説明

船舶用操縦装置

【課題】操舵装置を構成する何れかの機器に故障が生じた場合でも、故障していない他の機器を使用して船外機を操舵し、船舶を操縦可能な船舶用操縦装置を得る。
【解決手段】2機以上の船外機3L,Rが並置された船舶1に設けられる船舶用操縦装置であって、レバー位置検出部62L,Rで検出された、船外機のスロットル開度を調節するためのリモコン操作レバー61L,Rのレバー位置どうしの偏差を検出するレバー位置偏差検出部63と、船外機を操舵するためのハンドル5、ハンドルの操舵角を検出する操舵角検出手段または操舵角を伝送する通信線14に発生した故障を検出する故障検出手段とを備え、伝送された操舵角に基づいてアクチュエータ11L,Rを駆動する船外機操舵コントローラ12L,Rは、故障検出手段が故障の発生を検出した場合に、レバー位置偏差検出部で検出されたレバー位置偏差に基づいてアクチュエータを駆動する非常制御モードを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、2機以上の船外機が並置された船舶に設けられる船舶用操縦装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船外機を推進装置として利用する小型船舶では、船外機の向きを変える(操舵する)ことによって舵取りを行う。船外機の操舵方法としては、船外機に取り付けられたハンドルバーにより操船者が船外機を直接操舵する方法がある。また、操船席に設けられたハンドルと船外機とを、ロープおよび滑車、プッシュプルケーブルまたは油圧プランジャ等を用いて機械的に連結し、ハンドルの回転を船外機に伝達して、船外機を間接的に操舵する方法もある。
【0003】
また、近年では、ハンドルと船外機との機械的な連結を廃し、代わりに操舵用のアクチュエータを船外機に取り付けるとともに、ハンドルとアクチュエータとを通信線で電気的に接続する操舵装置が提案されている。この操舵装置では、ハンドルの操作方向および操作量をセンサで検出し、検出された操作方向および操作量に基づいてコントローラがアクチュエータを駆動制御して、アクチュエータが船外機を操舵している(例えば、特許文献1参照)。
また、船外機のスロットル開度については、操作レバーとスロットルバルブとを通信線で電気的に接続し、電気信号によってスロットルバルブを操作するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2959044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
従来の操舵装置では、各種電気回路、センサ、通信線等、ハンドルからアクチュエータまでの何れか1つの機器のみに故障が生じた場合であっても、船外機を操舵することができなくなる。しかしながら、アクチュエータおよびアクチュエータの駆動回路の何れにも故障が生じていない場合に、故障していない他の回路やセンサ、通信線等を使用して船外機の操舵を継続することができれば、船舶を操縦して帰港させることができる。
すなわち、従来の操舵装置では、装置を構成する何れかの機器に故障が生じた場合に、故障していない他の機器を使用して船外機の操舵を継続することができないという問題があった。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、操舵装置を構成する何れかの機器に故障が生じた場合であっても、故障していない他の機器を使用して船外機を操舵し、船舶を操縦することができる船舶用操縦装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る船舶用操縦装置は、2機以上の船外機が並置された船舶に設けられる船舶用操縦装置であって、船外機を操舵するために設けられたハンドルと、ハンドルの操舵角を検出する操舵角検出手段と、検出された操舵角を伝送する通信線と、船外機のそれぞれに取り付けられて船外機を操舵するアクチュエータと、伝送された操舵角に基づいて、アクチュエータを駆動する操舵制御手段と、船外機のそれぞれのスロットル開度を調節するために設けられた2つ以上の操作レバーと、操作レバーのそれぞれのレバー位置を検出するレバー位置検出手段と、を備えたものにおいて、レバー位置検出手段で検出され、通信線を経由して伝送