説明

自浄式位置決めプーリ

【課題】 走行するワイヤを用いた半可塑性体の切断装置に用いる位置決めプーリについて、位置決め溝の底部に付着する半可塑性体の切断屑を自ら排出して清浄に保つことができる自浄式の位置決めプーリを提供する。
【解決手段】 位置決めプーリ5の位置決め溝5aの底部に、位置決め溝5aよりも幅広な半可塑性体切断屑の押出空間5bを周方向に沿って連続的に設けてある。半可塑性体切断屑の押出空間5bは、プーリ5の両側面の少なくとも片方に開口した複数の半可塑性体切断屑の排出口5cにそれぞれ一部が連通している。位置決め溝5aの底部に付着する半可塑性体の切断屑10は押出空間5bに押し出され、プーリ5の回転に伴って排出口5cから自然に排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半可塑状態のALC(軽量気泡コンクリート)などの半可塑性体を走行するワイヤで切断する装置に関するものであり、更に詳しくは走行するワイヤの位置決めに用いる位置決めプーリに関する。
【背景技術】
【0002】
ALCパネルは軽量であって、耐火性、断熱性、施工性に優れているため、建築物の壁、屋根、床などに広く使用されている。かかるALCパネルは、珪酸質原料の珪石と石灰質原料のセメントや生石灰などを水に混合し、これに発泡剤を加えた原料スラリーを型枠内へ注入し、所定時間経過後に原料スラリーが発泡と水和反応によって半可塑性状態となった後、ピアノ線でなどで所定形状に切断し、オートクレーブによる高温高圧水蒸気養生を行って製造される。
【0003】
上記ALCパネルの製造工程において半可塑性状態のALCを所定形状に切断する場合、従来から一般的に直径が0.6mmから1.2mm程度のピアノ線等のワイヤを用いて切断している。また、ワイヤを用いた切断方法としては、緊張状態に固定したワイヤに対し半可塑性状態のALCを相対移動させて切断するワイヤ固定切断方式が用いられてきた。
【0004】
しかし、固定したワイヤを単に半可塑性状態のALCに押し当てて相対移動させるだけでは、得られた切断面にケバ立ちが生じて平滑にならないという不具合があった。このケバ立ちは、水蒸気養生後のALCパネル表面に残存してパネル自体の美観を損ねるだけでなく、パネルの保管時や移動時などに風で飛ばされたり、ケバ立ち面が擦れたり、パネルに振動が加わったりすると粉となって飛散するため、パネル置き場や施工現場などを汚す原因となっていた。
【0005】
上記した切断面のケバ立ちを抑える方法として、例えば特許文献1や特許文献2には、ピアノ線を一方向に走行させながら半可塑性状態のALCのような半可塑性体に押し当てて切断する方法が記載されている。特に特許文献2の方法によれば、1本の巻き取りドラムと複数個の巻戻しドラムに巻回した複数本の切断用ワイヤを所定の張力を付与した状態で走行させながら半可塑性状態のALCを切断することができるので、極めてケバ立ちの少ない美観に優れた切断面を得ることができる。
【0006】
尚、上記のようにピアノ線などのワイヤを走行させながら半可塑性体を切断する方法では、ワイヤの位置決めや方向転換などに溝付きの位置決めプーリを使用することが多い。また、位置決めプーリの位置決め溝の幅は、精度確保のためワイヤの直径よりも僅かに広い程度、一般的には使用するワイヤの直径よりも0.1mmから0.5mm程度広くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭56−033295号公報
【特許文献2】特開2004−358597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した走行するワイヤを用いてALCなどの半可塑性体を切断する装置では、切断に供した後のワイヤに半可塑性体の切断屑が付着し、その切断屑が位置決めプーリの位置決め溝に付着することが避けられなかった。しかも、切断屑は走行するワイヤにより位置決め溝に順次供給されて積み重なると同時に、ワイヤの緊張力により圧密されて固化した付着物として成長する。
【0009】
このようにして半可塑性体の切断屑が位置決め溝内で固化した付着物は、走行するワイヤの表面に微細な傷を付け、ワイヤの寿命を低下させていた。また、付着物は位置決め溝の底部に周方向に沿って均等に成長する訳ではないので、位置決め溝底部の外周が真円でなくなり、半可塑性体を切断する際にワイヤが走行方向と直角な方向への微動を周期的に繰り返す結果、半可塑性体の切断面にも周期的な模様が現れて美観を損ねるという問題も生じていた。
【0010】
このような問題を克服するため、従来はワイヤに付着した半可塑性体の切断屑をブラシなどで削ぎ落とすなどの対策を講じていたが、走行しているワイヤから切断屑を完全に削ぎ落とすことは不可能であった。そのため、定期的に又は不具合が発生した時点で切断装置を一旦停止させ、複数のプーリの位置決め溝をブラシなどで掃除する必要があった。
