説明

芯鞘型ポリエステル複合繊維

【課題】優れた接触冷感性を有し、かつ優れたソフトタッチを有し、織編物とした際に高い布帛品位が得られる芯鞘型ポリエステル複合繊維を提供する。
【解決手段】芯成分がポリエーテルエステル化合物を10重量%以上70重量%以下含有したポリエステルであり、鞘成分がポリエステルからなる芯鞘型ポリエステル複合繊維であって、鞘成分比率が20重量%以上60重量%以下であるとともに、繊維の一次降伏点強度が1.4cN/dtex以上2.3cN/dtex以下であり、かつ鏡面擦過後の糸張力バラツキが平均値に対し25%以内であることを特徴とする芯鞘型ポリエステル複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯鞘型ポリエステル複合繊維に関するものである。詳しくは優れた接触冷感性に加え、優れたソフトタッチを有する芯鞘型ポリエステル複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートなどに代表されるポリエステル繊維は、機械的強度、耐薬品性、耐熱性などに優れるため、衣料用途や産業用途などを主体に広く使用されている。しかしながら、ポリエステル繊維は極めて吸湿性が低いために、インナー、中衣、スポーツ衣料などの直接的に肌に触れるあるいは肌側に近い状態で着用される分野では、肌の発汗によるムレやベタツキなどを生じ、快適性の点で天然繊維よりも劣り、前記衣料用途への進出は限定されていた。
【0003】
この欠点を解消するため、吸湿性や接触冷感性を有する繊維が鋭意検討され種々提案されている。
【0004】
例えば、平衡水分率(吸湿率)の高い繊維との各種の混繊、合撚、引揃えなどにより布帛として吸湿快適性を得ようとする試みが提案されている(特許文献1〜3参照)。しかしながら、これらの方法を用いることで確かに快適性は向上するものの、その効果は十分とはいえず、逆にその他の合成繊維特性において合成繊維を染色する際に一般的に使用される分散染料によって汚染を生じたり、同色性に劣ったり、合成繊維本来の物理的特性が失われるという問題点があった。
【0005】
また、ポリエステル繊維にアクリル酸やメタアクリル酸をグラフト重合すること、さらにグラフト重合後にそれらのカルボキシル基をアルカリ金属で置換することにより吸湿性を付与する方法が知られているが、ポリエステルがグラフト重合しにくい素材であること、および染色堅牢性や耐光性、繊維物理特性、風合いなどの低下を潜在的に有していることから、実用化には到っていない。
【0006】
後加工段階で吸湿性を付与する方法では染色時あるいは得られた布帛特性の点で種々の問題があることから、繊維を製造する段階で吸湿性を付与し、かつ前記問題点を解消するため、以下のような技術が提案されている。
【0007】
まず、特定のポリアルキレングリコールを50〜70重量%配合してなるポリエステル組成物が提案されている(特許文献4参照)。しかしながら、この組成物を単独で繊維化した場合、繊維物性が低く、また耐水性に劣るため衣料用および産業用での使用は困難である。
【0008】
また、常湿度下で吸湿率が10%以上の吸湿性樹脂を芯部とし、それを鞘部であるポリエステルで覆った芯鞘型複合繊維が提案されている(特許文献5参照)。しかしながら、この方法では染色などの熱水処理時に芯部の吸湿・吸水率が高いが故、芯部と鞘部との水膨潤差により鞘部に歪みがかかって繊維表面にひび割れが生じ、高次工程でのトラブルを生じやすいなどの欠点がある。
【0009】
また、親水性ポリエステルを芯成分、非親水性ポリエステルを鞘成分とする芯鞘型複合ステープルが提案されている(特許文献6参照)。この提案は、親水性ポリエステルとしてポリアルキレングリコール共重合体単独あるいは少量のポリアルキレングリコール共重合体に少量のスルホン酸や酸性リン酸エステル誘導体を配合したものを用いるものであり、ステープルとして繊維両端面を増加させ吸水性を向上させようというものである。しかしながら、本発明者等の検討では該ステープルで吸水性を向上させることはできるが、吸湿性の向上は困難であることがわかった。
【0010】
また、特定のポリエーテルエステルを芯成分とした芯鞘型の制電性複合繊維が提案されている(特許文献7参照)。しかしながら、この提案による効果は制電制であるが、ポリエーテル成分を単独共重合したポリエステルを芯成分として用いているため、吸湿性を含め繊維物性が経時的に劣化するという問題がある。また、該ポリエーテルエステルの着色が激しく、得られる最終製品の品位が損なわれるといった問題がある。
【0011】
また、芯鞘型吸湿性ポリエステル繊維として、アルキレンテレフタレート、アルキレンスルホイソフタレート、およびポリオキシアルキレングリコールよりなる共重合体にブロックポリエーテルエステルをブレンドして芯ポリマとして用いたものが提案されているが(特許文献8参照)、この提案の技術では鞘割れを回避することができず、満足するレベルではない。
【0012】
また、親水性化合物を共重合した吸湿性に優れた共重合ポリエステルならびに該共重合ポリエステルを用いた吸湿性に優れた繊維が提案されている(特許文献9参照)。しかしながら、この提案の技術では糸の強度が高いために織編物とした際の風合いが硬く、インナー素材に必要な優れたソフトタッチ感が得られないという問題を有する。さらに、共重合ポリエステルを繊維形成重合体にブレンドすると、この共重合ポリエステルの有するゴム弾性により、上記提案の技術では織編物とする際の張力バラツキが大きくなり、染色した際にタテスジなどが発生し満足した布帛品位が得られないという問題を有する。
【0013】
したがって、従来技術では優れた接触冷感性かつ優れたソフトタッチを有し、織編物とした際に品位の高い布帛が得られないという欠点があった。
【特許文献1】特開昭51−067468号公報
【特許文献2】特開昭59−165485号公報
【特許文献3】特開昭60−215835号公報
【特許文献4】特開昭62−267352号公報
【特許文献5】特開平02−099612号公報
【特許文献6】特開昭51−136924号公報
【特許文献7】特開昭53−111116号公報
【特許文献8】特開平06−123012号公報
【特許文献9】特開2004−204364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、上記従来の問題点を解決しようとするものであり、優れた接触冷感性を有し、かつ優れたソフトタッチを有し、織編物とした際に高い布帛品位が得られる芯鞘型ポリエステル複合繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、本発明は下記の構成を採用するものである。すなわち、
(1)芯成分がポリエーテルエステル化合物を10重量%以上70重量%以下含有したポリエステルであり、鞘成分がポリエステルからなる芯鞘型ポリエステル複合繊維であって、鞘成分比率が20重量%以上60重量%以下であるとともに、繊維の一次降伏点強度が1.4cN/dtex以上2.3cN/dtex以下であり、かつ鏡面擦過後の糸張力バラツキが平均値に対し25%以内であることを特徴とする芯鞘型ポリエステル複合繊維。
【0016】
(2)繊維処理剤有効成分に対しホスフェート金属塩を5重量%以上20重量%以下含有した繊維処理剤を付着したことを特徴とする前記(1)に記載の芯鞘型ポリエステル複合繊維。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた接触冷感性を有し、かつ優れたソフトタッチを有し、織編物とした際に高い布帛品位が得られるポリエステル繊維を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0019】
本発明の繊維では、芯成分および鞘成分で用いる繊維形成性重合体としてポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルを用いる。好ましくは衣料用合成繊維として汎用性の高いポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステルである。また、芯成分、鞘成分は同一の重合体であっても良いし、異なっていても良い。また、機械的強度、耐薬品性、耐熱性などポリエステルの利点を損なわない範囲で、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネートなどを含んでいても良い。
