説明

芳香族アミンからフェノール性ヒドロキシ基を含む化合物を除去する方法

【課題】芳香族アミンであって相応のニトロ化合物の接触水素化によって製造された芳香族アミンを、複雑な蒸留を要することなく、一方で廃水流の容量を低減させて精製するための単純かつ経済的な方法を提供する。
【解決手段】フェノール性ヒドロキシ基を含む化合物を、少なくとも1種の芳香族アミンであってニトロ芳香族化合物の水素での気相水素化の過程において生成した芳香族アミンを含有するガス流から分離するための方法において、フェノール性ヒドロキシ基を含む化合物を塩基性固体上に吸着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール性ヒドロキシ基を含む化合物を、少なくとも1種の芳香族アミンであって相応のニトロ芳香族化合物の水素での気相水素化の間に生成した芳香族アミンを含有するガス流から、塩基性固体上での吸着によって除去するための方法に関する。本願で使用する場合に、"フェノール性ヒドロキシ基を含む化合物"は、芳香族環上に少なくとも1つのヒドロキシ基を有する化合物である。アニリンの製造及びアニリンの精製の場合において、フェノール性ヒドロキシ基を有する不純物は、実質的に、フェノールそれ自体か、あるいはOH官能基に加えて他の官能基をも有する誘導体、例えば様々なアミノフェノールである。
【背景技術】
【0002】
芳香族アミンは、廉価かつ大量に入手できねばならない重要な中間体である。従って、例えばニトロベンゼンをアニリンに水素化するためには、極めて大容量を有するプラントを構築する必要がある。アニリンは、例えばメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)の製造のための重要な中間体であって、一般に、ニトロベンゼンの水素による接触水素化によって工業的規模で製造される(例えばDE−OS2201528号;DE−OS3414714号;US3136818号;EP0696573号B1;及びEP0696574号B1を参照のこと)。この反応において、フェノール性ヒドロキシ基を含む副成分、例えばフェノールそれ自体もしくはアミノフェノールは、所望の生成物であるアニリンとともに形成される。これらの副成分は、後続工程において、そのアニリンを更に使用する前に蒸留によって除去せねばならない。フェノールとアニリンとの分離は、それらの沸点がともに非常に近いため蒸留技術に関する主たる難題である。フェノールとアニリンとを分離することの困難性は、多数の棚段と高い還流比を有する長い蒸留塔を使用することに反映され、従って投資及びエネルギーの点で多くの支出を伴う。
【0003】
フェノールとアニリンとを分離するためのより近年の試みとしては、抽出のための可溶性アルカリの使用もしくは蒸留の間のアルカリの添加が記載されている。例えば、JP−A−49−035341号には、粗製アニリンを固体アルカリ材料(例えば固体水酸化ナトリウム)と固定床で接触させ、そして引き続き蒸留に通すだけか、又は蒸留を固体アルカリ材料の存在下で、蒸留されるアニリンの量に対して0.1〜3質量%の濃度で実施する代替法が記載されている。それにより、アミノフェノールのような色を決定づける成分の分離は単純化される。
【0004】
しかしながら、前記方法の欠点は、除去されるべき酸性の副成分に対して高いモル過剰の固体アルカリが使用されることと、アルカリ性化合物の厳密な配量が不可能であることである。当該方法は、過剰配量した場合に、蒸留塔において、腐蝕の問題、沈殿、そして高粘性の半固相を引き起こす。過少配量は、その決定的な成分の不完全な除去を引き起こすことがある。
【0005】
フェノール性ヒドロキシ基を含む化合物を蒸留によりアニリンから除去するための代替法としては、JP−A−08−295654号において、水酸化ナトリウム(もしくは水酸化カリウム)希釈水溶液で抽出することが記載されている。この開示された方法では、殆どのフェノールは、ナトリウムフェノレートの形態で水相に移行し、それは後続の相分離によって上相として分離除去される。NaOH:フェノールのモル比が3:1〜100:1の範囲であることが、フェノール含有率の効果的な低下を達成するために必要である。この方法の欠点は、高いNaOH消費量(モル過剰)と、追加の廃棄費用をもたらすアルカリ−フェノレート含有廃水の形成と、抽出のための付加的な投資である。
【特許文献1】DE−OS2201528号
【特許文献2】DE−OS3414714号
【特許文献3】US3136818号
【特許文献4】EP0696573号B1
【特許文献5】EP0696574号B1
【特許文献6】JP−A−49−035341号
