説明

自律神経機能診断装置およびプログラム

【課題】自律神経機能の異常の有無を高い精度で容易に判定する。
【解決手段】心電図モニタにより測定された心電データに基づいて、自律神経活動の全体的な活動量を示す自律神経総活動量指標(LH+HF)および、CVRR(心電図R−R間隔変動係数)を算出する。そして、算出された自律神経総活動量指標(LF+HF)とCVRRとの関係を表示装置に対して2次元表示させる。また、LF+HFとCVRRとの関係を1次関数により近似して、この1次関数に基づく直線を表示させる。LF+HFとCVRRとの相関関係から大きくはずれた測定データがあれば、自律神経機能に異常があると判定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律神経機能が正常に機能しているか否かを評価するための自律神経機能診断装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会では、社会環境に基づく様々なストレスが増加している。そのため、近年、うつ病、自律神経失調症、起立性調節障害のような精神的な疾患を抱える患者の増加が大きな社会問題となっている。そして、このような精神的な疾患に陥ると、自律神経が正常に機能しなくなる機能障害が発生する。
【0003】
自律神経には、主に活性状態の時に機能する交感神経と、主に安静状態の時に機能する副交感神経とがある。生体が安静状態の時には、自律神経の状態が副交感神経優位の状態となり、血圧値、脈拍数は下降する。そして、生体が緊張・活性状態の時には、自律神経の状態は交感神経優位の状態となり、血圧値、脈拍数が上昇する。
【0004】
自律神経機能が正常な場合には、この交感神経と副交感神経とがバランスを保ちながら交感神経優位の状態と副交感神経優位の状態との間で切り替えが行われる。しかし、自律神経機能が異常になると、交感神経が過剰反応して異常に亢進してしまったり、副交感神経が過剰反応して異常に亢進してしまったりする。このように、交感神経または副交感神経のいずれかが異常に亢進してしまうと、自律神経のバランスがくずれてしまい頭痛、吐き気、めまい、動悸、立ちくらみ等の各種症状を引き起こすこととなる。
【0005】
このような自律神経機能の診断を行うための方法として、様々な方法が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−235817号公報
【特許文献2】特開2006−102265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この特許文献1、2には、患者の脈拍と血圧値とに基づいて自律神経機能を評価する方法が開示されている。しかし、引用文献1に開示された方法では、生体の上肢および下肢をカフにより圧迫し、その圧迫開始後において、心拍数のばらつき度合いを示す分散の変化量または変化割合のみに基づいて自律神経機能を評価するものであり、上肢および下肢に対する圧迫に対する反応が各生体においてばらつくようなことは考慮されておらず、かならずしも正確に自律神経機能を診断できるものではない。
【0008】
また、引用文献2記載の方法では自律神経機能を直接評価しているのではなく、脈拍と血圧値とから間接的に自律神経機能を評価しているだけであるため、循環機能や脳機能の疾患等を有する患者の場合、かならずしも自律神経機能の状態を正確に把握することができない場合もある。また、診断を受ける前に一時的な精神的ストレスや肉体的負荷を受けていた場合には、自律神経機能を正確に診断することができない場合もある。
【0009】
本発明の目的は、自律神経機能の異常の有無を高い精度で容易に判定することができる自律神経機能診断装置およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[自律神経機能診断装置]
上記目的を達成するために、本発明の自律神経機能診断装置は、生体の心電を測定する心電測定手段と、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、自律神経活動の全体的な活動量を示す自律神経総活動量指標を算出する自律神経活動度算出手段と、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔変動係数を算出するCVRR算出手段と、
生体情報を表示するための表示手段と、
前記自律神経活動度算出手段により算出された自律神経総活動量指標と前記CVRR算出手段により算出された心電図R−R間隔変動係数との関係を2次元表示するよう前記表示手段を制御する制御手段とを備えている。
【0011】
