説明

自然循環型沸騰水型原子炉

【課題】キャリーアンダーを低減でき、原子炉容器内での給水と再循環水の混合をより促進できる自然循環型沸騰水型原子炉を提供する。
【解決手段】自然循環型沸騰水型原子炉20は炉心1及び旋回流発生装置9をRPV2内に配置している。旋回流発生装置9は、複数の羽根部材34を有し、ダウンカマー8内に配置される。それらの羽根部材34は、ダウンカマー8内に配置されてチムニ4の円筒部材22の外面に取り付けられ、周方向に所定の間隔を置いて配置される。各羽部材34は周方向で同じ方向に向かって傾斜している。チムニ4と蒸気乾燥器5の間に形成される気水分離空間21からダウンカマー8内に流入した冷却水は、羽根部材34の傾斜角度で下方に向かう旋回流となる。旋回流発生装置9の設置によって、ダウンカマー8内に流入した冷却水から蒸気が分離される。ダウンカマー8内に流入した冷却水と給水の混合が促進される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然循環型沸騰水型原子炉に係り、特に、ダウンカマー内における気水分離機能を向上させるのに好適な自然循環型沸騰水型原子炉に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉では、冷却水(冷却材)は、原子炉圧力容器(以下、RPVという)内の炉心で加熱されて一部が蒸気になる。蒸気に含まれている水分が炉心上方に配置された気水分離器及び蒸気乾燥器により分離される。水分が除去された蒸気は、主蒸気配管により蒸気タービンに供給され、その後、復水器で凝縮されて水になる。この水は、給水として給水配管によりRPVに供給される。沸騰水型原子炉は、運転時において炉心内及び炉心より上方では水と蒸気の二相流の状態になっている。
【0003】
特に、自然循環型沸騰水型原子炉は、冷却水を強制循環させる再循環ポンプ等を備えていなく、自然循環により冷却水を炉心に供給している。冷却水の自然循環力を高めるために、自然循環型沸騰水型原子炉は炉心の上方に筒状のチムニを配置している。このチムニの煙突効果により冷却水の自然循環力が高められるのである。一般に、沸騰水型原子炉の圧力では液体の水の密度は蒸気の密度に比べて20倍以上大きい。このため、自然循環型沸騰水型原子炉では、チムニの設置により炉心上部の二相流状態の部分を高さ方向に長くとれば液体の水と、二相流状態の水との密度差による静水頭差を駆動力として、RPV内で冷却材である水を、炉心を通して再循環させることが可能である。しかしながら、RPV内で冷却水領域に設置される気水分離器は冷却材を自然循環させる際に抵抗要素となるので、気水分離器を削除できれば自然循環型沸騰水型原子炉における冷却水の自然循環特性を大きく改善できる。このために、重力による気水分離機構を用いて気水分離器を削除する自然循環型沸騰水型原子炉も提案されている。気水分離器の削除によって、自然循環特性の改善だけでなく、RPVの高さを低減できる。したがって、自然循環型沸騰水型原子炉をコンパクト化することができる。
【0004】
自然循環型沸騰水型原子炉における気水分離について、以下に示す技術が提案されている。
【0005】
特開昭59−100894号公報は、自然循環型沸騰水型原子炉において、炉心を取り囲む炉心シュラウド上端に循環力促進装置を設けている。この循環力促進装置は、円筒容器の内面に複数の螺旋状の翼を有している。炉心から上昇した二相流は、循環力促進装置の円筒容器内に流入し、それらの翼によりに旋回力が与えられる。旋回する二相流に含まれる蒸気はRPVの横断面内において中央部に集められ、その二相流に含まれて分離された冷却水は、円筒容器の上端から、RPVと炉心シュラウドの間に形成されるダウンカマー内に導かれる。
【0006】
特開平3−95496号公報は、自然循環型沸騰水型原子炉のRPV内で炉心上方に設けたチムニと蒸気乾燥器の間に、複数の増設立ち管を設置している。増設立ち管は、側壁に多数の開口が形成された環状部材の外面に旋回力を与える複数の羽根を設けている。環状部材内を上昇する気液二相流の流れが、各開口より外側に流出してそれらの羽根により旋回力が付与される。旋回した二相流がRPVの内面に衝突することによって蒸気と水が分離される。
