説明

自転車寸法計測器

【課題】自転車の主要寸法を簡単に且つ迅速に計測し得る自転車寸法計測器を提供する。
【解決手段】前輪4と後輪5とを支持するフレーム2の寸法を計測するもので、伸縮自在に構成され且つ前輪ハブ4aと後輪ハブ5aとに係合されてこれらハブ中心間距離であるホイールベースWBを計測し得るホイールベース計測部材32と、この計測部材32に昇降自在に設けられると共にボトムブラケット17に当接してホイールベースラインWBLからボトムブラケット中心cまでのハンガ下がりHD及び前輪ハブ中心とホイールベースライン上にボトムブラケット中心を垂直に投影した仮想ボトム中心c′との間の距離である仮想ボトム・ハブ間距離HBfを計測し得るハンガ下がり計測部材33と、ホイールベース計測部材に設けられてフレームの立パイプ5と平行に傾斜させることによりシートアングルを計測し得るフレーム傾斜角計測部材34とを具備したもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車の主要寸法を計測し得る計測器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自転車、例えばスポーツ車などにおいては、所有者から同一寸法の自転車の製作を依頼される場合がある。このような場合、現地で自転車の主要寸法を計測する必要が生じる。
ところで、主要寸法として、前輪ハブと後輪ハブの中心間距離であるホイールベース、前輪ハブとボトムブラケット中心までの距離であるフロントセンター、後輪ハブとボトムブラケット中心までの距離であるリアセンター、シートアングルなどがあり、使用している自転車すなわち完成品の自転車の主要寸法を、現地で計測する場合、通常、長尺のスケール(精度のよい長尺物差しである)、ノギスなどが用いられていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、長尺のスケール、ノギスなどを用いて自転車の主要寸法を計測する場合、各構成部材の連結部の中心位置、および連結軸または可動軸などの軸部の中心位置を決定した後、連結部または軸部の表面にスケール、ノギスなどを当てがうことになるが、各中心位置は目測で決定されるとともに、スケール、ノギスなどが当てがわれる表面が同一平面内(正確には鉛直面内である)に位置しているとは限らないため、各中心位置間の距離を正確に計測することができないとともに計測に時間を要するという問題があった。また、正確に計測するために、フレームに取り付けられている部品を取り外して、各中心位置間の距離を計測することも考えられるが、分解に手間を要するという問題がある。
【0004】
そこで、本発明は、自転車の主要寸法を簡単に且つ迅速に計測し得る自転車寸法計測器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る自転車寸法計測器は、自転車における前輪と後輪とを支持するフレームの寸法を計測するための計測器であって、
伸縮自在に構成されるとともに前輪ハブと後輪ハブとに係合されてこれら両ハブの中心間距離であるホイールベースを計測し得るホイールベース計測部材と、このホイールベース計測部材に昇降自在に設けられるとともにボトムブラケットに当接してホイールベースラインからボトムブラケット中心までの最短距離であるハンガ下がりおよび上記一方のハブ中心とホイールベースライン上にボトムブラケット中心を垂直に投影した仮想ボトム中心との間の距離である仮想ボトム・ハブ間距離を計測し得るハンガ下がり計測部材と、上記ホイールベース計測部材に設けられてフレームの立パイプと平行に傾斜させることにより立パイプの傾斜角を計測し得るフレーム傾斜角計測部材とを具備したものである。
【0006】
また、請求項2に係る自転車寸法計測器は、請求項1に記載の自転車寸法計測器におけるホイールベース計測部材に、前輪をフレームに沿って真っ直ぐに保持し得る車輪保持具を具備したものである。
【0007】
また、請求項3に係る自転車寸法計測器は、請求項1または2に記載の自転車寸法計測器におけるホイールベース計測部材を、一端側に前輪ハブまたは後輪ハブに係合し得る凹部が設けられた第1棒状体と、一端側が上記第1棒状体の他端側にその長手方向で摺動可能に係合され且つ他端側に後輪ハブまたは前輪ハブに係合し得る凹部が設けられた第2棒状体とから構成するとともに、両棒状体の摺動位置に応じてホイールベースを示す第1目盛部を上記一方の棒状体に設けたものである。