【0020】
また、ポリエステルには、無機微粒子、カーボンブラックなどの顔料のほか、抗酸化剤、着色防止剤、帯電防止剤、耐光剤などが添加されても良い。また、無機微粒子としては、防透け性能が優れ取り扱いのしやすさ、コスト、太陽光線に対する諸機能などの点で酸化チタンが特に好ましい。無機微粒子が繊維に対して2重量%(wt%)以上含有されていると、不透明性が向上し透けを防止することができる。一方、無機微粒子の含有量が10wt%を越えると不透明性は飽和状態となる上、鏡面擦過後の張力バラツキが大きくなり、整経毛羽が増加し整経性が悪化するため、無機微粒子の含有量は10wt%以下が好ましく、さらに好ましくは5wt%以下である。
【0021】
本発明のポリエステル繊維は繊維形成性重合体を鞘成分とし、親水性成分を分散した繊維形成性重合体を芯成分とした芯鞘型複合繊維とするものである。当該芯成分は接触冷感性を付与するためポリエーテルエステル化合物を芯成分に対して10重量%以上70重量%以下含有させるものである。繊維の接触冷感性および繊維の一次降伏点の観点から、当該芯成分のポリエーテルエステル化合物含有率は、好ましくは20重量%以上60重量%以下であり、さらに好ましくは30重量%以上55重量%以下である。一方、繊維形成性重合体を芯成分とし、親水性成分を分散した繊維形成性重合体を鞘成分とした芯鞘型複合繊維は減量処理後の引裂強力低下が大きく、布帛品位が低下することから好ましくない。
【0022】
また、当該鞘成分は減量処理後の引裂強力低下の観点から重要である。芯鞘の複合比率は重量比で芯:鞘=80:20〜40:60とすることが重要である。鞘の複合比率の上限は繊維の接触冷感性といった観点から設定され、下限については繊維の強度、一次降伏点強度、およびアルカリ減量処理後の引裂強力保持の観点から設定される。芯鞘複合比率は重量比で、好ましくは芯:鞘=75:25〜45:55であり、さらに好ましくは芯:鞘=70:30〜50:50である。
【0023】
親水性成分は本発明の目的である接触冷感性をポリエステル繊維に付与する成分であり、ベースとなる繊維形成性重合体よりも高い吸湿性を有するものである。この特性を有する代表的な化合物として、ポリエーテルエステル系化合物、ポリエーテルエステルアミド系化合物、ポリオキシアルキレン化合物、ポリオキサゾリン類、ポリアクリルアミドとその誘導体、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリル酸およびその塩、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリビニルアルコール、およびポリビニルピロリドンなどが挙げられる。その中でもポリエーテルエステル系化合物が好ましい。
【0024】
ポリエーテルエステル系化合物は、同一分子鎖内にエーテル結合とエステル結合を有する共重合体である。より具体的にはジカルボン酸とジオールとのポリエステル成分とポリオキシアルキレングリコールからなるポリエーテル成分の共重合体である。
【0025】
ポリエステルの酸性分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸などがあげられる。また、本発明の効果を損なわない範囲でトリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能カルボン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリストール如きポリオールを用いても良い。
【0026】
ポリオキシアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2−または1,3−プロピレンオキシド)グリコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコール、ポリヘキサメチレンオキシドグリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドまたはテトラヒドロフランとのランダムまたはブロック共重合などが挙げられ、特にポリエチレングリコールが好ましい。
【0027】
また、ポリエチレングリコールのポリエーテルエステル化合物に対する共重合量は20重量%以上70重量%以下が好ましく、より好ましくは20重量%以上40重量%以下である。共重合量が20重量%未満では、吸湿性および接触冷感性が不十分になりやすいので好ましくなく、共重合量が70重量%を越えると安定して製糸することが難しくなりやすく、繊維の強度および一次降伏点強度が低下しすぎるので好ましくない。
【0028】
ポリエチレングリコールの数平均分子量は2000以上8000以下が好ましい。数平均分子量が2000以上であるとポリエチレングリコールの耐熱性が良好で好ましい。数平均分子量8000以下であると製糸性が良好となり、繊維の強度も損なわれないので好ましい。より好ましくは3000以上7000以下である。
【0029】
本発明のポリエステル繊維には、繊維処理剤有効成分に対しホスフェート金属塩を5重量%以上含有した繊維処理剤を付着させることが好ましい。ホスフェート金属塩はポリエステル繊維に制電性を付与するばかりでなく、ポリエステル繊維と編み針などの金属との擦過において、金属の摩耗を防止する効果があるほか、金属以外のガイド類との擦過を抑制する効果もある。本発明のようなポリエーテルエステル化合物などのゴム弾性を有している成分を含有したポリエステル繊維は編み針などの金属との擦過、摩擦後の張力バラツキが大きいが、上記繊維処理剤を併用することにより、編み針などの金属との擦過、摩擦後の張力低減効果、張力バラツキ低減効果が大きく、通常よりも一次降伏点強度の低い繊維に対してもタテスジのない高品位な布帛を得られる。ホスフェート金属塩の含有率が5重量%未満では編み針などの金属との擦過、摩擦後の張力低減効果が十分得られず、張力バラツキも大きくなり、十分な品位の布帛が得られない。また、ホスフェート金属塩を20重量%を越えて含有すると繊維処理剤の粘度が上がり、編み針などに付着することで金属との擦過、摩擦後の張力が上がってしまい好ましくない。そのため、ホスフェート金属塩の含有率は20重量%以下が好ましく、さらに好ましくは15重量%以下である。また、繊維処理剤有効成分に対しホスフェート金属塩を5重量%以上含有した繊維処理剤の繊維付着量としては、編み針などの金属との擦過、摩擦後の張力低減効果、張力バラツキ、編立性の観点から設定され、繊維処理剤の有効成分換算で0.1重量%以上1.5重量%以下が好ましい。さらに好ましくは0.5重量%以上1.0重量%以下である。
【0030】
ホスフェート金属塩としては、有機基含有ホスフェート金属塩などが挙げられ、有機基としては炭素数10〜18のアルキル基、アルキレン基やアリール基など適当であり、有機基含有ホスフェート金属塩がエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどの1種または2種以上を共重合していても原液および水系エマルションの安定性が向上するので好ましい。
【0031】
また、金属塩の種類としては、Na、K、Liなどが挙げられる。
【0032】
本発明のポリエステル繊維は優れたソフトタッチ性を有するために一次降伏点強度が1.4cN/dtex以上2.3cN/dtex以下であることが重要である。一次降伏点応力が2.3cN/dtexを越えると、繊維がかたく、十分なソフトタッチ性が得られないため好ましくない。また、一次降伏点強度が1.4cN/dtex未満では一次降伏点強度が低いために、編み立て後に糸の強伸度が変化してしまい、布帛にタテスジなどが発生し布帛品位が低下するので好ましくない。
【0033】
さらに、本発明のポリエステル繊維においては鏡面擦過後の糸張力バラツキを抑えることが非常に重要であり、糸張力バラツキを抑えることで編み立て後の布帛品位が格段に良くなる。鏡面擦過後の糸張力バラツキは平均値に対し25%以内にすることが重要である。好ましくは0%以上20%以内、さらに好ましくは0%以上15%以内である。鏡面擦過後の糸張力バラツキが平均値に対し25%を越えると、整経性が悪化したり、編み立て後の繊維強伸度にバラツキが生じ布帛にした際の品位が低下するので好ましくない。
【0034】
芯鞘型複合繊維の製造方法としては、前記した芯成分、鞘成分をそれぞれ別々に溶融したものを芯鞘型複合繊維用口金パックに導入し、吐出、繊維化すれば良い。芯成分として、ポリエステルにポリエーテルエステル化合物を混合させる方法としては、各々のチップを混合したものを溶融紡糸する方法、ポリエステルとポリエーテル化合物を別々に溶融し、静止混練子(ハイミキサー)などによりメルトブレンドして紡糸する方法などを適用することができる。製糸性、接触冷感性向上のためにはポリエーテルエステル化合物の分散径を均一かつ微細、好ましくは2.0μm以下、さらに好ましくは1.5μm以下にすることが望まれるので5段以上、好ましくは10段以上の多段静止混練子によるメルトブレンドが特に好ましい。なお、ここでいうポリエーテルエステル化合物の分散径は、繊維断面をオスミウム酸で染色し、TEM写真撮影することで確認することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明を詳述するが、これら実施例のみに本発明の範囲が限定されるものではない。なお、実施例中の原糸、布帛の特性値は発明を実施するための最良の形態中に記載の方法により評価した。
【0036】
(1)ポリエチレングリコール数平均分子量
ゲル浸透クロマトグラフィー/Waters2690(日本ウォーターズ株式会社製)を使用し、溶媒にテトラヒドロフラン、溶媒流速0.5mL/minでポリエチレングリコールの分子量測定を行って、得られた分子量分布曲線から数平均分子量を算出した。
【0037】
(2)繊維処理剤付着量
ポリエステル繊維10gを採取し、ソックスレー抽出管を用いて、メタノールを溶媒として30分間処理剤を抽出した。抽出物の重量と採取したポリエステル繊維の重量から繊維処理剤付着量を算出した。
【0038】
(3)強度、伸度、一次降伏点強度
東洋ボールドウィン社製テンシロン引張り試験機を用いて試長20cm、引張速度10cm/分の条件で応力−歪み曲線から値を求めた。なお、一次降伏点は弾性変形領域の延長線と塑性変形領域の延長線との交点とする(図1参照)。
【0039】
(4)鏡面擦過後張力バラツキ
英光産業製走行糸摩擦係数測定装置を用いて、糸速2.5m/min、摩擦体(鏡面)との摩擦角度90°の条件で糸を1分間擦過し、擦過後の平均糸張力値と最大(最小)糸張力値から算出した。なお、平均糸張力値及び最大(最小)糸張力値はそれぞれ1回の測定内での平均及び最大(最小)値を示している。
【0040】
張力バラツキ(%)=|(最大(最小)糸張力値−平均糸張力値)/平均糸張力値|×100
(5)走行張力
図2に示すような走行張力試験機を用いて、250m/minの速度で糸を走行させたときの出の張力(T2)を測定し求めた。
【0041】
(6)走行後強伸度
上記(4)の走行試験後上記(2)の方法に再度強伸度を測定し、走行後強度が走行前強度に対し+0.2cN/dtexを越えて変化した場合、または走行後伸度が走行前伸度に対し−5%を越えて変化した場合に変化有りとする。それ以外は変化無しとする。
【0042】
(7)整経毛羽
718本で枠立てし、整経糸速度450m/minで整経したときの糸長千万mあたりの毛羽の個数をカウントした。整経毛羽5コ/千万m以下を合格レベルとした。
【0043】
(8)タテスジ品位
タテスジ品位を目視により10人のパネラーに10点満点で採点してもらい下記の通り3段階で評価した。◎、○をタテスジなく合格レベルと判断した。
【0044】
◎ : 10人のパネラーの平均点が9点以上
○ : 10人のパネラーの平均点が6点以上8点以下
× : 10人のパネラーの平均点が6点未満
(9)接触冷感性(Qmax)
実施例および比較例に記載の筒編みおよび布帛に対し、カトーテック(株)製のサーモラボ2型測定器を用い、室温20℃、湿度65%RHの部屋で、BT−Boxを30℃に調節し、十分調湿したサンプルの上にBT−Box(圧力10g/cm)をのせ、10℃の温度差での単位面積あたりの熱流速を測定した。本測定方法においてQmaxが0.110(W/cm)以上を合格レベルとした。
【0045】
(10)吸湿率差(ΔMR)
20℃×65%RH条件下および30℃×90%RH条件下の吸湿率をそれぞれMR1、MR2とし、次式により算出した。本測定方法においてΔMRが0.5以上を合格レベルとした。
【0046】
吸湿率差ΔMR=MR2−MR1
吸湿率は原糸をカセ取りして60℃で12時間真空下で乾燥し、乾燥後の重量をおよそ1gとし、20℃×65%RHあるいは30℃×90%RHの雰囲気下、恒温恒湿器(タバイ製PR−2G)中に24時間放置後の重量との重量変化から、次式により算出した。
【0047】
吸湿率MR={(吸湿後の重量−乾燥後の重量)/乾燥後の重量}×100
(11)防透け性
布帛の背後に黒色体を置き防透け性を目視により10人のパネラーに10点満点で採点してもらい下記の通り3段階で評価した。◎、○を防透け性があると判断した。
【0048】
◎ : 10人のパネラーの平均点が9点以上
○ : 10人のパネラーの平均点が6点以上8点以下
× : 10人のパネラーの平均点が6点未満
(12)総合評価
繊維特性および布帛品位を総合的に判断し、3段階評価実施した。2以上を合格レベルとした。
【0049】
実施例1
A.ポリエーテルエステル化合物の製造
ジメチルテレフタル酸194部、エチレングリコール48部、およびテトラブチルチタネート0.1部を加え、140〜230℃でメタノールを抽出しつつエステル交換反応を行った後、リン酸トリメチル0.08部のエチレングリコール溶液および数平均分子量4000のポリエチレングリコール128部、抗酸化剤としてIrganox1010(チバガイギー社製)0.2部、消泡剤としてシリコーン0.2部、およびテトラブチルチタネート0.1部を加え、1.0mmHgの減圧下280℃の条件下4時間重合を行いポリエーテルエステル化合物(共重合ポリエステル)を得た。共重合体のポリエチレングリコール共重合量は20重量%であった。
【0050】
B.芯鞘型複合繊維の製造
ポリエーテルエステル化合物チップとポリエチレンテレフタレートチップを別々に溶融し、10段の静止混練子を組み込んだパックからポリエーテルエステル化合物のブレンド比率が55重量%となるように吐出させ芯成分とし、ポリエステルチップを鞘成分として鞘成分比率が40重量%となるように1500m/minで溶融紡糸し、得られた未延伸糸を延伸倍率2.5倍で延伸し、44detx/12フィラメントの芯鞘型複合繊維を得た。得られた繊維は強度2.8cN/dtex、伸度38%、一次降伏点強度2.0cN/dtex、鏡面擦過後張力バラツキ15%以内であった。得られた芯鞘型複合繊維を用いて28ゲージで編製し、布帛サンプルを得た。得られた編物(実施例1)は整経毛羽の発生が抑えられ、接触冷感性と防透け性に優れ、タテスジ品位が良好でありソフトな風合いを有するものであった。結果を表1に示す。
【0051】
実施例2〜3、比較例1〜2
実施例2〜3、比較例1〜2は芯成分のポリエーテルエステル化合物含有率をそれぞれ変更した以外は実施例1と同様に実験した。実施例2、3は整経毛羽の発生が抑えられ、接触冷感性に優れ、タテスジ品位が良好であり、ソフトな風合いを有するものであった。
【0052】
比較例1は芯成分のポリエーテルエステル化合物含有率を5%とした実験であるが、ポリエーテルエステル化合物含有率が少ないため繊維の一次降伏点強度が高く、風合いが硬く、接触冷感性の劣るものであった。
【0053】
比較例2は芯成分のポリエーテルエステル化合物含有率を95%とした実験であるが、ポリエーテルエステル化合物含有率が多いため繊維の一次降伏点強度が低く、整経毛羽が多く、編立張力により強伸度が変化し、タテスジの目立つ品位の劣るものであった。結果を表1に示す。
【0054】
実施例4〜5、比較例3〜4
実施例4〜5、比較例3〜4はポリエチレングリコールの数平均分子量をそれぞれ変更した以外は実施例1と同様に実験した。実施例4〜5は整経毛羽の発生が抑えられ、接触冷感性に優れ、タテスジ品位が良好であり、ソフトな風合いを有するものであった。
【0055】
比較例3はポリエチレングリコールの数平均分子量を10000に変更した実験であるが、ポリエチレングリコールの数平均分子量が高いため接触冷感性は有するものの、製糸性が悪く、繊維の一次降伏点強度が低く、整経毛羽が多く、編立張力により強伸度が変化し、タテスジの目立つ品位の劣るものであった。
【0056】
比較例4はポリエチレングリコールの数平均分子量1000に変更した実験であるが、ポリエチレングリコールの数平均分子量が低いため、接触冷感性が悪く、風合いが硬く、タテスジの目立つ品位の劣るものであった。結果を表2に示す。
【0057】
実施例6〜7、比較例5〜6
実施例6〜7、比較例5〜6は鞘成分比率をそれぞれ変更した以外は実施例1と同様に実験した。実施例6〜7は整経毛羽が抑えられ、接触冷感性に優れ、タテスジ品位が良好であり、ソフトな風合いを有するものであった。
【0058】
比較例5は鞘成分比率を10%に変更した実験であるが、鞘成分の比率が低いため、繊維の一次降伏点強度が低く、編立張力により強伸度が変化し、タテスジの目立つ品位の劣るものであった。
【0059】
比較例6は鞘成分比率を90%に変更した実験であるが、鞘成分の比率が多すぎるために繊維の一次降伏点強度が高く、接触冷感性が悪く、風合いが硬く、タテスジの目立つ品位の劣るものであった。結果を表3に示す。
【0060】
実施例8〜9、比較例7
実施例8〜9、比較例7は酸化チタン量含有率をそれぞれ変更した以外は実施例1と同様に実験した。実施例8〜9は整経毛羽が抑えられ、接触冷感性に優れ、タテスジ品位が良好であり、ソフトな風合いを有するものであった。
【0061】
比較例7は酸化チタン含有率を15重量%に変更した実験であるが、防透け性は有するものの、酸化チタン含有率が多すぎるために、製糸性が悪く、整経毛羽が多く、タテスジの目立つ品位の劣るものであった。結果を表4に示す。
【0062】
実施例10〜11、比較例8〜9
実施例10〜11、比較例8〜9は繊維処理剤のホスフェート金属塩含有率をそれぞれ変更した以外は実施例1と同様に実験した。実施例10〜11は鏡面擦過後の張力バラツキが抑えられており、整経毛羽が少なく、タテスジ品位が良好であり、接触冷感性に優れ、ソフトな風合いを有するものであった。
【0063】
比較例8はホスフェート金属塩含有率を1重量%に変更した実験であるが、ホスフェート金属塩の含有率が少ないために鏡面擦過後の張力バラツキが非常に大きくなると共に、走行張力が大きくなるため、整経毛羽が多く、編立後の繊維強伸度が変化し、タテスジの目立つ品位の劣るものであった。
【0064】
比較例9はホスフェート金属塩含有率を30重量%に変更した実験であるが、ホスフェート金属塩の含有率が多すぎるため、繊維処理剤の粘度が増加し、鏡面擦過後の張力バラツキが非常に大きくなるとともに、走行張力が大きくなり、整経毛羽が多く、編立後の繊維強伸度が変化し、タテスジの目立つ品位の劣るものであった。結果を表5に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【0069】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】一次降伏点の説明図である。
【図2】走行張力測定の説明図である。
【符号の説明】
【0071】
1:糸サンプル
2:セラミックガイド
3:編み針
4:引き取りローラー
T1:走行入り張力
T2:走行出張力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分がポリエーテルエステル化合物を10重量%以上70重量%以下含有したポリエステルであり、鞘成分がポリエステルからなる芯鞘型ポリエステル複合繊維であって、鞘成分比率が20重量%以上60重量%以下であるとともに、繊維の一次降伏点強度が1.4cN/dtex以上2.3cN/dtex以下であり、かつ鏡面擦過後の糸張力バラツキが平均値に対し25%以内であることを特徴とする芯鞘型ポリエステル複合繊維。
【請求項2】
繊維処理剤有効成分に対しホスフェート金属塩を5重量%以上20重量%以下含有した繊維処理剤を付着したことを特徴とする請求項1に記載の芯鞘型ポリエステル複合繊維。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−190067(P2008−190067A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23972(P2007−23972)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】