説明

自転車用変速装置

【課題】構造が簡単で、汎用的に様々な自転車に取り付けられる内装式の自転車用変速装置を提供する。
【解決手段】ペダルの踏力により回転するクランク軸に固定したクランク回転体1の周りに、変速段数に応じた複数の前側回転体2,3,4を並べて配置し、クランク軸の後方に設けた副軸5により各前側回転体2,3,4に対して所定の速度比で連動する後側回転体6,7,8を一体回転可能に支持し、クランク回転体1に各前側回転体2,3,4に対応するラチェット爪16,17,18を設け、ラチェット爪16,17,18が係合するラチェット歯19を各前側回転体2,3,4の内周側に形成し、ラチェット爪17,18に接離する切替部材20の操作に伴い、ラチェット爪17,18をラチェット歯19に係脱させ、駆動力を伝達する前側回転体2,3,4を切り替えて変速する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自転車のクランク軸部に設ける変速装置であって、クランク軸と副軸の二軸から成る駆動力伝達機構を備えたものに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、走行する路面の勾配に応じてペダルの踏み込み負荷を調整する自転車用変速装置として、スポーツ用の自転車には、多数段のスプロケットにチェーンを掛け替える外装式のものが装備されるが、日常の街乗り用自転車には、変速操作を容易かつスムーズに行える遊星歯車機構を使用した内装式のものが装備される場合が多い。
【0003】
この内装式変速装置として、下記特許文献1には、フレームに組み込まれるギヤケースとペダルの踏力により回転するクランク軸に対して回動自在に従動回転体を設け、その一側にスプロケットを固定し、クランク軸と一体に回転するキャリヤに複数段の遊星歯車を軸支し、遊星歯車の各段内側にそれぞれ回動可能な太陽歯車を噛合させると共に、遊星歯車のいずれかの段の外側に従動回転体に設けた内歯歯車を噛合させ、キャリヤと従動回転体の間に回転速度差を吸収するラチェット機構を設け、各段の太陽歯車の回転を許容・阻止する一方向クラッチの切替操作を行うことにより、クランク軸に対して増速される内歯歯車を切り替えて変速を行うものが記載されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、フレームに固定されるギヤケースとペダルの踏力により回転するクランク軸に対して回動自在に、スプロケット及び大径の太陽歯車を一側及び他側に一体的に形成した従動回転体を設け、クランク軸と一体に回転するキャリヤに大小2段の遊星歯車を軸支し、遊星歯車の大径段内側にクランク軸に対して相対回転可能な小径の太陽歯車を噛合させ、遊星歯車の小径段内側に大径の太陽歯車を噛合させると共に、遊星歯車の各段外側にそれぞれ内歯歯車を噛合させ、小径の太陽歯車と従動回転体の間に回転速度差を吸収するラチェット機構を設け、各段の内歯歯車のギヤケースに対する回転を許容・阻止する一方向クラッチの切替操作を行うことにより、クランク軸に対して増速される太陽歯車を切り替えて変速を行うものが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平6−263081号公報
【特許文献2】特開平6−298153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような変速装置では、ラチェット機構や各段の太陽歯車又は内歯歯車に対応した一方向クラッチを構成する多数の部品が必要となり、構造が複雑になるという問題があるほか、変速装置のない自転車に後から取り付けることができないという問題もある。
【0007】
そこで、この発明は、構造が簡単で、汎用的に様々な自転車に取り付けられる内装式の自転車用変速装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、この発明は、ペダルの踏力により回転するクランク軸に固定したクランク回転体の周りに、変速段数に応じた複数の前側回転体を並べて配置し、クランク軸の後方に設けた副軸により各前側回転体に対して所定の速度比で連動する後側回転体を一体回転可能に支持し、クランク回転体に各前側回転体に対応するラチェット爪を設け、ラチェット爪が係合するラチェット歯を各前側回転体の内周側に形成し、ラチェット爪に接離する切替部材の操作に伴い、ラチェット爪をラチェット歯に係脱させて、駆動力を後側回転体へ伝達する前側回転体を切り替えることにより、クランク軸から後輪駆動用スプロケットへ伝達される回転の速度比を変化させて変速するようにしたのである。