【0007】
特開平1−197696号公報に記載された自然循環型沸騰水型原子炉は、RPVとシュラウドの間に形成されたダウンカマー内に、シュラウドを取囲む環状のバッフルを配置し、バッフルの下端部に気泡案内板を設置している。シュラウド内を上昇した気液二相流は、シュラウドの上端上方からバッフルとシュラウドの間に形成される環状流路に流入する。気泡案内板の下方では流路断面積が増大して流速が低下するため、蒸気の気泡は、気泡案内板下方のよどみ域に達し、バッフルとRPVの間の気泡抜き通路を上昇する。
【0008】
特開平2−78996号公報に記載された自然循環型沸騰水型原子炉は、炉心上方に配置したシュラウドの上端部でRPV側にバッフルが設けられている。バッフルとRPVの間の領域は気泡抜き流路に連絡されている。シュラウド内を上昇した気液二相流は、シュラウド上端より上方から、RPVとシュラウドの間に形成されるダウンカマー内に流入する。ダウンカマー内に流下する蒸気の気泡は、バッフル下部に集まり、気泡抜き流路より上方に排出される。
【0009】
【特許文献1】特開昭59−100894号公報
【特許文献2】特開平3−95496号公報
【特許文献3】特開平1−197696号公報
【特許文献4】特開平2−78996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
自然循環型沸騰水型原子炉において、気水分離器を取り除いて重力による気水分離機構を用いる場合、ダウンカマーに混入する蒸気の割合(以下、キャリーアンダーという)が増加する可能性がある。キャリーアンダーの増加は、ダウンカマー内の冷却水の平均密度を低下させ、冷却水の自然循環力が低減する。これにより、炉心に供給される冷却水量が減少し、炉心内の燃料棒の除熱性能等の低下を招く可能性がある。このため、キャリーアンダーはできるだけ少ない方が良い。また、ダウンカマー内で給水スパージャから供給された温度が飽和温度より低い給水と飽和温度の再循環水が合流する。冷却水の強制循環機構を備えていない自然循環型沸騰水型原子炉では、給水と再循環水の混合が促進されず、炉心入口までそれらが完全に混合されない可能性がある。この場合、炉心に装荷されている各燃料集合体に流入する冷却水の温度が均一化されなくなる可能性がある。このため、炉心の熱的余裕にこのことによる追加の設計余裕が必要になる可能性がある。
【0011】
なお、特開昭59−100894号公報は、円筒容器の内面に複数の螺旋状の翼を有して炉心より上方に配置された循環力促進装置によって冷却水と蒸気を分離しているが、十分な気水分離が行われず、旋回する冷却水に同伴してダウンカマー内に流入する蒸気が多くなる。これは、二相流を複数の翼によって水平方向に旋回させるからである。特開平3−95496号公報は、環状部材の外面に設けた複数の羽根によって水平方向で二相流に旋回力を与え、この二相をRPV内面に衝突させて気水分離を行っている。このような気水分離では、ダウンカマー内の下降流に多くの蒸気が混入する可能性がある。また、特開昭59−100894号公報及び特開平3−95496号公報では、ダウンカマー内を下降する冷却水と給水の混合が促進されない。
【0012】
特開平1−197696号公報及び特開平2−78996号公報は、共に、炉心シュラウドとRPVの間にバッフルを配置し、ダウンカマー内に淀み水領域を作って、キャリーアンダーでダウンかマーに入り込んだ蒸気の気泡を分離している。しかしながら、これらの公知例では、給水と再循環水の混合が促進されない。
【0013】
本発明の目的は、気水分離性能をさらに向上でき、かつ原子炉容器内での給水と再循環水の混合をより促進できる自然循環型沸騰水型原子炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、自然循環型沸騰水型原子炉において、原子炉容器とチムニ及びシュラウドの間に形成された環状通路内に配置され、チムニから環状通路に導かれる冷却水を下方に向かって原子炉容器の周方向に旋回させる旋回流発生装置を備えたことにある。
