説明

航空機の窓、開口部の閉塞体、ガスケットシール

【課題】電磁ノイズを確実に防止しつつ、周囲の他の部位との間で電食が発生することのない航空機の窓、開口部の閉塞体、ガスケットシールを提供することを目的とする。
【解決手段】窓部21に電磁シールドメッシュ25が設けられ、電磁シールドメッシュ25と導電性材料からなる窓フレーム30との間にガスケットシール50が設けられている。ガスケットシール50の第一シール部51は、体積抵抗率が低く、これにより、窓部21と窓フレーム30との間から電磁ノイズが機内に侵入するのを防ぐ。また、窓部21の電磁シールドメッシュ25にウインドウパネル23A、23Bの外周側で接したガスケットシール50の第二シール部52は、体積抵抗率が例えば300Ωcm以上であり、クランプ28やクリップ29等の接触部分における腐蝕の発生を抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁シールドを有する航空機の窓、開口部の閉塞体、およびそれに用いるガスケットシールに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機は、ラジオ、テレビジョン、レーダー、送信機、および他のソースからの電磁環境 (Electro−Magnetic Environment)である高放射電界強度(HIRF: High Intensity Radiated Fields)に対し、巡航飛行中或いは離着陸時において、誤作動や不時の挙動(Up−Set)等が発生せず、安全に飛行できるようにしなければならない。このため、FAA(連邦航空局:Federal Aviation Administration)のRegulations(耐審要求)である、(14CFR)§§23.1308, 25.1317, 27.1317及び29.1317, High−intensity Radiated Fields (HIRF) protectionで要求されるHIRF保護対策を施さなければならない。
【0003】
以下の理由から、近年、航空機の電気/電子システムの保護の重要性は著しく増加している。
1)航空機の継続的な安全な飛行と着陸のために必要な機能を実行する 電気/電子システムへの、より大きな依存、
2)航空機の設計で用いられるある種の複合材による電磁遮蔽の低下、
3)データ・バスやプロセッサの動作速度の高速化、より高密度のICやカード、そして電子機器のより高い感度に伴う、電気/電子システムのHIRFに対するサセプティビリティ(感受性)の上昇、
4)使用周波数の特に1GHz以上の高周波帯域への拡大、
5)RF送信器の数と電力の増加に伴う、HIRF環境の苛酷さの上昇、
6)HIRFに曝された時に一部の航空機が受けた悪影響。
【0004】
一方、航空機内においては、携帯電話やゲーム機、ノート型パーソナルコンピュータ等の各種電子機器や航空貨物に付けられるアクティブタイプのRFID(Radio Frequency IDentification)タグ等のPED(Personal Electro Device)が発する電波や電磁ノイズ(以下、単に電磁ノイズと称する)により、例えば、管制塔との通信、所定のルートで飛行を行うための航法(Navigation)の通信や制御に悪影響が生じ得る。そこで、機内での各種電子機器の使用を控えることを乗客に求めているのは周知の通りである。
【0005】
航空機の機体は、一般に金属で形成されているため、キャビン(客席空間)からコックピット(フライトデッキ)や電子機器室へは、主にキャビンの窓、およびコックピットの窓を通して電磁ノイズが出入りする。そこで、障害となり得る電磁ノイズがコックピットや電子機器室に侵入するのを防ぐため、複数枚のアクリル等からなるウインドウパネルを積層してなるキャビンの窓に、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)、金、銀等の膜を挟み込んで設けることが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
一方、客室のキャビン窓においては、電磁シールドのために、ITO、金、銀等の膜からなる導電性膜、若しくは、銅、ニッケル等をメッキした導電性繊維(Woven Mesh)、銀等の導電性フィラーを含有したインクを透明なPET(ポリエチレンテレフタラート)等に印刷した印刷メッシュ、又は、金属を打ち抜いたエキスパンドメタル(金属製金網)等から成る、光線を透過させ、かつ電磁シールド性能を有した導電性膜が、ウインドウパネルの間に挟み込まれている。
【0007】
