説明

色補正フィルター、画像表示装置および液晶表示装置

【課題】 画像表示装置の輝度の低下を抑制しつつ、中間色の光を除去し、画像表示装置の色調表現を向上させることが可能な色補正フィルターを提供する。
【解決手段】 本発明の色補正フィルターは、色素のJ会合体を含む色補正層を有し、前記色素が、シアニン、メロシアニン、スクエアリリウムおよびポルフィリンからなる群から選択される少なくとも一つの色素であり、前記色補正層の最大吸収ピークの半値幅が、5〜30nmの範囲であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色補正フィルター、画像表示装置および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、冷陰極管や発光ダイオード(LED)等の光源装置が発する光を、液晶パネルによって制御し、画像を形成する液晶表示装置が開発され、実用化されている。前記液晶表示装置では、前記光源装置からの光を均等に表示面全体に分布させるために、導光板が前記液晶パネルと重なり合うように平行に、且つ前記光源装置に続く光路上に配置されている。前記光源装置は、前記導光板の横、または前記導光板の前記液晶パネルとは反対側に配置される。
【0003】
図6の断面図に、従来の液晶表示装置の構成を示す。図示のとおり、この液晶表示装置は、液晶パネル61、冷陰極管64および導光板65を主要な構成部材として有する。前記液晶パネル61は、液晶セル62の両側に、それぞれ、第1の偏光板631および第2の偏光板632が配置された構成である。前記液晶セル62は、その中心に液晶層640を備える。前記液晶層640の両側には、それぞれ、第1の配向膜651および第2の配向膜652が配置されている。前記第1の配向膜651および前記第2の配向膜652のそれぞれの外側には、第1の透明電極661および第2の透明電極662が配置されている。前記第1の透明電極661の外側には、所定の配列のR(赤)、G(緑)、B(青)等のカラーフィルター670とブラックマトリクス690とが保護膜680を介して配置されている。前記カラーフィルター670とブラックマトリクス690および前記第2の透明電極662の外側には、それぞれ、第1の基板601および第2の基板602が配置されている。前記液晶パネル61において、前記第1の偏光板631側が、表示面側であり、前記第2の偏光板632側が、裏面側となる。前記導光板65は、前記液晶パネル61の裏面側に、前記液晶パネル61と重なり合うように平行に配置されている。前記冷陰極管64は、前記導光板65の前記液晶パネル61とは反対側に配置されている。
【0004】
この液晶表示装置では、前記冷陰極管64が発する光が、前記導光板65により面内での輝度分布が均一になるように調整されて前記第2の偏光板632側へ出射される。さらに、前記出射光が前記液晶層640で画素ごとに制御された後、前記カラーフィルター670により所定の波長帯域(例えば、R、G、Bそれぞれの波長帯域)の光のみが透過されてカラー表示が実現される。
【0005】
本来、液晶表示装置においてカラー画像を表示するためには、少なくとも三色の光が必要である。これら三色の光の混合度合いにより、多くの色調が表現される。現在、液晶表示装置に一般的に使用されているのは、R、G、Bの三原色の光である、前記三原色の光に対応する波長帯域は、それぞれ、Rが約610〜750nmの範囲、Gが約500〜560nmの範囲、Bが約435〜480nmの範囲である。液晶表示装置は、広い波長範囲の発光スペクトルを有する光源装置(例えば、冷陰極管)からの発光を、前記三原色の光のそれぞれに対応したカラーフィルターで必要な波長帯域以外の光をカットすることで、前記三原色の光が得られるよう設計されている。それぞれのカラーフィルターから出射される光の量は、前記カラーフィルターに入射される光の量が、前記カラーフィルターより光源装置側に配置された液晶パネルの各構成部材によって制御されることで決定される。最終的に、液晶表示装置の画素単位の色調と発光強度は、画素中の前記三原色の光の強度を調整することにより決定される。従って、画素中の前記三原色の光の色純度が高いほど、前記三原色の光が混合されることにより形成される色調の範囲は広くなり、より好ましい。
【0006】
しかしながら、従来の液晶表示装置では、冷陰極管の発光スペクトル中にR、G、B以外の中間色(Rの波長帯域とGの波長帯域との間の波長帯域の黄色の光、Gの波長帯域とBの波長帯域との間の波長帯域の光等)が混じっており、これがカラーフィルターで十分にカットされないため、結果として表示画質の色調が低下するという問題があった。また、R、G、Bの三原色に対応するLEDを光源装置として使用する場合においては、色調表現は優れるものの、制御回路が複雑となり、コストも高くなるという問題があった。
【0007】
また、青色LEDの発光と蛍光物質であるイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)の黄色発光とにより白色光を作り出し、これを光源(擬似白色光源)として使用する液晶表示装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この液晶表示装置では、前記擬似白色光源が冷陰極管よりも前記中間色の光を多く含むため、色調表現に劣る。
【0008】
一方、波長575〜605nmの黄色の光(Rの波長帯域とGの波長帯域との間の波長帯域の光)を吸収し、波長610nm以上のRの光を発する蛍光材料を有し、この蛍光材料により光源の発光スペクトル中の黄色の光をRの光に変換する液晶表示装置用の光学装置が提案されている(特許文献2参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2004−117594号公報
【特許文献2】特開2005−276586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記液晶表示装置用の光学装置においても、前記中間色の光の除去は完全ではなく、色調表現に劣る。特に、Rの波長帯域への前記黄色の光の混合が、目視上の画質の低下に大きく影響しており、Rの光の色純度の向上が大きな課題となっている。また、一般の蛍光材料は、吸収ピークが最もシャープな部類のものであっても、最大吸収ピークの半値幅が、50〜100nmと広い。このため、前記蛍光材料を有する前記液晶表示装置用の光学装置においては、前記黄色の光に加えて、前記Rの光も吸収される。この結果、前記光学装置を用いた液晶表示装置では、輝度が低下する。
【0011】
そこで、本発明は、画像表示装置の輝度の低下を抑制しつつ、中間色の光を除去し、画像表示装置の色調表現を向上させることが可能な色補正フィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明の色補正フィルターは、
色素のJ会合体を含む色補正層を有し、
前記色素が、シアニン、メロシアニン、スクエアリリウムおよびポルフィリンからなる群から選択される少なくとも一つの色素であり、
前記色補正層の最大吸収ピークの半値幅が、5〜30nmの範囲であることを特徴とする。
【0013】
本発明の画像表示装置は、色補正フィルターを含む画像表示装置であって、前記色補正フィルターが、前記本発明の色補正フィルターであることを特徴とする。
【0014】
本発明の液晶表示装置は、色補正フィルターを含む液晶表示装置であって、前記色補正フィルターが、前記本発明の色補正フィルターであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の色補正フィルターは、色素のJ会合体を含む色補正層を有する。前記色補正層の最大吸収ピークの半値幅は、5〜30nmの範囲と極めて狭い。このため、本発明の色補正フィルターによれば、中間色の光を選択的に吸収し、除去することが可能である。従って、本発明の色補正フィルターを用いれば、画像表示装置の輝度の低下を抑制しつつ、色調表現を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において、前記色補正層の最大吸収ピークの半値幅とは、前記色補正層の最大吸収ピークにおいて、極大の吸光度の半分の値をとる2点の波長の差である。前記半値幅は、例えば、後述の実施例に記載のように、前記色補正層の吸収スペクトルを紫外可視分光光度計で測定することで得られる前記色補正層の最大吸収ピークから求めることができる。
【0017】
本発明において、「色調表現の向上」とは、例えば、Rの色調表現に影響を与えるRとGとの中間色である黄色の光を選択的に吸収し、除去することで、Rの色調表現を向上させること等が含まれる。この「色調表現の向上」の結果、例えば、Rの光の色純度が向上する。
【0018】
本発明の色補正フィルターにおいて、前記色補正層の最大吸収ピーク波長が、560〜610nmの範囲にあることが好ましい。
【0019】
本発明の色補正フィルターにおいて、前記色補正層の波長560〜610nmの範囲における吸光度の最大値が、0.8以上であることが好ましい。
【0020】
本発明の色補正フィルターにおいて、前記色素が、シアニンであることが好ましい。
【0021】
本発明の色補正フィルターにおいて、前記シアニンが、下記一般式(1)〜(4)からなる群から選択される少なくとも一つの式で表されることが好ましい。
【化3】