【0011】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものあり、走行するワイヤを用いて半可塑性体を切断する装置の位置決めプーリについて、ワイヤから位置決め溝の底部に付着する半可塑性体の切断屑を自ら排出して清浄に保つことができる自浄式の位置決めプーリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明が提供する自浄式位置決めプーリは、走行するワイヤにより半可塑性体を切断する切断装置に用いるワイヤの位置決めプーリであって、プーリの周側面に設けたワイヤの位置決め溝の底部に、該位置決め溝よりも幅広な半可塑性体切断屑の押出空間を周方向に沿って連続的に設けたことを特徴とする。また、この自浄式位置決めプーリにおいては、前記半可塑性体切断屑の押出空間が、プーリの両側面の少なくとも片方に開口した複数の半可塑性体切断屑の排出口にそれぞれ一部で連通していることが好ましい。
【0013】
また、本発明が提供する別の自浄式位置決めプーリは、走行するワイヤにより半可塑性体を切断する切断装置に用いるワイヤの位置決めプーリであって、プーリの周側面に沿って右側と左側にそれぞれ一定間隔で且つ互い違いに配置された複数の凸部を備え、複数の右側凸部と複数の左側凸部はプーリの軸方向にワイヤの位置決め溝となる間隔を隔てて配置されると共に、互いに隣接する右側凸部と左側凸部は周方向に離間し、その離間部分及び右側凸部と左側凸部の間の凹部が半可塑性体切断屑の排出空間を形成していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、走行するワイヤからプーリの位置決め溝の底部に付着する半可塑性体の切断屑を、自然に排出して清浄に保つことが可能な自浄式の位置決めプーリを提供することができる。従って、本発明の自浄式位置決めプーリを、ALC(軽量気泡コンクリート)の切断装置に使用すれば、切断面に不要な模様などがなく美観に優れたALCパネルを製造することができるうえ、ALCパネルの製造効率を大幅に改善向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】半可塑性体の切断装置におけるワイヤと位置決めプーリを備えた切断機構の一具体例を示す概略の斜視図である。
【図2】従来の一般的な位置決めプーリであって、(a)の左側は正面図及び右側は断面図であり、(b)は走行するワイヤと位置決めプーリの状態を示す斜視図であり、(c)は半可塑性体切断屑が位置決め溝の底部に付着固化した状態を示す断面図である。
【図3】本発明の位置決めプーリの一具体例であって、(a)の左側は正面図及び右側は断面図であり、(b)は半可塑性体切断屑が排出される状態を示す断面図である。
【図4】本発明の位置決めプーリの他の具体例であって、(a)の左側は正面図及び右側は断面図であり、(b)は半可塑性体切断屑が排出される状態を示す断面図である。
【図5】本発明による自浄式の位置決めプーリの更に別の具体例であって、ワイヤの走行状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による自浄式位置決めプーリは、半可塑状態のALC(軽量気泡コンクリート)などの半可塑性体を、走行するワイヤで切断する切断装置に使用するものである。かかる半可塑性体の切断装置は、例えば図1に機構の概略を示すように、1本の巻取りドラム1と複数個の巻戻しドラム2に巻回した複数本のワイヤWを備え、各ワイヤWを少なくとも1個の位置決めプーリ4で支持して走行させながら、走行するワイヤWに対して半可塑性体(図示せず)を相対的に移動させて切断する装置である。各巻戻しドラム2に個別にブレーキ装置3を設け、ワイヤWに所定の張力を付与した状態で半可塑性体を切断すれば、ケバ立ちの少ない美観に優れた切断面を得ることができる。
【0017】
従来の一般的な位置決めプーリは、図2(a)に示すように、プーリ4の周側面にワイヤの位置決め溝4aを備えている。しかし、図2(b)に示すように、半可塑性体の切断に供した後のワイヤWには半可塑性体の切断屑10が付着し、この切断屑10の大部分は位置決めプーリ4の位置決め溝4aに付着してしまう。位置決め溝4a内に付着した切断屑10は、図2(c)に示すように、走行するワイヤWにより順次供給されて積み重なると同時に、ワイヤの緊張力により圧密されて固化した付着物11として成長し、ワイヤWの寿命を低下させるだけでなく、走行するワイヤWを微動させて切断面に美観を損ねる模様を出現させる原因となっている。
【0018】
上記した半可塑性体の切断屑が位置決めプーリの位置決め溝内に付着して固化することを防ぐため、本発明による第1の自浄式位置決めプーリは、図3(a)に示すように、プーリ5の周側面に設けたワイヤの位置決め溝5aの底部に、位置決め溝5aよりも幅広な半可塑性体の切断屑の押出空間5bを周方向に沿って連続的に設けてある。
