説明

自己浄化性を有するインクジェット記録材料およびディスプレー材料

【課題】 インク受容層を厚くすることができ、高いインク受容性、良好な発色性を実現でき、自己浄化作用を有するインクジェット記録材料、および接着剤等の使用量を減らすことができ、保護層を設ける必要がなく、単純な工程で製造することができ、外的環境によって反りが生じることがない、自己浄化作用を有するディスプレー材料を提供する。
【解決手段】 インクジェット記録材料を、ホットメルト接着性を有するインク受容層、前記インク受容層の上の基材層、および前記基材層の上の表面自己浄化層を有する積層フィルムにより構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリントにより画像を記録することができ、自己浄化性を有するインクジェット記録材料、およびこのインクジェット記録材料をホットメルト接着して作製されるディスプレー材料に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタによる印刷技術が多数開発されると共に、プリンタ等のハードウエア、ラスターイメージプロセッサー等のソフトウエアが進化したことにより、インクジェットプリンタによって高精細な印刷が可能となった。それに伴い、インクジェットプリンタ用の記録材料(以下、「インクジェット記録材料」ということがある。)も進化し、高品質な画像を記録するに耐えうる記録材料が開発された。そのため、このようなインクジェット記録材料を用いた看板やパネル等のディスプレー材料が、市場にて多く見られるようになってきた。
【0003】
特に、業務用のディスプレー材料おいては、遠方からでも明確に視認できる、高い視認性を有することが要求される。そのため、ディスプレー材料におけるインクジェット記録材料としては、高いインク吸収性および受容性を有し、発色性が良いことが必要とされる。空隙型のインクジェット記録材料においては、インク受容層において多孔質無機微粒子が用いられ、この多孔質無機微粒子の空孔における毛細管現象によりインクを吸収し、保持している。一方、多孔質無機微粒子それぞれのインクの吸収量には限界がある。よって、高いインク受容性、良好な発色性を実現するためには、この多孔質無機微粒子からなるインク受容層の厚みを厚くする必要があった。また、インク受容層は耐水性や耐傷性に乏しいため、耐久性を付与するためには、インク受容層の表面に保護フィルムを被せる必要があった。
【0004】
インクジェットプリントの発達により、あらゆるディスプレー材料がインクジェット方式で作られるようになり、その用途は広がってきている。そして、インクジェット方式で作られたディスプレー材料が、地下鉄ホームや地下道の電飾看板に使用されることが多くなってきている。地下鉄ホームや地下道等の閉鎖的な空間であって、車両等が通行する場所でディスプレー材料が使用される場合、ディスプレー材料の表面は汚れやすく、表面の汚れにより画像の視認性が低下し、意匠性が悪くなることが多かった。そして、清掃が頻繁にできない状態でディスプレー材料が掲示されている場合には、この問題は顕著となっていた。また、このような問題は、地下鉄等におけるディスプレー材料に限らず、喫煙場所の表示等でも同様に起こっていた。
【0005】
上記の問題はディスプレー材料の表面に自己浄化作用を付与することができれば解決できる。自己浄化作用とは、例えば、光触媒を利用することにより、紫外線の照射によって有機物を分解でき、抗菌・脱臭・防汚などの効果を発揮できることをいう。ディスプレー材料に自己浄化作用を付与する方法としては、インクジェットプリントした表面を保護フィルムでカバーする際、その保護フィルムの表面に光触媒加工を施す方法を挙げることができる。また、この場合、保護フィルムにより画像が保護されているので、画像が擦れてしまうことを防ぐことができる。
【0006】
特許文献1には、保存安定性が向上した印字画像を形成することができる、インクジェット記録用として有用な記録媒体を提供することを目的とする発明として、形成されるべき印字画像と接触しない部分の少なくとも一部に、光触媒活性を有する粒子を含む表面層が形成された記録媒体が記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、シート状基材と、光触媒性物質を含有する最外面防汚層とを有し、シート状基材の表面上に画像がプリントされており、前記シート状基材のプリントされた表面と前記最外面防汚層との間に、前記シート状基材およびプリントされた画像を前記光触媒性物質の作用から保護するための中間保護層が形成されている防汚性プリントシートが記載されている。
【特許文献1】特開2001−105719号公報
