説明

芳香族ポリカーボネート、その組成物および用途

【課題】良好な色調、高い耐久性および優れた安定性、特に高温高湿度での長時間使用においてこれらの性質を示すとともに、光学分野の精密成形品を形成するのに好適な芳香族ポリカーボネート、その組成物を提供する。
【解決手段】(A)特定の繰り返し単位を有し、(B)粘度平均分子量が10,000〜100,000の範囲にあり、(C)末端基が実質的にアリールオキシ基とフェノール性水酸基からなりそしてアリールオキシ基とフェノール性水酸基のモル比が97/3〜40/60の範囲にあり、(D)溶融粘度安定性が0.5%以下であり、そして(E2)ラジカル濃度が1×1015(個/g・ポリカーボネート)である、芳香族ポリカーボネート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芳香族ポリカーボネート、その組成物およびそれらの光学分野への用途に関する。さらに詳しくは、良好な色調、高い耐久性および優れた安定性、特に高温高湿度での長時間使用においてこれらの性質を示すとともに、光学分野の精密成形品を形成するのに好適な芳香族ポリカーボネート、その組成物並びにその光学分野への用途に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネートは、色相、透明性、寸法安定性、耐衝撃性に優れたエンジニアリングプラスチックである。近年その用途は多岐にわたり、色相、透明性の一層の向上と色相、透明性のバラツキのコントロールが要求され、また使用環境条件も拡大されていることより、高温高湿条件下、長時間の使用においても上記の特長が維持されるような高い環境耐久性が要求されている。
加えてポリカーボネート樹脂組成物は光ディスク基板等の精密成形品の製造に多用されており、色相、透明性および良好な転写性が重要な品質項目となっている。
特に近年の光学記録媒体の高密度化・大容量化、薄型化と共に金型スタンパーの形状を正確に再現する良好な転写性に対する要求も厳しくなってきており、十分な信頼性が得られる高い転写性の基板材料が求められている。
【0003】
然るに、従来の芳香族ポリカーボネートから得られる成型品では、色相、透明性のレベルも十分とは言い難く、高温高湿下での長時間使用における分子量の低下や色相悪化、色相、透明性のバラツキ、白化といった劣化が生じ環境耐久性の問題、加えて最近提案されているDVD−RAMでは基板の厚さが従来の1.2mmから0.6mmに薄くなり、転写性が一層重要な問題として注目を集めている。
基板の厚さが1.2mmから0.6mmに薄くなることにより、基板射出成型時、金型表面間の距離が短くなり、基板キャビティー内において、樹脂が基板内周から外周に移動する間に樹脂温度がより大きく低下し、その結果基板外周部の転写性が大きく低下する問題があることが指摘される。この問題をクリアするため、従来の厚さ、1.2mm基板製造で使用されているポリマー分子量を低下させたり、1.2mm基板製造条件で採用されている樹脂温度の340℃を厚さ0.6mm基板の成型においては380℃へと昇温する技術が広く使用されている。分子量低下させた場合、成型品の機械的強度が低下する問題が新たに発生することがあるし、成型時の樹脂温度を上げるためにはポリカーボネートおよびポリカーボネート樹脂組成物に対してより一層高い耐熱性が求められるようになっている。
【0004】
環境条件によるポリマーの分子量の低下は、厚さの薄い基板においては、耐衝撃性などの機械特性を低下させ、一般的成形品においても色相や透明性のバラツキ拡大、悪化は芳香族ポリカーボネートを使用する利点を減少させるものであり、特にディスク基板材料としては色相、透明性の劣化変動が記録再生の信頼性に対して特に問題となる。
高温高湿下での芳香族ポリカーボネートの分子量の低下や、色相悪化、白化といった劣化は、ポリマー中に含まれる微量の不純物、中でも金属化合物(存在化学種の明確な化学構造は不明であるが)の影響が懸念されることから、以前より原料やポリマー精製方法および耐熱安定性に対する金属含量低減の効果についていくつか提案がなされているが未だ十分な解決は見られていない。
【0005】
特許文献1には、芳香族ポリカーボネートの耐熱安定性、特に着色性改善に対する金属含量低減の効果について開示されている。着目されている金属は鉄とナトリウムのみであり、またそれらの含有量は鉄5ppm以下、ナトリウム1ppm以下であり高かった。また、特許文献2には鉄、クロム、およびモリブデンの合計含有量が10ppm以下、ニッケルおよび銅の合計含有量が50ppm以下である色調・透明性の良好なポリカーボネートが開示されている。この明細書において最適条件が実現されている実施例においても、ポリマー中に含まれるニッケルは1ppm、銅は1ppmであり、これらの含有量は高かった。
また、特許文献3には鉄、クロム、ニッケルの含有量が0〜50ppbである芳香族ジヒドロキシ化合物を原料としたポリカーボネートが開示されているが、その他の金属種、および使用触媒量と不純物量との関係については触れられていない。
これに対し、特許文献4では金属不純物のうち鉄分を10ppbおよびクロマン系不純物を40ppmまで減量することにより製造される芳香族ポリカーボネートの色調、耐熱安定性、ゲルの改良を図り、一応の成果を上げている。
しかしながら、ポリマー安定性は単に金属不純物量を単に減少させれば十分であるというものではなく、芳香族ポリカーボネート分子構造の安定性に影響する特性およびその他の安定性に影響する重要な因子を解明し、対策を取ることが重要である。この点については、従来は単に末端フェノール性水酸基数を減少させる等の試みがなされているに過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−148355号公報
【特許文献2】特開平6−32885号公報
【特許文献3】特開平9−183895号公報
【特許文献4】特開平11−310630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、良好な色調、高い耐久性および優れた安定性、特に高温高湿下での長時間使用においてもこれらの機能を示す芳香族ポリカーボネートを提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、良好な色調並びに優れた透明性と機械的強度を長時間にわたって維持するような優れた耐久性と優れた安定性を示す芳香族ポリカーボネートを提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、上記のごとき諸性質を従来技術では達成できなかったレベルにまで向上させた、耐環境安定性に優れた芳香族ポリカーボネートを提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、精密成形特に光学分野の成形品の精密成形に好適でかつ成形時の転写性に優れた芳香族ポリカーボネートを提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、本発明の上記芳香族ポリカーボネートを含有し、特に成形時の耐熱安定性に優れた芳香族ポリカーボネート組成物を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、本発明の芳香族ポリカーボネートまたはその組成物からの成形品特に光学分野の精密成形品を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的および利点は以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第1に、
