説明

船舶接近防止浮体構造

【課題】 小型船舶が対象範囲に接近するのを防止する警告効果を有するとともに、侵入してくる小型船舶に対して海上で停止させる機能を有する浮体構造を提供する。
【解決手段】 水域を区画するように延在するフロート部10Aと、フロート部10Aの下端に垂下され、水中において水域を区画するカーテン部10Bとからなる汚濁防止膜10を設ける。汚濁防止膜10で区画された外側の水域に、フロート部10Aの一部に定着された浮力を有するロープを所定の目合いで格子状に編んだフロートネット20を配置する。フロートネット20を構成するロープのうち、フロート部10Aに平行方向に配置されたロープを、光反射ロープ22と、水中に垂下させた捕捉ネット24を支持する支持ロープ23とで構成する。そして、フロートネット20内に航行してきた船舶のスクリューにロープの一部あるいは捕捉ネット24を絡ませて船舶が汚濁防止膜10、内側水域に接近するのを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は船舶接近防止浮体構造に係り、汚濁防止膜等で海域の一部を区画するよう敷設された浮体膜構造物と一体構造をなす、船舶等が衝突するのを防止するために設けられた船舶接近防止浮体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海上に構築された、海洋石油掘削装置、人工島等の構造物に船舶が接近して衝突するのを防止するため、その構造物の周囲に設定された警戒水域の海面に表示ブイ等が設置されている。このような表示ブイのみでは、警戒水域を連続して区画して表示することはできない。このため、表示ブイを見落とした場合等には、船舶が警戒水域を越えて侵入し、海上構築物に衝突あるいは接触するおそれがあった。
【0003】
そこで、海上構築物の周囲の警戒水域を線状に区画する船舶侵入防止フェンスが提案されている(特許文献1)。このフェンスは、海上構築物を中心として、同心的に海面上に配置された長尺の帯状浮体と、これらの帯状浮体間に張設されたネットと、帯状浮体とネットとを固定アンカーとから構成されている。
【0004】
この船舶侵入防止フェンスでは、帯状浮体に船首が衝突し引っ掛かることにより、あるいは張設されたネットに船舶のスクリューが絡まることによリ、アンカーを引きずり、船舶を減速ないし停止させるようになっている。
【0005】
一方、海上等で行われる浚渫工事や埋立工事において、発生する海底土の撹拌等により生じる海水の汚濁(濁り)は、魚介類のエラに入り呼吸困難にさせたり、水中照度を低下させ、底棲生物に悪い影響を与えるため、問題になっている。これらの問題を解決するために、その汚濁の拡散を防止するために敷設される構造物として、浮体膜構造物からなる汚濁防止膜が採用されている(非特許文献1)。この汚濁防止膜を設置することで、海洋や河川で行われる浚渫工事や埋立工事において発生する汚濁(濁り)の拡散を物理的に防止し、周辺区域に悪影響を与えないようにすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平2−115791号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】太陽工業株式会社製品紹介「シルトプロテクター(登録商標)」ウエブサイト、[online]、[平成21年11月30日検索]、インターネット<URL:http://www.taiyokogyo.co.jp/jsipro/intro.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示された船舶侵入防止フェンスでは、大型船舶の航行を想定し、このフェンスにより侵入防止を図っている。そして網目状のネットが浮体間の海面近くで平面状に張設されている。このため、ネットの目合いによっては、船舶がネット上を通過した際に、船底でネット全体を押し下げてしまうため、スクリューがネット上を通過してしまったり、スクリュー回りの渦によってネットが押しのけられしてしまい、スクリューがネットに絡まない場合がある。その場合、船舶はこのフェンスを乗り越えて、警戒水域に侵入してしまうおそれがある。
【0009】
一方、非特許文献1に開示された汚濁防止膜が設置される海域では、特許文献1で想定しているような大型船舶は航行しない。そのため、浮体膜構造物の浮体自体が有する耐衝撃性により、小型船舶の衝突による破損等が防止されている。しかし、汚濁防止膜の構造物の安全性向上のためには、浮体との衝突を事前に防止することが必要である。そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、小型船舶の浮体膜構造物への接近を確実に防止できるようにし、汚濁防止膜に接近する船舶の進行を阻止できるようにした船舶接近防止浮体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は水域を区画するように延在するフロート部と、該フロート部の下端に垂下され、水中において前記水域を区画するカーテン部とからなる汚濁防止膜と、該汚濁防止膜で区画された外側の水域に、前記フロート部の一部に定着された浮力を有するロープを所定の目合いで格子状に編んだフロートネットを配置し、該フロートネットを構成する前記ロープのうち、前記フロート部に平行方向に配置されたロープを、光反射性ロープと、水中に垂下させた捕捉ネットを支持する支持ロープとで構成し、前記フロートネット内に航行してきた船舶のスクリューに前記ロープの一部あるいは捕捉ネットを絡ませて前記船舶が前記汚濁防止膜ないし区画された前記内側水域に接近するのを防止することを特徴とする。
【0011】
前記光反射性ロープは、細幅紐状の反射性フィルムを撚り込んだロープとすることで、その視認性を高めることが好ましい。
【0012】
前記捕捉ネットは、支持ロープの長手方向に延設され、前記フロートネットの目合い寸法にほぼ等しい長さのネットを水中に垂下させることが好ましい。これにより、支持ロープがスクリューシャフトに絡んだ後、この捕捉ネットでスクリューを覆うことができる。
【0013】
前記支持ロープは、ロープから垂下する前記捕捉ネットの重量を補う浮力体を設けることで、その浮力、安定性を保持することができる。
【0014】
前記光反射性ロープと前記支持ロープとを交互に配置して前記フロートネットのたてロープを構成することが好ましい。これにより、視認性と、船舶の接近抑止とを効率よく果たすことができる。
【0015】
前記汚濁防止膜は、フロート部に太陽電池を電源とするフラッシュライトを備えることで、その視認性を高めることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、汚濁防止膜に視認性の高い装備を備えるとともに、大きな目合いで構成され、視認性の高いロープで格子状をなすネットからなるフロートネットを設けることで、小型船舶がその範囲に接近するのを防止する警告効果があるとともに、フロートネットまで進行してきた小型船舶に対しては、フロートネットのロープによるスクリュー捕捉により、たとえば汚濁防止膜等まで到達する前に確実に海上で停止させることができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の船舶接近防止浮体構造の一実施例の部分平面図と断面図。
【図2】図1に示した船舶接近防止浮体構造の全体構成(汚濁防止膜、フロートネット)を説明のために立体的に示した部分斜視図。
【図3】汚濁防止膜の構成を拡大して示した正面図。
【図4】捕捉ネットと支持ロープの構成を拡大して示した正面図。
【図5】小型ボートがフロートネット上を航行した際の捕捉ネットの作用を説明した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の船舶接近防止浮体構造の実施するための形態として、以下の実施例について添付図面を参照して説明する。
【実施例】
【0019】
図1(a)は、本発明の船舶接近防止浮体構造の一部を示した平面図、同図(b)は断面図である。図2は、図1(a)、(b)に示した船舶接近防止浮体構造1の一部を立体視して示した斜視図である。この船舶接近防止浮体構造1は、区画した内側水域からの汚濁水の外側水域への拡散を防止するとともに、内側水域への船舶等の侵入を阻止することができるフェンス機能を有する汚濁防止膜と、この汚濁防止膜10への船舶の接近を防止する網状体からなるフロートネットとから構成されている。
【0020】
ここで、汚濁防止膜10の構成について、上記各図および図4を参照して説明する。汚濁防止膜10は浮力材を備えることで、海面に設置され、内側水域2(たとえば埋め立て工事区画)と外側水域3とを区画するフロート部10Aと、フロート部10Aから水中に垂下され、内側水域2で発生した汚濁水の水中拡散を阻止するカーテン部とからなる。フロート部10Aのフロートカバー12とカーテン部10Bの構成素材としては、高強度ポリエステル系合成繊維基布に、耐紫外線性を有する高強度ポリエステルターポリンを被覆した防水シートが使用されている。フロート部10A内部の浮力材11には、円筒形状の発泡ポリスチレン等の発泡成形材が使用されている。カーテン部10Bは、図3に示したように、汚濁層の拡散状態を考慮した設計により、カーテン長さ(深さ)Dが決定され、その水深まで達するように、所定原反幅の防水シート15を深さ方向に接合したものである。カーテン部10Bの下端にはウエイトチェーン16が長手方向に取り付けられている。これにより、カーテン部10Bは海中で垂下状態を保持し、潮流等の影響によりカーテン部10Bがめくれたりするのを防止できる。本実施例では、汚濁防止膜10は、1スパンの延長が20mで、19.5m毎にアンカーロープ17で、海底のコンクリート製アンカーブロック18に係留されている(図1(b),図2)。
【0021】
なお、岩礁近くに汚濁防止膜10を用いる際は、従来のポリエステルターポリン被覆材では、耐摩耗性が不足するので、フロート部10Aを合成ゴム製のコンベアベルトで被覆することが好ましい。同じ素材のコンベアベルト製のカーテン部10Bを構成することが好ましい。これにより、耐磨耗性が向上し、岩礁との擦れによるフロートカバー12の破損や浮力材11の飛散、カーテン部10Bの破損、ウエイトチェーン16の脱落等を防ぐことができる。
【0022】
なお、汚濁防止膜10の近くを航行する船舶からの視認性を高めるために、汚濁防止膜10のユニット化された各フロート部10Aの継ぎ目10aには帯状の光反射テープ13が巻き付けられ、フロート部10Aの長手方向に沿って所定間隔をあけてフラッシュライト等の発光機器が取り付けられている。このフラッシュライト14は太陽電池(図示せず)で発光するため、メンテナンスフリー機器として利用できる。
【0023】
フロートネット20は、後述する複数種のロープを所定の大きな目合いのネット状に編んだ浮力性を有する網状体で、汚濁防止膜10が区画する内側水域2(例えば埋立用地領域)と外側水域3(船舶が接近してくる側)のうち、外側水域3側で所定の幅を有するように、その内側端部がフロート部10Aの下端に定着されて汚濁防止膜10と一体化されている。このフロートネット20は、本実施例では、図1(a)、図2に示したように、海上にある汚濁防止膜10のフロート部10Aに沿って、幅約10mの範囲に約1m平方の目合いで浮力性の複数種のロープをネット状に編んで構成されている。
【0024】
このフロートネット20を構成する、汚濁防止膜10と平行方向となるたて(経)ロープ21と、直行方向となるよこ(緯)ロープ29とについて説明する。たてロープ21は、図1(a)、図2に示したように、光反射ロープ22と捕捉ネット24を垂下する支持ロープとが交互に配列された構成からなる。光反射ロープ22は、浮力性を有する合成繊維撚りロープで、ロープ自体の撚りに加えて細幅の金属コーティングフィルムが撚り込まれ、この金属コーティングフィルムがロープの撚りに沿って連続的にロープ表面に現れるようになっている。夜間等に光反射ロープ22に光が当たると、金属コーティングフィルム部分が反射し、ロープ全体が光るように見える。従って、夜間航行している船舶からは、進行方向にあるフロートネット20の複数本のたてロープ21のうちの光反射ロープ22が、前照灯により照らされて線状に光るように映し出される。これと汚濁防止膜10のフロート部10A上端に設置されたフラッシュライト14とにより、船舶は前方にある障害物としての汚濁防止膜10とその手前にあるフロートネット20とを確実に視認することができる。
【0025】
なお、上述した光反射ロープ22に代えて、ロープに微小ビーズ玉が連なった細幅テープを撚り込んだり、巻き付けたりした再帰反射性ロープや、太陽や照明の光エネルギーを吸収して発光(励起)可能な蓄光ロープ等も使用できる。フロート部10Aに取り付けられる光反射テープとしては、直に浮力体に貼付する場合が多いので、再帰反射可能な反射材料を含有した面状の粘着反射シート等を用いることが好ましい。
【0026】
たてロープ21の端部には、フロートネット20の端部ロープ27には複数本の長円筒形状の発泡体フロート28が取り付けられている。これにより、フロートネット20の端部に当たる波浪からフロートネット20全体の安定を図ることができる。
【0027】
よこロープ29は、各たてロープ21と所定目合いの格子状をなすように編まれた、浮力を有するポリエステル製ロープで、フロートネット20全体が海面に浮くようになっている。また、フロートネット20も、端部ロープ27に、所定間隔をあけてアンカーロープ17が結束され、アンカーロープ17により海底のコンクリート製アンカーブロック18に係留されている(図1(b),図2)。
【0028】
捕捉ネット24は、図4に示したように、たてロープとしての支持ロープ23に上端が接続され、本実施例では、0.25m目合いの細径ロープで編まれた格子状ネットが水深1mまで垂下されたものである。捕捉ネット24の下端には所定間隔でウエイト25が取り付けられ、水中で張った状態が保持されている。また、支持ロープ23にはロープ延長方向に沿って所定間隔を開けて、浮力体26としての小型発泡体フロートが取り付けられている。この浮力体26は、支持ロープ23が、海中に垂下した捕捉ネット24とウエイト25との重量に見合う浮力を有するようにサイズおよび個数が調整されている。
【0029】
[船舶接近防止浮体構造のフロートネットの作用]
上述したように(併せて図1(a),図2参照)、本発明の船舶接近防止浮体構造1は、汚濁防止膜10とフロートネット20とが一体的に構成されているため、所定の範囲に沿って敷設されている汚濁防止膜10に接近する船舶を、フロートネット20部分で減速、停止させることができる。その作用について、図5各図を参照して説明する。
【0030】
図5(a)は、船舶接近防止浮体構造1のフロートネット20の端部ロープ17位置に、航行中の船外機31付きの小型ボート30がさしかかった状態を示している。この小型ボート30は図5(b)に示したように、フロートネット20上を、そのまま船底を摺るように進むが、船外機31のスクリュー32が端部ロープ27を乗り越える瞬間に、この端部ロープ27がスクリュー32やスクリューシャフト33に絡みつく。小型ボート30にある程度以上の艇速があると、小型ボート30の船底に押しのけられ端部ロープ27が一時的に沈んでしまうため、スクリュー32が端部ロープ27を通過してしまうこともあるが、ボート30がフロートネット20上を進むと、艇速が落ちるため、その次に位置する光反射ロープ22あるいは支持ロープ23にスクリューシャフト33が引っかかる。そして支持ロープ23にスクリューシャフト33が絡まると、支持ロープ23が絡まるのにつれて垂下している捕捉ネット24が巻き上げられ、スクリュー32を覆う。このため、ボート30は完全に行き足を失い、停止してしまう。たとえばそのようにロープ類がスクリューシャフト33に絡まるのを避けるために、図5(c)のように船外機31をチルトアップして進行すると、フロートネット20と船底との抵抗で、艇速は完全に失われ、フロートネット20上でボート30は停止してしまう。このようにして、本発明の船舶接近防止浮体構造1では、光反射ロープ22あるいは支持ロープ23がスクリュー32あるいはスクリューシャフト33に絡まるとともに、捕捉ネット24でスクリュー32全体を覆ってしまうことができるので、ボート30等の船舶が汚濁防止膜10に接近するのを確実に阻止できる。
【0031】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0032】
1 船舶接近防止浮体構造
10 汚濁防止膜
10A フロート部
10B カーテン部
20 フロートネット
21 たてロープ
22 光反射ロープ
23 支持ロープ
24 捕捉ネット
30 小型ボート
32 スクリュー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水域を区画するように延在するフロート部と、該フロート部の下端に垂下され、水中において前記水域を区画するカーテン部とからなる汚濁防止膜と、該汚濁防止膜で区画された外側の水域に、前記フロート部の一部に定着された浮力を有するロープを所定の目合いで格子状に編んだフロートネットを配置し、該フロートネットを構成する前記ロープのうち、前記フロート部に平行方向に配置されたロープを、光反射ロープと、水中に垂下させた捕捉ネットを支持する支持ロープとで構成し、
前記フロートネット内に航行してきた船舶のスクリューに前記ロープの一部あるいは捕捉ネットを絡ませて前記船舶が前記汚濁防止膜ないし区画された前記内側水域に接近するのを防止することを特徴とする船舶接近防止浮体構造。
【請求項2】
前記光反射ロープは、細幅紐状の反射性フィルムをロープに撚り込んだことを特徴とする請求項1に記載の船舶接近防止浮体構造。
【請求項3】
前記捕捉ネットは、支持ロープの長手方向に延設され、前記フロートネットの目合い寸法にほど等しい長さのネットを水中に垂下させてなることを特徴とする請求項1に記載の船舶接近防止浮体構造。
【請求項4】
前記支持ロープは、ロープから垂下する前記捕捉ネットの重量を補う浮力体が設けられたことを特徴とする請求項1または請求項3に記載の船舶接近防止浮体構造。
【請求項5】
前記光反射ロープと前記支持ロープとを交互に配置して前記フロートネットのたてロープを構成するようにしたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の船舶接近防止浮体構造。
【請求項6】
前記汚濁防止膜は、フロート部に太陽電池を電源とするフラッシュライトを備えたことを特徴とする請求項1に記載の船舶接近防止浮体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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