説明

自律応答する積層体およびそれを使用した窓

【課題】太陽光線に曝される積層体の耐候性を等方性水溶液の改良をもって飛躍的に向上させること。この等方性水溶液は、水溶性の多糖類誘導体、両親媒性物質、水等からなる高粘調液である。基本構造は一対の基板間に等方性水溶液を内包した積層体である。
【解決手段】トリアジン系紫外線吸収剤を等方性水溶液に添加することで、高耐候性の積層体をえた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽エネルギー等の加温による温度変化で、内包された等方水溶液が透明状態と白濁状態とを可逆変化する積層体に関する。
【技術の背景】
【0002】
近年、省エネルギー、快適性等の面から太陽光線を制御できる調光ガラスが注目されてきている。以下に、建築物、車両等の窓に使用する窓ガラスに関して主に述べるが、窓に限定されることなく本積層体は広く利用できる。
【0003】
本発明者は、太陽の直射光線が窓に照射していることに注目してきた。太陽の日射有無と季節の温度差を有効に利用することで、気温が高い夏期において日射でその日射を自然に白濁遮蔽する自律的に応答する調光ガラスの開発に成功した。具体的には、例えば、米国特許5615040、特開平6−255016、太陽エネルギー学会誌、太陽エネルギーVol.27,No.5(2001)14−20に記した。その基本構造は一対の基板間に等方性水溶液を内包した積層体である。この等方性水溶液は、水溶性の多糖類誘導体、両親媒性物質、水等からなる高粘調液である。その原理は、温度に依存して安定的に可逆変化するゾル−ゲル相転移である。低温では分子が均一に溶解して等方性水溶液(ゾル状態)となり、高温では溶存分子が集まって凝集状態(ゲル状態)をとって相転移する。ゲル状態では、溶媒と微小凝集体との密度差による光散乱により白濁して約80%も遮光した。この積層体を窓に施工すると、冬期は積層体の温度が上がらず透明状態を維持して日向となり、夏期は直達日射の加温白濁によりその日射を約80%もカットする省エネ調光窓ガラスとなった。この積層体は、前記の文献にも記されてあるように下記の基本条件をほぼ満たすことができた。
1)透明−白濁の相転移が可逆的であること。
2)可逆変化がむらなく繰返し可能なこと。
3)耐候性があること。
【0004】
この積層体は、本発明者により既に窓ガラスとして試験施工されてきたが、日射を常に受ける窓ガラスに広く普及させるために、さらに耐候性を向上させることが必要と分かった。事実、良好な封止構造をもって組立てた積層体を東京地区での屋上で暴露試験をした結果、5mm厚のフロートガラスでも約3年で既に白濁開始温度の上昇が見られた。そこで、本発明者はこの等方性水溶液に紫外線吸収剤を添加する方法を詳細に鋭意検討した結果、前記1〜2の条件を持って3の条件も十分に満たす画期的な高耐候性をもつ本積層体に至った。
【0005】
窓ガラスは、少なくとも10年、さらに20年、30年と長期間に渡って使用できる高耐候性が求められる。また、可能な限り軽量でかつ厚みが薄いことが、躯体への負荷、窓枠への適合性に好ましいばかりでなく、製造、輸送、施工等にも有利である。本発明者は、既にガラス基板に紫外線カット機能をもたせる方法も検討してきたが、着色、重量増大、特殊加工等の問題点があり、一般化には不適であった。そこで、本発明者は等方性水溶液自身の耐候性を飛躍的に向上させるために、各種紫外線吸収剤を幅広く検討してきた。具体的には、ベンゾフェノン、シアノアクリレート、ベンゾトリアゾール、サリチレート、トリアジン等である。
【0006】
その結果、本発明者は、WO2004/104132に記したベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を見出した。さらに、本発明であるトリアジン系紫外線吸収剤も有用であることを見出し、高耐候性をもった本積層体を得た。なお、トリアジン系紫外線吸収剤は他の紫外線吸収剤と比較して、金属イオンと反応して黄変し難く、等方性水溶液の製造とその保存にとても都合が良く好ましい。当然、本積層体を窓ガラスに使用すると、日射遮蔽効果に加えて、常に紫外線がカットされて、皮膚癌の防止、室内物の変退色の防止等にも有効である。
【0007】