されたレバー位置どうしの偏差を検出するレバー位置偏差検出手段と、ハンドル、操舵角検出手段または通信線に発生した故障を検出する故障検出手段と、をさらに備え、操舵制御手段は、故障検出手段が故障の発生を検出した場合に、レバー位置偏差検出手段で検出されたレバー位置偏差に基づいて、アクチュエータを駆動する非常制御モードを有するものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係る船舶用操縦装置によれば、伝送された操舵角に基づいてアクチュエータを駆動する操舵制御手段は、故障検出手段が故障の発生を検出した場合に、レバー位置偏差検出手段で検出されたレバー位置偏差に基づいて、アクチュエータを駆動する非常制御モードを有する。
そのため、操舵装置を構成する何れかの機器に故障が生じた場合であっても、故障していない他の機器を使用して船外機を操舵し、船舶を操縦することができる船舶用操縦装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1に係る船舶用操縦装置を搭載した船舶を示す概略構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る船舶用操縦装置の通常動作時における操舵アシスト動作を示す説明図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る船舶用操縦装置の非常制御モードにおけるアクチュエータの駆動制御を示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係る船舶用操縦装置の非常制御モードにおける別のアクチュエータの駆動制御を示す説明図である。
【図5】(a)〜(c)は、この発明の実施の形態1に係る船舶用操縦装置の非常制御モードにおけるさらに別のアクチュエータの駆動制御を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の船舶用操縦装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明するが、各図において同一、または相当する部分については、同一符号を付して説明する。
なお、以下の実施の形態では、船外機およびリモコン操作レバーは、それぞれ2つ以上設けられていることを前提とする。
【0011】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る船舶用操縦装置を搭載した船舶1を示す概略構成図である。なお、この実施の形態1では、2機の船外機3L、3Rが並置された船舶を例に挙げて説明するが、これに限定されず、3機以上の船外機が並置された船舶であってもよい。
【0012】
図1において、船舶1の船体2の後部には、推進装置である船外機3L、3Rが設けられている。船体2の前方に設置された操船席4には、船外機3L、3Rを操舵するためのハンドル5と、船外機3L、3Rのスロットル開度を調節するためのリモートコントローラ6とが設けられている。
【0013】
ハンドル5には、操舵角検出部(操舵角検出手段)、マイコンおよび通信回路を有するハンドルコントローラ7が接続されている。操舵角検出部は、ハンドル5の操舵角を検出して操舵角信号を電気信号で出力する。通信回路は、他のコントローラと電気信号のやりとりを行う。
【0014】
リモートコントローラ6は、リモコン操作レバー61L、61R、レバー位置検出部62L、62R(レバー位置検出手段)、レバー位置偏差検出部63(レバー位置偏差検出手段)、マイコンおよび通信回路を有している。リモコン操作レバー61Lは、船外機3Lに対応し、船舶1の進行方向に対してリモートコントローラ6の左側に配置され、リモコン操作レバー61Rは、船外機3Rに対応し、リモートコントローラ6の右側に配置されている。
【0015】
レバー位置検出部62L、62Rは、リモートコントローラ6の内部に設けられ、それぞれリモコン操作レバー61L、61Rのレバー位置を検出して、レバー位置信号を電気信号で出力する。レバー位置偏差検出部63は、リモートコントローラ6の内部に設けられ、レバー位置検出部62Lおよびレバー位置検出部62Rでそれぞれ検出されたレバー位置の偏差を算出し、レバー位置偏差信号を電気信号で出力する。通信回路は、他のコントローラと電気信号のやりとりを行う。
