説明

自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤の製造方法及びその製造方法で製造されたローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤

【課題】新規な自然免疫促進作用に優れた「ローヤルゼリー由来の自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤の製造方法」を提供すること、また、該製造方法で製造されたローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤を提供すること。
【解決手段】少なくとも、ローヤルゼリーを乳酸菌で発酵させる工程を含むことを特徴とする自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤の製造方法、更には、少なくとも、以下の工程(1)ないし(3)を含む自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤の製造方法で課題を解決した。
(1)乳酸菌を前培養する工程
(2)ローヤルゼリーを乳酸菌で発酵させる工程、及び、
(3)乳酸菌の殺菌を行う工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤の製造方法及びその製造方法で製造されたローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤に関する。
【0002】
ローヤルゼリー(Royal jelly;RJ)は、ミツバチの若い働き蜂が下咽頭腺及び大腮腺の分泌物を混合して作る乳白色の物質で、水分(含量66質量%)、ローヤルゼリーに特有なタンパク質(含量11〜12質量%;細胞増殖促進作用や細胞死抑制作用(特許文献1)を持つアビシン(MJRP1)、免疫抑制作用を持つローヤルゼリー主要タンパク質3(MRJP3)(非特許文献1)、抗菌作用を持つロイヤリシン等)、糖質(含量10質量%;果糖、ブドウ糖、ショ糖等)、及び、脂質類(含量5〜7質量%;殺菌作用、インスリン作用、抗癌作用、神経細胞増殖作用(非特許文献2)を持つ10−ヒドロキシ−2−デセン酸、免疫制御作用を持つ3,10−ヒドロキシデカン酸やトランス−10−ヒドロキシデカ−2−エン酸(非特許文献3)等)で主に構成されている。
【0003】
更に、ビタミン類(ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE等)、ミネラル類(カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、銅、鉄、亜鉛、リン等)、神経細胞増殖作用を持つアデノシンやアデノシン−1−リン酸のN−オキサイド誘導体、ヒトの神経伝達物質アセチルコリンに似た物質、ヒト唾液腺の成長ホルモンパロチンに似た類パロチン等の微量成分を含んでいる。一方、ハチミツはほとんど大部分が糖質(78質量%)と水分(20質量%)でできており、ローヤルゼリーとは組成が大きく異なっている。
【0004】
ローヤルゼリーは、例えば、免疫促進作用(非特許文献1、3)、抗炎症作用(非特許文献4)、抗菌作用(非特許文献5、6)、老化防止作用、成長促進作用、更年期障害の予防・治療、抗癌作用(非特許文献7、8)、創傷治癒促進作用、血流増加作用、血糖低下作用、血圧降下作用(非特許文献9)、血清コレステロール低下作用(非特許文献10)、抗肝障害作用(非特許文献11)、抗アトピー性皮膚炎作用(非特許文献12)、疲労回復作用(非特許文献13)等の様々な生理作用を持つことが知られており、栄養価の高い健康補助食品や化粧品等に用いられている。また、最近、ローヤルゼリータンパク質のプロテアーゼ分解産物が強力な抗酸化作用(ヒドロキシラジカル消去作用)(非特許文献14、特許文献2)や血圧降下作用(非特許文献15、16)を持つことが判ってきた。
【0005】
ローヤルゼリーは、女王蜂、女王蜂の幼虫及び若齢の働き蜂の幼虫に給餌される食物で、女王蜂はローヤルゼリーを食べ続けることによって働き蜂の40倍も長い寿命を保つ。また、1954年に老衰で危篤状態になったローマ教皇・ピウス12世が、医師ガレアジイ・リシーが投与したローヤルゼリーによって驚くべき回復を果たしたことが知られているが、その効能の科学的実態は未だに明らかになっていない。
【0006】
一方、自然免疫促進作用に関しては、健康食品分野において、酵母細胞壁由来のβ−グルカン、メカブフコイダン等の多糖類を含むものが知られている。
【0007】
また、ローヤルゼリーの処理や加工に関しては、ローヤルゼリーをプロテアーゼ等で処理することによって、抗酸化作用や血圧降下作用を持つローヤルゼリー由来の食品添加物や医薬品の製造・開発が行われてきている(特許文献3〜5)。
【0008】
近年、社会の高齢化の進展に伴って増え続ける老齢者の、免疫機能及び健康の維持は、充実した生活を営んでいくための重要な課題となっている。そして、このような老齢化社会において、健康維持に貢献する自然免疫を強化・維持する薬剤が必要とされ、更なる開発が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−113828号公報
【特許文献2】特開2007−217358号公報
【特許文献3】特開2009−029772号公報
【特許文献4】特開2009−060896号公報
【特許文献5】特開2008−048729号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Okamoto,I., Taniguchi,Y., Kunikata,T., Kohno,K., Iwaki,K., Ikeda,M., and Kurimoto,M.(2003) Life Sciences 73(16),2029-2045
【非特許文献2】Hattori,N., Nomoto,H., Fukumitsu,H., Mishima,S., and Furukawa,S.(2007)Biomed. Res. 28(5),261-266.
【非特許文献3】Gasic,S., Vucevic,D., Vasilijic,S., Antunovic,M., Chinou,I., and Colic,M.(2007) Immunopharmacology and Immunotoxicology 29,521-536.
【非特許文献4】Kohno,K., Okamoto,I., Sano,O., Arai,N., Iwaki,K., Ikeda,M., and Kurimoto,M.(2004) Biosci. Biotechnol. Biochem. 68(1),138-145.
【非特許文献5】de Souza,B.M., Konno,K., Cesar,L.M.M., Malaspina,O., and Palma,S.M.(2004) Peptides 25(6),919-928.
【非特許文献6】Fujiwara,S., Imai,J., Fujiwara,M., Yaeshima,T., Kawashima,T., and Kobayashi,K.(1990) J. Biol. Chem. 265(19),11333-11337.
【非特許文献7】田村豊幸,藤井彰,久保山昇 (1987) 日本薬理学会雑誌 89(2),73-80. ローヤルゼリー(Royal Jelly)の抗腫瘍効果に関する研究.
