説明

自転車用フロントディレーラ

【課題】自転車用フロントディレーラにおいて、シフトアップ時に必要な操作力を低減する。
【解決手段】フロントディレーラ97fは、ベース部材40、チェーンガイド41、内リンク42、外リンク43、第1アーム部44、コイルばね45とを備える。べース部材は、フレームに装着され,チェーンガイドは、ベース部材に対して接離する変速方向に移動自在で、チェーンを変速方向に案内する。内リンクは、ベース部材がフレームに装着された状態でベース部材の下方に配置され、ベース部材とチェーンガイドに両端が回動自在に連結される。外リンクは、内リンクよりベース部材から離れる位置でベース部材とチェーンガイドに両端が回動自在に連結され内リンクと平行に配置される。第1アーム部は、外リンクからベース部材から離れる方向に延び,コイルばねは、ベース部材と第1アーム部の先端に両端が連結され、チェーンガイドをフレームに接近する方向に付勢する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディレーラ、特に、自転車のフレームに装着され、変速ケーブルが連結され、前記変速ケーブルの移動によりチェーンを複数の変速位置のいずれかに案内する自転車用フロントディレーラに関する。
【背景技術】
【0002】
自転車の変速装置としてチェーンを複数のフロントスプロケットのいずれかに案内するフロントディレーラが知られている(たとえば特許文献1参照)。従来のフロントディレーラは、フレームに装着されるベース部材と、ベース部材に揺動自在に一端が連結され互いに平行に配置された内リンク及び外リンクと、内リンク及び外リンクの他端に連結されチェーンを案内するチェーンガイドとを備えている。チェーンガイドは、捩じりコイルばねにより、通常は、フレームに近づく方向に付勢されている。捩じりコイルばねは、外リンク又は内リンクのベース部材との連結軸の周りに配置されている。内リンク又は外リンクには、変速ケーブルが係止されている。
【0003】
このような構成の従来のフロンディレーラでは、変速操作部により変速ケーブルを引っ張ると、内リンク及び外リンクが揺動し、チェーンガイドがフレームから離反する方向に移動してシフトアップする。また、変速操作部により変速ケーブルを戻すと、コイルばねの付勢力によりフレームに近づく方向に移動してシフトダウンする。
【特許文献1】特開平08−169382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来のフロントディレーラでは、捩じりコイルばねによりリンクを介してチェーンガイドをフレームに近づく方向に付勢しているので、ばね力はリンクの揺動量(捩じりコイルばねの捩じり量)に比例して大きくなるとともにリンクに作用するトルクも揺動量に比例して大きくなる。このため、最も高速側にシフトアップしたときに最も変速ケーブルに大きな力が作用し、シフトアップ時に大きな操作力が必要になる。この結果、変速操作部により手動で操作するときは、変速操作に大きな力が必要になり変速操作を行いにくくなる。また、モータにより変速動作を行う場合にも、トルクが大きいモータを使用しなければならず、電源の寿命に影響を及ぼすとともに、軽量化を図りにくくなる。
【0005】
本発明の課題は、自転車用フロントディレーラにおいて、シフトアップ時に必要な操作力を可及的に低減できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明1に係る自転車用フロントディレーラは、自転車のフレームに装着され、伝達部材の移動によりチェーンを複数の変速位置のいずれかに案内するディレーラであって、ベース部材と、チェーンガイドと、内リンクと、外リンクと、第1アーム部と、コイルばねとを備えている。べース部材は、フレームに装着される部材である。チェーンガイドは、ベース部材に対して接離する変速方向に移動自在であり、チェーンを変速方向に案内するものである。内リンクは、ベース部材がフレームに装着された状態でベース部材の下方に配置され、ベース部材とチェーンガイドとに両端が回動自在に連結されたものである。外リンクは、内リンクよりベース部材から離れる位置でベース部材とチェーンガイドとに両端が回動自在に連結され内リンクと平行に配置されたものである。第1アーム部は、内リンク又は外リンクからベース部材から離れる方向に延びるものである。コイルばねは、ベース部材と第1アーム部の先端とに両端が連結され、チェーンガイドをフレームに接近する方向に付勢するばねである。
【0007】
このディレーラでは、内リンク又は外リンクに伝達部材を係止して引っ張ると、一端が第1アーム部の先端に連結されたコイルばねの付勢力に抗して両リンクがベース部材の下方で揺動し、チェーンガイドがベース部材から離反し、チェーンを外側の通常は高速用の大径のスプロケットに案内する。そして最も外側(高速側)にチェーンガイドが配置されたとき、コイルばねは最も延びてばね力が強くなり、それに伴い伝達部材を引っ張る力が強くなる。ここでは、内リンク又は外リンクにベース部材から離反する方向に延びる第1アーム部を設け、その先端とベース部材とに両端が連結されたコイルばねを用いてチェーンガイドをベース部材に接近する方向に付勢しているので、コイルばねの中心線と内リンク又は外リンクのベース部材側の揺動中心との距離を変化させることができる。このため、チェーンガイドが最もベース部材から離れたとき、最も伸びて強い力で付勢するコイルばねの中心線を内リンク又は外リンクのベース部材側での揺動中心に近づけることができる。このようにコイルばねの中心線を揺動中心に近づけると、コイルばねの付勢力により生じるトルクが小さくなり、伝達部材に作用する力も小さくすることができる。このため、シフトアップ時に必要な操作力を可及的に低減できるようになる。
【0008】
発明2に係る自転車用フロントディレーラは、自転車のフレームに装着され、伝達部材の移動によりチェーンを複数の変速位置のいずれかに案内するディレーラであって、ベース部材と、チェーンガイドと、内リンクと、外リンクと、第1アーム部と、コイルばねとを備えている。べース部材は、フレームに装着される部材である。チェーンガイドは、ベース部材に対して接離する変速方向に移動自在であり、チェーンを変速方向に案内するものである。内リンクは、ベース部材がフレームに装着された状態でベース部材の上方に配置され、ベース部材とチェーンガイドとに両端が回動自在に連結されたものである。外リンクは、内リンクよりベース部材から離れる位置でベース部材とチェーンガイドとに両端が回動自在に連結され内リンクと平行に配置されたものである。第1アーム部は、内リンク又は外リンクからベース部材から離れる方向に延びるものである。コイルばねは、ベース部材と第1アーム部の先端とに両端が連結され、チェーンガイドをフレームに接近する方向に付勢するものである。
【0009】
このディレーラでは、内リンク又は外リンクに伝達部材を係止して引っ張ると、一端が第1アーム部の先端に連結されたコイルばねの付勢力に抗して両リンクがベース部材の上方で揺動し、チェーンガイドがベース部材から離反し、チェーンを外側の通常は高速用の大径のスプロケットに案内する。そして最も外側(高速側)にチェーンガイドが配置されたとき、コイルばねは最も延びてばね力が強くなり、それに伴い伝達部材を引っ張る力が強くなる。ここでは、内リンク又は外リンクにベース部材から離反する方向に延びる第1アーム部を設け、その先端とベース部材とに両端が連結されたコイルばねを用いてチェーンガイドをベース部材に接近する方向に付勢しているので、コイルばねの中心線と内リンク又は外リンクのベース部材側の揺動中心との距離を変化させることができる。このため、チェーンガイドが最もベース部材から離れたとき、最も伸びて強い力で付勢するコイルばねの中心線を内リンク又は外リンクのベース部材側での揺動中心に近づけることができる。このようにコイルばねの中心線を揺動中心に近づけると、コイルばねの付勢力により生じるトルクが小さくなり、伝達部材に作用する力も小さくすることができる。このため、シフトアップ時に必要な操作力を可及的に低減できるようになる。
【0010】
発明3に係る自転車用フロントディレーラは、発明1又は2に記載のディレーラにおいて、コイルばねは、チェーンガイドが最もベース部材から離反したとき、外リンク又は内リンクのうち第1アームが設けられるリンクのベース部材側の揺動中心とコイルばねその中心線が最も接近するように配置されている。この場合には、チェーンガイドが最もベース部材から離れたとき、コイルばねの中心線が外リンクのベース部材側の揺動中心に最も接近するので、シフトアップ時に必要な操作力を確実に低減できる。
【0011】
発明4に係る自転車用フロントディレーラは、発明3に記載のディレーラにおいて、コイルばねは、チェーンガイドが最もベース部材に接近したときからベース部材から離反するにつれて中心線が揺動中心に近づくように配置されている。この場合には、コイルばねが伸びるにつれて中心線と揺動中心との距離が短くなるので、ばねの付勢力が大きくなってもトルクは付勢力に比例して大きくなることがない。このため、シフトアップ時の操作力を徐々に低減できる。
【0012】
発明5に係る自転車用フロントディレーラは、発明1から4のいずれかに記載のディレーラにおいて、内リンク及び外リンクのいずれかからベース部材から離れる方向に延び先端に伝達部材が係止される第2アーム部をさらに備える。この場合には、第1アーム部により揺動中心から伝達部材のケーブル係止位置までの距離が長くなるので、伝達部材に作用する力がより小さくなる。