(A)主たる繰返し単位が下記式(a)
【0015】
【化1】

【0016】
ここで、R、R、RおよびRは互いに独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、シクロアルキル基または炭素数7〜10のアラルキル基でありそしてWは炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数2〜10のアルキリデン基、炭素数6〜10のシクロアルキレン基、炭素数6〜10のシクロアルキリデン基、炭素数8〜15のアルキレン−アリーレン−アルキレン基、酸素原子、硫黄原子、スルホキシド基、スルホン基または単結合である、
で表され、
(B)粘度平均分子量が10,000〜100,000の範囲にあり、
(C)末端基が実質的にアリールオキシ基とフェノール性水酸基からなりそしてアリールオキシ基とフェノール性水酸基のモル比が97/3〜40/60の範囲にあり、
(D)溶融粘度安定性が0.5%以下であり、そして
(E2)ラジカル濃度が1×1015(個/g・ポリカーボネート)である、
ことを特徴とする芳香族ポリカーボネート(以下、第1芳香族ポリカーボネートということがある)によって達成される。
【0017】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第2に、
(1)第1芳香族ポリカーボネート100重量部および
(2)炭素数8〜25の高級脂肪酸と多価アルコールの部分エステル5×10−3〜2×10−1重量部からなり、
(3)−2 ラジカル濃度が1×1015(個/g・ポリカーボネート以下)であり、さらに
(4)−2 380℃で10分間保持した後において、ラジカル濃度が2×1015(個/g・ポリカーボネート)以下である、
ことを特徴とする芳香族ポリカーボネート組成物(以下、第1組成物ということがある)によって達成される。
【0018】
最後に、本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第3に、本発明の上記芳香族ポリカーボネートおよび芳香族ポリカーボネート組成物のいずれかよりなる光ディスク基板によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】芳香族ポリカーボネートの粘度平均分子量Mwと微細結晶性粒子を生成しない最低温度(Tc)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳述する、まず、本発明の第1芳香族ポリカーボネートから説明を始め、順次各本発明について説明する。
【0021】
本発明の第1芳香族ポリカーボネートは、特に特徴的な性質(E2)を有する。すなわち、ラジカル濃度が1×1015(個/g・ポリカーボネート)以下である。
第1芳香族ポリカーボネートのラジカル濃度は好ましくは1×1012〜6×1014(個/g・ポリカーボネート)の範囲にある。より好ましくは380℃で10分間溶融保持した後において、ラジカル濃度が2×1015(個/g・ポリカーボネート)以下である。かかるラジカルは着色、分岐などの好ましくない反応を引き起こすこともあるが、反応が連鎖的に進行するのを防ぐ作用も有しているようであり、一定量の存在は好ましいこともあるようである。
【0022】
本発明の芳香族ポリカーボネート中のラジカル濃度を制御する有効な手段としては、例えば以下のような方法が挙げられる。
1)ポリカーボネートの各製造工程において、バルクポリマーの温度と該工程において最も高温になる領域との温度差を50℃以下に押さえ、かつ最も高温度領域の温度を340℃以下に押さえてポリカーボネート分子のラジカル分解を抑制する方法。具体的には例えば反応器において攪拌翼の回転速度を制御、あるいは攪拌熱の発生を制御するとともに反応の最終段階において不活性ガスにより0.7MPa〜2MPaの高圧処理を行うなどの方法で達成できる。
2)上記工程においてさらに好ましくはラジカルスカベンジャーを併用する。ラジカルスカベンジャーとしては、著者;Hans Zweifel;書名;「Stabilization of Polymeric Materials」(出版社;Springer) Chapter 2 頁41−69などに記載の公知の剤を使用することができる。
【0023】
さらに芳香族ポリカーボネートを得た後の段階で
3)芳香族ポリカーボネートポリマー溶液とし、該溶液を水洗浄、再沈殿などの精製方法により精製することにより、ラジカル濃度を制御し製造後の着色の進行を低い水準に押さえることもできる。
ポリマーの水洗浄では、洗浄後にポリマー溶液を十分に脱水することが好ましく、脱水方法としてシリカゲル処理や、微細孔フィルターを用いたろ過といった方法が用いられる。ポリマーの再沈殿は塩化メチレンや1−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略す)などのポリマー溶液にメタノール、アセトニトリルなどの貧溶媒を加えて行われるが、その際、より精製度の高いポリマーを得るためには、貧溶媒を長時間かけて徐々に加えることが好ましい。
【0024】
本発明の第1芳香族ポリカーボネートは、好ましくは、380℃で10分間溶融保持した後において、ラジカル濃度が2×1015(個/g・ポリマー)以下である。かかる好ましい性質を有する第1芳香族ポリカーボネートは、後述するように、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを、リチウム化合物、ルビジウム化合物およびセシウム化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のエステル交換触媒の存在下に溶融重合せしめることにより有利に得ることができる。
【0025】
本発明の第1芳香族ポリカーボネートは、前記式(a)において、RおよびRの定義は上記のとおりである。
ハロゲン原子としてはフッ素、塩素、臭素などが挙げられる。
炭素数1〜10のアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。その例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、オクチル、デシル等を挙げることができる。炭素数6〜10のシクロアルキル基としては、シクロヘキシル、3,3,5−トリメチルシクロヘキシル等を挙げることができる。
炭素数6〜10のアリール基としては、例えばフェニル、トリル、ナフチル等を挙げることができる。
炭素数7〜10のアラルキル基としては、例えばベンジル、フェネチル、クミル等を挙げることができる。
また、Wの定義も上記のとおりである。
炭素数1〜6のアルキレン基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
その例としては、メチレン、1,2−エチレン、1,3−プロピレン、1,4−ブチレン、1,6−へキシレン等を挙げることができる。
炭素数2〜10のアルキリデン基としては、例えばエチリデン、2,2−プロピリデン、2,2−ブチリデン、3,3−ヘキシリデン等を挙げることができる。
炭素数6〜10のシクロアルキレン基としては、例えば1,4−シクロヘキシレン、2−イソプロピル−1,4−シクロヘキシレン等を挙げることができる。
炭素数6〜10のシクロアルキリデン基としては、例えばシクロヘキシリデン、イソプロピルシクロヘキシリデン等を挙げることができる。
炭素数8〜15のアルキレン−アリーレン−アルキレン基としては、例えばm−ジイソプロピルフェニレン基などが挙げられる。
【0026】
