説明

芳香族アルコールの製造方法

【課題】触媒利用初期の過剰な触媒活性による好ましくない反応を抑制し、かつ運転中の触媒活性低下による反応転化率や選択率の悪化を低減でき、よって効率的に連続反応を実施できるという優れた特徴を有する芳香族アルコールの製造方法を提供する。
【解決手段】芳香族過酸化物を含む液と水素含有ガスとを貴金属が担持された粉体又は粒状触媒を懸濁させた反応容器に連続的に供給し、芳香族アルコールを含む反応液を得る芳香族アルコールの製造方法であって、反応及び反応液の抜き出しが連続で行われ、所定のレベルまで触媒の活性が低下した場合に、反応及び反応液の抜き出しを停止することなく追加の触媒を上記の反応液中に添加することを特徴とする芳香族アルコールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族アルコールの製造方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は触媒利用初期の過剰な触媒活性による好ましくない反応を抑制し、かつ運転中の触媒活性低下による反応転化率や選択率の悪化を低減でき、よって効率的に連続反応を実施できるという優れた特徴を有する芳香族アルコールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族過酸化物を水素により還元し芳香族アルコールを得る方法は、芳香族アルコールの工業的製造方法として用いられている。例えば、クメンハイドロパーオキサイドを含む液と水素含有ガスを触媒の存在下に反応させた場合はクミルアルコールが得られ、ジイソプロピルベンゼンジハイドロパーオキサイド(DHPO)及び/又はジイソプロピルベンゼンハイドロキシハイドロパーオキサイド(CHPO)を含む液を用いた場合は、ジイソプロピルベンゼンジカルビノール(DCA)が得られる。
【0003】
特許文献1には前述のDCAの製造方法において、水添触媒としてパラジウム担持触媒が、活性、選択性に優れることが開示されている。さらに、反応器の形式としては、固定床流通反応器や攪拌槽スラリー反応器が例示されているが、活性、選択性、触媒寿命の観点から、紛体触媒を用いた攪拌槽スラリー反応器が好ましいとされている。そして、スラリー反応の触媒濃度は通常0.05〜10重量%の範囲であるとの記述がある。
【0004】
また、特許文献2には、パラジウム担持触媒の活性を長期にわたって高い水準に維持し得るための原料液中の水分濃度と反応温度の関係が開示されている。
【0005】
ところで、一般に攪拌槽スラリー反応器に滞留する粉体又は粒状触媒は経時的に失活するため、次第に反応成績が低下する。このため、所望の反応成績を維持するためには、回分反応操作として、1回又は数回の反応ごとに触媒を入れ替えていた。また、別の方法として、触媒活性が不充分になるまで連続反応で継続使用し、所定の触媒活性を下回ったら反応を停止して触媒を入れ替える方法も取られる。例えば、特許文献3には懸濁床方式によるニトリルの水和反応において、反応器内に設置された焼結金属製の濾筒により懸濁触媒と反応液との分離を行いながら反応液を連続的に取り出し、所定時間使用した触媒を空気に触れないように取り出し、再生することが記載されている。しかしながら、これらの方法では触媒活性が低下した場合、反応を停止して触媒を入れ替えるため、非定常作業の負担が大きく、品質の安定性や運転効率、生産性の点で不満足である。
【0006】
さらに別の方法としては、あらかじめ大過剰の触媒を反応容器に存在させ、所定の反応成績を維持できなくなるまでの時間を延ばすことで実質的な連続操作を可能とする方法もあるが、このような方法を本発明の反応系に適応した場合、触媒活性の高い反応初期において過剰な触媒による好ましくない反応、具体的には、原料中に不純物として含まれるアセトフェノン類が水添されて精製困難な別の不純物を生成して製品純度低下を引き起こしたり、ベンゼン骨格にまで水添される核水添反応等が生じて反応成績を低下させたりすることがあり、加えて過剰投入された触媒も長期間反応器内に存在するため失活が早まり、触媒の利用効率を低下させるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−143112号公報
【特許文献2】特開平9−194411号公報