【0013】
発明6に係る自転車用フロントディレーラは、発明1から5のいずれかに記載のディレーラにおいて、第1アーム部は、ベース部材と前記チェーンガイドとの連結部分の間から湾曲して延びている。この場合には、揺動中心に近い位置から第1アーム部が延びているので、コイルばねの中心線を揺動中心に近づけやすい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、外リンク又は内リンクにベース部材から離反する方向に延びる第1アーム部を設け、その先端とベース部材とに両端が連結されたコイルばねを用いてチェーンガイドをベース部材に接近する方向に付勢しているので、コイルばねの中心線と外リンク又は内リンクのベース部材側の揺動中心との距離を変化させることができる。このため、チェーンガイドが最もベース部材から離れたとき、最も伸びて強い力で付勢するコイルばねの中心線を外リンク又は内リンクのベース部材側での揺動中心に近づけることができる。このようにコイルばねの中心線を揺動中心に近づけると、コイルばねの付勢力により生じるトルクが小さくなり、伝達部材に作用する力も小さくすることができる。このため、シフトアップ時に必要な操作力を可及的に低減できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1において、本発明の一実施形態を採用した自転車101は、ロードレーサであり、フロントフォーク98を有するダイヤモンド形のフレーム102と、フロントフォーク98に固定されたハンドル部104と、チェーン95やペダルPDが装着されたクランク96や前後のディレーラ97f,97rや前後のスプロケット群99f,99r等からなる駆動部105と、フロントフォーク98及びフレーム102後部に装着された前輪及び後輪106f,106rと、前後のブレーキ装置107f,107rと、前後のディレーラ97f,97rを制御する変速制御装置110とを備えている。
【0016】
ハンドル部104は、ハンドルステム111と、ハンドルステム111の上端で嵌合固定されたハンドルバー112とで構成されている。ハンドルステム111は、フロントフォーク98の上部に嵌合固定されている。ハンドルバー112は、ドロップハンドル型のものであり、左右1対のブレーキレバー113f,113rを備えている。ブレーキレバー113f,113rは、図2から図4に示すように、ハンドルバー112の端部にそれぞれ装着される前後のブレーキブラケット115f,115rと、ブレーキブラケット115f,115rに揺動自在に装着される前後のレバー部材116f,116rとを有している。
【0017】
ブレーキブラケット115f,115rの内側面及びレバー部材116f,116rの後面には、前後のディレーラ97f,97rの変速操作用の前後の変速操作部120f,120r及び前後の変速操作部121f,121rが各別に設けられている。前変速操作部120f及び後変速操作部120rは、後ブレーキブラケット115r及び前ブレーキブラケット115fに手をおいた状態で変速できるようにするために各別に設けられている。前変速操作部121f及び後変速操作部121rは、後レバー部材116r及び前レバー部材116fに手をおいた状態で変速できるようにするために各別に設けられている。
【0018】
各変速操作部120f,120r、121f,121rは、中立位置P0と、中立位置P0から下方又は内方に揺動した第1位置P1と、中立位置P0から上方又は外方に揺動した第2位置P2とに揺動自在な変速操作部材125をそれぞれ有している。変速操作部材125は、中立位置P0に向けて付勢されている。また、変速操作部120f,121fには、図6に示すように、前シフトアップスイッチ131f及び前シフトダウンスイッチ132fがそれぞれ内部に設けられている。変速操作部120r,121rにも同様に後シフトアップスイッチ131r及び後シフトダウンスイッチ132rがそれぞれ内部に設けられている。なお、この実施形態では、第1位置P1に変速操作部材125が操作されると前後のシフトアップスイッチ131f,131rがオンし、第2位置P2に変速操作部材125が操作されると前後のシフトダウンスイッチ132f,132rがオンするように構成されている。この組み合わせは適宜に設定される。
【0019】