【特許文献2】特開2003−048280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、インク受容層において多孔質無機微粒子を用いた空隙型のインクジェット記録材料においては、インク受容層が水系溶媒の溶液コーティングによって製造されていることから、塗布量に限界があること、および、溶媒として高沸点の水を用いていることより、インク受容層を厚くすることは難しく、インクジェット記録材料を良好な発色性を有するものとすることは難しかった。
【0009】
このような問題点は特許文献1に記載の記録媒体においても存在している。つまり、特許文献1に記載の記録媒体においては、無機微粒子を水に分散し、親水性高分子バインダー成分を加えたインク受理層(本発明における「インク受容層」に相当する。以下同様。)溶液を基材上に塗布乾燥することによってインク受理層を形成しているため、インク受理層を厚くすることは難しく、良好な発色性を有する記録媒体とすることは難しかった。
【0010】
また、インクジェットプリントした表面を保護フィルムでカバーして、その保護フィルムの表面に光触媒加工を施す方法においては、インク受容層を付与したシートと表面に光触媒加工等を施した保護フィルムの二材料が必要となり、かつ、これらを複合するためには接着剤等によって接着する必要があるため、製造工程が複雑になり、かつ材料が多くなるという問題があった。また、接着剤を介することから透明性が低下したり、空気層が混入することにより画像の視認性が低下したりするという、問題があった。
【0011】
また、接着層が存在するため、湿気、温度等の外的環境により、製造した積層シートに反りが生じてしまうという問題があった。
【0012】
また、特許文献2に記載の防汚性プリントシートにおいては、プリント面と光触媒物質を有する最外面防汚層との間に中間保護層を設けているため、材料が多く、製造工程が複雑になるという問題があった。また、中間保護層を介することから画像の視認性が低下する等の問題が生じる可能性があった。
【0013】
そこで、本発明は、以上のような問題点に鑑みて、インク受容層を厚くすることができ、高いインク受容性、良好な発色性を実現でき、自己浄化作用を有するインクジェット記録材料、および接着剤等の使用量を減らすことができ、保護層を設ける必要がなく、単純な工程で製造することができ、外的環境によって反りが生じることがない、自己浄化作用を有するディスプレー材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0015】
第一の本発明は、ホットメルト接着性を有するインク受容層(30)、前記インク受容層の上の基材層(20)、および前記基材層の上の表面自己浄化層(10)を有する積層フィルムからなるインクジェット記録材料(100)である。
【0016】
上記のインクジェット記録材料(100)において、インク受容層(30)は、下記一般式(1)で表されるポリアルキレンオキシド系樹脂であることが好ましい。
【0017】
【化1】

[一般式(1)において、Xは活性水素基を2個有する有機化合物の残基であり、Rはジカルボン酸類化合物残基またはジイソシアネート化合物残基であり、Aは下記一般式(2)によって表される。]
【0018】
【化2】

[一般式(2)において、Zは炭素数2以上の炭化水素基であり、a、b、cはそれぞれ1以上の整数であり、a、b、cより計算される質量比、{44×(a+c)/(炭素数4以上のアルキレンオキシドの分子量)×b}は、80/20〜94/6である。また、c/(a+c)は0.5以上1.0未満である。]
【0019】
上記のインクジェット記録材料(100)において、基材層(20)は、ポリエステル樹脂からなる層であることが好ましい。
【0020】
上記のインクジェット記録材料(100)において、表面自己浄化層(10)は、光触媒微粒子を含有する層であることが好ましい。
【0021】
上記のインクジェット記録材料(100)において、基材層(20)の表面におけるインク受容層(30)を積層する側が、アンカーコートによる易接着処理されており、基材層(20)の表面における表面自己浄化層(10)を積層する側に、接着剤層が形成されていることが好ましい。
【0022】
上記のインクジェット記録材料(100)において、インク受容層(30)は、押出成形により形成されていることが好ましい。
【0023】
第二の本発明は、上記のインクジェット記録材料(100)のインク受容層(30)に画像を記録する工程、画像を記録したインク受容層(30)側を、別素材(40)にホットメルト接着する工程、を有するディスプレー材料(200)の製造方法である。
【0024】
第三の本発明は、上記のインクジェット記録材料(100)、および、このインクジェット記録材料におけるインク受容層(30)側がホットメルト接着した別素材(40)を有する、ディスプレー材料(200)である。
