説明

色素化合物、該色素化合物を含有する顔料分散剤、顔料組成物、及び顔料分散体

【課題】水への溶解性が低く、有機溶媒への溶解性が高く、アゾ顔料の有機溶媒への分散性を改善する色素化合物の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表される色素化合物。


一般式(1)で表される色素化合物は、アゾ顔料に対する親和性が高いことから、顔料分散剤として用いることで、アゾ顔料の分散性を改善し、良好な色調を有する顔料組成物を提供することが出来る。更に該顔料組成物を用いることで、有機溶媒への分散性に優れる色調良好な顔料分散体、特にスチレンモノマーの顔料分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な色素化合物、該化合物を含有してなる顔料分散剤、該顔料分散剤を含有する顔料組成物並びにその分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
アゾ顔料の着色剤としての用途は多岐にわたり、塗料、インクジェットインク、電子写真トナー、カラーフィルター等の分野で広く用いられている。このような分野で用いられる場合、着色力、透明性などの分光特性を向上させるために、各種媒体中に顔料を微分散しなければならない。ところが、一般的にアゾ顔料は微細化すると分散工程やその後の製造工程において熱履歴や溶媒との接触により結晶の成長や転移などが起きやすくなり、着色力や透明性の低下などの問題を引き起こしてしまう。このような問題を改善するために様々な顔料組成物及びそれを構成する顔料分散剤が提案されている。例えば、アゾ顔料に対して、異種のアゾ色素を顔料分散剤として添加した顔料組成物が提案されている(特許文献1及び2参照)。
【0003】
また、顔料分散剤として、Solsperse(登録商標)(Lubrizol社製)を用いた例が開示されている(特許文献3参照)。しかし、これらの顔料組成物や顔料分散剤は、有機溶媒、特に非極性溶媒、例えばスチレンモノマー等への分散においては十分な分散効果を得る事は出来なかった。
【0004】
一方、ピラゾロンアゾ化合物は古くから黄色乃至赤色着色剤として様々な化学構造のものが提案されている。例えば、染色、捺染用着色剤として水溶性ピラゾロンアゾ化合物が提案されている(特許文献4参照)。また、耐熱性及び耐光性に優れかつ水や有機溶媒への溶解性に優れたアゾ化合物が開示されている(特許文献5参照)。しかし、これの化合物を顔料分散剤として用いた場合、顔料分散工程やその後の製造工程において水との接触により、容易に水に溶け出してしまい顔料分散剤としては機能しなかった。
【0005】
また、カラーフィルター、銀塩写真向け感光材料として、ピラゾロンアゾ化合物が提案されている(特許文献6及び7参照)。しかしこれらは、当該用途としては満足するものであるが非極性溶媒中での顔料分散剤としては十分な効果を得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第04069873号公報
【特許文献2】特開2007−262382号公報
【特許文献3】国際公開第99−42532号パンフレット
【特許文献4】英国特許第1211804号明細書
【特許文献5】特開2005−263925号公報
【特許文献6】特開2006−3873号公報
【特許文献7】特開平2−271353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した課題を解決することを目的とする。即ち、本発明は、有機溶媒に対する高い溶解性を持ち、アゾ顔料の有機溶媒に対する分散性を改善する色素化合物及び顔料分散剤を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、有機溶媒に対する良好な分散性を有するアゾ顔料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的は以下の本発明によって解決される。すなわち本発明は、下記一般式(1)で表される色素化合物を提供する。
【0010】
【化1】

[一般式(1)中、R1は水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基を表し、R2はCOOR8基、CONR910基を表し(R8及びR9はアルキル基、アリール基、アラルキル基を表し、R10は水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基を表す。)、R3乃至R7はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、アセチルアミノ基、スルファモイル基、アルキル基、アルコキシ基、COOR11基、CONR1213基(R11及びR12はそれぞれ独立してアルキル基、アリール基、アラルキル基を表し、R13は水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基を表す。)及びスルホン酸基又はカルボン酸基及びそれらの塩を表す。但し、一般式(1)中には、1つ又は2つのスルホン酸基又はカルボン酸基及びそれらの塩を有する。]
【0011】
また、本発明は、少なくとも前記一般式(1)で示される構造を有する色素化合物を含有する顔料分散剤及びアゾ顔料組成物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、水への溶解性が低く、有機溶媒、特に非極性溶媒に対しても溶解性が高い色素化合物が提供される。本発明にかかる前記一般式(1)で表される色素化合物は、アゾ顔料に対する親和性が高いことから、顔料分散剤として用いることで、アゾ顔料の分散性を改善し、良好な色調を有する顔料組成物を提供することが出来る。更に該顔料組成物を用いることで、有機溶媒への分散性に優れる色調良好な顔料分散体、特にスチレンモノマーの顔料分散体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかる色素化合物(30)のクロロホルム−d中、室温、400MHzにおける1H NMRスペクトルを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の色素化合物を更に詳細に説明する。
【0015】
本発明者らは、前記した従来技術の課題を解決すべく鋭意検討の結果、前記一般式(1)で表される色素化合物が、水への溶解性が低く、有機溶媒への溶解性が高く、アゾ顔料の有機溶媒への分散性を改善する事を見出した。また、該色素化合物を用いる事で色調が良好なアゾ顔料組成物が提供されることを見出して、本発明に至った。
【0016】
先ず、本発明で提供される前記一般式(1)で表される構造を有する色素化合物について詳細に説明する。
【0017】
【化2】

