説明

航空機の車輪及びブレーキの集合体

【課題】着陸装置を変更することを必要としない回転式駆動装置が取り付けられた制動航空機車輪を提供する。
【解決手段】本発明は、航空機の車輪及びブレーキの集合体であって、車輪(10)が、航空機の車軸に回転軸線(X)回りに回転するように取り付けられたリム(11)を含み、ブレーキ(20;120)が、稼働中にリム内部に延びるディスク(22)の積層体と、複数の前記ディスクを共に選択的に押圧するために、ディスクの積層体に対向するブレーキアクチュエータ(24)を支持する支持体(23)とを含む、当該車輪及びブレーキの集合体において、前記支持体(23)が、車輪を回転駆動するための少なくとも1つの回転式駆動部材(30)を支持し、この駆動部材が、前記車輪の外側に延びるように支持される、航空機の車輪及びブレーキの集合体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の主着陸装置の車輪を動力化することに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料を節約し、地上でのジェットエンジンの作用によって発生される騒音及び汚染を減少することを可能にするために、飛行場にいる間に推進エンジンを使用することなく、航空機の車輪を動力化することによって、航空機を移動させることが提案されている。その点に関して、様々な提案がなされてきている。具体的には、車輪のリム内に直接置かれるモータによって、航空機の車輪を動力化することが提案されてきた。しかしながら、主着陸装置の車輪にはブレーキが取り付けられるので、リム内部の空間は概して、ブレーキにより全体が占められ、その結果、モータの配置を想定することができない。
【0003】
ブレーキのトルクチューブを、車輪を支持する車軸上で自由回転させ、かつ電動モータにより車輪を回転駆動させることが提案されている。車輪を回転するために、対応するブレーキを作動させることによって、トルクチューブに車輪を固定することが望ましい。しかしながら、電気モータは、制動中にディスクによって発生された制動トルクに反対することによってトルクチューブを静止しておかなければならず、したがって、それに応じて寸法設定されなければならない。この配置は、ブレーキを非常に複雑にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、着陸装置を変更することを必要としない回転式駆動装置が取り付けられた制動航空機車輪を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を達成するために、本発明は、航空機の車輪及びブレーキの集合体であって、
車輪が、航空機の車軸に回転するように取り付けられたリムを含み、
ブレーキが、
稼働中にリム内部に延びるディスクの積層体と、
ディスクの積層体に対向するブレーキアクチュエータを支持するアクチュエータキャリヤと、
を含み、
アクチュエータキャリヤがさらに、車輪を回転駆動するための少なくとも1つの回転式駆動部材を当該車輪及びブレーキの集合体に支持し、
当該車輪及びブレーキの集合体の回転式駆動部材が、リムの外側に延びる、
車輪及びブレーキの集合体を提供する。
【0006】
したがって、回転式駆動部材は、アクチュエータキャリヤによって支持され、このことにより着陸装置自体の変更を必要とせず、着陸装置がロッカアーム(rocker arm)に取り付けられ、又は車輪が着陸装置の摺動ロッドによって支持されている場合には摺動ロッドの前若しくは後ろに取り付けられるならば、回転式駆動部材は、有利には、あらゆる干渉のない領域に、例えば着陸装置のロッカアームの上の領域に延びるのに適している。こうした領域では、利用可能な空間がリムの内側よりもずっと広く、したがって、一定の体積の駆動部材を提供することができる。
【0007】
好ましい構成において、アクチュエータキャリヤは、支持体回りに回転するように取り付けられたリングギヤを支持し、リングギヤが車輪と回転される一方で、リングギヤは、回転式駆動部材によって駆動される。
【0008】
この構成では、リングギヤは、回転式駆動部材と車輪との間で相当な程度の減速を可能にする大きさの直径を有する。
【0009】
好ましくは、リングギヤは2つの部材を具備し、その一方は駆動部材と共に回転され、他方は車輪と共に回転され、連結器手段は、リングギヤの両方の部材を共に選択的に回転させることを可能にする。したがって、車輪から回転式駆動部材を分離することができ、その結果、前記車輪は、回転式駆動部材によって減速され又はそれどころか停止されることもなく、自由回転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の特定の実施形態における2つの車輪及びブレーキの集合体を支持する着陸装置であって、さらに明確にするために、1つの集合体のみが示される、当該着陸装置の部分断面正面図。
