説明

良好な延性、伸びフランジ性、材質均一性を有する高強度熱延鋼板およびその製造方法

【課題】高強度であって、延性および伸びフランジ性に優れるとともに、コイル内で強度のばらつきの小さい良好な材質均一性を有する熱延鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】C:0.020〜0.065%、Si:0.1%以下、Mn:0.40〜0.80%未満、P:0.030%以下、S:0.005%以下、Ti:0.08〜0.16%、Al:0.005〜0.1%、N:0.005%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつTi(=Ti−(48/14)×N)が「Ti≧0.08」および「0.300≦C/Ti≦0.375」を満たす鋼成分を有するスラブを熱間圧延して、鋼組織が面積率で95%以上のフェライト相、フェライトの平均フェライト粒径が10μm以下であり、鋼中に析出したTi炭化物の平均粒子径が10nm以下であって、かつTiの80%以上のTiがTi炭化物として析出させた熱延鋼板とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラックフレームなどの大型車両自動車の骨格部材などの使途に有用な、高強度熱延鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保全の観点からCOの排出量を規制するため自動車の燃費改善が急務であり、使用部材の薄肉化による軽量化が要求されているが、薄肉化により衝突特性が低下する。衝突時の乗員の安全を確保するため安全性向上も要求されていることから、薄肉化には使用部材の高強度化が必須である。
【0003】
鋼板を素材とする自動車部品の多くは、プレス成形によって製造される。一般に、鋼板は高強度化によって延性や伸びフランジ性などが低下し、スプリングバックが大きくなることから、成形性や形状安定性が課題になっている。近年、スプリングバック量はCAE(Computer Assisted Engineering)によって精度良く予測可能となっている。材質ばらつきが大きい場合にはCAEによる予測の精度が低下するため、成形性に加えて強度ばらつきの小さい材質均一性に優れた高強度鋼板が求められている。
【0004】
現在、高強度と良好な成形性を両立する開発が活発に進められているが、例えば特許文献1は質量%でC:0.06〜0.15%、Si:1.2%以下、Mn:0.5〜1.6%、P:0.04%以下、S:0.005%以下、Al:0.05%以下、Ti:0.03〜0.20%、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、体積占有率で50〜90%がフェライト相で、かつ残部が実質的にベイナイト相であって、フェライト相とベイナイト相の体積占有率の合計が95%以上であり、フェライト相中にはTiを含む析出物が析出し、該析出物の平均直径が20nm以下である組織を有し、かつ鋼中のTi量の80%以上が析出している伸び特性、伸びフランジ特性および引張疲労特性に優れたTSが780MPa以上の高強度熱延鋼板が開示されている。
【0005】
また、特許文献2は質量%でC:0.015〜0.06%、Si:0.5%未満、Mn:0.1〜2.5%、P:0.10%以下、S:0.01%以下、Al:0.005〜0.3%、N:0.01%以下、Ti:0.01〜0.30%、B:2〜50ppmを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、0.75<(C%/12)/(Ti%/48)−N%/14−S%/32)<1.25および1.0<(Mn%+Bppm/10−Si%)の関係を満足し、フェライト相とベイニティックフェライト相の面積率の合計が90%以上、セメンタイトの面積率が5%以下であり、TSが690〜850MPa、λが40%以上である伸びフランジ成形性に優れた高強度熱延鋼板が開示されている。
【0006】
特許文献3には、質量%でC:0.1%以下、Mo:0.05〜0.6%、Ti:0.02〜0.10%を含有しフェライト組織を有する金属組織中に原子比にしてTi/Mo≧0.1を満たす範囲でTiおよびMoを含む炭化物が分散析出してなる材質均一性に優れたTSが610〜830MPaの高成形性高張力熱延鋼板が開示されている。
【0007】
