説明

船舶

【課題】容易に所望の航行意図を実現し易く、快適な操作感を得易い船舶を提供する。
【解決手段】船舶10の所定位置に付与される推進力又は抵抗力の大きさ及び/又は方向を調整可能な操船機器20xを複数備えると共に、複数の操船機器20xを操作する操作機器30xと、複数の操船機器20xをそれぞれ駆動するアクチュエータと、操作機器30xの操作状態に基づいてアクチュエータの駆動量をそれぞれ制御する制御装置13とを備え、制御装置13は、船舶10の航行状態を検知する航行状態検知手段50と、操作機器30xの操作状態を検知する操作状態検知手段60と、航行状態及び操作状態に基づいて操船者の航行意図を推定する航行意図推定手段70と、航行意図に基づき、複数の操船機器20xから制御対象の操船機器20xを選定して、それを駆動するアクチュエータの駆動量を制御する操船機器制御手段80とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、推進力又は抵抗力の大きさや方向を調整可能な操船機器を複数備え、操船時に、操作機器が操作されることで複数の操船機器の動作が制御されるように構成されている船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶には、エンジン、舵、スラスター、トロールモータ、フラップ、トリム等、操船時に推進力又は抵抗力の大きさや方向を調整可能な多数の操船機器がそれぞれ所定位置に設けられている。これらの各種の操船機器は、ハンドル、ジョイスティックレバー、アクセル、トリムスイッチ等の各種の操作機器により操作可能に構成されており、各種の操作機器が操作されることで、各操作機器に機械的或いは電気的に接続されている各操船機器がアクチュエータにより駆動されて、船舶の操船が行われるようになっている。
【0003】
このような従来の船舶において操船者の操船意図を実現するには、操船者が操作する操船機器を選定すると共にその操作量を決定し、その操船機器に対応する操作機器を操作する必要がある。更に、船舶の航行状態により操船機器の操作量を調整することが必要である。そのため、操船には、手間を要する上、操船者の知識や経験等に基づく差が生じ易い。
【0004】
操船者の意図を適切に実現し易くするため、例えば、下記特許文献1では、複数の操船機器を組合せて操作することが可能な制御装置が提案されている。ここでは、エンジン及びトリム角等のように、特定の航行特性に影響を与える操船機器を組み合わせて、操船者の好みや使用環境等に応じて最適化することが可能となっている。
【0005】
また、下記特許文献2では、リモコン装置で船舶を操船する際、船舶の向きに応じて転舵方向等を調整可能に構成されたリモートコントロールシステムが提案されている。ここでは、船舶の航行状態に応じて操船機器の方向を最適化することが可能となっている。
【特許文献1】特開2001−152898号公報
【特許文献2】米国特許第7127333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の船舶では、上記特許文献1のように複数の操船機器の操作量が自動で最適化されたり、上記特許文献2のように、操船機器の操作方向が航行状態によって自動で調整されても、各操作機器により操作される操船機器が1乃至数個特定されているため、操船機器の選定は操船者がしなければならなかった。
【0007】
ところが、同一の操作状態においても、異なる操船機器を操作することが好ましい場合等も少なくなく、操船機器の選定が不適切な場合などには操船に手間を要していた。そして、所望の航行意図をより的確に実現するには、操船者の知識や経験等が必要となり易く、快適な操作感を得難かった。
【0008】
そこで、この発明では、容易に所望の航行意図を実現し易く、快適な操作感を得易い船舶を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する請求項1に記載の発明は、船舶の所定位置に付与される推進力又は抵抗力の大きさ及び/又は方向を調整可能な操船機器を複数備えると共に、前記複数の操船機器を操作する操作機器と、前記複数の操船機器をそれぞれ駆動するアクチュエータと、前記操作機器の操作状態に基づいて前記アクチュエータの駆動量をそれぞれ制御する制御装置とを備えた船舶であり、前記制御装置は、前記船舶の航行状態を検知する航行状態検知手段と、前記操作機器の操作状態を検知する操作状態検知手段と、前記航行状態及び前記操作状態に基づいて操船者の航行意図を推定する航行意図推定手段と、前記航行意図に基づき、前記複数の操船機器から制御対象の操船機器を選定して該制御対象の操船機器を駆動する前記アクチュエータの駆動量を制御する操船機器制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記操作機器は、アクセル等の船舶の航行速度を調整するために操作される速度操作装置と、ハンドル、ジョイスティック等の船舶の進行方向を調整するために操作される方向操作装置とを備え、前記操船機器は、前記船舶に対して付与される推進力又は抵抗力の大きさを調整可能な推力調整装置と、前記船舶に対して付与される推進力又は抵抗力の作用方向や作用点を調整可能な方向調整装置とを備え、前記操船機器制御手段は、前記方向操作装置の操作により選定される前記制御対象の操船装置として前記推力調整装置を含むことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の構成に加え、前記操船機器制御手段は、前記航行意図を実現するために必要な前記船舶の目標挙動変化を設定し、該目標挙動変化に基づいて前記船舶全体に付与する推進力又は抵抗力の大きさ、方向並びに作用点からなる目標制御力を算出し、該目標制御力に基づいて前記制御対象の操船機器を選定すると共に、該操船機器の前記アクチュエータの駆動量を決定することを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の構成に加え、前記操船機器制御手段は、前記航行意図に基づく前記アクチュエータの駆動量の制御後、該制御前後の前記航行状態の差と前記目標挙動変化との間の偏差量に応じて、再度前記目標挙動変化を設定することを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れか一つに記載の構成に加え、前記操船機器制御手段は、選定した前記制御対象の操船機器が故障と判定されたときに、該制御対象の操船機器とは異なる前記操船機器を選定すると共に該操船機器の駆動量を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、制御装置において、航行状態と操作機器の操作状態とに基づいて操船者の航行意図を推定し、この航行意図に基づいて制御対象の操船機器を選定し、その操船機器を駆動するアクチュエータの駆動量を制御するので、航行意図を実現するための操船機器とその操船機器の操船状態とを自動で適正化し易い。
【0015】
そのため、操船者が操船機器を選定して操船機器毎にアクチュエータの駆動量を調整する手間を簡略化でき、操船者の知識や経験等に拘わらず容易に所望の航行状態を実現し易く、快適な操作感を得ることが可能である。
【0016】
しかも、操船機器の選定や駆動量が適正化されることで、効率よく操船を実施でき、操船時に使用される操船機器やその動作量を少なく抑えて易く、操船機器の耐久性を確保し易い。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、方向操作装置の操作により、所定位置に配置された推力調整装置の推進力又は抵抗力を制御するため、旋回や回頭を適切に行い易くできる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、操船者の航行意図を実現するために必要な船舶の目標挙動変化を設定し、この目標挙動変化に基づいて船舶全体に付与する推進力又は抵抗力の大きさ、方向並びに作用点からなる目標制御力を算出して、制御対象の操船機器を選定すると共にアクチュエータの駆動量とを決定するので、推定された航行意図を正確に実現し易く、より快適な操作感を得易くできる。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、制御後に実際の航行状態の変化と目標挙動変化との間の偏差量に応じて、再度目標挙動変化を設定するので、操船者の航行意図をより正確に実現し易くできる。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、操船機器制御手段において選定された制御対象の操船機器が故障と判定されたときに、他の操船機器を選定すると共にアクチュエータの駆動量を決定するので、一部の操船機器に故障が生じた場合であっても、操船することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態について図1乃至図7を用いて説明する。
【0022】
図1及び図2はこの実施の形態の小型船舶を模式的に示している。この船舶10には、船尾に配設された2機の船外機20a、2機の船外機20aを転舵可能なステアリング20b、2機の船外機20aのトリム角を調整可能なトリム20c、船尾底部両側部に配設されたフラップ20d、船首に配設されたトロールモータ20e、船首側の底部に配設されたバウスラスター20fなどのように、船舶10に推進力や抵抗力を付与するための多数の操船機器20xがそれぞれ所定位置に配設されている。