【図2】図1の車輪及びブレーキの集合体に回転するように設けられた回転式駆動部材の拡大断面図。
【図3】リングギヤの2つの部材同士の間の連結器手段の部分平面図。
【図4】駆動部材を支持するアクチュエータキャリヤの斜視図。
【図5】本発明の第2の特定の実施形態において、2つの車輪及びブレーキの集合体が取り付けられた主着陸装置の正面図。
【図6】一方の車輪と対応するアクチュエータキャリヤとが省略されている、図5の着陸装置の部分側面図。
【図7】図5及び図6の一方の車輪及びブレーキの集合体の局所断面線図。
【図8】本発明の変形実施形態における車輪及びブレーキの集合体の局所断面線図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、添付の図面の図の以下の記載によってさらに良好に理解されることができる。
【0012】
図1を参照して、本発明は、着陸装置の両側に2つの車輪及びブレーキの集合体3を受け取るための車軸2を支持する底部を有する着陸装置1への適用について示される。これらの集合体の1つのみがこの図に示される。
【0013】
各集合体は、
・ タイヤ12を受け取るリム11(ここでは、2つのハーフリムを具備する。)を具備する車輪10であって、ベアリングにより車軸2に回転軸線X回りに回転するように取り付けられている、車輪10、及び、
・ ブレーキ20であって、回転方向に静止するように着陸装置にボルト締めされたトルクチューブ21と、トルクチューブ21とリム11との間に延びるディスク22であって、交互のディスクが、リム11及びトルクチューブ21と共に回転されるディスク22と、トルクチューブ21に固定され、かつこの例では液圧アクチュエータであるブレーキアクチュエータ24を支持するアクチュエータキャリヤ23であって、各ブレーキアクチュエータ24が、アクチュエータキャリヤ23の空洞内で摺動するように取り付けられたピストンを具備する、アクチュエータキャリヤ23とを具備する、ブレーキ20、
を具備する。当然に、アクチュエータは、これに限らず、この例と同様にアクチュエータキャリヤの構造内に組み込まれた電気タイプのものであってもよく、又は独立して取り外し可能なものであってもよい。
【0014】
本発明において、アクチュエータキャリヤ23は、特にこの例では電気ギヤ付きモータ30である回転式駆動部材を支持し、当該電気ギヤ付きモータ30はリングギヤ31を回転駆動し、当該リングギヤ31は、前記アクチュエータキャリヤに車輪10の回転軸線X回りに回転するために、アクチュエータキャリヤ23の周囲に取り付けられる。
【0015】
図4は、ブレーキアクチュエータ24及びギヤ付きモータ30を支持するアクチュエータキャリヤ23を明確に示す。リングギヤ31は、リングギヤ31を保護するためにアクチュエータキャリヤ23の周りに拡がるケーシング33内部に収容されるという理由から、この図では見えない。図1は、ギヤ付きモータが着陸装置の摺動ロッドの前に位置するように、アクチュエータキャリヤ23が車輪の回転軸線X回りに角度をもって配置されることを示す。他の車輪では、アクチュエータキャリヤは、対応するギヤ付きモータが第1の車輪のギヤ付きモータと干渉しないように角度的に配置される。したがって、ギヤ付きモータは、互いに干渉することなく又は着陸装置の構造と全く干渉することなく空間を占める。
【0016】
さらに厳密には、図2を参照して、ギヤ付きモータ30は、この例では対応する車輪の回転軸線に対して平行に延びる回転軸線X回りに回転するように取り付けられたステータ41及びロータ42を有する環状電気モータをまず具備する。ロータ42は、遊星減速ギヤの太陽ギヤ44を形成する入口シャフト43に回転するように結合され、当該遊星減速ギヤは、図で理解されることのできる遊星ギヤ45を有する。前記遊星ギヤは、静止リングギヤ46と協働し、出口シャフトを有する遊星キャリヤ47によって支持され、出口シャフトは、その端部で出口ピニオン48を受け取る。
【0017】
出口ピニオン48は、リングギヤ31を回転するために前記ギヤと協働し、したがって、結合ピン32によって車輪を回転駆動する。この例では、リングギヤ31は、十分な減速が出口ピニオン48とリングギヤ31との間で得られるように、リムの直径にほぼ等しい大きな直径から構成され、この減速は、ギヤ付きモータ30の遊星ギヤによって提供される減速である。
【0018】
