説明

自然循環型沸騰水型原子炉

【課題】自然循環型沸騰水型原子炉では、ATWS事象において、大量の蒸気による圧力上昇が原子炉圧力容器や原子炉格納容器の負荷となるという課題がある。
【解決手段】自然循環型沸騰水型原子炉のシュラウド壁22に前記シュラウド壁22の下部をダウンカマ14から下部プレナム10へ流通する冷却水の流路を備え、前記シュラウド壁22に前記流路の全部を閉鎖する流量閉止板3を上下動自在に装着し、前記流量閉止板3を前記閉鎖の位置から前記流路を全開させる位置との間で上下に駆動する駆動機構(保持装置2)を前記シュラウド壁22と前記流量閉止板3との間に装着してある自然循環型沸騰水型原子炉。
【効果】本発明の自然循環型沸騰水型原子炉は、ATWS発生時において、流量閉止板で冷却水の自然循環流を停止させ、原子炉内の沸騰を促進して負の反応度を投入し、原子炉出力を低下させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、自然循環型沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器内に装備される安全設備に係る。
【背景技術】
【0002】
自然循環型沸騰水型原子炉は、原子炉圧力容器内(以下、単に炉内ともいう。)で沸騰した水の密度と炉内のシュラウド壁外の沸騰していない水の密度の違いに基づいて冷却水が循環する原子炉であり、冷却水の流れを作る循環ポンプを使用しない単純な原子炉である。
【0003】
しかしこの種の原子炉では、負荷遮断などの主蒸気隔離弁の閉鎖事象において、原子炉制御棒の挿入に失敗した場合(以下ATWS事象と呼ぶ。)に、冷却水の自然循環流量を停止させる手段が無く、蒸気の発生を抑えることが出来ないため、原子炉圧力容器や格納容器への負荷が大きくなるという問題があった。
【0004】
こうしたATWS対策としては、従来の循環ポンプを用いた強制循環型沸騰水型原子炉では循環ポンプを停止させ、強制循環流量を無くし全体の循環流量を急減させて炉内の沸騰を促進し炉心に負の反応度を投入して原子炉出力を低下させ、現象を緩和させる方法
(特開平9−257980号公報)が採用されているが、自然循環型沸騰水型原子炉では、循環ポンプを持たないので、こうした対応をとることができないという課題があった。
【0005】
また、公知例として流量制御機能を持った沸騰水型自然循環原子炉(特開平8−166490号公報)があるが、この特許では自然循環型沸騰水型原子炉の運転制御範囲を広げることを目的として、自然循環流路の一部において流量を制御するための機構を採用している。しかし、本公知例では自然循環流路に設けた開口部の一部を閉塞させた場合でも、隣接する別の開口部は閉塞させることはせず、必要最小限の自然循環流量を確保するために流路の一部を残すものとしているため、原子炉の出力を停止させる程度に自然循環流量を低下させる必要があるATWS事象に対しては不十分なものである。
【0006】
また、別の公知例として、「沸騰水型原子炉冷却材の流量制御装置(特開昭56−
148097号公報)」がある。しかし、本公知例は、自然循環型沸騰水型原子炉では無く、循環ポンプを用いた強制循環型の沸騰水型原子炉のATWS事象を対象として考案されたものであり、強制循環型沸騰水型原子炉ではATWS発生時において冷却水の循環ポンプが停止した場合においても、炉心の燃料の冷却を維持し、流動不安定現象を防ぐために冷却水を循環させておく必要があり、自然循環流量を確保するため操作杵を用いて新たな流路を開こうとするものである。この点において、新たな流路を作る必要が無く、自然循環流量を低下させることができれば核反応を抑えて出力を下げることができる、自然循環型沸騰水型原子炉とは異なっている。
【0007】
【特許文献1】特開平9−257980号公報
【特許文献2】特開平8−166490号公報
【特許文献3】特開昭56−148097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
自然循環型沸騰水型原子炉は、燃料集合体を配置した炉心,炉心で発生した蒸気と沸騰していない冷却水を分離する気水分離器,冷却水を下部プレナムに戻して再循環させるためのダウンカマとから構成されるが、炉心上部には気水分離器に至るまでの部分にチムニーと呼ばれる空間部を設け、自然循環流量を大きくする構成としている。また、下部プレナムには炉心に原子炉制御棒を出し入れするための制御棒駆動装置が設置されている。
【0009】
通常の沸騰水型原子炉では、炉心に原子炉制御棒を挿入できる場合には、核反応を停止させることにより蒸気の発生を抑えることができるため、発生した余剰の蒸気は逃し安全弁を介してサプレッションプールに排出させることにより、原子炉圧力容器の加圧を抑制することができる。
【0010】
しかし、負荷遮断などの主蒸気隔離弁の閉鎖事象において、原子炉制御棒の挿入に失敗した場合(以下ATWS事象と呼ぶ)には、自然循環流量を停止させる手段が無く、蒸気の発生を抑えることが出来ないため、圧力容器や格納容器への負荷が大きくなるという問題があった。
【0011】
また、そうした制御棒が挿入できないATWS事象に対しては、後備の反応度制御系として、硼酸水注入系が炉内に連通して用意されており、硼酸水を炉内の炉心に注水することにより原子炉の反応を停止させることができるが、そうした注水には時間がかかるため、事象発生初期の現象を緩和させることが困難であるという課題があった。
【0012】
また、自然循環型原子炉では、先にも述べたように、運転制御範囲を広げることを目的として、自然循環流路に設けた開口部の一部を閉塞させた場合でも、隣接する別の開口部は閉塞できないようにして、必要最小限の自然循環流量を確保するために流路の一部を残すものとしているものがあるが、原子炉の出力を停止させる程度に自然循環流量を低下させる必要があるATWS事象に対しては流路の一部を残すものとなるのでATWS事象に対しては不十分なものである。
【0013】
本発明は、自然循環型沸騰水型原子炉の上述した事情を考慮してなされたもので、ATWS事象において、原子炉の出力を低下させるためのATWS対策設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の基本構成は、自然循環型沸騰水型原子炉のシュラウド壁に装着されてダウンカマから下部プレナムへ流入する冷却水の流れを停止させる流量閉止板と、その流量閉止板を前記流れを許容する位置に保持する保持装置を有する自然循環型沸騰水型原子炉である。
【0015】
制御棒が炉心に挿入されないATWS事象の場合に、保持装置による流量閉止板の保持を止めて、ダウンカマから下部プレナムへ流入する冷却水の流れの全ての流路を閉鎖して流れを停止させて炉内の沸騰を促進して気泡の量を増やすことで負の反応度を投入する。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、自然循環型沸騰水型原子炉において、制御棒が炉心に挿入されないATWS事象の場合に、炉内の冷却水の沸騰を促進して気泡の量を増やすことで負の反応度を投入することにより、制御棒に依らずに安全性を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施例は、自然循環型沸騰水型原子炉の主蒸気隔離弁閉鎖事象において、原子炉制御棒挿入に失敗した場合に、自然循環流量を低下させ炉心の気泡(ボイドともいう。)を増加させて負の反応度を投入し、原子炉の出力を低下させることができるATWS対策設備に関するものである。
【0018】
