説明

航空機用座席装置

【課題】プライベート空間を確保できる航空機用座席装置を提供する。
【解決手段】航空機用座席装置1は前後に連設され、傾動が可能なシートバック10は、傾倒したリクライニング状態のときに、着座者の頭頂部への後席の着座者からの視線を遮蔽可能な薄板状の遮蔽シート100と、この遮蔽シート100を出し入れ自在に収納可能なシート収納部110とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前後に連設され、シートバックの傾動が可能な航空機用座席装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、航空機用の座席装置には、シートバックの上端部両側に着座者の耳辺りや側頭部を支持する機能を有したイヤーサポートが設けられている。このイヤーサポートは、前記機能の他にも、隣の着座者の視野をある程度まで遮って、着座者のプライベート空間を確保する機能を有している。
【0003】
しかしながら、航空機用の座席装置には、シートバックを大きく傾斜させて、シート全体をベッドに近い状態(ベッド状態)にできるものがあり、このような座席装置をベッド状態にしたときには後席の着座者の視野や他にも後方に居る人物の視野に顔が入ってしまう。ところが、上記のようなイヤーサポートでは、後席の着座者の視野を遮ることができない。通常、座席装置がベッド状態になるまでシートバックを倒すときは、通常の着座状態よりもさらにくつろぎたいときや睡眠を取りたいときであることが多い。しかし、他者の視野内に自身の顔が入っている状態ではよりくつろぐことも睡眠を取ることもし難く、また、後席の着座者にとっても前方に前席の着座者の顔が入っているのでは落ち着かない。
【0004】
そこで、これらの不都合を解決するために、座席の後方へフード装置を配し、フード本体の周壁部の両側壁および後壁で囲まれたプライベート空間に、ベッド状態になるまで後倒したシートバックの上部が嵌まり込むようにしたものが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
すなわち、隣席および後席の着座者の視線を遮ることによって着座者のプライベート空間を十分に確保しようとするものである。
【0006】
【特許文献1】特開平10−80336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような従来の技術では、プライベート空間を確保するために前後の座席装置の間に座席装置とは別個にフード装置を配置するので、フード装置の分だけスペースが犠牲になるという問題点があった。
【0008】
また、フード装置を備えることにより、それだけコストがかかるという問題点もあった。
【0009】
本発明は、このような従来の技術が有する問題点に着目してなされたもので、他者の視線を遮ってプライベート空間を確保できる航空機用座席装置を提供することを目的とし、併せて座席装置間のスペースを犠牲にすることなく、コスト面でも有利であり、さらにデザイン的にも違和感がない航空機用座席装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するための本発明の要旨とするところは、次の各項の発明に存する。
[1]前後に連設され、シートバック(10)の傾動が可能な航空機用座席装置(1)において、
前記シートバック(10)は、
傾倒したリクライニング状態のときに、着座者の頭部への視線を遮蔽可能な薄板状の遮蔽シート(100)と、
前記遮蔽シート(100)を出し入れ自在に収納可能なシート収納部(110)と、
を備えたことを特徴とする航空機用座席装置(1)。
【0011】
[2]前後に連設され、シートバック(10)の傾動が可能な航空機用座席装置(1)において、
前記シートバック(10)は、
傾倒したリクライニング状態のときに、着座者の頭部への視線を遮蔽する湾曲可能な薄板状の遮蔽シート(100)と、
前記遮蔽シート(100)を出し入れ自在に収納可能なシート収納部(110)と、
前記遮蔽シート(100)が取り付けられ、前記遮蔽シート(100)の少なくとも一部を保持する保持部材(120)と、
前記保持部材(120)を出し入れ自在に収納可能な保持部材収納部(130)と、を備え、
前記保持部材収納部(130)は、前記シートバック(10)上部の両側から前方に向かって配設され、
前記保持部材(120)が前記保持部材収納部(130)からを出されたときに、前記保持部材(120)に保持された前記遮蔽シート(100)が着座者の頭部への視線を遮蔽することを特徴とする航空機用座席装置(1)。
【0012】
[3]前後に連設され、シートバック(10)の傾動が可能な航空機用座席装置(1)において、
前記シートバック(10)は、
傾倒したリクライニング状態のときに、着座者の頭部への視線を遮蔽する湾曲可能な薄板状の遮蔽シート(100)と、
前記遮蔽シート(100)を出し入れ自在に収納可能なシート収納部(110)と、
前記遮蔽シート(100)の一部が取り付けられ、前記遮蔽シート(100)の側部(101)を保持する保持部材(120)と、
前記保持部材(120)を出し入れ自在に収納可能な保持部材収納部(130)と、を備え、
前記保持部材収納部(130)は、前記シートバック(10)の上部の幅方向両側から前方に向かって位置し、
前記保持部材(120)は、前記保持部材収納部(130)内に回動の中心軸(121)を有する板状体であり、先端部(122)に前記遮蔽シート(100)のシート先端部(102)が取り付けられ、前記先端部(122)から後端部(123)までの外縁部で前記遮蔽シート(100)を支持し、前記保持部材収納部(130)から出されたときに、保持した前記遮蔽シート(100)が着座者の頭部への視線を遮蔽することを特徴とする航空機用座席装置(1)。
【0013】
[4]前記シート収納部(110)は、前記遮蔽シート(100)の収納をガイドするガイド(112a,112b)構造を備えたことを特徴とする[1],[2]または[3]に記載の航空機用座席装置。
【0014】
[5]前記シート収納部(110)は、前記シートバック(10)の上部に設けられ、
前記遮蔽シート(100)は、前記シート収納部(110)内に吊り下げた状態に収納されたことを特徴とする[1],[2],[3]または[4]に記載の航空機用座席装置(1)。
【0015】
[6]前記保持部材(120)ないし前記保持部材収納部(130)は半透過性ないし非透過性であり、着座者の頭部への側方からの視線を遮蔽することを特徴とする[2],[3],[4]または[5]に記載の航空機用座席装置(1)。
【0016】
[7]前記遮蔽シート(100)は、ガイダック樹脂から成ることを特徴とする[1],[2],[3],[4],[5]または[6]に記載の航空機用座席装置(1)。
【0017】
前記本発明は次のように作用する。
[1]の航空機用座席装置(1)によれば、航空機用座席装置(1)のシートバック(10)は、傾動させてリクライニング状態にすることができる。このシートバック(10)が備えるシート収納部(110)に出し入れ自在に収納された薄板状の遮蔽シート(100)をシート収納部(110)から引き出すと、この遮蔽シート(100)が着座者の頭部を後頭部側から頭頂部の上方を経て頭部前方までを覆うことができる。シートバック(10)が傾倒しているリクライニング状態のときにこのようにシート収納部(110)から遮蔽シート(100)を出すことによって、着座者の頭部への視線を遮蔽することができるので、プライベート空間を確保することができる。
【0018】
また、遮蔽シート(100)は、シートバック(10)に備えたシート収納部(110)に収納されているので、例えば、視線を遮断するためのフード装置を座席装置の後方に設けた場合とは異なって前後の座席装置間のスペースを犠牲にすることがない。さらにシート収納部(110)は遮蔽シート(100)を収納できればよいので、大掛かりな構造になることがなく、コスト面で有利である。また、大掛かりにならないので、デザイン的にも違和感がない航空機用座席装置(1)にすることができる。
【0019】
また、[2]の航空機用座席装置(1)によれば、遮断シート(100)の両側に配置された保持部材(120)が湾曲可能な薄板状の遮蔽シート(100)の一部を保持しており、この保持部材(120)は、前記シートバック(10)上部の両側から前方に向かって配設された保持部材収納部(130)に出し入れ自在に収納することができる。
【0020】
前記保持部材(120)を前記保持部材収納部(130)から出すと、前記保持部材(120)に取り付けられた前記遮蔽シート(100)は、前記保持部材(120)に少なくとも一部を保持されながら前記シート収納部(110)から引き出される。前記遮蔽シート(100)を引き出すと、着座者の頭部を覆うことができるので、シートバック(10)を傾動したリクライニング状態であっても着座者の頭部への視線を遮蔽することができる。また、前記保持部材(120)に取り付けられ、保持される前記遮蔽シート(100)は、前記シート収納部(110)から確実かつ容易に出し入れすることができる。
【0021】
また、[3]の航空機用座席装置(1)によれば、湾曲可能な薄板状の遮蔽シート(100)の一部が取り付けられ、前記遮蔽シート(100)の側部(101)を保持する保持部材(120)を出し入れ自在に収納可能な保持部材収納部(130)が前記シートバック(10)の上部の幅方向両側から前方に向かって位置している。この保持部材収納部(130)内に収納される前記保持部材(120)は板状体であり、保持部材収納部(130)内に回動の中心軸(121)を有しているので、この中心軸(121)を中心にして回動しながら保持部材収納部(130)内に収納され、また、保持部材収納部(130)内から出される。
【0022】
前記保持部材(120)の先端部(122)には、前記遮蔽シート(100)のシート先端部(102)が取り付けられている。前記遮蔽シート(100)は、前記保持部材(120)の前記先端部(122)から後端部(123)までの外縁部によって支持されながらシート収納部(110)に収納され、また、出される。前記保持部材収納部(130)から前記保持部材(120)が出されると、前記保持部材(120)に取り付けられた前記遮蔽シート(100)も出される。前記遮蔽シート(100)は、着座者の頭部への視線を遮蔽することができる。また、保持部材収納部(130)が前記シートバック(10)の上部の幅方向両側から前方に向かって位置しているので、着座者の頭部の側方に位置することになる。これにより、着座者は頭部をフードで囲まれたような適度な閉塞感を得られるので、気分が落ち着くプライベート空間を得られることとなる。
【0023】
前記シート収納部(110)は、前記遮蔽シート(100)の収納をガイドするガイド構造を備えることが好ましい。ガイド構造は、シート収納部(110)の内壁面(112)を傾斜がついた傾斜内壁面(112a)と、該傾斜内壁面(112a)に続く傾斜のない下部内壁面(112b)とから構成され、収納間隙(111)を所定の広さまで狭めた構造である。これにより、シート収納部(110)に収納されるときの遮蔽シート(100)は、下端部が傾斜内壁面(112a)にガイドされてスムーズに収納され、下部内壁面(112b)に至って狭まった収納部(110)に確実に収納される。これにより、遮蔽シート(100)を収納する際に遮蔽シート(100)が不用意に変形してしまうことを防止することができるとともに使い勝手が良好になる。
【0024】
さらに、前記保持部材(120)ないし前記保持部材収納部(130)を半透過性ないし非透過性の素材によって形成することが好ましく、これにより、着座者の頭部への側方からの視線を遮蔽することができるので、前記プライベート空間はより一層に優れたものになる。
【0025】
さらに、前記遮蔽シート(100)をガイダック樹脂によって形成することにより、耐衝撃性に優れた遮蔽シートになるので、乗客がよろけたりして手を付いたりしても、破損し難くい。また、自己消火性のある遮蔽シートになるので、不慮の事故等が発生しても火災による被害を低減することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明にかかる航空機用座席装置によれば、シート収納部に収納された遮蔽シートを出すことによって、着座者の頭部への視線を遮蔽することができるので、プライベート空間を確保することができる。
【0027】
また、薄板状の遮蔽シートと該シートを収納する収納部とをシートバックに設けることにより、大掛かりな手段が不要となり、後席の座席装置との間のスペースを犠牲にすることがなく、また、コスト面で有利であり、さらに、デザイン的にも違和感がない航空機用座席装置にすることができる。
【0028】
また、シート収納部に収納される遮蔽シートは、ガイド構造によってガイドされるので、スムーズかつ確実に収納することができる。これにより、遮蔽シートを収納する際に遮蔽シートが不用意に変形してしまうことを防止することができるとともに使い勝手が良好になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面に基づき本発明の好適な一実施の形態を説明する。
各図は本発明の一実施の形態を示している。