これらの電磁ノイズ侵入防止のために用いられている導電性膜は、機体に接地(Bonding)する必要がある。窓の外周部には、気密性ガスケットシール材を介して、アルミニウム等の導電性材料からなるリテーナ取付枠に、導電性材料からなるクランプ、クリップ等の固定金具で固定されている(例えば、特許文献2〜4参照。)。
【0008】
キャビン窓は、主にストレッチ・アクリルにより作られ、この窓全周に渡って嵌め込まれるガスケットシール材は、客室内の気圧を機体外部の低圧力より保持し、かつ、外部の雨や湿気を侵入させないよう、気密性シール特性を目的として、EPDMゴムやシリコンゴムによって作られている。
ところが、通常のEPDMゴムやシリコンゴムは、非導電性の材料であるため、電磁シールド効果はない。従って、電磁波はこのガスケットシールをあたかも開口スロット(電波の侵入口)として作用させ、波長が半分(1/2波長)以下の高周波帯では電磁波が減衰することなく、そのままガスケットシール材を通過し、機内に侵入することとなる。
【0009】
そこで、ガスケットシール材に金属等の導電性フィラーを混ぜて導電化し、これによって導電性膜とリテーナ取付枠を導通させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2003−523911号公報
【特許文献2】米国特許第2007/0137117号明細書
【特許文献3】米国特許第2008/0308677号明細書
【特許文献4】米国特許第7913385号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、ガスケットシール材に用いる導電性フィラーに、クランプ、クリップ材と異なる抵抗率を持つ材料を採用すると、湿気、湿度や塩水雰囲気環境下では、異種金属結合(Dissimilar Metals)による電食(Galvanic Corrosion)が発生してしまう。
市販の導電性ゴムは、Pure Ag、Ag/Cu、Ag/Al、Ni/Cu、Ni/Al、C、Ag/C、Ni/C等の金属またはグラファイト・カーボンによる導電性フィラーが混ざっており、これらの導電性ゴムシールとこれを接地させるアルミ製のクランプ、クリップ等の接地面とは、少なからず、異種金属結合となってしまい、湿気や湿度及び塩水噴霧環境下においては電食(Galvanic Corrosion)が発生し、機体構造側のアルミ材が腐食してしまうのである。
異種金属結合による電食を緩和する対策として、電位(Anodic Index、又は、Potential)差が同じとなる、例えば、ニッケル(Ni)、スズ(TIN)又は、クロム(Chromate)でアルミ材の接地面をメッキする方法があるが、メッキの前処理(研磨)、マスキング処理及びメッキ工程等のコストが相当掛かってしまう。アルミ材を耐腐食鋼(CRES: Corrosion Resistance Steel)に変える方法も有るが、航空機に使用するには、重量が重たくなるデメリットの方が大きい。
【0012】
この他、導電性耐食シーラントをアルミ側に塗布する対策も有るが、定期整備点検時のクランプ、クリップの交換時に再度塗布する手間が掛かるデメリットがある。
【0013】
このように、電食緩和対策のそれぞれにおいて専用の処理工程が追加となり、コスト上昇、又は重量増加に繋がる。
【0014】
また、例えば自動車や、他の分野の各種機器類等においても、窓や開口部を塞ぐ閉塞体において、外部からの電磁波の侵入を防ぐことが要求されつつあり、このような部品においては、上記したのと同様の問題が生じうる。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、電磁ノイズを確実に防止しつつ、周囲の他の部位との間で電食が発生することのない航空機の窓、開口部の閉塞体、ガスケットシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる目的のもとになされた本発明は、航空機の機体に形成された開口部に設けられた航空機の窓であって、窓本体と、開口部の内側に設けられ、導電性材料からなる窓フレームと、窓本体の外周部と窓フレームとの間に挟み込まれたガスケットシールと、ガスケットシールを介して窓本体を機体に固定する導電性材料からなる固定部材と、を有し、窓部は、透過性を有したウインドウパネルと、ウインドウパネルに積層され、導電性材料からなる電磁シールド膜と、を備え、ガスケットシールは、ウインドウパネルと窓フレームとの間に介在する導電性ゴム系材料からなる第一シール部と、電磁シールド膜の外周側に接するとともに、電磁シールド膜の外周に接触し、第一シール部とは体積抵抗率が異なる導電性ゴム系材料からなる第二シール部と、を有することを特徴とする。
ここで、第一シール部の体積抵抗率を、第二シール部の体積抵抗率よりも小さくすれば、第一シール部においては、ウインドウパネルと窓フレームとの間で電磁ノイズの侵入や漏出を防ぐことができる一方、第二シール部においては、窓本体を機体に固定する導電性材料からなる固定部材との間で電食が生じるのを防ぐことができる。
