説明

船舶

【課題】複雑化しない定期客船又はフェリー型の大型船舶の船楼の構造を提供する。
【解決手段】船殻20及びその上方甲板21によって境界付けられる主構造2を含み、上方甲板の上には、少なくとも1つの船楼3が隆起する定期客船1のような客船に関し、客船は、少なくとも1つのアーチ4を含み、アーチは、概ね船首から船尾に位置し、少なくとも部分的に主構造2に亘って延在し、その両端部41は、主構造2に堅固に接合されるので、アーチ4はその撓みに関連付けられる荷重の少なくとも一部を支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は船舶に関し、例えば、定期客船又はフェリーのような客船に関する。
【背景技術】
【0002】
そのような船舶は、船殻及びその上方甲板(又は乾弦甲板)によって境界付けられる主構造を含み、上方甲板の上には、少なくとも1つの船楼が隆起し、船楼は、具体的には、甲板と長手方向及び横方向の隔壁(バルクヘッド)とで構成される。
【0003】
これらの船舶の船楼は、うねりを通る航行中の船舶の撓みによって生成される荷重に晒され、荷重は、放物線状の曲げモーメント分布及び剪断荷重によって表される。
【0004】
定期客船又はフェリー型の大型船舶の上で、これらの船楼の構造の種類は、船舶の全体強度に寄与する船楼を含む。結果的に、船楼は「船殻梁」(“hull girder”)の強度計算のために考慮に入れられ、それは船舶の構造が晒される一連の荷重を表す梁系統図(“girder schematic”)である。
【0005】
しかしながら、これらの船楼は、現時点では、プレーティング(“plating”)と呼ばれる境界隔壁及び/又は内部隔壁によって並びにスタンション(stanchion)によって相互接続される甲板によって構成されている。
【0006】
選択される構造の種類に依存して、これらの内部隔壁、具体的には、船舶の長手方向に向けられる内部隔壁は、及び、これらのプレーティングは、船舶の構造を複雑化し、それらの数は高い。これは船楼自体の複雑性のみならず、構造的な連続性を保証することを目的とする主構造の複雑性をも含み、船楼の総重量を付随的に増大し、且つ/或いは、客室及び他の乗客居住空間の良好な自然の照明を可能にしない。
【0007】
具体的には、これらの船舶の内部部分において、特定の空間は、内部部分が如何なる外部照明の利益も得ないという意味において、「目に見えない」(“blind”)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、これらの問題点を解決することを目的とする。
【0009】
換言すれば、本発明は、以下の目的のために、その全体的な構造の強度が現時点で既知の船舶と同程度であり、荷重一式を支持しながらも、甲板、内部隔壁、及び/又は、船楼のプレーティングの一部の排除を可能にする船舶を提案する、という目的を有する。
− 船舶の構造を単純化し、それによって、その構造のコストを削減する。
− 船楼の重量を軽量化し、それによって、その推進のために要求されるエネルギ消費を削減し、且つ、その重心を低くすることによって船楼をより安定化する。
− 非構造的隔壁を用いて空間の配置を容易化する。
− 空間の照明を向上する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
よって、本発明は、隔壁及びその上方甲板(又は乾弦甲板)によって境界付けられる主構造を含み、上方甲板の上には、少なくとも1つの船楼が隆起する定期客船のような船舶に関し、船舶は、少なくとも1つのアーチを含み、アーチは概ね船首から船尾まで位置し、少なくとも部分的に主構造に亘って延在し、その両端部が主構造に堅固に接合されることで、アーチはその撓みに関連付けられる荷重を少なくとも部分的に支持するという事実によって特徴付けられる。
【0011】
換言すれば、アーチは船尾に向かって開始し、船首の方向において延在する。
【0012】
よって、船舶がうねりの上にあるとき(この場合、船舶の中央部がうねりの山の上にあるとき、アーチは緊張状態にあり、船舶の2つの端部がうねりの山の上にあるとき、アーチは圧縮状態にある)、アーチは船舶の撓み(変形)を制限することを目的とする。よって、これは船舶の屈曲を制限することを可能にし、それは船舶の等級において重要な基準を構成する。
【0013】
本願において、「撓み」(deflection)という用語は、「変形」(deformation)を意味する。
【0014】
好ましくは、船楼が、特に甲板と構造的な横方向の隔壁とから成る組立体で構成されるとき、船楼の甲板の少なくとも一部は、このアーチに固定される。
【0015】