変速制御装置110は、図2及び図6に示すように、たとえば、ハンドルバー112の中央に装着されたケース部材126と、ケース部材126に収納されたマイクロコンピュータからなる変速制御部130と、前述した変速操作部120f,120r、121f,121rとを有している。また、変速制御装置110は、ケース部材126に収納された液晶表示部135を有している。変速制御部130には、変速操作部120f,120r、121f,121rを構成する前後のシフトアップスイッチ131f,131r及び前後のシフトダウンスイッチ132f,132rと、フロントフォーク98に装着された速度センサ122と、前後のディレーラ97f,97rと、他の入出力部とが接続されている。速度センサ122は、前輪106fのスポーク106sに装着された磁石123を検知することにより前輪106fの回転を検出する。なお、速度センサ122は無線又は有線で回転信号を変速制御部130に出力する。
【0020】
変速制御部130は、シフトアップスイッチ131f,131r及び前後のシフトダウンスイッチ132f,132rからの信号及び前後の変速位置センサ133f,133rからの信号に応じて前後のディレーラ97f,97rを変速制御する。また、速度センサ122及び変速位置センサ133f,133rからの信号により液晶表示部135に速度及び変速位置を表示するとともに走行距離を表示する。
【0021】
駆動部105は、前述したようにチェーン95と、チェーン95の架け換えを行う前後のディレーラ97f,97rと、前後のスプロケット群99f,99rとを含んでいる。フロントディレーラ97fは、フレーム102のシートチューブ102aに設けられ2つの変速位置にチェーン95を案内するディレーラである。フロントディレーラ97fは、図7に示すように、フレーム102のハンガー部102bに装着された本発明の一実施形態による自転車用変速駆動装置であるフロント変速駆動部20に変速ケーブル(伝達部材の一例)21を介して連結されている。なお、この実施形態では、変速ケーブル21は、ボーデン型ケーブルのインナーケーブルだけを用いている。リアディレーラ97rは、フレーム102の後部に設けられ10の変速位置を有する電気制御可能な電動ディレーラである。これらのディレーラ97f,97rは、図示しない電源からの電力が供給されて動作する。各フロント変速駆動部20及びリアディレーラ97rには、図6に示すように、変速位置を検出する変速位置センサ133f,133rが設けられている。
【0022】
前スプロケット群99fは、図5に示すように、クランク軸の軸方向に並べて配置された歯数が異なる2枚のスプロケットF1,F2を有している。後スプロケット群99rは、後輪のハブ軸に沿った軸方向に並べて配置された歯数が異なる10枚のスプロケットR1〜R10を有している。ここでは、内側にあるスプロケットF1が外側にあるスプロケットF2より歯数の少ない。また、最も内側にあるスプロケットR1から順に歯数が少なくなり、最も外側にあるスプロケットR10が最も歯数が少ない。前後のディレーラ97f,97rは、チェーン95を複数のスプロケットF1,F2,R1〜R10のいずれかに移動させて変速動作を行う。この変速操作は、変速操作部120f,120r、121f,121rにより行われる。
【0023】
フロントディレーラ97fは、ダウンスイング型のものであり、図7〜図10に示すように、シートチューブ102aに装着されたベースブラケット40と、ベースブラケット40に対して接離する変速方向に移動自在なチェーンガイド41と、ベースブラケット40とチェーンガイド41とを回動自在に連結する、互いに平行に配置された内リンク42及び外リンク43とを主に有している。また、フロントディレーラ97fは、外リンク43からベースブラケット40から離れかつシートチューブ102aに近づく方向に延びる第1アーム部44と、ベースブラケット40と第1アーム部44の先端とに両端が連結され、チェーンガイド41をシートチューブ102aに接近する方向に付勢するコイルばね45と、外リンク43からベースブラケット40から離れかつシートチューブ102aに接近する方向に延びる第2アーム部46とをさらに有している。第2アーム部46の先端には、変速ケーブル21が係止される。なお、図9では、チェーンガイド41が外側に位置するフロントディレーラ97fが高速位置に配置された状態を示し、図10では、チェーンガイド41が内側に位置するフロントディレーラ97fが低速位置に配置された状態を示している。
【0024】
ベースブラケット40は、図7に示すように、第1ベース部材50と、第1ベース部材50に開閉自在に装着され、第1ベース部材50とでシートチューブ102aを抱き込む第2ベース部材51とを有している。第1ベース部材50には、コイルばね45の上端を係止する突出した軸形状のばね係止部50aが上部に設けられているとともに、ばね係止部50aの下方に内リンク42が揺動自在に装着される1対の内リンク支持部50bが設けられている。また、内リンク支持部50bの斜め上方に外リンク43が揺動自在に装着された1対の外リンク支持部50cが設けられている。