【0023】
そして、これらの多数の操船機器20xを操船者が操作するために、ハンドル30a、ジョイスディック30b、アクセル30c、シフト30d等の多数の操作機器30xが単数又は複数の操船部11に多数設けられている。これらの多数の操作機器30xと多数の操船機器20xとは、制御装置13を介して、電気的に接続されている。
【0024】
船舶10の操作機器30xとしては、ハンドル30a、ジョイスティック30b等のように船舶10の進行方向を調整するために操作される方向操作装置や、アクセル30c等のように船舶10の航行速度を調整するために操作される速度操作装置が含まれている。各操作機器30xには、それぞれ操船者が触れて操作を行う操作部や、この操作部の位置、操作量、操作速度等の各種の操作状態を検出可能な操作検出器等を備え、操作検出器で検出された操作状態が制御装置13に伝達可能に構成されている。
【0025】
船舶10の操船機器20xとしては、例えば表1に示されるように、推進力を調整する推進力調整器、抵抗力を調整する抵抗力調整器等のように、船舶10に対して付与する推進力又は抵抗力の大きさを調整可能な推力調整装置が含まれると共に、推進力や抵抗力の作用方向を調整する作用方向調整器、推進力や抵抗力の作用点を調整する作用点調整器等のように、船舶10に対して付与される推進力又は抵抗力の作用方向や作用点を調整可能な方向調整装置が含まれている。これらの操船機器20xの一部には複数種類の調整器や調整装置として動作する機器が含まれていていもよい。
【0026】
操船機器20xには、それぞれアクチュエータが設けられており、制御装置13からの制御信号により各操船機器20が駆動されるように構成されている。また、この実施の形態では、一部又は全部の操船機器20xに各種の動作状態を検出可能な動作検出器が設けられており、各操船機器20xの各種の動作状態が制御装置13に伝達可能に構成されている。
【表1】

【0027】
また、この船舶10には、船舶10の種々の航行状態を検出するための各種の航行状態検出器40xが設けられている。ここで、航行状態とは、各種の検知器により検出可能な船舶10の物理的状態であり、例えば、停止、前進、後退、旋回、定点回頭、平行移動等の動作、船舶の位置、速度、加速度、向き、角速度、角加速度、姿勢などである。
【0028】
このような航行状態検出器40xとしては、例えば、船舶10の位置を測定するGPS40a、船舶10の方向を測定する方位計40b、旋回速度を測定するヨーレート計40c、船舶10の軸線方向や軸線と直交する方向の傾斜を測定する姿勢センサ40d等が挙げられる。そして、これらの航行状態検出器40xにより検知された各種の航行状態が制御装置13に伝達可能に構成されている。
【0029】
このような構成を有する船舶10では、操船者が操船部11において各種の操作機器30xを操作すると、その操作状態が制御装置13に伝達され、制御装置13において、操作機器30xからの操作状態と航行状態検出器40xから伝達される航行状態などを用いて船舶10の航行の制御が実行される。
【0030】
制御装置13は、図3に示すように、航行状態検出器40xから伝達される船舶10の航行状態を検知する航行状態検知手段50と、操作機器30xのセンサ等なら伝達される操作部の位置、操作量、操作速度等の操作状態を検知する操作状態検知手段60と、これらの航行状態及び操作状態に基づいて操船者の航行意図を推定する航行意図推定手段70と、この航行意図に基づいて制御を実行する操船機器制御手段80とを備えている。
【0031】
このような制御装置13では、まず、S100として、常時、航行状態検出器40xから航行状態が検出されて航行状態検知手段50に伝達されている。
【0032】
そして、操船者が各操作機器30xの操作部を操作すると、S110において操作機器30xの操作が操作状態検知手段60で判定されてS120に進み、操作部の位置、操作量、操作速度等の操作状態が検知される。すると、S130において、航行意図推定手段70により、検知された操作状態に基づいて操船者の航行意図が推定される。
【0033】
ここで、航行意図とは、1つ又は複数の操作機器30xを操船者が操作することにより、操船者が達成させようとしている航行状態や、達成させようとしている航行状態の変化などである。
【0034】
この航行意図は、直進、旋回、回頭、平行移動等の船舶の動作のみからなる航行状態として推定してもよく、定量的に特定の航行状態として検知できれば、特定の航行状態として推定してもよく、更に、高速、中速、低速、極低速、急加速、中加速、緩加速、急旋回、中旋回、緩旋回等の感覚的な航行状態として推定してもよい。
【0035】
