説明

船舶用水中音響放射装置

【課題】水中において広帯域の音の再生が可能な船舶用水中音響放射装置を提供する。
【解決手段】船舶部400の船底410は、FRP等によって形成される。該船底部410の内側平面部には、複数のアクチュエータ200が一定間隔毎に設けられる。振動制御装置は、マイクを介して該指示内容に対応する音声信号等を受け取ると、該音声信号にイコライジング処理、レベル調整処理等を施し、増幅した後の電気信号を複数のアクチュエータ200に出力する。アクチュエータ200は、受け取った電気信号を機械的振動信号に変換して平面部を振動させ、これにより該指示内容に対応した音声が放射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湖、河川、海、プール等の水中において音響を放射する船舶用水中音響放射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シンクロナイズド・スイミングや水中バレーの練習等に使用されるプール等においては、水中にBGM(Back Ground Music)を流したり水中で演技等を行う選手に種々の指示を与えるべく、水中スピーカが利用されている。図32及び図33は、該プール等における水中スピーカの設置状態を例示した図である。
図32及び図33に示すプールのコーナ2箇所に配設された水中スピーカに、例えばBGM用の楽音信号を与えると、水中スピーカから該楽音信号に対応する音が出力され、水を媒体として選手の耳に伝播する。水の中では選手の外耳は水に遮られるため、鼓膜による聴力はなくなるが、音が頭蓋骨を介して内耳に直接導かれる、いわゆる骨伝導により聴力を得ることができる。すなわち、水中で演技等を行う選手は、かかる骨伝導により水中スピーカから出力される音を聞き取ることが可能となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した従来の水中スピーカにおいては、広帯域(特に、低周波帯域)の音の再生が極めて困難であり(詳細は後述)、また、各水中スピーカから出力される音の周波数特性ばらつきが大きいという問題(詳細は後述)があった。
また、水中スピーカを該プールに設置する場合には、例えば図33に示すように該水中スピーカを吊り下げるための設備を設けるか(練習プールが仮設備の場合等)、若しくは該水中スピーカを所定箇所に設置するための図示せぬ専用ボックス及び保護部材等を設ける必要があり(練習プールが固定設備の場合等)、さらには、当該水中スピーカの指向特性を考慮して設置位置を決めなければならいという問題があった。
また、このような水中スピーカは、仕様の特殊性から種類が限定され、コストも高いという問題があった。
本発明は、以上説明した事情を鑑みてなされたものであり、水中において広帯域の音の再生が可能な船舶用水中音響放射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述した問題を解決するため、本発明は、船舶に設けられ、当該船舶から水中に音響を放射する装置であって、水との境界面を形成し、軽量かつ剛性を保つ材料からなる薄板により構成された振動可能な前記船舶の船底部に設けられ、入力される電気信号を機械的振動信号に変換して前記船底部を振動させる複数の振動手段と、前記水中に放射すべき音響に対応した電気信号を前記複数の振動手段に供給する振動制御手段とを具備することを特徴とする。
【0005】
かかる構成によれば、船舶の船底部に設けられた振動手段は、水中に放射すべき音響に対応した電気信号を受け取ると、該壁面を振動させ、水中に音響を放射する。一般に、スピーカにおける振動面積を大きくすることで、波長の長い低周波帯域の音を良好に再生できることが知られているが(詳細は後述)、本発明においては、船舶の船底部自体を振動させるため、振動面積は水中スピーカ等と比較して大きくなる。このため、水中において広帯域(特に、低周波帯域)の音の再生が可能となる。
【発明の効果】
【0006】
以上説明したように、本発明によれば、水中において広帯域の音の再生が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明をさらに理解しやすくするため、シンクロナイズド・スイミング等に利用されるプールに本発明を適用した実施の形態について説明する。かかる実施の形態は、本発明の一態様を示すものであり、本発明の技術的思想の範囲で任意に変更可能である。
【0008】
A.本実施形態
<プール1の構成>
図1は、本実施形態に係るプール1の分解斜視図であり、図2は、側壁ユニット2と床ユニット3との結合部分を示す斜視図、図3は、図2におけるI−I線視断面図である。
プール1は、例えば水泳選手権大会開催時等に設置される仮設プールであり、FRP(Fiberglass Reinforced Plastic;繊維強化プラスチック)によって形成した側壁ユニット2、床ユニット3、ガータユニット4等により構成されている。本実施形態においては、水との境界面を形成するプールの壁面部材を水中に放射する音響の振動板として機能させるため、できるだけ軽く、また剛性を保つ材料から構成することが望ましい。かかる材料には、上記FRPのほか、ステンレス、アルミニウム、銅等があり、これらの材料により構成された壁面は、振動する際に壁面自体が薄板として振動することになる。
【0009】
側壁ユニット2は、図1及び図2に示すように、上下方向に延びる縦壁5と、この縦壁5の下端からプール内側へ略水平に延びる底壁6と、前記縦壁5の上端からプール外側へ延びるコーピング7とが一体に形成されている。図1に示すように、前記縦壁5とコーピング7にはプール外側へ延びる多数のフランジ8が一体に形成され、また、図1及び図3に示すように縦壁5の水平方向の両端部には結合用のフランジ8aが設けられている。
【0010】
前記床ユニット3は、図1に示すように、平面視長方形の板状に形成され、枠状に組立てた側壁ユニット2の内側に敷き詰めるように多数配設されている。ガータユニット4は、プール1内の水を図示せぬ排水装置に導くためのもので、図1に示すように、上方に向けて開口する断面コ字状に形成したガータ4aと、このガータ4aの開口部に取付けたスリット付きカバー4bとにより構成されている。
【0011】
本実施形態に係るプール1は、FRPによって形成した各ユニット2〜4をリベットやボルト等の締結部材によって互いに締結して組み立てたものである。かかるプール1の構成等については本願発明の趣旨とは直接関係がないため、これ以上の説明は省略する。なお、FRPによって形成した複数のユニットを締結して組み立てたプール(以下、適宜FRPプールという)の構成等については、例えば特開2001−98781号公報に詳記されている。
【0012】
<水中音響放射装置100の構成>
図4は、側壁ユニット2をプール外側(図2参照)から見た本実施形態に係る水中音響放射装置100を説明するための模式図であり、図5は、図4における側壁ユニット2のII−II線視断面図である。
図4に示すように、水中音響放射装置100は、プール1の側壁ユニット2の裏面(プール外側の面)に直接取り付けた振動源たる複数のアクチュエータ200、発生すべき音響に対応した電気信号を該アクチュエータ200に供給する振動制御装置300等により構成されている。
【0013】
各アクチュエータ200は、側壁ユニット2の裏面に一定間隔毎に設けられたフランジ8と該フランジ8と直交する方向に延びる板状部材9によって形成された幅500(mm)、高さ1500(mm)の裏面ユニット10のほぼ中心位置に設けられている。図5に示すように、FRP及びアクリル発泡材等により形成された裏面ユニット10のほぼ中心位置には、該アクリル発泡材等を切り欠いて形成したアクチュエータ取り付け用の切り欠き部11が設けられており、該切り欠き部11にはアクチュエータ200が接着剤等によって直接固定(密着固定)されている(図5参照)。
【0014】
<アクチュエータ200の構成>
図6は、アクチュエータ200を図5に示す矢印方向から見た図であり、図7は図6におけるアクチュエータ200のIII−III線視断面図である。
アクチュエータ200は、円筒状のカバー210と、該カバー210とネジ等により固着された振動伝達可能なフレーム220とにより閉容器を構成している。図6に示すように、このアクチュエータ200は、フレーム220の裏面に塗布された接着剤等により、裏面ユニット10の切り欠き部11に直接固定されている。フレーム220は、アルミニウム、ステンレスなど振動伝達可能な種々の材質によって形成されており、図7に示すように該フレーム220のほぼ中央内側には、一端が固定され、他端側外周にボイスコイル230が巻かれた円筒形状の管部材が設けられている。
【0015】
また、カバー210の内側ほぼ中央には、ドーナツ板状のプレート(第1の極片)240と、該プレート240に一端が固定された永久磁石250と、該永久磁石250の他端に一端が固定され、中心からフレーム220側に延びた円柱部を有するボトム(第2の極片)260と、一端が該ボトム260の他端と固定され、他端がカバー210の上面内側に固定されたダンパー270が設けられている。
【0016】
ここで、永久磁石250から発生する磁束は、上記第1の極片240と上記第2の極片260とを介してボイスコイル230に交差するように閉磁路を形成している。このボイスコイル230に振動制御装置300からケーブル280を介して水中に伝播すべき音響に対応した電気信号が供給されると、該電気信号は上記第1の極片240、第2の極片260、ボイスコイル230により機械的振動信号に変換され、振動伝達可能なフレーム220を振動させる。前述したように、フレーム220は、接着剤等により裏面ユニット10の切り欠き部11と直接固定されているため、該フレーム220において発生した振動は、フランジ8で囲まれた裏面ユニット10全体、すなわち薄板に伝達され、プール内側の水中に音響として放射されることとなる(図5参照)。
【0017】
図8は、プール1に対するアクチュエータ200の配置例を模式的に示した図である。
図8に示す長さ50(m)、幅25(m)、深さ3(m)のプール1には、96個のアクチュエータ200が飛び込み側の側壁面の裏面(プール外側)に設けられている。詳述すると、飛び込み側の側壁面を形成する複数の側壁ユニット2の裏面には、センターラインから左方向(約12(m))の上段に24個のアクチュエータ200が一定間隔で設置され、同数(すなわち、24個)のアクチュエータ200が同間隔で下段に設置されている。
【0018】
センターラインから右方向(約12(m))についても同様に、上段には24個のアクチュエータ200が一定間隔で設置され、同数のアクチュエータ200が同間隔で下段に設置されている。ここで、側壁ユニット2の裏面には、幅500(mm)、高さ1500(mm)の裏面ユニット10が多数形成されている(図4参照)。アクチュエータ200を取り付ける際には、該裏面ユニット10のほぼ中心位置を定め、該中心位置にアクチュエータ200を取り付けることで、側壁面の裏面に一定間隔で複数のアクチュエータ200を設置することが可能となる。このように、飛び込み側の側壁面を形成する複数の側壁ユニット2の裏面に設けられた複数のアクチュエータ200は、ケーブル280を介して振動制御装置300に接続されている。
【0019】
<振動制御装置300の構成>
図9は、振動制御装置300の構成を示す図である。振動制御装置300は、ミキサー310と、コンプレッサー320−1、320−2と、アンプ330−1〜330−4とを具備している。なお、以下の説明において、2台のコンプレッサー320−1、320−2及び4台のアンプ330−1〜330−4を特に区別する必要がない場合には、単にコンプレッサー320及びアンプ330という。
【0020】
ミキサー310は、マイク(図示略)等から入力される音声信号や、図示せぬ楽音生成/再生装置において生成若しくは再生されるBGM等の楽音信号等を入力し、ミキシング処理等を施した後、コンプレッサー320に出力する。このミキサー310は、イコライジング機能、レベル調整機能を備え、ミキシングした後の1チャンネル(CH)の信号を4CHに分岐し、分岐後の各信号に対してイコライジング処理、レベル調整処理等を施し、コンプレッサー320に出力する。
【0021】
コンプレッサー320は、2CH入力/2CH出力仕様となっており、アクチュエータ200に入力される信号が過大にならないよう、ミキサー310からの入力信号を制御し、アンプ330に出力する。
アンプ330は、1CH入力/4CH出力仕様となっており、ミキサー310からコンプレッサー320を介して入力される1CHの信号を増幅し、4CHに分岐し、当該アンプ330に接続された複数のアクチュエータ200に出力する。詳述すると、アンプ330−1、330−2、330−3、330−4の各々は、前掲図8に示す左側上段、左側下段、右側上段、右側下段の各々に設置された24個のアクチュエータ200にそれぞれ接続されている。
【0022】
図10は、アクチュエータ200とアンプ330との接続例を示す図である。
図10に示す6個のアクチュエータ200−1〜200−6は、前掲図8に示すブロックAに設けられたアクチュエータであり、アンプ330−1の1CH正端子にはアクチュエータ200−2、200−4、200−6が接続され、アンプ330−1の1CH負端子にはアクチュエータ200−1、200−3、200−5が接続され、アクチュエータ200−2とアクチュエータ200−1、アクチュエータ200−4とアクチュエータ200−3、アクチュエータ200−6とアクチュエータ200−5とがそれぞれ直列に接続されている。
【0023】
このように、6個のアクチュエータ200につきアンプ1CHを使用することで、1台のアンプ330−1で左側上段に設置された24個のアクチュエータ200を駆動することが可能となる。なお、その他のアンプ330−2、330−3、330−4とアクチュエータ200との接続については、同様に説明することができるため、説明を割愛する。
【0024】
このような構成を有する振動制御装置300は、前述した楽音生成/再生装置等からBGM等の楽音信号等を受け取ると、該楽音信号にイコライジング処理、レベル調整処理等を施し、増幅した後の電気信号をアクチュエータ200に出力する。ここで、例えば側壁面の裏面に設けられた複数のアクチュエータ200を同期して同相で駆動する場合には、ミキサー310において分岐された1CH〜4CHの各信号に対して同様のイコライジング処理、レベル調整処理等を施す。
【0025】
これにより、振動制御装置300から該側壁面の裏面に設けられた複数のアクチュエータ200に同一レベルの電気信号が供給され、この結果、各アクチュエータ200は同期して同相で駆動され、プール内側の水中に音響として放射されることとなる。以下、従来技術の項において説明した水中スピーカを比較例とし、本実施形態に係る水中音響放射装置100から得られる種々の効果について説明を行う。
【0026】
<第1の効果>
図11は、下記条件の下、水中スピーカを用いて周波数特性評価実験を行った場合の実験結果を示す図である。なお、図11に示す横軸は、水中スピーカから出力される音響の周波数(Hz)を示し、縦軸は、測定器の精度を入力電圧1.0(V)=0(dB)になるように設定し、その基準からの相対的な水中内の音圧レベル(dB)を示す。
a)実験条件
・FRPプールの側壁に水中スピーカ(寸法;直径20(cm)×高さ6(cm))を設置し、該水中スピーカから3.5(m)離間した地点に水中マイクを設置し、測定した。
【0027】
図11に示す実験結果から明らかなように、水中スピーカによって低周波帯域(特に、250(Hz)以下の帯域)の音が再生された場合に得られる音圧レベルは、中〜高周波帯域の音が再生された場合に得られる音圧レベルに比べ、非常に小さい。これは、水中(音速;約1460(m/s))における音の波長が空気中(空気中での音速;340(m/s))における波長よりも長く、この波長の長い低周波域の音を再生するのに十分なスピーカの振動面積を有していないことに起因する。換言すれば、この波長の長い低周波域の音を再生するには、スピーカの振動面積を十分に広くする必要がある。なお、音響分野においては、振動面積を広くすることで、音響放射効率が高められると共に、広い領域において均等な音圧分布が得られることが知られている(以下、周知事項という)。
【0028】
図12は、上記周知事項を裏付ける実験結果を示す図であり、図13は、本実験において使用したスピーカアレイを説明するための図である。かかる実験では複数の平板スピーカ(寸法;縦150(mm)×横335(mm))により大、小、2種のスピーカアレイを形成し、各スピーカアレイを用いて周波数特性評価を行った。実験条件に関する詳細は次の通りである。
【0029】
<実験条件>
a)小スピーカアレイSP1・・・縦600(mm)×横1005(mm)
b)大スピーカアレイSP8・・・縦600(mm)×横8040(mm)
なお、実験では小スピーカアレイSP1を平板スピーカ12枚(縦4枚×横3枚)により形成し、大スピーカアレイSP8を平板スピーカ96枚(縦4枚×横24枚)により形成した(図13参照)。
また、実験ではスピーカアレイSP1、SP8から種々の周波数帯域の音を再生し、各スピーカアレイSP1、SP8から10(m)、20(m)、30(m)離間した地点(測定点)において音圧レベルSPF1、SPF8を測定した。
【0030】
