説明

航跡表示機能付レーダ装置

【課題】監視対象の目標の航跡上を監視対象でない他の目標の航跡が横切る場合であっても、監視対象の航跡を正確に表示する。
【解決手段】航跡表示機能付レーダ装置10では、目標のレーダエコー中、他の目標である船舶Bを航跡非表示目標指定部40によって指定し、航跡マスクデータ作成部42によって、船舶Bのレーダエコーに基づいて船舶Bの位置及び大きさを算出し、船舶Bの航跡描画をマスクする航跡マスクデータMを作成し、航跡描画処理部44で前記目標のレーダエコーと航跡マスクデータMの論理積を行い、船舶Sの航跡Wbのみを航跡用メモリ26に描画する。その結果、監視対象の目標である船舶Sの航跡Wbを監視対象でない船舶Bが横切る場合であっても、船舶Sの航跡Wsを正確に表示することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は目標の航跡が描画される航跡用メモリを有し、目標のレーダエコーを前記航跡用メモリから読み出した航跡とともに表示器上に表示する航跡表示機能付レーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、現時点の目標のレーダエコーを表示する際に、レーダエコーと同時に目標の航跡を表示する航跡表示機能付レーダ装置が知られている(特許文献1)。このような航跡表示機能付レーダ装置を利用すれば、例えば、漁場において、他の船舶の航跡からその船舶が現在網を引いている状態か否か等の他の船舶の動向を知ることが可能となり、効率の良い漁が可能となる。すなわち、航跡を表示するのは他の船舶(監視対象)を監視するためである。
【0003】
図9は、一般的な航跡表示機能付レーダ装置100のブロックである。航跡表示機能付レーダ装置100は、水平方向に回転するアンテナ12からレーダ信号(探知信号)が無線送信され、他の船舶等の目標から反射して戻ってきたレーダエコーを送受信部14で受信する。ここで、このアンテナ12からレーダ信号を無線送信し、送受信部14でレーダエコーを受信するまでの1回の送受信動作を1スイープといい、また、アンテナ12が1回転することをスキャンといい、1スキャンの間に複数回のスイープが行われている。送受信部14からの受信信号は、A/D変換部16によってデジタル信号に変換され、信号処理部18によってレーダエコーに含まれる海面反射等の不要なエコーの除去等の信号処理が行われる。
【0004】
座標変換部20は、信号処理部18で処理された極座標形式のデジタル信号を直交座標形式のデジタル信号に変換し、直交座標形式のデジタル信号をレーダエコー用メモリ22に描画するとともに、航跡描画部24に出力する。座標変換部20とレーダエコー用メモリ22との間では、海面からの反射信号や降雨からの反射信号のような不要信号(クラッタ信号)を除去するために、現在のレーダエコーと過去のレーダエコーとに基づき、スキャン相関処理が行われる。また必要に応じて、座標変換部20で座標変換を行う際には、同一アドレスに描画されたデータの最大値を保持するピークホールド処理がレーダエコー用メモリ22で行われる。
【0005】
航跡描画部24から出力された航跡データ(目標の位置が過去所定の時間から現時刻までにどのように変化したかを示すデータ)が航跡用メモリ26に描画される。航跡描画部24では、航跡を表示するレーダエコーに対してしきい値を設け、ノイズ等の不要なレーダエコーを表示しないようにしている。また、アンテナ12からレーダ信号がレーダエコーとしてではなく、直接回り込んで生じるメインバングに対して、自船から一定の範囲内の航跡を表示しないという処理を行っている。さらに、航跡の表示を明確にするために、レーダエコーに対して設定したしきい値を超えるレーダエコーのうちそのピーク値を検出して、そのレーダエコーを航跡用メモリ26に描画するようにしている。さらにまた、航跡描画部24は航跡用メモリ26に対して、航跡表示時間を管理するために、航跡用メモリ26に描画された航跡の減算が行われる。
【0006】