図1に示すように、本発明の一実施の形態にかかる航空機用座席装置1(以下、座席装置1)には傾動可能なシートバック10、着座者が腰掛けるシートボトム20、着座した姿勢で下肢を載せて安楽な姿勢を得るためのレッグレスト30、シートボトム20の両側に設けられた肘掛40などが設けられており、シートバック10の上部にプライベート空間を確保するための部材が設けられている。図1には、2人分の座席装置1のみが図示されているが、実際に航空機に配設された状態では、図示した座席装置1の前後にも同一の座席装置1が連設されている。
【0030】
プライベート空間は、着座者の頭部を後頭部側から頭頂部、さらには前頭部の前方までを覆うことができる湾曲可能な薄板状の遮蔽シート100と、該遮蔽シート100の一部が取り付けられ、遮蔽シート100の側部101を保持する保持部材120と、該保持部材120を出し入れ自在に収納することができる保持部材収納部130とによって画成される。保持部材収納部130から出した保持部材120は、遮蔽シート100とともにあたかもフードのようになってプライベート空間を画成している。以下、保持部材120をフードフレーム120と記し、保持部材収納部130をフードフレーム収納部130と記す。
【0031】
図2、図4および図5に示すように、シートバック10はシートバックフレーム200を備えている。シートバックフレーム200はコの字状を有しており、先端部が下向きになるように配設されている。シートバックフレーム200の左右の両側部200a,200bの間にはクッションが装着されるシートバックパン201が取り付けられている。
【0032】
シートバックパン201の前面には着座者の背中を受け止めるためのシートバッククッション11が装着されている。このシートバッククッション11は前記前面の全面を覆っている。シートバッククッション11は、表面全体をドレスカバーに覆われたクッション材で構成されている。このクッション材は、例えば、ウレタンフォームである。
【0033】
シートバックパン201の背面には下部から上部付近にまで及ぶバックパッド12が装着されている。このバックパッド12の上方には遮蔽シート100を収納するシート収納部110が配設されている。
【0034】
シート収納部110は、シートバックフレーム200の側部200a,200bの間の幅と略同じ広さの幅を有している。シート収納部110は、樹脂製の板状部分とシートバックパン201の背面側との収納間隙111に遮蔽シート100を収納する。シート収納部110の上部は幅方向に沿って開口している。該開口の位置は、シートバック10の最上部と略同じ位置にある。この開口から遮蔽シート100が収納間隙111に出し入れ自在に収納される。
【0035】
シート収納部110の背面側の内壁面112は、上記開口から傾斜がついた傾斜内壁面112aと、該傾斜内壁面112aに続く傾斜のない下部内壁面112bとからなっており、遮蔽シート100を確実に所定の状態で収納するためのガイド構造を成している。傾斜内壁面112aは、開口から下がるにしたがってシートバックパン201に近付くように傾斜している。したがって、傾斜内壁面112aが広がる部分では収納間隙111が徐々に狭くなっている。傾斜内壁面112aに続く下部内壁面112bはシートバックパン201との間隔が略同じであり、収納間隙は所定の広さになっている。これにより、シート収納部110に収納されるときの遮蔽シート100は、下端部が傾斜内壁面112aに接触してガイドされながらスムーズに収納され、下端部側が下部内壁面112bに至って狭まった収納部110に確実に収納される。
【0036】
シート収納部110に収納される遮蔽シート100は、半透過性ないし非透過性の樹脂によって薄板状に形成されている。この遮蔽シート100は、例えば、ガイダック樹脂を厚さ1mmに形成したものである。ガイダック樹脂は略23,000kgf/cmの曲げ弾性率を有しており、厚さ1mmに形成した本実施の形態における遮蔽シート100は自重により湾曲する。このガイダック樹脂は、耐衝撃性に優れている上に自己消火性を有している。また、加工性の点では、機械加工、熱加工および接着加工の何れにおいても優れている。このようなガイダック樹脂によって形成された遮蔽シート100は、破損し難く、また、自己消火性のある遮蔽シートになるので、不慮の火災が発生しても被害を低減することができるという利点を有している。
【0037】