[一般式(1)中、R1は水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基を表し、R2はCOOR8基、CONR910基を表し(R8及びR9はアルキル基、アリール基、アラルキル基を表し、R10は水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基を表す。)、R3乃至R7はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、アセチルアミノ基、スルファモイル基、アルキル基、アルコキシ基、COOR11基、CONR1213基(R11及びR12はそれぞれ独立してアルキル基、アリール基、アラルキル基を表し、R13は水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基を表す。)及びスルホン酸基又はカルボン酸基及びそれらの塩を表す。但し、一般式(1)中には、1つ又は2つのスルホン酸基又はカルボン酸基及びそれらの塩を有する。]
【0018】
前記一般式(1)中には、1つ又は2つのスルホン酸基、カルボン酸基及びそれらの塩を有する。塩を形成するためのカウンターイオンとしては、特に限定されるものではないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン、アンモニウム、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、n−プロピルアンモニウム、イソプロピルアンモニウム、n−ブチルアンモニウム、エタノールアンモニウム等の第四級アンモニウムイオンが挙げられる。
【0019】
これら陰イオン性基は、水への溶解性が低いカルボン酸基及びその塩である場合が好ましい。また、分子内に有する陰イオン性基の置換位置は、合成容易性の点から前記一般式(1)中のR3乃至R7の位置が好ましい。
【0020】
前記一般式(1)中のR1におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基が挙げられる。
【0021】
前記一般式(1)中のR1におけるアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、チエニル基等が挙げられる。
【0022】
前記一般式(1)中のR1におけるアラルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0023】
前記一般式(1)中のR1で表される置換基は、更に置換基を有していても良い。この場合置換しても良い置換基としては以下のものが挙げられる。メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、トリアジニル基、ベンゾチアゾリル基等のアリール基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペンチルオキシ基等の直鎖、分岐又は環状のアルコキシ基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等のアリールオキシ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N−エチル−N−フェニルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基等のアミノ基、アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基、カルボン酸基、スルホン酸基、カルバモイル基、スルファモイル基、ニトロ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子が挙げられる。
【0024】
前記一般式(1)中のR1は、前記に列挙した置換基及び水素原子から任意に選択出来るが、有機溶媒への溶解性向上及び合成容易性の点からフェニル基である場合が好ましい。
【0025】
前記一般式(1)中のR2は、COOR8基又はCONR910基を表す。
【0026】
8乃至R10におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基が挙げられる。
【0027】
8乃至R10におけるアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、チエニル基等が挙げられる。
【0028】
8乃至R10におけるアラルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0029】
また、R9及びR10は窒素原子とともに複素環を形成していても良い。R9及びR10が窒素原子とともに形成する複素環の具体例としては、ピペラジン環、ピペリジン環、ピロリジン環、モルホリン環等が挙げられる。
【0030】
8乃至R10で表される置換基は、更に置換基を有していても良い。この場合置換しても良い置換基としては以下のものが挙げられる。メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、トリアジニル基、ベンゾチアゾリル基等のアリール基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペンチルオキシ基等の直鎖、分岐又は環状のアルコキシ基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等のアリールオキシ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N−エチル−N−フェニルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基等のアミノ基、アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基、カルボン酸基、スルホン酸基、カルバモイル基、スルファモイル基、ニトロ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子が挙げられる。
【0031】
前記一般式(1)中のR2は、加水分解しにくい点でCONR910基である場合が好ましい。また、R9は前記に列挙した置換基及び水素原子から、R10は前記に列挙した置換基から任意に選択出来るが、有機溶媒への溶解性が向上し、水への溶解性が低下するため、R9及びR10はアルキル基、アリール基及びアラルキル基である場合が好ましく、更にR9及びR10の合計炭素原子数が10以上である場合がより好ましい。
【0032】
前記一般式(1)中のR3乃至R7におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0033】
前記一般式(1)中のR3乃至R7におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基が挙げられる。
【0034】
前記一般式(1)中のR3乃至R7におけるアルコキシ基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペンチルオキシ基等の直鎖、分岐又は環状のアルコキシ基が挙げられる。
【0035】
前記一般式(1)中のR3乃至R7はCOOR11基又はCONR1213基であっても良い。
【0036】
11乃至R13におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基が挙げられる。
【0037】
11乃至R13におけるアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、チエニル基等が挙げられる。
【0038】
11乃至R13におけるアラルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0039】
また、R12及びR13は窒素原子とともに複素環を形成していても良い。R12及びR13が窒素原子とともに形成する複素環の具体例としては、ピペラジン環、ピペリジン環、ピロリジン環、モルホリン環等が挙げられる。
【0040】
11乃至R13で表される置換基は、更に置換基を有していても良い。この場合置換しても良い置換基としては以下のものが挙げられる。メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、トリアジニル基、ベンゾチアゾリル基等のアリール基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペンチルオキシ基等の直鎖、分岐又は環状のアルコキシ基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等のアリールオキシ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N−エチル−N−フェニルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基等のアミノ基、アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基、カルボン酸基、スルホン酸基、カルバモイル基、スルファモイル基、ニトロ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子が挙げられる。
【0041】
前記一般式(1)中のR3乃至R7は前記スルホン酸基、カルボン酸基及びそれらの塩であっても良い。
【0042】
前記一般式(1)中のR3乃至R7の置換基の組み合わせとしては、水への溶解性が低く且つ合成容易である事から、いずれか1つがカルボン酸基及びその塩であり残りの4つが水素原子である場合が好ましい。
【0043】
前記一般式(1)で表される分子構造は、下記スキームに示されるように、下記一般式(3)等の構造の互変異性体が存在するが、これらの互変異性体についても本発明の権利範囲内である。
【0044】
【化3】