【0016】
ここで、第一シール部の体積抵抗率は、例えば10-3〜5Ωcmとすることができる。また、第二シール部の体積抵抗率は、300〜10Ωcmとすることができる。
このような第一シール部と第二シール部は、導電性ゴム系材料どうしの高分子結合により一体化するのが好ましい。
【0017】
また、本発明は、用途を航空機の窓に限るものではなく、物品に形成された開口部を塞ぐ閉塞体であって、閉塞体本体と、閉塞体本体の外周部と開口部との間に挟み込まれたガスケットシールと、を有し、閉塞体本体は、パネル状の閉塞体パネルと、閉塞体パネルに積層され、導電性材料からなる電磁シールド膜と、ガスケットシールを介して閉塞体本体を開口部に固定する導電性材料からなる固定部材と、を備え、ガスケットシールは、閉塞パネルと開口部との間に介在する導電性ゴム系材料からなる第一シール部と、電磁シールド膜の外周部に接触し、第一シール部とは体積抵抗率が異なる導電性ゴム系材料からなる第二シール部と、を有することを特徴とする開口部の閉塞体とすることもできる。
この場合、ガスケットシールと開口部との間には、導電性材料からなるフレームを設けても設けなくても良い。
【0018】
本発明は、物品に形成された開口部と、開口部を塞ぐ閉塞体との間に挟み込まれる環状のガスケットシールであって、閉塞体の一面側に設けられ、導電性ゴム系材料からなる第一シール部と、閉塞体の他面側に設けられ、第一シール部とは体積抵抗率が異なる導電性ゴム系材料からなる第二シール部と、を有することを特徴とすることもできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ガスケットシールを、その体積抵抗率が互いに異なる第一シール部と第二シール部とから構成することにより、ウインドウパネルや閉塞体と、窓フレームや開口部との間で電磁ノイズの侵入や漏出を防ぐことができる一方、固定部材との間で電食が生じるのを防ぐことが可能となる。これにより、軽量な材料を用いて、簡易かつ低コストに電磁ノイズ防止効果、電食抑止効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施の形態における航空機の窓を示す斜視図である。
【図2】航空機の窓の断面図およびガスケットシールの断面図である。
【図3】ガスケットシールの体積抵抗率を変化させた場合の電磁波減衰効果を示す図である。
【図4】塩水噴霧試験の方法および結果を示す図である。
【図5】本実施形態の他の例を示す図であり、ドア窓に本発明を適用した場合の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態における航空機10のキャビン窓(窓、閉塞体本体)20の構成を説明するための図である。
図1に示すように、キャビン窓20は、航空機10の機体の側面に設けられている。キャビン窓20は、航空機10の機体を構成する導電性材料からなる外皮11に形成された開口12に取り付けられている。キャビン窓20は、窓部21と、その外周部の全周を囲う窓フレーム30とを有している。
【0022】
図2(a)に示すように、窓部21は、複数枚、本実施形態では、2枚のストレッチ・アクリル板からなるウインドウパネル(閉塞体パネル)23A、23Bを積層することで構成されている。ここで、本実施形態においては、キャビン窓20は、ウインドウパネル23A、23Bの全てがストレッチ・アクリル製とされ、ウインドウパネル23A、23Bの間に積層用にポリウレタン(Polyurethane)等からなる樹脂フィルム24が挟み込まれたラミネート・タイプとされている。この他に2枚のウインドウパネル23A、23Bの間を空気層としたエアー・ギャップ・タイプも有る。
【0023】
ここで、機体外方側のウインドウパネル23Aは、その外周部に、機体内側から外側に向けて漸次窄まるテーパ部23tが形成されている。
【0024】
ウインドウパネル23Aと樹脂フィルム24の間には、電磁シールドのための銅(Cu)、黒色ニッケル(Ni)等をメッキしたポリエステル繊維からなる電磁シールドメッシュ(電磁シールド膜)25が形成されている。電磁シールド膜としては、この電磁シールドメッシュ25の代わりに、印刷メッシュ、金属製エキスパンドメタル、又は、ITO、金、銀等の導電性材料からなる導電性シールド薄膜を用いることもできる。
【0025】
ウインドウパネル23A、23Bに挟まれた電磁シールドメッシュ25はウインドウパネル23A、23Bと同等の面積を有しており、その外周部は、窓部21の外周部に露出している。
