説明

船舶

【課題】プロペラ軸をそれぞれ支持する複数のスケグ部を有する船舶に関し、スケグ部よりも前方の船底部からスケグ部間の船底部に向かう流れが剥離することを抑止して船体抵抗を低減する。
【解決手段】船尾部に船舷方向に間隔を隔てて設けられ、プロペラ軸16aをそれぞれ支持する複数のスケグ部18aを有する船舶10であって、スケグ部18aよりも船首側に臨む船底部30に設けられた流入口19と、スケグ部18a間の船底部41に設けられた排出口20と、流入口19と排出口20とを連通する流路21と、流路21に設けられ、流入口19から流路21に流れ込む流体を排出口20に向けて送出する流体送出手段15とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船尾部に船舷方向に間隔を隔てて設けられ、プロペラ軸をそれぞれ支持する複数のスケグ部を有する船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の大型化の要請に応えるべく、港湾等の水深制限の観点から、船体を幅方向、即ち舷側に拡張する傾向にある。一方、船舶の大型化に伴い、推進力も大きくする必要があるが、推進器であるプロペラの直径は水深制限の影響を受けるので大きくすることができない。そのため、1枚のプロペラでは、大型化した船舶の航行に十分な推進力を得ることが困難であるといった課題がある。
【0003】
そこで、上述の課題を解決すべく、船舶に複数のプロペラを搭載するとともに、排水量を稼ぐために複数のスケグ部(ボッシング)を備えた船舶が知られている。
【0004】
例えば、この種の船舶として、特許文献1には、プロペラ起振力を低減すべく、左右一対のスケグ部に船舷方向に延びるフィンを設けた2軸ツインスケグ船の船尾形状が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−247322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ツインスケグ船のような複数のスケグ部を有する船舶においては、船尾部に設けられた複数のスケグ部によって、船体下方に開放したトンネル状の船底凹部が形成される。そのため、船舶の航行時には、例えば図4に示すように、スケグ部100よりも船体前方、即ち船首側に臨む船底部110からトンネル状の船底凹部120に向かう流れが、図中矢印Sのように剥離することで低圧部を生じ、この低圧部によって船舶の船体抵抗が増加する場合がある。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、その目的は、船尾部に船舷方向に間隔を隔てて設けられ、プロペラ軸をそれぞれ支持する複数のスケグ部を有する船舶において、航行時にスケグ部よりも船首側に臨む船底部からスケグ部間の船底部に向かう流れが剥離することを抑止して、低圧部の発生を抑制するとともに、船体抵抗を低減することができる船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の船舶は、船尾部に船舷方向に間隔を隔てて設けられ、プロペラ軸をそれぞれ支持する複数のスケグ部を有する船舶であって、前記スケグ部よりも船首側に臨む船底部に設けられた流入口と、前記スケグ部間の船底部に設けられた排出口と、前記流入口と前記排出口とを連通する流路と、前記流路に設けられ、前記流入口から前記流路に流れ込む流体を前記排出口に向けて送出する流体送出手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、前記排出口は、前記スケグ部間の船底部の船首側の、流体の剥離が起こる領域に面して設けられるようにしてもよい。
【0010】
また、前記排出口の開口面積は、前記流入口の開口面積よりも大きく形成され、前記流路は、前記流入口から前記排出口に向かって狭くなるように形成されるようにしてもよい。
【0011】
また、前記流体送出手段は、船舶の航行速度が高くなるにつれて、前記流体の送出量を増加するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の船舶によれば、船尾部に船舷方向に間隔を隔てて設けられ、プロペラ軸をそれぞれ支持する複数のスケグ部を有する船舶において、航行時にスケグ部よりも船首側に臨む船底部からスケグ部間の船底部に向かう流れが剥離することを抑止して、低圧部の発生を抑制することができるとともに、船体抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る船舶の要部の一部を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る船舶を船尾側から視た模式的な図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る船舶の航行速度と流体送出量との関係を示す図である。
【図4】従来の複数のスケグ部を有する船舶を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1〜3に基づいて、本発明の一実施形態に係る船舶を説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0015】
図1,2に示すように、船舶10は、船体11と、船体11内に設けられたエンジン12と、エンジン12の出力で稼働する発電機13と、発電機13から供給される電力で回転駆動する電動モータ14と、電動モータ14の出力軸14aに接続されたポンプ15と、左右一対のプロペラシャフト(プロペラ軸)16a,16bと、プロペラシャフト16a,16bの後端にそれぞれ装着されたプロペラ17a,17bと、船尾部に設けられプロペラシャフト16a,16bをそれぞれ支持する左右一対のスケグ部18a,18bと、海水や淡水等(以下、流体という)を取り入れる取入口(流入口)19と、流体を船体11の船尾方向に排出する吹出口(排出口)20と、取入口19と吹出口20とを連通する流体通路(流路)21とを備え構成されている。なお、図2において、17a,17bはプロペラ円を示している。