上記式(a)において、Wが炭素数2〜10のアルキリデン基でありそしてR〜Rがいずれも水素原子であるのが好ましい。とりわけWがシクロヘキシリデン基、2,2−プロピリデン基が好ましく、2,2−プロピリデン基が特に好ましい。
芳香族ポリカーボネートは、上記式(a)で表される繰返し単位を全繰返し単位に基づき少なくとも85モル%を占めるものが好ましい。
【0027】
本発明の芳香族ポリカーボネートは、従来公知の溶融重合法、界面重合法等いかなる方法で製造してもよいが、プロセス、原料を含めたコスト面、塩素化炭化水素などの重合溶媒を用いずに済む、さらに炭酸エステル形成化合物としてホスゲンなどの有害化合物を用いずに済むなどの点から、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを溶融重縮合させる製造法が好ましい。
溶融重合法は常圧およびまたは減圧窒素雰囲気下で芳香族ジヒドロキシ化合物(以下ADCと略称する)と炭酸ジエステルとを加熱しながら攪拌して、生成するアルコールまたは芳香族モノヒドロキシ化合物を留出させることで行われる。その反応温度は生成物の沸点等により異なるが、反応により生成するアルコールまたは芳香族モノヒドロキシ化合物を除去するため通常120〜350℃の範囲であり、金属不純物の少ない芳香族ポリカーボネートを得るために好ましくは180〜280℃の範囲であり、さらに好ましくは、250〜270℃の範囲である。
【0028】
反応後期には系を減圧にして生成するアルコールまたは芳香族モノヒドロキシ化合物の留出を容易にさせる。反応後期の系の内圧は、好ましくは133.3Pa(1mmHg)以下であり、より好ましくは66.7Pa(0.5mmHg)以下であり、加えて反応の最終段階即ち重縮合反応終了前20分以内において、特に溶融粘度安定化剤添加段階を含むその前後の段階において、窒素ガス、炭酸ガス等の不活性ガスにより0.7〜2MPaの高圧処理を行うのが好ましい。この高圧処理の圧力はさらに好ましくは1〜2MPaの範囲が選択される。
原料として用いられるADCや炭酸ジエステルは、公知の精製方法、例えば、蒸留、抽出、再結晶、昇華などの精製法により、またはそれらを組合せた精製操作を適用することにより準備することも好ましい。中でも原料をできるだけ低温で、長時間の昇華法によって精製する方法が好ましく、また、昇華に加えてさらに上記の精製法を種々組合せることがより好ましい。
また、金属不純物の少ない芳香族ポリカーボネートを得るためには、かかる原料、ポリマーの精製において、金属不純物の含有量が極めて少ない高純度の溶媒を用いるのが好ましく、例えば電子工業用の溶媒などが使用できる。
【0029】
本発明においては、芳香族ポリカーボネート中に含まれる特定の金属元素の含有量をそれぞれ特定値以下に規定することにより、従来では考えられなかった程度の湿熱条件下での長時間の使用において優れた耐久性、安定性、透明性をもつ芳香族ポリカーボネートを提供することができる。
本発明において、製造されるポリカーボネートの耐久性、色調、透明性のおよぼす影響を考え、原料中に不純物として含まれるFe、Cr、Mn、Ni、Pb、Cu、Pd等の遷移金属元素Si、Al、Ti等の金属、半金族元素の微量金属元素含有量を50ppb以下、さらに好ましくは10ppb以下としたものが推奨される。
【0030】
より耐久性に優れた芳香族ポリカーボネートを得るために、ADCおよび炭酸ジエステル類に含まれる、大きなエステル交換能を有するアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素の含有量は0〜60ppbであることが好ましい。
また、耐久性により優れた芳香族ポリカーボネートを得るために、ADC、炭酸ジエステル類中の、アルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素の含有量が60ppb以下、かつ遷移金属元素濃度が10ppb以下であることが好ましい。
さらに炭酸ジエステル類、ADC中に含有される上記金属、半金族元素含有濃度が20ppb以下であることが好ましい。
原料としてこのような遷移金属元素、金属、あるいは半金族元素の含有量は低いほど好ましいが従来の技術の限界である10ppb以下であるADC、および炭酸ジエステル類を使用することで、優れた耐久性をもつ芳香族ポリカーボネートを得ることができる。
本発明で用いられるADCは、下記式(b)
【0031】
【化2】

【0032】
ここで、R、R、RおよびRおよびWの定義は上記式(1)に同じである。
で表される。
【0033】
かかるADCとしては、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下ビスフェノールAと略す)、1,1−ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(2−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシー3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2,2’,2’−テトラヒドロ−3,3,3’,3’−テトラメチル1,1’−スピロビス〔1H−インデン〕−6,6−ジオール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)サルファイド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等および上記定義に従ってその芳香環に例えばアルキル基、アリール基等が置換されたものが挙げられる。その他ジヒドロキシベンゼン誘導体、例えばヒドロキノン、2−t−ブチルヒドロキノン、レゾルシノール、4−クミルレゾルシノール等も使用可能である。これらは単独で用いてもまたは2種以上併用してもよい。中でもコスト面からビスフェノールAが特に好ましい。
炭酸ジエステルとしては例えばジフェニルカーボネート(以下DPCと略称)、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等が挙げられる。中でもコスト面からDPCが好ましい。
【0034】
本発明においては、エステル交換触媒として、(i)含窒素塩基性化合物および含リン塩基性化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(以下NCBAという)および(ii)アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(以下AMCという)が好ましく使用される。
【0035】
NCBAの含窒素塩基性化合物としては、例えばテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(MeNOH)、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(φ−CH(Me)NOH)、などのアルキル、アリール、アルキルアリール基などを有するアンモニウムヒドロキシド類;テトラメチルアンモニウムアセテート、テトラエチルアンモニウムフェノキシド、テトラブチルアンモニウム炭酸塩、ベンジルトリメチルアンモニウム安息香酸塩、などのアルキル、アリール、アルキルアリール基などを有する塩基性アンモニウム塩;トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、などの第3級アミン、あるいはテトラメチルアンモニウムボロハイドライド(MeNBH)、テトラブチルアンモニウムボロハイドライド(BuNBH)、テトラメチルアンモニウムテトラフェニルボレート(MeNBPh)などの塩基性塩などを挙げることができる。
【0036】
