説明

芳香族ポリエステル

【課題】耐熱性及び剛性に優れ、かつ適度な結晶性化速度を有する芳香族ポリエステルを提供する。
【解決手段】本発明は2,6−ナフタレンジカルボン酸残基とビスヒドロキシアルコキシビフェニル残基とを、または、2,6−ナフタレンジカルボン酸残基と脂肪族ジオール残基とビスヒドロキシアルコキシビフェニル残基とを含み、耐熱性が高く、紡糸、製膜、成形に適した結晶化速度を有する芳香族ポリエステルおよびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2,6−ナフタレンジカルボン酸残基とビスヒドロキシアルコキシ芳香族残基とを、または、2,6−ナフタレンジカルボン酸残基と脂肪族ジオール残基とビスヒドロキシアルコキシ芳香族残基とを含み、耐熱性及び剛性が高く、紡糸、製膜、成形に適した結晶化速度を有する芳香族ポリエステルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略称することがある)やポリエチレン−2,6−ナフタレート(以下、PENと略称することがある)に代表される芳香族ジカルボン酸とグリコール成分とからなる芳香族ポリエステルは、優れた機械的特性や化学的特性を有することから、繊維、フィルムまたはボトルなどの成形品に幅広く展開されている。しかしながら、さらなる市場からの高性能化の要求は強く、その改良が望まれている。
【0003】
特にPENと同様の高耐熱性及び高剛性を有し、かつ、PETと同程度の結晶化速度を有する芳香族ポリエステルがあれば、繊維、フィルム及び成形体などの種々の用途に極めて有用であるが、多くの芳香族ポリエステルが報告されているにもかかわらず(例えば特許文献1〜4)上記の要求特性の全てを満たす芳香族ポリエステルは得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−59822号公報(米国特許第5182359号明細書)
【特許文献2】特開平10−204166号公報
【特許文献3】特開平11−292959号公報
【特許文献4】特開平10−101782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐熱性及び剛性に優れ、かつ適度な結晶性化速度を有する芳香族ポリエステルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題に鑑み、ジカルボン酸残基として2,6−ナフタレンジカルボン酸残基を含み、ジオール残基としてビスヒドロキシアルコキシビフェニル残基を含む芳香族ポリエステルが際立って優れた物性を有することを見出し、本願発明を完成するに至った。本発明の要旨を以下に示す。
【0007】
1. 芳香族ポリエステルを構成するジカルボン酸残基のうち50モル%以上が下記一般式(1)
【化1】

にて表される2,6−ナフタレンジカルボン酸残基であり、ジオール残基のうち80モル%以上が下記一般式(2)
【化2】

(上記一般式(2)において、m及びmはそれぞれ独立には2または3である。)
にて表されるビスヒドロキシアルコキシビフェニル残基であり、p−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(質量比40/60)の混合溶媒を用いて(試料濃度1.2g/dL)35℃で測定した還元粘度が0.3〜3.0dL/gであることを特徴とする芳香族ポリエステル。
2. 芳香族ポリエステルを構成するジオール残基のうち15モル%以下が、下記一般式(3)
【化3】

(上記一般式(3)において、nは2又は4である。)
にて表される脂肪族ジオール残基である上記1項記載の芳香族ポリエステル。
3. 芳香族ポリエステルを構成するジオール残基において、上記一般式(2)にて表されるビスヒドロキシアルコキシビフェニル残基と、上記一般式(3)にて表される脂肪族ジオール残基とのモル比が95:5以上100:0未満である上記2項記載の芳香族ポリエステル。
4. 示差走査熱量計(DSC)にて観測されるガラス転移温度(T)が75〜130℃、結晶融点(T)が220〜280℃である上記1〜3項の何れか1つに記載の芳香族ポリエステル。
5. 示差走査熱量計(DSC)にて観測される結晶融解エンタルピー(ΔH)が20〜70J/gである上記1〜4項の何れか1つに記載の芳香族ポリエステル。
6. 示差走査熱量計(DSC)にて観測される降温結晶化温度(Tcd)と同温度において測定される半結晶化時間t1/2が1〜120秒である上記1〜5項の何れか1つに記載の芳香族ポリエステル。
7. 上記一般式(2)において、m及びmが共に2である上記1〜6項の何れか1項に記載の芳香族ポリエステル。
8. 上記一般式(3)において、nが2である上記2〜7項の何れか1つに記載の芳香族ポリエステル。
9. 下記一般式(4)
【化4】