【発明の効果】
【0025】
本発明のインクジェット記録材料によると、インク受容層を厚くすることができ、高いインク受容性、良好な発色性を実現することができる。また、ホットメルト接着性を有するインク受容層を用いているため、インク受容層と基材層とを、および、インク受容層と別素材とを、接着剤等を使用せずに積層することができる。よって、単純な工程でディスプレー材料を製造することができ、また、製造したディスプレー材料は、外的環境によって、反りが生じづらいものである。さらに、本発明のディスプレー材料は、良好な発色性を有し、自己浄化作用を有するので防汚性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0027】
図1は、本発明のインクジェット記録材料100の一実施形態の層構成を示した模式図である。本発明のインクジェット記録材料100は、ホットメルト接着性を有するインク受容層30、このインク受容層30の上に形成される基材層20、およびこの基材層20の上に形成される表面自己浄化層10を有する積層フィルムから構成されている。言い換えると、この積層フィルムは、基材層20の片面にホットメルト接着性を有するインク受容層30が形成され、他方の面に表面自己浄化層10が形成されている。
【0028】
<インク受容層30>
ホットメルト接着性を有するインク受容層30としては、ホットメルト接着性およびインク受容性の両方の性質を併せ持つ親水性樹脂を主成分とする単一成分系として構成することもできるし、ホットメルト接着性を有する樹脂に、インク受容性を持たせるための親水性樹脂および/または添加剤を混合して複合成分系として構成することもできる。
【0029】
ホットメルト接着性を有するインク受容層30を使用することによって、インク受容層30と基材層20を接着剤を使用せずに接着することができる。また、以下において説明する本発明のディスプレー材料200においては、インク受容層30と別素材40とを接着剤を使用せずに接着することができる。
【0030】
以下、インク受容層30を構成する成分として、単一成分系を用いる場合について、説明する。ホットメルト接着性およびインク受容性の両方の性質を併せ持つ親水性樹脂としては、融点が40〜60℃であるポリアルキレンオキシド系樹脂を挙げることができる。
【0031】
このようなポリアルキレンオキシド系樹脂としては、下記一般式(1)で表される繰り返し単位から構成されるポリアルキレンオキシド系樹脂を挙げることができる。
【0032】
【化3】

【0033】
一般式(1)において、Xは活性水素基を2個有する有機化合物の残基であり、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ビスフェノールA、アニリンプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。Rはジカルボン酸類化合物残基もしくはジイソシアネート系化合物残基であり、ジカルボン酸類化合物残基としては、環状ジカルボン酸化合物または直鎖状ジカルボン酸化合物が望ましく、例えば、ジカルボン酸、ジカルボン酸無水物、ジカルボン酸の低級アルキルエステルが挙げられる。
【0034】
上記ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マロン酸、コハク酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、イタコン酸が挙げられる。上記ジカルボン酸無水物としては、上記各種ジカルボン酸の無水物が挙げられる。また、上記ジカルボン酸の低級アルキルエステルとしては、上記各種のジカルボン酸のメチルエステル、ジメチルエステル、エチルエステル、ジエチルエステル、プロピルエステル、ジプロピルエステル等が挙げられる。特に好ましくは、炭素数12〜36の直鎖状ジカルボン酸およびその低級アルキルエステルが挙げられ、1,10−デカメチレンジカルボン酸、1,14−テトラデカメチレンジカルボン酸、1,18−オクタデカメチレンジカルボン酸、1,32−ドトリアコンタンメチレンジカルボン酸等が挙げられる。
【0035】
ジイソシアネート系化合物残基の例としては、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等があげられる。
【0036】
上記の中でも、Rとしては、反応の容易性という観点から、上記ジカルボン酸無水物およびジカルボン酸の低級アルキルエステルを用いることが好ましい。これらは単独で、または2種以上併用して用いることができる。
【0037】
また、Aは下記一般式(2)によって表される。
【0038】
【化4】

【0039】