【非特許文献8】Townsend,G.F., Morgan,J.F., Tolani,S., Hazlett,B., Morgan,H.J., and Shuel,R.W.(1960) Cancer Res.20,503-510.
【非特許文献9】野村政孝,圓尾奈緒美,座間味義人,高取真吾,土井志真,川崎博己 (2007) 薬学雑誌127(11),1877-1882.
【非特許文献10】Guo,H., Saiga,A., Sato,M., Miyazawa,I., Shibata,M., and Morimatsu,F.(2007) J. Nutr. Sci. Vitaminol.(Tokyo) 53(4),345-348.
【非特許文献11】Kanbur,M., Eraslan,G., Beyaz,L., Silici,S., Liman,B.C., Altinordulu,S., and Atasever,A.(2008) Exp. Toxicol. Pathol.61(2),123-132.
【非特許文献12】Taniguchi,Y., Kohno,K., Inoue,S., Koya-Miyata,S., Okamoto,I., Arai,N., Iwaki,K., Ikeda,M., and Kurimoto,M.(2003) Int. Immunopharmacol.3(9),1313-1324.
【非特許文献13】Kamakura,M., Mitani,N., Fukuda,T., and Fukushima,M.(2001) J. Nutr. Sci. Vitaminol.(Tokyo)47(6),394-401.
【非特許文献14】Guo,H., Kouzuma,Y., and Yonetani,M.(2008) Food Chemistry113(1),238-245.
【非特許文献15】Tokunaga,K., Yoshida,C., Suzuki,K., Maruyama,H., Futamura,Y., Araki,Y., and Mishima,S.(2004) Biol. Pharm. Bull.27(2),189-192.
【非特許文献16】Takaki-Doi,S., Hashimoto,K., Yamamura,M., and Kamei,C.(2009) Acta. Med. Okayama 63(1),57-64.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、新規な自然免疫促進作用に優れた「ローヤルゼリー由来の自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤の製造方法」を提供することにある。また、該製造方法で製造されたローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は鋭意検討を行った結果、ローヤルゼリーは、抗菌物質であるロイヤリシンや10−ヒドロキシデセン酸を含むのにも関わらず、意外にも乳酸菌による発酵が可能であることを見出した。
【0013】
また、本出願人は、既に、WO 2008/126905、WO 2009/157409等で、自然免疫促進作用を有する物質を完全変態型昆虫の幼虫に投与した場合に、その完了に10分程度を要するゆっくりとした筋収縮(以下、「緩行性筋収縮」と略記する)が起こることを開示している。そして、この緩行性筋収縮は、自然免疫促進作用の有無及び程度を評価する際に擬陽性の原因となっているリポポリサッカライド(LPS)を投与した場合には起こらず、手法も簡便なため、自然免疫促進作用の有無及び程度を評価するための実用的な指標として有効であることを確認している。
【0014】
そして、前記「ローヤルゼリーを乳酸菌によって発酵を行って得られた生成物」に関して上記評価を行ったところ、緩行性筋収縮を示し、自然免疫促進作用を有することを見出した。また、かかる生成物の自然免疫促進作用の程度は、「発酵前のローヤルゼリーの自然免疫促進作用」より増強されていることも見出して本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、少なくとも、ローヤルゼリーを乳酸菌で発酵させる工程を含むことを特徴とする自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤の製造方法である。
【0016】
また、本発明は、少なくとも、以下の工程(1)ないし(3)を含むことを特徴とする上記の自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤の製造方法である。
(1)乳酸菌を前培養する工程
(2)ローヤルゼリーを乳酸菌で発酵させる工程、及び、
(3)乳酸菌の殺菌を行う工程
【0017】
更に、本発明は、上記の「自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤の製造方法」で製造されたものであることを特徴とするローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤である。
【0018】
また、本発明は、少なくとも、以下の工程(a)ないし(c)を含むスクリーニング方法で得られた上記のローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤。
(a)自然免疫機構を有する生物に被検物質を投与する工程
(b)前記被検物質が前記自然免疫機構を有する生物の筋肉を収縮させるか否かを評価する工程
(c)前記自然免疫機構を有する生物の筋肉を収縮させると評価された物質を選択する工程
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、「新規な自然免疫促進作用に優れたローヤルゼリー由来の自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤」の製造方法を提供することができ、また、該製造方法で製造された、新規な自然免疫促進作用に優れた「ローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤」を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】酵母β−グルカン、及び、ローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤(発酵ローヤルゼリー)の、自然免疫促進作用の用量応答曲線を示す図である。
【図2】ローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤(発酵ローヤルゼリー)、及び、乾燥ローヤルゼリー用量応答曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について説明をするが、本発明は、以下の具体的形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲内で任意に変形することができる。
【0022】