またNCBAの含リン塩基性化合物の具体例としては、例えばテトラブチルホスホニウムヒドロキシド(BuPOH)、ベンジルトリメチルホスホニウムヒドロキシド(φ−CH(Me)POH)、などのアルキル、アリール、アルキルアリール基などを有するホスホニウムヒドロキシド類、あるいはテトラメチルホスホニウムボロハイドライド(MePBH)、テトラブチルホスホニウムボロハイドライド(BuPBH)、テトラメチルホスホニウムテトラフェニルボレート、(MePBPh)などの塩基性塩などを挙げることができる。
上記NCBAは、塩基性窒素原子あるいは塩基性リン原子がADC1モルに対し、10〜1000μ化学当量となる割合で用いるのが好ましい。より好ましい使用割合は同じ基準に対し20〜500μ化学当量となる割合である。特に好ましい割合は同じ基準に対し50〜500μ化学当量となる割合である。
また原料炭酸ジエステル類、および芳香族ジヒドロキシ化合物類中に含有される鉄分は、上記含窒素塩基性化合物および/または含リン塩基性化合物と何らかの相互作用をしてポリカーボネートの色調を悪化させるものと推定される。かかる意味において各種金属不純物含量はできる限り減少させておくのが好ましい。
【0037】
さらに本発明においては、原料中不純物を低減させた効果を、ポリマー色調、安定性に実現するために、上記、NCBAとともにアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属化合物(AMC)を併用するがAMC化合物としては、アルカリ金属化合物を含有する化合物が好ましく使用される。かかるアルカリ金属化合物は、ADC1モルに対し、アルカリ金属元素として0.01〜5μ化学当量の範囲で使用される。かかる量比の触媒を使用することにより、以下継続する末端の封鎖反応、重縮合反応速度を損うことなく重縮合反応中に生成しやすい分岐反応、主鎖開裂反応や、成形加工時における装置内での異物の生成、焼けといった好ましくない現象を効果的に抑止でき本発明の目的に好ましい。
【0038】
上記範囲を逸脱すると、得られるポリカーボネートの諸物性に悪影響をおよぼしたり、またエステル交換反応が十分に進行せず、高分子量のポリカーボネートが得られない等の問題があり、好ましくない。
触媒として使用されるAMCとしては、例えばアルカリ金属の水酸化物、炭化水素化合物、炭酸塩、酢酸塩、ステアリン酸塩、安息香酸塩等のカルボン酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、亜硫酸塩、シアン酸塩、チオシアン酸塩、水素化硼素塩、燐酸水素化物、ビスフェノールおよびフェノールの塩等が挙げられる。
具体例としては水酸化ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、酢酸リチウム、硝酸ルビジウム、硝酸リチウム、亜硝酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、シアン酸ナトリウム、シアン酸カリウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、水素化硼素ナトリウム、水素化硼素カリウム、水素化硼素リチウム、フェニル化硼素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、リン酸水素ジナトリウム、リン酸水素ジカリウム、ビスフェノールAのジナトリウム塩、モノカリウム塩、ナトリウムカリウム塩およびフェノールのカリウム塩などが挙げられる。
【0039】
また本発明においては所望により触媒として使用するアルカリ金属化合物として、特開平7−268091号公報に記載の(ア)周期律表第14族元素のアート錯体アルカリ金属塩または(イ)周期律表第14族元素のオキソ酸のアルカリ金属塩を用いることができる。ここで周期律表第14族の元素とは、ケイ素、ゲルマニウム、スズのことをいう。
かかるアルカリ金属化合物を重縮合反応の触媒として用いることにより、重縮合反応を迅速にかつ十分に進めることができる利点を有する。また重縮合反応中に進行する分岐反応のような好ましくない副反応を低いレベルに押さえることができる。
【0040】
本発明の重縮合反応には、上記触媒と一緒に、必要により周期律表第14属元素のオキソ酸、酸化物および同元素のアルコキシド、フェノキシドよりなる群から選ばれる少なくとも、一種の化合物を助触媒として共存させることができる。これらの助触媒を特定の割合で用いることにより末端の封鎖反応、重縮合反応速度を損うことなく重縮合反応中に生成しやすい分岐反応、主鎖開裂反応や、成形加工時における装置内での異物の生成、焼けといった好ましくない現象を効果的に抑止でき本発明の目的に好ましい。
周期律表第14族のオキソ酸としては、例えばケイ酸、スズ酸、ゲルマニウム酸を挙げることができる。
周期律表第14族の酸化物としては、二酸化ケイ素、二酸化スズ、二酸化ゲルマニウム、シリコンテトラメトキシド、シリコンテトラフェノキシド、テトラエトキシスズ、テトラノニルオキシスズ、テトラフェノキシスズ、テトラブトキシゲルマニウム、テトラフェノキシゲルマニウム、およびこれらの縮合体を挙げることができる。
【0041】
助触媒は重縮合反応触媒中のアルカリ金属元素1モル原子当り、周期律表第14族の元素が50モル原子以下となる割合で存在せしめるのが好ましい。同金属元素が50モル原子を超える割合で助触媒を用いると、重縮合反応速度が遅くなり好ましくない。
助触媒は、重縮合反応触媒のアルカリ金属元素1モル原子当り助触媒としての周期律表第14族の元素が0.1〜30モル原子となる割合で存在せしめるのがさらに好ましい。
ナトリウム化合物は、ナトリウム以外のアルカリ金属に比べて、製造される芳香族ポリカーボネートの耐久性に与える影響が大きいことから、本発明において耐久性に優れた芳香族ポリカーボネートを得るために、触媒としてリチウム化合物、ルビジウム化合物またはセシウム化合物を使用することが好ましい。
【0042】
本発明におけるこれらの重合触媒の使用量は、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物を使用する場合は、ADC1モルに対し0.05〜5μ化学当量、好ましくは0.07〜3μ化学当量、特に好ましくは0.07〜2μ化学当量の範囲で選択される。
【0043】
溶融重合法は、常圧およびまたは減圧窒素雰囲気下、上記のごとき芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを上記のごときエステル交換触媒の存在下に、加熱しながら攪拌して、生成するアルコールまたは芳香族モノヒドロキシ化合物を留出させることで行われる。その反応温度は生成物の沸点等により異なるが、反応により生成するアルコールまたは芳香族モノヒドロキシ化合物を除去するため通常120〜350℃の範囲であるが、本発明においては、せん断による発熱および到達温度をできるだけ低いレベルに抑えておくためポリマー温度を低く制御することが好ましい。しかしながら重合中ポリマー温度を低く設定するとポリカーボネート中の微細結晶性粒子が生成することがあり、かかる微細結晶性粒子が多く生成すると得られる成型品の機械的強度が低下する場合がある。さらにポリカーボネート融液中にポリカーボネート微細結晶性粒子が存在するとせん断作用がより強化されメカノケミカル的にラジカル種が生成することがあるため、ポリカーボネート中に含有される微細結晶性粒子含有量を抑えるのが好ましい。このため反応混合物の分子量が7000を超えた時点より反応混合物の温度が微細結晶性粒子を生成しない、添付グラフに示す最低温度(Tc)を下回らないようにすることが重要である。
【0044】