シート収納部110に連続して、シートバック10の上部の幅方向両側から前方に向かって、シート100を保持するフードフレーム120を収納するためのフードフレーム収納部130が配設されている。図2に示すようにフードフレーム収納部130は、シートバックフレーム200の側面に取り付けられた内壁部131と該内壁部131に取り付けられ、該内壁部131との間に所定の空間を形成する外壁部132とから成っている。フードフレーム収納部130の上部は開口しており、この開口からフードフレーム120が前記所定の空間に出し入れ自在に収納される。後述するようにフードフレーム120はフードフレーム収納部130内で回動することができ、この回動によってフードフレーム120はフードフレーム収納部130内に収納された位置とフードフレーム収納部130から出た位置との間で変位することができる。
【0038】
外壁部132の内面の上部にはストッパー133が取付けられている。また、下部側にはストッパー134が取り付けられている。ストッパー133は、フードフレーム120がフードフレーム収納部130から出る方向(矢印A方向。図5参照)へ回動して、最大限に引き出されたときにフードフレーム120の一部に当接することによってフードフレーム120の矢印A方向への回動を制限するものである。
【0039】
一方、ストッパー134は、フードフレーム120が矢印A方向とは逆の方向に回動してフードフレーム収納部130に完全に収納されたときに、フードフレーム120に当接することによって矢印A方向とは逆の方向へのフードフレーム120の回動を制限するものである。ストッパー134がフードフレーム120に当接する部分には図示省略したクッションが貼着されている。このクッションの材質は、例えば、ウレタンフォームである。このクッションによりフードフレーム120がストッパー134に当たった際の衝撃を着座者に伝わりにくくしている。フードフレーム収納部130は、半透過性ないし非透過性の樹脂によって形成されている。したがって、フードフレーム収納部130は、着座者の側方からの他者の視線を遮ることができる。
【0040】
フードフレーム収納部130はフードフレーム120を不動に固定するためのロック装置(図示せず)を備えている。このロック装置を操作するためのロックボタンが内壁部131の外面に設けられている。ロック装置は、例えば、フードフレーム収納部130内でフードフレーム120の一部に係止する鉤状部分を有し、この鉤状部分はロックボタンの操作に連動する。ロックボタンの操作によって鉤状部分とフードフレーム120の被係止部との係止ないし係止状態の解除を可能としたものである。ロック装置は、フードフレーム120をフードフレーム収納部130から最大限に引き出したときに鉤状部分がフードフレーム120に係止するが、フードフレーム120に複数の被係止部を設けておき、これら複数の被係止部に選択的に鉤状部分が係止できるようにすることによってフードフレーム120を複数の引出し状態において選択的に固定できるようにしてもよい。ロック装置は、強い荷重(例えば、約25ポンド)がかかったときにも解除されないように設定しておくことにより、機体に不意の姿勢変化が起こったときに、通路を通行中の乗客等が体勢を保持するための取っ手としてフードフレーム120を使用することができる。
【0041】
フードフレーム収納部130に収納されるフードフレーム120は板状体であり、外縁部の一部に円弧状に近い曲線状部分を有している。このフードフレーム120は、半透過性ないし非透過性の樹脂によって形成されている。外縁部のうち曲線状部分は、フードフレーム収納部130からフードフレーム120を最大限に引き出したときに、フードフレーム収納部130の外に出ている部分である。この曲線状部分に沿って、内壁部131に向かって張り出したフランジが形成されている。
【0042】
フードフレーム120は、フードフレーム収納部130内に回動の中心軸121を有し、この中心軸121が内壁部131に取り付けられている。それぞれのフードフレーム120の先端部122に1本の支持アーム124の両端部が固定されている。これにより、フードフレーム120同士が支持されるとともに、一体となって回動することができる。また、それぞれの先端部122のフランジに1枚のシート取付け板125の両端部が固定されている。
【0043】
シート取付け板125は樹脂ないし金属製である。このシート取付け板125とフランジとの間には遮蔽シート100のシート先端部102の両側部が挟まれており、シート取付け板125は遮蔽シート100ごとボルトによってフランジに固定されている。シート取付け板125の中央前端部には、フードフレーム120をフードフレーム収納部130から出し入れし易いように指で摘み易い形状を有する摘み部126が設けられている。