本発明のローヤルゼリー由来の自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤の製造方法は、少なくとも、ローヤルゼリーを乳酸菌で発酵させる工程を含むことを特徴とする。
【0023】
本発明における「ローヤルゼリー」(Royal jelly;RJ)とは、ミツバチの若い働き蜂の、上顎と下顎の咽頭腺から分泌されるそれぞれ異なった成分が反応することにより生成される物質をいう。後述するように、乳酸菌で発酵できるローヤルゼリーであれば特に限定はなく本発明に用いることができる。ローヤルゼリーは、抗菌物質であるロイヤリシンや10−ヒドロキシデセン酸を含むにも関わらず、乳酸菌による発酵を行うことができる。本発明の自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤の製造方法を用いることにより、乳酸菌がローヤルゼリーに含まれる生育阻害物質により阻害されずに自然免疫活性化剤を産生することができる。
【0024】
ローヤルゼリーの原産国は、例えば、日本、中華人民共和国、台湾、タイ、ブラジル、ヨーロッパ諸国、オセアニア諸国、アメリカ等を挙げることができ、何れの原産国のローヤルゼリーも好適に用いることができる。また、複数の原産国のローヤルゼリーを適宜混合して用いてもよい。発酵に用いるローヤルゼリーは、特に限定はないが、液状であることが好ましく、凍結乾燥状態のローヤルゼリーを用いる場合は、精製水、水道水、適当な緩衝液等で溶解して用いることが好ましい。また、凍結状態のローヤルゼリーは融解して用いることができる。
【0025】
本発明における乳酸菌は、ローヤルゼリーを発酵して自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤を製造できる乳酸菌であれば特に制限なく用いることができる。具体的には、ラクトバチルス属(Lactobacillus属)、ラクトコッカス属(Lactococcus属)、ストレプトコッカス属(Streptococcus属)、ロイコノストック属(Leuconostoc属)、ビィフィドバクテリウム属(Bifidobacterium属)等に属する乳酸菌が挙げられる。
【0026】
これらの中で好ましくは、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス プランタリウム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス デルベッキィ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス ヘルベチカス(Lactobacillus helveticus)等のラクトバチルス属に属する乳酸菌や、又は、ラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)等のラクトコッカス属に属する乳酸菌である。
【0027】
特に好ましくは、ラクトバチルス ブレビスが挙げられ、例えば、ラクトバチルス ブレビス NBRC12005、ラクトバチルス ブレビス NBRC12520、ラクトバチルス ブレビス NBRC3345、ラクトバチルス ブレビス NBRC3960、ラクトバチルス ブレビス NBRC13109、ラクトバチルス ブレビス NBRC13110等である。
【0028】
これらの乳酸菌は単独で使用してもよく、2種以上の乳酸菌を使用してもよい。乳酸菌の培養は、静置培養、振とう培養、攪拌培養、通気培養、嫌気培養等の方法で培養することができる。また、静置培養中に乳酸菌が沈む等した場合は振とう、攪拌等を行い、乳酸菌を分散させてもよい。
【0029】
乳酸菌として、ラクトバチルス ブレビス NBRC12005(以下、「NBRC12005株」と略することがある)を用いた場合における自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤の製造方法を以下に説明するが、本発明は、NBRC12005株に限定されることはない。すなわち、以下の自然免疫活性化剤の製造方法は、NBRC12005株に限定されず、乳酸菌全てに適用が可能である。
【0030】
<前々培養工程>
下記の前培養工程の前に、乳酸菌による発酵の効率化、乳酸菌の大量調製等のために前々培養工程を行うことが好ましい。前々培養液と乳酸菌を混合することにより前々培養が開始される。前々培養は、乳酸菌が生育できる培養条件であれば特に限定されないが、例えば、NBRC12005株の場合、前々培養液の培地組成としては、例えば、炭素源、窒素源、有機微量栄養素、金属類、脂質類等を単独又は2種以上を配合したものが挙げられる。好ましくは、グルコース、ペプトン、酵母エキス、金属類等の培地成分を挙げることができる。
【0031】
NBRC12005株を前々培養用の培地に植菌し、菌体の前々培養を行う。NBRC12005株の前々培養において、培養時間は半日〜4日が好ましく、更に好ましくは1日〜2日である。培養温度は15〜50℃が好ましく、更に好ましくは25〜40℃であり、初発pHは3〜9が好ましく、更に好ましくは5〜8で前々培養を行う。このようにして得られた前々培養液を次の前培養工程に用いることが好ましい。
【0032】
<前培養工程>
培養終了後の前々培養液を前培養工程に用いる際には、NBRC12005株を洗浄してもよいし、洗浄を行わず、前々培養で得られた前々培養液を、そのままの状態、又は、分離したNBRC12005株の菌体を前培養液に植菌してもよい。また、前々培養終了後に前培養を行う場合、前培養液と前々培養終了後の乳酸菌又は培養液を混合する。前々培養終了後の培養液を混合する場合の混合割合は、前培養液1体積部に対して0.001体積部〜0.5体積部が好ましく、更に好ましくは0.005体積部〜0.2体積部に相当する培養液を混合することが、次の工程である発酵工程での発酵の効率が良い点で好ましい。
【0033】
前培養工程は、グルタミン酸又はその塩を含む前培養液で乳酸菌を培養することが好ましい。乳酸菌を前培養する際には、前培養液に少なくともグルタミン酸又はその塩を含有させることが好ましい。グルタミン酸塩としては、例えば、グルタミン酸カリウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸マグネシウム、グルタミン酸カルシウム等が挙げられる。また、グルタミン酸は、プロテアーゼ及び/又はペプチダーゼで、「グルタミン酸を含有するタンパク質又はペプチド」を分解し、タンパク質又はペプチドから遊離させたグルタミン酸であってもよい。
【0034】
前培養液は、更に培地成分を含有してもよい。培地成分としては、例えば、炭素源、窒素源、有機微量栄養素、金属類、脂質類等が挙げられる。これらは単独又は2種以上を含有してもよい。培地成分としては、好ましくは、グルコース、酵母エキス、ペプトン、金属類等を挙げることができる。
【0035】
前培養工程でのグルタミン酸濃度、すなわち、前培養液と前々培養で得られた乳酸菌又は培養液(その乳酸菌の培養液)とを混合した後のグルタミン酸濃度は、0.1〜5g/100mLが好ましく、0.6〜2g/100mLがより好ましく、0.8〜1.5g/100mLが特に好ましい。前培養工程でのグルタミン酸濃度が低過ぎる場合、次の工程である発酵工程での発酵の効率が良くない場合がある。