その場合、アーチは、船舶の船楼が晒される荷重の大きな部分も支持する。
【0016】
よって、船楼の構造において、生成される剪断荷重に特に抗するために、甲板の相対的な滑りを回避又は制限し、よって、最新技術に従った船舶の全体強度に寄与するのに通常必要な幾つかのプレーティング及び/又は特定の長手方向の構造的な隔壁を排除することを可能にする。
【0017】
これは、既に上述したように、以下のことを可能にする。
− 船舶の構造を単純化し、それによって、その構造のコストを削減すること。
− 船楼の重量を軽量化し、それによって、その推進のために要求されるエネルギ消費を削減し、且つ、その重心を低くすることによって船楼をより安定化すること。
− 非構造的隔壁を用いて空間の配置を容易化し、より大きな寸法を備える空間を取得すること。
− 空間の照明を向上すること。
【0018】
他の有利な特徴によれば、
− アーチは船舶の長手軸と平行に垂直に立つ。
− アーチは不連続性を示す。即ち、アーチは、その中央ゾーンにおいて中断を有するので、アーチは2つの湾曲した枝部で構成され、2つの湾曲した枝部の間には空間がある。
− 船舶は、その中央長手軸の両側に、対称的に配置され或いは対称的には配置されない、2つのアーチを有する。
− アーチは、船殻プレーティングに直ぐ近接して延在する。
− アーチの両端部を隔てる距離は、船舶の長さと実質的に等しい。
− アーチは、スタンション又は任意の均等な構造的手段によって支持され、任意の均等な構造的手段は、スタンションと同様に、船舶内部に自然光をもたらすよう、船楼に対する周囲に大きな開口をもたらすことを可能にする。
− アーチは、中空なストラット(strut)の組立体で構成されるのが好ましい。
− アーチは、メッシュで構成される。
− アーチは、金属、例えば、炭素繊維に基づく、複合材料、又は、異なる材料の組み合わせから成る。
− 横方向の構造的な隔壁の少なくとも一部は、アーチに接合される。
− アーチは、少なくとも1つの支柱と関連付けられ、支柱の上方端部はアーチに接合されるのに対し、支柱の底部は主構造に堅固に接合される。
【0019】
本発明の他の特徴及び利点は、特定の好適実施態様の詳細な記載を判読した後、明らかになるであろう。
【0020】
この記載は添付の図面を参照して行われる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に従った船舶を概略的に示す斜視図である。
【図2】図1の船舶を示す側面図である。
【図3】この船舶の実施の変形を示す側面図である。
【図4】前述の船舶に備わるアーチの構造的素子を示す斜視図である。
【図5】そのような素子の変形を示す斜視図である。
【図6】本発明の他の実施態様を概略的に示す斜視図である。
【図7】図6の船舶を示す側面図である。
【図8】本発明に従った船舶の他の2つの素子を簡略に示す正面図である。
【図9】本発明に従った船舶の他の2つの素子を簡略に示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図示される定期客船から成る客船は、それ自体概ね既知の構造を有する。
【0023】
そのため、客船は、船殻20とその上方甲板21とによって境界付けられる主構造2を含む。
【0024】
そのような主構造2は、従来的に船舶に備わる既知の設備を全て含み、この主構造2は、船舶の長手方向及び横方向において、甲板及び垂直な隔壁(バルクヘッド)によって境界付けられる異なる区画に細分される。
【0025】
「長手方向」及び「横方向」という用語は、X−X’で示される船舶の長手軸を参照して定められ、この長手軸は、船舶の移動の方向に対応する。
【0026】
主構造2の上には、船楼3が建ち、船楼3は、同様に既知であるように、横方向の構造的な隔壁31とスタンションとの組立体から成る。
【0027】
これらは事前に一体に組み立てられる金属製の甲板及び隔壁であり、それらは船舶の使用に必要な全ての操作及び収容設備を後に受け入れる。
【0028】
本発明の実施態様に従えば、この船舶は、長手軸X−X’と平行に垂直に立つ、少なくとも1つのアーチ4を含むという特別な機能を有する。
【0029】
ここに提示される場合において、これらのアーチ(又は弧)の数は2個であり、中心軸X−X’の両側に対称的に配置される。アーチは船殻20のプレーティングの近隣に、即ち、船殻20のプレーティングに直ぐ近接して延在する。
【0030】
図示されない異なる実施態様において、アーチの数及び/又はアーチの配置は、他の数及び/又は配置であってもよい。よって、船舶が単一のアーチを備える場合、アーチは、長手軸X−X’に沿う中心位置において延在する。
【0031】
