説明

自走式エアレーション装置

【課題】ビオトープや親水施設等の人工あるいは天然の池や堀等の水域を対象として曝気処理を行うための有効適切なエアレーション装置を提供する。
【解決手段】処理対象水域である人工池1等の水底面1a上を走行するための走行機構5を備えて水域内の各所に移動可能な走行台車2の底面下に、水底面の近傍位置から水底面に沿う方向に空気を吹き出すための空気吐出機構10を設ける。空気吐出機構に空気を供給するための空気源装置としてのブロワ4と、走行機構に走行用動力としての電源を供給するための動力源装置としての電源装置3とを処理対象水域の岸辺に設置し、ブロワと空気吐出機構とを空気ホース14により接続し、電源装置と走行機構とを駆動用ケーブルとしての電源ケーブル9により接続すると良い。空気源装置と動力源装置を浮体に搭載するか、あるいは走行台車に搭載することも考えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工あるいは天然の池や堀等の水域を対象として曝気処理を行うためのエアレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビオトープや親水施設の普及に伴い、人工あるいは天然の水域を対象として水質の維持や浄化を目的とするエアレーション(曝気)処理を行う必要性が生じているが、現在までのところそのような水域に適用し得る有効適切なエアレーション装置は提供されていない。
なお、曝気処理自体は各種の水処理や水産養殖の分野において広く行われており、そのための曝気装置としてはたとえば特許文献1や特許文献2に示されるものが周知であるので、それらの曝気装置を上記のような水域を対象とするエアレーション処理に使用することが検討されている。
特許文献1に示される曝気装置は、大規模な下水処理施設での曝気処理を行うためのもので、水面上において攪拌羽根により汚水を吸い込んで噴流飛散させることにより空気接触させる形式のものである。特許文献2に示される水槽装置は、活魚の蓄養を目的として水槽内においてエアレーションによる水流を作る形式のものである。
【特許文献1】特開2000−354889号公報
【特許文献2】特開2001−333657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1〜2に示されるような従来一般の曝気装置はいずれも基本的には多量の空気を水中に吹き込むための大容量のものであるし、その結果として必然的に水中に激しい水流が生じるし、大きな水音も生じるものであるから、そのようなものを一般には静的な環境とされるビオトープや親水施設にそのまま設置することは雰囲気を損なうばかりか、水底堆積物を激しく巻き上げて水を懸濁させてしまったり、水棲動植物に対する悪影響も懸念され、したがってそれを上記のような水域に適用することは現実的ではない。
なお、水底堆積物の巻き上げを防止するべく、激しい水流が生じない程度の小容量の曝気を行うに留めることも考えられるが、その場合には曝気装置の設置位置付近のみがわずかに曝気されるのみで広範囲の水域全体に対する曝気効果は期待できないから、その場合には小容量の曝気装置を水域内の各所に多数分散して設置しなければならず、それも雰囲気を損なうので好ましくない。
【0004】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、ビオトープや親水施設といった人工あるいは天然の池や堀等の水域を対象として曝気処理を行うための有効適切なエアレーション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の自走式エアレーション装置は、処理対象水域の水底面上を走行するための走行機構を備えて水域内の各所に移動可能な走行台車の底面下に、水底面の近傍位置から水底面に沿う方向に空気を吹き出すための空気吐出機構を設けてなることを特徴とする。
【0006】
本発明の自走式エアレーション装置においては、前記空気吐出機構に空気を供給するための空気源装置と、前記走行機構に走行用動力を供給するための動力源装置とを、処理対象水域の岸辺に設置し、前記空気源装置と前記空気吐出機構とを空気ホースにより接続し、前記動力源装置と前記走行機構とを駆動用ケーブルにより接続した構成とすると良い。
また、前記空気源装置と前記動力源装置とを、前記走行台車の走行に追随して水面上を移動可能な浮体に搭載したり、それらを走行台車に搭載することも可能である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、走行台車の底面下から水底面の近傍に空気を直接吹き込むことによって水底部に対する効果的なエアレーションが可能であることはもとより、空気吐出機構を走行台車に搭載してその走行台車を処理対象水域の水底面上に移動させるように構成したので、走行台車を移動させていくことにより水域全体に対するエアレーション処理が可能であり、それ故に空気吐出機構からの空気の吐出流速を充分に低速にすることが可能である。その結果、本発明の自走式エアレーション装置によれば、空気吐出に伴って激しい水流が生じることがないので水底堆積物を巻き上げて懸濁させてしまう懸念はないし、水棲動植物に対する悪影響もなく、ビオトープや親水施設等の静的な雰囲気を損なうこともない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1〜図2は本発明の実施形態である自走式エアレーション装置の概略構成を示すものである。
