説明

色素増感太陽電池

【課題】、簡素な構成で、可視域〜赤外域の広範囲にわたる太陽光の電場増強を同時に行うことができる色素増感太陽電池を提供する。
【解決手段】色素増感型太陽電池10は、金属酸化物を含む多孔質膜4及び該多孔質膜4の一面4aに担持された色素5を有する光電極1と、対極7と、光電極1及び前記対極7の間に介在する電解質層6と、を備える。光電極1は、300nm〜2μmの周期Λを有する構造が表面2aに形成された基板2と、多孔質膜4の他面4bと基板2の表面2aとの間に形成された金属薄膜3と、を更に備える。周期Λは1μm〜2μmであることがさらに好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池に関し、より具体的には、光の波長または光の入射角度を変化させることにより生じる表面プラズモン共鳴電場増強現象を利用した色素増感太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、使用される半導体材料によって、シリコン系、化合物半導体系、有機半導体系、金属酸化物半導体系などに分類される。ここで、金属酸化物半導体系の太陽電池は色素増感太陽電池とも呼ばれ、例えば、導電性ガラス上に塗布・焼結した酸化チタン微粒子の表面上に光増感剤(色素)を結合させて光電極を形成し、この光電極の多孔質酸化チタン内部を電解質で充満させた後、対電極を貼り合わせることで作製される。
【0003】
近年、太陽光を利用した光電変換技術である太陽電池の開発において、電極界面を最適化して光制御を行うことが高効率化の一つのキーポイントとしてさかんに研究が行われている。とりわけ、電極表面で励起される表面プラズモン共鳴効果による色素増感電場増強を利用した太陽電池の応用が注目されている。
【0004】
表面プラズモン共鳴電場増強現象を利用した色素増感太陽電池に関する従来技術として、特許文献1では、光応答分子が固定された金属膜上に断面三角形状を有するガラス製プリズムが当接された光応答電極を備えた湿式太陽電池が開示されている。このようなガラス製プリズムを利用した表面プラズモン共鳴は全反射減衰(ATR)法と呼ばれ、このようなプリズムの配置はクレッチマン(Kretschmann)配置と呼ばれる。
【0005】
また、非特許文献1では、光増感剤を担持した金属微粒子が凝集した不規則な微粒子凝集構造を有する光電極を作成し、光増感剤と金属微粒子との相互作用による表面プラズモン共鳴を用いて光増感剤の吸収係数(ひいてはエネルギー変換効率)を増加させている。なお、特許文献2では、この金属微粒子の表面に金属修飾化合物を更に配置してエネルギー変換効率を高めている。
【0006】
また、特許文献3では、金属微粒子と半導体微粒子の積層構造をなす光電極において、規則的に配列した金属微粒子同士の相互作用により局在型表面プラズモン共鳴を増強して、光増感剤の吸収係数を向上させている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示の色素増感太陽電池では、表面プラズモン共鳴を発生させるプリズムの存在により、装置が大型化するとともにその設計自由度が制限されるといった問題があった。
【0008】
また、可視域の光に対する表面プラズモンの励起波長域は一波長域に制限されるものであった。加えて、共鳴入射角θ等も所定の角度範囲に制限されていた(例えば、特許文献1の第3頁第4欄第48〜50行目に記載のように、電解液が水系の場合、θは70度〜85度であった)。従って、太陽電池に入射させ表面プラズモンを励起して効果的にエネルギー変換できる太陽光の波長域や入射角度は極めて制限されていた。言い換えれば、特許文献1に開示の太陽電池が終日太陽光を浴びたとしても表面プラズモン共鳴による電場増強される時間帯や光の波長が制限されていたといえる。さらに、全反射減衰法の場合は金属電極の裏側からの太陽光照射になるため、表面プラズモンが励起している角度以外は全て全反射され太陽光が色素に到達しないという問題がある。
【0009】
また、特許文献2、特許文献3、及び非特許文献1に開示の色素増感太陽電池は、金属微粒子の局在プラズモンを用いるもので特許文献1のような装置の大型化の問題は発生しないものの、表面プラズモンの励起波長域の制限の問題は残っており、未解決のままであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−340742号公報
【特許文献2】特開2007−265694号公報
