説明

芳香族ビニル化合物の重合抑制剤組成物及び重合抑制方法

【課題】 芳香族ビニル化合物の製造、精製、貯蔵あるいは輸送工程において、芳香族ビニル化合物あるいはこれを含有するプロセス流体の工程内および装置内での芳香族ビニル化合物の初期の重合抑制および工程内および装置内の滞留時間を考慮した長時間の芳香族ビニル化合物の重合を効率的に抑制し、さらに該重合物による汚れ発生を防止する方法を提供することにある。
【解決手段】 (A)N−ニトロソ化合物と(B)p−フェニレンジアミン化合物を含む芳香族ビニル化合物の重合抑制剤組成物、および芳香族ビニル化合物の製造、精製、貯蔵あるいは輸送工程において、芳香族ビニル化合物を含む工程液に(A)N−ニトロソ化合物と(B)p−フェニレンジアミン化合物を組み合わせて同時に用いる芳香族ビニル化合物の重合抑制方法であり、好適には(A)N−ニトロソ化合物と(B)p−フェニレンジアミン化合物を90:10〜30:70(重量比)で用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ビニル化合物の製造、精製、貯蔵あるいは輸送工程において、芳香族ビニル化合物あるいはこれを含有するプロセス流体の重合の抑制および重合による汚れの発生を防止する重合抑制剤組成物および重合抑制方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ビニル化合物、例えばスチレンはポリスチレン、合成ゴム、ABS樹脂などの製造原料として産業上非常に重要な化合物であり、工業的に多量に生産されている。
【0003】
芳香族ビニル化合物は極めて重合し易く、製造あるいは精製工程において、熱が加わるなどの要因により重合し、目的物であるスチレン類モノマーの収率を低下させ、さらに関連設備の中にファウリング(汚れ)を生じ設備の運転上支障を来すなどの問題がある。その対策として、種々の重合抑制方法が提案され、実用に供されている。
【0004】
例えば、フェノール化合物、ニトロソフェノール化合物、ニトロフェノール化合物を用いる方法(例えば、特許文献1参照)、2,5−ジヒドロキシビフェニル、2−フェニル−1,4−ベンゾキノン、1,2−ナフトキノン、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン等の含酸素炭素二環式化合物を用いる方法(例えば特許文献2参照)、ピペリジン−1−オキシル化合物を用いる方法(例えば特許文献3参照)、ピペリジン−1−オキシル化合物とニトロフェノール化合物とを組み合わせて用いる方法(例えば特許文献4参照)、オレフィン製造プロセスでの粘度上昇を抑制するためにフェノール系、アミン系、ニトロソ系重合禁止剤とドデシルベンゼンスルホン酸等のスルホン酸化合物を添加する方法(例えば特許文献5参照)、ビニル化合物を扱う工程でのファウリングを防止するためにキノン系、ハイドロキノン系、ニトロソ系、フェニレンジアミン系重合禁止剤とドデシルベンゼンスルホン酸等のスルホン酸化合物を添加する方法(例えば特許文献6参照)などがある。
【0005】
しかし、フェノール化合物、フェノチアジン化合物、ヒドロキシルアミン化合物等では、依然として十分な効果が得られていない。また、2,2,6,6−テトラピペリジン−1−オキシルなどのN−オキシル化合物は、初期の重合抑制に優れた効果を示すが、N−オキシル化合物が消費されると急激な重合反応が起こり、装置運転上、好ましくない。そのため、依然として満足しうる重合抑制効果と汚れの付着防止効果を得るには至っていない。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−316745号公報
【特許文献2】特開昭56−86123号公報
【特許文献3】特開平1−165534号公報
【特許文献4】特開平6−166636号公報
【特許文献5】特開平7−166152号公報
【特許文献6】特開平8−34748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、芳香族ビニル化合物の製造、精製、貯蔵あるいは輸送工程において、芳香族ビニル化合物あるいはこれを含有するプロセス流体の工程内および装置内での芳香族ビニル化合物の初期の重合抑制および工程内および装置内の滞留時間を考慮した長時間の芳香族ビニル化合物の重合を効率的に抑制し、さらに該重合物による汚れ発生を防止する重合抑制剤組成物及び重合抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、芳香族ビニル化合物の重合反応の特性を詳しく研究した結果、特定のN−ニトロソ化合物と特定のp−フェニレンジアミン化合物の組み合わせが芳香族ビニル化合物の重合抑制に有効であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、請求項1に係わる発明は、(A)一般式(1)(式中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20の直鎖又は環を含んでいてもよい分岐のアルキル基、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基である)で表されるN−ニトロソ化合物と、(B)一般式(2)(式中、R、R、R、Rは少なくとも1つが水素原子であり、他が水素原子、炭素数1〜20の直鎖又は環を含んでいてもよい分岐のアルキル基、フェニル基、ナフチル基である。)で表されるp−フェニレンジアミン化合物を有効成分として含むことを特徴とする芳香族ビニル化合物の重合抑制剤組成物である。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

請求項2に関わる発明は、請求項1記載の芳香族ビニル化合物の重合抑制剤組成物であり、(A)N−ニトロソ化合物が、N−ニトロソ−N−メチルアニリン、N−ニトロソ−N−ブチルアニリン、N−ニトロソ−N−シクロヘキシルアニリン、N−ニトロソ−N−メチル−o−トルイジン、N−ニトロソ−N−メチル−m−トルイジン、N−ニトロソ−N−メチル−o−アニシジン、N−ニトロソジフェニルアミンから選ばれる1種以上であることを特徴としている。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載の芳香族ビニル化合物の重合抑制剤組成物であり、(B)p−フェニレンジアミン化合物が、p−フェニレンジアミン、N,N’−ジメチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミンから選ばれる1種以上であることを特徴としている。
【0013】
請求項4に係わる発明は、芳香族ビニル化合物の製造、精製、貯蔵あるいは輸送工程において、芳香族ビニル化合物を含む工程液に前記(A)一般式(1)で表されるN−ニトロソ化合物と、前記(B)一般式(2)で表されるp−フェニレンジアミン化合物を同時に用いることを特徴とする芳香族ビニル化合物の重合抑制方法である。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項4記載の芳香族ビニル化合物の重合抑制方法であり、(A)N−ニトロソ化合物が、N−ニトロソ−N−メチルアニリン、N−ニトロソ−N−ブチルアニリン、N−ニトロソ−N−シクロヘキシルアニリン、N−ニトロソ−N−メチル−o−トルイジン、N−ニトロソ−N−メチル−m−トルイジン、N−ニトロソ−N−メチル−o−アニシジン、N−ニトロソジフェニルアミンから選ばれる1種以上であることを特徴としている。
【0015】
請求項6に係る発明は、請求項4又は5記載の芳香族ビニル化合物の重合抑制方法であり、(B)p−フェニレンジアミン化合物が、p−フェニレンジアミン、N,N’−ジメチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミンから選ばれる1種以上であることを特徴としている。
【0016】
請求項7に係る発明は、請求項4乃至6のいずれか記載の芳香族ビニル化合物の重合抑制方法であり、(A)と(B)を90:10〜30:70(重量比)で用いることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の方法により、芳香族ビニル化合物の製造、精製、貯蔵あるいは輸送工程において、芳香族ビニル化合物あるいはこれを含有するプロセス流体の工程内および装置内での重合の抑制および重合による汚れの発生が抑制され、さらに初期の重合抑制はもちろんのこと、工程内および装置内での滞留時間を考慮した長い時間の重合を抑制し、且つ、取り扱い性に優れ、芳香族ビニル化合物の重合を効率的に抑制し、該重合物による汚れ発生を防止し、設備の安全運転を容易にすることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
本発明の芳香族ビニル化合物の重合抑制剤組成物(以下「本発明の重合抑制剤組成物」とする。)は、芳香族ビニル化合物の製造工程、精製工程、貯蔵工程あるいは輸送工程において、特定のN−ニトロソ化合物と、特定のp−フェニレンジアミン化合物を有効成分として含むことを特徴とする芳香族ビニル化合物の重合抑制剤組成物、及び芳香族ビニル化合物の製造工程、精製工程、貯蔵工程あるいは輸送工程において、芳香族ビニル化合物を含む当該工程液に特定のN−ニトロソ化合物と、特定のp−フェニレンジアミン化合物を同時に用いることにより、長時間に亘る芳香族ビニル化合物の重合抑制効果に優れ、さらに芳香族ビニル化合物の重合物による当該工程の装置類・設備類の汚れの発生の防止とその付着を抑制する芳香族ビニル化合物の重合抑制方法である。
【0020】
本発明の重合抑制方法において対象となる芳香族ビニル化合物は、スチレン及び炭素数1〜10のアルキル基を持つアルキルスチレン、α位に炭素数1〜10のフェニル基あるいはアルキル基を持つα−アルキルスチレン、β位に炭素数1〜10のフェニル基あるいはアルキル基を持つβ−アルキルスチレンなどの重合性ビニル基を持ったスチレン誘導体である。具体的には、スチレン、メチルスチレン(オルト体、メタ体、パラ体およびこれらの混合物)、エチルスチレン(オルト体、メタ体、パラ体およびこれらの混合物)、プロピルスチレン(オルト体、メタ体、パラ体およびこれらの混合物)、ブチルスチレン(オルト体、メタ体、パラ体およびこれらの混合物)、オクチルスチレン(オルト体、メタ体、パラ体およびこれらの混合物)、ノニルスチレン(オルト体、メタ体、パラ体およびこれらの混合物)、デシルスチレン(オルト体、メタ体、パラ体およびこれらの混合物)、α−メチルスチレン(2−フェニルプロペン)、1−フェニル−1−プロペン(β−メチルスチレン:シス体、トランス体、およびその混合物)、2−フェニル−2−ブテン(シス体、トランス体、およびその混合物)、スチルベン(シス体、トランス体、およびその混合物)などがある。
【0021】
本発明の重合抑制の対象となる工程は、芳香族ビニル化合物の製造工程、製造後の芳香族ビニル化合物の精製工程、製造および精製した芳香族ビニル化合物を貯蔵・保管する貯蔵工程であり、芳香族ビニル化合物を含む工程液と接する付随装置類、付帯設備類、さらにこれらを含む循環系や回収系も包含する。具体的には、芳香族ビニル化合物製造工程におけるアルキル芳香族化合物の脱水素反応塔や合成反応塔、反応後の反応物排出ラインや回収循環ライン、精製工程における精製塔への芳香族ビニル化合物のフィード配管や予熱ラインおよび冷却ラインさらに循環ライン、貯蔵工程における保管タンクや貯蔵タンク、移送タンクおよび輸送タンクさらにその移送ラインなどがある。
【0022】
本発明の重合抑制方法で用いられるN−ニトロソ化合物は、一般式(1)で表されるN−ニトロソ化合物(以下「(A)成分」とする)であり、式中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20の直鎖又は環を含んでいてもよい分岐のアルキル基、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基である。炭素数1〜20の直鎖又は環を含んでいてもよい分岐のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ステアリル基、イソステアリル基、オレイル基、ベヘニル基などがある。また、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、2,3−キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、3、5−ジ−tert−ブチルフェニル基、オクチルフェニル基等がある。具体的には、N−ニトロソ−N−メチルブチルアミン、N−ニトロソジブチルアミン、N−ニトロソ−N−メチルシクロヘキシルアミン、N−ニトロソ−N−ブチルシクロヘキシルアミン、N−ニトロソ−N−ブチルオクチルアミン、N−ニトロソ−N−シクロヘキシルデシルアミン、N−ニトロソ−N−メチルステアリルアミン、N−ニトロソ−N−メチルアニリン、N−ニトロソ−N−ブチルアニリン、N−ニトロソジフェニルアミン、N−ニトロソ−N−シクロヘキシルアニリン、N−ニトロソ−N−メチル−o−トルイジン、N−ニトロソ−N−メチル−m−トルイジン、N−ニトロソ−N−メチル−o−アニシジンなどがある。中でも好ましくは、R、Rのいずれかが炭素数6〜14の芳香族炭化水素基であるN−ニトロソ化合物で、具体的にはN−ニトロソ−N−メチルアニリン、N−ニトロソ−N−ブチルアニリン、N−ニトロソ−N−シクロヘキシルアニリン、N−ニトロソ−N−メチル−o−トルイジン、N−ニトロソ−N−メチル−m−トルイジン、N−ニトロソ−N−メチル−o−アニシジン、N−ニトロソジフェニルアミンなどである。さらに、より好ましくはR、Rのいずれかが4位に置換基のないフェニル基を有する炭素数6〜14の芳香族炭化水素基であるN−ニトロソ化合物で、具体的にはN−ニトロソ−N−メチルアニリン、N−ニトロソ−N−ブチルアニリン、N−ニトロソ−N−シクロヘキシルアニリン、N−ニトロソジフェニルアミンである。これらのうちの1種あるいは2種以上を用いることができる。
【0023】
本発明の重合抑制方法で用いられるp−フェニレンジアミン化合物は、一般式(2)で表され、2つのアミノ基に少なくとも1つの水素原子が結合しているp−フェニレンジアミン化合物(以下「(B)成分」とする)である。式中、R、R、R、Rは少なくとも1つが水素原子であり、他は炭素数1〜20の直鎖あるいは環を含んでいてもよい分岐のアルキル基、フェニル基、ナフチル基である。炭素数1〜20の直鎖又は環を含んでいてもよい分岐のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ステアリル基、イソステアリル基、オレイル基、ベヘニル基などがある。また、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、2,3−キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、3、5−ジ−tert−ブチルフェニル基、オクチルフェニル基等がある。具体的には、p−フェニレンジアミン、N,N’−ジメチル−p−フェニレンジアミン、N,N−ジメチル−p−フェニレンジアミン、N,N−ジエチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−N−メチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−メチル−N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−N−メチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジヘキシル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジオクチル−p−フェニレンジアミン、N−メチル−N−フェニル−N’−ブチル−p−フェニレンジアミン、N−メチル−N−フェニル−N’−ヘキシル−p−フェニレンジアミンなどがあり、好ましくはp−フェニレンジアミン、N,N’−ジメチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミンである。これらのうちの1種あるいは2種以上を用いることができる。p−フェニレンジアミン化合物に代えて、o−フェニレンジアミンでは、本発明の効果を得ることはできない。
【0024】
本発明の重合抑制剤組成物は、(A)成分と(B)成分を含む重合抑制剤組成物であり、通常、両成分を溶剤に溶解させて用いられる。用いる溶剤は、(A)成分と(B)成分を溶解し、適用する芳香族ビニル化合物の工程の状況を考慮して適宜選択されれば良く、特に限定されるものではないが、通常、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族系炭化水素や脂肪族系炭化水素を用いることができる。
【0025】
本発明の重合抑制剤組成物における(A)成分と(B)成分の濃度は、特に限定されるものではなく、使用状況を考慮して適宜選択されれば良く、通常、両者の合計で1〜80重量%である。(A)成分と(B)成分の濃度が1重量%未満では、本発明の効果を十分に発揮できない場合がある。また、(A)成分と(B)成分の濃度が80重量%を超えると、溶液の粘度が高くなり、取扱性の低下や当該重合抑制剤中の(A)成分と(B)成分の析出が生じて製品安定性が損なわれる場合があり、好ましくない。
【0026】
本発明の重合抑制剤組成物の製造は、特に限定されるものではなく、撹拌下、溶剤に(A)成分と(B)成分を添加して均一溶液として調製して得られる。
【0027】
本発明の重合抑制方法は、芳香族ビニル化合物の製造、精製、貯蔵あるいは輸送工程において、芳香族ビニル化合物を含む工程液に(A)成分と(B)成分を同時に添加することにより、芳香族ビニル化合物の重合を抑制し、さらに当該芳香族ビニル化合物の重合による汚れの発生を防止するものである。必要とする芳香族ビニル化合物の重合抑制および汚れの防止の程度に応じて、これらの添加比率を適宜決定すれば良いが、通常、(A)成分と(B)成分を重量比で90:10〜30:70、好ましくは80:20〜40:60、より好ましくは70:30〜50:50である。この添加比率は、対象とする芳香族ビニル化合物の重合抑制効果を発揮する範囲として見出されたものであり、この範囲外では効果が充分に発揮されない場合がある。
【0028】
本発明の重合抑制方法における(A)成分と(B)成分の添加量は、対象とする工程の条件、必要とする芳香族ビニル化合物の重合抑制及び汚れの発生防止の程度に応じて、これらの混合比を適宜決定すれば良いが、一般的には対象とする芳香族ビニル化合物に対し、(A)成分、(B)成分のそれぞれが10〜10、000ppm、好ましくは50〜5000ppm、さらに好ましくは100〜2000ppmである。また、(A)成分、(B)成分の合計添加量が、20〜20、000ppm、好ましくは100〜10、000ppm、さらに好ましくは200〜4000ppmである。これらの添加量は、対象とする芳香族ビニル化合物の重合抑止効果を発揮する範囲として見出されたものであり、この範囲より小さいと効果が充分でなく、また、この範囲より多くとも重合抑制効果は充分にあるが、添加量の割に重合抑制効果は高くならず、経済的見地から好ましくない場合がある。
【0029】
本発明の重合抑制方法における(A)成分と(B)成分の添加場所は、特に限定されるものではないが、芳香族ビニル化合物が重合し、ファウリングとして問題化する箇所の上流のプロセスに添加する。例えば、スチレンの場合で説明すると、通常、スチレンはエチルベンゼンの脱水素反応によって製造され、生成スチレンと未反応エチルベンゼンは連続的に蒸留塔および精留塔で分離、精製される。回収されたエチルベンゼンは再度、エチルベンゼンの脱水素反応に供給され、その間に脱水素反応後の脱水素反応塔、フィード配管、蒸留塔・精留塔およびその付帯設備の加熱装置等で重合が起こり、その重合物に由来する汚れが付着するため、これらの汚れが生じる箇所の手前に(A)成分と(B)成分が添加される。
【0030】
本発明の重合抑制方法における(A)成分と(B)成分の添加方法は、特定箇所に一括添加するか、あるいはいくつかの箇所に分けて、分散添加するなどの方法があり、対象とする工程の条件、必要とする芳香族ビニル化合物の重合抑制の程度に応じて適宜選択される。また、(A)成分と(B)成分をそれぞれ個別に添加する方法、(A)成分および(B)成分をそれぞれ適当な溶媒に溶解して添加する方法、添加直前に(A)成分と(B)成分を適当な溶媒に溶解して添加する方法等があり、いずれを用いても良い。(A)成分、(B)成分の溶剤としては、通常、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素が用いられるが、その他に脂肪族系炭化水素を用いることもができる。また、プロセス流体と同じ液体、例えばスチレンの場合、スチレン、エチルベンゼンに溶解して添加する方法もある。
【0031】
本発明の重合抑制方法において、(A)成分と(B)成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲において公知の他の重合抑制剤を併せて用いることになんら制限を加えるものではない。
【実施例】
【0032】
実施例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
(N−ニトロソ化合物)
NDPA:N−ニトロソジフェニルアミン
NCHA:N−シクロヘキシル−N−ニトロソアニリン
【0034】
(p−フェニレンジアミン化合物)
PDA:p−フェニレンジアミン
DPPDA:N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン
PIPPDA:N−フェニル−N'−イソプロピル−p−フェニレンジアミン
DBPDA:N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン
【0035】
(その他)
DNBP:2,4−ジニトロ−6−ブチルフェノール
DMPNA:N−(1,4−ジメチルフェニル)−4−ニトロソアニリン
H−TEMPO:4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル
【0036】
(スチレンの重合抑制)
還流冷却器を備えた4つ口セパラブルフラスコにスチレンモノマー100gを入れ、N−ニトロソジフェニルアミン(NDPA)70mg、p−フェニレンジアミン(PDA)30mgを加え、高純度窒素ガスを30分間吹き込んで溶存酸素を除いた。次いでこれを117℃に保持し、30分後、60分後、90分後、120分後に内容物の一部を取り出し、液中のポリマー生成量を測定した。ポリマー生成量は、取り出した内容物に9倍量(容量)のメタノールを加えて、内容物(液)中に懸濁状態で生じた析出物を濾過して分離し、その析出物の重量(g)を量り、モノマー100g中のポリマー生成量(%)として求めた。なお、本実験を始める前に、スチレンモノマーをアルカリ洗浄してモノマー中に含まれる重合抑制剤を除き、水洗、乾燥した。ポリマー生成量(%)が少ないほど、好ましい。同様に表1記載の種々の(A)N−ニトロソ化合物と(B)p−フェニレンジアミン化合物を用いて試験を行った。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

この結果から、(A)N−ニトロソ化合物と(B)p−フェニレンジアミン化合物とを組み合わせることによって、(A)N−ニトロソ化合物と(B)p−フェニレンジアミン化合物のそれぞれ単独での重合抑制効果を上回る優れた相乗効果が発揮され、しかも長時間に亘ってその重合抑制効果が持続することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式(1)(式中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20の直鎖又は環を含んでいてもよい分岐のアルキル基、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基である。)で表されるN−ニトロソ化合物と、(B)一般式(2)(式中、R、R、R、Rは少なくとも1つが水素原子であり、他が炭素数1〜20の直鎖又は環を含んでいてもよい分岐のアルキル基、フェニル基、ナフチル基である。)で表されるp−フェニレンジアミン化合物を有効成分として含むことを特徴とする芳香族ビニル化合物の重合抑制剤組成物。
【化1】

【化2】

【請求項2】
(A)N−ニトロソ化合物が、N−ニトロソ−N−メチルアニリン、N−ニトロソ−N−ブチルアニリン、N−ニトロソ−N−シクロヘキシルアニリン、N−ニトロソ−N−メチル−o−トルイジン、N−ニトロソ−N−メチル−m−トルイジン、N−ニトロソ−N−メチル−o−アニシジン、N−ニトロソジフェニルアミンから選ばれる1種以上である請求項1記載の芳香族ビニル化合物の重合抑制剤組成物。
【請求項3】
(B)p−フェニレンジアミン化合物が、p−フェニレンジアミン、N,N’−ジメチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミンから選ばれる1種以上である請求項1又は2記載の芳香族ビニル化合物の重合抑制剤組成物。
【請求項4】
芳香族ビニル化合物の製造、精製、貯蔵あるいは輸送工程において、芳香族ビニル化合物を含む工程液に前記(A)一般式(1)で表されるN−ニトロソ化合物と、前記(B)一般式(2)で表されるp−フェニレンジアミン化合物を同時に用いることを特徴とする芳香族ビニル化合物の重合抑制方法。
【請求項5】
(A)N−ニトロソ化合物が、N−ニトロソ−N−メチルアニリン、N−ニトロソ−N−ブチルアニリン、N−ニトロソ−N−シクロヘキシルアニリン、N−ニトロソ−N−メチル−o−トルイジン、N−ニトロソ−N−メチル−m−トルイジン、N−ニトロソ−N−メチル−o−アニシジン、N−ニトロソジフェニルアミンから選ばれる1種以上である請求項4記載の芳香族ビニル化合物の重合抑制方法。
【請求項6】
(B)p−フェニレンジアミン化合物が、p−フェニレンジアミン、N,N’−ジメチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミンから選ばれる1種以上である請求項4又は5記載の芳香族ビニル化合物の重合抑制方法。
【請求項7】
(A)と(B)を90:10〜30:70(重量比)で用いる請求項4乃至6のいずれか記載の芳香族ビニル化合物の重合抑制方法。


【公開番号】特開2006−282541(P2006−282541A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−101889(P2005−101889)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】