【0036】
前培養液と、前々培養で得られた乳酸菌又は培養液とを混合することにより、前培養が開始される。培養時間、温度、pH等の前培養条件は、グルタミン酸をγ−アミノ酪酸に変換できる前培養条件が好ましく、上記した前々培養における培養条件と同じでもよい。例えば、培養時間は半日〜4日が好ましく、更に好ましくは1日〜2日である。培養温度は15〜50℃が好ましく、更に好ましくは25〜40℃であり、初発pHは3〜9が好ましく、更に好ましくは5〜8である。
【0037】
前培養工程では、乳酸菌は、前培養工程開始直後のグルタミン酸又はその塩を、少なくとも15g/100mL以上消費したものが、次工程で本発明のローヤルゼリー由来の自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤が効率良く得られる点で好ましい。更に好ましい消費率は20g/100mL以上であり、より好ましい消費率は50g/100mL以上である。グルタミン酸又はその塩の濃度に応じて前培養工程でのグルタミン酸又はその塩の消費率は適宜調整することが可能である。グルタミン酸又はその塩を、上記範囲の消費率で消費してγ−アミノ酪酸に変換したものが好ましい。
【0038】
<発酵工程>
前培養工程によって得られた乳酸菌を発酵に用いる際には、NBRC12005株を、滅菌水、滅菌した生理食塩水、滅菌した緩衝液等で洗浄してもよい。乳酸菌を洗浄した場合、ガラスフィルター、遠心分離等で余分な水分を除去してもよく、洗浄した乳酸菌を再度、滅菌水、滅菌した生理的食塩水又は滅菌した緩衝液に懸濁してもよい。更に、前培養終了後、上記のような洗浄を行わず、培養液そのままの状態、又は、ガラスフィルター、遠心分離等で培養上清を分離(菌体分離)した乳酸菌を発酵工程に用いてもよい。
【0039】
また、必要な乳酸菌量を一度に発酵液と混合してもよいし、必要な乳酸菌量を2回以上に分けて混合してもよい。また、2種以上の乳酸菌を使用する場合は、それぞれの乳酸菌を同時に発酵液と混合してもよく、別々に分けて発酵液と混合してもよい。
【0040】
前培養工程で得られた乳酸菌又は培養液と、発酵液の混合割合は、「乳酸菌又は培養液と発酵液の混合液」1体積部に対して、培養液0.05〜4体積部が好ましく、0.1〜3体積部がより好ましく、0.2〜1.5体積部が特に好ましい。
【0041】
発酵工程は、前培養工程の後に行われ、ローヤルゼリー及び好ましくは「グルタミン酸又はその塩」を含む発酵液と、前培養液で得られた乳酸菌とを混合し、本発明のローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤を生成する工程である。発酵液は、少なくともローヤルゼリーを含有することが必須であるが、グルタミン酸又はその塩を含有することが好ましい。ここで、「乳酸菌を混合する」とは、前培養工程で得られた乳酸菌を適当な手段(例えば、遠心分離)で分離した乳酸菌を、発酵液に混合する場合のみならず、培養液(前培養の培養液)の状態で乳酸菌を発酵液に混合する場合もいう。
【0042】
発酵液と前培養工程で得られた乳酸菌又は培養液を混合したときのローヤルゼリーの固形分濃度は、1〜20g/100mLが好ましく、より好ましくは3〜15g/100mL、特に好ましくは4〜10g/100mLである。
【0043】
また、発酵液は、自然免疫促進作用を増強させる点で、グルタミン酸又はその塩を含有することが好ましく、グルタミン酸塩として、グルタミン酸カリウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸マグネシウム、グルタミン酸カルシウムが例示される。含有されるグルタミン酸(塩)は、プロテアーゼ及び/又はペプチダーゼで「グルタミン酸を含有するタンパク質又はペプチド」を分解し、該タンパク質又はペプチドから遊離させたグルタミン酸(塩)であってもよい。
【0044】
発酵工程でのグルタミン酸濃度、すなわち、発酵液と前培養工程で得られた乳酸菌又は培養液(その乳酸菌の培養液)とを混合した後のグルタミン酸濃度は、0.1〜10g/100mLが好ましく、特に好ましくは1〜5g/100mLである。
【0045】
発酵液は更に培地成分を含有してもよい。培地成分としては、例えば、炭素源、窒素源、有機微量栄養素、金属類、脂質類等が挙げられる。それらは単独又は2種以上で用いられる。培地成分としては、好ましくは、酵母エキス、ペプトン、金属類等を挙げることができる。
【0046】
発酵液と前培養工程で得られた乳酸菌又は培養液とを混合することにより発酵が開始される。発酵時間、温度、pH等の発酵条件は特に限定されないが、発酵日数は半日〜10日が好ましく、更に好ましくは2日〜6日である。発酵の温度は15〜50℃が好ましく、更に好ましくは25〜40℃である。発酵の初発pHは3〜9が好ましく、更に好ましくは5〜8である。また、限定されないが、静置発酵が好ましい。
【0047】
なお、本発明における「発酵」とは、乳酸菌と発酵液とを混合することにより目的とする「ローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤」が産生されることであり、発酵液と乳酸菌の混合により微生物が増殖してもしなくてもどちらでも構わない。
【0048】
<殺菌工程>
本発明における「自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤の製造方法」は、更に乳酸菌の殺菌を行う工程を含むことが好ましい。殺菌方法としては、加熱により殺菌する方法、薬剤を用いて殺菌する方法、ろ過により乳酸菌を除菌する方法、遠心分離を用いて乳酸菌を除菌する方法等が例示でき、これら方法を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。好ましくは、加熱により乳酸菌を殺菌する方法であり、その際の加熱温度は60℃以上が好ましく、より好ましくは80〜100℃、特に好ましくは90〜100℃である。加熱温度が低過ぎる場合には、乳酸菌が自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤として問題がない程度に殺菌できない場合があり、加熱温度が高過ぎる場合には、得られた自然免疫活性化剤が分解してしまう、高次構造が変化してしまう、等により活性を失う等の場合がある。
【0049】
<精製工程>
本発明の「自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤の製造方法」は、精製工程を有することが好ましい。精製方法としては、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、限外ろ過、電気泳動等が挙げられ、これら単独若しくは組み合わせることにより精製を行うことが好ましい。クロマトグラフィー等で精製する際に、予め遠心分離により上清を回収したものを用いることも好ましい。
【0050】