窓部21の外周端面21sには、導電性ペースト26がその全周にわたって塗布されており、これによって、ウインドウパネル23A、23Bに挟み込まれた電磁シールドメッシュ25と導電性ペースト26とが電気的に導通されている。また、この導電性ペースト26により、湿気がラミネートしたウインドウパネル23A、23Bの間に侵入することがないよう設計されている。
【0026】
窓フレーム30は、例えばアルミ合金からなり、外皮11の内周面に突き当たる固定プレート部31と、外皮11に形成された開口の内側に臨み、窓部21の外周部に突き当たるウインドウパネル保持部32と、ウインドウパネル保持部32から機体内側に延びる縁壁部33と、を有する。
窓フレーム30は、アルミ合金等の導電性材料からなり、固定プレート部31において、導電性材料からなるボルト・ナット35により外皮11に固定されるとともに、このボルト・ナット35により外皮11と電気的に導通されている。
ウインドウパネル保持部32には、機体内側を向いて、機体内側から機体外側に向けて漸次窄まるテーパ面32tが形成されている。
【0027】
このようなウインドウパネル23A、23Bの外周部と窓フレーム30との間には、導電性シリコンゴム材料からなるガスケットシール50が設けられている。ガスケットシール50は、ウインドウパネル23A、23Bの外周部の全周を囲うよう、環状に設けられている。
図2(a)、(b)に示すように、ガスケットシール50は、窓フレーム30に突き当たる第一シール部51と、機内側で窓部21に沿う第二シール部52と、を有する。
第一シール部51は、その一面側が機体外方側のウインドウパネル23Aのテーパ部23tに沿い、他面側がウインドウパネル保持部32のテーパ面32tに突き当たるよう設けられている。
また、第二シール部52は、窓部21において機内内側に臨むウインドウパネル23Bの機内側表面23cに沿う縁部52aと、窓部21の外周端面21sに沿う外枠部52bとからなる断面L字状をなしている。ここで、外枠部52bは、窓部21の外周端面21sにおいて、導電性ペースト26が塗布された部分に密着するよう設けられている。
【0028】
このような第一シール部51および第二シール部52は、互いに体積抵抗率が互いに異なる導電性ゴム材料から形成されている。
第一シール部51は、第二シール部52に対し、その体積抵抗率が低い導電性ゴム材料から形成され、第二シール部52は、第一シール部51よりも体積抵抗率が高い導電性ゴム材料から形成されている。具体的には、第一シール部51は、例えば、体積抵抗率が10-3〜5Ωcmの導電性シリコンゴム材料から形成されている。一方、第二シール部52は、体積抵抗率が、例えば300〜10Ωcmの導電性シリコンゴム材料から形成されている。これらの導電性シリコンゴム材料としては、例えば、導電性EPDMゴムを用いることができる。第一シール部51と第二シール部52とで、体積抵抗率を異ならせるには、ベースとなるシリコンゴム材料に混入させる、Ag、Ag/Cu、Ag/Al、Ni/Cu、Ni/Al、C、Ag/C、Ni/C等の導電性材料からなるフィラーの混合比を異ならせればよい。
そして、これら第一シール部51と第二シール部52は、熱硬化によるキュア処理によって、シリコンゴム同士による高分子結合がなされ、互いに剥離することがない分子間結合による一体化構造とされている。
【0029】
このようなガスケットシール50により、ウインドウパネル23A、23Bに挟み込まれた電磁シールドメッシュ25が、導電性ペースト26を介して第二シール部52に電気的に導通されている。
【0030】
ガスケットシール50の第二シール部52は、その裏に設けられたクランク状の形状を有したクランプ(固定部材)28の一端部28aによりウインドウパネル23Aに押さえつけられ、クランプ28の他端部28bは、断面L字状のクリップ(固定部材)29を介して窓フレーム30の縁壁部33に連結されている。ここで、クランプ28、およびクリップ29は、窓フレーム30と同様、例えばアルミ合金製とされ窓フレーム30に導通されている。
これによって、電磁シールドメッシュ25が、導電性ペースト26、第二シール部52、クランプ28、クリップ29を介して窓フレーム30に電気的に導通されている。
なお、クランプ28による接地箇所は最小のポイントとするが、シールド性能を向上させるためガスケットシール50の全周に連続するようなクランプ28としても良い。
【0031】
上述したような構成によれば、窓部21に電磁シールドメッシュ25が設けられ、この電磁シールドメッシュ25と導電性材料からなる窓フレーム30との間にガスケットシール50が設けられている。これにより、窓部21と外皮11との間に電気的に隙間なく導電性材料からなる膜を形成することができ、電磁ノイズのキャビンへの侵入を確実に防止することができる。このとき、ガスケットシール50の機体外側において窓部21と窓フレーム30との間に介在する第一シール部51は、体積抵抗率が低く、これにより、窓部21と窓フレーム30との間から電磁ノイズが機内に侵入するのを確実に防ぐことができる。