反応装置内部の低温部の温度を反応混合物の平均分子量によって規定される最低温度以上に保つことにより、融点310℃以上を示す微細結晶性粒子の数を大きく低減することができる。
反応混合物の粘度平均分子量をMw、上記最低温度をTcとするとき、Tc(℃)を縦軸とし、Mwを横軸とするグラフにおいて、Mwが3,000から18,000の領域において、点(Tc,Mw)=(220、4,000)、(234、4,810)、(244、6,510)、(245、7,400)、(244、9,210)、(236、12,050)、(226、17,000)の各点を滑らかに結ぶ添付のグラフ(図1)のような曲線が得られる。
【0045】
微細結晶性粒子の含有量を低減するためには重合時の反応系内低温部の温度Tcを上記曲線と横軸で囲まれた範囲に入らないようにすることが重要であり、なかでも低重合度から中重合度の範囲における最低温度をこの範囲の曲線より上にしておくことが好ましい。
重合時の最低温度の上限は通常の重合温度を適宜選択できるが、あまり重合温度が高いと低重合度領域では、モノマー、オリゴマーが揮散しモルバランスが崩れることがあり、高重合度では、副反応が目立つようになることから、上限温度はMw<6,000では270℃、6,000≦Mw≦10,000では310℃、そしてMw>10,000では330℃とするのが好ましい。
【0046】
反応後期には系を減圧にして生成するアルコールまたは芳香族モノヒドロキシ化合物の留出を容易にさせる。反応後期の系の内圧は、好ましくは133.3Pa(1mmHg)以下であり、より好ましくは66.7Pa(0.5mmHg)以下であり、加えて理由は明確ではないが、ラジカル量を制御するため、反応の最終段階即ち重縮合反応終了前20分以内において、特に溶融粘度安定化剤添加段階を含むその前後の段階において、窒素ガス、炭酸ガス等の不活性ガスにより0.7〜2MPaの高圧処理を行う事が好ましい。さらに好ましくは1〜2MPaの範囲が選択される。
【0047】
本発明の芳香族ポリカーボネートは溶融粘度安定性が0.5%以下である。溶融粘度安定性は、窒素気流下、せん断速度1rad/sec、300℃で30分間測定した溶融粘度の変化の絶対値で評価し、1分当りの変化率で表す。この値を0.5%以下にすることが必須であり、この値が大きいと芳香族ポリカーボネートの加水分解劣化、分子量の低下あるいは着色が促進されることがある。実際的な耐加水分解安定性等を確保するためにはこの値を0.5%にしておくと十分である。そのために特に重合後に溶融粘度安定化剤を用いて溶融粘度を安定化することが好ましい。
【0048】
本発明における溶融粘度安定化剤は、芳香族ポリカーボネート製造時に使用する重合触媒の活性の一部または全部を失活させる作用も有する。
溶融粘度安定化剤を添加する方法としては、例えば重合後にポリマーが溶融状態にある間に添加してもよいし、一旦芳香族ポリカーボネートをペレタイズした後、再溶解し添加してもよい。前者においては、反応槽内または押出機内の反応生成物である芳香族ポリカーボネートが溶融状態にある間に溶融粘度安定化剤を添加してもよいし、また重合後得られた芳香族ポリカーボネートが反応槽から押出機を通ってペレタイズされる前に、溶融粘度安定化剤を添加して混練することもできる。
溶融粘度安定化剤としては公知の剤が使用できる。得られるポリマーの色相や耐熱性、耐沸水性などの物性の向上に対する効果が大きい点から、有機スルホン酸の塩、有機スルホン酸エステル、有機スルホン酸無水物、有機スルホン酸ベタインなどのスルホン酸化合物、中でもスルホン酸のホスホニウム塩および/またはスルホン酸のアンモニウム塩を使用することが好ましい。その中でも特に、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩やパラトルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩などが好ましい例として挙げられる。
【0049】
本発明の芳香族ポリカーボネートは、粘度平均分子量が10,000〜100,000の範囲にある。射出成型品、例えばディスク基板材料としては、粘度平均分子量(M)が10,000〜22,000が好ましく、12,000〜20,000がより好ましく、13,000〜18,000が特に好ましい。かかる粘度平均分子量を有するポリカーボネートは、光学用材料として十分な強度が得られ、また、成形時の溶融流動性も良好であり成形歪みを発生せず好ましい。また押出し成形品、例えばシートなどの用途においては、粘度平均分子量が好ましくは17,000〜100,000、さらに好ましくは20,000〜80,000である。
【0050】
本発明の芳香族ポリカーボネートは、さらに、末端基が実質的にアリールオキシ基(A)とフェノール性水酸基(B)とよりなり、かつ両者のモル比(A)/(B)が97/3〜40/60である。好ましくは、フェノール性末端基濃度が40モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下である。かかる量比でフェノール性水酸基を含有することにより、本発明の目的をより一層好適に達成することができ、組成物の成形性(金型汚れ製、離型性;以下単に成形性と略称する)もまた向上する。
【0051】
他方、フェノール性末端基濃度を3モル%より減少させても組成物のさらなる物性の向上は少ない、またフェノール性末端基濃度を60モル%を超えて導入したときは、本発明の目的に好ましくないことは、上記議論より自明である。
アリールオキシ基としては、例えば炭素数1〜20の炭化水素基置換あるいは無置換フェニールオキシ基が好ましく選択される。樹脂熱安定性の点から置換基として、第3級アルキル基、第3級アラルキル基またはアリール基を有するフェニルオキシ基または無置換のフェニールオキシ基が好ましい。ベンジルタイプの水素原子を有するものも、耐活性放射線の向上など所望の目的を有する場合、使用可能であるが、熱、熱老化、熱分解等に対する安定性の観点より避けたほうがよい。
好ましいアリールオキシ基の具体例としては、フェノキシ基、4−t−ブチルフェニルオキシ基、4−t−アミルフェニルオキシ基、4−フェニルフェニルオキシ基、4−クミルフェニルオキシ基等である。
界面重合法では分子量調節剤によりフェノール性水酸基は低い濃度に押さえられるが、溶融重合法においては、化学反応論的にフェノール性水酸基が60モル%、あるいはそれ以上のものが製造されやすいため、積極的にフェノール性水酸基を減少させる方法がある。
【0052】
すなわちフェノール性末端基濃度を上記範囲内にするには、以下記述する1)あるいは2)の方法で有利に達成しうる。
1)重合原料仕込みモル比制御法;重合反応仕込み時の炭酸ジエステル/芳香族ジヒドロキシ化合物のモル比を高める。例えば重合反応装置の特徴を考慮のうえ1.03から1.10の間に設定する。
2)末端封止法;重合反応終了時点において例えば、米国特許第5696222号明細書記載の方法に従い、上記文献中記載のサリチル酸エステル系化合物を添加することにより末端のフェノール性水酸基を封止する。
【0053】
サチリル酸エステル系化合物により末端水酸基を封止する場合の、サリチル酸エステル系化合物の使用量は封止反応前の末端のフェノール性水酸基、1化学当量当り0.8〜10モル、より好ましくは0.8〜5モル、特に好ましくは0.9〜2モルの範囲である。かかる量比で添加することにより、末端のフェノール性水酸基の80%以上を好適に封止することができる。また本封止反応を行うとき、上記米国特許に記載の触媒を使用するのが好ましい。
フェノール性末端基濃度の低減は、重合触媒を失活させる以前の段階において好ましく実施される。
【0054】