このような航行意図は、各操作機器30x単独の操作部の位置、操作量、操作速度等の操作状態や、複数の操作機器30xの操作状態の組合せから、予め設定されたマップ等を用いて、操作状態に対応させて推定することが可能である。
【0036】
例えば、操作機器30xであるハンドル30a、ジョイスティック30b、アクセル30c、シフト30dの操作状態に基づいて航行意図を推定する場合、表2のようなマップを用いて行うことができる。
【表2】

【0037】
表2中、ハンドル30aについて、Lは左、Rは右、Nは中立を示し、アクセル30cについて、ジョイスティック30bについて、Nは中立を示し、OPENはアクセル開、CLOSEはアクセル閉を示し、シフト30dについて、Fは前進位置、Rは後退位置、Nは中立位置を示し、/は又はの意味を示す。
【0038】
この表2では、例えば、検知された航行状態が高速であって、アクセル30cの操作状態が開、シフト30dの操作状態が前進、ハンドル30aの操作状態が中立又は左若しくは右、ジョイスティック30bの操作状態が中立と検知されたとき、航行意図として直進又は旋回であると推定することができる。また、検知された航行状態が停止であって、アクセル30cの操作状態が開、シフト30dの操作状態が中立、ハンドル30aの操作状態が左又は右、ジョイスティック30bの操作状態が中立と検知されたとき、航行意図として回頭であると推定することができる。
【0039】
そして、S130において航行意図が推定されると、操船機器制御手段80による処理が実行される。操船機器制御手段80では、航行意図に基づいて、多数の操船機器20xの中から制御対象となる特定の操船機器20xを選定すると共に、制御対象の操船機器20xを駆動するアクチュエータの駆動量の制御を行う。
【0040】
ここでは、まず、S140において、航行意図を実現するために必要な船舶の目標挙動変化を航行意図に基づいて設定する。ここで、目標挙動変化とは、航行意図を実現するために必要な航行状態の変化量や変化速度であり、例えば、船舶の速度、加速度、角速度、角加速度、姿勢、モーメント等である。この目標挙動変化は、航行意図が定量的に推定されている場合には、航行意図と現在の航行状態との偏差としてもよい。また、航行意図が定量的に推定されていない場合には、推定された航行意図に対応してマップなどにより予め定量的に定めた特定の航行状態の変化量や変化速度としてもよい。何れにおいても、この目標挙動変化は、後述する目標制御力を算出する基礎となり得る程度に特定された値として設定されるのが好ましい。
【0041】
例えば、S120で検知された操作状態及びS130で推定された航行意図に基づいて設定される目標挙動変化は、表3のような挙動についての具体的な数値となる。
【表3】

【0042】
更に、S120でハンドル30aの回転角により操作状態を検知して、S140で目標挙動変化としてヨーレートや横加速度を設定する場合であっても、S100で検知されている航行状態により、図4に示すように、設定値を変化させることが好ましい。例えば、航行状態が極低速の場合に、ハンドル回転角θ1に対してG1のヨーレートを設定するのに対し、航行状態が高速の場合では、同じハンドル回転角θ1に対してG1より大幅に小さいヨーレートG2を設定する。
【0043】
このようにして定量的な目標挙動変化が設定されると、S150に進み、設定された目標挙動変化に基づいて船舶10全体に付与する目標制御力を算出する。ここで、目標制御力とは、目標挙動変化を得るために船舶全体に付与する必要のある力やモーメントであり、推進力又は抵抗力からなる推力の大きさ、方向、作用点等が含まれる。この目標制御力を算出を算出する際には、船舶10の航行状態等に応じて調整された値とするのが好適である。
【0044】
S150において目標制御力が算出されると、S160へ進み、目標制御力に基づいて、目標制御力を船舶10に付与することが可能なように、多数の操船機器20xから制御対象とする操船機器20xを単独或いは複数組み合わせて選定すると共に、その選定された操船機器20xの各操船機器20xの目標出力を算出する。
【0045】
ここで、操船機器20xを選定するには、例えば、予め、各操船機器20xの搭載位置と発生し得る水力から、それぞれ船舶10に与え得る推力と各推力に対するモーメントとを算出或いは測定して、各操船機器20x毎に記憶しておき、要求される推力及びモーメントとからなる目標制御力に最も近い推力及びモーメントが得られる操船機器20xから、より効率よく制御可能な操作機器20xを選定することができる。
【0046】
制御対象とする操船機器20xの選択は、多数の操船機器20xの中から1つを選択してもよく、複数組合て選択することができる。通常、各操船機器20xの目標出力の調整により複数通りの選定が可能であり、いずれであっても同様の目標制御力を得ることができる。そのような場合、最も効率のよい操船機器20x、例えば動作量が最も少なく抑えられるような操船機器20xを選択することが好ましい。