さらに特許文献4には、質量%でC:0.05〜0.12%、Si:0.5%以下、Mn:0.8〜1.8%、P:0.030%以下、S:0.01%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下、Ti:0.030〜0.080%、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、ポリゴナルフェライト相の面積率が70%以上、かつサイズ20nm未満の析出物中に存在するTiの量が、式〔Ti*=[Ti]−(48/14)×[N]〕で計算されるTi*の値の50%以上であり、TSが540〜780MPaで強度ばらつきの小さい強度均一性に優れた高強度熱延鋼板が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の高強度熱延鋼板では、硬質なフェライトとベイナイト相を規定の体積分率で製造する必要があるが、変態挙動は鋼の化学成分に対して一定ではないため、フェライト変態を促進させる中間の空冷時の制御が難しい問題がある。特許文献2、3に記載の高強度熱延鋼板では伸びElが低く、必ずしも良好な伸びフランジ性、材質安定性を持つ鋼板が得られない問題がある。特許文献4に記載の高強度熱延鋼板はMnによる固溶強化によりTS590MPa以上を得ているが、固溶強化はTiによる析出強化よりも添加元素量に対する強化比が小さいためコスト性に劣る。また、Tiに対してC添加量が多いため、硬質なセメンタイト生成は不可避である。そのため、伸びフランジ性に劣る問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−9322号公報
【特許文献2】特開2007−302992号公報
【特許文献3】特開2002−322541号公報
【特許文献4】特開2009−185361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点を解決すべく、高強度であって、延性および伸びフランジ性に優れるとともに、コイル内で強度のばらつきの小さい良好な材質均一性を有する熱延鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的の高強度熱延鋼板について検討を重ねた結果、以下の知見を見いだした。
1)TiCの析出効率およびセメンタイト生成量の制御を目的とした成分組成の適正化
を図った上で、フェライト相の面積率が95%、フェライト粒径10μm以下を有
する鋼組織により引張強さ(TS)が590〜780MPa、全伸び(El)が2
8%以上、穴拡げ率(λ)が100%以上の熱延鋼板が得られる。
2)材質均一性の向上には、鋼板内のフェライト分率を一定としたうえでTiCの粗大
化の抑制が重要である。そのため、オーステナイトフォーマーであるMn含有量を
抑えた条件である0.4〜0.8%とすることにより短時間でフェライト変態を完
了させることが可能となるうえ、製造コストを抑えることができる。TS590M
Pa以上を達成するためにTiは0.08〜0.16%の含有が必要となるが、析
出物構成元素であるTiの含有量が多い場合には析出物が粗大化しやすい問題があ
る。この問題に対しては、フェライト変態中に析出物を得た後、低温で巻き取るこ
とが重要である。具体的には巻取温度は560℃以下である必要がある。
【0012】
本発明は、このような知見に基づいており、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
[1]質量%で、
C:0.020〜0.065%
Si:0.1%以下
Mn:0.40〜0.80%未満
P:0.030%以下
S:0.005%以下
Ti:0.08〜0.20%
Al:0.005〜0.1%
N:0.005%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるとともに、下記の式(1)
で規定されるTiが下記の式(2)式および式(3)を満たす鋼成分を有し、
鋼組織が面積率で95%以上のフェライト相と残部がパーライト相、ベイナイト
相およびマルテンサイト相のいずれか1種以上の相であって、フェライトの平均
フェライト粒径が10μm以下であり、鋼中に析出したTi炭化物の平均粒子径
が10nm以下であって、かつTiの80%以上のTiがTi炭化物として析
出していることを特徴とする延性、伸びフランジ性および材質均一性に優れる高
強度熱延鋼板。
Ti=Ti−(48/14)×N・・・(1)
Ti≧0.08 ・・・(2)
