説明

自己調整機能を有する織物

【課題】湿潤状態に於いて通気度調整機能を発揮し、かつ耐久性に優れ、かつ良好な膨らみ、着心地、抗ピリング性を兼ね備えた織物を提供すること。
【解決手段】少なくとも糸条A、糸条B、及び糸条Cが経糸及び/又は緯糸として配されてなる織物であって、糸条Aと糸条Bは相互に反対方向に撚係数5.0以上の実撚を有する親水性糸条であり、相互に1本又は複数本交互に隣接するように配されてなり、短繊維及び/又は長繊維である他の糸条Cが、糸条A及び/又はBに対して平行かつ隣接された位置に更に経糸及び/又は緯糸として配されてなり、織物が湿潤時と標準状態時で特定の通気度変化率を満足する自己調整機能を有する織物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は湿潤状態変化により可逆的に通気度が変化する自己調整機能を有する織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、湿度の変化により衣料の通気度を調整する提案は種々ある。湿度の変化に従ってセルロースアセテート繊維の捲縮率が変化し衣服内気候を調整しようとするものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、湿度の変化によりサイドバイサイド型に接合された複合繊維が捲縮し通気度を調整しようとするものも知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2002−180323号公報
【特許文献2】特開2004−124305号公報
【0003】
しかしながら、前記のいずれの方法に於いても湿潤時繊維捲縮による糸径差により織編物の目が大きくなり通気度向上を狙ったものであるが、この方法ではあくまで湿潤状態の変化による原糸レベルでの挙動が挙げられたものであり、原糸に撚掛けあるいは交編等による外部から何らかの力が加わることにより捲縮率等の挙動が低下することが考えられ、実用面に於いても使用素材、強度等の問題から用途が限定されること、また長繊維主体の素材であるため吸湿性、肌触りといった点でも満足出来るものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、湿潤状態に於いて通気度調整機能を発揮するため、素材そのものの持つ特性と相互に反対方向に実撚を有する糸条の湿潤時の解撚効果、織物構造を組み合わせることにより、実用面で半永久的に機能を保持できるだけでなく幅広く衣料用素材として使用でき、原糸撚掛けしても何ら通気度調整効果が低下することなく、かつ耐久性に優れ、かつ良好な膨らみ、着心地を兼ね備えた織物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに到った。即ち本発明は以下の構成を採用するものである。
1. 少なくとも糸条A、糸条B、及び糸条Cが経糸及び/又は緯糸として配されてなる織物であって、糸条Aと糸条Bは相互に反対方向に撚係数5.0以上の実撚を有する親水性糸条であり、相互に1本又は複数本交互に隣接するように配されてなり、短繊維及び/又は長繊維である他の糸条Cが、糸条A及び/又はBに対して平行かつ隣接された位置に更に経糸及び/又は緯糸として配されてなり、織物が下記式(1)で表される通気度変化率を満足することを特徴とする自己調整機能を有する織物。
(通気度変化率)={(通気度β−通気度α)/通気度α}×100≧+5.0%・・・(1)
(但し、通気度βはJIS L1096に準拠して測定した20℃×65%RHにおける通気度、通気度βは含水率50%での通気度をそれぞれ示す。)
2. 糸条A及び糸条Bが、親水性繊維を40重量%以上の割合で含有することを特徴とする上記第1に記載の自己調整機能を有する織物。
3. 経糸及び/又は緯糸の最大浮き数が2〜6であることを特徴とする上記第1又は第2に記載の自己調整機能を有する織物。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、湿潤状態に於いて通気度調整機能を発揮するために、素材そのものの持つ特性と反対撚による解撚トルク、織物構造を組み合わせることにより、実用面で半永久的に機能を保持できるだけでなく幅広く衣料用素材として使用でき、原糸撚掛けしても何ら通気度調整効果が低下することなく、むしろ強撚化による性能向上が見込まれ、たとえばピリング耐久性に優れ、かつ良好な膨らみ、着心地を兼ね備えた織物を提供しようとするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の織物は、経糸及び/又は緯糸に相互に反対方向の実撚を有するの撚係数 5.0以上の親水性糸条Aおよび親水性糸条Bと、グランド部を構成する糸条Cが配列されてなる。隣接する反対撚方向の親水性糸条Aおよび親水性糸条Bは1本ずつが隣接していても良いし複数本ずつ隣接していても良いが、本発明の効果を発揮させるため各1本〜4本までが好ましく、各1本〜2本がより好ましい。
