説明

色調判定シートおよびプリンタ

【課題】パッチを見つめることによる色調誤判断を避けることができ、色調を正確に判定することができる色調判定シートおよびプリンタを提供することを目的とするものである。
【解決手段】プリンタのカラーバランスを目視判断する際における基準色調を示す色調判定シートにおいて、シート本体と、比較対象を観察する開口部であって、上記シート本体に設けられている開口部と、上記シート本体上に設けられしかも上記開口部から離れた位置に設けられている指標であって、色調判断時における注視位置を示す注視位置指標とを有することを特徴とする色調判定シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタのカラーバランスを目視確認する際に、カラーバランスを判定する基準となる色調判定シートと、プリンタとに関する。
【背景技術】
【0002】
個体差や経時変化によるカラープリンタの色調変動を補正する方法のうちで、濃度計や測色計等の測定器を用いずに、目視確認によって、カラープリンタの色調変動を調整する手法が知られている。
【0003】
この目視確認によって調整する従来の手法では、プロセスカラーを適量組み合わせることによって、カラープリンタの中間調グレーが再現されていることを利用し、中間調グレーの色調のバランスを確認し、プリンタ全体の出力特性を安定させている。なお、上記プロセスカラーは、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の色材である。
【0004】
たとえば、中間調グレーを中心にして、色調を段階的に振った複数のパッチによって構成されているテストパターンを、色調調整対象のプリンタが出力し、最も中性であるとオペレータが判断する灰色パッチをオペレータが選択する。これによって、プリンタのカラーバランスを調整する手法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
また、パッチの中から、最適なグレーを選択する際に、別途用意されているリファレンスシートと比較し、最適なパッチを目視判断することによって、色調調整対象のプリンタの色調を補正する手法が知られている(たとえば、特許文献2参照)。
【0006】
また、色調調整対象のプリンタが出力したグレースケールと、リファレンスとなるグレースケールとを比較する際に、リファレンスに開口部を設ける。そして、この開口部越しに、色調調整対象のプリンタが出力したグレースケールの濃度を確認し、カラープリンタの色調変動を目視判定する手法が知られている(たとえば、特許文献3参照)。
【0007】
これら従来の手法は、基本的には、中間調グレーの色調や濃度を、目視によって比較確認し、これによって、補正量を判定するものであり、リファレンスとなるグレースケールを別途用意する必要がある。
【0008】
一方、Kの色材で、荒い解像度のパターンを印刷し、このKの色材で印刷した荒い解像度のパターンを、基準となる中間調グレーとすることが知られている(たとえば、特許文献4、特許文献5参照)。この従来例では、リファレンスシートを別途用意せずに、色調変動を調整すべきカラープリンタ自体が、リファレンスシートを生成することができる。
【0009】
一方、プロセスカラー(シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の色材)によって、中間調グレーを構成した場合、色材の特性によっては、分光反射特性が必ずしもフラットにはならない。この場合、
・観察光源に依存して、知覚される色調が異なる
・観察視野によって、知覚される色調が異なる
等の現象が発生する。
【0010】
特に、後者の現象に関して、CIE(国際照明委員会)において、観測視野の大きさによって異なる表色基準として、「2°視野XYZ」、「10°視野XYZ」等と呼ばれる表色系が採択され、これらの表色基準は、当業者によく知られた現象である。
【特許文献1】特許第3453003号公報
【特許文献2】米国特許第6008907号明細書
【特許文献3】米国特許第6268932 B1号明細書
【特許文献4】米国特許第5347369号明細書
【特許文献5】特開平10−322564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
カラープリンタが出力した出力物の分光反射特性や観察光源の状態によっては、観察視野によって知覚される色調が異なる現象が、非常に強く現れる場合がある。特に、プロセスカラー(シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の色材)によって出力した中間調のグレーでは、この傾向が顕著に現れる場合がある。
【0012】
