説明

自然崩壊型硬化体および土砂の供給方法

【課題】材料の確保が容易であり、所要の時期に確実な自然崩壊を起こす事ができる自然崩壊型硬化体並びに自然崩壊型硬化体を用いた土砂の供給方法を提供する。
【解決手段】自然崩壊型硬化体は、結合材の主成分がポルトランドセメント及び/又はエコセメントと、石膏と、高炉スラグとの3成分からなり、当該結合材と水とを混合して硬化させた自然崩壊型硬化体であって、前記結合材は石膏を無水換算した合計100質量部のうち、30質量部以上70質量部未満のポルトランドセメント及び/又はエコセメントと、無水換算した25質量部以上の石膏と、10質量部以上40質量部未満の高炉スラグを含有したものであり、河川や海の水辺や水面下に設置することによって8ヶ月以上経過後に自然崩壊を起こすもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川や海などの水辺や水面下に設置されて経時に伴い崩壊する自然崩壊型硬化体に使用する自然崩壊型セメント組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、護岸、消波、漁礁等に使用されるコンクリート製品である硬化体は、半永久的に硬化体として存続するため、周囲の環境を損ねることがある。
【0003】
例えば、前記硬化体を水中にて使用した場合は、この硬化体表面の付着生物が年数の経過とともに剥がれ、有機物や浮泥が堆積する。そして、当該有機物により酸素消費量が多くなるため水中が貧酸素状態となり、魚貝類等には好ましくない環境となる。
【0004】
一方、河川上流へのダムの建設や護岸の整備により、河川への土砂の供給が少なく、河川域での植物や生物が育成するための堆積土砂が少なくなっており、また海岸でも河川からの土砂の供給が少なく、堆積土砂が少ないため、潮流や波浪により砂が流出し、砂浜の後退や減少を招いている。このために、上記コンクリート製品の硬化体が消波用に使用されている。
【0005】
そのような現状の中で、以下に示すような硬化体や当該硬化体の崩壊方法が提案されている。
【0006】
例えば、海中における藻場を造成するため、アマモなどの海藻類を植栽し海底にブロックを沈める。そして、海藻類の地下茎が発達し地盤に十分に付着した後、自然に崩壊させることで、海中の自然環境および漁場環境に悪影響を与えないよう配慮している。(例えば、特許文献1参照)また同文献には、ポーラスコンクリートからなるブロックの製造において廃ガラス破砕品を混入しておくことでアルカリシリカ反応を誘発させ、その膨張作用によって当該硬化体であるブロックを崩壊させることが開示されている。
【0007】
また、護岸ブロックなどの自然環境製品も、当該ブロックに植物を植生後、自然に崩壊する製品が求められており、重焼マグネシアを主成分とするセメント固化材を土壌に混和し固化し緩行性膨張作用により崩壊させる方法が提案されている。(例えば、特許文献2参照)
さらに、崩壊性を誘発させる手段としてアルカリ骨材反応を起こす反応性骨材の利用或いは有機物を加え低強度とする方法、並びに吸水膨張作用があるものを混和する方法も提案されている(例えば、特許文献3参照)。また同文献には、作成した硬化体をダムの下流域に設置しダムフラッシュ放流により崩壊させて河口や海辺に堆積土砂を還元させる方法も提案されている
他方、モルタルやコンクリートなどのセメント硬化体を化学的手段により短時間でかつ完全に崩壊させる方法として、低濃度(3〜30%)のグリオキサール水溶液をセメント硬化体に接触させることにより崩壊させる方法も提案されている。(例えば、特許文献4参照)
【特許文献1】特開2002−291359号公報
【特許文献2】特開2005−290172号公報
【特許文献3】特開2004−359511号公報
【特許文献4】特開昭53−149210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の方法は、アルカリシリカ反応を誘発させる材料として廃ガラス破砕品を推奨しているが、原材料として確保可能な量は限られている。
【0009】
また、特許文献2に記載の方法においては、崩壊性を誘発させるための材料に重焼マグネシアを推奨しているが、原材料として使用する場合、焼成する前の炭酸マグネシウム自体の価格が高価であり、さらにこれを1200℃条件下で焼成する工程が必要となる。仮に重焼マグネシアを調達できたとしても、やはりコストがかかりすぎる。
【0010】
さらに、特許文献3に記載の方法では、前者の方法では反応性を有する材料を原材料として随時入手するのが困難であり、後者の方法では崩壊させるのに他からの外力が必要であるという問題点がある。
【0011】
加えて、特許文献4に記載の方法では、崩壊性を誘発させる方法としてグリオキサール水溶液(3〜30%)を硬化体に接触させる方法をとっているが、一般にグリオキサールは40%水溶液として市販されており、取り扱いが困難なものとなっている。
【0012】
本発明は、このような不具合に着目したものであり、材料の確保が容易であり、所要の時期に確実な自然崩壊を起こす事ができる自然崩壊型硬化体並びに自然崩壊型硬化体を用いた土砂の供給方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。すなわち、本発明に係る自然崩壊型硬化体は、結合材の主成分がポルトランドセメント及び/又はエコセメントと、石膏と、高炉スラグとの3成分からなり、当該結合材と水とを混合して硬化させた自然崩壊型硬化体であって、前記結合材は石膏を無水換算した合計100質量部のうち、30質量部以上70質量部未満のポルトランドセメント及び/又はエコセメントと、無水換算した25質量部以上の石膏と、10質量部以上40質量部未満の高炉スラグを含有したものであり、河川や海の水辺や水面下に設置することによって8ヶ月以上経過後に自然崩壊を起こすものであることを特徴とする。
【0014】