前記アーチは、少なくとも部分的に船舶の主構造2に亘って延在し、その両端部41は、この主構造2に堅固に接合される。主構造2は、必ずしも船舶の船尾及び船首に達する必要はない。
【0032】
本発明に従えば、図2に部分的に示されるように、船楼3における前述の甲板30の少なくとも一部は、このアーチに固定される。
【0033】
有利には、船楼3の隔壁31(この場合には、横方向の構造隔壁)の少なくとも一部は、図2に部分的に示されるように、このアーチに固定される。
【0034】
この構成は、「陸」(land)の半トラフ(semi-trough)アーチ橋の構成に幾分関連し、問題の橋の甲板は、ここでは、船楼の甲板の各々で構成される。
【0035】
この構成の故に、船楼の隔壁及び甲板によって生成される荷重は、うねりを通じる船舶の通行中、又は、その横揺れ(roll)の故に、アーチ4によって支持され、それらの両端部41に分配される。
【0036】
もちろん、これらの両端部41は、主構造2に効果的に、剛的に接合されなければならない。即ち、両端部の寸法及び形状は、両端部が前記荷重を主構造に移転することを可能にする寸法及び形状でなければならない。
【0037】
よって、アーチが金属材料から成るとき、これらの両端部41は、例えば、アーク溶接によって、主構造2に接合される。
【0038】
図3を参照すると、本発明に従った船舶の実施の変形が示しており、図示されるアーチ4は、不連続性、即ち、その中央ゾーンでの中断を示す。ここで、アーチ4は2つの湾曲した枝部42で構成され、互いの延長部において、枝部の間には空間がある。
【0039】
実際には、アーチの上方部分は、極めて僅かの荷重に晒されるので、省略することが可能である。
【0040】
この構造が十分に効果的であるためには、アーチが可能な最大の長手方向の広がりを有することが必要である。従って、このアーチの両端部41を隔てる距離は、船舶の長さと実質的に等しいのが好ましい。
【0041】
プレーティングが存在しない場合、アーチがスタンション又は均等な構造的手段によって支持されることで、船舶の内部に自然光をもたらすよう、船楼の(普通はプレーティングによって占められる)この領域内に大きな開口をもたらすことを可能にすることが絶対的に必要である。
【0042】
上述のように、アーチ4は金属製であるのが好ましい。
【0043】
そのような場合、アーチを構築するに際しては、任意の既知の手段によって一体に組み立てられる、図4に示されるようなメッシュの形態の素子又はモジュールを使用することが好ましい。
【0044】
これらのメッシュ素子は、概ね平行四辺形の形状を有するが、僅かに湾曲した壁を備え、一体に溶接された金属製チューブ50の組立体で構成される。
【0045】
もちろん、それらの異なる表面を塗膜で塗工することが可能である。
【0046】
もちろん、金属以外の他の種類の材料を使用し得る。
【0047】
具体的には、任意の種類の複合材料、特に、炭素繊維に基づく複合材料を考え得る。
【0048】
そのような場合には、図5に示されるように、構造を明るくするために、対応する素子6は、長手孔60を有するのが好ましい。
【0049】
船舶自体の構造によって生成される荷重を支持するこれらのアーチの存在の故に、特に船楼の構造において、船舶の総強度に特に必要な、甲板、長手方向の構造隔壁、及び/又は、プレーティングの全部又は一部を排除することが可能である。
【0050】
長手方向の隔壁及び/又はプレーティングの全部又は一部を排除することによって、より大きな寸法を備える空間を得ることができ、且つ/或いは、特定の場合には、船舶内部の照明を向上し得る。
【0051】
図6及び7に示される実施態様において、我々は従前に記載した船舶構造と実質的に同じ船舶構造に取り組んでいる。
【0052】
しかしながら、構造を強化し且つ如何なる望ましくない撓みをも回避するために、各アーチ4は、一対の支柱5と関連付けられる。これらの支柱5は、船舶の関連する両端部の方向において僅かに斜めにされている。
【0053】
支柱5は、それらの上方端部で、関連するアーチ4に接合され、それらの基部で、主構造2に接合される。
【0054】
それらの機能は、アーチの如何なる撓みをも防止し、アーチによって支持される荷重の一部を支持することである。
【0055】
本質的に、これらの支柱5は、ステー(stay)として機能する。
【0056】
図8の簡略化された実施態様において、アーチ4は垂直に延びず、スロープ状に配置され、好ましくは、「ケーシング」6、換言すれば、金属構造の上に支持され、金属構造は、上方甲板21の上に延び、推進手段と煙を排出する煙突60又はアーチ構造に有用な垂直支持をもたらす任意の他の煙突構造との間の接続をもたらす。
【0057】
