説明

自己融着性絶縁電線

絶縁電線上に、融着層を設けて成る自己融着性絶縁電線において、該融着層105〜150℃の温度範囲中に融点がある結晶性共重合ポリアミド樹脂と曲げ弾性率が1500MPa以上のアルコール可溶性共重合ポリアミド樹脂とをアルコール系有機溶剤を含む混合有機溶剤に溶解した融着塗料を塗布焼き付けしてなる融着層を設けた自己融着性絶縁電線である。本発明の自己融着性絶縁電線は、融着層中に含まれる残留フェノール系溶剤量が低減されているので、電線から発生するフェノール系溶剤臭気、およびこの自己融着性絶縁電線をコイル巻線機により偏向ヨークコイルに成形する時に発生するフェノール系溶剤臭気が低減し、更に偏向ヨークコイルのコイル巻線、加熱融着、加圧成形後の初期歪が小さいという特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、テレビ受像器やコンピューターディスプレイなどに用いられる偏向ヨークコイルの製造に用いる自己融着性絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
自己融着絶縁電線は、最外層に融着層が設けられていることから、金型にコイル巻後、通電加熱、溶剤処理法等により最外層の融着層が溶解または膨潤し、線間相互を融着固化せしめうることから、簡単に自己支持型のコイルを作ることが可能である。このように自己融着性絶縁電線は電気機器コイルの生産性を高め、製造コストを低減させることから、家庭電気機器、OA機器、電装品、CRTディスプレイ用偏向ヨーク等のコイル用途に広く実用化されている。
特に、CRTディスプレイ装置など、近年多用される偏光ヨークコイルの用途は、小型化、耐熱化、高電圧化、高周波化が進んでいる。そのため、偏向ヨークコイルは、コイル形成時、すなわち、巻線用金型にコイル巻線後、熱融着して成形されたときに初期歪み(コイルの寸法と巻線用金型寸法との差であり、コイルのネック径やネジレ量を測定することにより評価できる)が小さいことや、常温および高温時における寸法変化が少ないこと等が望まれている。その要求に対応できる自己融着性絶縁電線としては、常温および高温時においても優れた耐熱変形性と接着強度特性を有することが必要である。
従来、自己融着性絶縁電線の融着層を形成する融着樹脂としては、エポキシ樹脂(フェノキシ樹脂)が使用されていたが、近年では、耐熱性や接着性のバランスが良好な共重合ポリアミド樹脂が使用されている。
このような自己融着性絶縁電線は、導体上に、絶縁塗料、例えば、ポリエステルイミド塗料、ポリエステルイミドウレタン塗料、ポリウレタン塗料を、複数回、塗布、焼き付けして成る絶縁電線上に、共重合ポリアミド樹脂を主成分とする樹脂成分をクレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール系有機溶剤等に溶解せしめた融着塗料をダイスにより塗布し、これを焼付炉内に導入して溶剤を蒸発させ融着層を形成することにより製造されている。この製造方法は、融着塗料用として、溶剤に溶解する樹脂であればいかなる樹脂でも使用できること、絶縁電線への塗布時に必要な粘度低下が可能であること、等の利点がある。
しかし、このように融着塗料を絶縁電線上に塗布焼き付けする際には必然的にフェノール系有機溶剤が作業環境に揮散して環境を汚染し、しかも得られる自己融着性絶縁電線中にフェノール系有機溶剤が微量ながら残留する問題があった。
また、自己融着性絶縁電線は上記したように金型にコイル巻後、通電加熱され電気機器コイルに形成されるが、このように自己融着性絶縁電線の融着層中にフェノール系有機溶剤が微量ながら残留しているとコイル巻作業時の通電加熱時等に揮散するという問題がある。
このようにフェノール系有機溶剤は臭気、環境面で有害であるため、これらの問題を解決するためには、融着層中に残留するフェノール系有機溶剤量をできる限り低減する必要がある。