【0009】
なお、上記変速装置においては、前側回転体と後側回転体とを歯車とし、これらを互いに噛合させるとよい。また、前側回転体と後側回転体とをスプロケットとし、これらにチェーンを掛け渡してもよく、前側回転体と後側回転体とを歯付きプーリとし、これらに歯付きベルトを掛け渡してもよい。
【0010】
そのほか、前側回転体のいずれかに内歯車を設け、歯車としたいずれかの後側回転体を内歯車に噛合させ、歯車とした他の前側回転体と後側回転体とを、中間歯車を介して噛合させてもよく、歯付きプーリとした他の前側回転体と後側回転体とに歯付きベルトを掛け渡してもよい。
【0011】
また、ラチェット爪とラチェット歯との滑動に伴う音鳴りを防止するため、駆動力を伝達するラチェット爪のみがラチェット歯に噛合し、他のラチェット爪とラチェット歯との噛合が解除されるようにしてもよい。
【0012】
また、クランクアームに設けた切替ペダルの踏み込みに伴い、切替部材を回転させて、変速操作を行うようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係る自転車用変速機では、変速段数に応じた複数の前側回転体と後側回転体とを所定の速度比で連動させておき、切替部材の操作に伴い、ラチェット爪をラチェット歯に係脱させ、駆動力を後側回転体へ伝達する前側回転体を切り替えて変速するため、多段の遊星歯車、太陽歯車及び内歯歯車等を設けてこれらの伝達経路を切り替える必要がなく、構造が簡素化されて製造コストが低減され、使用時における信頼性も向上し、既存の自転車への取り付けも容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の実施形態に係る自転車用変速装置を添付図面に基づいて説明する。
【0015】
第1実施形態に係る変速装置においては、図1及び図2に示すように、自転車に取り付けた状態において、ペダルの踏力により回転するクランク軸51に、クランクアーム52と一体となったクランクケース53のボス53aが嵌められて固定され、これらと一体回転可能にクランク回転体1が設けられている。
【0016】
クランク回転体1の周りには、変速段数の3段に対応して、低速用、高速用及び中速用の3個の前側回転体2,3,4が右側から左側へ順次並べて配置されている。前側回転体2,3,4は、外周に歯を有する歯車とされ、伝達する回転速度に応じて、外径及び歯数が設定されている。
【0017】
前側回転体2,4は、ボールを介してクランク回転体1に回動自在に支持され、前側回転体3は、前側回転体2の段部に回動自在に嵌合し、前側回転体2,3,4は互いに相対回転可能となっている。クランク回転体1及び前側回転体4は、組み立ての都合上、ボール受等の複数部材から構成され、これらを結合させて組み立てられている。
【0018】
クランク軸51の後方には副軸5が設けられ、この副軸5により、ボス部で一体化された後側回転体6,7,8がカラー9及びニードル軸受10を介して回動自在に支持されている。後側回転体6,7,8は、外周に歯を有する歯車とされ、それぞれ前側回転体2,3,4に所定の速度比で連動するように噛合している。
【0019】
前側回転体2,3,4及び後側回転体6,7,8は、前後に長く後方へかけて上下寸法が小さくなる長円形のギヤケース11に収納され、副軸5の両端はギヤケース11で支持されている。前側回転体4の左側はギヤケース11から突出し、その突出部に後輪駆動用チェーン55を掛けるスプロケット12が取り付けられている。
【0020】
ギヤケース11の左側には、回転しない固定部材13の基板部13aが設けられ、クランクケース53のボス53aの周りには固定部材13の円筒部13bが嵌められて、その外周にはリードの大きい切替ねじ14が刻設されている。固定部材13の基板部13aとギヤケース11とは固定ボルト15で固定されている。
【0021】
クランク回転体1には、各前側回転体2,3,4に対応して突出方向に付勢されたラチェット爪16,17,18が設けられ、各ラチェット爪16,17,18の先端部が前側回転体2,3,4の内周側に形成されたラチェット歯19に係合するようになっている。
【0022】
