説明

芳香剤

【解決手段】 抗細菌成分を含有した栄養源又はpH2.0〜4.5の栄養源を有し、真菌類を生育させることにより香気を発生させることを特徴とする芳香剤。
【効果】 本発明によれば、天然系の繊細な香気を、安全・簡単かつ確実に発生させる芳香剤を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真菌培養により発生する香気を利用した芳香剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の芳香剤で用いられる揮発性成分は、合成単一成分、天然物の一部を抽出した成分、又はその組み合わせである。その芳香は単調であり、天然物本来の繊細な芳香性を得るためには試行錯誤による複雑な調合技法が必要であり、簡便性に乏しかった。
【0003】
天然物本来の香気特性を得るべく、生物活性を活用した芳香発生技術に関しては下記に示すような提案がなされている。しかしながら、その効果、簡便性、安全性の面でいずれも十分といえるものではなかった。
【0004】
例えば、植物体を用いた芳香発生技術として、アルコール配糖体等の揮発性物質前駆体を切花等の植物体に吸収させ、芳香成分を生合成する技術が提案されている(特許文献1:特開2001−172101号公報参照)。しかしながら、特殊な揮発性物質前駆体及び活性状態を保った植物体が必須であり、簡便性や応用性の面で問題がある。
【0005】
また、皮膚常在微生物を利用した芳香発生技術として、香料前駆物質を繊維に含浸し皮膚常在微生物によって香料成分に変換する寝具を提供する技術が提案されている(特許文献2:特開平9−154677号公報参照)。しかしながら、特殊な香料前駆物質が必要であり、さらに皮膚常在菌を用いるため、技術の応用範囲が寝具等の皮膚と接触する場面に限られるという問題がある。
【0006】
一方、コウジカビ等の微生物と、糖類を主成分とする栄養源とを接触させ、その代謝により香気成分を得る技術(特許文献3:特開平7−187980号公報)が提案されている。しかしながら、好適な香気を発生するカビや酵母等の真菌類は、環境中に存在する細菌類に比べて生育が遅く、本技術を通常の空間で応用した場合、香気を発生するまでに環境由来の微生物に汚染され、悪臭を発生してしまうという重篤な問題点を有する。
【0007】
【特許文献1】特開2001−172101号公報
【特許文献2】特開平9−154677号公報
【特許文献3】特開平7−187980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、既存芳香成分の揮発では発現が困難な天然系の繊細な香気を安全、簡単かつ確実に発生させる芳香剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、抗細菌成分を含有した栄養源又は低pHの栄養源で真菌類を生育させることにより、無菌状態(非無菌条件下)ではない通常の空間でも、環境由来の微生物に汚染されにくく、目的とする天然系の繊細な香気を安全、簡単かつ確実に発生しうることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0010】
従って、下記発明を提供する。
[1].抗細菌成分を含有した栄養源又はpH2.0〜4.5の栄養源を有し、真菌類を生育させることにより香気を発生させることを特徴とする芳香剤。
[2].真菌類が加工食品用の酵母又はカビであることを特徴とする[1]記載の芳香剤。
[3].抗細菌成分が天然物由来の成分であることを特徴とする[1]又は[2]記載の芳香剤。
[4].抗細菌成分を含有した栄養源又はpH2.0〜4.5の栄養源と、この栄養源によって生育される真菌類とを有し、前記栄養源と真菌類とを接触させることにより、香気を発生させることを特徴とする芳香剤。
[5].さらに、真菌類が接触された栄養源を密開閉し得る包装体を有し、真菌類が接触された栄養源への酸素供給と遮断により、香気の発生と休止を調整する[4]記載の芳香剤。
[6].抗細菌成分を含有した栄養源又はpH2.0〜4.5の栄養源で、真菌類を生育させた際に発生する香気の芳香剤としての使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、天然系の繊細な香気を、安全・簡単かつ確実に発生させる芳香剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の芳香剤は、抗細菌成分を含有した栄養源又はpH2.0〜4.5の栄養源を有し、真菌類を生育させることにより香気を発生させることを特徴とする芳香剤である。
【0013】
本発明の栄養源は、抗細菌成分を含有した栄養源又はpH2.0〜4.5の栄養源である。抗細菌成分添加前やpH調整前のベース栄養源は、上記真菌類が生育できる一般的に用いられるものであればその種類に特に限定はない。例えば、基本となる炭素源としては、ショ糖、ブドウ糖、麦芽等、果糖等の糖類や、デンプン、アミロース等の多糖類、サツマイモ、ジャガイモ、サトイモ、米、大麦、小麦等の塊根類や、穀類を用いることができ、必要に応じて大豆カゼイン、ミルクカゼイン、ペプトン、硫安等の有機、無機の窒素源やミネラル、ビタミン等を添加したものを用いることができる。
【0014】
栄養源に添加する抗細菌成分はその種類に特に限定はなく、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。具体的には、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、4級アンモニウム塩といった化学合成薬剤、ペニシリン、リファンピシンといった抗生物質が挙げられる。安全性の面から、天然物由来の成分、例えば抽出物を用いることが好ましい。具体的には、クララエキス、コウボクエキス、オウレンエキス、オウバクエキス、ローズマリーエキス、ティーツリーオイル、ヤマジソオイル、白子タンパク抽出物等が挙げられる。栄養源中の抗細菌成分量は、0.5〜5000ppmが好ましく、より好ましくは5〜500ppmである。
【0015】
抗細菌成分を添加する場合の栄養源のpHは、真菌類が死滅しない範囲であればいかような範囲でも用いることができるが、安全性の面から中性付近以下であることが好ましく、さらに混入細菌類の増殖を抑制する意味で、酸性領域(pH3.0〜6.0)が好ましい。抗細菌成分を添加しない場合は、栄養源のpHは2.0〜4.5、好ましくはpH2.5〜3.5である。
【0016】
本発明に用いられる真菌類はその種類に特に限定はないが、効果発揮の面及び安全性の面から、加工食品用の酵母、カビであることが好ましい。具体的には、清酒酵母、ワイン酵母、ビール酵母、パン酵母、コウジカビ及びムコール等が挙げられる。真菌としては1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0017】
本発明の芳香剤は、抗細菌成分を含有した栄養源又はpH2.0〜4.5の栄養源で真菌類を培養して、真菌類を生育させる際に発生する香気を利用するものであるが、真菌類の培養形態は液体培養、固体培養のいずれの方法も用いることができる。
【0018】
本発明の真菌類は、いかような形態のものも用いることができるが、保存性の面で胞子状の菌体を用いることが好ましい。播種する胞子数は、栄養源200mLに対し102個以上が好ましく、より好ましくは104個以上である。培養は、芳香の持続性の面から、室温付近で真菌類を支持体に保持させて培養することが好ましい。
【0019】
本発明の芳香剤は、無菌状態ではない通常の空間でも、環境由来の微生物に汚染されにくく、目的とする天然系の繊細な香気を安全、簡単かつ確実に発生し得ることから、抗細菌成分を含有した栄養源又はpH2.0〜4.5の栄養源と、この栄養源によって生育される真菌類とを有し、前記栄養源と真菌類とを接触させることにより、香気を発生させる芳香剤とすることができる。この場合、使用性の面から、真菌を支持体中に保持することが好ましい。この場合、支持体は一般的に用いられるものを使用することができ、例えば、コルク、木材等の天然系の有機多孔質、ケイ酸化合物等の無機物、アクリル棒等の化学合成ポリマー等が挙げられる。支持体の形状は特に限定されないが、円筒状のものが好ましい。真菌類の保持方法は特に限定されないが、布や脱脂綿等に乾燥真菌類、又は生理食塩水に懸濁もしくは溶解させた真菌類を噴霧し、これを上記支持体に巻きつける方法が挙げられる。
【0020】
栄養源は、容器または袋状のものに収容されればよく、特に限定されない。ただし、栄養源と真菌類とを接触させて香気を発生する前は、栄養源と真菌類(真菌類が保持された支持体)は、それぞれ別にすることが好ましい。
【0021】
さらに、本発明の芳香剤には、真菌類が接触された栄養源を密開閉し得る包装体を有し、真菌類が接触された栄養源への酸素供給と遮断により、香気の発生と休止を調整することが好ましい。具体的には、酸素の供給を遮断することにより、真菌類の生育が中止して、香気の発生を休止することができ、再び酸素の供給をすることにより、真菌類の生育が再開して、香気の発生を再開することができる。
【0022】
真菌類が接触された栄養源を密開閉し得る包装体及びその方法としては、一般的に使用するものを用いることができ、具体的には、ラップやフィルム等で表面を被覆する方法、ガラスや高分子素材によるケースに、真菌類が接触された栄養源を封入する方法等を用いることができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例、調製例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において特に明記のない場合は、組成の「%」は質量%を示す。
【0024】
[調製例1:真菌支持体の調製]
10cm×50cmのポリエステル布に脱脂綿を重ね、その上に清酒酵母又はコウジカビの胞子乾燥物を104個程度塗末、又は生理食塩水懸濁液の形で噴霧した。本真菌塗末物を直径3cm・長さ15cmのアクリル棒に巻きつけ、必要に応じ40℃程度で乾燥し、真菌が保持された真菌支持体を調製した。
【0025】
[調製例2:植物エキスの調製]
抗細菌活性を有する植物であるクララの根茎部、コウボクの樹皮部、オウレンの根茎部、オールスパイスの果実部を乾燥、粉砕して粗末とし、各粗末10gを70%エタノールに浸漬し、室温で5日間抽出した。残渣をろ別して得られた抽出液を減圧濃縮し、各エキスを得た。
【0026】
[実施例1〜14:芳香発生試験]
1/5濃度のポテトデキストロース培地(Difico社製)をベースとし、表1,2に示す組成の栄養源を調製した。これらの栄養源200mLを直径15cmのペトリ皿に収容した。栄養源の一部を調製例1の支持体に含浸させ、さらにこの支持体の下部を栄養源に浸す形で固定した。本状態のまま室内にて放置し、経時的に発生する臭気の強度と芳香の快、不快度を下記の基準で評価した。結果を表中に併記する。
【0027】
<臭気強度>
−:臭気をまったく感じず
±:わずかに臭気を感じる
+:明らかに臭気を感じる
<芳香の快、不快度>
1:きわめて不快
2:やや不快
3:快でも不快でもなし
4:やや快
5:きわめて快
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
[実施例15:芳香発生試験]
実施例1の清酒酵母の代わりに保持真菌としてムコールを用いる以外は、実施例1と同様に調製した(実施例15)。比較例1の清酒酵母の代わりにムコールを用いる以外は、比較例1と同様に調製した(比較例3)。これらについて、上記実施例と同様の操作を行ったところ、室温放置3日以降に実施例15からはフルーティーな芳香が感じられた。一方、比較例3は真菌支持体表面に細菌のコロニーが発生し、不快な臭気が感じられた。
【0031】
[実施例16:芳香制御試験]
上記実施例15について、室温放置7日後に、真菌支持体と真菌支持体が固定された栄養源全体とをラップでくるみ、空気の流通を遮断したところ、芳香の発生が停止した。その後ラップを取り除き、通気を改善したところ芳香の発生が再開した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗細菌成分を含有した栄養源又はpH2.0〜4.5の栄養源を有し、真菌類を生育させることにより香気を発生させることを特徴とする芳香剤。
【請求項2】
真菌類が加工食品用の酵母又はカビであることを特徴とする請求項1記載の芳香剤。
【請求項3】
抗細菌成分が天然物由来の成分であることを特徴とする請求項1又は2記載の芳香剤。
【請求項4】
抗細菌成分を含有した栄養源又はpH2.0〜4.5の栄養源と、この栄養源によって生育される真菌類とを有し、前記栄養源と真菌類とを接触させることにより、香気を発生させることを特徴とする芳香剤。
【請求項5】
さらに、真菌類が接触された栄養源を密開閉し得る包装体を有し、真菌類が接触された栄養源への酸素供給と遮断により、香気の発生と休止を調整する請求項4記載の芳香剤。
【請求項6】
抗細菌成分を含有した栄養源又はpH2.0〜4.5の栄養源で、真菌類を生育させた際に発生する香気の芳香剤としての使用。

【公開番号】特開2006−176690(P2006−176690A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−372636(P2004−372636)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】