説明

芳香族ポリエステル、その製造方法および芳香族ポリエステルフィルム

【課題】耐熱性に優れた、特に重合度を高くしても耐熱性に優れた改質された芳香族ポリエステル樹脂組成物およびフィルムの提供。
【解決手段】3価以上の官能基を有する脂肪族のヒドロキシカルボン酸成分が共重合された芳香族ポリエステルからなり、該ヒドロキシカルボン酸成分の割合が、芳香族ポリエステル樹脂の繰り返し単位を基準として、0.02〜1モル%の範囲にある改質芳香族ポリエステル樹脂組成物およびフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れた、特に重合度を高くしても耐熱性に優れる芳香族ポリエステルおよびそれを用いたフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等に代表される芳香族ポリエステルは、その優れた物理的、化学的特性の故に、今日、繊維、フィルムあるいは成型品などの用途で広く使用されている。
【0003】
このように優れた芳香族ポリエステルではあるが、さらに耐熱性の向上が求められてきている。芳香族ポリエステルの耐熱性を下げる要因としては、芳香族ポリエステルを製造する際に重合触媒として用いた金属化合物による分解反応の促進が挙げられる。特に、他の重合触媒に比べて活性が比較的高いチタン化合物では、この傾向が顕著である。そのため耐熱性を向上させるには、芳香族ポリエステル中に存在する触媒の活性を抑えることが有効であり、そのような触媒として、特許文献1ではチタン化合物と亜リン酸エステルとの反応生成物、特許文献2ではチタン化合物とリン化合物との錯体、特許文献3ではクエン酸や乳酸でキレート化したチタン化合物などが、ポリエステル製造用の触媒として提案されている。
【0004】
しかしながら、重合触媒の活性を抑えるとしても、それは芳香族ポリエステルの生産性を損なわない範囲であり、根本的な耐熱性の改善には至らなかった。また、芳香族ポリエステルは、より優れた機械的特性などを発現するために固有粘度の高いものが求められることがある。そのような場合、前述のような触媒の活性を抑制する方法では、非常に非効率的であり、さらに反応時間の延長や反応温度の高温化など熱履歴をより多く受けることで耐熱性自体が低下してしまう。
【0005】
一方、反応時間の延長や反応温度の高温化などによらないで、固有粘度の高い芳香族ポリエステルを得る方法としては、特許文献4や5に記載されているような、1分子内に3ヶ以上のエステル形成性官能基を有する化合物を共重合することが挙げられる。しかしながら、特許文献4や5に記載の方法では、確かに固有粘度は高くしやすくなるものの、耐熱性を向上させることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−38722号公報
【特許文献2】特開平7−138354号公報
【特許文献3】特開2004−189962号公報
【特許文献4】特開平5−25258号公報
【特許文献5】特開平1−201325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐熱性に優れた芳香族ポリエステルおよびそれを用いたフィルムを提供することにある。また、本発明の他の目的は、重合度を高くしても耐熱性に優れた芳香族ポリエステルおよびそれを用いたフィルムを提供することにある。さらにまた、本発明の他の目的は、上述の耐熱性に優れた芳香族ポリエステルを、効率的に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、本発明の目的は、芳香族ジカルボン酸成分とアルキレングリコール成分と3価以上の官能基を有する脂肪族のヒドロキシカルボン酸成分とからなり、該脂肪族のヒドロキシカルボン酸成分の割合が、芳香族ジカルボン酸成分の割合を基準として、0.02〜1モル%の範囲にある芳香族ポリエステルによって達成される。
【0009】
また、本発明によれば、本発明の好ましい態様として、固有粘度が0.60〜1.0dl/gの範囲にあること、該脂肪族のヒドロキシカルボン酸成分が、クエン酸、リンゴ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であること、触媒として用いた金属化合物の金属元素量(M)に対して、熱安定剤として用いたリン化合物のリン元素量(P)が、下記式
0.5≦P/M≦2
を満足すること(ここで、上記式中の、PおよびMは、それぞれ芳香族ポリエステルの繰り返し単位のモル数を基準としたときの、リン元素および金属元素のモル分率(mmol%)を表す。)、重縮合反応触媒がチタン化合物で、リン化合物がホスホネート化合物であることの少なくともいずれかひとつを具備する芳香族ポリエステルも提供される。
【0010】