【0016】
また、リモートコントローラ6には、船舶1の操船者に操舵装置の故障発生を報知する非常ランプ8(報知手段)およびアラーム9(報知手段)と、操船者によって操作される非常ボタン10(操作入力手段)が接続されている。
【0017】
船外機3L、3Rには、それぞれ操舵用のアクチュエータ11L、11Rが取り付けられている。アクチュエータ11L、11Rには、それぞれアクチュエータ11L、11Rを駆動する船外機操舵コントローラ12L、12R(操舵制御手段)が接続されている。
また、船外機操舵コントローラ12L、12Rには、操船者の操作によってアクチュエータ11L、11Rを駆動するための非常スイッチ13L、13Rがそれぞれ接続されている。また、船外機操舵コントローラ12L、12Rは、通信線14を介してハンドルコントローラ7と接続されている。
【0018】
船外機操舵コントローラ12L、12Rは、それぞれ通信回路、故障検出部(故障検出手段)、マイコンおよび駆動回路を有している。通信回路は、通信線14を介してハンドルコントローラ7の操舵角検出部からの操舵角信号を受信するとともに、他のコントローラと電気信号のやりとりを行う。故障検出部は、ハンドルコントローラ7からの操舵角信号が入力されない(途絶した)場合や、異常な操舵角信号が入力された場合に、ハンドル5、ハンドルコントローラ7または通信線14に故障が発生したことを検出する。駆動回路は、アクチュエータ11L、11Rを駆動する。
【0019】
なお、船外機操舵コントローラ12L、12Rおよびアクチュエータ11L、11Rは、一部、または全部が船外機3L、3Rに内蔵される構成であってもよい。また、アクチュエータ11L、11Rは、電動モータ式や電動油圧式等、船外機操舵コントローラ12L、12Rからの電気信号を受け取って駆動するものであれば、1つの種類に限定されない。
【0020】
船外機3L、3Rの内部には、それぞれスロットル開度を変化させる電子制御スロットルバルブ31L、31Rと、電子制御スロットルバルブ31L、31Rを駆動するスロットルバルブコントローラ32L、32R(スロットルバルブ制御手段)とが設けられている。また、スロットルバルブコントローラ32L、32Rは、通信線15を介してリモートコントローラ6と接続されている。なお、船外機操舵コントローラ12L、12R、ハンドルコントローラ7、スロットルバルブコントローラ32L、32Rおよびリモートコントローラ6は、1本の通信線に接続されてもよい。
【0021】
スロットルバルブコントローラ32L、32Rは、それぞれ通信回路、マイコンおよび駆動回路を有している。通信回路は、通信線15を介してリモートコントローラ6からのレバー位置信号を受信するとともに、他のコントローラと電気信号のやりとりを行う。駆動回路は、電子制御スロットルバルブ31L、31Rを駆動する。
なお、この実施の形態1では、船外機3L、3Rとリモコン操作レバー61L、61Rとの数が互いに一致しているが、必ずしも一致する必要はない。例えば、3機の船外機に対して2つのリモコン操作レバーを備える構成であってもよい。
【0022】
また、通信線14および通信線15は、互いに接続されており、リモートコントローラ6、ハンドルコントローラ7、船外機操舵コントローラ12L、12R、並びにスロットルバルブコントローラ32L、32Rは、相互に通信可能である。すなわち、通信線14および通信線15を伝送する信号(情報)は、リモートコントローラ6、ハンドルコントローラ7、船外機操舵コントローラ12L、12R、並びにスロットルバルブコントローラ32L、32Rで共有することができる。
【0023】
ここで、ハンドル5、ハンドルコントローラ7、通信線14、船外機操舵コントローラ12L、12R、非常スイッチ13L、13Rおよびアクチュエータ11L、11Rによって、操舵装置が構成される。また、リモートコントローラ6、通信線15、スロットルバルブコントローラ32L、32Rおよび電子制御スロットルバルブ31L、31Rによって、スロットルバルブ制御装置が構成される。
【0024】
以下、上記構成の船舶用操縦装置の動作について説明する。