[一般式(3)中のR1乃至R7は一般式(1)におけるR1乃至R7と各々同意義を有する。]
【0045】
次に、本発明の前記一般式(1)で表される構造を有する色素化合物の製造方法について以下に説明する。
【0046】
本発明にかかる前記一般式(1)で表される色素化合物は、公知の方法に従って合成する事が出来る。以下に合成スキームの一例を示す。
【0047】
【化4】

[一般式(5)乃至(10)中のR1乃至R10は、前記一般式(1)におけるR1乃至R10と同意義を有する。]
【0048】
先ず、化合物(4)と前記一般式(5)で表されるヒドラジンで環化し、前記一般式(6)で表される化合物を製造する工程1について説明する。工程1の環化反応による前記一般式(6)の製造方法は、以下に挙げる公知の製造方法により合成可能である(例えば、Journal of Medicinal Chemistry,Vol.44,No.22,pp.3730−3745(2001).)。
【0049】
本発明で用いられる化合物(4)は市販されており、容易に入手可能である。前記一般式(5)で表されるヒドラジンは多種市販されており、容易に入手可能である。又、公知の方法(例えば、実験化学講座14.有機化合物の合成と反応[III]、1573−1584頁)によって容易に合成する事が出来る。具体的には、特に限定されるものではないが、例えば、ヒドラジン、メチルヒドラジン、エチルヒドラジン、n−プロピルヒドラジン、イソプロピルヒドラジン、n−ブチルヒドラジン、イソブチルヒドラジン、sec−ブチルヒドラジン、tert−ブチルヒドラジン、シクロプロピルヒドラジン、シクロブチルヒドラジン、シクロペンチルヒドラジン、フェニルヒドラジン、フェネチルヒドラジン、ナフチルヒドラジン、ベンジルヒドラジン等が挙げられる。
【0050】
本工程は無溶媒で行う事も可能であるが、溶媒の存在下で行う事が好ましい。溶媒としては、反応を阻害しないものであれば特に制限されるものではないが、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルイミダゾリジノン等のアミド類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、塩酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の酸類が挙げられる。また、前記溶媒は2種以上の溶媒を混合して用いることが出来、混合使用の際の混合比は任意に定めることが出来る。前記反応溶媒の使用量は、化合物(4)に対し、0.1乃至1000質量倍の範囲で用いられ、好ましくは0.5乃至100質量倍、より好ましくは1.0乃至20質量倍である。
【0051】
本工程の反応温度は、−80℃乃至250℃の範囲で行われ、好ましくは−50℃乃至200℃、より好ましくは−20℃乃至150℃である。通常反応は24時間以内に完結する。
【0052】
次に、前記一般式(6)で表される化合物を前記一般式(7)で表されるアルコールでエステル化、又は前記一般式(8)で表されるアミンでアミド化し、前記一般式(9)で表される化合物を製造する工程2について説明する。工程2は工程1同様、公知の方法により合成可能である。具体的には、脱水縮合剤、例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩等を使用する方法(例えば、Journal of Organic Chemistry,Vol.26,No.7,pp.2525−2528(1961).)、フィッシャー−エステル合成(例えば、Journal of Organic Chemistry,Vol.71,No.8,pp.3332−3334(2006).)及びショッテン−バウマン法(例えば、Chemical Reviews,Vol.52,No.2,pp.237−416(1953).)等が挙げられる。
【0053】
本発明で用いられる前記一般式(7)で表されるアルコールは多種市販されており、容易に入手可能である。具体的には、特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、シクロプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、フェノール、ナフトール、ベンジルアルコール等が挙げられる。
【0054】
本発明で用いられる前記一般式(8)で表されるアミンは多種市販されており、容易に入手可能である。具体的には、特に限定されるものではないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、シクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、N,N−ジメチルアミン、N,N−ジエチルアミン、N,N−ジ(n−プロピル)アミン、N,N−ジ(n−ブチル)アミン、N,N−ジ(2−エチルヘキシル)アミン、N,N−ジシクロヘキシルアミン、アニリン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、N,N−ベンジルフェニルアミン等が挙げられる。
【0055】
本工程は無溶媒で行うことも可能であるが、溶媒の存在下で行うことが好ましい。溶媒としては、反応を阻害しないものであれば特に制限されるものではないが、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルイミダゾリジノン等のアミド類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類が挙げられる。また、前記溶媒は2種以上の溶媒を混合して用いることが出来、混合使用の際の混合比は任意に定めることが出来る。前記反応溶媒の使用量は、前期一般式(6)で表される化合物に対し、0.1乃至1000質量倍の範囲で用いられ、好ましくは0.5乃至100質量倍、より好ましくは1.0乃至20質量倍である。
【0056】
本工程の反応温度は、−80℃乃至250℃の範囲で行われ、好ましくは−50℃乃至200℃、より好ましくは0℃乃至100℃である。通常反応は24時間以内に完結する。
【0057】
次に、前記一般式(9)で表されるカップラーと前記一般式(10)で表されるアニリン類縁体でアゾ結合を形成し色素化する工程3について説明する。工程3は公知の方法により行うことが出来る。具体的には、例えば、下記に示す方法が挙げられる。先ず、メタノール溶媒中、前記一般式(10)で表されるアミン誘導体を塩酸又は硫酸等の無機酸の存在下、亜硝酸ナトリウム等のジアゾ化剤と反応させて、対応するジアゾニウム塩に変換する。更に、このジアゾニウム塩を前記一般式(9)で表される化合物とカップリングさせて、前記一般式(1)で表される色素化合物を製造する。
【0058】
各工程で得られたそれぞれ前記一般式(1)、(6)及び(9)で表される化合物は、通常の有機化合物の単離、精製方法を用いることが出来る。単離、精製方法とは、例えば、水媒体中において塩酸等で酸性にして酸析する方法、有機溶媒を用いた再結晶法や再沈殿法、シリカゲル等を用いたカラムクロマトグラフィー等である。これらの方法は、単独又は2つ以上組み合わせて精製を行うことにより高純度で得る事が可能である。
【0059】
前記の製造方法によって、前記一般式(1)で表される色素化合物を合成する事が出来る。下記表1に、本発明の具体例として色素化合物(11)乃至(37)を示すが、下記の例に限定されるものではない。表1中の「Ph」は無置換のフェニル基を表し、「Bn」は無置換のベンジル基を表し、「*」は置換基の結合部位を表す。
【0060】
【表1−1】