このような状況で、パッチの色調を目視判断する場合、パッチを見つめることによって、見つめた部分の色調が局所的に異なって知覚される現象が、本出願人によって確認されている。
【0013】
このような注視による演色が発生する状況でパッチを目視確認する場合、パッチをじっくり見つめて比較すると、適切な色調を知覚することができず、結果的に、不適切なパッチを選択し、誤った補正をプリンタに施すという問題がある。
【0014】
本発明は、パッチを見つめることによる色調誤判断を避けることができ、色調を正確に判定することができる色調判定シートおよびプリンタを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、開口部から離れた位置に、判断時の注視位置を示す注視位置指標が設けられている色調判定シートおよびプリンタである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、パッチを見つめることによる色調誤判断を避けることができ、色調を正確に判定することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
発明を実施するための最良の形態は、次の実施例である。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明の実施例1である色調判定シート10を示す図である。
【0019】
色調判定シート10は、色調を判定する際に基準となる色調判定シートであり、シート本体11と、開口部12と、注視位置指標13とを有する。
【0020】
色調判定シート10の表面は、基準となる中間調グレーである。この中間調グレーは、観察光源による演色性の影響を低減するために、分光反射特性がフラットに近い状態であることが好ましい。また、観察光源の種類(たとえばD50、F10光源等)を限定する場合、色調判定シート10の表面の色は、その観察光源下で色調判定シート10の表面の色とプリンタが基準として出力する中間調グレーとを比較し、両者が等色であると視覚できる色にする。
【0021】
開口部12は、シート本体11中に設けられている。比較対象物に色調判定シート10を重ねる際に、パッチ等の比較対象物が、開口部12に配置されるように、重ねる。そして、上記比較対象と、開口部12の近傍の中間調グレーとを目視比較する。
【0022】
注視位置指標13は、開口部12から所定間隔離れた位置に配置されている。
【0023】
目視比較する際には、注視位置指標13を見つめた状態で、開口部12内の比較色と、開口部12の周辺の基準色とを比較する。
【0024】
図2は、パッチチャートの例を示す図である。
【0025】
このパッチチャートは、パッチP1〜P25によって構成されている。
【0026】
図3は、各パッチにおける補正量を示す図である。
【0027】
各パッチは、中間調グレーを再現するように設計されているCMYのレベルに対して、図3に示す補正量をそれぞれ補正したCMY値を有する。
【0028】
パッチP13は、CMYの設計値そのままであり、図2中、パッチP13からパッチP11に向かって、C成分が強調されるように配置され、図2中、パッチP13からパッチP25に向かって、M成分が強調されるように配置されている。また、図2中、パッチP13からパッチP3に向かって、Y成分が強調されるように配置されている。
【0029】
図3に示す補正量は、パーセント値である。たとえば、各色8−bitの状態で中間調グレーのCMY値が、
C1=128
M1=128
Y1=128
である場合、パッチP22での補正量が、(−4,−1,5)であるので、パッチP22と同じCMY値(C2,M2,Y2)は、
C2=128*(100−4)/100=122
M2=128*(100−1)/100=126
Y2=128*(100+5)/100=134
である。このような補正を、全てのパッチに施したパッチチャートPCを、調整対象プリンタが出力する。
【0030】
図4は、実施例1の動作説明図である。
【0031】
色調の調整対象プリンタが、パッチチャートPCを出力した後に、図4に示すように、色調判定シート10に、パッチチャートPCを重ね、色調判定シート10の基準色調と、開口部12越しに見えるパッチの色調とを比較する。
【0032】
この際、観察者は、色調判定シート10の開口部12を見つめるのではなく、注視位置指標13を見つめた状態で、開口部12とその周辺との色調を知覚し、色調比較する。
【0033】
これによって、注視による演色が発生した場合でも、注視位置指標13の近傍にのみ、演色が発生し、開口部12の周辺では、演色が発生しないので、色調を適切に比較することができる。
【0034】
なお、観察距離を20〜40cm程度にした場合、開口部12と注視位置指標13との間隔が、2〜4cm程度である。
【0035】
すなわち、開口部12と注視位置指標13との間隔を約2〜4cmにしている理由は、色調判定時の一般的な観察距離として20〜40cm程度を想定した場合に、本件出願人による次の経験則に基づくためである。つまり、上記経験則は、注視による演色影響範囲は、半径約2cm程度(観察距離30cmで約4°)であり、また、注視位置から離れた位置の色調を無理なく比較することができるのが、4cm程度である。
【0036】
上記のように、開口部12と注視位置指標13との間隔を約2〜4cmにすると、注視による演色の影響を排除することができ、正確な色調判断を容易に行うことができる。
【0037】
開口部12越しに観察するパッチをずらし、色調判定シート10上に記載されているパッチのうちで、基準色に最も近いパッチの選択が終わると、この選択されたパッチの色調(選択されたパッチのCMYの補正量)をプリンタに入力する。
【0038】
たとえば、パッチP9の色調が選択されると、プリンタでは、パッチP9のCMY補正量が、−3%、0%、3%であるので、この補正量を、キャリブレーションテーブルに反映させ、印刷する。これによって、カラーバランスの整った出力結果を得ることができる。
【0039】
つまり、実施例1において、開口部12から所定間隔離れた位置に、判断時の注視位置を示す注視位置指標13が設けられている。したがって、実施例1によれば、観察者が目視判断を行う際に、注視位置指標13を見つめつつ、所定間隔離れた場所に位置している開口部12越しに見える比較対象と、開口部12の周辺の基準色調とを容易に比較することができる。よって、パッチ自体を見つめてしまうことによる色調誤判断を避けることができるので、色調を正確に判定することができる。
【0040】
また、実施例1を、プリンタ自体の発明として把握することができる。すなわち、実施例1は、色調判定シート10を出力する出力手段を有するプリンタの例である。このように、プリンタが、色調判定シート10を出力する手段を有するので、色調判定シートを別途準備しなくても、調整対象のプリンタ自体が色調判定シート10を出力することができる。
【実施例2】
【0041】
図5は、本発明の実施例2である色調判定シート20を示す図である。
【0042】
色調判定シート20は、調整対象プリンタが生成する色調判定シートであり、シート本体21と、比較対象位置指標22と、注視位置指標23と、コメント24とを有する。
【0043】
比較対象位置指標22と注視位置指標23との間隔を約2〜4cmとしている。つまり、色調判定時の一般的な観察距離として20〜40cm程度を想定した場合に、本件出願人による次の経験則に基づくためである。つまり、上記経験則は、注視による演色影響範囲は、半径約2cm程度(観察距離30cmで約4°)であり、また、注視位置から離れた位置の色調を無理なく比較することができるのが、4cm程度である。
【0044】
色調判定シート20の中間調グレーは、ブラック(K)のみの色材を、荒い解像度のパターン(たとえば市松模様)で出力することによって、プリンタのカラーバランスの影響を受けにくい状態で出力したものである。
【0045】
色調の調整対象プリンタが色調判定シート20を出力する場合、シート本体21から開口部12を切り抜く作業は、手間を要する。そこで、実施例2では、開口部を切り抜くのではなく、比較対象位置指標22を描画する。
【0046】
比較時には、比較対象位置指標22付近に、比較対象(パッチ等)を配置し、注視位置指標23を見つめて、比較する。
【0047】
注視位置指標23には、注視位置を見つめるように指示するコメント24を印刷するようにしてもよい。
【0048】
色調判定シート20を用意できない状況では、プリンタ、または、プリンタを駆動するプリンタドライバ等を含めたプリンタの中に、図5に示す色調判定シート20を印刷する手段を設ける。
【0049】
上記実施例は、リファレンスとなる中間調グレーの色調を有する色調判定シート20を、予め用意し、色調の調整対象プリンタが出力した複数の中間調グレーパッチと、色調判定シート20のグレーとを比較する実施例である。
【0050】
また、リファレンスとなる中間調グレーを、調整対象プリンタ自体が出力するようにしてもよい。この場合、リファレンスの中間調グレーは、たとえばKの色材のみで、たとえば市松模様状のパターンを出力し、さらに注視位置を示す指標をも、描画する。
【0051】
また、汎用のコンピュータとプリンタとを組み合わせた場合、プリンタ本体またはプリンタドライバ自体が色調判定シート20を出力するようにしてもよい。
【0052】