この例では、注目すべきは、実際上リングギヤ31が2つのハーフギヤ31a,31bで構成され、その両方が同じ回転軸線回りに回転するように取り付けられていることである。ハーフギヤ31aは、出口ピニオン48によって直接に回転駆動される一方で、ハーフギヤ31bは、結合ピン32により車輪10に結合される。2つのハーフギヤは、互いから独立してアクチュエータキャリヤ23に回転するように取り付けられるが、半径方向歯を有しかつ図3で見ることができる連結器部材49によって共に選択的に連結されることができる。この例では、連結器部材49は、アクチュエータキャリヤ23内で延びる環状電磁石50の働きによってハーフギヤ31aの対応する半径方向歯と嵌合するために、軸線方向にハーフギヤ31b上に移動させるように取り付けられたかみあいクラッチの形をとる。したがって、2つのハーフギヤ31a,31b、すなわちギヤ付きモータ30及び車輪10を、要求に応じて共に結合し又は分離することができる。図3は、分離されている図に示された位置と、かみあいクラッチ49の歯がハーフギヤ31aの歯と嵌合する結合位置との間での、電磁石50の働きによるかみあいクラッチ49の可能性のある移動を示す。
【0019】
ギヤ付きモータ30及び車輪10は、ギヤ付きモータ30によって車輪10を駆動することを所望するとき、又はギヤ付きモータ30によって車輪10を制動し、次いでギヤ付きモータ30が発電機として作用することを所望するときに、共に結合される。
【0020】
したがって、アクチュエータキャリヤに配置されたギヤ付きモータによって車輪を駆動するには、着陸装置の機械的なインターフェースのいかなる変更をも必要としない。当然に、着陸装置の下方にギヤ付きモータまで電力ケーブルを延ばすことが必要である。したがって、当然に、ギヤ付きモータは、ギヤ付きモータのための空間をつくるために着陸装置を変更することが必要とならないように、空いている領域に配置される。ギヤ付きモータ及びリングギヤを収容するために変更されたブレーキアクチュエータキャリヤは別として、唯一の変更は、車輪のリムに結合ピン32を受け取るための突出部を設けることである。
【0021】
図5及び図6は、本発明の特定の実施形態の車輪及びブレーキの集合体103を示し、当該集合体は、この例では2つの車輪ブレーキ組立体を含む主着陸装置に取り付けられる。車輪110に加えて、これらの図は、アクチュエータキャリヤ120であって、各アクチュエータキャリヤ120が、リングギヤ(図示しない)及びギヤ付きモータ130を保護するケーシング133によって取り囲まれているアクチュエータキャリヤ120を示す。
【0022】
1つの車輪及び対応するアクチュエータキャリヤが、対応するギヤ付きモータが残るように省略される図6では、2つのギヤ付きモータ130が、タイヤ112同士の間の空間に、一方のギヤ付きモータの下に他方のギヤ付きモータが余裕を持って収容されていることが理解できる。
【0023】
図7にさらに具体的に見ることができる本発明の特定の態様において、ギヤ付きモータ130、リングギヤ131及びそのケーシング133から構成される集合体は、ダンパ手段、この例では特に、粘弾性挙動を示すサイレントブロックブッシュ(silent−block bushing)150及びダンパスタッド(damper stud)151を介在させることによってアクチュエータキャリヤ123に置かれる単一ユニット140を形成し、当該ダンパ手段は、制動によって発生され得る温度と両立可能であり、
・ ダンパ手段が、アクチュエータキャリヤ123がブレーキアクチュエータにより及ぼされる制動応力によって受け取る変形がリングギヤ131の回転の案内を損なわないように、当該変形を吸収することを可能にし、
・ ダンパ手段が、車輪及びブレーキの集合体の残りの部分にギヤ付きモータ130の突出する配置によって引き起こされる振動を伝達することを避けるために、前記振動をフィルタする、
いくつかの役割を果たす。
【0024】
本発明のさらなる他の特定の態様において、リングギヤ131は、車輪のリムにもはや固く接続されず、しかしながら図7に概略的に示された、例えば金属バネである弾性接続手段152を使用して接続される。こうした弾性接続手段は、リングギヤ131に対するリム111の変形又は移動を吸収することを可能にする。
【0025】
図8に示された変形実施形態において、リングギヤ231は、単一の要素であり、したがって、この実施形態では弾性接続手段252によって、車輪210のリム211と共に永続的に回転される。
【0026】
この実施形態では、遊星キャリヤ247の出口シャフトには、同軸歯付きホイール248cに、出口シャフトに固定された基部248aを選択的に結合するために、当該基部248a及び連結作用部248bを具備する出口ピニオン248が取り付けられる。連結作用部248bは、リングギヤ231からすなわち車輪210からギヤ付きモータの動力を要求に応じて、結合し又は分離するようにすることができる。この配置は、ケーシング233及びリングギヤ231の構造を簡易化する。
【0027】
本発明は、上の記載に制限されないが、それに反して、特許請求の範囲によって画定される範囲内のあらゆる変形を含む。
【0028】
具体的には、この例では回転式駆動部材は電気ギヤ付きモータであるが、当然に、液圧モータなどの他の回転式駆動部材が使用されてもよい。この例ではギヤ付きモータにはモータと同軸の遊星減速ギヤが取り付けられるが、当然に、他の減速部材を使用してもよく、当該他の減速部材がモータと同軸である必要もない。
【0029】
この例において、本発明は、車軸によって支持された車輪を有する着陸装置であって、当該車軸について前記着陸装置の摺動ロッドの基部に直接に取り付けられている着陸装置への適用が説明されたが、本発明の車輪及びブレーキの集合体を、ロッカアームによって支持された車輪を有する着陸装置に取り付けることもできる。したがって、空間が利用できる場所であればどこでも、回転式駆動部材が例えばロッカアームの上方又は下方に延びることが、確保されるべきである。
【0030】
単一の駆動部材を収容するアクチュエータキャリヤが記載されているが、当然に、アクチュエータキャリヤには、複数の回転式駆動部材が取り付けられてもよく、各駆動部材はリングギヤと協働する。
【0031】
この実施形態では、車輪に回転式駆動部材を選択的に結合するための駆動する連結器手段(連結器部材49、電磁石50及び連結作用部248b)がリングギヤに取り付けられたが、前記結合が車輪の回転又は制動を妨げることなく車輪に永続的に結合され続ける回転式駆動部材を提供するならば、そのような連結器手段を省略してもよい。最後に、リングギヤを、車輪が回転式駆動部材によって直接に駆動されることを確保することによって、省略してもよい。この目的を達成するために、歯又は凹凸の駆動部分を有する車輪を取り付けると適切である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の車輪及びブレーキの集合体であって、
車輪(10;110)が、航空機の車軸に回転軸線(X)回りに回転するように取り付けられたリム(11;111)を含み、
ブレーキ(20;120)が、
稼働中にリム内部に延びるディスク(22)の積層体と、
複数の前記ディスクを共に選択的に押圧するために、ディスクの積層体に対向するブレーキアクチュエータ(24)を支持するアクチュエータキャリヤ(23;123)と、
を含み、
アクチュエータキャリヤが、回転式駆動部材(30;130)がリムの外側に延びるように、車輪を回転駆動するための少なくとも1つの回転式駆動部材(30;130)を支持する、
航空機の車輪及びブレーキの集合体において、
前記アクチュエータキャリヤが、リングギヤ(31;131)を支持し、
当該リングギヤが、アクチュエータキャリヤ(23;123)に車輪の回転軸線(X)回りに回転するように取り付けられ、かつ回転式駆動部材(30;130)によって回転駆動され、
前記リングギヤは、前記車輪を回転駆動するために、車輪に固定されている、
航空機の車輪及びブレーキの集合体。
【請求項2】
リングギヤ(31;131)が、2つのハーフギヤを具備し、
第1のハーフギヤ(31a;131a)が、回転式駆動部材によって直接に回転駆動され、
第2のハーフギヤ(31b;131b)が、車輪と共に直接に回転され、
連結器手段(49,50)が、第1及び第2のハーフギヤを共に回転するように選択的に接続するために配置される、
請求項1に記載の航空機の車輪及びブレーキの集合体。
【請求項3】
前記連結器手段が、ギヤ付きモータの出口シャフトと、リングギヤ(231)と共に噛み合うように取り付けられた歯付きホイール(248c)との間に配置された連結作用部(248b)を具備する、
請求項1に記載の航空機の車輪及びブレーキの集合体。
【請求項4】
駆動部材及びリングギヤが、単一ユニット(140)に含まれ、
当該単一ユニットが、アクチュエータキャリヤに介在するダンパ手段(150,151)を有するアクチュエータキャリヤに置かれる、
請求項1に記載の航空機の車輪及びブレーキの集合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−131878(P2011−131878A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−285864(P2010−285864)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(591131361)メシエ−ブガッティ (64)
【氏名又は名称原語表記】MESSIER BUGATTI