【0016】
エンジン12は、船舶10の推進用の主エンジンであって、図示しない燃料タンクから供給される燃料によって稼働する。また、エンジン12の出力軸(不図示)は、プロペラシャフト16a,16bに接続されている。
【0017】
発電機13は、エンジン12の出力軸(不図示)から取り出した動力によって稼働するとともに、発電した交流電力を電動モータ14へと供給する。すなわち、発電機13は、エンジン12の出力軸(不図示)から回転エネルギの供給を受けるとともに、この回転エネルギを電気エネルギへ変換した後に電動モータ14へと供給するように構成されている。なお、本実施形態において、発電機13は主エンジンであるエンジン12の動力で稼働するものとして説明するが、例えば、発電機13用の補助エンジン(不図示)を別体に設けてもよい。
【0018】
電動モータ14は、発電機13から供給される交流電力によって回転駆動するとともに、回転駆動力を出力軸14aに接続されたポンプ15へと伝達する。また、電動モータ14の回転駆動は、モータ駆動制御部22によって制御されている。
【0019】
モータ駆動制御部22には、船舶10の航行速度検出手段(不図示)から出力信号が入力されるとともに、予め実験等で作成した船舶10の航行速度Vとポンプ15の流体送出量Qとの関係を示すマップ(図3)が記憶されている。すなわち、電動モータ14は、船舶10の航行速度Vが高くなるにつれて、ポンプ15の流体送出量Qが次第に増加される回転駆動力を出力するように、発電機13から供給される交流電力がモータ駆動制御部22によって調整されることで制御されている。なお、本実施形態において、流体送出量Qは、図3のマップに示すように航行速度Vに比例して増加されるものとして説明するが、例えば、流体送出量Qを航行速度Vが高くなるにつれて曲線的に増加させることもできる。
【0020】
ポンプ15は、図1に示すように、詳細を後述する流体通路21に介装されている。また、ポンプ15には、出力軸14aに接続された一つまたは複数の羽根車(不図示)が設けられており、この羽根車を回転させることで、吸引口15aから取り込んだ流体を加圧して、吐出口15bから送出するように構成されている。すなわち、取入口19から流体通路21に流れ込む流体(図1の矢印A)は、ポンプ15によって吹出口20に送出され、吹出口20から船体11の船尾方向へと排出される(図1の矢印C参照)。
【0021】
左右一対のスケグ部18a,18bは、図1,2に示すように、船舶10の船尾部に下方に延出して設けられ、船体11と一体に形成されている。本実施形態において、スケグ部18a,18bの突出高さは、スケグ部18a,18bの下端部と船底部30とが一致するように設定されている。また、スケグ部18a,18bの高さ方向の中間位置には、プロペラシャフト16a,16bが支持されている。
【0022】
スケグ部18a,18b間には、図2に示すように、船体11下方に開放したトンネル状の船底凹部40が形成されている。この船底凹部40の天井面41(スケグ部18a,18b間の船底部41)は、図1に示すように、船体11の船首側から船尾側に向かい高くなるように形成されている。
【0023】
取入口(流入口)19は、図1に示すように、スケグ部18a,18bよりも船体11の船首側に位置する船底部30に設けられている。また、取入口19は、開口面を長方形に形成されており、長手方向が船舷方向と一致するように設けられている。また、取入口19の開口面積は、後述する吹出口20の開口面積よりも大きく設定されている。なお、本実施形態において、取入口19は、船底部30の船尾側端部に設けられているが、例えば、この取入口19を船底部30の船首側に位置して設けることもできる。船首側に位置して設ける場合は、後述する流体通路21の長さを延長すればよい。
【0024】
吹出口(排出口)20は、図1,2に示すように、船底凹部40の天井面41(スケグ部18a,18b間の船底部41)に設けられている。この吹出口20は、天井面41の船首側前端部(流体の剥離が起こる領域)、すなわち船体11を船尾側から視た場合は、天井面41の下端部に位置するように設けられている。また、図2に示すように、吹出口20の開口面は長方形に形成されており、長手方向が船舷方向と一致するように設けられている。なお、吹出口20は、流体の剥離の起きる領域に面して設けられることが望ましい。例えば、図1中に二点鎖線で示すLWL(計画満載吃水線)から船底部30までの深さが15〜20mの場合は、吹出口20の開口中心が船底部30から1mの高さに位置するように設けられる。
【0025】
流体通路(流路)21は、図1に示すように、取入口19と吹出口20とを連通するように形成されており、所定の位置にポンプ15が設けられている。また、流体通路21は、取入口19から吹出口20に向かい狭くなるように形成されている。
【0026】
上述のような構成により、本発明の一実施形態に係る船舶10によれば以下のような作用・効果を奏する。
【0027】
船舶10の航行時には、電動モータ14が発電機13から供給される交流電力によって回転駆動するとともに、電動モータ14の回転駆動力がポンプ15へと伝達される。ポンプ15の羽根車が回転すると、取入口19から流体通路21に流れ込む流体(図1の矢印A)は、ポンプ15内で加圧されて吹出口20へと送出される。そして、ポンプ15から流体通路21を流れて吹出口20へと送出されてきた流体は、図1の矢印Cで示すように、吹出口20から船体11の船尾方向へと排出される。