【特許文献3】特公昭59−12342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かかる状況において、本発明が解決しようとする課題は、触媒利用初期の過剰な触媒活性による好ましくない反応を抑制し、かつ運転中の触媒活性低下による反応転化率や選択率の悪化を低減でき、よって効率的に連続反応を実施できるという優れた特徴を有する芳香族アルコールの製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明のうち第一の発明は、芳香族過酸化物を含む液と水素含有ガスとを貴金属が担持された粉体又は粒状触媒を懸濁させた反応容器に連続的に供給し、芳香族アルコールを含む反応液を得る芳香族アルコールの製造方法であって、反応及び反応液の抜き出しが連続で行われ、所定のレベルまで触媒の活性が低下した場合に、反応及び反応液の抜き出しを停止することなく追加の触媒を上記の反応液中に添加することを特徴とする芳香族アルコールの製造方法に係るものである。
本発明は、芳香族過酸化物がジイソプロピルベンゼンジハイドロパーオキサイド(DHPO)及び/又はジイソプロピルベンゼンハイドロキシハイドロパーオキサイド(CHPO)であり、芳香族アルコールがジイソプロピルベンゼンジカルビノール(DCA)である場合に特に好適である。
【0010】
また、本発明のうち第二の発明は、上記第一の発明に用いられる反応容器が、下記(1)及び(2)の特徴を有するものであり、仕切弁(a)を閉止した状態で仕切弁(b)を開放して空室内に追加添加すべき触媒を充填した後仕切弁(b)を閉止し、次いで空室内に加圧ガスを供給した後、仕切弁(a)を開放し、追加添加すべき触媒を反応器内に投入する上記第一の発明の製造方法に係るものである。
(1):反応容器から反応後の反応液を抜き出すルートに、反応容器から粉体又は粒状の触媒の流出を防止するための機能が設けられていること
(2):反応容器に追加の触媒を投入するための投入装置が設けられており、該投入装置は、反応容器の内部と外部を遮断・連絡する二重の仕切弁(a)及び仕切弁(b)を有し、仕切弁(a)は反応容器内部側にあり、仕切弁(b)は反応容器外部側にあり、二つの仕切弁の間は空室を形成し、該空室内に加圧ガスを供給できる構造であること
本発明の反応容器から粉体又は粒状触媒の流出を防止するための機能が、反応器内部に設置された触媒分離用のフィルターによるろ過機能である場合、または、シックナー型の沈降分離機能である場合、設備の構造の簡易性や公知の汎用設計手法を用いることができる点で特に好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、触媒利用初期の過剰な触媒活性による好ましくない反応を抑制し、かつ運転中の触媒活性低下による反応転化率や選択率の悪化を低減でき、よって効率的に連続反応を実施できるという優れた特徴を有する芳香族アルコールの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例5で用いた反応容器の概略を示す図である。
【図2】実施例5で用いた反応容器の内部に設置された触媒分離用のフィルターに換えて触媒を重力で分離させるための沈降ゾーンを有するシックナー型の触媒分離機能を有する反応容器の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体例で説明するが、例示した実施の形態に限らず、次に示す第一又は第二の特徴を有する方法であれば本発明に含まれる。
【0014】
本発明のうち第一の特徴は、芳香族過酸化物を含む液と水素含有ガスとを貴金属が担持された粉体又は粒状触媒を懸濁させた反応容器に連続的に供給し、芳香族アルコールを含む反応液を得る芳香族アルコールの製造方法あって、反応及び反応液の抜き出しが連続で行われ、所定のレベルまで触媒の活性が低下した場合に、反応及び反応液の抜き出しを停止することなく追加の触媒を上記の反応液中に添加することを特徴とする芳香族アルコールの製造方法に係るものである。
【0015】
芳香族過酸化物としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、エチルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンジハイドロパーオキサイド(DHPO)、ジイソプロピルベンゼンハイドロキシハイドロパーオキサイド(CHPO)等が挙げられる。