【0025】
チェーンガイド41は、内リンク42及び外リンク43の下端に揺動自在に連結されている。チェーンガイド41はチェーン95を2つの変速位置のいずれかに案内する。
【0026】
内リンク42は、ベースブラケット40がシートチューブ102aに装着された状態でベースブラケット40の下方に配置され、ベースブラケット40とチェーンガイド41とに両端が回動自在に連結されたものである。内リンク42は、1対の内リンク支持部50bの間に一端が揺動自在に連結されている。内リンク42の他端にはチェーンガイド41が揺動自在に連結されている。
【0027】
外リンク43は、内リンク42よりベースブラケット40から離れる位置でベースブラケット40の外リンク支持部50cとチェーンガイドと41に両端が回動自在に連結され、内リンク42と平行に配置されたリンクである。外リンク43は外リンク支持部50cに揺動自在に連結されており、ベースブラケット40から離れシートチューブ102aに向かって湾曲して延びる第2アーム部46が一体形成されている。第2アーム部46の延びた先端には、変速ケーブル21をボルト止めするケーブル係止部43aが設けられている。ケーブル係止部43aには、固定ボルト52と耳付き座金53とが装着されており、耳付き座金53とケーブル係止部43aとの間に変速ケーブル21の端部を装着し、固定ボルト52を締め込むことにより、変速ケーブル21の一端が係止される。
【0028】
外リンク43の2つのリンク支持部分の間から、第1アーム部44がべーブラケット40から離れかつシートチューブ102aに近づく方向に延びている。第1アーム部44は、コイルばね45をベースブラケット40との間で係止するために設けられている。したがって、第1アーム部44の先端には、コイルばね45の下端を係止する突出した軸形状のばね係止部44aが設けられている。
【0029】
ここで、第1アーム部44は、フロントディレーラ97fが、図10に示す低速位置から図9に示す高速位置に移動したとき、第1アーム部44がチェーンガイド41に干渉することなく、かつ外リンク43の揺動中心である外リンク支持部50cの回動中心SCとコイルばね45の中心線SLとの距離Dが最も短くなる位置にコイルばね45を配置できるように設定されている。また、この距離Dは、低速位置から高速位置にチェーンガイド41が移動するにつれて短くなる。このように、コイルばね45の中心線SLを外リンク43の揺動中心SCに近づけることにより、コイルばね45の付勢力により生じるトルクが小さくなり、コイルばね45が最も伸びてその付勢力が最も強くなる高速位置(チェーンガイド41がスプロケットF2に接近した位置)付近での操作力(変速ケーブルを引っ張る力)が低くなる。したがって、変速操作部で変速ケーブルを引っ張り操作する際には、そのときの操作力が小さくなり、本実施形態のようにフロント変速駆動部20によりモータで変速動作させる場合には、モータの変速に必要なトルクを低減することができる。
【0030】
また、第2アーム部46を設けてケーブル係止部43aと揺動中心SCとの距離を長くしたので、変速ケーブル21に作用する力をさらに小さくすることができる。
【0031】
フロント変速駆動部20は、図7、図11及び図12に示すように、たとえば自転車101のフレーム102のハンガー部102bに装着されるケース部材60と、回動軸70を有し、ケース部材60に装着されたモータ駆動機構61と、変速ケーブル21を連結するケーブル連結部62とを有している。なお、図11は、低速位置(チェーンガイド41がスプロケットF1側)にあるときを示し、図12は、フロントディレーラ97fが高速位置(チェーンガイド41がスプロケットF2側)にある時を示している。ケース部材60は内部にモータ駆動機構61を収納可能な空間を有する部材であり、ハンガー部102bに固定された取付ブラケット71に装着されている。
【0032】
モータ駆動機構61は、モータ72と、モータ72と回動軸70との間に配置された減速機構73と、変速制御部130からの指令に応じてモータ72を駆動するモータ駆動回路74とを有している。
【0033】
減速機構73は、モータ72の回転を減速して回動軸70に伝達するものであり、モータ72の出力軸72aに回転自在に装着されたウォームギア81と、ウォームギア81に噛み合うウォームホイール82と、ウォームホイール82と同芯に配置された第1小径ギア83とを有している。また、減速機構73は、第1小径ギア83に噛み合う第1大径ギア84と、第1大径ギア84と同芯に配置された第2小径ギア85と、第2小径ギア85に噛み合う第2大径ギア86とを有している。この第2大径ギア86に回動軸70が設けられている。また、第2大径ギア86及びその対向するケース部材60の内側面には、変速位置を検出する(第2大径ギア86の回転位置を検出する)前述した前変速位置センサ133fが設けられている。ここでは、ロック機能を有するウォームギア81とウォームホイール82とを用いて減速しているので、出力側に力が作用しても減速機構73が回転しなくなり、ケーブル連結部62を低速位置と高速位置とに確実に位置決めできる。