【0008】
撚係数については2.54センチメートル(1インチ)当たりの撚数をルート英式綿番手で割った値より求めることができ[撚係数K= 2.54センチメートル当り撚数÷(英式綿番手)1/2]、その数値は5.0以上である。5.0以上であれば湿潤時の解撚トルクにより本発明の効果が発揮できるものの、撚係数が大きくなりすぎると原糸強力低下やビリ等、品質上の問題が発生やすくなるため、撚係数は5.0〜8.0が望ましく、撚係数5.0〜7.0がなお望ましい。
【0009】
短繊維及び/又は長繊維である他の糸条Cはグランド部を形成するものであり、糸条A及び/又はBに対して平行かつ隣接された位置に更に経糸及び/又は緯糸として配されてなることが好ましい。
【0010】
本発明の織物はJIS L1096で測定したときの20℃×65%RHにおける布帛通気度αと該布帛の含水率 50%の通気度βが下記式(1)を満たすことが好ましい。
(通気度変化率)={(通気度β−通気度α)/通気度α}×100≧+5.0%・・・(1)
5%未満では着用時に高湿度時の快適性を実感できにくいため好ましくない。また、50%を越えると、逆に急激な汗の気化が起こり、寒く感じてしまい安いため好ましくない。より好ましくは7%〜30%、さらには9%〜20%が一層好ましい。
【0011】
親水性糸条とは20℃、相対湿度95%RHの吸湿性が10%以上となるものとし[日本紡績協会編集 繊維技術データ集]、綿・羊毛・レーヨンの他、アクリレートや一部のアセテート等またこれらの混紡繊維が含まれる。
【0012】
これらの原糸を用いて式(1)を満たすメカニズムとしては標準状態(20℃×65RH)において織物企画に従い経緯一定の間隔をおいて配置されていた親水性糸条Aおよび親水性糸条Bが湿潤状態により吸湿・吸水することにより単繊維自体が膨潤することにより撚トルクが増大、撚方向とは逆の解撚方向に戻ろうとする力が働く。これらの原糸を1本あるいは複数本ずつ反対撚方向に隣接することによりS撚糸は左方向にZ撚糸は右方向に移動することから、その織物生地間の空隙が大きくなりJIS L1096で測定したときの湿潤前後の通気度の変化率が上記式(1)を満たすことが出来ると考えられる。
【0013】
本発明の親水性糸条Aと親水性糸条Bを構成するそれぞれの親水性成分は本効果を充分に発揮するためには40%以上であることが好ましい。上述の通り親水性成分の膨潤により繊維挙動させることにより生地空隙間を広げるためである。よって親水性成分は40%〜100%が望ましいが、70%〜100%がなお望ましい。
【0014】
生地中における親水性糸条Aと親水性糸条Bを構成する親水性成分は30%以上であることが好ましい。30%未満であれば通気度変化率が5%未満となりやすい。
【0015】
親水性糸条Aあるいは親水性糸条Bを構成する素材としては一定の吸湿率より選定されるがそれらの断面形状としては綿、羊毛等の天然繊維が持つ自然な断面形態の他に、化合繊素材においても丸断面の他に三角断面、多葉断面、中空断面いずれの断面を有していても良く、さらに異繊度、異繊維長混合等であっても良い。これらは親水性成分と混紡・混繊等を行う疎水性繊維においても同様に断面・繊度等規制されることはない。
【0016】
親水性糸条Aおよび親水性糸条Bの織物拘束点を組織する最大浮数または最大沈数は2〜6本であることが好ましい。ここで最大浮数あるいは最大沈数とは図1〜図3に示すように織組織図による経糸、あるいは緯糸がお互いの交差点までに拘束を受けない最大数のことである。図1のアゼクラ組織では2本、図2での多重組織では3本となる。1本では繊維の拘束が強く生地空間が広がりにくく、また、7本以上では生地スリップ、ピリング性が悪化しやすくなるため好ましくない。
【0017】
