087】
1実施形態において、拮抗薬は、陰性対照と比較してそのようなアッセイで20%以上のIL-17分泌阻害を行うことができる。より代表的には、拮抗薬は、対照と比較して50%以上、75%以上、85%以上または90%以上のIL-17分泌阻害を行うことができる。一部の実施形態において拮抗薬は、そのアッセイで、50μg/mL以下のIC50を示し得る。他の実施形態では、IC50は20μg/mL以下、10μg/mL以下または5μg/mL以下となり得る。
【0088】
このアッセイの1実施形態において、IL-1、IL-6、およびIL-23の存在下にT細胞受容体活性化による刺激によって、ヒトCD4+T細胞をTH17に分化させる。5日間の分化後、CCR6+細胞を選別して、濃縮TH17集団を作る。次に、この集団をヒトIL-7で刺激し、上清でのIL-17およびIFN-γにおける増加を測定する。インキュベーション期間での機能性IL-7/IL-7R経路拮抗薬(例:抗CD127抗体)によるIL-7とCD127の間の相互作用の遮断により、TH17細胞の増殖が防止されて、結果的にIL-17およびIFN-γ産生が低下するはずである。
【0089】
この実施形態では、CD4+T細胞は、市販のキット(例えば、CD4+T細胞単離キットII、#130-091-155、Miltenyi Biotec)を用いてヒト末梢血単核球から単離することができる。次に、代表的には、10%FCSを含むRPMI培地に、1.5×10E6/mLの濃度でCD4+T細胞を再懸濁させる。代表的に30分間にわたり、細胞を、対照または抗IL-7Rγ抗体とともに前インキュベートする。次に、10ng/mLのIL-7の存在下または非存在下に、細胞を37℃で72時間培養した。インキュベーション終了後、細胞を、50ng/mLのPMAおよび1μg/mLのイオノマイシンで5時間刺激する。細胞培養上清を回収し、ELISA(eBiosciences)によってIL-17濃度を測定する。
【0090】
結合タンパク質
本発明の単離結合タンパク質は、無傷抗体、ヒト、ヒト化もしくはキメラ抗体などの抗体もしくは免疫グロブリン、または前記抗体のフラグメントもしくはドメインの形態であることができる。本発明のこれらの抗体は、9B7(配列番号4から9)、6C5(配列番号31から36)、6A5(配列番号53から58)、1A11(配列番号73から78)またはGR34(配列番号92から97)で認められるCDRのうちの1以上または全てを含むことができる。
【0091】
この文脈での「結合」とは、本質的に、抗体などの結合タンパク質が抗原結合性ドメインを介してCD127(それのエピトープ)に結合すること、およびその結合が抗原結合性ドメインとCD127(それのエピトープ)との間の若干の相補性を伴うことを意味する。従って、結合タンパク質は、無作為で無関係のポリペプチドや無作為で無関係のエピトープに結合する場合より容易に、CD127またはCD127のエピトープに結合する。すなわち、結合タンパク質とCD127(それのエピトープ)の間には特異性がある。
【0092】
本発明の結合タンパク質は、可溶性CD127ポリペプチドの形態であることもできる。
【0093】
本発明の結合タンパク質は、CD127に特異的に結合するモノクローナル抗体などのCD127に結合することができる。その結合タンパク質は、IL-7およびTSLPリガンドまたはこの効果を与えると考えられるIL-7RおよびTSLPRの要素、またはリガンドおよび受容体の組み合わせに結合する二重特異性結合タンパク質など、多発性硬化症の治療のために、TSLPのTSLP受容体への結合を低減し、IL-7のIL-7受容体への結合をも低減する物であることもできる。この点に関して、TSLP拮抗薬が、例えばUS7304144およびWO2007096149に記載されており、上記で言及したように、TSLP受容体はCD127を含む。従って、本発明の拮抗薬は、TSLPの拮抗薬として有用となり得る。
【0094】
単離
本明細書で使用される場合の「単離」という用語は、結合タンパク質が、それらが天然に存在する環境から取り出されること、例えば、それらが通常自然において存在すると考えられる物質から精製して取り出され得ることを意味する。これらの結合タンパク質は、サンプル中のタンパク質の質量が少なくとも50%または少なくとも80%の結合タンパク質から構成されるという点で実質的に純粋なものであることができる。
【0095】
競合
結合タンパク質は、CD127またはCD127のフラグメントまたはCD127内のエピトープへの比較結合タンパク質の結合をある程度遮断する程度に、それがそのエピトープに優先的に結合する場合、CD127、CD127のそのフラグメントまたはCD127内のエピトープへの比較結合タンパク質の結合を競合的に阻害すると称される。競合的阻害は、例えば競合ELISAアッセイ、表面プラズモン共鳴(BIAcore)またはスキャッチャード分析などの当業界で公知の方法によって測定することができる。結合タンパク質は、比較抗体の結合が少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%または少なくとも50%低減される場合に、所定のエピトープへの比較結合タンパク質の結合を競合的に阻害すると言うことができる。
【0096】
インタクトな抗体
本発明の結合タンパク質はインタクトな抗体でありうる。インタクトな抗体は通常、少なくとも2つの重鎖および2つの軽鎖を含んでなるヘテロ多量体糖タンパク質である。IgMを除いて、インタクトな抗体は通常、2つの同一の軽(L)鎖、および2つの同一の重(H)鎖からなる、約150 kDaのヘテロ四量体糖タンパク質である。典型的には、それぞれの軽鎖は、1つのジスルフィド共有結合によって重鎖に連結されているが、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間のジスルフィド結合の数はさまざまである。それぞれの重鎖および軽鎖は、鎖内ジスルフィド橋も有している。それぞれの重鎖は、一端に1つの可変領域(VH)を有し、続いていくつかの定常領域がある。それぞれの軽鎖は1つの可変領域(VL)およびその他端に1つの定常領域を有する;軽鎖の定常領域は重鎖の最初の定常領域と並んでおり、軽鎖可変領域は重鎖可変領域と並んでいる。ほとんどの脊椎動物種由来の抗体の軽鎖は、定常領域のアミノ酸配列に基づいて、κおよびλと呼ばれる2タイプのうち1つに帰属することができる。それらの重鎖の定常領域のアミノ酸配列に応じて、ヒト抗体は5つの異なるクラス、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMに帰属することができる。IgGおよびIgAは、サブクラスIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4;ならびにIgA1およびIgA2に、さらに細かく分類することができる。動物種による変異体が存在し、マウスおよびラットは、少なくともIgG2a、IgG2bを有する。抗体の可変領域は、抗体に結合特異性を付与し、特定の領域が相補性決定領域(CDR)と呼ばれる特別な可変性を示す。可変領域のうち比較的保存される部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。インタクトな重鎖および軽鎖のそれぞれの可変領域は、3つのCDRによって結合された4つのFRを含んでなる。各鎖のCDRは、FR領域によってきわめて近接してまとまった状態で保持され、他方の鎖のCDRとともに、抗体の抗原結合部位の形成をもたらす。定常領域は、直接的には、抗体の抗原との結合に関与しないが、抗体依存性細胞傷害(ADCC)への関与、Fcγ受容体への結合を介した食作用への関与、新生児Fc受容体(FcRn)による半減期/クリアランス速度への関与、ならびに補体カスケードのC1q成分を介した補体依存性細胞傷害への関与といった、さまざまなエフェクター機能を示す。ヒトIgG2定常領域は、古典的経路により補体を活性化するまたは抗体依存性細胞傷害性を仲介する能力を実質的に欠いていると報告されている。IgG4定常領域は、古典的経路により補体を活性化する能力を欠いており、抗体依存性細胞傷害性を弱く仲介するにとどまると報告されている。こうしたエフェクター機能を実質的に欠いている抗体を、「非溶解性」抗体と呼ぶことができる。
【0097】
ヒト抗体
本発明の結合タンパク質は「ヒト抗体」でありうる。ヒト抗体は、当業者に知られているいくつかの方法によって作製することができる。ヒト抗体は、ヒト骨髄腫もしくはマウス-ヒトヘテロ骨髄腫細胞株を用いて、ハイブリドーマ法によって作製することができる。Kozbor、 J.Immunol 133, 3001, (1984)、およびBrodeur, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, 51-63ページ (Marcel Dekker Inc, 1987)を参照されたい。別法としては、ファージライブラリもしくはトランスジェニックマウスの使用が挙げられるが、これらはいずれもヒトV領域レパートリーを利用する(Winter G, (1994), Annu.Rev.Immunol 12,433-455, Green LL (1999), J.Immunol.methods 231, 11-23を参照されたい)。
【0098】
マウスの免疫グロブリン遺伝子座がヒト免疫グロブリン遺伝子セグメントで置き換えられた、いくつかの系統のトランスジェニックマウスが現在利用可能である(Tomizuka K, (2000) PNAS 97, 722-727; Fishwild D. M (1996) Nature Biotechnol. 14,845-851, Mendez MJ, 1997, Nature Genetics, 15,146-156を参照されたい)。抗原によるチャレンジ後に、上記のマウスはヒト抗体のレパートリー(そこから目的の抗体を選択することができる)を産生することができる。
【0099】
ファージディスプレイ技術を用いて、ヒト抗体(およびそのフラグメント)を作製することができる。McCafferty、Nature, 348, 552-553 (1990) およびGriffiths ADら、 (1994) EMBO 13:3245-3260を参照されたい。
【0100】
キメラおよびヒト化抗体
本発明の結合タンパク質は「キメラ」または「ヒト化」抗体とすることができる。インタクトな非ヒト抗体をヒトの疾患もしくは障害の治療に使用することは、現在十分に立証されている免疫原性の可能性の問題を伴い、これは特に抗体の反復投与においてそうであり、すなわち、患者の免疫系はインタクトな非ヒト抗体を非自己と認識して、中和応答を開始する可能性がある。完全ヒト抗体(上記参照)を開発することに加え、こうした問題を克服するために、長年にわたってさまざまな技法が開発されてきたが、こうした技法は、一般に、免疫した動物、たとえばマウス、ラットもしくはウサギから非ヒト抗体を得ることの相対的な容易さを維持する一方で、インタクトな治療用抗体における非ヒトアミノ酸配列の構成割合を減らすことを必要とする。概して、これを達成するために2つのアプローチが用いられてきた。第1はキメラ抗体であって、これは一般に、ヒト定常領域に融合された非ヒト(たとえば、マウスなどの齧歯類)可変領域を含んでなる。抗体の抗原結合部位は可変領域内に局在するので、キメラ抗体は、抗原に対するその結合親和性を維持するが、ヒト定常領域のエフェクター機能を獲得しているため、エフェクター機能を果たすことができる。キメラ抗体は、典型的には、組換えDNA法を用いて作製される。従来の方法を用いて(たとえば、本発明の抗体のHおよびL鎖可変領域をコードする遺伝子、例としては上記の配列番号2および3のDNAと、特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)、抗体をコードするDNA(たとえばcDNA)を単離し、配列を決定する。DNAは、ヒトLおよびH鎖のコード配列を、対応する非ヒト(たとえばマウス)HおよびL定常領域の代わりに用いることによって、改変することができる。たとえば、Morrison; PNAS 81, 6851 (1984)を参照されたい。したがって本発明の別の実施形態において、ヒト定常領域(それはIgGアイソタイプ、例えばIgG1のものでありうる)に融合された配列番号3の配列を有するVLドメインおよび配列番号2を有するVHドメインを有するキメラ抗体を提供する。
【0101】
第2のアプローチは、可変領域をヒト化することによって抗体の非ヒト含量を減少させる、ヒト化抗体の作製に関する。ヒト化について2つの技術が広く支持されている。第1は、CDRグラフティングによるヒト化である。CDRは抗体のN末端近くにループを作り、そこで、フレームワーク領域によってもたらされるスキャフォールドに嵌め込まれた表面を形成する。抗体の抗原結合特異性は、主として、その抗体のCDR表面のトポグラフィーおよび化学的性質によって決まる。次いで、これらの特徴は、個別のCDRのコンフォメーションによって、CDRの相対的配置によって、ならびにCDRを構成する残基の側鎖の性質および配置によって決定される。免疫原性の大幅な低下は、非ヒト(たとえばマウス)抗体(「ドナー」抗体)のCDRのみを、適当なヒトのフレームワーク(「アクセプターフレームワーク」)および定常領域上にグラフティングすることによって達成することができる(Jonesら、 (1986) Nature 321,522-525、ならびにVerhoeyen Mら、(1988) Science 239, 1534-1536を参照されたい)。しかしながら、CDRグラフティングは本質的に、抗原結合特性の完全な保持をもたらさない可能性があり、有意な抗原結合親和性を回復したいならば、ドナー抗体のフレームワーク残基の一部をヒト化分子内に保持する必要がある(「復帰突然変異」と呼ばれることもある)ことが、多くの場合、明らかになっている(Queen C ら、(1989) PNAS 86, 10,029-10,033, Co, Mら、(1991) Nature 351, 501-502を参照されたい)。この場合、ヒトフレームワーク(FR)を用意するために、非ヒトドナー抗体に対して最大の配列相同性を示す(典型的には60%以上)ヒトV領域をデータベースから選択することができる。ヒトFRは、ヒトコンセンサスもしくは個別のヒト抗体のどちらからも選択することができる。必要ならば、ドナー抗体由来の重要残基を、ヒトアクセプターフレームワーク内に置換して入れて、CDRコンフォメーションを保存する。抗体のコンピューターモデリングを用いることができるが、それは、このような構造的に重要な残基を同定するのに役立つ。国際公開WO99/48523を参照されたい。
【0102】
別法として、ヒト化は、「veneering」のプロセスによって行うことができる。特異なヒトおよびマウス免疫グロブリンの重鎖および軽鎖可変領域の統計分析によって、露出した残基の正確なパターンがヒトとマウスの抗体で異なること、ならびにほとんどの個々の表面位置は、少数の異なる残基を強く優先して選ぶことが明らかになった(Padlan E.A.ら、(1991) Mol.Immunol.28, 489-498、およびPedersen J.T.ら、(1994) J.Mol.Biol. 235; 959-973を参照されたい)。したがって、そのフレームワーク領域内の、ヒト抗体に通常存在するものとは異なる、露出した残基を取り替えることによって、非ヒトFvの免疫原性を低下させることができる。タンパク質の抗原性は、表面への接近可能性と相関しうるので、表面残基を置き換えることは、マウス可変領域をヒトの免疫系に「見えない」ようにするのに十分であると考えられる(Mark G.E.ら、(1994)、実験薬理学ハンドブック(Handbook of Experimental Pharmacology)第113号より:モノクローナル抗体の薬理学(The pharmacology of monoclonal Antibodies)、Springer-Verlag、105-134ページも参照されたい)。こうしたヒト化の手順は、抗体の表面だけを変更し、支持する残基はそのままになっているので、「veneering」と呼ばれる。さらなる別の手法としては、WO04/006955に記載のもの、およびHumaneeringTM (Kalobios)の手法(これは細菌発現系を利用し、配列としてヒト生殖系列に近い抗体を生じるものである(Alfenito-M Advancing Protein Therapeutics January 2007, San Diego, California))が挙げられる。
【0103】
当業者には明白なことであるが、「由来する」という用語は、それが物質の物理的起源であるという意味で、起源を明らかにするのみならず、その物質と構造的に同一であるもののその基準起源から生じたのではない物質も明示することを意図するものである。したがって、「ドナー抗体に存在する残基」は、かならずしも当該ドナー抗体から精製されたものである必要はない。
【0104】
したがって本発明の一の態様は、マウス抗体9B7(配列番号: 4-9)に見出されるCDRの1以上またはすべてを有するヒト化抗体である。
【0105】
複数特異的または二重特異的抗体
本発明の結合タンパク質は「複数特異的」または「二重特異的」抗体でありうる。複数特異的または二重特異的抗体とは、IL-7およびTSLPの両方の、それらの受容体への結合を防止または低減する抗体誘導体であって、ここで該抗体はIL-7, TSLP, CD127, IL7Rγ鎖またはCRLF2から選択される少なくとも2つのタンパク質に対する結合特異性を有するものであり、本発明の一部をなす。本発明の結合タンパク質はまた、TH17細胞の細胞表面において発現されるIL-23に対して結合特異性を有することができ、例えば該結合タンパク質はIL-23R (もしくはIL-23)およびCD127、またはIL-2R(もしくはIL-23)およびIL-7の両方に対して特異性を有しうる。
【0106】
こうした抗体を作製する方法は当技術分野で知られている。従来、二重特異性抗体の組換え生産は、2つの免疫グロブリンH鎖-L鎖対の同時発現を基本とし、その2つのH鎖が異なる結合特異性を有する。Millsteinら、Nature 305 537-539 (1983)、国際公開WO93/08829 およびTrauneckerら、EMBO, 10, 1991, 3655-3659を参照されたい。H鎖とL鎖のランダムな組み合わせのため、10種の異なる抗体構造の混合物が生じる可能性があり、そのうち1つだけが求める結合特異性を有するものである。別のアプローチは、ヒンジ領域の少なくとも一部、CH2およびCH3領域を含む重鎖定常領域に、望ましい結合特異性を有する可変領域を融合することが必要となる。軽鎖との結合に必要な部位を含有するCH1領域が、融合物の少なくとも1つに存在するようにすることが好ましい。これらの融合物、および、必要ならば、L鎖をコードするDNAを、別々の発現ベクターに挿入した後、適当な宿主生物にコトランスフェクトする。2つの鎖、もしくは3つすべての鎖のコード配列を1つの発現ベクターに挿入することも可能ではある。ある好ましいアプローチにおいて、二重特異性抗体は、一方のアームに第1の結合特異性を有するH鎖と、他方のアームに第2の結合特異性を与えるH-L鎖対とから構成される。国際公開WO94/04690を参照されたい。また、Sureshら、Methods in Enzymology 121, 210, 1986も参照されたい。
【0107】
一つの可能性のあるアプローチは、第一の特異性がIL-7のエプトープに対するものであり、第2の特異性がTSLPに対するものである、上記に記載した二重特異性抗体または二重特異性フラグメントを製造することである。別の可能性のあるアプローチは、第一の特異性がIL-7のエプトープに対するものであり、第2の特異性がIL-6に対するものである、上記に記載した二重特異性抗体または二重特異性フラグメントを製造することである。
【0108】
抗体フラグメント