一般式(2)において、Zは炭素数2以上の炭化水素基であり、例えば好ましいものとしてはエチル基、プロピル基等のアルキル基が挙げられる。a、b、cはそれぞれ1以上の整数であり、a、b、cより計算される質量比、{44×(a+c)/(炭素数4以上のアルキレンオキシドの分子量)×b}は、80/20〜94/6である。80/20より小さくても、前記親水性樹脂として使用することができるが、この場合は、親水性が低下したり、インク吸水性、印刷適性が劣るものとなったり等の問題が生じる。一方、94/6を超えても、前記親水性樹脂として使用することがきできるが、この場合は、インクの滲み耐水性等の点で劣るという問題が生じる。a、b、cの割合を上述の範囲内とすることにより、親水性を失わず、かつ水に対して不溶化することができる。また、c/(a+c)は0.5以上1.0未満に設定される。
【0040】
インク受容層30を構成するポリアルキレンオキシド系樹脂の具体例としては、エチレングリコールにエチレンオキシドを付加重合した後、ブチレンオキシドを付加重合し、さらにエチレンオキシドを付加重合して得たポリアルキレンオキシドに、オクタデカン−1,18−ジカルボン酸メチルを加えエステル交換反応を行って得た樹脂(重量平均分子量:15万、融点:50℃、分解温度:230℃)を挙げることができる。
【0041】
上記の親水性樹脂を押出成形する場合には、親水性樹脂にトコフェロールなどの酸化防止剤を添加することで、熱分解等の問題を回避できる。
【0042】
以下、インク受容層30を構成する成分として、複合成分系を用いる場合について、説明する。ホットメルト接着性を有する樹脂に、インク受容性を持たせるための親水性樹脂および/または添加剤を混合して複合成分系として構成する場合における、インク受容性を持たせるための親水性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリエチレンオキシド等を用いることができる。
【0043】
この中で、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンを親水性樹脂として用いた場合は、これらを単独で用いたのでは、インク受容層に十分なインク受容性を持たせることができない。そこで、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンを親水性樹脂として用いた場合は、以下において説明する多孔質の無機微粒子を添加剤として加える必要がある。
【0044】
上記インク受容性を持たせるための親水性樹脂の中でも、ポリエチレンオキシドが、親水性が非常に高いことから、好ましい。また、例えば、インク受容性を持たせるための新水性樹脂としては、上記した一般式(1)で表されるポリアルキレンオキシド系樹脂を用いることもできる。
【0045】
ホットメルト接着性を有する樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリエステル、ロジン系ポリマー、ピネン系ポリマーおよびこれらの混合物、誘導体、共重合体や変性体等を用いることができる。また、ホットメルト接着性を有する樹脂としては、上記において例示した樹脂に対して、シランカップリング機能を付与したものや酸変性を行ったもの等を使用することもできる。これらの樹脂を用いた場合は、基材層20との接着強度、およびディスプレー材料にするときにおける別素材との接着強度をより高く維持することができる。
【0046】
親水性樹脂のインク吸収性を向上させるため多孔質の無機微粒子を添加することができるが、ここでいう無機微粒子としては、シリカやアルミナなどを用いることができる。また、空孔を制御したナノポーラスシリカやメソポーラスシリカ等の吸収能力の非常に高い無機微粒子を使用することもできる。
【0047】
インク受容層30において、疎水性成分であるホットメルト接着性を有する樹脂(以下、「疎水性成分」ということがある。)と、親水性成分であるインク受容性を持たせるための親水性樹脂(以下、「親水性成分」ということがある。)を混合する場合においては、疎水性成分であるホットメルト接着性を有する樹脂を海、親水性成分であるインク受容性を持たせるための親水性樹脂を島とする、海島構造とすることが好ましい。これは、高湿度下等においてインク受容層30が吸湿し、親水性樹脂の凝集力が低下した時に、親水性樹脂がインク受容層30の組成の大部分すなわち海の構造をとっている場合においては、凝集力の低下すなわち基材層20および別素材40との接着力の低下が発現するからである。これに対して、疎水性成分が海の構造をとっている場合においては、インク受容層30が吸湿した際においても、その疎水性成分での接着力にて基材層20および別素材40との接着力を保持することができる。
【0048】