本発明の織物はピリング性に優れていることが、一つの特徴である。通常、通気度を上げるために織密度を低く設定するが、その場合ピリング性が著しく悪化しやすいという問題がある。しかし、本発明の織物は織り密度の範囲をトータルカバーファクタで18〜40に設定することと、撚数の範囲を適正化することでそれらの問題を解決した。ピリング性としては3.5級以上が好ましい。なおトータルカバーファクタは以下の式で求めることが出来る。
経糸カバーファクタ = 経糸密度(2.54cm間の本数)÷(経糸英式綿番手)1/2
緯糸カバーファクタ = 緯糸密度(2.54cm間の本数)÷(緯糸英式綿番手)1/2
トータルカバーファクタ = 経糸カバーファクタ+緯糸カバーファクタ
【0018】
布帛の含水率50%の設定はJIS L1095の水(20℃±2℃)に20分間以上浸せきして十分に湿潤させたものをいい(±5%は許容できる)、JIS L1095標準状態(20℃±2℃,65%±2%)との差である。
【0019】
糸条Cは、短繊維及び/又は長繊維であり、これらを複合した長短複合糸であっても良い。糸条Cを構成する素材としては、レーヨン、ポリノジック、キュプラ等の再生繊維、アセテート、トリアセテート等の半合成繊維、綿、麻、ウール等の天然繊維、ポリエステル繊維のステープル、その他の合成繊維のステープル、またこれらの混合された繊維等が挙げられるが、吸湿性あるいは肌触りと言った点から天然繊維もしくはセルロース系繊維が好ましい。65%RH、20℃における公定水分率(JIS-1096)が5%以上の親水性のものが好ましい。また断面形状としては丸断面の他に三角断面、中空断面、多葉断面等のいずれの断面を有していても良く、さらに異繊度、異繊維長混合であっても良い。糸条Cは親水性繊維でも疎水性繊維から構成されても良いが、疎水性繊維混率が高すぎることは、吸水性↓や手触りと言った点で衣料用にはあまり好ましくない。また親水性繊維混率が高すぎると湿潤時に単繊維が膨潤することにより生地空隙↓し通気度が低下しやすいのであまり好ましくない。前記のことから、糸条Cの疎水性繊維混率と親水性繊維混率は20%:80% 〜 80%:20%が好ましく30%:70%〜70%:30%がより好ましい。糸条Cの撚係数は湿潤時の生地寸法安定性および風合、コスト面からK=5.0以下が好ましく4.2以下がより好ましい。
【0020】
経糸又は緯糸において親水性糸条A及びBの合計と、糸条Cの重量比が30:70〜80:20であることが望ましい。親水性糸条A及びBの割合が30%未満であれば織り目を移動する繊維が少なくなりすぎるので通気度の変化が5%未満になりやすく、また、80%を越えると強撚糸のトルクにより生地収縮が大きくなりやすいことと移動する繊維の量が多くなり過ぎるため、織物の形態保持性がなくなりやすく、可逆的に湿度コントロールが出来にくいため好ましくない。より好ましい範囲は40:60〜70:30である。経糸と緯糸ともにそれぞれが糸条A、B、Cの繊維割合が上記範囲内であることが一層好ましい。
【0021】
親水性糸条A又はBの糸条繊度に対する糸条Cの糸条繊度の割合であるA:CもしくはB:Cは10:90〜70:30であることが好ましい。糸条Cの割合が30%未満では織物の形態保持性がなくなりやすく、可逆的に湿度コントロールが出来にくいため好ましくなく、90%を越えると吸湿の有無に関係なく親水性糸条A,Bのずれが起こりやすくなるので好ましくない。より好ましい範囲は20:80〜60:40である。
【実施例】
【0022】
以下に本発明を具体的に実施例に基づいて説明する。
測定方法は以下の通りである。
【0023】
(イ)撚数
手動式検撚機(浅野機械製作株式会社製)を用い、JIS L1095 A法に準じて撚数を測定した。
【0024】
(ロ)通気度変化率
JIS L1096A法に準じて実施した。下記の[1]試験片の作り方、[2]操作、[3]脱水および乾燥のスクリーンメッシュ面上に載せ自然乾燥させる。フラジール試験機を用いて通気度を測定した。20℃×65%RHに調温調湿した時の通気度、及び、含水率50%での通気度を測定し、式(1)に代入して求める。
[1]生地片の作り方
a 法 約30×30cmの試験片を2枚採取し中央に20×20cmの正方形を描いて測定面とする。次に測定面の各4辺の長さおよび対応する2辺の中点を結ぶ線を測定基準長としその長さ(mm)を測る。
[2]操作
A法(常温水浸せき法) 試験片を25℃±2℃の水中に30分間浸せきし、水を十分に浸透させる。
[3]脱水および乾燥
脱水は原則として遠心脱水機でほぼ流水がなくなるまで行う。もしくは軽く押さえて水を切り布の中間に挟み押さえて脱水する。乾燥はスクリーン乾燥を行い、取り出した試験片をねじったり伸ばしたりすることなく不自然なシワを除いて水平なスクリーンメッシュ面上に載せ自然乾燥させる。自重の1.5倍(含水率50%)となったところで試験片を平らな台の上に置き、測定基準重量を正確に測定する。
【0025】
(ハ)風合、品位
7名の判定者により以下の4ランクで官能評価した。
◎ 非常に良好、 ○ 良好、 △ 普通、 × 悪い
【0026】
(ニ)ピリング
JIS L1058 ICI 型ピリング試験機法(D法)に準じて実施した。
【0027】
(ホ)混率
JIS L1030−2 記載の溶解法のうち、70%硫酸法に準じて評価した。
【0028】
(ヘ)繊度
JIS L1096−8.8.1 a 2001年)法に準拠した。
【0029】
(実施例1〜3、比較例1〜6)
表1及び表2に示す素材を用いて本発明の実施例原糸、および比較例原糸を製造した。得られた原糸を豊田自動織機(株)エアジェットルーム(AJL)仕掛けたのち、通常の染色加工を実施した。この仕上がり生地を評価し同じく表1及び表2に示した。なお、織組織のアゼクラは図1、平は図4の組織、原糸配置とした。比較例6においては図5の組織、原糸配置とした。
【0030】
表1から次のことが確認された。実施例1〜3で製造した生地は各特性で良好な特性・評価を示し、総合評価も高いものとなった。また原糸撚糸・製織・加工の操業面においても
特に問題のないレベルであることを確認している。
【0031】
これに対して表2に示される比較例1および2では糸条Aおよび糸条Bの撚係数(K) が5.0未満のため乾燥時に対して湿潤時通気度が低下している。また風合も膨らみはあるものの、タラつきもやけ等が発生しており実施例のものより劣る評価が下された。
【0032】
比較例1および比較例5では生地最大浮沈数が2未満となったため乾燥時に比べ湿潤時の通気度低下率が大幅マイナスとなっている。
【0033】
比較例3および比較例4では糸条Aおよび糸条Bの親水性混率が低いため湿潤時の解撚トルクが充分でないため通気度変化率がマイナスとなっている。
【0034】
比較例6では原糸Aおよび原糸Bが隣接していないため規定の通気度変化率に届かなかった。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の織物は湿潤状態において通気度調整機能を有するだけでなく品位、ピリング等実用面に於いても何ら支障をきたすことなく用いることが出来、シャツ、カジュアル、スポーツ用途、オフィスユニフォーム用途など、幅広く衣料用途の素材として利用することができ、繊維産業界に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明で適用できる織組織の一例(アゼクラ)である。
【図2】本発明で適用できる織組織の他の一例である。
【図3】本発明で適用できる織組織の他の一例である。
【図4】好ましくない織組織の一例(平組織)である。
【図5】比較例で用いた織組織(糸条Aと糸条Bが隣接しない)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも糸条A、糸条B、及び糸条Cが経糸及び/又は緯糸として配されてなる織物であって、糸条Aと糸条Bは相互に反対方向に撚係数5.0以上の実撚を有する親水性糸条であり、相互に1本又は複数本交互に隣接するように配されてなり、短繊維及び/又は長繊維である他の糸条Cが、糸条A及び/又はBに対して平行かつ隣接された位置に更に経糸及び/又は緯糸として配されてなり、織物が下記式(1)で表される通気度変化率を満足することを特徴とする自己調整機能を有する織物。
(通気度変化率)={(通気度β−通気度α)/通気度α}×100≧+5.0%・・・(1)
(但し、通気度βはJIS L1096に準拠して測定した20℃×65%RHにおける通気度、通気度βは含水率50%での通気度をそれぞれ示す。)
【請求項2】
糸条A及び糸条Bが、親水性繊維を40重量%以上の割合で含有することを特徴とする請求項1に記載の自己調整機能を有する織物。
【請求項3】
経糸及び/又は緯糸の最大浮き数が2〜6であることを特徴とする請求項1又は2に記載の自己調整機能を有する織物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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