【0015】
環状通路内に旋回流発生装置を配置することによって、冷却水を環状通路内で下方に向かって原子炉容器の周方向に旋回させることができる。このような下方に向かう旋回流の発生によって、旋回流に含まれる蒸気の気泡の流れ方向と重力が作用する方向が異なるため、浮力によるその気泡の上昇力が大きくなる。このため、環状通路内に入り込んだ蒸気の気泡が、原子炉容器内に形成される冷却水の水面よりも上方に到達しやすくなる。すなわち、環状通路内を流下する冷却水に含まれた蒸気の分離効率が向上し、自然循環型沸騰水型原子炉での気水分離性能がさらに向上する。また、そのような旋回流の発生により、環状通路内での温度が異なる冷却水と給水の混合が促進され、炉心に供給される冷却水の温度がより均一化される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、シュラウドを取り囲んで形成された環状通路を流下する冷却水に含まれる蒸気の割合をさらに低減でき、その環状通路内での冷却水と給水の混合を促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施例を、以下に説明する。
【実施例1】
【0018】
本発明の好適な一実施例である実施例1の自然循環型沸騰水型原子炉を、図1〜図4を用いて以下に説明する。
【0019】
本実施例の自然循環型沸騰水型原子炉20は、RPV2内に、炉心1、炉心シュラウド3、チムニ4、蒸気乾燥器5及び旋回流発生装置9を配置している。円筒である炉心シュラウド3は複数の燃料集合体(図示せず)が装荷されている炉心1を取り囲んでいる。チムニ4は炉心1の上方に位置し、炉心シュラウド3の上端部に設置される。炉心シュラウド3は、その下端に取り付けられた、支持部材である複数のシュラウドレグ(図示せず)によってRPV2の底部に設置されている。それらのシュラウドレグは、RPV2の周方向において間隔をおいて配置される。チムニ4は、円筒部材22内に格子部材23を設けて構成されている(図3参照)。このチムニ4は、RPV2の軸方向に伸びており、格子部材23によって画定される横断面が正方形である多数の冷却水通路24を形成している。蒸気乾燥器5は、チムニ4の上方に配置され、RPV2に取り付けられる。チムニ4と蒸気乾燥器5の間には、重力により気水分離を行う空間(気水分離空間)21が形成されている。ダウンカマー(環状通路)8は、RPV2と炉心シュラウド3及びチムニ4の間に形成される。給水スパージャ6がチムニ4の周囲でダウンカマー8内に配置される。給水スパージャ6は、リングヘッダー25に複数のノズル26を設けている(図2参照)。炉心1の下方に位置する下部プレナム12内に、複数の制御棒案内管13が配置されている。燃料集合体間に挿入される制御棒(図示せず)が制御棒案内管13内に配置される。
【0020】
旋回流発生装置9は、複数(具体的には8枚)の羽根部材34を有し、ダウンカマー8内に配置される(図3参照)。それらの羽根部材34は、ダウンカマー8内に配置されてチムニ4の円筒部材22の外面に同じ高さで取り付けられ、RPV2の周方向に所定の間隔を置いて配置される。これらの羽根部材34は、炉心1内の燃料集合体の交換時にチムニ4をRPV2から取り出す必要があるので、RPV2の内面に接触していない。各羽根部材34は、図4に示すように、RPV2の周方向において同じ方向に向かって傾斜している。図4は、チムニ4の円筒部材22の一周の1/4で、羽根部材34が設置された部分の外面を展開して示している。各羽根部材34のその周方向における一端は、羽根部材34の周方向における他端よりも高い位置にある。すなわち、各羽根部材34は図4において向かって左下がりになるように傾斜している。羽根部材34はRPV2の内面に取り付けることも可能である。旋回流発生装置9は、給水スパージャ6よりも上方でダウンカマー8内に配置するとよい。