【特許文献7】JP−A−08−295654号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、芳香族アミンであって相応のニトロ化合物の接触水素化によって製造された芳香族アミンを、複雑な蒸留を要することなく、一方で廃水流の容量を低減させて精製するための単純かつ経済的な方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、フェノール性ヒドロキシ基を含む化合物を、少なくとも1種の芳香族アミンであって相応のニトロ芳香族化合物の水素での気相水素化の間に生成した芳香族アミンを含有するガス流から除去するための方法に関する。本方法においては、フェノール性ヒドロキシ基を含む化合物は、塩基性固体上に吸着される。
【0008】
塩基性固体の塩基性特性は、有利には、その塩基性固体が、フェノール性ヒドロキシ基を含む化合物の酸性特性のため、フェノール性ヒドロキシ基を含む化合物を吸着することを可能にする。本発明の方法で使用される塩基性固体は、有利にはそれが完全に負荷されたときに、再生することができる。その再生は、例えば高められた温度で、酸素もしくは酸素含有ガスで処理することによって実施することができる。前記吸着は、十分に大容量の固定床中で実施するか、又は複数の固定床を交替で稼働させることによっても実施でき、その際、使用に供されていない固定床を再生することができる。
【0009】
本発明の方法においては、フェノール性ヒドロキシ基を含む化合物は、塩基性固体上に吸着される。塩基性固体上を通過するガス流は、有利には、150〜500℃の入口温度と、1〜50バールの絶対圧力を有する。塩基性固体が完全に負荷されたときには、その塩基性固体を、高められた温度で、酸素もしくは酸素含有ガスで処理することによって再生させることができる。前記吸着は、有利には、十分に大容量の1つの固定床中で実施するか、又は複数の固定床を交替で稼働させることによっても実施され、その際、使用に供されていない固定床を再生することが好ましい。
【0010】
使用される少なくとも1種の芳香族アミンを含有するガス流は、ニトロ芳香族化合物の気相水素化のための任意の工業的に慣用の方法から出るものであってよい。その水素化は、有利には、不均一系の担持型固定触媒において、例えば酸化アルミニウムもしくは炭素担持材料上に担持されたPdにおいて、固定床反応器中で、1〜50バールの絶対圧力で、かつ150〜600℃の範囲の温度で、断熱条件下に、ガス循環方式において(すなわち水素化の間に反応しなかった水素を再循環させる)実施される。当該方法は、例えばEP0696573号B1及びEP0696574号B1に記載されている。
【0011】
好ましい芳香族アミンは、アニリンである。
【0012】
塩基性固体としては、元素の周期律表(1986年のIUPAC推奨による命名法)の第1族、第2族、第12族、第13族及び第14族における任意の元素の任意のブレンステッド塩基性の無機化合物、特に前記の元素の酸化物及び水酸化物並びに係る無機化合物の組み合わせを使用することができる。MgO、ヒドロタルサイト及び塩基性のAl23が好ましい。塩基性のAl23が特に好ましい。該塩基性の無機化合物は、そのままで存在しても、又は好適な担持材料上に担持されて存在してもよい。好適な担持材料は、不均一系水素化触媒において慣用の任意の材料である。好適な担持材料の例は、EP0696573号B1及びEP0696574号B1に開示されている。α−酸化アルミニウム及びグラファイト又はグラファイト含有炭素担持材料が特に適している。
【0013】
塩基性のゼオライトも塩基性固体として使用することができる。係るゼオライトは、例えば:
Rep,M.;Palomares,A.E.;Eder−Mirth,G.;van Ommen,J.G.;Roesch,N;Lercher,J.A.著の"Interaction of Methanol with Alkali Metal Exchanged Molecular Sieves.1.IR Spectroscopic Study",Journal of Physical Chemistry B(2000),104(35),8624−8630と、
Tsyganenko,A.A.;Kondratieva,E.V.;Yanko,V.S.;Storozhev,P.Yu.著の"FTIR study of CO adsorption on basic zeolites",Journal of Materials Chemistry(2006),16(24),2358−2363と、
Plant,David F.;Simperler,Alexandra;Bell,Robert G.著の"Adsorption of methanol on zeolites X and Y.An atomistic and quantum chemical study",Journal of Physical Chemistry B(2006),110(12),6170−6178と
に記載されている。
【0014】