ここで、エコセメントとは、JIS R 5214に規定されているセメントを示すものとする。
【0015】
このようなものであれば、一般に入手し易い材料を用いているので、材料の確保が容易である故に、容易且つ確実に製造することができ、且つ、8ヶ月以上経過後に自然崩壊を起こすことができる自然崩壊型硬化体を提供することが可能となる。
【0016】
そして上述した所要の時期に自然崩壊を確実に行わせるためには、前記石膏が、無水石膏であることが望ましい。
【0017】
また、上述した自然崩壊型硬化体を用いた土砂の供給方法は、自然崩壊型硬化体を、河川や海の水辺や水面下に設置する設置工程と、前記設置工程により設置した自然崩壊型硬化体が、河川や海の水にて土砂形状となるまで崩壊する崩壊工程と、前記崩壊工程により崩壊した土砂形状の自然崩壊型硬化体が、河川や海の中に浸水する浸水工程とを有することを特徴とする。
【0018】
このような方法によれば、一般に材料の入手が容易であり、且つ通常のセメント硬化体の施工と略同じ手間で施工し得る自然崩壊型硬化体を採用する事により、あらゆる土砂不足の河川や海などの水辺に対して広く且つ好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る自然崩壊型硬化体によれば、一般に入手し易い材料を用いているので、材料の確保が容易である故に、容易且つ確実に製造することができ、且つ、8ヶ月以上経過後に自然崩壊を起こすことができる自然崩壊型硬化体を提供する事が可能となる。
【0020】
また本発明に係る土砂の供給方法によればあらゆる土砂不足の河川や海などの水辺に対して広く且つ好適に適用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る自然崩壊型硬化体は、結合材の主成分がポルトランドセメント及び/又はエコセメントと、石膏と、高炉スラグとの3成分からなり、当該結合材と水とを混合して硬化させた自然崩壊型硬化体であって、前記結合材は石膏を無水換算した合計100質量部のうち、30質量部以上70質量部未満のポルトランドセメント及び/又はエコセメントと、無水換算した25質量部以上の石膏と、10質量部以上40質量部未満の高炉スラグを含有したものであり、河川や海の水辺や水面下に設置することによって8ヶ月以上経過後に自然崩壊を起こすものであることを特徴とする。
【0022】
また、上述の通りの材齢にて、より確実に自然崩壊をおこさせるためには、前記石膏が、無水石膏であることが望ましい。廃品利用や環境面を鑑みると、エコセメントを使用することができる点も望ましい。
【0023】
次に、前記製造方法により製造した自然崩壊型硬化体を用いて土砂を供給する方法について説明する。
【0024】
まず、自然崩壊型硬化体である消波ブロックや漁礁を、当該消波ブロックや漁礁などを必要とする河川や海などの水辺や水面下に設置する(設置工程)。
【0025】
設置された自然崩壊型硬化体が、河川や海の水と接触すると、自然崩壊型硬化体は、経時に伴って土砂形状となるまで徐々に崩壊する(崩壊工程)。
【0026】
自然崩壊型硬化体の設置場所は、上述の通り河川や海などの水辺や水面下であるため、前記崩壊工程により崩壊した土砂形状の自然崩壊型硬化体は、自然と河川や海の中に浸水していく(浸水工程)。結果、人手を介さなくても河川や海に土砂を供給することとなる。このように河川などに浸水した自然崩壊型硬化体は、水流に揉まれて徐々に角が取れ丸い形状となっていく。
【0027】
このように、本実施形態に係る土砂の供給方法であれば、一般に材料の入手が容易であり、且つ通常のセメント硬化体の施工と略同じ手間で施工し得る自然崩壊型硬化体を採用する事により、あらゆる土砂不足の河川や海などの水辺に対して広く且つ好適に適用させることができる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0029】
例えば、上記実施形態では高性能AE減水剤などの混和剤や、結合材以外の混和材についての記載はしていないが、一般のセメント硬化体同様に本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様のものを適用する事が出来る。
【0030】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。例えば、骨材として、廃コンクリート殻、廃貝殻、廃瓦、廃ガラス、廃陶磁器、廃タイル、廃レンガ等から選ばれる少なくとも一種以上を混合して硬化させた自然崩壊型硬化体を河川や海などの水辺や水面下に設置すれば、河川や海に悪影響を及ぼさずに土砂を供給することとなる。特に、廃コンクリート殻は水流に揉まれて、徐々に骨材に付着していたセメントペースト部分が剥がされ、コンクリートに再利用できる良質な骨材にもなり得る。
【実施例】
【0031】
以下に本発明の実施例を記すが、本発明は当該実施例に限定されるものではない。
【0032】
上記実施形態に係る自然崩壊型硬化体を実施例、それ以外のものを比較例として以下のような試験を行った。
<使用材料>
いわゆるセメント材料である結合材として、ポルトランドセメント(住友大阪セメント(株)製普通ポルトラントセメント)、高炉スラグとしての高炉水砕スラグ(住金鉱化(株)製高炉水砕スラグ)及び石膏としての無水石膏(試薬CaSO4(無水和物))を用いた。
砂は、三久海運(株)製の4号珪砂を用いた。
<モルタル配合及び実験方法>
JIS R 5210に従い、実施例1〜3及び比較例1〜3については、結合材:4号珪砂の比を1:1としたモルタルにより、実施例4〜7及び比較例4〜5については、結合材:4号珪砂の比を1:3としたモルタルにより、寸法が4×4×16cmの供試体を作成した。養生はモルタルを型に流し込んだ24時間後に脱型し、その後20℃の水中にて養生した。
そして上記結合材の配合を適宜調整することにより、以下の表1に示す実施例1乃至7並びに比較例1乃至5に係る硬化体をそれぞれ作成した。
【0033】
【表1】