【0061】
【表1−2】

【0062】
次に本発明の顔料分散剤、及び顔料組成物について説明する。本発明の色素化合物は、顔料、特にアゾ顔料との親和性が高く、且つ分散媒への溶解性が高い事から、単独で又は2種以上を組み合わせて顔料分散剤として用いる事が出来る。
【0063】
本発明の顔料組成物は、塗料、インキ、トナー、樹脂成形品に用いられ、本発明にかかる色素化合物を顔料分散剤として少なくとも1種含有することを特徴とする。
【0064】
本発明に使用し得る顔料としては、モノアゾ系顔料あるいはジスアゾ系顔料あるいはポリアゾ系顔料等が挙げられる。その中でも、好ましいものとしては、C.I.Pigment Yellow 74、C.I.Pigment Yellow 93、C.I.PigmentYellow 128、C.I.Pigment Yellow 155、C.I.Pigment Yellow 180が挙げられる。中でも下記式(2)で表されるC.I.Pigment Yellow 155は、本発明の前記一般式(1)で表される色素化合物による分散効果が高いことからより好ましい。上記顔料は単独で用いても良く、2種以上を混合しても良い。
【0065】
【化5】

【0066】
これらは粗製顔料であっても良く、また、本発明の顔料分散剤の効果を著しく阻害するものでなければ調製された顔料組成物であっても良い。
【0067】
本発明の顔料組成物における顔料と顔料分散剤との質量組成比は、100:0.5乃至100:10である場合が好ましい。更に好ましくは100:1乃至100:5である場合である。顔料分散剤の量が少な過ぎると目的とする分散効果が小さく、多過ぎると分散効果は得られるが顔料分散剤の色の寄与が大きくなり鮮明性が低下するなどの問題が生じてくる。
【0068】
本発明の顔料組成物は湿式又は乾式にて製造が可能である。本発明の色素化合物が有機溶媒への高い溶解性を有していることを考えると簡便に均一な顔料組成物が製造出来る湿式による製造が好ましい。具体的には、例えば、以下のようにして得られる。分散媒中に顔料分散剤、及び必要に応じて樹脂を溶かし込み、撹拌しながら顔料粉末を除々に加え十分に分散媒になじませる。更にニーダー、ロールミル、ボールミル、ペイントシェーカー、ディゾルバー、アトライター、サンドミル、ハイスピードミル等の分散機により機械的剪断力を加えることで顔料の粒子表面に顔料分散剤を吸着させ、顔料を安定に均一な微粒子状に微分散することが出来る。
【0069】
本発明の顔料組成物に使用し得る樹脂としては顔料組成物の目的用途に応じて決められるものであり、特に限定されない。具体的には、例えば、ポリスチレン、スチレン共重合体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、アクリレート共重合体、メタクリレート共重合体、ポリエステル、ポリビニルエーテル、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールが挙げられる。その他ポリウレタンやポリペプチドが挙げられる。又これらの分散媒を2種以上混合して用いることが出来る。本発明の方法によって製造される顔料組成物は通例の方法を用いて、例えば、濾過、デカントもしくは遠心によって単離することが出来る。溶媒は洗浄によって除去することも出来る。
【0070】
本発明の顔料組成物は製造時に更に助剤を添加しても良い。具体的には、例えば、表面活性剤、顔料および非顔料分散剤、充填剤、標準化剤(standardizers)、樹脂、ワックス、消泡剤、静電防止剤、防塵剤、増量剤、濃淡着色剤(shading colorants)、保存剤、乾燥抑制剤、レオロジー制御添加剤、湿潤剤、酸化防止剤、UV吸収剤、光安定化剤、もしくはこれらの組み合わせである。
【0071】
また、本発明の顔料分散剤は粗製顔料製造の際に予め添加しておいても良い。
【0072】
次に本発明の顔料分散体について説明する。
【0073】
本発明の顔料分散体は、上記顔料組成物と有機溶媒とからなる。上記顔料組成物を有機溶媒に分散させても良いし、上記顔料組成物の各構成成分を有機溶媒に分散させても良い。
【0074】
本発明の顔料分散体は、例えば、以下のようにして得られる。分散媒中に、必要に応じて顔料分散剤及び樹脂を溶かし込み、撹拌しながら顔料又は顔料組成物粉末を除々に加え十分に分散媒になじませる。更にボールミル、ペイントシェーカー、ディゾルバー、アトライター、サンドミル、ハイスピードミル等の分散機により機械的剪断力を加えることで顔料の粒子表面に顔料分散剤を吸着させ、顔料を安定に均一な微粒子状に微分散することが出来る。
【0075】