本発明の結合タンパク質は「抗体フラグメント」とすることができる。本発明のある実施形態において、抗原結合フラグメントである治療用抗体が提供されるが、この場合、たとえば、該フラグメントはhIL-13とその受容体との相互作用を阻害する。こうしたフラグメントは、インタクトな、および/またはヒト化された、および/またはキメラな抗体の機能的抗原結合フラグメント、たとえば、上記抗体のFab、Fd、Fab'、F(ab')2、Fv、ScFvフラグメントとすることができる。該フラグメントはまた、ヒト、ラクダ、もしくはサメ、または他の種のものとすることができ、単一可変ドメイン抗体もしくはそれらを含むより大きな構築物とすることができる。定常領域を欠くフラグメントは、古典的経路による補体を活性化する能力または抗体依存性細胞傷害性を仲介する能力を欠いている。従来、こうしたフラグメントは、インタクトな抗体のタンパク質分解によって、たとえばパパイン分解によって(たとえば、国際公開WO 94/29348を参照されたい)作製されるが、遺伝子組換えによる形質転換宿主細胞から直接産生させることもできる。ScFvの作製については、Birdら、(1988) Science, 242, 423-426を参照されたい。それに加えて、抗体フラグメントは、下記のさまざまな遺伝子工学技術を用いて作製することができる。
【0109】
Fvフラグメントは、その2つの鎖の相互作用エネルギーがFabフラグメントより低いと思われる。VHおよびVLドメインの結合を安定化するために、これらのドメインは、ペプチド(Birdら、(1988) Science 242, 423-426、Hustonら、PNAS, 85, 5879-5883)、ジスルフィド橋(Glockshuberら、(1990) Biochemistry, 29, 1362-1367)、および「knob in hole」変異(Zhuら、(1997), Protein Sci., 6, 781-788)によって連結されている。ScFvフラグメントは、当業者によく知られている方法によって作製することができる。Whitlowら、(1991) Methods companion Methods Enzymol, 2, 97-105 およびHustonら、(1993) Int.Rev.Immunol 10, 195-217を参照されたい。ScFvは、大腸菌(E. coli)などの細菌細胞内で産生させることができるが、真核細胞内で産生させる方が典型的である。ScFvの不利な点は、産物が一価であること、そのために多価結合による結合力の増加が不可能になること、ならびに半減期が短いことである。こうした問題を克服するための試みには、二価(ScFv')2があるが、これは、追加のC末端システインを含有するScFvから、化学的カップリングによって(Adamsら、(1993) Can.Res 53, 4026-4034、およびMcCartneyら、(1995) Protein Eng. 8, 301-314)、または不対C末端システイン残基を含有するScFvの、自然発生的な部位特異的二量体化によって(Kipriyanovら、(1995) Cell. Biophys 26, 187-204を参照されたい)作製される。あるいはまた、ペプチドリンカーを3〜12残基に短縮して「ダイアボディ(diabody)」を形成することによって、ScFvに多量体を形成させることができる。Holligerら、PNAS (1993), 90, 6444-6448を参照されたい。リンカーをさらに小さくすることで、ScFv三量体(「トリアボディ」、Korttら、(1997) Protein Eng, 10, 423-433を参照されたい)および四量体(「テトラボディ」、Le Gallら、(1999) FEBS Lett, 453, 164-168を参照されたい)をもたらすことができる。二価ScFv分子の構築は、「ミニ抗体(miniantibody)」(Packら、(1992) Biochemistry 31, 1579-1584を参照されたい)および「ミニボディ」(Huら、(1996), Cancer Res. 56, 3055-3061を参照されたい)を形成することができるタンパク質二量体化モチーフとの遺伝子融合によっても、達成することができる。ScFv-ScFvタンデム((ScFv)2)は、第3のペプチドリンカーによって2つのScFv単位を連結することによって作製することもできる。Kuruczら、(1995) J.Immol.154, 4576-4582を参照されたい。二重特異性ダイアボディは、ある抗体のVLドメインに短いリンカーで連結された、別の抗体由来のVHドメインからなる、2つの一本鎖融合産物の非共有結合によって作製することができる。Kipriyanovら、(1998), Int. J. Can 77, 763-772を参照されたい。このような二重特異性ダイアボディの安定性は、ジスルフィド橋、もしくは上記の「knob in hole」変異を導入することによって、または2つのハイブリッドScFvフラグメントがペプチドリンカーを介して連結される、一本鎖ダイアボディ(ScDb)を形成することによって、高めることができる。Kontermannら、(1999) J. Immunol. Methods 226 179-188を参照されたい。四価の二重特異性分子は、たとえば、ScFvフラグメントを、IgG分子のCH3ドメインに、またはヒンジ領域を介してFabフラグメントに、融合することによって得られる。Colomaら、(1997) Nature Biotechnol. 15, 159-163を参照されたい。あるいはまた、四価の二重特異性分子は、二重特異性一本鎖ダイアボディの融合によって作製されている(Altら、(1999) FEBS Lett 454, 90-94を参照されたい)。より小さい四価の二重特異性分子は、ヘリックス-ループ-ヘリックスモチーフ含有リンカーによるScFv-ScFvタンデムの二量体化(DiBiミニ抗体、Mullerら、(1998) FEBS Lett 432, 45-49を参照されたい)、または分子内対合を妨げる配向で4つの抗体可変領域(VHおよびVL)を含む一本鎖分子の二量体化(タンデムダイアボディ、Kipriyanovら、 (1999) J.Mol.Biol. 293, 41-56を参照されたい)のいずれかによって、作製することもできる。二重特異性F(ab')2フラグメントは、Fab'フラグメントの化学的カップリングによって、またはロイシンジッパーによるヘテロ二量体化によって作製することができる(Shalabyら、(1992) J.Exp.Med. 175, 217-225、およびKostelnyら、(1992), J.Immunol. 148, 1547-1553を参照されたい)。また、単離されたVHおよびVLドメインも利用できる。米国特許第6, 248,516号;第6,291,158号;第6, 172,197号を参照されたい。
【0110】
他の改変
本発明の結合タンパク質は、そのエフェクター機能を強化または変化させるために他の改変を有しうる。抗体のFc領域と、さまざまなFc受容体(FcγR)との相互作用は、抗体のエフェクター機能を仲介すると考えられるが、このエフェクター機能には、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体結合、食作用、および抗体の半減期/クリアランスが含まれる。希望するエフェクター特性に応じて、本発明の抗体のFc領域のさまざまな改変を行うことができる。とりわけ、a)古典的経路による補体の活性化、およびb)抗体依存性細胞傷害性を仲介すること、という機能を本質的に欠いているヒト定常領域としては、特定の変異、例えばEP0307434 (WO8807089), EP 0629 240 (WO9317105)およびWO 2004/014953に開示されている、位置234, 235, 236, 237, 297, 318, 320および/または322に変異を有するIgG4定常領域、IgG2定常領域およびIgG1定常領域が挙げられる。重鎖定常領域のCH2ドメイン内の残基235もしくは237(Kabatナンバリング; EUインデックスシステム)における変異は、別々に、FcγRI, FcγRIIおよびFcγRIIIへの結合を低減し、したがって抗体依存性細胞傷害性(ADCC)を低減すると記載されている(Duncan et al. Nature 1988, 332; 563-564; Lund et al. J. Immunol. 1991, 147; 2657-2662; Chappel et al. PNAS 1991, 88; 9036-9040; Burton and Woof, Adv. Immunol. 1992, 51;1-84; Morgan et al., Immunology 1995, 86; 319-324; Hezareh et al., J. Virol. 2001, 75 (24); 12161-12168)。さらに、いくつかの報告はまた、これらの残基の一部が補体依存性細胞傷害性(CDC)をリクルートするまたは仲介することに関与することを記載している (Morgan et al., 1995; Xu et al., Cell. Immunol. 2000; 200:16-26; Hezareh et al., J. Virol. 2001, 75 (24); 12161-12168)。残基235および237はしたがって、補体により仲介されるおよびFcγRにより仲介される効果の両方を低減するためにいずれもアラニン残基に変異された(Brett et al. Immunology 1997, 91; 346-353; Bartholomew et al. Immunology 1995, 85; 41-48;およびWO9958679)。こうした定常領域を有する抗体を、「非溶解性」抗体とよぶことができる。
【0111】
抗体にサルベージ(salvage)受容体結合エピトープを組み込んで、血中半減期を延ばすことができる。米国特許第5,739,277を参照されたい。
【0112】
ヒトFcγ受容体にはFcγR(I)、FcRγIIa、FcγRIIb、FcγRIIIaおよび新生児FcRnが含まれる。Shieldsら、(2001) J. Biol. Chem 276, 6591-6604は、共通のIgG1残基のセットがすべてのFcγRとの結合に関与しているが、FcγRIIおよびFcγRIIIは、この共通のセットの外側にある別個の部位を利用することを明らかにした。一群のIgG1残基は、Pro-238、Asp-265、Asp-270、Asn-297およびPro-239をアラニンに変えると、すべてのFcγRへの結合を低下させた。いずれもIgG CH2ドメインに存在し、CH1およびCH2をつなぐヒンジ部の近くでクラスターを形成している。FcγRIは、結合のためにIgG1残基の共通セットのみを用いるが、FcγRIIおよびFcγRIIIは、共通セットに加えて、別個の残基とも相互作用する。一部の残基の変更は、FcγRIIとの結合のみを低下させ(たとえば、Arg-292)、またはFcγRIIIとの結合のみを低下させた(たとえば、Glu-293)。ある変異体は、FcγRIIもしくはFcγRIIIに対する結合の強化を示したが、もう一方の受容体との結合には影響を与えなかった(たとえば、Ser-267Alaは、FcγRIIに対する結合は強化したが、FcγRIIIとの結合には影響しなかった)。また他の変異体は、FcγRIIもしくはFcγRIIIに対する結合の強化を示したが、もう一方の受容体との結合は低下した(たとえば、Ser-298AlaはFcγRIIIに対する結合を強化したが、FcγRIIとの結合は低下した)。FcγRIIIaに関して、もっともよく結合するIgG1変異体は、Ser-298、Glu-333およびLys-334でのアラニン置換の組み合わせを有していた。新生児FcRn受容体は、IgG分子を分解から保護しそれにより血清半減期を延長することおよび組織にわたるトランスサイトーシスに関与していると考えられる(Junghans R. P (1997) Immunol. Res 16. 29-57 およびGhetieら、(2000) Annu. Rev. Immunol. 18, 739-766を参照されたい)。ヒトFcRnと直接相互作用すると確定されたヒト残基には、Ile253、Ser254、Lys288、Thr307、Gln311、Asn434およびHis435がある。
【0113】
本発明の治療用抗体は、上記定常領域の改変のいずれをも組み入れうる。
【0114】
ある特定の実施形態においては、治療用抗体は、a)古典的経路による補体の活性化、およびb)抗体依存性細胞傷害性を仲介するという機能を実質的に欠く。より具体的な実施形態では、本発明は、半減期/クリアランスおよび/またはエフェクター機能、例えばADCCおよび/または補体依存性細胞傷害性および/または補体溶解を改変するために、上述した残基変更のいずれか1以上を有する本発明の治療用抗体を提供する。
【0115】
本発明のさらなる態様においては、治療用抗体は、アラニン(もしくは他の破壊的な)置換を位置235 (例えばL235A)および237 (例えばG237A) (ナンバリングはKabatに概略されるEUスキームに従ったものである)に有するアイソタイプヒトIgG1の定常領域を有する。
【0116】
本発明の他の誘導体には、本発明の抗体のグリコシル化変異体がある。抗体の定常領域内の保存された位置でのグリコシル化は、抗体機能、特に上記のようなエフェクター機能に重大な影響を及ぼすことが知られている。たとえば、Boydら、(1996), Mol. Immunol. 32, 1311-1318を参照されたい。1つもしくは複数の糖鎖を付加、置換、欠失もしくは修飾した、本発明の治療用抗体のグリコシル化変異体が想定される。
【0117】
アナログ
本発明のこの文脈において、記載されている抗体のアナログも提供する。したがって、本発明はR34.34, GR34, 9B7, 6A3, 1A11 または6C5 CDRのアナログを提供する (R34.34アナログ, GR34アナログ, 9B7 アナログ, 6A3 アナログ, 1A11 アナログもしくは6C5アナログ)。親抗体 (例えば6A3もしくは9B7)のアナログは、9B7アナログ抗体もしくは6A3アナログ抗体は同一または類似の結合親和性をもって同一の標的タンパク質もしくはエピトープに結合する、という意味においてそれぞれ、親抗体のCDRを有するものと同一または類似の機能的特性を有する。アナログはそのCDRのそれぞれもしくは全てにおいて1以上のアミノ酸置換を有することができ、ある実施形態においては親抗体のCDRにおけるアミノ酸残基の少なくとも75%もしくは80%は変更されておらず、別の実施形態においてはCDRの少なくとも90%が変更されておらず、また別の実施形態ではCDRのアミノ酸残基の少なくとも95%が変更されていない。別の実施形態において、親抗体のCDR H3はその全体において変更されておらず、このとき他のCDRは対応する親抗体CDRと同一であってもよくまたはそのアナログであってもよい。
【0118】
生産方法
本発明の結合タンパク質は当業者に公知の方法により製造することができる。本発明の抗体は、ヤギ(Pollockら、(1999), J. Immunol. Methods 231:147-157を参照されたい)、ニワトリ(Morrow KJJ (2000) Genet. Eng. News 20:1-55を参照されたい)、マウス(Pollockら前掲)、または植物(Doran PM, (2000) Curr. Opinion Biotechnol. 11, 199-204、Ma JK-C (1998), Nat. Med. 4; 601-606、Baez Jら、BioPharm (2000) 13: 50-54、Stoger Eら、(2000) Plant Mol. Biol. 42:583-590を参照されたい)といったトランスジェニック生物内で産生することができる。抗体はまた、化学合成によっても作製することができる。しかしながら、本発明の抗体は、典型的には、当業者によく知られている組換え細胞培養技術を用いて作製される。抗体をコードするポリヌクレオチドを単離し、その後の宿主細胞内での増幅もしくは発現のために、複製可能なベクターに挿入する。特に宿主細胞がCHOもしくはNSOである場合(下記を参照されたい)、1つの有用な発現系は、グルタミン酸シンテターゼ系(Lonza Biologicsが販売しているものなど)である。抗体をコードするポリヌクレオチドは、従来の方法(たとえば、オリゴヌクレオチドプローブ)によって、容易に単離され、配列決定される。使用可能なベクターには、プラスミド、ウイルス、ファージ、トランスポゾン、ミニ染色体(プラスミドがその典型的な具体例である)がある。一般にこうしたベクターは、発現を促進するために、軽鎖および/または重鎖ポリヌクレオチドに機能的に連結された、シグナル配列、複製起点、1つもしくは複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、および転写終結配列をさらに含有する。軽鎖および重鎖をコードするポリヌクレオチドは、別々のベクター内に挿入し、同時にまたは順次、同一の宿主細胞に(形質転換、トランスフェクション、エレクトロポレーションまたは形質導入により)導入することができ、また、所望により、かかる導入に先だって、重鎖および軽鎖をともに同一ベクター内に挿入することができる。
【0119】
シグナル配列
本発明の抗体は、成熟タンパク質のN末端に特異的な切断部位を有する、異種シグナル配列を含む融合タンパク質として作製することができる。シグナル配列は、宿主細胞によって認識されて、プロセシングされることとなる。原核生物の宿主細胞については、シグナル配列は、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、または耐熱性エンテロトキシンIIリーダーとすることができる。酵母分泌のためには、シグナル配列は、酵母インベルターゼリーダー、α因子リーダー、または酸ホスファターゼリーダーとすることができる。国際公開WO90/13646を参照されたい。哺乳類細胞株では、ウイルス分泌リーダー、たとえば単純ヘルペスgDシグナル、ならびに天然免疫グロブリンシグナル配列(例えばヒトIg重鎖)が利用できる。典型的には、シグナル配列は、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドに、リーディングフレーム内で連結される。
【0120】
選択マーカー
典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質もしくは他の毒素(たとえば、アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセートもしくはテトラサイクリン)に対する耐性を付与するタンパク質をコードするか、または(b)栄養要求性の欠乏を補完する、もしくは複合培地で利用できない栄養素を補充するタンパク質、あるいは(c)その両方の組み合わせをコードする。選択方式は、ベクター(1つまたは複数)を有しない宿主細胞の増殖の停止を伴ってもよい。本発明の治療用抗体をコードする遺伝子による形質転換が成功した細胞は、たとえば共に送達された選択マーカーによって付与された薬剤耐性のために、生き残る。一つの例はDHFR選択系であるが、この場合、形質転換体はDHFR陰性宿主細胞において作製される(例えば、Page and Sydenham 1991 Biotechnology 9: 64-68を参照のこと)。この系では、DHFR遺伝子は本発明の抗体ポリヌクレオチド配列と共送達され、次いでヌクレオシド使用中止によりDHFR陽性細胞を選択する。必要であれば、DHFR阻害剤メトトレキセートもまたDHFR遺伝子増幅を有する形質転換体を選択するために利用する。DHFR遺伝子を本発明の抗体コード配列もしくはその機能性誘導体と機能的に連結することにより、DHFR遺伝子増幅は対象の所望抗体配列の付随的増幅をもたらす。CHO細胞はこのDHFR/メトトレキセート選択に特に有用な細胞系であり、DHFR系を用いて宿主細胞を増幅し選択する方法は本技術分野において十分に確立されている。Kaufman R.J. et al J.Mol.Biol. (1982) 159, 601-621を参照されたい。概説については、Werner RG, Noe W, Kopp K,Schluter M,” Appropriate mammalian expression systems for biopharmaceuticals”, Arzneimittel-Forschung. 48(8):870-80, 1998 Augを参照されたい。さらなる例は、グルタミン酸合成酵素発現系である(Bebbington et al Biotechnology 1992 Vol 10 p169)。酵母に用いるのに適当な選択遺伝子はtrp1遺伝子である。Stinchcomb et al Nature 282, 38, 1979を参照のこと。