(上記一般式(4)中において、m及びmはそれぞれ独立には2又は3である。)
で表されるビスヒドロキシアルコキシビフェニルと下記一般式(5)
【化5】

(上記一般式(5)において、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、水素原子、又は塩素原子を表す。)
で表される2,6−ナフタレンジカルボン酸類とを重縮合反応させることを特徴とする、上記1項記載の芳香族ポリエステルの製造方法。
10. 上記9項記載の一般式(4)で表されるビスヒドロキシアルコキシビフェニルと、上記9項記載の一般式(5)で表される2,6−ナフタレンジカルボン酸類と、下記一般式(6)
【化6】

(上記一般式(6)において、nは2又は4である。)
で表される脂肪族ジオールとを重縮合反応させることを特徴とする、上記2項記載の芳香族ポリエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、PETやPENなど従来の芳香族ポリエステルでは有し得なかった耐熱性及び剛性に優れ、かつ適度な結晶性化速度を有する芳香族ポリエステルを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の芳香族ポリエステルは、該芳香族ポリエステルを構成するジカルボン酸残基のうち50モル%以上が前記一般式(1)にて表される2,6−ナフタレンジカルボン酸残基であり、ジオール残基のうち80モル%以上が前記一般式(2)にて表されるビスヒドロキシアルコキシビフェニル残基であり、p−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(質量比40/60)の混合溶媒を用いて(試料濃度1.2g/dL)35℃で測定した還元粘度が0.3〜3.0dL/gであることを特徴とするものである。本発明の芳香族ポリエステルの還元粘度は0.4〜2.0dL/gであると好ましく、0.7〜1.5dL/gであるとより好ましく、0.9〜1.3dL/gであるとより一層好ましい。
【0010】
本発明の芳香族ポリエステルは、該芳香族ポリエステルを構成するジカルボン酸残基のうち前記一般式(1)にて表される2,6−ナフタレンジカルボン酸残基が70モル%以上であると好ましく、80モル%以上であるとより好ましく、90モル%以上であると更に好ましく、実質100モル%、つまり意図的に他のジカルボン酸成分を共重合させないものが特に好ましい。なお、前記一般式(1)にて表される2,6−ナフタレンジカルボン酸残基の割合が50モル%に満たない芳香族ジカルボン酸残基と、前記一般式(2)にて表されるビスヒドロキシアルコキシビフェニル残基とからなる芳香族ポリエステルは耐熱性や剛性が不十分なものである。
【0011】
本発明の芳香族ポリエステルは、該芳香族ポリエステルを構成するジカルボン酸残基のうち50モル%未満であれば、他の繰り返し単位を含むもの、つまり共重合体であっても良い。そのような他の繰り返し単位を構成する共重合ジカルボン酸残基としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ジフェニルジカルボン酸、1,5−、1,6−、1,7−、あるいは2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、5−スルホキシイソフタル酸金属塩、5−スルホキシイソフタル酸ホスホニウム塩、2,5−フランジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸などからなる群より選ばれる1種以上のジカルボン酸より誘導される残基が挙げられる。
【0012】
本発明の芳香族ポリエステルは、該芳香族ポリエステルを構成するジオール残基のうち前記一般式(2)にて表されるビスヒドロキシアルコキシビフェニル残基が85モル%以上であると好ましく、90モル%以上であるとより好ましく、95モル%以上であると特に好ましい。なお、前記一般式(2)にて表されるビスヒドロキシアルコキシビフェニル残基の割合が80モル%に満たないジオール残基と、前記一般式(1)にて表される2,6−ナフタレンジカルボン酸残基とからなる芳香族ポリエステルは耐熱性や剛性が不十分なものである。
【0013】
本発明の芳香族ポリエステルは、該芳香族ポリエステルを構成するジオール残基のうち20モル%以下であれば、他の繰り返し単位を含む共重合体であっても良い。