本発明の実施例による自然循環型沸騰水型原子炉では、シュラウド壁下部に保持装置で保持した流量閉止板を設置しており、制御棒が炉心に挿入されないATWS事象の場合には、当該の流量閉止板の保持を解除し、流量閉止板を重力により落下させることにより流路を閉鎖して自然循環流を停止させ、炉内の沸騰を促進して気泡の量を増やすことで負の反応度を投入することが可能である沸騰水型原子炉の核物理原理を活用することにより、原子炉の核反応を押さえて原子炉の出力を減少させる構成としている。また、流量閉止板は保持装置に対してワイヤまたは鎖などにより引上げることができるように設定されており、硼酸水注水系から硼酸水が炉心に注水できて原子炉の反応を停止できた場合には、流量閉止板を引上げて自然循環のための流路を開くことにより、炉心に冷却水を供給して原子炉の核反応が停止した後の原子炉崩壊熱の除去を可能としている。
【0019】
このような実施例によるATWS対策設備は、負荷遮断などの主蒸気隔離弁の閉鎖事象において、原子炉制御棒の挿入に失敗したATWS事象の場合に、流量閉止板によりダウンカマから下部プレナムへの自然循環流を停止させ、炉内での沸騰を促進させて原子炉の核反応を抑えて停止させることにより、原子炉圧力容器や格納容器への負荷を抑制することができる。
【0020】
本発明の実施例による自然循環型沸騰水型原子炉のATWS対策設備を、以下の実施例で具体的に説明する。
【0021】
図1のように、自然循環型沸騰水型原子炉は、原子炉圧力容器15と、原子炉圧力容器15内に装備された炉心1と、炉心1を囲うとともに上方に延長されている筒状のシュラウド壁22と、原子炉制御棒4を炉心1に下方から抜き差しする制御棒駆動装置5と、シュラウド壁22の内側から冷却水の気液二相流を受け入れる気水分離器31と、気水分離器31の上方に装備され、気水分離器31から受け入れた蒸気から湿分を除去する蒸気乾燥器32と、蒸気乾燥器32で乾燥させた蒸気をタービン発電機のタービンへ導く主蒸気配管33と、主蒸気配管33に装備されて蒸気の流通を遮断する主蒸気隔離弁16と、主蒸気配管33に装備されて蒸気を原子炉格納容器内に逃す逃し安全弁17と、タービン発電機側で働いた蒸気を凝縮して冷却水に戻したその冷却水をダウンカマ14の上方に導きいれる給水配管34と、主蒸気隔離弁16の閉鎖時に制御棒駆動装置5の作動状況から炉心へ原子炉制御棒4を挿入する信号を制御棒駆動装置5が受けながらも原子炉制御棒4が炉心1へ所望の上下位置に挿入されなかったことを検知する検出装置6とを備えている。
【0022】
その炉心1の外周囲に配置された円筒状の流量閉止板3は、シュラウド壁22に設置された保持装置2によって保持されている。保持装置2としては、一例としてワイヤ又は鎖7を巻き取ったり繰出したりする巻き上げ装置という駆動機構が採用される。その保持装置2から繰出されたワイヤ又は鎖7は流量閉止板3に連結され、保持装置2でワイヤ又は鎖7を巻き上げることで流量閉止板3を上昇移動させ、繰出すことで下降移動させることができる。
【0023】
シュラウド壁22は、炉心1から下方において、複数のシュラウドレグ23によって原子炉圧力容器15底部から支持されている。複数のシュラウドレグ23は、図2のように、環状に配置され、各シュラウドレグ23の間は図2の矢印のように、冷却水がダウンカマ下部25から炉心下部26の下部プレナム10内に流入する流路として開口した開口部24となっている。
【0024】
このような開口部24は流量閉止板3が降下した際には、図3や図8のように、原子炉圧力容器15の底部に流量閉止板3の下部が密接して全閉位置に到達し、ずべての開口部24が閉鎖されるという全閉鎖状態となって、冷却水のダウンカマ下部25から下部プレナム10の炉心下部26内への流入は阻止される。
【0025】
逆に、流量閉止板3が上昇した際には、図1のように、炉心1の高さにまで流量閉止板3の下端が上昇して全開位置に到達して、各開口部24は全開され、冷却水のダウンカマ下部25から下部プレナム10の炉心下部26内への流入が成される。
【0026】