融着層を形成する樹脂として共重合ポリアミド樹脂を用いた自己融着性絶縁電線において、特開平10−154420では、共重合ポリアミド樹脂100重量部に対して200〜300℃に融点を有する高融点ナイロンを2〜10重量部添加することにより、巻線用金型にコイル巻線後、熱融着してコイルに成形されたときの初期歪みや寸法変化を小さくすることや、接着性を向上させるという技術を記載している。しかしながら、臭気低減を目的として、アルコール系溶剤を含む溶剤を用いると、高融点ナイロンの溶解性が充分ではない場合がある。
これに対して、特開平8−17251号(段落番号0007),特開平8−287727号(段落番号0022)では、融着塗料の有機溶剤として臭気、環境面で効果的なベンジルアルコールを使用することにより、このような問題点を解消することが提案されているが、ベンジルアルコールは樹脂の溶解性が不十分であり、アルコールに可溶な特殊な共重合ポリアミドしか溶解できないという問題に加え、ベンジルアルコールは融着皮膜中に残留しやすいという問題もある。
特開平11−53952(段落番号0005)では、有機溶剤としてアミルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、またはオクチルアルコール等のアルコール系溶剤とクレゾール、キシレン主成分の芳香族有機溶剤の混合有機溶剤を使用し、さらにフェノール樹脂を添加することで、低臭気性自己融着性マグネットワイヤを実現することが開示されている。しかし、DYコイル巻線時に、フェノール樹脂から臭気が発生するため、臭気の低減効果は充分ではない。また、DYコイル巻線後の寸法変化が記載されているが充分ではない。しかも、特定の曲げ弾性率を有するアルコール可溶性共重合ポリアミド樹脂について開示されていない。
一方、特開平8−249936の実施例には、導体上に絶縁層を介して、融点が155℃を超えるアルコール可溶性ポリアミド樹脂と融点が155℃以下のアルコール不溶性ポリアミド樹脂を有機溶剤に溶解してなる融着塗料を焼き付けたアルコール巻線または熱風巻線可能な自己融着性マグネットワイヤについて記載されているが、具体的にアルコール系溶剤を用いた場合の記載はなく、また、使用するポリアミド樹脂の曲げ弾性率とコイルの初期歪の関係については言及されていない。
コイルの臭気と初期歪の両方の問題を解決する方法に対する提案は、現在まで成されていない。
【発明の開示】
本発明は、上記のような自己融着性絶縁電線における従来技術の問題点を解消し、自己融着性絶縁電線の融着層中に残留するフェノール系有機溶剤量を少なくでき、また該自己融着性絶縁電線を用いて電気機器コイルを成形する際に、成型コイルからのフェノール系有機溶剤の発生ガス量が少ないため臭気環境面での問題がなく、かつ融着層の曲げ弾性率が高いためコイルの初期歪も小さい自己融着性絶縁電線を提供することを目的とするものである。
本発明は、絶縁電線上に、融着塗料を塗布焼き付けして成る融着層が形成された自己融着性絶縁電線であって、融着塗料が、
(A)105〜150℃の温度範囲中に融点がある結晶性共重合ポリアミド樹脂、
(B)曲げ弾性率が1500MPa以上のアルコール可溶性共重合ポリアミド樹脂、
(C)アルコール系有機溶剤を含む有機溶剤
を含む融着塗料であることを特徴とする自己融着性絶縁電線に関する。
融着塗料
(A)結晶性共重合ポリアミド樹脂
本発明における結晶性共重合ポリアミド樹脂は、特に限定されないが、105〜150℃の温度範囲中に融点を有するものであり、好ましくは120〜150℃の温度範囲中に融点を有するものである。結晶性共重合ポリアミド樹脂の融点が105℃以下であると自己融着性絶縁電線の耐熱性が不十分となる傾向にある。一方、融点が150℃を越えると、偏向ヨークコイルの成形時の接着性が悪くなり、線バラケ等の不具合が生じる場合がる。
なお、このような結晶性共重合ポリアミドとしては、6−ナイロン、66ナイロン、610ナイロン、612ナイロン、11ナイロン、12ナイロン、イソホロンジアミン−アジペート等の共重合体があげられ、市販品としては、ダイセル・デグサ社のX7079、431、451、471、アトフィナ社のM1186、M2269、MX2441、MX2447、MX2454等が挙げられる。