切替ねじ14には、リング状の切替部材20が螺合しており、この切替部材20には、固定部材13に対して回転する切替体21の円板部21aから延長されたアーム22が貫通している。切替体21の円板部21aには、固定部材13の開口部を介して左側へ突出する連結部23が設けられている。
【0023】
連結部23には、ハンドル又はペダル付近に取り付けた操作レバーから延びるワイヤ24が連結され、変速操作に伴いワイヤ24が引っ張られると、切替部材20は、切替体21と共に回転しつつ、クランク軸51の軸方向に移動し、ラチェット爪17,18に対して進退する。
【0024】
切替部材20とラチェット爪17,18の対向面は、互いに滑動するように傾斜しており、切替部材20によりラチェット爪17,18の後部が押圧されると、ラチェット爪17,18が没入方向に揺動して、ラチェット歯19との係合が解除される。連結部23と固定部材13の基板部13aとは、切替部材20をラチェット爪17,18から離反する方向に付勢する戻しばね25で連結されている。
【0025】
ギヤケース11は、前側回転体4の左側を支持するスリーブに固定された上側チェーンケース26と、その前部にヒンジを介して連結された下側チェーンケース27とで上下から挟み込まれ、上側チェーンケース26の後部と下側チェーンケース27の後部とは、引張ばね28を介して引き寄せる方向に付勢されている。
【0026】
このような変速装置では、図1に示すように、切替部材20がラチェット爪17,18から離れて右側に後退した位置にあるとき、ラチェット爪16,17,18と各前側回転体2,3,4のラチェット歯19との係合状態が維持されるので、クランク軸51と共に回転するクランク回転体1から前側回転体2,3,4へ回転が伝達される。
【0027】
これに伴い、大径の前側回転体3の周速が小径及び中径の前側回転体2,4の周速よりも速くなり、前側回転体3に噛合する小径の後側回転体7が高速で回転するので、後側回転体7と一体の他の後側回転体6,8も高速で回転し、この回転が前側回転体4を介してスプロケット12に伝達され、後輪が高速で駆動される。
【0028】
このとき、ラチェット爪16,18のラチェット歯19に対する滑動作用により、前側回転体2,4は、クランク回転体1に対して相対的に高速に回転する状態となり、クランク回転体1から前側回転体2,4へ駆動力が伝達されることはない。
【0029】
一方、変速操作に伴い、図3に示すように、切替部材20を1段階回転させて、中間位置まで前進させると、切替部材20がラチェット爪17を押圧して揺動させ、ラチェット爪17と前側回転体3のラチェット歯19との係合が解除されるので、クランク回転体1から前側回転体3への回転伝達は遮断され、クランク回転体1から中間径の前側回転体4へ伝達される駆動力によりスプロケット12が回転して、後輪が中速で駆動される。
【0030】
さらに、図4に示すように、切替部材20を2段階回転させて、切替ねじ14の左側まで前進させると、切替部材20が前側回転体4のラチェット爪18を押圧して揺動させ、ラチェット爪18と前側回転体4のラチェット歯19との係合も解除されるので、クランク回転体1から前側回転体4への回転伝達も遮断される。
【0031】
この状態では、クランク回転体1から小径の前側回転体2へ伝達される回転により、前側回転体2に噛合する大径の後側回転体6が低速で回転するので、後側回転体6と一体の他の後側回転体7,8も低速で回転し、この回転が前側回転体4を介してスプロケット12に伝達され、後輪が低速で駆動される。
【0032】
また、この状態から逆の変速操作を行うと、戻しばね25の付勢力により切替部材20が逆回転し、ラチェット爪18,17から順次離反するように右側へ後退して、ラチェット爪18,17と前側回転体4,3のラチェット歯19とが再度係合するので、後輪が中速及び高速で駆動されるようになる。
【0033】
なお、この変速装置では、図2に示すように、ペダルを強く踏んでクランクアーム52を回転させると、ギヤケース11に作用するモーメントにより、下側チェーンケース27の後部が押し下げられるので、ペダルの踏力が軽くなり、その後、引張ばね28の作用により下側チェーンケース27及びギヤケース11が元の位置に復帰して、この動作が繰り返され、走行時の負荷が軽減される。
【0034】
ところで、このような走行負荷軽減機能を付与するには、チェーンケース26を上下一体として固定し、チェーンケース26にギヤケース11を回動自在に嵌め込み、ギヤケース11の後部とチェーンケース26とを引張ばね28で連結するようにしてもよい。