前記一般式(1)において、
11およびZ12は、それぞれ、−NH−、−CH−、−CH=CH−またはヘテロ原子であり、置換基を有していても有していなくても良く、Z11およびZ12は同一でも異なっていても良い。前記へテロ原子は、特に制限されないが、例えば、S、Se、O等が挙げられる。前記置換基としては、特に制限されないが、例えば、アルキル基、ハロゲン原子、オキソ基(=O)等が挙げられる。Z11およびZ12において、例えば、−NH−、−CH−または−CH=CH−の水素原子(H)のうち少なくとも一つが、アルキル基およびハロゲン原子の少なくとも一方で置換されていても良い。また、Z11およびZ12において、例えば、前記S原子が、オキソ基を置換基として有し、SOまたはSOであっても良い。前記アルキル基としては、例えば、炭素原子数1〜12の直鎖または分枝アルキル基が好ましい。
環Ar11およびAr12は、それぞれ、含窒素環との縮合部分以外において不飽和結合を有していても有していなくても良く、芳香族性を有していても有していなくても良く、ヘテロ原子を有していても有していなくても良く、さらに置換基を有していても有していなくても良く、環Ar11およびAr12は同一でも異なっていても良い。前記置換基は、特に制限されないが、例えば、アルキル基およびハロゲン原子の少なくとも一方が好ましい。前記アルキル基としては、例えば、炭素原子数1〜12の直鎖または分枝アルキル基が好ましい。環Ar11およびAr12は、特に制限されないが、例えば、5〜10員環が好ましい。より具体的には、例えば、ベンゼン環、ピリジン環、ナフタレン環等が挙げられる。R11およびR12は、それぞれ、水素原子、または直鎖もしくは分枝アルキル基であり、前記アルキル基は、さらにイオン性置換基で置換されていても置換されていなくても良く、R11およびR12は同一でも異なっていても良い。前記アルキル基としては、例えば、炭素原子数1〜18の直鎖または分枝アルキル基が好ましい。前記イオン性置換基は、特に制限されないが、アニオン性置換基が好ましく、前記アルキル基の末端が前記イオン性置換基で置換されていることが好ましい。前記アニオン性置換基は、特に制限されないが、例えば、スルホン酸基、カルボン酸基等が挙げられ、好ましくは、スルホン酸基である。より具体的には、例えば、前記アルキル基は、末端がスルホ基で置換されたスルホアルキル基、または末端がカルボキシ基で置換されたカルボキシアルキル基であっても良い。また、前記イオン性置換基のカウンターイオン(対イオン)は、特に制限されない。前記イオン性置換基がアニオン性置換基である場合、カウンターイオン(カチオン)は、例えば、水素イオン、金属イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。また、例えば、前記式(1)〜(4)中のN自体が前記アニオン性置換基のカウンターイオンであっても良い。前記金属イオンとしては、特に制限されないが、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン等が挙げられる。前記アルカリ金属イオンとしては、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs等が挙げられる。前記アルカリ土類金属イオンとしては、例えば、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+等が挙げられる。前記アンモニウムイオンとしては、特に制限されないが、例えば、NH、アルキルアンモニウムイオン等が挙げられる。前記アルキルアンモニウムイオンとしては、特に制限されないが、例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、トリメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン等が挙げられる。

前記一般式(2)〜(4)において、
Rは、水素原子、または直鎖もしくは分枝アルキル基であり、各Rは同一でも異なっていても良い。前記アルキル基としては、例えば、炭素原子数1〜12の直鎖または分枝アルキル基が好ましい。