ゲルろ過クロマトグラフィーは、種々の分子量のタンパク質を分離できるゲルろ過クロマトグラフィー用の担体があり、架橋アガロース樹脂、シリカ粒子等を例示することができる。イオン交換クロマトグラフィーに用いられているイオン交換基としては、陰イオン交換体、陽イオン交換体等があり、陰イオン交換体としては、ジエチルアミノエチル基(DEAE基)、四級アミノエチル基(QAE)等を例示することができる。また、陽イオン交換体としては、カルボキシメチル(CM)基、スルホプロピル(SP)基等が挙げられる。本発明の自然免疫活性化剤の精製には、ジエチルアミノエチル基等を持つ陰イオン交換体が好ましい。
【0051】
疎水クロマトグラフィーに用いられる担体としては、ブチル基(Butyl基)、エチル基(Ethyl基)、フェニル基(Phenyl基)が結合した担体等が挙げられる。逆相クロマトグラフィーに用いられる担体としては、オクタデシル基(C18)、オクタデシル基とはアルキル基の長さが異なるC30、C8、C4等が結合した担体等が挙げられる。
順相クロマトグラフィーに用いられる担体としては、シリカゲルのほか、シアノプロピル基、ジオール構造を有する官能基、アミノプロピル基、ポリアミン等が結合した担体等が挙げられる。
【0052】
精製の結果、少なくとも多糖類が有効成分として得られた。従って、本発明は、多糖類を(有効成分として)含有する前記のローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤でもある。好ましくは、酸性多糖類を(有効成分として)含有する前記のローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤である。含有物のうち、多糖類又は酸性多糖類のみが自然免疫促進作用を有する可能性がある。その場合は、限定はされないが、本発明の「ローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤」は、「多糖類又は酸性多糖類であるローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤」である。
【0053】
<自然免疫活性化剤の利用・用途、発酵ローヤルゼリー組成物>
本発明のローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤は、ヒトの自然免疫(促進作用)を活性化させる剤として利用することができる。本発明の「ローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤」は、服用して投与することが望ましい。また、ヒトが摂取する医薬品として利用することができるのみならず、食品に配合して利用することができる。また、家畜に投与することもできる。家畜の飼料に、サプリメント、栄養補助食品、医薬品等として配合してもよい。
【0054】
有効成分を単離してから用いてもよい。また、剤形としては、特に限定されないが、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤等が挙げられる。また、賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を配合してもよい。
【0055】
本発明のローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤、その精製品、又は、単離された有効成分は、各種成分を含有させることにより、発酵ローヤルゼリー組成物とすることができる。かかる各種成分としては、例えば、糖、脂質、乳化剤、増粘剤、調味料、香料、酸味調整剤、保存料、果汁、香料、栄養成分等が挙げられ、本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。また、該各種成分は、単独で用いてもよいし2種以上を混合して用いてもよい。
【0056】
例えば、糖としては、蔗糖、異性化糖、グルコース、フラクトース、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース等を例示することができる。乳化剤としては、蔗糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等を例示することができる。増粘剤としては、カラギーナン、アラビアガム、キサンタンガム、グァーガム、ペクチン、ローカストビーンガム増粘剤澱粉、ジェランガム等を例示することができる。酸味調整剤としては、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、フマル酸、グルコン酸、酒石酸等を例示することができる。保存料としては、安息香酸及びその塩、ソルビン酸及びその塩、パラベン、亜硫酸ナトリウム、ペクチン分解物、グリシン等を例示することができる。果汁としては、トマト果汁、梅果汁、リンゴ果汁、レモン果汁、オレンジ果汁、ベリー系果汁等を例示することができる。香料としては、ハーブ、スパイス等の香辛料、フルーツ系香料、バニラ等の香料等を例示することができる。栄養成分としては、ビタミンD等のビタミン類;カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、亜鉛等のミネラル類;等が挙げられる。
【0057】
本発明の製造方法で得られる「ローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤」、その精製品、単離された有効成分、又は、発酵ローヤルゼリー組成物は、食品に含有させることができる。そのような食品の具体的形態としては、例えば、飲料類、菓子、キャンディ、ガム、パン、畜肉製品、乳製品、レトルト食品、即席食品、冷凍食品、ゼリー状食品、養蜂産品、漬物、調味料等を挙げることができる。これらの食品は、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養機能食品、栄養補助食品、サプリメント等としても有用である。また、それらの食品としての形状としては、顆粒、粉末、タブレット、カプセル、チュアブル、ドリンク、ゼリー、ペースト、粒等を挙げることができる。
【0058】
<自然免疫促進作用の評価>
自然免疫促進作用の有無・程度の評価は、WO 2008/126905、WO 2009/157409に記載の方法(下記に概要を記載した方法)によって行うことが好ましい。本発明の「少なくとも、ローヤルゼリーを乳酸菌で発酵させる工程を含むことを特徴とする製造方法で製造されたローヤルゼリー由来の剤」が、自然免疫促進作用がある自然免疫活性化剤であることは、上記国際公開パンフレットに記載の方法(下記に概要を記載した方法)によって見出され、また確認された。
【0059】
更に、上記国際公開パンフレットに記載の方法(下記に概要を記載した方法)によって、ローヤルゼリーを乳酸菌で発酵させると、原料であるローヤルゼリーより自然免疫促進作用が増強されることが見出され、本発明の「自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤の製造方法」を提供することができた。
【0060】