【0008】
また、請求項4に係る自転車寸法計測器は、請求項1乃至3のいずれかに記載の自転車寸法計測器におけるハンガ下がり計測部材を、ホイールベース計測部材にホイールベースラインに沿って移動可能に設けられた移動体と、この移動体にホイールベースラインとは直交する上下方向で昇降可能に設けられるとともに下端にボトムブラケットに当接し得る当接面が形成された昇降体とから構成し、且つこの昇降体の上記移動体に対する昇降位置に応じてハンガ下がりを示すハンガ下がり目盛部を昇降体または移動体に設けたものである。
【0009】
また、請求項5に係る自転車寸法計測器は、請求項1乃至4のいずれかに記載の自転車寸法計測器のホイールベース計測部材における一方の棒状体に、ハンガ下がり計測部材の移動体の移動位置に応じて仮想ボトム・ハブ間距離を表示し得る第2目盛部を、第1棒状体または第2棒状体に設けたものである。
【0010】
また、請求項6に係る自転車寸法計測器は、請求項1乃至5のいずれかに記載の自転車寸法計測器におけるフレーム傾斜角計測部材を、ホイールベースラインと平行に配置される第1棒状材と、この第1棒状材の前後端に下端が回転可能に支持された前後の第2棒状材および第3棒状材と、これら第2棒状材および第3棒状材の上端に回転可能に且つこれら両棒状材が常に互いに平行となるように連結された第4棒状材とから形成して平行リンク機構を構成するとともに、上記第1棒状材に対する少なくとも上記第3棒状材の傾斜角を示す傾斜角表示手段を具備したものである。
【0011】
また、請求項7に係る自転車寸法計測器は、請求項1乃至5のいずれかに記載の自転車寸法計測器におけるフレーム傾斜角計測部材を、ホイールベースラインと平行に配置される取付用棒状材と、この取付用棒状材に下端が回転可能に支持された計測用棒状材とから構成するとともに、上記取付用棒状材に対する上記計測用棒状材の傾斜角を示す傾斜角表示手段を具備したものである。
【0012】
さらに、請求項8に係る自転車寸法計測器は、請求項1乃至7のいずれかに記載の自転車寸法計測器におけるフレーム傾斜角計測部材をホイールベース計測部材に、ホイールベースラインに沿って移動可能に設けたものである。
【発明の効果】
【0013】
上記自転車寸法計測器の構成によると、自転車の前後の車輪ハブ間にホイールベース計測部材の棒状体の溝部を係合させることにより、ホイールベースを計測することができ、またボトム下がり計測部材の昇降体の下端に形成された当接面をボトムブラケットの外周に当接させるだけでボトム下がりを計測することができ、またホイールベース計測部材およびボトム下がり計測部材を用いて仮想ボトム・ハブ間距離を計測し得るので、この距離とボトム下がりとを用いてフロントセンタおよびリヤセンタを求めることができる。
【0014】
さらに、フレーム傾斜角計測部材を、ホイールベース計測部材に取り付けるとともに、第1棒状材〜第4棒状材により構成された平行リンクを、フレームの立パイプに沿うように傾斜させて、第3棒状材の傾斜角を傾斜角表示手段にて読み取れば、シートアングルを計測することができる。
【0015】
すなわち、従来のように、自転車に、外面からスケール、ノギスなどを当てて計測する必要がなく、しかも容易に持ち運ぶことが可能であり、したがって簡単に且つ迅速にしかも精度良く、自転車の主要寸法を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る自転車寸法計測器の概略構成を示す側面図である。
【図2】同自転車寸法計測器が適用される自転車のフレームを説明する側面図である。
【図3】同自転車寸法計測器の側面図である。
【図4】図3のE−E矢視図である。
【図5】同自転車寸法計測器におけるハンガ下がり計測部材の概略構成を示す分解斜視図である。
【図6】同自転車寸法計測器におけるフレーム傾斜角計測部材の傾斜角表示手段の概略構成を示す斜視図である。
【図7】同自転車寸法計測器における自転車保持具の平面図である。
【図8】同自転車寸法計測器によるフォークオフセットの求め方を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係る自転車寸法計測器を図面に基づき説明する。