上記のような好ましい構造である海島構造とするために、親水性成分と疎水性成分の比率は、60:40〜30:70(親水性成分:疎水性成分)、好ましくは、50:50〜45:65(親水性成分:疎水性成分)とすることが望ましい。親水性成分が多すぎると、親水性部分が多くなり吸湿時の凝集力低下が発現する。一方、疎水性成分が多すぎると、インク受容層30のインク吸収性が低下する。
【0049】
親水性成分と疎水性成分との構造的結合性を高めるために、架橋構造を構築することが有効である。架橋には電子線、紫外線、ガンマ線などの放射線などで架橋を施す方法等の他、以下の方法を挙げることができる。
【0050】
親水性成分と疎水性成分とのインタラクションを持たせるための架橋を施す方法としては、例えば、水素引き抜きタイプ光ラジカル重合開始剤を添加して製膜した後、紫外線光を適宜照射することにより架橋を行う等の方法を挙げることができる。ここで、水素引き抜きタイプ光ラジカル重合開始剤とは、他の分子から水素を引き抜く形でラジカルを生成する光重合開始剤であり、本発明で用いることができる代表的な水素引き抜きタイプ光ラジカル重合開始剤としては、ベンゾフェノン、あるいは、ベンジル、o−ベンゾイル安息香酸メチル、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、チオキサンソン、3−ケトクマリン、2−エチルアンスラキノン、カンファーキノン、ミヒラーケトン、テトラ(t−ブチルパーオキシカルカルボニル)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体の中から選ばれる1種または2種以上の混合物を用いることができる。上記で例示した水素引き抜きタイプ光ラジカル重合開始剤の中でも、透明性、硬化性の点でベンゾフェノンを用いることが好ましい。
【0051】
また、水素引き抜きタイプ光ラジカル重合開始剤は、解裂タイプ光重合開始剤と混合して用いることもできる。
【0052】
水素引き抜きタイプ光ラジカル重合開始剤の含有量は、インク受容層30の厚みや、紫外線照射条件に合わせて選択されるが、親水性成分および疎水性成分の全体を基準(100質量%)として、0.01〜10質量%の範囲であることが好ましく、厚膜硬化性、透明性、経時安定性を考慮すると、0.05〜2.0質量%であることがより好ましい。水素引き抜きタイプ光ラジカル重合開始剤の含有量が少なすぎると架橋が進行し難く、また、水素引き抜きタイプ光ラジカル重合開始剤の含有量が多すぎると、未反応の水素引き抜きタイプラジカル重合開始剤が多量に存在し、経時反応により吸水性に影響が出る。
【0053】
また、上記したインク受容層30を構成する成分としては、吸水性の調整のためにさらに、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリル等を添加することができる。
【0054】
<基材層20>
基材層20としては、例えば、ハンドリングの良い二軸延伸ポリエステルフィルム、耐候性の良いアクリルシート、加工性の良いポリエステルやポリ塩化ビニル等の無延伸フィルム、透明性と耐衝撃性のよいポリカーボネートシート等を用いることができる。基材層20としては、画像の視認性を良好なものとするため、できる限り透明性の高いフィルムを用いることが必要である。このような点から、基材層20は、ポリエステル樹脂からなる層とすることが好ましい。
【0055】
また、基材層20の表面におけるインク受容層30を積層する側は、易接着処理されていることが好ましく、特に、アンカーコートによる易接着処理されていることが好ましい。また、基材層20の表面における表面自己浄化層10を積層する側には、基材層20と表面自己浄化層10との密着性を向上させるために、接着剤層が形成されていることが好ましい。接着剤としては、例えば、アクリル樹脂、アクリル変性シリコン樹脂化合物またはシリコン変性アクリル樹脂化合物を主成分として含むものを使用することが好ましい。また、接着層内に以下において説明する光触媒微粒子を含有させてもよい。
【0056】
<表面自己浄化層10>
表面自己浄化層10は、基材層20においてインク受容層30を形成した面とは反対の面に形成され、インクジェット記録材料100の表層を形成する。また、インクジェット記録材料100におけるインク受容層30側が、別素材40にホットメルト接着して、後に説明するディスプレー材料200が形成されるので、表面自己浄化層10は、ディスプレー材料200の表層を形成する。
【0057】
表面自己浄化層10は、本発明のディスプレー材料200の表層に、表面の付着物を自己浄化する特性を付与することによって、ディスプレー材料200の表面の汚れを防止する。以下、ディスプレー材料200における表面自己浄化層10について説明するが、インクジェット記録材料100における表面自己浄化層10についても同様のことがいえる。