【0121】
プロモーター
本発明の抗体の発現に適したプロモーターは、抗体をコードするDNA/ポリヌクレオチドに、機能するように連結される。原核生物宿主のためのプロモーターには、proAプロモーター、βラクタマーゼおよびラクトースプロモーター系、アルカリホスファターゼ、トリプトファンおよびハイブリッドプロモーター、たとえばTacがある。酵母細胞での発現に適したプロモーターには、3-ホスホグリセリン酸キナーゼまたは他の解糖系酵素、たとえばエノラーゼ、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース6リン酸イソメラーゼ、3-ホスホグリセリン酸ムターゼおよびグルコキナーゼがある。誘導性酵母プロモーターには、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソチトクロームC、酸ホスファターゼ、メタロチオネイン、および窒素代謝またはマルトース/ガラクトース利用を担う酵素が含まれる。哺乳類細胞株における発現のためのプロモーターには、RNAポリメラーゼIIプロモーターが挙げられこれにはウイルスプロモーター、たとえば、ポリオーマ、鶏痘およびアデノウイルス(たとえばアデノウイルス2)、ウシパピローマウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス(具体的には前初期遺伝子プロモーター)、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、アクチン、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、ならびに初期もしくは後期シミアンウイルス40ならびに非ウイルス性プロモーター、例えばEF-1α(Mizushima and Nagata Nucleic Acids Res 1990 18(17):5322がある。プロモーターの選択は、発現に用いる宿主細胞のとの適切な適合性に基づいてすることができる。
【0122】
エンハンサーエレメント
適当な場合には、例えば高等真核生物における発現のためには、上記のプロモーターに配置されることの見出される他のエンハンサーエレメントをそれらのかわりにまたはそれらに加え、追加することができる。適当な哺乳動物エンハンサー配列としては、グロブリン、エラスターゼ、アルブミン、フェトプロテイン、メタロチオネインおよびインスリン由来のエンハンサーエレメントが挙げられる。あるいはまた、真核細胞ウイルス由来のエンハンサーエレメント、例えばSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス早期プロモーターエンハンサー、ポリオーマエンハンサー、バキュロウイルスエンハンサーまたはマウスIgG2a遺伝子座を用いることができる(WO04/009823参照のこと)。かかるエンハンサーは典型的にはプロモーターの上流の位置でベクターに配置されるが、それらはまた、他の箇所に配置されることもでき、例えば非翻訳領域内もしくはポリアデニル化シグナルの下流に配置されうる。エンハンサーの選択および配置は、発現に用いる宿主細胞との適当な適合性に基づいてすることができる。
【0123】
ポリアデニル化/終結化
真核細胞系では、ポリアデニル化シグナルが、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドに、機能しうるように連結される。こうしたシグナルは典型的には、オープンリーシングフレームの3'側に置かれる。哺乳類の系で、限定的でないシグナルの例としては、成長ホルモン、伸長因子1αおよびウイルス(たとえば、SV40)遺伝子、またはレトロウイルスのロング・ターミナル・リピート由来のものが挙げられる。酵母系では、ポリアデニル化/終結シグナルの限定的でない例として、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)およびアルコールデヒドロゲナーゼ1(ADH)遺伝子由来のシグナルが挙げられる。原核細胞系では、ポリアデニル化シグナルは一般的には必要とされず、その代わりにもっと短く明確な転写終結配列を用いるのが通例である。ポリアデニル化/終結配列の選択は、発現に使用される宿主との適切な適合性に基づいて行われる。
【0124】
収率増強のための他の手法/エレメント
上記に加え、収率を増強するために用いることのできる他の構成としては、クロマチンリモデリングエレメント、イントロンおよび宿主細胞特異的コドン改変が挙げられる。本発明の抗体のコドン使用頻度は、宿主細胞のコドンバイアスに適合するように改変することができ、それにより転写および/または産生収率を増大させることができる(例えばHoekema A et al Mol Cell Biol 1987 7(8):2914-24)。コドンの選択は発現に用いる宿主細胞との適当な適合性に基づいてすることができる。
【0125】
宿主細胞
本発明の抗体をコードするベクターをクローニングし、または発現させるのに適した宿主細胞は、原核細胞、酵母、もしくは高等真核細胞である。適当な原核細胞には、真正細菌、例を挙げると、腸内細菌科、エシェリキア属(Escherichia)たとえば大腸菌(E. coli)(たとえば、ATCC 31,446; 31,537; 27,325)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、クレブシエラ属(Klebsiella)、プロテウス属(Proteus)、サルモネラ属(Salmonella)たとえばネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、セラチア属(Serratia)たとえばSerratia marcescens、および赤痢菌属(Shigella)など、ならびにバシラス属(Bacilli)の枯草菌(B. subtilis)およびB. licheniformis(DD 266 710を参照されたい)など、シュードモナス属(Pseudomonas)の緑膿菌(P. aeruginosa)など、さらにストレプトミセス属(Streptomyces)がある。酵母宿主細胞のうち、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(schizosaccharomyces pombe)、クルイベロミセス属(Kluyveromyces)(たとえば、ATCC 16,045; 12,424; 24178; 56,500)、ヤロウィア属(yarrowia)(欧州特許第402, 226号)、ピキア・パストリス(Pichia Pastoris)(欧州特許第183, 070号、Pengら、J.Biotechnol. 108 (2004) 185-192も参照されたい)、カンジダ属(Candida)、トリコデルマ・リーシア(Trichoderma reesia)(欧州特許第244, 234号)、ペニシリン属(Penicillin)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)ならびにアスペルギルス属(Aspergillus)宿主、たとえばアスペルギルス・ニデュランス(A. nidulans)およびクロコウジカビ(A. niger)も想定される。
【0126】
原核生物および酵母宿主細胞は、具体的に本発明で想定はされるが、しかしながら、本発明の宿主細胞は、高等脊椎動物細胞であることが典型的である。適当な脊椎動物宿主細胞には、哺乳類細胞、たとえば、COS-1 (ATCC番号 CRL 1650)、COS-7 (ATCC CRL 1651)、ヒト胚性腎細胞株293、PerC6(Crucell)、仔ハムスター腎細胞(BHK) (ATCC CRL.1632)、BHK570 (ATCC番号: CRL 10314)、293 (ATCC番号CRL 1573)、チャイニーズハムスター卵巣細胞CHO(たとえば、CHO-K1、ATCC番号: CCL 61、DHFR-CHO細胞株、たとえばDG44など(Urlaubら、Somat Cell Mol Genet (1998) Vol. 12, pp. 555-556を参照されたい))、特に懸濁培養に適したCHO細胞株、マウスセルトリ細胞、サル腎細胞、アフリカミドリザル腎細胞(ATCC CRL-1587)、HELA細胞、イヌ腎細胞(ATCC CCL 34)、ヒト肺細胞(ATCC CCL 75)、Hep G2および骨髄腫もしくはリンパ腫細胞、たとえばNS0(米国特許第5,807,715号を参照されたい)、Sp2/0、Y0が含まれる。
【0127】
したがって、本発明のある実施形態において、本明細書に記載の治療用抗体の重鎖および/または軽鎖をコードするベクターを含んでなる、安定して形質転換された宿主細胞が提供される。こうした宿主細胞は、典型的には、軽鎖をコードする第1のベクター、および前記重鎖をコードする第2のベクターを含んでなる。
【0128】
かかる宿主細胞はまた、本発明の抗体の性質、機能および/または収率を改変するように、遺伝子操作または適合化させることができる。非限定的な例としては特定の修飾(例えばグリコシル化)酵素およびタンパク質フォールディングシャペロンの発現が挙げられる。
【0129】
細胞培養法
本発明の治療用抗体をコードするベクターで形質転換された宿主細胞は、当業者に公知の任意の方法により培養することができる。宿主細胞はスピナー フラスコ、振盪フラスコ、ローラーボトル、ウェーブリアクター(例えば、wavebiotech.com製のシステム 1000)または中空繊維システム中にて培養し得るが、大規模生産については、好ましくは攪拌型タンクリアクターまたはバッグリアクター(例えば、Wave Biotech, Somerset, New Jersey USA)を懸濁培養に特に用いる。典型的には、撹拌型タンカーは、例えば、スパージャー、バッフルまたは低せん断インペラを使用して、吸気に適合されている。気泡塔およびエアリフトリアクターには、空気または酸素の気泡を用いた直接吸気を使用し得る。宿主細胞を無血清培地中で培養する場合、細胞保護剤(例えば、プルロニックF-68)を添加して吸気法による細胞の損傷を防ぐことができる。宿主細胞の特性に応じて、マイクロキャリアを足場依存性細胞株の増殖基質として用いてもよいし、細胞を典型的な懸濁培養に適合させてもよい。宿主細胞、特に脊椎動物宿主細胞の培養には、様々な方式(例えば、バッチ式、フェドバッチ式、反復バッチ式(Drapeauら、(1994)cytotechnology 15: 103-109)、延長型バッチ式、またはかん流培養を用いることができる。組換え技術により形質転換した哺乳動物の宿主細胞は血清含有培地(例えば、ウシ胎仔血清(FCS)含有培地)中で培養できるが、このような宿主細胞は、Keenら、(1995)cytotechnology 17:153-163に開示されているように無血清培地中で、または市販の培地(例えば、ProCHO-CDMもしくはUltraCHOTM(Cambrex NJ, USA))中で、必要に応じてエネルギー源(例えば、グルコース)および合成増殖因子(例えば、組換えインスリン)を添加し、培養するのが好ましい。宿主細胞の無血清培養においては、これらの細胞が無血清条件での増殖に適合されていることが必要とされ得る。適合法の一つは、血清含有培地中にて宿主細胞を培養し、その後、繰り返し培地の80%を無血清培地に交換し、そうして宿主細胞は無血清条件に適合するようになる(例えば、Scharfenberg Kら、(1995) Animal Cell Technology: Developments towards the 21st century(Beuvery E.C.ら編), pp619-623, Kluwer Academic publishersを参照のこと)。
【0130】
培地中に分泌された本発明の抗体は、企図される用途に適した精製度をもたらす種々の方法を用いて、培地から回収および精製することができる。例えば、ヒト患者の治療のための本発明の治療用抗体の使用は、典型的には、還元SDS-PAGEにより測定した場合に、治療用抗体を含む培地に使用する場合と比べて、少なくとも95%の純度、より典型的には、98%または99%の純度を必要とする。第1の例において、培地の細胞残屑は典型的には、遠心分離し、その後、例えば、精密ろ過、限外ろ過および/または深層ろ過によって上清を清澄化する工程によって除去する。あるいは、抗体を事前に遠心分離を行うことなく精密ろ過、限外ろ過または深層ろ過を行うことによって回収し得る。種々の他の方法(例えば、透析およびゲル電気泳動)ならびにクロマトグラフ法(例えば、ヒドロキシアパタイト(HA)、アフィニティクロマトグラフィー(必要に応じて、ポリヒスチジンなどのアフィニティタグシステムを含む)および/または疎水性相互作用クロマトグラフィ(HIC,米国特許第5,429,746号参照))が利用可能である。一実施形態において、本発明の抗体は種々の清澄化工程の後に、プロテインAまたはプロテインGアフィニティクロマトグラフィー、その後さらに、さらなるクロマトグラフィ工程(例えばイオン交換および/またはHAクロマトグラフィ、アニオンもしくはカチオン交換、サイズ排除クロマトグラフィおよび硫安分画)を使用してキャプチャーする。典型的には、様々なウイルス除去工程も用いる(例えば、DV-20フィルターなどを使用するナノろ過)。このような様々な工程を経た後、少なくとも10mg/ml以上、例えば、100mg/ml以上の本発明の抗体を含む精製(典型的には、モノクローナル)製剤が提供され、これは、本発明の一実施形態をなす。100mg/ml以上の濃度は超遠心分離によって生じ得る。好ましくは、このような製剤は、凝集した形状の本発明の抗体を実質的に含まない。
【0131】
細菌系は、抗体フラグメントの発現に特に適している。こうしたフラグメントは、細胞内、もしくはペリプラズム内に局在する。当業者に知られている方法にしたがって、不溶性ペリプラズムタンパク質を抽出し、リフォールディングして活性タンパク質を形成することができる。Sanchezら、(1999) J. Biotechnol. 72, 13-20およびCupit PMら、(1999) Lett Appl Microbiol, 29, 273-277を参照されたい。
【0132】
医薬組成物
上記の本発明の抗体の精製調製物(特にモノクローナル調製物)を、上記のヒトの疾患および障害の治療に用いる医薬組成物に組み入れることができる。典型的には、こうした組成物は、さらに、許容される医薬慣習で知られ、必要とされる、製薬上許容される(すなわち不活性な)担体を含んでなる。たとえば、Remingtons Pharmaceutical Sciences, 第16版、(1980), Mack Publishing Coを参照されたい。このような担体の例としては、適当なバッファー(例えば酢酸ナトリウム三水和物など)で製薬上許容されるpH、例えばpH5〜8の範囲内に緩衝化された、生理食塩水、リンガー溶液もしくはブドウ糖溶液のような滅菌担体がある。注射用(たとえば、静脈内、腹腔内、皮内、皮下、筋肉内もしくは門脈内投与による)または持続点滴用の医薬組成物は、目に見える粒子状物質のない適切な状態で、1mg〜10gの治療用抗体、典型的には5mg〜1g、より具体的には5mg〜25mgまたは50mgの抗体を含有することができる。このような医薬組成物を調製する方法は、当業者によく知られている。ある実施形態において、医薬組成物は、1mg〜10gの本発明の治療用抗体を、状況に応じて使用説明書と共に、単位投与剤形中に含んでなる。本発明の医薬組成物は、当業者に周知の、もしくは明白な方法にしたがって投与前に再調製されるように、凍結乾燥されていてもよい。本発明の実施形態がIgG1アイソタイプを有する本発明の抗体を含んでなる場合、クエン酸塩(たとえば、クエン酸ナトリウム)またはEDTAまたはヒスチジンといった銅のような金属イオンのキレート剤を医薬組成物に添加して、このアイソタイプの抗体の、金属を介した分解の度合いを低下させることができる。欧州特許第0612251号を参照されたい。医薬組成物はまた、アルギニン基剤のような可溶化剤、ポリソルベート80のような洗剤/抗凝集剤、バイアルの頭部空間の酸素を置換するための窒素ような不活化ガスを含みうる。
【0133】
本発明の抗体を投与するための有効投与量および治療計画は、一般に、経験的に決定され、患者の年齢、体重および健康状態、ならびに治療すべき疾患もしくは障害といった要因に左右される。こうした要因は主治医の裁量の範囲内にある。適当な投与量を選択する際の指針は、たとえばSmithら、(1977)「ヒトの診断および治療における抗体」(Antibodies in human diagnosis and therapy)、Raven Press, New Yorkに見出すことができる。
【0134】
臨床用途
本発明の拮抗薬は、多発性硬化症および他の自己免疫または炎症疾患、特には病原性TH17細胞が示唆される疾患の治療法で用いることができる。そのような疾患には、高レベルのIL-17発現が伴う。MS患者の血清およびCSF(Matusevicius, D. et al.; Mult. Scler. 5, 101-104; 1999)および関節リウマチ患者から得られた滑液において、IL-17レベルの上昇が報告されている。IL-17は乾癬においても示唆されているが(Homey et al.; J. Immunol. 164(12):6621-32; 2000)、ハムザーウィ(Hamzaoui)はベーチェット病において高レベルのIL-17を報告している(Scand. J. Rhuematol.; 31:4, 205-210; 2002)。高IL-17レベルは、全身性エリテマトーデス(SLE)においても認められている(Wong et al.; Lupus 9(8):589-93; 2000)。
【0135】
IL-7受容体介在シグナル伝達の阻害は、喘息のように高IL-17が示唆されている炎症性(非自己免疫)疾患の治療においても有用となり得る。
【0136】
従って、本発明の炎症性および/または自己免疫疾患には、乾癬およびアトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患;全身性強皮症および硬化症;炎症性腸疾患(IBD);クローン病;潰瘍性大腸炎;手術組織再潅流損傷、心筋梗塞、心停止、心臓手術後の再潅流および経皮的冠動脈形成術後の狭窄、卒中、および腹部大動脈瘤などの心筋虚血状態などの虚血再潅流障害;卒中に続発する脳浮腫;頭蓋外傷、血液量減少性ショック;窒息;成人呼吸窮迫症候群;急性肺障害;ベーチェット病;皮膚筋炎;多発性筋炎;多発性硬化症(MS);皮膚炎;髄膜炎;脳炎;ブドウ膜炎;骨関節炎;ループス腎炎;関節リウマチ(RA)、シェーグレン症候群、脈管炎などの自己免疫疾患;白血球の血管外遊出が関与する疾患;中枢神経系(CNS)炎症性障害、敗血症もしくは外傷に続発する多臓器損傷症候群;アルコール性肝炎;細菌性肺炎;糸球体腎炎などの抗原-抗体複合体介在疾患;敗血症;サルコイドーシス;組織/臓器移植に対する免疫病理学的応答;胸膜炎、肺胞炎、脈管炎、肺炎、慢性気管支炎、気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎、過敏性肺炎、特発性肺線維症(IPF)および嚢胞性線維症などの肺の炎症;乾癬性関節炎;視神経脊髄炎、ギラン・バレー症候群(GBS)、COPD、I型糖尿病などがある。
【0137】
特に、本発明の拮抗薬は、視神経脊髄炎などのあらゆる形態での多発性硬化症の治療法において有用となり得る。本発明の拮抗薬による治療は、活動性炎症疾患との関連で投与する場合に、すなわち臨床的に孤立した症候群または再発型のMSの治療で使用される場合に最も有効であることが予想される。これらの疾患段階は、臨床的におよび/またはガドリニウム増強その他のより感度の高い技術などの画像診断基準、および/または活動性疾患の他のまだ確定されていない生物マーカーによって確定することができる。特に、患者が再発に入りつつあるか再発している場合に、本発明の拮抗薬を用いて、RRMSを治療することができる(静脈、皮下、経口または筋肉投与を介して)。1実施形態では、本発明の拮抗薬は、再発開始時に、または再発開始から1時間、2時間、3時間、6時間、12時間、24時間、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日または10日以内に患者に投与する。