また窓部21の電磁シールドメッシュ25は、ウインドウパネル23A、23Bの外周側でガスケットシール50の第二シール部52、クランプ28、クリップ29を介して窓フレーム30に電気的に接地されている。このとき、第一シール部51は、体積抵抗率が高いので、クランプ28やクリップ29等の接触部分における腐蝕の発生を抑えることができる。
【0032】
[実施例]
ここで、ガスケットシールの体積抵抗率を変化させた場合の電磁波減衰効果を検証した。
厚さt1=9.5mm、t2=4mm、外形寸法248mm×348mmの2枚のアクリル板の外周部に、図2に示したようなガスケットシールを設け、IEEE STD-299-2006 「IEEE Standard Method for Measuring the Effectiveness of Electromagnetic Shielding Enclosures」に準拠した電磁シールド試験を行った。ここで、ガスケットシールは、非導電性とした比較例の他、体積抵抗率を1.7Ωcm(実施例1)、5Ωcm(実施例2)、210Ωcm(実施例3)、310Ωcm(実施例4)のものを用意した。また、アクリル板には、比較例を除き、表面抵抗0.15Ω/□の銅メッキ及び黒色ニッケル・メッキされたモノフィラメントのポリエステル繊維からなるシールドメッシュ材を積層して試験を行った。
【0033】
その結果、図3に示すように、体積抵抗率の高い実施例3、4でも減衰効果が得られるものの、低周波域では減衰効果が小さい。これに対し、実施例1、2のように、ガスケットシールの体積抵抗率を5Ωcm以下とすれば、100MHzから18GHzの周波数全域において、電磁波に対して少なくとも20dB以上の減衰効果を得ることが出来た。
【0034】
また、ガスケットシールの体積抵抗率を、5Ωcm、310Ωcmで示した場合について、塩水噴霧試験で腐食の発生具合を確認した。これには、A2024アルミニウム合金からなるプレートに、アロダイン処理を施したものに、体積抵抗率が5Ωcm、310Ωcmのガスケットシールの試験片を固定し、500時間にわたり塩水を噴霧した。そして、噴霧終了号、168時間後に、アルミプレート上で、腐食の有無を確認した。
その結果、図4(b)に示すように、体積抵抗率を5Ωcmとした試験片が接触していた部位には電食が生じたが、体積抵抗率を310Ωcmとした試験片が接触していた部位には電食の発生が認められなかった。
体積抵抗率が310Ωcmまでであれば、キャビン窓を固定する部分を、電気的に導通を有するアルミ材料の表面に化成皮膜処理(MIL−DTL−5541 Class 3, MIL−DTL−81706 Class 3)を施すことによって接地(Bonding)面を形成した場合でも、高抵抗率の導電性ゴム材料であるため、湿気、湿度、または塩水噴霧環境下で、電食が発生するのを防ぐことができる。
【0035】
なお、上記したような構成は、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で適宜変更することが可能である。以下、その変形例を挙げる。なおここで、以下の変形例において、上記に示した構成と共通する構成については同符号を付してその説明を省略する。
まず、上記構成は、キャビン窓20について説明したが、航空機のドアに設けられたドア窓、操縦席や操縦席の側面に設けた窓にも適用することができる。さらには扉や、エスケープハッチ等の開口部の圧力シールやガスケットを導電化する場合にも本発明を適用できる。
図5は、ドア窓(窓、閉塞体本体)60に本発明を適用した場合の構成を示す図である。この図5に示すように、ドア窓60においては、前記の電磁シールドメッシュがウインドウパネル(閉塞体パネル)61Aと62Bとの間に設けられている。構成は、図2に示したキャビン窓20と同様である。これにより、電磁シールドメッシュ(電磁シールド膜)63の端に導電性ペースト64を介してガスケットシール65が導電性ペースト64と電気的に接続され、さらに、ガスケットシール65は、体積抵抗率が低い導電性ゴム材料からなる第一シール部51と、第一シール部51よりも体積抵抗率が高い導電性ゴム材料からなる第二シール部52とから形成されている。そして、ガスケットシール65は、全周で窓リテーナ(固定部材)66を介して窓フレーム67に電気的に接地されている。
【0036】
上記した構成では、第一シール部51と第二シール部52は、熱硬化によるキュア処理によって分子間結合による一体化された構造としたが、これに限るものではなく、射出成形による二色成形で形成することもできる。
