色素蓄積促進システム、イオン発生装置および色素蓄積促進方法
【課題】植物における色素の蓄積を簡易な方法で促進させる。
【解決手段】植物栽培システム100は、植物50が栽培される空間において正イオンおよび負イオンを発生させるイオン発生装置1を含んでいる。
【解決手段】植物栽培システム100は、植物50が栽培される空間において正イオンおよび負イオンを発生させるイオン発生装置1を含んでいる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物において色素の蓄積を促進する装置、システムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
計画的な農作物生産が望まれる中、天候などの影響を受けにくい施設栽培および植物工場への期待が高まっている。特にレタス等の葉菜類は、栽培に必要な光量が低く、施設栽培および植物工場での栽培が進んでいる。葉菜類の中でも、赤色系リーフレタスは、抗酸化物質の一種であるアントシアニンなどの機能性成分に富み、色取りも鮮やかであるため需要が多い。
【0003】
しかし、施設栽培および植物工場での栽培では、アントシアニンが不足による着色不良が問題となっている。
【0004】
植物(特に、葉菜類)の中には、環境からの刺激(環境ストレス)により色素の蓄積を促進させるものがある。上述の赤色系リーフレタスもそのひとつであり、アントシアニンの生合成は、環境ストレスによって促進される。アントシアニンの生合成を促進する環境ストレスとして、紫外線、低温ストレス、塩ストレス、渇水ストレス(乾燥ストレス)などが挙げられる。
【0005】
図13(a)〜(c)は、太陽光が遮断される栽培環境において色素の蓄積量が低下することを説明するための図である。赤色系リーフレタスを露地栽培した場合(図13(a))には、太陽光に含まれる紫外線によってアントシアニンの蓄積が促進される。
【0006】
一方、グリーンハウス(温室)を用いた施設栽培では、太陽光の一部が遮断され、栽培植物に照射される紫外線の量が減るため、露地栽培に比べてアントシアニンの蓄積量が減少する(図13(b))。さらに植物工場では、人工照明光を用いて栽培されるため、栽培植物に照射される紫外線はきわめて少ない。そのため、植物工場では、露地栽培に比べてアントシアニンの蓄積量がさらに減少する。
【0007】
このような問題を解決するために、特許文献1の発明では、波長400〜500nmの青色成分を含む光線をサニーレタスに照射して葉中のアントシアニンの合成を促進させている。
【0008】
なお、特許文献2には、マイナスイオン(1日当たり3×103〜5×104個/cc)を照射することにより植物(イチゴ、なす、キュウリなど)の成長を促進する方法が開示されているが、植物の色素の蓄積に関する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−204718号公報(2003年7月22日公開)
【特許文献2】特開平11−239418号公報(1999年9月7日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、上記特許文献1に記載の構成では、強い青色光の照射により植物の生育が抑制されると考えられる。そのため、栽培期間が長くなるという問題が生じる。また、青色光を発する光源を設ける必要があるとともに、アントシアニンの蓄積を誘導するために特定の期間にのみ青色光を照射する必要があるため手間がかかるという問題が生じる。
【0011】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、色素が蓄積されにくい栽培条件下で栽培される植物における色素の蓄積を簡易な方法で促進させることができる色素蓄積促進システム、イオン発生装置および色素蓄積促進方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る色素蓄積促進システムは、上記の課題を解決するために、色素が蓄積されにくい栽培条件下で栽培される植物における色素の蓄積を促進する色素蓄積促進システムであって、上記植物が栽培される空間において正イオンおよび負イオンを発生させるイオン発生装置を含むことを特徴としている。
【0013】
上記の構成によれば、イオン発生装置が発生させる正イオンおよび負イオンから活性酸素種である水酸基ラジカルが生じ、この水酸基ラジカルによって植物に酸化ストレスがかかると考えられる。この酸化ストレスによって、二次代謝産物であるポリフェノールの蓄積が誘導される。ポリフェノールは、色素源であり、ポリフェノールの増加により植物が色付く。ポリフェノールの中でも特にアントシアニンの蓄積が顕著であることが本発明の発明者によって確認されている。
【0014】
正イオンおよび負イオンは、植物の成長に悪影響を及ぼさないことが確認されており、正イオンおよび負イオンの処理条件を厳密に設定する必要は必ずしもない。そのため、簡易な方法で植物において色素の蓄積を促進することができる。
【0015】
また、正負イオンは、空気中の浮遊菌、浮遊ウイルス等を除菌・不活化する効果も有するため、植物栽培環境の除菌等もできるという付加的な効果も得られる。
【0016】
また、上記色素蓄積促進システムは、上記イオン発生装置が発生させた正イオンおよび負イオンを拡散させる送風装置をさらに含むことが好ましい。
【0017】
イオン発生装置が発生させた正イオンおよび負イオンを送風装置からの風により拡散させることによって、複数の植物に均一にイオンを照射することができる。
【0018】
それゆえ、一部の植物体が必要以上に着色したり、一部の植物体が着色しなかったりするという個体間のばらつきを抑制することができる。
【0019】
また、上記色素蓄積促進システムは、太陽光に含まれる紫外線の少なくとも一部を遮断する透光部材を透過した光を利用して植物を栽培する植物栽培用構造体の内部に配されてもよい。
【0020】
また、上記透光部材は、ガラス材を含むものであってもよい。
【0021】
太陽光が透光部材を透過することにより紫外線の少なくとも一部が遮断される。特に、この遮断効果は透光部材がガラスである場合に大きい。このような植物栽培用構造体で植物を栽培すると、植物に照射される紫外線が少なくなるため、露地栽培に比べて植物に蓄積する色素、特にアントシアニンの量が減少する。
【0022】
そのため、上記色素蓄積促進システムは、太陽光の一部のみを利用する植物栽培用構造体の内部で栽培される植物の色素を蓄積誘導させるシステムとして好適に利用できる。
【0023】
また、上記色素蓄積促進システムは、紫外線よりも長い波長を有する照明光を発する照明装置の照明光を利用して植物を栽培する植物栽培用構造体の内部に配されてもよい。
【0024】
また、上記照明光は、500nm以上の波長を有するものであってもよい。
【0025】
紫外線や青色光よりも長い波長(例えば、500nm以上の波長)を有する照明光を発する照明装置の照明光を利用して植物を栽培する場合には、植物の着色を促進する波長成分がほとんどないため、露地栽培に比べて植物に蓄積する色素、特にアントシアニンの量が減少する。
【0026】
そのため、上記色素蓄積促進システムは、人工照明を利用する植物栽培用構造体の内部で栽培される植物の色素を蓄積誘導させるシステムとして好適に利用できる。
【0027】
また、上記色素には、ポリフェノール由来の色素が含まれていてもよく、特に、アントシアニン由来の色素が含まれていてもよい。
【0028】
正イオンおよび負イオンの照射によりポリフェノール、特にアントシアニンの蓄積量が増加することが本発明の発明者によって確認されている。ポリフェノールは、色素源であり、ポリフェノールの蓄積量を増加させることにより植物を着色することができる。
【0029】
見方を変えれば、正イオンおよび負イオンの照射対象となる植物は、ポリフェノール、特にアントシアニンを多く含み得る植物であることが好ましい。
【0030】
なお、ポリフェノール由来の色素とは、ポリフェノールそのものであってもよいし、ポリフェノールの前駆体やポリフェノールをもとに生合成された色素であってもよい。また、アントシアニン由来の色素とは、アントシアニンそのものであってもよいし、アントシアニンの前駆体やアントシアニンをもとに生合成された色素であってもよい。
【0031】
また、上記植物は、赤色色素を蓄積可能な葉菜類であってもよい。
【0032】
赤色系の葉菜類に正イオンおよび負イオンを照射することにより、赤色色素の蓄積を促進することができる。
【0033】
また、上記植物の周囲の空間における上記正イオンおよび上記負イオンを含むイオンの平均濃度は、5万個/cm3以上であることが好ましく、10万個/cm3以上であることがより好ましい。
【0034】
酸化ストレスによる色素の蓄積誘導は、正イオンおよび負イオンの濃度に依存しており、その平均濃度(正イオンの濃度と負イオンの濃度との和)が5万個/cm3以上であれば、色素の蓄積が顕著に見られる。より顕著に色素を蓄積させるためには、上記平均濃度は、10万個/cm3以上であることが好ましい。
【0035】
なお、上記植物の周囲の空間とは、当該植物が栽培されている植物栽培用構造体の内部における空間全体を意味するものでは必ずしもない。少なくとも、上記植物の周囲の正イオンおよび負イオンの平均濃度が上述の濃度になっていればよい。
【0036】
また、上記色素蓄積促進システムは、植物を栽培する植物栽培用構造体の内部に配され、上記植物栽培用構造体には、当該植物栽培用構造体の内部の空気を移動させる送風装置が設けられていてもよい。
【0037】