保持装置2は、ワイヤ又は鎖7を巻取るために回転駆動する巻上げ軸27にワイヤ又は鎖7の繰出しを阻止するラッチを組み合わせ、そのラッチには、ワイヤ又は鎖7の繰出しを許容する状態と阻止する状態とに切替駆動するラッチの駆動装置が装備されている。そのラッチの駆動装置は、主蒸気隔離弁閉鎖時に原子炉制御棒挿入失敗(ATWS)の検知信号が検出装置6から送出され、その検知信号を受けてラッチの駆動装置がワイヤ又は鎖の繰出しを許容する状態にラッチを駆動するように検出装置6と接続されている。その他の場合には、ラッチの駆動装置はワイヤ又は鎖7の繰出しを阻止する状態にラッチを維持させている。
【0027】
このような構成の自然循環型沸騰水型原子炉は、ATWS事象以外の通常運転時には、図1のように、流量閉止板3は上昇位置に保持装置2で保持され続けられる。そのため、炉心1に装荷されている核燃料の反応で生じた熱で炉心1を炉心下部26の下部プレナム10からシュラウド壁22内へ抜ける冷却水が沸騰して気液二相流となって上昇する。その気液二相流は、シュラウド壁22内を上昇して気水分離器31に入って気液分離を受け、その後に蒸気乾燥器32内に入っていく。蒸気乾燥器32内に入った蒸気は乾燥されて乾燥蒸気となって主蒸気配管33を経由してタービン発電機へ駆動蒸気として供給される。
【0028】
タービン発電機でタービンの回転駆動に供せられた蒸気は凝縮装置で凝縮水とされて冷却水として給水配管34から原子炉圧力容器15内に注水される。原子炉圧力容器15内に注水された冷却水は、シュラウド壁22と原子炉圧力容器15内壁面との間の環状の流路であるダウンカマ14を下方へ流れ、開口部24から炉心下部26の下部プレナム10内へ流入して再度炉心1へ循環する。
【0029】
このように、自然循環型沸騰水型原子炉の通常運転状態においては、流量閉止板3は引上げられて保持装置2に保持されているため、原子炉圧力容器15内の冷却水の自然循環流を妨げることはない。また、負荷遮断などの主蒸気隔離弁の閉鎖事象においても、原子炉制御棒4が制御棒駆動装置5により炉心1に挿入できる場合には流量閉止板3をそのまま保持して置くことにより、原子炉の停止操作に影響することは無い。
【0030】
本実施例では、流量閉止板3の保持装置2は、原子炉制御棒4を炉心1に挿入する必要がある場合において、原子炉制御棒4が炉心1に所望の位置まで挿入がされないことを検出装置6において検知した場合においてのみ、ラッチを巻上げ軸27が空転する状態に駆動して、流量閉止板3の保持を解除することで、流量閉止板3は重力により落下させることができる。
【0031】
図2は図1におけるAA′断面を示した図である。図1におけるシュラウド壁22はシュラウドレグ23により支えられているが、シュラウドレグ23には開口部24があり、冷却水はダウンカマ下部25から開口部24を通って炉心下部26に流入している。
【0032】
図3は、自然循環型沸騰水型原子炉のATWS現象発生時におけるATWS対策設備の作動の実施例を示す。発電機負荷遮断などの主蒸気隔離弁16の閉鎖事象において、原子炉制御棒4が炉心1に挿入がされないことを検出装置6により検知した場合においては、保持装置2の内部に設けた巻上げ軸27の空転を止めているラッチを外して回転軸が回転できるようにし、巻上げ軸27に巻きつけたワイヤまたは鎖7の端に接続した流量閉止板3の保持を解除することで、流量閉止板3を重力によりシュラウドレグ23に沿って落下させ、ダウンカマ下部25から炉心下部26の下部プレナム10への冷却水の自然循環流を停止させる。
【0033】
この結果、炉心1での冷却水の沸騰を促進させて気泡を炉心1内で通常運転時よりも多く発生させて原子炉の核反応を抑え、蒸気の発生を抑えることにより、原子炉圧力容器
15への負荷を抑制することができる。
【0034】
図4は図3におけるBB′断面を示した図である。流量閉止板3が重力で落下すると、シュラウドレグ23の開口部24は塞がれ、ダウンカマ下部25の冷却水は炉心下部26に流入できなくなる。また、落下した流量閉止板3の下部は原子炉圧力容器の下鏡内壁面に設けられた環状の溝28に挿入されるため、ダウンカマ下部25から炉心下部26への冷却水の漏洩を防ぐことができる。
【0035】
図5は、本発明になる自然循環型沸騰水型原子炉のATWS事象におけるATWS対策設備の効果を説明する図である。図5中の上の図はATWS事象が発生した時のATWS対策(流量閉止板による開口部閉鎖機能)有無における原子炉出力の比較、下の図はATWS対策(流量閉止板による開口部閉鎖機能)有無における原子炉圧力の比較を示している。
【0036】
いずれも、初期の通常運転時の値で規格化している。ATWS事象発生時には、原子炉で発生した蒸気は逃し安全弁17から原子炉圧力容器15を格納している原子炉格納容器のサプレッションプールへ放出されるが、放出量は限定されているため、原子炉の圧力は増大する。このため炉心1内の気泡は小さくなり、正の反応度が投入されることによって原子炉出力が増大する。しかし、本発明の実施例のATWS対策設備により流量閉止板3が落下し自然循環流が停止すると、炉心1内の沸騰が促進され気泡の量を増やすことで負の反応度を投入することが可能であるという沸騰水型原子炉の核物理原理を活用することにより、原子炉の核反応が抑えられることになり、原子炉出力は初期値の約20%にまで低下する。この結果、原子炉圧力容器15内の圧力も約10%程度低くすることができる。
【0037】
図6は本発明になる自然循環型沸騰水型原子炉において、流量閉止板3を落下させた状態での炉心1の冷却水の流れを示す概念図である。自然循環型沸騰水型原子炉では炉心上部にシュラウド壁22で囲われたチムニー8と呼ばれる部分があり、流量閉止板3で開口部24を閉鎖した後も、ここに多くの冷却水が保持されている。
【0038】
また沸騰水型原子炉の炉心1はチャンネルボックスで囲まれた多数の燃料集合体9で構成されている。従って、流量閉止板3で全体の自然循環流が妨げられた状態でも、炉心下部26の下部プレナム10から炉心上部の上部プレナム11へ冷却水が上昇する流路となる燃料集合体20と、上部プレナム11から下部プレナム10へ冷却水が下降する流路となる燃料集合体21に流れの分離が発生し、炉心1内での自然循環流が形成されることになる。
【0039】
こうした炉心1内での自然循環流は原子炉の核反応を維持するには困難であり、原子炉出力が低下した状態での自然循環流であるため、燃料集合体9の冷却を維持することが可能である。従って、チムニー8内の冷却水が残っている限りにおいては、炉心1の冷却を維持することが可能であり、流量閉止板3を落下させたままにすることができる。
【0040】
図7は本発明になる自然循環型沸騰水型原子炉においてATWS現象発生後の長期における流量閉止板3の状況を示す図である。ATWS発生後にシュラウド内の冷却水が残っている状態において、後備反応度制御系である硼酸水注入系12から硼酸水13が下部プレナム10に注入されると、硼酸水13は炉心1に流入し、原子炉の核反応を停止することができる。その後は炉心1で発生する熱は崩壊熱のみとなるが、この熱を除去するため冷却水を炉内に供給する必要が有る。このため、流量閉止板3に接続したワイヤまたは鎖7を保持装置2で巻き上げることにより、流量閉止板3を引上げることにより流路を全開状態に開くことができ、ダウンカマ14から冷却水を炉心1に供給することができる。
【0041】
図8は流量閉止板3と保持装置2との接続関係を示す図である。流量閉止板3はワイヤまたは鎖7により保持装置2と接続されている。保持装置2はシュラウド壁22に沿って複数配置され、そのシュラウド壁22に設置されている。各保持装置2の内部に設けたモータで回転駆動される巻上げ軸27を同時に回転させることにより、ワイヤまたは鎖7を巻上げ軸27に巻付けることにより、流量閉止板3を引上げて全開状態にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、自然循環型沸騰水型原子炉のATWS事象時の安全対策設備としての利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施例による自然循環型沸騰水型原子炉の通常運転時の概念図である。