本発明によれば、患者から測定された心電データに基づいて心電図R−R間隔変動係数と自律神経総活動量指標とを算出し、この心電図R−R間隔変動係数と自律神経総活動量指標との関係を2次元表示するようにしているので、心電図R−R間隔変動係数と自律神経総活動量指標の相関関係の把握を容易に行うことができ、この相関関係に基づいて自律神経機能の異常の有無を容易に判定することが可能となる。
【0012】
また、本発明の自律神経機能診断装置は、心電測定手段により測定された心電データを受け付ける受付手段と、
前記受付手段により受け付けた心電データに基づいて、自律神経活動の全体的な活動量を示す自律神経総活動量指標を算出する自律神経活動度算出手段と、
前記受付手段により受け付けた心電データに基づいて、心電図R−R間隔変動係数を算出するCVRR算出手段と、
生体情報を表示するための表示手段と、
前記自律神経活動度算出手段により算出された自律神経総活動量指標と前記CVRR算出手段により算出された心電図R−R間隔変動係数との関係を2次元表示するよう前記表示手段を制御する制御手段とを備えている。
【0013】
また、本発明の自律神経機能診断装置は、前記自律神経活動度算出手段により算出された複数の自律神経総活動量指標と、前記CVRR算出手段により算出された複数の心電図R−R間隔変動係数とに基づいて、自律神経総活動量指標と心電図R−R間隔変動係数の関係を1次関数により算出する相関関係算出手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記相関関係算出手段により算出された1次関数に基づいた直線を表示するよう前記表示手段を制御する。
【0014】
本発明によれば、自律神経総活動量指標と心電図R−R間隔変動係数の関係を1次関数により算出し、算出された1次関数に基づいた直線を表示するようにしているので、心電図R−R間隔変動係数と自律神経総活動量指標の相関関係の把握がより容易になり、相関関係に基づく自律神経機能の異常の有無の判定もより容易に行うことが可能となる。
【0015】
また、本発明の自律神経機能診断装置は、前記相関関係算出手段により算出された自律神経総活動量指標と心電図R−R間隔変動係数の関係から、所定量以上はずれた測定結果に基づいて、自律神経機能の異常の有無を判定する判定手段をさらに備えている。
【0016】
本発明によれば、判定手段が自律神経機能の異常の有無を自動的に判定するので、表示内容だけでは自律神経機能の診断を行うことができないユーザであっても、客観的に自律神経機能の診断を行うことが可能となる。
【0017】
[プログラム]
本発明のプログラムは、心電測定手段により生体の心電を測定するステップと、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、自律神経活動の全体的な活動量を示す自律神経総活動量指標を算出するステップと、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔変動係数を算出するステップと、
算出された自律神経総活動量指標と算出された心電図R−R間隔変動係数との関係を2次元表示するステップとをコンピュータに実行させる。
【0018】
また、本発明のプログラムは、心電測定手段により測定された心電データを受け付けるステップと、
受け付けた心電データに基づいて、自律神経活動の全体的な活動量を示す自律神経総活動量指標を算出するステップと、
受け付けた心電データに基づいて、心電図R−R間隔変動係数を算出するステップと、
算出された自律神経総活動量指標と算出された心電図R−R間隔変動係数との関係を2次元表示するステップと、
をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、自律神経機能の異常の有無を高い精度で診断可能になるという効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態の自律神経機能診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態の自律神経機能診断装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態の自律神経機能診断装置におけるLF+HF演算方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】LF+HF演算の際の心拍変動測定方法を示す図である。
【図5】LF+HF演算の際のスペクトル分析した一例を示す図である。
【図6】自律神経機能が正常な場合に、表示装置22に示される表示のパターン例を示す図である。
【図7】交感神経の過剰反応が起こっている場合に、表示装置22に示される表示のパターン例を示す図である。
【図8】副交感神経の過剰反応が起こっている場合に、表示装置22に示される表示のパターン例を示す図である。
【図9】交感神経の過剰反応が起こった場合の実際の測定データを示した図である。