すなわち、カイコ等の完全変態型昆虫の幼虫に試料を投与した場合に、自然免疫促進作用を有する物質を完全変態型昆虫の幼虫に投与した場合には、その完了に10分程度を要するゆっくりとした筋収縮(以下、「緩行性筋収縮」と略記する)が起こる。そしてこの緩行性筋収縮は、自然免疫促進作用を評価する際に擬陽性の原因となっているリポポリサッカライド(LPS)を投与した場合には起こらないので、自然免疫促進作用を評価するための実用的な指標として用いることができる。
【0061】
本発明のローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤は、少なくとも、以下の工程(a)ないし(c)を含むスクリーニング方法で得られたものであるのが好ましく、必要に応じて更にその他の工程を含んでもよい。
(a)自然免疫機構を有する生物に被検物質を投与する工程
(b)前記被検物質が前記自然免疫機構を有する生物の筋肉を収縮させるか否かを評価する工程
(c)前記自然免疫機構を有する生物の筋肉を収縮させると評価された物質を選択する工程
【0062】
自然免疫機構を有する生物に投与した際の緩行性筋収縮活性の大きさで自然免疫促進活性作用の大きさを評価することが、自然免疫促進作用の大きさの評価が正確であるために好ましい。
【0063】
「自然免疫機構を有する生物」としては、昆虫類に属する生物が好ましい。前記「昆虫類」とは、節足動物門大顎亜門の一網であって、カマアシムシ類、トビムシ類、無翅昆虫類、及び有翅昆虫類の4亜綱からなる綱を意味する。「昆虫類に属する生物」としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、取り扱いの便宜性の点で、幼虫であることが好ましい。前記幼虫としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、鱗翅目(ガやチョウを含む)、甲虫目(カブトムシを含む)の幼虫等が挙げられる。なお、前記幼虫は、前記被検物質の投与のし易さ等の点で、大型の幼虫であることが好ましい。前記「大型の幼虫」とは、体長が1cm以上である幼虫を指す。前記幼虫としては、例えば、カイコ(カイコガの幼虫)、エリサンの幼虫等が好ましい。
【0064】
自然免疫機構を有する生物としては、工程(b)において被検物質による筋肉の収縮の程度を測定し易い生物を使用することが好ましく、この点でも、カイコは特に好適である。また、カイコとしては、例えば、後述する実施例に示すように、カイコの断頭筋肉標本を使用することも好ましい。カイコの断頭筋肉標本を使用すると、中枢からの信号の入力を排除できるという点で有利である。
【0065】
被検物質の自然免疫機構を有する生物への投与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口投与、腹腔内投与、血液中への注射、腸内への注入、飼料(餌)への添加等が挙げられる。また、前記自然免疫機構を有する生物への前記被検物質の投与量としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0066】
被検物質が自然免疫機構を有する生物の筋肉を収縮させるか否かを評価する(工程(b))。前記被検物質が前記自然免疫機構を有する生物の筋肉を収縮させるか否かを評価する方法としては、例えば、前記自然免疫機構を有する生物の筋肉の収縮の程度をContraction value値(C値)(筋収縮値)で表すことにより評価する(例えば、Ishii K., Hamamoto H., Kamimura M., Sekimizu K., J.Biol.Chem.Jan.25;283(4):2185-91(2008)参照)。
【0067】
具体的には、前記被検物質の投与前、及び投与後の前記自然免疫機構を有する生物の体長を測定し、「投与前の体長」−「投与後の体長」を、「投与前の体長」で割り算した筋収縮値(C値)を求める。筋肉収縮の程度が大きいほどC値は大きくなり、筋肉収縮が全くなければC値は0となる。また、逆に筋肉が弛緩すればC値は負(マイナス)の値となる。筋収縮の過程を適当な方法、例えば記録計に連結したトランスジューサーを用いてモニターし、筋収縮の程度が最大となったときのC値を測定することが適当である。筋収縮に必要な時間は、投与した前記被検物質の種類や量等に応じて変化するので、適宜選択する。
【0068】
筋収縮値(C値)が正(プラス)の値であるときに、該被検物質は自然免疫促進作用を有すると評価する。また、筋収縮値(C値)が大きいほど、該被検物質は自然免疫促進作用が大きいと評価することができる。ローヤルゼリーを乳酸菌で発酵させることによって、発酵前のローヤルゼリーより筋収縮値(C値)が大きくなれば、自然免疫促進作用が増強されたと評価することができる
【0069】
完全変態型昆虫の幼虫に投与した際の緩行性筋収縮の大きさで自然免疫促進作用が評価できる機序は以下の通りである。すなわち、自然免疫機能を促進する物質(ペプチドグリカン、β−グルカン等が例示される)が、自然免疫系を持つ生物の体内に入ると免疫担当細胞の受容体に結合し、その結果として活性酸素種が産生され、それが完全変態型昆虫の幼虫の場合には麻痺ペプチドであるBmPPの活性化をもたらし、活性化されたBmPPが筋肉細胞に作用して筋肉の収縮を促すというメカニズムである。
【0070】
筋収縮はこれ以外に神経伝達物質が作用した場合にも起こるが、その場合の筋収縮は試料を投与してから数秒以内に終了する速い反応であるのに対して、自然免疫系が活性化された場合の筋収縮は、収縮の完了に約10分程度を要する緩行性筋収縮なので、両者は明確に区別することができる。
【0071】
また、この評価方法は、マクロファージ等の免疫担当細胞を用いた評価方法に比べて体内動態を反映できるという利点がある。更に、培養細胞を用いて評価を行う場合に、「自然免疫促進作用の可能性があるとされて擬陽性物質と評価されてしまい問題となるLPS」の影響を受けない(LPSは自然免疫機能活性化作用があると評価されない)という利点もある。
【0072】
そのため、精製の進んでいないさまざまな成分を含んでいる可能性もある組成物の自然免疫促進作用の評価が行えるので、本発明には特に適した指標となっている。従って、これを指標として評価した結果、自然免疫機構を有する生物の筋肉を収縮させると評価された物質を選択する工程を経て(工程(c))、本発明の製造方法が、優れた自然免疫活性化剤の製造方法として見出された。
【0073】
被検物質を用いて前記工程(a)〜工程(b)による評価を行い、次いで、工程(c)において、種々の被検物質の中から前記自然免疫機構を有する生物の筋肉を収縮させると評価された物質を選択することにより、容易に、かつ効率的に自然免疫活性化剤をスクリーニングすることができる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例、検討例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下、単に「%」とあるのは、特に限定のない限り、「質量%」を意味する。
【0075】
[自然免疫活性化剤の調製]
実施例1
<前々培養工程>