レーダエコー用メモリ22に描画されたレーダエコーに対して、航跡描画部24に描画された航跡が表示器28で重畳表示される。この航跡表示機能付レーダ装置100を用いて、ある船舶Sを特定し、長時間に渡って監視した場合には、図10Aのように特定した船舶S及びその航跡Wsが表示される。
【0007】
【特許文献1】特開2000−137070号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、航跡表示機能付レーダ装置100を使用していると図10Bのように監視している船舶S以外の船舶Bが現れ、船舶Sの航跡Wsを横切る場合ある。一般的に航跡表示機能付レーダ装置100では、航跡の大きさ(幅)は目標の大きさに比例する。従って、船舶Sが小型船舶、船舶Bが大型船舶の場合に、船舶Sの航跡Wsを船舶Bの航跡Wbが横切ると、航跡用メモリ26に描画されている航跡Wsに対して、船舶Bの大きい航跡Wbが上書きされて、図10Cのように航跡Wsに対して航跡Wbが横切る表示とされ、航跡Wsが判別できなくなる場合がある。
【0009】
本発明は、上記の課題を考慮してなされたものであって、監視対象の目標の航跡を監視対象でないの他の目標の航跡が横切る表示がされる場合であっても、監視対象の目標の航跡を正確に表示することを可能とする航跡表示機能付レーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る航跡表示機能付レーダ装置は、目標の航跡が描画される航跡用メモリを有し、前記目標のレーダエコーを前記航跡用メモリから読み出した航跡とともに表示器上に表示する航跡表示機能付レーダ装置において、前記目標のレーダエコー中、前記航跡を表示しない航跡非表示目標のレーダエコーを指定する航跡非表示目標指定手段と、前記航跡非表示目標のレーダエコーに基づいて前記航跡非表示目標の位置及び大きさを算出し、前記航跡非表示目標の航跡の前記航跡用メモリへの描画をマスクする航跡マスクデータを作成する航跡マスクデータ作成手段と、前記目標のレーダエコーと前記航跡マスクデータとを比較し、航跡を表示する目標の航跡のみを前記航跡用メモリに描画する航跡描画処理手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、航跡を表示しない航跡非表示目標の位置及び大きさに基づいて航跡マスクデータを作成し、目標のレーダエコーと航跡マスクデータを比較し、航跡用メモリへの航跡非表示目標の航跡の描画を回避し、航跡を表示する目標の航跡のみを航跡用メモリに描画することにより、航跡を表示する目標の航跡を航跡非表示目標の航跡が横切る場合であっても、航跡非表示目標の航跡を表示させないことにより、目標の航跡を正確に表示することができる。
【0012】
前記航跡マスクデータ作成手段は、前記航跡非表示目標の過去の移動経路から次のスキャンでの前記航跡非表示目標の位置を予測し、予測した前記航跡非表示目標の位置に基づいて前記航跡マスクデータを作成する。また、航跡マスク用メモリを有し、前記航跡マスクデータ作成手段は、前記航跡マスク用メモリに前記航跡マスクデータを描画し、前記航跡描画処理手段は、前記航跡マスク用メモリから読み出した前記航跡マスクデータと前記目標のレーダエコーとを比較する。
【0013】
さらに、前記航跡マスクデータの作成時間分前記目標のレーダエコーを遅延させる遅延用バッファを有していてもよい。
【0014】
本発明に係る航跡表示機能付レーダ装置は、目標の航跡が描画される航跡用メモリを有し、前記目標のレーダエコーを前記航跡用メモリから読み出した航跡とともに表示器上に表示する航跡表示機能付レーダ装置において、前記目標のレーダエコー中、前記航跡を表示しない航跡非表示目標のレーダエコーを指定する航跡非表示目標指定手段と、前記航跡非表示目標の過去の移動経路から次のスキャンでの前記航跡非表示目標の位置を予測する目標追尾手段と、予測後の移動位置に対応する前記目標のレーダエコーの航跡を前記航跡用メモリから読み出し、描画する航跡退避用メモリと、前記航跡非表示目標の航跡が前記航跡用メモリに描