そのような他の繰り返し単位を構成する共重合ジオール残基としては、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシプロポキシシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシプロポキシシプロポキシ)ベンゼン、4,4′−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ビフェニル、4,4′−ビス(2−ヒドロキシプロポキシプロポキシ)ビフェニル、2,2−ビス〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)フェニル〕プロパン、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ベンゼン、1,2−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,2−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ベンゼン、4,4′−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ジフェニルスルホン、4,4′−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ジフェニルスルホン、9,9−ビス−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン等のグリコール付加体型ジフェノール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、1,3−アダマンタンジメタノール等の脂肪族グリコール、イソソルビド、イソマンニド、イソイディド、3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン等の環状エーテル骨格ジオール、o,m,p−キシリレングリコール等の芳香族グリコール、ヒドロキノン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、レゾルシン、カテコール、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシビフェニル、ジヒドロキシジフェニルスルホン、9,9−ビスクレゾールフルオレン等のジフェノール類などからなる群より選ばれる1種以上のジオールから誘導される残基が挙げられる。これらの中でも、特に前記一般式(3)で表される残基、つまりエチレングリコール及びテトラメチレングリコール(1,4−ブタンジオール)よりなる群から選ばれる1種類以上の脂肪族ジオールから誘導される残基が好ましく、当該残基がジオール残基において占める割合は15モル%以下かつ0%超過が好ましく、5モル%以下かつ0%超過、つまり、芳香族ポリエステルを構成するジオール残基において、上記一般式(2)にて表されるビスヒドロキシアルコキシビフェニル残基と、上記一般式(3)にて表される脂肪族ジオール残基とのモル比が95:5以上100:0未満であるとより好ましい。ジオール残基が上記組成であると、耐熱性および成形性のバランスが特に良好となり好ましい。
【0014】
本発明の芳香族ポリエステルはDSCにて観測されるガラス転移温度(T)が75℃〜130℃であり結晶融点(T)が220℃〜280℃であるものが好ましい。T並びにTが上記範囲未満の場合は芳香族ポリエステルの耐熱性が不十分となる恐れがあり、逆に上記範囲を超過する場合は射出成型や溶融製膜に要する加工温度が非常に高くなり、芳香族ポリエステルの熱分解や着色が惹起される恐れがある。本発明の芳香族ポリエステルは該ガラス転移温度(T)が100℃〜125℃であり該結晶融点(T)が240℃〜260℃であるとより好ましい。
【0015】
本発明の芳香族ポリエステルはDSCにて観測される結晶融解エンタルピーΔHが20〜70J/gであると好ましく、40〜60J/gであると特に好ましい。ΔHが20J/g未満の場合は結晶化度が不足や剛性の低下が懸念される。一方70J/gを超える場合は芳香族ポリエステルが脆くなる恐れがある。また、本発明の芳香族ポリエステルは示差走査熱量計(DSC)にて観測される降温結晶化温度(Tcd)と同温度において測定される半結晶化時間t1/2が1秒〜120秒であると好ましく、10秒〜100秒であるとより好ましく、30〜80秒であるとより好ましい。半結晶化時間t1/2が1秒未満である場合は、射出成型や溶融製膜において実質流動性が確保できない恐れがある。逆に120秒を超える場合は、射出成型サイクルが長期化し、溶融製膜においては熱セットに長時間を要することがあり好ましくない。なお、ここでいう半結晶化時間とは、ポリマー結晶化速度測定装置(コタキ製作所(株)製、MK−801型)を用いて、直交した偏光板の間に置いた試料を降温結晶化温度Tcdにて結晶化せしめ、増加する光学異方性結晶成分による透過光を各試料温度で測定(脱偏光強度法)し、アブラミ式を用いて結晶化度が0.5となる時間である。
【0016】
本発明の芳香族ポリエステルは、上記一般式(2)で表される繰り返し単位においてm及びmがともに2、つまりビスヒドロキシアルコキシビフェニル残基が4,4′−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル残基であると好ましい。
前記一般式(3)にて表される脂肪族ジオール残基としては、該一般式(3)においてn=2である残基、つまりエチレングリコール残基が好ましい。
【0017】