(B)アルコール可溶性共重合ポリアミド樹脂
本発明に用いられるアルコール可溶性共重合ポリアミド樹脂は、曲げ弾性率が1500MPa以上のアルコール可溶性共重合ポリアミド樹脂である。本発明者らは、結晶性共重合ポリアミド樹脂に添加する、アルコール可溶性共重合ポリアミド樹脂の曲げ弾性率と、成形コイルの初期歪との関係に着目し、種々の曲げ弾性率を有するアルコール可溶性共重合ポリアミド樹脂の検討を行った結果、曲げ弾性率が1500MPa以上のものが有効であることを見出した。
アルコール可溶性とは、アルコール系溶剤(メタノール)100gに20g以上溶解するもののことをいう。
前記(B)成分は、イソホロンジアミンとセバシン酸の反応物、イソホロンジアミンとアゼライン酸の反応物、イソホロンジアミンとアジピン酸の反応物、ナイロン6モノマー単位、ナイロン66モノマー単位、ナイロン610モノマー単位、ナイロン11モノマー単位、ナイロン12モノマー単位の中から選ばれた少なくとも2種以上を含むものが好ましい。市販品としては、ダイセル・デグサ社のX1010、X4685、アトフィナ社のMX2386等が挙げられる。前記(B)成分の曲げ弾性率は、1700MPa以上であることが好ましい。
このような(B)成分の添加量は、(A)成分100重量部に対して、5〜20重量部であることが好ましい。5重量部以下では、融着層の曲げ弾性率が600MPa以下となり、巻線用金型にコイル巻線後、熱融着して成形されたときに偏向ヨークコイルの初期歪みが生じる場合があり、20重量部以上では線間接着力、熱変形性が低下する傾向にある。
(C)アルコール系有機溶剤を含む有機溶剤
本発明においては、アルコール系有機溶剤を必須とする。アルコール系有機溶剤を用いることにより、臭気を低減することが可能となる。このようなアルコール系有機溶剤としては、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、2−エチルヘキサノール、オクタノール、アミルアルコール等がある。これらの中では、2−エチルヘキサノールが樹脂溶解性に優れていることから好ましい。
アルコール系有機溶剤以外の有機溶剤を併用する場合、アルコール系有機溶剤の含有量は、全溶剤量の5〜30重量%であることが、溶解性、塗料安定性等の点で好ましい。さらに好ましくは10〜25重量%である。アルコール系有機溶剤の含有量が10重量%未満の場合は、臭気を低減する効果が充分に得られない場合がある。また、30重量%を超えてもかまわないが、30重量%を超えると溶解性および塗料安定性が低下する傾向にある。
(C)成分としては、溶解性や塗料安定性の向上を目的として、臭気を悪化させない程度に、アルコール系有機溶剤以外の有機溶剤を含有していてもよい。たとえばクレゾール(クレゾール酸)、フェノール、キシレノール等のフェノール系有機溶剤やN−メチルピロリドンも使用できる。また、ソルベントナフサ、各種芳香族炭化水素、キシレン、トルエンなどの貧溶媒も前記良溶媒とともに用いることができる。これらは単独で用いても良く2種以上組み合わせて用いてもよい。
アルコール系有機溶剤を用いることにより、フェノール系有機溶剤などの含有量を低減させることができるので、(C)成分中のフェノール系有機溶剤の含有量は、全溶剤量の40重量%以下であることが好ましい。40重量%を超えると、該融着塗料を用いて形成される自己融着性絶縁電線中のフェノール系有機溶剤の残留溶剤量が増加するため、臭気が悪化する場合がある。さらに20重量%未満の場合は、塗料の溶解性が低下する傾向にある。
また、(C)成分として、芳香族炭化水素を含有していてもよく、その使用量は、全溶剤量の30〜60重量%であることが、臭気および溶解性の点で好ましい。さらに好ましくは、35〜55重量%である。有機溶剤中の芳香族炭化水素の含有量が35重量%未満の場合は、臭気が悪化する場合がある。60重量%を超えると溶解性および塗料安定性が低下する傾向にある。
(D)その他の成分