画された後に、前記航跡退避用メモリに描画された前記目標の航跡を読み出し、前記航跡用メモリに描画された前記航跡非表示目標の航跡を上書きする航跡描画処理手段とを備えたことを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、航跡非表示目標の移動位置を予測し、予測後の移動位置に対応する目標の航跡を航跡用メモリから読み出し、退避用メモリに描画し、航跡非表示目標の航跡が航跡用メモリに描画された後に、航跡退避用メモリに描画された目標の航跡を読み出し、航跡非表示目標の航跡を上書きすることにより、航跡を表示する目標の航跡を航跡非表示目標の航跡が横切る場合であっても、目標の航跡を正確に表示することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、航跡を表示しない航跡非表示目標の位置及び大きさに基づいて航跡マスクデータを作成し、目標のレーダエコーと航跡マスクデータとを比較し、航跡用メモリへの航跡非表示目標の航跡の描画を回避し、航跡を表示する目標の航跡のみを航跡用メモリに描画することにより、航跡を表示する目標の航跡上を航跡非表示目標の航跡が横切る場合であっても、目標の航跡を正確に表示することができる。また、航跡非表示目標の移動位置を予測し、予測後の移動位置に対応する目標の航跡を航跡用メモリから読み出し、退避用メモリに描画し、航跡非表示目標の航跡が航跡用メモリに描画された後に、航跡退避用メモリに描画された目標の航跡を読み出し、航跡非表示目標の航跡を上書きすることにより、航跡を表示する目標の航跡上を航跡非表示目標の航跡が横切る場合であっても、目標の航跡を正確に表示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る航跡表示機能付レーダ装置10のブロック図である。なお、図9に示した航跡表示機能付レーダ装置100と同一の構成要素には同一の符号を付している。
【0018】
航跡表示機能付レーダ装置10は、前記の航跡表示機能付レーダ装置100に対して、レーダ操作者が操作するキーボードやマウスやトラックボール等の入力デバイスから構成される航跡非表示目標指定部40と、航跡非表示目標指定部40で指定した目標の航跡描画をマスクするために航跡マスクデータを作成する航跡マスクデータ作成部42とが追加され、さらに、航跡描画部24の代わりに、目標のレーダエコーと前記航跡マスクデータを比較し、目標の航跡を航跡用メモリ26に描画する航跡描画処理部44を有する。
【0019】
航跡表示機能付レーダ装置10では、アンテナ12からレーダ信号が無線送信され、他の船舶等の目標から反射して戻ってきたレーダエコーが送受信部14で受信される。送受信部14からの受信信号は、A/D変換部16によってデジタル信号に変換され、信号処理部18によってレーダエコーに含まれる海面反射等の不要なエコーの除去等の信号処理が行われ、座標変換部20及び航跡マスクデータ作成部42に出力される。
【0020】
座標変換部20は、信号処理部18で処理された極座標形式のデジタル信号を直交座標形式のデジタル信号(レーダエコー)に変換し、直交座標形式のデジタル信号をレーダエコー用メモリ22に描画するとともに、航跡描画処理部44に出力する。その後、レーダエコー用メモリ22に描画されたレーダエコーに対して、航跡用メモリ26に描画された航跡が表示器28で重畳され、図2Aに示すように、船舶S及びその航跡Wsが表示される。
【0021】
図2Bは、図2Aに示す監視対象の目標として船舶Sが表示され、時間が経過した後に、監視対象でない目標として船舶Bが表示器28に表示された状態を示している。
【0022】
船舶Bが船舶Sの航跡Wsを横切る際に、船舶Bの航跡Wbを表示させないための手順は以下のとおりである。
【0023】