【0034】
<実験結果>
表7に崩壊材齢100日、260日及び430日における実施例1乃至7並びに比較例1乃至5の状況を示す。○印が崩壊していない状態。×印が崩壊している状態である。
【0035】
【表2】

【0036】
以上のように、各実施例・各比較例ともに材齢260日の時点では何れも自然崩壊を起こしていないものとなっていた。そして、実施例1乃至7については全て材齢430日には崩壊していた。一方比較例1乃至5については材齢430日において未だ崩壊していなかった。
【0037】
すなわち、これら実施例において、材料の確保が容易なものを用いつつ、実際に施工する現場の環境を考慮すると、恐らく8ヶ月以上経過後に、確実な自然崩壊を起こすができる自然崩壊型硬化体を提供し得ることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合材の主成分がポルトランドセメント及び/又はエコセメントと、石膏と、高炉スラグとの3成分からなり、当該結合材と水とを混合して硬化させた自然崩壊型硬化体であって、
前記結合材は石膏を無水換算した合計100質量部のうち、30質量部以上70質量部未満のポルトランドセメント及び/又はエコセメントと、無水換算した25質量部以上の石膏と、10質量部以上40質量部未満の高炉スラグを含有したものであり、
河川や海の水辺や水面下に設置することによって8ヶ月以上経過後に自然崩壊を起こすものであることを特徴とする自然崩壊型硬化体。
【請求項2】
前記石膏が、無水石膏であることを特徴とする請求項1記載の自然崩壊型硬化体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の自然崩壊型硬化体を、河川や海の水辺や水面下に設置する設置工程と、
前記設置工程により設置した自然崩壊型硬化体が、河川や海の水にて土砂形状となるまで崩壊する崩壊工程と、前記崩壊工程により崩壊した土砂形状の自然崩壊型硬化体が、河川や海の中に浸水する浸水工程とを有する事を特徴とする土砂の供給方法。

【公開番号】特開2010−105856(P2010−105856A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280003(P2008−280003)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】