実施例2において、比較対象位置指標22から所定間隔離れた位置に、色調判断時における注視位置を示す注視位置指標23を設けている。したがって、観察者が目視判断を行う際に、比較対象となる出力物(パッチ等)を、比較対象位置指標22が指定する位置に配置し、注視位置指標23を見つめつつ、比較対象と、比較対象位置指標22周辺の基準色調とを容易に比較することができる。よって、実施例2によれば、パッチ自体を見つめてしまうことによる色調誤判断を避けることができるので、正確な色調判定を行うことができる。
【0053】
また、実施例2を、プリンタ自体の発明として把握することができる。すなわち、実施例2は、色調判定シート20を出力する出力手段を有するプリンタの例である。このように、プリンタが、色調判定シート20を出力する手段を有するので、色調判定シートを別途準備しなくても、調整対象のプリンタ自体が色調判定シート20を出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施例1である色調判定シート10を示す図である。
【図2】パッチチャートの例を示す図である。
【図3】各パッチにおける補正量を示す図である。
【図4】実施例1の動作説明図である。
【図5】本発明の実施例2である色調判定シート20を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
10…色調判定シート、
11…シート本体、
12…開口部、
13…注視位置指標、
PC…パッチチャート、
P1〜P25…パッチ、
20…色調判定シート、
21…シート本体、
22…比較対象位置指標、
23…注視位置指標、
24…コメント。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリンタのカラーバランスを目視判断する際における基準色調を示す色調判定シートにおいて、
シート本体と;
比較対象を観察する開口部であって、上記シート本体に設けられている開口部と;
上記シート本体上に設けられしかも上記開口部から離れた位置に設けられている指標であって、色調判断時における注視位置を示す注視位置指標と;
を有することを特徴とする色調判定シート。
【請求項2】
請求項1において、
上記開口部と上記注視位置指標との間隔は、2乃至4cmであることを特徴とする色調判定シート。
【請求項3】
プリンタのカラーバランスを目視判断する際における基準色調を示す色調判定シートにおいて、
シート本体と;
比較対象の配置位置を示唆する比較対象位置指標であって、上記シート本体に設けられている比較対象位置指標と;
上記シート本体上に設けられしかも上記比較対象位置指標から離れた位置に設けられている指標であって、注視位置を示す注視位置指標と;
を有することを特徴とする色調判定シート。
【請求項4】
請求項1において、
上記比較対象位置指標と上記注視位置指標との間隔は、2乃至4cmであることを特徴とする色調判定シート。
【請求項5】
シート本体と、比較対象を観察する開口部であって、上記シート本体に設けられている開口部と、上記シート本体上に設けられしかも上記開口部から離れた位置に設けられている指標であって、色調判断時における注視位置を示す注視位置指標とを具備する色調判定シートを出力する出力手段を有することを特徴とするプリンタ。
【請求項6】
シート本体と、比較対象の配置位置を示唆する比較対象位置指標であって、上記シート本体に設けられている比較対象位置指標と、上記シート本体上に設けられしかも上記比較対象位置指標から離れた位置に設けられている指標であって、注視位置を示す注視位置指標とを具備する色調判定シートを出力する出力手段を有することを特徴とするプリンタ。
【請求項7】
プリンタのカラーバランスを目視判断する際における基準色調を示す色調判定シートの製造方法において、
比較対象を観察する開口部を、シート本体に設ける工程と;
色調判断時における注視位置を示す注視位置指標を、上記シート本体上であって、しかも上記開口部から離れた位置に設ける工程と;
を有することを特徴とする色調判定シートの製造方法。
【請求項8】
プリンタのカラーバランスを目視判断する際における基準色調を示す色調判定シートの製造方法において、
比較対象の配置位置を示唆する比較対象位置指標を、シート本体に設ける工程と;
注視位置を示す注視位置指標を、上記シート本体上であって、しかも、上記比較対象位置指標から離れた位置に設ける工程と;
を有することを特徴とする色調判定シートの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−156105(P2007−156105A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−351265(P2005−351265)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】