0.300≦C/Ti≦0.375・・・(3)
ここで、式中のTi、N、Cは各元素の含有量(質量%)を示す。
[2][1]に記載の鋼成分を有する鋼スラブを1200〜1300℃の範囲で加熱
後、900℃以上の仕上温度で熱間圧延を行い、該熱間圧延後2秒以内に30℃
/s以上の冷却速度で冷却を開始し、650〜750℃の温度で冷却を停止し、
引き続いて5〜20秒の放冷工程を経たのちに、30℃/s以上の冷却速度で冷
却し、560℃以下でコイル状に巻き取ることを特徴とする高強度熱延鋼板の製
造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、高強度であって、延性および伸びフランジ性に優れるとともに、鋼板内で強度のばらつきの小さい良好な材質均一性を有する熱延鋼板として、引張強さ(TS)が590〜780MPa以上、全伸び(El)が28%以上、穴広げ値(λ)が100%以上で、かつTSのばらつきΔTSが15MPa以下となる高強度熱延鋼板が製造可能となった。本発明の高強度熱延鋼板は、乗用車のピラーやメンバー、トラックのフレームなどの構造部材に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の詳細を説明する。なお、元素の含有量を表す単位はいずれも質量%であり、以下、単に「%」で示す。
【0015】
1)鋼成分
本発明における鋼成分(化学成分)を限定した理由について説明する。
・C:0.020〜0.065%
Cは、フェライト相中に微細なTi炭化物を形成して高強度化に寄与する元素である。TSが590MPa以上の熱延鋼板を得るにはC量は0.020%以上の含有が必要となる。一方、C量が0.065%を超えるとElやλが低下するのみならず、フェライト変態の進行速度が緩慢となり材質均一性低下の原因となる。したがって、C量は0.020〜0.065%とする。好ましくはC量は0.020%以上0.055%以下、より好ましくは0.050%以下とする。
【0016】
・Si:0.1%以下
Si量が0.1%を超えるとAr点が上昇し過ぎるため、フェライト相の微細かつ整粒組織を得ることが困難となる。さらにはSi量が増加すると靭性や耐疲労特性の劣化につながるため、Si量は0.1%以下、好ましくは0.05%以下とする。
【0017】
・Mn:0.40〜0.80%未満
Mnは、高強度化、フェライト粒の微細化に有効である。TSが590MPa以上かつフェライト粒径が10μm以下の熱延鋼板を得るにはMn量は0.40%以上とする必要がある。一方、Mn量が0.80%以上であると、フェライト変態の進行が緩慢となり材質均一性の低下を招く。したがって、Mn量は0.40〜0.80%未満とする。
【0018】
・P:0.030%以下
P量が0.03%を超えると粒界への偏析が顕著になり、靭性や溶接性の低下を招く。したがって、P量は0.03%以下とするが、極力低減することが望ましい。
・S:0.005%以下
SはMnやTiと硫化物を形成し、伸びフランジ性を低下させる。したがって、S量は0.005%以下とするが、極力低減することが好ましい。
【0019】
・Al:0.005〜0.1%
Alは、脱酸元素として活用され、鋼清浄度を向上させるために有効な元素である。このような効果を得るにはAl量は0.005%以上にする必要がある。一方、Al量が0.1%を超えると表面欠陥が生じやすくなるとともに、コスト増を招く。したがって、Al量は0.005〜0.1%とする。
【0020】
・N:0.005%以下
NはTiとの親和力が強い元素であり、強化に寄与しないTi窒化物を形成する。そのため、N量が0.005%を超えると強化に寄与するTi炭化物量を確保するために多量のTi量が必要となり、コスト増を招く。したがって、0.005%以下とするが、極力低減することが望ましい。
【0021】
・Ti:0.08〜0.20%
Tiは、本発明における重要な元素であり、熱間圧延後の一次冷却に引き続く放冷(空冷)時にフェライト相中に粒径が10nm未満の微細なTiCやTiなどの炭化物として析出し、高強度化に寄与する。TSが590MPa以上を達成するには少なくともTi量が0.08%以上である必要がある。一方、Ti量が0.20%を超えると熱間圧延時に先立つスラブ加熱時に粗大なTi炭化物を溶解することが困難となり、熱間圧延後に強化に寄与する微細なTi炭化物が得られなくなる。また、スラブ加熱時の粗大なTi炭化物の不均一な溶解を引き起こし、鋼板内におけるTSの均一化を阻害する。したがって、Ti量は0.08〜0.20%とし、望ましくは0.08〜0.16%、より望ましくは0.08〜0.13%である。
