説明

芳香族カルボン酸を調製する触媒および方法

本発明は、担体に結合されたまたはマトリックス中に取り込まれたゼオライト微結晶および当該ゼオライト中に取り込まれた触媒活性成分に基づいた触媒成分であって、当該微結晶が直径20〜300nmを有し、当該触媒活性成分が、CoMn(O)(R−COO)k1k2(ここで、Rは、任意的に置換されたC〜Cアルキルであり、Lは、任意的に置換された窒素を含有するカルボン酸またはその塩であり、Lは、HO、任意的に置換されたC〜Cアルキルを含有するカルボン酸、任意的に置換されたC〜Cシクロアルキルまたはヘテロ環、任意的に置換されたC〜Cヘテロアリールまたはアリールからなる群から選択され、およびk1+k2=3である。)に相当する式を有し、かつ、該ゼオライトがSi/Al原子比少なくとも8を有する触媒成分、並びに当該触媒成分を使用してアルキル芳香族化合物を酸化する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般にプロセス化学の分野に関する。より詳細には、本発明は、芳香族カルボン酸を調製するのに有用な新規な触媒および芳香族カルボン酸を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族カルボン酸、たとえば安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、トリメチル安息香酸、ナフタレンジカルボン酸等は、化学産業における中間体として広く使用されている。芳香族カルボン酸は、その対応するアルキル芳香族化合物の酸化によって調製される(Suresh,A.著、「炭化水素の工業的液相空気酸化の工学面」、Ind.Eng.Chem.誌、第39巻、3958〜3997ページ(2000年刊)を見よ。)。たとえば、下の図式に示されるように、テレフタル酸はp−キシレンの酸化によって調製される。

【0003】
飽和ポリエステル、たとえばポリエチレンテレフタレート(PET)、1,2−エタンジオール、およびこれらのコポリマーの製造に使用される故に、テレフタル酸、すなわちTPA(1,4−ベンゼンジカルボン酸)は、ポリマー産業にとって工業的関心の的である。TPAおよびその対応するジメチルエステルであるジメチルテレフタレートの世界全体の生産量は、1992年に製造された全化学品のトン数でおおよそ第25位、および全有機化学品のおおよそ第10位にランクされた。
【0004】
下の式に示されるように、p−キシレンの酸化は、二つの主要な中間体であるp−トルイル酸および4−ホルミル安息香酸を製造する、ラジカル開始の段階的反応である。

(式中の訳:p−xylene→p−キシレン、p−toluic acid→p−トルイル酸、4−formyl−benzoic acid(4−CBA)→4−ホルミル安息香酸(4−CBA)、terephthalic acid(TPA)→テレフタル酸(TPA))
【0005】
4−ホルミル安息香酸(4−CBA)の不完全酸化は、TPA純度の汚染をもたらす。TPAと4−CBAとの構造類似性の故に、4−CBAがTPAと共結晶化するという事実によって、その除去は複雑になる。4−CBAによる汚染は相当なものになりうる。すなわち、たとえば4−CBA約5000ppmを有するTPA製品を生み出す製造プロセスが存在する(Perniconeaら著、「テレフタル酸の精製のための工業用Pd/C触媒の検討」、Catalysis Today誌、第44巻、129〜135ページ(1998年刊))。したがって、高純度ポリエステルを合成するのに十分な純度のTPA原料を得るために、TPA製造後の後続精製段階がしばしば必要になる(Matsuzawa,K.ら著、「高純度テレフタル酸の技術開発」、Chemical Economy & Engineering Review誌、第8巻(第9号)、25〜30ページ(1976年刊)を見よ。)。
【0006】
TPAを製造するために利用できる多数のプロセス方法があり、そのそれぞれがTPAの多様な製造収率および純度収率を有する。これらのプロセスのほとんどは、少なくともコバルトおよび/またはマンガン金属を含有する液相の均一系触媒の存在下に酸素源、たとえば空気またはOガスによるp−キシレンの酸化を含む。さらに、これらのプロセスのほとんどは、酸性溶媒、たとえば酢酸の存在下に実施され、通例、腐食性の臭素助触媒、たとえばHBr、NaBr、または他の金属臭素類をラジカル源として用いる。したがって、このような過酷な反応条件に適合することができる高価なチタン被覆反応器中で、これらのプロセスは典型的に実施される。TPAを製造する代表的な方法は、以下の特許および刊行物に記載され、これらの全ての開示は引用によって本明細書に取り込まれる。
【0007】
米国特許第2,833,816号および第3,089,906号は、金属臭素触媒を使用して酢酸溶媒中でOによってポリアルキル芳香族化合物を酸化するプロセスを報告する。
【0008】
米国特許第4,786,753号は、臭素源とともにニッケル、ジルコニウム、およびマンガン触媒系の存在下に脂肪族酸の存在下にジおよびトリメチルベンゼンを酸化するプロセスを報告する。
【0009】
米国特許第4,877,900号は、重質金属触媒および臭素の存在下に分子酸素によってp−キシレンを2段階酸化するプロセスであって、第二段階が分子酸素による後酸化を含み、第一段階よりも高温度で実施されるプロセスを報告する。
【0010】
米国特許第4,892,970号は、コバルト、ニッケル、またはジルコニウム金属触媒および臭素の存在下にアルキルベンゼンを酸化する2段階プロセスであって、追加の臭素が同プロセスの第二段階に添加されるプロセスを報告する。
【0011】
米国特許第5,453,538号は、コバルト、マンガン、およびセリウム触媒並びに臭素源を用いてC〜C脂肪族カルボン酸溶媒中で分子酸素によってジメチルベンゼンを酸化するプロセスを報告する。
【0012】
米国特許第5,596,129号および第5,696,285号は、ほとんど純粋なOガス源を反応器に供給することによってアルキルベンゼンを酸化するプロセスを報告する。これらのプロセスは酢酸/水媒体中で実施され、コバルト、マンガン、および臭素触媒を使用する。
【0013】
Cincotti,A.ら(「テレフタル酸へのp−キシレンの接触液相酸化の動力学および関連した工学面」、Catalysis Today誌、第52巻、331〜347ページ(1999年刊))は、TPA製造の動力学モデルを報告する。この研究は、ナフテン酸コバルトを触媒として使用する、安息香酸メチル溶媒中におけるp−キシレンの酸化を評価した。p−トルアルデヒドが助触媒源として使用され、純酸素か、あるいは空気が酸化源であった。
【0014】
Dunn,J.ら(「高温液状水中におけるテレフタル酸の合成」、Ind.Eng.Chem.Res.誌、第41巻、4460〜4465ページ(2002年刊))は、250〜300℃の範囲の温度での液状水中におけるTPA合成プロセスを報告する。このプロセスは、酸化剤として空気またはOの代わりに過酸化水素を使用する。同研究では、以下の触媒、すなわち臭化マンガン、臭化コバルト、酢酸マンガン、臭化ニッケル、臭化ハフニウム、および臭化ジルコニウムが評価された。
【0015】
Partenheimer,W.ら(「p−キシレンの自動酸化の際の金属/臭化物触媒中のジルコニウムの効果」、Journal of Molecular Catalysis A:Chemical誌、第206巻、105〜119ページ(2003年刊))は、ジルコニウム触媒およびコバルト、マンガン/臭化物、ニッケル/マンガン/臭化物か、あるいはコバルト/マンガン/臭化物触媒による酢酸媒体中におけるp−キシレンの酸化を報告する。
【0016】
NaBrまたはHBrと比較して、より低度に腐食性のブロモアントラセンが、p−キシレンの酸化における臭化物源として用いられた。Sahaら(「パラキシレンの自動酸化のためのブロモアントラセンおよび金属助触媒」、Journal of Molecular Catalysis A:Chemical誌、第207巻、121〜127ページ(2004年刊))は、Co(OAc)およびMn(OAc)、Ce(OAc)か、あるいはZrOCl助触媒の存在下に9,10−ジブロモアントラセンまたは9−ブロモアントラセンを使用する、酢酸中におけるp−キシレンの酸化を報告する。
【0017】
固形触媒を使用するTPAの製造方法は、Chavanら(「Y型ゼオライト中に封入されたμ−オキソ架橋Co/Mnクラスター錯体によるテレフタル酸へのパラキシレンの選択的酸化」、Journal of Catalysis誌、第24巻、409〜419ページ(2001年刊))およびSrinivasら(米国特許第6,649,791号および米国特許出願公開第2003/0008770号)を包含する。これらの方法では、μ−オキソ架橋Co/Mnクラスター錯体の固形触媒である[Co(O)(CHCOO)(ピリジン)、[Mn(O)(CHCOO)(ピリジン)、およびCoMn(O)(CHCOO)(ピリジン)がY型ゼオライト中に封入され、NaBrをラジカル開始剤として使用して酢酸/水溶媒中において、酸化プロセスが実施された。
【0018】
臭素イオンを使用しない固形触媒を用いても、TPAは調製された。Jacobら(Journal Applied Catalysis A:General誌、第182巻、91〜96ページ(1999年刊))は、第三級ブチルヒドロペルオキシドを開始剤として使用して、ゼオライト中に封入されたコバルトまたはマンガンのサレン(salen)、サルティン(saltin)、およびサルシヘキセン(salcyhexen)錯体上でのp−キシレンの空気酸化を記述した。このプロセスは、p−キシレン50〜60%までを転化するが、TPAの収率が低く、得られる主生成物はp−トルイル酸である。
【特許文献1】米国特許第2,833,816号公報
【特許文献2】米国特許第3,089,906号公報
【特許文献3】米国特許第4,786,753号公報
【特許文献4】米国特許第4,877,900号公報
【特許文献5】米国特許第4,892,970号公報
【特許文献6】米国特許第5,453,538号公報
【特許文献7】米国特許第5,596,129号公報
【特許文献8】米国特許第5,696,285号公報
【特許文献9】米国特許第6,649,791号公報
【特許文献10】米国特許出願公開第2003/0008770号公報
【非特許文献1】Cincotti,A.ら(「テレフタル酸へのp−キシレンの接触液相酸化の動力学および関連した工学面」、Catalysis Today誌、第52巻、331〜347ページ(1999年刊))
【非特許文献2】Dunn,J.ら(「高温液状水中におけるテレフタル酸の合成」、Ind.Eng.Chem.Res.誌、第41巻、4460〜4465ページ(2002年刊))
【非特許文献3】Partenheimer,W.ら(「p−キシレンの自動酸化の際の金属/臭化物触媒中のジルコニウムの効果」、Journal of Molecular Catalysis A:Chemical誌、第206巻、105〜119ページ(2003年刊))
【非特許文献4】Sahaら(「パラキシレンの自動酸化のためのブロモアントラセンおよび金属助触媒」、Journal of Molecular Catalysis A:Chemical誌、第207巻、121〜127ページ(2004年刊))
【非特許文献5】Chavanら(「Y型ゼオライト中に封入されたμ3−オキソ架橋Co/Mnクラスター錯体によるテレフタル酸へのパラキシレンの選択的酸化」、Journal of Catalysis誌、第24巻、409〜419ページ(2001年刊))
【非特許文献6】Jacobら(Journal Applied Catalysis A:General誌、第182巻、91〜96ページ(1999年刊))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
現在、十分に高い収率および後続の高純度品製造プロセスに適した純度を有し、それによって追加の精製段階の必要がなくなる芳香族カルボン酸を合成する方法の必要が存在する。さらに、腐食性供給原料物質または環境に有害になりうる他のプロセス物質、たとえば酢酸、NaBr、またはHBrの使用を避ける方法の必要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、新規な固形触媒、およびアルキル芳香族化合物の酸化による芳香族カルボン酸の調製にそれを使用する方法に関する。本発明は、高純度アルキル芳香族化合物の調製のために、このような触媒を使用する1段階方法も提供し、該方法は、後続の精製処理、たとえば水素化の必要を回避する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の方法の実施態様は、環境的に、より理にかなっているブロメート化有機試薬を用いることによって、腐食性無機臭素試薬の使用を回避する。該新規触媒自体は、特定の狭いサイズ分布を持つ、触媒成分である小さい微結晶からなり、該微結晶は担体に結合されまたは担体中に封入されており、より詳細にはメソ多孔性の、おそらくは高機能化されたマトリックス物質の内部に封入されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、担体に結合されたまたはマトリックス中に取り込まれたゼオライト微結晶および当該ゼオライト中に取り込まれた触媒活性成分に基づいた触媒成分であって、当該微結晶が直径20〜300nmを有し、当該触媒活性成分が、
CoMn(O)(R−COO)k1k2
(ここで、
Rは、任意的に置換されたC〜Cアルキルであり、
は、任意的に置換された窒素含有カルボン酸またはその塩であり、
は、HO、任意的に置換されたC〜Cアルキル含有カルボン酸、任意的に置換されたC〜Cシクロアルキルまたはヘテロ環、任意的に置換されたC〜Cヘテロアリールまたはアリールからなる群から選択され、および
k1+k2=3である。)
に相当する式を有し、かつ、
当該ゼオライトがSi/Al原子比少なくとも8を有する、触媒成分に関する。
【0023】
Rが−CHまたは−Cである上式の触媒、Lがピコリン酸、ニコチン酸、またはイソニコチン酸である上式の触媒、およびLがCHCOOHまたはHOである上式の触媒を、実施態様は包含する。
【0024】
本発明は、CoMn(O)(R−COO)6−k3k3k4に相当する式を有する触媒成分にも関し、ここで、
Rは、任意的に置換されたC〜Cアルキルであり、
は、任意的に置換された窒素含有カルボキシレートであり、
は、HO、任意的に置換された窒素含有カルボン酸、任意的に置換されたC〜Cアルキル含有カルボン酸、任意的に置換されたC〜Cシクロアルキルまたはヘテロ環、および任意的に置換されたC〜Cヘテロアリールまたはアリールからなる群から選択され、
k3は、1、2、または3であり、および
k3+k4=3である。
【0025】
Rが−CHまたは−Cである上式の触媒成分、Lが1−ピリジン−COO、2−ピリジン−COO、または3−ピリジン−COOである上式の触媒成分、およびLがピコリン酸、ニコチン酸、i−ニコチン酸、CHCOOH、またはHOである上式の触媒成分を、好まれる実施態様は包含する。
【0026】
本発明は、特定の触媒活性成分が特定の選択されたゼオライトの内部に取り込まれていることにあり、該ゼオライトは、好ましくはSi/Al原子比少なくとも8を有することを特徴とする。好ましくは、該比は最大でも12である。好ましくは、通路のサイズは、該触媒活性成分が大き過ぎて該通路を通り抜けられないようなものである。しかし、該通路の交差部は、触媒活性成分を閉じ込めるのに十分なほどの大きさである。本発明では、当該成分はしたがって適所で、すなわち当該交差部で合成され、これが好まれる方法である。もっとも、該ゼオライトが当該完成された成分の周りに合成されることも可能である。
【0027】
好適な通路の直径は、8Åまでの範囲内である。
【0028】
ゼオライト微結晶はかなり小さい、すなわち20〜300nmである。より大きい微結晶では、拡散の制限が起きかねず、活性および選択性の減少をもたらし、それによって本発明の目的の一つ、すなわち芳香族カルボン酸、たとえばテレフタル酸を後続の精製をする必要なく製造する可能性が損なわれる。
【0029】
本発明の他の面は、マトリックスへの封入にある。このマトリックスは微結晶を支持し、メソ多孔性構造を有することができる。担体またはマトリックス物質は、好ましくは酸化反応の機能を持たないか、またはそれが限定されていなければならず、かつ、微結晶中へのまたはそこからの反応成分の拡散を妨げないようなものでなければならない。好適なマトリックス物質は、メソ多孔性のシリカ、カーボン、カーボンナノチューブ等を包含する。
【0030】