本発明の顔料分散体に使用し得る有機溶媒としては顔料分散体の目的用途に応じて決められるものであり、特に限定されない。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、メチルセロソルブ、セロソルブ、ジエチレングリコール等のアルコール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類、ヘキサン、オクタン、石油エーテル、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン等の炭化水素類、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラブロムエタン等のハロゲン化炭化水素類、メチラール、ジエチルアセタール等のアセタール類、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、又は、ニトロプロペン、ニトロベンゼン、ジメチルアミン、モノエタノールアミン、ピリジン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の硫黄・窒素含有有機化合物が挙げられる。
【0076】
本発明の顔料分散体に使用し得る有機溶媒は重合性単量体であっても良い。具体的にはスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、3,4ジクロロスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、ヨウ化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ベンゾエ酸ビニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸−n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸‐n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸‐n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸‐2‐エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸−2−クロロエチル、アクリル酸フェニル、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトン、ビニルナフタリン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドを挙げることができる。
【0077】
本発明の顔料分散体に使用し得る樹脂としては顔料組成物の目的用途に応じて決められるものであり、特に限定されない。具体的には、例えば、ポリスチレン、スチレン共重合体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、アクリレート共重合体、メタクリレート共重合体、エポリエステル、ポリビニルエーテル、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールが挙げられる。その他ポリウレタンやポリペプチドが挙げられる。また、これらの樹脂を2種以上混合して用いることが出来る。
【0078】
本発明の顔料分散体は、例えば電子写真トナーの製造に用いることが出来る。トナー粒子の製造方法としては、従来使用されている方法は全て使用することが出来る。具体的には、粉砕法、懸濁重合法、乳化重合法などが挙げられる。
【0079】
以上説明したようにして、本発明の色素化合物はアゾ顔料の分散剤としてとりわけ好適に用いられる。また、本発明の色素化合物は、顔料分散剤に使用されるだけでなく、インクジェットインクや感熱転写記録用シート用の着色剤、光記録用色素やカラーフィルター用色素といった電子材料にも適用することが出来る。
【実施例】
【0080】
次に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、文中「部」及び「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0081】
得られた反応生成物の同定は、下記に挙げる装置を用いた複数の分析方法によって行った。即ち、使用した分析装置は、1H核磁気共鳴分光分析(ECA−400、日本電子(株)製)、高速液体クロマトグラフィー(LC−20A、(株)島津製作所製)、LC/TOF MS(LC/MSD TOF、Agilent Technologies社製)である。なお、質量分析を行う際、色素化合物をイオン化させる方法としては、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)を用いた。
【0082】
[実施例1]
本発明の色素化合物を以下の方法で合成した。
【0083】
<合成例1>
[色素化合物(14)の合成]
【0084】
【化6】