【図10】図9に示したデータを測定した際の、HF、HR(心拍数)、L/H、CVRRの時間経過に伴う変化を示す図である。
【図11】図9に示した測定データを、CVRRとLF+HFとの関係で2次元表示した場合の表示例を示す図である。
【図12】副交感神経の過剰反応が起こった場合の実際の測定データを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態の自律神経機能診断装置の構成を示すブロック図である。
【0022】
本実施形態の自律神経機能診断装置は、図1に示されるように、被測定者の心電データを取得するための心電図モニタ14と、制御装置18と、記憶装置20と、生体情報を表示するための表示装置22と、自律神経活動度算出部24と、CVRR(Coefficient of Variation of R-R intervals:心電図R−R間隔変動係数)算出部25とから構成されている。
【0023】
心電図モニタ14は、被測定者の例えば喉元にマイナス電極を、左脇腹にプラス電極を、右脇腹にボディアースをそれぞれ装着し、心臓の動きを電気信号として得て心電データとして記録する。
【0024】
自律神経活動度算出部24は、心電図モニタ14により測定された心電データに基づいて、自律神経活動の全体的な活動量を示す自律神経総活動量指標(LH+HF)を算出する。なお、自律神経総活動量指標(LF+HF)の具体的な算出の方法は後述する。
【0025】
CVRR算出部25は、心電図モニタ14により測定された心電データに基づいて、CVRR(心電図R−R間隔変動係数)を算出する。このCVRRの具体的な算出方法も後述する。
【0026】
制御装置18は、例えばコンピュータからなり、自律神経活動度算出部24、CVRR算出部25により得られた生体情報を処理し、この処理した情報を記憶装置20に記憶し、あるいは表示装置22に表示する。制御装置18は、心電図モニタ14により得られた心電図の各心拍毎に生体情報を表示装置22に表示する。
【0027】
そして、制御装置18は、自律神経活動度算出部24により算出された自律神経総活動量指標(LF+HF)と、CVRR算出部25により算出されたCVRRとの関係を表示装置22に対して2次元表示させる。
【0028】
次に、本実施形態の自律神経機能診断装置の動作を図2を参照して詳細に説明する。図2は本実施形態の自律神経機能診断装置の動作を示すフローチャートである。
【0029】
まず初期設定として、検査が開始される前に、被測定者の氏名、年齢、ID番号、性別、既往歴(糖尿病、血管障害など)等の患者情報が制御装置18に入力される(S201)。
【0030】
そして、検査が開始されると、心電図モニタ14により生体の心電データの測定が行われる(ステップS202)。すると、自律神経活動度算出部24は、LF+HF演算を行って、自律神経活動の全体的な活動量を示す自律神経総活動量指標(LH+HF)を算出する(ステップS203)。そして、CVRR算出部25は、CVRR演算を行って、R−R間隔のばらつき度合いを示す指標であるCVRRを算出する(ステップS204)。そして、自律神経活動度算出部24により算出された算出結果およびCVRR算出部25により算出された算出結果は、制御装置18により記憶装置20に格納されるとともに表示装置22に2次元表示される(ステップS205)。
【0031】
このステップS202〜S205の処理が繰り返されている間に、被測定者に対して、起立試験、深呼吸等の負荷試験を行うことにより自律神経の切替えが正常に行われるかどうかの確認を行う。
【0032】
そして、検査を終了する旨の指示が行われたか否かの判定が行われ(ステップS206)、検査を終了する指示が行われるまでステップS202〜S205の処理が心拍毎に行われる。
【0033】
次に、図2のステップS203に示したLF+HF演算方法の詳細を図3〜図5に示す。
【0034】
まずステップS301において、自律神経活動度算出部24は、心電図モニタ14から入力された心電データから心拍変動を算出する。この心拍変動の算出は、図4A及びBに示すように、R波と次のR波との間隔をとってR−R間隔を測定し、次に図4C及びDに示すように、測定したR-R間隔データを後方のR波の時間的位置にプロットし、これを補間した後に、等間隔(図4Cの点線)で再サンプリングしたデータを作成することにより行う。次のステップS302においては、ステップS301で求めたデータに対してスペクトル分析(周波数変換)を行う。このステップS302でスペクトル分析した一例を図5に示す。次のステップS303においては、低周波成分LFを求める。ここで、低周波成分LFは、0.04〜0.15Hzのパワースペクトル成分の積分値である。次のステップS304においては、高周波成分HFを求める。ここで、高周波成分HFは、0.15〜0.40Hzのパワースペクトル成分の積分値である。そして、ステップS305において、ステップS303で求めたLFとステップS304で求めたHFとの和を算出し、LF+HFとするものである。
