説明

自己消化の検出方法

生物学的サンプル(例えば、吐き出された空気)において組織破壊産物の産生によるショックの早期開始および多臓器不全を検出するための材料および方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、生物学的サンプルにおいて組織破壊産物の産生によるショックの早期開始および多臓器不全を検出するための材料および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生理的ショック(「循環性ショック」または単に「ショック」とも呼ばれる)は、生命を脅かす医学的緊急事態であり、重症患者の最も一般的な死因の一つである。ショックは様々な効果を有し、それらはいずれも身体の循環系に関する問題に関連する。ショックにおいては、体組織への血液の進入(「かん流」)が低下し、組織への酸素および栄養の送達が、細胞の代謝要求が満たされず、組織が適切に機能できなくなるまで減少する場合がある。いくつかの場合、ショックは低酸素血症および/または心停止をもたらす。
【0003】
ショックは、4つの段階を通じて進行し得る複雑で連続的な症状である。初期段階には、組織への血流の低下が低酸素状態を引き起こし、細胞膜損傷、細胞による嫌気的呼吸、乳酸およびピルビン酸の増加、ならびに全身性代謝性アシドーシスを誘導する。代償段階には、身体は、少なくとも部分的に症状を逆転させ得る生理的(例えば、神経的、ホルモン的、および生化学的)機構に従事する。ショックの原因が上手く治療されない場合、それは進行(「脱代償」)段階に進行し、代償機構は破綻し始める。嫌気的代謝が続き、代謝性アシドーシスが増加する。最終的には、ショックの最終的な不応性(不可逆性)段階に達し、その時点で重要臓器不全が起こり、ショックは最早逆転させることができず、死が迫る。
【発明の概要】
【0004】
本明細書は、ショックの間の血圧および腸への血流の低下が、「自己消化」と呼ばれるプロセスにおいて、体内の消化酵素があたかも食物であるかのように腸組織の破壊を誘発し得るという知見に一部基づくものである。上記の血流力学的成分に加えて、ショックは膵酵素と関連し得る(例えば、DeLanoら(2007)FASEB J. 21:lb421;およびSchmid-Schonbein(2008)Mol. Cell Biomechanic. 5:83-95を参照されたい)。これらの強力な消化酵素は、ヒトの消化の不可欠な部分であり、通常は粘膜上皮障壁により腸管腔中に維持される。粘膜障壁に障害が起きた場合(例えば、ショックの初期段階の間)、消化酵素は内腔から腸壁に輸送され、そこでそれらは自己消化のプロセスを開始し得る。このプロセスにおいては、炎症活性を有するいくつかのクラスのメディエーターが生成され、中心循環への進入時に、炎症の顕著な特徴を誘導し、最終的には多臓器不全を引き起こし得る。かくして、ショックは炎症成分をも含むが、ショック中の炎症応答の程度は広く変化する。
【0005】
ショックにおいて炎症活性を検出する現在の方法は、症状の測定(例えば、臓器機能障害、かん流不全、皮膚色変化、および刺激反応)または生化学的分析(例えば、血漿中のサイトカインレベル)に基づくものである。これらのものは後期段階の検出系であり、ショックおよび自己消化の開始における分解酵素の破壊作用に対する早期介入を補助することはできない。本明細書に提供される方法を用いて、非侵襲的な様式で、自己消化の早期開始を検出することができる。これらの方法を、緊急治療室において、軍事的トリアージ目的で、および他のポイントオブケアシナリオのために用いることができる。
【0006】
本明細書は、哺乳動物が自己消化を経験している可能性を決定する方法を特徴とする。この方法は、a)哺乳動物から生物学的サンプルを用意すること;b)1種以上の組織破壊産物の存在について生物学的サンプルを分析すること;およびc)1種以上の組織破壊産物が、1種以上の組織破壊産物の対照レベルよりも高いレベルで生物学的サンプル中に存在する場合、自己消化を経験している可能性があるものとして哺乳動物を分類すること、または1種以上の組織破壊産物が、1種以上の組織破壊産物の対照レベルよりも高いレベルで生物学的サンプル中に存在しない場合、自己消化を経験している可能性がないものとして哺乳動物を分類することを含むことができる。生物学的サンプルは、哺乳動物により吐き出された空気、哺乳動物の消化管から放出された空気、または哺乳動物から皮膚蒸発の間に誘導された空気であってよい。生物学的サンプルを、血漿、尿、唾液、涙、汗、腹水、および脳脊髄液からなる群より選択することができる。哺乳動物は、ヒト(例えば、炎症性腸疾患、自閉症、膵臓炎および癌、1種以上の小腸もしくは大腸の悪性腫瘍、アルツハイマー病、または腸機能不全に関連する別の慢性変性疾患を有すると診断されたヒト)であってよい。
【0007】