図12(a)〜図12(c)に示すように、スピーカアレイFPS1、FPS8を用いて低周波帯域の音を再生した場合に各測定点において測定される音圧レベルは、小スピーカアレイFPS1を用いたときよりも大スピーカアレイFPS8を用いたときの方が高くなっている。このように、スピーカにおける振動面積(スピーカアレイの寸法に対応)を大きくすることで、波長の長い低周波帯域の音を良好に再生できることが実証された。なお、図12に示す実験結果は空気中において実験を行った結果を示すものであるが、空気以外の媒質(水等)についても、スピーカにおける振動面積を大きくすることで、波長の長い低周波帯域の音を良好に再生できるといった効果が得られる。
【0031】
ここで、再び図8を参照されたい。図8に示すように、側壁ユニット2の裏面には幅500(mm)、高さ1500(mm)の裏面ユニット10が多数形成され、各裏面ユニット10の中心位置には当該裏面ユニット10を振動させるアクチュエータ200が設けられている。本実施形態では、各裏面ユニット10に設けたアクチュエータ200を同期して同相で駆動するため、上述した振動面積は24(m)×3(m)、すなわち該アクチュエータ200が設けられた面積となる。この振動面積は、水中スピーカの振動面積(直径20(cm)×高さ6(cm))に比して大きい。従って、本実施形態に係る水中音響放射装置100を採用することにより、波長の長い低周波帯域の音を良好に再生できるといった効果を得ることができる。
【0032】
また、水中音響放射装置100及び水中スピーカの指向特性は、公知文献(電気音響振動学、電気通信学会編、コロナ社、p52〜p54)等に記載されている円形平面音源の理論より、振動面の直径と波長の比により決定される。ここで、該指向特性は振動面の直径が大きいほど鋭くなるため、振動面積が大きい水中音響放射装置100の指向特性は、振動面積が小さい水中スピーカの指向特性より鋭くなる。一般に、低周波帯域の音は無指向性を示すのに対して中〜高周波帯域の音は鋭い指向性を示すため、プール内に水中スピーカを数個設置した場合には、場所によって周波数特性変化が大きく異なってしまう。これに対し、本実施形態に係るプールには1の側壁面の裏面ほぼ全面に複数のアクチュエータ200が一定間隔で設置されているため、当該アクチュエータ200の設置幅に対応したエリアにおいて遠方でも均一な音圧と周波数特性を実現することができる。
【0033】
<第2の効果>
図14は、水中スピーカから放射された音波が反射する場合を説明するための図であり、図14(a)は壁面がコンクリートにより形成されたコンクリートプールにおいて水中スピーカから放射された音波が反射する場合を説明するための図、図14(b)は、本実施形態が対象とするFRPプールにおいてスピーカから放射された音波が反射する場合を説明するための図である。
【0034】
図14(a)に示すように、コンクリートプールのコンクリート側壁面近傍に水中スピーカ(コンクリート側壁と水中スピーカとの間の距離;L1)が設置された状態において、該水中スピーカから音波が出力された場合、該音波はコンクリート側壁面で反射するが、コンクリート側壁の外側は、例えばコンクリートや土などによって固定されているため、コンクリート側壁は固定端としてふるまうこととなり、固定端反射した音波には反射による位相のずれ(位相の反転)は発生しない。詳述すると、図14(a)に示す鏡像位置には、水中スピーカと同相の音波(すなわち、位相ずれが生じていない音波)を出力する音源(鏡像音源)が設置されていると仮想することができ、特に水中スピーカとコンクリート側壁との間の距離L1が該水中スピーカから放射される音波の波長に比して小さい場合には、該水中スピーカから放射される音波が鏡像音源から放射される音波(すなわち、固定端反射した音波)によって打ち消されることはほとんどない。
【0035】
一方、図14(b)に示すように、FRPプールのFRP側壁面近傍(FRP側壁と水中スピーカとの間の距離;L1)に水中スピーカが設置された状態において、水中スピーカらから音波が出力された場合、該音波はFRP側壁面で反射するが、コンクリート側壁と異なりFRP側壁は柔らかく、また、側壁面外側には自由な空間として空気層が存在しているため壁自体が自由に振動できる状態にある。従って、反射の際には該側壁面自体が振動し、自由端としてふるまうこととなり、自由端反射した音波には反射による位相のずれ(位相ずれ量はπ)が生じてしまう。詳述すると、図14(b)に示す鏡像位置には、位相がπずれた音波(位相反転した音波)を出力する鏡像音源が設置されていると仮想することができ、該水中スピーカから放射される音波は鏡像音源から放射される音波(すなわち、自由端反射した音波)により打ち消され、音が小さくなってしまうという不具合が生じる。特に、水中スピーカから波長の長い低周波帯域の音波が放射された場合には、上記不具合が顕著に現れる。以上説明したFRPプールに特有の現象は、本願出願人が実験等により新たに得た知見である。
【0036】
これに対し、本実施形態に係る水中音響放射装置100は、プール1の側壁面の裏面ほぼ全面に設置したアクチュエータ200により、側壁面そのものを振動させて水中に音響を放射する(図8参照)。このため、上述した問題、すなわち鏡像音源から出力される位相反転した音波の発生等は原理上もなく、周波数特性上位相反転した音波の発生により打ち消される音もないため、広帯域の音を明瞭に再生することができる。
【0037】
<第3の効果>
また、本実施形態に係るアクチュエータ200は、プール1の側壁面の裏面ほぼ全面に設置されている。すなわち、上述した水中スピーカと異なり水中に設置する必要がないため、プール1の内側に水中スピーカを設置するためのスペースや、該プール1の内側に水中スピーカを設置するための設備(具体的には、該水中スピーカを吊り下げるための設備や、専用ボックス及び保護部材等)を設ける必要がない。また、水中スピーカにおいては、設置可能な水深が規制(例えば、水深10(m)以下等)されているが、該アクチュエータ200はプール1の側壁面の裏面に設置されるため、例えば水深10(m)以上の深いプール等にも設置することができる。
【0038】