好ましいゼオライトは、例えばCsmX、CsmY、CsmNanX、CsmNanY、RbmX及びRbmYであり、式中、化学量論係数"m"及び"n"は、任意の所望の値(0を含む)を有してよく、その際、2つの合計がXもしくはYの負電荷に対する補償をせねばならないという周辺条件を伴う(電気的中性条件)。係るゼオライトは一般に含水形であるが、単純化のために、前記式中には水を含めなかった。項"X"及び"Y"の定義は、Wiberg,N.著の"Hollemann−Wiberg−Lehrbuch der Anorganischen Chemie",第101版、Walter de Gruyter,ベルリン,ニューヨーク 1995年,第939頁,注釈166に示されており、当該刊行物は、参照をもって開示されたものとする。
【0015】
使用される塩基性固体は、有利には、フェノール性ヒドロキシ基を有する化合物に対して非常に高い吸着選択性を有する。吸着選択性Aは、以下のように表現される:
【数1】

[式中、使用される記号は、以下の意味を有する:
B = 塩基性固体1kg当たりに吸着される、フェノール性ヒドロキシ基を含む化合物のモル数
C = 塩基性固体1kg当たりに吸着される芳香族アミンのモル数
χB/χC = 高いアミン過剰率を考慮に入れた重み係数
χB = 使用される混合物における、フェノール性ヒドロキシ基を含む化合物の含分と、フェノール性ヒドロキシ基を含む化合物及びアミンの合計含分とのモル比(モル分率)
χC = 使用される混合物における、アミンの含分と、フェノール性ヒドロキシ基を含む化合物及びアミンの合計含分とのモル比(モル分率)]。
【0016】
吸着選択性は、実験によって測定される。殊に、アニリン(500ppmのフェノールでドープされている)49.12g/hと、水20.1g/hと、水素24.5l/hの気流を、周囲圧力において、長さ60cm及び直径2.5cmを有する吸着管であって240℃に外部加熱されかつガラスビーズと吸着体14gの充填物で満たされたものに通過させる。前記吸着器を出たガス流を、3℃で回収容器中で凝縮させ、そしてそのフェノール含有率をガスクロマトグラフィーによって測定する。前記吸着体を、イソプロパノールで4時間にわたってソックスレー抽出器中で個別に抽出し、そして蒸留物のアニリン含有率とフェノール含有率をガスクロマトグラフィーによって測定する。
【0017】
好ましい塩基性固体は、90%より高い吸着選択性Aを有し、より好ましくは98%より高い吸着選択性Aを有し、最も好ましくは99.5%より高い吸着選択性Aを有する。MgOを使用することが好ましい。塩基性の酸化アルミニウムは、最も好ましい吸着剤である。
【0018】
塩基性固体上を通過して精製されるべきアミンを含有するガス流は、有利には150〜500℃、より有利には200〜300℃、最も有利には220〜280℃の入口温度を有し、かつ有利には1〜50バール、より有利には2〜20バール、最も有利には2〜10バールの絶対圧力を有する。本発明の方法の特に好ましい一実施態様においては、前記手順は、水素化反応の必要条件に基づく条件下で、例えば生産ラインにおける最後の熱交換器を出た後の生成ガス混合物の温度と圧力において実施される。
【0019】
本発明の方法の特に経済的な一形態においては、塩基性固体は、担持材料と同一物であるか、又はニトロ化合物の水素化において水素化活性金属のための担持材料としても使用される担持材料にそれが適用される。そういった場合には、追加の塩基性固体を有する別個の下流の固定床は不要である。
【0020】
最初から吸着材料に望まれる塩基性特性を有する担持材料を使用することもできるし、又は1種もしくは複数種の水素化活性金属で負荷される前に、あるいは有利にはその後に塩基性の無機化合物の適用によって改質されている担持材料を使用することもできる。
【0021】
1種もしくは複数種の塩基性固体の吸着能が使い果たされたときに、当該塩基性固体を、高められた温度、有利には250〜500℃の温度において、酸素もしくは酸素含有ガス混合物で処理することによって再生させて、当初の吸着能を回復させることができる。十分に大容量の固定床が使用される場合に、その再生は、水素化触媒の再生と一緒に行うことが好ましい。複数の固定床を交替で稼働させる場合には、それぞれの場合において、1つの固定床を吸着のために使用し、そして他の固定床をその間に再生させる。塩基性固体が水素化活性金属の担持材料と同一物であるか又は担持材料に適用されている場合には、その吸着能は、水素化触媒の再生の間に復元される。
【0022】
再生を容易にするために、塩基性固体を、好適な酸化触媒とともに提供することができる。好適な酸化触媒は、例えば元素の周期律表(1986年のIUPAC推奨による命名法)の第5族〜第7族もしくは第10族及び第11族の金属又は金属酸化物であり、その際、バナジウムの酸化物が好ましい。これらの酸化触媒は、一般に、塩基性固体の全質量(酸化触媒を含む)に対して、0.1〜10質量%の量で存在する。