【0138】
CD127発現および細胞内サイトカイン染色(例:IL-17染色)などの生物マーカーを用いることで、治療用抗CD127結合タンパク質の適用に関する基準が得られる。CD4+T細胞におけるTH17増加があるMS患者の下位群が、その治療の一次候補である。1実施形態において、本発明の治療方法は、T細胞で高レベルのCD127を発現することで抗CD127治療に対して感受性となっている患者を治療する方法である。抗CD127による治療は、再発の期間を短縮し、EDSSまたはMRIによって測定可能な臨床活性の減弱を早める可能性がある。患者が寛解に入ると、治療を停止して、正常T細胞の成長および恒常性の阻害などの合併症を回避することができる。抗CD127抗体を用いることで、再発間の期間を長くし、患者の生活の質を改善することもできる。
【0139】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語はいずれも、一般に使用され、当業者が理解するものと同じ意味を有する。
【実施例】
【0140】
実施例およびそこで使用される材料は、例示のみを目的としたものであり、本発明を限定するものではない。
【0141】
【0142】
実施例1:マウスCD127に結合するモノクローナル抗体の特性決定
方法
1.1:pStat5検出アッセイでFACSを用いることによるマウスCD127に対する市販のマウス抗体の評価
本実施例において、発明者らは、IL-7誘発Stat5リン酸化(pStat5)を阻害する市販の抗マウスCD127抗体を確認した。すなわち、標準的なプロトコールにより、C57B/6マウス脾臓から脾細胞を得た。次に、ミルテニー(Miltenyi)磁気単離キット(カタログ番号130-049-201)を用いて脾細胞からCD4+T細胞を精製した。CD4+T細胞100万個/mLを最初に下記の図に示した方法に従って、指定の抗体と濃度で37℃で30分間にわたってインキュベートした。使用した抗体はBD Biosciencesの対照ラットIgG2a(#553926)、BD Biosciencesの抗CD127(クローンSB/14、#550426)、eBiosciencesの抗CD127(クローン:A7R34、#16-1271)、Abcam抗CD127(クローンSB199、#ab36428)、R&D抗CD127(MAB7471および7472)であった。次に、細胞を未処置とするか、1ng/mLマウスIL-7によって37℃で60分間処理した。細胞を回収し、IL-7処理後に直ちに氷上に置いた。次に、細胞を氷冷PBSで1回洗浄し、1%パラホルムアルデヒド中にて37℃で10分間固定した。細胞をPBSで洗浄し、90%メタノール/PBS 500μLとともに氷上で30分間インキュベートした。細胞をPBSで再度洗浄し、細胞ペレットをPBS 100uLに再懸濁させた。細胞を、抗pStat5-Alexa Fluor 647抗体(BD Biosciences、#612599)5μLによって室温で暗所にて1時間染色した。次に、細胞をPBSで2回洗浄し、BD Biosciences Facscalibur装置を用いるフローサイトメトリーにより、製造者マニュアルに従って分析した。結果を図1に示してある。
【0143】
そのグラフでは、細胞数を細胞内pStat5の平均蛍光強度(MFI)に対してプロットした。ヒストグラムでは、未処理CD4+T細胞のMFIが示されている。IL-7による処理によって、MFIが右側に移動し、ヒストグラム中のバーによって示した適切なゲートによって、pStat5の増加した細胞を決定した。対照IgGはpStat5を阻害しなかった。しかしながら、A7R34はpStat5を強力に阻害した。抗体クローンSB/14も阻害を示したが、それはA7R34ほど強くなかった。abcamクローンSB199およびR&D systems抗体は、高濃度で部分的にStat5-pを阻害することができたのみであった。
【0144】
SB/14について、イン・ビトロでの分化TH17のIL-7によって推進される増殖の阻害も調べた。下記の実施例3に記載の方法に従って、ミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質(MOG)の免疫感作により、マウスにおいて実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)を誘発した。EAEマウスの脾臓またはリンパ節からCD4+T細胞を回収し、IL-7の非存在下または存在下にイン・ビトロで3日間培養した。図11Cに示したように、IL-7により、IL-17細胞内染色によって検出可能なTH17細胞の増殖が促進された。マウスIL-7Raに対する抗体SB/14は、Th17細胞のIL-7が推進する増殖を阻害したが、対照IgGでは阻害されなかった。
【0145】
前記抗体については、マウス胸腺細胞でのTSLP介在pStat5の阻害も調べた。胸腺細胞におけるCD4-細胞は、機能性TSLP受容体を発現し、FACS分析でゲーティングした。図1Bに示したように、IL-7誘発およびTSLP誘発pStat5は、SB/14(BD)およびA7R34(eBio)によって阻害された。従って、マウスCD127(SB/14およびA7R34)に対する抗体は、IL-7介在シグナル伝達およびTSLP介在シグナル伝達の両方を阻害した。
【0146】
1.2:ペプチドELISAによるエピトープの確認
マウスIL7RECDの7個の重複ペプチドを有する15量体を、Shanghai Science Peptide Biology TechnologyおよびGL Biochem (Shanghai) Ltdが合成した。ペプチドはいずれも、連続流固相ペプチド合成によって製造した。次に、ペプチドとビオチン部分の間にスペーサーAcpを設けて、ペプチドのN末端でペプチドをビオチン化し、すなわちビオチン-Acp-ペプチドとした。
【0147】
1μg/mLの各試験抗体の炭酸緩衝液中溶液(15mM Na2CO3、35mM NaHCO3、0.2g/L NaN3、pH9.6)100μLを入れた96ウェルプレートのウェルを、4℃で終夜コーティングした。翌日、プレートを洗浄緩衝液(0.05%Tween-20を含む1倍PBS)で200μL/ウェルにて3回洗浄し、200μL/ウェルのブロッキング緩衝液(10mg/mLウシ血清アルブミン(BSA)のPBST中溶液)を37℃で1時間インキュベートした。プレートを3回洗浄した後、2μg/mLの合成ビオチン化ペプチド100μLを加えて37℃で1時間経過させた。3回の洗浄後、100μL/ウェルの1/2000希釈HRP-SAを加え、37℃で30分間インキュベートした。5回の洗浄後に、100μL/ウェルのTMB基質溶液を用いた。室温で2から5分間インキュベートしてから、2N HClで停止した。適切な時間分解プレートリーダーを用いてプレートを450nmで読み取った。
【0148】
1.3:ファージペプチドディスプレイのバイオパニングによるエピトープの予測
糸状バクテリオファージM13上でディスプレイされたランダムペプチドライブラリーを手段として用いて、モノクローナル抗体のエピトープのマッピングを行った(Scott and Smith, 1990, searching for peptide ligands with an epitope library, Science, 249:386-390)。本発明者らは、市販のファージディスプレイランダムペプチドライブラリーおよび社内のファージディスプレイランダムペプチドライブラリーを用いて、マウス抗体に結合するファージペプチドを同定した。富化ファージディスプレイペプチドコンセンサス配列または確認されたファージペプチドからのミモトープを用いて、マウス抗体の可能なエピトープ(ファージペプチドミモトープ:ファージペプチドまたはエピトープのミミックによって模倣される抗原の表面上の抗体相互作用部位)を予測した(Geysen et al., 1986, a priori delineation of a peptide which mimics a discontinuous antigenic determinant. Mol. Immunol., 23:709-715; Luzzago et al., 1993, mimicking of discontinuous epitopes by phage-displayed peptides, I. epitope mapping of human H ferritin using a phage library of constrained peptides, Gene, 128: 51-57)。前記二つのランダムライブラリーから確認されたファージペプチドミモトープにより、マウス抗体の二つの可能な不連続エピトープが予測された。
【0149】
ランダムペプチドライブラリー
1.Ph.D-12ファージディスプレイランダムペプチドライブラリー(New England Biolabs Inc.から、#E8110S)
2.fGWX10ファージディスプレイランダムペプチドライブラリー(GSK社内ライブラリー)。
【0150】
Ph.D-12ファージディスプレイランダムペプチドライブラリーを用いるバイオパニング手順
固定化mAb9B7に対するPh.D-12ファージディスプレイランダムペプチドライブラリーのバイオパニングを、実質的に製造者マニュアルに従って実施した。すなわち、
1)12ウェルプレートのウェルに100μg/mLの各試験抗体(0.1M NaHCO3中溶液、pH8.6)のコーティングを行い、緩やかに撹拌下に4℃で終夜インキュベートする。
2)ブロッキング緩衝液(抗マウス抗体手順に0.1M NaHCO3、pH8.6、5mg/mL BSA、0.02 NaN3を用い、次に抗ヒト抗体手順に1%ミルクを用いた)で4℃にて1時間インキュベートし、TBST洗浄を6回行う(TBS+0.1%[体積比]Tween-20)。
3)コーティングされたプレート上にTBST中の希4×1010ファージを加え、室温で60分間緩やかに揺らす。
4)結合していないファージを廃棄し、プレートをTBSTで10回洗浄する。
5)結合したファージを0.2Mグリシン-HCl(pH2.2)300μL、1mg/mLのBSAで溶離し、1M Tris-HCl(pH9.1)45μLで中和して、さらに2回のバイオパニングに供する。
6)接種した大腸菌ER2738培養液に溶出液を加え、高振盪下に4.5時間にわたって37℃でインキュベートする。次に、遠心した培養上清を、4℃で終夜にわたりPEG/NaCl中で沈澱させる。
7)得られた3回目の増幅溶出物をLB/IPTG/Xgalプレート上で力価測定する。力価測定プレートからのプラークをDNA配列決定に用いた。
【0151】
fGWX10ファージディスプレイランダムペプチドライブラリーを用いるバイオパニング手順
10量体ランダムペプチド配列のディスプレイを行う社内ファージライブラリーfGWX10を、既報の方法に従って構築した(Deng et al., 2004, Identification of Peptides that inhibit the DNA binding, trans-activator, and DNA replication functions of the human papillomavirus type 11 E2 protein, J. Virol., 78: 2637-2641)。すなわち、
1)各試験抗体(0.1M NaHCO3中溶液、pH 8.6)100μg/mLを12ウェルプレートのウェルにコーティングし、緩やかに撹拌しながら4℃で終夜インキュベートする。
2)LB培地10mLの入った1本の管に大腸菌K91を接種する。培地を高振盪しながら37℃でインキュベートする。
3)ブロッキング緩衝液(抗マウス抗体手順に0.1M NaHCO3、pH8.6、5mg/mL BSA、0.02 NaN3を用い、次に抗ヒト抗体手順に1%ミルクを用いた)で4℃にて1時間インキュベートし、TBST洗浄を6回行う(TBS+0.1%[体積比]Tween-20)。
4)コーティングされたプレート上にTBST 350mLとともに希fGWX10 ファージ(多様性1×1010)50μLを加え、室温で60分間緩やかに揺らし、プレートをTBSTで10回洗浄する。
5)0.2MグリシンHCl(pH2.2)300μL、1mg/mL BSAで結合したファージを微小遠心管中に溶離し、1M Tris-HCl、pH9.1 45μLで中和して、さらに2回のバイオパニングを行う。
6)LB/Tetプレート上で接種大腸菌K91細胞を用いて未増幅の3回溶出物を力価測定する。力価測定からのコロニーを用いてDNA配列決定を行った。残った溶出物は4℃で保存する。
【0152】
1.4:Biacoreによるマウス抗体のエピトープ結合の測定
マウスCD127における抗マウスCD127抗体の結合エピトープを、Biacore T100システム(GE Healthcare)を用いて評価した。すなわち、標準的なアミンカップリングキットおよび手順を用い、最終レベル約100RU(応答単位)でCM5バイオセンサーチップ上に抗マウスCD127抗体を固定化した。HBS-EP緩衝液pH7.4(10mM HEPES、0.15M塩化ナトリウム、3mM EDTAおよび0.005体積%界面活性剤P20からなる)を流動緩衝液として用いた。EDC/NHS/エタノールアミンを用いて賦活/失活させる比較細胞に対してセンソグラム(sensogram)を行った。IL7R ECDの7個の重複ペプチドを有する15量体を、Shanghai Science Peptide Biology TechnologyおよびGL Biochem (Shanghai) Ltdが合成した。各ペプチドを、流量30μL/分で120秒間にわたり各種濃度で注入した。Biacore評価ソフトウェアパッケージを用いてKd値を計算した。試験は25℃で行った。
【0153】
表1に、ファージペプチドライブラリー、ペプチドELISAおよびBiacoreの方法のうちの1以上によって確認された2種類のマウス抗体であるBD BiosciencesクローンSB/14およびeBiosciencesクローンA7R34についてのマウスCD127(NP_032398)のエピトープ領域を示した。
【0154】
表1:抗マウスCD127抗体SB/14およびA7R34についてのエピトープ試験のまとめ
【表1】
【0155】
実施例2:ヒトCD127(hCD127)に結合するモノクローナル抗体の形成
文献(E Harlow and D Lane, Antibodies a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)に記載の方法にほぼ従って、ハイブリドーマ細胞により、モノクローナル抗体(mAb)を作った。
【0156】
9B7および6C5などのハイブリドーマを形成するのに用いた抗原は、ヒトCD127(配列番号1)のアミノ酸21から262を含む二量体組換えヒトCD127細胞外ドメイン(ECD)-Fc(R&D Systems、#306-IR)であった。6A3および1A11などのハイブリドーマを形成するのに用いた抗原は、CD127の全ECD(配列番号1のアミノ酸21から219)を含む構築物であった。
【0157】
抗原のFCAまたはFIA中溶液(Sigma-Aldrich、#F5881、#F5506)(体積比1:1)を腹腔内注射することで、Balb/cマウスを初回抗原刺激および追加免疫した。応答者動物からの脾臓を回収し、SP/0骨髄腫細胞に融合させて、ハイブリドーマを形成した。対象のハイブリドーマを、半固体培地(メチルセルロース溶液)を用いてモノクローン化し、手作業で96ウェルプレートに拾い入れた。ハイブリドーマ上清材料について、ELISA、CHO-CD127トランスフェクション細胞FACS、pStat5 FACSおよびBIAcore T100を用いてCD127ECDに対する結合のスクリーニングを行った(結果は下記に示した)。
【0158】
特定の精製mAb(ハイブリドーマ上清9B7、6C5、6A3および1A11から単離)について、TH17増殖アッセイで、IL-7誘発IFN-γおよびIL-17の阻害を調べた。さらに、市販の抗hCD127 R34.34が、TH17増殖アッセイでIL-7誘発IFN-γおよびIL-17を阻害することが示され、それもさらなる分析用に選択した。
【0159】
方法
2.1:ELISAによるCD127に結合するハイブリドーマの選択
5μg/mLの組換えヒトCD127ECDを、ELISAプレート上にコーティングした。試験ハイブリドーマ上清または精製物からの抗CD127抗体を、プレート全体で力価測定した。西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗マウスIgG抗体によって処理することで、結合レベルを検出した。TMB基質を用いてELISAを作成した。9B7ハイブリドーマ上清についての結果は、図2に示した。
【0160】
2.2:蛍光活性化細胞分類(FACS)分析
MockトランスフェクションCHOまたはCHO-CD127細胞(細胞2×106個/mL)を、4%FCSのPBS中溶液(FACS緩衝液)とともに1時間にわたり、1μg/mLのハイブリドーマ上清または精製抗体によって染色した。細胞はさらに、好適な陰性対照マウス抗体および抗ヒトCD127陽性対照(R34.34デンドリティクス社、#DDX0700)でも染色した。細胞をFACS緩衝液で洗浄し、抗マウスIgG ALEXA488二次抗体1:2000(Invitrogen Inc.、#13-A11017)で染色した。FACS緩衝液で洗浄後、細胞をLSR II(BD Biosciences Inc.)で分析した。9B7抗体についての結果を図3に示した。
【0161】
2.3:9B7によるIL7刺激IL7受容体シグナル伝達Stat5リン酸化の阻害
冷凍PBMCを実験前夜に解凍し、それを回収用の10%FBSを含むRPMI1640培地に入れた状態とする。CD127に対する機能性抗体のスクリーニングを行うため、2μg/mLおよび0.2μg/mLのハイブリドーマ培地、陽性対照抗体(R34.34、デンドリティクス社)または試験上清サンプルを、PBMC細胞5×105個とともに30分間インキュベートしてから、1ng/mLのIL-7による刺激を行った。未処理細胞をバックグラウンドシグナルとして分析し、IL-7処理細胞を陰性対照として設定した。それらの対照または試験サンプルとともに30分間インキュベートした後、細胞を1ng/mLのIL-7で37℃にて15分間刺激した。次に、細胞を1.6%のパラホルムアルデヒド/PBSで37℃にて10分間固定し、100%メタノール中にて20から30分間にわたって透過性化した。次に、細胞を染色緩衝液(1%BSAのPBS中溶液)で2回洗浄し、Alexa-647標識抗pStat5抗体 BD Biosciences Inc、#612599)7μLで1時間染色した。サンプルを、BD LSR II FACS装置で分析した。9B7についての結果を図4に示した。
【0162】
セクション3.19に記載の方法に従って、抗体R34.34、6A3、1A11および6C5について最適化された方法を用いた。
【0163】
2.4:ヒトTh17増殖アッセイでのIL-7誘発IL-17産生の阻害
正常ヒトCD4+T細胞の集団における記憶TH17細胞を刺激して3日間増殖させる。次に、これらのTH17細胞をPMAおよびイオノマイシンによって活性化して、IL-17産生を刺激する。3日間のインキュベーション期間における機能性抗CD127抗体によるIL-7とCD127との間の相互作用の遮断により、TH17細胞の増殖が防止されて、結果的にIL-17産生の低減を生じるはずである。
【0164】
市販のキット(CD4+T細胞単離キットII、#130-091-155、Miltenyi Biotec)を用いて、ヒト抹消血単核球からCD4+T細胞を単離した。CD4+T細胞を、1.5×10E6/mLの濃度で、10%FCSを含むRPMI培地に再懸濁させた。細胞を、対照または抗IL-7Rα抗体とともに30分間前インキュベートした。次に、10ng/mLのIL-7の存在下または非存在下に細胞を37℃で72時間培養した。インキュベーション終了後、細胞を50ng/mLのPMAおよび1μg/mLのイオノマイシンで5時間刺激した。細胞培養上清を回収し、IL-17濃度をElisa(eBiosciences)によって測定した。このアッセイを抗体9B7に利用した。