本発明においては、融着塗料に各種添加剤を配合してもよい。添加剤としては、前記共重合ポリアミド樹脂の熱劣化を防止して、偏向ヨークコイルの線間接着力が実用使用時に低下しないようにするために、一般的に知られている酸化防止剤であれば特に限定することなく用いることができる。
また、自己融着性絶縁電線に良好な潤滑性を付与して自己潤滑性絶縁電線として使用するために、本発明の効果を損なわない範囲で適当な潤滑剤を融着性塗料中に添加しても良い。
自己融着性絶縁電線
本発明の自己融着性絶縁電線は、前記(A)〜(C)成分に、必要に応じて酸化防止剤、潤滑剤等のその他の成分を含む融着塗料を、絶縁電線上に塗布、焼き付けして形成したものである。
前記融着塗料の樹脂分濃度としては、使用する絶縁電線のサイズにより異なるが、10〜25重量%であることが好ましい。前記樹脂分濃度が10重量%未満の場合には目標とする融着層を形成するために多数回の塗布、焼き付けが必要で生産性が低下するだけでなく、融着層中の残留溶剤量が多くなる場合がある。また、25重量%を超える場合には融着塗料としたときの粘度が上り、それにより塗布、焼き付け時の作業性が急激に悪化するだけでなく、融着塗料に用いる溶剤に均一に溶解できない場合も生じる。
本発明の自己融着性絶縁電線に用いられる絶縁電線は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の導体上に、ポリエステルイミドやポリウレタン、ポリエステル、ポリエステルイミドウレタン、ポリアミドイミド、ポリアミドイミドウレタン、ポリイミド、ポリエステルアミド、ポリエステルアミドイミド等で被覆し、絶縁層を設けたものである。
前記融着塗料を絶縁電線上に塗布する方法としては、通常知られている塗布方法であれば特に限定はなく、たとえば、ダイス絞り法、フェルト絞り法などの方法が挙げられる。
本発明の自己融着性絶縁電線における融着層の厚さは、自己融着性絶縁電線の品種、サイズにより異なるが、5〜20μm、概ね10μm程度である。前記融着層の厚さが5μm未満の場合には、偏向コイルとしたときに適切な接着力が得られなくなり、20μmを超える場合にはコストが高くなる。
また、本発明の自己融着性絶縁電線に良好な潤滑性を付与して自己潤滑性絶縁電線として使用するために、本発明の効果を損なわない範囲内で適当な潤滑剤を本発明の自己融着性絶縁電線上に塗布してもよい。
【図面の簡単な説明】
図1:自己融着性絶縁電線および自己融着性リッツ線を用いて作製した偏向ヨークコイルの説明図である。
図2:作製した偏向ヨークコイルの寸法測定部位についての説明図である。
図3:作製した偏向ヨークコイルの接着力の測定方法についての説明図である。
【符号の説明】
1 巻き始めの電線
2 上部フランジ部
3 巻線部
4 下部フランジ部
5 巻き終りの電線
6 テンションゲージ
A ネック径
B ネジレ量
H 水平面
【発明を実施するための最良の形態】
つぎに、本発明の自己融着性絶縁電線を実施例および比較例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、比較例および実施例における評価方法を下記にまとめて示す。
(樹脂分濃度)
融着塗料約1.5gを170℃で2時間加熱した後、不揮発分重量を測定し、不揮発分重量/融着塗料重量により樹脂分濃度を算出した。
(樹脂溶解性)
樹脂溶解性は融着樹脂を溶剤に溶解させた後、室温まで冷却した時の塗料の状態で評価し、固化・ゲル化がしなければ○、固化・ゲル化した場合は×とした。
(保存安定性)
保存安定性は、融着樹脂を溶剤に溶解させて得られた塗料を室温中に168時間放置した後の塗料の状態により評価し、流動性がほとんど変化しないものを○、増粘、固化・ゲル化した場合は×とした。
(曲げ弾性率)
共重合ポリアミド樹脂の弾性率は、ペレット樹脂からASTM試験片を作成し、測定した。融着層の曲げ弾性率は、自己融着性絶縁電線約2kgをクレゾールに溶解・熱処理した後、ASTM試験片を作成し、測定した。
(臭気)