該サリチル酸エステル系化合物としては、米国特許第5696222号明細書記載のサリチル酸エステル系化合物が好ましく使用でき、具体的には、2−メトキシカルボニルフェニル−フェニルカーボネートのごとき2−メトキシカルボニルフェニルアリールカーボネート;2−メトキシカルボニルフェニル−ラウリルカーボネートのごとき2−メトキシカルボニルフェニル−アルキルカーボネート;2−エトキシカルボニルフェニル−フェニルカーボネートのごとき2−エトキシカルボニルフェニル−アリールカーボネート;2−エトキシカルボニルフェニル−オクチルカーボネートのごとき2−エトキシカルボニルフェニル−アルキルカーボネート;(2−メトキシカルボニルフェニル)ベンゾエートのごとき芳香族カルボン酸の(2’−メトキシカルボニルフェニル)エステル;および(2−メトキシカルボニルフェニル)ステアレート、ビス(2−メトキシカルボニルフェニル)アジペートのごとき脂肪族カルボン酸エステルが挙げられる。
次に、本発明の第1組成物について説明する。
【0055】
第1組成物は、第1芳香族ポリカーボネートを含有する。
この芳香族ポリカーボネートとしては、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを、リチウム化合物、ルビジウム化合物、およびセシウム化合物、さらに好ましくはルビジウム化合物およびセシウム化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のエステル交換触媒の存在下に溶融重合せしめて得られたものが好ましい。
この第1組成物は、上記芳香族ポリカーボネートの他に、炭素数8〜25の高級脂肪酸と多価アルコールの部分エステルを含有する。炭素数8〜25の高級脂肪酸としては、飽和および不飽和のいずれであってもよい、モノ−、ジ−あるいはトリ−以上のポリ−カルボン酸が好ましく、また多価アルコールも飽和あるいは不飽和のいずれであってもよい。
炭素数8〜25の飽和あるいは不飽和高級脂肪酸としては、例えばアラキドン酸、ベヘン酸、ドコサヘキサエン酸、デカン酸、ドデカン酸、アイコサペンタエン酸、ステアリン酸、カプロン酸、オレイン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸およびテトラトリアコンタン酸を挙げることができる。
【0056】
多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−ブテンジオール、ネオペンチレングリコール、ジエチレングリコールのごとき飽和あるいは不飽和の2価のアルコール;グリセリン、トリメチロールプロパンのごとき飽和あるいは不飽和の3価のアルコール;ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールのごとき飽和あるいは不飽和の4価あるいは5価以上のアルコールを挙げることができる。
これらの多価アルコールと高級脂肪酸からの部分エステルとしては、例えばペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールモノオレート、ペンタエリスリトールジオレート、ペンタエリスリトールトリオレート、ペンタエリスリトールモノベヘネート、ペンタエリスリトールジベヘネート、ペンタエリスリトールトリベヘネート、グリセロールモノベヘネート、グリセロールジベヘネート、グリセロールモノラウレート、グリセロールジラウレート、グリセロールモノステアレート、グリセロールジステアレート、トリメチロールプロパンモノオレートおよびトリメチロールプロパンジステアレートを挙げることができる。
【0057】
炭素数8〜25の高級脂肪酸と多価アルコールの部分エステルの含有量はポリカーボネート樹脂100重量部当り5×10−3〜2×10−1重量部、好ましくは6×10−3〜1×10−1重量部の範囲である。
第1組成物は、ラジカル濃度が1×1015(個/g・ポリカーボネート)以下、好ましくは1×1012〜1×1015(個/g・ポリカーボネート)でありかつ380℃で10分間溶融保持した後において、ラジカル濃度が2×1015(個/g・ポリカーボネート)以下である、という特性を備えている。
第1組成物は、本発明の目的を損わない範囲において、上記多価アルコールの高級脂肪酸の部分エステルと共に所望により、従来公知の脂肪族カルボン酸(脂環式のカルボン酸をも包含する)と一価あるいは多価アルコールとの完全エステルを所望により併用することができる。
脂肪族カルボン酸の具体例としては、アラキドン酸、ベヘン酸、ドコサヘキサエン酸、デカン酸、ドデカン酸、アイコサペンタエン酸、ステアリン酸、カプロン酸、オレイン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸およびテトラトリアコンタン酸を挙げることができる。
【0058】
また、一価あるいは多価アルコールの具体例としては、2−エチルヘキシルアルコール、デシルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコールのごとき飽和あるいは不飽和の1価のアルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−ブテンジオール、ネオペンチレングリコール、ジエチレングリコールのごとき飽和あるいは不飽和の2価のアルコール;グリセリン、トリメチロールプロパンのごとき飽和あるいは不飽和の3価のアルコール;ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールのごとき飽和あるいは不飽和の4価あるいは5価以上のアルコールを挙げることができる。
完全エステルとしては、例えばステアリルステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、グルセロールトリベヘネート、グリセロールトリラウレート、グリセロールトリステアレート、トリメチロールプロパントリオレートおよびトリメチロールプロパントリステアレートを挙げることができる。
【0059】
そのほか、以下のごとき離型剤を所望により併用してもよい。
1)天然、合成パラフィンワックス類、ポリエチレンワックス、フルオロカーボン類のごとき炭化水素系離型剤;2)ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸等の高級脂肪酸またはヒドロキシ脂肪酸のごとき脂肪酸系離型剤;3)エチレンビスステアリルアミドなどの脂肪酸アミドあるいはエルカ酸アミドなどのアルキレンビス脂肪酸アミド類のごとき脂肪酸アミド系離型剤;4)ステアリルアルコール、セチルアルコールなどの脂肪族モノアルコールあるいはポリグリコール、ポリグリセロール類などの多価アルコールのごときアルコール系離型剤;5)ポリシロキサン類。
任意成分である上記のごとき離型剤の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、0.0001〜0.1重量部が好ましい。
これらの離型剤は単独であるいは2種以上を一緒にして使用することができる。
第1組成物には、さらに、成形品の官能好感度を向上させるために、ブルーイング剤、とくに有機系ブルーイング剤を含有することができる。該ブルーイング剤は加熱溶融成形加工時、変色傾向が大であるが、該組成物においては以下に記した特定燐酸系ホスホニウム塩の併用による安定効果が大である。
【0060】
かかるブルーイング剤の具体例としては;例えば、Solvent Violet 13 (CA.NO(カラーインデックスNo)60725;商標名 バイエル社製「マクロレックスバイオレットB」、三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーG」、住友化学工業製「スミプラストバイオレットB」);Solvent Violet 31(CA. No68210;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンバイオレットD」);Solvent Violet 33 (CA. No60725;商標名 三菱化学(株)「ダイアレジンブルーJ」);Solvent Blue 94 (CA. No61500;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーN」);Solvent Violet 36 (CA. No68210;商標名 バイエル社製「マクロレックスバイオレット3R」);Solvent Blue 97 (商標名 バイエル社「マクロレックスブルーRR」);Solvent Blue 45 (CA. No61110;商標名 サンド社製「テトラゾールブルーRLS」)およびチバスペシャリティー・ケミカルズ社のマクロレックスバイオレットやトリアゾールブルーRLSなどが挙げられる。これらの内で、マクロレックスバイオレットやトリアゾールブルーRLSが好ましい。
【0061】
これらブルーイング剤は単独で使用してもよいし、あるいは一緒に使用してもよい。これらブルーイング剤は芳香族ポリカーボネート100重量部当り、好ましくは1×10−7〜1×10−2重量部、より好ましくは0.01×10−4〜10×10−4重量部、さらに好ましくは0.05×10−4〜5×10−4重量部、特に好ましくは0.1×10−4〜3×10−4重量部の量で用いられる。
【0062】
本発明の第1組成物は、さらに、特定燐酸酸性ホスホニウム塩を含むことが好ましい。特定燐酸酸性ホスホニウム塩としては下記式(c)−1〜(c)−3:
【0063】
【化3】

【0064】
(式中R〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の炭化水素基を表し、X、Yは、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、下記式(d)で表される第4級ホスホニウム基、炭素数1〜20アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、炭素数1〜20アルアルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を表す。X、 X、Yからなる群のうちの少なくとも1つはヒドロキシ基であるものとする。XとYは酸素原子を介して環を形成していてもよい。nは0または正の整数である。)
【0065】
【化4】

【0066】
(式中R〜R12は上記R〜Rの定義に同じである。)
で表される特定構造を有する一群のホスホニウム塩より選択される少なくとも一種である。
【0067】
燐酸酸性ホスホニウム塩の含有量としては、芳香族ポリカーボネート100重量部に対し、燐酸酸性ホスホニウム塩が、好ましくは1×10−6〜1重量部、より好ましくは1×10−6〜3×10−2重量部(0.01〜300ppm)の範囲であり、さらに好ましくは、5×10−6〜2×10−2重量部、特に好ましくは、1×10−5〜1×10−2重量部の範囲である。さらに、リン含有量の観点からは、特定燐酸酸性ホスホニウム塩中のリン成分が芳香族ポリカーボネート100重量部に対してリン原子として、好ましくは0.001×10−4〜30×10−4重量部、より好ましくは0.005×10−4〜20×10−4重量部、さらに好ましくは0.01×10−4〜10×10−4重量部である。
【0068】
該剤の含有量が上記下限値より小さいと所望の安定性が得られにくく、上限値より多いと耐熱性、とりわけ成形加工時の耐熱性が低下しやすくなる。
特定燐酸酸性ホスホニウム塩系化合物としては、例えば燐酸水素ジホスホニウム塩、燐酸2水素ホスホニウム塩、ホスホン酸水素ホスホニウム塩、亜燐酸水素ジホスホニウム塩、亜燐酸2水素ホスホニウム塩、亜ホスホン酸水素ホスホニウム塩、硼酸水素ジホスホニウム塩、硼酸2水素ホスホニウム塩および縮合燐酸酸性ホスホニウム塩を挙げることができる。
これらの具体的な例示化合物としては以下のごときものが例示される。
【0069】
燐酸水素ジホスホニウム塩の例:
燐酸水素ビス(テトラメチルホスホニウム)、燐酸水素ビス(テトラブチルホスホニウム)、燐酸水素ビス(テトラフェニルホスホニウム)、燐酸水素ビス[テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスホニウム]、燐酸水素ビス(テトラベンジルホスホニウム)、燐酸水素ビス(トリメチルベンジルホスホニウム)。
【0070】
燐酸2水素ホスホニウム塩の例:
燐酸2水素テトラメチルホスホニウム、燐酸2水素テトラブチルホスホニウム、燐酸2水素テトラヘキサデシルホスホニウム、燐酸2水素テトラベンジルホスホニウム、燐酸2水素トリメチルベンジルホスホニウム、燐酸2水素ジメチルジベンジルホスホニウム。
ホスホン酸水素ホスホニウム塩の例:
ベンゼンホスホン酸水素(テトラブチルホスホニウム)、ベンジルホスホン酸水素(テトラブチルホスホニウム)、オクタンホスホン酸酸性水素テトラメチルホスホニウム、メタンホスホン酸水素テトラブチルホスホニウム、ベンゼンホスホン酸水素テトラフェニルホスホニウム。
【0071】
亜燐酸水素ジホスホニウム塩の例:
亜燐酸水素ビス(テトラメチルホスホニウム)、亜燐酸水素ビス(テトラブチルホスホニウム)、亜燐酸水素ビス[テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスホニウム]、亜燐酸水素ビス(トリメチルベンジルホスホニウム)。
【0072】
亜燐酸2水素ホスホニウム塩の例:
亜燐酸2水素テトラメチルホスホニウム、亜燐酸2水素テトラブチルホスホニウム、亜燐酸2水素テトラヘキサデシルホスホニウム、亜燐酸2水素テトラフェニルホスホニウム、亜燐酸2水素トリメチルベンジルホスホニウム、亜燐酸2水素ジメチルジベンジルホスホニウム。
【0073】
亜ホスホン酸水素ホスホニウム塩の例:
ベンゼン亜ホスホン酸水素(テトラブチルホスホニウム)、オクタン亜ホスホン酸水素テトラメチルホスホニウム、トルエン亜ホスホン酸水素テトラエチルホスホニウム、メタン亜ホスホン酸水素テトラブチルホスホニウム、ヘキサン亜ホスホン酸水素テトラメチルホスホニウム。
【0074】
硼酸水素ジホスホニウム塩の例:
硼酸水素ビス(テトラベンジルホスホニウム)、硼酸水素ビス(トリメチルベンジルホスホニウム)、硼酸水素ビス(ジブチルジヘキサデシルホスホニウム)、硼酸水素(テトラデシルホスホニウム)(テトラメチルホスホニウム)。
【0075】
硼酸2水素ホスホニウム塩の例:
硼酸2水素テトラメチルホスホニウム、硼酸2水素テトラブチルホスホニウム、硼酸2水素テトラフェニルホスホニウム、硼酸2水素トリメチルベンジルホスホニウム。
【0076】
縮合燐酸酸性ホスホニウム塩の例:
ピロ燐酸3水素テトラブチルホスホニウム。
これらの特定燐酸酸性ホスホニウム塩のうち、燐酸水素ビス(テトラメチルホスホニウム)、燐酸水素ビス(テトラブチルホスホニウム)、燐酸2水素テトラメチルホスホニウム、燐酸2水素テトラブチルホスホニウム、亜燐酸水素ビス(テトラメチルホスホニウム)、亜燐酸水素ビス(テトラブチルホスホニウム)、亜燐酸2水素テトラメチルホスホニウム、亜燐酸2水素テトラブチルホスホニウム、硼酸水素ビス(テトラメチルホスホニウム)および硼酸2水素テトラメチルホスホニウムが特に好ましい。
【0077】
さらに本発明においては以下記載する、硫酸、亜硫酸、など各種酸性ホスホニウム塩を所望により併用してもよい。