【0058】
この表面自己浄化層10は、触媒等の作用により表面に付着した汚れを分解等できる性能を有している層であれば特に限定されないが、光触媒微粒子を含むコート液を、基材層20上に塗布後、乾燥することにより形成される光触媒微粒子含有層であることが、自己浄化性等の観点から好ましい。
【0059】
また、一般的に、このようにディスプレー材料の表面に自己浄化作用を付与するため光触媒粒子含有層を形成した場合は、光触媒の強い酸化還元作用によって、ディスプレー材料に施された画像が短期間のうちに色あせしてしまうという問題が生じるおそれがあった。しかし、本発明のディスプレー材料200においては、表面自己浄化層10(光触媒粒子含有層10)と、画像を記録したインク受容層30との間に、基材層20が存在しているため、この基材層20が画像の保護層として働き、上記した画像が短期間のうちに色あせてしまうという問題が生じない。
【0060】
光触媒微粒子を構成する光触媒としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化鉛、酸化第二鉄、三酸化ビスマス、三酸化二ビスマス、三酸化タングステン、チタン酸ストロンチウム等の金属酸化物が挙げられる。また、これらの金属酸化物にFe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Ag、Pt、Au等を付加することもできる。
【0061】
上記の中でも、二酸化チタンは、無害で、化学的に安定しているため、光触媒としては、二酸化チタンを用いることが好ましい。二酸化チタンとしては、アナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン、ブルックライト型二酸化チタンのいずれも使用することができる。この中でも、光触媒反応が高活性であることから、アナターゼ型二酸化チタンを用いることが好ましい。光触媒微粒子の粒径は特に限定されるものではないが、平均粒径0.1nm〜0.1μmの範囲のものが好ましい。
【0062】
表面自己浄化層10を形成するための光触媒微粒子を含むコート液は、シランカップリング剤等のバインダー成分を含有していてもよい。これにより、光触媒微粒子の基材層への密着性を高め、表面自己浄化層10の膜強度を向上させることができる。シランカップリング剤としては、テトラエトキシシランを挙げることができる。
【0063】
表面自己浄化層10の形成方法としては、上記の光触媒微粒子、溶媒、場合によっては上記のバインダー成分を含有するコート液を基材層20上にコーティングする方法を挙げることができる。溶媒としては、特に限定されないが、水、エタノール、2−プロパノール等のアルコール、およびこれらの混合物を用いることができる。
【0064】
<インクジェット記録材料100の製造方法>
本発明のインクジェット記録材料100を構成する、インク受容層30、基材層20、表面自己浄化層10を有する積層フィルムの製造方法について説明する。積層フィルムの製造方法においては、基材層20にインク受容層30および表面自己浄化層10を積層する順序は限定されず、どちらを先に積層してもよい。
【0065】
以下、一例として、表面自己浄化層10を積層した後に、インク受容層30を積層する製造方法を示す。
【0066】
インク受容層30は、溶融押出成形により形成される。具体的には、インク受容層30を構成する、樹脂、酸化防止剤、無機微粒子等の添加剤を、押出機において溶融混練し、これをダイから連続的に押し出してシート状に成形する。
【0067】
表面自己浄化層10は、光触媒微粒子、水、アルコール類等の有機溶媒、および任意成分であるシランカップリング剤を混合したものコート液とし、このコート液を基材層20上に塗布後、乾燥することにより形成される。
【0068】
また、表面自己浄化層10と基材層20との密着性を向上させるため、表面自己浄化層10を形成する前に、基材層20の表面自己浄化層10を形成する側の表面に、接着層を付与することができる。
【0069】
そして、基材層20の表面自己浄化層10が形成された面とは反対の面に、上記において作製したインク受容層30を張り合わせる。上記で作製したシート状のインク受容層30と基材層20とを重ね合わせた状態で、これらを加熱加圧することで、基材層20とインク受容層30とを張り合わせることができる。また、インク受容層30をあらかじめシート状に成形せずに、インク受容層30を基材層20上に直接溶融押出ラミネートし、冷却固化することによって、基材層20上にインク受容層30を積層することもできる。
【0070】
なお、基材層20とインク受容層30との密着性を向上させるために、インク受容層30を基材層20上に張り合わせ等する前に、基材層20のインク受容層30を積層する側の表面に、アンカーコート等による易接着処理を施してもよい。