まず、レーダ操作者が船舶Bを表示器28のレーダ画面上で航跡を表示しない航跡非表示目標のレーダエコーとして航跡非表示目標指定部40により指定する。次に、航跡非表示目標指定部40により指定された船舶Bについて、航跡マスクデータ作成部42により船舶Bのレーダエコーから船舶Bの方位、距離及び船舶Bの距離方向の大きさ、方位方向の大きさを算出する。航跡マスクデータ作成部42では、スキャン毎に出力される船舶Bの位置と先に検出した船舶Bの位置とを比較し、船舶Bの大きさ等から同一目標であるか否かを判定し、同一目標の船舶Bの位置を順次記憶することにより、船舶Bの捕捉及び追尾が可能となる。なお、この捕捉及び追尾は、ARPA(Automatic Radar Plotting Aids)と呼ばれる機能を実現するための処理方法である。
【0024】
次に、航跡マスクデータ作成部42では、スキャン毎に船舶Bの過去の移動経路から次のスキャンでの船舶Bの予測位置を算出し、1スイープ毎にその予測位置の周辺の一定領域での船舶Bの航跡Wbの描画をマスクするための航跡マスクデータMを作成する。航跡マスクデータMは、図3Aに示すように、船舶S及び船舶Bのレーダエコーが含まれるレーダエコーE中、船舶Bのレーダエコーに対して、同期したデータとなるように作成されて、座標変換部20に出力される。
【0025】
なお、前記一定領域は、船舶Bの位置、大きさや予測位置のずれを考慮して定められる。また、航跡マスクデータMの大きさは、通常、図3Aに示すように1ビットのデータであるが、船舶Bのレーダエコーに対して航跡描画をマスクすることが可能であれば、1ビットに限定されるものではない。
【0026】
座標変換部20に出力された航跡マスクデータMは、信号処理部18から入力されたレーダエコーEとともに航跡描画処理部44に出力される。航跡描画処理部44は、レーダエコーEと航跡マスクデータMの論理積を行い、レーダエコーE中の船舶Bのエコーを除き、航跡Wsのみが航跡用メモリ26に描画される(図3B参照)。その後、レーダエコー用メモリ22に描画されたレーダエコーEに対して、航跡用メモリ26に描画された航跡Wsが表示器28で重畳表示される。その結果、図2Cに示すように船舶S及び航跡Wsが明確に表示され、また、航跡Wbの表示を抑え、船舶Bのみが表示される。
【0027】
また、航跡マスクデータ作成部42は、スキャン毎に船舶Bの過去の移動経路から次のスキャンでの船舶Bの予測位置を算出したのち、航跡Wbと航跡Wsが交わる点を含めた一定領域での航跡描画をマスクするための航跡マスクデータMを作成することもできる。
【0028】
この場合も、上述したのと同様に、座標変換部20に出力された航跡マスクデータMは、信号処理部18から入力されたレーダエコーEとともに航跡描画処理部44に出力される。航跡描画処理部44は、レーダエコーEと航跡マスクデータMの論理積を行い、レーダエコーE中の船舶Bのエコーを除き、航跡Wsのみが航跡用メモリ26に描画される。その結果、図2Dに示すように船舶S及び航跡Wsを明確に表示し、航跡Wbと航跡Wsとの交点周辺の航跡Wbの表示を抑えることができる。
【0029】
図4は、本発明の第1実施形態の変形例に係る航跡表示機能付レーダ装置10Aのブロック図である。航跡表示機能付レーダ装置10Aでは、航跡表示機能付レーダ装置10に対して、航跡マスクデータ作成部42と航跡描画処理部44の間に航跡マスク用メモリ46が追加されている。
【0030】
航跡表示機能付レーダ装置10Aでは、航跡表示機能付レーダ装置10と同様に航跡マスクデータ作成部42で、スキャン毎に船舶Bの過去の移動経路から次のスキャンでの船舶Bの予測位置Pを算出する。次に、図5Aに示す船舶Bに対して、図5Bに示すように予測位置Pの周辺の一定領域での船舶Bの航跡Wbの描画をマスクするために、1スキャン分の航跡マスクデータMを作成し、この航跡マスクデータMを航跡用メモリ26と同程度の容量を有する航跡マスク用メモリ46に描画する。
【0031】
航跡描画処理部44は、船舶S及び船舶Bのレーダエコーを含むレーダエコーEが座標変換部20から描画された後、航跡マスク用メモリ46に描画された航跡マスクデータMを読み出し、レーダエコーEと航跡マスクデータMの論理積を行い、レーダエコーE中の船舶Bのエコーを除くことにより、航跡Wsのみが航跡用メモリ26に描画される。その結果、図2Cに示すように船舶S及び航跡Wsが明確に表示され、また、航跡Wbの表示を抑え、船舶Bのみが表示される。