【0035】
次に、上記第1実施形態の構成を一部変更した他の実施形態について説明する。
【0036】
図5に示す第2実施形態に係る変速装置では、上記第1実施形態よりも副軸5を後方に位置させ、前側回転体2,3,4と後側回転体6,7,8とをスプロケットとし、後側回転体8を後輪駆動用チェーン55に噛合させ、前側回転体2,3と後側回転体6,7とに連動用チェーン29を掛け渡した構成とされている。
【0037】
また、図6に示す第3実施形態に係る変速装置では、前側回転体2,3,4と後側回転体6,7,8とを、上記第1実施形態の歯車に代えて歯付きプーリとし、これらに歯付きベルト30を掛け渡した構成とされている。
【0038】
このように構成しても、上記第1実施形態に係る変速装置と同様に、クランク軸51の回転速度を中速とし、これを基準として高速及び低速に変速できる内装式の3段変速装置として機能する。
【0039】
また、図7に示す第4実施形態に係る変速装置では、前側回転体4及びスプロケット12と一体回転可能に内歯車31を設け、後側回転体8を内歯車31に噛合させ、前側回転体2,3と後側回転体6,7とを、回転方向を揃えるため、中間歯車32を介して噛合させた構成とされている。
【0040】
また、図8に示す第5実施形態に係る変速装置では、上記第4実施形態と同様に、前側回転体4及びスプロケット12と一体回転可能に内歯車31を設け、後側回転体8を内歯車31に噛合させ、前側回転体2,3と後側回転体6,7とに歯付きベルト30を掛け渡した構成とされている。
【0041】
これらの変速装置では、クランク軸51の回転を高速とし、これを基準として中速及び低速に変速する内装式の3段変速装置として機能するように、噛合する部材の歯数及び切替部材20の作動方向を設定しているが、最終的な変速比は、クランク軸51側のスプロケット12と、後輪側のスプロケットの歯数比で決定される。
【0042】
ところで、上記各実施形態に記載の変速装置では、高速での駆動時に、ラチェット爪16,18とラチェット歯19との間に滑りが生じ、中速での駆動時に、ラチェット爪16とラチェット歯19との間に滑りが生じる。この滑動に伴って、カチカチという音鳴りが発生し、特に高速時には、リズムの異なる不協音が耳障りに感じられることがある。このような騒音の防止対策を施した実施形態を以下に示す。
【0043】
図9乃至図12に示す第6実施形態に係る変速装置においては、切替部材20の外周に山部20aと谷部20bとが形成されている。そして、図9及び図10に示す高速伝達状態では、高速伝達用のラチェット爪17は谷部20bに嵌まり込んで前側回転体3に噛合し、他のラチェット爪16,18は山部20aに押されて、前側回転体2,4との噛合が解除された状態となる。
【0044】
次に、変速操作に伴い、切替部材20を一段階左側へ移動させて、図11に示す中速伝達状態とすると、中速伝達用のラチェット爪18は谷部20bに嵌まり込んで前側回転体4に噛合し、他のラチェット爪16,17は山部20aに押されて、前側回転体2,3との噛合が解除された状態となる。
【0045】
さらに、変速操作に伴い、切替部材20を二段階左側へ移動させて、図12に示す低速伝達状態とすると、低速伝達用のラチェット爪16は切替部材20から外れて前側回転体2に噛合し、他のラチェット爪17,18は山部20aに押されて、前側回転体3,4との噛合が解除された状態となる。
【0046】
このように、上記変速装置では、ラチェット爪16,17,18のうち、駆動力を伝達するもののみがラチェット歯19に噛合し、他のものとラチェット歯19との噛合が解除されるため、高速及び中速での駆動時にも、音鳴りが生じることがなく、快適に走行することができる。
【0047】
また、図13乃至図18に示す第7実施形態に係る変速装置においては、切替部材20がクランク軸51の軸方向に移動することなく、クランク軸51の周方向に回転するようになっている。この切替部材20には、図14(a)に示すように、高速用ラチェット爪17に対して貫穴部20cが、図14(b)に示すように、中速用ラチェット爪18に対して貫穴部20c及び短めの中段部20dが、図14(c)に示すように、低速用ラチェット爪16に対して貫穴部20c及び長めの中段部20dがそれぞれ形成されている。
【0048】
そして、図13に示す高速伝達状態では、高速伝達用のラチェット爪17は貫穴部20cに嵌まり込んで前側回転体3に噛合し、他のラチェット爪16,18は中段部20dに押されて、前側回転体2,4との噛合が解除された状態となる。