さらにまた、芳香族ジカルボン酸成分とアルキレングリコール成分と重合反応させて芳香族ポリエステルを製造する際に、重合反応が終了するまでに、3価以上の官能基を有する脂肪族のヒドロキシカルボン酸成分を、芳香族ジカルボン酸成分の割合を基準として、0.02〜1モル%の範囲で共重合する芳香族ポリエステルの製造方法および上記本発明の芳香族ポリエステルからなるフィルムも提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の芳香族ポリエステルは、3価以上の官能基を有する脂肪族のヒドロキシカルボン酸成分を特定の範囲で共重合していることから、高い耐熱性を有する。また、本発明の芳香族ポリエステルは、3価以上の官能基を有する脂肪族のヒドロキシカルボン酸成分を特定の範囲で共重合していることから、高い耐熱性を具備しつつ、しかも効率的に固有粘度を高くすることもできる。
【0012】
また、本発明の芳香族ポリエステルの製造方法によれば、3価以上の官能基を有する脂肪族のヒドロキシカルボン酸成分を特定の範囲で共重合成分として用いることから、効率的にしかも高い耐熱性を有する芳香族ポリエステルを製造できる。
【0013】
また、本発明の芳香族ポリエステルの製造方法によれば、特定の脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分を特定量共重合させることにより、より重合度の高い芳香族ポリエステルをより速い重合速度で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明の芳香族ポリエステルについて、詳述する。
本発明の芳香族ポリエステルは、3価以上の官能基を有する脂肪族のヒドロキシカルボン酸成分が共重合された芳香族ポリエステル(以下、PESと称することがある。)である。
【0015】
本発明の特徴の一つは、脂肪族のヒドロキシカルボン酸成分が、芳香族ポリエステルの分子鎖中に共重合させられていることにあり、これにより耐熱性を向上させることができる。
【0016】
本発明における脂肪族のヒドロキシカルボン酸成分としては、3価以上の多官能性を有する脂肪族化合物が挙げられる。具体的な3価以上の多官能性を有する脂肪族化合物としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸が挙げられる。これらの中でも、重合反応性をより向上できることから、クエン酸とリンゴ酸が好ましい。3価以上の多官能性を有する芳香族化合物を用いた場合、高い固有粘度をもつ芳香族ポリエステルは得られるものの、耐熱性が乏しい。また、エチレンジアミン4酢酸などの含窒素ヒドロキシカルボン酸を用いた場合は、重合反応性は高くなるが、熱安定性が悪くなる。
【0017】
本発明における上記脂肪族のヒドロキシカルボン酸成分を共重合する割合は、芳香族ジカルボン酸成分のモル数を基準として、0.02〜1モル%の範囲にあることが必要であり、0.03〜0.7モル%、さらに0.05〜0.5モル%の範囲にあることが好ましい。該脂肪族のヒドロキシカルボン酸成分の割合が上記範囲内にあると、芳香族ポリエステルの耐熱性を高度に向上させることができる。
【0018】
該脂肪族のヒドロキシカルボン酸成分の添加時期は、重縮合反応が終了する前ならいつでも良いが、好ましくはエステル化反応またはエステル交換反応が終了した後、重縮合反応を開始するまでの間に添加することが好ましい。
【0019】
本発明における芳香族ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸とアルキレングリコール成分を主たる繰り返し単位とするものであり、例えばエチレングリコールとテレフタル酸もしくはその低級アルキルエステルとを、エステル化反応もしくはエステル交換反応させ、その後重縮合反応させることで製造できる。ここでいう主たる繰り返し単位とするとは、好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上がエチレンテレフタレートであることを意味する。エチレンテレフタレート以外の共重合成分は、ジカルボン酸成分として例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムジカルボン酸を、またグリコール成分として例えば、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのアルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどを挙げることができる。なお、これらの共重合成分は1種のみでなく2種以上を併用してもよい。
【0020】
本発明におけるエステル化反応、エステル交換反応および重縮合反応は、それぞれ公知の触媒を好適に用いることができる。特に、触媒活性が高いことから、耐熱性の向上が望まれるチタン化合物の場合、本発明の効果がより顕著に現れる。もちろん、触媒はチタン化合物単独でも構わないが、例えばエステル交換反応用触媒として酢酸マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物、アルカリ金属化合物などを併用してもよい。また、本発明の芳香族ポリエステルは、耐熱性を向上させるために安定剤としてそれ自体公知のリン化合物を含むことが好ましく、特にホスホネート化合物を用いることが好ましい。