【0047】
例えば、船外機20a、フラップ20d、トロールモータ20e、バウスラスー20fの発生し得る推力及びモーメントが図5に示されるような範囲であるとすれば、目標制御力がPである場合、この目標制御力Pに最も近い推力及びモーメントが得られるトロールモータ20eと船外機20aとを選択することができる。
【0048】
このような操船機器20xの選択と同時に、制御対象として選定された全ての操船機器20xの各目標出力やモーメントの合計が目標制御力となるようにそれぞれの操船機器20xの目標出力を算出する。この目標出力の算出は操船機器20xの選択と組み合わせて最も効率のよい制御が可能となるようにする。
【0049】
このようにして制御対象の操船機器20xの選定及びその目標出力の算出の後、S170へ進み、制御対象の操船機器20xを動作させる各アクチュエータの駆動量を決定し、S180でアクチュエータを駆動させる。これにより、航行意図に基づく制御が実行される。
【0050】
例えば、航行状態が中高速で、航行意図が旋回の場合、図6(a)に示すように、ステアリング20bで船外機20aを転舵させることで旋回できる。また、図6(b)に示すように、ステアリング20bの転舵と共にトリム20cにより船外機20aをトリムダウンさせることで、小さい回転半径で旋回できる。更に、図6(c)に示すように、ステアリング20bによる船外機20aの転舵と共に内側のフラップ20dを動作させることでもより小さい回転半径で旋回できる。
【0051】
航行状態が低速で、航行意図が旋回の場合、図6(d)に示すように、ステアリング20bで船外機20aを転舵させると共に、内側の船外機20aのエンジンの出力を外側の船外機20aのエンジンの出力より小さくすることで小さい回転半径で旋回できる。
【0052】
航行状態が極低速で、航行意図が旋回の場合、図6(e)に示すように、ステアリング20bで船外機20aの転舵と共に内側の船外機20aのエンジンの出力を外側の船外機20aのエンジンの出力より小さくし、更にトロールモータ20eを内側に向けて作動させると共にバウスラスター20fを内側へ向けて作動させることで非常に小さい回転半径で旋回できる。また、図6(f)に示すように、内側の船外機20aのエンジンの出力を外側の船外機20aのエンジンの出力より小さくするだけでも旋回できる。
【0053】
航行状態が停止で、航行意図が定点での回頭の場合、図7(a)に示すように、ステアリング20bで船外機20aを転舵させて船外機20aのエンジンの出力を前進方向とすると共に、トロールモータ20eの出力を船外機20aのエンジンと反対の後退方向とすることで回頭させることができる。また、図7(b)に示すように、2基の船外機20aのエンジンの出力を逆方向とするだけでも回頭させることができる。更に、図7(c)に示すように、ステアリング20bで2基の船外機20aを逆方向に転舵させて各エンジンの出力を逆方向とすると共に、バウスラスター20fを内側へ向けて作動させることでより速く回頭させることができる。また、図7(d)に示すように、ステアリング20bで2基の船外機20aを逆方向に転舵させて各エンジンの出力を逆方向とすると共に、トロールモータ20eを内側へ向けて作動させることでも、より速く回頭させることができる。
【0054】
航行状態が停止で、航行意図が斜め前方への平行移動の場合、図8(a)に示すように、ステアリング20bで2基の船外機20aを逆方向に転舵させて一方のエンジンの出力を前進とすると共に他方のエンジンの出力を後退とし、前進のエンジンの出力を後退のエンジンの出力より大きくし、更に、トロールモータ20eを横方向に作動させることで、斜め前方に平行移動させることができる。
【0055】
航行状態が停止で、航行意図が横への平行移動の場合、図8(b)に示すように、ステアリング20bで船外機20aを転舵させてエンジンの出力を後退とし、トロールモータ20eを斜め前方に向けて作動させることで、横へ平行移動させることができる。また、図8(c)に示すように、2基の船外機20aのエンジンの出力を一方を前進として他方を後退とし、バウスラスター20fを横方向へ作動させることで、横へ平行移動させることができる。更に、図8(d)に示すように、2基の船外機20aのエンジンの出力を一方を前進として他方を後退とし、トロールモータ20eを横方向へ作動させることで、横へ平行移動させることができる。
【0056】
航行状態が停止で、航行意図が斜め後方への平行移動の場合、図8(e)に示すように、ステアリング20bで船外機20aを転舵させてエンジンの出力を後退とし、トロールモータ20eを斜め後方に向けて作動させることで、斜め後方へ平行移動させることができる。
