説明

色変換膜及び該色変換膜を含む有機ELデバイス

【課題】従来型のバインダー樹脂方式のデバイスのように色変換膜の厚さを増大させることなく、優れた変換効率を実現する。
【解決手段】青緑色の発光を行う有機EL発光部からの光を吸収して、より長波長の可視光に変換し、該色変換膜は2種の色素からなり、第1色素は、色変換膜への入射光を吸収して、そのエネルギーを第2色素へと移動させる色素であり、第2色素は、第1色素から該エネルギーを受容して光を放射する色素であり、第1色素は、平均分子量が1000から1000000の高分子色素である色変換膜、およびこのような構成の色変換膜を含む有機ELデバイスを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は色変換膜に関する。より詳しくは、本発明の色変換膜は、優れた変換効率を発揮する色変換膜に関する。本発明は、該色変換膜を含む多色発光有機ELデバイスに関する。このような多色発光有機ELデバイスは、パーソナルコンピューター、ワードプロセッサー、テレビ、ファクシミリ、オーディオ、ビデオ、カーナビゲーション、電気卓上計算機、電話機、携帯端末機、及び産業用計測器等に適用される。
【背景技術】
【0002】
近年、有機ELデバイスの必須構成要素である有機EL素子については、実用化に向けた研究が活発に行われている。有機EL素子は、低電圧で高い電流密度が実現できるため、高い発光輝度及び発光効率を実現することが期待され、特に高精細なマルチカラー又はフルカラー表示が可能な有機多色ELデバイスへの実用化が期待されている。
【0003】
現在、フルカラー化の具体的な方式として、色変換膜とカラーフィルターとを組み合わせた色変換方式(CCM方式)が注目されている。
【0004】
CCM方式は、例えば有機EL層からの青又は青緑色の光を蛍光色素で吸収し、当該光をより長波長の緑色から赤色までの可視光に変換する方式である。当該方式は、赤(R)、緑(G)、及び青(B)の画素毎に有機EL層材料を設計するRGB塗分け方式、及び白色を発光する有機EL素子とカラーフィルターとを組み合わせた白色カラーフィルター方式よりも、色再現性の点で優れている。
【0005】
バインダー樹脂中に色素を分散させた色変換膜を用いた、従来のCCM方式では、青又は青緑色の発光から赤色の発光を得る際の変換効率はあまり高くなく、特に、赤色変換膜については改良の余地があった。
【0006】
色変換膜中の色変換物質濃度が高くなると、吸収したエネルギーが同一分子間で移動を繰り返すうちに発光を伴わずに失活する、濃度消光と呼ばれる現象が発生する。
【0007】
このため、濃度消光を抑制する手段として、バインダー樹脂中の色変換物質濃度を低下させることが考えられるが、吸収すべき光の吸光度が減少し、十分な変換光強度が得られないおそれがある。
【0008】
よって、濃度消光を抑制しつつ、十分な変換光強度を得る手段として、色変換膜を厚くして吸光度を高め、色変換の効率を維持することが行われている。
【0009】
しかしながら、このように厚い色変換膜(膜厚10μm程度)を用いた場合には、段差部で電極パターンが断線するとともに、高精細化が困難となるおそれがある。更に、上記厚膜の色変換膜を有機EL素子と組み合わせた場合には、色変換膜中に水分又は溶媒が残留し、有機EL層が変質して表示欠陥が発生するおそれもある。
【0010】
一方、色変換膜を厚くし過ぎると視野角依存性が低下するため、色変換膜はできるだけ薄くすることが要請される。
【0011】
このような状況下において、色変換膜及びその関連技術に関し、以下の技術が開示されている。
【0012】
特許文献1には、特定式で表される繰り返し単位を有するポリイミドを含有する蛍光材料が開示されており、具体的には、緑色発光ポリイミドと紫色発光ポリイミドとを含有する蛍光材料が開示されている。
【0013】
特許文献2には、第1色素及び第2色素を含む、2μm以下の膜厚を有する色変換膜であって:第1色素は色変換膜への入射光を吸収して、そのエネルギーを第2色素へと移動させる色素であり;第2色素は、第1色素から該エネルギーを受容して光を放射する色素であり;第1色素は、前記入射光を十分に吸収できる量で該色変換膜中に存在し;第2色素は、該色変換膜の総構成分子数を基準として10モル%以下の量で存在する、色変換膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008−056797
【特許文献2】特開2007−157550
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、2種のポリイミドの共重合比を変更して青色から緑色の範囲で蛍光発光波長を制御しているため、当該発光は個々のポリイミドの蛍光の単なる和に過ぎず、優れた変換効率が実現されているとはいえない。
【0016】
また、特許文献2に記載された技術では、ホスト色素とゲスト色素を含む色変換層を用い、ホスト色素を励起して、ゲスト色素へのエネルギー移動によりゲスト色素を発光させる方法により、膜厚2μm以下に薄膜化した色変換層が開示されている。この技術は、ホスト色素とゲスト色素は蒸着法で形成しているため、ウェットプロセスを用いることなく水分又は溶媒の問題は生じない。しかしながら、マスク蒸着によるパターニングを行うため、大面積ディスプレイへの適用には、更に改良の余地がある。
【0017】
従って、本発明の目的は、バインダー樹脂を用いずに薄膜化でき、大面積ディスプレイに適用可能であって、優れた変換効率を発揮することのできる色変換膜を提供することにある。また、本発明の目的は、このような色変換膜を含む多色発光有機ELデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、青緑色の発光を行う有機EL発光部からの光を吸収して、より長波長の可視光に変換し、該色変換膜は2種の色素からなり、第1色素は、色変換膜への入射光を吸収して、そのエネルギーを第2色素へと移動させる色素であり、第2色素は、第1色素から該エネルギーを受容して光を放射する色素であり、第1色素は、平均分子量が1000から1000000の高分子色素である、色変換膜に関する。本発明の色変換膜は、パーソナルコンピューター等に内蔵される多色発光有機ELデバイスの構成要素として利用することができる。
【0019】
このような色変換膜においては、第2色素を、平均分子量が1000から1000000の高分子色素、又は平均分子量が1000未満の低分子色素のいずれとすることもできる。
【0020】