芳香族アルコールとしては、例えば、クミルアルコール、メチルベンジルアルコール、ジイソプロピルベンゼンジカルビノール等が挙げられる。
【0016】
本願発明は、芳香族過酸化物がジイソプロピルベンゼンジハイドロパーオキサイド(DHPO)及び/又はジイソプロピルベンゼンハイドロキシハイドロパーオキサイド(CHPO)であり、芳香族アルコールがジイソプロピルベンゼンジカルビノール(DCA)である場合に特に好適である。以下、芳香族過酸化物がジイソプロピルベンゼンジハイドロパーオキサイド(DHPO)及び/又はジイソプロピルベンゼンハイドロキシハイドロパーオキサイド(CHPO)であり、芳香族アルコールがジイソプロピルベンゼンジカルビノール(DCA)である場合について、さらに詳細に説明する。
【0017】
本発明の反応原料であるジイソプロピルベンゼンジハイドロパーオキサイド(DHPO)及び/又はジイソプロピルベンゼンハイドロキシハイドロパーオキサイド(CHPO)を含む液は、ジイソプロピルベンゼン(DIPB)を空気又は含酸素ガスで酸化することで得ることができる。原料であるDIPBとしては、m−DIPB、p−DIPBを挙げることができる。すなわち、m−DIPB及びp−DIPBの混合物であってもよく、あるいはどちらか一方を単独で用いてもよいし、別の物質を溶媒として含むものであってもよい。
【0018】
DIPBの酸化反応は、添加剤を用いずに非水系で実施してもよいし、アルカリ水溶液のような添加剤の存在下に実施してもよいが、反応速度及び反応選択率の観点から、アルカリ水溶液存在下に行なうのが好ましい。この場合、アルカリ水溶液のpHは8〜11の範囲であることが好ましい。通常の反応温度は50〜200℃であり、反応圧力は大気圧から5MPaの間である。アルカリ水溶液のアルカリ性試薬としては、NaOH、KOHのようなアルカリ金属化合物や、アルカリ土類金属化合物又はNa2CO3、NaHCO3のようなアルカリ金属炭酸塩又はアンモニア及び(NH42CO3、アルカリ金属炭酸アンモニウム塩等が用いられるが、取り扱い性、入手性、コストの観点からNaOHが好ましい。アルカリ濃度としては、20重量%以下が好ましい。また、アルカリ水溶液の使用量は、全反応液の0.01〜20重量%を占めるようにすることが好ましく、全反応液の0.1〜10重量%を占めるようにすることが更に好ましい。この割合が過小であると反応速度や反応選択率が低下することがあり、一方この割合が過大であると酸化反応容器内のDIPB及びその反応生成物の占める割合が減じられ生産性の低下を引き起こしたり、水溶液中へ溶解あるいは同伴する有効成分の量が増加し、損失が過大となることがある。酸化反応は連続で実施してもよいし回分で実施してもよいが生産性の観点からは連続で実施することが好ましく、連続で実施する場合の反応温度、圧力、反応容器の滞留時間、転化率等は、実施者が適時所望の反応生成物を得られる条件にて公知の方法から決定すればよく、特に限定されない。
【0019】
このようにして得られたDHPO及びCHPOは、未反応のDIPBや反応の中間生成物であるジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド(MHPO)、さらに反応で副生するその他の有機過酸化物やアルコール類を含む混合液であって、酸化油と称される。
【0020】
混合液である酸化油から本発明の原料であるDHPO及びCHPOを選択的に各々分離する方法としては、水酸化ナトリウム水溶液による抽出操作に付し、次いで有機溶媒による抽出操作に付す方法を挙げることができる。この方法については、前述の特許文献1に記載されている。概要を簡単に説明すると、まず、有効成分としてDHPO、CHPO、MHPO、DIPBを含む混合液である酸化油を2〜20重量%のNaOH水溶液と接触させ、0〜100℃の範囲で抽出操作を行なう。こうすることで、目的物質であるDHPOの大部分とCHPOの一部を酸化油からNaOH水溶液層へ選択的に取り出すことがでる。
【0021】
水溶液層へ抽出されなかった有効成分は、そのまま酸化反応の原料としてリサイクルすればよい。
【0022】