【0165】
下記のプロトコールに従って、抗体6C5、6A3およびR34.34のアッセイを行った。マニュアル(#130-091-155、Miltenyi)に従って、CD4+細胞を単離した。100μL中約1×106/mLのCD4+細胞を、同体積の2×Th17分化培地(2μg/mL抗CD28+10μg/mL抗IFN-γ+10μg/mL抗IL-4+12.5ng/mL IL-1β+20ng/mL IL-23+50ng/mL IL-6)と混合し、5%CO2下に5日間にわたり37℃で培養した。TH17培地での各種サイトカイン類および増殖因子による処理によって、優先的にCD4+細胞がTH17細胞に分化した。第5日の分化培養細胞からのCCR6+細胞を、BD FACS SORP Aria IIを用いて分別した。次に、CCR6+細胞を2×106/mLに調節して、IL-17産生アッセイに供した。
【0166】
IL-17およびIFN-γレベルを測定するため、CCR6+細胞100μLを37℃で1時間にわたり、試験抗体とともにインキュベートし、10ng/mLのIL-7 100μLと混合した。5%CO2を補充して、37℃で24から40時間にわたり、細胞を培養した。培養上清におけるIFN-γおよびIL-17レベルをFlowCytomix(Bender MedSystems)によって、それぞれ24時間目および40時間目に測定した。
【0167】
2.5:表面プラズモン共鳴による結合の動力学の測定
ヒトCD127における抗CD127抗体の結合動力学を、Biacore T100システム(GE Healthcare)を用いて評価した。すなわち、標準的なアミンカップリングキットおよび手順を用いて、組換えヒトCD127 ECDを、最終レベル約100RU(応答単位)でCM5バイオセンサーチップに固定化した。HBS-EP緩衝液pH7.4(10mM HEPES、0.15M塩化ナトリウム、3mM EDTAおよび0.005体積%界面活性剤P20からなる)を流動緩衝液として用いた。EDC/NHS/エタノールアミンを用いて賦活/失活させる比較細胞に対してセンソグラムを行った。分析物(抗CD127抗体)を、流量30μL/分で120秒間にわたり各種濃度で注入した。抗原表面を、10mMグリシンHCl、pH2.5を用いて再生した。Biacore評価ソフトウェアパッケージを用いてKd値を計算した。試験は25℃で行った。
【0168】
表2. 9B7の上清物についての動力学データ。試験は37℃で行った。
【表2】
【0169】
9B7のイソタイプを、κ軽鎖定常部を有するIgG1であると決定した。
【0170】
下記のアッセイを用いて、抗CD127抗体6C5、6A3、1A11およびGR34の結合動力学を評価した。抗体の動力学を、反応温度25℃でBiacore T100システム(GE Healthcare)を用いて評価した。標準的なアミンカップリングキットおよび手順を用い、最終レベル約10000RU(応答単位)でCM5バイオセンサーチップ上にウサギ抗マウスIgG抗体を固定化した。HBS-EP緩衝液pH7.4(10mM HEPES、0.15M塩化ナトリウム、3mM EDTAおよび0.005体積%界面活性剤P20からなる)を流動緩衝液として用いた。EDC/NHS/エタノールアミンを用いてブランク固定化した比較細胞に対してセンソグラムを行った。リガンド捕捉のため、25nMの6C5を10μL/分で30秒間にわたりチップ表面全体に注いだ。分析物(組換えヒトCD127 ECD)を、30μL/分で500秒間にわたり各種濃度で注入した。センサーチップ表面を10mMグリシンHCl、pH1.7によって再生した。Biacore評価ソフトウェアパッケージを用いて、Kd値を計算した。
【0171】
表3. 6C5および6A3の動力学データ
【表3】
【0172】
2.6:抗体プロファイルのまとめ
抗体9B7は、556pMの解離定数でCD127に強固に結合することが認められた。それは、ヒトCD4細胞におけるIL-7誘発STAT-5リン酸化の部分的遮断と相関して、IL-7のCD127への結合を部分的に遮断する能力も有している(図4)。
【0173】
抗体6C5(マウスIgG1)は、50μg/mLのIC50でpSTAT5シグナル伝達を阻害することが確認された。
【0174】
抗体6A3(マウスIgG1)は、本明細書に記載のアッセイで0.099μg/mLのIC50でpSTAT5シグナル伝達を阻害することが確認された。それは、7.99nMのIL-7Rα EDCに対するアフィニティ(KD)および3.34×10-4のKdを有していた。それは、0.19μg/mLのEC50でCHOで発現されたIL-7Rαに結合することができ、1.92μg/mLのIC50でIL-7/IL-7Rαを遮断した。6A3は、CD127エピトープ領域2、3、4および5(配列番号118から121)内のアミノ酸に結合することが確認された。
【0175】
抗体1A11(マウスIgG1)は、本明細書に記載のアッセイで0.088μg/mLのIC50でpSTAT5シグナル伝達を阻害することが確認された。それは、3.44nMのIL-7Rα EDCに対するアフィニティ(KD)および2.51×10-4のKdを有していた。それは、0.16μg/mLのEC50でCHOで発現されたIL-7Rαに結合することができ、1.79μg/mLのIC50でIL-7/IL-7Rαを遮断した。1A11は、CD127エピトープ領域2、3、4および5(配列番号118から121)内のアミノ酸に結合することが確認された。
【0176】
抗体GR34(マウスIgG1)は、本明細書に記載のアッセイで0.22μg/mLのIC50でpSTAT5シグナル伝達を阻害することが確認された。それは、15.3nMのIL-7Rα EDCに対するアフィニティ(KD)および8.75×10-4のKdを有していた。それは、0.27μg/mLのEC50でCHOで発現されたIL-7Rαに結合することができ、2.29μg/mLのIC50でIL-7/IL-7Rαを遮断した。GR34は、CD127エピトープ領域2、3、4および5(配列番号118から121)内のアミノ酸に結合することが確認された。
【0177】
市販の抗体R.3434(デンドリティクス社)は、本明細書に記載のアッセイで0.67μg/mLのIC50でpSTAT5シグナル伝達を阻害することが確認された。それは、7.74nMのIL-7Rα EDCに対するアフィニティ(KD)および1.46×10-4のKdを有していた。それは、0.01μg/mLのEC50でCHOで発現されたIL-7Rαに結合することができ、1.38μg/mLのIC50でIL-7/IL-7Rαを遮断した。R.3434は、CD127エピトープ領域2、3、4および5(配列番号118から121)内のアミノ酸に結合することが確認された。
【0178】
2.7:各種ドメインの配列決定
2.7.1:9B7
キアゲン(Qiagen)からのOligotex Direct mRNAキットを用いて、製造者のマニュアルに従い、2×107個の9B7クローン細胞のペレットから総RNAを抽出した。マウスVHおよびVK遺伝子に対する従来のプライマーを用いて製造者マニュアルに従い、ImProm-II(商標名)逆転写システム(Promega)によって、mRNAのcDNAへの逆転写を行った。重鎖可変領域についての7つの反応および軽鎖可変領域についての6つの反応を増幅した。
【0179】
精製RT-PCRフラグメントをpMD18-Tベクター(Takara)にクローニングし、配列アラインメント、データベース検索およびKABATに列記された既知の免疫グロブリン可変配列とのアライメントにより、各ハイブリドーマについてコンセンサス配列を得た(Kabat, E.A., Wu, T.T., Perry, H.H., Gottesman, K.S., Foeller, C., 1991. Sequences of proteins of Immunological Interest, 5th edition, US Department of Health and Human Services, Public Health Service, NIH)。
【0180】
mAb 9B7のコンセンサス配列は下記の通りであった:
mAb 9B7の再構成VHはIgh-VQ52 VH2ファミリーのV断片を用いた。
【0181】
【0182】
(CDR領域は太字である。Ig遺伝子:免疫グロブリン遺伝子。VH:抗体重鎖可変領域。VL:抗体軽鎖可変領域。FR:フレームワーク領域。CDR:相補性決定領域)。
【0183】
2.7.2:6C5
6C5抗体は、下記の重鎖および軽鎖可変領域を有することが確認された(Kabatに従い、6C5のCDRを太字で示してある。
【0184】
【0185】
2.7.3:6A3
6A3抗体は、下記の重鎖および軽鎖可変領域を有することが確認された(カバットに従い、6A3のCDRを太字で示してある。
【0186】
【0187】
2.7.4:1A11
1A11抗体は、下記の重鎖および軽鎖可変領域を有することが確認された(カバットに従い、1A11のCDRを太字で示してある。
【0188】
mAb 1A11のVH
【0189】
2.7.5:R3434
R3434は、デンドリティクス社から市販されている。ゲル内消化タンパク質の社内での配列分析では、ABI Procise 494自動タンパク質配列決定装置(Applied Biosystems, Foster City, Ca., USA)でのエドマン分解を用いるN末端配列分析、ペプチド質量指紋法およびブルカー(Bruker)のUltraflex lll Maldi-TOF質量分析装置でのMALDI-LIFT-MS/MS配列決定およびブルカーのHCT+イオントラップ質量分析装置でのさらなるLC-ESI-MS/MS配列決定(いずれもBruker Daltonics社(Bremen, Germany)から)を行った。そのリバースエンジニアリングクローンはGR34と称し、それの配列は下記の通りである。
【0190】
mAb GR34の再構成VH
【0191】
2.8:ペプチドELISAによる9B7エピトープの確認
抗hCD127抗体9B7のエピトープを、前述の方法(1.2)に従って、ペプチドELISAによって決定した。このマッピングの結果を表3に示した。
【0192】
表4は、クローン9B7を用いるペプチドELISAによって確認されたhCD127の3つの陽性を示す。
【表4】
【0193】
2.9:表面プラズモン共鳴(BIAcore)による6C5およびR.34.34の抗体結合エピトープの決定
CD127 ECDの7から8個の重複ペプチドを有する15量体を、Shanghai Science Peptide Biology TechnologyおよびGL Biochem (Shanghai) Ltdが合成した。ペプチドはいずれも、連続流固相ペプチド合成によって製造した。次に、ペプチドとビオチン部分の間にスペーサーAcpを設けて、ペプチドのN末端でペプチドをビオチン化し、すなわちビオチン-Acp-ペプチドとした。
【0194】
ヒトCD127の15量体合成ペプチドへの抗CD127抗体の結合を、Biacore T100システム(GE Healthcare)を用いて評価した。すなわち、標準的なアミンカップリングキットおよび手順を用い、最終レベル約1000RU(応答単位)でCM5バイオセンサーチップ上に抗CD127抗体を固定化した。HBS-EP緩衝液pH7.4(10mM HEPES、0.15M塩化ナトリウム、3mM EDTAおよび0.005体積%界面活性剤P20からなる)を流動緩衝液として用いた。EDC/NHS/エタノールアミンを用いて賦活/失活させる比較細胞に対してセンソグラムを行った。1μMのペプチドを、流量10μL/分で120秒間にわたり注入した。Biacore評価ソフトウェアパッケージを用いてデータを解析した。試験は25℃で行った。
【0195】
表5は、BIAcoreによって確認された6C5およびR34.34抗体における陽性領域を示す。
【表5】
【0196】
2.10:ファージペプチドディスプレイのバイオパニングによるエピトープの予測
抗hCD127抗体のエピトープを予測するため、抗体9B7、6C5、R3434、6A3および1A11について前述の方法(セクション1.3)に従ってファージディスプレイを行った。
【0197】
2.10.1:9B7
2つのランダムペプチドライブラリーから確認されたファージペプチドコンセンサス配列モチーフまたはミモトープにより、mAb 9B7の不連続エピトープ(表4)を予測した。
【0198】
表6に、クローン9B7を用いるファージペプチドライブラリーによって確認されたhCD127の3つの陽性領域を示した。
【表6】
【0199】
ファージペプチドディスプレイおよびペプチドELISAによるエピトープマッピングのまとめ:下記のように、9B7モノクローナル抗体におけるCD127の可能なエピトープとして、3つの領域を確認した。
【0200】
【0201】
2.10.2:6C5
2つのランダムライブラリーから確認されたファージペプチドミモトープにより、抗体6C5の2つの可能な不連続エピトープを予測した。
【0202】
表7に、ファージペプチドライブラリーによって確認された6C5エピトープ領域を示した。
【表7】
【0203】
ファージペプチドディスプレイおよびペプチドBIAcoreによるエピトープマッピングのまとめ:下記のように、6C5におけるCD127の可能なエピトープとして、3つの領域を確認した。
【0204】
【0205】
2.10.3:R.34.34
表8に、ファージペプチドライブラリーによって確認されたR34.34エピトープ領域を示した。
【表8】
【0206】
ファージペプチドディスプレイおよびペプチドBIAcoreによるエピトープマッピングのまとめ:下記のように、R34.34におけるCD127の可能なエピトープとして、3つの領域を確認した。
【0207】
【0208】
2.10.4:6A3
2つのランダムペプチドライブラリーから確認したファージペプチドコンセンサス配列モチーフまたはミモトープにより、mAb 6A3の不連続エピトープを予測した。
【0209】
表9に、ファージペプチドライブラリーによって確認された6A3エピトープ領域を示した。
【表9】
【0210】
これらの領域が、IL-7結合の部位に関与する可能性がある、CD127の重要なエフェクター部位内の非常に近接した領域である可能性があることが推定される。
【0211】
2.10.5:1A11
2つのランダムペプチドライブラリーから確認されたファージペプチドコンセンサス配列モチーフまたはミモトープにより、mAb 1A11の不連続エピトープを予測した。
【0212】
表10に、ファージペプチドライブラリーによって確認された1A11エピトープ領域を示した。
【表10】
【0213】
これらの領域が、IL-7結合の部位に関与する可能性がある、CD127の重要なエフェクター部位内の非常に近接した領域である可能性があることが推定される。
【0214】
2.11:BIAcoreによる抗体結合中和アッセイ
25℃の温度でBIAcore T100システム(GE Healthcare)を用いてアッセイを行った。標準的なアミンカップリングキットおよび手順を用い、最終レベル約500RU(応答単位)でCM5バイオセンサーチップ上に組換えヒトIL-7を固定化した。HBS-EP緩衝液pH7.4(10mM HEPES、0.15M塩化ナトリウム、3mM EDTAおよび0.005体積%界面活性剤P20からなる)を流動緩衝液として用いた。EDC/NHS/エタノールアミンを用いてブランク固定化した比較細胞に対してセンソグラムを行った。別のバイアル中にて、10μg/mL組換えヒトCD127 ECDを各種濃度の抗CD127抗体と混合し、4℃で30分間インキュベートした。これらの混合物、ならびに10μg/mL組換えヒトCD127 ECD単独とを、10μL/分で30秒間にわたり、チップ表面上に注いだ。各注液後、センサーチップ表面を10mMグリシンHCl、pH2.0で再生した。100μg/mLで、抗体6C5はセンサーチップ上のIL-7へのCD127-ECDの結合を完全に阻害した。6C5についての結果を図13に示した。
【0215】
反応温度25℃でBiacore T100システム(GE Healthcare)を用いて、6A3について前記アッセイを繰り返した。標準的なアミンカップリングキットおよび手順を用い、最終レベル約1000RU(応答単位)でCM5バイオセンサーチップ上に組換えヒトIL-7を固定化した。HBS-EP緩衝液pH7.4(10mM HEPES、0.15M塩化ナトリウム、3mM EDTAおよび0.005体積%界面活性剤P20からなる)を流動緩衝液として用いた。EDC/NHS/エタノールアミンを用いてブランク固定化した比較細胞に対してセンソグラムを行った。別のバイアル中にて、10μg/mL組換えヒトCD127 ECDを各種濃度の抗CD127抗体と混合し、4℃で1時間インキュベートした。これらの混合物、ならびに10μg/mL組換えヒトCD127 ECD単独とを、10μL/分で60秒間にわたり、チップ表面上に注いだ。各注液後、センサーチップ表面を10mMグリシンHCl、pH2.0で再生した。10μg/mLで、抗体6A3はセンサーチップ上のIL-7へのCD127-ECDの結合を完全に阻害した。結果を図16Aおよび16Bに示した。阻害比を、次の式:阻害比=1-RU(サンプル)/RU(ECD)によって計算した。
【0216】
2.12:FACSによるIL-7競合
CHO-CD127細胞を取得し、冷ダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)で3回洗浄し、別個のバイアル中にて2×105個の細胞を2μg/mLの組換えIL-7とともに4℃で30分間インキュベートした。インキュベーション後、抗CD127抗体を加え、4%FCS/DPBS(FACS緩衝液)中にてインキュベーションをさらに30分間続けた。その後、細胞をFACS緩衝液で3回洗浄し、1:2000希釈で抗マウスIgG ALEXA488二次抗体(Invitrogen Inc.、#13-A11017)による染色を行った。細胞をFACS緩衝液で3回洗浄し、LSR II(BD Biosciences Inc.)で分析した。
【0217】
IL7の濃度を上昇させていくと、6A3、R34.34または6C5のCHO-CD127への結合は低下し、それはCHO細胞上で発現されたCD127へのこれら抗体とIL-7との結合競合を示している(図14に6C5で得られた結果を示し、図17に6A3で得られた結果を示した)。9B7結合に対する効果は相対的に顕著ではなく、それは9B7がこのアッセイではIL-7競合に対して効果が相対的に低かったことを示している。
【0218】
2.13:FACSによる抗体結合交差競合アッセイ
CHO-CD127細胞を取得し、冷DPBSで3回洗浄した。蛍光標識抗CD127抗体(BD Biosciences Inc、#552853)をFACS緩衝液で希釈し、各種濃度の標識されていない同抗体と混合するか、試験抗CD127抗体、R34.34および6C5と混合した。得られた抗体混合物をCHO-CD127細胞とともに4℃で30分間インキュベートした。FACS緩衝液で3回洗浄した後、蛍光標識BD抗体の結合をLSR II(BD Biosciences Inc.)で測定する。得られた結果から、未標識BD抗体以外に、mAb R34.34および6C5が標識BD抗体との結合に関して競合していることが明らかになり、それは抗体BD、R34.34および6C5がCHO細胞上で発現されたCD127上で同様のエピトープを認識することを示している(図15)。
【0219】
実施例3:EAEでのIL-7R抗体の治療効果
MSを治療する上での実施例1に記載のマウス抗体の可能性を、マウスEAEモデルで評価した。この実験を複数回繰り返したが、下記では一つの代表的な例について説明する。
【0220】
方法
3.1:実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)の誘発および評価
雄C57BL/6マウス(6から8週齢;Shanghai Laboratory Animal Center, Chinese Academy of Sciences, Shanghai, China)を、ミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質の合成ペプチド(MOG残基35から55)(300μg)で皮下投与によって免疫感作した。免疫感作は、完全フロインドアジュバント(CFA、5mg/mL結核菌の加熱殺菌H37Ra株(Difco Laboratories)を含む)中のMOGペプチドを混合することで実施した。PBS中の百日咳毒素200ng(List Biological Laboratories)を免疫感作当日およびその48時間後に静脈注射した。
【0221】
治療プロトコールには、市販の抗マウスCD127 mAbを用い(BD Bioscience、ラット抗マウスCD127 SB/14、カタログ番号550426)、IL-7のみを中和した第2のモノクローナル抗体も調べた(R&D systems)。試験抗体または対照IgGを、200μg/マウスで第10日から1日おきに腹腔内投与して、合計5回注射した。一部の実験で、対照に関して、対照IgGに代えてPBSを用いた。1日1回、マウスを秤量し、疾患徴候について調べた。それらのマウスについて、EAE評点スケール:0、臨床兆候なし;1、尾の引きずり;2、不全対麻痺(衰弱、一方もしくは両方の後肢の不完全麻痺);3、対麻痺(両方の後肢の完全麻痺);4、前肢の衰弱もしくは麻痺を伴う対麻痺;5、瀕死状態もしくは死亡を用いて疾患の評点を行った。
【0222】
3.2:組織検査および免疫組織化学検査
組織分析用の組織を、免疫感作21日後のマウスから摘出し、直ちに4%パラホルムアルデヒドで固定した。パラフィン包埋した5から10μmの脊髄切片をルクソールファースト青またはH&Eで染色し、次に光学顕微鏡で調べた。CD4+T細胞およびCD11b+単核球/マクロファージに免疫蛍光染色のため、脊髄をマウスから摘出し、PBSで潅流し、4℃で終夜にわたり30%ショ糖中でインキュベートした。次に、組織を切開し、最適切削温度(OCT)化合物に包埋した。冷凍検体をクリオスタットで7μmで切り取り、その切片をスライドガラス上に乗せ、風乾し、100%アセトンで10分間固定した。3%BSAでブロックした後、切片を一次ラット抗マウスCD4またはCD11b Ab(BD Biosciences)とともにインキュベートし、次にそれらをCy3 AffiniPureロバ抗ラットIgG(Jackson ImmunoResearch Laboratories)で標識し、免疫蛍光顕微鏡検査(Nikon)によって調べた。イソタイプを一致させたAbを陰性対照として用いた。既報の手順を用いて群当たり合計でマウス5匹についてマウス当たり3つの脊髄横断面の平均で、脱髄、白血球、CD4+T細胞およびCD11b+単核球/マクロファージの浸潤の程度を定量した。
【0223】
3.3:増殖およびサイトカインアッセイ
増殖アッセイでは、EAEマウス由来の脾細胞(5×105個/ウェル)を96ウェルプレートで、RPMI 1640中にて3連で培養した。細胞は、5%CO2下に37℃で72時間にわたり、MOGペプチド(20μg/mL)またはCon A(2μg/mL)の存在下または非存在下に培養した。培養の最終16から18時間の間、細胞に1μCiの[3H]チミジンを加えてから回収した。MicroBetaカウンタ(PerkinElmer)により、cpm単位での[3H]チミジン取り込みを測定した。
【0224】
サイトカイン測定の場合、48時間目に細胞培養液から上清を回収し、希釈して、製造者マニュアルに従って、マウスTH1/TH2 Flowcytomix MultiplexキットおよびマウスIL-23 Flowcytomix Simplexキット(Bender MedSystem)を用いることでIL-1α、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-17、IFN-γ、IL-23の測定を行った。すなわち、暗所にて2時間にわたり室温で、培養上清を捕捉抗体およびビオチン結合第二抗体混合物でコーティングしたビーズ混合物とともにインキュベートし、PE標識ストレプトアビジンを加え、暗所にて室温で1時間インキュベートした。BD LSR II(Becton Dickinson)でデータを収集し、BMS FlowCytomixソフトウェア(Bender MedSystem)で解析した。製造者のマニュアルに従い、Duoset ELISAキット(R&D Systems)によって、マウスTGF-βおよびIL-21を測定した。各プレートについて標準曲線を作成し、それを用いて指定のサイトカインの絶対濃度を計算した。
【0225】
3.4:イムノブロット解析
タンパク質抽出物を10%または12%SDS-ポリアクリルアミドゲルに乗せ、それについて電気泳動を行った。イムノブロット解析は、最初にMini Trans-Blot装置(Bio-Rad)を用いてImmobilon-P膜(Millipore)上にタンパク質を移動させることで行った。2時間のブロッキング後、P-JAK1、JAK1、P-AKT、AKT、P-Stat3、Stat3、P-Stat5、Stat5、Bcl-2、Bcl-xL、Bim、Bad、P-Bad(これら言及した抗体はいずれもCell Signalから入手したものである)、MCL-1(Bio-legend)、Bax(BD Bioscience)、RORγt(Abcam)、Foxp3(Santa Cruz Biotechnology)、アクチン(Santa Cruz Biotechnology)それぞれに対する特異的一次Abとともに、膜を4℃で終夜インキュベートした。洗浄を行い、次にHRPと結合したヤギ抗ウサギ(Sigma-Aldrich)またはヤギ抗ウサギAb(Jackson ImmunoResearch)とともに室温で1時間インキュベートし、十分に洗浄した後、ECL基質(Pierce)によってシグナルを肉眼観察できるようにした。
【0226】
3.5:cDNAアレイ解析
アポトーシスおよびJAK-STATシグナル伝達経路に関連する選択された遺伝子の発現プロファイルを、バリデーション済みcDNAアレイシステム(GEArray S Series, SuperArray Bioscienceの詳細な遺伝子リストが製造者のウェブサイト:www.superarray.com/gene_array_product/HTML/MM-602.3.htmlに記載されている)を用いることで解析した。すなわち、未処置EAEマウスまたは抗CD127 mAbもしくはPBSを投与した第21日のEAEマウスから脾細胞を単離した。CD4+CD25+TregおよびCD4+CD25-非Treg細胞を、磁気ビーズ分離によって得た(Mitenyi Biotec)。総RNAを、トリゾル(Trizol)試薬(Invitrogen)を用いて抽出した。AmpLabeling-LPRキット(SuperArray)を用いて、総RNA 3μgをビオチン-16-デオキシ-UTP標識1本鎖cDNAに逆転写した。プレハイブリダイゼーション後に、膜をビオチン標識サンプルcDNAでハイブリダイズし、アルカリホスファターゼ結合ストレプトアビジン(化学発光検出キット;SuperArray)とともにインキュベートして、シグナルを肉眼観察できるようにした。GEArray発現解析パッケージソフト(GEArray Analysis Suite; SuperArray)を用いて結果を解析した。結果は、独立の脾細胞標本を用いた3つの実験を代表するものである。
【0227】
3.6:アポトーシス分析
アネキシンV-FITCアポトーシス検出キット(BD Biosciences)を用いてアポトーシスの分析を行い、EAEマウス由来の脾細胞を洗浄し、アネキシンV-FITC 5μLおよび7-AAD 5μLとともに室温で15分間インキュベートした。次に、1時間以内に、染色した細胞を、FACS LSRII装置(BD)を用いて分析した。
【0228】
3.7:マウスCNS組織からの単核球の単離
勾配遠心分離を用いて、脳および脊髄から単核球を得た。すなわち、マウスをPBS 30mLで潅流して、内臓から血液を除去した。解離した脳および脊髄組織を粉砕し、70μm細胞濾過器で濾過した。得られた細胞溶液をパーコール勾配で遠心した。二つの勾配(37%および70%パーコール、Pharmaica)の間の界面の単核球を回収し、培地とともに遠心することで洗浄してから、FACS解析を行った。
【0229】
3.8:CD4+T細胞の単離
未処置マウスの脾臓を摘出し、分散させて単個細胞浮遊液とした。未処置T細胞の精製のため、最初に、未処置マウスの脾臓およびリンパ節からCD4マイクロビーズ(Miltenyi)を用いてCD4+T細胞を精製した。次に、得られた細胞をCD44、CD62LおよびCD25抗体で標識し、FACS選別(FACSAria II、Becton Dickinson)によってCD44loCD62LhiCD25-集団についての精製をさらに行った。CD4+CD25hiおよびCD4+CD25- T細胞を得るため、単個細胞浮遊液を、氷上で30分間にわたりFITC標識抗CD4抗体およびPE標識抗CD25抗体(BD Biosciences)とともにインキュベートした。CD4+CD25hiおよびCD4+CD25- T細胞をFACSAria装置(Becton Dickinson)によって選別した。同様の手法を用いて、ヒトCD4+CD25+およびCD4+CD25- T細胞を単離した。最初に、CD4+ No-touch T細胞単離キット(Miltenyi Biotec)を用いてPBMCからCD4+ T細胞を精製し、抗CD25マイクロビーズ(Miltenyi Biotec)を用いる陰性選択により、CD4+CD25- T細胞を単離した。CD4+、CD4+CD25+およびCD4+CD25- T細胞画分の純度は常に95%より高かった。
【0230】
3.9:TH17、TH1およびTregの誘発
未処置マウスCD4+T細胞を、密度細胞1×106個/mLで96ウェルの平底プレート(Costar)で平板培養した。完全培地中、プレートに結合した抗CD3 Ab(5μg/mL;BD Bioscience)および抗CD28 Ab(5μg/mL;BD Bioscience)で細胞を刺激した。
【0231】
T細胞を、TH1条件{組換えIL-12(10ng/mL;eBioscience)+抗IL-4(10μg/mL;BD Bioscience)}またはTH17条件{TGF-β1(1ng/mL;R&D Systems)、IL-23(10ng/mL;R&D Systems)およびIL-6(10ng/mL;eBioscience)+抗IFNγ(10μg/mL;BD Bioscience)および抗IL-4(10μg/mL)}で4日間培養した。
【0232】
CD4+CD25- T細胞からCD4+CD25+ Tregを誘発/変換するため、コーティング抗CD3抗体(5μg/mL)および5μg/mL抗CD28抗体の存在下に、精製ヒトまたはマウスCD4+CD25- T細胞を、TGF-β1(10ng/mL)およびIL-2(50IU/mL、R&D Systems)とともに細胞2×106個/mLで4日間培養した。一部の場合で、培地を上記培養系から洗い出し、次に細胞を新鮮な培地中でIL-7(10ng/mL)の存在下もしくは非存在下に1時間もしくは48時間培養した。ヒトTH17細胞を分化させるため、総ヒトCD4+細胞を、IL-1β、IL-6およびIL-23の存在下に6日間にわたって抗CD3および抗CD28中で刺激した。第3日に、分化系にIL-7、IL-2および抗体を加えた。
【0233】
3.10:フローサイトメトリー分析
CD4、CD25、CD8、B220およびCD127の表面染色のため、細胞を1%BSA(Sigma-Aldrich)および0.1%アジ化ナトリウムを含むPBSに再懸濁させ、氷上で30分間にわたり、指定の細胞表面マーカーに対する蛍光色素結合抗体(BD BioscienceまたはeBioscience)とともにインキュベートした。細胞内サイトカイン染色のため、EAEマウスのリンパ節、脾臓およびCNSから単離したばかりの単核球またはイン・ビトロ培養細胞を、PMA(20ng/mL)およびイオノマイシン(1μM)の存在下にGolgiPlug(1:1000希釈したもの;BD Bioscience)で5時間再刺激した。細胞を蛍光標識抗体で表面染色し、固定/透過化溶液(BD Bioscience)に再懸濁させ、製造者のマニュアルに従って細胞内サイトカインについての染色を行った。特に、IL-7細胞内染色のため、細胞を最初に、4℃で30分間にわたり、マウスCD16/CD32に対する抗体(BD Bioscience)とともにインキュベートし、次にBD Bioscience溶液を用いて固定/透過化し、次に一次抗体としてのヤギ抗マウスIL-7 IgG(R&D Systems)もしくはヤギIgG(R&D Systems)および二次抗体としてのAlexa Fluor(登録商標)488ロバ抗ヤギIgG(Jackson Immunol)で細胞を染色した。Bcl-2細胞内染色を、同じプロトコールを用いたが、PMAおよびイオノマイシン刺激を行わずに実施した。Foxp3の細胞内染色に関しては、Foxp3染色緩衝液(eBioscience)を用いて細胞を固定および透過化した。透過化細胞をPEまたはFITC結合抗ヒトまたは抗マウスFoxp3 mAb(0.5μg/106細胞;eBioscience)で染色した。リン酸化yesの細胞内染色のため、2%(重量/体積)パラホルムアルデヒドで細胞を37℃にて10分間固定し、氷上にて90%(体積比)メタノールで30分間透過化し、抗リン酸化Stat5(BD Bioscience)染色の染色を行った。フローサイトメトリー分析をBD LSR II(Becton Dickinson)装置で実施し、結果をFlowJoソフトウェア(Tree Star Inc.)を用いて解析した。
【0234】
3.11:統計解析
群間の遺伝子発現における差を、マン・ホイットニーのU検定によって解析した。両側スチューデントのt検定を用いて、群間の差を解析した。最初に一元配置分散分析を行って、全体的な統計的に有意な変化があるか否かを確認してから、両側の対応のあるまたは対応のないスチューデントのt検定を用いた。0.05未満のP値を統計的に有意と見なした。
【0235】
結果
3.12:IL-7RまたはIL-7拮抗作用によるEAEの寛解
図5に示したように、第10日以降から3回投与した時に、抗CD127抗体治療によって、イソタイプ対照と比較して疾患重度が低下することで、EAEの臨床経過が顕著に変化した(図5A)。その治療計画により、対照マウスと比較して、患部脊髄における炎症および脱髄の軽減を伴う疾患重度での顕著な低下があった。処置マウスから得られた脾細胞は、MOGに対するT細胞の反応性に有意な低下を示したが、ConAによって誘発される非特異的T細胞活性化ではそれがなかった(図5B)。顕著な点として、治療効果は、MOG反応性T細胞での他の炎症関連サイトカインの中でIL-17の産生(図5C)と、処置EAEマウスの脾臓および脊髄の両方におけるTH17細胞およびそれより低い程度でTH1細胞のパーセント(図5D)における選択的低下と相関していた。CNS-浸潤性TH17細胞の絶対数には、対照マウスの場合と比較して処置マウスにおいて10倍の低下があった。対照的に、Treg細胞は、EAEの経過を通じて相反的に増加した(図5D)。3つの下位集合においてIL-7R発現に差があった(図5E)。
【0236】
さらに、EAE発症後(免疫感作から12日または21日)に認められたTH17およびTH1細胞は専らCD44+CD62L-記憶表現型であり、IL-7R抗体処置に対して感受性であることが明らかになった(データは示していない)。脊髄におけるCD4+ T細胞浸潤は顕著に低減したが、末梢CD4+およびCD8+ T細胞およびB220+ B細胞の絶対数および全体的な組成はほとんど変化しなかった(データは示していない)。EAEにおける記憶表現型のCD4+ T細胞は、病原性TH17およびTH1下位集合が非常に富化されており、IL-7R拮抗作用に対して感受性であって、それはTH17/TH1のTregに対する比を処置EAEマウスにおいて新たなバランスに向かわせるものであることが結果から示される。
【0237】
IL-7に対する抗体もEAE臨床評点を低下させたが(図5F)、抗CD127抗体で認められた程ではなかった。さらに、図6に示したように、CD127はEAEマウスの脾臓または脊髄にエクス・ビボで由来するTH1およびTH17細胞で高度に発現されたが、CD127発現はFoxp3+Tregでは有意に低かった。
【0238】
3.13:TH17分化におけるIL-7の役割
病原性TH17のイン・ビボでの発生および機能は、分化および生存および増殖から構成される二段プロセスである。EAEにおけるTH17分化および自己免疫炎症の開始にはIL-6、IL-1βおよびIL-21などの炎症性サイトカイン類が必須であるが、TH17細胞の生存および増殖についてはほとんど解明されておらず、IL-23が関与している可能性がある。
【0239】
本発明者らは、CD44loCD62LhiCD25-表現型の精製未処置CD4+ T細胞を用いて、IL-7/IL-7Rシグナル伝達がTH17分化に関連しているか否かを調べた。TGF-βの存在下および非存在下に、得られた細胞をCD3/CD28抗体で刺激することで、IL-7の効果を調べた。IL-7は、TGF-βと組み合わせるとTH17分化を促進したが、その効果は、IL-6と比較して程度は中等度であって、IL-6から独立であり(図7A)、それはIL-7によるSTAT-3リン酸化およびRORα発現のわずかな誘発と相関していた(図7B、図7C)。IL-6と同様、IL-7単独ではTH17分化を誘発しなかった(データは示していない)。IL-7のTH17分化に対する中等度の効果を考慮して、本発明者らは、観察された効果がEAEにおいてイン・ビボでの有意性を有するか否かを検討した。EAE発症前に投与した場合(第0、2および4日に注射)、対照抗体で処置したマウスと比較して、IL-7R抗体処置によって発症に若干の遅延があったとしても、その処置は疾患重度に影響しなかった(図7D)。これらのデータは総合的に、IL-7/IL-7Rシグナル伝達がTH17分化にわずかに関与しているが、その分化に必須ではないことを示唆している。
【0240】
3.14:処置EAEマウスにおけるTH17およびTH1細胞の選択的阻害およびTH17発生におけるCD127拮抗作用の役割
次に本発明者らは、イン・ビボおよびイン・ビトロの両方の実験設定で、TH17の分化および維持/増殖におけるCD127抗体の役割を調べた。図8Aに示したように、TH17細胞およびγ-インターフェロン分泌TH1細胞のパーセントは、対照マウスの場合と比較して処置EAEマウスでの脾細胞およびCNS浸潤物において、あまり大きくないが低下したが、Foxp3+Tregのレベルは有意に上昇した(図8B)。処置マウスおよび対照マウスの両方でのEAE経過におけるTH17、TH1およびTregのパーセントを図8Cに示してある。別のイン・ビトロ実験設定では、CD127抗体の存在下および非存在下に異なる誘発プロトコールを用いて、TH17、TH1およびTregを未処理脾細胞からそれぞれ分化させた。
【0241】
得られた結果は、分化開始においてCD127抗体を加えた場合、TH17の分化とそれより程度は低いがTH1の分化は阻害されたが、Tregの分化は阻害されなかったことを示唆している(図9A)。分化TH17に対するCD127抗体の同様の効果が認められたが、TH1またはTregに対しては認められなかった(図9B)。しかしながら、このプロトコールを後に再度実施しても、この最初の所見を再現することはできず、それはIL-7/IL-7Rシグナル伝達の役割がTH17細胞の分化においてごく小さいものであることを示唆している。
【0242】
3.15:TH17の生存および増殖におけるIL-7の関与
IL-7がTH17分化に必要であるか否かを調べることは興味深いことであった。この点に関して、最初の結果からは、第8日にEAE MOG特異的T細胞を培養した場合に、IL-7単独を加えることでTH17の分化が増加し、それより程度は低いがTH1でもそれが認められたが、TregでのFoxp3では認められなかったことが示唆される(図10)。
【0243】
しかしながら、本明細書に記載のように(セクション3.17)、さらなる研究でTH17発生の二段プロセスが明らかになり、それはTH17細胞の促進が主として分化の増加の結果ではなく、IL-7がより大きい重要な役割を果たすTH17の増殖および生存における増加の結果であったことを示唆している。
【0244】
3.16:IL-7R拮抗作用によって誘発されるアポトーシスに対するTH17の感受性とTregにおける感受性の不在
次に本発明者らは、抗CD127抗体によるTH17の選択的低減および感受性の基礎となる機序を調べた。図11Aに示したように、エクス・ビボで処置もしくは対照EAEマウスに由来するCD4+T細胞のイムノブロット分析により、抗CD127抗体処理によって、リン酸化JAK-1およびリン酸化STAT-5の低下および主要なアポトーシス促進分子であるBCL-2の顕著なレベル低下および抗アポトーシス分子であるBAXの活性上昇を特徴とするJAK-STAT関連のシグナル伝達経路およびアポトーシスに特異的な変化が生じたことが明らかになった。アポトーシス促進タンパク質および抗アポトーシスタンパク質の調節は、抗体処置マウスでのCD4+細胞におけるアポトーシスレベル上昇と相関していた。図11Bに示したように、CD127抗体処置により、処置EAEマウス由来のCD4+CD127-T細胞の場合と比較して、CD4+CD127+T細胞の中のアネキシン-V+アポトーシス細胞のパーセントに顕著な上昇が生じた。
【0245】
EAEマウス由来の分化TH17細胞が自発開始のもしくはプログラムされたアポトーシスを受けており、それはIL-7を加えることで元に戻り得るように思われる。そのプロセスは、感受性細胞を抗IL-7R抗体とともに前インキュベートすることで消失したが、対照抗体の場合にそれは起こらなかった。IL-7は、アネキシン-V+アポトーシス細胞のレベルと相反的に相関しているBCL-2の発現レベルを有意に変えた(図11C)。
【0246】
IL-7の観察された効果には、STAT-5が介在していたことは明らかであり、その効果はSTAT-5特異的阻害剤によって遮断され得たが、STAT-3阻害薬(図11D)やPI3-K阻害薬によっては遮断できなかった(データは示していない)。
【0247】
これらの所見は、STAT-5リン酸化および抗アポトーシスタンパク質およびアポトーシス促進タンパク質のレベルを調節することで、分化TH17細胞が増殖する上での非常に重要な生存シグナルとしてのIL-7の役割をさらに裏付けるものである。
【0248】
3.17:ヒトIL-7Rに対する中和抗体のヒトTH17細胞に対する効果
マウス実験系での本発明者らの研究から、TH17発生が2段階プロセスであることが明らかになっており、「段階1」はTH前駆細胞分化であり、「段階2」はTH17生存/増殖である。これら二つのプロセスは、異なるサイトカインによって制御され、それらの発現はさらに、各種転写因子によって制御される。いずれのプロセスも、自己免疫疾患の臨床的結果に対して非常に重要な寄与をする。TH17分は主として、JAK/STAT-3経路を介したIL-6によって誘発される。
【0249】
TH17分化におけるCD127拮抗作用の役割について、ヒト実験系でさらにバリデーションした。本発明に従って抗CD127抗体を用いてIL-7/IL-7Rを遮断した場合、図12に示したようにTH17分化はわずかな影響しか受けず、それはIL-7がこのプロセスにおいてごく小さい役割しか果たさないことを示している。対照的に、本発明者らの結果からは、この2段階細胞発生プロセスにおけるIL-7/IL-7Rシグナル伝達の主要な役割が段階2の病原性TH17細胞の生存および増殖におけるものであることが明らかになった。この第2段階では、IL-7の役割はJAK/STAT-5経路を介したIL-23より優れている。細胞がすでにTH17細胞と関わった後に抗ヒトIL-7R mAbを与えた場合、その細胞は図22に示したようにアポトーシスに対して感受性である。その試験は、EAEでの病原性TH17細胞の発生および機能におけるIL-7/IL-7Rシグナル伝達の新規な役割を示す有力な証拠を提供し、MSおよび他の自己免疫状態の強力な治療としてのIL-7R拮抗作用に強い理論的根拠を与えるものである。
【0250】
3.18:IL-7刺激PBMCによるIFNγ産生の阻害
最初に、抗体R34.34(デンドリティクス社)による陽性結果に基づいて、PBMCをスクリーニングおよび選択した。新鮮または解凍のPBMCを、96個のウェルにおいて10%FBS含有RPMI1640中で細胞2×105個/ウェルにて平板培養した。精製試験抗体6C5、陽性対照抗体R34.34(デンドリティクス社)および抗ヒトIL-7(R&D)、そしてイソタイプ対照抗体マウスIgG1(R&D)を10μg/mLおよび100μg/mLで細胞とともに37℃にて30分間インキュベートしてから、10ng/mLのIL-7を補充した。IL-7で短時間処理した細胞を陰性対照として用い、未処理細胞をバックグラウンドとして用いた。2μg/mLの可溶性抗CD3および抗CD28(eBiosciences)を全ての条件に加え、プレートを5%CO2で37℃にてさらに24時間インキュベートした。培養上清中のIFN-γレベルを、ヒトIFN-γELISA(ヒトIFN-γELISAキット、eBiosciences)によって分析した。これらの条件下で、mAb 6C5および抗体R34.34は、IL-7誘発IFNγ産生を阻害した(図18)。
【0251】
3.19:IL7刺激IL7-受容体シグナル伝達Stat5リン酸化の阻害
CD127のシグナル伝達機能を遮断する能力を有する抗体についてのスクリーニングを行うため、機能試験の前夜に、冷凍保存PBMCを急速に解凍し、10%のFBSを含むRPMI 1640培地中で平板培養した。当初濃度120μg/mLから開始して3倍連続希釈で試験サンプル抗体および陽性対照抗体(R34.34、デンドリティクス社、#DDX0700;BD抗CD127、BD Biosciences Inc #552853)を調製し、2×105PBMC細胞に37℃で加えて30分間経過させてから、IL-7で1ng/mLにて37℃で15分間刺激した。抗体およびIL7処理を行わない細胞をバックグラウンド対照として用いた。IL7で処理したが抗体サンプルで処理しない細胞を、完全活性対照として用いた。処理後の細胞を溶解緩衝液(PerkinElmer #TGRS5S500)によって37℃で5分間溶解させ、溶解物をアルファスクリーン(AlphaScreen;登録商標)アクセプタービーズ(PerkinElmer #6760617C)を含む反応緩衝液+活性化緩衝液混合液(PerkinElmer #TGRS5S500)とともに室温で2時間インキュベートした。その後、アルファスクリーン(登録商標)ドナービーズ(PerkinElmer #6760617C)を含む希釈緩衝液(PerkinElmer #TGRS5S500)を加え、さらに2時間インキュベートした。アルファスクリーンビーズからの発光(RFU)を、Envisionで、それのデフォルトのアルファスクリーンモードにて分析した(上方測定;Ex 680nm;Em 570nm)。試験サンプルの結果を、下記式に基づいて相対活性に変換した。
相対活性(%)=(RFU(サンプル)-RFU(バックグラウンド対照))/(RFU(完全活性対照)-RFU(バックグラウンド対照))
この計算の結果は図19に示してある。
【0252】
CCF-CEM細胞を増殖培地(RPMI1640、10%FBS、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、1mM酪酸ナトリウム)で培養し、1μMのデキサメタゾン(Sigma、#D4902)で終夜処理してIL7受容体誘発を行ってから実験に供した。試験サンプル抗体および陽性対照抗体(R34.34、デンドリティクス社、#DDX0700;BD抗CD127、BD Biosciences Inc、#552853)を、当初濃度120μg/mLから開始する3倍連続希釈で調製し、2×105CCF-CEM細胞に37℃で加えて30分間経過させてから、1ng/mLのIL-7による刺激を37℃で15分間行った。抗体およびIL7処置を行わない細胞をバックグラウンド対照として用いた。IL7で処理したが抗体サンプルによる処理を行わない細胞を完全活性対照として用いた。処理後の細胞を溶解緩衝液(PerkinElmer #TGRS5S500)によって37℃で5分間溶解させ、溶解物をアルファスクリーン(登録商標)アクセプタービーズ(PerkinElmer #6760617C)を含む反応緩衝液+活性化緩衝液混合液(PerkinElmer #TGRS5S500)とともに室温で2時間インキュベートした。その後、アルファスクリーン(登録商標)ドナービーズ(PerkinElmer #6760617C)を含む希釈緩衝液(PerkinElmer #TGRS5S500)を加え、さらに2時間インキュベートした。アルファスクリーンビーズからの発光(RFU)を、Envisionで、それのデフォルトのアルファスクリーンモードにて分析した(上方測定;Ex 680nm;Em 570nm)。試験サンプルの結果を、下記式に基づいて相対活性に変換した。
相対活性(%)=(RFU(サンプル)-RFU(バックグラウンド対照))/(RFU(完全活性対照)-RFU(バックグラウンド対照))
この計算の結果は図20に示してある。
【0253】
この実験を、下記のように抗体6A3について基本的に繰り返した。新鮮なPBMCを血清を含まないRPMI 1640培地に懸濁させた。試験サンプル抗体および陽性対照抗体(6A3およびR34.34、デンドリティクス社、#DDX0700)を希釈して、培地中20μg/mLから0.01μg/mLの最終濃度を得て、それを1×106PBMC細胞/サンプルに加えた。PBMCを抗体とともに37℃で50分間インキュベートしてから、1ng/mLのIL-7で15分間刺激した。リン酸化STAT5の細胞内染色のため、37℃で10分間にわたり、1%(重量/体積)パラホルムアルデヒドで細胞を固定し、氷上にて90%(体積比)メタノールで30分間透過化し、抗リン酸化Stat5(BD Bioscience)染色についての染色を行った。BD LSR II (Becton Dickinson)装置でフローサイトメトリー分析を行い、結果をFlowJoソフトウェア(Tree Star Inc.)を用いて解析した。
【0254】
抗体およびIL7処理を行わない細胞をバックグラウンド対照として用いた。IL7で処理したが抗体サンプルでは処理しなかった細胞を完全活性対照として用いた。図21に、R34.34および6A3の濃度を上昇させながら、抗体なしの対照と比較したIL-7誘発P-STAT5の阻害を示してある。
【0255】
3.20:分化T細胞におけるIL-7誘発IL-17産生の阻害
6名の供与者からのCD4+細胞を、マニュアルに従って単離した(#130-091-155、Miltenyi)。100μL中約1×106/mLのCD4+細胞を、等体積の2倍TH17培地(2μg/mL抗CD28+10μg/mL抗IFNγ+10μg/mL抗IL-4+12.5ng/mL IL-1β+20ng/mL IL-23+50ng/mL IL-6)と混合し、5%CO2にて37℃で5日間培養した。TH17培地中での各種サイトカインおよび増殖因子による処理により、CD4+細胞をTH17細胞に優先的に分化させた。第5日における分化培養細胞からのCCR6+細胞を、BD FACS SORP Aria IIを用いて選別した。次に、CCR6+細胞を2×106/mLに調節してIL-17産生アッセイに供した。
【0256】
IL-17レベルを測定するため、100μLのCCR6+細胞を、試験抗体とともに37℃で1時間前インキュベートし、20ng/mLのIL-7 100μLと混合した。5%CO2を補充して、細胞を37℃で3日間培養した。培養上清100μL中のIL-17レベルを、FlowCytomix(Bender MedSystems)によって測定した。表11に、図22における結果の発生で用いたIL-7および試験抗体(R34.34および6C5)の濃度を示した(単一の供与者からの結果)。R34.34は、6名の供与者中6名で、IL-7誘発分化T細胞でのIL-17産生を阻害した。6C5は、4/6名の供与者中4名でIL-7誘発分化T細胞でのIL-17産生を阻害した。
【0257】
表11
【表11】
【0258】
この実験を、抗体6A3について基本的に繰り返した。CD4+細胞をマニュアルに従って単離した(#130-091-155、Miltenyi)。100μL中約7×105/mLのCD4+細胞を、等体積の2倍TH17培地(2μg/mL抗CD28+10μg/mL抗IFNγ+10μg/mL抗IL-4+12.5ng/mL IL-1β+20ng/mL IL-23+50ng/mL IL-6)と混合し、5%CO2にて37℃で5日間培養した。TH17培地中での各種サイトカインおよび増殖因子による処理により、CD4+細胞をTH17細胞に優先的に分化させた。第5日における分化培養細胞からのCCR6+細胞を、BD FACS SORP Aria IIを用いて選別した。次に、CCR6+細胞を2×106/mLに調節してIL-17産生アッセイに供した。
【0259】
IL-17およびIFN-γレベルを測定するため、個々の供与者からの100μLのCCR6+細胞を、試験抗体とともに37℃で1時間前インキュベートし、20ng/mLのIL-7 100μLと混合した。5%CO2を補充して、細胞を37℃で3日間培養した。培養上清100μL中のIFN-γおよびIL-17レベルを、FlowCytomix(Bender MedSystems)によって、それぞれ24時間および40時間で測定した。表12に、図23における結果の発生で用いたIL-7および試験抗体の濃度を示した。結果は、6名の供与者中5名の代表的なものである。
【0260】
表12
【表12】
【0261】
結論
本明細書に記載の試験は、多発性硬化症(MS)におけるIL-7およびIL-7Rの潜在的な役割を裏付ける最初の免疫学的証拠を提供するものである。
【0262】
本発明者らは、IL-7/IL-7Rシグナル伝達がマウスおよびヒトの両方の系で関与するTH17細胞の生存および増殖に必須であり、TH17分化におけるそれの役割はIL-6の場合と比較してあまり重要ではないことを示す有力な証拠を提供した。EAE発症後に投与されたIL-7またはIL-7R拮抗作用は、疾患の臨床経過に大きく影響する。従って本発明者らは、IL-7またはIL-7R拮抗作用が、病原性TH17細胞が示唆される自己免疫疾患および炎症性障害、特にはMS、さらに詳細には再発/寛解経過のMS(RRMS)の治療における実際の治療上の潜在力を提供することを示した。
【0263】
TH17の発生および機能は主として、TH17分化の場合はJAK/STAT-3を介してIL-6により、TH17維持の場合はJAK/STAT-5を介してIL-7によって制御される。IL-7は病原性TH17細胞の生存シグナルを提供するだけでなく、イン・ビボのTH17細胞増殖を直接誘発し、EAEにおける自己免疫病理維持に必須の寄与をするものである。
【0264】
本試験で明らかになったように、関与する記憶表現型のTH17細胞は、イン・ビボ病原性T細胞下位集合を代表するものであり、自発開始またはプログラムされたアポトーシスに対して感受性である。このプロセスは、感受性TH17細胞におけるBcl-2およびBaxなどのアポトーシス促進タンパク質および抗アポトーシスタンパク質の制御を介したIL-7/IL-7Rシグナル伝達に依存するように思われる。これに関連して、IL-7は、分化TH17細胞がプログラムされたアポトーシスを起こすのを防止する必須の生存シグナルとして働く。さらに、自己免疫疾患の急性期に認められるような病原性T細胞でのIL-7産生の増加および高発現IL-7Rは、T細胞の生存および増殖持続に必要な環境を提供する。IL-7のそれの受容体との相互作用により、αおよびγc鎖の凝集および下流キナーゼの活性化が誘発されることが提案される。結果的に、そのプロセスがキナーゼリン酸化のカスケードを変え、Bcl-2およびMcl-1の上昇に必要なSTAT-5リン酸化に対するドッキング部位を形成する可能性が高く、BimおよびBadがBaxおよびBakを活性化するのを遮断することでミトコンドリア介在アポトーシスを防止する。従ってそれは、STAT-5の関与およびIL-7によって病原性TH17細胞で誘発される抗アポトーシス変化とのそれの関連の説明を提供するものである。
【0265】
驚くべき点として、IL-7R拮抗作用による免疫系に対するイン・ビボでの効果がEAEにおいて高度に選択的であり、TH17細胞に影響を与え、それより程度は低いが主として記憶表現型のTH1細胞に影響を与え、Treg細胞には影響しない。本発明者らは、TH17細胞維持がIL-7/IL-7Rシグナル伝達によって影響されることを示した。同じ実験条件下で、TH1細胞はイン・ビトロ系では変化を受けるが、イン・ビボ系では受けない。その不一致は、外因性IL-7を加えるイン・ビトロ設定と複数のサイトカインの相互作用が関与するイン・ビボでの微小環境の間でのサイトカイン環境の違いによって説明することができる。Tregと比較したTH17に対する選択性は、IL-7Rの発現の差により、IL-7R拮抗作用に対してTH17細胞が感受性となり、Treg細胞が抵抗性となることで容易に説明される。この選択性は、EAEでのIL-7R拮抗作用による病原性TH17細胞とTreg細胞の比の再バランスにおいて重要な役割を果たすように思われ、治療効力に起因するものである。しかしながら、TH17とTH1の間のIL-7R拮抗作用に対するIL-7誘発応答性および感受性の大きさにおける不一致は、両方の下位集合がIL-7Rを高度に発現することから、IL-7Rの発現によって単純に説明することはできなかった。SOCS-1の固有の発現および活性が、その不一致の原因である。すなわち、SOCS-1がIL-7シグナル伝達に必要なSTAT-5のリプレッサー遺伝子として作用することから、自然においてTH1で発現されるか、実験的にIFN-γによってTH17で誘発されるSOCS-1は、IL-7またはIL-7R拮抗作用に対する感受性低下が原因である。従って、記憶表現型のTH17細胞に対する選択性には、EAEの経過において活性化された時にIL-7が生存するためのこれら病原性細胞の固有の要件が関与しているように思われる。この治療上の特異性は、多くの場合で広いスペクトラムの免疫系/機能に影響を与える自己免疫疾患で提案されている多くの他の治療様式に優る明白な利点を代表するものである。
【0266】
上記で記載のTH17細胞の生存および増殖におけるIL-7/IL-7Rシグナル伝達の新規な作用機序は、EAEでのIL-7R拮抗作用の治療効力についての強力な説明ならびにMSなどのヒト自己免疫疾患についての治療上の示唆を提供するものである。IL-7中和またはIL-7R拮抗作用は、特有の治療的利点を有する可能性が高い。一方で、その治療は病原性TH1およびTH17細胞をTregおよび無関係の免疫細胞から区別する選択性を提供する。他方、IL-7R拮抗作用の別の治療上の利点には、TH17分化とは対照的に分化TH17の生存および増殖に対するそれの選択的効果が関与する。IL-7/IL-7R経路の阻害薬を用いてTH17分化との比較での関与するTH17のイン・ビボでの維持を標的とすることは、治療との関連においてより有効である可能性がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者に対してIL-7受容体介在TH17増殖およびIL-7受容体介在TH17生存のうちの少なくとも一つの拮抗薬を投与する段階を有する、ヒト対象者での自己免疫疾患または炎症性障害の治療方法。
【請求項2】
前記拮抗薬がTH17細胞によるIL-7誘発IL-17産生を阻害する、請求項1に記載の治療方法。
【請求項3】
前記拮抗薬がTH17細胞によるIL-7誘発IFN-γ産生を阻害する、請求項1または2に記載の治療方法。
【請求項4】
前記拮抗薬がIL-7受容体介在STAT-5リン酸化を阻害する、請求項1、2または3に記載の治療方法。
【請求項5】
前記拮抗薬がIL-7またはCD127に特異的に結合する結合タンパク質である、請求項1、2、3または4のうちのいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項6】