この自転車寸法計測器は、完成品の状態で自転車の主要寸法を計測するものであり、まず計測対象となる自転車の主要寸法について説明する。
【0018】
図1は自転車1にセットされた本発明に係る自転車寸法計測器31を示しており、また図2は自転車1のフレーム2を示している。
図1に示すように、自転車1のフレーム2の前部には前ホーク3を介して前輪4が取り付けられるとともに、後部には後輪5が取り付けられ、また中間部の上側にはサドル6が取り付けられる。
【0019】
図2に示すように、上記フレーム2は、側面視が菱形状にされており、具体的には、前輪4寄りの前端部が上方に位置するとともに後輪5寄りの後端部が下方に位置し、且つ上側のパイプ(後述する上パイプである)と下側のパイプ(後述するチェーンステイである)とが略水平となるような略平行四辺形のパイプ構造にされている。
【0020】
このパイプ構造を概略的に説明すれば、上辺の前側の第1頂部Aと後側の第2頂部B(中心をb点で示す)との間に配置される上パイプ(トップチューブ)11と、下辺の前側の第3頂部C(中心をc点で示す)と後側の第4頂部D(中心をd点で示す)との間に配置されるチェーンステイ12と、第1頂部Aと第3頂部Cとの間に配置される下パイプ(ダウンチューブ)13と、第2頂部Bと第4頂部Dとの間に配置される後ホーク14と、第2頂部Bと第3頂部Cとの間に配置される立パイプ15とから構成されている。
【0021】
そして、第1頂部Aには、前輪ハブ4aを保持し得るフロントエンド7が取り付けられた前ホーク3を回転自在に保持するための短いヘッドパイプ(ヘッドチューブ)16が設けられ、第3頂部Cにはペダルのクランク軸8を取り付けるためのボトムブラケット17が設けられ、また第4頂部Dには後輪ハブ5aを保持するためのリヤエンド18が設けられている。
【0022】
次に、上記フレーム2の主要寸法を図2に基づき説明する。
この主要寸法としては、前輪ハブ4aと後輪ハブ5aの中心間距離であるホイールベースWBと、ホイールベースライン(前輪ハブ4aの中心eと後輪ハブ5aの中心dとを結ぶ直線)WBLとボトムブラケット17の中心cとの最短距離であるボトム下がり(つまり、中心cからホイールベースラインWBLに対する垂直距離)BDと、上記ホイールベースラインWBL上にボトムブラケット17の中心cを垂直に投影した仮想ボトム中心c′から前輪ハブ4aの中心eまでの距離である仮想ボトム・ハブ間距離WBfと、ホイールベースラインWBLに対する立パイプ15の傾斜角であるシートアングルα、ホイールベースラインWBLに対する前ホーク3つまりヘッドパイプ16の傾斜角であるキャスターアングルβと、前輪ハブ4aの中心eからボトムブラケット17の中心cまでの距離であるフロントセンタFCと、同じく後輪ハブ5aの中心dからボトムブラケット17の中心cまでの距離であるリアセンタRCとがある。
【0023】
そして、上記ホイールベースWB、ボトム下がりBD、仮想ボトム・ハブ間距離WBf、シートアングルαおよびキャスターアングルβについては実測されるが、上記フロントセンタFCおよびリアセンタRCについては計算により求められる。また、ヘッドパイプ16の中心軸gに対する前輪ハブ4aの中心eまでの最短距離であるホークオフセットFOについても、実測値を用いて計算により求めることができ、さらにホイールベースラインWBLに対する上パイプ11の後端に対する前端の変位高さδについても求めることができる。ホークオフセットFOおよび上パイプ11の変位高さδについては後述する。
【0024】
ここで、フロントセンタFCおよびリアセンタRCの求め方について説明しておく。すなわち、ホイールベースWBから前輪4側の仮想ボトム・ハブ間距離WBfを減じることにより、後輪5側の仮想ボトム・ハブ間距離WBrが求められる。したがって、前輪側の仮想ボトム・ハブ間距離WBfとボトム下がりBDとに三平方の定理を適用することによりフロントセンタFCを求めることができ、同様に、後輪側の仮想ボトム・ハブ間距離WBrとボトム下がりBDとに三平方の定理を適用することによりリヤセンタRCを求めることができる。
【0025】
次に、上記主要寸法を計測し得る本発明に係る自転車寸法計測器31を、図1、および図3〜図8に基づき説明する。