残部はFeおよび不可避的不純物である。
【0022】
・式(1)〜(3)について
後記するように、λが100%以上の熱延鋼板を得るには析出するセメンタイト量の制御が必要となる。そのために本発明ではTiがCと結合してTiCやTiなどのTi炭化物を生成することを利用する。
したがって、Ti炭化物を形成できるTi量を確保する必要があり、下記の式(1)で定義されるTiが下記の式(2)を満たす必要がある。
Ti=Ti−(48/14)×N・・・(1)
Ti≧0.08 ・・・(2)
TiはTi炭化物を形成できるTi量を表している。
良好な伸びフランジ性を得るにはセメンタイト量を制御する必要がある。本発明鋼ではTi炭化物を形成しない余剰C量がセメンタイト生成量となる。セメンタイト生成量が多くなると伸びフランジ性は低下する傾向を示し、λ100%以上を得るには(C/Ti)の値を0.375以下にする必要がある。また、この値が0.300未満であると微細なTi炭化物生成量が不足し、所定の強度(TS590MPa以上)が得られない。
すなわち(C/Ti)が下記の式(3)を満たさなければならない。
0.300≦(C/Ti)≦0.375 ・・・(3)
なお、式(1)〜(3)におけるTi、N、Cは各元素の含有量(質量%)を示す。
【0023】
2)鋼組織
次に、本発明の鋼組織について説明する。
TSが590〜780MPa、Elが28%以上、λが100%以上を達成するには、硬質なフェライト相を主体とした鋼組織にすることが肝要である。これは、延性に富むフェライト相に、フェライト変態進行中にTi炭化物を析出させることで高強度かつ高延性を有する鋼板が得られる。伸びフランジ性に悪影響をおよぼすセメンタイトの析出を抑制するため含有するCは微細なTi炭化物として固定する必要がある。セメンタイトは非常に硬質であるため、打抜加工時および伸びフランジ成形時にボイドの基点となる。生成したボイドは成長、連結することによって破壊に至るが、フェライト相の面積率が95%以上の鋼組織を有する鋼板ではセメンタイト同士の粒子間隔は十分広いため、セメンタイトが含まれていたとしても、ボイド連結の進行を鈍化でき、フェライト面積率95%未満の場合と比べて、伸びフランジ性は良好である。さらには、フェライト相の面積率が95%以上であればElが28%以上を達成することが可能となる。
【0024】
なお、第二相は、フェライト相の面積率が95%以上であれば、マルテンサイト相、ベイナイト相、パーライト相のいずれか1種以上の相を含んでも、本発明の効果が損なわれることはない。
【0025】
高強度であって、かつ材質の均一な鋼板を得るには、フェライト相の面積率を95%以上の条件を満足したうえで、フェライト粒径およびTi炭化物を微細かつ均一なサイズにする必要がある。さらにTi炭化物は可能な限り多く得る必要がある。具体的には平均フェライト粒径が10μm以下、Ti炭化物の平均粒子径が10nm以下、かつTi(Ti炭化物を形成できるTi量)の80%以上のTiがTi炭化物として析出していればTSが590MPa以上、ΔTSが15MPa以下を達成することが可能となる。
【0026】
3)製造条件
本発明の製造条件について説明する。
・スラブの加熱温度:1200〜1300℃
熱間圧延後フェライト相中に微細なTi炭化物を析出させるには熱間圧延前にスラブ中に析出している粗大なTi炭化物を溶解させる必要がある。そのためにはスラブを1200℃以上で加熱する必要がある。一方、1300℃を超える加熱はスケールの生成が増大し、歩留まりの低下を招く。したがって、スラブの加熱温度は1200〜1300℃とする。
【0027】
・熱間圧延の仕上温度:900℃以上
オーステナイトフォーマーであるMn含有量が少ないため、Ar点が比較的高い。具体的には仕上温度が900℃を下回るとフェライト粒の粗大化や異常組織の原因となり、強度および材質均一性の低下を招く。そのため、仕上温度は900℃以上とする。
【0028】
・熱間圧延後の冷却開始時間:2秒以内
・熱間圧延後の一次冷却時の平均冷却速度:30℃/s以上
熱間圧延後、一次冷却開始までの時間が2秒を超えると粗大なフェライト粒や、粗大なTi炭化物が生成するため、強度や材質均一性が低下する。そのため、圧延後の冷却開始時間は2秒以内とする。同様の理由から、熱間圧延後の一次冷却時の平均冷却速度は30℃/s以上とする。