【特許文献3】特開2007−335222号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】伊原学他、ジャーナル・オブ・フィジカル・ケミストリー パートB(J.Phys.Chem.PartB)、1997年、第101巻、p.5153
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、以上のような実情に鑑みて提案されたものであり、簡素な構成の色素増感太陽電池を提供することを目的とする。さらに、本発明は、簡素な構成で、複数の波長域に亘って表面プラズモンを同時に共鳴励起することで可視域〜赤外域の広範囲にわたる太陽光の電場増強を同時に行うことができる色素増感太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、表面プラズモン励起手法の一つとしてグレーティング結合法(grating coupling method)に着目し、このグレーティング結合法を色素増感太陽電池に応用し、このグレーティング構造やこれに隣接する薄膜層を適切な構成・寸法に設定すれば、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は次のような構成・特徴を採用するものである。
1.金属酸化物を含む多孔質膜及び該多孔質膜の一面に担持された色素を有する光電極と、対極と、前記光電極及び前記対極の間に介在する電解質層と、を備える色素増感型太陽電池であって、
前記光電極は、300nm〜2μmの周期を有する構造が表面に形成された基板と、前記多孔質膜の他面と前記基板の前記表面との間に形成された金属薄膜と、を更に備えることを特徴とする色素増感太陽電池。
2.前記周期が1μm〜2μmであることを特徴とする1記載の色素増感太陽電池。
3.前記金属酸化物は酸化チタンであり、前記多孔質膜の膜厚が2nm〜50nmであることを特徴とする1又は2記載の色素増感太陽電池。
4.前記色素は前記多孔質膜の前記一面に沿って層状をなし、該層の厚さが5nm〜50nmであることを特徴とする1〜3のいずれか1項記載の色素増感太陽電池。
5.前記色素は、二種以上の色素化合物を含んでいることを特徴とする1〜4のいずれか1項記載の色素増感太陽電池。
【発明の効果】
【0015】
本発明の色素増感太陽電池によれば、従来の全反射減衰(ATR)法を利用した色素増感太陽電池に比べて、プリズムが不要なことから装置全体の簡素化・小型化・設計自由度の向上を図ることができる。例えば、プラスチック製基板上にもグレーティング構造を作製可能であるため、フレキシブルな構造の太陽電池を提供することも可能となる。
【0016】
本発明の色素増感太陽電池によれば、所定寸法の周期を有するグレーティング構造が光電極に形成されるため、複数の波長域に亘って表面プラズモンを同時に共鳴励起することで可視域〜赤外域の広範囲にわたる太陽光の電場増強を同時に行うことができ、ひいてはエネルギー変換効率を飛躍的に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の色素増感太陽電池の概略を示した図である。
【図2】格子構造(グレーティング)の周期(ピッチ)と表面プラズモン励起との関係を示した図である。
【図3】本発明の色素増感太陽電池における表面プラズモン励起特性と色素の光吸収特性とを示した図である。
【図4】表面プラズモン励起が有る場合と無い場合における色素増感太陽電池の短絡光電流特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づき説明するが、本発明は、下記の具体的な実施形態に何等限定されるものではない。
【0019】
本発明の色素増感太陽電池10は、図1にその概略を示すように、金属酸化物を含む多孔質膜4及び該多孔質膜4の一面4aに担持された色素5を有する光電極1と、対極7と、光電極1及び対極7の間に介在する電解質層6と、を備える。
【0020】
ここで、多孔質膜4を構成する金属酸化物としては、酸化チタン(TiO)が好ましく、この多孔質膜4の膜厚は2nm〜50nmが好ましい。また、色素5としては金属錯体のルテニウム(Ru)や有機色素のポルフィリンが挙げられるが、特に、図1に示すように、酸化チタン等を含む多孔質膜4の一面4aに沿って色素5が層状をなし、この層5の厚さが5nm〜50nmであることが好ましく、さらに二種以上の色素化合物5a、5bを含んでいることがさらに好ましい。
【0021】
なお、従来の色素増感太陽電池において色素を含んだ層の厚さは通常100nm以上であるが、本発明では対極7から入射し電解質6及び色素層5を通過した光Iが光電極1にて表面プラズモンを励起させるために色素層5の厚さを1〜50nm程度に極めて薄くする必要がある。