【0034】
モータ駆動回路74は、たとえばFET等の電子部品を用いてモータをPWM駆動する。モータ駆動回路74は、変速制御部130からの指令に応じてモータ72を駆動する。
【0035】
ケーブル連結部62は、回動軸70に回転不能に装着され、回動中心O1から変速ケーブル21と直交する方向に延びる腕ARの長さLが回転位相に応じて変化するものである。なお、図11及び図12では、回動中心O1から変速ケーブル21の延長線21bに対して直交する方向に延びる腕ARを示している。ケーブル連結部62は、回動軸70に基端が回転不能に装着された第1アーム部材90と、第1アーム部材90の先端に回動自在に連結され、先端に変速ケーブル21の他端に設けられた円柱部21aを係止可能なケーブル係止部92を有する第2アーム部材91とを有している。
【0036】
第1アーム部材90は、板状の部材であり、回動中心O1から径方向外方に延びている。第1アーム部材90の基端側は、取付ブラケット71及びケース部材60により両側が支持されている。
【0037】
第2アーム部材91は、前述したケーブル係止部92と、ケーブル係止部92から円弧状に湾曲し、第1アーム部材90に連結される湾曲部93とを有している。第2アーム部材91は、第1アーム部材90の先端両面を挟むように第1アーム部材90に連結されている。したがって、第2アーム部材91には溝部91aが形成されている。このように第2アーム部材91に湾曲部93を設けることにより、図12に示すように、フロントディレーラ97fを高速位置に移動させるとき、変速ケーブル21を回動軸70に干渉させることなく、腕ARの長さを短くすることができる。このため、同じトルクをモータ72が発生しても変速ケーブル21に作用する力が強くなり、より低いトルクのモータ72で強い力が必要な高速位置への変速を行える。また、フロントディレーラ97fを低速位置側に配置させるときは、腕ARの長さLは高速位置のときより長くなり、変速ケーブル21に作用する力は弱くなる。
【0038】
このような構成のフロント変速駆動部20では、フロントディレーラ97fが低速位置にある状態で前変速操作部120f,121fのいずれかの操作により、前シフトアップスイッチ131fがオンすると、モータ72が一方向に回転してケーブル連結部62が図11に示す低速位置から図12に示す高速位置に移動する。この結果、変速ケーブル21が引っ張られてフロントディレーラ97fが図10に示す低速位置から図9に示す高速位置に移動する。このとき、低速位置での腕ARの長さLが回転位相に応じて徐々に短くなり、高速位置では腕ARの長さLが最小になる。この結果、低速位置から高速位置にケーブル連結部62が回動すると、変速ケーブル21に作用する力が徐々に強くなる。
【0039】
一方、フロントディレーラ97fが高速位置にある状態で前変速操作部120f,121fのいずれかの操作により、前シフトダウンスイッチ132fがオンすると、モータ72が他方向に回転してケーブル連結部62が図12に示す高速位置から図11に示す低速位置に移動する。この結果、変速ケーブル21に力が作用しなくなり、フロントディレーラ97fがコイルばね45の付勢力により図9に示す高速位置から図10に示す低速位置に移動する。
【0040】
ここでは、ケーブル連結部62が回動中心O1から変速ケーブル21に直交する方向に延びる腕ARの長さLが変化するように回動軸70に装着されているので、簡素な構造で変速に要するモータ72のトルクを低くすることができる。
【0041】
また、フロントディレーラ97fにおいても、第1アーム部44は、フロントディレーラ97fが、図10に示す低速位置から図9に示す高速位置に移動したとき、第1アーム部44がチェーンガイド41に干渉することなく、かつ外リンク43の揺動中心である外リンク支持部50cの回動中心SCとコイルばね45の中心線SLとの距離が最も短くなる位置にコイルばね45を配置できるように設定されている。このように、コイルばね45の中心線SLを外リンク43の揺動中心SCに近づけることにより、コイルばね45の付勢力により生じるトルクが小さくなり、最もコイルばね45が伸びてその付勢力が強くなる高速位置(チェーンガイド41がスプロケットF2に接近した位置)付近での操作力(変速ケーブルを引っ張る力)が低減される。このため、本実施形態によるフロントディレーラ97fを用いることにより、フロント変速駆動部20のモータのトルクをさらに小さくすることができる。