【0028】
したがって、船底部30からトンネル状の船底凹部40に向かう流体の流れ(図1の矢印B)は、吹出口20から船体11の船尾方向に排出される流れ(図1の矢印C)によって、剥離することなく船体11の船尾方向に向けられるので、船舶10の船尾部における低圧部の発生を抑制することができるとともに、船体抵抗も低減することができる。当然ながら、船体抵抗が低減されることで、船舶10航行時の低燃費化を図ることができる。
【0029】
また、吹出口20は、図1に示すように、天井面41の船首側前端に位置するように設けられているので、ポンプ15から吹出口20へと送出されてきた流体は、吹出口20からトンネル状の船底凹部40の立ち上がり部近傍に排出される。
【0030】
したがって、船底部30からトンネル状の船底凹部40に向かう流体の流れ(図1の矢印B)の剥離を、トンネル状の船底凹部40の立ち上がり部近傍で効果的に抑止することができるので、低圧部の発生を確実に抑制し、船体抵抗も効果的に低減することができる。
【0031】
また、吹出口20の開口面積は取入口19の開口面積よりも小さく形成され、流体通路21は、取入口19から吹出口20に向かい狭くなるように形成されているので、ポンプ15で加圧され送出される流体は、吹出口20に至る流体通路21でも更に加圧されて、吹出口20から勢いよく排出される。
【0032】
したがって、船底部30からトンネル状の船底凹部40に向かう流体の流れ(図1の矢印B)の剥離を、吹出口20から勢いよく排出される流体の流れ(図1の矢印C)によって確実に防止することができるとともに、船体抵抗も確実に低減することができる。当然ながら、船体抵抗が確実に低減されることで、船舶10航行時の低燃費化を促進することができる。
【0033】
また、ポンプ15から吹出口20へと送出される流体送出量Qは、船舶10の航行速度Vが高くなるにつれて増加される。
【0034】
したがって、船舶10の航行時には航行速度Vに応じた適切な流体送出量Qが吹出口20から排出され、かつ、船舶10の停止時には電動モータ14やポンプ15の無駄な駆動が省略されるので、船体抵抗を確実に低減しつつ、船舶10の低燃費化をより効果的に促進することができる。
【0035】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0036】
例えば、上述の実施形態において、吹出口20は、船底凹部40の天井面41の船首側前端部に位置するものとして説明したが、この吹出口20の位置を、天井面41の船首側と船尾側との中間位置に設けてもよい。この場合も、低圧部の発生を抑制することができるとともに、船体抵抗を低減することができる。
【0037】
また、上述の実施形態において、取入口19や吹出口20は開口面を長方形に形成されるものとして説明したが、例えば、この開口面を円形や楕円形に形成してもよい。この場合も、上述の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。また、吹出口20の内部に流れの方向を変える仕切り板を設けてもよい。
【0038】
また、複数の吹出口20を船舷方向に設け、この複数の吹出口20にそれぞれ対応するように同数のポンプ15を設けるように構成することもできる。
【0039】
また、上述の実施形態において、電動モータ14は、発電機13から供給される交流電力で回転駆動するものとして説明したが、例えば、船体11に設けられた図示しない蓄電器に充電された直流電力を、インバータによって交流電力に変換して供給されるように構成することもできる。この場合も、上述の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0040】
また、本発明の船舶10は、一対のスケグ部18a,18bを有するツインスケグ船に限られず、例えば3つ以上の複数のスケグ部を有する船舶にも適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
10 船舶
15 ポンプ(流体送出手段)
16a,16b プロペラシャフト(プロペラ軸)
18a,18b スケグ部
19 取入口(流入口)
20 吹出口(排出口)
21 流体通路(流路)
30 船底部(スケグ部よりも船首側に臨む船底部)
41 天井面(スケグ部間の船底部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船尾部に船舷方向に間隔を隔てて設けられ、プロペラ軸をそれぞれ支持する複数のスケグ部を有する船舶であって、
前記スケグ部よりも船首側に臨む船底部に設けられた流入口と、
前記スケグ部間の船底部に設けられた排出口と、
前記流入口と前記排出口とを連通する流路と、
前記流路に設けられ、前記流入口から前記流路に流れ込む流体を前記排出口に向けて送出する流体送出手段と、を備えた
ことを特徴とする船舶。
【請求項2】
前記排出口は、前記スケグ部間の船底部船首側の、流体の剥離が起こる領域に面して設けられた
ことを特徴とする請求項1記載の船舶。
【請求項3】
前記排出口の開口面積は、前記流入口の開口面積よりも大きく形成され、
前記流路は、前記流入口から前記排出口に向かって狭くなるように形成された
ことを特徴とする請求項1又は2記載の船舶。
【請求項4】
前記流体送出手段は、船舶の航行速度が高くなるにつれて、前記流体の送出量を増加する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−251633(P2011−251633A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127029(P2010−127029)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)