【0019】
この第1の自浄式位置決めプーリ5では、図3(b)に示すように、ワイヤWに付着した半可塑性体の切断屑10は、位置決め溝5aを通過する際その底部に付着して緊張されたワイヤWによって圧密されようとするが、位置決め溝5aの底部に幅広な切断屑10の押出空間5bが設けてあるので、圧密されることなく押出空間5bに押し出される。押し出された切断屑10は、圧密されていない脆弱な状態であるため、プーリ5の回転運動によって、位置決め溝5aの走行するワイヤWに接した部分以外の開放部分から自然に順次排出される。
【0020】
また、本発明による第2の自浄式位置決めプーリは、上記第1の自浄式位置決めプーリの改良型であって、図4(a)に示すように、ワイヤの位置決め溝5aの底部に半可塑性体の切断屑の押出空間5bを位置決め溝5aよりも幅広に且つ連続的に設けると共に、プーリ5の両側面の少なくとも片方に開口した複数の半可塑性体切断屑の排出口5cを設け、この複数の排出口5cを押出空間5bの一部にそれぞれ連通させた形態となっている。
【0021】
この第2の自浄式位置決めプーリによれば、図4(b)に示すように、位置決め溝5aの底部に付着した半可塑性体の切断屑10は、緊張されたワイヤWによって速やかに押出空間5bに押し出された後、プーリ5の回転に伴って、位置決め溝5aの開放部分から排出されるだけでなく、プーリ5の周側面に設けた複数の排出口5cからも排出されるので、半可塑性体の切断屑10の排出がより効率的で且つ確実になる。
【0022】
更に、本発明による第3の自浄式位置決めプーリは、図5に示すように、プーリ6の周方向に沿って右側と左側にそれぞれ複数の右側凸部7と複数の左側凸部8とが一定間隔で互い違いに配置されると共に、これらの右側凸部7と左側凸部8とはプーリ6の軸方向に隙間を隔てて配置され、この隙間がワイヤWの位置決め溝となる。また、互いに隣接する右側凸部7と左側凸部8は周方向に距離Pだけ離間し、この右側凸部7と左側凸部の離間部分及び各右側凸部7の間と各左側凸部の間に存在する右側凹部と左側凹部が半可塑性体の切断屑の排出空間を形成している。
【0023】
従って、この第3の自浄式位置決めプーリによれば、ワイヤWに付着した半可塑性体の切断屑10は、緊張されたワイヤWによって速やかに右側凹部7aと左側凹部8aに押し出された後、プーリ5の回転に伴って、上記右側凸部7と左側凸部の離間部分及び各右側凸部7の間と各左側凸部の間に存在する右側凹部と左側凹部によって形成される排出空間から自然に排出される。特に第3の自浄式位置決めプーリの排出空間は幅広で且つ開放された状態であるため、切断屑10を極めて効率的且つ確実に排出することができる。
【0024】
尚、上記した第1〜第3の各自浄式位置決めプーリは具体例であり、各部の構造や大きさ形状などは本発明の範囲内で適時変更することが可能である。また、本発明の自浄式位置決めプーリを用いる半可塑性体の切断装置は、半可塑性体を走行するワイヤで切断するものであればよく、その他の細部の構造や構成は特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0025】
1 巻取りドラム
2 巻戻しドラム
3 ブレーキ装置
4、5、6 位置決めプーリ
4a、5a 位置決め溝
5b 押出空間
5c 排出口
7 右側凸部
8 左側凸部
10 切断屑
11 固化した付着物
W ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行するワイヤにより半可塑性体を切断する切断装置に用いるワイヤの位置決めプーリであって、プーリの周側面に設けたワイヤの位置決め溝の底部に、該位置決め溝よりも幅広な半可塑性体切断屑の押出空間を周方向に沿って連続的に設けたことを特徴とする自浄式位置決めプーリ。
【請求項2】
前記半可塑性体切断屑の押出空間は、プーリの両側面の少なくとも片方に開口した複数の半可塑性体切断屑の排出口にそれぞれ一部で連通していることを特徴とする、請求項1に記載の自浄式位置決めプーリ。
【請求項3】
走行するワイヤにより半可塑性体を切断する切断装置に用いるワイヤの位置決めプーリであって、プーリの周側面に沿って右側と左側にそれぞれ一定間隔で且つ互い違いに配置された複数の凸部を備え、複数の右側凸部と複数の左側凸部はプーリの軸方向にワイヤの位置決め溝となる間隔を隔てて配置されると共に、互いに隣接する右側凸部と左側凸部は周方向に離間し、その離間部分及び右側凸部と左側凸部の間の凹部が半可塑性体切断屑の排出空間を形成していることを特徴とする自浄式位置決めプーリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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