1種以上の組織破壊産物を、メチオナール、ペンタン酸、2-フルフリルチオール、フェニルアセトアルデヒド、2,6-ジメチル-5-ヘプテナール、(E)-2-オクテナール、2-ノネナール、シトロネラール、2,3-ジエチル-5-メチルピラジン、および4-アセチルメチルシクロヘキセン、プトレシン、カダベリン、メタンチオール、インドール、スカトール、ならびに硫化水素からなる群より選択することができる。分析は、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、質量分析、蛍光検出、またはポリマー検出を用いることを含んでもよい。分析は、高感度ガスクロマトグラフィーまたは小分子有機化合物の検出に特異的なセンサー技術を用いる装置を用いることを含んでもよい。対照レベルは、自己消化を経験していない対照哺乳動物に由来する生物学的サンプル中の1種以上の組織破壊産物のレベル、または自己消化を経験していない対照哺乳動物の集団に由来する生物学的サンプル中の1種以上の組織破壊産物の平均レベルであってもよい。前記方法は、哺乳動物が自己消化を経験している可能性があると分類された場合、1種以上の消化酵素阻害剤を投与することにより自己消化を治療することをさらに含んでもよい。
【0008】
前記方法は、医療専門家に1種以上の組織破壊産物の存在に関する情報を伝達することをさらに含んでもよい。前記方法は、哺乳動物がショックの他の症候(例えば、臓器機能障害、かん流不全、皮膚色変化、血漿サイトカインレベルの増加、および刺激に対する応答の低下からなる群より選択されるショックの症候)を示すか否かを決定することを含んでもよい。サイトカインを、腫瘍壊死因子α、インターロイキン1、インターロイキン6、およびインターロイキン8からなる群より選択することができる。
【0009】
別途定義しない限り、本明細書で用いられる全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有するものとする。本明細書に記載のものと類似するか、または等価である方法および材料を用いて本発明を実施することができるが、好適な方法および材料を以下に記載する。本明細書に記載の全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、その全体が参照により本明細書に組入れられるものとする。対立する場合、定義を含む本明細書が制御するものとする。さらに、材料、方法、および実施例は例示に過ぎず、限定することを意図するものではない。
【0010】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細を、添付の図面および以下の説明に記載する。本発明の他の特徴、課題、および利点は、説明および特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書は、呼気、ならびに腸管に由来するガスおよび皮膚蒸発の間に誘導される空気中の組織破壊産物を検出もしくは測定することにより、ショックの早期開始および多臓器不全を検出するのに用いることができる方法を提供する。前記方法を、例えば、一般的な手術の間に、または外傷後に使用することができ、また早期のトリアージ治療を容易にすることができる。かくして、前記方法は、民間人および軍人の患者にとって有用である。さらに、前記方法はまた、腸機能障害(例えば、炎症性腸疾患、自閉症、アルツハイマー病、および他の慢性変性疾患)を有する患者にも適用される。
【0012】
本明細書に提供される方法は、ショックが、体内の消化酵素が腸における自己消化のプロセスを開始させ、小さい組織破壊産物の産生をもたらし得るという知見に一部基づくものである。前記方法は、呼気または生物学的液体サンプル(例えば、血漿、尿、唾液、涙、汗、腹水、もしくは脳脊髄液)中のこれらの酵素的(例えば、タンパク質分解的、脂質分解的、もしくは炭水化物分解的)破壊産物の検出を含む。特に、前記方法が、例えば、呼気または涙、もしくは汗などの液体を用いる場合、それらは非侵襲的であり得る。
【0013】
以下の実施例に記載のように、様々な形態のショック(例えば、出血性、内毒素性、または盲腸結紮誘導性ショック)への実験動物の曝露は、動物を膵酵素による自己消化に供する場合にのみであるが、腸からの悪臭のある有機物質の放出をもたらした。生存しない動物は一様に悪臭のする有機物質を放出したが、生存した動物は劇的に低いレベルでそれを産生した。質量分析により、対照血漿中に存在する小分子量有機物質が、ショックに供された動物の血漿中で分解されることが示され、これはショックにおける小さい有機分解産物の生成と一致していた。
【0014】
ショックを経験している個体の生物学的サンプル(例えば、空気サンプルおよび液体(体液)サンプル)中に存在してもよい小さい有機種としては、限定されるものではないが、下記のもののいずれか1種以上:メチオナール、ペンタン酸、2-フルフリルチオール、フェニルアセトアルデヒド、2,6-ジメチル-5-ヘプテナール、(E)-2-オクテナール、2-ノネナール、シトロネラール、2,3-ジエチル-5-メチルピラジン、および4-アセチルメチルシクロヘキセン、プトレシン、カダベリン、メタンチオール、インドール、スカトール、および硫化水素が挙げられる。これらの化合物に関するさらなる詳細を以下に提供する。他の化合物も存在してもよく、本明細書に開示される方法にとって有用であってよいことに留意すべきである。
【0015】
メチオナール(MW 104.17)は、式C4H8OSを有し、3-(メチルチオ)プロピオンアルデヒドまたは4-チアペンタナールとしても知られる。メチオナールは以下の構造:
【化1】