【0085】
先ず、化合物(1)及び(38)を用いて化合物(39)を合成した。化合物(38)8.1部に、酢酸150部及び化合物(1)10部を加え、100℃で5時間撹拌した。反応終了後、反応液を濃縮し、再結晶法により析出した固体を濾別して化合物(39)13部を得た(収率86%)。
【0086】
次に、化合物(40)及び得られた化合物(39)を用いて化合物(41)を合成した。化合物(39)20部に、化合物(40)60部及び濃硫酸0.1部を加えて、130℃で5時間撹拌した。反応終了後、反応液を減圧蒸留し、残渣を、ヘキサン200部を用いて洗浄し、析出した固体を濾別して化合物(41)20部を得た(収率70%)。
【0087】
次に、化合物(42)及び得られた化合物(41)を用いて色素化合物(14)を合成した。化合物(42)4.0部に、メタノール20部、濃塩酸4.8部を加えて10℃以下に氷冷した。この溶液に、亜硝酸ソーダ1.7部を水4.0部に溶解させたもの添加して同温度で1時間反応させた。次いでスルファミン酸0.30部を加えて更に20分間撹拌した(ジアゾニウム塩溶液)。化合物(41)7.3部に、メタノール35部を加えて、10℃以下に氷冷したところに、前記ジアゾニウム塩溶液を加えた。その後、飽和酢酸ソーダ水溶液を加えてpHを5乃至7にし、10℃以下で2時間反応させた。反応終了後、再結晶法により精製する事で色素化合物(14)10部を得た(収率84%)。
【0088】
[色素化合物(14)についての分析結果]
[1]1H NMR(400MHz、DMSO−d6、室温):δ[ppm]=7.93(2.0H、d)、7.86(1.0H、d)、7.76(1.0H、d)、7.59−7.45(3.0H、m)、7.37−7.26(2.0H、m)、4.37−4.25(2.0H、m)、1.80−1.68(1.0H、m)、1.58−1.20(8.0H、m)、1.00−0.81(6.0H、m)
[2]質量分析(ESI−TOF):m/z=521.15(M−Na)-
[3]HPLCの結果:純度=99面積%、保持時間25.2分、電子吸収スペクトルλmax=407nm(0.1mM TFA溶液−MeOH)
【0089】
<合成例2>
[色素化合物(30)の合成]
【0090】
【化7】

【0091】
化合物(39)の合成は前記合成例1と同様に行った。
【0092】
次に、化合物(43)及び得られた化合物(39)を用いて化合物(44)を合成した。化合物(39)40部に、クロロホルム600部、化合物(43)66部及び1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩37部を加えて、25℃で5時間撹拌した。反応終了後、クロロホルムで抽出し、カラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物(44)50部を得た(収率65%)。
【0093】
次に、化合物(45)及び得られた化合物(44)を用いて色素化合物(30)を合成した。化合物(45)5.0部に、メタノール25部、濃塩酸7.4部を加えて10℃以下に氷冷した。この溶液に、亜硝酸ソーダ2.6部を水7.8部に溶解させたもの添加して同温度で1時間反応させた。次いでスルファミン酸0.53部を加えて更に20分間撹拌した(ジアゾニウム塩溶液)。化合物(44)15部に、メタノール75部を加えて、10℃以下に氷冷したところに、前記ジアゾニウム塩溶液を加えた。その後、飽和酢酸ソーダ水溶液を加えてpHを5乃至7にし、10℃以下で2時間反応させた。反応終了後、再結晶法により精製する事で色素化合物(30)17部を得た(収率80%)。得られた色素化合物は、HPLCにより純度検定を実施した後、NMR分析、質量分析をおこなうことで構造決定をおこなった。以下に分析結果を示す。色素化合物(30)のNMR分析によるNMRスペクトルについては図1に示した。
【0094】
[色素化合物(30)についての分析結果]
[1]1H NMR(400MHz、クロロホルム−d、室温):δ[ppm]=7.99(1.0H、d)、7.88−7.71(2.9H、m)、7.46(1.0H、t)、7.16−7.08(2.8H、m)、6.93(0.9H、t)、3.68−3.51(1.0H、m)、3.50−3.33(1.0H、m)、3.24(1.9H、d)、1.81−0.71(30.0H、m)
[2]質量分析(ESI−TOF):m/z=596.33(M−Na)-
[3]HPLCの結果:純度=99面積%、保持時間31.6分、電子吸収スペクトルλmax=402nm(0.1mM TFA溶液−MeOH)
【0095】
<合成例3>
前記合成例1又は2に記載した方法に準じて、前記表1に記載した色素化合物(11)乃至(13)、(15)乃至(29)、(31)乃至(37)を得た。これらの色素化合物の構造は、前記した色素化合物(14)及び(30)と同様にして、HPLC分析、質量分析及びNMR分析で確認した。
【0096】
[実施例2]
本発明で得た色素化合物を以下の方法で評価した。
【0097】
<色素化合物の溶解性評価>
温度25℃での色素化合物のスチレンモノマーへの溶解度を測定した。溶解性の評価を以下のように行った。
A:スチレンモノマーへの溶解度が1%以上
B:スチレンモノマーへの溶解度が0.1%以上、1%未満
C:スチレンモノマーへの溶解度が0.1%未満
スチレンモノマーへの溶解度が1%以上なら十分な溶解性であると判断した。
【0098】
<色素化合物の水移行性評価>
温度25℃での色素化合物のスチレン溶液を水に接触させたときの水層の着色を目視にて評価した。水移行性の評価を以下のように行った。
A:水層が無色
B:水層が僅かに着色
C:水層が明らかに着色
水層の明らかな着色が見られなければ水移行性は実用上問題ないと判断した。
【0099】
色素化合物の種類、色素化合物の溶解性及び水移行性の評価結果を表2に示した。
【0100】
[比較例1]
上記特許文献2に開示されている下記比較用色素化合物(46)及び比較用顔料分散剤(47)「Solsperse24000SC(登録商標)(Lubrizol社製)」について溶解性評価及び水移行性評価を実施例2と同じ方法で評価した。
【0101】
【化8】

【0102】
評価結果を表2に示した。
【0103】
【表2】

【0104】
表2から、本発明は非極性有機溶媒への溶解性が高く、水移行性が低い色素化合物を与えることが確認された。
【0105】
[実施例3]
本発明の顔料分散体を以下の方法で調製した。
【0106】
<顔料分散体の調製例1>
前記式(2)で表されるアゾ顔料18.0部、顔料分散剤として前記色素化合物(11)0.18部、スチレンモノマー180部、ガラスビーズ(φ1mm)130部を混合し、ペイントシェーカーで3時間分散させメッシュで濾し顔料分散体(101)を得た。
【0107】
<顔料分散体の調製例2>
前記顔料分散体の調製例1において色素化合物(11)を、色素化合物(12)乃至(37)に変更した以外は同様の操作を行って、それぞれ顔料分散体(101)乃至(127)を得た。
【0108】
<顔料分散体の調製例3>
前記顔料分散体の調製例1において色素化合物(11)0.18部を、色素化合物(30)0.08部に変更した以外は同様の操作を行って、顔料分散体(128)を得た。
【0109】
<顔料分散体の調製例4>
前記顔料分散体の調製例1において色素化合物(11)0.18部を、色素化合物(30)2部に変更した以外は同様の操作を行って、顔料分散体(129)を得た。
【0110】
[比較例2]
比較用顔料分散体を以下の方法で調製した。
【0111】
<比較用顔料分散体の調製例1>
前記実施例3の顔料分散体の調製例1において色素化合物(11)を加えない事以外は同様の操作を行って、比較用顔料分散体(130)を得た。
【0112】
<比較用顔料分散体の調製例2>
前記顔料分散体の調製例で使用した色素化合物(11)を、前記比較用色素化合物(46)及び前記比較用顔料分散剤(47)に変更した以外は同様の操作を行って、それぞれ比較用顔料分散体(131)及び(132)を得た。
【0113】
[実施例4]
本発明で得た顔料分散体(101)乃至(129)の色調を以下の方法で評価した。
【0114】
顔料分散体をバーコート法(Bar No.10)によりアート紙に塗布し一昼夜風乾してSpectroLino(Gretag Machbeth社製)にて測色した。色調の評価を以下のように行った。
A:OD(Y)が1.6以上
B:OD(Y)が1.5以上、1.6未満
C:OD(Y)が1.5未満
OD(Y)の値が1.5以上であれば良好な色調であると判断した。
【0115】
顔料分散体の種類、顔料分散剤の種類、及び顔料分散体の色調の評価結果を表3に示した。
【0116】
[比較例3]
比較用顔料分散体(130)乃至(132)を実施例4と同じ方法で評価した。評価結果を表3に示した。
【0117】
【表3】