船外機操舵コントローラ12L、12Rの駆動回路は、ハンドルコントローラ7の操舵角検出部からの操舵角信号に基づいて、アクチュエータ11L、11Rを駆動する。これにより、アクチュエータ11L、11Rが船外機3L、3Rを操舵し、船舶1の進行方向が変化する。
【0025】
スロットルバルブコントローラ32L、32Rの駆動回路は、リモートコントローラ6のレバー位置検出部62L、62Rからのレバー位置信号に基づいて、電子制御スロットルバルブ31L、31Rを駆動し、開閉制御を行う。これにより、船外機3L、3Rのスロットル開度が調節される。
【0026】
ここで、操船者がリモコン操作レバー61L、61Rのレバー位置に差を設けることにより、船外機3L、3Rのエンジン出力に差を付けた場合、この出力差によって船舶1は旋回動作を行う。例えば、船舶1の進行方向に対して右側に設けられた船外機3Rのエンジン出力を、左側に設けられた船外機3Lのエンジン出力よりも大きくした場合、船舶1は左回りに旋回する。
【0027】
このとき、レバー位置偏差検出部63は、レバー位置検出部62L、62Rでそれぞれ検出されたレバー位置の偏差を算出し、レバー位置偏差信号を出力する。
また、船外機操舵コントローラ12L、12Rの駆動回路は、リモートコントローラ6からのレバー位置偏差信号に基づいてアクチュエータ11L、11Rを駆動し、例えば図2に示すように、操船者が船舶1を旋回させたい方向に船外機3L、3Rを操舵(アシスト動作)する。
【0028】
すなわち、船外機操舵コントローラ12L、12Rの駆動回路は、リモコン操作レバー61L、61Rのレバー位置のうち、スロットル開度が全閉位置に近い方を船舶1の旋回方向と判定し、この方向にアクチュエータ11L、11Rの駆動をアシストする。
【0029】
このアシスト動作は、レバー位置検出部62L、62Rでそれぞれ検出されたレバー位置の偏差に応じて、船外機操舵コントローラ12L、12Rの駆動回路がアクチュエータ11L、11Rを駆動することで実行される。なお、通常動作時(故障検出部が故障の発生を検出していないとき)におけるレバー位置の偏差に基づく船外機3L、3Rの操舵は、あくまでもアシストに類するものであり、ハンドル5を用いて船外機3L、3Rを操舵する場合と比較して、アクチュエータ11L、11Rの駆動量は少なく設定される。
【0030】
一方、例えば図3に示すように、何らかの原因によって、ハンドル5、ハンドルコントローラ7、および通信線14のハンドルコントローラ7から船外機操舵コントローラ12L、12Rまでの間の何れかに故障が生じた場合、船外機操舵コントローラ12L、12Rの故障検出部は、操舵角信号の途絶等を検知して故障が発生したことを検出する。
【0031】
故障検出部が故障の発生を検出すると、スロットルバルブコントローラ32L、32Rの駆動回路は、船外機3L、3Rのエンジン回転数があらかじめ設定された所定の回転数以下になるように、電子制御スロットルバルブ31L、31Rを駆動する。ここで、所定の回転数は、例えば船舶1の高い旋回性を実現しつつ安定して航行可能な速度等に基づいて設定される。
【0032】
また、故障検出部は、故障の発生を検出すると、非常ランプ8を点灯させるとともに、アラーム9を鳴動させて、操船者に操舵装置の故障発生を報知する。また、船舶用操縦装置と電気的に接続された無線装置(図示せず)があれば、この無線装置を用いて救難信号を送信してもよい。なお、この間、船外機3L、3Rの向きは、故障発生直前の状態で保持される。
【0033】
次に、非常ランプ8やアラーム9で操舵装置の故障発生を認識した操船者によって非常ボタン10が操作されると、船外機操舵コントローラ12L、12Rは非常制御モードに入り、船外機3L、3Rの向きの保持は解除される。なお、故障検出部が故障の発生を検出していない場合、または故障の発生を検出できなかった場合に、操船者が故障に気付いて非常ボタン10を操作することにより、任意に非常制御モードに入ることができるようにしてもよい。
【0034】
非常制御モード中、船外機操舵コントローラ12L、12Rの駆動回路は、リモコン操作レバー61L、61Rのレバー位置の偏差に基づいてアクチュエータ11L、11Rを駆動する。すなわち、船外機操舵コントローラ12L、12Rの駆動回路は、リモコン操作レバー61L、61Rのレバー位置のうち、スロットル開度が全閉位置に近い方を船舶1の旋回方向と判定し、この方向にアクチュエータ11L、11Rを駆動する。