図1および図3に示すように、この自転車寸法計測器31には、前後方向(軸心方向ともいえる)で伸縮自在に構成されるとともに前輪ハブ4aと後輪ハブ5aとに係合されてこれら両ハブ(車輪ハブともいう)4a,5aの中心間距離であるホイールベースWBを計測し得るホイールベース計測部材32と、このホイールベース計測部材32に上下方向で移動可能に設けられるとともにボトムブラケット17に当接してホイールベースラインWBLから当該ボトムブラケット17の中心cまでの最短距離であるハンガ下がりBDを計測し得るハンガ下がり計測部材33と、上記ホイールベース計測部材32にホイールベースラインWBLに沿って移動可能に設けられてフレーム2の立パイプ15と平行に傾斜させることにより当該立パイプ15の傾斜角であるシートアングルαを計測し得るフレーム傾斜角計測部材34とが具備されている。
【0026】
上記ホイールベース計測部材32は、図3および図4に示すように、前端側(一端側)に前輪ハブ4aに係合(嵌合)し得る溝部(凹状部の一例)41aが設けられた第1棒状体41と、前端側(一端側)が上記第1棒状体41の後端側(他端側)に重ねられてその長手方向つまり前後方向で摺動可能に係合されるとともに後端側(他端側)に後輪ハブ5aに係合(嵌合)し得る溝部(凹状部の一例)42aが設けられた第2棒状体42と、これら両棒状体41,42同士の摺動位置を固定するための固定具43とから構成されるとともに、上記ホイールベースWBを示す第1表示手段44が具備されている。
【0027】
詳しく説明すると、第1棒状体41としては所定長さの長尺板が用いられるとともに前端部には前輪ハブ4aに外嵌し得る溝部41aが形成され、且つ後側表面の上下縁部には前後方向の段差部(凹み部)41bが形成されている。一方、第2棒状体42についても所定長さの長尺板が用いられるとともに前側の裏面(第1棒状体の表面に対向する面である)の上下縁部には第1棒状体41の上下の段差部41bにそれぞれ係合し得る突条部42bが形成され(言い換えれば、第1棒状体41の段差部41b同士の間の凸状部分が、第2棒状体42の突条部42b同士の間の凹状部分つまり溝状部分に嵌入されている)、且つ後端部に後輪ハブ5aに外嵌し得る溝部42aが形成されている。
【0028】
ところで、前輪ハブ4aと後輪ハブ5aとの幅(ハブの軸心方向での長さ)は互いに異なっているため、第1棒状体41に設けられる溝部41aと第2棒状体42に設けられる溝部42aとの幅方向での位置が互いに異なるようにされている。例えば、第1棒状体41の先端部分41cが分離されるとともに、この先端部分41cを連結板46および取付ねじ47などを介してその本体部分41dに取り外し可能に取り付けることにより、計測対象である自転車のハブの幅に応じて交換し得るように構成されている。なお、自転車のハブの幅に応じた厚さを有する棒状体41,42を用いるようにしてもよい。
【0029】
上記固定具43は第1棒状体41に第2棒状体42が係合された状態つまり伸縮位置を固定するためのもので、例えばクイックレバー式のものが用いられている。
このクイックレバー式の固定具43は、頭付ねじ材48と、この頭付ねじ材48のねじ部に螺合されるとともに所定角度回転させることによりその押さえ面を頭部側に移動し得る回転レバー49とから構成されている。
【0030】
すなわち、第1棒状体41の後端側に頭付ねじ材48を挿通して取り付けるとともに、そのねじ部を第2棒状体42の前端側に形成された長穴42cを挿通させ、そしてこのねじ部にスプリングワッシャ50を嵌めた後、回転レバー49を取り付けて両棒状体41,42を互いに接触させ、さらにこの状態で回転レバー49を回転させることにより、両棒状体41,42を互いに押圧・固定することができる。
【0031】
また、上記第1表示手段44としては、第1棒状体41の後端寄りに形成されるとともに第2棒状体42の前端面によりホイールベースWBが指示される第1目盛部45が用いられる。したがって、第1棒状体41の表面に形成された第1目盛部45と、第2棒状体42の前端面とから第1表示手段44が構成されているといえる。
【0032】
次に、上記ハンガ下がり計測部材33は、図5に示すように、ホイールベース計測部材32の第1棒状体41に(ホイールベースラインWBLに沿って)移動可能(移動自在)に設けられた移動体51と、この移動体51にホイールベースラインWBLとは直交する方向でつまり上下方向で移動可能につまり昇降可能(昇降自在)に設けられるとともに下端にボトムブラケット17の円筒部の外面に上方から且つ前方から(後方からでもよい)当接し得る円弧面である当接面52bを有する当接部52aが形成された昇降体52とから構成され、さらにこの昇降体52の昇降量をハンガ下がりBDとして表示する第2表示手段53が具備されている。