これはビオトープにおける浅い人工池1を処理対象水域とするものであって、この人工池1内に水没状態で配置されて水底面1a上を走行する走行台車2と、岸辺に設置された電源装置(動力源装置)3およびブロワ(空気源装置)4とにより構成されたものであって、岸辺からの遠隔操作により走行台車2を人工池1の全体にわたって移動させていきつつ人工池1の全体に対してエアレーション処理を行うものである。
【0009】
走行台車2は水底面1a上を自走するための走行機構5を備えており、その走行機構5が上記の電源装置3により遠隔操作されることによって人工池1内の各所に移動可能とされているものである。
図示例の走行機構5は電動の駆動モータ6により動力伝達機構7を介して車輪8を駆動する構成とされたものであって、この走行機構5が長尺かつ柔軟な電源ケーブル(駆動用ケーブル)9を介して電源装置3により駆動され操舵されることによって任意の位置に移動し得るように構成されている。
但し、この走行台車2の走行速度は高速である必要は全くなく、低速でゆっくりと移動し得るものであれば充分である。寧ろ、走行台車2を高速で走行させた場合には水底堆積物を巻き上げたり水底面1aを乱してしまう懸念があるので好ましくなく、充分に低速で移動させるべきである。
【0010】
走行台車2の底面下には、水底面1aの近傍位置から水底面1aに沿う方向に空気を吹き出すための空気吐出機構10が設けられている。
空気吐出機構10は、図2に示すように、走行台車2の底面下に突出させた空気管11の下端部に、やや先広がりとした2本のノズル12を前方および後方に向けて接続し、それらノズル12の先端に100μm程度の微細な気孔を有する多孔質セラミック等の微細孔材料13を取り付けたものである。
この空気吐出機構10における空気管11には長尺かつ柔軟な空気ホース14が接続され、その空気ホース14は岸辺に設置されているブロワ4に接続されていて、そのブロワ4から空気ホース14を通して供給される空気が空気吐出機構10によって水底面1aの近傍位置から走行台車2の前方および後方に向けて水中に吐出されるようになっている。
これにより、吐出された空気は気泡となって走行台車2の底面に沿って流れた後、走行台車2の前後から水中を浮上していき、これによるエアレーション(曝気)効果により水底部1aに効果的に酸素が供給され、それにより嫌気性微生物の繁殖やスカムの発生を有効に抑制することができる。
但し、空気吐出機構10からの空気の吐出流速は充分に低速として、たとえば11cm/s以下とすることが良い。そのような低速で吐出する場合には空気吐出に伴って激しい水流が生じることはなく、したがって水底堆積物を巻き上げて懸濁させてしまう懸念はないし、水棲動植物に対する悪影響もなく、ビオトープとしての雰囲気を損なうこともない。
【0011】
本実施形態のエアレーション装置による水域全体に対するエアレーション処理は、走行台車2を任意の位置に停止させた状態で所定時間(ないし所定期間)のエアレーションを行った後、走行台車2を走行させて所望の方向に所定距離だけ移動させてそこに停止させ、そこで同様にエアレーション処理を行うというパターンで行うと良い。
あるいは、そのように各位置で間欠的にエアレーションを行っていくパターンに代えて、走行台車2を充分に低速で連続的に移動させながらエアレーション処理を連続的に行うことも可能である。
いずれにしても走行台車2の移動パターンとエアレーション処理のパターンを予めプログラムしておき、そのプログラムにしたがって走行台車2を自動的に移動させていきつつ水域全体に対するエアレーション処理を自動的に行うように構成することが好ましく、それにより水域全体に対するエアレーション処理を効率的に行うことが可能である。
【0012】
以上で本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、要は空気吐出機構10を備えた走行台車2を走行機構5により移動可能として水域全体に対するエアレーション処理を行うものであれば良く、その限りにおいてたとえば以下に示すような変形や応用が考えられる。
空気吐出機構10の構成は空気を低速で吐出するものである限りにおいて任意であって、上記のように2本のノズル12を前後方向に向けて設けることに限らず、たとえば図2(b)に鎖線で示しているように全4本のノズル12を前後および左右に向けても勿論良いし、さらに多数のノズルを全方向に向けて放射状に設けることでも良い。
また、電源ケーブル9および空気ホース14は、図1に示しているようにそれらを束ねて水面上に浮かべると良く、必要であればそのためのフロートを所定間隔で取り付ければ良いが、あるいは図1に鎖線で示しているように水底面1a上を引き摺り可能な状態で敷設することでも良い。いずれにしても電源ケーブル9と空気ホース14は走行台車2の走行に支障を来さないように充分に柔軟なものとし、かつ走行台車2の移動範囲に対応する充分な長さを有するものとして、余長分はドラムに巻き取るようにすれば良い。
【0013】
また、走行台車2の形態はもとより走行機構5や空気吐出機構10の具体的な構成は、処理対象水域の規模や、必要とされる処理の程度、その他の諸条件に応じて最適設計すれば良く、必要に応じてより高度の駆動機構や操舵機構、制御機構等を備えれば良い。
たとえば上記各実施形態における走行機構5は電動の駆動モータ6により車輪8を駆動するものとしたが、走行用動力としては電力に代えて油圧や空気圧も採用可能であり、その場合には駆動モータ6として電動モータに代えて油圧あるいは空気圧によるアクチュエータを採用し、電源装置3に代えて油圧あるいは空気圧による動力源装置を採用し、電源ケーブル9に代えて油圧管路あるいは空気圧管路を仕込んだ駆動用ケーブルを使用すれば良い。
また、天然水域に適用する場合等において水底面1aの状況が平坦ではない場合や、走行障害物がある場合、走行台車2がスリップしたり沈下する懸念があるような場合には、走行機構5としては車輪8に代えてクローラー機構によるものも好適に採用可能であるし、あるいは任意の方向に低速で移動可能な多足歩行機構の如き構成のものも考えられる。
さらには、最適な処理を完全自動により行うべく、走行台車2に水質センサや位置センサ等をはじめとして各種のセンサ類を搭載しておいて、走行台車2がそれ自体でエアレーション処理の要否や移動のタイミング等を判断しつつ自律的に処理を行って自律的に移動していくロボットとして構成することも可能である。
【0014】
さらに、上記実施形態では駆動源装置としての電源装置3と空気源装置としてのブロワ4を岸辺に設置してそこから走行台車2を遠隔操作するようにしたが、広大な水域に適用する場合や水深が大きい水域に適用する場合には、図3に示すように水面上に設けた浮体20に電源装置3としてのバッテリと、空気源装置としてのブロワ4を搭載し、無線あるいは有線による操作もしくは完全自動運転によって走行台車2とともに浮体20を移動させることも考えられる。この場合は、走行台車2と浮体20とを接続する短尺の電源ケーブル9および空気ホース14により走行台車2の移動に伴って浮体10を自ずと曳航できるが、必要であればそれらを適宜の連結部材21により一体に連結しても良い。また、浮体20が目障りであったり雰囲気を損なう場合には適宜の隠蔽部材22によりカムフラージュすれば良く、その隠蔽部材22として水域の雰囲気に応じてたとえば浮き草等の水上浮遊物や水棲動植物あるいは天然物を模した意匠のものとすれば演出的な効果も得られる。
また、図4に示すものは走行台車2の頭部を水面上に直接突出させてそこに電源装置3としてのバッテリと空気源装置としてのブロワ4を搭載したものであり、さらに図5に示すものは空気管11の上端部のみを水面上に突出させてその他の要素の全てを水面下で走行する走行台車2に搭載したものであり、これらは水域の水深が小さい場合に好適に採用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態である自走式エアレーション装置の概略構成図である。
【図2】同、空気吐出機構の概略構成を示す拡大図である。
【図3】同、変形例を示す図である。
【図4】同、変形例を示す図である。
【図5】同、変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0016】
1 人工池(処理対象水域)
1a 水底面
2 走行台車
3 電源装置(駆動源装置)
4 ブロワ(空気源装置)
5 走行機構
6 駆動モータ
7 動力伝達機構
8 車輪
9 電源ケーブル(駆動用ケーブル)
10 空気吐出機構
11 空気管
12 ノズル
13 微細孔材料
14 空気ホース
20 浮体
21 連結部材
22 隠蔽部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工あるいは天然の池や堀等の水域を対象として曝気処理を行うためのエアレーション装置であって、
処理対象水域の水底面上を走行するための走行機構を備えて水域内の各所に移動可能な走行台車の底面下に、水底面の近傍位置から水底面に沿う方向に空気を吹き出すための空気吐出機構を設けてなることを特徴とする自走式エアレーション装置。
【請求項2】
請求項1記載の自走式エアレーション装置であって、
前記空気吐出機構に空気を供給するための空気源装置と、前記走行機構に走行用動力を供給するための動力源装置とを、処理対象水域の岸辺に設置し、
前記空気源装置と前記空気吐出機構とを空気ホースにより接続し、前記動力源装置と前記走行機構とを駆動用ケーブルにより接続してなることを特徴とする自走式エアレーション装置。
【請求項3】
請求項1記載の自走式エアレーション装置であって、
前記空気吐出機構に空気を供給するための空気源装置と、前記走行機構に走行用動力を供給するための動力源装置とを、前記走行台車の走行に追随して水面上を移動可能な浮体に搭載し、
前記空気源装置と前記空気吐出機構とを空気ホースにより接続し、前記動力源装置と前記走行機構とを駆動用ケーブルにより接続してなることを特徴とする自走式エアレーション装置。
【請求項4】
請求項1記載の自走式エアレーション装置であって、
前記空気吐出機構に空気を供給するための空気源装置と、前記走行機構に走行用動力源を供給するための動力源装置とを、前記走行台車に搭載してなることを特徴とする自走式エアレーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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