【0118】
表3より、本発明の色素化合物は良好な色調のアゾ顔料分散体を与える。この事から、アゾ顔料分散剤用色素化合物として有用であることが確認された。
【0119】
[実施例5]
本発明で得た顔料分散体を用いて以下の方法でイエロートナー粒子を製造した。
【0120】
<イエロートナー粒子の製造>
高速撹拌装置TK−ホモミキサー(特殊機化工業社製)を備えた2l用四つ口フラスコ中にイオン交換水710部と0.1mol/l−Na3PO4水溶液450部を添加し回転数を12000rpmに調整し、60℃に加温した。ここに1.0mol/l−CaCl2水溶液68部を徐々に添加し、微小な難水溶性分散安定剤としてCa3(PO42を含む水系分散媒体を調製した。
【0121】
・実施例3の顔料分散体(120) 132部
・スチレン単量体 46部
・n−ブチルアクリレート単量体 34部
・極性樹脂 10部
[プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAとイソフタル酸との重縮合物(Tg=65℃、Mw=10000、Mn=6000)]
・エステルワックス 25部
(DSC測定における最大吸熱ピークのピーク温度=70℃、Mn=704)
・サリチル酸アルミニウム化合物 2部
(オリエント化学工業社製 ボントロンE−88)
・ジビニルベンゼン単量体 0.1部
上記処方を60℃に加温し、TK−ホモミキサーを用いて5000rpmにて均一に溶解・分散した。これに重合開始剤である2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)10部を溶解し、重合性単量体組成物を調製した。
【0122】
前記水系分散媒体中にこの重合性単量体組成物を投入し、回転数12000rpmを維持しつつ15分間造粒した。その後高速撹拌器からプロペラ撹拌羽根に撹拌器を変え、内温を60℃で重合を5時間継続させた後、内温を80℃に昇温させ8時間重合を継続させた。重合反応終了後、80℃、減圧下で残存単量体を留去した後、30℃まで冷却し、重合体微粒子分散液を得た。
【0123】
次に、重合体微粒子分散液を洗浄容器に移し、撹拌しながら、希塩酸を添加し、pH1.5で2時間撹拌し、Ca3(PO42を含むリン酸とカルシウムの化合物を溶解させた後に、ろ過器で固液分離し、重合体微粒子を得た。これを水中に投入して撹拌し、再び分散液とした後に、ろ過器で固液分離した。重合体微粒子の水への再分散と固液分離とをCa3(PO42を含むリン酸とカルシウムの化合物が十分に除去されるまで繰り返し行った。その後に、最終的に固液分離した重合体微粒子を、乾燥機で十分に乾燥してイエロートナーを得た。このとき洗浄溶液に着色は見られなかった。
【0124】
上記結果より、本発明の顔料分散体は、トナー用顔料分散体として好適であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の活用例としては、本発明の色素化合物は種々の用途に適用可能である。即ち、顔料分散剤としての用途にとどまらず、インクジェットインクや感熱転写記録用シート用の着色剤、光記録用色素やカラーフィルター用色素といった電子材料にも適用することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される色素化合物。
【化1】

[一般式(1)中、R1は水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基を表し、R2はCOOR8基、CONR910基を表し(R8及びR9はアルキル基、アリール基、アラルキル基を表し、R10は水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基を表す。)、R3乃至R7はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、アセチルアミノ基、スルファモイル基、アルキル基、アルコキシ基、COOR11基、CONR1213基(R11及びR12はそれぞれ独立してアルキル基、アリール基、アラルキル基を表し、R13は水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基を表す。)及びスルホン酸基又はカルボン酸基及びそれらの塩を表す。但し、一般式(1)中には、1つ又は2つのスルホン酸基又はカルボン酸基及びそれらの塩を有する。]
【請求項2】
前記一般式(1)中、R1がフェニル基であることを特徴とする請求項1に記載の色素化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)中、R2がCONR910基(R9及びR10は、それぞれ独立してアルキル基、アリール基、アラルキル基を表す。)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の色素化合物。
【請求項4】
前記一般式(1)中、R9及びR10の合計炭素原子数が10以上であることを特徴とする請求項3に記載の色素化合物。
【請求項5】
前記一般式(1)中にカルボン酸基及び(又は)その塩を1つ又は2つ有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の色素化合物。
【請求項6】
分子内に有する全てのカルボン酸基及び(又は)その塩の置換位置が、前記一般式(1)中のR3乃至R7のいずれかであることを特徴とする請求項5に記載の色素化合物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の前記一般式(1)で表される色素化合物を少なくとも1種含有することを特徴とする顔料分散剤。
【請求項8】
請求項7に記載の顔料分散剤と、該顔料分散剤により分散されたアゾ顔料を含有することを特徴とする顔料組成物。
【請求項9】
該アゾ顔料と該顔料分散剤との質量組成比が100:0.5乃至100:10である請求項8に記載の顔料組成物。
【請求項10】
該アゾ顔料が、式(2)で表されることを特徴とする請求項8又は9に記載の顔料組成物。
【化2】

【請求項11】
請求項8乃至10のいずれかに記載の顔料組成物と有機溶媒を含むことを特徴とする顔料分散体。
【請求項12】
該有機溶媒がスチレンモノマーであることを特徴とする請求項11に記載の顔料分散体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−254846(P2010−254846A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107975(P2009−107975)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】