300mL容バッフル付き三角フラスコに、100mLの1%グルコース、1%酵母エキスからなる液体培地(pH7.2)と1mLの10%マンガン酵母液を入れ、シリコ栓(登録商標)をして、121℃で15分間オートクレーブ滅菌し、液体培地を作成した。
液体培地にグリセロールストックしたNBRC12005株を50μL添加し、30℃で1日間静置培養を行った。次に、上記と同様に作成した液体培地にNBRC12005株の培養液を3mL添加し、30℃で1日間静置培養を行い、NBRC12005株の前々培養を行った。
【0076】
<前培養工程>
5L容MBS社製ミニジャーファメンターに、3Lの1%グルコース、1%酵母エキスからなる液体培地(pH7.2)と1mLの10%マンガン酵母液を投入し、121℃、20分間オートクレーブ滅菌した。オートクレーブ滅菌(121℃で15分)した40%グルタミン酸ナトリウム1水和物溶液を75mL添加し前培養液を調製した。
次に前々培養により得られた培養液を90mL添加し、1日間前培養を行った。なお、培養温度は30℃、通気なしで静置培養を行った。
【0077】
<発酵工程>
10L容MBS社製ジャーファメンターに、3Lの2%酵母エキス、60mLの10%マンガン酵母液からなる発酵用培地を投入し、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。
次に、天然の生ローヤルゼリー(固形分濃度が34%)を、1NのNaOHでpH6.7に調整した後、精製水で1.6倍希釈したローヤルゼリー希釈液1.2L及びオートクレーブ滅菌(121℃で15分)した40%グルタミン酸ナトリウム1水和物溶液0.6Lからなる発酵液に、前培養により得られた培養液1.2Lを添加し、5日間発酵を行った。発酵温度は30℃、通気なしで静置発酵を行った。ただし、発酵中は1日に1回攪拌を行った。なお、上記10%マンガン酵母液に不溶性の沈殿がある場合には、15分間室温で放置し、上清を10%マンガン酵母液とした。
【0078】
5日間の発酵終了後、105℃で30分間過加熱し滅菌を行い、凍結乾燥によって本発明の「ローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤」を得た。この凍結乾燥された自然免疫活性化剤のγ−アミノ酪酸含量は27.4%であった。
【0079】
[自然免疫促進作用の測定]
(1)カイコ筋標本の作成
以下に記載の通り、カイコの緩行性筋収縮の測定を用いて自然免疫活性の評価を行った。緩行性筋収縮の測定は、Ishii K., Hamamoto H., Kamimura M., Sekimizu K., J.Biol.Chem.Jan.25;283(4):2185-91(2008) に記載の方法に従って行った。
すなわち、5齢1日目から抗生物質含有の人工餌(シルクメイト2S、日本農産工業)を与えて飼育した5齢5日目のカイコ(体重約5g)の眼状紋のやや下辺を解剖バサミで切断し、腸管及び絹糸腺をピンセットで取り除いた。次に、半月状の解剖針を用いて、20cm程度の長さのミシン糸を切断面よりやや下辺に通し、輪を作るように糸の両端を結んだ。カイコの尾脚部分には20cmのミシン糸を縛りつけた後、重さ27gのクリップを糸に通し、糸の両端を結んで、カイコ筋標本を作成した。作成した標本はスタンドに1〜2時間吊るして安定化させた。
【0080】
(2)トランスデューサー端子への筋標本の取り付け
トランスデューサー端子のキャリブレーションを行い、端子をスタンドに水平に固定した後、端子の一端に重さ27gのクリップを取り付け、もう一端にはクリップを外したカイコ筋標本を取り付けて、両端のバランスを調整した。
【0081】
(3)カイコ筋収縮試験
オートクレーブ滅菌した0.9%NaCl水溶液で自然免疫活性化剤の濃度200mg/mLの懸濁液を調製した。次に、0.9%NaCl水溶液を用いて1/4、1/16、1/64、1/256に希釈した懸濁液を調製した。これらの懸濁液を1mLツベルクリンシリンジにとり、27ゲージの注射針を用いて0.05mLずつトランスデューサー端子に取り付けたカイコ筋標本に注射した。6分後に筋収縮前後の筋標本の長さを物差しで計測し、筋収縮値を以下の通り算出した。
C値(筋収縮値)=([収縮前の長さ]−[収縮後の長さ])/[収縮前の長さ]
【0082】
筋収縮のポジティブ対照には、空気、酵母β−グルカン(Sigma、G5011)、メカブフコイダン(理研ビタミン)を用い、ネガティブ対照には0.9%NaCl水溶液を用いた。
【0083】
(4)データ解析
各筋標本に投与したサンプルの重量(mg)の対数を横軸に、C値(筋収縮値)を縦軸にプロットし、カレイダグラフバージョン4.0(Synergy Software)を使用して非線形回帰カーブフィッティングを行なって用量応答曲線を作成した。得られた用量応答曲線から、C値(筋収縮値)=0.15を与えるサンプルの重量(mg)を求め(これを1活性単位(unit)と定義する)、検体1mg当りの活性(U/mg)を算出した。表1及び図1にこれらの結果を示す。
【0084】
比較例1
実施例1で原料として用いたローヤルゼリーの凍結乾燥品を実施例1と同様に評価した。結果を表1、図1に示す。
【0085】
参考例1
酵母β−グルカンは、オリエンタル酵母社製、メカブフコイダンは、理研ビタミン社製のものを用い、実施例1、比較例1と同様にして自然免疫促進作用の測定をした。結果を表1、図1に示す。
【0086】
比較例2
野菜(ミニトマト、ホウレンソウ、ダイコン、ショウガ)を凍結乾燥し、乳鉢で粉砕した後、各サンプル1gに対して5mLの蒸留水を加え、8000rpm、5分の遠心を施した。沈殿に蒸留水3mLを加え、オートクレーブ器を用いて、121℃にて20分加熱処理した。これを室温にて8000rpm、10分の遠心により上清を得て、熱水抽出物とした。熱水抽出物サンプルを、希釈率0.001〜1質量%となるように0.9%NaClで希釈し、0.05mLをカイコの断頭筋肉標本の体腔内に注射し、6分後に体長を測定し、実施例1と同様にして自然免疫促進作用の測定をした(表1)。ここで「希釈率」とは、0.9%NaCl水溶液で希釈した液全体に対する上記熱水抽出物サンプルの質量%である。
【0087】
【表1】

【0088】
本発明の自然免疫活性化剤の投与では、酵母由来β−グルカンやメカブフコイダンには劣るものの、自然免疫促進作用を有していた。そして、その効果は原料である凍結乾燥ローヤルゼリーよりも100倍以上優れており、本発明の効果を確認することができた。更に、比較した各種野菜よりも高い自然免疫促進作用を有することが分かった。
【0089】
また、本発明のローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤の投与では、酵母由来β−グルカンと同様に濃度依存的に筋収縮し、その比活性は0.50U/mgであった(図1、表1)。本発明の自然免疫活性化剤の原材料である凍結乾燥ローヤルゼリーとの比較から、自然免疫促進作用は発酵処理によっては175倍増強され(図2、表1)、本発明の「乳酸菌で発酵させることによる効果」を確認することができた。
【0090】