植物栽培用構造体の内部の空気を移動(特に、循環)させる送風装置が植物栽培用構造体の内部に設けられている場合には、その送風装置を利用して、正イオンおよび負イオンを植物栽培用構造体の内部に均一に拡散させることができる。
【0038】
また、上記色素蓄積促進システムに含まれるイオン発生装置も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0039】
本発明に係る色素蓄積促進方法は、上記の課題を解決するために、色素が蓄積されにくい栽培条件下で栽培される植物における色素の蓄積を促進する色素蓄積促進方法であって、正イオンおよび負イオンを上記植物に照射するイオン照射工程を含むことを特徴としている。
【0040】
上記の構成によれば、照射された正イオンおよび負イオンから活性酸素種である水酸基ラジカルが生じ、この水酸基ラジカルによって植物に酸化ストレスがかかると推測される。この酸化ストレスによって、色素(例えば、アントシアニン)の蓄積が誘導される。
【0041】
正イオンおよび負イオンは、植物の成長に悪影響を及ぼさないことが確認されており、正イオンおよび負イオンの処理条件を厳密に設定する必要は必ずしもない。そのため、簡易な方法で植物において色素の蓄積を誘導することができる。
【0042】
また、正負イオンは、空気中の浮遊菌、浮遊ウイルス等を除菌・不活化する効果も有するため、植物栽培環境の除菌等もできるという付加的な効果も得られる。
【0043】
また、上記イオン照射工程は、上記植物の育苗後の栽培期間において連続的に行われてもよい。
【0044】
正イオンおよび負イオンは、植物の成長に悪影響を及ぼさないため、長期間のイオン照射が可能である。
【0045】
また、上記イオン照射工程は、赤色色素を蓄積可能な葉菜類に対して行われてもよい。
【0046】
赤色系の葉菜類に正イオンおよび負イオンを照射することにより、赤色色素の蓄積を促進することができる。
【発明の効果】
【0047】
以上のように、本発明に係る色素蓄積促進システムは、色素が蓄積されにくい栽培条件下で栽培される植物における色素の蓄積を促進する色素蓄積促進システムであって、上記植物が栽培される空間において正イオンおよび負イオンを発生させるイオン発生装置を含む構成である。
【0048】
本発明に係る色素蓄積促進方法は、色素が蓄積されにくい栽培条件下で栽培される植物における色素の蓄積を促進する色素蓄積促進方法であって、正イオンおよび負イオンを上記植物に照射するイオン照射工程を含む構成である。
【0049】
それゆえ簡易な方法で植物において色素の蓄積を促進することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施の形態に係る植物栽培システムの構成を示す図である。
【図2】上記植物栽培システムに含まれるイオン発生装置が備えるイオン発生素子の構成を示す図である。
【図3】(a)は施設栽培における植物栽培システムの作用効果を説明するための図であり、(b)は植物工場における植物栽培システムの作用効果を説明するための図である。
【図4】本発明の別の実施の形態に係る植物栽培システムの構成を示す図である。
【図5】本発明のさらに別の実施の形態に係る植物栽培システムの構成を示す図である。
【図6】(a)および(b)は、本発明の一実施例の構成を示す図である。
【図7】上記実施例の構成を写真で示す図である。
【図8】上記実施例で用いたイオン発生装置の外観を示す図である。
【図9】(a)は24日間正イオンおよび負イオンで処理したロロロッサの葉の状態を示す図であり、(b)は正イオンおよび負イオンを含まない風で処理した場合のロロロッサの葉の状態を示す図である。
【図10】正負イオン処理を27日間行ったロロロッサおよびコントロールのロロロッサの葉における総ポリフェノール含量を示すグラフである。
【図11】正負イオン処理を27日間行ったロロロッサおよびコントロールのロロロッサの葉における総アントシアニン含量を示すグラフである。
【図12】正負イオン処理を27日間行ったロロロッサおよびコントロールのロロロッサの根を含む植物全体の新鮮重を示すグラフである。
【図13】(a)〜(c)は、太陽光が遮断される栽培環境において色素の蓄積量が低下することを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
〔実施の形態1〕
本発明の実施の一形態について図1〜3に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
【0052】
(植物栽培システム100の構成)
図1は、本実施の形態の植物栽培システム(色素蓄積促進システム)100の構成を示す図である。植物栽培システム100は、植物50を栽培するとともに、植物50における色素の蓄積を促進するためのシステムである。図1に示すように植物栽培システム100は、グリーンハウス(植物栽培用構造体)20の内部に設けられている。
【0053】
グリーンハウス20は、ガラス材、ビニールなどからなる透光部材を有しており、太陽光の成分の一部は透光部材を透過して植物50に照射され、太陽光の成分(特に、紫外線)の一部は遮断される。この透光部材とは、例えば、グリーンハウス20がガラス温室である場合、その側面および/または天井のフレーム(窓枠)にはめ込まれたガラス板である。また、グリーンハウス20が、いわゆるビニールハウスである場合には、ビニールハウスの骨格に張られたビニールである。
【0054】
グリーンハウス20は、太陽光の成分の一部を遮断する透光部材を透過した太陽光を利用して植物を栽培する構造体であればよく、その材質、形状および大きさは特に限定されない。
【0055】
グリーンハウス20の内部には、植物栽培システム100を構成するイオン発生装置1、循環扇(送風機)2および、植物50を栽培するための栽培容器5が設けられている。ただし、本発明において重要なのは、栽培中の植物50を色付けることであって、栽培することではない。そのため、植物50を栽培するために必要な部材であっても、植物50を色付けることに関連していない部材は、本発明を構成する部材として認識される必要はない。例えば、栽培容器5、後述するLED7に代表される光源は、本発明の構成要素から除外されてもよい。
【0056】
イオン発生装置1は、正イオン3および負イオン4を発生させるイオン発生素子10を含む装置である。イオン発生素子10の詳細については後述する。なお、以下では、正イオンおよび負イオンを正負イオンと称することもある。
【0057】
循環扇2は、グリーンハウス20の内部の空気を循環させるための送風機である。イオン発生装置1が発生させた正イオンおよび負イオンがグリーンハウス20の内部に拡散するように、イオン発生装置1は、循環扇2の送風口(吹き出し口)の近傍(例えば、前方)に設けられている。それゆえ、循環扇2は、イオン発生装置1が発生させた正イオン3および負イオン4を拡散させる送風装置として機能する。
【0058】
正イオン3および負イオン4が循環扇2によって拡散されることにより、複数の植物50に対して均一に正イオン3および負イオン4を照射することができる。
【0059】
栽培容器5は、培養土または栽培用の固形培地(ウレタン、スポンジなど)を入れるためのプランターであってもよいし、植物50を保持するとともに水耕栽培用の培養液を貯める水槽であってもよい。
【0060】
植物50は、例えば、レタス(レッドファイヤー、ロロロッサなど)、シソなどの赤色系葉菜類であるが、アントシアニン等の色素を蓄積する植物であれば特に限定されない。赤色系葉菜類とは、赤色色素を豊富に蓄積可能な葉菜類を意味する。換言すれば、赤色系葉菜類とは、一般的な露地栽培条件下で赤色色素を豊富に含む葉菜類である。ポリフェノールは植物における色素源であり、アントシアニンはポリフェノールの一種である。そのため、赤色系葉菜類とは、ポリフェノール(特に、アントシアニン)を豊富に含み得る植物であるといえる。
【0061】
なお、栽培容器5において複数の植物体が栽培されるが、互いに異なる品種の植物を同時に栽培してもよい。
【0062】
(イオン発生装置1の詳細)
図2は、イオン発生装置1が備えるイオン発生素子10の構成を示す図である。図2に示すように、イオン発生素子10は、誘電体11、誘電電極12、イオン発生電極13、リード線14および高圧パルス駆動回路15を備えている。
【0063】
誘電体11は、イオン発生素子10の表面に設けられており、この誘電体11の裏側には誘電電極12が設けられている。この誘電電極12と対向するように、誘電体11の表面にはイオン発生電極13が設けられている。イオン発生電極13の形状は網状である必要はなく、針型など公知の形状を有するものであってもよい。さらに、イオンをより効果的に発生させるために、電極パターン形状、エッジ形状および材料等を適宜定めることができる。
【0064】
誘電電極12とイオン発生電極13とは、リード線14を通じて高圧パルス駆動回路15に接続されている。高圧パルス駆動回路15は、イオン発生素子10の内部に設けられている。
【0065】
このようなイオン発生素子10において、誘電電極12とイオン発生電極13との間に、正負電圧からなるピーク値が例えば、2.7kVであるパルス電圧を印加することにより、正イオン3および負イオン4が空間に放出される。
【0066】
上述のイオン発生素子10の構成は、あくまで一例であり、所望の濃度の正負イオンを発生可能な素子であれば、イオン発生素子10の構成は特に限定されない。
【0067】
(植物栽培システム100の作用効果)