前記一般式(1)〜(4)において、
R’は、水素原子、直鎖もしくは分枝アルキル基、または芳香族基であり、前記アルキル基は、好ましくは、炭素原子数1〜18の直鎖もしくは分枝アルキル基であり、各R’は同一でも異なっていても良く、
nは、0または任意の正の整数であり、各nは同一でも異なっていても良い。nとしては、例えば、0、1または2が好ましい。

さらに、前記一般式(1)〜(4)において、式中におけるNのカウンターイオン(アニオン)は、特に制限されず、1価のアニオンでも多価アニオンでも良く、1種類でも複数種類でも良い。1価のアニオンとしては、特に制限されないが、例えば、ハロゲン化物イオン、次亜ハロゲン酸イオン、亜ハロゲン酸イオン、ハロゲン酸イオン、過ハロゲン酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF)、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(CFCOO)等が挙げられ、F、Cl、Br、IおよびClOからなる群から選択される少なくとも一つが特に好ましい。多価アニオンとしては、特に制限されないが、例えば、硫酸イオン、亜硫酸イオン等が挙げられる。

なお、本発明において、「ハロゲン」とは、任意のハロゲン元素を指すが、例えば、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。また、本発明において、「アルキル基」とは、特に限定されない。前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。アルキル基を構造中に含む基またはアルキル基から誘導される基(スルホアルキル基、カルボキシアルキル基、アルコキシ基等)についても同様である。また、置換基等が、鎖状構造を有する基(例えば、アルキル基、スルホアルキル基、カルボキシアルキル基、アルコキシ基等)である場合、特に制限しない限り、直鎖状でも分枝状でも良い。さらに、置換基等に異性体が存在する場合は、特に制限がない限り、どの異性体でも良い。例えば、単に「プロピル基」という場合はn−プロピル基およびイソプロピル基のどちらでも良い。単に「ブチル基」という場合は、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基およびtert−ブチル基のいずれでも良い。単に「ナフチル基」という場合は、1−ナフチル基および2−ナフチル基のどちらでも良い。
【0022】
本発明の色補正フィルターにおいて、前記シアニンが、下記構造式(5)〜(7)からなる群から選択される少なくとも一つで表されることが好ましい。
【化4】

前記構造式(6)において、
61およびR62は、それぞれ、水素原子、または直鎖もしくは分枝アルキル基であり、前記アルキル基は、炭素数が4以下の直鎖または分枝アルキル基が好ましく、R61およびR62は同一でも異なっていても良い。
mおよびlは、それぞれ、任意の正の整数であり、1〜4が好ましく、mおよびlは同一でも異なっていても良い。

なお、前記構造式(5)は、前記一般式(4)の好ましい形態であり、前記構造式(6)および(7)は、前記一般式(1)の好ましい形態である。したがって、前記構造式(5)および(6)において、カウンターイオン等は、前記一般式(1)〜(4)と同様である。前記構造式(6)において、一方のスルホン酸イオン(−SO)のカウンターイオンは、前記構造式(6)中のNである。もう一方のスルホン酸イオン(−SO)のカウンターイオンは、特に制限されないが、例えばアルカリ金属イオンが好ましく、Li、Na、およびKからなる群から選択される少なくとも一つが特に好ましい。また、前記構造式(6)で表される化合物(イオン)は、下記構造式(8)で表される化合物(イオン)であることが特に好ましい。
【化5】

【0023】
本発明の色補正フィルターにおいて、前記色素が、前記構造式(5)で表されるイオンのBr塩である色素(1−エチル−2−[(1−エチル−2(1H)−キノリニデン)メチル]キノリニウムブロミド)であることが特に好ましい。この色素は、そのJ会合体の最大吸収ピークの半値幅が特に狭く(例えば、11nm以下)、これを用いれば、画像表示装置の輝度の低下をより抑制しつつ、色調表現を向上させることが可能だからである。
【0024】
本発明の色補正フィルターにおいて、前記色補正層の厚みは、10〜500nmの範囲であることが好ましく、より好ましくは、30〜400nmの範囲であり、さらに好ましくは、50〜300nmの範囲である。
【0025】
本発明の色補正フィルターにおいて、さらに、基材を含み、前記基材の少なくとも一方の面に、前記色補正層が形成されていてもよい。
【0026】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0027】
本発明において、色補正フィルターの平面形状は、例えば、矩形であり、正方形であってもよいし、長方形であってもよいが、好ましくは長方形である。前記色補正フィルターは、色素のJ会合体を含む色補正層を有する。
【0028】
前述のとおり、前記色補正層の最大吸収ピークの半値幅は、5〜30nmの範囲である。前記半値幅が前記範囲にあることで、色調表現に必要な波長帯域の光(例えば、Rの光)を吸収することなく、中間色の光を選択的に除去できる。前記半値幅は、好ましくは、7〜28nmの範囲であり、より好ましくは、8〜27nmの範囲であり、さらに好ましくは、8〜15nmの範囲である。
【0029】
前述のとおり、前記色補正層の最大吸収ピーク波長は、560〜610nmの範囲にあることが好ましい。前記最大吸収ピーク波長が前記範囲にあれば、例えば、色調表現に必要な光(例えば、Rの光)の相対的な発光強度を低下させずにすむ。
【0030】
前述のとおり、前記色補正層の波長560〜610nmの範囲における吸光度の最大値は、0.8以上であることが好ましい。前記吸光度の最大値は、より好ましくは、0.9以上である。前記吸光度の最大値は、例えば、前記色補正層の厚みを調整することにより、当業者であれば、過度の試行錯誤を要することなく容易に達成できる。また、前記色補正層の波長560〜610nmの範囲全体における吸光度が0.8以上であることがより好ましく、0.9以上であることがさらに好ましい。前記色補正層の厚みは、前述のとおりである。
【0031】
前記「J会合体」は、例えば、複数の色素分子がその遷移モーメントの向きに対して縦(Head−to−tail)に会合し、且つ、前記色素分子間のずれ角が小さい(およそ80°以下)、一次元的な構造をしている。前記色素のJ会合体は、可視光領域における光吸収帯が、色素が1分子のときと比べて長波長側にシフトすると共に、その幅が狭くなることを特徴とする。前記シフト量は、例えば、30〜60nmの範囲である。また、前記J会合体の最大吸収ピークの半値幅は、例えば、30nm以下である。前記「J会合体」は、例えば、T.Kobayashi,“J−Aggregates”,World Scientific(1996)に記載のものをいう。
【0032】
前記「J会合体」を形成する色素としては、シアニン、メロシアニン、スクエアリリウム、ポルフィリンが挙げられる。
【0033】
前記シアニンは、2個の含窒素複素環が奇数個のメチン基で結合された構造を持つ色素である。前記2個の含窒素複素環のうち、一方の含窒素複素環中の窒素は、第3級アミンであり、他方の含窒素複素環中の窒素は、第4級アンモニウムである。前記シアニンは、例えば、前記一般式(1)〜(4)で表される。なお、狭義には、例えば、前記式(2)においてn=0である化合物を「シアニン」ということがあり、前記式(3)においてn=0である化合物を「イソシアニン」ということがあり、前記式(4)においてn=0である化合物を「プソイドシアニン」ということがある。しかし、本発明において「シアニン」とは、前記のとおり、2個の含窒素複素環が奇数個のメチン基で結合され、一方の含窒素複素環中の窒素は、第3級アミンであり、他方の含窒素複素環中の窒素は、第4級アンモニウムである色素を総称する用語である。
【0034】
下記表1に、前記一般式(1)で表されるシアニンの具体例を示す。この例のシアニンは、下記表1の上部に示した一般式(1−2)で表され、より具体的には、下記表1の化合物番号1−2−1〜1−2−8で表される。
【表1】