【0032】
以上説明したように、第1実施形態に係る航跡表示機能付レーダ装置10は、目標の航跡が描画される航跡用メモリ26を有し、前記目標のレーダエコーを航跡用メモリ26から読み出した航跡とともに表示器28上に表示する航跡表示機能付レーダ装置であって、前記目標のレーダエコー中、監視対象でない船舶Bを航跡非表示目標指定部40によって指定し、航跡マスクデータ作成部42によって、船舶Bのレーダエコーに基づいて船舶Bの位置及び大きさを算出し、航跡Wbをマスクする航跡マスクデータMを作成し、航跡描画処理部44で前記目標のレーダエコーと航跡マスクデータMの論理積を行い、レーダエコー中の船舶Bのエコーを除き、航跡Wsのみを航跡用メモリ26に描画する。
【0033】
航跡表示機能付レーダ装置10では、船舶Bの位置及び大きさに基づいて航跡マスクデータMを作成し、目標のレーダエコーと航跡マスクデータMを比較することにより、航跡用メモリ26への航跡Wbの描画を回避し、航跡Wsのみが航跡用メモリ26に描画される。その結果、監視対象である船舶Sの航跡Wsを監視対象でない船舶Bの航跡Wbが横切る場合であっても、航跡Wsを正確に表示することができる。
【0034】
また、航跡表示機能付レーダ装置10では、船舶Bの過去の移動経路から次のスキャンでの船舶Bの位置を予測し、予測した船舶Bの位置に基づいて1スイープ毎に航跡マスクデータMを作成することもできる。さらに、航跡マスク用メモリ46に航跡マスクデータMを描画し、航跡マスク用メモリ46から読み出した航跡マスクデータMと目標のレーダエコーとを比較してもよい。
【0035】
図6は、本発明の第2実施形態に係る航跡表示機能付レーダ装置10Bのブロック図である。航跡表示機能付レーダ装置10Bでは、前記の航跡表示機能付レーダ装置10に対して、遅延用バッファ48が追加されている。
【0036】
航跡表示機能付レーダ装置10Bでは、自船のレーダ操作者が、図2Aに示す監視対象の目標として船舶Sが表示されている状態において時間が経過した後、図2Bに示すように監視対象でない目標として船舶Bが表示器28に表示された場合に航跡非表示目標指定部40によって船舶Bを指定する。
【0037】
次に、航跡マスクデータ作成部42が、船舶Bの現在位置の周辺の一定領域での航跡描画をマスクするための航跡マスクデータMを作成する。ここで、船舶Bの位置、大きさは、船舶Bのレーダエコーのすべてが航跡マスクデータ作成部42に入力された後に算出が可能であるために、通常は、この算出の終了時には、航跡用メモリ26に対する航跡Wbの描画が終了している。従って、航跡表示機能付レーダ装置10Bでは、航跡マスクデータMの作成前に航跡用メモリ26に対する航跡Wbの描画を回避するために、信号処理部18と座標変換部20の間に遅延用バッファ48を設け、信号処理部18からのレーダエコーを一旦遅延用バッファ48に描画し遅延させている。
【0038】
航跡マスクデータ作成部42で航跡マスクデータMが作成され、座標変換部20に航跡マスクデータMが出力されると同時に、座標変換部20が遅延用バッファ48からレーダエコーを読み出すことにより、レーダエコーと航跡マスクデータMとの同期を図ることができる。従って、航跡描画処理部44において、同期しているレーダエコーEと航跡マスクデータMとの論理積を行い、レーダエコーE中の船舶Bのエコーを除くことにより、航跡Wsのみが航跡用メモリ26に描画される(図3B参照)。その結果、図2Cに示すように船舶S及び航跡Wsを明確に表示され、また、航跡Wbの表示を抑え、船舶Bのみが表示される。
【0039】
以上説明したように、第2実施形態に係る航跡表示機能付レーダ装置10Bは、航跡マスクデータMの作成時間の間、目標のレーダエコーを遅延させる遅延用バッファ48を有するので、目標のレーダエコーと航跡マスクデータMとの同期をとることができ、遅延用バッファ48で遅延させた目標のレーダエコーと航跡マスクデータMを比較し、航跡Wsのみを航跡用メモリ26に描画することにより、船舶S及び航跡Wsを明確に表示し、また、航跡Wbの表示を抑え、船舶Bのみが表示される。