【0033】
なお、上記移動体51の表面には第1棒状体41を水平方向で案内し得る水平溝部51aが形成されるとともに、その裏面には昇降体52を鉛直方向で案内し得る鉛直溝部51bが形成され、組み立て時においては、それぞれを各溝部51a,52aに配置した状態で、表面側および裏面側から蓋部55,56がそれぞれボルト57,58により取り付けられる。
【0034】
上記第2表示手段53としては、昇降体52の表面に形成されるとともに移動体51の上端面によりハンガ下がりBDが指示される第2目盛部54が用いられる。したがって、昇降体52の表面に形成された第2目盛部54と、移動体51の上端面とから第2表示手段53が構成されているといえる。
【0035】
なお、昇降体52が落下するのを防止するために、移動体51の裏面側には円柱状のゴム製ストッパ59が当該移動体51に形成された取付用穴部51cに装着される。このストッパ59が昇降体52の側面に形成されたガイド用凹部52cに接触するようにされている。
【0036】
ところで、図3に示すように、ホイールベース計測部材32とハンガ下がり計測部材33とには、前輪ハブ4aの中心eからボトムブラケット17の仮想中心c′までの距離である仮想ボトム・ハブ間距離WBfを表示するための第3表示手段61が具備されている。
【0037】
この第3表示手段61としては、第1棒状体41の中間部に形成されるとともに移動体51の前端面により仮想ボトム・ハブ間距離WBfが指示される第3目盛部62が用いられる。したがって、第1棒状体41の表面に形成された第3目盛部62と、移動体51の前端面とから第3表示手段61が構成されているといえる。
【0038】
さらに、上記フレーム傾斜角計測部材33は、図3に示すように、ホイールベース計測部材32の第1棒状体41に前後一対の取付片70を介してホイールベースラインWBLに沿って移動可能に取り付けられる第1棒状材71と、この第1棒状材71の前後端に下端が連結ピン76を介して回転可能にそれぞれ支持された前後の第2棒状材72および第3棒状材73と、これら第2棒状材72および第3棒状材73の上端に連結ピン77を介して回転可能に且つこれら両棒状材72,73が常に互いに平行となるように連結された第4棒状材74とから形成されて平行リンク機構が構成されるとともに、上記第1棒状材71側に、当該第1棒状材71に対する上記第3棒状材73の傾斜角を示す傾斜角表示手段75が設けられている。なお、上記取付片70は、上側に第1棒状材71を案内し得る上案内溝70aが形成されるとともに、下側に第1棒状体41を案内し得る下案内溝70bが形成されており、正面視がH形状にされている。すなわち、4本の棒状材71〜74により構成される平行リンクは、矢印aで示すように、鉛直面内で揺動し得るようにされており、したがって第2棒状材72または第3棒状材73を計測対象である前ホーク3または立パイプ15に沿わせることができる。
すなわち、立パイプ15に沿わせたときの第3棒状材73の傾斜角がシートアングルαを表わしていることになる。
【0039】
上記傾斜角表示手段75は、図3および図6に示すように、第1棒状体41に取付用ねじ(図示しないが、例えば連結ピン76を兼用してもよい)を介して取り付けられて当該第1棒状体41に対する傾斜角すなわちシートアングルαを表示する角度目盛部81aが形成された扇形状の角度表示板81が具備されている。したがって、角度表示板81と第3棒状材73とにより、傾斜角表示手段75が構成されているともいえる。なお、上記角度表示板81には、その背面に位置するフレーム2の立パイプ15が見えるように一回り小さい扇形状の穴部81bが形成されている。また、このフレーム傾斜角計測部材75を前方に移動させれば、ヘッドパイプ16および前ホーク3の傾斜角であるキャスターアングルβを計測することができる。
【0040】
さらに、図7に示すように、ホイールベース計測部材31には、前輪4に後方から係合して当該前輪4を車体に沿って真っ直ぐに保持して正確な計測を行うための車輪保持具91が具備されている。