しかしながら、RPV2は圧力バウンダリであり、羽根部材34を溶接等でRPV2取り付ける場合にはRPV2の健全性を損ねる可能性があるので、一般的にはチムニ4の外面に付けた方がよい。
【0021】
下部プレナム12から炉心1内に供給された冷却水は、炉心1に装荷された燃料集合体内の核燃料物質の核分裂によって加熱され、一部が蒸気となる。冷却水と蒸気を含む二相流は、炉心1内を上昇し、チムニ4に形成された各冷却水通路24内をさらに上昇して気水分離空間21内に達する。気水分離空間21内で重力により冷却水から分離された蒸気は、蒸気乾燥器5において水分をさらに除去される。蒸気乾燥器5から排出された蒸気は、RPV2に接続された主蒸気配管7に排出され、タービン(図示せず)に供給される。このタービンを回転させてタービンから排出された蒸気は、復水器(図示せず)で凝縮されて水となる。この水は、給水として、給水ポンプ(図示せず)で昇圧され、給水配管27により給水スパージャ6のリングヘッダー25内に導かれる。給水は多数のノズル26からRPV2内、すなわち、ダウンカマー8内に供給される。この給水の温度は、RPV2内の冷却水の飽和温度よりも低い。
【0022】
自然循環型沸騰水型原子炉20の運転時では、冷却水の水面が気水分離空間21内において蒸気乾燥器5付近に形成されている。気水分離空間21内で蒸気を分離された冷却水は、気水分離空間21からダウンカマー8内に流入する。気水分離空間21で蒸気が完全に分離されないため、気水分離空間21からダウンカマー8内に流入した冷却水(再循環水)は、蒸気を含んでいる。この蒸気を含んだ冷却水は、旋回流発生装置9の羽根部材34相互間に形成される冷却水通路28内に導かれ、羽根部材34の傾斜角度で下方に向かう旋回流となる。詳細は後述するが、蒸気は、浮力の作用によって旋回流から分離され、RPV2内に形成される冷却水の水面に向かって上昇する。このように、ダウンカマー8内に流入した冷却水に含まれる蒸気が分離される。旋回流発生装置9によって旋回流となった冷却水は、チムニ4及び炉心シュラウド3の周囲を一方向に旋回しながらダウンカマー8内を下降する。この旋回している、飽和温度の冷却水に、給水スパージャ6のノズル26から供給された、その冷却水よりも温度が低い給水が混入される。給水を混入した冷却水は、シュラウドレグ相互間を通過して下部プレナム12に到達し、炉心1に供給される。
【0023】
旋回流発生装置9の設置によって、ダウンカマー8内に流入した冷却水から蒸気が分離される理由を以下に説明する。
【0024】
まず、旋回流発生装置9が設置されていない状態でのダウンカマー8内の冷却水の流れについて述べる。ダウンカマー8内に流れ込んだ蒸気は、冷却水中で気泡として存在する。ダウンカマー8内に流れ込んだ冷却水がほぼ鉛直方向で下向きに流れる。この場合は、図5(A)に示すように、ダウンカマー8内の冷却水の流れ(矢印30)が鉛直方向において下向きとなり、重量の向きと冷却水の流れの向きが同じであることから蒸気の気泡の形状は鉛直軸を中心にほぼ対称な形になる。蒸気の気泡はダウンカマー8内を流下する冷却水よりも密度が小さいので、その気泡に鉛直方向で上向きに浮力(矢印31)が働く。この浮力はダウンカマー8に蒸気が流れ込むのを抑制する効果として働くが、ダウンカマー8内の冷却水の流れが鉛直方向において下向きで、浮力が鉛直方向において上向きである場合、その気泡29Aの形状は鉛直軸方向と直交する方向で細長くなる(図5(A)参照)。冷却水の流動力及び重力が、共に、そのような細長い気泡29Aに同じ方向に作用することになる。したがって、ダウンカマー8内における冷却水の下降流(鉛直方向の流れ)への蒸気の巻き込みが気泡29Aに作用する上方に向かう浮力によって抑制される度合いが小くなる。
【0025】