また、第1色素を、発光コア同士が非共有性の連結基で結合されたオリゴマーとすることが望ましい。
【0021】
更に、第1色素の光吸収スペクトルの極大波長が400〜500nmであり、その蛍光スペクトルの極大波長が500〜550nmであることが望ましい。これに伴い、第2色素の光吸収スペクトルの極大波長が500〜550nmであり、その蛍光スペクトルの極大波長が550〜650nmであることが望ましい。
【0022】
加えて、第2色素が、色変換膜の総構成分子数を基準として10重量%以下の量で存在することが望ましい。
【0023】
以上に示す色変換膜は、塗布法によって形成することができる。
【0024】
次に、本発明は、上記のような色変換膜を含む多色発光有機ELデバイスを包含する。具体的には、本発明の多色発光有機ELデバイスは、基板の上に少なくとも一方が透明電極である一対の電極と、該一対の電極に挟持された有機EL層とからなる有機EL発光部と、透明支持体とカラーフィルターと色変換膜とからなる色変調部とを備え、該色変換膜は2種の色素からなり、第1色素は、色変換膜への入射光を吸収して、そのエネルギーを第2色素へと移動させる色素であり、第2色素は、第1色素から該エネルギーを受容して光を放射する色素であり、第1色素は、平均分子量が1000から1000000の高分子色素である、多色発光有機ELデバイスを包含する。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、平均分子量が1000から1000000である高分子色素をホスト材料として用いたホスト−ゲスト系の色変換膜、及び該色変膜を含むCCM方式の多色発光有機ELデバイスに関する。このような構成の多色発光有機ELデバイスによれば、従来型のバインダー樹脂方式のデバイスのように色変換膜の厚さを増大させることなく、優れた変換効率を実現できる。
【0026】
なお、該色変換膜は、200℃以上の高温でアニール処理が可能であるので、色変調部と有機EL発光部とを貼り合わせた後も水分及び/又は有機溶剤の残留がない。従って、本発明の色変換膜は、長寿命の大面積有機ELデバイスへ好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の多色発光有機ELディスプレイの一例を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示す多色発光有機ELディスプレイの構成要素である色変換膜の製造工程を順次示す模式図であり、(a)は基板の準備工程、(b)はブラックマトリクスの形成工程、(c)はカラーフィルターの形成工程、(d)はバンクの形成工程、そして(e)は色変換膜の形成工程をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<色変換膜及びその形成方法>
【0029】
[色変換膜]
本発明の色変換膜は、青緑色の発光を行う有機EL発光部からの光を吸収して、より長波長の可視光に変換し、2種の色素からなり、第1色素は、色変換膜への入射光を吸収して、そのエネルギーを第2色素へと移動させる色素であり、第2色素は、第1色素から該エネルギーを受容して光を放射する色素であり、第1色素は、平均分子量が1000から1000000の高分子色素である、色変換膜である。
【0030】
(第1色素)
第1色素は、色変換膜への入射光、即ち有機EL素子の発した青緑色の光を吸収し、吸収したエネルギーを第2色素に移動させる色素である。このため、第1色素の吸収スペクトルは有機EL素子の発光スペクトルと重複していることが好ましく、第1色素の吸収極大と有機EL素子の発光スペクトルの極大とが一致していることがより好ましい。例えば、第1色素の光吸収スペクトルの極大波長は、有機EL素子が青緑色の発光を行うことを考慮すれば、400〜500nmであることが好ましい。
【0031】
また、第1色素の発光スペクトルは第2色素の吸収スペクトルと重複していることが好ましく、第1色素の発光スペクトルの極大と第2色素の吸収極大とが一致していることがより好ましい。例えば、第1色素の蛍光スペクトルの極大波長は、上記の光吸収スペクトルの極大波長の好適範囲を考慮すれば、500〜550nmであることが好ましい。
【0032】
本発明において、第1色素は、平均分子量が1000から1000000の高分子色素である。このような高分子色素としては、ジメチルフェニルで終端したポリ[(9,9−ジオクチル−2,7−ジビニレン−フルオレニル)−Alt−Co−{2−メトキシ−5−(2−エチル−へキロキシ)−1,4−フェニレン}](吸収極大波長479nm、蛍光極大波長539nm)、及びジメチルフェニルで終端したポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−Co−1,4−ベンゾ−{2−1’−3}−チアジアゾール] (吸収極大波長450nm、蛍光極大波長535nm)などのフルオレンコポリマー色素が挙げられる。
【0033】
また、色変換膜の構成色素として、コア材料が連結基を介して複数連なった構造を有するオリゴマー材料を用いることができる。
【0034】
この場合には、当該色素を、蛍光発光するコア同士が非共有性の連結基で結合されたオリゴマーとすることができる。
【0035】
上記の発光コアは、可視域において蛍光発光性を有する化合物であることが好ましい。具体的な化合物としては、緑色から黄色の発光を実現するものとして、ペリレン誘導体、Alq(トリス8−キノリノラトアルミニウム錯体)などのアルミキレート系色素、3−(2−ベンゾチアゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン6)、3−(2−ベンゾイミダゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン7)、クマリン135などのクマリン系色素が挙げられる。或いはまた、ソルベントイエロー43、ソルベントイエロー44のようなナフタルイミド系色素などを用いることもできる。
【0036】
次に、非共有性の連結基とは、π電子を保有しない発光性コア同士を連結する基をいう。具体的な連結基としては、−O−、−S−、−SiR−、−CR−等(Rはいずれもアルキル基)が挙げられる。
【0037】
(第2色素)
前述のように、第1色素の発光スペクトルが第2色素の吸収スペクトルと重複していることが好ましく、第1色素の発光スペクトルの極大と第2色素の吸収スペクトルの極大とが一致していることがより好ましい。このため、第2色素が放射する光は、第1色素が吸収する光よりも長波長である。