最後に、図9の実施態様において、船舶は、船首と比較して極めて広い船尾を有する。この仮想の場合には、アーチが船舶の長手軸と平行ではなく、互いに対して鋭角に延びることを想定し得る。
【符号の説明】
【0058】
1 定期客船 (passenger liner)
2 主構造 (main structure)
3 船楼 (superstructure)
4 アーチ (arch)
5 支柱 (pillar)
6 素子 (element)
6 ケーシング (casing)
20 船殻 (hull)
21 上方甲板 (upper deck)
30 甲板 (deck)
31 隔壁 (bulkheads)
41 両端部 (opposite ends)
42 枝部 (branches)
50 金属製チューブ (metal tubes)
60 長手孔 (longitudinal hole)
60 煙突 (chimneys)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船殻とその上方甲板(又は乾弦甲板)とによって境界付けられる主構造を含み、前記上方甲板の上には、少なくとも1つの船楼が建つ、定期客船のような船舶であって、
当該船舶は、少なくとも1つのアーチを含み、該アーチは、概ね船首から船尾に位置し、少なくとも部分的に前記主構造に亘って延在し、その両端部は、前記主構造に堅固に接合されることで、前記アーチは、その撓みに関連付けられる荷重の少なくとも一部を支持することを特徴とする、
船舶。
【請求項2】
前記アーチは、当該船舶の長手軸と平行に垂直に立つことを特徴とする、請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
前記船楼は、特に甲板と横方向隔壁とで構成され、前記船楼の前記甲板の少なくとも一部は、前記アーチに接合されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の船舶。
【請求項4】
前記アーチは、不連続性を示し、該不連続性は、その中央ゾーンにおける中断であり、よって、前記アーチは、2つの湾曲した枝部で構成され、該2つの湾曲した枝部の間には空間があることを特徴とする、請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の船舶。
【請求項5】
当該船舶の中央長手軸の両側に対称的に配置される2つのアーチを有することを特徴とする、請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の船舶。
【請求項6】
前記アーチは、前記船殻の前記プレーティングに直ぐ近接して延在することを特徴とする、請求項1乃至5のうちのいずれか1項に記載の船舶。
【請求項7】
前記アーチの前記両端部を隔てる距離は、当該船舶の長さと実質的に等しいことを特徴とする、請求項1乃至6のうちのいずれか1項に記載の船舶。
【請求項8】
前記アーチは、スタンション又は任意の均等な構造的手段によって支持され、該構造的手段は、当該船舶の内部に自然光をもたらすよう、スタンションと同様に、前記船楼に対する周囲に大きな開口をもたらすことを可能にすることを特徴とする、請求項1乃至7のうちのいずれか1項に記載の船舶。
【請求項9】
前記アーチは、好ましくは、中空なストラットの組立体で構成されることを特徴とする、請求項1乃至8のうちのいずれか1項に記載の船舶。
【請求項10】
前記アーチは、メッシュで構成されることを特徴とする、請求項1乃至7のうちのいずれか1項に記載の船舶。
【請求項11】
前記アーチは、金属、例えば、炭素繊維に基づく、複合材料、又は、異なる材料の組み合わせから成ることを特徴とする、請求項1乃至10のうちのいずれか1項に記載の船舶。
【請求項12】
前記横方向の構造的な隔壁の少なくとも一部は、前記アーチに接合されることを特徴とする、請求項1乃至11のうちのいずれか1項に記載の船舶。
【請求項13】
前記アーチは、少なくとも1つの支柱と関連付けられ、該支柱の上方端部は、前記アーチに接合されるのに対し、前記支柱の底部は、前記主構造に堅固に接合されることを特徴とする、請求項1乃至12のうちのいずれか1項に記載の船舶。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−229012(P2012−229012A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−89707(P2012−89707)
【出願日】平成24年4月10日(2012.4.10)
【出願人】(510031464)エス テ イクス フランス ソシエテ アノニム (7)