【0029】
・一次冷却の冷却停止温度:650〜750℃
一次冷却は650〜750℃の温度域で停止させて、引き続く放冷(空冷)時にフェライト変態と微細なTi炭化物形成を促進させる必要がある。冷却停止温度が650℃未満の場合、フェライトが十分に生成せず、95%以上の面積率を確保できなくなるとともに、Tiの80%以上のTiをTi炭化物として析出させることができなくなる。一方、冷却停止温度が750℃を超えると、フェライト粒やTi炭化物の粗大化を招き、フェライト粒径が10μm以下、Ti炭化物の平均粒子径10nm以下を達成することが困難となる。したがって、一次冷却停止温度は650〜750℃とする。
【0030】
・一次冷却後の空冷時間:5〜20秒間
空冷時間が5秒未満ではフェライト相が十分に生成せず、フェライト相の面積率が95%以上、Tiの80%以上のTiをTi炭化物として析出させることが困難となる。空冷時間が20秒間を超えるとフェライト粒やTi炭化物の粗大化を招き、フェライト粒径が10μm以下、Ti炭化物の平均粒子径10nm以下を達成することが困難となる。したがって、一次冷却後の空冷時間5〜20秒間とする。
【0031】
・二次冷却条件:平均冷却速度30℃/s以上
熱間圧延後の一次冷却および空冷工程の組み合わせで得られるフェライト粒径10μm以下、Ti炭化物の平均粒子径10nm以下を維持するために、空冷後巻き取りまでは30℃/s以上の平均冷却速度で二次冷却する必要がある。
【0032】
・巻取温度:560℃以下
本発明の製造方法では、巻き取り前に鋼板組織やTi炭化物の状態が決定し、その後巻取処理を行うこととなる。しかしながら巻取温度が560℃を超えるとTi炭化物が粗大化し強度が低下する。したがって、巻取温度は560℃以下とする。なお、良好な鋼板形状を確保するという観点からは、巻取温度を350℃以上とすることが好ましい。
【0033】
その他の製造条件には通常の条件を適用できる。例えば、所望の成分組成を有する鋼は転炉や電気炉などで溶製後、真空脱ガス炉にて二次精錬を行って製造される。その後の鋳造は生産性や品質上の点から連続鋳造法で行うことが望ましい。鋳造後は、本発明の方法にしたがって熱間圧延を行う。熱間圧延後は、表面にスケールが付着した状態であっても酸洗を行いスケールを除去した状態であっても、鋼板の特性が損なわれることはない。また熱間圧延後、調質圧延を行ったり、溶融亜鉛系めっき、電気亜鉛めっき、化成処理を行うことも可能である。ここで、亜鉛系めっきとは亜鉛および亜鉛を主体とした(亜鉛を90%以上含有する)めっきであり、亜鉛のほかにAl、Crなどの合金元素を含んだめっきや亜鉛系めっき後に合金化処理を行っためっきのことである。
【実施例】
【0034】
表1に示す化学成分(組成)を有する鋼A〜Hを転炉で溶製し、連続鋳造法でスラブとした。これら鋼スラブを1250℃に加熱し、表2に示す熱延条件で板厚3.2mmのコイル状の熱延鋼板No.1〜18を製造した。
なお、表1、表2における下線は、本発明の条件を外れることを示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
そして、酸洗後コイルの最内周と最外周の一巻き分とコイル幅方向の両端部10mmをトリミング後、コイル長手方向に20等分、幅方向に8等分に分割し、トリミング後のコイル端部を含めた189点の位置から圧延方向に平行にJIS5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241に準拠して、クロスヘッド速度10mm/minで引張試験を行い、平均の引張強さ(TS)と全伸び(El)、および材質均一性の尺度として、トリミング後のコイル内のTSのばらつき、すなわちTSの標準偏差ΔTSを求めた。
【0038】
また、189点の位置から穴広げ試験用試験片を採取し、鉄連規格JFST1001に準拠して穴広げ試験を行い、平均の穴拡げ率λを求めた。組織全体に占めるフェライト相や第二相の面積率は、189点の位置から走査型電子顕微鏡(SEM)用試験片を採取し、圧延方向に平行な板厚断面を研磨後、ナイタール腐食し、板厚中心部近傍で倍率1000倍のSEM写真を10視野観察し、フェライト相やマルテンサイト相等のフェライト相以外の相を画像処理により識別し、画像解析処理によりフェライト相やマルテンサイト相等のフェライト相以外の相の面積を測定し、観察視野の面積に占める割合(百分率)として求め、フェライト相の面積率は189点の最低値とした。
【0039】