【0049】
次に、変速操作に伴い、切替部材20を一段階回転させて、図15に示す中速伝達状態とすると、中速伝達用のラチェット爪18は貫穴部20cに嵌まり込んで前側回転体4に噛合し、高速伝達用のラチェット爪17は切替部材20の外周に、低速伝達用のラチェット爪16は中段部20dにそれぞれ押されて、前側回転体2,3との噛合が解除された状態となる。
【0050】
さらに、変速操作に伴い、切替部材20を二段階回転させて、図16に示す低速伝達状態とすると、低速伝達用のラチェット爪16は貫穴部20cに嵌まり込んで前側回転体2に噛合し、他のラチェット爪17,18は切替部材20の外周にそれぞれ押されて、前側回転体3,4との噛合が解除された状態となる。
【0051】
このような変速装置においても、上記第6実施形態のものと同様、高速及び中速での駆動時における音鳴りを防止することができ、また、切替部材20に中段部20dを設けたことにより、高速側への変速に際し、中速及び低速伝達用のラチェット爪16,18とラチェット歯19との噛合が迅速に解除されるので、変速時の音鳴りも防止される。
【0052】
なお、この変速装置には、図17に示すように、切替ペダル33の踏み込みにより変速操作を行うキック式の切替機構が備えられている。この切替機構において、切替ペダル33はクランクアーム52に支持軸34を介して揺動自在に支持され、ペダル56に足を載せた状態で前踏部33aを踏み込むと減速され、後踏部33bを踏み込むと増速される。
【0053】
切替ペダル33の後端には係合切込33cが形成され、この係合切込33cには、クランクケース53に対し相対回転する切替リング35の外突片35aに設けた係合軸36がスライド自在に係入されている。
【0054】
切替リング35は、図18に示すように、クランクケース53に嵌着された摺接部材37の外周に回動自在に嵌められ、ボス53aの周りには、切替リング35の内突片35bに押されて回転する一対の扇状の取付板38が設けられている。取付板38の後部間には押ばね39が設けられ、その付勢力により、一対の扇状の取付板38は、クランクケース53のストッパ53bに押し付けられている。
【0055】
各取付板38にはラチェット爪40が設けられ、摺接部材37には、ラチェット爪40の基端を押圧する押圧突起37aが、切替部材20のフランジには、ラチェット爪40の先端が噛合するラチェット歯20eがそれぞれ設けられている。
【0056】
ラチェット爪40とラチェット歯20eとの噛合は、取付板38がストッパ53bに押し付けられた状態では解除されており、切替ペダル33の踏み込みに伴い、切替リング35と共に一方の取付板38が回転して、押圧突起37aによるラチェット爪40の押圧が解除されると、ラチェット爪40がラチェット歯20eに噛合して、切替部材20がボス53aに対して所定角度回転する。
【0057】
このようなキック式の切替機構を設けると、手元を見ずに足の動きだけで変速でき、従来の変速装置付き自転車にはない感覚で操作できるほか、ハンドルからフレームへかけてブレーキ用ワイヤと変速装置用ワイヤとが延びる煩わしさも解消される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】この発明の第1実施形態に係る変速装置の高速伝達状態を示す横断平面図
【図2】同上の変速装置の噛合状態をクランクアーム側から示す縦断右面図
【図3】同上の変速装置の中速伝達状態を示す横断平面図
【図4】同上の変速装置の低速伝達状態を示す横断平面図
【図5】この発明の第2実施形態に係る変速装置の高速伝達状態を示す横断平面図
【図6】この発明の第3実施形態に係る変速装置の高速伝達状態を示す横断平面図
【図7】この発明の第4実施形態に係る変速装置の高速伝達状態を示す横断平面図
【図8】この発明の第5実施形態に係る変速装置の高速伝達状態を示す横断平面図
【図9】この発明の第6実施形態に係る変速装置の高速伝達状態を示す横断平面図
【図10】同上の変速装置の噛合状態をクランクアーム側から示す縦断右面図
【図11】同上の変速装置の中速伝達状態を示す横断平面図
【図12】同上の変速装置の低速伝達状態を示す横断平面図
【図13】この発明の第7実施形態に係る変速装置の高速伝達状態を示す横断平面図
【図14】同上の各ラチェット爪と切替部材の関係を示す側面図
【図15】同上の変速装置の中速伝達状態を示す横断平面図