ガラスに代表される透光部材は、太陽光に含まれる、紫外線の少なくとも一部を遮断する。図3(a)は、施設栽培における植物栽培システム100(色素蓄積促進方法)の作用効果を説明するための図である。図3(a)に示すように、グリーンハウス20では、ガラス、ビニールなどからなる透光部材を透過した太陽光を利用して植物50を栽培する。太陽光が透光部材を透過することにより紫外線の少なくとも一部が遮断される。特に、この遮断効果は透光部材がガラスである場合に大きい。
【0068】
このようなグリーンハウス20で植物50を栽培すると、植物50に照射される紫外線が少なくなるため、露地栽培に比べて植物50に蓄積するアントシアニンの量が減少する。すなわち、植物50は、色素が蓄積されにくい栽培条件下で栽培される(または、既に一定期間栽培された)植物である。
【0069】
イオン発生装置1をグリーンハウス20の内部に設け、作動させることにより、イオン発生装置1から放出された正イオン3および負イオン4が、循環扇2から送られる風に乗ってグリーンハウス20の内部に拡散する。正イオン3は、H+(H2O)m(mは任意の自然数)を主体とするイオンであり、負イオン4は、O2−(H2O)n(nは任意の自然数)を主体とするイオンである。
【0070】
これら正イオン3および負イオン4が空気中に同時に存在すると、下記の(1)〜(2)式に示すように化学反応して活性酸素種である水酸基ラジカル(・OH)が効率的に生成されると考えられる。
【0071】
H+(H2O)m+O2−(H2O)n
→・OH+1/2O2+(m+n)H2O (1)
H+(H2O)m+H+(H2O)m’+O2−(H2O)n+O2−(H2O)n’
→2・OH+O2+(m+m’+n+n’)H2O (2)
なお、正イオンのみまたは負イオンのみを空気中に放出した場合には、水酸基ラジカルは顕著には生成されず、正イオンおよび負イオンを同時に放出することで、水分子とクラスターを形成し安定化した正イオンと負イオンとが相互反応し、水酸基ラジカルの生成が顕著になると考えられる。
【0072】
生成された水酸基ラジカルが植物50の表面に到達すると、植物50に酸化ストレスを与え、この酸化ストレスに応答してアントシアニンを代表とするポリフェノールなどの二次代謝産物の合成が誘導されると考えられる。
【0073】
植物50の栽培空間における正イオン3および負イオン4の平均濃度は、5万個/cm3以上であることが好ましく、10万個/cm3以上であることがより好ましい。酸化ストレスによる色素の蓄積誘導は、正イオン3および負イオン4の濃度に依存しており、その平均濃度が5万個/cm3以上であれば、色素の蓄積が顕著に見られる。より顕著に色素を蓄積させるためには、正イオン3および負イオン4の平均濃度は、10万個/cm3以上であることが好ましい。
【0074】
なお、正負イオンは、複数の植物個体に均一に照射されることが好ましいが、植物50の栽培空間の全てにおいて均一に正負イオンが分散している必要は必ずしもない。上述の正負イオン濃度は、個々の植物50の周囲における好ましい濃度である。
【0075】
また、正イオンおよび負イオンの濃度とは、正イオンの濃度と負イオンの濃度との和である。
【0076】
現在市販されているプラズマクラスター(シャープ社製)のうち、高濃度の正負イオンを放出するものは、人間の居住空間に約2万5000個/cm3の正負イオンを放出する。それゆえ、植物50に照射される正負イオンの濃度は、菌またはウイルスの除菌・不活化等を目的として人間の居住空間に放出される正負イオンの濃度よりも高いものである。
【0077】
正負イオンは、植物50の生育を阻害しないため、育苗後の栽培期間を通じて正負イオンを照射することができる。すなわち、育苗後の植物50に対して、特に照射時間帯または照射期間を設定せずに連続的に照射してもよい。そのため、正負イオンの照射時間帯および照射期間を細かく設定する必要はない。
【0078】
また、正負イオンは、空気中の浮遊菌、浮遊ウイルス等を除菌・不活化する効果も有するため、植物栽培環境の除菌等もできるという付加的な効果も得られる。
【0079】
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施形態について図3〜4に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、実施の形態1と同様の部材に関しては、同じ符号を付し、その説明を省略する。本発明の植物栽培システム(色素蓄積促進システム)は、紫外線を含まない人工照明を利用して植物を栽培する植物工場(人工気象室)の内部に配されてもよい。本実施形態では、照明装置の照明光を利用して植物を栽培する植物工場(植物栽培用構造体)21の内部に配される植物栽培システム110について説明する。
【0080】
図4は、植物栽培システム110の構成を示す図である。図4に示すように、植物栽培システム110では、イオン発生装置1は、エアコン(空気調節装置、送風装置)6の内部に配されている。エアコン6は、植物工場21の内部の温度を調節するとともに、植物工場21の内部の空気を循環(移動)させる送風装置である。
【0081】
正イオン3および負イオン4は、エアコン6の送風口から、温度調整された空気とともに植物工場21の内部空間に放出され、拡散される。それゆえ、エアコン6は、イオン発生装置1が発生させた正イオン3および負イオン4を拡散させる送風装置として機能する。
【0082】
植物工場21には、照明装置(光源)としてLED(発光ダイオード)7が設けられている。このLED7は、栽培容器5の上方に配されており、紫外線よりも長い波長を有する照明光を出射するものであり、より具体的には、500nm以上の波長を有する赤色の照明光を出射する。赤色光は、葉緑素(クロロフィル)による吸収効率が高く、光合成が促進されることから、近年では赤色LEDを用いたレタスの栽培が行われている。
【0083】
ただし、植物工場21で利用される照明装置は、赤色照明に限定されず、白色照明光を出射するものであってもよく、波長範囲は特に限定されない。また、植物工場21の照明装置は、LEDに限定されず、蛍光灯、ハロゲンランプ等、公知の光源を用いてもよい。
【0084】
(植物栽培システム110の作用効果)
図3(b)は、植物工場における植物栽培システム110の作用効果を説明するための図である。上述のように、植物工場内で植物を栽培する場合にも、紫外線の不足等により植物の葉における色素(特にアントシアニン)の蓄積が起こりにくいという問題が生じる。
【0085】
そこで、植物栽培システム110を植物工場21の内部で稼動させることによりこの問題を解決できる。すなわち、イオン発生装置1から放出される正負イオンによって、植物50における色素の蓄積を促進することができる。
【0086】
〔実施の形態3〕
本発明の他の実施形態について図5に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、実施の形態1と同様の部材に関しては、同じ符号を付し、その説明を省略する。本実施形態では、植物工場21の内部に配される植物栽培システム120について説明する。
【0087】
図5は、植物栽培システム120の構成を示す図である。図4に示すように、植物栽培システム120では、イオン発生装置1は、エアコン6とは別の装置として設けられている。イオン発生装置1は、植物工場21の床に配置されており、植物工場21の天井に向けて(より正確には、斜め上方に)正イオン3および負イオン4を放出する。そのために、イオン発生装置1の内部に送風装置(不図示)が設けられている。
【0088】
正イオン3および負イオン4が植物50に直接照射されることは好ましくないため、植物工場21の内部空間に均等に正イオン3および負イオン4が拡散するようにイオン発生装置1のイオン吹き出し口の向きが調整されている。
【0089】
植物栽培システム120では、既存の植物工場および栽培施設をそのまま利用することができ、初期投資費用を軽減できる。
【0090】
なお、植物栽培用構造体であるグリーンハウス20および植物工場21を本発明の構成要素として捉える必要はない。また、グリーンハウス20または植物工場21の内部において、植物50の周囲の正負イオン濃度を高めるために、植物50の周囲に閉鎖空間を形成する構造体を設け、イオン発生装置1から当該構造体の内部に正負イオンを送り込んでもよい。
【実施例】
【0091】
本発明の一実施例について図6〜図12に基づいて説明すれば、以下のとおりである。ここでは、プラスティックボックス(植物栽培用構造体)30を用いて閉鎖的空間を形成し、植物50として赤色系レタス(ロロロッサ)の栽培を行った例について説明する。
【0092】
(実験条件)
図6(a)および(b)は、本実施例の構成を示す図である。図6(a)は、上方から見た場合の実施例の構成を示す図であり、図6(b)は、側方から見た場合の実施例の構成を示す図である。図7は、本実施例の構成を写真で示す図である。
【0093】
ロロロッサの種子をウレタンキューブには種し、白色蛍光灯を110μmol/m2/sの照射強度で、明期16時間、暗期8時間の周期で点灯させて10日間育苗した。そのときの気温は、明期では25℃であり、暗期では15℃である。
【0094】
上述の条件で10日間育苗した赤色系レタスの苗を、栽培容器5としてのプラスティックタッパーの上に直接載置し、培養液を給肥した。培養液として、大塚ハウスA処方の1/2単位を用いた。
【0095】
光源として白色蛍光灯を用いており、白色蛍光灯は、プラスティックボックス30の上方に配されている。光量は、110μmol/m2/sであり、光の波長は、約400〜700nmである。明期16時間、暗期8時間の周期で蛍光灯を点灯させた。
【0096】