【0035】
前記メロシアニンは、非イオン性の色素であり、例えば、下記一般式(9)で表される。
【化6】

前記一般式(9)において、
91およびZ92は、それぞれ、−NH−、−CH−、−CH=CH−またはヘテロ原子であり、置換基を有していても有していなくても良く、Z91およびZ92は同一でも異なっていても良い。前記へテロ原子は、特に制限されないが、例えば、S、Se、O等が挙げられる。前記置換基としては、特に制限されないが、例えば、アルキル基、ハロゲン原子、オキソ基(=O)等が挙げられる。Z91およびZ92において、例えば、−NH−、−CH−または−CH=CH−の水素原子(H)のうち少なくとも一つが、アルキル基およびハロゲン原子の少なくとも一方で置換されていても良い。また、Z91およびZ92において、例えば、前記S原子が、オキソ基を置換基として有し、SOまたはSOであっても良い。前記アルキル基としては、例えば、炭素原子数1〜10の直鎖または分枝アルキル基が好ましい。
環Ar91は、含窒素環との縮合部分以外において不飽和結合を有していても有していなくても良く、芳香族性を有していても有していなくても良く、ヘテロ原子を有していても有していなくても良く、さらに置換基を有していても有していなくても良い。前記置換基は、特に制限されないが、例えば、アルキル基およびハロゲン原子の少なくとも一方が好ましい。前記アルキル基としては、例えば、炭素原子数1〜12の直鎖または分枝アルキル基が好ましい。環Ar91は、特に制限されないが、例えば、5〜10員環が好ましい。より具体的には、例えば、ベンゼン環、ピリジン環、ナフタレン環等が挙げられる。
92およびR93は、それぞれ、水素原子、または直鎖もしくは分枝アルキル基であり、前記アルキル基は、さらにイオン性置換基で置換されていても置換されていなくても良く、R92およびR93は同一でも異なっていても良い。前記アルキル基としては、例えば、炭素原子数1〜20の直鎖または分枝アルキル基が好ましい。前記イオン性置換基は、特に制限されないが、アニオン性置換基が好ましく、前記アルキル基の末端が前記イオン性置換基で置換されていることが好ましい。前記アニオン性置換基は、特に制限されないが、例えば、スルホン酸基、カルボン酸基等が挙げられる。より具体的には、例えば、前記アルキル基は、末端がスルホ基で置換されたスルホアルキル基、または末端がカルボキシ基で置換されたカルボキシアルキル基であっても良い。また、前記イオン性置換基のカウンターイオン(対イオン)は、特に制限されない。前記イオン性置換基がアニオン性置換基である場合、カウンターイオン(カチオン)は、例えば、水素イオン、金属イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。前記金属イオンとしては、特に制限されないが、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン等が挙げられる。前記アルカリ金属イオンとしては、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs等が挙げられる。前記アルカリ土類金属イオンとしては、例えば、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+等が挙げられる。前記アンモニウムイオンとしては、特に制限されないが、例えば、NH、アルキルアンモニウムイオン等が挙げられる。前記アルキルアンモニウムイオンとしては、特に制限されないが、例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、トリメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン等が挙げられる。
R’’は、水素原子、ハロゲン原子、または直鎖もしくは分枝アルキル基であり、前記アルキル基は、好ましくは、炭素原子数1〜10の直鎖もしくは分枝アルキル基であり、各R’’は同一でも異なっていても良い。
pは、任意の正の整数であり、例えば、1〜3である。
【0036】
下記表2に、前記一般式(9)で表されるメロシアニンの具体例を示す。この例のメロシアニンは、下記表2の上部に示した一般式(9−2)で表され、より具体的には、下記表2の化合物番号9−2−1〜9−2−16で表される。
【表2】

【0037】
前記スクエアリリウムは、例えば、下記一般式(10)で表される。
【化7】

前記一般式(10)において、R101〜R104は、それぞれ、アルキル基であり、好ましくは炭素数6以下の直鎖または分枝アルキル基であり、R101〜R104は同一でも異なっていても良い。X〜Xは、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基または水酸基であり、前記アルキル基としては、メチル基またはエチル基が特に好ましく、前記アルコキシ基としてはメトキシ基が特に好ましく、X〜Xは同一でも異なっていても良い。
【0038】
前記ポルフィリンは、4つのピロール環がα位置で4つのメチン基と交互に結合された大環状化合物およびその誘導体であり、例えば、下記一般式(11)で表される。
【化8】

前記式(11)において、R111〜R118およびR111a〜R111dは、それぞれ、アルキル基、水素原子またはフェニル基であり、前記アルキル基は炭素数4以下の直鎖もしくは分枝アルキル基が好ましく、R111〜R118は同一でも異なっていても良い。前記R111〜R118において、前記フェニル基は、置換基を有していても良いし有していなくても良い。前記置換基は、特に制限されないが、例えば、アルキル基、ハロゲン原子、スルホ基およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも一つが好ましい。前記アルキル基としては、例えば、炭素原子数1〜12の直鎖または分枝アルキル基がより好ましい。また、前記ポルフィリンは、その中心に配位金属を有するポルフィリン錯体であってもよい。前記配位金属としては、特に制限されないが、例えば、亜鉛、鉄、コバルト、ルテニウムまたはガリウムのイオンが挙げられ、より具体的には、例えば、Zn(II)、Ga(III)、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)、Ru(II)およびRu(III)等が挙げられる。また、前記配位金属は、金属イオンのみに限定されず、例えば、金属ハロゲン化物、金属酸化物、金属水酸化物、Si、Ge、もしくはP等であっても良い。
【0039】
これらの色素は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、これらの色素は、その堅牢性を高めるために、ニッケル、銅、コバルト、鉄等の錯体として用いてもよい。
【0040】
本発明の色素は、特に好ましくは、例えば、前記構造式(5)〜(8)のいずれかで表されるシアニンと、下記構造式(12)または(13)で表されるメロシアニンとからなる群から選択される少なくとも一つである。
【化9】

前記式(12)および(13)において、R121およびR131は、それぞれ、水素原子または直鎖もしくは分枝アルキル基であり、R121およびR131は同一でも異なっていても良い。前記アルキル基としては、例えば、炭素原子数1〜12の直鎖または分枝アルキル基が好ましい。また、前記構造式(12)および(13)中、−C1837(オクタデシル基)は、それぞれ、直鎖状でも分枝状でも良いが、直鎖状であることが好ましい。
【0041】
下記表3に、前記構造式(6)で表されるシアニンの具体例を示す。この例のシアニンは、下記表3の化合物番号6−1〜6−8で表される。
【表3】

【0042】
本発明の色補正フィルターは、例えば、後述の液晶表示装置(LCD)を構成する光学部材、例えば、偏光板や位相差板、導光板等の上に前記色補正層が形成された複合部材の形態であってもよいし、これらの部材とは別途独立の部材(単独部材)の形態であってもよい。また、前記複合部材の形態においては、本発明の色補正フィルターは、例えば、さらに、基材を含み、前記基材の少なくとも一方の面に、前記色補正層が形成された形態であってもよい。ここで、前記単独部材の形態とは、例えば、前記色補正層が前記基材から剥離された前記色補正層単独の形態等である。前記単独部材の形態においては、取り扱いのしやすさや液晶表示装置全体の厚みを考慮すると、本発明の色補正フィルター全体の厚みが、1〜1000μmの範囲であることが好ましい。さらに、前記基材を含む形態においては、本発明の色補正フィルターは、後述のように、前記基材の少なくとも一方の面に前記色補正層を直接形成することで作製してもよいし、前記単独部材の本発明の色補正フィルターと前記基材とを、粘着剤や接着剤等を介して貼り合わせることで作製してもよい。
【0043】
つぎに、前記色補正層の形成方法について、例を挙げて説明する。ただし、前記色補正層の形成方法は、この例に限定されない。
【0044】
まず、前記色素を溶媒に溶解し、色素溶液を作製する。前記溶媒としては、例えば、水、アルコール、ケトン、塩素系溶媒、フッ素系溶媒、またはこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0045】
つぎに、前記色素溶液を、室温下で、前記光学部材または前記基材上に塗布して塗膜を形成し、乾燥させる。このようにして、前記色素のJ会合体を含む色補正層を形成できる。前記色素溶液の塗布方法は、所望の前記色補正層の厚みや形状、前記基材の材質等に応じて適宜選択されるが、例えば、スピンコート法、塗工法、吸着法、蒸着法等が挙げられる。
【0046】
前記色補正層において、前記色素のJ会合体が形成されれば、前記色補正層の光吸収帯が、前記色補正層に含まれる色素のJ会合体を含まない場合(例えば、溶液状態)より長波長側にシフトすると共に、その幅が狭くなる。これより、前記色補正層において、前記色素のJ会合体が形成されていると判断できる。
【0047】
前記色補正層は、さらに、各種の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、前記色素の劣化を防ぐための酸化防止剤、紫外線防止剤、一重項酸素捕捉剤、または各種機能を付与するための屈折率調整剤等が挙げられる。前記添加剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。前記添加剤の添加量は、J会合体の形成のしやすさを考慮すると、例えば、前記色素に対して50重量%以下であり、好ましくは、30重量%以下であり、より好ましくは、20重量%以下である。本発明の色補正フィルターが前記基材を含む場合には、前記色補正層に加え、若しくは代えて、前記基材が前記添加剤を含んでもよい。
【0048】
図3の断面図に、前記基材を含む複合部材の形態の本発明の色補正フィルターの一例を示す。図示のとおり、この色補正フィルター10は、基材11および色補正層12を主要な構成部材として有する。この例では、前記基材11の片面に前記色補正層12が形成されている。ただし、本発明は、これに限定されない。本発明の色補正フィルターにおいて、前記色補正層は、前記基材の両面に形成されていてもよい。また、この例では、前記基材11および前記色補正層12は、それぞれ単層である。ただし、本発明は、これに限定されない。本発明の色補正フィルターにおいて、前記基材および前記色補正層は、それぞれ、二層以上が積層された複数層構造であってもよい。前記基材および前記色補正層が複数層構造である場合において、前記基材および前記色補正層のそれぞれの層は、同じであってもよいし、異なってもよい。
【0049】
前記基材は、光透過性に優れるものが好ましい。前記基材は、有機材料から形成されてもよいし、無機材料から形成されてもよい。前記有機材料は、例えば、ポリアクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、セルロース系樹脂、イオン性ポリマー、ゼラチン等を含む。前記ポリアクリル樹脂は、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸ブチル等を含む。前記ポリカーボネート系樹脂は、例えば、ポリオキシカルボニルオキシヘキサメチレン、ポリオキシカルボニルオキシ−1,4−イソプロピリデン−1,4−フェニレン等を含む。前記ポリビニルアルコール系樹脂は、例えば、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体等を含む。前記ポリエステル系樹脂は、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチルフタレート等を含む。前記ポリアリレート系樹脂は、例えば、ポリアミド、ポリエーテルイミド等を含む。前記セルロース系樹脂は、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、およびそれらの誘導体等を含む。前記イオン性ポリマーは、例えば、ポリジメチルジアリルアンモニウムクロリド等を含む。前記無機材料は、例えば、酸化珪素ガラス、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、各種金属アルコキシドの加水分解収縮物から形成される皮膜等を含む。これらの中でも、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアクリル系樹脂、イオン性ポリマー、ゼラチンが好ましい。前記基材は、単独の前記材料から形成されてもよいし、二種類以上の前記材料から形成されてもよい。
【0050】
前記基材の表面形状は、図3に示すように平滑であってもよいし、何らかの機能を付与するために加工された形状であってもよい。前記機能付与のために加工された形状としては、例えば、輝度向上のためのプリズム状、レンズアレイ状等が挙げられる。
【0051】
前記基材の厚みは、特に制限されないが、例えば、5〜100μmの範囲であり、好ましくは、10〜90μmの範囲であり、より好ましくは、20〜80μmの範囲である。
【0052】
本発明の色補正フィルターの吸収スペクトル、最大吸収ピーク波長および最大吸収ピークの半値幅は、前記色補正層の吸収スペクトル、最大吸収ピーク波長および最大吸収ピークの半値幅と同じであるか略等しい。このため、前記色補正層の前記特性を測定すれば、それを含む本発明の色補正フィルターの前記特性を把握できる。また、前記本発明の色補正フィルターの前記特性を測定すれば、それに含まれる前記色補正層の前記特性を把握できる。
【0053】
本発明の色補正フィルターは、液晶表示装置(LCD)、ELディスプレイ(ELD)等の各種の画像表示装置に好ましく用いることができる。図4の断面図に、本発明の色補正フィルターを用いた液晶表示装置の構成の一例を示す。なお、同図において、分かりやすくするために、各構成部材の大きさや比率等は、実際と異なっている。図示のとおり、この液晶表示装置は、本発明の色補正フィルター10、液晶パネル41、光源装置(冷陰極管)44および導光板45を主要な構成部材として有する。前記液晶パネル41は、液晶セル42の両側に、それぞれ、第1の偏光板431および第2の偏光板432が配置された構成である。前記液晶セル42は、その中心に液晶層240を備える。前記液晶層240の両側には、それぞれ、第1の配向膜451および第2の配向膜452が配置されている。前記第1の配向膜451および前記第2の配向膜452のそれぞれの外側に、第1の透明電極461および第2の透明電極462が配置されている。前記前記第1の透明電極761の外側には、所定の配列のR、G、B等のカラーフィルター470とブラックマトリクス490とが保護膜480を介して配置されている。前記カラーフィルター470とブラックマトリクス490および前記第2の透明電極462の外側には、それぞれ、第1の基板401および第2の基板402が配置されている。前記液晶パネル41において、前記第1の偏光板431側が、表示面側であり、前記第2の偏光板432側が、裏面側となる。前記導光板45は、前記液晶パネル41の裏面側に、前記液晶パネル41と重なり合うように平行に配置されている。前記光源装置44は、前記導光板45の前記液晶パネル41とは反対側に配置されている。本発明の色補正フィルター10は、前記第1の偏光板431の外側(同図において上側)に配置されている。ただし、本発明の液晶表示装置において、前記本発明の色補正フィルターの配置位置は、この例に限定されない。本発明において、前記本発明の色補正フィルター10は、前記光源装置44と前記液晶表示装置の表示面側(同図において上側)表面との間のいかなる位置に配置されてもよい。前記本発明の色補正フィルター10の配置位置は、前記光源装置44と前記導光板45との間、前記導光板45と前記液晶パネル41との間、前記第2の偏光板432と前記液晶セル42との間、前記第1の偏光板431の外側(同図において上側)が好ましく、前記導光板45と前記液晶パネル41との間、前記第1の偏光板431の外側(同図において上側)がより好ましい。また、本例の液晶表示装置では、前記色補正フィルター10を1個含む。ただし、本発明は、これに限定されない。本発明の液晶表示装置は、前記本発明の色補正フィルターを複数個含んでもよい。
【0054】
本例の液晶表示装置において、色調表現の向上は、例えば、次のようにして実施される。前記冷陰極管44は、波長435〜480nm付近にB、波長500〜560nm付近にG、波長610〜750nm付近にRの発光ピークを持つ。ここで、前記本発明の色補正フィルター10に、色補正層の最大吸収ピーク波長が560〜610nmの範囲にあるものを用いる。そのようにすれば、波長560〜610nmの範囲の光が前記本発明の色補正フィルター10に選択的に吸収され、除去される。これにより、前記冷陰極管44から出射された光(特に、Rの光)の色調表現が向上される。また、本例の液晶表示装置では、前記色補正層の最大吸収ピークの半値幅が5〜30nmの範囲と極めて狭い。このため、色調表現に必要な波長帯域の光(例えば、Rの光)が吸収されることがなく、輝度の低下が抑制される。
【0055】
図5の断面図に、本発明の色補正フィルターを用いた液晶表示装置の構成のその他の例を示す。同図において、図4と同一部分には、同一の符号を付している。この例の液晶表示装置では、光源装置44が、青色LEDの発光とYAGの黄色発光とにより白色光を作り出す擬似白色光源である。前記光源装置44は、導光板45の横(同図において右側)に配置されている。これらを除き、この例の液晶表示装置は、図4に示した液晶表示装置と同様の構成である。前述のとおり、前記擬似白色光源は、前記冷陰極管より前記中間色を多く含む。しかしながら、本発明の液晶表示装置においては、前記擬似白色光源を用いた場合においても、前記本発明の色補正フィルター10が前記中間色の光を選択的に吸収し、除去するため、輝度の低下を抑制しつつ、色調表現を向上させることが可能である。
【0056】
本発明の液晶表示装置は、図4および5に示した例に限定されない。例えば、本発明の液晶表示装置は、さらに、位相差板、拡散板、アンチグレア層、反射防止層、保護板、プリズムアレイ、レンズアレイシート等の各種の光学部材を含んでもよい。
【0057】
本発明の画像表示装置は、任意の適切な用途に使用される。その用途は、例えば、デスクトップパソコン、ノートパソコン、コピー機等のOA機器、携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム機等の携帯機器、ビデオカメラ、テレビ、電子レンジ等の家庭用電気機器、バックモニター、カーナビゲーションシステム用モニター、カーオーディオ等の車載用機器、商業店舗用インフォメーション用モニター等の展示機器、監視用モニター等の警備機器、介護用モニター、医療用モニター等の介護・医療機器等が挙げられる。
【実施例】
【0058】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例および比較例によってなんら限定ないし制限されない。また、各実施例および各比較例における各種特性および物性の測定および評価は、下記の方法により実施した。
【0059】
(1)色素溶液、色補正層および色補正フィルターの吸収スペクトル、最大吸収ピーク波長および最大吸収ピークの半値幅
色素溶液、色補正層および色補正フィルターの吸収スペクトルは、紫外可視分光光度計(日本分光(株)製、商品名「V−560」)を用いて測定した。前記測定された吸収スペクトルより、前記色素溶液、前記色補正層および前記色補正フィルターの最大吸収ピーク波長および最大吸収ピークの半値幅を求めた。
【0060】
(2)液晶表示装置の色度座標x値
液晶表示装置の色度座標x値は、大塚電子(株)製、商品名「MCPD3000」により測定した。なお、前記液晶表示装置の色度座標x値が高いほど、Rの光の色調表現が向上されている。
【0061】
[実施例1]
前記構造式(5)で表されるイオンのBr塩である色素(1−エチル−2−[(1−エチル−2(1H)−キノリニデン)メチル]キノリニウムブロミド、(株)林原生物化学研究所製)をエタノールに対し0.15重量%となるように添加し溶解させた。この色素溶液を、室温下で、基材(酸化珪素ガラス板、厚み1mm)上に滴下しつつ、1000回/分×30秒の条件でスピンコート法により塗布して塗膜を形成し、乾燥させた。このようにして、前記基材の片面に前記色素のJ会合体を含む色補正層を形成することで、本実施例の色補正フィルターを得た。この色補正フィルターを用いて、図4に示す構成の液晶表示装置を作製した。
【0062】
図1のグラフに、前記色素溶液および前記色補正層の吸収スペクトルを示す。同図において、PAは、前記色素溶液の吸収スペクトルであり、JAは、前記色補正層の吸収スペクトルである。図1からわかるように、前記色補正層の最大吸収ピーク波長(577nm)は、前記色素溶液の最大吸収ピーク波長(523nm)より長波長側に位置していた。また、前記色補正層の最大吸収ピークの半値幅(10nm)は、前記色素のエタノール溶液の最大吸収ピークの半値幅(34nm)より狭かった。これより、前記色補正層において、前記色素のJ会合体が形成されていると判断できた。
【0063】
[実施例2]
前記構造式(8)で表されるイオンのNa塩である色素(5,6−ジクロロ−2−[3−[5,6−ジクロロ−1−エチル−3−(3−スルホプロピル−2(3H)−ベンズイミダゾリリデン)−1−プロペニル]−1−エチル−3−(3−スルホプロピル)ベンズイミダゾリウムヒドロキシナトリウム塩、(株)林原生物化学研究所製)を溶媒に対し0.12重量%となるように添加し溶解させた。前記溶媒としては、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール/エタノール=5/3(重量%)の混合溶媒を用いた。この色素溶液を、室温下で、基材(ポリビニルアルコールフィルム、厚み50μm)上に滴下しつつ、1000回/分×30秒の条件でスピンコート法により塗布して塗膜を形成し、乾燥させた。このようにして、前記基材の片面に前記色素のJ会合体を含む色補正層を形成することで、本実施例の色補正フィルターを得た。この色補正フィルターを用いて、図4に示す構成の液晶表示装置を作製した。
【0064】
図2のグラフに、前記色素溶液および前記色補正層の吸収スペクトルを示す。同図において、PAは、前記色素溶液の吸収スペクトルであり、JAは、前記色補正層の吸収スペクトルである。図2からわかるように、前記色補正層の最大吸収ピーク波長(587nm)は、前記色素溶液の最大吸収ピーク波長(520nm)より長波長側に位置していた。また、前記色補正層の最大吸収ピークの半値幅(24nm)は、前記色素のエタノール溶液の最大吸収ピークの半値幅(33nm)より狭かった。これより、前記色補正層において、前記色素のJ会合体が形成されていると判断できた。
【0065】
[比較例1]
図6に示す構成の液晶表示装置を作製した。
【0066】
[比較例2]
色素として、下記構造式(14)で表されるイオンのI塩(3−エチル−2−[5−(3−エチル−2(3H)−ベンズオキサゾリリデン)−1,3−ペンタジエニル]ベンズオキサゾリウム ヨージド)を用いたこと以外、実施例1と同様にして、本比較例の色補正フィルターを得た。この色補正フィルターを用いて、図4に示す構成の液晶表示装置を作製した。
【化10】

【0067】
下記表4に、各実施例および各比較例における色補正フィルターおよび液晶表示装置の各種特性および物性の評価結果を示す。なお、下記表4において、相対輝度とは、前記比較例1の液晶表示装置の輝度を1(基準)としたときの、実施例1、2および比較例2の液晶表示装置の相対輝度を表す。
【0068】
(表4)
最大吸収ピーク波長(nm) 半値幅(nm) 色度座標x値 相対輝度
実施例1 576 10.4 0.65 0.94
実施例2 591 26 0.66 0.95
比較例1 − − 0.6 1
比較例2 585 38 0.67 0.70

【0069】
前記表4からわかるように、色補正フィルターの最大吸収ピークの半値幅が5〜30nmの範囲であった実施例1、2では、色補正フィルターを用いなかった比較例1と比べて、液晶表示装置の色度座標x値が高くなった。また、実施例1、2では、液晶表示装置の輝度が、比較例1と比べるとやや低下したものの、実用上全く問題のないレベルであった。一方、色補正フィルターの最大吸収ピークの半値幅が38nmであった比較例2では、比較例1と比べて、液晶表示装置の色度座標x値は高くなったものの、液晶表示装置の輝度が大幅に低下した。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上のように、本発明の色補正フィルターは、画像表示装置の輝度の低下を抑制しつつ、中間色の光を除去し、画像表示装置の色調表現を向上させることが可能なものである。本発明の色補正フィルターおよびそれを用いた画像表示装置の用途は、例えば、デスクトップパソコン、ノートパソコン、コピー機等のOA機器、携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム機等の携帯機器、ビデオカメラ、テレビ、電子レンジ等の家庭用電気機器、バックモニター、カーナビゲーションシステム用モニター、カーオーディオ等の車載用機器、商業店舗用インフォメーション用モニター等の展示機器、監視用モニター等の警備機器、介護用モニター、医療用モニター等の介護・医療機器等が挙げられるが、その用途は限定されず、広い分野に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図1は、本発明の一実施例における色素溶液および色補正層の吸収スペクトルを示すグラフである。
【図2】図2は、本発明のその他の実施例における色素溶液および色補正層の吸収スペクトルを示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の色補正フィルターの構成の一例を示す断面図である。
【図4】図4は、本発明の液晶表示装置の構成の一例を示す断面図である。
【図5】図5は、本発明の液晶表示装置の構成のその他の例を示す断面図である。
【図6】図6は、従来の液晶表示装置の構成の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0072】
10 色補正フィルター
41、61 液晶パネル
42、62 液晶セル
44、64 光源装置
45、65 導光板
401、601 第1の基板
402、602 第2の基板
431、631 第1の偏光板
432、632 第2の偏光板
440、640 液晶層
451、651 第1の配向膜
452、652 第2の配向膜
461、661、第1の透明電極
462、662 第2の透明電極
470、670 カラーフィルター
480、680 保護膜
490、690 ブラックマトリクス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色素のJ会合体を含む色補正層を有し、
前記色素が、シアニン、メロシアニン、スクエアリリウムおよびポルフィリンからなる群から選択される少なくとも一つの色素であり、
前記色補正層の最大吸収ピークの半値幅が、5〜30nmの範囲であることを特徴とする色補正フィルター。
【請求項2】
前記色補正層の最大吸収ピーク波長が、560〜610nmの範囲にある請求項1記載の色補正フィルター。
【請求項3】
前記色補正層の波長560〜610nmの範囲における吸光度の最大値が、0.8以上である請求項1または2記載の色補正フィルター。
【請求項4】
前記色素が、シアニンである請求項1から3のいずれか一項に記載の色補正フィルター。
【請求項5】
前記シアニンが、下記一般式(1)〜(4)からなる群から選択される少なくとも一つの式で表される請求項4記載の色補正フィルター。
【化1】

前記一般式(1)において、
11およびZ12は、それぞれ、−NH−、−CH−、−CH=CH−またはヘテロ原子であり、置換基を有していても有していなくても良く、Z11およびZ12は同一でも異なっていても良く、
環Ar11およびAr12は、それぞれ、含窒素環との縮合部分以外において不飽和結合を有していても有していなくても良く、芳香族性を有していても有していなくても良く、ヘテロ原子を有していても有していなくても良く、さらに置換基を有していても有していなくても良く、環Ar11およびAr12は同一でも異なっていても良く、
11およびR12は、それぞれ、水素原子、または直鎖もしくは分枝アルキル基であり、前記アルキル基は、さらにイオン性置換基で置換されていても置換されていなくても良く、R11およびR12は同一でも異なっていても良く、

前記一般式(2)〜(4)において、
Rは、水素原子、または直鎖もしくは分枝アルキル基であり、各Rは同一でも異なっていても良く、

前記一般式(1)〜(4)において、
R’は、水素原子、直鎖もしくは分枝アルキル基、または芳香族基であり、各R’は同一でも異なっていても良く、
nは、0または任意の正の整数であり、各nは同一でも異なっていても良い。
【請求項6】
前記シアニンが、下記構造式(5)〜(7)からなる群から選択される少なくとも一つの式で表される請求項5記載の色補正フィルター。
【化2】

前記構造式(6)において、
61およびR62は、それぞれ、水素原子、または直鎖もしくは分枝アルキル基であり、R61およびR62は同一でも異なっていても良く、
mおよびlは、それぞれ、任意の正の整数であり、同一でも異なっていても良い。
【請求項7】
前記色補正層の厚みが、10〜500nmの範囲である請求項1から6のいずれか一項に記載の色補正フィルター。
【請求項8】
さらに、基材を含み、前記基材の少なくとも一方の面に、前記色補正層が形成されている請求項1から7のいずれか一項に記載の色補正フィルター。
【請求項9】
色補正フィルターを含む画像表示装置であって、前記色補正フィルターが、請求項1から8のいずれか一項に記載の色補正フィルターである画像表示装置。
【請求項10】
色補正フィルターを含む液晶表示装置であって、前記色補正フィルターが、請求項1から8のいずれか一項に記載の色補正フィルターである液晶表示装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−304677(P2008−304677A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151345(P2007−151345)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】