フェライト平均粒径は上記SEM写真10視野分から切断法により求めた。すなわち、各SEM写真に、各3本の垂直、水平線を引き、フェライト粒切片長を求め、求めた粒切片長に1.13を乗じたもの(ASTM公称粒径に相当)を、フェライト粒径とし、10視野分を平均して、平均フェライト粒径とした。
なお、上記の方法により、上記の189点の位置で求めた平均フェライト粒径の最大値を、後述する表3に示した。Ti炭化物の平均粒子径は、コイル端部も含めたコイル長手方向に20等分した位置、コイル幅方向中央部の21点の板厚中央部からツインジェット法により薄膜を採取し透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察を行い、3000個以上のTi炭化物の粒子径を画像解析により計測し、その平均値とした。Ti炭化物の析出物量はTEM観察を行った採取位置21点について、10%AA系電解液(10vol%アセチルアセトン−1mass%塩化テトラメチルアンモニウム−メタノール)中で、約0.2gを電流密度20mA/cmで定電流電解し、Ti炭化物を抽出し、その抽出量を分析することにより求めた。
【0040】
結果を表3に示す。表中における下線は、本発明の条件を外れることを示す。
表3において、鋼板No.1〜3、11および13は発明例であり、鋼板No.4〜10、12、14〜18は比較例である。
なお、表3にはフェライト面積率を記載しているが、フェライト以外の相は、パーライトまたはベイナイト相であった。
【0041】
【表3】

【0042】
発明例のNo.1〜3、11および13は、いずれもTSが590〜780MPa、Elが28%以上、λが100%以上であり、高強度であり延性と伸びフランジ性に優れ、かつTSのばらつきΔTSが15MPa以下であり、コイル内で強度ばらつきが小さく、材質均一性に優れている。
【0043】
他方、比較例のNo.4は鋼種がAであり組成は本発明の範囲内であるが、圧延後の一次冷却時間の開始までの時間が3.0秒であり、2秒を超え製造条件が本発明外である。このため、フェライト粒径が11μmと粗大化しており、TSが586MPaと強度が低く、ΔTSが28MPaであり、材質均一性に劣る。
【0044】
比較例のNo.5は鋼種がAであり組成は本発明の範囲内であるが、圧延後の一次冷却時の平均冷却速度が20℃/sであり、30℃/sを下回り、製造条件が本発明外である。このため、No.4と同様に、フェライト粒径が12μmと粗大化しており、TSが565MPaと強度が低く、ΔTSが31MPaであり、材質均一性に劣る。
【0045】
比較例のNo.6は鋼種がAであり組成は本発明の範囲内であるが、圧延後の一次冷却の冷却停止温度が650℃未満の600℃であり、製造条件が本発明外である。このため、フェライト相が十分に生成せず、フェライト面積率が、76%と低く、Ti炭化物の析出量がTiの76%であり、80%に達しておらず、Elが26%、λが78%とやや低く、とりわけΔTSが35MPaであり、材質均一性に劣る。
【0046】
また、比較例のNo.7は鋼種がAであり組成は本発明の範囲内であるが、圧延後の一次冷却の冷却停止温度が800℃であり、750℃を超えており製造条件が本発明外である。このため、Ti炭化物の平均粒子径が12nmであり、10nmを超え、Ti炭化物の析出量がTiの64%であり、80%を下回っている。また、フェライト面積率も61%であり、85%を下回っている。このため、TSが532MPaと低く、ΔTSは47MPaに達し、強度と材質均一性に劣っている。そして、Elが27%、λが64%と延性と伸びフランジ性も劣っている。
【0047】
比較例のNo.8は鋼種がAであり組成は本発明の範囲内であるが、一次冷却後の空冷時間が25秒であり、20秒を超えており製造条件が本発明外である。このため、Ti炭化物は、平均粒子径が11nmであり粗大化している。このため、TSが578MPa、ΔTSが21MPaと強度と材質均一性にやや劣っている。
【0048】
比較例のNo.9は鋼種がAであり本発明の範囲内であるが、二次冷却の平均冷却速度が20℃であり、25℃未満であり、本発明の製造条件を外れている。このため、フェライト粒径が13μmであり粗大化している。このため、TSが574MPa、ΔTSが27MPaと強度と材質均一性にやや劣っている。
【0049】