<第4の効果>
また、該プール1の内側に水中スピーカを設置する場合には、上述した水中スピーカの指向特性を考慮して設置位置を決定する必要があったが、本実施形態に係るアクチュエータ200は、プール1の側壁面の裏面ほぼ全面に一定間隔で設置すれば良く、細かい調整等は不要である。
【0039】
<第5の効果>
また、該プール1の内側に水中スピーカを設置する場合には、競泳、シンクロナイズド・スイミング等の競技別、用途別に水中スピーカを設置したり、撤去したりしなけれればならないが、本実施形態に係るアクチュエータ200はプール1の外側に設置するため、当該アクチュエータ200の電源をON/OFFすることのみにより対応することができる。これにより、常設することができ、競技別、用途別に設置、若しくは撤去するといった煩雑な操作を行う必要がなくなる。
【0040】
<第6の効果>
また、水中スピーカは仕様の特殊性から種類が限定され、コストも高いという問題があったが、アクチュエータ200やアンプ330等は、既存のアクチュエータやアンプ等を用いることができるため、低廉なコストで水中音響放射装置100を構成することができる。
【0041】
<第7の効果>
また、水中スピーカは、水中に設置されるため、水の侵入等を防止する防水構造や、該水中スピーカに内蔵されたアンプ等の漏電を検出し、自動遮断する安全回路等を備える必要があったが、本実施形態に係るアクチュエータ200は、プール1の側壁面の裏面(すなわち、空気層側)に設置されるため、これらの設備は一切不要となり、コストを抑制することが可能となる。
【0042】
B.変形例
以上この発明の一実施形態について説明したが、上記実施形態はあくまで例示であり、上記実施形態に対しては、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で様々な変形を加えることができる。変形例としては、例えば以下のようなものが考えられる。
【0043】
<変形例1>
上述した本実施形態では、FRPによって形成した複数のユニットを締結して組み立てたプール1を例に説明を行ったが、例えばステンレス板、アルミニウム板、銅板等によって構成されたプール1にも適用可能である。すなわち、本発明は、アクチュエータ200による振動伝達が可能な物質にって構成されたあらゆるプール1に適用可能である。また、本実施形態では、仮設プールを例に説明を行ったが、固定設備のプールに適用することができるのは勿論である。
【0044】
また、上述した本実施形態では、周囲が全てFRP等の薄板で構成されているプール(FRPプール)を例に説明したが、周囲が固定のコンクリート壁によって構成されているプール(コンクリートプール)に本発明を適用することも可能である。具体的には、該コンクリートプールにFRPによって形成されたしきり板(FRPしきり板)を設け、該FRPしきり板にアクチュエータ200を密着固定して音響放射を行う。該FRPしきり板の設置に関して詳述すると、長さ50(m)、幅25(m)、深さ3(m)のコンクリートプールであれば、該コンクリートプールの適当な位置(長さ方向3(m)地点等)に、例えば幅25(m)、深さ3(m)のFRPしきり板を設ける。このように、従来のコンクリートプールに本発明を適用することも可能である。
【0045】
<変形例2>
上述した本実施形態では、アクチュエータ200として、動電型のアクチュエータを例に説明を行ったが、水中音響放射装置100の設計等に応じて圧電型、電磁型、静電型等の種々のアクチュエータを採用することができる。ただし、多数のアクチュエータ200を使用することを鑑みれば、小型で高出力のものが望ましく、圧電型や動電型等のコンパクトなアクチュエータが望ましい。
【0046】
<変形例3>
また、上述した本実施形態では、プール1の側壁面の裏面ほぼ全面に一定間隔でアクチュエータ200を設置した場合について説明を行ったが、当該側壁面の所定エリア(例えば、図8に示すセンターラインから左右10(m)の範囲等)にのみアクチュエータ200を設置しても良い。また、該アクチュエータ200を設置する側壁面は1面に限らず、例えば該側壁面と隣接する側壁面、あるいは該側壁面と対向する側壁面等に該アクチュエータ200を設ける等、複数の側壁面にアクチュエータ200を設置するようにしても良い。また、本実施形態では、側壁面の裏面の上下2段にアクチュエータ200を設置したが、上段のみに該アクチュエータ200を設置しても良く、また水深の深いプール等においては側壁面の裏面を複数段(例えば、上、中、下段等)に分割し、各段毎にアクチュエータ200を設置しても良い。
【0047】
<変形例4>
図15は、変形例4に係るプール1に対するアクチュエータ200の配置例を模式的に示した図である。図15に示すように、変形例4に係るプール1の側壁面の裏面下段には48個のアクチュエータ200が一定間隔L1(本実施形態と同様の間隔)で設けられ、プール1の側壁面の裏面上段には24個のアクチュエータ200が一定間隔L2(=2*L1)で設けられている。このように、側壁面の裏面上段にアクチュエータ200を設ける間隔と該側壁面の裏面下段にアクチュエータ200を設ける間隔とを異ならせるようにしても良い。また、本実施形態において説明した種々の効果(周波数特性等)が得られるのであれば、該側壁面の裏面に一定間隔でアクチュエータ200を設けることなく、ランダムな間隔でアクチュエータ200を設けるようにしても良い。
【0048】
ここで、図16は、図15に示すアクチュエータ200の配置例とは異なる配置例を模式的に示した図である。
図16に示すように、プール1の側壁面の裏面には、48個のアクチュエータ200が千鳥状に配置されている。詳述すると、プール1の側壁面の裏面上段及び下段には、それぞれ24個のアクチュエータ200が一定間隔L2で設けられ、各アクチュエータ200が上段と下段との間において互い違いに配置されている。
【0049】