コイル巻線機(金型寸法:ネック径=40.4mm、ネジレ=0.0mm)により、成形条件を58ターン*2本巻、通電時間1.5秒、通電電流60A、冷却プレス時間25秒、金型温度40℃に設定し、コイル巻線、通電加熱、加圧成形して図1に示す偏向ヨークコイルを作製した。なお、図1中、1は巻き始めの電線、2は上部フランジ部、3は巻線部、4は下部フランジ部、5は巻き終わりの電線を示す。得られた偏向ヨークコイルの臭気を嗅ぎ、フェノール系有機溶剤の臭気が感じられないものを○、少しでも感じ取れるものを×とした。
(発生ガス量)
得られた偏向ヨークコイルを95℃で10分間加熱し、それにより発生したガスを一次トラップ管に捕集し、パージ&トラップガスクロマトグラフィーを行なった。測定装置として、日本分析工業株式会社製のアウトガスサンプラ「HDD−500」、キューリーポイントパージ&トラップサンプラ「JHS−100A」、キューリーポイントパイロライザー「JHP−3」、ガスクロマトグラフィーは島津製作所社製「GC−14B」を用いた。なお、発生ガス量は偏向ヨークコイルにおける融着層重量当たりの発生したガス量の割合で示した。アルコール系有機溶剤は自己融着絶縁電線の融着皮膜中に一部残留するが、上記のパージ&トラップガスクロマトグラフ後の質量分析により確認することができる。
(コイル寸法)
得られた偏向ヨークコイルにおいて、図2に示した測定部位について、ネック径はノギスで、ネジレ量はスキマゲージで測定した。
(線間接着力)
得られた偏向ヨークコイルを室温で24時間放置した後、図3に示したように、偏向ヨークコイルの内側部分1ターンの接着力をテンションゲージで測定した。
(耐熱後のネック径変化量(耐熱変形性))
得られた偏向ヨークコイルを120℃あるいは130℃に設定したオーブン中で2時間加熱した後、室温で放冷し、コイルのネック径を測定した。加熱前のネック径と加熱後のネック径の変化量を表した。
【実施例1】
ダイセル・デグサ社の結晶性共重合ポリアミド樹脂であるX7079(融点130℃)100重量部に対して、アルコール可溶性共重合ポリアミド樹脂としてアトフィナ社の曲げ弾性率が2200MPaのMX2386を10重量部含有して成る樹脂成分を、クレゾール酸とC9芳香族ナフサである丸善石油化学社製スワゾール1000と2−エチルヘキサノールとの重量比が40:40:20である混合有機溶剤に、樹脂分濃度15重量%になるように溶解して、融着塗料を得た。得られた融着塗料の粘度は、30℃において20dPa・sであった。この融着塗料を導体径0.15mm、絶縁外径0.19mmのポリエステルイミド絶縁電線上に塗布(ダイス絞り法にて塗布)、焼付け(炉長3.0m、炉温300℃、線速60m/min)を3回繰り返し、融着皮膜厚さ10μmの自己融着性絶縁電線を得た。さらに、得られた自己融着性絶縁電線の10本を撚り合わせて自己融着性リッツ線とした。以上の結果を表1に示す。
【実施例2】
クレゾール酸とスワゾール1000と2−エチルヘキサノールとの重量比が、40:50:10である混合有機溶剤とした以外は実施例1と同様にして行なった。結果を表1に示す。
【実施例3】
クレゾール酸とスワゾール1000と2−エチルヘキサノールとの重量比が、30:50:20である混合有機溶剤とした以外は実施例1と同様にして行なった。結果を表1に示す。
【実施例4】
クレゾール酸とスワゾール1000と2−エチルヘキサノールとの重量比が、40:35:25である混合有機溶剤とした以外は実施例1と同様にして行なった。結果を表1に示す。
【実施例5】
クレゾール酸とスワゾール1000と2−エチルヘキサノールとの重量比が、35:55:10である混合有機溶剤とした以外は実施例1と同様にして行なった。結果を表1に示す。
【実施例6】
MX2386の添加量をX7079 100重量部に対して15重量部とした以外は実施例1と同様にして行なった。結果を表1に示す。
【実施例7】
MX2386の添加量をX7079 100重量部に対して20重量部とした以外は実施例1と同様にして行なった。結果を表1に示す。
【実施例8】
アルコール可溶性共重合ポリアミド樹脂として、ダイセル・デグサ社の曲げ弾性率が1900MPaのX4685を用いた以外は、実施例1と同様にして行なった。結果を表1に示す。