本発明の芳香族ポリエステルは単独で用いてもよく、また本発明の目的を損なわない範囲で他の熱可塑性ポリマー(例えば、ポリアルキレンテレフタレート、ポリアリレート、液晶性ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリウレタン、シリコーン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィンなど)、充填剤(ガラス繊維、炭素繊維、天然繊維、有機繊維、セラミックスファイバー、セラミックビーズ、タルク、クレーおよびマイカなど)、天然高分子(ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリヒドロキシバリレート/ヘキサノエート、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸樹脂、ポリリンゴ酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリ(2−オキセタノン)等の脂肪族ポリエステル;ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレンアジペート/テレフタレート等の脂肪族芳香族コポリエステル;デンプン、セルロース、キチン、キトサン、グルテン、ゼラチン、ゼイン、大豆タンパク、コラーゲン、ケラチン)、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系化合物、イオウ系酸化防止剤など)、難燃添加剤(リン系、ブロモ系など)、紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、シアノアクリレート系など)、流動改質剤、着色剤、光拡散剤、赤外線吸収剤、有機顔料、無機顔料、離形剤、可塑剤などを添加したものでもよい。
【0018】
<製造方法>
つぎに、本発明の芳香族ポリエステルの製造方法について、詳述する。
本発明の芳香族ポリエステルを製造する方法として、原料のジオールとして前記一般式(4)にて表される該ビスヒドロキシアルコキシビフェニルを、原料の芳香族ジカルボン酸類として前記一般式(5)で表される2,6−ナフタレンジカルボン酸類を用いて、これらを重縮合反応させる製造方法が好ましいものとして挙げられる。この際、上記ビスヒドロキシアルコキシビフェニル以外のジオールや、該2,6−ナフタレンジカルボン酸類以外のジカルボン酸類を用いて共重合体の芳香族ポリエステルとしてもよいが、前記のとおり、全芳香族ポリエステルの構成するジカルボン酸残基のうち50モル%以上が前記一般式(1)にて表される2,6−ナフタレンジカルボン酸残基、かつ、ジオール残基のうち80モル%以上が上記一般式(2)にて表されるビスヒドロキシアルコキシビフェニル残基となるよう、重縮合反応における原料の仕込み組成も設定される。具体的に言うと、まず、目標とする共重合組成(モル比)に、対応する原料の仕込み量を合わせて重縮合を行い、原料成分毎に反応性や揮発性(重縮合反応中の飛散し易さ)が異なるなどのため、仕込み比と生成した芳香族ポリエステルの共重合組成にずれが生じるようであれば、以後の原料仕込みにおいて各原料成分の量を増減して調整すれば良い。
【0019】
なお、上記の共重合体の芳香族ポリエステルを得るために使用できるジカルボン酸類としては、共重合ジカルボン酸残基に関して例示したテレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸類、シュウ酸などの脂肪族ジカルボン酸類よりなる群から選ばれる1種類以上ものが挙げられる。また、上記の共重合体の芳香族ポリエステルを得るために使用できるジオール類としては、共重合ジオール残基として前述した、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ベンゼン等のグリコール付加体型ジフェノール類、エチレングリコールなどの脂肪族グリコール、イソソルビド等の環状エーテル骨格ジオール、o,m,p−キシリレングリコール等の芳香族グリコール、ヒドロキノン等のジフェノール類などからなる群より選ばれる1種以上のジオールが挙げられ、中でも、前記一般式(6)で表される脂肪族ジオール、つまりエチレングリコール及びテトラメチレングリコール(1,4−ブタンジオール)よりなる群から選ばれる1種類以上の脂肪族ジオールが好ましく、その際、前述のとおり芳香族ポリエステルにおいて前記一般式(3)で表される残基がジオール残基において占める割合が15モル%以下かつ0%超過、好ましくは5モル%以下かつ0%超過、となるよう重縮合反応における原料の仕込み組成を設定することが好ましい。
【0020】
前記一般式(4)にて表されるビスヒドロキシアルコキシビフェニルと、原料の芳香族ジカルボン酸類として前記一般式(5)で表される2,6−ナフタレンジカルボン酸類とを重縮合させる方法としては、ポリエステルの公知の重縮合方法、つまり、2,6−ナフタレンジカルボン酸と該ビスヒドロキシアルコキシビフェニルとをエステル化させオリゴマーを得て、これを更に減圧下、高温で溶融重縮合させる直接重合法、2,6−ナフタレンジカルボン酸の炭素数1〜4のアルキルエステルと該ビスヒドロキシアルコキシビフェニルとを触媒である金属化合物存在下でエステル交換させてオリゴマーを得て、これを更に減圧下、高温で溶融重縮合反応させるエステル交換法、2,6−ナフタレンジカルボン酸クロライドと該ビスヒドロキシアルコキシビフェニルとをピリジン等の塩基の存在下に反応させる重縮合方法などが挙げられるが、直接重合法又はエステル交換法が好ましく、特にエステル交換法が好ましい。
【0021】
直接重合法における、2,6−ナフタレンジカルボン酸と該ビスヒドロキシアルコキシ芳香族化合物とのエステル化は、通常、180〜260℃の温度で常圧又は加圧下にこれら原料化合物どうしを脱水縮合させることにより行うことができる。この脱水縮合反応、つまりエステル化は2,6−ナフタレンジカルボン酸自身の酸性により触媒を添加しなくても進行するが、反応を早めるためにチタン化合物やスズ化合物のような触媒を添加してもよい。
【0022】
上記のエステル交換法における、2,6−ナフタレンジカルボン酸の炭素数1〜4のアルキルエステルと該ビスヒドロキシアルコキシ芳香族化合物とをエステル交換通常、180〜260℃の温度で、チタン化合物、酢酸マンガン、酢酸マグネシウムなどのエステル交換触媒の存在下に、副生する低級アルコールを溜去しながら行うことができる。なお、本発明の製造方法において用いる2,6−ナフタレンジカルボン酸の炭素数1〜4のアルキルエステルとしてはメチルエステル体、つまり2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルが好ましい。
【0023】
上記のエステル交換法において、2,6−ナフタレンジカルボン酸の炭素数1〜4のアルキルエステルと、前記一般式(4)にて表されるビスヒドロキシアルコキシビフェニルとの仕込みモル比は、高分子量の芳香族ポリエステルを得るべく厳密に1:1であることが好ましいが、加熱条件下で2,6−ナフタレンジカルボン酸の炭素数1〜4のアルキルエステルが昇華し系外に除去されることを見越し、1.1:1〜1.01:1の如く2,6−ナフタレンジカルボン酸の炭素数1〜4のアルキルエステルをやや過剰に仕込む方法も好ましい形態である。なお、共重合成分を用いる場合は、ジカルボン酸成分の合計量とジオール成分の合計が上記モル比となるようにすると好ましい。
【0024】
上記のエステル交換法の反応温度については、エステル交換反応の進行によっては段階的に昇温する方法も好ましい形態である。このようにして得られたオリゴマーを加熱して溶融重縮合反応を進めることにより本発明の芳香族ポリエステルを得ることができる。溶融重縮合反応の温度は、少なくとも得られる芳香族ポリエステルの融点以上融点+50℃以下の範囲が好ましく、より好ましくは融点プラス10℃以上から融点+30℃以下の範囲である。溶融重縮合反応では通常6.7×10−4MPa以下の減圧下で行うのが好ましい。6.7×10−4MPaより高いと重縮合反応に要する時間が長くなり且つ重合度の高い芳香族ポリエステル樹脂を得ることが困難になる。特に1.3×10−4MPa以下まで減圧することが好ましい。なお、急激な反応の進行や反応物の突沸を防ぐ為に段階的に圧力を下げていくことも好ましい。
【0025】
エステル交換法において用いる金属化合物触媒としては、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、スズ、コバルト、ロジウム、イリジウム、ジルコニウム、ハフニウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムなどからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素を含む金属化合物が挙げられ、より好ましくは、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム、スズといった金属の化合物である。特にチタン化合物は高い活性を発揮するので好ましい。これら金属化合物触媒の使用量は、芳香族ポリエステルの繰り返し単位のモル数に対して、0.005〜0.5モル%、さらには0.01〜0.1モル%が好ましい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例にて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
[還元粘度(ηsp/C)の測定]
芳香族ポリエステルの還元粘度(ηsp/C)は、試料片0.12gをp−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(質量比40/60)の混合溶媒10mLに溶解し(試料濃度1.2g/dL)、35℃で測定した。
【0028】
[示差走査熱量計(DSC)測定]
DSC測定は芳香族ポリエステル試料片約7mgを専用アルミニウムパンに入れ、TAインスツルメンツ社製示差走査熱量計(DSC2920)を用いて測定を行った。測定は30℃〜300℃を10℃/分で昇温して、次いで300℃〜30℃までを10℃/分で冷却して行い、得られたチャートをJIS規格K7121号に則ってガラス転移温度(T)、結晶融点(T)、融解エンタルピー(ΔH)、昇温結晶化温度(Tci)、降温結晶化温度(Tcd)を求めた。
【0029】
[Tcdにおける半結晶化時間t1/2]
cdにおける半結晶化時間は、ポリマー結晶化速度測定装置(コタキ製作所(株)製、MK−801型)を用い、Tcdと同温度にて測定した。顕微鏡用ガラスカバー間に挟んだ試料を融解させた直後、直ちに試料室の直交偏向板の中間にセットし、増加する光学異方性結晶成分による透過光のアブラミプロットにおいて結晶化度が0.5となる時間を半結晶化時間t1/2とした。
【0030】
[共重合組成の測定(NMR分析)]
芳香族ポリエステルを重クロロホルム/トリフルオロ酢酸の90/10(体積比)の溶液試料を用いて400MHzのH−NMR装置(日立電子製、JEOL A−600)により共重合組成を測定した。
【0031】
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル244.2質量部、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル274.3質量部を機械攪拌翼、窒素導入ライン、還流留出ライン、減圧ライン、ポリマー吐出口を備えた反応容器に入れ、3回窒素置換を実施した。続いて反応容器を230℃に加熱し、上記原料を融解せしめた。これに触媒としてチタンテトラ−n−ブトキシド0.05質量部添加し、エステル交換反応を開始した。所定量のメタノールが還流留出ラインより留去したことを確認し、反応容器を280℃に昇温して、該容器内圧を1.333×10−4MPaに減圧した。この条件で30分間溶融重縮合を行った後、更に内圧を0.800×10−4MPaに減圧し溶融重縮合を完結させた。重合終了後、ポリマー吐出口より溶融状態の芳香族ポリエステルを加圧押出しし、水冷しながらペレット化を行った。得られた芳香族ポリエステルの還元粘度(ηsp/C)、DSCにおけるガラス転移温度(T)、結晶融点(T)、融解エンタルピー(ΔH)、昇温結晶化温度(Tci)、降温結晶化温度(Tcd)、並びに降温結晶化温度における半結晶化時間t1/2を表1に示す。
【0032】
[実施例2]
4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニルの量を260.6質量部とし、更に3.1質量部のエチレングリコールも原料のジオールとして用いた以外は、実施例1と同様に操作及び各種測定を行った。結果を表1に示す。なお、NMRにて、得られた芳香族ポリエステルにおけるジオール残基の共重合組成を測定したところ、全ジオール残基中のエチレングリコール残基の量は2.5モル%であった。
【0033】
[実施例3]
4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニルの量を233.2質量部とし、更に9.3質量部のエチレングリコールも原料のジオールとして用いた以外は、実施例1と同様に操作及び各種測定を行った。結果を表1に示す。なお、NMRにて、得られた芳香族ポリエステルにおけるジオール残基の共重合組成を測定したところ、全ジオール残基中のエチレングリコール残基の量は13.4モル%であった。
【0034】
[実施例4]
4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニルの代わりに、4,4’−ビス(3−ヒドロキシプロポキシ)ビフェニルを302.3質量部用いた以外は、実施例1と同様に操作及び各種測定を行った。結果を表1に示す。
【0035】
[比較例1]
4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニルの量を192.0質量部とし、更に18.6質量部のエチレングリコールも原料のジオールとして用いた以外は、実施例1と同様に操作及び各種測定を行った。結果を表1に示す。なお、NMRにて、得られた芳香族ポリエステルにおけるジオール残基の共重合組成を測定したところ、全ジオール残基中のエチレングリコール残基の量は25.6モル%であった。
【0036】
[比較例2]
4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニルの代わりに、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンを198.2質量部用いた以外は、実施例1と同様に操作及び各種測定を行った。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の芳香族ポリエステルは、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形などの通
常の溶融成形に供することができ、繊維、フィルム、三次元成形品、容器等に加工することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエステルを構成するジカルボン酸残基のうち50モル%以上が下記一般式(1)
【化1】

にて表される2,6−ナフタレンジカルボン酸残基であり、ジオール残基のうち80モル%以上が下記一般式(2)
【化2】

(上記一般式(2)において、m及びmはそれぞれ独立には2または3である。)
にて表されるビスヒドロキシアルコキシビフェニル残基であり、p−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(質量比40/60)の混合溶媒を用いて(試料濃度1.2g/dL)35℃で測定した還元粘度が0.3〜3.0dL/gであることを特徴とする芳香族ポリエステル。
【請求項2】
芳香族ポリエステルを構成するジオール残基のうち15モル%以下が、下記一般式(3)
【化3】

(上記一般式(3)において、nは2又は4である。)
にて表される脂肪族ジオール残基である請求項1記載の芳香族ポリエステル。
【請求項3】
芳香族ポリエステルを構成するジオール残基において、上記一般式(2)にて表されるビスヒドロキシアルコキシビフェニル残基と、上記一般式(3)にて表される脂肪族ジオール残基とのモル比が95:5以上100:0未満である請求項2記載の芳香族ポリエステル。
【請求項4】
示差走査熱量計(DSC)にて観測されるガラス転移温度(T)が75〜130℃、結晶融点(T)が220〜280℃である請求項1〜3の何れか1つに記載の芳香族ポリエステル。
【請求項5】
示差走査熱量計(DSC)にて観測される結晶融解エンタルピー(ΔH)が20〜70J/gである請求項1〜4の何れか1つに記載の芳香族ポリエステル。
【請求項6】
示差走査熱量計(DSC)にて観測される降温結晶化温度(Tcd)と同温度において測定される半結晶化時間t1/2が1〜120秒である請求項1〜5の何れか1つに記載の芳香族ポリエステル。
【請求項7】
上記一般式(2)において、m及びmが共に2である請求項1〜6の何れか1項に記載の芳香族ポリエステル。
【請求項8】
上記一般式(3)において、nが2である請求項2〜7の何れか1つに記載の芳香族ポリエステル。
【請求項9】
下記一般式(4)
【化4】

(上記一般式(4)中において、m及びmはそれぞれ独立には2又は3である。)
で表されるビスヒドロキシアルコキシビフェニルと下記一般式(5)
【化5】

(上記一般式(5)において、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、水素原子、又は塩素原子を表す。)
で表される2,6−ナフタレンジカルボン酸類とを重縮合反応させることを特徴とする、請求項1記載の芳香族ポリエステルの製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の一般式(4)で表されるビスヒドロキシアルコキシビフェニルと、請求項9記載の一般式(5)で表される2,6−ナフタレンジカルボン酸類と、下記一般式(6)
【化6】

(上記一般式(6)において、nは2又は4である。)
で表される脂肪族ジオールとを重縮合反応させることを特徴とする、請求項2記載の芳香族ポリエステルの製造方法。

【公開番号】特開2011−148941(P2011−148941A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12980(P2010−12980)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】