【図2】図1におけるAA′断面の図である。
【図3】本発明の実施例による自然循環型沸騰水型原子炉のATWS事象時の状態を示す概念図である。
【図4】図2におけるBB′断面の図である。
【図5】ATWS対策設備の効果を示すグラフ図である。
【図6】本発明の実施例におけるATWS対策設備作動時の炉内における流動様式を示す概念図である。
【図7】本発明の実施例におけるATWS現象発生後の長期におけるATWS対策設備の作動を示す概念図である。
【図8】本発明の実施例による流量閉止板と保持装置との関係を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
1…炉心、2…保持装置、3…流量閉止板、4…原子炉制御棒、5…制御棒駆動装置、6…検出装置、7…ワイヤまたは鎖、8…チムニー、9…燃料集合体、10…下部プレナム、11…上部プレナム、12…硼酸水注入系、13…硼酸水、14…ダウンカマ、15…原子炉圧力容器、16…主蒸気隔離弁、17…逃し安全弁、22…シュラウド壁、23…シュラウドレグ、24…開口部、25…ダウンカマ下部、26…炉心下部、27…巻上げ軸、28…溝、31…気水分離器、32…蒸気乾燥器、33…主蒸気配管、34…給水気配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自然循環型沸騰水型原子炉のシュラウド壁に装着されてダウンカマから下部プレナムへ流入する冷却水の流れを停止させる流量閉止板と、その流量閉止板を前記流れを許容する位置に保持する保持装置を有する自然循環型沸騰水型原子炉。
【請求項2】
請求項1において、流量閉止板を冷却水の流れを停止させる位置へ重力で落下するようにシュラウド壁に装着し、前記原子炉制御棒が炉心に挿入されないことを検知する検出装置と、前記保持装置に装着されて前記検出装置の検知時に前記流量閉止板の保持を解除するラッチとを備えたことを特徴とした自然循環型沸騰水型原子炉。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、自然循環型沸騰水型原子炉に設けられている硼酸を原子炉圧力容器内に注入する硼酸水注入系と、前記保持装置として前記流量閉止板を冷却水の流れを停止させる位置から前記流れを許容する位置に移動させる駆動機構を備えたことを特徴とした自然循環型沸騰水型原子炉。
【請求項4】
自然循環型沸騰水型原子炉のシュラウド壁に前記シュラウド壁の下部をダウンカマから下部プレナムへ流通する冷却水の流路を備え、
前記シュラウド壁に前記流路の全部を閉鎖する流量閉止板を上下動自在に装着し、
前記流量閉止板を前記閉鎖の位置から前記流路を全開させる位置との間で上下に駆動する駆動機構を前記シュラウド壁と前記流量閉止板との間に装着してある自然循環型沸騰水型原子炉。
【請求項5】
請求項4において、前記駆動機構に前記流量閉止板を保持する前記駆動機構の力を解除する手段を装備してあることを特徴とした自然循環型沸騰水型原子炉。
【請求項6】
請求項5において、前記自然循環型沸騰水型原子炉の原子炉制御棒の挿入に失敗したことを検知する検知手段と、前記検知手段の検知に基づいて前記流量閉止板を保持する前記駆動機構の力を解除する手段を装備してあることを特徴とした自然循環型沸騰水型原子炉。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−8727(P2008−8727A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−178899(P2006−178899)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)