【0035】
このようにして自律神経活動度算出部24は、心電図モニタ14により測定された心電データから、自律神経総活動量指標(LH+HF)を算出する。
【0036】
次に、図2のステップS204に示したCVRR演算方法の詳細について説明する。
CVRRとは、心拍変動のばらつき度合いを示す指標であり、図4Aに示した心電波形におけるR−R間隔(心電波形のR波の頂点の間隔)のばらつき度合いを示す係数である。このCVRRは、具体的には、下記のような式により算出される。
CVRR=R−R間隔標準偏差/R−R間隔平均×100(%)
【0037】
ここで、R−R間隔標準偏差とは、例えば、1分間という所定期間や100拍というような心拍の所定回数におけるR−R間隔の標準偏差である。また、R−R間隔平均とは、例えば、所定期間や心拍の所定回数におけるR−R間隔の平均である。
【0038】
CVRR算出部25は、上記のような式に基づいて、心電図モニタ14により測定された心電データからCVRRを算出する。
【0039】
次に、本実施形態の自律神経機能診断装置における表示装置22の表示の一例を図6に示す。
【0040】
この図6に示した表示例では、自律神経総活動量指標(LH+HF)を横軸とし、CVRRを縦軸として、自律神経活動度算出部24により算出された自律神経総活動量指標(LH+HF)と、CVRRとの関係が2次元表示されている。
【0041】
ここで、制御装置18は、自律神経活動度算出部24により算出された複数の自律神経総活動量指標(LF+HF)と、CVRR算出部25により算出された複数のCVRRとに基づいて、LF+HFとCVRRの関係を1次関数により算出する相関関係算出手段として機能するようにしてもよい。そして、制御装置18は、算出した1次関数に基づいた直線を表示装置22上に表示する。ここで、制御装置18は、LF+HFとCVRRの関係を、例えば最小二乗法などにより1次関数に近似する。
【0042】
さらに、制御装置18は、算出されたLF+HFとCVRRとの関係から、所定量以上はずれた測定結果に基づいて、自律神経機能の異常の有無を判定する判定手段として機能するようにしてもよい。例えば、算出した1次関数による直接との距離を算出して、この距離が所定値以上のものは、LF+HFとCVRRとの相関関係からはずれているものと判定し、このように相関関係からはずれている測定結果の数や、1次直線からの距離に基づいて自律神経機能の異常の有無を判定するようにしてもよい。
【0043】
ここで、R−R間隔のスペクトル分析結果における高周波数成分(HF)と低周波数成分(LF)との和であるLF+HFは、自律神経活動の全体的な大きさ、自律神経のトータルパワーを示している。そのため、本実施形態では、このLF+HFを、自律神経活動の全体的な活動量を示す自律神経総活動量指標として用いている。
【0044】
次に、交感神経が過剰反応を起こした場合の表示パターン例を図7に示し、副交感神経が過剰反応を起こした場合の表示パターン例を図8に示す。
【0045】
図7に示した表示例では、LF+HFとCVRRの相関関係を示す直線から大幅に離れた場所に測定データが多数見られ、自律神経機能の異常のある可能性が高いと判定される。また、図8に示した表示例においても、LF+HFとCVRRの相関関係を示す直線から大幅に離れた場所に測定データが多数見られ、自律神経機能の異常のある可能性が高いと判定される。
【0046】
一般的に、R−R間隔のスペクトル分析結果における高周波数成分HFは、副交感神経の活動度合いを示し、低周波成分LFは、交感神経と副交感神経の活動度合いを示す。そのため、一般的には、交感神経活動の度合いの指標としてLF/HFが用いられ、副交感神経活動の度合いの指標としてHFが用いられている。そして、一般的には、交感神経が優位な状態であるか、副交感神経が優位な状態であるかは、交感神経活動度指標であるLF/HFに基づいて判定されている。
【0047】
しかし、LF/HFという指標はLFとHFとの比であるため、自律神経活動の全体的な活動量を把握することはできない。例えば、LF、HFが共に増加すればLF/HFの値はそのままであり、LFが変化しない場合でもHFが減少すればLF/HFの値は増加する。つまり、LF/HFという指標は、自律神経活動の全体的な活動量を示す指標ではない。
【0048】
そして、CVRRは、自律神経機能の全体的な活動量の増加に伴い増加することが知られている。また、CVRRは、心拍の間隔(R−R間隔)の変動係数であるため、当然ながら心拍数(HR)の変動量(ΔHR)に比例して増加する。その結果、CVRRは、自律神経総活動量指標(LF+HF)×ΔHR(心拍数の変動)に比例する。