【0057】
航行状態が停止で、航行意図が横への平行移動又は斜め後方への平行移動の場合、図8(f)に示すように、ステアリング20bで2基の船外機20aを逆方向に転舵させて一方のエンジンの出力を前進とすると共に他方のエンジンの出力を後退とし、前進のエンジンの出力より後退のエンジンの出力を大きくし、更に、トロールモータ20e及びバウスラスター20fを横方向に作動させることで、横方向乃至斜め後方へ平行移動させることができる。
【0058】
航行状態が高速前進で、航行意図がロールやピッチに対する姿勢保持の場合、図9(a)に示すように、2基の船外機20aのトリム20cの動作を異ならせて調整することで姿勢を保持できる。
【0059】
航行状態が中速前進で、航行意図がロールやピッチに対する姿勢保持の場合、図9(b)に示すように、2基の船外機20aのトリム20cの動作を異ならせて調整すると共に、フラップ20dを調整することで姿勢を保持できる。
【0060】
航行状態が低速又はトロール時で、航行意図がロールに対する姿勢保持の場合、図9(c)に示すように、トロールモータ20e及びバウスラスター20fを調整することで、姿勢を保持できる。
【0061】
航行状態が低速又はトロール時で、航行意図がロールやピッチに対する姿勢保持の場合、図9(d)に示すように、ステアリング20bで船外機20aを転舵させることで、姿勢を保持できる場合もある。
【0062】
この実施の形態では、以上のようにS160〜S180で航行意図に基づく制御を実行する上で、S190において、各操船機器20が目標出力が得られているか否かを判定することにより、各操船機器20xが故障しているか否かを判定する。ここでは、目標出力が得られていない場合、S160へ戻り、他の操船機器20xを制御対象として選定し、その操船機器20xの目標出力を算出して動作させる。
【0063】
制御対象の操船機器20xから目標出力が得られている場合には、この実施の形態では、所定時間経過後に更にS200に進み、S140で設定されていた目標挙動変化が得られているか否かを判定する。
【0064】
目標挙動変化が得られていない場合には、制御開始前の航行状態と制御後である現在の航行状態との間の偏差と、S140で設定されていた目標挙動変化との間の偏差量に応じて再度目標挙動変化を設定し直し、再び操船機器の制御を実行する。
【0065】
そして、目標挙動変化が達成された時点で、S120において推定された操作意図に対する制御を完了する。
【0066】
以上のような船舶10によれば、制御装置13の航行意図推定手段70において、航行状態と操作機器の操作状態とに基づいて操船者の航行意図を推定し、この航行意図に基づいて操船機器制御手段80において制御対象の操船機器20xを選定し、その操船機器20xを駆動するアクチュエータの駆動量を制御するので、航行意図を実現するための操船機器20xとその操船機器20xの操船状態とを自動で適正化し易い。
【0067】
そのため、操船者が操船機器20xを選定して操船機器20x毎にアクチュエータの駆動量を調整する手間を簡略化でき、操船者の知識や経験等に拘わらず容易に所望の航行状態を実現し易く、快適な操作感を得ることが可能である。
【0068】
しかも、操船機器20xの選定や駆動量が適正化されることで、効率よく操船を実施でき、操船時に使用される操船機器20xやその動作量を少なく抑えて易く、操船機器20xの耐久性を確保し易い。
【0069】
また、この船舶10では、操船機器制御手段80において、ハンドル30a、ジョイスティック30b等の方向操作装置の操作により、所定位置に配置された船外機20a、フラップ20d等の推力調整装置の推進力又は抵抗力を制御するため、旋回や回頭を適切に行い易くできる。
【0070】
更に、操船機器制御手段80において、操船者の航行意図を実現するために必要な船舶10の目標挙動変化を設定し、この目標挙動変化に基づいて船舶10全体に付与する推進力又は抵抗力の大きさ、方向並びに作用点からなる目標制御力を算出して、制御対象の操船機器20xを選定すると共にアクチュエータの駆動量とを決定するので、推定された航行意図を正確に実現し易く、より快適な操作感を得易くできる。
【0071】
しかも、制御後に実際の航行状態の変化と目標挙動変化との間の偏差量に応じて、再度目標挙動変化を設定するので、操船者の航行意図をより正確に実現し易くできる。
【0072】
また、この船舶10では、操船機器制御手段80において選定された制御対象の操船機器20xが故障と判定されたときに、他の操船機器20xを選定すると共にアクチュエータの駆動量を決定するので、一部の操船機器20xに故障が生じた場合であっても、操船することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】この発明の実施の形態の船舶を模式的に示す平面図である。