【0042】
〔他の実施形態〕
(a) 前記実施形態では、ベースブラケットの下方でリンクが揺動するダウンスイング型の下引きのフロントディレーラ97fを例に本発明を説明したが、ベースブラケットの上方でリンクが揺動するトップスイング型のフロントディレーラにも本発明を適用できる。
【0043】
図13及び図14において、フロントディレーラ197fは、低速位置と中間位置と高速位置の3つの変速位置に位置決めされる3段変速用のものであり、変速ケーブル21を上方に引く上引き型のものである。なお、図13は、チェーンガイド141が低速位置に、図14では高速位置に位置した状態を示している。
【0044】
フロントディレーラ197fは、シートチューブ102aに装着されたベースブラケット140と、ベースブラケット140に対して接離する変速方向に移動自在なチェーンガイド141と、ベースブラケット140とチェーンガイド141とを回動自在に連結する、互いに平行に配置された内リンク142及び外リンク143とを主に有している。また、フロントディレーラ197fは、内リンク42からベースブラケット140から離れる方向に延びる第1アーム部144と、ベースブラケット140と第1アーム部44の先端とに両端が連結され、チェーンガイド141をシートチューブ102aに接近する方向に付勢するコイルばね145と、外リンク143からベースブラケット140から離れる方向に延びる第2アーム部146とをさらに有している。第2アーム部146の先端には、変速ケーブル21が係止される。この実施形態では、変速ケーブル21は上方に引っ張られる。第2アーム部146の先端には、ケーブル係止部142aが設けられている。その他の構成は前記実施形態と同様なため説明を省略する。
【0045】
このような実施形態のフロントディレーラ197fでも、前記実施形態と同様に、最もコイルばね145による付勢力が大きい、図14に示す高速位置に配置されたとき、コイルばね145の中心線Lと揺動中心SCとの距離Dが最も短くなり、コイルばね145の付勢力により生じるトルクが小さくなり、変速ケーブル21に作用する力を可及的に低減できる。このため、変速操作に要する力がそれほど大きくならない。
【0046】
また、図15及び図16に示すように、トップスイングで下引き型のフロントディレーラ297fの場合、図13及び図14と逆側に配置されたケーブル係止部242aとの干渉を避けるために、内リンク142の中間部から第1アーム部244が上方に延びている。なお、図13及び図14と同じ部材については同じ符号を付している。また、図15はチェーンガイド141が低速位置に配置された状態を示し、図16は高速位置に配置された状態を示す。このような構成でも、前記同様に、最もコイルばね145による付勢力が大きい、図16に示す高速位置に配置されたとき、コイルばね145の中心線Lと揺動中心SCとの距離Dが最も短くなり、コイルばね145の付勢力により生じるトルクが小さくなり、変速ケーブル21に作用する力を可及的に低減できる。このため、変速操作に要する力がそれほど大きくならない。なおこの実施形態では、第2アーム部は設けられていない。もちろん、上述してないダウンスイングの上引き型のフロントディレーラにも本発明を適用できる。
【0047】
(b) 前記実施形態では、伝達部材として変速ケーブルを例に本発明を説明したが、伝達部材はフロントディレーラを動作させるものであれば、たとえばロッドやリンク等の形態であってもよい。
【0048】
(c) 前記実施形態では、伝達部材によりフロント変速駆動部が連結されているが、伝達部材としてフロント変速部の回動軸70に回動不能に装着された第1アーム部材を用いてもよい。この場合、フロント変速駆動部がフロントディレーラを直接駆動できる。
【0049】
(d) 前記実施形態では、変速操作をフロント変速駆動部で行っているが、通常の変速レバー等の手動変速操作により変速されるフロントディレーラにも本発明を適用できる。
【0050】
(e) 前記実施形態では、ダウンスイングのフロントディレーラ97fでは、第1アーム部44を外リンク43に、トップスイングのフロントディレーラ197f,297fでは、第1アーム部44を内リンク142,242に設けたが、本発明はこれに限定されない。たとえば、ダウンスイングのフロントディレーラ97fでは、第1アーム部を内リンク42に、トップスイングのフロントディレーラ197f,297fでは、第1アーム部44を外リンク143に設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態が採用された自転車の側面図
【図2】そのハンドル部分の正面図。
【図3】その後ブレーキレバーの側面図。