を有する。
【0016】
メチオナールは、メタンチオールの形成の間のメチオニンとサルファイトとの反応における中間体であると考えられる。それは植物の匂いを有し、日光に曝露されたスキムミルク中に存在する。さらに、メチオナールはマウスリンパ系細胞中でのアポトーシスの細胞メディエーターであることが示されている(Rochら(1998)Cytometry 31:10-19)。
【0017】
ペンタン酸(MW 102.1)は式C5H10O2を有し、吉草酸またはブタン-1-カルボン酸としても知られる。ペンタン酸は、以下の構造:
【化2】

を有する。他の低分子量カルボン酸と同様、ペンタン酸は非常に不快な臭気を有する。それは天然では多年生顕花植物バレリアン(バレリアナ・オフィシナリス(Valeriana officinalis))に認められ、ペンタン酸の揮発性エステルは心地よい匂いを有する傾向があり、香水および化粧品において用いられるため、ペンタン酸は主にそのエステルの合成に用いられる。
【0018】
2-フルフリルチオール(MW 114.17)は、式C5H6OSを有し、特に、フラン-2-イルメタンチオールとしても知られる。2-フルフリルチオールは、加熱肉における強力な臭気物質であり、以下の構造:
【化3】

を有する。
【0019】
フェニルアセトアルデヒド(MW 120.1)は、式C8H8Oを有し、ヒアシンチンまたはフェニルエタナールとしても知られる。フェニルアセトアルデヒドは、以下の構造:
【化4】

を有する。フェニルアセトアルデヒドは、ソバ、チョコレート、および他の食品および花に認められる。それはまた、ウジ虫療法の抗生物質活性にも関与し、タバコに添加してその芳香を改善することができる。さらに、多くの昆虫が、コミュニケーションのためにフェニルアセトアルデヒドを用いる。純粋なフェニルアセトアルデヒドの芳香は、蜂蜜のような、甘い、バラのような、青いような、および草のようなものと記載されている。
【0020】
2,6-ジメチル-5-ヘプテナール(MW 140.2)は、式C9H16Oを有し、メロナールとしても知られる。食品添加物である2,6-ジメチル-5-ヘプテナールは、以下の構造:
【化5】

を有する。
【0021】
(E)-2-オクテナール(MW 126.20)は、式C8H14Oを有し、(E)-オクタ-2-エナールとしても知られる。(E)-2-オクテナールは、リジンおよびヒスチジン類似体との脂質過酸化生成物であり、蚊誘引物質である。この化合物は、以下の構造:
【化6】

を有する。
【0022】
2-ノネナール(MW 140.2)は、式C9H16Oを有し、以下の構造:
【化7】

を有する。2-ノネナールは、脂質過酸化生成物であり、熟成されたビールおよびソバの成分であり、加齢と共に生じ得るヒトの体臭の変化と関連し得る不飽和アルデヒドである。それは不快な脂っぽい、草のような臭気を有する。
【0023】
シトロネラール(MW 154.25)は、式C10H18Oを有し、ロジナールまたは3,7-ジメチルオクタ-6-エン-1-アールとしても知られる。シトロネラールは、以下の構造:
【化8】

を有する。さらに、シトロネラールは、防虫特性を有し、強力な抗菌性も有する。
【0024】
2,3-ジエチル-5-メチルピラジン(MW 150.2)は、式C9H14N2を有し、以下の構造:
【化9】

を有する。この化合物は、香料成分として食品業界で使用されており、ジャガイモ由来の匂いおよびパンの耳またはナッツに似た香りを有する。
【0025】
4-アセチルメチルシクロヘキセン(MW 138.1)は、式C9H14Oを有し、以下の構造:
【化10】

を有する。
【0026】
プトレシン(MW 88.2)は、式NH2(CH2)4NH2を有する。プトレシンは、1,4-ジアミノブタンまたはブタンジアミンとも呼ばれ、以下の構造:
【化11】

を有する。プトレシンは、カダベリン(下記)と関連し、生きている生物および死んだ生物中でのアミノ酸の破壊により産生される。プトレシンおよびカダベリンは、腐敗している肉の腐った臭いと大いに関連し、臭い息などのプロセスの臭気にも寄与する。
【0027】
カダベリン(MW 102.2)は、式NH2(CH2)5NH2を有する毒性の腐った臭いのするジアミンである。カダベリンは以下の構造:
【化12】

を有する。プトレシンと同様、カダベリンは動物組織の腐敗の間のタンパク質加水分解により産生される。カダベリンは、1,5-ペンタンジアミンおよびペンタメチレンジアミンとしても知られる。
【0028】
メタンチオール(MW 48.1)は、湿地中で腐敗している有機物から放出される無色の気体であり、腐ったキャベツのような臭いを有する。それは式CH3SHを有し、メチルメルカプタン、メルカプトメタン、およびチオメチルアルコールとしても知られる。メタンチオールは天然では血液および脳などの動物組織、植物組織、ならびにいくつかの食品(例えば、いくつかのナッツおよびチーズ)中に認められる。この化合物は動物の糞便を通じて排泄され、臭い息および腸内ガスの臭いの原因となる主な化合物の一つである。
【0029】
インドール(MW 117.2)は、式C8H7Nを有し、以下の構造:
【化13】

を有する。インドールは、2,3-ベンゾピロール、ケトール、および1-ベンザゾールとしても知られ、香料の一般的な成分であり、多くの医薬品の前駆体である。
【0030】
スカトール(MW 131.2)は、式C9H9Nを有し、以下の構造:
【化14】

を有する。4-メチル-2,3-ベンゾピロールとしても知られるスカトールは、哺乳動物の消化管中でトリプトファンから産生され、かくして、天然では糞便中に生じる中程度の毒性の白い結晶状の有機化合物である。スカトールは、強い糞便臭を有するが、低濃度では、それは花のような匂いを有し、多くの香水において香料および固定剤として用いられている。「スカトール」は、「糞」を意味するギリシャ語の語幹「スカト(skato)」に由来する。
【0031】
硫化水素(またはハイドロジェンスルフィド;MW 34.1)は、式H2Sを有する。特に、硫黄水素化物、硫化水素、および硫化水素酸としても知られる、この毒性かつ可燃性の気体は部分的に、腐った卵および鼓腸の臭いの原因となる。硫化水素は、酸素の非存在下での非有機物中のサルファイトの細菌による破壊の結果生じ得る。
【0032】
本明細書で提供される方法を用いて、哺乳動物(例えば、ヒト、ウマ、イヌ、ネコ、ラット、またはマウス)が自己消化を経験している可能性を決定することができる。前記方法は、例えば、硫化水素、カデベリン、プトレシン、および本明細書に列挙される他の化合物などの組織破壊産物の存在またはレベルについて生物学的サンプルを分析することを含むことができる。好適な生物学的サンプルとしては、限定されるものではないが、呼気、血漿、尿、唾液、涙、汗、腹水、および脳脊髄液が挙げられる。生物学的サンプルを、当業界で標準的である技術を用いて取得することができる。例えば、呼気サンプルを、鼻クリップを用いて取得することができる。いくつかの実施形態においては(例えば、生物学的サンプルが呼気である場合)、サンプルを取得する時に、それらを分析することができる。
【0033】
クロマトグラフィーおよび/または質量分析を含む方法を用いて、組織破壊産物についてサンプルをアッセイすることができる。これらの方法としては、例えば、高感度ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、質量分析を含む液体クロマトグラフィー、蛍光検出、ポリマー検出、および/またはカーボンナノチューブ検出系が挙げられる。選択された小分子有機化合物の検出のために開発された特異的センサー技術を用いる装置を使用することもできる。これらのものとしては、限定されるものではないが、z-Nose (Electronic Sensor Technology, Newbury Park, CA; estcal.comにてオンライン)、またはブレサライザー(breathalyzer)(Menssana Research, Fort Lee, NJ; menssanaresearch.comにてオンライン)が挙げられる。
【0034】
前記方法はまた、1種以上の組織破壊産物が生物学的サンプル(例えば、呼気、消化管を通過した空気、皮膚蒸発の間に誘導された空気、もしくは生物学的液体)中で検出された場合に、自己消化を経験している可能性があるものとして哺乳動物を分類すること、または1種以上の組織破壊産物が生物学的サンプル中で検出されない場合に、自己消化を経験している可能性がないものとして哺乳動物を分類することを含むことができる。いくつかの場合、前記方法は、1種以上の組織破壊産物が、1種以上の組織破壊産物の対照レベル(例えば、自己消化を経験していない対照哺乳動物に由来する生物学的サンプル中のレベル、もしくは自己消化を経験していない対照哺乳動物の集団に由来する生物学的サンプル中の平均レベル)よりも高いレベルで生物学的サンプル中に存在する場合、自己消化を経験している可能性があるものとして哺乳動物を分類すること、または1種以上の組織破壊産物が、対照レベルよりも高いレベルで生物学的サンプル中に存在しない場合、自己消化を経験している可能性がないものとして哺乳動物を分類することを含むことができる。いくつかの実施形態においては、1種以上の組織破壊産物のレベルは、哺乳動物に由来する生物学的サンプル中で対照レベルよりも統計的に有意により高いものであってもよい。本明細書で用いられる用語「統計的に有意により高い」とは、0.05以下のp値を有する試験レベル対対照レベルを指す。
【0035】
哺乳動物が自己消化を経験している可能性があると分類された場合などのいくつかの場合、1種以上の消化酵素阻害剤を投与することにより、前記哺乳動物を治療することができる。任意の膵臓プロテアーゼ阻害剤(例えば、フタン、シクロカプロン、またはトラシロール)を用いることができる。これらのものを、単独で、または静脈内注入されたマトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤と共に、腸管腔に投与することができる。
【0036】
いくつかの実施形態においては、本明細書で提供される方法は、哺乳動物がショックの他の症候を示すか否かを決定することを含んでもよい。例えば、哺乳動物を試験し、モニターして、前記哺乳動物が臓器機能障害、かん流不全、皮膚色変化、および/または増加したレベルの1種以上の血漿サイトカイン(例えば、腫瘍壊死因子α、インターロイキン1(IL-1)、IL-6、およびIL-8)を有するか否かを決定することができる。
【0037】
さらに、本明細書で提供される方法を用いて、哺乳動物が自己消化を経験している可能性があるか否かを決定する際に医療専門家または研究専門家を補助することができる。医療専門家は、例えば、医師、看護師、臨床検査技師、および薬剤師であってよい。研究専門家は、例えば、主任研究員、研究助手、博士課程修了後の研修生、および大学院生であってよい。専門家を、(1)生物学的サンプル中の組織破壊産物のレベルを検出または測定すること、および(2)その専門家に検出または測定レベルに関する情報を伝達することにより補助することができる。
【0038】
情報を報告した後、医療専門家は、患者の看護に影響し得る1つ以上の行動を取ることができる。例えば、医療専門家は、患者の医療記録に前記情報を記録することができる。いくつかの場合、医療専門家は、ショックおよび/もしくは自己消化の診断を記録するか、またはさもなければ、患者の医療記録を変換して患者の医学的症状を反映させることができる。いくつかの場合、医療専門家は患者の全医療記録を再検討および評価し、ならびに患者の症状の臨床的介入について、複数の治療戦略を評価することができる。
【0039】
医療専門家は、患者における組織破壊産物に関する情報を受け取った後、自己消化および/またはショックのための治療を開始するか、または改変することができる。例えば、医療専門家は、1種以上の組織破壊産物のレベルが検出可能であるか、または増加した患者に消化酵素阻害剤を投与することができる。医療専門家はまた、患者または患者の家族に自己消化およびショックの可能性に関する情報を伝達することもできる。いくつかの場合、医療専門家は、治療選択肢および予後などの、自己消化およびショックに関する情報を患者および/または患者の家族に提供することができる。いくつかの場合、医療専門家は、患者の医療記録のコピーを提供して、組織破壊産物のレベルを専門医に伝達することができる。
【0040】
研究専門家は、患者の検出された組織破壊産物に関する情報を応用して、研究を前進させることができる。例えば、研究者は、検出されたレベルの組織破壊産物に関するデータを、自己消化の治療のための薬剤の有効性に関する情報と共に蓄積して、有効な治療を同定することができる。
【0041】
任意の好適な方法を用いて、別の人(例えば、専門家)に情報を伝達することができる。例えば、情報を専門家に直接または間接的に与えることができる。例えば、研究助手は、組織破壊産物の存在またはレベルに関する情報を、コンピューターに基づく記録に入力することができる。いくつかの場合、医療記録または研究記録に物理的変更を加えることにより、情報を伝達することができる。例えば、医療専門家は、記録を再検討する他の医療専門家に診断を伝達するために恒久的な注記を作製するか、または医療記録に旗を立てることができる。さらに、任意の型の伝達手段を用いて、情報を伝達することができる。例えば、郵便、電子メール、電話、および対面のやりとりを用いることができる。また、前記情報を、専門家がその情報を電子的に利用できるようにすることにより、該専門家に伝達することもできる。例えば、前記情報を、専門家がその情報にアクセスすることができるように、コンピューターデータベース上に該情報を入れることにより、前記専門家に伝達することができる。さらに、前記情報を、前記専門家にとっての代理業者として働く病院、クリニック、または研究施設に伝達することができる。
【0042】
本明細書はまた、急性ショック患者におけるポイント・オブ・ケア検出に用いることができる診断センサー系も提供する。組織破壊産物の検出はまた、自閉症の子供における、妊娠中の、および腸機能障害(例えば、炎症性腸疾患、膵臓炎および癌、小腸および大腸における悪性腫瘍、アルツハイマー病、ならびに慢性関節リウマチなどの他の慢性変性疾患に起因するもの)を有する成人における組織破壊の検出などの、様々な疾患および加齢において診断的に価値のあるものであってもよい。ポイント・オブ・ケア時に直接センサーを用いて、新鮮な呼気もしくは蒸発空気中、または腸から放出された新鮮な蒸気中の分解産物を検出するために診断系を設計することができる。他の用途では、呼気および蒸気を密閉したバッグの中に採集し、実験室で一定時間内に分析することができる。周囲空気の対照サンプル、疾患の証拠のない対照個体から得た空気、および/または既知の濃度の選択された有機分解産物を含む蒸気サンプルを、密閉した採集バッグの中に採集することができる。周囲空気の対照サンプル、疾患の証拠のない対照個体から得た空気、および既知の濃度の選択された有機分解産物を含む蒸気サンプルを、測定の補正を容易にするために、同時に採集することができる。
【0043】
本発明を、以下の実施例においてさらに説明するが、それは特許請求の範囲に記載の本発明の範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0044】
実験用ラットを、出血性ショック(大腿動脈を介して血液容量を引き出すことにより血圧を2時間低下させる)、内毒素性ショック(5 mg/kgのグラム陰性内毒素の投与による)、または腹膜炎誘導性ショック(腹腔に900 mg/kgの盲腸材料を入れることにより誘導)に曝露し、腸から、および呼気中の悪臭を放つ有機物質の放出について観察した。悪臭のする有機物質は、膵酵素による自己消化に供された動物からは放出されたが、自己消化に供されなかった動物からは放出されなかった。生存しない動物は一様に悪臭のする有機物質を放出したが、生存した動物は劇的に低レベルのそれを産生した。例えば、出血性ショックにおいて腸の内腔中で消化酵素が遮断された動物(シクロカプロンなどの膵臓セリンプロテアーゼ阻害剤の注入による)は、プトレシン、カダベリン、メチオナール、およびトランスチレチンなどのより低レベルの物質を有していた。
【0045】
出血性ショックの前後で実験用ラットから血漿サンプルを採集し、質量分析に供したところ、対照血漿中に存在する小分子量有機物質がショックに供された動物の血漿中では分解されたことが示され、これは、ショックにおけるより小さい有機分解産物(分解されたアポリポタンパク質、トランスチレチン、パラルブミン(paralbumin)、ヘモグロビン、補体、炭酸脱水酵素、α1マクログロブリン、およびセリンプロテアーゼインヒビターを含む)の生成と一致していた。
【0046】
他の実施形態
本発明をその詳細な説明と共に説明してきたが、前記説明は例示を意図するものであり、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の範囲を制限することを意図するものではないことを理解すべきである。他の態様、利点、および改変は、以下の特許請求の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物が自己消化を経験している可能性を決定する方法であって、
a)哺乳動物から生物学的サンプルを用意すること;
b)1種以上の組織破壊産物の存在について前記生物学的サンプルを分析すること;および
c)前記1種以上の組織破壊産物が、該1種以上の組織破壊産物の対照レベルよりも高いレベルで前記生物学的サンプル中に存在する場合、自己消化を経験している可能性があるものとして前記哺乳動物を分類すること、または前記1種以上の組織破壊産物が、該1種以上の組織破壊産物の対照レベルよりも高いレベルで前記生物学的サンプル中に存在しない場合、自己消化を経験している可能性がないものとして前記哺乳動物を分類すること、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記生物学的サンプルが哺乳動物により吐き出された空気、哺乳動物の消化管から放出された空気、または皮膚蒸発の間に誘導された空気である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生物学的サンプルが血漿、尿、唾液、涙、汗、腹水、および脳脊髄液からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記哺乳動物がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ヒトが炎症性腸疾患、自閉症、膵臓炎および癌、1種以上の小腸もしくは大腸の悪性腫瘍、アルツハイマー病、または腸機能障害と関連する別の慢性変性疾患を有すると診断される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
1種以上の組織破壊産物が、メチオナール、ペンタン酸、2-フルフリルチオール、フェニルアセトアルデヒド、2,6-ジメチル-5-ヘプテナール、(E)-2-オクテナール、2-ノネナール、シトロネラール、2,3-ジエチル-5-メチルピラジン、および4-アセチルメチルシクロヘキセン、プトレシン、カダベリン、メタンチオール、インドール、スカトール、ならびに硫化水素からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
分析が、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、質量分析、蛍光検出、またはポリマー検出を用いることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
分析が、高感度ガスクロマトグラフィーまたは小分子有機化合物の検出に特異的なセンサー技術を用いる装置を用いることを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
対照レベルが、自己消化を経験していない対照哺乳動物から得た生物学的サンプル中の1種以上の組織破壊産物のレベルである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
対照レベルが、自己消化を経験していない対照哺乳動物の集団から得た生物学的サンプル中の1種以上の組織破壊産物の平均レベルである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記哺乳動物が、自己消化を経験している可能性があると分類された場合、1種以上の消化酵素阻害剤を投与することにより自己消化を治療することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
医療専門家に、1種以上の組織破壊産物の存在に関する情報を伝達することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記哺乳動物がショックの他の症候を示すか否かを決定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ショックの症候が、臓器機能障害、かん流不全、皮膚色変化、血漿サイトカインレベルの増加、および刺激に対する応答の低下からなる群より選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
サイトカインが腫瘍壊死因子α、インターロイキン1、インターロイキン6、およびインターロイキン8からなる群より選択される、請求項14に記載の方法。

【公表番号】特表2013−505440(P2013−505440A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529725(P2012−529725)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/057521
【国際公開番号】WO2011/034539
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(500445295)ザ レジェンツ オブ ザ ユニヴァースティ オブ カリフォルニア (28)
【Fターム(参考)】