【0049】
つまり、CVRRは、自律神経活動のトータルパワーを示す自律神経総活動量指標(LF+HF)に比例するとともに、心拍数の変動ΔHRにも比例する。よって、交感神経が過剰反応して、LFの増加によりLF+HFが増加するとともに心拍数が増加すると、CVRRは2つの要因により二乗的に急増する。
【0050】
そして、交感神経の過剰反応が発生した場合、一般的にHFは逆に小さくなる傾向にある。そのため、LF+HFの値は、交感神経の過剰反応が発生する前と比較してそれほど大きな値とはならない。
【0051】
よって、交感神経の過剰反応が発生した場合に測定されたデータは、LF+HFとCVRRとの相関関係が正常な場合とははずれたものとなる。
【0052】
また、副交感神経の過剰反応が発生した場合、LFとHFが共に増加してLF+HFも増加する。そして、副交感神経の過剰反応により心拍数が減少すると心拍数の変動ΔHRも増加するため、この場合にもCVRRは2つの要因により二乗的に急増する。そして、LF+HFの増加に比較して、CVRRの増加は二乗的な急増であるため、副交感神経の過剰反応が発生した場合に測定されたデータも、LF+HFとCVRRとの相関関係が正常な場合とははずれたものとなる。
【0053】
次に、ある被測定者の心電データを実際に測定した測定結果を簡易的に示した表示例を図9〜図12を参照して説明する。
【0054】
図9に示した表示例は、交感神経の過剰反応が起こった場合の実際の測定データを示したものである。この図9に示した表示例において、円で囲まれた範囲のデータは、直線で示された相関関係から大きくはずれているデータである。この円で囲まれたようなデータが多数測定されていることにより、この被測定者の自律神経機能には異常が有る可能性が高いと判定することができる。
【0055】
また、図9に示したデータを測定した際の、HF、HR(心拍数)、L/H(LF/HF)、CVRRの時間経過に伴う変化を図10に示す。
【0056】
図10に示したデータでは、交感神経が過剰反応することにより、HRは増加し、HFは減少し、L/Hは増加し、CVRRは急増していることが分かる。この図10ではLFは示されていないが、交感神経の過剰反応に伴いLFは増加している。
【0057】
さらに、この図9に示した測定データを、CVRRとLF/HFとの関係で2次元表示した場合の表示例を図11に示す。この図11に示した表示例においても、自律神経機能に異常が発生したと思われるデータの範囲が円により囲まれている。しかし、この図11に示した表示例では、自律神経機能に異常が発生したデータと、発生していないデータとの差が把握し難く、一見しただけでは自律神経機能に異常があるとは判定することは難しい。
【0058】
この理由は、交感神経が過剰反応を起こした場合、図10に示したようにHFは減少しているため、LFの増加に伴いLF/HFも急増してしまうからである。その結果、CVRRが急増したとしても、CVRRとLF/HFとの間の相関関係はそれほど明確に変化せず、表示された測定データからだけでは自律神経の異常を把握し難いものとなる。
【0059】
この図9、図11を参照すると、本実施形態の自律神経機能診断装置によれば、CVRRとLF/HFとの関係を2次元表示した場合と比較して、自律神経機能の異常を容易に判定するとともに、より高い精度で自律神経機能の異常を判定することができることが分かる。
【0060】
また、副交感機能に過剰反応が起こった場合の実際の測定データを図12に示す。この図12では、楕円で囲まれた範囲のデータは、直線で示された相関関係から大きくはずれているデータである。この図12を参照すると、自律神経に異常が発生していることが容易に把握することができる。
【0061】
また、図9、図12を比較すると分かるように、交感神経が過剰反応している場合と、副交感神経が過剰反応している場合とでは、そのデータパターンが異なる。そのため、本実施形態の自律神経機能診断装置によれば、このデータパターンの違いにより交感神経が過剰反応しているのか、副交感神経が過剰反応しているのかを判定することも可能となる。
【0062】
[変形例]
なお、上記の実施形態では、心電図モニタ14を有し、この心電図モニタ14により測定された心電データに基づいて自律神経総活動量指標(LH+HF)やCVRRの算出を行っているが、本発明はこのような構成に限定されるものではない。心電図モニタ14を設けることなく、外部からの心電データを受け付ける受付手段を設け、この受付手段により受け付けた心電データに基づいて自律神経総活動量指標(LH+HF)やCVRRの算出を行うような構成とすることもできる。このような構成とすることにより、自律神経機能診断装置には心電図モニタ14のような心電測定手段を設ける必要がなくなる。