前述のDHPO及びCHPOを含むNaOH水溶液は、次に有機溶媒による抽出操作に付される。このことにより、DHPOとCHPOとを各々分離することができる。有機溶媒としては、炭素数4〜10のケトン類、炭素数4〜10のエーテル類、炭素数4〜8のアルコール類が、抽出効率及び溶媒回収の観点から好ましい。溶媒は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。なお、メチルイソブチルケトン(MIBK)が最も好ましい。
【0023】
前記特許文献1には、有機溶媒抽出の抽出温度の違いによりCHPOとDHPOをそれぞれ分離する方法についても記載されている。本発明の原料として用いる場合、DHPOとCHPOを同時に有機溶媒層に抽出した混合物であってもよいし、公知文献の方法によりDHPOとCHPOをそれぞれ分離して、必要に応じてDHPOとCHPOをどちらか一方を主原料としてもよいし、分離後のDHPOとCHPOを必要に応じて混ぜて利用してもよいが、製品であるジイソプロピルベンゼンジカルビノール(DCA)を1モル得るために必要な水素の量はDHPOでは2モルに対してCHPOでは1モルであるため、CHPOを優先的に用いることが望ましい。なお、有機溶媒に抽出されたDHPO及び/又はCHPOは、そのまま次の反応容器へ供給してもよいし、事前に濃縮や精製を行なってもよい。
【0024】
本発明のDHPO及び/又はCHPOを含む液と水素含有ガスを貴金属が担持された粉体又は粒状触媒を懸濁させた反応容器に供給し、DCAを得る反応は還元反応である。反応容器としては一般に縦型又は横型ドラムに攪拌機を設置した攪拌槽を用いることが多い。
【0025】
本発明の反応に用いられる触媒は、貴金属が担持された紛体又は粒状触媒であり、一般に水添触媒として広く知られているものであってよい。さらに詳しくは、周期律表第8属の貴金属を担体に担持したもの、とりわけパラジウム担持触媒が活性、選択性から好ましく使用できる。担体としては、例えばアルミナ、シリカ、チタニア、マグネシアなどが挙げられる。担体上のPdの担持濃度は、担持濃度が低い場合は必要な貴金属量を供給するための触媒量が多くなり、逆に担持濃度が高い場合は担体上の貴金属の分散性が悪くなるため、パラジウム金属として、通常0.01〜10重量%であることが好ましい。
【0026】
本発明の反応に用いられる水素としては、精製された水素ガスはもちろん、窒素、炭酸ガス、メタン等の不活性ガスが含まれた水素ガスであってもよいが、触媒の種類によっては水素ガス中の不純物が触媒活性に影響を及ぼすことがあるため、実施者が使用する水素ガスのスペックを決定してよい。
【0027】
本発明の反応条件としては、反応圧力は通常1〜100気圧、反応温度は通常20〜150℃、反応時間(すなわち反応容器の液滞留時間)は、通常1〜300分である。
本発明では、反応及び反応液の抜き出しは連続で実施される。触媒濃度は紛体又は粒状触媒の固体乾燥重量(溶媒に濡れていない状態)として、反応容器内に存在する懸濁液重量(容器内の固液の合計重量を意味する)の0.05〜10重量%の範囲であることが好ましい。
【0028】
本発明の触媒使用方法としては、反応初期投入量w[kg](反応開始前に反応容器にあらかじめ投入しておく触媒量)を反応容器内に滞留する反応液重量に対して0.05〜2.0重量%、さらに好ましくは0.1%〜1.0重量%とし、所定のレベルまで触媒の活性が低下した場合に、反応及び反応液の抜き出しを停止することなく、追加の触媒を反応溶液中に添加することが好ましい。触媒の活性低下の評価方法としては、本願発明の実施者が適時合理的な方法で触媒の活性低下を評価すればよい。例えば、単位時間当りの水素の消費量や反応熱量の変化で評価する方法を用いてもよいし、反応器に供給される原料中のCHPO及び/又はDHPO濃度と反応器出口の液中に残存する未反応のCHPO及び/又はDHPOの濃度(HPOリーク濃度と呼ぶことがある)を公知の過酸化物定量法、例えばヨードメトリー法や液体クロマトグラフィーによって定量し、その転化率の低下傾向から判断する方法を用いてもよい。また、反応器に供給される原料中のCHPO及び/又はDHPOの濃度がほとんど変化しない場合は、反応器出口の液のみを分析して評価してもよい。1回あたりの追加の触媒投入量は、少なすぎると充分反応成績を回復することができない。一方、多すぎると過剰な触媒活性による好ましくない反応が生じたり、不必要な触媒投入の前倒しにより触媒寿命を縮めて触媒の利用効率を低下させることがある。さらに触媒の利用効率の低下は、DCAの生産量あたりの触媒使用量を増加させ、前述の好ましい触媒濃度の上限である10重量%を超えるまでの連続運転時間が短くなるという問題を生じる。したがって、1回あたりの追加の触媒投入量は反応初期投入量w[kg]に対して0.005〜1倍、さらに好ましくは0.01〜0.5倍の範囲である。