【0038】
本発明において、第2色素は、平均分子量が1000から1000000の高分子色素とすることも、また、平均分子量が1000未満の低分子色素とすることもできる。
【0039】
具体的な高分子色素としては、ジメチルフェニルで終端したポリ[2−メトキシ−5−(3,7−ジメチル−オクチロキシ)−1,4−フェニレンビニレン]](吸収極大波長509nm、蛍光極大波長575nm)、籠状オリゴシルセスキオキサンで終端したポリ[2−メトキシ−5−(3,7−ジメチル−オクチロキシ)−1,4−フェニレンビニレン]](吸収極大波長509nm、蛍光極大波長575nm)、ジメチルフェニルで終端したポリ[2−5−ビス(3,7−ジメチル−オクチロキシ)−1,4−フェニレンビニレン]](吸収極大波長506nm、蛍光極大波長582nm)、ジメチルフェニルで終端したポリ[2−メトキシ−5−(2−エチルへキシル−オキシ)−1,4−フェニレンビニレン]](吸収極大波長490nm、蛍光極大波長585nm)、籠状オリゴシルセスキオキサンで終端したポリ[2−メトキシ−5−(2−エチルへキシル−オキシ)−1,4−フェニレンビニレン]](吸収極大波長490nm、蛍光極大波長585nm)などのフェニレンビニレンコポリマー色素が挙げられる。
【0040】
これに対し、具体的な低分子色素としては、ペリレン系色素、4−ジシアノメチレン−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM−1):下記(I)、DCM−2:下記(II)、及びDCJTB:下記(III)などのシアニン色素;4,4−ジフルオロ−1,3,5,7−テトラフェニル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン:下記(IV)、ルモゲンFレッド、ナイルレッド:下記(V)などが挙げられる。或いはまた、ローダミンB、ローダミン6Gなどのキサンテン系色素、又はピリジン1などのピリジン系色素を用いることもできる。
【0041】
【化1】

【0042】
本発明の色変換膜において光を発する色素は第2色素であるので、優れた変換効率を実現するためには、第2色素が濃度消光を起こさないことが条件となる。
【0043】
色変換膜中の第2色素濃度の上限は、濃度消光を起こさないことを条件として、第1色素及び第2色素の種類に依存して変化し得る。これに対し、色変換膜中の第2色素濃度の下限は、十分な変換光強度が得られることを条件として、第1色素及び第2色素の種類、或いは目的とする用途に依存して変化し得る。
【0044】
本発明の色変換膜中の第2色素の好適濃度は、10重量%以下である。第2色素をこのような範囲の濃度とすることで、濃度消光を防止することができると同時に、十分な変換光強度を得ることができる。
【0045】
[色変換膜の形成方法]
本発明の色変換膜は、例えば、透明支持体又はカラーフィルター上に第1色素及び第2色素を混合した液体を塗布することによって作製することができる。透明支持体としては、ガラス、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンスルホンなどの高分子材料を用いることができる。色変換膜に高分子材料を用いる場合には、透明支持体は剛直であっても可撓性であってもよい。透明支持体は可視光に対して80%以上の透過率を有することが好ましい。
【0046】
本発明の色変換膜は、各種の塗布法(インクジェット、ディスペンサーを含む)によって形成することができる。
【0047】
インクジェットで色変換膜を形成する場合には、上記第1色素及び第2色素を溶媒に溶かしたものを用いる。
【0048】
溶媒としては、トルエン、テトラヒドラフラン、クロロホルム、テトラリンなどを用いることができる。溶液の濃度は、いずれも、0.5〜5重量%とすることができる。0.5重量%以上とすることで、1回の塗布量が過小とならないようにすることができる一方、5重量%以下とすることで、吐出の際の目詰まりがおこらないようにすることができる。
【0049】
ディスペンサーで色変換膜を形成する場合には、インクジェットの場合と同じ条件を設定することが、吐出量及び目詰まりの観点で好ましい。
【0050】
塗布後には、乾燥処理を施すことが好ましく、乾燥条件は150〜200℃で30〜60分とすることができる。150℃以上とすることで、溶媒の蒸発を十分に行うことができる一方、200℃以下とすることで、色素の熱分解を防止することができる。また、20分以上とすることで、乾燥を十分に行うことができる一方、60分以下とすることで、膜の酸化を防止することができる。
【0051】
このように、塗布及び乾燥により得られる色変換膜の膜厚は、2000nm(2μm)以下することが、有機EL発光部からの光の吸収の観点で好ましく、100〜2000nmとすることが外部に蛍光を取り出す観点でより好ましく、200〜1000nmとすることが変換効率の観点で極めて好ましい。
【0052】
以上のように作製された本発明の色変換膜は、その大部分を構成する第1色素が入射光吸収の機能を有する。このため、上記のように薄い膜厚においても十分な吸光度を実現することができる。
【0053】
これは、第1色素の励起エネルギーが、第1色素間での移動による消失(濃度消光)を受けずに、ほとんどが第2色素へ移動し、第2色素の発光に寄与することができると考えられるためである。また、第2色素は前述のように濃度消光を起こすことがない低い濃度で存在するので、移動された励起エネルギーを効率よく利用して色変換を行い、所望の波長分布を有する光を発することができるためでもある。このようにして、本発明の色変換膜においては、薄い膜厚と高い変換効率とを両立することが可能となる。
【0054】
<多色発光有機ELデバイス及びその製造方法>
本発明の多色発光有機ELデバイスは、有機EL素子と、上述の色変換膜とを含み、該有機EL素子は、少なくとも一方が透明である一対の電極と、該一対の電極に挟持される有機EL層とを含むデバイスである。
【0055】
図1は、本発明の多色発光有機ELデバイスの一例を示す断面図である。同図によれば、多色発光有機ELデバイスは、色変調部10と、有機EL発光部30と、シール材50とを備え、色変調部10と有機EL発光部30とが、シール材50を介して対抗配置された構造体である。
【0056】
以下に、本発明の多色発光有機ELデバイスの各構成要素とその形成方法について、詳細に説明する。
【0057】
[色変調部及びその形成方法]
図1に示すように、色変調部10は、同図の上方から順に、透明支持体12に、ブラックマトリクス14、赤色カラーフィルター16、緑色カラーフィルター18、青色カラーフィルター20、バンク22、及び赤色変換膜24が順次形成された積層体である。
【0058】
なお、図1では、色変調部10の形成時とは積層順が上下逆向きとなっているため、以下では、色変調部の各構成要素を、後述する色変調部の形成工程での積層順に(図1の上側から順に)説明する。
【0059】
図2は、図1に示す多色発光有機ELデバイスの構成要素である、色変調部10の各形成工程を示す模式図であり、(a)は透明支持体12の準備工程、(b)はブラックマトリクス14の形成工程、(c)はカラーフィルター16〜20の形成工程、(d)はバンク22の形成工程、そして(e)は色変換膜24の形成工程をそれぞれ示す。
【0060】
(透明支持体12)
まず、図2(a)に示すように、透明支持体12を準備する。透明支持体12としては、ガラス、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンスルホンなどの高分子材料を用いることができる。本発明では、上述したとおり、赤色変換膜24に高分子材料を用いる。このため、透明支持体12は剛直であっても可撓性であってもよい。透明支持体12は、可視光に対して80%以上の透過率を有することが好ましい。
【0061】
(ブラックマトリクス14)
次に、図2(b)に示すように、透明支持体12に、ブラックマトリクス14を形成する。ブラックマトリクス14は、後述する各カラーフィルター16〜20の配設位置におけるコントラストの向上を目的として配設された層である。ブラックマトリクス14としては、可視域を透過しない材料を使用する。
【0062】
ブラックマトリクス14は、透明支持体12上に、スピンコート法などのウェットプロセスの塗布手段により塗布し、加熱乾燥した後、フォトリソグラフィー法などによりパターニングを行って形成できる。
【0063】
ブラックマトリクス14の材料は、アクリル型の樹脂などの感光性樹脂中に黒色化するための着色剤を混合したものなどを用いる。また、液晶表示装置に用いられるブラックマスク材料を適用してもよい。
【0064】
なお、ブラックマトリクス14は、必要に応じて設けることによって、隣接する画素からの光の回り込み、すなわち、隣接画素からの発光が、隣の画素に対応したカラーフィルター層に漏れることを、効果的に防止することができる。これにより、高いコントラストを実現することができる。また、ブラックマトリクス14の形成は、後述する各カラーフィルター16〜20の形成により生ずる段差を低減させる点でも有効である。
【0065】
(カラーフィルター16〜20)
更に、図2(c)に示すように、透明支持体12上のブラックマトリクス14により画成された領域に、各カラーフィルター16〜20を形成する。カラーフィルターとしては、600nm以上の波長を透過する赤色カラーフィルター16、500nm〜550nmの波長を透過する緑色カラーフィルター18、及び400nm〜550nmの波長を透過する青色カラーフィルター20をそれぞれ配列する。
【0066】
具体的には、透明支持体12上に、所望の色の吸収を有する染料又は顔料を含有したマトリックス樹脂を、スピンコート法などのウェットプロセスを用いて塗布し、フォトリソグラフ法などによりパターニングを実施し、現像液により不要部分を除去することで、カラーフィルター16〜20を形成することができる。
【0067】
多色発光有機ELデバイスの品質を向上させるためには、ウェットプロセスによりカラーフィルター16〜20を形成した後に、高温加熱して、カラーフィルター16〜20中に残存する水分を十分に除去することが好ましい。
【0068】
図2に示す例において、カラーフィルター16〜20の材料としては、入射光を分光して、所望される波長域の光のみを透過させる材料を用いることができる。
【0069】
カラーフィルター16〜20は、図2(c)に示すように、各画素に対応して設けられたR、G、Bの各色の組み合わせによって、カラー表示を可能にするものである。図2(c)では、赤、緑、青(R、G、B)の3種のカラーフィルター16〜20を用いているが、必要に応じて1種、2種、又は4種以上のカラーフィルターを用いてもよい。なお、カラーフィルターには、誘電体多層膜のような光学薄膜を用いてもよい。
【0070】
カラーフィルター16〜20の材料としては、所望の色を吸収する染料又は顔料を高分子のマトリクス樹脂中に分散させたものを用いることができる。具体的には、市販のフラットパネルディスプレイ用材料などの当該技術分野において公知の任意の材料を用いることができる。例えば、液晶用カラーフィルター材料(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ(株)製カラーモザイクなど)を用いて形成することができる。
【0071】
カラーフィルター16〜20には、上記のような材料を用いればよいが、有機EL素子の発光する光に合わせてカラーフィルターの特性を調整し、取り出し効率/色純度を最適化することが好ましい。このときカットする光は、緑の場合は480nm以下の波長の光、及び必要に応じ560nm以上の波長の光であり、青の場合は490nm以上の波長の光であり、赤の場合は580nm以下の波長の光である。
【0072】
このようなカラーフィルターを用いて、NTSC標準、或いは現行のCRTの色度座標に調整することがより好ましい。当該色度座標は、一般的な色度座標測定器、例えばトプコン社製のBM−7、SR−1等を用いて測定することができる。所望される波長域の光を高い色純度で得るためには、カラーフィルター16〜20の厚さを0.5〜20μmとすることが更に好ましく、1〜1.5μmとすることが極めて好ましい。
【0073】
(バンク22)
続いて、図2(d)に示すように、ブラックマトリクス14上に、バンク22を形成する。バンク22の材料としては、レジストなどの光硬化性樹脂又は光熱併用型硬化性樹脂を用いることができる。バンク22はフォトプロセスを用いて形成することが、画素の優れたパターン精度を得る観点で好ましい。
【0074】
バンク22には、後述する色変換膜24の形成用インクに対して親液性を呈する材料を使用することが好ましい。具体的には、色変換膜24の形成用インクとの接触角が30°以下である材料を用いることが好ましく、20°以下の材料を用いることがより好ましい。
【0075】
例えば、バンク22には、その中に無機粒子を分散させることで上記親液性を付与することができる。バンク22の高さは、インクが液下されたときに該インクがバンクの外に溢れ出ないような高さとする。
【0076】
図2に示す例において、バンク22の形成用材料としては、(1)アクリロイル基又はメタクリロイル基を複数有するアクリル系多官能モノマー及びオリゴマーと、光又は熱重合開始剤とからなる組成物、(2)ボリビニル桂皮酸エステルと増感剤とからなる組成物、(3)鎖状又は環状オレフィンとビスアジドとからなる組成物、並びに(4)エポキシ基を有するモノマーと酸発生剤とからなる組成物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0077】
(色変換膜24)
最後に、図2(e)に示すように、カラーフィルター16〜20とバンク22とによって画成された領域に、色変換膜24を形成する。色変換膜24の形成方法については、上述したとおりである。なお、図2(e)で示す例は、カラーフィルター上に赤色変換膜を形成した例である。
【0078】
以上のように、図2(a)〜(e)の各工程を経て、図1に示す色変調部10が得られる。
【0079】
[有機EL発光部及びその形成方法]
図1に示すように、有機EL発光部30は、同図の下方から、基板32に、TFT素子34、絶縁膜36、層間絶縁膜38、第1電極40、有機EL膜42、第2電極44、及び無機バリア層46が順次形成された積層体である。
【0080】
以下に、有機EL発光部の各構成要素を、その積層順に(図1の下側から順に)説明する。
【0081】
(基板32)
本発明の多色発光有機ELデバイスは、上述の色変調部10側から光を取り出すため、有機EL発光部の基板32は必ずしも透明でなくてよい。例えば、Al等の金属材料、ガラス、石英などの非晶質基板、及び樹脂等の透明ないし半透明材料を用いることができる。或いはまた、Si、GaAsなどの結晶性基板のように不透明な材料を用いることもできる。更に、ガラス等のほか、アルミナ等のセラミックス、ステンレス等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施した材料、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂、及びポリカーボネート等の熱可塑性樹脂などを用いることもできる。
【0082】
(TFT素子34)
TFT素子34は、ゲート電極をゲート絶縁膜の下に設けたボトムゲートタイプであって、能動層として多結晶シリコン膜を用いた構造体である。具体的には、従来の多結晶シリコンTFTを用いることができる。
【0083】
なお、TFT素子34は、各画素の端部であって後述する第1電極40に、図示しない配線電極を介して接続するように形成する。形成方法は、公知のいずれの方法を用いてもよい。TFT素子の寸法は10〜30μm程度であることが好ましい。ちなみに、画素の寸法は、通常、20μm×20μm〜300μm×300μm程度である。
【0084】
(絶縁膜36、層間絶縁膜38)
絶縁層36及び層間絶縁膜38は、酸化ケイ素、窒化ケイ素などの無機系材料をスパッタ又は真空蒸着で成膜した層、スピン・オン・グラス(SOG)で形成した酸化ケイ素層、フォトレジスト、ポリイミド、アクリル樹脂などの樹脂系材料の塗膜など、絶縁性を有するものを用いる。絶縁層36及び層間絶縁膜38の接触領域には配線電極等が存在するので、これら36,38をパターニングする際に配線電極等にダメージを与えないようなパターニングが可能な材料を用いることが好ましい。
【0085】
また、特に、絶縁層36は、配線電極を水分及び/又は腐食から防御する、耐食・耐水膜としての役割も果たす。このため、これらの役割を満たす材料として、ポリイミドを用いることが好ましい。
【0086】
絶縁層36,層間絶縁膜38の厚さは、特に限定されず、必要な絶縁性が得られるように材料に応じて適宜決定すればよいが、無機系材料を用いる場合には製造コストの面から薄くすることが好ましい。
【0087】
(第1電極40)
第1電極(陽極)40は、例えば、メタル電極を配線電極上に形成し、次いで、その上部表面に透明酸化物を形成することで得られる。
【0088】
メタル電極及び透明酸化物は、蒸着法、スパッタリング法などの成膜方法、並びにフォトリソグラフ法などによるパターニングを適宜組み合わせて形成することができる。
【0089】
なお、第1電極40は、TFT素子34上に形成された絶縁層36を貫通して形成された配線電極に接続される。通常、第1電極40は有機EL膜42に正孔を注入するための電極である。
【0090】
透明酸化物としては、透明で仕事関数が高い酸化物が用いられる。特に制限されないが、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム(IZO)、ZnO、SnO2、In23等を用いることが好ましい。これらの中でも、ITO及びIZOを用いることが特に好ましい。この透明酸化物の層は、有機EL層に対する正孔注入効率を向上させる役割も担う。また、透明酸化物の層を形成することで、平坦化が実現され、後述するメタル電極表面の凹凸によってもたらされる、有機EL層の下地のモフォロジーの荒れを緩和することができる。
【0091】
メタル電極としては、透明酸化物上に高反射率のメタル電極を形成する。これにより、高い光反射性を発揮する電極とすることができる。また、メタル電極に電気抵抗低減の役割を持たせてもよい。メタル電極は、高反射率の金属、アモルファス合金、微結晶性合金を用いて形成することが好ましい。高反射率の金属としては、Al、Ag、Mo、W、Ni、Crなどが挙げられる。高反射率のアモルファス合金としては、NiP、NiB、CrP及びCrBなどが挙げられる。高反射率の微結晶性合金としては、NiAlなどが挙げられる。
【0092】
(有機EL膜42)
有機EL膜42は、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層、及び電子注入層などの複数の層を積層してなり、基板全面に画素領域を開口した蒸着マスクを用いず、真空蒸着法により各層を順次形成することができる。以下に、例示的な有機EL膜42の構成を、その両側に配置する陽極(第1電極40)及び陰極(第2電極44)とともに示す。
(1)陽極/有機発光層/陰極
(2)陽極/正孔注入層/有機発光層/陰極
(3)陽極/有機発光層/電子注入層/陰極
(4)陽極/正孔注入層/有機発光層/電子注入層/陰極
(5)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子注入層/陰極
【0093】
有機EL膜42における各層の材料は、特に限定されるものではなく、公知のいかなる材料を使用することもできる。
【0094】
正孔注入層には、フタロシアニン(Pc)類(銅フタロシアニン(CuPc)などを含む)、又はインダンスレン系化合物などを用いることができる。
【0095】
正孔輸送層には、トリアリールアミン部分構造、カルバゾール部分構造、又はオキサジアゾール部分構造の各材料(たとえばTPD、α−NPD、PBD、m−MTDATAなど)を用いることができる。また、これらにF4−TCNQなどのルイス酸化合物をドーピングした材料を用いることもできる。
【0096】
有機発光層には、所望する色調に応じて材料を適宜選択することができる。
【0097】
青色から青緑色の発光を得るためには、ベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、ベンゾオキサゾール系などの蛍光増白剤、金属キレート化オキソニウム化合物、スチリルベンゼン系化合物、芳香族ジメチリディン系化合物などを用いることができる。
【0098】
具体的には、ホスト材料に、ドーパントを添加することで、有機発光層を形成することができる。
【0099】
ホスト材料としては、アルミキレート、4 ,4 ’−ビス(2 ,2 ’−ジフェニルビニル)、2 ,5 −ビス(5 −tert −ブチル−2 −ベンゾオキサゾルイル)−チオフェン(BBOT)、ビフェニル(DPVBi)を用いることができる。
【0100】
青色ドーパントとしては、ぺリレン、2 ,5 ,8 ,11 −テトラ−t −ブチルペリレン(TBP)、4,4’−ビス[2 −{4 −(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル}ビニル]ビフェニル(DPAVBi)などを0.1〜5%添加することができる。
【0101】
赤色ドーパントとしては、4 −(ジシアノメチレン)−2−メチル−6 −(p −ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン、4 ,4 −ジフロロ−1 ,3 ,5 ,7 −テトラフェニル−4 −ボラ−3a ,4a ,−ジアザ−S −インダセン、プロパンディニトリル(DCJT1)、ナイルレッドなどを0.1〜5%添加することできる。
【0102】
電子輸送層としては、Alq(トリス8−キノリノラトアルミニウム錯体)を用いることができ、これにLiなどのアルカリ金属をドープしたものを用いてもよい。
【0103】
電子注入層としては、Alq3のようなアルミニウム錯体、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属をドープしたアルミニウム錯体、又はアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属を添加したバソフェナントロリンなどを用いることができる。更に、LiFを用いることもできる。
【0104】
(第2電極44)
有機EL膜42上に形成する第2電極44は、例えば、蒸着法、スパッタリング法などによりバッファ層を成膜し、その上に透明電極材料である金属酸化物を更に成膜することにより形成することができる。
【0105】
バッファ層としては、リチウム、ナトリウム、若しくはカリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、若しくはストロンチウム等のアルカリ土類金属、又はこれらのフッ化物等からなる電子注入性の金属、その他の金属との合金、若しくは化合物を用いることができる。
【0106】
電子注入性を向上させるためには、上記のような仕事関数の小さい材料を用いることが好ましい。バッファ層の膜厚は、駆動電圧及び透明性等を考慮して適宜選択することができるが、特に10nm以下とすることが好ましい。
【0107】
金属酸化物としては、ITO、IZO、ZnO等の透明導電膜の形成用に用いられる材料を採用することができる。
【0108】
(無機バリア層46)
無機バリア膜46には、SiNx、SiOxNyなどが用いられ、プラズマCVD法等により形成することができる。
【0109】
[色変調部と有機EL発光部との重ね合わせ方法及び多色発光有機ELデバイス]
上述のように形成された、色変調部10と有機EL発光部30とを、対向して重ねあわせる。具体的には、乾燥窒素雰囲気(酸素及び水分濃度ともに10ppm以下)のグローブボックス内に、色変調部10と有機EL発光部30とを導入する。次いで、図1に示すように、紫外硬化型樹脂からなるシール材50をこれら10,30の各端部間に配置し、多色発光有機ELデバイスを得る。
【0110】
以上のようにして形成された、図1に示す本発明の多色発光有機ELデバイスは、上述した薄い膜厚と高い変換効率とを両立した色変膜を含むため、パーソナルコンピューター等用の大面積ディスプレイへ好適に適用することができる。
【実施例1】
【0111】
<有機ELディスプレイの作製>
【0112】
[本発明例1]
【0113】
(色変調部の作製)
透明基板として500mm×500mm×0.50mmのコーニングガラスを用意した。このガラス基板上に、スピンコート法によって黒色色素を含むレジスト樹脂を塗布し、フォトリソグラフ法によってパターニングを実施した。これにより、カラーフィルター形成用の開口部を残して膜厚2μmのブラックマトリクスを得た。なお、副画素間は0.100mm幅とし、画素間は0.116mm幅としてパターン形成を行った。
【0114】
青色フィルター材料(富士フィルム製:カラーモザイクCB−7001)をスピンコート法にて塗布後、フォトリソグラフ法によりパターニングを実施し、ピッチ0.780mm、膜厚2μmの青色フィルターを得た。
【0115】
次いで、緑色フィルター材料(富士フィルム製:カラーモザイクCG−7001)をスピンコート法にて塗布後、フォトリソグラフ法によりパターニングを実施し、ピッチ0.780mm、膜厚2μmの緑色フィルターを得た。
【0116】
更に、赤色フィルター材料(富士フィルム製:カラーモザイクCR−7001)をスピンコート法にて塗布後、フォトリソグラフ法によりパターニングを実施し、ピッチ0.780mm、膜厚2μmの赤色フィルターを得た。
【0117】
ブラックマトリクス、カラーフィルター上に、バンク形成用のポジ型感光性ポリイミド材料(東レDL−1100)を、スピンコート法により、膜厚が3μmになるように塗布した。続いて、該バンク材料層に対してフォトマスクを用いて樹脂側から波長356nmの光を含む紫外線を50mJ/cm2で照射し、ブラックマトリクスのパターン上に重なるようにバンクを形成した。
【0118】
第1色素として、ジメチルフェニルで終端したポリ[(9,9−ジオクチル−2,7−ジビニレン−フルオレニル)−Alt−Co−{2−メトキシ−5−(2−エチル−へキロキシ)−1,4−フェニレン}](平均の分子量が200000)を用いるとともに、第2色素として、ジメチルフェニルで終端したポリ[2−5−ビス(3,7−ジメチル−オクチロキシ)−1,4−フェニレンビニレン]] (平均の分子量が150000)を用いた。これら第1色素及び第2色素の混合物(第2色素の濃度は3重量%)50重量部をトルエン1000重量部に溶解してインクを調製した。
【0119】
このインクは、バンクに対して15°の接触角を有していた。調整したインクを、インクジェット装置(UniJet製UJ200)を用い、窒素雰囲気中でマルチノズルにより1サブピクセルにつき3滴(1滴:約14pl)を赤色カラーフィルター上に滴下した。
【0120】
次いで、窒素雰囲気を破ることなく、真空乾燥炉を用い、インクの乾燥を真空度1.0×10−3Pa、温度100℃で行った。得られた赤色変換膜の厚さは500nmであった。これを更に200℃でアニールして残留水分を除去した。
【0121】
以上のようにして、500mm×500mm×0.50mmのガラス基板上に、発光部の画素構成(640×RGB×480)に対応させたパターンを含む色変調部を得た。
【0122】
(有機EL発光部の作製)
基板として500mm×500mm×0.50mmのガラス基板を用意した。このガラス基板上に、TFT素子を公知の方法により形成した。
【0123】
次に、蒸着法によって高反射電極として、厚さ100nmのAlを全面蒸着し、フォトリソグラ法によりにより、0.148mm×0.664mmの副画素電極となる第1電極(陰極)を形成した。TFT基板に開口したビアホールを介して第1電極とTFT素子のドレインとのコンタクトを形成した。
【0124】
次に、ポジ型フォトレジスト[WIX―2Å] (商品名、日本ゼオン製)を用いて、第1電極上の副画素対応箇所に0.148×0.664mmの開口部を残して、厚さ1.0μmの層間絶縁膜を形成した。層間絶縁膜端部の基板に対する角度は鋭角とした。
【0125】
更に、第1電極、層間絶縁膜を形成した積層体を蒸着装置内に装着し、電子輸送層、有機発光層、及び正孔輸送層を、真空を破らずに順次成膜した。成膜に際して真空槽内圧は1×10−4Paまで減圧した。電子輸送層としてはAlq(トリス8−キノリノラトアルミニウム錯体)を40nm積層した。有機発光層としてはホスト材料4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)に、青色ゲスト材料である4,4’−ビス[2 −{4 −(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル}ビニル]ビフェニル(DPAVBi)を5%ドープして40nm積層した。正孔輸送層としてはα−NPDを200nm積層した。
【0126】
この後、真空準備室にて、透明な第2電極の形成を行った。第2電極の形成は、スパッタ法にて透明電極(ITO)を膜厚100nmで全面成膜した。
【0127】
次に、モノシラン(SiH)、アンモニア(NH)、及び窒素の混合ガスに対して高周波電力を印加することによって、無機バリア層(SiN膜)を形成した。モノシランの流量を100sccmとするとともに、窒素の流量を2000sccmとし、更にアンモニアの流量を80sccmとした。このとき、混合ガスの圧力を100Paとした。また、周波数27.12MHz及び電力密度0.5W/cmの高周波電力を用い、50℃の被成膜基板上に膜厚3μmのSiN膜を形成した。
【0128】
以上のようにして、500mm×500mm×0.50mmのガラス基板上に、画素構成(640×RGB×480)の有機発光層等を形成して、有機EL発光部を得た。
【0129】
(色変調部と有機EL発光部との重ね合わせ)
続いて、上述のようにして得られた赤色変換層を含む色変調部と、有機EL発光部とを、乾燥窒素雰囲気(酸素及び水分濃度ともに10ppm以下)下に導入し、UV硬化接着剤を用いて以下のように封止した。
【0130】
色変調部の外周接着部にUV RESIN XNR5516(ナガセケムテックス製)の紫外線硬化型エポキシ樹脂をディスペンサーにより塗布した。
【0131】
次に、遮光マスクを用いて外周接着剤層のみに6J/cmの水銀アークランプからの365nmの紫外線光を照射することによって仮硬化させた後に、加熱炉に入れ100℃で1時間の加熱焼成によって熱硬化処理を行い、その後30分間にわたって炉内で自然冷却することにより、多色発光有機ELデバイスを得た。
【0132】
[本発明例2]
本発明例1の赤色変換層の作製において、第1色素はジメチルフェニルで終端したポリ[(9,9−ジオクチル−2,7−ジビニレン−フルオレニル)−Alt−Co−{2−メトキシ−5−(2−エチル−へキロキシ)−1,4−フェニレン}](平均の分子量が50000)、第2色素として4−ジシアノメチレン−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM−1)を用いた。第1色素及び第2色素の混合物における第2色素の濃度は0.2重量%とした。このような混合物10重量部をトルエン1000重量部に溶解させてインクを調整した。
【0133】
以上の事項以外は、本発明例1と同様にして多色発光有機ELデバイスを得た。
【0134】
[本発明例3]
本発明例1の赤色変換層の作製において、第1色素のオリゴマーとして、ハロゲン化したクマリン6とペンタエリスリトールとをWilliamsonエーテル合成法で調製した、以下の化合物(化A)を用いた。
【0135】
【化2】

【0136】
また、本発明例1の赤色変換層の作製において、第2色素にDCM−1を用い、第1色素及び第2色素の混合物における第2色素の濃度は2重量%とした。このような混合物51重量部をトルエン1000重量部に溶解させてインクを調整した。
【0137】
以上の事項以外は、本発明例1と同様にして多色発光有機ELデバイスを得た。
【0138】
[比較例1]
赤色変換層を、以下に示しように、従来の樹脂分散方式の厚膜で形成した。
【0139】
蛍光色素としてクマリン6(0.6重量部)、ローダミン6G(0.3重量部)、及びベーシックバイオレット11(0.3重量部)を、溶剤であるプロピレングリコールモノエチルアセテート(PGMEA)120重量部へ溶解させた。更に、光重合性樹脂の「VPA100」(商品名、新日鐵化成工業株式会社)100重量部を加えて溶解させ、塗布液を得た。この塗布溶液を、カラーフィルターを形成した基板上に、スピンコート法により塗布し、フォトリソグラフ法により、パターニングを実施し、ピッチ0.780mm、膜厚10μmの赤色フィルターを得た。
【0140】
この赤色フィルター上に、UV硬化型樹脂(エポキシ変性アクリレート)をスピンコート法にて塗布し、高圧水銀灯にて照射して、膜厚5μmのガスバリア層を得た。なお、赤色フィルターパターンは変形せず、かつ、保護層としてのガスバリア層の上面は平坦であった。
【0141】
以上の事項以外は、本発明例1と同様にして多色発光有機ELデバイスを得た。
【0142】
[比較例2]
本例は、第1色素の分子量が本発明の範囲外、即ち、該分子量が低い例である第1色素のオリゴマーとして、本発明例3で用いた4量体のオリゴマーを2量体(分子量760)として用いた。第2色素として用いたDCM−1の濃度は、12重量%とした。以上の事項以外は、本発明例2と同様にして多色発光有機ELデバイスを得た。
【0143】
[比較例3]
クマリン6をオリゴマー化しなかったこと以外は、本発明例3と同様にして多色発光有機ELデバイスを得た。なお、オリゴマー化しなかったことから、固形分が凝固したため、色変換膜は形成できなかった。
【0144】
<評価項目>
本発明例1〜3及び比較例1〜3の各有機ELデバイスについて、色変換膜側に光源を配置して、波長450〜490nmの光を照射した。更に、色変換膜を通して出射した光を、分光輝度計(コニカミノルタCS−1000)を用いて測定し、波長610nmの赤色光の出射光強度(蛍光強度)を測定した。なお、蛍光強度については、赤色光について、蛍光量子効率を求め、その値が0.5以上の場合を合格(○)とし、0.5未満の場合は、不合格(×)とした。
【0145】
また、本発明例1〜3及び比較例1〜3の各有機ELデバイスについて、発光効率を評価した。
【0146】
これらの結果を表1に示す。
【0147】
【表1】

【0148】
表1によれば、本発明の範囲内である本発明例1〜3の各多色発光有機ELデバイスついては、赤色光についても優れた蛍光強度が得られており、しかも、駆動電圧10Vにおいて、1.3cd/A以上の優れた発光効率が得られていることが判る。
【0149】
これは、各本発明例の有機ELデバイスの赤色発光性能が、厚膜色変換膜を用いた従来品よりも良好な発光効率を示し、高分子色素のホスト−ゲスト構成による薄膜色変換膜が発光効率に有効に作用しているためであると考えられる。
【0150】
これに対し、本発明の範囲外である比較例1〜3の各多色発光有機ELディスプレイについては、緑色及び赤色光のいずれについても優れた蛍光強度が得られておらず、しかも、発光効率についても0.8cd/A以下という不十分な結果となっていることが判る。
【0151】
これは、各比較例の有機ELデバイスの赤色発光性能が、厚膜色変換膜を用いた従来品を用いたために、優れた発光効率を示していないためであると考えられる。
【0152】
特に、比較例2は、各本発明例に対して、第1色素の割合が著しく小さいため、第1色素の入射光吸収の機能が十分に発揮されず、発光効率が極めて低いものとなったと考えられる。
【符号の説明】
【0153】
10 色変調部
12 透明支持体
14 ブラックマトリクス
16 赤色カラーフィルター
18 緑色カラーフィルター
20 青色カラーフィルター
22 バンク
24 赤色変換膜
30 有機EL発光部
32 基板
34 TFT素子
36 絶縁膜
38 層間絶縁膜
40 第1電極
42 有機EL膜
44 第2電極
46 無機バリア層
50 シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が透明電極である一対の電極と、該一対の電極に挟持された有機EL層と、色変換膜とを備える有機ELデバイスにおいて、
該色変換膜は2種の色素からなり、
第1色素は、色変換膜への入射光を吸収して、その吸収したエネルギーを第2色素へと移動させる色素であり、
第2色素は、第1色素から該エネルギーを受容して光を放射する色素であることを特徴とする有機ELデバイス。
【請求項2】
前記第1色素は、分子量が少なくとも1000の色素であることを特徴とする、請求項1に記載の有機ELデバイス。
【請求項3】
前記第1色素は、分子量が1000から1000000の色素であることを特徴とする、請求項1に記載の有機ELデバイス。
【請求項4】
第1色素は、色変換膜への入射光を吸収して、その吸収したエネルギーを第2色素へと移動させる色素であり、
第2色素は、第1色素から該エネルギーを受容して光を放射する色素であり、
ることを特徴とする色変換膜。
【請求項5】
前記第1色素は、分子量が少なくとも1000の色素であることを特徴とする、請求項4に記載の色変換膜。
【請求項6】
前記第1色素は、分子量が1000から1000000の色素であることを特徴とする、請求項4に記載の色変換膜。
【請求項7】
第2色素は、平均分子量が1000未満であることを特徴とする、請求項5または6に記載の色変換膜。
【請求項8】
第1色素の光吸収スペクトルの極大波長が400〜500nmであり、その蛍光スペクトルの極大波長が500〜550nmであることを特徴とする、請求項7に記載の色変換膜。
【請求項9】
第2色素の光吸収スペクトルの極大波長が500〜550nmであり、その蛍光スペクトルの極大波長が550〜650nmであることを特徴とする、請求項4〜8のいずれか一項に記載の色変換膜。
【請求項10】
第1色素は、色変換膜への入射光を吸収して、その吸収したエネルギーを光を発することなく第2色素へと移動させる色素である、先の請求項4〜9のいずれか一項に記載の色変更膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−256612(P2012−256612A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−189080(P2012−189080)
【出願日】平成24年8月29日(2012.8.29)
【分割の表示】特願2010−520087(P2010−520087)の分割
【原出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】