一方、複数の羽根部材34を有する旋回流発生装置9の設置によって、冷却水は、ダウンカマー8内でRPV2の周方向に速度を与えられ、チムニ4及び炉心シュラウド3の周囲を回るように下方に向かって旋回する。この旋回流の発生により、図5(B)に示すように、その冷却水に含まれる蒸気の気泡29Bの流れ(矢印32)の向きが重力(矢印33)の向きと異なる方向となるため、その蒸気の気泡29Bの形状が、鉛直方向において非対称な形状となる。このような形状の気泡29Bに、異なる方向に向かう冷却水の流動力及び重力が作用するため、浮力(矢印31)の作用により発生する、気泡29Bの上昇力は、上記した気泡29Aの上昇力よりも大きくなる。この上昇力の違いは、気泡の形状の違いと共に、冷却水の流動力及び重力が作用する方向が異なっているか同じであるかにも起因している。本実施例は、上記したように気泡29Bの上昇力が大きくなるため、ダウンカマー8内での気泡29Bの分離及び合体が促進され、ダウンカマー8から冷却水の水面の上方に到達する、分離された蒸気(気泡)の量が増大する。自然循環型沸騰水型原子炉20は、羽根部材34によりダウンカマー8内において下向きで周方向に流れる冷却水の旋回流を発生させることによって、気水分離空間21からダウンカマー8内に流入した冷却水に含まれる蒸気の分離性能をさらに向上させることができる。したがって、ダウンカマー8から下部プレナム12に導かれる流体の平均密度を大きくすることができ、炉心1に供給される冷却水流量を増加させることができる。炉心1の除熱性能等が向上するため、自然循環型沸騰水型原子炉20は、出力を増大でき、経済性が向上する。
【0026】
気水分離空間21からダウンカマー8内に流入する飽和温度の冷却水と給水スパージャ6から供給される、飽和温度よりも低い給水の温度差は、一般に70〜90℃である。ダウンカマー8内に旋回流発生装置9が設置されていない場合には、ダウンカマー8内を流下する、飽和温度の冷却水と給水が、前述したように、完全に混合されない可能性がある。これは以下の理由による。温度の低い給水はダウンカマー8内を下降する冷却水よりも密度が大きい。密度の大きな給水が、重力の作用により、鉛直方向で下向きの流速が加速されてダウンカマー8内を鉛直方向で下降する。このため、給水と飽和温度の冷却水の混合がダウンカマー8内で十分に行われない。これは、炉心1の熱的余裕を減少させることになり、原子炉の熱出力を低下させなければならなくなる。
【0027】
これに対して、本実施例は、旋回流発生装置9を設置しているので、上記したように、ダウンカマー8内において下向きで周方向に流れる冷却水の旋回流が発生する。この旋回流の発生によって、飽和温度の冷却水と温度の低い給水の混合がダウンカマー8内で促進される。周方向の速度成分が加わることにより、給水の流れが、重力の向きと異なる方向(重力の向きと交差する方向)を向くことによっても、それらの混合が促進される。このため、本実施例では、温度の低い給水と飽和温度の冷却水がダウンカマー8内でほぼ完全に混合される。また、下部プレナム12に導かれた後においても、それらの混合が周方向の速度成分があることにより行われる。したがって、本実施例では、炉心1の入口において、給水とダウンカマー8を流下する冷却水(再循環水)は、完全に混合されている。本実施例は、炉心1の熱的余裕が増大し、原子炉の熱出力の低下を回避することができる。原子炉の経済性が向上する。
【0028】
旋回流発生装置9をダウンカマー8内で給水スパージャ6より上方に配置することによって、以下に示す効果を得ることができる。旋回流発生装置9を給水スパージャ6よりも上方に配置した場合には、旋回流発生装置9を給水スパージャ6よりも下方に配置した場合に比べて、ダウンカマー8内を流下する再循環水と給水の混合促進距離(鉛直方向)が大きくなるので、再循環水と給水と再循環水の混合促進効果が増大する。旋回流発生装置9を給水スパージャ6よりも上方に配置した場合には、再循環水に含まれている蒸気の気泡は、温度の低い給水との接触によって凝縮することが避けられる。このため、その気泡の浮力が低減されず、再循環水から分離されて冷却水の水面より上方に到達する蒸気の量が増大する。給水スパージャ6から吐出された給水は、温度が飽和温度である再循環水より低く密度が大きいので、重力の作用により再循環水に比べて相対的に加速される度合いが大きい。本実施例は、旋回流発生装置9を給水スパージャ6よりも上方に配置することによって、給水の加速力があまり大きくならない状態、すなわち給水と再循環水の速度差が小さいうちに給水と再循環水を旋回させて混合することができる。したがって、給水と再循環水の混合がより促進される。