【0023】
更なる後処理工程、例えば蒸留工程もしくは洗浄工程のような後処理工程を、芳香族アミンの高い純度さえも達成するために下流に設けてよいが、係る工程は必ず必要となるわけではない。その下流の洗浄工程及び/又は蒸留工程は、当業者に公知の任意の変化形におけるものであってよく、かつ非常に様々な条件下で係る工程を行うことができる。例えば、蒸留は、1もしくは複数の泡鐘段塔もしくは充填塔中で又は分割塔(partition column)中で実施することができる。低沸点物及び高沸点物は、異なる塔において分離することも、又は選択的に1つの塔中でアニリンの側流としての除去と一緒に分離することもできる。
【0024】
本発明による方法で得られる精製された芳香族アミンは、アミンの質量に対して全体で、有利には0.01質量%未満、より有利には0.005質量%未満、最も有利には0.002質量%未満のフェノール性化合物を含有する。"フェノール性化合物"は、フェノール性ヒドロキシ基を含む化合物全てとそれらの金属塩の合計を意味すると解されるべきである。
【0025】
本発明による方法によって得られた芳香族アミンは、それらの高い純度のため更なる大規模使用に特に適している。例えば、本発明による方法によって精製されたアニリンとホルムアルデヒドとを、酸性触媒の存在下で当該技術分野で公知の方法に従って反応させて、ジフェニルメタン系のジアミン及びポリアミンを得ることができる。次いで、得られたジアミン及びポリアミンを、当該技術分野で公知の方法に従って、例えばホスゲンと反応させて、相応のジフェニルメタン系のジイソシアネート及びポリイソシアネートを得ることができる。
【実施例】
【0026】
本発明の方法の実施例を以下に示す。以下の実施例におけるフェノール含有率の分析は、ガスクロマトグラフィーによって実施する。
【0027】
実施例1
アニリン(500ppmのフェノールでドープされている)49.12g/hと、水20.1g/hと、水素24.5l/hの気流を、周囲圧力において、長さ60cm及び直径2.5cmを有する吸着管であって240℃に外部加熱されかつガラスビーズと吸着体14gの充填物で満たされたものに通過させた。前記吸着器を出たガス流を、3℃で回収容器中で凝縮させ、そしてそのフェノール含有率をガスクロマトグラフィーによって測定した。吸着時間は6時間であった。第1表は、実測された吸着能と選択性を含んでいる。
【0028】
第1表
【表1】

【0029】
実施例2
アニリン(500ppmのフェノールでドープされている)8g/hと、水3.2g/hと、水素5.76l/hの気流を、周囲圧力及び240℃において、実施例1に挙げた吸着管であってガラスビーズと吸着体10gの充填物で満たされたものに通過させた。前記吸着器を出たガス流を、3℃で回収容器中で凝縮させ、そしてそのフェノール含有率をガスクロマトグラフィーによって測定した。第2表は、実測されたフェノール含有率に従うものである。
【0030】
第2表
【表2】

【0031】
実施例3
実施例1からの負荷された吸着体を、全ての吸着された有機化合物を340℃及び周囲圧力で窒素中空気流において焼却することによって再生させた。実施例1からの吸着体をそれぞれ再生させることができ、そして如何なる大きな活性損失を伴うことなく再び5回負荷させることができる。
【0032】
本発明を、説明を目的として前記において詳説したが、このような詳細は単にこの目的のためだけものであり、請求項により限定され得るものを除き、当業者によって本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく変法が作られることができると理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール性ヒドロキシ基を含む化合物を、少なくとも1種の芳香族アミンであってニトロ芳香族化合物の水素での気相水素化の過程において生成した芳香族アミンを含有するガス流から分離するための方法において、フェノール性ヒドロキシ基を含む化合物を塩基性固体上に吸着させることを含む方法。

【公開番号】特開2008−120803(P2008−120803A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289856(P2007−289856)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(504213548)バイエル マテリアルサイエンス アクチエンゲゼルシャフト (54)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【住所又は居所原語表記】D−51368 Leverkusen, Germany
【Fターム(参考)】