【0044】
図4に示すように、フードフレーム120がフードフレーム収納部130に完全に収納された状態では、前記のようにフードフレーム120の一部がストッパー134に当接している。このため、フードフレーム120は、図示した状態以上にはフードフレーム収納部130内に入ることがない。この収納状態において、先端部122はフードフレーム120の開口の位置と略同位置にある。このとき、遮蔽シート100は、シート収納部110の内部の収納間隙111に垂れ下がった状態で収納されている。
【0045】
図5に示すように、フードフレーム120がフードフレーム収納部130から最大限に出された状態では、フードフレーム120の一部がストッパー133に当接している。これにより、フードフレーム120は、フードフレーム収納部130から出る方向(矢印A方向)へのこれ以上の回動が防止されている。これとともに、ロック装置が矢印A方向とは逆方向へのフードフレーム120の回動を防止している。これにより、図5に示したフードフレーム120の状態が維持される。
【0046】
上記のようにシート先端部102がフードフレーム120に固定されているので、フードフレーム120は、フードフレーム収納部130から出されたときに、先端部122から後端部123までの外縁部のフランジによって遮蔽シート100の両側部を支持することができる。フードフレーム120がフードフレーム収納部130に収納されているときは、遮蔽シート100は、シート取付け板125からシート収納部110内に吊り下げられた状態に収納されている。上記のようにフードフレーム120も半透過性ないし非透過性の樹脂によって形成されているので、フードフレーム120はフードフレーム収納部130から出されたときに、着座者の頭部側方からの他者の視線を遮ることができる。これにより、遮蔽シート100と、フードフレーム120と、フードフレーム収納部130とが着座者の頭部をフードのように囲んで、他者からの視線を遮断したプライベート空間を形成する。
【0047】
なお、遮蔽シート100とフランジとの固定は、シート先端部102の両側部に限らず、フランジによって支持される側部全体にわたって固定してもよい。
【0048】
次に作用を説明する。
座席装置1のシートバック10を大きく傾動させてリクライニング状態にするときには、後席の着座者の視線が自然に及ぶ範囲内に頭頂部が入ってしまう。また、隣席の着座者の視線も受けやすくなる。これらの視線を遮るために、図4に示したようにフードフレーム収納部130に収納されたフードフレーム120をフードフレーム収納部130から引き出して遮蔽シート100をシート収納部110から引き出すことによって、頭部の周囲に他者の視線を遮蔽した上記プライベート空間を形成することができる。この際、シート取付け板125に設けられた摘み部126を摘んで引き出すことにより、容易に遮蔽シート100を引き出すことができる。
【0049】
図5に示すように、フードフレーム120をフードフレーム収納部130から最大限に引き出すと、フードフレーム120の一部にストッパー133が当接してフードフレーム120のこれ以上の引き出しを不可能にする。同時に、ロック装置の鉤部がフードフレーム120に係止して、フードフレーム120がフードフレーム収納部130内に戻る方向(矢印A方向とは逆方向)の回動を防止する。これにより、フードフレーム120は最も引き出された状態に維持される。
【0050】
このフードフレーム120が最大限に引き出された状態が図1、図3、図5および図6に示されている。上記したように、遮蔽シート100はフードフレーム120の先端部122から後端部123までの外縁部のフランジによって支持されている。このため遮蔽シート100は、外縁部の形状に沿って着座者の後頭部上方から頭頂部上方を経て前頭部上方に至るまでの領域を覆って他者の視線を遮っている。
【0051】
図6に示すように、シートバック10を最大限に傾倒させても後席の着座者の視線は遮蔽シート100によって遮られて頭頂部に至ることはない。この際、図3、図5に示したようにフードフレーム120の先端部122はシートバック10の最上部から十分に高い位置に位置しているので、着座者が頭頂部方向に圧迫感を感じることはない。
【0052】
また、フードフレーム120が最大限に引き出された状態では、フードフレーム120とフードフレーム収納部130とが着座者の頭部の側方からの視線を遮蔽することができる。フードフレーム120およびフードフレーム収納部130は、図3に示したようにシートバック10の上部の幅方向両側に位置しているので、着座者は、頭部の側方に圧迫感を感じることなく、適度な閉塞感を得ることができる。