【0029】
ここでいう過剰な触媒活性による好ましくない反応とは、例えば、前記特許文献2に記載の3−アセチルクメンハイドロパーオキサイド(AHPO)や3−アセチル(2−ヒドロキシ−2プロピル)−ベンゼン(APCA)の過水添により3−(1−ヒドロキシ−1エチル)−1−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)−ベンゼンを生じる反応を例示することができ、この反応生成物は晶析によってもジイソプロピルベンゼンジカルビノールと充分に分離することができずに製品純度の低下を引き起こすのである。
【0030】
また、本発明のうち第二の特徴は、請求項1記載の製造方法に用いられる反応容器が、下記(1)及び(2)の特徴を有するものであり、仕切弁(a)を閉止した状態で仕切弁(b)を開放して空室内に追加添加すべき触媒を充填した後仕切弁(b)を閉止し、次いで空室内に加圧ガスを供給した後、仕切弁(a)を開放し、追加添加すべき触媒を反応器内に投入する請求項1記載の製造方法である。
(1):反応容器から反応後の液を抜き出すルートに、反応容器から粉体又は粒状触媒の流出を防止するための機能が設けられていること
(2):反応容器に追加の触媒を投入するための投入装置が設けられており、該投入装置は、反応容器の内部と外部を遮断・連絡する二重の仕切弁(a)及び仕切弁(b)を有し、仕切弁(a)は反応容器内部側にあり、仕切弁(b)は反応容器外部側にあり、二つの仕切弁の間は空室を形成し、該空室内に加圧ガスを供給できる構造であること
【0031】
本願発明において、粉体又は粒状触媒の流出を防止するための機能とは、具体的には固体触媒と反応液を固液分離する機能のことであって、反応容器内に懸濁する触媒が反応器外部へ流出することを防ぐ目的で設置される。こうすることによって、反応容器内に懸濁する触媒を容器外部へ抜き出すことなく、反応及び反応液の抜き出しを連続で実施することができる。
【0032】
本発明において、反応容器から粉体又は粒状触媒の流出を防止するための機能の例としては、例えば反応器内部に設置された触媒分離用のフィルターによるろ過機能を挙げることができ、または別の例としては、反応容器内に仕切り板を設置して固体沈降域を設けることによるシックナー型の触媒沈降分離機能を挙げることができる。これらの技術は設備の構造が簡易であることや公知の汎用設計手法を用いることができる点で特に好ましい機能の実施例として例示したものであるが、本発明の該機能の実施形態を制限するものではない。こうすることで、反応容器内に存在する触媒は抜き出されることなく、反応液のみを連続的に取り出すことができる。
【0033】
また、本発明の反応容器に設置される追加の触媒を投入するための投入装置としては、既に記載したとおり、反応容器の内部と外部を遮断・連絡する二重の仕切弁(a)及び仕切弁(b)を有し、仕切弁(a)は反応容器内部側にあり、仕切弁(b)は反応容器外部側にあり、二つの仕切弁の間は空室を形成し、該空室内に加圧ガスを供給できる構造であればよく、仕切弁(b)の上部には粉体又は粒状触媒を受けるポット状の受け口を設けることが投入のし易さから好ましい。仕切弁としては、特に制限はないが、一般的なボール弁やゲート弁を用いてよい。二つの仕切弁の間の空室は、1回に追加投入する触媒の体積よりも大きくしておくと触媒投入操作時のポットへの触媒セット及びその後の弁操作回数が1度で済むため便利であるが、触媒体積が大きな場合はそれより小さい空室容積でも構わない。反応容器内に可燃性ガスが存在する場合、空室内に供給される加圧ガスとしては窒素ガスが安全上好ましく、その圧力は反応容器の操作圧力よりも高いことが逆流防止の観点から好ましい。
【実施例】
【0034】
実施例1
300mlのステンレス製オートクレーブにて、触媒(Alに0.5重量%のPdを担持したもの)0.1gと反応原料(CHPO換算で7.56〜7.78重量%の過酸化物を含むMIBK溶液)150gを一括添加した。(反応初期投入量としての触媒濃度は反応液に対して0.07重量%)
反応温度を89〜93℃の範囲で60分間反応させたところ、反応液中の残存CHPOは0.00重量%であった。一方、原料中に含まれるアセトフェノン類由来の不純物である3−(1−ヒドロキシ−1エチル)−1−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)−ベンゼンは0.00重量%であった。
ここで、CHPO換算とはヨードメトリー滴定法で測定した過酸化物量をCHPOの分子量で重量換算したものである。
【0035】
実施例2
300mlのステンレス製オートクレーブにて、触媒(Alに0.5重量%のPdを担持したもの)0.75gと反応原料(CHPO換算で7.56〜7.78重量%の過酸化物を含むMIBK溶液)150gを一括添加した。(反応初期投入量としての触媒濃度は反応液に対して1.00重量%)
反応温度を85〜92℃の範囲で60分間反応させたところ、反応液中の残存CHPOは0.00重量%であった。一方、原料中に含まれるアセトフェノン類由来の不純物である3−(1−ヒドロキシ−1エチル)−1−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)−ベンゼンは0.00重量%であった。
【0036】
実施例3
300mlのステンレス製オートクレーブにて、触媒(Alに0.5重量%のPdを担持したもの)1.5gと反応原料(CHPO換算で7.56〜7.78重量%の過酸化物を含むMIBK溶液)150gを一括添加した。(反応初期投入量としての触媒濃度は反応液に対して1.00重量%)
反応温度を88〜90℃の範囲で60分間反応させたところ、反応液中の残存CHPOは0.02重量%であった。一方、原料中に含まれるアセトフェノン類由来の不純物である3−(1−ヒドロキシ−1エチル)−1−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)−ベンゼンは0.036重量%であった。
【0037】
実施例4
300mlのステンレス製オートクレーブにて、触媒(Alに0.5重量%のPdを担持したもの)3.0gと反応原料(CHPO換算で7.56〜7.78重量%の過酸化物を含むMIBK溶液)150gを一括添加した。(触媒濃度は反応液に対して2.00重量%)
反応温度を89〜90℃の範囲で60分間反応させたところ、反応液中の残存CHPOは0.00重量%であった。一方、原料中に含まれるカルボニル化合物由来の不純物であるアセトフェノン類由来の不純物である3−(1−ヒドロキシ−1エチル)−1−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)−ベンゼンは0.06重量%であった。
これらの実施例から、初期の触媒濃度が高いほど、好ましくない反応であるカルボニル化合物由来の不純物の生成が加速度的に促進されることが示された。
【0038】
実施例5
約8重量%のCHPOを含むMIBK溶液と水素含有ガスを図1に示す反応容器に連続的に供給しDCAを得た。
用いた反応器は、反応器本体にろ過フィルター及び追加の触媒を投入するための投入装置が設けられており、本願発明の特徴を満たすものであった。
【0039】
運転操作について説明する。
操作1)反応器に滞留する反応液重量に対して、触媒(Alに1.0重量%のPdを担持したもの)を0.36重量%初期投入し、原料であるCHPOを含むMIBK溶液と水素含有ガスを供給して連続反応を開始した。反応液は、本体内に設置されたろ過フィルターを通して触媒と分離され、反応液のみ反応器から取り出した。
操作2)取り出した反応液を定期的にヨードメトリー法で滴定分析し、未反応のまま反応液中に残存するCHPO濃度を測定した。残存CHPO濃度は時間経過とともに上昇した。
操作3)残存CHPOの濃度が0.3重量%を超えたところで、操作1で初期投入した触媒重量の0.1〜0.2倍の触媒を反応器に追加した。
触媒の追加投入方法は、仕切弁(a)を閉止した状態で仕切弁(b)を開放し、触媒ポットから空室内に追加添加すべき触媒量を充填した後仕切弁(b)を閉止した。次いで空室内に加圧ガスを供給した後、仕切弁(a)を開放し、追加添加すべき触媒を反応器内に加圧ガスとともに投入する方法とした。
操作4)操作3の触媒追加により、残存CHPO濃度は0.1重量%以下まで回復したため、手順2の操作に戻り、反応を継続した。
このようにして、触媒活性の低下をヨードメトリー法による滴定分析で確認しながら、所定量の追加触媒を操作3の基準で添加する操作を繰り返したところ、過剰な触媒活性による好ましくない反応が問題となることなく、6ヶ月以上の期間連続運転が可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、触媒利用初期の過剰な触媒活性による好ましくない反応を抑制し、かつ運転中の触媒活性低下による反応転化率や選択率の悪化を低減でき、よって効率的に連続反応を実施できるという優れた特徴を有する芳香族アルコールの製造方法に利用できる。
【符号の説明】
【0041】
(1)反応容器
(2)攪拌機及び攪拌翼
(3)フィルター
(4)ガス分散器
(5)仕切弁(a)
(6)触媒を一時的に貯めるための空室
(7)仕切弁(b)
(8)追加の触媒投入口(ポット)
(9)窒素投入ライン
(10)液供給ライン
(11)水素供給ライン
(12)反応液抜出ライン
(13)触媒を重力で分離させるための沈降ゾーン
(14)沈降ゾーンのための仕切板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族過酸化物を含む液と水素含有ガスとを貴金属が担持された粉体又は粒状触媒を懸濁させた反応容器に連続的に供給し、芳香族アルコールを含む反応液を得る芳香族アルコールの製造方法であって、反応及び反応液の抜き出しが連続で行われ、所定のレベルまで触媒の活性が低下した場合に、反応及び反応液の抜き出しを停止することなく追加の触媒を上記の反応液中に添加することを特徴とする芳香族アルコールの製造方法。
【請求項2】
芳香族過酸化物がクメンハイドロパーオキサイドであり、芳香族アルコールがクミルアルコールである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
芳香族過酸化物がジイソプロピルベンゼンジハイドロパーオキサイド(DHPO)及び/又はジイソプロピルベンゼンハイドロキシハイドロパーオキサイド(CHPO)であり、芳香族アルコールがジイソプロピルベンゼンジカルビノール(DCA)である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法に用いられる反応容器が、下記(1)及び(2)の特徴を有するものであり、仕切弁(a)を閉止した状態で仕切弁(b)を開放して空室内に追加添加すべき触媒を充填した後仕切弁(b)を閉止し、次いで空室内に加圧ガスを供給した後、仕切弁(a)を開放し、追加添加すべき触媒を反応器内に投入する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
(1):反応容器から反応後の反応液を抜き出すルートに、反応容器から粉体又は粒状の触媒の流出を防止するための機能が設けられていること
(2):反応容器に追加の触媒を投入するための投入装置が設けられており、該投入装置は、反応容器の内部と外部を遮断・連絡する二重の仕切弁(a)及び仕切弁(b)を有し、仕切弁(a)は反応容器内部側にあり、仕切弁(b)は反応容器外部側にあり、二つの仕切弁の間は空室を形成し、該空室内に加圧ガスを供給できる構造であること
【請求項5】
反応容器から粉体又は粒状触媒の流出を防止するための機能が、反応器内部に設置された触媒分離用のフィルターによるろ過機能である請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
反応容器から粉体又は粒状触媒の流出を防止するための機能が、シックナー型の沈降分離機能である請求項4に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−202642(P2010−202642A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20990(P2010−20990)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】