説明

船外機の制御装置

【課題】発電機を備えると共に、装置の大型化を招くことなく、接続される電気負荷に対応した発電量を確保するようにした船外機の制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関と、内燃機関に接続される発電機とを備えた船外機において、内燃機関のスロットルバルブを開閉するアクチュエータを備えると共に、内燃機関の出力軸とプロペラの間に介挿されるシフト機構がニュートラルポジションにあるか否か検出し、発電機の発電量に対する要求値(デューティ比)を検出すると共に、シフト機構がニュートラルポジションにあることが検出されるとき、検出された要求値に基づいて内燃機関の目標回転数を決定し、決定された目標回転数となるようにアクチュエータの駆動を制御する(S100,S104,S106)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は船外機の制御装置に関し、より詳しくは内燃機関で駆動される発電機を備えた船外機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関で駆動される発電機を備えた船外機が種々提案されており、その一例として特許文献1記載の技術を挙げることができる。尚、特許文献1記載の技術にあっては、発電機に加えて太陽電池パネルを新たな発電源として利用するように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−167902号公報(段落0041、図1,8など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、船外機の発電機には、例えば照明器具やGPS(Global Positioning System)など様々な種類の電気負荷が接続自在とされる。そのため、船外機の発電機においては、接続される電気負荷に対応した発電量を出力できることが望まれる。そこで、発電機を大型のものに変更する、あるいは特許文献1記載の技術の如く新たな発電源を追加するなどして電気負荷に応じた発電量を確保することが考えられるが、そのように構成すると、装置全体の大型化を招くという不具合が生じる。
【0005】
従って、この発明の目的は上記した課題を解決し、発電機を備えると共に、装置の大型化を招くことなく、接続される電気負荷に対応した発電量を確保するようにした船外機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するために、請求項1にあっては、内燃機関と、前記内燃機関に接続される発電機とを備えた船外機において、前記内燃機関のスロットルバルブを開閉するアクチュエータと、前記内燃機関の出力軸とプロペラの間に介挿されるシフト機構がニュートラルポジションにあるか否か検出するニュートラルポジション検出手段と、前記発電機の発電量に対する要求値を検出する発電量要求値検出手段と、前記シフト機構がニュートラルポジションにあることが検出されるとき、前記検出された要求値に基づいて前記内燃機関の目標回転数を決定し、前記決定された目標回転数となるように前記アクチュエータの駆動を制御するアクチュエータ制御手段とを備える如く構成した。
【0007】
請求項2に係る船外機の制御装置にあっては、前記船外機が船体に複数基装着され、さらに、前記複数基の船外機でそれぞれ検出された前記要求値の差を算出する要求値差算出手段を備えると共に、前記アクチュエータ制御手段は、前記算出された差が所定値以上のとき、前記複数基の船外機において前記要求値に基づいて設定される回転数の中で最も高い値に前記目標回転数を決定する如く構成した。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る船外機の制御装置にあっては、内燃機関に接続される発電機と、内燃機関のスロットルバルブを開閉するアクチュエータとを備え、シフト機構がニュートラルポジションにあるか否か検出し、発電機の発電量に対する要求値を検出すると共に、シフト機構がニュートラルポジションにあることが検出されるとき、要求値に基づいて内燃機関の目標回転数を決定し、決定された目標回転数となるようにアクチュエータの駆動を制御するように構成したので、装置の大型化を招くことなく、接続される電気負荷に対応した発電量を確保することができる。
【0009】
即ち、例えば発電機の発電量に対する要求値が増加したときに内燃機関の目標回転数も増加させることが可能となり、それによって機関回転数が上昇して発電機の発電量は増加し、電気負荷に対応した発電量を確保することができる。また、新たな発電源などの設置も不要であるため、装置の大型化を招くこともない。
【0010】
さらに、シフト機構がニュートラルポジションにあるときに目標回転数を制御(即ち、機関回転数を制御)するように構成したので、例えば要求値に応じて機関回転数が上昇した場合であっても、内燃機関の出力はプロペラに伝達されないため、操船者の意図に反して船速が上昇するなどの不具合が発生するのを防止することができる。
【0011】
請求項2に係る船外機の制御装置にあっては、船外機が船体に複数基装着され、さらに、複数基の船外機でそれぞれ検出された要求値の差を算出すると共に、アクチュエータ制御手段は、算出された差が所定値以上のとき、複数基の船外機において要求値に基づいて設定される回転数の中で最も高い値に目標回転数を決定するように構成したので、上記した効果に加え、複数基のうち一部の船外機だけが機関回転数が上昇してエンジン音が増大するのを防止できる。
【0012】
即ち、各船外機の発電機の発電量に対する要求値の差が所定値以上のとき、具体的には例えば複数基の船外機のうち1基だけが要求値が比較的大きいとき、その船外機のみ目標回転数を増加させると、1基だけ機関回転数が上昇してエンジン音が大きくなって操船者に違和感を与えるという不都合が生じるが、上記の如く、複数基の船外機において設定される回転数の中で最も高い値に目標回転数を決定、換言すれば、複数基の船外機において目標回転数を統一するように構成したので、全ての船外機の機関回転数が同じになり、前記した不都合が生じるのを防止できる。
【0013】
さらに、発電機の発電量に対する要求値の差が所定値以上のとき(例えば複数基の船外機のうち1基だけが要求値が比較的大きいとき)、複数基の船外機全ての目標回転数を増加させることで、全ての発電機の発電量を増加させて対応することが可能となり、よって要求値が比較的大きかった発電機の負担を軽減できると共に、結果として各発電機の耐久性も向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施例に係る船外機の制御装置を示すブロック図である。
【図2】図1に示す船外機の部分断面側面図である。
【図3】図2などに示す内燃機関の概略図である。
【図4】図1などに示す第1、第2船外機における発電機とバッテリの接続関係を詳細に示す説明図である。
【図5】図1に示す船体側ECUによる各船外機の協調制御の許可判断動作を示すフロー・チャートである。
【図6】図1に示す第1船外機ECUのエンジン制御動作を示すフロー・チャートである。
【図7】図6に示す目標回転数決定処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【図8】図7フロー・チャートで使用される、機関回転数に対する発電機の出力特性を示すグラフである。
【図9】図5から図7のフロー・チャートでの処理の一部を説明するタイム・チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に即してこの発明に係る船外機の制御装置を実施するための形態について説明する。
【実施例】
【0016】
図1はこの発明の実施例に係る船外機の制御装置を示すブロック図である。
【0017】
図1において、符号1は船外機10が船体(艇体)12に搭載されてなる船舶を示す。船外機10は、船体12の後尾(船尾)12aに複数基、具体的には2基装着される。即ち、船体12には船外機が多基掛け(2基掛け)される。以下、左舷側(進行方向前方に向かって左側)の船外機を「第1船外機」といい、符号10Aで示す一方、右舷側(同右側)の船外機を「第2船外機」といい、符号10Bで示す。
【0018】
船体12の操縦席の付近には、操船者(図示せず)によって回転操作自在なステアリングホイール14が配置される。ステアリングホイール14のシャフト14aには操舵角センサ16が取り付けられ、操船者によって入力されたステアリングホイール14の操舵角に応じた信号を出力する。
【0019】
操縦席の付近にはさらに、リモートコントロールボックス20が配置され、そこには操船者によって操作自在な複数本(2本)のシフトレバー(シフト・スロットルレバー)22が設けられる。以下、進行方向前方に向かって左側に配置された、第1船外機用のシフトレバーを「第1シフトレバー22A」といい、同右側に配置された、第2船外機用のシフトレバーを「第2シフトレバー22B」という。
【0020】
第1、第2シフトレバー22A,22Bは共に、初期位置から前後方向に揺動操作自在とされ、操船者からの第1、第2船外機10A,10Bに対するシフトチェンジ指示(フォワード(前進)/リバース(後進)/ニュートラル(中立)切り替え指示)と、エンジン回転数の調節指示を入力する。第1、第2シフトレバー22A,22Bの付近には、第1、第2レバー位置センサ24A,24Bが設置され、各シフトレバー22A,22Bの位置に応じた信号を出力する。
【0021】
操舵角センサ16とレバー位置センサ24A,24Bの出力は、船体12の適宜位置に配置された電子制御ユニット(Electronic Control Unit。以下「ECU」という)26に入力される。ECU26はCPUやROM,RAMなどを備えたマイクロ・コンピュータからなる。以下、このECUを「船体側ECU26」という。
【0022】
図2は図1に示す第1船外機10Aの部分断面側面図である。尚、第1船外機10Aと第2船外機10Bは略同一構成であるので、図面および以下の説明では、船外機を特に区別する場合を除いて添え字(A,B)の付加を省略する。
【0023】
船外機10は、図2に示す如く、スイベルケース30、チルティングシャフト32およびスターンブラケット34を介して船体12に取り付けられる。
【0024】
スイベルケース30の上部には、スイベルケース30の内部に鉛直軸回りに回転自在に収容されるスイベルシャフト36を駆動する転舵用電動モータ(アクチュエータ)40が配置される。転舵用電動モータ40の回転出力は減速ギヤ機構42、マウントフレーム44を介してスイベルシャフト36に伝達され、よって船外機10はスイベルシャフト36を転舵軸として左右に(鉛直軸回りに)転舵される。
【0025】
船外機10の上部には、内燃機関(原動機。以下「エンジン」という)46が搭載される。エンジン46は火花点火式の水冷ガソリンエンジンで、排気量2200ccを備える。エンジン46は水面上に位置し、エンジンカバー48によって覆われる。
【0026】
エンジン46の吸気管50には、スロットルボディ52が接続される。スロットルボディ52はその内部にスロットルバルブ54を備えると共に、スロットルバルブ54を開閉するスロットル用電動モータ(アクチュエータ)56が一体的に取り付けられる。
【0027】
スロットル用電動モータ56の出力軸は減速ギヤ機構(図示せず)を介してスロットルバルブ54に接続され、スロットル用電動モータ56を動作させることでスロットルバルブ54が開閉され、エンジン46の吸気量が調整される。
【0028】
図3は図2などに示すエンジン46の概略図である。
【0029】
図3を参照しつつエンジン46の説明を続けると、吸気管50には、スロットルバルブ54の上流側と下流側とを連通してスロットルバルブ54をバイパスするバイパス通路(2次空気通路)60が接続される。バイパス通路60の途中には、エンジン46がアイドル状態などにあるときの吸入空気量を調整するための2次空気量調整バルブ62が設けられる。2次空気量調整バルブ62には、2次空気量調整用電動モータ(アクチュエータ)64が図示しない減速ギヤ機構を介して接続され、電動モータ64を動作させることで2次空気量調整バルブ62が開閉されてバイパス通路60の空気量が調整される。
【0030】
吸気管50においてスロットルバルブ54の下流側の吸気ポート付近にはインジェクタ66が配置され、スロットルバルブ54および2次空気量調整バルブ62で調整された吸入空気にガソリン燃料を噴射する。噴射された燃料は吸入空気と混合して混合気を形成し、混合気は、吸気バルブ68が開弁されるとき、燃焼室70に流入する。
【0031】
燃焼室70に流入した混合気は、点火プラグ(図示せず)で点火されて燃焼し、ピストン72を図3において下方に駆動してクランクシャフト74を回転させる。燃焼によって生じた排ガスは、排気バルブ76が開弁されるとき、排気管78を流れてエンジン46の外部に排出される。
【0032】
図2の説明に戻ると、船外機10は、鉛直軸と平行に配置されて回転自在に支持されるドライブシャフト(出力軸)80を備える。ドライブシャフト80の上端にはエンジン46のクランクシャフト74(図2で見えず)が接続される一方、下端にはシフト機構82を介して水平軸回りに回転自在に支持されたプロペラシャフト84が接続される。プロペラシャフト84の一端にはプロペラ86が取り付けられる。このようにシフト機構82は、エンジン46の出力軸であるドライブシャフト80とプロペラ86の間に介挿される。
【0033】
シフト機構82は、ドライブシャフト80に接続されて回転させられる前進ベベルギヤ82aと後進ベベルギヤ82b、プロペラシャフト84を前進ベベルギヤ82aと後進ベベルギヤ82bのいずれかに係合自在とするクラッチ82cなどからなる。
【0034】
エンジンカバー48の内部には、シフト機構82を動作させてシフトチェンジを行うシフト用電動モータ(アクチュエータ)90が配置される。電動モータ90の出力軸は、減速ギヤ機構92を介してシフト機構82のシフトロッド82dの上端に接続される。従って、シフト用電動モータ90を駆動することにより、シフトロッド82dとシフトスライダ82eが適宜に変位させられ、それによってクラッチ82cを動作させてシフトポジションがフォワード、リバースおよびニュートラルの間で切り替え自在とされる。
【0035】
シフト機構82がフォワードポジションあるいはリバースポジションのとき、ドライブシャフト80の回転はシフト機構82を介してプロペラシャフト84に伝達され、よってプロペラ86は回転させられ、船体12を前進あるいは後進させる方向の推力(推進力)を生じる。一方、シフト機構82がニュートラルポジションにあるとき、プロペラシャフト84は前進ベベルギヤ82aと後進ベベルギヤ82bのいずれとも係合させられず、よってドライブシャフト80からプロペラシャフト84への回転出力の伝達は遮断される。
【0036】
また、船外機10は、図1に示す如く、エンジン46に接続されると共に、エンジン46で駆動されて発電する発電機94と、発電機94に接続され、発電された電力を蓄電するバッテリ96とを備える。
【0037】
図示は省略するが、発電機94は、フィールドコイルが巻回されたロータと、ステータコイルが巻回されたステータとを有する交流発電機(ACG)からなる。発電機94は、フィールドコイルに電流が流されると、ロータが磁化されてN極とS極が形成されると共に、そのロータをエンジン46の出力によって回転させることで、ステータコイルに電流が生じる(発電する)。
【0038】
また、発電機94にあっては、フィールドコイルに流れる電流(以下「フィールドコイル電流」という)を制御することによって発電量が調整可能とされる。具体的には、フィールドコイル電流が増加すると、それによってロータの磁界が強まるため、ステータコイルで生じる電流が増えて発電量を増加させることができる。
【0039】
さらに、発電機94の発電量はエンジン46の回転数に比例する、即ち、エンジン回転数が増加するにつれて発電量も増加する。このようにして発電機94で生じた交流電流は整流された後、バッテリ96に供給されてバッテリ96を充電する。
【0040】
バッテリ96には、船体12に設置された種々の電気負荷(例えば照明器具、GPSや魚群探知機など)100が図示しないコネクタを介して接続自在とされると共に、前述した各電動モータ40,56,64,90も接続され、それらに対して動作電源を供給する。
【0041】
尚、第1船外機10Aのバッテリ96Aに接続される電気負荷100Aは、第2船外機10Bのバッテリ96Bに接続される電気負荷100Bと同一であっても、相違する種類のものであっても良い。
【0042】
図4は、第1、第2船外機10A,10Bにおける発電機94A,94Bとバッテリ96A,96Bの接続関係を詳細に示す説明図である。
【0043】
図4に示す如く、発電機94Aの正極側出力端子94A1はバッテリ96Aの正極側端子96A1に、発電機94Bの正極側出力端子94B1はバッテリ96Bの正極側端子96B1に電線を介して接続されると共に、正極側端子96A1,96B1同士も接続される。同様に、発電機94Aの負極側出力端子94A2はバッテリ96Aの負極側端子96A2に、発電機94Bの負極側出力端子94B2はバッテリ96Bの負極側端子96B2に電線を介して接続され、負極側端子96A2,96B2同士も接続される。
【0044】
このように発電機94A,94Bの間に各バッテリ96A,96Bを並列に接続し、それによって発電機94A,94Bはいずれのバッテリ96A,96Bに対しても充電可能となるように構成される。
【0045】
図1の説明に戻ると、バッテリ96には電圧センサ106が接続され、バッテリ電圧を示す信号を出力する。スロットルバルブ54の付近にはスロットル開度センサ108が配置され、スロットル開度を示す出力を生じると共に、2次空気量調整バルブ62の付近にも開度センサ110が配置され、2次空気量調整バルブ62の開度を示す信号を出力する。
【0046】
エンジン46のクランクシャフト74の付近にはクランク角センサ112が取り付けられ、所定のクランク角度ごとにパルス信号を出力する。さらに、スイベルシャフト36の付近は転舵角センサ114が配置され、スイベルシャフト36の回転角、即ち、船外機10の転舵角を示す出力を生じる。
【0047】
さらに、シフト用電動モータ90の付近には、シフト機構82がニュートラルポジションにあるか否か検出するニュートラルスイッチ(ニュートラルポジション検出手段)116が配置される。スイッチ116は、シフト機構82がニュートラルポジションにあるときにオン信号を出力し、フォワードポジションあるいはリバースポジション(インギヤ)であるときにオフ信号を出力する。
【0048】
上記した各センサやスイッチの出力は、同じ船外機に搭載された船外機ECU120に入力される。以下、第1船外機10AのECUを「第1船外機ECU120A」といい、第2船外機10Bのそれを「第2船外機ECU120B」という。尚、第1、第2船外機ECU120A,120Bは、船体側ECU26と同様、CPUやROM,RAMなどを備えたマイクロ・コンピュータからなる。
【0049】
第1、第2船外機ECU120A,120Bと船体側ECU26は、例えばNMEA(National Marine Electronics Association。米国船舶用電子機器協会)で規格された通信方式(具体的にはCAN(Controller Area Network))によって通信自在に接続される。第1、第2船外機ECU120A,120Bは船体側ECU26からステアリングホイール14の操舵角、後述する発電量増加協調制御許可フラグや協調時目標回転数などの情報を取得する一方、船体側ECU26は第1、第2船外機ECU120A,120Bからエンジン46の運転状態や発電機94の発電状態の情報などを取得する。
【0050】
第1船外機ECU120Aは、入力された(正確には取得した)操舵角センサ16の出力に基づいて転舵用電動モータ40Aの動作を制御し、第1船外機10Aの転舵を行う。また、第1船外機ECU120Aは、入力された第1レバー位置センサ24Aの出力などに基づいてスロットル用電動モータ56Aや2次空気量調整用電動モータ64Aの動作を制御し、スロットルバルブ54や2次空気量調整バルブ62を開閉させて吸入空気量を調整すると共に、シフト用電動モータ90Aの動作を制御してシフト機構82を駆動させ、シフトチェンジを行う。
【0051】
また、第1船外機ECU120Aは、電圧センサ106Aから出力されるバッテリ96Aの電圧に基づいて発電機94Aのフィールドコイル電流をデューティ比制御(PWM制御)し、発電量を調整する。
【0052】
詳しくは、例えば電気負荷100Aが追加して接続されるなどしてバッテリ電圧が低下した場合、デューティ比を増加(即ち、フィールドコイル電流を増加)させて発電量を増やす(具体的には、デューティ比100%のときは常時フィールドコイルに電流が流れる)。一方、バッテリ電圧が上昇した場合はデューティ比を減少(即ち、フィールドコイル電流を減少)させて発電量を減らすようにする。このように、デューティ比は、バッテリ96Aに接続される電気負荷100Aの多寡に応じて変更されるため、換言すれば発電機94Aの発電量に対して要求される要求値に相当するといえる。
【0053】
第2船外機ECU120Bの動作については、第1船外機ECU120Aのそれと同様であるため、説明を省略する。このように、第1船外機10Aは第1船外機ECU120Aによって、第2船外機10Bは第2船外機ECU120Bによってその動作が個別に制御される。
【0054】
また、上記した如く、この実施例に係る船外機の制御装置は、操作系(ステアリングホイール14やシフトレバー22)と船外機10の機械的な接続が断たれたDBW(Drive By Wire)方式の制御装置である。
【0055】
図5は船体側ECU26による各船外機10A,10Bの協調制御の許可判断動作を、図6は第1船外機ECU120Aのエンジン制御動作を示すフロー・チャートである。図示のプログラムは、船体側ECU26、第1船外機ECU120Aによって所定の周期(例えば100msec)ごとに並行して実行される。尚、図6の第1船外機ECU120Aの動作は第2船外機ECU120Bでも行われるため、図6の説明は第2船外機ECU120Bにも妥当する。
【0056】
以下説明すると、図5に示す如く、先ずS(ステップ)10において、第1船外機10Aのエンジン46Aの運転状態、発電機94Aの発電状態およびシフトポジションの情報を取得する。具体的には、後述する処理によって決定または検出される目標回転数と発電機94のフィールドコイル電流を制御するデューティ比、およびニュートラルスイッチ116Aの出力を示す信号を第1船外機ECU120Aから取得する(読み込む)。
【0057】
次いでS12に進んで同様に、第2船外機10Bのエンジン46Bの運転状態、発電機94Bの発電状態およびシフトポジションの情報を第2船外機ECU120Bから取得する。
【0058】
次いでS14に進み、S10,S12で得たシフトポジションの情報から各船外機10A,10Bのシフト機構82が共にニュートラルポジションにあるか否か判定、具体的にはニュートラルスイッチ116A,116Bの出力が共にオン信号か否か判定する。
【0059】
S14で肯定されるときはS16に進み、発電機94A,94Bの発電状態の情報に基づき、各発電機94の発電量に対する要求値の差を算出する。要求値は、前述した如く、フィールドコイル電流を制御するデューティ比で表されるため、ここでは第1船外機10Aの発電機94Aのデューティ比から第2船外機10Bの発電機94Bのデューティ比を減算して差を求める。
【0060】
次いでS18に進み、第1、第2船外機10A,10Bのエンジン46A,46Bの動作を協調して制御することで発電機94の発電量を増加させる発電量増加協調制御の実行を許可するか否か判断する。
【0061】
具体的には、算出された要求値(デューティ比)の差の絶対値と所定値とを比較し、差の絶対値が所定値以上のとき、発電量増加協調制御の実行を許可する。この所定値は、各発電機94A,94Bにおける発電量が比較的大きく相違(乖離)していると判断できるような値とされ、例えば20%に設定される。
【0062】
S18で肯定されるときはS20に進み、発電量増加協調制御許可フラグ(以下「協調制御許可フラグ」という)のビットを1にセットする。即ち、この協調制御許可フラグのビットは、第1、第2船外機10A,10Bにおいてシフト機構82がニュートラルポジションにあり、かつ各発電機94A,94Bに対する要求値の差が比較的大きいときに1にセットされる一方、それ以外のとき0にリセットされる。
【0063】
次いでS22に進み、S10,S12で取得した第1、第2船外機10A,10Bのエンジン46A,46Bの目標回転数を比較し、それら目標回転数の中で最も高い値を「協調時目標回転数」として決定すると共に、決定された協調時目標回転数を示す信号を第1、第2船外機ECU120A,120Bに出力する。
【0064】
他方、S14またはS18で否定されるときはS24に進み、協調制御許可フラグのビットを0にリセットしてプログラムを終了する。
【0065】
次いで図6について説明すると、先ずS100において、ニュートラルスイッチ116の出力に基づき、シフト機構82がニュートラルポジションか否か判断する。S100で肯定されるときはS102に進み、前述した協調制御許可フラグのビットが1か否か判断する。
【0066】
S102で否定されるとき、換言すれば、第1、第2船外機10A,10Bのエンジン46A,46Bの動作を協調させる制御が許可されていないときはS104に進み、エンジン46の目標回転数を決定する処理を実行する。
【0067】
図7はその目標回転数決定処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【0068】
図7に示す如く、S200において発電機94の発電量に対する要求値を検出、具体的には要求値に相当するデューティ比を検出する。次いでS202に進み、検出されたデューティ比に基づいて発電機94の負荷を判定する。
【0069】
具体的には、S202において、フィールドコイル電流を制御するデューティ比が70%未満であって低負荷と判定(推定)されるときはS204に進み、目標回転数を比較的低い値(例えば650rpm)に決定する。また、デューティ比が70%以上、80%未満であり、やや低負荷のときはS206に進み、目標回転数をやや低い値(例えば700rpm)に決定する。
【0070】
また、デューティ比が80%以上、90%未満でやや高負荷と判定されるときはS208に進み、目標回転数をやや高い値(例えば800rpm)に決定すると共に、デューティ比が90%以上であって高負荷であるときはS210に進み、目標回転数を比較的高い値(例えば850rpm)に決定する。
【0071】
尚、上記した目標回転数の値は、図8に示すような発電機94の出力特性に基づいて適宜に設定される。具体的には、発電機94の負荷が低いと判定される場合、低い発電量で足りるため、目標回転数は低く設定される一方、高負荷の場合は発電量を増加させるべく、目標回転数は高い値に設定される。但し、目標回転数の上限値は、ニュートラルからフォワード(あるいはリバース)へシフトチェンジしたときの衝撃を考慮した値(850rpm)とされる。
【0072】
図6の説明に戻ると、次いでS106に進み、発電量制御を開始する。具体的には、クランク角センサ112Aの出力パルスをカウントして得たエンジン回転数が目標回転数となるように(換言すれば、エンジン回転数と目標回転数が一致するように)スロットル用電動モータ56もしくは2次空気量調整用電動モータ64の駆動を制御する。
【0073】
他方、S102で肯定されるときはS108に進み、目標回転数を前記した協調時目標回転数に決定すると共に、前述したS106に進んで発電量制御を開始、即ち、エンジン回転数が目標回転数(協調時目標回転数)となるようにスロットル用電動モータ56などの駆動を制御する。
【0074】
これについて詳説すると、S102で肯定されるとき、即ち、各船外機10A,10Bの発電機94A,94Bの発電量に対する要求値の差の絶対値が所定値以上のとき(例えば第1の船外機10Aだけが要求値が比較的大きいとき)、第1の船外機10Aのみ目標回転数を増加させると、1基だけエンジン回転数が上昇してエンジン音が大きくなって操船者に違和感を与えるという不都合が発生することがある。
【0075】
そこで、この実施例に係る船外機の制御装置においては、上記の如く第1、第2船外機10A,10Bにおいて設定される回転数の中で最も高い値である「協調時目標回転数」に目標回転数を決定、換言すれば、第1、第2船外機10A,10Bにおいて目標回転数を統一するように構成したので、全ての船外機10A,10Bのエンジン回転数が同じになり、前記した不都合が生じることはない。
【0076】
一方、S100で否定されるときはS110に進み、発電量制御を実行しない、または発電量制御を実行している場合はそれを停止する。次いでS112に進み、エンジン46の通常制御を実行する。具体的には、第1レバー位置センサ24Aの出力に応じて目標回転数を決定し、エンジン回転数が目標回転数となるようにスロットル用電動モータ56などの駆動を制御する。
【0077】
図9は図5から図7のフロー・チャートでの処理の一部を説明するタイム・チャートである。尚、図9においては、上から順に、第1船外機10Aのニュートラルスイッチ116Aの出力状態、発電機94Aのフィールドコイルのデューティ比、エンジン46Aのエンジン回転数、協調制御許可フラグのビットを示す。
【0078】
図9に示すように、先ず時刻t1においてニュートラルスイッチ116Aがオンされる、即ち、シフト機構82がニュートラルポジションとなる。時刻t1からt2まではデューティ比が70%未満と判断されるので、目標回転数、即ち、エンジン回転数は650rpmとされる(S204)。時刻t2においてデューティ比が75%になったと判断されると、目標回転数は700rpmとされ、それに伴ってエンジン回転数が700rpmまで上昇する(S206)。
【0079】
同様に、時刻t3でデューティ比が85%になったと判断されると、目標回転数は800rpmとされ、それに伴ってエンジン回転数が徐々に上昇し(S208)、時刻t4でデューティ比が95%になったと判断されると、目標回転数は850rpmとされてエンジン回転数も850rpmまで上昇する(S210)。
【0080】
尚、図9に想像線で示す如く、時刻taで協調制御許可フラグのビットが1になった場合、即ち、例えば時刻taで第2船外機10Bのバッテリ96Bに電気負荷100Bが追加して接続されて、発電機94Bの発電量に対する要求値(デューティ比)が95%まで増加し、要求値の差が所定値(20%)以上となった場合、第2船外機10Bの目標回転数は850rpmに決定されると共に、協調時目標回転数も850rpmに決定される。そのため、第1船外機10Aにあっては、自身の発電機94Aの要求値(デューティ比)に関わらず、目標回転数は協調時目標回転数に設定され、よってエンジン回転数が850rpmとなるように調整される(S102,S108)。
【0081】
以上の如く、この発明の実施例にあっては、内燃機関(エンジン)46と、前記内燃機関に接続される発電機94とを備えた船外機10(第1、第2船外機10A,10B)において、前記内燃機関のスロットルバルブ54を開閉するアクチュエータ(スロットル用電動モータ)56と、前記内燃機関の出力軸(ドライブシャフト)80とプロペラ86の間に介挿されるシフト機構82がニュートラルポジションにあるか否か検出するニュートラルポジション検出手段(ニュートラルスイッチ116)と、前記発電機の発電量に対する要求値(デューティ比)を検出する発電量要求値検出手段(第1、第2船外機ECU120A,120B。S200)と、前記シフト機構がニュートラルポジションにあることが検出されるとき、前記検出された要求値に基づいて前記内燃機関の目標回転数を決定し、前記決定された目標回転数となるように前記アクチュエータの駆動を制御するアクチュエータ制御手段(第1、第2船外機ECU120A,120B。S100,S104,S106,S202〜S210)とを備える如く構成した。
【0082】
これにより、装置の大型化を招くことなく、接続される電気負荷100に対応した発電量を確保することができる。例えば発電機94の発電量に対する要求値が増加したときにエンジン46の目標回転数も増加させることが可能となり、それによってエンジン回転数が上昇して発電機94の発電量は増加し、電気負荷100に対応した発電量を確保することができる。また、新たな発電源などの設置も不要であるため、装置の大型化を招くこともない。
【0083】
さらに、シフト機構82がニュートラルポジションにあるときに目標回転数を制御(即ち、エンジン回転数を制御)するように構成したので、例えば要求値に応じてエンジン回転数が上昇した場合であっても、エンジン46の出力はプロペラ86に伝達されないため、操船者の意図に反して船速が上昇するなどの不具合が発生するのを防止することができる。
【0084】
また、前記船外機10A,10Bが船体12に複数基(2基)装着され、さらに、前記複数基の船外機でそれぞれ検出された前記要求値の差を算出する要求値差算出手段(船体側ECU26。S16)を備えると共に、前記アクチュエータ制御手段は、前記算出された差が所定値(20%)以上のとき、前記複数基の船外機において前記要求値に基づいて設定される回転数の中で最も高い値(協調時目標回転数)に前記目標回転数を決定する如く構成したので(S102,S108)、複数基のうち一部の船外機10だけがエンジン回転数が上昇してエンジン音が増大するのを防止できる。
【0085】
即ち、各船外機10A,10Bの発電機94A,94Bの発電量に対する要求値の差が所定値以上のとき、具体的には例えば複数基の船外機10A,10Bのうち1基だけが要求値が比較的大きいとき、その船外機のみ目標回転数を増加させると、1基だけエンジン回転数が上昇してエンジン音が大きくなって操船者に違和感を与えるという不都合が生じるが、上記の如く、複数基の船外機10A,10Bにおいて設定される回転数の中で最も高い値に目標回転数を決定、換言すれば、複数基の船外機10A,10Bにおいて目標回転数を統一するように構成したので、全ての船外機10A,10Bのエンジン回転数が同じになり、前記した不都合が生じるのを防止できる。
【0086】
さらに、発電機94A,94Bの発電量に対する要求値の差が所定値以上のとき(例えば複数基の船外機10A,10Bのうち1基だけが要求値が比較的大きいとき)、複数基の船外機10A,10B全ての目標回転数を増加させることで、全ての発電機94A,94Bの発電量を増加させて対応することが可能となり、よって要求値が比較的大きかった発電機の負担を軽減できると共に、結果として各発電機94A,94Bの耐久性も向上させることができる。
【0087】
尚、上記においては、船外機を例にとって説明したが、内燃機関と発電機を備えた船内外機についても本発明を適用することができる。
【0088】
また、船外機を船体に2基固定するように構成したが、この発明は船外機が1基あるいは3基以上の場合にも適用可能である。また、所定値、デューティ比に対する目標回転数やエンジン46の排気量などを具体的な値で示したが、それらは例示であって限定されるものではない。
【符号の説明】
【0089】
10A 第1船外機(船外機)、10B 第2船外機(船外機)、26 船体側ECU(電子制御ユニット)、46 エンジン(内燃機関)、54 スロットルバルブ、56 スロットル用電動モータ(アクチュエータ)、80 ドライブシャフト(出力軸)、82 シフト機構、86 プロペラ、94 発電機、116 ニュートラルスイッチ(ニュートラルポジション検出手段)、120A 第1船外機ECU(電子制御ユニット)、120B 第2船外機ECU(電子制御ユニット)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、前記内燃機関に接続される発電機とを備えた船外機において、
a.前記内燃機関のスロットルバルブを開閉するアクチュエータと、
b.前記内燃機関の出力軸とプロペラの間に介挿されるシフト機構がニュートラルポジションにあるか否か検出するニュートラルポジション検出手段と、
c.前記発電機の発電量に対する要求値を検出する発電量要求値検出手段と、
d.前記シフト機構がニュートラルポジションにあることが検出されるとき、前記検出された要求値に基づいて前記内燃機関の目標回転数を決定し、前記決定された目標回転数となるように前記アクチュエータの駆動を制御するアクチュエータ制御手段と、
を備えることを特徴とする船外機の制御装置。
【請求項2】
前記船外機が船体に複数基装着され、さらに、
e.前記複数基の船外機でそれぞれ検出された前記要求値の差を算出する要求値差算出手段、
を備えると共に、前記アクチュエータ制御手段は、前記算出された差が所定値以上のとき、前記複数基の船外機において前記要求値に基づいて設定される回転数の中で最も高い値に前記目標回転数を決定することを特徴とする請求項1記載の船外機の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate