説明

芳香族ポリエステル組成物

【課題】層状珪酸塩を含む芳香族ポリエステル組成物において、層状珪酸塩を良好に剥離させ、芳香族ポリエステル組成物中に分散させることにより、耐熱性及び機械的性質が向上した芳香族ポリエステル組成物を提供すること。
【解決手段】(a)芳香族ポリエステル100質量部に対して、(b)ポリアミドと、アンモニウムイオンによりイオン交換処理された(c)層状珪酸塩を、合計量として1.4から70質量部、且つ、前記(c)層状珪酸塩の含有量が前記(b)ポリアミド及び前記(c)層状珪酸塩の合計量に対して7.5から35質量%となるように香族ポリエステル組成物に配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(a)芳香族ポリエステル、(b)ポリアミド及び(c)層状珪酸塩を含んでなる芳香族ポリエステル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の芳香族ポリエステルは、加工性、耐熱性、機械的性質、耐薬品性に優れるため、各種成形品や、繊維、フィルム等の用途に幅広く使用されている。
【0003】
従来、芳香族ポリエステル単独では機械的性質や耐熱性が不十分な場合には、芳香族ポリエステルに無機充填剤を配合することによりこれらの物性を向上させた芳香族ポリエステル組成物が使用されてきた。しかし機械的性質や耐熱性を十分満足させるためには大量の無機充填材を使用する必要がある。この場合、芳香族ポリエステル組成物は、強度や耐熱性は優れるものの、靭性や表面特性が大きく低下し、さらには比重が大きくなるという問題がある。
【0004】
近年、芳香族ポリエステルに限らず種々の樹脂材料において、前記の問題を解消するために、少量の層状珪酸塩を樹脂中で剥離させて樹脂中に分子レベルで分散させることで、樹脂の耐熱性や機械的性質、ガスバリア性、難燃性等の種々の特性を改良する検討が盛んに行われている。
【0005】
芳香族ポリエステルに層状珪酸塩を配合する検討の例としては、芳香族ポリエステルに層状珪酸塩をホストとし4級アンモニウムイオンをゲストとする層間化合物を配合した例(特許文献1)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−166036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の方法では、芳香族ポリエステルの分子鎖中にエステル結合やベンゼン環等の芳香環を有するという構造上の特性から、層状珪酸塩を単に4級アンモニウム塩で処理した程度では、芳香族ポリエステル中で層状珪酸塩は剥離しにくいという問題がある。このため、特許文献1の芳香族ポリエステル組成物における耐熱性及び機械的性質の改善は十分ではなく、さらなる改善が求められるものであった。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、芳香族ポリエステル組成物中で層状珪酸塩が分子レベルで均一に分散した、機械的性質及び耐熱性に優れる芳香族ポリエステル組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、(a)芳香族ポリエステル100質量部に対して、(b)ポリアミドと、アンモニウム塩によりイオン交換処理された(c)層状珪酸塩を、合計量として1.4から70質量部、且つ、前記(c)層状珪酸塩の含有量が前記(b)ポリアミド及び前記(c)層状珪酸塩の合計量に対して7.5から35質量%となるように芳香族ポリエステル組成物に配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1) (a)芳香族ポリエステル100質量部に対して、(b)ポリアミド及び(c)層状珪酸塩を合計量として1.4から70質量部含み、
前記(b)層状珪酸塩はアンモニウム塩によりイオン交換処理されたものであり、
前記(c)層状珪酸塩の含有量は、前記(b)ポリアミド及び前記(c)層状珪酸塩の合計量に対して7.5から35質量%である、芳香族ポリエステル組成物(ただし、(c)層状珪酸塩の量は、アンモニウム塩によりイオン交換処理された層状珪酸塩の灰分の量である。)。
【0011】
(2) 前記(c)層状珪酸塩の前記芳香族ポリエステル組成物中の含有量が0.5から7質量%である(1)に記載の芳香族ポリエステル組成物。
【0012】
(3) 前記(b)ポリアミドの前記芳香族ポリエステル組成物中の含有量が1から30質量%である(1)又は(2)に記載の芳香族ポリエステル組成物。
【0013】
(4) 前記(b)ポリアミドがナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6T、ナイロン612及びナイロン9Tからなる群より選択される1種以上のものである(1)から(3)のいずれかに記載の芳香族ポリエステル組成物。
【0014】
(5) 前記(a)芳香族ポリエステルがポリブチレンテレフタレートである(1)から(4)のいずれかに記載の芳香族ポリエステル組成物。
【0015】
(6) 前記(b)ポリアミドがナイロン6である(5)に記載の芳香族ポリエステル組成物。
【0016】
(7) 前記アンモニウム塩が四級アンモニウム塩である(1)から(6)のいずれかに記載の芳香族ポリエステル組成物。
【0017】
(8) 前記アンモニウム塩が水酸基を有するものである(1)から(7)のいずれかに記載の芳香族ポリエステル組成物。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、(a)芳香族ポリエステル100質量部に対して、(b)ポリアミドと、アンモニウム塩によりイオン交換処理された(c)層状珪酸塩を、合計量として1.4から70質量部、且つ、前記(c)層状珪酸塩の含有量が前記(b)ポリアミド及び前記(c)層状珪酸塩の合計量に対して7.5から35質量%となるように芳香族ポリエステル組成物に配合することにより、芳香族ポリエステル組成物中で層状珪酸塩を良好に剥離させることができる。このため、剥離した層状珪酸塩が芳香族ポリエステル組成物中で均一に分散し、芳香族機械的性質及び耐熱性に優れる芳香族ポリエステル組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0020】
<芳香族ポリエステル組成物の構成成分>
本発明の芳香族ポリエステル組成物は、(a)芳香族ポリエステル100質量部に対して、(b)ポリアミド及び(c)層状珪酸塩を合計量として1.4から70質量部含むものであり、(c)前記層状珪酸塩がアンモニウム塩によりイオン交換処理されたものであること、及び、前記(c)層状珪酸塩の含有量は、前記(b)ポリアミド及び前記(c)層状珪酸塩の合計量に対して7.5から35質量%であることを特徴とする。以下、本発明の芳香族ポリエステル組成物の構成成分について説明する。
【0021】
〔(a)芳香族ポリエステル〕
(a)芳香族ポリエステルとは、芳香族ジカルボン酸(又はそのエステル形成誘導体)と、脂肪族グリコール(又はそのエステル形成誘導体)を少なくとも重合成分(モノマー)とするポリエステルである。本発明において用いる(a)芳香族ポリエステルには、光学異方性溶融相を形成しうるものは含まれない。(a)芳香族ポリエステルは、複数のものを組み合わせて用いてもよい。また、(a)芳香族ポリエステルは、以下説明するモノマーを用いて公知の重合方法により製造したものを用いてもよく、市販のものを用いてもよい。
【0022】
(a)芳香族ポリエステルの製造に用いる、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族グリコールの他のモノマーとしては、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジオール、ヒドロキシカルボン酸、及びラクトンからなる群より選択される1種以上のものが挙げられる。
【0023】
(a)芳香族ポリエステルの原料として好適に使用される芳香族ジカルボン酸の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸等のC〜C16ジカルボン酸、又はこれらの反応性誘導体(例えば、低級アルキルエステル(ジメチルフタル酸、ジメチルイソフタル酸(DMI)等のフタル酸又はイソフタル酸のC〜Cアルキルエステル等)、酸クロライド、酸無水物等のエステル形成可能な誘導体)等が挙げられる。これらの中で、好ましい芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。
【0024】
脂肪族ジオールの例としては、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール(1,6−ヘキサンジオール等)、オクタンジオール(1,3−オクタンジオール等)、デカンジオール等の低級アルキレングリコール(C−C12アルキレングルコール、好ましくはC−C10アルキレングリコール)、ポリオキシアルキレングリコール(複数のオキシC−Cアルキレン単位を有するグリコール、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジテトラメチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等)、又は、脂環族ジオール(例えば、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等)等が挙げられる。
【0025】
脂肪族ジカルボン酸の例としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ダイマー酸等のC〜C40ジカルボン酸、好ましくはC〜C14ジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ハイミック酸等のC〜C12脂環式ジカルボン酸、又はこれらの反応性誘導体(例えば、低級アルキルエステル、酸クロライド、酸無水物等のエステル形成可能な誘導体)等が挙げられる。
【0026】
芳香族ジオールの例としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、ナフタレンジオール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビスフェノールA、キシリレングリコール等のC−C15芳香族ジオール、又はこれらの反応性誘導体(例えば、アセチル化物等のエステル形成可能な誘導体)等が挙げられる。
【0027】
ヒドロキシカルボン酸の例としては、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4−カルボキシ−4’−ヒドロキシビフェニル、4−ヒドロキシフェニル酢酸、グリコール酸、D−乳酸、L−乳酸、オキシカプロン酸等のオキシカルボン酸又はこれらの反応性誘導体(例えば、低級アルキルエステル、酸クロライド、酸無水物、アセチル化物等のエステル形成可能な誘導体)が挙げられる。
【0028】
ラクトンの例としては、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(例えば、ε−カプロラクトン等)等のC−C12ラクトン等が挙げられる。
【0029】
上記のモノマーを公知の方法により重合して得られる(a)芳香族ポリエステルの中では、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(PTT)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)、又は、ポリブチレンナフタレート樹脂(PBN)が、物理的性質、及び加工性のバランスに優れるため好ましく、ポリブチレンテレフタレート樹脂を用いるのが、層状珪酸塩の処理に用いるアンモニウム塩の耐熱温度を考慮して加工温度を低くできることや、コストの点で特に好ましい。
【0030】
本発明において用いる(a)芳香族ポリエステルはホモポリエステル(例えばホモポリブチレンテレフタレートやホモポリエチレンテレフタレート)には限定されず、ホモポリエステルを、ホモポリエステルの製造に使用されるモノマーの他の1種以上のモノマーを共重合することにより変性したものであってもよい。共重合モノマーの割合(変性量)は、通常、全モノマー中で、45モル%以下(例えば0モル%から35モル%程度)、さらに好ましくは30モル%以下(例えば、0モル%から30モル%程度)である。
【0031】
なお、(a)芳香族ポリエステルが変性体(共重合体)である場合、共重合モノマーの割合は、例えば、全モノマー中で、0.01モル%から30モル%程度の範囲から選択でき、通常、1モル%から30モル%、好ましくは3モル%から25モル%、さらに好ましくは5モル%から20モル%(例えば5モル%から15モル%)程度である。
【0032】
(a)芳香族ポリエステルの固有粘度(IV)は、通常1.5dL/g以下であることが好ましい。特にポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を選択した場合は1.2dL/g以下、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂を選択した場合は1.0dL/g以下がさらに好ましい。異なる固有粘度を有する芳香族ポリエステルをブレンドすることによって、例えば固有粘度1.2dL/gの芳香族ポリエステルと0.8dL/gの芳香族ポリエステルとをブレンドすることによって、1.0dL/g以下の固有粘度を実現してもよい。
【0033】
なお、固有粘度(IV)は、例えば、o−クロロフェノール中、温度35℃の条件で測定できる。固有粘度が大きすぎると、成形時の溶融粘度が高くなり、場合により成形金型内で樹脂の流動不良、充填不良を起こす可能性がある。
【0034】
また、(a)芳香族ポリエステルの末端カルボキシル基量は特に限定されるものではないが、50meq/kg以下が好ましい。さらに好ましくは30meq/kg以下である。カルボキシル末端基量が30meq/kgを越えると湿熱環境下での加水分解による強度低下が大きくなる場合がある。末端カルボキシル基量は例えば、芳香族ポリエステルを粉砕した試料をベンジルアルコール中で、215℃、10分の条件で、溶解後、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液にて滴定することで測定する。
【0035】
(a)芳香族ポリエステルの形状は特に限定されず、ペレット状、フレーク上、粉末状の種々の形状のものを用いることができる。(a)芳香族ポリエステルに(b)ポリアミド及び(c)層状珪酸塩を配合する際の作業性に優れる点でペレット状の芳香族ポリエステルを用いるのが好ましい。
【0036】
ペレット状の芳香族ポリエステルを用いる場合には、芳香族ポリエステル以外の粉体成分を押出加工時に少量添加する際に、バラツキや分離による少量成分の組成物中での不均一化を防止する目的で、芳香族ポリエステルペレットの固有粘度よりも低い固有粘度を有する芳香族ポリエステルの粉末を配合してもよい。かかる場合において、芳香族ポリエステル組成物中における芳香族ポリエステルの使用量は、ペレット及び粉末の合計量である。
【0037】
〔(b)ポリアミド〕
本発明において用いる(b)ポリアミドは、ラクタム、アミノカルボン酸、あるいはジアミンとジカルボン酸等のモノマーを用い、常法により溶融重合することによって製造することができる。
【0038】
ラクタムの例としては、ε−カプロラクタム、ω−ウンデシルラクタム、ω−ラウロラクタム等が挙げられる。アミノカルボン酸の例としては6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、p−アミノメチル安息香酸等が挙げられる。ジアミンの例としてはテトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン等が挙げられる。ジカルボン酸の例としてはアジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ジグリコール酸等が挙げられる。
【0039】
本発明において用いることができる(b)ポリアミドの具体例としては、脂肪族ポリアミド(ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612等)、少なくともジアミン成分が脂肪族化合物であるポリアミド(ナイロン6T、ナイロン6T共重合体、ナイロン9T等)、又は半芳香族(共重合)ポリアミド(ナイロンMXD6、ナイロン6T/6、ナイロン6T/66、ナイロン6T/12、ナイロン6I/6、ナイロン6I/66、ナイロン6T/6I、ナイロン6T/6I/6、ナイロン6T/6I/66、ナイロン6T/MST等)等が挙げられる。これらの(b)ポリアミドは単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0040】
これらの(b)ポリアミドの中では、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6T、ナイロン612及びナイロン9Tからなる群より選択される1種以上のものを用いるのが好ましい。これらのポリアミドを(a)芳香族ポリエステル及び(c)層状珪酸塩と共に溶融混練した場合には、特に芳香族ポリエステル組成物中で層状珪酸塩が剥離しやすく、芳香族ポリエステル組成物中に層状珪酸塩を均一に分散させることができ、耐熱性と機械的性質に優れる芳香族ポリエステル組成物を得やすいからである。
【0041】
本発明において用いる(b)ポリアミドは、その融点が芳香族ポリエステルの融点と近いものを用いるのが好ましい。具体的には、(b)ポリアミドの融点(Tm1)と(c)芳香族ポリエステルの融点(Tm2)の差(Tm1−Tm2)は、−40から120℃であるのが好ましく、−20から20℃であるのがより好ましい。ポリアミド及び芳香族ポリエステルの融点は下記の方法により測定することができる。
【0042】
(融点測定方法)
プラスチックの転移温度測定(JIS K7172)に準拠し、示差走査熱量測定の試験方法で10℃/分の昇温速度で融解ピーク終了時より約30℃高い温度まで加熱し、その後、10分間温度を保持した後に、10℃/分の降温速度で結晶化ピーク終了時より約50℃低い温度まで冷却させて測定した。昇温時の融解ピーク温度を融点、降温時の結晶化ピーク温度を結晶化温度とした。
【0043】
このような融点の(b)ポリアミドを用いる場合は、(b)ポリアミドが(a)芳香族ポリエステルのマトリックするに良好に分散しやすく、良好な物性の芳香族ポリエステル組成物を得やすい。特に、(a)芳香族ポリエステルとしてポリブチレンテレフタレート樹脂を用いる場合には、融点が非常に近く、且つ、安価で入手しやすいこと等からナイロン6を用いるのが好ましい。
【0044】
本発明において用いる(b)ポリアミドの形状は特に限定されず、ペレット状、フレーク上、粉末状の種々の形状のものを用いることができる。(a)芳香族ポリエステルに(b)ポリアミド及び(c)層状珪酸塩を配合する際の作業性に優れる点でペレット状のポリアミドを用いるのが好ましい。
【0045】
〔(c)層状珪酸塩〕
本発明において用いる(c)層状珪酸塩は天然のものであっても合成されたものであってもよい。(c)層状珪酸塩としては、珪酸マグネシウム又は珪酸アルミニウムの層から構成される層状フィロ珪酸鉱物を例示することができる。具体的には、カオリン鉱物等の1:1型構造を有するもの、モンモリロナイト、サボナイト、バイデライト、ノントロナイト、ヘクトライト、ステイブンサイト等のスメクタイト系粘土鉱物、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Li型四ケイ素フッ素雲母、Na型四ケイ素フッ素雲母等の膨潤性合成フッ素雲母、又はマイカ、タルク、バーミキュライト、バイロサイト等の2:1型構造を有する珪酸塩鉱物を例示することができる。これらの(c)層状珪酸塩は2種以上のものを組み合わせて用いてもよい。これらの(c)層状珪酸塩の中では、膨潤性合成フッ素雲母、及び/又はモンモリロナイトが好ましい。
【0046】
本発明では、アンモニウム塩で処理された層状珪酸塩を用いる。即ち、層状珪酸塩の層間に存在する交換性陽イオンをアンモニウムイオンで交換された層状珪酸塩を用いる。層状珪酸塩としてアンモニウム塩で処理されたものを用いることにより、芳香族ポリエステル組成物中で層状珪酸塩を良好に剥離及び分散させることができ、これにより、芳香族ポリエステル組成物が優れた耐熱性及び機械的性質を発現する。
【0047】
なお、本願の明細書及び特許請求の範囲において、芳香族ポリエステル組成物中での(c)層状珪酸塩の量は、アンモニウム塩で処理された後の層状珪酸塩の無機分(灰分)の量を意味する。層状珪酸塩の灰分は、層状珪酸塩を電気炉にて600℃で30分加熱することによって測定される。
【0048】
(c)層状珪酸塩の層間に存在する交換性陽イオンをアンモニウム塩で処理する方法は、イオン交換が良好に行われる限り特に限定されない。具体的には、水やメタノール等の極性溶媒中で層状珪酸塩とアンモニウム塩を反応させる方法や、層状珪酸塩と液状あるいは溶融させたアンモニウム塩を直接反応させる方法等が挙げられる。
【0049】
アンモニウム塩は(c)層状珪酸塩の陽イオン交換容量に対して、0.5から2.0当量用いるのが好ましく、1.0から1.5当量用いるのがより好ましい。
【0050】
アンモニウム塩は、1級アンモニウム塩、2級アンモニウム塩、3級アンモニウム塩、4級アンモニウム塩のいずれを用いてもよい。
【0051】
1級アンモニウム塩としてはデシルアンモニウム塩、ドデシルアンモニウム塩、オクタデシルアンモニウム塩、オレイルアンモニウム塩、ベンジルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0052】
2級アンモニウム塩としてはメチルオクチルアンモニウム塩、メチルデシルアンモニウム塩、メチルドデシルアンモニウム塩、メチルテトラデシルアンモニウム塩、メチルヘキサデシルアンモニウム塩、又はメチルオクタデシルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0053】
3級アンモニウム塩としてはジメチルオクチルアンモニウム塩、ジメチルデシルアンモニウム塩、ジメチルドデシルアンモニウム塩、ジメチルテトラデシルアンモニウム塩、ジメチルヘキサデシルアンモニウム塩、又はジメチルオクタデシルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0054】
4級アンモニウムイオンとしてはトリメチルオクチルアンモニウム塩、トリメチルデシルアンモニウム塩、トリメチルドデシルアンモニウム塩、トリメチルテトラデシルアンモニウム塩、トリメチルヘキサデシルアンモニウム塩、トリメチルオクタデシルアンモニウム塩、トリエチルオクチルアンモニウム塩、トリエチルドデシルアンモニウム塩、トリエチルテトラデシルアンモニウム塩、トリエチルヘキサデシルアンモニウム塩、トリエチルオクタデシルアンモニウム塩、トリブチルオクチルアンモニウム塩、トリブチルデシルアンモニウム塩、トリブチルドデシルアンモニウム塩、トリブチルテトラデシルアンモニウム塩、トリブチルヘキサデシルアンモニウム塩、トリブチルオクタデシルアンモニウム塩、ジメチルジオクチルアンモニウム塩、ジメチルジデシルアンモニウム、ジメチルジドデシルアンモニウム塩、ジメチルジテトラデシルアンモニウム塩、ジメチルジヘキサデシルアンモニウム塩、ジメチルジオクタデシルアンモニウム塩、ジメチルジタロウアンモニウム塩、トリメチルオクタデセニルアンモニウム塩、トリメチルオクタデカジエニルアンモニウム塩、ジメチルジオクタデセニルアンモニウム塩、ジメチルジオクタデカジエニルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、ベンジルジメチルオクチルアンモニウム塩、ベンジルジメチルデシルアンモニウム塩、ベンジルジメチルドデシルアンモニウム塩、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウム塩、ベンジルジメチルヘキサデシルアンモニウム塩、又はベンジルジメチルオクタデシルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0055】
本発明において、層状珪酸塩を処理するアンモニウム塩としては、水酸基を有するアンモニウム塩も好適に使用される。水酸基を有するアンモニウム塩の具体例としては、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、トリメチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム塩、オレイルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム塩、アルキルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム塩、ココビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム塩、ステアリルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム塩、(ヒドロキシポリオキシプロピレン)メチルジエチルアンモニウム塩、(ヒドロキシポリオキシエチレン)ドデシルジメチルアンモニウム塩、(ヒドロキシポリオキシエチレン)テトラデシルジメチルアンモニウム塩、(ヒドロキシポリオキシエチレン)ヘキサデシルジメチルアンモニウム塩、(ヒドロキシポリオキシエチレン)オクタデシルジメチルアンモニウム塩、(ヒドロキシポリオキシエチレン)オレイルジメチルアンモニウム塩、ジ(ヒドロキシポリオキシエチレン)ドデシルメチルアンモニウム塩、ビス(ヒドロキシポリオキシエチレン)テトラデシルメチルアンモニウム塩、ビス(ヒドロキシポリオキシエチレン)ヘキサデシルメチルアンモニウム塩、ビス(ヒドロキシポリオキシエチレン)オクタデシルメチルアンモニウム塩、又はビス(ヒドロキシポリオキシエチレン)オレイルメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0056】
上記のアンモニウム塩の中では、層状珪酸塩を芳香族ポリエステル中で剥離させ良好に分散させやすいことから、4級アンモニウム塩を用いるのが好ましく、また、水酸基を有するアンモニウム塩を用いるのも好ましい。
【0057】
具体的には、アルキルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム塩、又はオレイルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム塩が特に好適に使用される。
【0058】
これらのアンモニウム塩のアンモニウムイオンの対イオンは特に制限されず、塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲン化物イオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン等のアルキル硫酸イオン、酢酸イオン等の有機酸イオン等が挙げられる。これらの対イオンの中ではハロゲン化物イオンが好ましい。
【0059】
<充填材>
本発明の芳香族ポリエステル組成物はさらに無機充填材を含むものであってもよい。無機充填剤は、目的に応じて繊維状、非繊維状(粉粒状、板状)等の各種充填剤が用いられる。これらの充填材は2種以上のものを組み合わせて用いてもよい。
【0060】
かかる充填剤のうち繊維状充填剤としては、ガラス繊維、異形ガラス、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0061】
一方、粉粒状充填剤としては、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、珪酸カルシウム、カオリン、珪藻土、ウォラストナイトの如き珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナの如き金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩、その他炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素、各種金属粉末が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0062】
また、板状充填剤としてはマイカ、ガラスフレーク等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0063】
本発明の芳香族ポリエステル組成物が充填剤を含むものである場合の充填剤の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で制限されない。充填材の使用量は、通常、芳香族ポリエステル組成物全量に対して、1から50質量%であり、より好ましくは10から30質量%である。
【0064】
<その他の成分>
本発明の芳香族ポリエステル組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲の量及び種類の、(a)芳香族ポリエステル及び(b)ポリアミド以外の樹脂成分を含んでいてもよい。
【0065】
また、本発明の芳香族ポリエステル組成物には、本発明の効果を害さない範囲で、その他の樹脂、顔料、酸化防止剤、安定剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の添加剤を配合することができる。
【0066】
酸化防止剤及び安定剤には、例えば、フェノール系(ヒンダートフェノール類等)、アミン系(ヒンダートアミン類等)、リン系、イオウ系、ヒドロキノン系、キノリン系酸化防止剤等があげられる。
【0067】
無機系安定剤としてはハイドロタルサイト、ゼオライト、及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属カルボン酸塩(炭酸塩、有機カルボン酸塩等)、活性水素原子に対して反応性の官能基を有する化合物(反応性安定剤)等が挙げられる。
【0068】
離型剤として、例えば高級脂肪酸と多価アルコールのエステルもしくは部分エステル、ポリオレフィンワックス等が挙げられる。例えば、ペンタエリスリトールステアリン酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、モンタン酸エステル、低分子量ポリエチレンワックス等が挙げられる。
【0069】
難燃剤としては、例えば、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、窒素含有難燃剤、硫黄含有難燃剤、ケイ素含有難燃剤、アルコール系難燃剤、無機系難燃剤等が挙げられる。難燃化助剤として3酸化アンチモンや5酸化アンチモンのアンチモン系難燃助剤やメラミンシアヌレート等のメラミン誘導体を併用してもよい。
【0070】
また、芳香族ポリエステル樹脂は熱水や水蒸気により加水分解を引き起こし樹脂劣化する場合がある。そこで反応性安定剤を添加してもよい。反応性安定剤により耐湿熱性、耐久性等を向上し加水分解による樹脂の劣化が抑えられる。
【0071】
反応性安定剤としては、例えば、環状エーテル基、酸無水物基、イソシアネート基、オキサゾリン基(環)、オキサジン基(環)、カルボジイミド基等から選択された少なくとも一種の官能基を有する化合物が挙げられ、環状エーテル基がより好ましい。
【0072】
環状エーテル基を有する化合物としては、例えば、ビニルシクロヘキセンジオキシド等の脂環式化合物、パーサティック酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル化合物、グリシジルエーテル化合物(ハイドロキノンジグリシジルエーテル、ビフェノールジグリシジルエーテル、ビスフェノール−Aジグリシジルエーテル等)、グリシジルアミン化合物、エポキシ基含有ビニル共重合体(例えば、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化ジエン系モノマースチレン共重合体等)、トリグリシジルイソシアヌレート、エポキシ変性(ポリ)オルガノシロキサン等のエポキシ基を有する化合物が挙げられる。
【0073】
これらの反応性安定剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。また、これらの反応性安定剤の中でもエポキシ基を有する化合物、カルボジイミド基を有する化合物が好ましい。上記官能性安定剤を添加することにより、加水分解による樹脂の劣化が抑えられ、耐湿熱性、耐久性等を向上させることができる。
【0074】
<芳香族ポリエステル組成物の製造方法>
本発明の芳香族ポリエステル組成物は、(a)芳香族ポリエステル、(b)ポリアミド、及び(c)層状珪酸塩と、所望により、充填材、他の樹脂成分、各種添加剤等とを、例えば、一軸押出機や二軸押出機等の混練装置を用いて溶融混練することにより調製される。
【0075】
本発明の芳香族ポリエステル組成物の製造工程において、溶融混練は(a)芳香族ポリエステル樹脂の融点+80℃以下、より好ましくは(a)芳香族ポリエステル樹脂の融点+40℃以下で行われる。溶融混練において、ペレットの可塑化・溶融部のプロセス温度を(a)芳香族ポリエステル樹脂の融点+20℃以上+80℃以下とするのがさらに好ましく、溶融後の混合部のプロセス温度を、(a)芳香族ポリエステルの結晶化温度以上、(a)芳香族ポリエステルの融点+30℃以下の範囲にすることがさらに好ましい。さらに樹脂の可塑化・溶融部と混合部の2箇所以上で真空ポンプにて減圧することが好ましい。かかる方法で溶融混練を行うことにより、芳香族ポリエステル組成物中で層状珪酸塩を良好に分散させることができる。アンモニウム塩で処理された層状珪酸塩が高温にさらされることによるアンモニウムイオンの分解が抑制されるためと推測される。
【0076】
(a)芳香族ポリエステルと、(b)ポリアミド及び(c)層状珪酸塩を溶融混練する方法は特に制限されない。例えば、(a)芳香族ポリエステル、(b)ポリアミド、及び(c)層状珪酸塩の3成分を同時に混練してもよく、(b)ポリアミドと(c)層状珪酸塩を事前に溶融混練したポリアミド組成物を調製しておいてから、前記のポリアミド組成物と(a)芳香族ポリエステルを溶融混練してもよい。
【0077】
本発明の芳香族ポリエステル組成物を製造する際の、(a)芳香族ポリエステルに対する、(b)ポリアミド及び(c)層状珪酸塩の使用量は、(a)芳香族ポリエステル100質量部に対して、(b)ポリアミド及び(c)層状珪酸塩の合計量として1.4から70質量部であり、より好ましくは1.4から30質量部であり、特に好ましくは2から15質量部である。
【0078】
芳香族ポリエステル組成物における(b)ポリアミド及び(c)層状珪酸塩の合計使用量が過少量である場合には、十分な機械的性質及び耐熱性の改善効果が得られない場合があり、過剰量である場合には、靭性、強度が著しく低下する場合がある。
【0079】
また、(c)層状珪酸塩の使用量は、(b)ポリアミド及び(c)層状珪酸塩の合計量に対して7.5から35質量%であり、より好ましくは15から35質量%であり、特に好ましくは20から33質量%である。
【0080】
(b)ポリアミド及び(c)層状珪酸塩の合計量に対する(b)層状珪酸塩の使用量が過少量である場合には、十分な機械的性質及び耐熱性の改善効果が得られない場合があり、層状珪酸塩の使用量が過剰量である場合には、芳香族ポリエステル組成物中で層状珪酸塩が剥離しにくく、十分な機械的性質の改善効果が得られない場合がある。
【0081】
また、(a)芳香族ポリエステル、(b)ポリアミド、及び(c)層状珪酸塩の使用量が前述の範囲内である場合に、(c)層状珪酸塩の芳香族ポリエステル組成物全量に対する含有量は0.5から7質量%、より好ましくは0.5から5質量%である。
【0082】
さらに、(b)芳香族ポリエステル、(b)ポリアミド、及び(c)層状珪酸塩の使用量が前述の範囲内である場合に、(b)ポリアミドの芳香族ポリエステル組成物全量に対する含有量は1から30質量%、より好ましくは1.5から20質量%である。
【0083】
上記のようにして得られる本発明の芳香族ポリエステル組成物は、従来公知の成形方法により成形体とすることができる。本発明の芳香族ポリエステル組成物は、例えば射出成形、射出圧縮成形、ガスアシスト法射出成形、押出成形、多層押出成形、回転成形、熱プレス成形、ブロー成形、発泡成形等の方法により、射出成形体、チューブ、シート、フィルム、パイプ、ボトル等に加工される。
【0084】
本発明の芳香族ポリエステル組成物を成形してなる成形体は、高い荷重たわみ温度(DTUL)を示す等耐熱性に優れ、且つ、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率等の機械的性質に優れることから、ハーネスコネクタ、プラグ、又は、ガスバリア性が要求されるフィルム、シート、チューブ等の用途に好適に使用される。
【実施例】
【0085】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0086】
<材料>
〔芳香族ポリエステル〕
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT):ウィンテックポリマー社製、固有粘度1.14dL/g、融点223℃、結晶化温度189℃
〔ポリアミド〕
ナイロン6:UBEナイロン6 1015B、宇部興産株式会社製、融点222℃、結晶化温度188℃
〔層状珪酸塩〕
(a)膨潤性合成フッ素雲母の塩化アルキルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム処理品(灰分74質量%、RN−12、白石工業株式会社製)
(b)Naベントナイト(モンモリロナイト系鉱物)の塩化アルキルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム処理品(灰分76質量%、RN−23、白石工業株式会社製)
(c)モンモリロナイトのオレイルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム塩処理品(灰分69質量%、エスベンNO12S、株式会社ホージュン製)
(d)モンモリロナイトのジメチルステアリルベンジルアンモニウム塩処理品(灰分62質量%、エスベンNZ、株式会社ホージュン製)
(e)膨潤性合成フッ素雲母のε−カプロラクタム処理品(灰分92質量%、RN−61、白石工業株式会社製)
【0087】
表1に記載の種類及び量の、芳香族ポリエステル、ポリアミド、及び層状珪酸塩と、組成物全量中0.2質量%に相当する酸化防止剤(Irganox 1010、チバ・スペシャリティケミカルズ社製)、及び組成物全量中0.2質量%に相当する離型剤(リコワックスE、クラリアントジャパン社製)を、二軸混練押出機(TEX30α(11シリンダー(C1−C11))、日本製鋼所社製)を用い、以下の条件で溶融混練し、参考例、実施例1から7、及び比較例1から8の芳香族ポリエステル組成物のペレットを製造した。
<芳香族ポリエステル組成物製造条件>
押出量:5Kg/hr
スクリュー回転数:129rpm
シリンダー温度:C1=水冷、C2=220℃、C3及びC4=260℃(可塑化・溶融部)、C5=240℃、C6からC8=200℃(混合部)、C9からC11=200℃、ダイ=250℃、C5とC9の位置で真空ベントにて減圧。
【0088】
参考例、実施例及び比較例で得られた芳香族ポリエステル組成物の(A)引張強さ、(B)曲げ強さ、(C)曲げ弾性率、(D)シャルピ衝撃値、(E)荷重たわみ温度、(F)層状珪酸塩の剥離を、下記の方法に従い測定した。芳香族ポリエステル組成物の評価結果を表1に記す。
【0089】
<(A)引張強さの評価>
ISO527−1,2に準拠し、引張強さの測定を行った。
<(B)曲げ強さ>
ISO178に準拠し、曲げ強さの測定を行った。
<(C)曲げ弾性率の評価>
ISO178に準拠し、曲げ弾性率の測定を行った。
<(D)シャルピ衝撃値の評価>
ISO179/1eAに準拠し、シャルピ衝撃値の測定を行った。
<(E)荷重たわみ温度の評価>
ISO75−1,2に準拠し、荷重たわみ温度の測定を行った。
<(F)層状珪酸塩の剥離の評価>
層状珪酸塩の剥離は、実施例及び比較例で得られた芳香族ポリエステル組成物を用いてISO527−1,2に準拠して得た引張り試験片のチャック部分を20mm×20mmで切り出した試験片を試料として、X線回折装置(RINT2000、リガク社製)を用いてX線回折測定を行うことにより評価した。層状珪酸塩の剥離状態は、剥離していない層状珪酸塩に由来するピークの有無により判断した。完全にピークが消失しているものを◎とし、ほぼピークが消失しているものを○とし、ピークが消失していないものを×とした。
【0090】
表1におけるAからFは以下の評価を表す。
A:引張強さ
B:曲げ強さ
C:曲げ弾性率
D:シャルピ衝撃値
E:荷重たわみ温度
F:層状珪酸塩の剥離
【0091】
【表1】

*層状珪酸塩の組成は、上段がアンモニウム塩等の有機処理剤により処理された層状珪酸塩の量(質量%)であり、下段が灰分換算量である。
【0092】
参考例と実施例の比較により、実施例の芳香族ポリエステル組成物は、いずれも、層状珪酸塩が良好に剥離しており、芳香族ポリエステル単独の場合よりも、引張強さ、曲げ強さ、曲げ弾性率、及び荷重たわみ温度が大きく向上していることが分かる。
【0093】
比較例1から3の結果から、芳香族ポリエステルと層状珪酸塩のみを含む組成物では、層状珪酸塩は良好に剥離せず、芳香族ポリエステル組成物の物性は、芳香族ポリエステル単独の場合に比べ大きく向上しないことが分かる。
【0094】
比較例4及び5の結果から、芳香族ポリエステルとポリアミドのみを含む組成物では、芳香族ポリエステル組成物の物性は、芳香族ポリエステル単独の場合に比べ大きく向上しないことが分かる。
【0095】
比較例6及び7の結果から、層状珪酸塩に対してポリアミドの使用量が過少である場合には、層状珪酸は良好に剥離せず、荷重たわみ温度等の一部の物性は向上するものの、引張強さ、曲げ強さ、曲げ弾性率、及び荷重たわみ温度の全てを大きく向上させることはできないことが分かる。
【0096】
比較例8の結果から、層状珪酸塩がε−カプロラクタムのようなアンモニウム塩以外の化合物で処理されたものでは、層状珪酸は良好に剥離せず、荷重たわみ温度等の一部の物性は向上するものの、引張強さ、曲げ強さ、曲げ弾性率、及び荷重たわみ温度の全てを大きく向上させることはできないことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)芳香族ポリエステル100質量部に対して、(b)ポリアミド及び(c)層状珪酸塩を合計量として1.4から70質量部含み、
前記(c)層状珪酸塩はアンモニウム塩によりイオン交換処理されたものであり、
前記(c)層状珪酸塩の含有量は、前記(b)ポリアミド及び前記(c)層状珪酸塩の合計量に対して7.5から35質量%である、芳香族ポリエステル組成物(ただし、(c)層状珪酸塩の量は、アンモニウム塩によりイオン交換処理された層状珪酸塩の灰分の量である。)。
【請求項2】
前記(c)層状珪酸塩の前記芳香族ポリエステル組成物中の含有量が0.5から7質量%である請求項1に記載の芳香族ポリエステル組成物。
【請求項3】
前記(b)ポリアミドの前記芳香族ポリエステル組成物中の含有量が1から30質量%である請求項1又は2に記載の芳香族ポリエステル組成物。
【請求項4】
前記ポリアミドがナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6T、ナイロン612及びナイロン9Tからなる群より選択される1種以上のものである請求項1から3のいずれかに記載の芳香族ポリエステル組成物。
【請求項5】
前記(a)芳香族ポリエステルがポリブチレンテレフタレートである請求項1から4のいずれかに記載の芳香族ポリエステル組成物。
【請求項6】
前記(b)ポリアミドがナイロン6である請求項5に記載の芳香族ポリエステル組成物。
【請求項7】
前記アンモニウム塩が四級アンモニウム塩である請求項1から6のいずれかに記載の芳香族ポリエステル組成物。
【請求項8】
前記アンモニウム塩が水酸基を有するものである請求項1から7のいずれかに記載の芳香族ポリエステル組成物。

【公開番号】特開2010−209234(P2010−209234A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57454(P2009−57454)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(501183161)ウィンテックポリマー株式会社 (54)
【Fターム(参考)】