検体の溶媒である0.9%NaCl水溶液を投与した場合には筋収縮は起こらず(筋収縮値=0.00)、ポジティブ対照である空気では収縮が起きた(筋収縮値=0.43)。なお、酵母β−グルカンやメカブフコイダンでは濃度依存的に収縮が起こり、用量応答曲線から算出した比活性はそれぞれ77U/mgと2.0U/mgであった。
【0091】
実施例2
[自然免疫活性化剤の有効成分の分離]
(1)熱水抽出液の調製
実施例1で得られた「ローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤」の粉末10gに0.9%NaCl水溶液を50mL加えて200mg/mLの懸濁液を調製した。次に、オートクレーブを用いて121℃で20分間加熱した。懸濁液の冷却後、高速遠心機(日立工機CR−21、ローターR10A2)を用い、室温で8000rpm5分間の遠心分離によって上清48mL(熱水抽出液画分)を得た。次に、この遠心上清を16mLずつ分注し、99.5%エタノールをそれぞれ32mLずつ加えて良く攪拌し、室温で8000rpm、5分間の遠心分離で1.5g(乾燥重量)の白色沈殿(エタノール沈殿画分)を得た。沈殿400mgを8mLの10mM Tris−HCl緩衝液(pH7.9)に溶解し、15000rpm、5分間の遠心分離で上清を回収し、これを陰イオン交換クロマトグラフィーの出発材料とした。
【0092】
(2)陰イオン交換クロマトグラフィーによる多糖類の分離
10mM Tris−HCl緩衝液(pH7.9)で平衡化した、20mLのDEAE−セルロース(Whatman社、DE52)を充填したカラムに8mLの試料水溶液をアプライし、100mLの10mM Tris−HCl緩衝液(pH7.9)でカラムを洗浄した後、100mLの0.4M NaClを含む10mM Tris−HCl緩衝液(pH7.9)で吸着画分を溶出し、5mLずつ42本のフラクションに分画した。
【0093】
各フラクションについて、フェノール−硫酸法で全糖量を定量し、また、自然免疫促進作用を測定した。陰イオン交換クロマトグラフィー画分の糖含量と筋収縮値(C値)(自然免疫促進作用)の結果を表2に示す。
【0094】
(3)フェノール−硫酸法による糖定量
10mM Tris−HCl緩衝液(pH7.9)で10倍希釈した各画分0.1mLに、5(w/v)%フェノール水溶液を0.1mL加え、5秒間ボルテックスミキサーで撹拌した後、濃硫酸0.5mLを加えて撹拌し、室温で20分間反応させた。各反応液を0.2mLずつ96穴ミクロプレートに分注し、490nmの吸光度をプレートリーダー(MTP−300、コロナ電気)で測定した。検量線は、D−グルコースを標準試料として作成した。
【0095】
(4)分画フラクションの濃縮
各フラクション3.0mLに99.5%エタノールを6.0mLずつ加え、良く攪拌した後、室温で8000rpm、5分間遠心し、沈殿を回収した。乾燥した沈殿に0.9%NaCl水溶液を0.5mLずつ加えて溶解し、6倍濃縮液を調製した。
【0096】
(5)分画フラクション濃縮液の筋収縮値(C値)の測定
カイコ筋標本にフラクション6倍濃縮液を0.2mLずつ注射した。ものさしを用いて筋標本の長さを測定して、筋収縮値(C値)=([収縮前の長さ]−[収縮後の長さ])/[収縮前の長さ])を算出した(表2)。カイコ筋収縮のポジティブ対照には空気を、ネガティブ対照には0.9%NaCl水溶液を用いた。
【0097】
【表2】

【0098】
DEAE−セルロースカラムクロマトグラフィーで、自然免疫活性化剤の熱水抽出液中に含まれる多糖類は画分6及び27を中心とする2個のピークに分離した。糖の回収率は58%であった。
【0099】
糖のピーク1(画分4〜6)及びピーク2(画分26〜30)は共に筋収縮活性(自然免疫促進作用)を示した。この時、サンプルの溶媒である0.9%NaCl水溶液を投与してもカイコの筋収縮は起こらなかったが(筋収縮値=0.00)、ポジティブ対照である空気では収縮が起きた(筋収縮値=0.38)。
【0100】
表1及び図1、2に示すように、乳酸菌を用いた発酵処理によって、出発材料の凍結乾燥ローヤルゼリーよりも著しく高い自然免疫促進作用を有する自然免疫活性化剤が得られた。表2から、その活性成分は2種類存在した。また、多糖類であり、酸性多糖類であると推認された。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明における自然免疫活性化剤は、天然のローヤルゼリーに由来するので安全性が高く、自然免疫増強剤として、機能性食品、食品、医薬品等の添加剤として広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ローヤルゼリーを乳酸菌で発酵させる工程を含むことを特徴とする自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤の製造方法。
【請求項2】
少なくとも、以下の工程(1)ないし(3)を含むことを特徴とする請求項1に記載の自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤の製造方法。
(1)乳酸菌を前培養する工程
(2)ローヤルゼリーを乳酸菌で発酵させる工程、及び、
(3)乳酸菌の殺菌を行う工程
【請求項3】
上記乳酸菌がラクトバチルス ブレビスである請求項1又は請求項2に記載の自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤の製造方法。
【請求項4】
上記(3)乳酸菌の殺菌を行う工程が、加熱により乳酸菌を殺菌する工程である請求項2又は請求項3に記載の自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載の自然免疫促進作用が増強された自然免疫活性化剤の製造方法で製造されたものであることを特徴とするローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤。
【請求項6】
酸性多糖類を含有する請求項5に記載のローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤。
【請求項7】
少なくとも、以下の工程(a)ないし(c)を含むスクリーニング方法で得られた請求項5又は請求項6に記載のローヤルゼリー由来の自然免疫活性化剤。
(a)自然免疫機構を有する生物に被検物質を投与する工程
(b)前記被検物質が前記自然免疫機構を有する生物の筋肉を収縮させるか否かを評価する工程
(c)前記自然免疫機構を有する生物の筋肉を収縮させると評価された物質を選択する工程

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−162488(P2012−162488A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24040(P2011−24040)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(501481492)株式会社ゲノム創薬研究所 (25)
【出願人】(592207809)森川健康堂株式会社 (14)
【Fターム(参考)】