【図4】その後ブレーキレバーの正面図。
【図5】前後のスプロケット群の模式的配置図。
【図6】変速制御装置の構成を示すブロック図。
【図7】フロントディレーラ周りの斜視図。
【図8】フロントディレーラの側面図。
【図9】高速位置に配置されたフロントディレーラの背面図。
【図10】低速位置に配置されたフロントディレーラの背面図。
【図11】低速位置に配置されたフロント変速駆動部の側面図。
【図12】高速位置に配置されたフロント変速駆動部の側面図。
【図13】他の実施形態の図9に相当する図。
【図14】その実施形態の図10に相当する図。
【図15】さらに他の実施形態の図9に相当する図。
【図16】その実施形態の図10に相当する図。
【符号の説明】
【0052】
21 変速ケーブル(伝達部材の一例)
40,140 ベースブラケット
41,141 チェーンガイド
42,142,242 内リンク
142a,242a ケーブル係止部
43,143 外リンク
43a ケーブル係止部
44,144,244 第1アーム部
45,145 コイルばね
46,146 第2アーム部
97f,197f,297f フロントディレーラ
101 自転車
D 距離
SC 揺動中心
SL 中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車のフレームに装着され、伝達部材の移動によりチェーンを複数の変速位置のいずれかに案内する自転車用フロントディレーラであって、
前記フレームに装着されるベース部材と、
前記ベース部材に対して接離する変速方向に移動自在であり、前記チェーンを前記変速方向に案内するチェーンガイドと、
前記ベース部材が前記フレームに装着された状態で前記ベース部材の下方に配置され、前記ベース部材と前記チェーンガイドとに両端が回動自在に連結された内リンクと、
前記内リンクより前記ベース部材から離れる位置で前記ベース部材と前記チェーンガイドとに両端が回動自在に連結され前記内リンクと平行に配置された外リンクと、
前記内リンク又は前記外リンクから前記ベース部材から離れる方向に延びる第1アーム部と、
前記ベース部材と前記第1アーム部の先端とに両端が連結され、前記チェーンガイドを前記フレームに接近する方向に付勢するコイルばねと、
を備えた自転車用フロントディレーラ。
【請求項2】
自転車のフレームに装着され、伝達部材の移動によりチェーンを複数の変速位置のいずれかに案内する自転車用フロントディレーラであって、
前記フレームに装着されるベース部材と、
前記ベース部材に対して接離する変速方向に移動自在であり、前記チェーンを前記変速方向に案内するチェーンガイドと、
前記ベース部材が前記フレームに装着された状態で前記ベース部材の上方に配置され、前記ベース部材と前記チェーンガイドとに両端が回動自在に連結された内リンクと、
前記内リンクより前記ベース部材から離れる位置で前記ベース部材と前記チェーンガイドとに両端が回動自在に連結され前記内リンクと平行に配置された外リンクと、
前記内リンク又は前記外リンクから前記ベース部材から離れる方向に延びる第1アーム部と、
前記ベース部材と前記第1アーム部の先端とに両端が連結され、前記チェーンガイドを前記フレームに接近する方向に付勢するコイルばねと、
を備えた自転車用フロントディレーラ。
【請求項3】
前記コイルばねは、前記チェーンガイドが最も前記ベース部材から離反したとき、前記外リンク又は前記内リンクのうち前記第1アームが設けられるリンクの前記ベース部材側の揺動中心にその中心線が最も接近するように配置されている、請求項1又は2に記載の自転車用フロントディレーラ。
【請求項4】
前記コイルばねは、前記チェーンガイドが最も前記ベース部材に接近したときから前記ベース部材から離反するにつれて前記中心線が前記揺動中心に近づくように配置されている、請求項3に記載の自転車用フロントディレーラ。
【請求項5】
前記内リンク及び外リンクのいずれかから前記ベース部材から離れる方向に延び先端に前記伝達部材が係止される第2アーム部をさらに備える、請求項1から4のいずれか1項に記載の自転車用フロントディレーラ。
【請求項6】
前記第1アーム部は、前記ベース部材と前記チェーンガイドとの連結部分の間から湾曲して延びている、請求項1から5のいずれか1項に記載の自転車用フロントディレーラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−7841(P2006−7841A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184430(P2004−184430)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)