【0035】
このとき、アクチュエータ11L、11Rの駆動量は、上述した通常動作時とは異なり、ハンドル5を用いて船外機3L、3Rを操舵しなくても十分に船舶1を操縦できる程度の駆動量となる。
これにより、船舶1の旋回方向を自在にコントロールすることができ、リモコン操作レバー61L、61Rのレバー位置のコントロールのみによって船外機3L、3Rを操舵し、船舶1を操縦することができる。
【0036】
以上のように、実施の形態1によれば、伝送された操舵角に基づいてアクチュエータを駆動する操舵制御手段は、故障検出手段が故障の発生を検出した場合に、レバー位置偏差検出手段で検出されたレバー位置偏差に基づいて、アクチュエータを駆動する非常制御モードを有する。すなわち、操舵制御手段は、報知手段によって故障の発生が報知され、操作入力手段への操作があった場合に、非常制御モードに入り、最も左側の操作レバーのレバー位置と最も右側の操作レバーのレバー位置とのうち、スロットル開度が全閉位置に近い方を船舶の旋回方向と判定し、旋回方向にアクチュエータを駆動する。
そのため、操舵装置を構成する何れかの機器に故障が生じた場合であっても、故障していない他の機器を使用して船外機を操舵し、船舶を操縦することができる船舶用操縦装置を得ることができる。
【0037】
また、操舵制御手段は、故障検出手段が故障の発生を検出しない場合に、最も左側の操作レバーのレバー位置と最も右側の操作レバーのレバー位置とのうち、スロットル開度が全閉位置に近い方を船舶の旋回方向と判定し、旋回方向にアクチュエータの駆動をアシストする。
そのため、船舶の旋回を容易に行うことができるとともに、多様な操舵方法を提供することができる。
【0038】
また、スロットルバルブ制御手段は、故障検出手段が故障の発生を検出した場合に、船外機のエンジン回転数が所定の回転数以下になるように、スロットルバルブを駆動する。
そのため、船舶の速度を低下させて、旋回性を向上させることができる。
【0039】
なお、上記実施の形態1では、非常ランプ8やアラーム9で操舵装置の故障発生を認識した操船者によって非常ボタン10が操作されると、船外機操舵コントローラ12L、12Rが非常制御モードに入ると説明した。しかしながら、これに限定されず、船外機操舵コントローラ12L、12Rは、故障検出手段が故障の発生を検出するとすぐに非常制御モードに入ってもよい。
この場合には、操船者が操舵装置の故障発生に気付かない場合であっても、非常制御モードに入ることができ、故障していない他の機器を使用して船外機を操舵し、船舶を操縦することができる。
【0040】
また、上記実施の形態1では、故障検出部がハンドル5、ハンドルコントローラ7、および通信線14のハンドルコントローラ7から船外機操舵コントローラ12L、12Rまでの間の何れかに故障が発生したことを検出した場合に、船外機操舵コントローラ12L、12Rの駆動回路が、リモコン操作レバー61L、61Rのレバー位置の偏差に基づいてアクチュエータ11L、11Rを駆動すると説明した。しかしながら、上記の故障に加え、通信線15のリモートコントローラ6から船外機操舵コントローラ12L、12Rまでの間に故障が発生した場合のことを考えて、以下のようなフェールセーフの手段を設けてもよい。
【0041】
すなわち、リモコン操作レバー61L、61Rのレバー位置の偏差に基づいてアクチュエータ11L、11Rを駆動できなくなった場合には、船外機操舵コントローラ12L、12Rに接続された非常スイッチ13L、13Rを操船者が操作することにより、例えば図4に示すように、船外機3Lを左向きにし、船外機3Rを右向きにする。
ここで、3機以上の船外機が並置された船舶では、例えば図5(a)〜(c)に示すように、内側の船外機の向きを真っ直ぐにする方法や、内側の船外機を外側の船外機と同じ向きとする方法等が考えられる。
【0042】
なお、通信線15のリモートコントローラ6から船外機操舵コントローラ12L、12Rまでの間の故障が片側の船外機のみに発生した場合のことを考慮して、非常スイッチ13L、13Rの操作によってアクチュエータ11L、11Rを駆動した場合には、何らかのスイッチ(図示せず)等によってこれを解除するまでは、レバー位置の偏差に基づくアクチュエータ11L、11Rの駆動を禁止する。また、非常スイッチ13L、13Rの操作によるアクチュエータ11L、11Rの駆動は、船外機操舵コントローラ12L、12Rが非常制御モードに入っている状態で、かつ船外機3L、3Rのエンジン回転数が所定の回転数以下である場合にのみ可能とする。