プラスティックボックス30内の温度は、明期では25℃であり、暗期では15℃である。また、プラスティックボックス30内の湿度は約100%である。
【0097】
図8は、本実施例で用いたイオン発生装置1の外観を示す図である。本実施例では、プラズマクラスターイオン発生器IG−B20(シャープ社製)を用いた。イオン発生装置1は、プラスティックボックス30の内部に、イオン吹き出し口を斜め上方に向けて、正イオン3および負イオン4を含む風が直接植物50に照射されないように配置されている。このイオン発生装置1は、その内部に送風装置が設けられているものである。
【0098】
正負イオン処理中は、プラスティックボックス30を密閉しており、プラスティックボックス30内の正イオンおよび負イオンの総濃度は、約128000個/cm3である。イオン発生装置1は、育苗後の正負イオン処理期間中は常時作動させ、正イオンおよび負イオンの濃度を一定に維持した(イオン照射工程)。
【0099】
なお、正負イオン濃度の測定には、市販のイオンカウンター(例えば、明興産業株式会社製イオンカウンターNKMH−103)を用い、1cm3/V・s以上の移動度を有するイオンを測定対象としている。そのとき、正イオンおよび負イオンの濃度をそれぞれ測定している。正イオンおよび負イオンは、ほぼ等量発生する。上述の濃度は、正イオンの濃度と負イオンの濃度との和である。
【0100】
また、正負イオンを発生しないように改造したイオン発生装置を用いて、正負イオンを含まない風をロロロッサにあてた実験系をコントロールとして用意した。正負イオン以外の条件は、上述の条件と同一にした。
【0101】
(実験結果)
上述の条件で24日間、ロロロッサを正負イオン処理した。図9(a)は24日間正負イオンで処理したロロロッサの葉の状態を示す図であり、図9(b)は正負イオンを含まない風で処理した場合のロロロッサの葉の状態を示す図である。
【0102】
図9(a)および(b)の比較から分かるように、正負イオンで処理した場合には、葉において顕著に赤色の着色が認められたが、風コントロールでは着色はほとんど認められなかった。
【0103】
図10は、正負イオン処理を27日間行ったロロロッサおよびコントロールのロロロッサの葉における総ポリフェノール含量を示すグラフである。総ポリフェノール含量の測定には、ロロロッサの葉の先端部を用いた。総ポリフェノール含量の測定は、Folin-Denis法(植物環境工学(2009)21;51−58)に準じた方法で行った。
【0104】
図10に示すように、正負イオン処理した場合には、風コントロールと比べて総ポリフェノール含量が約2倍に増加していた。栽培期間中の継続的な正負イオン処理により、栽培後期にロロロッサの葉で赤色の着色が生じたのは、植物の赤色色素源であるポリフェノールの蓄積量の増加によるものと考えられる。
【0105】
図11は、正負イオン処理を27日間行ったロロロッサおよびコントロールのロロロッサの葉における総アントシアニン含量を示すグラフである。総アントシアニン含量の測定には、ロロロッサの葉の先端部を用いた。総アントシアニン含量の測定は、Lee & Francis法(植物環境工学(2009)21;51−58)に準じた方法で行った。
【0106】
図11に示すように、正負イオン処理した場合には、風コントロールと比べて総アントシアニン含量が約6倍に増加していた。栽培期間中の継続的な正負イオン処理により、栽培後期にロロロッサの葉で赤色の着色が生じたのは、ポリフェノールの一種であるアントシアニンの蓄積量の増加によるものと考えられる。
【0107】
図12は、正負イオン処理を27日間行ったロロロッサおよび風コントロールのロロロッサの根を含む植物全体の新鮮重を示すグラフである。図12に示すように、正負イオン処理を施したロロロッサと風コントロールのロロロッサとでは、新鮮重に有意な差は認められなかった。
【0108】
このことから、栽培期間中の継続的な正負イオン処理による栽培後期でのロロロッサの葉におけるポリフェノールの蓄積は、植物の生育に顕著な影響を及ぼさないことが明らかとなった。この結果から、正負イオンを処理することで生育に顕著な影響を与えずにポリフェノール(特にアントシアニン)量を増加させることが可能であることが明らかとなった。
【0109】
なお、赤色の着色は、正負イオン処理後20日前後、すなわち栽培後期から認められ始めた。この事実から、正負イオン処理によって誘導される色素の蓄積は、比較的穏やかなものであることが分かる。そのため、正負イオン処理が植物の生育に与える影響がほとんどないと考えられる。
【0110】
(効果)
青色光照射、低温処理、塩ストレス処理、渇水処理など、正負イオン処理以外のストレス処理によってもアントシアニンが誘導されると考えられるが、これらの処理は、植物の生育に悪影響を及ぼす可能性が高い。さらには、処理時間または処理濃度を誤れば、植物を枯らせてしまう可能性もある。
【0111】
これに対して、正負イオン処理は、植物の生育に与える影響はほとんどなく、処理時間および処理濃度を厳密に管理する必要もない。そのため、簡易な処理で植物に色素を蓄積させることができる。
【0112】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0113】
例えば、太陽光と人工照明とを併用する栽培施設において上述の植物栽培システムを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明は、既存および新規の植物工場および栽培施設の内部で栽培される植物において色素の蓄積を促進する装置、システムおよび方法として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0115】
1 イオン発生装置
2 循環扇(送風装置)
3 正イオン
4 負イオン
6 エアコン
7 LED
20 グリーンハウス(植物栽培用構造体)
21 植物工場(植物栽培用構造体)
30 プラスティックボックス(植物栽培用構造体)
50 植物
100 植物栽培システム(色素蓄積促進システム)
110 植物栽培システム(色素蓄積促進システム)
120 植物栽培システム(色素蓄積促進システム)
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物において色素の蓄積を促進する装置、システムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
計画的な農作物生産が望まれる中、天候などの影響を受けにくい施設栽培および植物工場への期待が高まっている。特にレタス等の葉菜類は、栽培に必要な光量が低く、施設栽培および植物工場での栽培が進んでいる。葉菜類の中でも、赤色系リーフレタスは、抗酸化物質の一種であるアントシアニンなどの機能性成分に富み、色取りも鮮やかであるため需要が多い。
【0003】
しかし、施設栽培および植物工場での栽培では、アントシアニンが不足による着色不良が問題となっている。
【0004】
植物(特に、葉菜類)の中には、環境からの刺激(環境ストレス)により色素の蓄積を促進させるものがある。上述の赤色系リーフレタスもそのひとつであり、アントシアニンの生合成は、環境ストレスによって促進される。アントシアニンの生合成を促進する環境ストレスとして、紫外線、低温ストレス、塩ストレス、渇水ストレス(乾燥ストレス)などが挙げられる。
【0005】
図13(a)〜(c)は、太陽光が遮断される栽培環境において色素の蓄積量が低下することを説明するための図である。赤色系リーフレタスを露地栽培した場合(図13(a))には、太陽光に含まれる紫外線によってアントシアニンの蓄積が促進される。
【0006】
一方、グリーンハウス(温室)を用いた施設栽培では、太陽光の一部が遮断され、栽培植物に照射される紫外線の量が減るため、露地栽培に比べてアントシアニンの蓄積量が減少する(図13(b))。さらに植物工場では、人工照明光を用いて栽培されるため、栽培植物に照射される紫外線はきわめて少ない。そのため、植物工場では、露地栽培に比べてアントシアニンの蓄積量がさらに減少する。
【0007】
このような問題を解決するために、特許文献1の発明では、波長400〜500nmの青色成分を含む光線をサニーレタスに照射して葉中のアントシアニンの合成を促進させている。
【0008】
なお、特許文献2には、マイナスイオン(1日当たり3×103〜5×104個/cc)を照射することにより植物(イチゴ、なす、キュウリなど)の成長を促進する方法が開示されているが、植物の色素の蓄積に関する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−204718号公報(2003年7月22日公開)
【特許文献2】特開平11−239418号公報(1999年9月7日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、上記特許文献1に記載の構成では、強い青色光の照射により植物の生育が抑制されると考えられる。そのため、栽培期間が長くなるという問題が生じる。また、青色光を発する光源を設ける必要があるとともに、アントシアニンの蓄積を誘導するために特定の期間にのみ青色光を照射する必要があるため手間がかかるという問題が生じる。
【0011】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、色素が蓄積されにくい栽培条件下で栽培される植物における色素の蓄積を簡易な方法で促進させることができる色素蓄積促進システム、イオン発生装置および色素蓄積促進方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る色素蓄積促進システムは、上記の課題を解決するために、色素が蓄積されにくい栽培条件下で栽培される植物における色素の蓄積を促進する色素蓄積促進システムであって、上記植物が栽培される空間において正イオンおよび負イオンを発生させるイオン発生装置を含むことを特徴としている。
【0013】
上記の構成によれば、イオン発生装置が発生させる正イオンおよび負イオンから活性酸素種である水酸基ラジカルが生じ、この水酸基ラジカルによって植物に酸化ストレスがかかると考えられる。この酸化ストレスによって、二次代謝産物であるポリフェノールの蓄積が誘導される。ポリフェノールは、色素源であり、ポリフェノールの増加により植物が色付く。ポリフェノールの中でも特にアントシアニンの蓄積が顕著であることが本発明の発明者によって確認されている。
【0014】
正イオンおよび負イオンは、植物の成長に悪影響を及ぼさないことが確認されており、正イオンおよび負イオンの処理条件を厳密に設定する必要は必ずしもない。そのため、簡易な方法で植物において色素の蓄積を促進することができる。
【0015】
また、正負イオンは、空気中の浮遊菌、浮遊ウイルス等を除菌・不活化する効果も有するため、植物栽培環境の除菌等もできるという付加的な効果も得られる。
【0016】
また、上記色素蓄積促進システムは、上記イオン発生装置が発生させた正イオンおよび負イオンを拡散させる送風装置をさらに含むことが好ましい。
【0017】
イオン発生装置が発生させた正イオンおよび負イオンを送風装置からの風により拡散させることによって、複数の植物に均一にイオンを照射することができる。
【0018】
それゆえ、一部の植物体が必要以上に着色したり、一部の植物体が着色しなかったりするという個体間のばらつきを抑制することができる。
【0019】
また、上記色素蓄積促進システムは、太陽光に含まれる紫外線の少なくとも一部を遮断する透光部材を透過した光を利用して植物を栽培する植物栽培用構造体の内部に配されてもよい。
【0020】
また、上記透光部材は、ガラス材を含むものであってもよい。
【0021】
太陽光が透光部材を透過することにより紫外線の少なくとも一部が遮断される。特に、この遮断効果は透光部材がガラスである場合に大きい。このような植物栽培用構造体で植物を栽培すると、植物に照射される紫外線が少なくなるため、露地栽培に比べて植物に蓄積する色素、特にアントシアニンの量が減少する。
【0022】
そのため、上記色素蓄積促進システムは、太陽光の一部のみを利用する植物栽培用構造体の内部で栽培される植物の色素を蓄積誘導させるシステムとして好適に利用できる。
【0023】
また、上記色素蓄積促進システムは、紫外線よりも長い波長を有する照明光を発する照明装置の照明光を利用して植物を栽培する植物栽培用構造体の内部に配されてもよい。
【0024】
また、上記照明光は、500nm以上の波長を有するものであってもよい。
【0025】
紫外線や青色光よりも長い波長(例えば、500nm以上の波長)を有する照明光を発する照明装置の照明光を利用して植物を栽培する場合には、植物の着色を促進する波長成分がほとんどないため、露地栽培に比べて植物に蓄積する色素、特にアントシアニンの量が減少する。
【0026】
そのため、上記色素蓄積促進システムは、人工照明を利用する植物栽培用構造体の内部で栽培される植物の色素を蓄積誘導させるシステムとして好適に利用できる。
【0027】
また、上記色素には、ポリフェノール由来の色素が含まれていてもよく、特に、アントシアニン由来の色素が含まれていてもよい。
【0028】
正イオンおよび負イオンの照射によりポリフェノール、特にアントシアニンの蓄積量が増加することが本発明の発明者によって確認されている。ポリフェノールは、色素源であり、ポリフェノールの蓄積量を増加させることにより植物を着色することができる。
【0029】
見方を変えれば、正イオンおよび負イオンの照射対象となる植物は、ポリフェノール、特にアントシアニンを多く含み得る植物であることが好ましい。
【0030】
なお、ポリフェノール由来の色素とは、ポリフェノールそのものであってもよいし、ポリフェノールの前駆体やポリフェノールをもとに生合成された色素であってもよい。また、アントシアニン由来の色素とは、アントシアニンそのものであってもよいし、アントシアニンの前駆体やアントシアニンをもとに生合成された色素であってもよい。
【0031】
また、上記植物は、赤色色素を蓄積可能な葉菜類であってもよい。
【0032】
赤色系の葉菜類に正イオンおよび負イオンを照射することにより、赤色色素の蓄積を促進することができる。
【0033】
また、上記植物の周囲の空間における上記正イオンおよび上記負イオンを含むイオンの平均濃度は、5万個/cm3以上であることが好ましく、10万個/cm3以上であることがより好ましい。
【0034】
酸化ストレスによる色素の蓄積誘導は、正イオンおよび負イオンの濃度に依存しており、その平均濃度(正イオンの濃度と負イオンの濃度との和)が5万個/cm3以上であれば、色素の蓄積が顕著に見られる。より顕著に色素を蓄積させるためには、上記平均濃度は、10万個/cm3以上であることが好ましい。
【0035】
なお、上記植物の周囲の空間とは、当該植物が栽培されている植物栽培用構造体の内部における空間全体を意味するものでは必ずしもない。少なくとも、上記植物の周囲の正イオンおよび負イオンの平均濃度が上述の濃度になっていればよい。
【0036】
また、上記色素蓄積促進システムは、植物を栽培する植物栽培用構造体の内部に配され、上記植物栽培用構造体には、当該植物栽培用構造体の内部の空気を移動させる送風装置が設けられていてもよい。
【0037】
植物栽培用構造体の内部の空気を移動(特に、循環)させる送風装置が植物栽培用構造体の内部に設けられている場合には、その送風装置を利用して、正イオンおよび負イオンを植物栽培用構造体の内部に均一に拡散させることができる。
【0038】
また、上記色素蓄積促進システムに含まれるイオン発生装置も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0039】
本発明に係る色素蓄積促進方法は、上記の課題を解決するために、色素が蓄積されにくい栽培条件下で栽培される植物における色素の蓄積を促進する色素蓄積促進方法であって、正イオンおよび負イオンを上記植物に照射するイオン照射工程を含むことを特徴としている。
【0040】
上記の構成によれば、照射された正イオンおよび負イオンから活性酸素種である水酸基ラジカルが生じ、この水酸基ラジカルによって植物に酸化ストレスがかかると推測される。この酸化ストレスによって、色素(例えば、アントシアニン)の蓄積が誘導される。
【0041】
正イオンおよび負イオンは、植物の成長に悪影響を及ぼさないことが確認されており、正イオンおよび負イオンの処理条件を厳密に設定する必要は必ずしもない。そのため、簡易な方法で植物において色素の蓄積を誘導することができる。
【0042】
また、正負イオンは、空気中の浮遊菌、浮遊ウイルス等を除菌・不活化する効果も有するため、植物栽培環境の除菌等もできるという付加的な効果も得られる。
【0043】
また、上記イオン照射工程は、上記植物の育苗後の栽培期間において連続的に行われてもよい。
【0044】
正イオンおよび負イオンは、植物の成長に悪影響を及ぼさないため、長期間のイオン照射が可能である。
【0045】
また、上記イオン照射工程は、赤色色素を蓄積可能な葉菜類に対して行われてもよい。
【0046】
赤色系の葉菜類に正イオンおよび負イオンを照射することにより、赤色色素の蓄積を促進することができる。
【発明の効果】
【0047】
以上のように、本発明に係る色素蓄積促進システムは、色素が蓄積されにくい栽培条件下で栽培される植物における色素の蓄積を促進する色素蓄積促進システムであって、上記植物が栽培される空間において正イオンおよび負イオンを発生させるイオン発生装置を含む構成である。
【0048】
本発明に係る色素蓄積促進方法は、色素が蓄積されにくい栽培条件下で栽培される植物における色素の蓄積を促進する色素蓄積促進方法であって、正イオンおよび負イオンを上記植物に照射するイオン照射工程を含む構成である。
【0049】
それゆえ簡易な方法で植物において色素の蓄積を促進することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施の形態に係る植物栽培システムの構成を示す図である。
【図2】上記植物栽培システムに含まれるイオン発生装置が備えるイオン発生素子の構成を示す図である。
【図3】(a)は施設栽培における植物栽培システムの作用効果を説明するための図であり、(b)は植物工場における植物栽培システムの作用効果を説明するための図である。
【図4】本発明の別の実施の形態に係る植物栽培システムの構成を示す図である。
【図5】本発明のさらに別の実施の形態に係る植物栽培システムの構成を示す図である。
【図6】(a)および(b)は、本発明の一実施例の構成を示す図である。
【図7】上記実施例の構成を写真で示す図である。
【図8】上記実施例で用いたイオン発生装置の外観を示す図である。
【図9】(a)は24日間正イオンおよび負イオンで処理したロロロッサの葉の状態を示す図であり、(b)は正イオンおよび負イオンを含まない風で処理した場合のロロロッサの葉の状態を示す図である。
【図10】正負イオン処理を27日間行ったロロロッサおよびコントロールのロロロッサの葉における総ポリフェノール含量を示すグラフである。
【図11】正負イオン処理を27日間行ったロロロッサおよびコントロールのロロロッサの葉における総アントシアニン含量を示すグラフである。
【図12】正負イオン処理を27日間行ったロロロッサおよびコントロールのロロロッサの根を含む植物全体の新鮮重を示すグラフである。
【図13】(a)〜(c)は、太陽光が遮断される栽培環境において色素の蓄積量が低下することを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
〔実施の形態1〕
本発明の実施の一形態について図1〜3に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
【0052】
(植物栽培システム100の構成)
図1は、本実施の形態の植物栽培システム(色素蓄積促進システム)100の構成を示す図である。植物栽培システム100は、植物50を栽培するとともに、植物50における色素の蓄積を促進するためのシステムである。図1に示すように植物栽培システム100は、グリーンハウス(植物栽培用構造体)20の内部に設けられている。
【0053】
グリーンハウス20は、ガラス材、ビニールなどからなる透光部材を有しており、太陽光の成分の一部は透光部材を透過して植物50に照射され、太陽光の成分(特に、紫外線)の一部は遮断される。この透光部材とは、例えば、グリーンハウス20がガラス温室である場合、その側面および/または天井のフレーム(窓枠)にはめ込まれたガラス板である。また、グリーンハウス20が、いわゆるビニールハウスである場合には、ビニールハウスの骨格に張られたビニールである。
【0054】
グリーンハウス20は、太陽光の成分の一部を遮断する透光部材を透過した太陽光を利用して植物を栽培する構造体であればよく、その材質、形状および大きさは特に限定されない。
【0055】
グリーンハウス20の内部には、植物栽培システム100を構成するイオン発生装置1、循環扇(送風機)2および、植物50を栽培するための栽培容器5が設けられている。ただし、本発明において重要なのは、栽培中の植物50を色付けることであって、栽培することではない。そのため、植物50を栽培するために必要な部材であっても、植物50を色付けることに関連していない部材は、本発明を構成する部材として認識される必要はない。例えば、栽培容器5、後述するLED7に代表される光源は、本発明の構成要素から除外されてもよい。
【0056】
イオン発生装置1は、正イオン3および負イオン4を発生させるイオン発生素子10を含む装置である。イオン発生素子10の詳細については後述する。なお、以下では、正イオンおよび負イオンを正負イオンと称することもある。
【0057】
循環扇2は、グリーンハウス20の内部の空気を循環させるための送風機である。イオン発生装置1が発生させた正イオンおよび負イオンがグリーンハウス20の内部に拡散するように、イオン発生装置1は、循環扇2の送風口(吹き出し口)の近傍(例えば、前方)に設けられている。それゆえ、循環扇2は、イオン発生装置1が発生させた正イオン3および負イオン4を拡散させる送風装置として機能する。
【0058】
正イオン3および負イオン4が循環扇2によって拡散されることにより、複数の植物50に対して均一に正イオン3および負イオン4を照射することができる。
【0059】
栽培容器5は、培養土または栽培用の固形培地(ウレタン、スポンジなど)を入れるためのプランターであってもよいし、植物50を保持するとともに水耕栽培用の培養液を貯める水槽であってもよい。
【0060】
植物50は、例えば、レタス(レッドファイヤー、ロロロッサなど)、シソなどの赤色系葉菜類であるが、アントシアニン等の色素を蓄積する植物であれば特に限定されない。赤色系葉菜類とは、赤色色素を豊富に蓄積可能な葉菜類を意味する。換言すれば、赤色系葉菜類とは、一般的な露地栽培条件下で赤色色素を豊富に含む葉菜類である。ポリフェノールは植物における色素源であり、アントシアニンはポリフェノールの一種である。そのため、赤色系葉菜類とは、ポリフェノール(特に、アントシアニン)を豊富に含み得る植物であるといえる。
【0061】
なお、栽培容器5において複数の植物体が栽培されるが、互いに異なる品種の植物を同時に栽培してもよい。
【0062】
(イオン発生装置1の詳細)
図2は、イオン発生装置1が備えるイオン発生素子10の構成を示す図である。図2に示すように、イオン発生素子10は、誘電体11、誘電電極12、イオン発生電極13、リード線14および高圧パルス駆動回路15を備えている。
【0063】
誘電体11は、イオン発生素子10の表面に設けられており、この誘電体11の裏側には誘電電極12が設けられている。この誘電電極12と対向するように、誘電体11の表面にはイオン発生電極13が設けられている。イオン発生電極13の形状は網状である必要はなく、針型など公知の形状を有するものであってもよい。さらに、イオンをより効果的に発生させるために、電極パターン形状、エッジ形状および材料等を適宜定めることができる。
【0064】
誘電電極12とイオン発生電極13とは、リード線14を通じて高圧パルス駆動回路15に接続されている。高圧パルス駆動回路15は、イオン発生素子10の内部に設けられている。
【0065】
このようなイオン発生素子10において、誘電電極12とイオン発生電極13との間に、正負電圧からなるピーク値が例えば、2.7kVであるパルス電圧を印加することにより、正イオン3および負イオン4が空間に放出される。
【0066】
上述のイオン発生素子10の構成は、あくまで一例であり、所望の濃度の正負イオンを発生可能な素子であれば、イオン発生素子10の構成は特に限定されない。
【0067】
(植物栽培システム100の作用効果)
ガラスに代表される透光部材は、太陽光に含まれる、紫外線の少なくとも一部を遮断する。図3(a)は、施設栽培における植物栽培システム100(色素蓄積促進方法)の作用効果を説明するための図である。図3(a)に示すように、グリーンハウス20では、ガラス、ビニールなどからなる透光部材を透過した太陽光を利用して植物50を栽培する。太陽光が透光部材を透過することにより紫外線の少なくとも一部が遮断される。特に、この遮断効果は透光部材がガラスである場合に大きい。
【0068】
このようなグリーンハウス20で植物50を栽培すると、植物50に照射される紫外線が少なくなるため、露地栽培に比べて植物50に蓄積するアントシアニンの量が減少する。すなわち、植物50は、色素が蓄積されにくい栽培条件下で栽培される(または、既に一定期間栽培された)植物である。
【0069】
イオン発生装置1をグリーンハウス20の内部に設け、作動させることにより、イオン発生装置1から放出された正イオン3および負イオン4が、循環扇2から送られる風に乗ってグリーンハウス20の内部に拡散する。正イオン3は、H+(H2O)m(mは任意の自然数)を主体とするイオンであり、負イオン4は、O2−(H2O)n(nは任意の自然数)を主体とするイオンである。
【0070】
これら正イオン3および負イオン4が空気中に同時に存在すると、下記の(1)〜(2)式に示すように化学反応して活性酸素種である水酸基ラジカル(・OH)が効率的に生成されると考えられる。
【0071】
H+(H2O)m+O2−(H2O)n
→・OH+1/2O2+(m+n)H2O (1)
H+(H2O)m+H+(H2O)m’+O2−(H2O)n+O2−(H2O)n’
→2・OH+O2+(m+m’+n+n’)H2O (2)
なお、正イオンのみまたは負イオンのみを空気中に放出した場合には、水酸基ラジカルは顕著には生成されず、正イオンおよび負イオンを同時に放出することで、水分子とクラスターを形成し安定化した正イオンと負イオンとが相互反応し、水酸基ラジカルの生成が顕著になると考えられる。
【0072】
生成された水酸基ラジカルが植物50の表面に到達すると、植物50に酸化ストレスを与え、この酸化ストレスに応答してアントシアニンを代表とするポリフェノールなどの二次代謝産物の合成が誘導されると考えられる。
【0073】
植物50の栽培空間における正イオン3および負イオン4の平均濃度は、5万個/cm3以上であることが好ましく、10万個/cm3以上であることがより好ましい。酸化ストレスによる色素の蓄積誘導は、正イオン3および負イオン4の濃度に依存しており、その平均濃度が5万個/cm3以上であれば、色素の蓄積が顕著に見られる。より顕著に色素を蓄積させるためには、正イオン3および負イオン4の平均濃度は、10万個/cm3以上であることが好ましい。
【0074】
なお、正負イオンは、複数の植物個体に均一に照射されることが好ましいが、植物50の栽培空間の全てにおいて均一に正負イオンが分散している必要は必ずしもない。上述の正負イオン濃度は、個々の植物50の周囲における好ましい濃度である。
【0075】
また、正イオンおよび負イオンの濃度とは、正イオンの濃度と負イオンの濃度との和である。
【0076】
現在市販されているプラズマクラスター(シャープ社製)のうち、高濃度の正負イオンを放出するものは、人間の居住空間に約2万5000個/cm3の正負イオンを放出する。それゆえ、植物50に照射される正負イオンの濃度は、菌またはウイルスの除菌・不活化等を目的として人間の居住空間に放出される正負イオンの濃度よりも高いものである。
【0077】
正負イオンは、植物50の生育を阻害しないため、育苗後の栽培期間を通じて正負イオンを照射することができる。すなわち、育苗後の植物50に対して、特に照射時間帯または照射期間を設定せずに連続的に照射してもよい。そのため、正負イオンの照射時間帯および照射期間を細かく設定する必要はない。
【0078】
また、正負イオンは、空気中の浮遊菌、浮遊ウイルス等を除菌・不活化する効果も有するため、植物栽培環境の除菌等もできるという付加的な効果も得られる。
【0079】
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施形態について図3〜4に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、実施の形態1と同様の部材に関しては、同じ符号を付し、その説明を省略する。本発明の植物栽培システム(色素蓄積促進システム)は、紫外線を含まない人工照明を利用して植物を栽培する植物工場(人工気象室)の内部に配されてもよい。本実施形態では、照明装置の照明光を利用して植物を栽培する植物工場(植物栽培用構造体)21の内部に配される植物栽培システム110について説明する。
【0080】
図4は、植物栽培システム110の構成を示す図である。図4に示すように、植物栽培システム110では、イオン発生装置1は、エアコン(空気調節装置、送風装置)6の内部に配されている。エアコン6は、植物工場21の内部の温度を調節するとともに、植物工場21の内部の空気を循環(移動)させる送風装置である。
【0081】
正イオン3および負イオン4は、エアコン6の送風口から、温度調整された空気とともに植物工場21の内部空間に放出され、拡散される。それゆえ、エアコン6は、イオン発生装置1が発生させた正イオン3および負イオン4を拡散させる送風装置として機能する。
【0082】
植物工場21には、照明装置(光源)としてLED(発光ダイオード)7が設けられている。このLED7は、栽培容器5の上方に配されており、紫外線よりも長い波長を有する照明光を出射するものであり、より具体的には、500nm以上の波長を有する赤色の照明光を出射する。赤色光は、葉緑素(クロロフィル)による吸収効率が高く、光合成が促進されることから、近年では赤色LEDを用いたレタスの栽培が行われている。
【0083】
ただし、植物工場21で利用される照明装置は、赤色照明に限定されず、白色照明光を出射するものであってもよく、波長範囲は特に限定されない。また、植物工場21の照明装置は、LEDに限定されず、蛍光灯、ハロゲンランプ等、公知の光源を用いてもよい。
【0084】
(植物栽培システム110の作用効果)
図3(b)は、植物工場における植物栽培システム110の作用効果を説明するための図である。上述のように、植物工場内で植物を栽培する場合にも、紫外線の不足等により植物の葉における色素(特にアントシアニン)の蓄積が起こりにくいという問題が生じる。
【0085】
そこで、植物栽培システム110を植物工場21の内部で稼動させることによりこの問題を解決できる。すなわち、イオン発生装置1から放出される正負イオンによって、植物50における色素の蓄積を促進することができる。
【0086】
〔実施の形態3〕
本発明の他の実施形態について図5に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、実施の形態1と同様の部材に関しては、同じ符号を付し、その説明を省略する。本実施形態では、植物工場21の内部に配される植物栽培システム120について説明する。
【0087】
図5は、植物栽培システム120の構成を示す図である。図4に示すように、植物栽培システム120では、イオン発生装置1は、エアコン6とは別の装置として設けられている。イオン発生装置1は、植物工場21の床に配置されており、植物工場21の天井に向けて(より正確には、斜め上方に)正イオン3および負イオン4を放出する。そのために、イオン発生装置1の内部に送風装置(不図示)が設けられている。
【0088】
正イオン3および負イオン4が植物50に直接照射されることは好ましくないため、植物工場21の内部空間に均等に正イオン3および負イオン4が拡散するようにイオン発生装置1のイオン吹き出し口の向きが調整されている。
【0089】
植物栽培システム120では、既存の植物工場および栽培施設をそのまま利用することができ、初期投資費用を軽減できる。
【0090】
なお、植物栽培用構造体であるグリーンハウス20および植物工場21を本発明の構成要素として捉える必要はない。また、グリーンハウス20または植物工場21の内部において、植物50の周囲の正負イオン濃度を高めるために、植物50の周囲に閉鎖空間を形成する構造体を設け、イオン発生装置1から当該構造体の内部に正負イオンを送り込んでもよい。
【実施例】
【0091】
本発明の一実施例について図6〜図12に基づいて説明すれば、以下のとおりである。ここでは、プラスティックボックス(植物栽培用構造体)30を用いて閉鎖的空間を形成し、植物50として赤色系レタス(ロロロッサ)の栽培を行った例について説明する。
【0092】
(実験条件)
図6(a)および(b)は、本実施例の構成を示す図である。図6(a)は、上方から見た場合の実施例の構成を示す図であり、図6(b)は、側方から見た場合の実施例の構成を示す図である。図7は、本実施例の構成を写真で示す図である。
【0093】
ロロロッサの種子をウレタンキューブには種し、白色蛍光灯を110μmol/m2/sの照射強度で、明期16時間、暗期8時間の周期で点灯させて10日間育苗した。そのときの気温は、明期では25℃であり、暗期では15℃である。
【0094】
上述の条件で10日間育苗した赤色系レタスの苗を、栽培容器5としてのプラスティックタッパーの上に直接載置し、培養液を給肥した。培養液として、大塚ハウスA処方の1/2単位を用いた。
【0095】
光源として白色蛍光灯を用いており、白色蛍光灯は、プラスティックボックス30の上方に配されている。光量は、110μmol/m2/sであり、光の波長は、約400〜700nmである。明期16時間、暗期8時間の周期で蛍光灯を点灯させた。
【0096】
プラスティックボックス30内の温度は、明期では25℃であり、暗期では15℃である。また、プラスティックボックス30内の湿度は約100%である。
【0097】
図8は、本実施例で用いたイオン発生装置1の外観を示す図である。本実施例では、プラズマクラスターイオン発生器IG−B20(シャープ社製)を用いた。イオン発生装置1は、プラスティックボックス30の内部に、イオン吹き出し口を斜め上方に向けて、正イオン3および負イオン4を含む風が直接植物50に照射されないように配置されている。このイオン発生装置1は、その内部に送風装置が設けられているものである。
【0098】
正負イオン処理中は、プラスティックボックス30を密閉しており、プラスティックボックス30内の正イオンおよび負イオンの総濃度は、約128000個/cm3である。イオン発生装置1は、育苗後の正負イオン処理期間中は常時作動させ、正イオンおよび負イオンの濃度を一定に維持した(イオン照射工程)。
【0099】
なお、正負イオン濃度の測定には、市販のイオンカウンター(例えば、明興産業株式会社製イオンカウンターNKMH−103)を用い、1cm3/V・s以上の移動度を有するイオンを測定対象としている。そのとき、正イオンおよび負イオンの濃度をそれぞれ測定している。正イオンおよび負イオンは、ほぼ等量発生する。上述の濃度は、正イオンの濃度と負イオンの濃度との和である。
【0100】
また、正負イオンを発生しないように改造したイオン発生装置を用いて、正負イオンを含まない風をロロロッサにあてた実験系をコントロールとして用意した。正負イオン以外の条件は、上述の条件と同一にした。
【0101】
(実験結果)
上述の条件で24日間、ロロロッサを正負イオン処理した。図9(a)は24日間正負イオンで処理したロロロッサの葉の状態を示す図であり、図9(b)は正負イオンを含まない風で処理した場合のロロロッサの葉の状態を示す図である。
【0102】
図9(a)および(b)の比較から分かるように、正負イオンで処理した場合には、葉において顕著に赤色の着色が認められたが、風コントロールでは着色はほとんど認められなかった。
【0103】
図10は、正負イオン処理を27日間行ったロロロッサおよびコントロールのロロロッサの葉における総ポリフェノール含量を示すグラフである。総ポリフェノール含量の測定には、ロロロッサの葉の先端部を用いた。総ポリフェノール含量の測定は、Folin-Denis法(植物環境工学(2009)21;51−58)に準じた方法で行った。
【0104】
図10に示すように、正負イオン処理した場合には、風コントロールと比べて総ポリフェノール含量が約2倍に増加していた。栽培期間中の継続的な正負イオン処理により、栽培後期にロロロッサの葉で赤色の着色が生じたのは、植物の赤色色素源であるポリフェノールの蓄積量の増加によるものと考えられる。
【0105】
図11は、正負イオン処理を27日間行ったロロロッサおよびコントロールのロロロッサの葉における総アントシアニン含量を示すグラフである。総アントシアニン含量の測定には、ロロロッサの葉の先端部を用いた。総アントシアニン含量の測定は、Lee & Francis法(植物環境工学(2009)21;51−58)に準じた方法で行った。
【0106】
図11に示すように、正負イオン処理した場合には、風コントロールと比べて総アントシアニン含量が約6倍に増加していた。栽培期間中の継続的な正負イオン処理により、栽培後期にロロロッサの葉で赤色の着色が生じたのは、ポリフェノールの一種であるアントシアニンの蓄積量の増加によるものと考えられる。
【0107】
図12は、正負イオン処理を27日間行ったロロロッサおよび風コントロールのロロロッサの根を含む植物全体の新鮮重を示すグラフである。図12に示すように、正負イオン処理を施したロロロッサと風コントロールのロロロッサとでは、新鮮重に有意な差は認められなかった。
【0108】
このことから、栽培期間中の継続的な正負イオン処理による栽培後期でのロロロッサの葉におけるポリフェノールの蓄積は、植物の生育に顕著な影響を及ぼさないことが明らかとなった。この結果から、正負イオンを処理することで生育に顕著な影響を与えずにポリフェノール(特にアントシアニン)量を増加させることが可能であることが明らかとなった。
【0109】
なお、赤色の着色は、正負イオン処理後20日前後、すなわち栽培後期から認められ始めた。この事実から、正負イオン処理によって誘導される色素の蓄積は、比較的穏やかなものであることが分かる。そのため、正負イオン処理が植物の生育に与える影響がほとんどないと考えられる。
【0110】
(効果)
青色光照射、低温処理、塩ストレス処理、渇水処理など、正負イオン処理以外のストレス処理によってもアントシアニンが誘導されると考えられるが、これらの処理は、植物の生育に悪影響を及ぼす可能性が高い。さらには、処理時間または処理濃度を誤れば、植物を枯らせてしまう可能性もある。
【0111】
これに対して、正負イオン処理は、植物の生育に与える影響はほとんどなく、処理時間および処理濃度を厳密に管理する必要もない。そのため、簡易な処理で植物に色素を蓄積させることができる。
【0112】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0113】
例えば、太陽光と人工照明とを併用する栽培施設において上述の植物栽培システムを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明は、既存および新規の植物工場および栽培施設の内部で栽培される植物において色素の蓄積を促進する装置、システムおよび方法として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0115】
1 イオン発生装置
2 循環扇(送風装置)
3 正イオン
4 負イオン
6 エアコン
7 LED
20 グリーンハウス(植物栽培用構造体)
21 植物工場(植物栽培用構造体)
30 プラスティックボックス(植物栽培用構造体)
50 植物
100 植物栽培システム(色素蓄積促進システム)
110 植物栽培システム(色素蓄積促進システム)
120 植物栽培システム(色素蓄積促進システム)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
色素が蓄積されにくい栽培条件下で栽培される植物における色素の蓄積を促進する色素蓄積促進システムであって、
上記植物が栽培される空間において正イオンおよび負イオンを発生させるイオン発生装置を含むことを特徴とする色素蓄積促進システム。
【請求項2】
上記イオン発生装置が発生させた正イオンおよび負イオンを拡散させる送風装置をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の色素蓄積促進システム。
【請求項3】
太陽光に含まれる紫外線の少なくとも一部を遮断する透光部材を透過した光を利用して植物を栽培する植物栽培用構造体の内部に配されることを特徴とする請求項1または2に記載の色素蓄積促進システム。
【請求項4】
上記透光部材は、ガラス材を含むことを特徴とする請求項3に記載の色素蓄積促進システム。
【請求項5】
紫外線よりも長い波長を有する照明光を発する照明装置の照明光を利用して植物を栽培する植物栽培用構造体の内部に配されることを特徴とする請求項1または2に記載の色素蓄積促進システム。
【請求項6】
上記照明光は、500nm以上の波長を有するものであることを特徴とする請求項5に記載の色素蓄積促進システム。
【請求項7】
上記色素には、ポリフェノール由来の色素が含まれることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の色素蓄積促進システム。
【請求項8】
上記色素には、アントシアニン由来の色素が含まれることを特徴とする請求項7に記載の色素蓄積促進システム。
【請求項9】
上記植物は、赤色色素を蓄積可能な葉菜類であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の色素蓄積促進システム。
【請求項10】
上記植物の周囲の空間における上記正イオンおよび上記負イオンを含むイオンの平均濃度は、5万個/cm3以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の色素蓄積促進システム。
【請求項11】
上記植物の周囲の空間における上記正イオンおよび上記負イオンを含むイオンの平均濃度は、10万個/cm3以上であることを特徴とする請求項10に記載の色素蓄積促進システム。
【請求項12】
植物を栽培する植物栽培用構造体の内部に配され、
上記植物栽培用構造体には、当該植物栽培用構造体の内部の空気を移動させる送風装置が設けられていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の色素蓄積促進システム。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の色素蓄積促進システムに含まれることを特徴とするイオン発生装置。
【請求項14】
色素が蓄積されにくい栽培条件下で栽培される植物における色素の蓄積を促進する色素蓄積促進方法であって、
正イオンおよび負イオンを上記植物に照射するイオン照射工程を含むことを特徴とする色素蓄積促進方法。
【請求項15】
上記イオン照射工程は、上記植物の育苗後の栽培期間において連続的に行われることを特徴とする請求項14に記載の色素蓄積促進方法。
【請求項16】
上記イオン照射工程は、赤色色素を蓄積可能な葉菜類に対して行われることを特徴とする請求項14または15に記載の色素蓄積促進方法。
【請求項1】
色素が蓄積されにくい栽培条件下で栽培される植物における色素の蓄積を促進する色素蓄積促進システムであって、
上記植物が栽培される空間において正イオンおよび負イオンを発生させるイオン発生装置を含むことを特徴とする色素蓄積促進システム。
【請求項2】
上記イオン発生装置が発生させた正イオンおよび負イオンを拡散させる送風装置をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の色素蓄積促進システム。
【請求項3】
太陽光に含まれる紫外線の少なくとも一部を遮断する透光部材を透過した光を利用して植物を栽培する植物栽培用構造体の内部に配されることを特徴とする請求項1または2に記載の色素蓄積促進システム。
【請求項4】
上記透光部材は、ガラス材を含むことを特徴とする請求項3に記載の色素蓄積促進システム。
【請求項5】
紫外線よりも長い波長を有する照明光を発する照明装置の照明光を利用して植物を栽培する植物栽培用構造体の内部に配されることを特徴とする請求項1または2に記載の色素蓄積促進システム。
【請求項6】
上記照明光は、500nm以上の波長を有するものであることを特徴とする請求項5に記載の色素蓄積促進システム。
【請求項7】
上記色素には、ポリフェノール由来の色素が含まれることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の色素蓄積促進システム。
【請求項8】
上記色素には、アントシアニン由来の色素が含まれることを特徴とする請求項7に記載の色素蓄積促進システム。
【請求項9】
上記植物は、赤色色素を蓄積可能な葉菜類であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の色素蓄積促進システム。
【請求項10】
上記植物の周囲の空間における上記正イオンおよび上記負イオンを含むイオンの平均濃度は、5万個/cm3以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の色素蓄積促進システム。
【請求項11】
上記植物の周囲の空間における上記正イオンおよび上記負イオンを含むイオンの平均濃度は、10万個/cm3以上であることを特徴とする請求項10に記載の色素蓄積促進システム。
【請求項12】
植物を栽培する植物栽培用構造体の内部に配され、
上記植物栽培用構造体には、当該植物栽培用構造体の内部の空気を移動させる送風装置が設けられていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の色素蓄積促進システム。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の色素蓄積促進システムに含まれることを特徴とするイオン発生装置。
【請求項14】
色素が蓄積されにくい栽培条件下で栽培される植物における色素の蓄積を促進する色素蓄積促進方法であって、
正イオンおよび負イオンを上記植物に照射するイオン照射工程を含むことを特徴とする色素蓄積促進方法。
【請求項15】
上記イオン照射工程は、上記植物の育苗後の栽培期間において連続的に行われることを特徴とする請求項14に記載の色素蓄積促進方法。
【請求項16】
上記イオン照射工程は、赤色色素を蓄積可能な葉菜類に対して行われることを特徴とする請求項14または15に記載の色素蓄積促進方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2012−135288(P2012−135288A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291217(P2010−291217)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】
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