【0053】
フードフレーム120をフードフレーム収納部130に収納する場合には、ロックボタンを操作して鉤状部がフードフレーム120に係止している状態を解除してからフードフレーム120を収納方向に戻すだけでよい。
【0054】
なお、フードフレーム120は、外縁部の先端部122から後端部123まであるいは後端部123に至る途中まで外縁部に沿ってガイドレールを形成し、該ガイドレールに遮蔽シート100を支持させるようにしてもよい。また、シート取付け板125に遮蔽シート100の先端部102を固定するが、シート取付け板125をフードフレーム120の先端部122に固定することなくガイドレール内を移動できるようにしてもよい。フードフレーム120がフードフレーム収納部130に収納された状態では、シート取付け板125がガイドレール内で先端部122に当接しているので、摘み部126を持って遮蔽シート100をシート収納部110から引き出すようにすることによって、フードフレーム120もフードフレーム収納部130から矢印A方向に引き出される。遮蔽シート100およびフードフレーム120をそれぞれ収納するときには、フードフレーム120をフードフレーム収納部130に収納するように回動させれば、シート取付け板125が先端部122に押されてシート収納部110に収納される。
【0055】
なお、遮蔽シート100は、シート収納部110の内部の収納間隙111に垂れ下がった状態で収納される態様を説明したが、ジャバラ状に折り畳んで収容するようにしてもよい。これにより、遮蔽シート100の収納領域をほとんど変化させずに遮蔽シート100の収納量を増大できるので、例えば、着座者の顔面を隠すことができるほどに遮蔽シート100による遮蔽範囲を拡げることができる。
【0056】
また、ロック装置は、フードフレーム120に係止している状態のときに、該フードフレーム120をフードフレーム収納部130に収納させる方向の所定以上の力がフードフレーム120に加わった場合には、フードフレーム120の係止が解除されるように設定してもよい。この意図からは、ロック装置は通路側の座席装置のみに設ければよいが、全席に設けることによって部品の共通化ができる。
【0057】
以上説明したように、本発明の航空機用座席装置1によれば、フードフレーム120をフードフレーム収納部130から最大限に引き出すことによって、遮蔽シート100、フードフレーム120、およびフードフレーム収納部130が着座者の頭部前方を除いて頭部に至る他者の視線を遮断するとともに、頭部周辺に適度な閉塞感をもった心地よいプライベート空間が確保される。これにより、着座者はリクライニング状態にした座席装置1によって身体をリラックスさせることができるとともに心地よいプライベート空間によって心をリラックスさせることができる。
【0058】
また、シートバック10が上部にシート収納部110とフードフレーム収納部130を備え、シート収納部110に遮蔽シート100が収納され、フードフレーム収納部130にフードフレーム120が収納されているので、座席装置の後方にフード装置を配設した場合とは異なって前後の座席装置間のスペースを犠牲にすることがなく快適な居住空間を維持することができ、遮蔽シート100およびフードフレーム120を収納したときは、それらが完全に収納されるので、それらを不使用時の見栄えが悪くなることがない。
【0059】
また、シート収納部110は、シートバック10の幅と同程度の幅の薄板状の遮蔽シート100を収納できればよいので構造が大掛かりにならず、手動で使用するものであるのでコスト面でも有利であり、さらに、デザイン的にも違和感がない航空機用座席装置にすることができる。
【0060】
また、フードフレーム収納部130の内壁部131の外面、すなわち、着座者の側頭部に面する面に、クッションとなる部材を装着して、イヤーサポートとしての機能を高めるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施の形態に係る航空機用座席装置を示す斜視図である。