ここで、図17は、プール1の側壁面にアクチュエータ200を千鳥状(図16参照)に配置し、各アクチュエータ200を駆動したときの側壁面の振動加速度レベルを実測した結果を示す図であり、図18は、図16に示すプール1の側壁面の部分拡大図である。なお、振動加速度レベルを実測する際には、振動を検知するための振動ピックアップをプール1の側壁面の表面(プール内側)の所定箇所(地点A〜D;図18参照)にそれぞれ取り付け、測定を行った。
【0050】
図17に示すように、10〜600(Hz)程度までの振動加速度レベルは、アクチュエータ200−kの設置背後の地点Bと、その他の地点A、C、Dとの間において大きな差は認められない。これに対し、600(Hz)以上の周波数域においては、地点A、C、Dにおける振動加速度レベルが、地点Bにおける振動加速度レベルよりも低くなる傾向が認められる。また、全周波数帯域において、A地点における振動加速度レベルとD地点における振動加速度レベルとの間に大きな差は認められない。
【0051】
以上説明した内容をまとめれば、次の通りである。まず、A地点に取り付けられた振動ピックアップは、アクチュエータ200−kによる振動を主に検出する。一方、D地点に取り付けられた振動ピックアップは、アクチュエータ200−kによる振動及びアクチュエータ200−lによる振動を主に検出する。そして、このA地点に取り付けられた振動ピックアップによって検出される振動加速度レベルとD地点に取り付けられた振動ピックアップによって検出される振動加速度レベルとの間に大きな差が認められていない。よって、アクチュエータ200の配置は、図16等に示すように一定間隔L2で千鳥状に配置することが必要十分な配置といえる。
【0052】
このように、アクチュエータ200をプール1の側壁面の裏面に一定間隔L2で千鳥状に配置することにより、振動特性の劣化を招くことなく、必要なアクチュエータ200の数を減らすことができ、これにより水中音響放射装置100の製造コストを低減することが可能となる。
【0053】
<変形例5>
また、上述した本実施形態では、プール1の側壁面の裏面に複数のアクチュエータ200を設置した場合について説明を行ったが、例えばプール1の側壁面の表面(水中側)に複数のアクチュエータ200を設けるようにしても良い。この場合、該アクチュエータ200には、水の侵入等を防止する防水機構や、該水中スピーカに内蔵されたアンプ等の漏電を検出し、自動遮断する安全回路等を適宜設ける必要はあるが、波長の長い低周波域の音を良好に再生でき、かつアクチュエータ200の設置幅に対応したエリアにおいて遠方でも均一な音圧と周波数特性を実現することができるといった効果(第1の効果)や、広帯域の音を明瞭に再生することができるといった効果(第2の効果)等を得ることができる。従って、プール1の側壁面の裏面に該アクチュエータ200を設置するスペースがない場合等においては、プール1の側壁面の表面(水中側)に該アクチュエータ200を設置することも可能である。
【0054】
<変形例6>
また、上述した本実施形態では、プール1の側壁面の裏面に設置した複数のアクチュエータ200を同期して同相で駆動する場合について説明を行ったが、例えば該側壁面の裏面上段に設けたアクチュエータ200を使用して中〜高周波帯域の音を再生する一方、該側壁面の裏面下段に設けたアクチュエータ200を使用して低周波帯域の音を再生したり、該側壁面の裏面上段に設けたアクチュエータ200を駆動するタイミングと該側壁面の裏面下段に設けたアクチュエータ200を駆動するタイミングをずらすように制御しても良い。また、該側壁面を介して水中に放射される音響に種々の効果(リバーブ等)を付加すべく、本実施形態において説明した振動制御装置300の代わりにエフェクト機能、音質調整機能等を備えた振動制御装置300を設けるようにしても良い。
【0055】
<変形例7>
また、上述した本実施形態では、前掲図10に示すように1台のアンプ330(4CH出力)で24個のアクチュエータ200を駆動(アンプ1CHで6個のアクチュエータを駆動)する構成であったが、アンプ1台で何個のアクチュエータ200を駆動するか等については、振動制御装置300の設計等に応じて適宜変更可能である。
【0056】
<変形例8>
上述した本実施形態では、プール1に水中音響放射装置100を設けた場合について説明を行ったが、例えば水中植物や観賞魚の育成等に使用する水槽、貯蔵タンク、浴槽、いけすや、酒、醤油、みそ等の醸造に使用する容器等の液状媒質を蓄えるものに水中音響放射装置100を設け、水中植物等の育成を促すべく、該水槽等の内部にBGM等の音響を放射するようにしても良い。すなわち、特許請求の範囲に記載の水槽とは、上記液状媒質を蓄えることが可能なあらゆるものをいう。
【0057】
<変形例9>
また、上述した本実施形態では、プール1の側壁面の裏面にアクチュエータ200を取り付けた場合について説明したが、プール1の底壁面の裏面にアクチュエータ200を取り付けるようにしてもよい。
図19は、変形例9に係るプール1に対するアクチュエータ200の配置例を模式的に示した図であり、図20及び図21はプール1を上から見た図である。
【0058】
図19に示すように、プール1の底壁面は、コンクリート等の剛性部材によって形成された複数の凸部500によって支持されている。そして、プール1の底壁面における各凸部500の間には、上述した本実施形態等と同様、複数のアクチュエータ200が取り付けられられており、これにより底壁面から水面に向かって音響が放射される。なお、アクチュエータ200の配置位置に関し、例えば図20に示すように、底壁面の競技エリアに対応する底壁面に複数のアクチュエータ200を所定間隔L3で配置しても良いが、例えば図21に示すように該底壁面に複数のアクチュエータ200を所定間隔L4で千鳥状に配置しても良い。
【0059】