【0041】
この車輪保持具91は、ホイールベース計測部材32の第1棒状体41の裏面に着脱可能に設けられた支持ブラケット92と、この支持ブラケット92の先端に設けられて前輪4を案内し得る溝部93aを有する車輪保持ガイド93とから構成されており、その使用時においては、車輪保持ガイド93を前輪4の後側から溝部93a内に案内させることにより、前輪4が真っ直ぐに保持される。
【0042】
次に、上記自転車寸法計測器31を用いて自転車の主要寸法の計測方法について説明する。
まず、図1に示すように、計測対象である自転車1を立てた状態にしておき、この自転車1に自転車寸法計測器31のホイールベース計測部材32を取り付ける。
【0043】
すなわち、第1棒状体41と第2棒状体42とを伸縮させて、第1棒状体41の溝部41aを前輪ハブ4aに係合させるとともに、第2棒状体42の溝部42aを後輪ハブ5aに係合させ、そして固定具43により両棒状体41,42を互いに動かないように固定する。このとき、車輪保持ガイド93の溝部93aに前輪4を案内させて自転車1を真っ直ぐに保持しておく。
【0044】
この状態で、第1棒状体41に形成された第1目盛部45での第2棒状体42の後端面が示す値を読み取れば、ホイールベースWBを計測することができる。
次に、ハンガ下がり計測部材33の移動体51を前後方向で移動させるとともに昇降体52を昇降させて、その下端の当接部52aに設けられた当接面52bをボトムブラケット17の外周面に上方から且つ前側から当接させる。
【0045】
この状態で、昇降体52の表面に形成された第2目盛部54での移動体51上端面により指示される値を読み取ることにより、ハンガ下がりBDを計測することができる。
さらに、第1棒状体41に形成された第3目盛部62に対する移動体51の前端面位置を読み取ることにより、前輪4側の仮想ボトム・ハブ間距離WBfを計測することができる。そして、この仮想ボトム・ハブ間距離WBfをホイールベースWBから差し引くことにより、後輪ハブ5aの中心dからボトムブラケット17の中心cまでの距離である後輪5側の仮想ボトム・ハブ間距離WBrを求めることができる。
【0046】
次に、シートアングルαの計測方法について説明する。
上述したように自転車1に取り付けられたホイールベース計測部材32にフレーム傾斜角計測部材34を載置して取り付ける。すなわち、前後一対の取付片70を介して、フレーム傾斜角計測部材34の第1棒状材71を、ホイールベース計測部材32の第1棒状体41に(または第1棒状体41および第2棒状体42)に支持させるとともに、第1棒状材71を前後方向で移動させて、後方の第3棒状材73の支持位置を立パイプ15の立ち上がり位置に一致させる。
【0047】
そして、この状態で、第3棒状材73を立パイプ15の傾斜に沿わせた後、角度表示板81の角度目盛部81aに示される傾斜角を読み取れば、立パイプ15の傾斜角つまりシートアングルαを計測することができる。
【0048】
また、フレーム傾斜角計測部材34を前後で移動させて、前方の第2棒状材72を前ホーク3に沿わせ、第3棒状材73の傾斜角を読み取れば、キャスターアングルβを計測することができる。
【0049】
ところで、フレーム傾斜角計測部材34を適当に移動させるとともに第4棒状材74の連結位置を、第4頂部Dに一致させておき、この状態で、第4棒状材74から上パイプ11前端までの鉛直距離つまり変位高さδを定規などで計測することにより、上パイプ11の傾斜角γを計算にて求めることができる。
【0050】
なお、自転車に応じてフレーム2の高さも変わるため、上パイプ11の高さに応じて第4棒状材74の取付高さ(取付位置)が変更し得るように、第2棒状材72および第3棒状材73には、第4棒状材74との連結用穴72a,73aがそれぞれ所定間隔置きに複数形成されている。
【0051】
次に、フォークオフセットFOを求める手順を図8に基づき説明する。
すなわち、ハンドルを180度回転させて前ホーク3を前向きから後向き(仮想線にて示す)にし、この状態で、自転車寸法計測器31のホイールベース計測部材32により、ホイールベースWBを計測する。そこで、ハンドルが前向きでのホイールベースWB(以下の説明ではL1とする)とハンドルが後向きでのホイールベースWB′(以下の説明ではL2とする)との差ΔL(=L1−L2)を求めると、この差ΔLは、両姿勢におけるハブ4a,4a′間の直線距離Sに略等しくなる。