【0071】
上記の製造方法によって積層フィルムを形成することによって、インク受容層30を厚くすることができ、それにより、インクジェット記録材料100に高いインク受容性、良好な発色性を持たせることができる。また、インク受容層30のホットメルト接着性を利用して、接着剤等を使用せずにインク受容層30と基材層20とを積層することができ、単純な工程によりインクジェット記録材料100を作製することができる。また、基材層20とインク受容層30との間において接着剤を使用していないため、得られたインクジェット記録材料100は外的環境によって反りが生じづらいものである。
【0072】
<ディスプレー材料200の製造方法>
本発明のディスプレー材料200は、インクジェット記録材料100におけるインク受容層30の基材層20が積層された面とは反対の面を、別素材40にホットメルト接着することによって作製することができる。別素材40としては、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ABS等の樹脂からなるシート、プレート、発泡成形体等を用いることができる。本発明のディスプレー材料200は、接着剤等を使用せずに、単純な工程により作製することができる。よって、得られたディスプレー材料200は、外的環境によって反りが生じづらいものである。
【実施例】
【0073】
以下実施例および比較例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
エチレングリコールにエチレンオキシドを付加重合した後、ブチレンオキシドを付加重合し、さらにエチレンオキシドを付加重合して得たポリアルキレンオキシドにオクタデカン−1,18−ジカルボン酸メチルを加えエステル交換反応を行って重量平均分子量15万の樹脂Aを得た。これに酸化防止剤としてトコフェロール(UVINUL2000AO、BASF社製)を1部添加したものをT型マルチマニホールドダイにて溶融成形を行って、厚さ35μmのインク受容層を得た。
【0074】
また、基材である三菱化学ポリエステル社製PETフィルム「T600E50(片面易接着品)」の未処理面に、接着層としてシリコン変性樹脂20%、コロイダルシリカ30%、溶媒としてエタノール20%、2−プロパノール20%、水10%を配合したものを5g/mの塗布量にて塗布し、乾燥させた。次に粒径17〜25nmのアナターゼ型二酸化チタンを含むコート液(アナターゼ型二酸化チタンゾル80g、テトラエトキシシラン70g、エタノール150g、2−プロパノール150g、水550g)を5g/mの塗布量にて塗布し、乾燥させて、基材上に表面自己浄化層を形成した。そして、上記で製造したインク受容層をPETフィルムの他方の面(易接着面)にラミネートすることによりインクジェット記録材料を得た。
【0075】
このインク受容層に画像をセイコーエプソン社製PX−7000にて印刷し、インク受容層側を発泡PSボード(7mm)にラミネートして、ディスプレー材料を得た。なお、インク受容層と基材層との間、および、インク受容層とPSボードとの間のラミネートは、いずれも、ロール温度100℃、ロール線圧118N/cmの一対のロール間で、0.5m/分の速度で行った。
【0076】
比較例1
市販のインクジェット記録材料「ピクトリコ」の裏面に粘着加工を施した後、表面に実施例1と同様のインクジェット印刷を行った。PETフィルム(T600E50、片面易接着品、三菱化学ポリエステル社製)の未処理面に実施例1と同様にして、コート液を塗布し、表面自己浄化層を形成した。そして、PETフィルムの易接着面に粘着加工を施し、上記のインクジェット記録材料「ピコトリコ」の表面(印刷面)に粘着を介してラミネートした。そして、粘着加工を施したインクジェット記録材料「ピコトリコ」の裏面を発泡PSボード(7mm)に貼り付けてディスプレー材料を得た。ここで、インクジェット記録材料およびPETフィルムに施した粘着加工とは、日本合成化学工業社製のアクリル系粘着剤「コーポニール8137」を塗布し乾燥させて、乾燥状態で20g/mの粘着層を形成したものである。
【0077】
比較例2
実施例1において、基材の未処理面に、表面自己浄化層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、インクジェット記録材料およびディスプレー材料を得た。
【0078】
<評価方法>
(画像視認性)
各サンプルを蛍光灯から200cm離した位置に設置して、画像を見た際の画像の視認性を評価した。画像が鮮明に視認できる場合を「○」、一部でも不鮮明な部分が生じた場合を「×」として評価した。
【0079】
(自己浄化作用)