【実施例9】
アルコール可溶性共重合ポリアミド樹脂としてダイセル・デグサ社の曲げ弾性率が1700MPaのX1010を用いた以外は実施例1と同様にして行なった。結果を表1に示す。
(比較例1)
有機溶剤をベンジルアルコール100重量%とした以外は実施例1と同様にして行なった。結果を表2に示す。
(比較例2)
有機溶剤をクレゾール酸100重量%とした以外は実施例1と同様にして行なった。結果を表2に示す。
(比較例3)
クレゾール酸とスワゾール1000の重量比が70:30である混合有機溶剤とした以外は実施例1と同様にして行なった。結果を表2に示す。
(比較例4)
クレゾール酸とスワゾール1000の重量比が60:40である混合有機溶剤とした以外は実施例1と同様にして行なった。結果を表2に示す。
(比較例5)
ベンジルアルコールとクレゾール酸とスワゾール1000の重量比が60:15:25である混合有機溶剤とした以外は実施例1と同様にして行なった。結果を表2に示す。
(比較例6)
X7079 100重量部を、クレゾール酸とスワゾール1000の重量比が70:30である混合有機溶剤に、樹脂分濃度15重量%になるように溶解して、融着塗料を得た。それ以外は、実施例1と同様にして行なった。結果を表2に示す。
(比較例7)
アルコール可溶性共重合ポリアミド樹脂としてダイセル・デグサ社の曲げ弾性率が1200MPaのZ2057とした以外は実施例1と同様にして行なった。結果を表2に示す。
(比較例8)
アルコール可溶性共重合ポリアミド樹脂として東レ社の曲げ弾性率が1400MPaのCM4001とした以外は実施例1と同様にして行なった。結果を表2に示す。
(比較例9)
高融点ナイロン樹脂として、融点が260℃の66ナイロンの添加量を、X7079 100重量部に対して5重量部とした以外は実施例1と同様にして行なった。結果を表2に示す。
(比較例10)
高融点ナイロン樹脂として、融点が260℃の66ナイロンの添加量をX7079 100重量部に対して5重量部含有して成る樹脂成分を、クレゾール酸とスワゾール1000の重量比が70:30である混合有機溶剤に、樹脂分濃度15重量%になるように溶解して、融着塗料を得た。それ以外は、実施例1と同様にして行なった。結果を表2に示す。


表2からわかるように、ベンジルアルコールを溶剤に使用している比較例1では、樹脂溶解性および保存安定性の面で問題があり、使用不能である。
比較例2〜6では、コイルからの発生ガス量が多く、臭気的に問題である。また、曲げ弾性率が2200MPaのアルコール可溶性共重合ポリアミド樹脂を添加している比較例2〜5は、融着層曲げ弾性率が高いため、成型後のコイルのネジレ量が小さい。それに対して結晶性共重合ポリアミド樹脂のみの比較例6は、融着層曲げ弾性率が低いため、成型後のコイルのネジレ量が大きく、熱変形の変化量も大きい。
比較例7は曲げ弾性率が1200MPaのアルコール可溶性共重合ポリアミド樹脂を添加している場合であるが、成型後のコイルのネジレ量が目標レベルには至っていない。比較例8の曲げ弾性率が1400MPaのアルコール可溶性共重合ポリアミド樹脂を添加している場合も同じである。
比較例9、10は高融点ナイロン樹脂の66ナイロンを添加した場合である。比較例10は特開平10−154420の方法で、融着層の曲げ弾性率が高いため、コイルのネジレ量は良好であるが、臭気的には問題である。それに対して、比較例9は本発明の溶剤組成を用いた場合であるが、66ナイロンの溶解性が問題となり使用不能である。
これらの比較例に対して、実施例1〜9の融着塗料は、樹脂溶解性、保存安定性が良好であり、これら融着塗料を絶縁電線上に塗布焼付して得られる自己融着性絶縁電線は、偏向ヨークコイルに成形した際、コイルからのフェノール系有機溶剤の発生ガス量が少ないため臭気環境面での問題がない。さらに、融着層の曲げ弾性率が高いためコイルの初期歪も小さく、高温(120℃)においても、優れた耐熱変形性を発揮した。
【産業上の利用可能性】