【0029】
本実施例は、旋回流発生装置9をダウンカマー8内で上部に配置しているため、分離された蒸気の気泡が冷却水の液面より上方に到達しやすくなる。
【0030】
本実施例は、気水分離空間21を形成してチムニ4の上方に気水分離器を設置していないので、RPV2の高さを低くすることができ、自然循環型沸騰水型原子炉20をコンパクト化することができる。
【0031】
旋回流発生装置9を構成する各羽根部材34は、円筒部材22及び炉心シュラウド3の外面に対して直角に設けることが望ましい。しかしながら、羽根部材34を、RPV2の半径方向におい円筒部材22及び炉心シュラウド3の外面に対して傾斜させて設置することも可能である。
【0032】
本実施例において、旋回流発生装置9の替りに、図6に示す旋回流発生装置9Aを用いてもよい。旋回流発生装置9Aは、鉛直方向での断面形状が湾曲している8枚の羽根部材34Aを含んでいる。この旋回流発生装置9Aは、羽根部材34Aの製造が面倒であるが、周方向の速度成分を滑らかに増大させることができ、旋回流発生装置9よりも圧力損失を低減させることができる。
【0033】
旋回流発生装置としては、図7に示す旋回流発生装置9Bを用いることも可能である。旋回流発生装置9Bは、下流側に両面に傾斜面17を形成して鉛直方向での肉厚を下流側端に向かって減少させている8枚の羽根部材34Bを含んでいる。各羽根部材34Bにおけるその肉厚の減少は徐々に行われる。この結果、RPV2の周方向において隣り合う羽根部材34B相互間に形成される冷却水通路28の流路断面積は、傾斜面17の形成によって、冷却水通路28の途中から下流側に向かう程、広くなっている。傾斜面17を有する旋回流発生装置9Bの採用により、羽根部材34Bの下流側で渦の剥離等により流れが乱れる。このため、旋回流発生装置9Bは、旋回流発生装置9よりもダウンカマー8内における給水と冷却水の混合をさらに促進させることができる。また、旋回流発生装置9Bにおいて羽根部材34Bの上流側の先端部の、鉛直方向の断面形状を、流線型にすることも可能である。先端部を流線型に形成することによって、先端部での渦の発生が低減されるため、ダウンカマー8の圧力損失を低減することができる。羽根部材34,34Aも、上流側の先端部を流線型にしてもよい。
【実施例2】
【0034】
本発明の他の実施例である実施例2の自然循環型沸騰水型原子炉を、図8を用いて以下に説明する。本実施例の自然循環型沸騰水型原子炉20Aは、RPV2内に気水分離器15を設置している自然循環型沸騰水型原子炉に旋回流発生装置9を設置した構成を有する。旋回流発生装置9は、ダウンカマー8内に配置されてチムニ4の円筒部材22の外面に設置されている。気水分離器15は、チムニ4と蒸気乾燥器5の間に配置され、チムニ4の上端部に設置されている。換言すれば、自然循環型沸騰水型原子炉20Aは、自然循環型沸騰水型原子炉20において、気水分離空間21の替りに気水分離器15を設けた構成を有する。本実施例においても、旋回流発生装置9の替りに前述の旋回流発生装置9Aまたは旋回流発生装置9Bを用いてもよい。
【0035】
本実施例は、気水分離器15を備えた自然循環型沸騰水型原子炉20Aにおいて旋回流発生装置9を備えているので、旋回流発生装置9の前述の作用により、単に気水分離器を備えた自然循環型沸騰水型原子炉よりも、炉心1に導かれる蒸気の気泡の割合を低減することができる。本実施例は、実施例1の自然循環型沸騰水型原子炉20に比べて炉心1に導かれる蒸気の気泡の割合を低減できる。本実施例は、ダウンカマー8内における冷却水と給水の混合を、実施例1と同様に促進させることができる。ただし、本実施例は、気水分離器15を備えているため、RPV2の高さが自然循環型沸騰水型原子炉20のそれよりも高くなる。
【0036】