【0043】
図4に示す状態で、例えば船外機3Lのエンジン出力を絞り、船外機3Rのエンジン出力を増加させることにより、船舶1を右回りに旋回させることができる。同様に、船外機3Rのエンジン出力を絞り、船外機3Lのエンジン出力を増加させることにより、船舶1を左回りに旋回させることができる。また、船外機3L、3Rのエンジン出力を同等にすることにより、船舶1を直進させることができる。
そのため、リモコン操作レバー61L、61Rのレバー位置の偏差に基づいてアクチュエータ11L、11Rを駆動する場合と比較すると、自在な旋回は困難であるが、スロットル開度の調節のみで船舶1を操縦することができる。
【0044】
なお、アクチュエータ11L、11Rおよび船外機操舵コントローラ12L、12Rが故障した場合には、アクチュエータ11L、11Rに取り付けた手回しハンドル(図示せず)等によって船外機3L、3Rの向きを図4に示したものと同様にすることにより、上述したものと同様に、スロットル開度の調節のみで船舶1を操縦することができる。
【0045】
また、上記実施の形態1では、リモートコントローラ6の内部に設けられたレバー位置偏差検出部63が、レバー位置検出部62Lおよびレバー位置検出部62Rでそれぞれ検出されたレバー位置の偏差を算出して、レバー位置偏差信号を出力すると説明した。
しかしながら、これに限定されず、船外機操舵コントローラ12L、12Rが、それぞれリモートコントローラ6からのレバー位置信号に基づいて、レバー位置の偏差を算出してもよい。また、リモートコントローラ6および船外機操舵コントローラ12L、12Rの両方でレバー位置の偏差を算出し、値を相互に比較することにより、信頼性を向上させることができる。
【0046】
また、上記実施の形態1では、船外機3L、3Rのエンジン出力の差として、レバー位置検出部62L、62Rでそれぞれ検出されたレバー位置の偏差を算出した。しかしながら、これに限定されず、船外機操舵コントローラ12L、12Rが、電子制御スロットルバルブ31L、31Rに設けられたスロットルポジションセンサ(図示せず)の位置情報、または船外機3L、3Rのエンジンに設けられたクランク角センサ(図示せず)の出力から得られるエンジン回転数情報に基づいて、船外機3L、3Rのエンジン出力の差を算出してもよい。
この場合も、上記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0047】
また、上記実施の形態1では、2つのリモコン操作レバー61L、61Rを有する船舶1について、船外機操舵コントローラ12L、12Rの駆動回路が、リモコン操作レバー61L、61Rのレバー位置の偏差に基づいてアクチュエータ11L、11Rを駆動すると説明した。
ここで、3つ以上のリモコン操作レバーを有する船舶については、最も左側のリモコン操作レバーのレバー位置と、最も右側のリモコン操作レバーのレバー位置との偏差に基づいて、アクチュエータを駆動することが考えられる。
【0048】
また、4つ以上のリモコン操作レバーを有する船舶については、中心よりも左側にある何れかのリモコン操作レバーのレバー位置と、中心よりも右側にある何れかのリモコン操作レバーのレバー位置との偏差に基づいて、アクチュエータを駆動することが考えられる。さらに、中心よりも左側にあるリモコン操作レバーのレバー位置の平均値と、中心よりも右側にあるリモコン操作レバーのレバー位置の平均値との偏差に基づいて、アクチュエータを駆動することが考えられる。
【0049】
また、上記実施の形態1では、2機以上の船外機が並置された船舶を例に挙げて説明したが、これに限定されず、船外機の向きを変化させる代わりに舵の向きを変化させて操舵を行う船内機、または船内外機を搭載した船舶についても、同様の操縦システムを搭載していれば、容易に転用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 船舶、3L、3R 船外機、5 ハンドル、7 ハンドルコントローラ、8 非常ランプ(報知手段)、9 アラーム(報知手段)、10 非常ボタン(操作入力手段)、11L、11R アクチュエータ、12L、12R 船外機操舵コントローラ(操舵制御手段)、13L、13L 非常スイッチ、14、15 通信線、31L、31R 電子制御スロットルバルブ、32L、32R スロットルバルブコントローラ(スロットルバルブ制御手段)、61L、61R リモコン操作レバー、62L、62R レバー位置検出部(レバー位置検出手段)、63 レバー位置偏差検出部(レバー位置偏差検出手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2機以上の船外機が並置された船舶に設けられる船舶用操縦装置であって、
前記船外機を操舵するために設けられたハンドルと、
前記ハンドルの操舵角を検出する操舵角検出手段と、
検出された前記操舵角を伝送する通信線と、
前記船外機のそれぞれに取り付けられて前記船外機を操舵するアクチュエータと、
伝送された前記操舵角に基づいて、前記アクチュエータを駆動する操舵制御手段と、
前記船外機のそれぞれのスロットル開度を調節するために設けられた2つ以上の操作レバーと、
前記操作レバーのそれぞれのレバー位置を検出するレバー位置検出手段と、を備えたものにおいて、
前記レバー位置検出手段で検出され、前記通信線を経由して伝送された前記レバー位置どうしの偏差を検出するレバー位置偏差検出手段と、
前記ハンドル、前記操舵角検出手段または前記通信線に発生した故障を検出する故障検出手段と、をさらに備え、
前記操舵制御手段は、前記故障検出手段が故障の発生を検出した場合に、前記レバー位置偏差検出手段で検出されたレバー位置偏差に基づいて、前記アクチュエータを駆動する非常制御モードを有する
ことを特徴とする船舶用操縦装置。
【請求項2】
前記操舵制御手段は、前記故障検出手段が故障の発生を検出した場合に、前記非常制御モードに入り、最も左側の前記操作レバーのレバー位置と最も右側の前記操作レバーのレバー位置とのスロットル開度差に基づいて前記船舶の旋回方向および駆動量を設定し、前記旋回方向に前記アクチュエータを駆動する
ことを特徴とする請求項1に記載の船舶用操縦装置。
【請求項3】
前記故障検出手段が故障の発生を検出したことを報知する報知手段と、
前記船舶の操船者によって操作される操作入力手段と、をさらに備え、
前記操舵制御手段は、前記報知手段によって故障の発生が報知され、前記操作入力手段への操作があった場合に、前記非常制御モードに入り、最も左側の前記操作レバーのレバー位置と最も右側の前記操作レバーのレバー位置とのうち、前記スロットル開度が全閉位置に近い方を前記船舶の旋回方向と判定し、前記旋回方向に前記アクチュエータを駆動する
ことを特徴とする請求項1に記載の船舶用操縦装置。
【請求項4】
前記故障検出手段が故障の発生を検出した場合に、前記船舶の操船者の操作によって前記アクチュエータを駆動可能な非常スイッチをさらに備えた
ことを特徴とする請求項1から請求項3までの何れか1項に記載の船舶用操縦装置。
【請求項5】
伝送された前記レバー位置に基づいて、前記船外機のスロットルバルブの開閉制御を行うスロットルバルブ制御手段をさらに備え、
前記スロットルバルブ制御手段は、前記故障検出手段が故障の発生を検出した場合に、前記船外機のエンジン回転数が所定の回転数以下になるように、前記スロットルバルブを駆動する
ことを特徴とする請求項1から請求項4までの何れか1項に記載の船舶用操縦装置。
【請求項6】
前記操舵制御手段は、前記故障検出手段が故障の発生を検出しない場合に、最も左側の前記操作レバーのレバー位置と最も右側の前記操作レバーのレバー位置とのスロットル開度差に基づいて前記船舶の旋回方向、および前記故障検出手段が故障の発生を検出した場合よりも少ない駆動量を設定し、前記旋回方向に前記アクチュエータを駆動する
ことを特徴とする請求項1から請求項5までの何れか1項に記載の船舶用操縦装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−20468(P2011−20468A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164590(P2009−164590)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)