このように、プール1の側壁面の裏面ではなく、底壁面の裏面にアクチュエータ200を取り付けた理由は、次の通りである。すなわち、水中に放射された音響は、水面と水底面(底壁面)との間を繰り返し反射しながらある距離を伝搬(いわゆる“浅海”伝搬)していくが、この“浅海”伝搬においては、放射された音響(音)の周波数が低く、水深がこの音の波長と同程度になると、下記式(1)によって表される遮断周波数f0以下の信号が伝搬されない現象が生ずるようになる(なお、遮断周波数に関する詳細は、I.Tolstoy and C.S.Clay,“OCEAN ACOUSTICS:Theory and Experiment in Underwater Sound”,1987等に詳記されている)。
【式1】
【0060】

【0061】
図22は、この“浅海”における音源からの距離による周波数特性変化をシュミレーションしたときの条件等を示す説明図であり、図23は、シュミレーション結果を示す図である。
図22に示すように、音源となる水中スピーカを水深2m地点に配置すると共に、水深1m地点であって、該水中スピーカから1m、2m、5m、10m、15m離間した各地点a〜eに水中マイクを配置した場合を想定してシュミレーションを行った。
【0062】
この結果、図23に示すように、音源から近い地点においては、上記式(4)を利用して求めた遮断周波数f0(=128(Hz))以下の周波数の音の減衰は小さいものの、音源から遠い地点においては、距離が離れるほど、遮断周波数f0以下の周波数の音の減衰は大きくなることが明らかになった。
【0063】
ここで、図24は、実際のプール1(FRPによって形成)を利用して上記周波数特性変化を実測したときの条件等を示す説明図であり、図25は、実測結果を示す図である。
図24に示すように、音源となる水中スピーカを水底(水深3m地点)に配置すると共に、水深1.5m地点であって、該水中スピーカから5m、20m離間した各地点a’、b’に水中マイクを配置して実験を行った。
【0064】
この結果、音源から遠い地点b’における遮断周波数f0’以下の周波数の減衰は、音源から近い地点a’における遮断周波数f0’以下の周波数の減衰よりも大きくなることが明らかになった。なお、かかる実測結果では、図25に示すb’のカーブの60Hz近傍においてピークが認められるが、これは同図に示すBGN(電源周波数によるハム)の影響によるものと考えられる。かかる周波数における特性を無視して減衰量(図25に示す、a’とb’の差)に注目すれば、遮断周波数f0’以下の周波数帯域で一様に減衰しており、これはシュミレーション結果を裏付けるものである。
【0065】
以上説明したシュミレーション結果及び実測結果から明らかなように、音源から距離が離れると音の減衰は大きくなるため、例えば図8に示すようにプール1の側壁面の裏面にアクチュエータ200を配置した場合には、該側壁面から離れた位置(水中)で演技等を行う競技者に遮断周波数f0近傍の周波数の音が伝搬されない等の問題が生じてしまう。
【0066】
そこで、本変形例では、プール1の底壁面の裏面にアクチュエータ200を取り付け、底壁面から水面に向かって音響を放射することで、上記遮断周波数f0近傍の周波数の音が競技者に伝搬されないといった問題を回避している。
【0067】
すなわち、プール1の底壁面から水面までの距離(水深)は、1〜3m程度であるため、底壁面に取り付けたアクチュエータ200(音源)から競技者までの距離は、この水深程度の距離に収まる。このように、プール1の底壁面の裏面にアクチュエータ200を取り付けることにより、音響を伝搬すべき距離は短くなり、この結果、音源から競技者までの距離が離れていたために遮断周波数f0近傍の周波数の音が競技者に伝搬されないといった問題を回避することが可能となる。
【0068】
なお、以上説明した本変形例では、プール1の側壁面の裏面にアクチュエータ200を取り付ける代わりに、底壁面の裏面にアクチュエータ200を取り付けた場合について説明したが、両者を併用してプール1の側壁面及び底壁面の裏面に、それぞれアクチュエータ200を取り付けるようにしても良い。
【0069】
この場合、例えば側壁面に取り付けたアクチュエータ200については、音源からの距離によらず、減衰が小さい中・高周波帯域の音を水中に放射させ、一方底壁面に取り付けたアクチュエータ200については、音源からの距離に応じて大きく減衰する低周波帯域の音を水中に放射させるように構成しても良い。
【0070】
また、本変形例では、プール1の底壁面をコンクリート等の剛性部材によって形成された複数の凸部500によって支持すると共に、各凸部500の間に複数のアクチュエータ200を取り付けた場合について説明したが、例えば図26のA、B、Cに示すようにプール1の底壁面自体に複数の凸部600を設け、各凸部600にアクチュエータ200を1つ(若しくは複数)取り付けるようにしても良い。
【0071】
<変形例10>
また、上述した本実施形態では、アクチュエータ200を接着剤等によって側壁面に直接固定(図5参照)した場合について説明したが、側壁面とアクチュエータ200とをさらに強固に固着させるべく、図27に示すように、該側壁面にアクチュエータ200密着用の梁Hを設けるようにしても良い。
【0072】
<変形例11>
また、上述した本実施形態では、プール1に水中音響放射装置100を設けた場合について説明を行ったが、例えば大型、小型等の船舶や潜水艦等に上述した水中音響放射装置100を設けることも可能である。
図28は、本変形例に係る船舶400の外観を示す図であり、図29は図28に示す船底部410のIV−IV線視断面図である。
図28に示す船舶400の船底部410は、上述したFRP等によって形成され、該船底部410の内側平面部410a(図29参照)には、複数のアクチュエータ200が設けられ、各アクチュエータ200はケーブル等を介して振動制御装置300に接続されている。
【0073】
船舶400の航行を指揮し、船員を監督する船長等は、図示せぬマイク等を使用して、海中で海底調査等を行っているダイバーに指示等を与える。振動制御装置300は、マイクを介して該指示内容に対応する音声信号等を受け取ると、該音声信号にイコライジング処理、レベル調整処理等を施し、増幅した後の電気信号を平面部410aに一定間隔で設置された複数のアクチュエータ200に出力する。アクチュエータ200は、受け取った電気信号を機械的振動信号に変換して平面部410aを振動させ、これにより該指示内容に対応した音声が放射される。海中で海底調査等を行っているダイバーは、船舶400の平面部410aから放射される音声を聴取すると、該音声の指示内容に基づき調査エリアの変更等を行う。
【0074】
以上説明したように、船底部410の内側平面部410aに複数のアクチュエータ200を一定間隔で設置することも可能であるが、例えば図30及び図31に示すように、船底部410の内側曲面部410bや、船底部410の内側全面部410cに複数のアクチュエータ200を一定間隔で設けることも可能である。このように、船底部410の内側全面部410cに複数のアクチュエータ200を一定間隔で設けた場合には、該船舶400を中心としてあらゆる方向にBGM、音声等の音響を放射することが可能となる。なお、本変形例に上述した各変形例を適用することができるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本実施形態におけるプールの分解斜視図である。
【図2】プールを構成する側壁ユニットと床ユニットとの結合部分を示す図である。
【図3】図2におけるI−I線視断面図である。
【図4】水中音響放射装置を説明するための模式図である。
【図5】図4におけるII−II線視断面図である。
【図6】アクチュエータの構成を示す図である。
【図7】図6におけるIII−III線視断面図である。
【図8】プールに対するアクチュエータの配置例を示す図である。
【図9】振動制御装置の構成を示す図である。
【図10】アクチュエータとアンプとの接続例を示す図である。
【図11】水中スピーカを用いて周波数特性評価実験を行った場合の実験結果を示す図である。
【図12】スピーカアレイを用いて周波数特性評価実験を行った場合の実験結果を示す図である。
【図13】スピーカアレイの構成を示す図である。
【図14】水中スピーカから放射された音響の反射を説明するための図である。
【図15】変形例4に係るプールに対するアクチュエータの配置例を示す図である。
【図16】同変形例に係るプールに対するアクチュエータの配置例を示す図である。
【図17】同変形例に係る振動加速度レベルの実測結果を示す図である。
【図18】同変形例に係る側壁面の部分拡大図である。
【図19】変形例9に係るプールに対するアクチュエータの配置例を示す図である。
【図20】同変形例に係るプールを上から見た図である。
【図21】同変形例に係るプールを上から見た図である。
【図22】同変形例に係る周波数特性を変化をシュミレーションしたときの条件等を示す説明図である。
【図23】同変形例に係るシュミレーション結果を示す図である。
【図24】同変形例に係る周波数特性変化を実測したときの条件等を示す説明図である。
【図25】同変形例に係る実測結果を示す図である。
【図26】同変形例に係る底壁面に対するアクチュエータの取り付け方法を例示した図である。
【図27】変形例10に係るアクチュエータ密着用の梁を説明するための図である。
【図28】変形例11に係る船舶の外観を示す図である。
【図29】図28におけるIV−IV線視断面図である。
【図30】図28におけるIV−IV線視断面図である。
【図31】図28におけるIV−IV線視断面図である。
【図32】従来のプール等における水中スピーカの設置状態を例示する図である。
【図33】従来のプール等における水中スピーカの設置状態を例示する図である。
【符号の説明】
【0076】
1…プール、2…側壁ユニット、10…裏面ユニット、100…水中音響放射装置、200…アクチュエータ、300…振動制御装置、310…ミキサー、320…コンプレッサー、330…アンプ、400…船舶、410…船底部、410a…平面部、410b…曲面部、410c…全面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に設けられ、当該船舶から水中に音響を放射する装置であって、
水との境界面を形成し、軽量かつ剛性を保つ材料からなる薄板により構成された振動可能な前記船舶の船底部に設けられ、入力される電気信号を機械的振動信号に変換して前記船底部を振動させる複数の振動手段と、
前記水中に放射すべき音響に対応した電気信号を前記複数の振動手段に供給する振動制御手段と
を具備することを特徴とする船舶用水中音響放射装置。
【請求項2】
前記船底部は、曲面部を有し、
当該曲面部に前記複数の振動手段を一定間隔毎に設けた
ことを特徴とする請求項1に記載の船舶用水中音響放射装置。
【請求項3】
前記複数の振動手段を、前記船舶内側の前記曲面部に設けた
ことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の船舶用水中音響放射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公開番号】特開2007−290702(P2007−290702A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−119251(P2007−119251)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【分割の表示】特願2002−118260(P2002−118260)の分割
【原出願日】平成14年4月19日(2002.4.19)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】