【0052】
そこで、ホイールベースラインWBLと直線Sとのなす角をθとすると下記(1)式が成立する。
S×cosθ=ΔL ・・・(1)
ところで、θは(π/2−β)に等しく、またSはフォークオフセットFOの2倍であるため、フォークオフセットFOは、下記(2)式にて表わされる。
【0053】
FO=S/2=ΔL/(2×sinβ) ・・・(2)
すなわち、ホイールベース計測部材32を用いてフロントオフセットFOを求めることができる。
【0054】
なお、上記の説明においては、ホイールベースラインWBL上にボトムブラケット17の中心cを垂直に投影した仮想ボトム中心c′から前輪ハブ4aの中心eまでの距離である前側の仮想ボトム・ハブ間距離WBfを計測するものとして説明したが、逆に、仮想ボトム中心c′から後輪ハブ5aの中心dまでの距離である後側の仮想ボトム・ハブ間距離WBrを計測することにより、やはり、フロントセンタFCおよびリヤセンタRCを求めることができる。
【0055】
上述した自転車寸法計測器によると、自転車の前後の車輪ハブ間にホイールベース計測部材の棒状体の溝部を係合させることにより、ホイールベースを計測することができ、またボトム下がり計測部材の昇降体の下端に形成された当接面をボトムブラケットの外周に当接させるだけでボトム下がりを計測することができる。また、ボトム下がり計測部材を用いて仮想ボトム・ハブ間距離を計測し、この計測値を用いて計算することにより、フロントセンタおよびリヤセンタを求めることができる。
【0056】
さらに、フレーム傾斜角計測部材を、ホイールベース計測部材に取り付けるとともに、第1棒状体〜第4棒状体により構成された平行リンクを、フレームの立パイプに沿うように傾斜させて、第3棒状体の傾斜角を傾斜角表示手段にて読み取ることにより、シートアングルを計測することができる。
【0057】
すなわち、従来のように、自転車に、外面からスケール、ノギスなどを当てて主要寸法を計測する必要がなく、しかも容易に持ち運ぶことが可能であり、したがって簡単に且つ迅速にしかも精度良く、自転車の主要寸法を計測することができる。
【0058】
ところで、上記実施の形態においては、フレーム傾斜角計測部材を、4つの棒状体で平行リンク機構が得られように構成したが、平行リンクではなく、例えば第1棒状材に、第3棒状材(第2棒状材でもよい)を鉛直面内で揺動自在に設けたものであってもよい。すなわち、少なくとも一つの棒状材を立パイプに沿わせ得るようにすればよい。
【0059】
この場合におけるフレーム傾斜角計測部材の概略構成について説明すると、ホイールベースラインと平行に配置される取付用棒状材(第1棒状材に相当する)と、この取付用棒状材に下端が回転可能に支持された計測用棒状材(第3棒状材に相当する)とから構成するとともに、上記取付用棒状材に対する上記計測用棒状材の傾斜角を示す傾斜角表示手段が具備されたものである。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る自転車寸法計測器は、自転車のホイールベース、ハンガ下がり、シートアングルなどの主要寸法を計測することができ、特に完成品の寸法を分解することなく計測することができるもので、オーダメードに係る自転車を再現する場合に適している。
【符号の説明】
【0061】
1 自転車
2 フレーム
3 前ホーク
4 前輪
4a 前輪ハブ
5 後輪
5a 後輪ハブ
8 クランク軸
11 上パイプ
12 チェーンステイ
13 下パイプ
14 後ホーク
15 立パイプ
16 ヘッドパイプ
17 ボトムブラケット
31 自転車寸法計測器
32 ホイールベース計測部材
33 ハンガ下がり計測部材
34 フレーム傾斜角計測部材
41 第1棒状体
41a 溝部
42 第2棒状体
42a 溝部
43 固定具
44 第1表示手段
45 第1目盛部
51 移動体
52 昇降体
53 第2表示手段
54 第2目盛部
61 第3表示手段
62 第3目盛部
70 取付片
71 第1棒状材
72 第2棒状材
73 第3棒状材
74 第4棒状材
75 傾斜角表示手段
81 角度表示板
81a 角度目盛部
81b 穴部