トリアジン系紫外線吸収剤には、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(以下、HPTと記す)とトリアニリノトリアジン系紫外線吸収剤がある。しかし、強烈な日射に長期間曝される窓ガラスへの使用には、紫外線吸収剤自身が高耐候性をもつ必要があり、トリアニリノトリアジン系紫外線吸収剤(例えば、BASF社のUvinulT150等)は不十分であった。事実、短期間使用の化粧品の添加剤として使用されている。これに対し、HPTはオルト位の水酸基がトリアジン環の窒素と相互作用して安定的に紫外線を吸収する。当然、本積層体の等方性水溶液にHPTを使用することは従来技術では知られていない。
【0008】
ただ、HPTは別の用途には広く利用されている。例えば、自動車用塗料(米国特許第5106891等)、写真向用途(米国特許第3843371等)、ポリマーフィルムコーティング(米国特許第4740542等)、インクジェト印刷(米国特許第5096489等)、窓用フィルム(WO92/01557等)、接着剤組成物(特公表2002−543265等)、水性塗料(特開2004−256802)、化粧品(特開2004−352678)等があり、高耐候性が示されている。また、HPTの製法は、米国特許第3444164号、米国特許第5726309号、米国特許第5681955号、米国特許第5556973号、英国特許第2317714号、WO96/28431、特開昭61−24577、特開平10−17556、特開平10−182621、特開平11−71356等に詳細に記されている。さらに、HPTのベンゼン環のパラ位にある水酸基に親水性官能基(例えば、ポリエチレングリコール基等)を付加させて、等方性水溶液への溶解性を高めることは本発明に有用な改質である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
太陽光線に曝される積層体の耐候性を等方性水溶液の改良をもって飛躍的に向上させること。この等方性水溶液は、水溶性の多糖類誘導体、両親媒性物質、水等からなる高粘調液である。基本構造は一対の基板間に等方性水溶液を内包した積層体である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前述の問題点を解決するためになされたものであり、非イオン性の両親媒性官能基をもって水溶性である重量平均分子量約10,000〜約200,000の多糖類誘導体100重量部を前記多糖類誘導体100重量部に対して約25〜約450となる量の水と約60以上〜約5000以下の分子量をもつ両親媒性物質とからなる水性媒体約100〜約2,000重量部に溶解してなる等方性水溶液を、少なくとも一部が透明であり、前記水溶液を直視可能な基板で積層した積層体において、水、両親媒性物質またはその混合溶液に対する20℃での溶解度が0.5g以上であるヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を前記等方性水溶液100重量部に0.01重量部〜10重量部添加されている積層体および非イオン性の両親媒性官能基をもって水溶性である重量平均分子量約10,000〜約200,000の多糖類誘導体100重量部を前記多糖類誘導体100重量部に対して約25〜約450となる量の水と約60以上〜約5000以下の分子量をもつ両親媒性物質とからなる水性媒体約100〜約2,000重量部に溶解してなる等方性水溶液を、少なくとも一部が透明であり、前記水溶液を直視可能な基板で積層した積層体を含む窓において、水、両親媒性物質またはその混合溶液に対する20℃での溶解度が0.5g以上であるヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を前記等方性水溶液100重量部に0.01重量部〜10重量部添加されている窓を提供するものである。
【0011】
本発明に関係する等方性水溶液は、非イオン性の両親媒性官能基を付加した水溶性の多糖類誘導体(以下、両親媒性多糖類誘導体と記す)と両親媒性物質および水を基本組成とし、温度変化で透明状態と白濁状態を安定的に可逆変化する等方性水溶液である。
【0012】
本発明者は、水と共に等方性水溶液に含まれる両親媒性物質に溶媒作用があることに注目した。そこで、良好な紫外線吸収性能をもちかつその物質自身が高い光安定性をもつHPTに注目し、水、両親媒性物質、両親媒性多糖類誘導体との親和性の関係を詳細に検討した。その結果、等方性水溶液にHPTを適量添加することで、等方性水溶液の耐候性を飛躍的に向上させることに成功した。
【0013】