本明細書に提示された触媒成分は、おそらくは高機能化されたゼオライトの内部に受け入れられた金属錯体を有し、該ゼオライトは、MEI、ベータ(BEA)を包含するが、これらに限定されず、関連する無秩序な同種構造群の構成員、たとえば繊維状構造等、上記のゼオライトに基づいたミクロ多孔性構造、およびこれらの混合物も包含する。諸ゼオライト間の構造的類似性の詳細な説明およびゼオライトに関する特定の構造情報を有する参考文献のリストについては、たとえば米国特許第4,344,851号、第4,503,023号、第4,840,779号、およびBaerlocherら著、「ゼオライト骨格タイプの図表書」、ELSEVIER第5改訂版(2001年刊)」を見よ。提示された金属錯体を受け入れるのに使用される好まれるゼオライトは、ベータゼオライトを包含する。
【0031】
「アルキル」の語句は、1〜20炭素原子を含んでいるヒドロカルビル基を言う。「アルキル」の語句は、直鎖アルキル基、たとえばメチル、エチル、プロピル等を包含する。該語句は、直鎖アルキル基の分岐鎖異性体も包含する。さらに、アルキル基は、以下の定義に従って任意的に置換されることができる。したがって、アルキル基は第一級アルキル基、第二級アルキル基、および第三級アルキル基を包含する。本発明では、好まれるアルキル基は、1〜4炭素原子を有する非置換アルキル基を包含するけれども、さらにより好まれるこのような基は1〜3炭素原子を有する。
【0032】
「置換された」の語句は、他の置換基で置き換えられた原子または原子団のことを言う。「置換された」の語句は、任意の置換レベル、すなわちモノ、ジ、トリ、テトラ、またはペンタ置換を、このような置換が化学的に許容される場合に包含する。化学的に接近可能な部位で、および任意の原子上で、たとえば炭素上の(一または複数の)置換として、置換は生じることができる。たとえば、置換された化合物は、その中に含まれる(一または複数の)水素または炭素原子への1以上の結合が、(一または複数の)非水素および/または非炭素原子への結合によって置き換えられているものである。
【0033】
「窒素含有カルボン酸」の語句は、少なくとも1のカルボン酸部分(−COOH)および少なくとも1の任意的に置換された窒素原子を含んでいる化合物を言う。窒素含有カルボン酸化合物は、非環式および環式構造を包含し、その中で窒素は任意的に環員であることができる。たとえば、窒素含有カルボン酸は、少なくとも1の−COOHを含んでいるピリジン類、ピコリン類、ピリミジン類、ピペリジン類等を包含する。好ましい窒素含有カルボン酸は、ピコリン酸、ニコチン酸、およびi−ニコチン酸(これらの構造は下に示される。)を包含する。

【0034】
「C〜Cアルキル含有カルボン酸」の語句は、少なくとも1のカルボン酸部分(−COOH)および少なくとも1の任意的に置換されたC〜Cアルキル基を含んでいる化合物を言う。該語句は、少なくとも1の−COOHを含んでいる直鎖、分岐状、および環式のC〜Cアルキル基を包含する。さらに、該語句は、任意の飽和レベルを有するC〜Cアルキル基も包含する。たとえば、C〜Cアルキル含有カルボン酸化合物は、酢酸、プロピオン酸、ブチル酸、およびこれらのハロゲン化置換体、たとえばCHFCOOH、CHClCOOH、CHBrCOOH等を包含する。好ましいC〜Cアルキル含有カルボン酸化合物は、CHCOOHを包含する。
【0035】
「窒素含有カルボキシレート」の語句は、少なくとも1のカルボキシレート部分(−COO)および少なくとも1の任意的に置換された窒素原子を含んでいる化合物を言う。窒素含有カルボキシレート化合物は、非環式および環式構造を包含し、その中で窒素は任意的に環員であることができる。たとえば、窒素含有カルボキシレートは、少なくとも1の−COOを含んでいるピリジン類、ピコリン類、ピリミジン類、ピペリジン類、モルホリン等を包含する。好ましい窒素含有カルボキシレートは、1−ピリジン−COO、2−ピリジン−COO、および3−ピリジン−COO(これらの構造は下に示される。)を包含する。

【0036】
「シクロアルキル」の語句は、1〜20炭素原子を有する飽和または不飽和の脂環式部分を言う。シクロアルキル基は、シクロヘキシルおよびシクロヘプチルを包含する。「置換されたシクロアルキル」の語句は、上記の定義に従って置換されているシクロアルキルを言う。置換されたシクロアルキルは、直鎖または分岐鎖アルキル基で置換された1以上の原子を有することができ、他の環で置換されているシクロアルキル基、たとえば縮合環をさらに含んでいることができる。代表的な置換シクロアルキル基は、モノ置換されたもの、たとえばこれらに限定はされないが2−、3−、4−、5−置換シクロヘキシル基またはモノ置換された基、たとえばアルキル基若しくはハロ基であることができる。
【0037】
「ヘテロ環」または「ヘテロ環式」の語句は、芳香族環および非芳香族環のヒドロカルビル化合物を言う。3以上の環員であって、そのうち1以上がヘテロ原子、たとえば、これらに限定されないが、NおよびOである環員を有する単環式、および二環式化合物を、ヘテロ環式基は包含する。ヘテロ環式基の例は、これらに限定されないが1〜3窒素原子を有する不飽和3〜6員環、たとえば、これらに限定されないが、ピローリル、ピローリニル、イミダゾリル、ピラゾリル、ピリジル、ジヒドロピリジル、ピリミジル、ピラジニル、ピリダジニル、トリアゾリル(たとえば、4H−1,2,4−トリアゾリル、1H−1,2,3−トリアゾリル、および2H−1,2,3−トリアゾリル);1〜4窒素原子を有する飽和3〜8員環、たとえば、これらに限定されないが、ピローリジニル、イミダゾリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル;1〜3窒素原子を有する縮合不飽和ヘテロ環式基、たとえば、これらに限定されないが、インドリル、イソインドリル、インドリニル、インドリジニル、ベンズイミダゾリル、キノリル、イソキノリル、インダゾリル、ベンゾトリアゾリル;1〜2酸素原子および1〜3窒素原子を有する不飽和3〜8員環、たとえば、これらに限定されないが、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリル(たとえば、1,2,4−オキサジアゾリル、1,3,4−オキサジアゾリル、および1,2,5−オキサジアゾリル);1〜2酸素原子および1〜3窒素原子を有する飽和3〜8員環、たとえば、これに限定されないが、モルホリニル;1〜2酸素原子および1〜3窒素原子を有する不飽和縮合ヘテロ環式基、たとえば、ベンズオキサゾリル、ベンズオキサジアゾリル、およびベンズオキサジニル(たとえば、2H−1,4−ベンズオキサジニル)を含む。好まれるヘテロ環式基は、5または6環員を有する。より好まれるヘテロ環式基は、モルホリン、ピペラジン、ピペリジン、ピロリジン、イミダゾール、ピラゾール、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、テトラゾール、チオモルホリン、チオモルホリンのS原子が1以上のO原子に結合されているところのチオモルホリン、ピロール、ホモピペラジン、オキサゾリジン−2−オン、ピロリジン−2−オン、オキサゾール、キヌクリジン、チアゾール、およびイソオキサゾールを包含する。「置換されたヘテロ環」または「置換されたヘテロ環式」の語句は、上記の定義に従って置換されているヘテロ環式基を言う。置換されたヘテロ環式基の例は、2−メチルベンズイミダゾリル、5−メチルベンズイミダゾリル、1−メチルピペラジニル、2−クロロピリジル等を含むが、これらに限定されない。
【0038】
「アリール」の語句は、3〜20炭素原子を含んでいる芳香族基を言う。アリール基は、フェニル、ビフェニル、アンスラセニル、およびナフテニルを包含するが、これらに限定されない。「置換されたアリール基」の語句は、上記の定義に従って置換されているアリール基を言う。たとえば、置換されたアリール基は、1以上の炭素原子、酸素原子、または窒素原子に結合されることができ、そのアリール基の1以上の芳香族炭素が置換および/または非置換のアルキル、アルケニル、若しくはアルキニル基に結合されているところのアリール基も包含する。これは、アリール基の2炭素原子がアルキル、アルケニル、またはアルキニル基の2原子に結合されている結合配置を包含して、これによって縮合環系(たとえば、ジヒドロナフチルまたはテトラヒドロナフチル)が定義される。したがって、「置換されたアリール」の語句は、とりわけトリルおよびヒドロキシフェニルを包含するが、これらに限定されない。好ましくは、芳香族基は、アルキル、カルボン酸(−COOH)および/またはカルボキシレート基(−COO)で置換される。
【0039】
「ヘテロアリール」の語句は、炭素原子およびヘテロ原子、たとえばNおよびOからなる3〜20員の芳香族環、または(ii)炭素原子およびヘテロ原子、たとえばNおよびOからなる8〜10員の二環式若しくは多環式の環系であって、該二環式系中の環の少なくとも一つが芳香族環であるものを言う。ヘテロアリール環は、どのヘテロ原子または炭素原子において結合されてもよい。代表的なヘテロアリール化合物は、たとえばピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリドオキサゾリル、ピリダゾオキサゾリルおよびピリミドオキサゾリルを包含する。「置換されたヘテロアリール」の語句は、上記の定義に従って置換されているヘテロアリール基を言う。
【0040】
本発明の1の面は、本明細書に提示された触媒の存在下にアルキル芳香族化合物を酸素源と接触させることによって、芳香族カルボン酸を調製する方法または製造プロセスに関する。好ましくは、当該芳香族カルボン酸が可溶性である溶媒の存在下に、このような方法は実施される。
【0041】
本発明は、本明細書に提示された触媒の存在下にアルキル芳香族化合物を酸素源と接触させることを含む、芳香族カルボン酸を調製する1段階プロセスにも関する。高純度アルキル芳香族化合物の調製において、このような1段階プロセスは非常に効率的であり、それ故にその後の精製処理、たとえば水素化または晶析の必要が回避される。
【0042】
好ましくは、本発明の方法は、本明細書に提示された触媒の存在下にp−キシレンを酸化することによるテレフタル酸の調製に関する。調製されることができる他の芳香族カルボン酸は、イソテレフタル酸およびナフタレンカルボン酸を包含する。
【0043】
「芳香族カルボン酸」の語句は、少なくとも1のカルボン酸(−COOH)置換基を含んでいる、任意的に置換された任意の芳香族基を言う。代表的な芳香族カルボン酸は、安息香酸、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、トリメチル安息香酸、ナフタレンジカルボン酸等を包含するが、これらに限定されない。好まれる芳香族カルボン酸は、テレフタル酸(TPA)を包含する。
【0044】
「アルキル芳香族」の語句は、上記の少なくとも1の任意的に置換されたアルキル基を含んでいる、上記の任意的に置換された任意の芳香族基を言う。代表的なアルキル芳香族化合物は、トルエン、キシレン(p−キシレン)、トリメチルベンゼン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン等を包含するが、これらに限定されない。好まれるアルキル芳香族化合物は、p−キシレンを包含する。
【0045】
「酸素源」の語句は、本出願で特許請求される方法において、直接的または間接的に酸素を供給する任意の源を言う。酸素源は外部源から供給されても、または現場で(インシチュー)生成されてもよい。好ましくは、酸素源は溶媒と同じ相中に提供される。たとえば、酸素中に飽和された超臨界溶媒からの吸収によって、選択膜を通した高められた圧力におけるガス状酸素から、Oはp−キシレン液状溶媒に提供されることができる。あるいは、高圧力の酸素含有ガス、たとえば空気または分子酸素からの吸収によって、Oは溶媒中へと吸収され、そして選択膜を通した拡散によって、直接、反応器中へとおよび/または反応器からの循環流へ供給されることができる。ガス状Oは液体酸素の蒸発または溶解および溶媒、たとえば超臨界流体中への吸収によっても提供され、そして酸素溶媒の特性に応じて、直接的または間接的に飽和溶液から反応媒体中へと供給されることができる。代表的な酸素源は、空気、ガス状および液状分子酸素、過酸化水素等を包含するが、これらに限定されない。
好ましくは、ここで使用される酸素源は、酸素少なくとも99%、少なくとも95%、少なくとも90%、少なくとも85%、または酸素少なくとも80%を含んでいる。
【0046】
本発明の実施態様は、芳香族カルボン酸が可溶性である溶媒の存在下に当該芳香族カルボン酸を調製する方法に関する。好ましくは、本発明の方法に使用される溶媒は、アルキル芳香族化合物と同じである。たとえば、TPAを調製する方法に関する実施態様では、溶媒とアルキル芳香族化合物との両方がp−キシレンであることが好まれる。
【0047】
好ましい実施態様は、本発明の方法を酸性溶媒の不存在下に実施することを包含する。酸性溶媒、たとえば酢酸は非常に腐食性であり、したがって現在、当該溶媒を用いる反応に適合するために、スチール被覆反応器が使用されている。本明細書に提示された方法は、一部には、非酸性溶媒中で反応を実施することによって、スチール被覆反応器の使用を回避するという従来技術への改良を提供する。
【0048】
「溶媒」の語句は、他の物質を溶解する能力がある物質、通常、液体、たとえばアルキル芳香族化合物を言う。ここで使用される溶媒は、純度少なくとも99%、少なくとも97%、または少なくとも95%を有する。本発明の方法に好まれる溶媒は、p−キシレンを包含する。
【0049】
「可溶性」の語句は、所定の化合物、たとえば製造された芳香族カルボン酸の溶媒中への溶解度を言う。溶解度はg/Lまたはモル/Lの単位で測定されることができ、その場合、当該測定は温度150℃〜250℃の範囲および圧力20atm〜50atmの範囲で行われる。好まれる実施態様では、25℃および1atmにおけるp−キシレン中へのテレフタル酸の溶解度は0.0028g/Lである。
【0050】
「酸性」の語句は、pH7未満、たとえば5以下、さらにはたとえば3以下を有する溶媒または溶液を言う。
【0051】
本発明の触媒を使用する芳香族カルボン酸を製造する方法の反応速度は、ハロゲン含有剤の添加によって加速されることができる。「ハロゲン含有剤」の語句は、ハロゲンイオン、たとえばF、Cl、BrおよびIを含んでいる有機または無機剤を言う。好ましいハロゲン含有剤は、遊離ハロゲンラジカルまたはイオン、たとえばF・、F、Cl・、Cl、Br・またはBrの明白な関与なしにラジカル生成および水素引抜きを媒介する能力がある。例示的なハロゲン含有剤は、ブロム化ヒドロカルビル剤、たとえばブロモベンゼン、9−ブロモアントラセン、および9,10−ジブロモアントラセンを包含する。
【0052】
「ヒドロカルビル」の語句は、直接に結合可能な炭素原子を有する任意の有機基を言う。ヒドロカルビル基は、飽和および不飽和炭化水素、直鎖および分岐鎖脂肪族炭化水素、環式炭化水素、並びに芳香族炭化水素を包含する。代表的なヒドロカルビル基は、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール(たとえば、アントラセン)およびアリールアルキルを包含する。
【0053】
I.本発明の触媒
【0054】
A.本発明の触媒成分の調製
【0055】
ミクロ多孔性ゼオライト中の、またはゼオライト複合体構造の内部に特定の合成法によって封入されたクラスター集合体としての、上記のCoMn(O)(R−COO)k1k2およびCoMn(O)(R−COO)6−k3k3k4に相当する触媒成分を安定化することによって、独特の触媒機能を有する新規な組成物を、本発明は提供する。該触媒は、不活性物質のメソ多孔性マトリックス中に埋め込まれたまたは適当な担体に結合された、適当な小さいサイズのゼオライト微結晶からなる。
【0056】
本明細書で提供される触媒の金属錯体の好まれる実施態様は、CoMn(O)(CH−COO)(2−NCCOOH)およびCoMn(O)(CH−COO)(1−NCCOO)(1−NCCOOH)/メソ多孔性SiCマトリックス中の小さい微結晶(約100nm)を持つベータゼオライトを包含する。
【0057】
該提供された触媒の成分を調製する種々の方法は、従来技術で周知である。たとえば、本発明の触媒の触媒成分を合成する調製手順は、たとえば、Kennet J.ら(「実施可能なゼオライトへの封入方法−可撓性錯体方法」、J.Inclus.Phenom.誌、第21巻、159〜184ページ(1995年刊))、Vandermade,A.W.ら(J.Chem.Soc.Chem.Commun.誌、第1204巻(1983年刊))、およびViswanathanら(J.Energy Heat and Mass Transfer誌、第8巻、281ページ(1996年刊))に記載されたものを包含する。メソ多孔性ゼオライトの生成は、たとえばWalter G.Klempererら(「目的に適合された多孔性物質」、Chem.Mater.誌、1999年刊、第11巻、2633〜2656ページ)に概観されている。
【0058】
他の調製手順が、より大きい配位子を使用するためのゼオライトを調製するために用いられることができる。配位分子が大きい場合、または剛直過ぎてゼオライト中に浸透しない場合には、鋳型分子を使用することによって、既に予備形成されたμ−オキソ架橋金属配位錯体の周りに、ゼオライトを合成することができる。このような手順は、たとえばMitchell,M.ら(Z.Phys.B誌、第97巻、353ページ(1995年刊))、Lobo,R.ら(J.Inclusion Phenom.Mol.Recognit.Chem.誌、第21巻、47ページ(1995年刊))およびBarton,T.J.ら(「目的に適合された多孔性物質」、Chem.Mater.誌、第11巻、2633〜2656ページ(1999年刊))に記載されている。最近の概説は、たとえばMartin P.Attfield(「ミクロ多孔性物質」、Science Progress誌(2002年刊)、第85巻、第4号、319〜345ページ)に見出されることができる。
【0059】
さらには、本発明の組成物は、さらにゼオライトを包含する。好まれる実施態様では、本発明の触媒は、封入されたゼオライト触媒成分の微結晶からなる。あるゼオライトは、本出願で特許請求される方法に使用されるためにより最適であることができる触媒成分を提供する。本発明で使用されるのに適したゼオライトは、Si/Al原子比少なくとも8を有する。これらのゼオライトは、8Åまでの孔サイズを含んでおり、好ましくはゼオライトケージを有さないミクロ多孔性物質である。
【0060】
好まれるゼオライトは、小さい微結晶サイズ約20〜200nmを持つメソ多孔性ベータゼオライト(BEA)であるが、関連する無秩序の同種構造群の構成員、たとえば繊維状構造も包含する。本明細書で提供されるクラスター部位触媒の特定の実施態様は、メソ多孔性SiOマトリックスの内部に埋め込まれているベータゼオライト中に封入されたCoMn(O)(CH−COO)(2−NCCOOH)およびメソ多孔性カーボン上に担持されたベータゼオライト中に受け入れられたCoMn(O)(CH−COO)(1−NCCOO)(1−NCCOOH)を包含する。
【0061】
本発明の触媒成分を封入するための代表的な方法は、「可撓性錯体法」によって「ボトルシップ(ship−in−bottle)」型触媒構造を形成することを含む。この周知の方法は、既に金属交換されたゼオライトの孔を通した配位子の拡散を含む。例示的な調製方法の、より詳細な検討については、たとえばRajaら著、J.Catal.誌、第170巻、244ページ(1997年刊)、Subbaraoら著、Chem.Comm.誌、第355巻(1997年刊)、およびBalkusら著、J.Inclus.Phenom.誌、第21巻、159ページ(1995年刊)を見よ。
【0062】
B.本発明の触媒のマトリックスへの封入
【0063】
ゼオライトの小さい微結晶をその合成の際にインシチューでメソ多孔性不活性マトリックス中へ埋め込むことは、たとえばJ.C.Jansenら(Chem.Commun.誌、713ページ(2001年刊)、Z.Shanら(Chem.Eur.J.誌、第7巻、1437ページ(2001年刊))、J.C.Jansenら(Micro.Meso.Mater.誌、第21巻、213ページ(1998年刊))、S.Basso、J.P.Tessonnier、C.Pham−Huu、M.J.Ledoux、仏国特許出願第02−00541号(2002年)に検討されている。
【0064】
この封入は、触媒成分に機械的強度を付与し、固定床、スラリー粒子、膜および他の配置で使用するための、いくつかの異なった形態の本発明の触媒の調製を許す。
【0065】
好まれる方法は、触媒成分であるゼオライト成分および封入マトリックス物質の両方に依存する。調製方法は、別途に準備されたゼオライトを不活性マトリックス物質上にグラフトすることからなることができ、あるいは、特定のゼオライト合成ゲルに適当なマトリックス物質を添加することによって、該複合物はインシチューで合成されることができる。これらの方法、たとえば適合化された水熱合成法は、一般に当業者に知られている。複合物の合成のための方法論、たとえば水熱プロセスによるものは、たとえばCamblor M.A.ら(「ナノ結晶質ベータゼオライトの特性解析」、Microporous and Mesoporous Materials誌、第25巻、59〜74ぺージ(1998年刊))に検討されている。SiCに封入されたY型ゼオライトの合成は、たとえばG.Clet、J.C.JansenおよびH.van Bekkum(米国、Baltimore、第12回IZUでポスター発表(1998年))に検討されており、他方、SiCへのベータゼオライトのグラフトは、たとえばS.FengおよびT.Bein(Nature誌、第368巻、834ページ(1994年刊))に検討されている。SiO2上の分子気相成長ゼオライト微結晶は、たとえばLandau、N.Zaharur、M.Herskowitz(Appl.Catal.誌、第115巻、7〜14行(1994年刊))に検討されている。カーボン上にゼオライトを堆積する手順は、たとえばC.Madsen、C.J.H.Jacobsen(Chem.Commun.誌、第8巻、673〜674ページ(1999年刊))に検討されている。界面活性剤ミセルのテンプレートが使用される、ゼオライト核の予備形成クラスターの自己集合による、高度に秩序化されたメソ多孔性構造の合成が、たとえばZ.T.Zhang、Y.Han、L.Zhu、R.W.Wang、Y.Yu、S.L.Qiu、D.Y.Zhao、F.S.Xiao(Angew.Chem.誌、第113巻、1298〜1301ページ(2001年刊))およびW.P.Guo、L.M.Huang、P.Deng、Z.Y.Xue、Q.Z.Li(Microporous Mesoporous Mater.誌、第44巻、427〜434ページ(2001年刊))に記載された。
【0066】
好まれる封入マトリックス物質は、メソ多孔性のシリカおよびカーボン、たとえばカーボンナノチューブ、およびSiCを包含する。
【0067】
金属錯体自体のインシチュー合成は、マトリックス物質中へゼオライトを封入した後に実施されることができる。本発明の触媒の好まれる調製方法は、封入後の第二製造段階としてマトリックス中で触媒成分自体を生成することである。
【0068】
II.本発明の触媒の使用方法
【0069】
本明細書で提供された触媒は、多様な合成プロセスで用いられることができる。たとえば、本発明の触媒は、多様な有機化合物、たとえば、これらに限定されないが、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロ環式、アリール、またはヘテロアリールを含有する化合物の合成に使用されることができる。さらに、本発明の触媒は、有機化合物の立体選択的合成に使用されることができる。その上、本発明の触媒は、マクロ環式化合物、たとえば殺真菌剤、抗生物質、自然産品模倣物等の調製に使用されることができる。
【0070】
好ましくは、本発明の触媒は、アルキル芳香族化合物を酸化して芳香族カルボン酸を製造するのに使用されることができる。触媒の存在下に、アルキル芳香族化合物を酸化する各種の方法が、当業者に周知である。以下の実施例に記載されているのは、一般化された代表的な手順であり、ルーチンの実験法の範囲内でおよび周知の因子、たとえば合成の規模に応じて変えられることができる。
【0071】
芳香族カルボン酸の調製は、1の反応器または一連の反応器中で実施されることができる。「反応器」の語句は、本明細書に記載された酸化反応に適合するために適当な任意の容器を言う。たとえば、アルキル芳香族化合物の酸化は、単独の大型撹拌槽反応器中で実施されることができる。あるいは、アルキル芳香族化合物の酸化は、連続した一連の反応器中で実施されることができる。たとえば、酸素源が直列の各反応器中に供給されて、アルキル芳香族化合物の非常に効率的な酸化を容易にする。さらに、反応器の直列は固定調整されて、物質の逆流が防止されることができる。
【0072】
本明細書に提供された方法に従って使用されることができる代表的な反応器は、チタン被覆反応器およびスチール反応器を包含する。
【0073】
芳香族カルボン酸の調製のための本発明の方法は、温度200〜250℃の範囲および圧力280〜750psigの範囲で実施されることができる。
【0074】
本明細書に提供された方法に従って、アルキル芳香族化合物は、少なくとも1の反応器に提供される。アルキル芳香族化合物は、対応するカルボン酸またはその誘導生成物へ酸化される能力がある少なくとも1の酸化可能置換基を有する芳香族炭化水素を包含する。好まれるアルキル芳香族化合物は、任意の多様な置換基、たとえばアルキル、ヒドロキシアルキル、アルデヒド、カルボアルキル基、およびこれらの混合を有する2置換ベンゼン物質を包含する。より好まれるアルキル芳香族化合物は、アルキル基を置換基として有するパラ2置換ベンゼン誘導体を包含する。とりわけ好まれるアルキル芳香族化合物は、p−キシレンおよび/またはp−トルイル酸である。
【0075】
典型的には、アルキル芳香族化合物は、約310kg/秒〜約1010kg/秒の範囲の量で、少なくとも1の反応器に提供される。
【0076】
好まれる実施態様では、本発明の方法は、製造された芳香族カルボン酸が可溶性である溶媒の存在下に実施される。たとえば、このような溶媒は、p−キシレン;塩基性溶媒、たとえばクロロベンゼン、モルホリン、カルボン酸のエステル等;カルボン酸無水物;および酸性溶媒、たとえば酢酸を包含するがこれらに限定されない。
【0077】
特に好まれる溶媒は、アルキル芳香族化合物と同じものである。たとえば、TPAを調製する方法に関する実施態様では、溶媒とアルキル芳香族化合物との両者が、水0〜18重量%を含有するp−キシレンであることが好まれる。TPAを調製する方法に関する他の実施態様では、テレフタル酸と4−CBA中間体との両者が可溶性である溶媒を使用することが好まれる。何らかの特定の理論に拘束されることは望まないけれども、4−CBAを溶液に保つことは、4−CBAのさらなる酸化が促進されると考えられる。その結果、反応媒体内の4−CBAのより大きい部分がテレフタル酸に転化されて、それによって着色前駆体の生成が減少される。その上、本発明のプロセスでは、反応媒体中の固形生成物の沈殿内から4−CBAを除去する必要が回避され、TPAの1段階調製が可能となる。
【0078】
典型的には溶媒は、速度約310g/秒〜1010g/秒の範囲で、少なくとも1の反応器に供給される。
【0079】
本明細書に提示された方法に従って、少なくとも1の本発明の触媒が、少なくとも1の反応器に提供される。たとえば、本発明の触媒は一連の反応器内の各反応器に、同伴スラリーとして、流動床として提供されることができ、または各反応器内に固定床、膜、充填物配置等の種々の形態で組み入れられることができる。単独で、または不活性マトリックスの内部に埋め込まれたゼオライト微結晶として、触媒成分は提供されることができる。典型的には、本発明の触媒は、p−キシレン100重量部当たり約700〜p−キシレン100重量部当たり1400の範囲の量で(マトリックスに封入された形態で)、少なくとも1の反応器に提供される。本発明の触媒の存在下におけるアルキル芳香族化合物の酸化は、約8〜約20分間の範囲の期間、行われることができる。
【0080】
ハロゲン含有または放出剤の添加によって、本明細書に提示された酸化方法の反応速度は加速される。好ましいハロゲン含有剤は、ブロム化ヒドロカルビル剤、たとえば9−ブロモアントラセンおよび9,10−ジブロモアントラセンを包含する。ハロゲン含有または放出剤は、少なくとも1の反応器に、たとえば一連の反応器内の各反応器に添加されることができる。さらに、同じまたは別のハロゲン含有または放出剤が、一連の反応器内の各反応器に添加されてもよい。典型的には、ハロゲン含有または放出剤は少なくとも1の反応器に、臭素含有量がp−キシレン100重量部当たり臭素約2〜4.5重量部の範囲であるような量で提供される。
【0081】
本明細書に提供された方法に従って、酸素源は少なくとも1の反応器に提供される。たとえば、酸素源は、一連の反応器内の各反応器に供給されることができる。好まれる酸素源は、少なくとも95%の純度を有するガス状Oを包含する。典型的には、酸素源は少なくとも1の反応器に、反応混合物トン当たり酸素約10〜15kgの範囲の量で提供される。
【0082】
本明細書の方法の実施態様は、少量のジルコニウムおよび/またはセリウムおよび/またはニッケルおよび/またはハフニウムおよび/またはモリブデンおよび/または銅および/または亜鉛を含有する触媒成分を少なくとも1の反応器に添加することを包含する。このような金属添加の効果は、たとえばPartenheimer、「p−キシレンの自動酸化の際の金属/臭素物触媒中のジルコニウムの効果、第一部、活性化およびベンズアルデヒド中間体生成量の変化」、Journal of Molecular Catalysis A:Chemical誌、第206巻、105〜119ページ(2003年刊))、およびPartenheimer、「p−キシレンの自動酸化の際の金属/臭素物触媒中のジルコニウムの効果、第二部、ジルコニウムに代わる金属並びに二酸化マンガン(IV)生成量およびピロメリット酸との沈降に及ぼすジルコニウムの効果」、Journal of Molecular Catalysis A:Chemical誌、第206巻、131〜144ページ(2003年刊))に検討されており、これら両者の全内容は、引用によって本明細書に取り込まれる。何らかの特定の理論に拘束されることは望まないけれども、触媒中へのジルコニウムおよび/またはセリウムの内包は、Co(III)励起状態の不活性化への並行経路を提供することによって、反応速度を高めると考えられる。
【0083】
以下の実施例が提供されて、本発明の諸面がさらに例証される。これらの実施例は非限定的であり、本発明のいかなる面をも限定するものと解釈されてはならない。
【0084】
〔実施例1〕
代表的な本発明の触媒の合成
【0085】
以下の例示的な手順は、本発明の触媒を調製する代表的な方法を提供する。ここに記載された手順に加えて、本発明の触媒の中間体を調製し、本発明の触媒を組み立てるために、多数の他の手順が当業者によって用いられることができ、たとえばKennet J.ら(「実施可能なゼオライトへの封入方法−可撓性錯体方法」、J.Inclus.Phenom.誌、第21巻、159〜184ページ(1995年刊))、Vandermade,A.W.ら(J.Chem.Soc.Chem.Commun.誌、第1204巻(1983年刊))、およびViswanathanら(J.Energy Heat and Mass Transfer誌、第8巻、281ページ(1996年刊))に記載されたものが包含される。
ベータゼオライトは、多数の方法、たとえば、例としてP.R.Hari Prasada Raoら(Chem.Commun.誌、1441ページ(1996年刊))および修正されたエーロゲル実験手順特許(国際特許出願公開第2004/050555号)に記載された乾燥ゲル転換法を使用して合成されることができる。
【0086】
以下の実施例の手順は、R.L.Wadlingerらの米国特許第3308069号(1967年)を本発明の触媒の合成に改作したものである。多段階調製は、水熱合成によるベータゼオライトのインシチュー合成を使用している、すなわち、可撓性配位子交換法が小さい配位子をゼオライト中に取り入れるために使用される。第一段階は、適当なベータゼオライトの合成および在りうる有機鋳型剤の除去のために焼成して、触媒骨格を形成することを含む。第二段階で、ゼオライトはマトリックス物質(この実施例ではSiO2)中に封入される。第三段階は、適当な酸性のゼオライト上へのCo(II)およびMn(II)の吸収を含む。該金属とのその後のイオン交換後に、得られた金属充填複合物が乾燥される。第四段階は、該金属への窒素含有酸の配位および該金属の酸化状態を酸素添加によって増加して、触媒成分である適当な金属錯体を調製することを含む。その後に該触媒は乾燥される。
【0087】
第一段階.ベータゼオライトの合成
【0088】
SiOシリカゲルであるCab−o−sil M−5の39.3g(0.654モル)の量が、テトラエチルアンモニウム水酸化物(TEAOH)171.3g(0.407モル)のHO中35重量%溶液に撹拌下にゆっくりと添加され、白いゲルが得られる。
【0089】
脱イオンHOの69.3ml中に溶解されたNaAlOの4.89g(5.97×10−2モル)の溶液が、撹拌および手による混合下に該ゲルに添加され、より濃厚なゲルが得られる。
【0090】
混合および熟成後に、ゲルはより流動性になる。
【0091】
ゲルは2時間撹拌され、次いでテフロン(登録商標)被覆ステンレススチールのオートクレーブ中へと移される。オートクレーブは閉じられ、オーブン中で150℃まで静的に加熱される。
【0092】
150℃で6日後、オートクレーブはオーブンから出され、室温まで放置冷却される。
【0093】
オートクレーブは、白黄色のゲル様沈降物および上澄み溶液を含有する。沈降物は、遠心分離によって上澄みから分けられる。次に、洗浄液がpH<9を有するまで、HOで繰返し洗われ遠心分離される。
【0094】
白いサンプルが110℃で12時間オーブン中で乾燥され、白い微粉体29.150gが得られる。
【0095】
粉体XRDは、該白い微粉体が高度に結晶質の純粋なベータゼオライトであることを示す。
【0096】
サンプルは、SEM、EDXおよびICP−OES元素分析によって特性解析される。
Si/Al=8.3、Na/Al=0.22(EDX)
Si/Al=8.8、Na/Al=0.20(ICP−OES)
【0097】
直径約20〜40nm(XRDおよびSEMデータから)を有する一次粒子結晶。直径約200〜300nmを有する一次粒子集合体。
【0098】
第二段階.ベータゼオライト粒子のTUD−1マトリックス中への内包
【0099】
この調製は、P.Wallerら著、Chem.Eur.J.誌、2004年刊、第10巻、4970ページに概説された手順の改作である。
【0100】
ベータゼオライト(第一段階を見よ。)16gが、HO中のNHOH(NH ACS試薬、HO中のNH 28〜30重量%)6.8g(0.116モル)および脱イオンHOの40.65g中に激しい撹拌下に懸濁され、白い懸濁物が得られる。
【0101】
トリエタノールアミン(98%)30.45g(0.2モル)が、脱イオンHOの25.00gと混合され、次に該白い懸濁物に激しい撹拌下に添加される。
【0102】
テトラエチルオルトシリケート(TEOS、98%)84.92g(0.4モル)が、激しい撹拌下に滴下される(10g/分)。約1時間の撹拌後、ゲルが形成される。
【0103】
TEAOHの16.83g(0.04モル)のHO中35重量%溶液が、激しい撹拌下に滴下され、ゲルは濃厚化して、遂には磁気撹拌が役に立たなくなる。
【0104】
濃厚な白いゲルは一晩熟成される。次に、99℃で10時間オーブン中で乾燥される。最後に、テフロン(登録商標)被覆ステンレススチールのオートクレーブ中へと移される。オートクレーブは170℃まで4時間静的に加熱され、薄いベージュ色の固体が得られる。該固体は磁器製乳鉢中で磨砕され、オーブン中で、
30℃から600℃まで1℃/分で、
600℃で10時間、
600℃から30℃まで20℃/分で、
焼成され、白い微粉体7.448gが得られる。
【0105】
粉体XRDは、TUD−1のメソ多孔性構造の存在並びにTUD−1マトリックス中に内包されたベータゼオライトの主ピークを示す。
【0106】
N2物理吸着の測定は、サンプルのメソ多孔性を裏付ける。これらの測定から得られたその他のデータ(メソ孔サイズ:約10nm、SBET表面積:663±14m2/g、外表面積:336m2/g、全孔容積:0.78cm3/g、ミクロ孔容積:0.14cm3/g)は、文献データとすべてよく一致している。
【0107】
透過型電子顕微鏡法(TEM)の像は、TUD−1マトリックス中に均一に分散された直系約26nmを有するゼオライト粒子を示す。
【0108】
第三段階.酸性ゼオライト上へのCo(II)およびMn(II)の吸収
【0109】
TUD−1マトリックス(第二段階を見よ。)中のベータゼオライト35gは、Alの1.69×10−2モルを含有する。該固体は、脱イオンH2Oの3L中に撹拌によって懸濁される。
【0110】
Co(CH3CO2)2・4H2Oの0.252g(1.01×10−3モル、Co/Al=0.06)が、脱イオンH2Oの50ml中に溶解され、このピンク色の溶液が該懸濁物に撹拌下に添加される。
【0111】
撹拌された懸濁物は、12時間60℃まで(湯浴中で)加熱され、次いで室温に4時間置かれる。ピンク色の固体が真空ろ過によって分離され、脱イオンHOで繰返し洗われる。
【0112】
該ピンク色の固体は、CHCOH(氷酢酸)325ml中に撹拌によって懸濁される。
【0113】
Mn(CH3CO2)2・4H2Oの0.414g(1.69×10−3モル、Mn/Al=0.10)が、CH3CO2H(氷酢酸)325ml中に撹拌によって溶解され、この溶液が該懸濁物に撹拌下に添加される。
【0114】
撹拌された懸濁物は、60℃まで12時間(湯浴中で)加熱され、次いで室温に4時間置かれる。固体が真空ろ過によって分離され、酢酸と脱イオンHOとの1:1溶液700mlで洗われる。
【0115】
灰色がかった白色の湿った粉体が、120℃で2日間オーブン中で乾燥され、サンプル34.59gが得られる。
【0116】
ICP−OES分析:
Co/Al=0.045(コバルト交換効率:74%)
Co重量%:0.111%
Mn/Al=0.079(マンガン交換効率:79%)
Mn重量%:0.184%
Mn/Co=1.778(目標はMn/Co=2であった。)
IR分析は、CoおよびMn交換の後、何らの変化も示さない。
【0117】
第四段階.金属交換されたゼオライトへの窒素含有酸の配位
【0118】
(Co+Mn)2.04×10−4モルを含有する、CoおよびMn交換されたベータゼオライト(第三段階を見よ。)0.5gを含有するサンプルが使用された。
【0119】
NaOH6.0×10−3モル(0.24g)が脱イオンHOの4g中に溶解された。ニコチン酸5.0×10−3モル(0.62g)が該水溶液に添加され、撹拌によって溶解された。次に、酢酸4.08×10−3モル(すなわち、錯体中のように金属モル当たり2モル)(0.025g)が、撹拌下に添加された。pH=約11の無色透明溶液が得られた。
該水溶液がゼオライトサンプル0.5gに撹拌下に添加され、薄い茶色の懸濁物が得られた。
【0120】
の2.0×10−3モルが、Hの0.150gの35重量%水溶液と脱イオンHOの0.314gとを混合することによって得られた溶液0.060gとして添加された。すると、気泡が発生し、該懸濁物の茶色がより濃くなる。
【0121】
1時間撹拌後、脱イオンH2Oの0.5g中に予め溶解されていたNaBr2.5×10−4モル(0.026g)が、該懸濁物に撹拌下に添加された。
【0122】
30分間撹拌後、懸濁物は、ブフナーろ過器上で真空下にろ過され、エタノールと酢酸との(体積で)1:1溶液100mlで洗われた。
【0123】
固形残留物が110℃のオーブン中で一晩乾燥されて、薄い灰色の粉体0.44gが得られた。
【0124】
〔実施例2〕
代表的な芳香族カルボン酸の調製のための例示的手順
【0125】
テレフタル酸の製造のための好まれる実施態様が、図1に示される。
【0126】
本発明の方法は、一部には、酸化反応器中のパラキシレンの低転化率の故に、以下の有利な特性をもたらした。
・反応混合物の温度増加は反応熱を消散するのに十分であり、したがって酸化反応器を冷却する必要がない。
・酸化反応器に加えられた酸素は溶解し、別個の気相を形成しない。
・化学反応によって製造された水は、別個の液相を形成しないだろう。
・化学反応によって製造されたテレフタル酸は、別個の固相を形成しないだろう。
【0127】
反応器
【0128】
p−キシレンの酸化は、逆混合を防止するように工夫された複数の連続酸化反応器中で実施され、各反応器は酸素源を供給される。触媒が本質的に循環される流動床、触媒が静的に配置されている固定床、または交差流床を有する反応器、および膜反応器も使用されることができる。図1に例示されたように、酸化反応器は1または数反応容器からなることができる。
【0129】
酸化反応
【0130】
図1に示されたように、酸素源およびp−キシレンは酸化反応器中に供給される。酸化反応器中で製造されたテレフタル酸(TPA)は、酸化反応の全過程を通してp−キシレンに可溶性のままでいる。したがって、酸化反応混合物は、本質的に単一相の液状混合物である。酸化反応器の稼動条件は、気相、液相または固相としていずれの第二相も形成されないようなものである。
【0131】
p−キシレン中に懸濁されて固形のままでいる本発明の触媒は、反応混合物とともに反応器を出て行くスラリーの形態で酸化反応器に添加されてもよく、または固定床、放射状床、膜等のような種々の形態で配置されることができる。
【0132】
酸化反応器を出た後、絞り弁を通して反応混合物は降圧される。
【0133】
本発明の触媒の分離
【0134】
酸化反応に使用される固形の本発明の触媒は、スラリーまたは流動床の配置で使用されるときは、反応混合物からの反応生成物の分離前に(たとえば、ハイドロサイクロンによって)分離される。分離後、本発明の触媒は、新しいp−キシレン、循環乾燥p−キシレンまたはこのような液流の組み合わせを用いて向流洗浄ですすがれる。本発明の触媒は次に、不足補充分のp−キシレンおよび大量の循環溶媒とともに、連続酸化反応のためにスラリーとして酸化反応器中へと再循環されることができる。
【0135】
固定床または流動床の形態の反応混合物と、触媒が接触する実施態様では、触媒は酸化反応器を出ない。そのままで、反応混合物からの触媒の分離は必要ない。
【0136】
圧力降下
【0137】
降圧の際、反応混合物は沸騰を開始し、その結果、気相と液相との両方の温度は下がり始める。沸騰の結果、酸化反応器からの水、ガス状成分およびp−キシレンは蒸発して、製造された固体の形態のテレフタル酸を後に残す。
【0138】
反応不純物の除去
【0139】
図1に示されたように、酸化反応によって生成された水は、蒸留または逐次的フラッシュによって(p−キシレン、水および残留不純物を含有する)残りの溶媒流から除去され、その際に揮発性副生成物も除去される。非揮発性物は、分離段階の底部からパージ副流として除去されて、重質成分を除去し反応器中への蓄積を防ぐために別途に処理されることができる。
【0140】
テレフタル酸の晶析
【0141】
触媒を含まない主流は、触媒分離後に冷却されて、テレフタル酸の結晶化をもたらす。結晶は溶媒から(たとえば、ハイドロサクロンまたはろ過によって)回収され、新しいp−キシレンとの向流洗浄によってその後の使用のために処理される。
【0142】
酸化反応器への連続的循環
【0143】
「乾燥した」p−キシレンは、いくつかの他のp−キシレン回収流(たとえば、フラッシュからのデカンテーションまたは蒸留の頂流分、触媒洗浄等)とともに酸化反応器への循環溶媒流中へと再供給される。この循環された溶媒は、いくつかの洗浄流(たとえば、回収されたテレフタル酸結晶、回収された溶媒等をすすぐため)に分割されてもよいが、これらのp−キシレン流は最終的には集められ、酸化反応器へ直接供給され、または循環触媒のスラリーが調製される。合体された循環物に、触媒の補充分および臭素含有成分も添加される。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】図1は、アルキル芳香族化合物の酸化の例示的な方法を示す概略図である。p−キシレンを酸化してテレフタル酸を製造することに関するさらなる詳細は、実施例で提供される。
【図2】図2は、アルキル芳香族化合物酸化の例示的な方法を示す概略図である。p−キシレンを酸化してテレフタル酸を製造することに関するさらなる詳細は、実施例で提供される。
【図3】図3は、テレフタル酸の溶解度範囲および触媒の使用濃度範囲の詳細である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体に結合されたまたはマトリックス中に取り込まれたゼオライト微結晶および当該ゼオライト中に取り込まれた触媒活性成分に基づいた成分であって、当該微結晶が直径20〜300nmを有し、当該触媒活性成分が、
CoMn(O)(R−COO)k1k2
(ここで、
Rは、任意的に置換されたC〜Cアルキルであり、
は、任意的に置換された窒素含有カルボン酸またはカルボキシレートであり、
は、HO、任意的に置換されたC〜Cアルキル含有カルボン酸、任意的に置換されたC〜Cシクロアルキルまたはヘテロ環、任意的に置換されたC〜Cヘテロアリールまたはアリールからなる群から選択され、および
k1+k2=3である。)
に相当する式を有し、
かつ、該ゼオライトが少なくとも8のSi/Al原子比を有する、成分。
【請求項2】
当該触媒のRが、−CHまたは−Cである、請求項1に記載された触媒成分。
【請求項3】
当該触媒のLが、ピコリン酸、ニコチン酸、およびi−ニコチン酸、またはこれらの塩からなる群から選択されており、かつ、Lの選択とは独立に、LがCHCOOHまたはHOである、請求項1または2に記載された触媒成分。
【請求項4】
担体に結合されたまたはマトリックス中に取り込まれたゼオライト微結晶および当該ゼオライト中に取り込まれた触媒活性成分に基づいた成分であって、当該微結晶が直径20〜300nmを有し、当該触媒活性成分が、
CoMn(O)(R−COO)6−k3k3k4
(ここで、
Rは、任意的に置換されたC〜Cアルキルであり、
は、任意的に置換された窒素含有カルボキシレートであり、
は、HO、任意的に置換された窒素含有カルボン酸、任意的に置換されたC〜Cアルキル含有カルボン酸、任意的に置換されたC〜Cシクロアルキルまたはヘテロ環、および任意的に置換されたC〜Cヘテロアリールまたはアリールからなる群から選択され、
k3は、1、2、または3であり、および
k3+k4=3である。)
に相当する式を有する、成分。
【請求項5】
当該ゼオライトが、MEIまたはベータ(BEA)の部類に属するが、関連する無秩序な同種構造群の構成員、たとえば繊維状構造等、および上記のゼオライトに基づいたミクロ多孔性構造、並びにこれらの混合物も包含する、請求項1〜4のいずれか1項に記載された触媒成分。
【請求項6】
ゼオライトの微結晶が、SiOおよび/若しくは炭素を有するメソ多孔性マトリックス中に、埋め込まれ、グラフトされ、または封入されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載された触媒成分に基づいた触媒。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載された触媒の存在下に、アルキル芳香族化合物を酸素源と接触させることを含む、芳香族カルボン酸を調製する方法。
【請求項8】
当該方法が、酸性溶媒の不存在下に実施される、請求項7に記載された方法。
【請求項9】
当該溶媒が、当該アルキル芳香族化合物と同じである、請求項7または8に記載された方法。
【請求項10】
当該溶媒がp−キシレンであり、かつ、当該アルキル芳香族化合物がp−キシレンである、請求項9に記載された方法。
【請求項11】
当該芳香族カルボン酸がテレフタル酸である、請求項10に記載された方法。
【請求項12】
ハロゲン含有剤を添加することをさらに含む、請求項7〜11のいずれか1項に記載された方法。
【請求項13】
当該ハロゲン含有剤がブロム化ヒドロカルビル剤である、請求項12に記載された方法。
【請求項14】
当該ブロム化ヒドロカルビル剤が9−ブロモアントラセンまたは9,10−ジブロモアントラセンである、請求項13に記載された方法。
【請求項15】
メソ多孔性マトリックス中に埋め込まれた、請求項1〜6のいずれか1項に従う触媒の存在下に、アルキル芳香族化合物を酸素源と接触させることを含む、芳香族カルボン酸を調製するための1段階方法。
【請求項16】
微結晶サイズ20〜300nmを有し、Si/Al原子比少なくとも8を有するゼオライトの微結晶が、当該ゼオライトの内部の通路の交差部内で請求項1〜6のいずれか1項に規定された触媒活性成分が逐次的に製造されることによって、当該触媒活性成分を付与される、請求項1〜6のいずれか1項に従う触媒成分を調製する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−523980(P2008−523980A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−546584(P2007−546584)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【国際出願番号】PCT/NL2005/000876
【国際公開番号】WO2006/068471
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(507204257)プロセス デザイン センター ビー.ブイ. (2)
【Fターム(参考)】