【0040】
図7は、本発明の第3実施形態に係る航跡表示機能付レーダ装置10Cのブロック図である。航跡表示機能付レーダ装置10Cでは、前記の航跡表示機能付レーダ装置10に対して、航跡退避用メモリ50、目標追尾部52が追加されている。
【0041】
航跡表示機能付レーダ装置10Cでは、自船のレーダ操作者が、図2Aに示す監視対象の目標として船舶Sが表示されている状態において時間が経過した後に、図2Bに示すように監視対象でない目標として船舶Bが表示器28に表示された場合に、航跡非表示目標指定部40によって船舶Bを指定する。
【0042】
次に、目標追尾部52では、スキャン毎に船舶Bの過去の移動経路から次のスキャンでの船舶Bの予測位置Pを算出し、船舶Bが予測位置Pに到達する前に、その時点で航跡用メモリ26に描画されている予測位置Pの周辺の一定領域に対応する航跡データを航跡用メモリ26から読出し、航跡退避用メモリ50に描画する。
【0043】
さらに、船舶Bの航跡Wbが航跡用メモリ26に描画された後、すぐに、目標追尾部52は航跡退避用メモリ50に描画されている航跡データを航跡用メモリ26に描画する。
【0044】
具体的には、図8Aに示すように船舶Bの予測位置Pが航跡Ws上となった場合、目標追尾部52は予測位置Pの周辺の一定領域に対応する航跡データを航跡用メモリ26から読出し、図8Bに示すように航跡退避用メモリ50に描画する。次に、船舶Bの航跡Wbが航跡用メモリ26に描画された後、すぐに、目標追尾部52は航跡退避用メモリ50に描画されている航跡データを航跡退避用メモリ50から読出し、航跡用メモリ26に描画する。その結果、図8Cに示すように船舶S及び航跡Wsを明確に表示され、また、航跡Wbの表示を抑え、船舶Bのみが表示される。
【0045】
以上説明したように、第3実施形態に係る航跡表示機能付レーダ装置10Cは、目標の航跡が描画される航跡用メモリ26を有し、前記目標のレーダエコーを航跡用メモリ26から読み出した航跡とともに表示器28上に表示する航跡表示機能付レーダ装置であって、前記目標のレーダエコー中、航跡非表示目標指定部40によって船舶Bを指定し、目標追尾部52によって、船舶Bの過去の移動経路から次のスキャンでの船舶Bの位置を予測し、予測後の移動位置に対応する航跡データを航跡用メモリ26から読み出し、航跡退避用メモリ50に描画する。航跡Wbが航跡用メモリ26に描画された後、航跡退避用メモリ50に描画された航跡データによって、航跡用メモリ26に描画された航跡Wbを上書きすることにより、監視対象の目標である船舶Sの航跡Wsを監視対象でない目標である船舶Bの航跡Wbが横切る場合であっても、船舶Sの航跡Wsを正確に表示することができる。
【0046】
なお、第1〜第3実施形態に係る発明では、レーダエコーと航跡マスクデータMの論理積を行い、レーダエコーE中の船舶Bのエコーを除いていたが、航跡マスクデータMを反転させたデータとレーダエコーEとの論理積を行い、航跡Wbを航跡用メモリ26に描画することも可能である。
【0047】
また、本発明は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1実施形態に係る航跡表示機能付レーダ装置のブロック図である。
【図2】図2A〜図2Dは、表示器に表示される船舶及びその航跡を示す説明図である。
【図3】図3A及び図3Bは、航跡マスクデータ及びレーダエコーと航跡マスクデータMとの論理積を行った後のレーダエコーを示す説明図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る航跡表示機能付レーダ装置の変形例である航跡表示機能付レーダ装置のブロック図である。
【図5】図5A及び図5Bは、航跡マスクデータの作成についての説明図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る航跡表示機能付レーダ装置のブロック図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る航跡表示機能付レーダ装置のブロック図である。
【図8】図8A〜図8Cは、本発明の第3実施形態における船舶及びその航跡を示す説明図である。
【図9】従来の航跡表示機能付レーダ装置のブロック図である。
【図10】図10A〜図10Cは、従来の航跡表示機能付レーダ装置を用いた場合の船舶及びその航跡を示す説明図である。
【符号の説明】
【0049】
10、10A、10B、10C、100…航跡表示機能付レーダ装置
12…アンテナ 14…送受信部
16…A/D変換部 18…信号処理部
20…座標変換部 22…レーダエコー用メモリ
24…航跡描画部 26…航跡用メモリ
28…表示器 40…航跡非表示目標指定部
42…航跡マスクデータ作成部 44…航跡描画処理部
46…航跡マスク用メモリ 48…遅延用バッファ
50…航跡退避用メモリ 52…目標追尾部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標の航跡が描画される航跡用メモリを有し、前記目標のレーダエコーを前記航跡用メモリから読み出した航跡とともに表示器上に表示する航跡表示機能付レーダ装置において、
前記目標のレーダエコー中、前記航跡を表示しない航跡非表示目標のレーダエコーを指定する航跡非表示目標指定手段と、
前記航跡非表示目標のレーダエコーに基づいて前記航跡非表示目標の位置及び大きさを算出し、前記航跡非表示目標の航跡の前記航跡用メモリへの描画をマスクする航跡マスクデータを作成する航跡マスクデータ作成手段と、
前記目標のレーダエコーと前記航跡マスクデータとを比較し、航跡を表示する目標の航跡のみを前記航跡用メモリに描画する航跡描画処理手段とを備えたことを特徴とする航跡表示機能付レーダ装置。
【請求項2】
請求項1記載の航跡表示機能付レーダ装置において、
前記航跡マスクデータ作成手段は、前記航跡非表示目標の過去の移動経路から次のスキャンでの前記航跡非表示目標の位置を予測し、予測した前記航跡非表示目標の位置に基づいて前記航跡マスクデータを作成することを特徴とする航跡表示機能付レーダ装置。
【請求項3】
請求項2記載の航跡表示機能付レーダ装置において、
さらに、航跡マスク用メモリを有し、
前記航跡マスクデータ作成手段は、前記航跡マスク用メモリに前記航跡マスクデータを描画し、
前記航跡描画処理手段は、前記航跡マスク用メモリから読み出した前記航跡マスクデータと前記目標のレーダエコーとを比較することを特徴とする航跡表示機能付レーダ装置。
【請求項4】
請求項1記載の航跡表示機能付レーダ装置において、
さらに、前記航跡マスクデータの作成時間分前記目標のレーダエコーを遅延させる遅延用バッファを有することを特徴とする航跡表示機能付レーダ装置。
【請求項5】
目標の航跡が描画される航跡用メモリを有し、前記目標のレーダエコーを前記航跡用メモリから読み出した航跡とともに表示器上に表示する航跡表示機能付レーダ装置において、
前記目標のレーダエコー中、前記航跡を表示しない航跡非表示目標のレーダエコーを指定する航跡非表示目標指定手段と、
前記航跡非表示目標の過去の移動経路から次のスキャンでの前記航跡非表示目標の位置を予測する目標追尾手段と、
予測後の移動位置に対応する前記目標のレーダエコーの航跡を前記航跡用メモリから読み出し、描画する航跡退避用メモリと、
前記航跡非表示目標の航跡が前記航跡用メモリに描画された後に、前記航跡退避用メモリに描画された前記目標の航跡を読み出し、前記航跡用メモリに描画された前記航跡非表示目標の航跡を上書きする航跡描画処理手段とを備えたことを特徴とする航跡表示機能付レーダ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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