そのHPTは、室温で液状の両親媒性物質、水またはその混合溶媒に対する20℃の溶解度が0.5g以上、好ましくは1g以上、より好ましくは2g以上である。より具体的には、水酸基価約160〜約320のポリエチレングリコールモノフェニルエーテルに対する20℃の溶解度が前記条件を満たすことである。さらに好ましくは、水酸基価約165のポリエチレングリコールモノフェニルエーテルに対する20℃の溶解度が前記条件を満たすことである。その理由は、等方性水溶液は水と両親媒性物質の混合溶媒からなっており、水親和性が高い両親媒性物質に溶解するHPTであることは、等方性水溶液の状態でより溶解性が高まり好ましいと言える。よって、ポリエチレングリコールモノフェニルエーテルでは水親和性の高い水酸基価約165に溶解するHPTがより好ましい。また、20℃の水または水と両親媒性物質との混合溶媒に対する溶解度が前記条件を満たすイオン性官能基をもつHPTもある。イオン性官能基はベンゼン環に直結する構造と鎖状部を介して結合した構造があり共に使用できる。ただ、イオン性のHPTは、イオン性官能基がベンゼン環に直結することなく鎖状部を介して結合していると、HPT自身の光安定性が良くなりより好ましい。ここで、鎖状部とは、ベンゼン環とイオン性官能基との間に挿入された官能基(例えば、メチレン基、エチレン基、エチレンオキサイド基、プロピレンオキサイド基、ヒドロキシプロピレン基、エーテル基等)である。
【0014】
HPTをもった等方性水溶液の調整法は、水、両親媒性物質またはその混合溶媒にHPTを加温溶解し、必要の応じて添加剤を加え混合し、最後に両親媒性多糖類誘導体を加えて十分に撹拌することで均一な等方性水溶液をえた。この時に、HPTが単に微小分散体として均一に存在するだけでは不十分であり、少なくともHPTの一部が等方性水溶液に溶解状態にあることが高耐候性を得るために好ましかった。このことは、HPTが水と両親媒性物質、さらに両親媒性多糖類誘導体とに親和性が高いほど本目的に好ましい。そのためには、トリアジン環の窒素とベンゼン環のオルト位にある水酸基による紫外線吸収する構造に加えてベンゼン環のパラ位に親水性官能基を付加して等方性水溶液に溶解し易くすることが好ましい。
【0015】
HPTの具体的な代表例として、並外れた強い吸収と高い耐久性をもち、低い添加濃度でも効果が期待できるチバ・スペシャル・ケミカルズ社のTINUVIN479に注目した。このUV剤は2箇所のフェニル・フェニル基とイソオクチル基により疎水性が強すぎて溶解性を確保できなかった。そこで、親水性を確保するためにイソオクチル基をもつエステル部を加水分解してイオン性官能基のカルボキシル基を有する化1(以下、UV479と記す)をえた。主骨格が非常に安定しており、この加水分解は説明するまでもなく容易で、トルエンに加温溶解後に水酸化ナトリウム水溶液を加えて100℃で加温撹拌して加水分解反応させた。その後に塩酸水で中和して、析出物をろ過分離して化1をえた。
【化1】

【0016】
また、両親媒性多糖類誘導体にはヒドロキシプロピルセルロース(ヒドロキシプロピル基:62.4%、2%水溶液粘度:8.5cps/20℃、重量平均分子量:約60,000、以下、HPCと記す)、両親媒性物質には水酸基価約165のポリエチレングリコールモノフェニルエーテル(以下、PhG55と記す)を代表例として述べる。
【0017】
PhG55/50重量部にUV479/1重量部を加えて100℃で加温して溶解した。その結果は、20℃の室温に戻しても完全に透明な溶液をえた。この溶液に水/50重量部、NaCl/3重量部を加え室温で撹拌混合してNaClを溶解した。さらに、HPC/50重量部を添加して十分に混合撹拌した結果は、十分な透視性をもった均一な透明状態の等方性水溶液となった。最後に、水酸化ナトリウム水溶液を微量添加してPHを中和した。このUV479を添加した等方性水溶液は、加温で十分な白濁をもって均一な遮光状態となり、かつ安定した可逆変化を示した。紫外線照射試験の結果も若干黄変を起こしたが気泡の発生はなく良好な高耐候性を示した。また、実施例に記したように、その他の組成でも良好な結果を示した。
【0018】
本発明の主な用途は窓ガラスへの利用である。温度に依存して自動的に日射遮蔽を起こし、長期間に渡って安定的に均一可逆変化する等方性水溶液となるHPTに関しさらに鋭意検討した。なお、その添加量は、等方性水溶液に対して0.01重量%から10重量%程度でよく、好ましくは0.03重量%から5重量%程度でよい。また、2種類以上のHPTを添加して使用してもよい。
【0019】
HPTはUB−A、UV−Bの両紫外波長域に吸収を示し、本発明には好ましい。また、窓ガラスに使用する場合は曇りガラスも重要であるが、高い透明性の確保がより大切である。以下に、HPTに関しより具体的に述べるが、本発明はこれに限定されるものではない。具体的には、下記一般式化2、化3、化4で表される。分子内水素結合に寄与しているベンゼン環のオルト位の水酸基以外に親水性官能基を付加することで、HPTが水、両親媒性物質、両親媒性多糖類誘導体に対しより親和性を増すことが、高い透明性をもって安定的に均一可逆変化を示す等方性水溶液を得るのに好ましい。例えば、水酸基、ポリグリセリン基、ポリエチレンオキサイド基、糖残基等の官能基の付加である。
【化2】

【化3】

【化4】

一般式化2、化3、化4の式中、X、Yは独立に炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基等)、炭素数1〜4のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)、炭素数1〜4のスルファニル基(メチルスルファニル基、エチルスルファニル基等)であり、R1、R1’、R1”は独立に水素、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基等)、炭素数1〜4のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)等であり、R2、R2’、R2”は独立に水酸基、炭素数1〜4のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)等があり、さらにヒドロキシプロピレン基、ポリグリセリン基、ポリエチレンオキサイド基、糖残基等を付加して親水性を向上させるとよい。糖残基はO−(R44)n−A基(式中、Aは保護基を有していない糖残基(例えば、グルコース、ガラクトース等の単糖類、トレハロース、マルトース等の二糖類、マルトトリオース等の三糖類から1個の水酸基を除いた残基等))を表し、R44は直接結合(nは0)を表すかまたは炭素数1〜4のアルキレン基または炭素数1〜4のアルキレンオキサイド基(nは1〜6の整数)を表す)等である。また、ポリエチレンオキサイド基は、単位であるエチレンオキサイド数の増大とともに親水性が増し、その数は2〜100でよく、好ましくは5〜30程度がよい。さらに、R3、R3’は水素、水酸基、炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基等)、炭素数1〜4のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)等である。なお、化4において、トリアジン環に直結するベンゼン環のオルト位全てに水酸基が入ると淡黄色化を示すが、淡黄色を嫌う場合は1または2個にするとよい。
【0020】
次に、イオン性のHPTに関してのべる。前記したようにイオン性官能基をもつことは親水性を向上させるのに有効である。当然、前記した一般式化2、化3、化4の骨格構造は有用である。ただ、イオン性官能基(例えば、スルホン酸基、カルボキシル基等)がベンゼン環に直接結合すると、イオン性官能基の影響によりその物質自身の光安定性が弱くなる。好ましくは、イオン性官能基が鎖状部を介してベンゼン環に結合することがHPT自身の光安定性がより良くなる。その結果、水に溶解するイオン性のHPTを添加した等方性水溶液は、透明状態をとりかつ安定的な可逆変化をもって高耐候性となる。ここで、鎖状部とは、ベンゼン環とイオン性官能基との間に挿入された官能基(例えば、メチレン基、エチレン基、エチレンオキサイド基、プロピレンオキサイド基、エーテル基、エステル基等)である。また、イオン性官能基は、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、アンモニウム基等がある。
【0021】
例えば、特開昭61−24577、米国特許第3444164号、特表2001−515025等で公知であり、化5にその代表例を示すがこれに限定されるものではない。
【化5】


【0022】
次に、前記した特許公報に詳説されてあるが、本発明に関係する両親媒性多糖類誘導体と両親媒性物質について説明する。両親媒性多糖類誘導体は、非イオン性官能基(例えば、ヒドロキシプロピル基等)を付加した多糖類(例えば、セルロース、プルラン、デキストラン等)で水に室温で約25重量%ないし約50重量%の高濃度でも均一に溶解して水溶液となり、疎水結合の効果により温度の上昇とともに白濁状態となるものは本発明に使用できる。なかでもセルロース誘導体は、安定性が高く重要である。特記しない限り、セルロース誘導体を主体として記述するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、両親媒性多糖類誘導体の重量平均分子量が小さいと凝集は小さく、白濁も弱く、大きいと高分子効果により凝集も大きくなりすぎて相分離しやすくなり不適である。従って、約10,000〜約200,000の範囲であり、約15,000〜約100,000の範囲であるのが好ましい。セルロースに付加する官能基の代表例としてヒドロキシプロピル基を選択し、ヒドロキシプロピルセルロースを主体に記述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
両親媒性多糖類誘導体の濃度は、特に高くする必要はなく、かえって疎水結合の効果が弱まり、相分離は起きないが、白濁遮光は弱くなり、また高粘度となり、無気泡で積層し難くなるので、水に対する両親媒性多糖類誘導体の濃度は約50%以下であるのが好ましい。しかし、水性媒体(水−両親媒性物質の混合体)を溶媒のように見立てると、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース75重量%(残りの25重量%は5重量%塩化ナトリウム水溶液)の組成でも、両親媒性物質、例えば、分子量約400のポリオキシプロピレントリメチロールプロパンを溶媒として加えていき、全量に対するヒドロキシプロピルセルロースの割合を約30重量%にすると、約67℃で白濁変化を発現した。このように両親媒性物質の溶媒作用を利用すると、この濃度(水に対する両親媒性多糖類誘導体の割合)が約50重量%以下に限定されるものではない。なお、実用性の立場からは、両親媒性多糖類誘導体の全体割合をおさえて、低粘度化すると生産が容易になる。このように、白濁凝集とその可逆安定性の観点から水の量は、両親媒性多糖類誘導体100重量部に対して約25ないし約450重量部であるのがよく、約50ないし約300重量部であるのが好ましい。
【0024】
両親媒性物質は、前記した両親媒性多糖類誘導体の等方性水溶液が白濁凝集したときに相分離を起こすことを防止する働きをする。しかし、両親媒性物質を添加しても、水に対する両親媒性多糖類誘導体からなる濃度が約18重量%以下、より確実には約25重量%以下になると、水の分離がおき易くなる。
この両親媒性物質は、親水性基と疎水性基を併せもち、室温の水に溶解または均一分散する化合物である。親水性基には、例えば、水酸基、エチレンオキサイド基、エーテル結合部、エステル結合部、アミド基等の非イオン性基がある。疎水性基としては、例えば、炭素数1〜4のアルキル基等の低級脂肪族があり、さらに、親水性基がポリエチレンオキサイド基、イオン性基(例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、両性基等)のように親水性が大きい場合は、炭素数の大きい5〜25程度の脂肪族基、芳香系のベンゼン基、ベンジル基、フェノール基等のように大きいな疎水性をもつ官能基が良い。また、両親媒性物質の分子量は、大きくなりすぎると高分子作用により不可逆変化、不均一性が発現しやすくなる傾向があり、特に大きい分子量が優れた効果を示す分けでもない。かえって、等方性水溶液の粘度が高くなり、作業性を悪くする。よって、その分子量は、オリゴマー領域の約5,000以下であってよく、より好ましくは約3,000以下が使用しやすい。なお、分子量は小さすぎるとその作用効果が弱くなる傾向があり約60以上が好ましい。
【0025】
具体的に両親媒性物質の例としては、2−エチル−2−(ヒドロキシメチル)−1,3プロパンジオール、2,3,4−ペンタントリオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリオキシプロピレンメチルグルコシド(例えば、ユニオン・カーバイト社のGlucamP10)、水酸基価が約100〜約300のエチレンオキサイドをもつビスフェノールA、水酸基価が約100〜約320のポリエチレングリコールモノフェニルエーテル、平均分子量約300〜約800のポリオキシプロピレントリメチロールプロパン、平均分子量約500〜約5,000で割合約50重量%のポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)トリメチロールプロパン、平均分子量約500〜約3,000のポリオキシプロピレンソルビトール、エチレンオキサイドを付加したポリエーテル変性シリコーンオイル、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等がある。
【0026】
両親媒性物質の量は、等方性水溶液中に存在する水100重量部に対して約0.5重量部ないし約800重量部、好ましくは約3重量部ないし約600重量部である。2種類以上の両親媒性物質を混合使用してもよい。さらに、両親媒性多糖類誘導体100重量部に対して水の量が100重量部以下であっても、両親媒性物質の添加量を増やすことで無色透明な等方性水溶液が得られる。これは、両親媒性物質が溶媒としての作用を示すものと思われる。このように、両親媒性多糖類誘導体100重量部を基準にすると、水、両親媒性物質および温度シフト剤とからなる水性媒体の量は、約100ないし約2,000重量部でよく、好ましくは約150ないし約1,800重量部である。
【0027】
分子が凝集して白濁する開始温度は、温度シフト剤の種類と添加量、水性媒体の組成(水−両親媒性物質の混合割合)、両親媒性多糖類誘導体−水性媒体の割合、両親媒性物質の種類と添加量等により制御できる。温度シフト剤には、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、硫酸ナトリウム、2−フェニルフェノールナトリウム、カルボキシメチルセルロース等のイオン性物質があり、また、例えば、フェニルモノグリコール、フェニル−1,4−ジグリコール、ベンジルモノグリコール、フェニルプロピレングリコール、4,4′−ジヒドロキシフェニルエーテル等の非イオン性物質があり、これらを2種以上混合添加してもよい。その添加量は、特に限定されるものではないが、等方性水溶液に対して15重量%以下でよく、好ましくは10重量%以下でよい。また、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、防腐剤、殺菌剤、色素、熱線吸収剤、抗酸化剤等を必要に応じて適量添加してもよい。
【0028】
次に、本発明に係わる積層体の構造に関して述べる。図1と図2は、本積層体の実施例の断面図であって、1は基板、2は等方性水溶液、3は等方性水溶液の封止部、4は気体層、5は気体層の封止部である。
【0029】
図1は、本積層体の基本形態であり、少なくとも一部が透明で等方性水溶液2を直視可能な基板1の間に等方性水溶液2を積層したものである。等方性水溶液2の層厚は、特に限定されるものではないが、0.01mmから2mm程度でよい。特に図示していないが、等方性水溶液2、等方性水溶液の封止部3の層にスペーサーを設けてもよい。この封止部3は、透水性を防止する層と基板間の接着固定する層からなる。前者の透水性防止層3−1には、例えば、ホットメルト型ポリイソブチレン系シーラントがあり、これは、主な樹脂成分はポリイソブチレンであり、ブチルゴム、石油系水添樹脂、ポリブテン等の樹脂と微粉、超微粉のカーボン、タルク、シリカ等の充填剤、さらに紫外線吸収剤等の添加剤を選択混合してなる。
【0030】
接着固定層3−2には、1液型シリコーン系シーラント、2液型シリコーン系シーラント、2液型ポリサルファイド系シーラント、2液型イソブチレン系シーラント、2液型ウレタン系シーラント等がある。その性能は、チクソセーをもった高粘性体であり室温放置で硬化して基板に接着固化する。この接着固定層3−2は高モジュラスのゴム弾性を持つことが好ましく、複層ガラス用のシーラントも利用できる。なお、特に図示しないが、透水性防止層3−1と接着固定層3−2を必要に応じて多段に設けてもよい。例えば、透水性防止層3−1を接着固定層3−2で両側から挟むように設ける方法である。基板1は、水分を透過し難い材料であれば広く利用できる。例えば、ガラス板、セラミックス板、金属板、プラスチック板、プラスチックフィルム等があり、当然、窓ガラスとして一般に市販されている板ガラスも広く利用できる。これらの材料の組合せ、曲面状での使用でもよい。また、特殊な形態として、チューブに等方性水溶液を注入した棒状体、それを面状に並べた簾状のものも本発明の積層体に含むものとする。また、基板に凹凸を設けて等方性水溶液2の層厚を変えて模様を形成してもよい。
【0031】
図2は、図1の積層体にもう1枚基板を設けて気体層4(例えば、空気等)を持たせたものである。なお、通常は気体層の封止部5に乾燥剤をもたせてあるが、特に図示せずに省略してある。その結果、可逆変化する日射遮蔽性に加えて断熱性をも持つ高機能性の窓ガラス、壁面材となる。窓に使用すると、夏期は等方性水溶液2の白濁遮光により冷房負荷が軽減され、冬期は白濁せずに従来ガラスと同様に日射透過すると共に気体層4により従来の複層ガラスと同様に断熱効果をもち暖房負荷の軽減ができる。
【0032】
本積層体の利用は、窓ガラス、アトリウム、天窓、庇、扉、タイル等の建築材料に留まらずに、野外でも使用できる物品に広く利用でき、広告棟、掲示板等の表示体、さらにテーブル、照明器具、家具、住設機器、生活雑貨、温度を表示する温度計パネル等にも利用できる。
【実施例】
【0033】
両親媒性多糖類誘導体にHPC、両親媒性物質にPhG55、水酸基価約310のポリエチレングリコールモノフェニルエーテル(以下、PhG20と記す)、平均分子量約400のポリオキシプロピレントリメチロールプロパン(以下、TP400と記す)を用いるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、積層体は、10cm角の2mm厚と5mm厚フロートガラスを基板1に使用して、中心部に約4gの等方性水溶液2を置き、外周部に2.5mm径の紐状イソブチレンシーラント3−1と室温反応型の2液型シリコーンシーラント3−2を設けて、真空下で対向基板を加圧密着して気泡のない約0.5mm厚の等方性水溶液をもつ積層体を製作した。
【0034】
耐候性試験の紫外線照射テストは、岩崎電気の超促進耐候性試験機・アイスーパーUVテスターを使用して、強度100mw/cm2、ブラックパネル温度63℃で5mm厚基板側から連続照射して目視観察(以下、UVテストと記す)した。透過率の測定は、散乱光の測定に適している日立製作所のU−4000型分光光度計を使用して受光部側に2mm厚基板を向けて行った。下記の透過率は波長500nmで測り、常態の透明・半透明状態は室温である25℃で測定(以下、RTと記す)し、白濁状態は十分に加温して飽和白濁させてから測定(以下、HTと記す)した。なお、以下の配合量は全て重量部である。
【0035】
UV479を添加した等方性水溶液を以下の5種類、(A)UV479/PhG55/水/HPC/塩化ナトリウム:1/50/50/50/3、(B)UV479/PhG55/水/HPC:1/50/50/50、(C)UV479/PhG20/水/HPC:1/50/50/50、(D)UV479/PhG20/PhG55/水/HPC:1/25/25/50/50、(E)UV479/TP400/PhG55/水/HPC/塩化ナトリウム:1/25/11/86/50/3を調整し、最後に低濃度の水酸化ナトリウム水溶液を微量添加して中和した。(A)は、常態で霞のように僅かに白濁状態を呈するが十分な透視性をもった均一な透明状態となり、その透過率はRT:83%、HT:23%であった。濃く白濁を開始する温度は36℃であった。UVテストは、200時間の連続照射直後には凝集むらと淡黄色化が見られたが気泡の発生は無かった。その凝集むらは室温放置で自然に回復し、その白濁開始温度の変動もほとんど見られなかった。(B)は、常態で僅かに白濁状態を呈するが十分な透視性をもった均一な透明状態となり、その透過率はRT:83%、HT:35%であった。白濁開始温度は72℃であった。UVテストは、(A)と同様であった。(C)は、無色透明状態をとり、その透過率はRT:88%、HT:24%であった。白濁開始温度は33℃であった。UVテストは、(A)より凝集むらが大きかったが室温放置で徐々に回復した。また、淡黄色化が見られたが気泡の発生は無く、その白濁開始温度の変動もほとんど見られなかった。(D)は、常態でほぼ無色透明状態となり、その透過率はRT:85%、HT:28%であった。白濁開始温度は53℃であった。UVテストは、(A)と同様であった。(E)は、常態で僅かに白濁状態を呈するが十分な透視性をもった均一な透明状態となり、その透過率はRT:83%、HT:21%であった。白濁開始温度は47℃であった。UVテストは、(C)とほぼ同様であった。なお、この凝集むらに関しては、一般の窓に使用される環境条件ではこの加速度試験ほど過酷ではなく、かつ昼夜による気温サイクルにより夜間は凝集が解ける方向になり、自然回復性があれば実使用に支障はなかった。事実、東京で夏期の屋上暴露テストでは凝集むらの発生はなく良好であった。
【0036】
比較例として、HPTを持たない等方性水溶液を2種類、(A)HPC/PhG55/水:50/50/50、(B)HPC/PhG20/水:50/50/50を調整した。UVテストの結果は、(A)、(B)共に50時間後には気泡発生がおこり回復不可能な変化を示し、100時間後には大気泡の発生と共に白濁変化もおこり難くなり回復不可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
トリアジン系紫外線吸収剤を添加した等方性水溶液を内包した積層体は、高耐候性をもって安定的に可逆変化を維持できるようになった。その結果、太陽の直射光線に常に曝されかつ長期間に渡って使用されるる窓ガラス、庇、タイル等の用途に使用可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明である積層体の断面図である。
【図2】気体層を持たせた積層体の断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 基板
2 等方性水溶液
3 等方性水溶液の封止部
4 気体層
5 気体層の封止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非イオン性の両親媒性官能基をもって水溶性である重量平均分子量約10,000〜約200,000の多糖類誘導体100重量部を前記多糖類誘導体100重量部に対して約25〜約450となる量の水と約60以上〜約5000以下の分子量をもつ両親媒性物質とからなる水性媒体約100〜約2,000重量部に溶解してなる等方性水溶液を、少なくとも一部が透明であり、前記水溶液を直視可能な基板で積層した積層体において、水、両親媒性物質またはその混合溶液に対する20℃での溶解度が0.5g以上であるヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を前記等方性水溶液100重量部に0.01重量部〜10重量部添加されている積層体。
【請求項2】
水、水酸基価約160〜約320のポリエチレングリコールモノフェニルエーテルまたはその混合溶液に対する20℃での溶解度が0.5g以上であるヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤からなる、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
少なくとも片側に追加基板を加えて気体層が設けられている、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
非イオン性の両親媒性官能基をもって水溶性である重量平均分子量約10,000〜約200,000の多糖類誘導体100重量部を前記多糖類誘導体100重量部に対して約25〜約450となる量の水と約60以上〜約5000以下の分子量をもつ両親媒性物質とからなる水性媒体約100〜約2,000重量部に溶解してなる等方性水溶液を、少なくとも一部が透明であり、前記水溶液を直視可能な基板で積層した積層体を含む窓において、水、両親媒性物質またはその混合溶液に対する20℃での溶解度が0.5g以上であるヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を前記等方性水溶液100重量部に0.01重量部〜10重量部添加されている窓。
【請求項5】
水、水酸基価約160〜約320のポリエチレングリコールモノフェニルエーテルまたはその混合溶液に対する20℃での溶解度が0.5g以上であるヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤からなる、請求項4に記載の窓。
【請求項6】
少なくとも片側に追加基板を加えて気体層が設けられている、請求項4または5に記載の窓。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−81386(P2008−81386A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286927(P2006−286927)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(591247754)アフィニティー株式会社 (6)
【Fターム(参考)】