前記結合タンパク質が特異的にCD127(配列番号1)に結合する請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記結合タンパク質がIL-7のIL-7Rへの結合を阻害する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記結合タンパク質が、配列番号1の
a)41から63(配列番号117)、
b)65から80(配列番号118)、
c)84から105(配列番号119)、
d)148から169(配列番号120)および
e)202から219(配列番号121)
からなる群から選択されるアミノ酸残基からなる少なくとも一つのペプチド内の少なくとも1個のアミノ酸に結合する、請求項5、6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記結合タンパク質が、配列番号1のペプチド65から80(配列番号118)、84から105(配列番号119)、148から169(配列番号120)および202から219(配列番号121)のそれぞれの中の少なくとも1個のアミノ酸に結合する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記結合タンパク質が、
(i)R34.34(デンドリティクス社、#DDX0700)、
(ii)6A3の重および軽可変領域(それぞれ配列番号51および配列番号52)を有する抗体、および
(iii) 1A11の重鎖および軽鎖可変領域(それぞれ配列番号71および配列番号72)を有する抗体
のうちの少なくとも一つのヒトCD127への結合をELISAアッセイにおいて競争的に阻害する請求、項1に記載の治療方法。
【請求項11】
前記結合タンパク質が表面プラズモン共鳴によって測定して、15nM以下のアフィニティ(KD)でCD127に結合する、請求項5から10のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記拮抗薬が抗体またはそれのフラグメントである、請求項1〜11のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体が配列番号55の重鎖相補性決定領域3(CDRH3)もしくはそれのアナログ、または配列番号75の重鎖相補性決定領域3(CDRH3)を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記自己免疫または炎症疾患が高レベルのIL-17に関連している、請求項1〜13のうちのいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項15】
前記ヒト対象者が、健常個人と比較して高レベルのIL-17を発現することが確認されている、請求項1〜14のうちのいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項16】
前記拮抗薬を、患者におけるIL-17のレベルを低下させるのに有効な量で投与する、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記IL-17のレベルを、患者の血清で測定する、請求項14、15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記自己免疫疾患が多発性硬化症である、請求項1〜17のうちのいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項19】
前記患者において、CD4+T細胞集団内でのTH17カウントが上昇している、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
患者に対してIL-7またはCD127の拮抗薬を投与する段階を有する、患者における多発性硬化症の治療方法であって、前記患者が再発寛解型多発性硬化症を患っている治療方法。
【請求項21】
対象者に対してTH17細胞のTH1細胞に対する比を低下させるのに有効な量でのIL-7またはIL-7Rの拮抗薬を投与する段階を有する、ヒト対象者における自己免疫疾患の治療方法。
【請求項22】
対象者に対してTH細胞のTreg細胞に対する比を低下させるのに十分な量でIL-7またはIL-7Rの拮抗薬を投与する段階を有する、ヒト対象者における自己免疫疾患の治療方法。
【請求項23】
対象者に対してIL-7受容体介在STAT-5リン酸化の拮抗薬を投与する段階を有する、ヒト対象者における自己免疫疾患の治療方法。
【請求項24】
前記IL-7またはIL-7Rの拮抗薬がCD127またはIL-7に特異的に結合する結合タンパク質である、請求項20、21、22または23に記載の治療方法。
【請求項25】
前記結合タンパク質が、配列番号1のアミノ酸残基:
a)41から63(配列番号117)、
b)65から80(配列番号118)、
c)84から105(配列番号119)、
d)148から169(配列番号120)および
e)202から219(配列番号121)
からなる少なくとも一つのペプチド内の少なくとも1個のアミノ酸に結合している抗体または抗原結合フラグメントである、請求項1〜24のうちのいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項26】
抗体またはそれのフラグメントが残基番号80で開始し残基番号190で終了する領域内の少なくとも1個のアミノ酸残基を含むヒトCD127のエピトープに結合している、単離されたヒト、ヒト化もしくはキメラ抗体またはそれの抗原結合フラグメント。
【請求項27】
前記抗体またはそれのフラグメントが、配列番号1のアミノ酸残基:
a)41から63(配列番号117)、
b)65から80(配列番号118)、
c)84から105(配列番号119)、
d)148から169(配列番号120)および
e)202から219(配列番号121)
からなる少なくとも一つのペプチド内の少なくとも1個のアミノ酸に結合している、請求項26に記載の単離された抗体または抗体フラグメント。
【請求項28】
前記抗体またはそれの抗原結合フラグメントが、表面プラズモン共鳴によって測定して、15nM以下のアフィニティ(KD)でヒトCD127に結合している、請求項26または27に記載の単離された抗体または抗体フラグメント。
【請求項29】
結合タンパク質がCD127に結合し、かつ配列番号6、配列番号33、配列番号55および配列番号75およびそれらのアナログからなる群から選択される重鎖相補性決定領域3(CDRH3)を含む単離結合タンパク質。
【請求項30】
前記結合タンパク質が、
を含む、請求項29に記載の単離結合タンパク質。
【請求項31】
単離されたヒト化またはキメラ抗体である、請求項29または30に記載の単離結合タンパク質。
【請求項32】
抗体または抗体のフラグメントが、
からなる群から選択される1以上の抗体と競合し、前記抗体がR34.34(デンドリティクス社、#DDX0700)以外である、CD127に特異的に結合する抗体またはそれの抗原結合フラグメント。
【請求項33】
CD127に結合し、
下記のCDR:
CDRH1:GYTMN(配列番号92)
CDRH2:LINPYSGITSYNQNFK(配列番号93)
CDRH3:GDGNYWYF(配列番号94)
またはそれのアナログを含む重鎖、
下記のCDR:
CDRL1:SASSSVSYMHW(配列番号95)
CDRL2:EISKLAS(配列番号96)および
CDRL3:QYWNYPYTF(配列番号97)
またはそれのアナログを含む軽鎖
を含む、ヒト、ヒト化もしくはキメラ抗体またはそれの抗原結合性フラグメントおよび/もしくは誘導体。
【請求項34】
多発性硬化症を患う患者に対して、請求項26から33のうちのいずれか1項に記載の結合タンパク質、抗体またはそれらのフラグメントを投与する段階を有する、自己免疫疾患または炎症状態の治療方法。
【請求項35】
ヒト対象者において自己免疫疾患または炎症障害を治療するための、IL-7受容体介在TH17増殖および/または生存の拮抗薬。
【請求項36】
自己免疫または炎症状態を治療するための、請求項26から33のうちのいずれか1項に記載の単離された結合タンパク質、抗体またはそれらのフラグメント。
【請求項37】
複数の独立の抗体集団のスクリーニングを行って、各抗体集団の
i.IL-7のIL-7Rへの結合を阻害する能力、
ii.IL-7誘発STAT-5リン酸化を中和する能力、および/または
iii.TH17細胞によるIL-17の産生を阻害する能力
を確認する段階、
ならびにIL-7のIL-7Rへの結合を阻害し、IL-7誘発STAT-5リン酸化を阻害し、および/またはTH17細胞によるIL-17の産生を阻害することができる抗体集団を選択する段階を有する、自己免疫疾患または炎症疾患の治療での使用に好適な抗体を同定する方法。
【請求項1】
対象者に対してIL-7受容体介在TH17増殖およびIL-7受容体介在TH17生存のうちの少なくとも一つの拮抗薬を投与する段階を有する、ヒト対象者での自己免疫疾患または炎症性障害の治療方法。
【請求項2】
前記拮抗薬がTH17細胞によるIL-7誘発IL-17産生を阻害する、請求項1に記載の治療方法。
【請求項3】
前記拮抗薬がTH17細胞によるIL-7誘発IFN-γ産生を阻害する、請求項1または2に記載の治療方法。
【請求項4】
前記拮抗薬がIL-7受容体介在STAT-5リン酸化を阻害する、請求項1、2または3に記載の治療方法。
【請求項5】
前記拮抗薬がIL-7またはCD127に特異的に結合する結合タンパク質である、請求項1、2、3または4のうちのいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項6】
前記結合タンパク質が特異的にCD127(配列番号1)に結合する請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記結合タンパク質がIL-7のIL-7Rへの結合を阻害する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記結合タンパク質が、配列番号1の
a)41から63(配列番号117)、
b)65から80(配列番号118)、
c)84から105(配列番号119)、
d)148から169(配列番号120)および
e)202から219(配列番号121)
からなる群から選択されるアミノ酸残基からなる少なくとも一つのペプチド内の少なくとも1個のアミノ酸に結合する、請求項5、6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記結合タンパク質が、配列番号1のペプチド65から80(配列番号118)、84から105(配列番号119)、148から169(配列番号120)および202から219(配列番号121)のそれぞれの中の少なくとも1個のアミノ酸に結合する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記結合タンパク質が、
(i)R34.34(デンドリティクス社、#DDX0700)、
(ii)6A3の重および軽可変領域(それぞれ配列番号51および配列番号52)を有する抗体、および
(iii) 1A11の重鎖および軽鎖可変領域(それぞれ配列番号71および配列番号72)を有する抗体
のうちの少なくとも一つのヒトCD127への結合をELISAアッセイにおいて競争的に阻害する請求、項1に記載の治療方法。
【請求項11】
前記結合タンパク質が表面プラズモン共鳴によって測定して、15nM以下のアフィニティ(KD)でCD127に結合する、請求項5から10のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記拮抗薬が抗体またはそれのフラグメントである、請求項1〜11のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体が配列番号55の重鎖相補性決定領域3(CDRH3)もしくはそれのアナログ、または配列番号75の重鎖相補性決定領域3(CDRH3)を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記自己免疫または炎症疾患が高レベルのIL-17に関連している、請求項1〜13のうちのいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項15】
前記ヒト対象者が、健常個人と比較して高レベルのIL-17を発現することが確認されている、請求項1〜14のうちのいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項16】
前記拮抗薬を、患者におけるIL-17のレベルを低下させるのに有効な量で投与する、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記IL-17のレベルを、患者の血清で測定する、請求項14、15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記自己免疫疾患が多発性硬化症である、請求項1〜17のうちのいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項19】
前記患者において、CD4+T細胞集団内でのTH17カウントが上昇している、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
患者に対してIL-7またはCD127の拮抗薬を投与する段階を有する、患者における多発性硬化症の治療方法であって、前記患者が再発寛解型多発性硬化症を患っている治療方法。
【請求項21】
対象者に対してTH17細胞のTH1細胞に対する比を低下させるのに有効な量でのIL-7またはIL-7Rの拮抗薬を投与する段階を有する、ヒト対象者における自己免疫疾患の治療方法。
【請求項22】
対象者に対してTH細胞のTreg細胞に対する比を低下させるのに十分な量でIL-7またはIL-7Rの拮抗薬を投与する段階を有する、ヒト対象者における自己免疫疾患の治療方法。
【請求項23】
対象者に対してIL-7受容体介在STAT-5リン酸化の拮抗薬を投与する段階を有する、ヒト対象者における自己免疫疾患の治療方法。
【請求項24】
前記IL-7またはIL-7Rの拮抗薬がCD127またはIL-7に特異的に結合する結合タンパク質である、請求項20、21、22または23に記載の治療方法。
【請求項25】
前記結合タンパク質が、配列番号1のアミノ酸残基:
a)41から63(配列番号117)、
b)65から80(配列番号118)、
c)84から105(配列番号119)、
d)148から169(配列番号120)および
e)202から219(配列番号121)
からなる少なくとも一つのペプチド内の少なくとも1個のアミノ酸に結合している抗体または抗原結合フラグメントである、請求項1〜24のうちのいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項26】
抗体またはそれのフラグメントが残基番号80で開始し残基番号190で終了する領域内の少なくとも1個のアミノ酸残基を含むヒトCD127のエピトープに結合している、単離されたヒト、ヒト化もしくはキメラ抗体またはそれの抗原結合フラグメント。
【請求項27】
前記抗体またはそれのフラグメントが、配列番号1のアミノ酸残基:
a)41から63(配列番号117)、
b)65から80(配列番号118)、
c)84から105(配列番号119)、
d)148から169(配列番号120)および
e)202から219(配列番号121)
からなる少なくとも一つのペプチド内の少なくとも1個のアミノ酸に結合している、請求項26に記載の単離された抗体または抗体フラグメント。
【請求項28】
前記抗体またはそれの抗原結合フラグメントが、表面プラズモン共鳴によって測定して、15nM以下のアフィニティ(KD)でヒトCD127に結合している、請求項26または27に記載の単離された抗体または抗体フラグメント。
【請求項29】
結合タンパク質がCD127に結合し、かつ配列番号6、配列番号33、配列番号55および配列番号75およびそれらのアナログからなる群から選択される重鎖相補性決定領域3(CDRH3)を含む単離結合タンパク質。
【請求項30】
前記結合タンパク質が、
を含む、請求項29に記載の単離結合タンパク質。
【請求項31】
単離されたヒト化またはキメラ抗体である、請求項29または30に記載の単離結合タンパク質。
【請求項32】
抗体または抗体のフラグメントが、
からなる群から選択される1以上の抗体と競合し、前記抗体がR34.34(デンドリティクス社、#DDX0700)以外である、CD127に特異的に結合する抗体またはそれの抗原結合フラグメント。
【請求項33】
CD127に結合し、
下記のCDR:
CDRH1:GYTMN(配列番号92)
CDRH2:LINPYSGITSYNQNFK(配列番号93)
CDRH3:GDGNYWYF(配列番号94)
またはそれのアナログを含む重鎖、
下記のCDR:
CDRL1:SASSSVSYMHW(配列番号95)
CDRL2:EISKLAS(配列番号96)および
CDRL3:QYWNYPYTF(配列番号97)
またはそれのアナログを含む軽鎖
を含む、ヒト、ヒト化もしくはキメラ抗体またはそれの抗原結合性フラグメントおよび/もしくは誘導体。
【請求項34】
多発性硬化症を患う患者に対して、請求項26から33のうちのいずれか1項に記載の結合タンパク質、抗体またはそれらのフラグメントを投与する段階を有する、自己免疫疾患または炎症状態の治療方法。
【請求項35】
ヒト対象者において自己免疫疾患または炎症障害を治療するための、IL-7受容体介在TH17増殖および/または生存の拮抗薬。
【請求項36】
自己免疫または炎症状態を治療するための、請求項26から33のうちのいずれか1項に記載の単離された結合タンパク質、抗体またはそれらのフラグメント。
【請求項37】
複数の独立の抗体集団のスクリーニングを行って、各抗体集団の
i.IL-7のIL-7Rへの結合を阻害する能力、
ii.IL-7誘発STAT-5リン酸化を中和する能力、および/または
iii.TH17細胞によるIL-17の産生を阻害する能力
を確認する段階、
ならびにIL-7のIL-7Rへの結合を阻害し、IL-7誘発STAT-5リン酸化を阻害し、および/またはTH17細胞によるIL-17の産生を阻害することができる抗体集団を選択する段階を有する、自己免疫疾患または炎症疾患の治療での使用に好適な抗体を同定する方法。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図1B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公表番号】特表2011−530533(P2011−530533A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522273(P2011−522273)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【国際出願番号】PCT/US2009/053136
【国際公開番号】WO2010/017468
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(397009934)グラクソ グループ リミテッド (832)
【氏名又は名称原語表記】GLAXO GROUP LIMITED
【住所又は居所原語表記】Glaxo Wellcome House,Berkeley Avenue Greenford,Middlesex UB6 0NN,Great Britain
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【国際出願番号】PCT/US2009/053136
【国際公開番号】WO2010/017468
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(397009934)グラクソ グループ リミテッド (832)
【氏名又は名称原語表記】GLAXO GROUP LIMITED
【住所又は居所原語表記】Glaxo Wellcome House,Berkeley Avenue Greenford,Middlesex UB6 0NN,Great Britain
【Fターム(参考)】
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