【図2】この発明の同実施の形態の船舶を模式的に示す側面図である。
【図3】この発明の同実施の形態の制御装置において実行される制御のフローチャートである。
【図4】この発明の同実施の形態の制御装置において、目標挙動変化を設定する具体例を説明するための図である。
【図5】この発明の同実施の形態の制御装置において、操船機器を選択する具体例を説明するための図である。
【図6】(a)乃至(f)は、この発明の同実施の形態の制御装置において、航行意図が旋回の場合に制御対象の操船機器を選択する具体例を示す図である。
【図7】(a)乃至(d)は、この発明の同実施の形態の制御装置において、航行意図が定点回頭の場合に制御対象の操船機器を選択する具体例を示す図である。
【図8】(a)乃至(f)は、この発明の同実施の形態の制御装置において、航行意図が平行移動の場合に制御対象の操船機器を選択する具体例を示す図である。
【図9】(a)乃至(d)は、この発明の同実施の形態の制御装置において、航行意図が姿勢保持の場合に制御対象の操船機器を選択する具体例を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
10 船舶
13 制御装置
20a〜20x 操船機器
30a〜30n 操作機器
40a〜40x 航行状態検出器
50 航行状態検知手段
60 操作状態検知手段
70 航行意図推定手段
80 操船機器制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の所定位置に付与される推進力又は抵抗力の大きさ及び/又は方向を調整可能な操船機器を複数備えると共に、前記複数の操船機器を操作する操作機器と、前記複数の操船機器をそれぞれ駆動するアクチュエータと、前記操作機器の操作状態に基づいて前記アクチュエータの駆動量をそれぞれ制御する制御装置とを備えた船舶であり、
前記制御装置は、
前記船舶の航行状態を検知する航行状態検知手段と、
前記操作機器の操作状態を検知する操作状態検知手段と、
前記航行状態及び前記操作状態に基づいて操船者の航行意図を推定する航行意図推定手段と、
前記航行意図に基づき、前記複数の操船機器から制御対象の操船機器を選定して該制御対象の操船機器を駆動する前記アクチュエータの駆動量を制御する操船機器制御手段とを備えたことを特徴とする船舶。
【請求項2】
前記操作機器は、アクセル等の船舶の航行速度を調整するために操作される速度操作装置と、ハンドル、ジョイスティック等の船舶の進行方向を調整するために操作される方向操作装置とを備え、
前記操船機器は、前記船舶に対して付与される推進力又は抵抗力の大きさを調整可能な推力調整装置と、前記船舶に対して付与される推進力又は抵抗力の作用方向や作用点を調整可能な方向調整装置とを備え、
前記操船機器制御手段は、前記方向操作装置の操作により選定される前記制御対象の操船装置として前記推力調整装置を含むことを特徴とする請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
前記操船機器制御手段は、前記航行意図を実現するために必要な前記船舶の目標挙動変化を設定し、該目標挙動変化に基づいて前記船舶全体に付与する推進力又は抵抗力の大きさ、方向並びに作用点からなる目標制御力を算出し、該目標制御力に基づいて前記制御対象の操船機器を選定すると共に、該操船機器の前記アクチュエータの駆動量を決定することを特徴とする請求項1又は2に記載の船舶。
【請求項4】
前記操船機器制御手段は、前記航行意図に基づく前記アクチュエータの駆動量の制御後、該制御前後の前記航行状態の差と前記目標挙動変化との間の偏差量に応じて、再度前記目標挙動変化を設定することを特徴とする請求項3に記載の船舶。
【請求項5】
前記操船機器制御手段は、選定した前記制御対象の操船機器が故障と判定されたときに、該制御対象の操船機器とは異なる前記操船機器を選定すると共に該操船機器の駆動量を決定することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載の船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−67287(P2009−67287A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239331(P2007−239331)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000176213)ヤマハマリン株式会社 (256)