【0063】
また、上記の実施形態では、表示装置22に自律神経総活動量指標(LH+HF)とCVRRの関係を2次元表示するようにしているが、表示装置22を設けることなく自律神経機能の異常の有無のみを自動的に判定して、その判定結果のみを出力するようにすることも可能である。
【符号の説明】
【0064】
14 心電図モニタ
18 制御装置
20 記憶装置
22 表示装置
24 自律神経活動度算出部
25 CVRR算出部
S201〜S206 ステップ
S301〜S305 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の心電を測定する心電測定手段と、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、自律神経活動の全体的な活動量を示す自律神経総活動量指標を算出する自律神経活動度算出手段と、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔変動係数を算出するCVRR算出手段と、
生体情報を表示するための表示手段と、
前記自律神経活動度算出手段により算出された自律神経総活動量指標と前記CVRR算出手段により算出された心電図R−R間隔変動係数との関係を2次元表示するよう前記表示手段を制御する制御手段と、
を備えた自律神経機能診断装置。
【請求項2】
心電測定手段により測定された心電データを受け付ける受付手段と、
前記受付手段により受け付けた心電データに基づいて、自律神経活動の全体的な活動量を示す自律神経総活動量指標を算出する自律神経活動度算出手段と、
前記受付手段により受け付けた心電データに基づいて、心電図R−R間隔変動係数を算出するCVRR算出手段と、
生体情報を表示するための表示手段と、
前記自律神経活動度算出手段により算出された自律神経総活動量指標と前記CVRR算出手段により算出された心電図R−R間隔変動係数との関係を2次元表示するよう前記表示手段を制御する制御手段と、
を備えた自律神経機能診断装置。
【請求項3】
前記自律神経活動度算出手段により算出された複数の自律神経総活動量指標と、前記CVRR算出手段により算出された複数の心電図R−R間隔変動係数とに基づいて、自律神経総活動量指標と心電図R−R間隔変動係数の関係を1次関数により算出する相関関係算出手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記相関関係算出手段により算出された1次関数に基づいた直線を表示するよう前記表示手段を制御する請求項1または2記載の自律神経機能診断装置。
【請求項4】
前記相関関係算出手段により算出された自律神経総活動量指標と心電図R−R間隔変動係数の関係から、所定量以上はずれた測定結果に基づいて、自律神経機能の異常の有無を判定する判定手段をさらに備えた請求項3記載の自律神経機能診断装置。
【請求項5】
心電測定手段により生体の心電を測定するステップと、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、自律神経活動の全体的な活動量を示す自律神経総活動量指標を算出するステップと、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔変動係数を算出するステップと、
算出された自律神経総活動量指標と算出された心電図R−R間隔変動係数との関係を2次元表示するステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項6】
心電測定手段により測定された心電データを受け付けるステップと、
受け付けた心電データに基づいて、自律神経活動の全体的な活動量を示す自律神経総活動量指標を算出するステップと、
受け付けた心電データに基づいて、心電図R−R間隔変動係数を算出するステップと、
算出された自律神経総活動量指標と算出された心電図R−R間隔変動係数との関係を2次元表示するステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図1】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−15820(P2011−15820A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162340(P2009−162340)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【特許番号】特許第4516623号(P4516623)
【特許公報発行日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(504254998)株式会社クロスウェル (37)
【Fターム(参考)】