本発明の自己融着性絶縁電線は、融着層中に残留するフェノール系有機溶剤量を少なくでき、また該自己融着性絶縁電線を用いて電気機器コイルを成形する際に、成型コイルからのフェノール系有機溶剤の発生ガス量が少ないため臭気環境面での問題がなく、かつ融着層の曲げ弾性率が高いためコイルの初期歪も小さい。したがって、本発明の自己融着性絶縁電線は工業上極めて有用である。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁電線上に、融着塗料を塗布焼き付けして成る融着層が形成された自己融着性絶縁電線であって、融着塗料が、
(A)105〜150℃の温度範囲中に融点がある結晶性共重合ポリアミド樹脂、
(B)曲げ弾性率が1500MPa以上のアルコール可溶性共重合ポリアミド樹脂、
(C)アルコール系有機溶剤を含む有機溶剤
を含む融着塗料であることを特徴とする自己融着性絶縁電線。
【請求項2】
前記(C)成分のアルコール系有機溶剤の含有量が、全溶剤量の5〜30重量%であることを特徴とする請求項1記載の自己融着性絶縁電線。
【請求項3】
前記(C)成分のアルコール系有機溶剤が2−エチルヘキサノールであることを特徴とする請求項2記載の自己融着性絶縁電線。
【請求項4】
前記(C)成分が、フェノール系有機溶剤および/または芳香族系炭化水素を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の自己融着性絶縁電線。
【請求項5】
前記(C)成分のフェノール系有機溶剤の含有量が全溶剤量の40重量%以下であることを特徴とする請求項4記載の自己融着性絶縁電線。
【請求項6】
前記(C)成分の芳香族系炭化水素の含有量が全溶剤量の30〜60重量%であることを特徴とする請求項1〜4記載の自己融着性絶縁電線。
【請求項7】
前記(B)成分が、イソホロンジアミンとセバシン酸の反応物、イソホロンジアミンとアゼライン酸の反応物、イソホロンジアミンとアジピン酸の反応物、ナイロン6モノマー単位、ナイロン66モノマー単位、ナイロン610モノマー単位、ナイロン11モノマー単位、ナイロン12モノマー単位の中から選ばれた少なくとも2種以上を含むものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の自己融着性絶縁電線。
【請求項8】
前記(B)成分の添加量が前記(A)成分100重量部に対して5〜20重量部であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の自己融着性絶縁電線。
【請求項9】
絶縁電線上に、融着層が形成された自己融着性絶縁電線であって、融着層の曲げ弾性率が600〜1000MPaで、融着層中からのアルコール系有機溶剤の発生ガス量が、0.1〜100ppmの範囲であることを特徴とする自己融着性絶縁電線。
【請求項10】
絶縁電線上に、融着層が形成された自己融着性絶縁電線であって、該自己融着性絶縁電線を、コイル巻線機により、成形条件を58ターン*2本巻、通電時間1.5秒、通電電流60A、冷却プレス時間25秒、金型温度40℃に設定し、コイル巻線、通電加熱、加圧成形した場合の偏向ヨークコイルのネジレ量が0.3以下で、融着層中からのアルコール系有機溶剤の発生ガス量が、0.1〜100ppmの範囲であることを特徴とする自己融着性絶縁電線。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の自己融着性絶縁電線から成型される偏向ヨークコイル。

【国際公開番号】WO2004/032153
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【発行日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−541228(P2004−541228)
【国際出願番号】PCT/JP2003/011863
【国際出願日】平成15年9月17日(2003.9.17)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】