比較例のNo.10は鋼種がAであり本発明の範囲内であるが、巻取温度が600℃であり、560℃を超えており本発明の製造条件を外れている。Ti炭化物の平均粒子径とフェライト粒径がそれぞれ10nm、10μmを超え粗大化している。このため、TSが564MPa、ΔTSが22MPaと強度と材質均一性にやや劣っている。
【0050】
発明例のNo.11と比較例の12は共に鋼種がBであり、組成は本発明の範囲内であるが、熱間圧延の仕上温度が発明例のNo.11では910℃であり本発明の製造条件を満たすのに対して、比較例のNo.12は880℃であり、本発明の製造条件を外れている。このため、比較例12は、フェライト粒径が11μmと粗大化しており、強度と材質均一性が劣る結果となっている。
【0051】
比較例のNo.14は鋼種がDであり、C量が0.019%、(C/Ti)値が0.187であり、組成が本発明の条件から外れている。このため、TSが549MPaであり、強度が低い。
比較例のNo.15は鋼種がEであり、C量が0.077%、(C/Ti)値が0.806であり、組成が本発明の条件から外れている。このため、λが67%であり、成形性に劣っている。
【0052】
比較例のNo.16は鋼種がFであり、Si量が0.56%であり、組成が本発明の条件(0.1%以下)を外れる。このため、フェライト粒径が11μmであり10μmを超え、ΔTSが25であり、材質均一性に劣っている。
【0053】
比較例No.17は、鋼種がGであり、Mn量が1.25%であり、組成が本発明の条件(0.80%未満)を外れる。また、Ti量に対するTi炭化物の析出量の割合も0.71と低く、本発明の条件を下回る。このため、フェライト面積率が低く、ΔTSが18MPaであり材質均一性が劣り、Elが26%、λが86%と延性と伸びフランジ性も劣っている。
【0054】
比較例No.18は、鋼種がHであり、Ti量が0.075%であり、組成が本発明の条件(0.08〜0.16%)を外れる。また、Tiは0.060であり、0.08を下回り、(C/Ti)も0.603と0.375を上回り、ともに本発明の条件を外れている。このため、TSが574MPaであり、強度が劣っている。
【0055】
以上のとおり、本発明では、TSが590〜780MPa、Elが28%以上、λが100%以上、かつΔTSが15MPa以下の熱延鋼板を得ることが可能であり、延性(伸び特性)や伸びフランジ性に優れ、かつ材質均一性に優れていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.020〜0.065%
Si:0.1%以下
Mn:0.40〜0.80%未満
P:0.030%以下
S:0.005%以下
Ti:0.08〜0.20%
Al:0.005〜0.1%
N:0.005%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるとともに、下記の式(1)で規定されるTiが下記の式(2)式および式(3)を満たす鋼成分を有し、鋼組織が面積率で95%以上のフェライト相と残部がパーライト相、ベイナイト相およびマルテンサイト相のいずれか1種以上の相であって、フェライトの平均フェライト粒径が10μm以下であり、鋼中に析出したTi炭化物の平均粒子径が10nm以下であって、かつTiの80%以上のTiがTi炭化物として析出していることを特徴とする延性、伸びフランジ性および材質均一性に優れる高強度熱延鋼板。
Ti=Ti−(48/14)×N・・・(1)
Ti≧0.08 ・・・(2)
0.300≦C/Ti≦0.375・・・(3)
ここで、式中のTi、N、Cは各元素の含有量(質量%)を示す。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼成分を有する鋼スラブを1200〜1300℃の範囲で加熱後、900℃以上の仕上温度で熱間圧延を行い、該熱間圧延後2秒以内に30℃/s以上の冷却速度で冷却を開始し、650〜750℃の温度で冷却を停止し、引き続いて5〜20秒の放冷工程を経たのちに、30℃/s以上の冷却速度で冷却し、560℃以下でコイル状に巻き取ることを特徴とする高強度熱延鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2012−172257(P2012−172257A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38952(P2011−38952)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】