【0022】
また、色素化合物5a、5bを二種以上含ませることで、後述するように、色素層5の光吸収特性(光吸収ピークやそのプロファイル)を調節することができ、例えば、色素層5の光吸収ピークを広くなだらかにさせたり、このピークと表面プラズモン励起波長と一致させたりすることができ、太陽光の電場増強をより効果的に行うことが可能になる。
【0023】
二種以上の色素5a、5bを含んだ色素層5を形成する手法として交互吸着(LbL)法が好ましい。ここで、交互吸着法とは、ガラス基板等の固体表面に互いに反対電荷を有する高分子電解質を交互に吸着させて積層型薄膜を作製する手法である。この手法の利点は、正の電荷を有した一方の種類の色素化合物5aと、負の電荷を有した他方の種類の色素化合物5bとが交互に吸着させることで、色素化合物5a、5bの層が交互に積層された色素層5を形成することができ、各層5a、5bの厚さも1nm程度まで非常に薄くすることもできる。従って、交互吸着の回数・時間を調節することで色素層5の厚さをナノオーダーで所望の寸法に設定することが可能となる。
【0024】
本発明の色素増感太陽電池10では、光電極1が、300nm〜2μmの周期を有する構造が表面2aに形成された基板2と、多孔質膜5の他面5bと基板2の表面2aとの間に形成された金属薄膜3と、を備える点が重要な特徴である。光電極1を以上のような構成にすることで、表面プラズモン共鳴を励起可能な表面格子構造(グレーティング構造)が光電極1内に形成されることになる。
【0025】
ここで、光電極1の一部を構成する基板2として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン等ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等ポリエステル、ポリメタクリル酸メチル等アクリル樹脂、ABS樹脂、エポキシ樹脂、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ナイロン樹脂、フッ素樹脂、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネートなどの樹脂材料や、石英、ガラスなどの無機材料などが挙げられるが、必ずしもこれに限定されない。なお、対極7は、入射光Iを光電極1側に透過させるため、ITOガラス基板等の透明材料が好ましい。
【0026】
また、金属薄膜3の材料は金、銀、銅又はアルミニウムであることが好ましい。これらの材料を使用することにより、金属薄膜3を含んだ光電極1自身を化学反応せず安定に動作させることができる。なお、これらの材料のうち、電気化学的な安定性の観点からは金が特に好ましく、プラズモン励起強度の観点からは銀が特に好ましい。金属薄膜3は、例えば、真空蒸着、スパッタリング、CVD等の手法により基板2の表面2aに堆積させることができる。なお、真空蒸着により堆積される薄膜は接着力が弱く剥がれ易い場合があるので、クロム等の別の金属を基板2の表面2aに予め堆積させた上で蒸着させてもよい。
【0027】
基板2の表面2a上のグレーティング周期Λは1μm〜2μmの範囲内であることが更に好ましい。これにより、可視域〜赤外域の入射光に対して、二又は三つの波長域で表面プラズモンの共鳴励起が可能となり、ひいては、広範囲の波長域で入射光の電場増強が可能となる。なお、グレーティング周期Λが300nm未満になるとプラズモン励起角度が限定される(つまり、低角度側と高角度側でプラズモン励起が起きなくなる)ため好ましくなく、Λが2μmより大きいとプラズモン励起が小さくなるため好ましくない。
【0028】
なお、図2に、グレーティング周期と表面プラズモン励起との関係を示した図である。グレーティング周期Λが1μm未満の場合(例えば、図2(b)に示すΛ=320nmである場合)では、可視域において表面プラズモンの共鳴励起が一波長域でのみしか観察することができない。これは、光の入射角を種々変更しても同様の傾向となっており、具体的には、20度で420nmの波長近傍、40度で540nmの波長近傍、70度で630nmの波長近傍でそれぞれ共鳴励起されている。
【0029】
これに対して、グレーティング周期Λが1μm以上の場合(例えば、図2(a)に示すΛ=1,6μmである場合)では、40度、44度、及び54度のいずれの入射角θでも可視域の光において二又は三つの波長域で表面プラズモンの共鳴励起が確認できる。また、図2(a)に示すΛ=1,6μmの場合は、図2(b)に示すΛ=320nmの場合に比べ、入射角θを僅かに変化させるだけで共鳴励起波長域を大きく変化させることができる。
【実施例1】
【0030】
(色素増感太陽電池の作製方法)
下記の方法で作製された実施例を用いて本発明の色素増感太陽電池10の特徴・性能を説明する。基板2として、周期Λが1.6μmのグレーティング構造が表面2aに形成されたポリカーボネート製基板を用意した。この基板2の表面2a上に膜厚が約130nmとなるよう金薄膜3を真空蒸着法により堆積させた。この金薄膜2の上に更に数十nmオーダーの平均粒径を有する酸化チタン(TiO)の薄膜を電気泳動法により堆積させた。
【0031】
このグレーティング/Au/TiOから構成された光電極1にポルフィリンの一種であるTMPyPと、銅クロロフィリンナトリウム(SCC)と、の二種の色素化合物5a,5bを用いて交互吸着法により超薄膜(各色素層が各20層、層厚さ約20nm)の色素層5を形成した。また、電解質6には、硫酸ナトリウム(NaSO)と硫酸第一鉄七水和物(FeSO・7HO)を混合させた水溶液を用いた。また、対極7にはITO基板を用いた。
【0032】
なお、TMPyPの正式名称は5,10,15,20−Tetrakis(1−methyl−4−pyridinio)porphyrinTetra(p−toluenesulfonate)であり、その化学式はC726612である。このTMPyPは水溶性の赤色色素である。実施例1では純水に溶かしたものをカチオンとして用いた。アニオンとN+とによって吸着する。
【0033】
銅クロロフィリンナトリウムの化学式はC3431CuNNaである。銅クロロフィリンナトリウムは、クロロフィルa(−CH3)とクロロフィルb(−CHO)との混合物のマグネシウムを銅に置換し、極めて安定な水溶性の緑色色素としたものである。実施例1では純水に溶かしたものをアニオンポリマーとして用いた。カチオンとCOO−とによって吸着する。
【0034】
以上のように作製された色素増感太陽電池10の諸特性を、図面を参照しながら以下に説明する。
【0035】
(表面プラズモン励起特性)
図3(a)に入射角θを20度、36度、及び40度に変化させた場合の表面プラズモン励起特性を示す。図3(a)に示すように実際に作製された太陽電池においても、グレーティング構造のみを使用した実験(Λ=1.6μm、図2(a)参照)で確認された複数波長域での表面プラズモン共鳴励起現象と同様の現象が観察された。
【0036】
具体的には、波長域600nm〜770nmにおいて、入射角θが20度の場合は670nm及び760nm近傍の二箇所で共鳴ディップが観測された。入射角θが36度の場合は640nm及び740nm近傍の二箇所で共鳴ディップが観測された。入射角θが40度の場合は、630nm及び725nm近傍の二箇所で共鳴ディップが観測された。
【0037】
(色素の光吸収特性)
図3(b)は実施例1で採用した色素層5の光吸収特性を示す。上述した図3(a)と図3(b)とから、入射角θが36度の場合に共鳴ディップが生じる波長と色素層5の光吸収が極大となる波長とが一致することがわかる。従って、光の入射角θを変化させることで表面プラズモン共鳴励起波長と色素層5の光吸収ピークとを一致させることが可能となる。
【0038】
実施例1の色素層5は、交互吸着法により作製し、二種の色素分子を交互に合計40層分、積層させている。交互吸着法で色素層5を作製する利点は、入射光を光電極1に通過させるための所望の膜厚さを正確に得ることができるとともに、各色素化合物5a,5bが有する光吸収プロファイルやピークを変化させることが可能となる。
【0039】
例えば、図3(c)は、色素層5に採用した色素化合物の一方であるTMPyPの光吸収特性と他方の色素化合物である銅クロロフィリンナトリウム(SCC)の光吸収特性とを示す。この図3(c)に示す各色素の各光吸収プロファイルを重ね合わせた結果と、図3(b)の実施例1の色素層5の光吸収特性とはほぼ一致することがわかる。従って、交互吸着法により二種以上(例えば、二種、四種、六種)の色素化合物を含んだ色素層5を作製することで、光吸収ピークは任意に変更できるとともに、光吸収ピーク近傍の曲線の勾配をなだらかにすることも可能である。これにより、表面プラズモン共鳴励起波長と色素ピーク波長と広範囲に一致することになる。
【0040】
(電気化学特性)
本発明の色素増感太陽電池10の電気化学特性を検証するために、短絡光電流−時間特性の測定を行った。具体的には、ポテンショスタットにより印加電圧0Vの状態で短絡光電流特性を調べた。まず光を遮断した状態で測定を開始し、60秒ごとに光の照射と遮断を繰り返して電流値の変化を測定した。その後、白色光を照射し、入射角θを20度、36度、及び40度に変化させた場合の短絡光電流の測定を行った。その結果を図4(a)、(b)、及び(c)に示す。なお、表面プラズモンを励起するP偏光と表面プラズモンを励起しないS偏光との状態で光電流の大きさの違いも比較した。
【0041】
図4(a)、(b)、及び(c)のいずれの場合でも、表面プラズモンを励起しないS偏光に比べて表面プラズモンを励起するP偏光を照射した場合の方が大きな光電流を発生していることがわかる。特に、入射角θが36度の場合(図4(b)参照)には、約2倍の光電流を発生していることがわかる。この入射角θでの表面プラズモン共鳴励起波長は、図3で示したように色素層5の光吸収ピーク波長と一致しているため、電場増強が促進されたといえる。
【0042】
(多孔質膜/色素層の厚さが電場増強に及ぼす影響)
次に、酸化チタンを含んだ多孔質膜4の厚さと色素層5の厚さと変化させて、上述のような短絡光電流特性試験及びこれに関連する理論計算を行った。表1は、これらのパラメータが表面プラズモン共鳴電場増強に及ぼす影響を示したものである。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示すように、入射光Iを透過し、光電極1において好適な表面プラズモン共鳴電場増強を得るには、多孔質膜4(図中、TiO膜)は5nm〜30nmの厚さを有し、色素層5は10nm〜50nmの厚さを有することが望ましい。さらに好ましくは、多孔質膜4の厚さと色素層5の層厚さとの組合せが、5nm〜15nmと10nm〜15nmである。
【0045】
なお、理論計算上では、色素層5の層厚さを10nm程度に設定すれば多孔質膜4の膜厚は2nm〜50nmの範囲で好適な表面プラズモン共鳴電場増強が得られること、及び、多孔質膜4の膜厚を5nm程度に設定すれば色素層5の層厚さを5nm〜50nmの範囲で好適な表面プラズモン共鳴電場増強が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の色素増感太陽電池は、表面プラズモン共鳴励起による電場増強を得るために、簡素なグレーティング構造を光電極に設けている。これにより、本発明の色素増感太陽電池は、装置全体を簡素にかつ設計自由度を向上させることができるので、産業上の有用性が非常に高い。
【0047】
さらに、本発明の色素増感太陽電池は所定周期のグレーティング構造を採用すれば、一日の日照時間の間で、様々な入射角で又は広範囲の波長域に亘って太陽光のエネルギー変換が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 光電極
2 基板
2a 基板の表面
3 金属薄膜
4 多孔質膜
4a,4b 多孔質膜の表面
5 色素(色素層)
5a,5b 色素化合物
6 電解質
7 対極
10 色素増感太陽電池
Λ グレーティング構造の周期(又はピッチ)
θ 入射角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物を含む多孔質膜及び該多孔質膜の一面に担持された色素を有する光電極と、対極と、前記光電極及び前記対極の間に介在する電解質層と、を備える色素増感型太陽電池であって、
前記光電極は、300nm〜2μmの周期を有する構造が表面に形成された基板と、前記多孔質膜の他面と前記基板の前記表面との間に形成された金属薄膜と、を更に備えることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項2】
前記周期が1μm〜2μmであることを特徴とする請求項1記載の色素増感太陽電池。
【請求項3】
前記金属酸化物は酸化チタンであり、前記多孔質膜の膜厚が2nm〜50nmであることを特徴とする請求項1又は2記載の色素増感太陽電池。
【請求項4】
前記色素は前記多孔質膜の前記一面に沿って層状をなし、該層の厚さが5nm〜50nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の色素増感太陽電池。
【請求項5】
前記色素は、二種以上の色素化合物を含んでいることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の色素増感太陽電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−238426(P2011−238426A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107941(P2010−107941)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】