【0021】
本発明の芳香族ポリエステルは、特定の脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分が共重合されていることから耐熱性に優れるが、触媒自体も耐熱性を損なわないようにしておくことが望ましい。そのような観点から、触媒として用いた金属化合物の金属元素量(M)と、安定剤として用いたリン化合物のリン元素量(P)とは、以下の関係を満足することが好ましい。
0.5≦P/M≦2
【0022】
ここで、上記式中の、PおよびMは、それぞれ芳香族ポリエステルの繰り返し単位のモル数を基準としたときの、リン元素および金属元素のモル分率(mmol%)を表す。重合反応性と耐熱性を両立させる観点から、用いる金属化合物やリン化合物の種類にもよるが、Mはチタン化合物の場合、1〜50mmol%、さらに3〜20mmol%の範囲が好ましく、マンガンやマグネシウム等の金属化合物の場合、10〜100mmol%、さらに20〜80mmol%の範囲が好ましい。また、Pは0.5〜200mmol%、さらに2〜120mmol%の範囲が好ましく、P/Mは0.8〜1.5が好ましい。
【0023】
また、本発明の芳香族ポリエステルは、上記脂肪族のヒドロキシカルボン酸成分を共重合していることから、固有粘度を上げやすいが、さらに重合度をあげるために、引き続いて固相重合を行ってもよい。
【0024】
本発明の芳香族ポリエステルは、オルトクロロフェノールを溶媒として35℃で測定したときの固有粘度が、機械的特性をより高度に発現させやすくするため、0.60以上、さらに0.65以上、特に0.70以上であることが好ましい。また、該固有粘度の上限は特に限定されないが、押出し時に厚みの均一性を損なわないために1.0を超えないことが望ましい。
【0025】
もちろん、本発明の芳香族ポリエステルは、成形品の取扱い性などを考慮し、本発明の効果を阻害しない範囲で、不活性粒子(無機粒子や有機粒子など)や各種機能剤(例えば可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤)などを含有させたり、他のポリマーを少量、例えば20重量%以下、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下の範囲で混合したりした組成物として用いても良い。
【0026】
次に本発明の芳香族ポリエステルフィルムについて、詳述する。
本発明の芳香族ポリエステルフィルムは、前述の芳香族ポリエステルからなり、機械的特性を高度に具備させるために、二軸方向、すなわちフィルムの製膜方向(以下、長手方向または縦方向と称することがある。)とフィルムの幅方向(以下、横方向と称することがある。)とに延伸された二軸配向フィルムであることが好ましい。
【0027】
このような二軸配向フィルムは、本発明の芳香族ポリエステルを融点以上の温度で溶融し、ダイよりシート状に押出しキャスティングロール上で冷却、固化させて未延伸フィルムとし、それを製膜方向と幅方向に二軸延伸することで製造できる。延伸方法としては、逐次二軸延伸法、同時二軸延伸法、あるいはこれらの方法で延伸されたフィルムを再度延伸する方法などがあげられ、それぞれ好適に用いることができる。特に、本発明の芳香族ポリエステルフィルムの機械的特性をより高度に発現させ易いことから、最終的な面積延伸倍率(長手方向の延伸倍率×幅方向の延伸倍率)は6倍以上とすることが好ましい。また、本発明の改質芳香族ポリエステルフィルムに高度の寸法安定性を具備させる観点から、延伸後のフィルムに、150〜260℃の温度で1〜60秒の熱固定処理を行なうことが好ましい。
【0028】
このようにして得られる本発明の芳香族ポリエステルフィルムは、磁気記録テープのベースフィルム、パネルディスプレイの部材、フレキシブル回路基盤のベースフィルムなどに好適に用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の一例である実施例に基づいて更に具体的に説明する。なお、実施例中の各特性の測定および評価は、以下の通りである。なお、実施例中の「部」および「%」は、特に断らない限り、「質量部」および「質量%」を意味する。
【0030】
(1)固有粘度(チップ、フィルム)
オルトクロロフェノール中、25℃で測定した。なお、単位はdl/gである。
【0031】
(2)溶融熱劣化試験
窒素下、290℃で30分間溶融状態で保持した前後のサンプルの固有粘度を、上記(1)の方法で測定し保持前の固有粘度(IV)と保持後の固有粘度(IV)とをそれぞれ測定した。
そして、これらIVとIVとを用いて、保持前の数平均分子量(Mn)と保持後の数平均分子量(Mn)を算出した。そして、保持前と保持後の末端基数の差を2で割ったものが主鎖切断数に相当することから、前述のMnおよびMnから下記式によって主鎖切断数を算出した。この主鎖切断数が少ないほど、溶融熱劣化が少ないといえる。
数平均分子量 log[Mn]=1.299×log[IV]+4.562
主鎖切断数 △末端基数/2=(1/Mn−1/Mn)×10
【0032】
(3)乾燥熱劣化試験
前記(2)の溶融熱劣化試験において、窒素下、290℃で30分間溶融状態で保持する処理の代わりに、チップを160℃のオーブンで4時間乾燥する処理に変更したほかは同様な操作を繰り返し、処理前後の主鎖切断数を固有粘度から算出した。この主鎖切断数が少ないほど、乾燥熱劣化が少ないといえる。
【0033】
(4)重合反応性
重縮合反応を開始し、290℃に到達してから90分が経過したときの芳香族ポリエステルの固有粘度を測定した。固有粘度が高いほど重合反応性に優れるといえる。
【0034】
(5)フィルムの乾燥熱劣化試験
フィルムを製膜方向に10cm、幅方向に10cmに切り出し、フィルムを固定枠にタルミのないように均一に張り4辺を挟んで固定する。そして、予め余熱された熱風乾燥機に固定されたフィルムを入れ、3分間処理する(処理条件;温度=240℃、雰囲気=Air中)。このように処理されたフィルムを取り出し、島津製作所製AG-100B型のオートグラフを用いて、フィルムの製膜方向にチャック間距離6cm、幅cm、引っ張り速度100mm/分で25℃60%RHの雰囲気下で引張り試験を行い、破断時間(T1)を測定した。また、上記加熱処理を行わなかった以外は同様にして、破断時間(T0)を測定した。そして、(T0−T1)/T0(%)から、下記基準にて評価した。
○:(T0−T1)/T0(%)が30%未満
△:(T0−T1)/T0(%)が30%以上70%未満
×:(T0−T1)/T0(%)が70%以上か測定が出来ないほどフィルムが劣化
【0035】
(6)チタン、リンおよび金属元素の含有量
ポリエチレンテレフタレート中の触媒金属濃度は、粒状のサンプルをアルミ板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平面を有する成形体を作成し、蛍光X線装置(理学電機工業3270E型)にて、定量分析した。
【0036】
(7)脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分の測定
試料を重トリフルオロ酢酸:重水素化クロロホルム(1:1)混合溶媒に溶解し、日本電子製NMR JEOL A-600を用いて、官能基が3つ以上の脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分を定量した。
【0037】
[実施例1]
撹拌装置、精留塔、凝縮器を備えたエステル交換反応器に、テレフタル酸66重量部とエチレングリコール34重量部、チタンテトラブチレートを表1に示す量となるように供給した後、180℃〜240℃まで徐々に昇温しつつ、生成したメタノールを連続的に反応系外へ留出させながらエステル交換反応を行った。こうして得られた反応物に、トリエチルホスホノアセテートを表1に示す量となるように添加し15分間反応させた。その後、クエン酸を表1に示す量なるように添加し、引き続いてエチレングリコールを連続的に留出させながら300℃まで昇温しつつ0.2mmHgまで減圧して重縮合反応を行い、固有粘度0.75の芳香族ポリエステルを得た。
【0038】
得られた芳香族ポリエステルを、縦2mm、横4mmの楕円断面を有するストランドとして押出し、水で冷却した後、長さ4mmにカットして、一粒あたり、平均質量30〜35mgの芳香族ポリエステルのチップとした。
【0039】
得られた芳香族ポリエステルのチップを、190℃で2時間乾燥後、溶融混練押出機に供給し、300℃まで加熱して溶融状態とし、ダイからしシート状に回転している冷却ドラム上に押出して、未延伸シートを得た。
【0040】
このようにして得られた未延伸シートを、130℃で製膜方向に3.5倍延伸し、ついで幅方向に130℃で3.0倍延伸した。この延伸工程において、フィルム破れは発生せず、良好な延伸性を有することが確認された。その後、得られた延伸フィルムに200℃で5秒間熱処理を行い、厚さ200μmの二軸延伸フィルムを得た。
【0041】
[実施例2〜6、比較例1〜5]
脂肪族のヒドロキシカルボン酸成分の種類・量、チタン触媒の種類・量およびリン化合物の量を表1に示すように変更する以外は、実施例1と同様にして芳香族ポリエステル樹脂組成物、芳香族ポリエステルチップおよび芳香族ポリエステルフィルムを得た。
【0042】
[実施例7]
エステル交換反応を表1に示す量となるように添加した酢酸マグネシウムで行い、エステル交換反応終了後に、チタンテトラブチレートを表1に示す量となるように加えて重縮合反応をおこなった以外は、実施例1と同様にして芳香族ポリエステルおよび芳香族ポリエステルフィルムを得た。
【0043】
[実施例8]
ジカルボン酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸を使用し、製膜方向と幅方向の延伸温度を140℃に変更した以外は、実施例1と同様にして芳香族ポリエステルおよび芳香族ポリエステルフィルムを得た。
【0044】
[比較例6]
撹拌機、凝縮器および温度計を備えた3Lのフラスコ中に温水(371g)を仕込み、これにクエン酸・一水和物(532g、2.52モル)を溶解させた。この撹拌されている溶液に滴下漏斗からチタンテトライソプロポキシド(288g、1.00モル)をゆっくり加えた。この混合物を1時間加熱、還流させて曇った溶液を生成させ、その後イソプロパノール/水混合物を減圧下で蒸留した。その生成物を70℃より低い温度まで冷却し、その撹拌されている溶液にNaOH(380g、3.04モル)の32重量/重量%水溶液を滴下漏斗によりゆっくり加えた。得られた生成物をろ過し、次いでエチレングリコール(504g、80モル)と混合し、減圧下で加熱してイソプロパノール/水を除去し、わずかに曇った淡黄色の生成物(Ti含有量3.85重量%)を得た。これをエチレングリコールで希釈し、クエン酸キレートチタン化合物を含有するエチレングリコール溶液を得た。
【0045】
そして、実施例1において、チタンテトラブチレートの変わりに、上記クエン酸キレートチタン化合物に変更し、かつクエン酸を添加しなかった以外は同様な操作を繰り返した。ただし、固有粘度が高くなりにくいことから、実施例1と固有粘度をそろえるために実施例1の2倍の反応時間を要して固有粘度の高い芳香族ポリエステルおよび芳香族ポリエステルフィルムを得た。
【0046】
【表1】

【0047】
なお、表1中の、TBTはチタンテトラブトキシレート、TMTはトリメリット酸チタン、CATはクエン酸キレートチタン、MgAcは酢酸マグネシウム、TEPAはトリエチルホスホノアセテート、TMAは無水トリメリット酸、EDTAはエチレンジアミン4酢酸を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の改質芳香族ポリエステル樹脂組成物は特定の脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分を導入することで耐熱性に優れることから、フィルム用などの樹脂組成物として好適に用いることができる。また、このような優れた特性を有する本発明の芳香族ポリエステルフィルムは、磁気記録媒体のベースフィルムやパネルディスプレイの各種部材、フレキシブル回路基盤のベースフィルムとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸成分とアルキレングリコール成分と3価以上の官能基を有する脂肪族のヒドロキシカルボン酸成分とからなり、
該脂肪族のヒドロキシカルボン酸成分の割合が、芳香族ジカルボン酸成分の割合を基準として、0.02〜1モル%の範囲にあることを特徴とする芳香族ポリエステル。
【請求項2】
固有粘度が0.60〜1.0dl/gの範囲にある請求項1記載の芳香族ポリエステル。
【請求項3】
該脂肪族のヒドロキシカルボン酸成分がクエン酸、リンゴ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の芳香族ポリエステル。
【請求項4】
触媒として用いた金属化合物の金属元素量(M)に対して、熱安定剤として用いたリン化合物のリン元素量(P)が、下記式を満足する請求項1記載の芳香族ポリエステル。
0.5≦P/M≦2
ここで、上記式中の、PおよびMは、それぞれ芳香族ポリエステルの繰り返し単位のモル数を基準としたときの、リン元素および金属元素のモル分率(mmol%)を表す。
【請求項5】
重縮合反応触媒がチタン化合物で、リン化合物がホスホネート化合物である請求項4記載の芳香族ポリエステル。
【請求項6】
芳香族ジカルボン酸成分とアルキレングリコール成分と重合反応させて芳香族ポリエステルを製造する際に、重合反応が終了するまでに、3価以上の官能基を有する脂肪族のヒドロキシカルボン酸成分を、芳香族ジカルボン酸成分の割合を基準として、0.02〜1モル%の範囲で共重合することを特徴とする芳香族ポリエステルの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の芳香族ポリエステルからなるフィルム。

【公開番号】特開2011−26470(P2011−26470A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174290(P2009−174290)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】