また、上記に示した構成では、ウインドウパネル23A、23Bをストレッチ・アクリル製としたが、これをポリカーボネート樹脂製としたり、ガラス製とすることも可能である。
さらに、航空機用途に限らず、開口部を塞ぐ閉塞体において電磁シールドを図りたい場合であれば、本発明を同様に適用することができ、その用途は限るものではない。例えば、自動車用のウインドウやサンルーフ、電子機器のモニター、各種カメラのレンズ保護フィルタ等がある。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0037】
10 航空機
11 外皮
12 開口
20 キャビン窓(窓、閉塞体本体)
21 窓部
21s 外周端面
23A、23B、61A、61B ウインドウパネル(閉塞体パネル)
24 樹脂フィルム
25、63 電磁シールドメッシュ(電磁シールド膜)
26、64 導電性ペースト
28 クランプ(固定部材)
29 クリップ(固定部材)
30、67 窓フレーム
31 固定プレート部
32 ウインドウパネル保持部
33 縁壁部
35 ボルト・ナット
50 ガスケットシール
51 第一シール部
52 第二シール部
60 ドア窓(窓、閉塞体本体)
66 窓リテーナ(固定部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の機体に形成された開口部に設けられた航空機の窓であって、
窓本体と、
前記開口部の内側に設けられ、導電性材料からなる窓フレームと、
前記窓本体の外周部と前記窓フレームとの間に挟み込まれたガスケットシールと、
前記ガスケットシールを介して前記窓本体を前記機体に固定する固定部材と、
を有し、
前記窓部は、透過性を有したウインドウパネルと、前記ウインドウパネルに積層され、導電性材料からなる電磁シールド膜と、を備え、
前記ガスケットシールは、前記ウインドウパネルと前記窓フレームとの間に介在する導電性ゴム系材料からなる第一シール部と、前記電磁シールド膜の外周部に接触し、前記第一シール部とは体積抵抗率が異なる導電性ゴム系材料からなる第二シール部と、を有することを特徴とする航空機の窓。
【請求項2】
前記第一シール部の体積抵抗率は、前記第二シール部の体積抵抗率よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の航空機の窓。
【請求項3】
前記第一シール部の体積抵抗率は、10-3〜5Ωcmであることを特徴とする請求項2に記載の航空機の窓。
【請求項4】
前記第二シール部の体積抵抗率は、300〜10Ωcmであることを特徴とする請求項2または3に記載の航空機の窓。
【請求項5】
前記第一シール部と前記第二シール部は、前記導電性ゴム系材料どうしの高分子結合により一体化されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の航空機の窓。
【請求項6】
物品に形成された開口部を塞ぐ閉塞体であって、
パネル状の閉塞体本体と、
前記閉塞体本体の外周部と前記開口部との間に挟み込まれたガスケットシールと、
前記ガスケットシールを介して前記閉塞体本体を前記物品の前記開口部に固定する固定部材と、を有し、
前記閉塞体本体は、パネル状の閉塞体パネルと、前記閉塞体パネルに積層され、導電性材料からなる電磁シールド膜と、を備え、
前記ガスケットシールは、前記閉塞パネルと前記開口部との間に介在する導電性ゴム系材料からなる第一シール部と、前記電磁シールド膜の外周に接触し、前記第一シール部とは体積抵抗率が異なる導電性ゴム系材料からなる第二シール部と、を有することを特徴とする開口部の閉塞体。
【請求項7】
物品に形成された開口部と、前記開口部を塞ぐ閉塞体との間に挟み込まれる環状のガスケットシールであって、
前記閉塞体の一面側に設けられ、導電性ゴム系材料からなる第一シール部と、前記閉塞体の他面側に設けられ、前記第一シール部とは体積抵抗率が異なる導電性ゴム系材料からなる第二シール部と、を有することを特徴とするガスケットシール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−60136(P2013−60136A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200692(P2011−200692)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【特許番号】特許第5060647号(P5060647)
【特許公報発行日】平成24年10月31日(2012.10.31)
【出願人】(508208007)三菱航空機株式会社 (32)
【Fターム(参考)】