1リットルの容器中に各サンプルを放置し、タバコを1本に着火して30分間放置した後取り出し、紫外線ランプを照射して汚れの浄化を確認し、ASTM D 1925による黄ばみ度(Y.I)の値により、自己浄化作用を評価した。
【0080】
(作業性、製造コスト)
印刷してから最終製品になるまでの作業性や製造コストを比較して、相対的に作業性が良好であって、製造コストが低いものを「○」、作業性が悪く、製造コストが高いものを「×」として評価した。
【0081】
【表1】

【0082】
<評価結果>
実施例1のディスプレー材料においては、すべての評価項目において良好な結果を示した。これに対して、比較例1のディスプレー材料においては、基材とインクジェット記録材「ピコトリコ」との間、および、PSボードとインクジェット記録材「ピコトリコ」との間に空気が混入されて、画像視認性が劣ったものとなった。また、インクジェット記録材料「ピコトリコ」と基材あるいはPSボードとの間を接着するために、接着剤を使用する必要があるため、作業性が悪く、製造コストが高いものとなった。比較例2のディスプレー材料においては、自己浄化層を形成していないので、自己浄化作用が劣っていた。
【0083】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う自己浄化性を有するインクジェット記録材料およびディスプレー材料もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明のインクジェット記録材料の一実施形態の層構成を示す概念図である。
【図2】本発明のディスプレー材料の一実施形態の層構成を示す概念図である。
【符号の説明】
【0085】
10 表面自己浄化層
20 基材層
30 インク受容層
40 別素材
100 インクジェット記録材料
200 ディスプレー材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホットメルト接着性を有するインク受容層、前記インク受容層の上の基材層、および前記基材層の上の表面自己浄化層を有する積層フィルムからなるインクジェット記録材料。
【請求項2】
前記インク受容層が、下記一般式(1)で表されるポリアルキレンオキシド系樹脂である、請求項1に記載のインクジェット記録材料。
【化1】

[一般式(1)において、Xは活性水素基を2個有する有機化合物の残基であり、Rはジカルボン酸類化合物残基またはジイソシアネート系化合物残基であり、Aは下記一般式(2)によって表される。]
【化2】

[一般式(2)において、Zは炭素数2以上の炭化水素基であり、a、b、cはそれぞれ1以上の整数であり、a、b、cより計算される質量比、{44×(a+c)/(炭素数4以上のアルキレンオキシドの分子量)×b}は、80/20〜94/6である。また、c/(a+c)は0.5以上1.0未満である。]
【請求項3】
前記基材層が、ポリエステル樹脂からなる層である、請求項1または2に記載のインクジェット記録材料。
【請求項4】
前記表面自己浄化層が、光触媒微粒子を含有する層である、請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録材料。
【請求項5】
前記基材層の表面におけるインク受容層を積層する側が、アンカーコートによる易接着処理されており、前記基材層の表面における表面自己浄化層を積層する側に、接着剤層が形成されている、請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録材料。
【請求項6】
前記インク受容層が、押出成形により形成されている、請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェット記録材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェット記録材料の前記インク受容層に画像を記録する工程、
画像を記録した前記インク受容層側を、別素材にホットメルト接着する工程、
を有するディスプレー材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェット記録材料、および、このインクジェット記録材料における前記インク受容層側がホットメルト接着した別素材を有する、ディスプレー材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−38507(P2007−38507A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224680(P2005−224680)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】