91 車輪保持具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車における前輪と後輪とを支持するフレームの寸法を計測するための計測器であって、
伸縮自在に構成されるとともに前輪ハブと後輪ハブとに係合されてこれら両ハブの中心間距離であるホイールベースを計測し得るホイールベース計測部材と、このホイールベース計測部材に昇降自在に設けられるとともにボトムブラケットに当接してホイールベースラインからボトムブラケット中心までの最短距離であるハンガ下がりおよび上記一方のハブ中心とホイールベースライン上にボトムブラケット中心を垂直に投影した仮想ボトム中心との間の距離である仮想ボトム・ハブ間距離を計測し得るハンガ下がり計測部材と、上記ホイールベース計測部材に設けられてフレームの立パイプと平行に傾斜させることにより立パイプの傾斜角を計測し得るフレーム傾斜角計測部材とを具備したことを特徴とする自転車寸法計測器。
【請求項2】
ホイールベース計測部材に前輪をフレームに沿って真っ直ぐに保持し得る車輪保持具を具備したことを特徴とする請求項1に記載の自転車寸法計測器。
【請求項3】
ホイールベース計測部材を、一端側に前輪ハブまたは後輪ハブに係合し得る凹部が設けられた第1棒状体と、一端側が上記第1棒状体の他端側にその長手方向で摺動可能に係合され且つ他端側に後輪ハブまたは前輪ハブに係合し得る凹部が設けられた第2棒状体とから構成するとともに、両棒状体の摺動位置に応じてホイールベースを示す第1目盛部を上記一方の棒状体に設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の自転車寸法計測器。
【請求項4】
ハンガ下がり計測部材を、ホイールベース計測部材にホイールベースラインに沿って移動可能に設けられた移動体と、この移動体にホイールベースラインとは直交する上下方向で昇降可能に設けられるとともに下端にボトムブラケットに当接し得る当接面が形成された昇降体とから構成し、且つこの昇降体の上記移動体に対する昇降位置に応じてハンガ下がりを示すハンガ下がり目盛部を昇降体または移動体に設けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の自転車寸法計測器。
【請求項5】
ホイールベース計測部材における一方の棒状体に、ハンガ下がり計測部材の移動体の移動位置に応じて仮想ボトム・ハブ間距離を表示し得る第2目盛部を、第1棒状体または第2棒状体に設けたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の自転車寸法計測器。
【請求項6】
フレーム傾斜角計測部材を、ホイールベースラインと平行に配置される第1棒状材と、この第1棒状材の前後端に下端が回転可能に支持された前後の第2棒状材および第3棒状材と、これら第2棒状材および第3棒状材の上端に回転可能に且つこれら両棒状材が常に互いに平行となるように連結された第4棒状材とから形成して平行リンク機構を構成するとともに、上記第1棒状材に対する少なくとも上記第3棒状材の傾斜角を示す傾斜角表示手段を具備したことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の自転車寸法計測器。
【請求項7】
フレーム傾斜角計測部材を、ホイールベースラインと平行に配置される取付用棒状材と、この取付用棒状材に下端が回転可能に支持された計測用棒状材とから構成するとともに、上記取付用棒状材に対する上記計測用棒状材の傾斜角を示す傾斜角表示手段を具備したことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の自転車寸法計測器。
【請求項8】
フレーム傾斜角計測部材をホイールベース計測部材に、ホイールベースラインに沿って移動可能に設けたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の自転車寸法計測器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−196886(P2011−196886A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65368(P2010−65368)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】