上記した各旋回流発生装置のそれぞれの羽根部材は、チムニ4の円筒部材22(または炉心シュラウド3)の外面に溶接にて取り付けられるが、ボルト等で取り付けることも可能である。ボルトを使用する場合には、ボルトの回り止めの措置を行う必要がある。羽根部材は、ダウンカマー8内で周方向に配置する枚数は8枚に限らない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の自然循環型沸騰水型原子炉の構成図である。
【図2】図1に示す給水スパージャの局部斜視図である。
【図3】図1のIII−III断面図である。
【図4】図1に示す旋回流発生装置のチムニの円筒部材への取り付け状態を示す円筒部材の周方向における1/4の展開図である。
【図5】ダウンカマー内を流下する蒸気の気泡の流れ方向、浮力及び重力が作用する方向を示す模式図であり、(A)は従来の自然循環型沸騰水型原子炉のダウンカマー内での蒸気の気泡の流れ方向、浮力及び重力が作用する方向を示す説明図、(B)は図1に示す実施例におけるダウンカマー内での蒸気の気泡の流れ方向、浮力及び重力が作用する方向を示す説明図である。
【図6】旋回流発生装置の他の実施例の構成図である。
【図7】旋回流発生装置の他の実施例の構成図である。
【図8】本発明の他の実施例である実施例2の自然循環型沸騰水型原子炉の構成図である。
【符号の説明】
【0038】
1…炉心、2…原子炉圧力容器、3…炉心シュラウド、4…チムニ、6…給水スパージャ、8…ダウンカマー、9,9A,9B…旋回流発生装置、15…気水分離器、17…傾斜面、20,20A…自然循環型沸騰水型原子炉、22…円筒部材、23…格子部材、24,28…冷却水通路、34,34A,34B…羽根部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉心を内蔵する原子炉容器と、前記原子炉容器内に設置されて前記炉心を取り囲むシュラウドと、前記原子炉容器内で前記炉心の上方に配置されたチムニと、前記原子炉容器と前記チムニ及び前記シュラウドの間に形成された環状通路内に配置された給水スパージャと、前記環状通路内に配置され、前記チムニから前記環状通路に導かれる冷却水を下方に向かって前記原子炉容器の周方向に旋回させる旋回流発生装置とを備えたことを特徴とする自然循環型沸騰水型原子炉。
【請求項2】
前記原子炉容器内に配置され、前記チムニよりも上方に位置している蒸気乾燥器を備え、前記チムニと前記蒸気乾燥器の間に気水分離空間を形成している請求項1に記載の自然循環型沸騰水型原子炉。
【請求項3】
気水分離装置を前記チムニよりも上方で前記原子炉容器内に配置している請求項1に記載の自然循環型沸騰水型原子炉。
【請求項4】
前記旋回流発生装置は、前記周方向に間隔を置いて配置され、下方に向かって傾斜した複数の羽根部材を有している請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の自然循環型沸騰水型原子炉。
【請求項5】
前記複数の羽根部材が前記チムニの外面に取り付けられている請求項4に記載の自然循環型沸騰水型原子炉。
【請求項6】
前記羽根部材が湾曲している請求項5に記載の自然循環型沸騰水型原子炉。
【請求項7】
前記羽根部材は肉厚が上流から下流に向かって減少している請求項5に記載の自然循環型沸騰水型原子炉。
【請求項8】
前記羽根部材は上流側の端部が流線型をしている請求項4ないし請求項7のいずれか1項に記載の自然循環型沸騰水型原子炉。
【請求項9】
前記旋回流発生装置は、前記給水スパージャよりも上方に配置されている請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の自然循環型沸騰水型原子炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−122143(P2008−122143A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304069(P2006−304069)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)