【図2】図1の航空機用座席装置のシートバックの骨格部分を示す分解斜視図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る航空機用座席装置のシートバックを示す概略正面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る航空機用座席装置の遮蔽シートを収納した状態をシートバックの側面から見て説明する説明図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る航空機用座席装置の遮蔽シートを引き出した状態をシートバックの側面から見て説明する説明図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る航空機用座席装置のアップライト状態およびリクライン状態の場合に遮蔽シートを引き出した状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0062】
1…航空機用座席装置(座席装置)
10…シートバック
11…シートバッククッション
12…バックパッド
20…シートボトム
30…レッグレスト
40…肘掛
100…遮蔽シート
101…遮蔽シート側部
102…シート先端部
110…シート収納部
111…収納間隙
112…シート収納部の内壁面
112a…傾斜内壁面
112b…下部内壁面
120…フードフレーム(保持部材)
121…中心軸
122…先端部
123…後端部
124…支持アーム
125…シート取付け板
126…摘み部
130…フードフレーム収納部(保持部材収納部)
131…内壁部
132…外壁部
133,134…ストッパー
200…シートバックフレーム
200a,200b…シートバックフレームの側部
201…シートバックパン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後に連設され、シートバックの傾動が可能な航空機用座席装置において、
前記シートバックは、
傾倒したリクライニング状態のときに、着座者の頭部への視線を遮蔽可能な薄板状の遮蔽シートと、
前記遮蔽シートを出し入れ自在に収納可能なシート収納部と、
を備えたことを特徴とする航空機用座席装置。
【請求項2】
前後に連設され、シートバックの傾動が可能な航空機用座席装置において、
前記シートバックは、
傾倒したリクライニング状態のときに、着座者の頭部への視線を遮蔽する湾曲可能な薄板状の遮蔽シートと、
前記遮蔽シートを出し入れ自在に収納可能なシート収納部と、
前記遮蔽シートが取り付けられ、前記遮蔽シートの少なくとも一部を保持する保持部材と、
前記保持部材を出し入れ自在に収納可能な保持部材収納部と、を備え、
前記保持部材収納部は、前記シートバック上部の両側から前方に向かって配設され、
前記保持部材が前記保持部材収納部から出されたときに、前記保持部材に保持された前記遮蔽シートが着座者の頭部への視線を遮蔽することを特徴とする航空機用座席装置。
【請求項3】
前後に連設され、シートバックの傾動が可能な航空機用座席装置において、
前記シートバックは、
傾倒したリクライニング状態のときに、着座者の頭部への視線を遮蔽する湾曲可能な薄板状の遮蔽シートと、
前記遮蔽シートを出し入れ自在に収納可能なシート収納部と、
前記遮蔽シートの一部が取り付けられ、前記遮蔽シートの側部を保持する保持部材と、
前記保持部材を出し入れ自在に収納可能な保持部材収納部と、を備え、
前記保持部材収納部は、前記シートバックの上部の幅方向両側から前方に向かって位置し、
前記保持部材は、前記保持部材収納部内に回動の中心軸を有する板状体であり、先端部に前記遮蔽シートのシート先端部が取り付けられ、前記先端部から後端部までの外縁部で前記遮蔽シートを支持し、前記保持部材収納部から出されたときに、保持した前記遮蔽シートが着座者の頭部への視線を遮蔽することを特徴とする航空機用座席装置。
【請求項4】
前記シート収納部は、前記遮蔽シートの収納をガイドするガイド構造を備えたことを特徴とする請求項1,2または3に記載の航空機用座席装置。
【請求項5】
前記シート収納部は、前記シートバックの上部に設けられ、
前記遮蔽シートは、前記シート収納部内に吊り下げた状態に収納されたことを特徴とする請求項1,2,3または4に記載の航空機用座席装置。
【請求項6】
前記保持部材ないし前記保持部材収納部は半透過性ないし非透過性であり、着座者の頭部への側方からの視線を遮蔽することを特徴とする請求項2,3,4または5に記載の航空機用座席装置。
【請求項7】
前記遮蔽シートは、ガイダック樹脂から成ることを特徴とする請求項1,2,3,4,5または6に記載の航空機用座席装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate