説明

芳香族ジアミン化合物、ポリイミド系材料、フィルム及びその製造方法

【課題】低吸水性、寸法安定性等に優れた材料を得ることができる新規なジアミン化合物、該化合物を用いて製造されるポリイミド系材料、及び、該材料からなるフィルムを提供する。
【解決手段】式(1):


(式(1)中、R〜R12は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、またはアルコキシ基であり、R13〜R16は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、またはアルコキシ基である。nは0〜2の整数である。)で表される新規な芳香族ジアミン化合物と、テトラカルボン酸二無水物またはその反応性誘導体であるアシル化合物を反応させて得られるポリアミック酸及び/又はポリイミドを含むイミド系材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な芳香族ジアミン化合物、該化合物を用いて合成されたポリイミド系材料、該材料を含む組成物、ならびに該材料からなるフィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、テトラカルボン酸二無水物とジアミンから得られるポリイミドは、優れた耐熱性、機械的特性、電気特性、耐酸化・加水分解性を有しており、電気、電池、自動車および航空宇宙産業などの分野において、フィルム、コーティング剤、成型部品、絶縁材料として幅広く使用されている。例えば、特許文献1においては、無水ピロメリット酸と4,4’−ジアミノベンズアニリドから得られるポリイミドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−96561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のポリイミド樹脂は、強度、弾性率、寸法安定性等に優れた材料を得ることができるが、吸水性が高いという課題があった。このため、フィルム、コーティング剤、成型部品、絶縁材料等の各種用途に用いるには性能が十分ではないという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、新規な芳香族ジアミン化合物の合成に成功し、該化合物とアシル化合物(具体的には、テトラカルボン酸二無水物またはこれらの反応性誘導体)を反応させて得られるポリアミック酸及び/又はポリイミドによると、本発明の上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[9]を提供するものである。
[1] (A)テトラカルボン酸二無水物、およびこれらの反応性誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のアシル化合物と、(B)下記式(1)で表される芳香族ジアミン化合物を含むジアミン化合物と、を反応させて得られるポリアミック酸及び/又はポリイミドを含むことを特徴とするポリイミド系材料。
【化1】

(式(1)中、R〜R12は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜10のハロゲン化炭化水素基、または炭素数1〜10のアルコキシ基であり、R13〜R16は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜10のハロゲン化炭化水素基、または炭素数1〜10のアルコキシ基である。式(1)中に各々2つずつ存在するR〜R12は、各々、同じであっても異なってもよい。nは0〜2の整数である。式(1)中に2つ存在するnは、同じであっても異なってもよい。)
[2] 上記[1]に記載のポリイミド系材料、及び有機溶媒を含有するポリイミド系樹脂組成物。
[3] 上記[1]に記載のポリイミド系材料からなるフィルム。
[4] 光学部材用である上記[3]に記載のフィルム。
[5] プリント配線用基板用である上記[3]に記載のフィルム。
[6] 上記[3]〜[5]のいずれかに記載のフィルムの製造方法であって、上記(A)アシル化合物と上記(B)上記式(1)で表される芳香族ジアミン化合物を含むジアミン化合物とを反応させて得られるポリアミック酸及び/又はポリイミドと、有機溶媒とを含む溶液を、基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、該塗膜から前記溶媒を蒸発させることにより除去してフィルムを得る工程とを含む、フィルムの製造方法。
[7] 下記式(1)で表される芳香族ジアミン化合物。
【化2】

(式(1)中、R〜R12は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜10のハロゲン化炭化水素基、または炭素数1〜10のアルコキシ基であり、R13〜R16は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜10のハロゲン化炭化水素基、または炭素数1〜10のアルコキシ基である。式(1)中に各々2つずつ存在するR〜R12は、各々、同じであっても異なってもよい。nは0〜2の整数である。式(1)中に2つ存在するnは、同じであっても異なってもよい。)
[8] 上記[7]に記載の芳香族ジアミン化合物の製造方法であって、下記式(2)で表される化合物、およびこの反応性誘導体から選ばれる少なくとも一種の化合物と、下記式(3)で表される化合物とを反応させることを特徴とする製造方法。
【化3】

(式(2)中、R13〜R16は、上記式(1)中と同様である。)
【化4】

(式(3)中、R〜R12、およびnは、上記式(1)中と同様である。)
[9] 上記[7]に記載の芳香族ジアミン化合物を含むポリアミック酸及び/又はポリイミド合成用材料。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリアミック酸及び/又はポリイミド(以下、「ポリイミド等」ともいう。)からなるポリイミド系材料は、アシル化合物と新規な芳香族ジアミン化合物とを反応させてなるため、低吸水性、寸法安定性、透明性、有機溶媒への溶解性等に優れている。また、本発明のポリイミド系材料によると、低吸水性、寸法安定性、透明性等に優れたフィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】合成例1で得られた化合物のNMRスペクトルを示す図である。
【図2】実施例1で得られたポリマーのIRスペクトルを示す図である。
【図3】実施例2で得られたポリマーのIRスペクトルを示す図である。
【図4】実施例3で得られたポリマーのIRスペクトルを示す図である。
【図5】実施例4で得られたポリマーのIRスペクトルを示す図である。
【図6】比較例1で得られたポリマーのIRスペクトルを示す図である。
【図7】比較例2で得られたポリマーのIRスペクトルを示す図である。
【図8】比較例3で得られたポリマーのIRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリイミド系材料は、アシル化合物((A)成分)と、新規な芳香族ジアミン((B)成分)とを反応させてなるポリアミック酸及び/又はポリイミドを主体とするものである。
まず、本発明のアシル化合物について説明する。
[(A)成分]
本発明のアシル化合物は、テトラカルボン酸二無水物、およびこれらの反応性誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
ここで、反応性誘導体とは、脂肪族及び/又は脂環族テトラカルボン酸二無水物に変化しうる化合物であり、例えば、脂肪族及び/又は脂環族テトラカルボン酸二無水物の当該無水物に代えて2つのカルボキシル基を有する化合物、これら2つのカルボキシル基の中の片方または両方がエステル化されたエステル化物である化合物、またはこれら2つのカルボキシル基の中の片方または両方がクロル化された酸クロライド等が好適に用いられる。
【0010】
本発明に用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6−トリカルボキシノルボルナン−2−酢酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物などの脂肪族テトラカルボン酸二無水物あるいは脂環族テトラカルボン酸二無水物、及びこれらの反応性誘導体;
ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3’,4,4’−パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルメタン二無水物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物、及びこれらの反応性誘導体を挙げることができる。
これらのうち、優れた透明性、有機溶媒への良好な溶解性の観点からは、脂肪族テトラカルボン酸二無水物あるいは脂環族テトラカルボン酸二無水物が好適に用いられる。また、低線膨張係数(寸法安定性)、低吸水性の観点からは、芳香族テトラカルボン酸二無水物が好適に用いられる。
【0011】
(A)成分としては、上述の脂肪族テトラカルボン酸二無水物あるいは脂環族テトラカルボン酸二無水物の中でも、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボンカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ〔2.2.2〕オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、及び、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物が好ましく用いられる。
また、上述の芳香族テトラカルボン酸二無水物の中でも、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物が好ましく用いられる。
【0012】
次に、本発明の新規な芳香族ジアミン化合物を含むジアミン化合物について説明する。
[ジアミン化合物;(B)成分]
本発明のジアミン化合物((B)成分)は、下記式(1)で表される新規な芳香族ジアミン化合物を少なくとも含む。
【化5】

【0013】
式(1)中、R〜R12は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜10のハロゲン化炭化水素基、または炭素数1〜10のアルコキシ基である。炭化水素基としては、炭素数1〜5であることが好ましく、炭素数1〜3であることがより好ましい。ハロゲン化炭化水素基としては、炭素数1〜5であることが好ましく、炭素数1〜3であることがより好ましい。アルコキシ基としては、炭素数1〜5であることが好ましく、炭素数1〜3であることがより好ましい。また、R〜R12としては、有機溶媒への溶解性などの観点から、ハロゲン化炭化水素基を少なくとも1以上含むことが好ましく、2以上含むことがより好ましい。また、式(1)中、nは0〜2の整数であり、0または1の整数であることが好ましく、0であることがより好ましい。式(1)中に各々2つずつ存在するR〜R12は、各々、同じであっても異なってもよい。式(1)中に2つ存在するnは、同じであっても異なってもよい。
また、式(1)中、R13〜R16は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜10のハロゲン化炭化水素基、炭素数1〜10のアルコキシ基である。炭化水素基としては、炭素数1〜5であることが好ましく、炭素数1〜3であることがより好ましい。ハロゲン化炭化水素基としては、炭素数1〜5であることが好ましく、炭素数1〜3であることがより好ましい。アルコキシ基としては、炭素数1〜5であることが好ましく、炭素数1〜3であることがより好ましい。
【0014】
なお、上述の新規な芳香族ジアミン化合物としては、上記式(1)において、芳香環に結合する単結合、アミド結合、−NH基がパラ位で結合してなる芳香族ジアミン化合物、すなわち、下記式(4)で表される芳香族ジアミン化合物が好適である。このような化合物を用いることにより、寸法安定性に優れたフィルムを得ることができる。
【0015】
【化6】

【0016】
なお、上記式(1)で表される芳香族ジアミン化合物は、例えば、下記式(2)で表される化合物、およびこの反応性誘導体から選ばれる少なくとも一種の化合物と、下記式(3)で表される化合物とを反応させることで製造することができる。
反応させる際の、式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物の使用量としては、式(3)で表される化合物を式(2)で表される化合物に対して、通常モル比にして2倍以上であり、3倍以上であることが好ましい。反応温度としては、通常−10〜100℃であり、0℃〜50℃であることが好ましい。また、反応時間としては、通常0.1〜50時間であり、1〜30時間であることが好ましい。
【化7】

(式(2)中、R13〜R16は、上記式(1)中と同様である。)
【化8】

(式(3)中、R〜R12及びnは、上記式(1)中と同様である。)
【0017】
式(2)で表される化合物としては、テレフタル酸、2−ブロモテレフタル酸、2,5−ジメチルテレフタル酸、2,5−ジクロロテレフタル酸、テトラフルオロテレフタル酸、テトラクロロテレフタル酸、テトラブロモテレフタル酸、イソフタル酸、5−ブロモイソフタル酸、テトラフルオロイソフタル酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、5−ヒドロキシイソフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−tert−ブチルイソフタル酸,5−メトキシイソフタル酸が挙げられる。
これらの中でも、テレフタル酸、2−ブロモテレフタル酸、2,5−ジメチルテレフタル酸、2,5−ジクロロテレフタル酸、テトラフルオロテレフタル酸、テトラクロロテレフタル酸、テトラブロモテレフタル酸が好適に用いられる。
また、式(2)で表される化合物の反応性誘導体としては、式(2)で表される化合物中に含まれる2つのカルボキシル基の中の片方または両方がエステル化されたエステル化物である化合物、またはこれら2つのカルボキシル基の中の片方または両方がクロル化された酸クロライド等が好適に用いられる。具体的には、テレフタル酸モノメチル、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸モノクロライド、テレフタル酸ジクロライドが挙げられる。
【0018】
式(3)で表される化合物としては、2,2’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、2,2’,5,5’−テトラクロロベンジジン、2,2’,6,6’−テトラクロロベンジジン、オクタフルオロベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジクロロ−5,5’−ジメトキシベンジジン、4,4’’−ジアミノ−p−ターフェニルが挙げられる。
式(3)で表される化合物として1種のみを用いる場合、式(1)中に各々2つずつ存在するR〜R12は、各々、同じである。
式(3)で表される化合物として2種以上を用いる場合、式(1)中に各々2つずつ存在するR〜R12及びnは、同じである場合と異なる場合を含む。
【0019】
また、ジアミン化合物((B)成分)としては、上記式(1)で表される化合物に、他のジアミン化合物を含むことができる。他のジアミン化合物の具体例としては、例えばp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)−10−ヒドロアントラセン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、2,2’,5,5’−テトラクロロベンジジン、2,2’,6,6’−テトラクロロベンジジン、オクタフルオロベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジクロロ−5,5’−ジメトキシベンジジン、4,4’’−ジアミノ−p−ターフェニルなどの芳香族ジアミン類;ジアミノテトラフェニルチオフェンなどのヘテロ原子を有する芳香族ジアミン類;1,1−メタキシリレンジアミン、1,2−エチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6.2.1.02.7]−ウンデシレンジメチルジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)などの脂肪族または脂環族ジアミン類;などを挙げることができ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらジアミン化合物は市販品をそのまま使用してもよいし、市販品を再還元してから使用してもよい。
ジアミン化合物として、式(1)で表される化合物以外の化合物を含む場合には、式(1)で表される化合物とその他のジアミン化合物とのモル比(式(1)で表される化合物:他のジアミン化合物)が0.01:0.99〜0.99:0.01であることが好ましく、0.3:0.7〜0.95:0.05であることがより好ましい。
【0020】
次に、本発明のポリイミド系材料の製造方法、およびフィルムの製造方法について説明する。
本発明のポリイミド系材料の製造方法は、上記(A)成分と上記(B)成分とを反応させて、ポリアミック酸と有機溶媒とを含む溶液を調製する工程(a)と、前記ポリアミック酸の少なくとも一部を、イミド化する工程(b)とを含む。
また、本発明のフィルムの製造方法は、上記(A)成分と上記(B)成分とを反応させて得られるポリアミック酸及び/又はポリイミドと、有機溶媒とを含む溶液を、支持基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、該塗膜から前記溶媒を蒸発させることにより除去してフィルムを得る工程とを含むものである。
本発明のフィルムの製造方法は、ポリアミック酸及び/又はポリイミドと有機溶媒とを含む溶液を調製する前工程を含むことができる。この場合、本発明のフィルムの製造方法は、上記(A)成分と上記(B)成分とを反応させて、ポリアミック酸及び/又はポリイミドと有機溶媒とを含む溶液を調製する工程(例えば、上記工程(a)及び(b))と、前記ポリアミック酸及び/又はポリイミドと有機溶媒とを含む溶液を支持基板上に塗布して塗膜を形成する工程(工程(c))と、該塗膜から前記有機溶媒を蒸発させることにより除去してフィルムを得る工程(工程(d))と、を含む。
【0021】
[工程(a)]
工程(a)は、上記(A)成分と上記(B)成分とを反応させて、ポリアミック酸と有機溶媒とを含む溶液を調製する工程である。
具体的には、少なくとも1種の(B)ジアミン化合物を有機溶媒に溶解した後、得られた溶液に、少なくとも1種の(A)アシル化合物を添加し、0〜100℃の温度で、1〜60時間撹拌する方法が挙げられる。
上記有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルフォルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素等の非プロトン系極性溶媒;クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール等のフェノール系溶媒;等が挙げられる。中でも、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドが好ましい。
これらの溶媒は一種単独で、あるいは2種以上混合して使用することができる。
なお、反応液中の(B)ジアミン化合物と(A)アシル化合物の合計量は、反応液全量の5〜30質量%であることが好ましい。
ここで、(A)アシル化合物と(B)ジアミン化合物との割合は、(B)成分のアミノ基1当量に対して、(A)成分の酸無水物基が0.8〜1.2当量となる割合が好ましく、1.0〜1.1当量となる割合がより好ましい。該値が0.8当量未満、若しくは1.2当量を超えると、分子量が低くなり、フィルムを形成することが困難なことがある。
【0022】
上記の方法で得られるポリアミック酸及び/又はポリイミドの末端は、主としてカルボン酸無水物となる。ポリマーの末端基は、処理せずにそのままの状態でフィルム化することができる。また、アニリン誘導体に代表される単官能の芳香族アミンの添加により、イミド化処理することができる。
なお、ポリアミック酸とは、酸無水物基とアミノ基とが反応して生じる、−CO−NH−、及び、−CO−OHを含む構造を有する酸、または、その誘導体(具体的には、例えば、−CO−NH−、及び、−CO−OR(ただし、Rはアルキル基等である。)を含む構造を有するもの)をいう。ポリアミック酸は、加熱等によって、−CO−NH−のHと、−CO−OHのOHとが脱水して、環状の化学構造(−CO−N−CO−)を有するポリイミドとなる。
【0023】
[工程(b)]
次いで、得られたポリアミック酸を、脱水閉環することによりイミド化するが、この方法としては、脱水剤を用いる方法(化学イミド化)や、160℃〜350℃(溶液では160〜220℃、キャストフィルムでは300℃以上での処理が一般的)で熱処理する方法(熱イミド化)が挙げられる。
化学イミド化における脱水剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸等の酸無水物、もしくは相当する酸クロライド類、ジシクロヘキシルカルボジイミド等のカルボジイミド化合物等が挙げられる。なお、化学イミド化の際には、60〜120℃の温度で加熱することが好ましい。
熱イミド化の場合には、脱水反応で生じる水を系外に除去しながら行うことが好ましい。この際、ベンゼン、トルエン、キシレン等を用いて水を共沸除去することができる。
また、イミド化の際には、必要に応じて、ピリジン、イソキノリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアミノピリジン、イミダゾール、1−メチルピペリジン、1−メチルピペラジン等の塩基触媒を用いることができる。上記脱水剤又は塩基触媒は、アシル化合物1モルに対し、それぞれ0.1〜8モルの範囲で用いることが好ましい。
イミド化の方法としては、より低温での加熱によってイミド化を行うことができることなどから、化学イミド化が好ましい。
なお、イミド化は、ポリアミック酸の少なくとも一部、好ましくは75モル%以上、より好ましくは85モル%以上、特に好ましくは90モル%以上をイミド化するように行われる。
得られたポリアミック酸及び/又はポリイミドと有機溶媒とを含む溶液は、そのまま使用することもできるが、ポリイミド等を固体分として単離した後、有機溶媒に再溶解して用いることもできる。なお、再溶解する有機溶媒としては、上記有機溶媒と同様のものが挙げられる。ポリイミド等を単離する方法としては、ポリイミド等及び有機溶媒を含む溶液を、メタノール、イソプロピルエーテル等のポリイミドに対する貧溶媒に投じてポリイミド等を沈殿させ、濾過・洗浄・乾燥等によりポリイミド等を固体分として分離する方法が挙げられる。このような操作をすることにより、イミド化の際に使用した脱水触媒(イミド化触媒)の除去も図ることができる。
【0024】
本発明においては、ポリアミック酸とポリイミドの合計100モル%中、ポリイミドの割合は、好ましくは75モル%以上、より好ましくは80モル%以上、特に好ましくは85モル%以上である。ポリイミドの割合が75モル%未満であると、フィルムの吸水率が高くなったり、耐久性が低下することがある。
得られたポリアミック酸及び/又はポリイミドの、ポリスチレン換算の重量平均分子量は、好ましくは30,000〜500,000、より好ましくは50,000〜400,000である。
【0025】
[工程(c)]
工程(c)は、ポリアミック酸及び/又はポリイミドと有機溶媒とを含む溶液を支持基板上に塗布して塗膜を形成する工程である。
上記支持基板としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、SUS板等が挙げられる。
ポリイミド等及び有機溶媒を含む溶液を支持基板上に塗布する方法としては、ロールコート法、グラビアコート法、スピンコート法、ドクターブレードを用いる方法等を使用することができる。
塗膜の厚さは、特に限定されないが、例えば1〜250μmである。
【0026】
[工程(d)]
工程(d)は、上記塗膜から前記有機溶媒を蒸発させることにより除去し、フィルムを得る工程である。
具体的には、塗膜を加熱することにより、該塗膜中の有機溶媒を蒸発させて除去する。
上記加熱の条件は、有機溶媒が蒸発すればよく特に限定されないが、例えば60〜250℃で1〜5時間である。なお、加熱は二段階で行ってもよい。例えば、100℃で30分加熱した後、150℃で1時間加熱するなどである。また、必要に応じて、窒素雰囲気下、もしくは減圧下にて乾燥を行ってもよい。
本工程では、有機溶媒を除去することができればよく、イミド化を行う必要がないため、従来技術に比して低温でフィルムを得ることができる。そのため、光学部材を形成する他の部材が耐熱性の低いものであっても、該部材に直接上記ポリイミド等及び有機溶媒を含む溶液を塗布して、有機溶媒を蒸発除去することにより、フィルムを形成することができる。
得られたフィルムは、支持基板から剥離して、あるいは剥離せずにそのまま用いることができる。
【0027】
本発明のフィルムは、上記(A)成分と(B)成分とを反応させて得られるポリイミド等を主体とする。
ここで、成分(A)と成分(B)とが反応してなるポリアミック酸は、例えば、(A)成分が下記式(5)で表される2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物であり、(B)成分が下記式(6)で表される2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンとテレフタル酸誘導体とを反応させて得られる化合物である場合、下記式(7)〜式(10)で表される繰り返し単位の少なくとも1つを有する。
【化9】

【化10】

【化11】

(式(7)中、R17及びR18は、各々独立して、水素原子またはアルキル基を表す。)
【化12】

(式(8)中、R19及びR20は、各々独立して、水素原子またはアルキル基を表す。)
【化13】

(式(9)中、R21及びR22は、各々独立して、水素原子またはアルキル基を表す。)
【化14】

(式(10)中、R23及びR24は、各々独立して、水素原子またはアルキル基を表す。)
【0028】
さらに、成分(A)と成分(B)とが反応してなるポリイミドは、例えば、(A)成分が2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物であり、(B)成分が2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンとテレフタル酸誘導体とを反応させて得られる化合物である場合、下記式(11)で表される繰り返し単位を有するものである。
【化15】

【0029】
本発明のフィルムにおいては、ポリアミック酸とポリイミドの合計100モル%中、ポリイミドの割合は、好ましくは75モル%以上、より好ましくは80モル%以上、特に好ましくは85モル%以上である。ポリイミドの割合が75モル%未満であると、フィルムの吸水率が高くなったり、耐久性が低下することがある。
本発明のフィルムの厚みは、好ましくは1〜250μm、より好ましくは5〜200μmである。また、本発明のフィルムを基材として使用する場合には、厚みが10〜150μmであることが特に好ましい。
本発明のフィルムのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上、特に好ましくは300℃以上である。このようなガラス転移温度を有することにより、優れた耐熱性を得ることができる。
【0030】
本発明のフィルムは、発光ダイオード周辺材料、太陽電池周辺材料、フラットディスプレー周辺材料、電子回路周辺材料に使用することができる。具体的には、耐熱透明フィルム、導電性透明フィルム等の光学部材に使用することができる。また、電子回路周辺材料としては、プリント配線基板用基板として使用することもでき、フレキシブルプリント配線用基板、リジットプリント配線用基板、光電子プリント配線用基板、COF(Chip on Film)用基板、TAB(Tape Automated Bonding)用基板を挙げることができる。プリント配線用基板として用いる場合には、例えば、配線用の銅層を設けることもできる。本発明のフィルムに銅層を設ける方法としては、ラミネート法、メタライジング法等を挙げることができる。ラミネート法の場合には、例えば、本発明のフィルムに銅箔を熱プレスすることで銅層が設けられたプリント配線用基板を製造することができる。メタライジング法の場合には、例えば、本発明のフィルムの金属との親和性を発現させるために表面改質を行った後に、蒸着法またはスパッタリング法によって、ポリイミドと結合するNi系の金属層と湿式電気めっきに必要なシード層を形成する。そして、湿式めっき法により所定の膜厚の銅層を設けることで、銅層が設けられたプリント配線用基板を製造することができる。
【0031】
また、工程(a)、(b)により得られた、ポリイミド等及び有機溶媒を含むポリイミド系溶液は、ポリイミド系樹脂組成物として、発光ダイオード周辺材料、太陽電池周辺材料、フラットディスプレー周辺材料、電子回路周辺材料等に用いることもできる。具体的には、封止剤、レンズ材、プリント配線基板形成用材料、液晶配向膜形成用材料等に用いることができる。例えば、プリント配線基板形成用材料として用いる場合には、キャスティング法によりプリント配線用基板を製造することができる。具体的には、銅箔の上に前記ポリイミド系樹脂組成物を塗布した後に、熱処理することで、銅層が設けられたプリント配線用基板を製造することができる。
なお、前記ポリイミド系樹脂組成物には、共溶媒として、沸点が150℃以下の有機溶媒を使用することができる。該有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン等が挙げられる。
これらの溶媒は一種単独で、あるいは2種以上混合して使用することができる。
なお、ポリイミド系樹脂組成物中のポリアミック酸及び/又はポリイミドの濃度は、反応液全量の5〜30質量%であることが好ましい。
【0032】
[製造例1](芳香族ジアミンの合成)
1Lの3つ口フラスコに温度計、攪拌機、及び窒素導入管を取り付けて合成容器を組み立てた。そして、窒素フロー下にて、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンを48g(0.15mol)とテトラヒドロフランを486g投入し、20分攪拌して2, 2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンを溶解させ、トリエチルアミンを5.9g(0.075mol)投入した。滴下漏斗にテレフタル酸ジクロライド6.1g(0.030mol)とテトラヒドロフランを45.7g投入し溶解させた。フラスコを氷浴バスで冷却しながら、フラスコ内の2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン溶液に滴下漏斗からテレフタル酸ジクロライド溶液を徐々に滴下し、滴下終了後25℃にて12時間攪拌した。反応液から減圧溜去によりテトラヒドロフランを250g溜去した後、大量の蒸留水に投入して白色析出物を得た。析出物の濾過と蒸留水による洗浄を2回繰り返した後、減圧乾燥して2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンと目的の芳香族ジアミン化合物の混合物を得た。混合物の極性差を利用し、シリカゲルを用いたカラム精製を行い芳香族ジアミン化合物を分離し、再結晶により芳香族ジアミン化合物19.7g(0.026mol)を得た(収率85%)。上記モノマーについてd−DMSOを溶媒としてHNMR測定を行い、アミド基の形成を確認した10.74ppm(図1参照)。
【0033】
[実施例1]
まず、温度計、攪拌機、窒素導入管、及び冷却管を取り付けた100mLの3つ口フラスコに、製造例1で得た芳香族ジアミン化合物7.75g(10.1mmol)を添加した。次いで、フラスコ内を窒素置換した後、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPという。)(40ml)を加え均一になるまで攪拌した。得られた溶液に2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物2.25g(10.1mmol)を、23℃で24時間攪拌を続けて反応させ、ポリアミック酸を含む溶液を得た。
得られたポリアミック酸を含む溶液にNMP(50ml)を加えて希釈した後、N−メチルピペリジン(1.2ml)、無水酢酸(2.8ml)を加え、75℃で4時間攪拌してイミド化を行い、ポリマーを得た。その後、室温まで冷却した後、大量のメタノールに投じ、ろ別によりポリマーを単離した。得られたポリマーは60℃で一晩真空乾燥し、白色粉末とした(収量8.67g、収率90.0%)。
次いで、得られたポリマーをN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に再溶解し、20質量%の樹脂溶液を得た。該樹脂溶液を、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基板上にドクターブレード(100μmギャップ)を用いて塗布し、100℃で30分、ついで150℃で60分乾燥してフィルムとした後、PET基板より剥離した。その後、フィルムをさらに150℃、減圧下で3時間乾燥して、膜厚20μmのフィルムを得た。
上記ポリマーについて、下記の方法により構造分析と、重量平均分子量の測定を行った。結果は、カルボニル基の特性吸収が、1741cm−1および1615cm−1(図2参照)、重量平均分子量は、70,900であった。
得られたポリマーのイミド化率(全アミック酸の中で脱水閉環したアミック酸の割合)は、95%であった。なお、イミド化率は1H−NMRのアミド酸N−Hシグナルと芳香環水素シグナル比より算出した。
【0034】
また、ポリマーのYI値、フィルムの全光線透過率、線膨張係数(CTE)、膜の吸水率、及び、有機溶媒に対する溶解性等を下記の方法により評価した。結果を表1に示す。
(1)構造分析
IR(KBr法)により行った。
(2)重量平均分子量
重量平均分子量は、TOSOH製HLC−8020型GPC装置を使用して測定した。溶媒には、臭化リチウムおよび燐酸を添加したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用い、測定温度40℃にて、ポリスチレン換算の分子量を求めた。
(3)有機溶媒に対する溶解性
ポリマーを、N,N−ジメチルアセトアミドに溶解し、20質量%溶液になるように調整し、室温での溶解性を評価した。完全に溶解した場合を「○」、膨潤もしくは不溶ポリマーがある場合を「×」とした。
(4)全光線透過率、YI
JIS K7105透明度試験法に準じて測定した。具体的には、フィルムの全光線透過率、YI値(イエローインデックス)を、スガ試験機株式会社製SC−3H型ヘイズメーターを用いて測定した。
(5)ガラス転移温度(Tg)
Rigaku社製8230型DSC測定装置を用いて、昇温速度を20℃/minとして測定した。
(6)吸水率
得られたフィルムを3cm×4cmの大きさに3枚切り出し、減圧乾燥下180℃で8時間乾燥させた。フィルムの質量を測定した後、蒸留水に25℃で24時間フィルムを浸漬させた。浸漬後フィルム表面の水滴をふき取り、浸漬前後の質量変化から吸水率を算出した。
(7)線膨張係数(CTE)
Seiko Instruments社製SSC−5200型TMA測定装置を用いて測定した。一度280℃まで昇温した後、3℃/minで降温した際の200〜100℃での勾配から線膨張係数を算出した。
【0035】
[実施例2]
実施例1と同様の装置を組み立て、製造例1で得た芳香族ジアミン化合物5.01g(6.5mmol)と2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン2.08g(6.5mmol)を添加した。次いで、フラスコ内を窒素置換し、NMP40mlを加え均一になるまで攪拌した。得られた溶液に2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物2.91g(13.0mmol)を室温で加え、そのままの温度で24時間攪拌を続けて反応させ、ポリアミック酸を含む溶液を得た。
得られたポリアミック酸を含む溶液にNMP(50ml)を加えて希釈した後、N−メチルピペリジン(1.6ml)、無水酢酸(3.7ml)を加え、75℃で4時間攪拌してイミド化を行い、ポリマーを得た。その後、室温まで冷却した後、大量のメタノールに投じ、ろ別によりポリマーを単離した。得られたポリマーは60℃で一晩真空乾燥し、白色粉末とした(収量8.68g、収率91.0%)。
次いで、実施例1と同様の方法で、膜厚20μmのフィルムを得た。
上記ポリマーについて、実施例1と同様の方法により構造分析を行った。結果は、カルボニル基の特性吸収が、1745cm−1および1703cm−1(図3参照)であった。
また、得られたポリマー及びフィルムの各種物性を、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0036】
[実施例3]
実施例1と同様の装置を組み立て、製造例1で得た芳香族ジアミン化合物4.85g(6.3mmol)とビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル2.32g(6.3mmol)を添加した。次いで、フラスコ内を窒素置換し、NMP40mlを加え均一になるまで攪拌した。得られた溶液に2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物2.82g(12.6mmol)を室温で加え、そのままの温度で24時間攪拌を続けて反応させ、ポリアミック酸を含む溶液を得た。
得られたポリアミック酸を含む溶液にNMP(50ml)を加えて希釈した後、N−メチルピペリジン(1.5ml)、無水酢酸(3.6ml)を加え、75℃で4時間攪拌してイミド化を行い、ポリマーを得た。その後、室温まで冷却した後、大量のメタノールに投じ、ろ別によりポリマーを単離した。得られたポリマーは60℃で一晩真空乾燥し、白色粉末とした(収量8.78g、収率92.1%)。
次いで、実施例1と同様の方法で、膜厚20μmのフィルムを得た。
上記ポリマーについて、実施例1と同様の方法により構造分析を行った。結果は、カルボニル基の特性吸収が、1745cm−1および1698cm−1(図4参照)であった。
また、得られたポリマー及びフィルムの各種物性を、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0037】
[実施例4]
実施例1と同様の装置を組み立て、製造例1で得た芳香族ジアミン化合物7.75g(10.1mmol)を添加した。次いで、フラスコ内を窒素置換し、NMP40mlを加え均一になるまで攪拌した。得られた溶液にシクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物2.25g(10.1mmol)を室温で加え、そのままの温度で24時間攪拌を続けて反応させ、ポリアミック酸を含む溶液を得た。
得られたポリアミック酸を含む溶液にNMP(50ml)を加えて希釈した後、N−メチルピペリジン(1.2ml)、無水酢酸(2.8ml)を加え、75℃で4時間攪拌してイミド化を行い、ポリマーを得た。その後、室温まで冷却した後、大量のメタノールに投じ、ろ別によりポリマーを単離した。得られたポリマーは60℃で一晩真空乾燥し、白色粉末とした(収量8.66g、収率90.8%)。
次いで、実施例1と同様の方法で、膜厚20μmのフィルムを得た。
上記ポリマーについて、実施例1と同様の方法により構造分析と、重量平均分子量の測定を行った。結果は、カルボニル基の特性吸収が、1787cm−1および1712cm−1(図5参照)、重量平均分子量は、84,100であった。
得られたポリマーのイミド化率(全アミック酸の中で脱水閉環したアミック酸の割合)は、99%であった。なお、イミド化率は1H−NMRのアミド酸N−Hシグナルと芳香環水素シグナル比より算出した。
また、得られたポリマー及びフィルムの各種物性を、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0038】
[比較例1]
実施例1と同様の装置を組み立て、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン5.88g(18.4mmol)を添加した。次いで、フラスコ内を窒素置換し、NMP40mlを加え均一になるまで攪拌した。得られた溶液に2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物4.12g(18.4mmol)を室温で加え、そのままの温度で24時間攪拌を続けて反応させ、ポリアミック酸を含む溶液を得た。
得られたポリアミック酸を含む溶液にNMP(50ml)を加えて希釈した後、N−メチルピペリジン(2.2ml)、無水酢酸(5.2ml)を加え、75℃で4時間攪拌してイミド化を行い、ポリマーを得た。その後、室温まで冷却した後、大量のメタノールに投じ、ろ別によりポリマーを単離した。得られたポリマーは60℃で一晩真空乾燥し、白色粉末とした(収量8.66g、収率90.8%)。
次いで、実施例1と同様の方法で、膜厚20μmのフィルムを得た。
上記ポリマーについて、実施例1と同様の方法により構造分析を行った。結果は、カルボニル基の特性吸収が、1787cm−1および1712cm−1(図6参照)であった。
また、得られたポリマー及びフィルムの各種物性を、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0039】
[比較例2]
実施例1と同様の装置を組み立て、ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル6.22g(16.9mmol)を添加した。次いで、フラスコ内を窒素置換し、NMP40mlを加え均一になるまで攪拌した。得られた溶液に2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物3.78g(16.9mmol)を室温で加え、そのままの温度で24時間攪拌を続けて反応させ、ポリアミック酸を含む溶液を得た。
得られたポリアミック酸を含む溶液にNMP(50ml)を加えて希釈した後、N−メチルピペリジン(2.0ml)、無水酢酸(4.8ml)を加え、75℃で4時間攪拌してイミド化を行い、ポリマーを得た。その後、室温まで冷却した後、大量のメタノールに投じ、ろ別によりポリマーを単離した。得られたポリマーは60℃で一晩真空乾燥し、白色粉末とした(収量8.66g、収率90.8%)。
次いで、実施例1と同様の方法で、膜厚20μmのフィルムを得た。
上記ポリマーについて、実施例1と同様の方法により構造分析を行った。結果は、カルボニル基の特性吸収が、1787cm−1および1712cm−1(図7参照)であった。
また、得られたポリマー及びフィルムの各種物性を、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0040】
[比較例3]
実施例1と同様の装置を組み立て4,4’-ジアミノジフェニルエーテル4.76g(23.8mmol)を添加した。フラスコ内を窒素置換し、NMP40mlを加え均一になるまで攪拌した。得られた溶液に、酸無水物であるピロメリット酸二無水物5.24g(24.0mmol)を室温で加え、そのままの温度で24時間攪拌を続けて反応させ、ポリアミック酸を含む溶液を得た。
この溶液を、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基板上にドクターブレード(100μmギャップ)を用いて塗布し、100℃で30分、ついで150℃で30分乾燥した後、フィルムを剥離した。該フィルムを金枠に固定した後、更に300℃で60分加熱して膜厚20μmのフィルムを得た。
フィルムの構造分析をIR(ATR法)により行った。結果は、カルボニル基の特性吸収が、1708cm−1および1775cm−1(図8参照)であった。
また、得られたポリマー及びフィルムの各種物性を、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0041】
[比較例4]
実施例1と同様の装置を組み立て、ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル5.03g(22.2mmol)を添加した。次いで、フラスコ内を窒素置換し、NMP40mlを加え均一になるまで攪拌した。得られた溶液にシクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物4.97g(22.2mmol)を室温で加え、そのままの温度で24時間攪拌を続けて反応させ、ポリアミック酸を含む溶液を得た。
得られたポリアミック酸を含む溶液にNMP(50ml)を加えて希釈した後、N−メチルピペリジン(2.7ml)、無水酢酸(6.3ml)を加え、75℃で4時間攪拌してイミド化を行なったところ、ポリマーが析出し溶液がゲル化した。ゲル化が起こったため、ポリマーの分析は行わなかった。
【0042】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)テトラカルボン酸二無水物、およびこれらの反応性誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のアシル化合物と、(B)下記式(1)で表される芳香族ジアミン化合物を含むジアミン化合物と、を反応させて得られるポリアミック酸及び/又はポリイミドを含むことを特徴とするポリイミド系材料。
【化1】

(式(1)中、R〜R12は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜10のハロゲン化炭化水素基、または炭素数1〜10のアルコキシ基であり、R13〜R16は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜10のハロゲン化炭化水素基、または炭素数1〜10のアルコキシ基である。式(1)中に各々2つずつ存在するR〜R12は、各々、同じであっても異なってもよい。nは0〜2の整数である。式(1)中に2つ存在するnは、同じであっても異なってもよい。)
【請求項2】
請求項1に記載のポリイミド系材料、及び有機溶媒を含有するポリイミド系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1に記載のポリイミド系材料からなるフィルム。
【請求項4】
光学部材用である請求項3に記載のフィルム。
【請求項5】
プリント配線用基板用である請求項3に記載のフィルム。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法であって、上記(A)アシル化合物と上記(B)上記式(1)で表される芳香族ジアミン化合物を含むジアミン化合物とを反応させて得られるポリアミック酸及び/又はポリイミドと、有機溶媒とを含む溶液を、基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、該塗膜から前記溶媒を蒸発させることにより除去してフィルムを得る工程とを含む、フィルムの製造方法。
【請求項7】
下記式(1)で表される芳香族ジアミン化合物。
【化2】

(式(1)中、R〜R12は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜10のハロゲン化炭化水素基、または炭素数1〜10のアルコキシ基であり、R13〜R16は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜10のハロゲン化炭化水素基、または炭素数1〜10のアルコキシ基である。式(1)中に各々2つずつ存在するR〜R12は、各々、同じであっても異なってもよい。nは0〜2の整数である。式(1)中に2つ存在するnは、同じであっても異なってもよい。)
【請求項8】
請求項7に記載の芳香族ジアミン化合物の製造方法であって、下記式(2)で表される化合物、およびこの反応性誘導体から選ばれる少なくとも一種の化合物と、下記式(3)で表される化合物とを反応させることを特徴とする製造方法。
【化3】

(式(2)中、R13〜R16は、上記式(1)中と同様である。)
【化4】

(式(3)中、R〜R12、およびnは、上記式(1)中と同様である。)
【請求項9】
請求項7に記載の芳香族ジアミン化合物を含むポリアミック酸及び/又はポリイミド合成用材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−180292(P2010−180292A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23368(P2009−23368)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】