【図16】同上の変速装置の低速伝達状態を示す横断平面図
【図17】同上のキック式切替機構の切替ペダルの動作を示す右面図
【図18】同上のキック式切替機構の内部構造を示す左面図
【符号の説明】
【0059】
1 クランク回転体
2,3,4 前側回転体
5 副軸
6,7,8 後側回転体
9 カラー
10 ニードル軸受
11 ギヤケース
12 スプロケット
13 固定部材
13a 基板部
13b 円筒部
14 切替ねじ
15 固定ボルト
16,17,18 ラチェット爪
19 ラチェット歯
20 切替部材
20a 山部
20b 谷部
20c 貫穴部
20d 中段部
20e ラチェット歯
21 切替体
21a 円板部
22 アーム
23 連結部
24 ワイヤ
25 戻しばね
26,27 チェーンケース
28 引張ばね
29 チェーン
30 歯付きベルト
31 内歯車
32 中間歯車
33 切替ペダル
33a 前踏部
33b 後踏部
33c 係合切込
34 支持軸
35 切替リング
35a 外突片
35b 内突片
36 係合軸
37 摺接部材
37a 押圧突起
38 取付板
39 押ばね
40 ラチェット爪
51 クランク軸
52 クランクアーム
53 クランクケース
53a ボス
53b ストッパ
54 フレーム
55 チェーン
56 ペダル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペダルの踏力により回転するクランク軸に固定したクランク回転体の周りに、変速段数に応じた複数の前側回転体を並べて配置し、クランク軸の後方に設けた副軸により各前側回転体に対して所定の速度比で連動する後側回転体を一体回転可能に支持し、クランク回転体に各前側回転体に対応するラチェット爪を設け、ラチェット爪が係合するラチェット歯を各前側回転体の内周側に形成し、ラチェット爪に接離する切替部材の操作に伴い、ラチェット爪をラチェット歯に係脱させて、駆動力を後側回転体へ伝達する前側回転体を切り替えることにより、クランク軸から後輪駆動用スプロケットへ伝達される回転の速度比を変化させて変速する自転車用変速装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自転車用変速装置において、前側回転体と後側回転体とを歯車とし、これらを互いに噛合させたことを特徴とする自転車用変速装置。
【請求項3】
請求項1に記載の自転車用変速装置において、前側回転体と後側回転体とをスプロケットとし、これらにチェーンを掛け渡したことを特徴とする自転車用変速装置。
【請求項4】
請求項1に記載の自転車用変速装置において、前側回転体と後側回転体とを歯付きプーリとし、これらに歯付きベルトを掛け渡したことを特徴とする自転車用変速装置。
【請求項5】
請求項1に記載の自転車用変速装置において、前側回転体のいずれかに内歯車を設け、歯車としたいずれかの後側回転体を内歯車に噛合させ、歯車とした他の前側回転体と後側回転体とを、中間歯車を介して噛合させたことを特徴とする自転車用変速装置。
【請求項6】
請求項1に記載の自転車用変速装置において、前側回転体のいずれかに内歯車を設け、歯車としたいずれかの後側回転体を内歯車に噛合させ、歯付きプーリとした他の前側回転体と後側回転体とに歯付きベルトを掛け渡したことを特徴とする自転車用変速装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の自転車用変速装置において、駆動力を伝達するラチェット爪のみがラチェット歯に噛合し、他のラチェット爪とラチェット歯との噛合が解除されるようにしたことを特徴とする自転車用変速装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の自転車用変速装置において、クランクアームに設けた切替ペダルの踏み込みに伴い、切替部材を回転させて、変速操作を行うようにしたことを特徴とする自転車用変速装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2006−306360(P2006−306360A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−169553(P2005−169553)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(304003837)有限会社藤原ホイル (12)