硫酸酸性ホスホニウム塩としては、例えば硫酸水素テトラメチルホスホニウム、硫酸水素テトラブチルホスホニウム、硫酸水素テトラフェニルホスホニウムおよび硫酸水素トリメチルオクチルホスホニウムを挙げることができる。また亜硫酸酸性ホスホニウム塩としては、例えば亜硫酸水素テトラメチルホスホニウム、亜硫酸水素テトラフェニルホスホニウムおよび亜硫酸水素ベンジルトリメチルホスホニウムを挙げることができる。
【0078】
本発明の第1組成物には、これを用いて各種成形品を成形する場合に、用途に応じて従来公知の加工安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤などを添加してもよい。
とりわけ、熱安定剤としては、例えば亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル、あるいは立体障害フェノール、立体障害アミン等が挙げられる。さらに具体的には、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、4,4’−ビフェニレンジホスホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、トリメチルホスフェートおよびベンゼンホスホン酸ジメチル、5,7−ジ−t−ブチル−3−(3,4−ジメチルフェニル)−3H−ベンゾフラン−2−オン、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−t−ブチルー6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニル−アクリレートなどが好ましく使用される。これらの熱安定剤は、単独でもしくは2種以上一緒にして用いてもよい。かかる熱安定剤の配合量は、芳香族ポリカーボネート100重量部に対して0.0001〜1重量部が好ましく、0.0005〜0.5重量部がより好ましく、0.001〜0.1重量部がさらに好ましい。
【0079】
さらに、本発明の芳香族ポリカーボネートに本発明の目的を損わない範囲で、剛性などを改良するために、固体フィラー例えば無機および有機固体フィラーを配合することが可能である。かかる固体フィラーとしては、例えばタルク、マイカ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、酸化チタンのごとき板状または粒状の無機充填材;ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、ワラストナイト、カーボン繊維、アラミド繊維、金属系導電性繊維のごとき繊維状充填材;架橋アクリル粒子、架橋シリコーン粒子等の有機粒子を挙げることができる。これら固体フィラーの配合量は、芳香族ポリカーボネート100重量部に対して1〜150重量部が好ましく、3〜100重量部がさらに好ましい。
また、本発明で使用可能な無機充填材はシランカップリング剤等で表面処理されていてもよい。この表面処理により、芳香族ポリカーボネートの分解が抑制されるなど良好な結果が得られる。
【0080】
本発明の第1組成物には、さらに第1組成物の芳香族ポリカーボネートと異なる他の樹脂を本発明の目的が損われない範囲、すなわち第1組成物の芳香族ポリカーボネート100重量部に対して10〜150重量部で配合することもできる。
かかる他の樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、非晶性ポリアリレート樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂が挙げられる。
【0081】
上記ポリエステル樹脂とは、芳香族ジカルボン酸またはその反応性誘導体とジオール、またはそのエステル誘導体とを主成分とする縮合反応により得られる重合体ないしは共重合体である。具体的なポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン2,6−ナフタレート(PEN)、ポリブチレン2,6−ナフタレート(PBN)等の他、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート等のような共重合ポリエステルおよびこれらの混合物が好ましく挙げられる。
【0082】
ポリエステル樹脂の配合割合は特に制限はないが、両者の合計を基準にして、芳香族ポリカーボネート40〜91重量%、好ましくは50〜90重量%、ポリエステル樹脂60〜9重量%、好ましくは50〜10重量%となる割合である。芳香族ポリカーボネートの配合割合が40重量%未満であると耐衝撃性が不十分となり、91重量%よりも多くなると耐薬品性が不十分となり好ましくない。また、芳香族ポリカーボネート樹脂の諸特性を有効に利用するためには、ポリエステル樹脂は50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下とするのがよい。
上記ポリスチレン系樹脂とは、スチレン単量体と、必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル単量体およびゴム質重合体より選ばれる1種以上を重合して得られるポリマーである。
【0083】
スチレン単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等が挙げられる。
かかる他のビニル単量体としては、例えばアクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物、メチルアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル、マレイミド系単量体、α,β−不飽和カルボン酸およびその無水物が挙げられる。
かかるゴム質重合体としては、例えばポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体が挙げられる。
かかるポリスチレン系樹脂としては、従来公知のスチレン系樹脂が例示されるがこれらの中でもポリスチレン(PS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、メチルメタクリレート/ブタジエン/スチレン共重合体(MBS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)およびスチレン/IPN型ゴム共重合体等の樹脂、またはこれらの混合物が好ましく、ABS樹脂が最も好ましい。また、このようなポリスチレン系樹脂を2種以上混合して使用してもよい。
【0084】
ポリスチレン系樹脂の配合割合は特に制限はないが、芳香族ポリカーボネートとポリスチレン系樹脂の合計を100重量%とした時に、芳香族ポリカーボネートが40〜91重量%、好ましくは50〜90重量%、ポリスチレン樹脂60〜9重量%、好ましくは50〜10重量%となる割合である。芳香族ポリカーボネートの配合割合が40重量%未満であると耐衝撃性が不十分となり、91重量%よりも多くなると成形加工性が不十分となり好ましくない。また、芳香族ポリカーボネートの諸特性を有効に利用するためには、ポリスチレン樹脂は50重量%以下、好ましくは40重量%以下用いるのがよい。
【0085】
また、本発明における芳香族ポリカーボネートには耐衝撃性を向上させる目的でゴム状弾性体を添加することができる。かかるゴム状弾性体としては、上記ポリスチレン系樹脂とは異なり、ガラス転移温度が10℃以下のゴム成分に、スチレンのごとき芳香族ビニル、シアン化ビニル、メタクリル酸メチルのごとき(メタ)アクリル酸エステルおよびこれらと共重合可能なビニル化合物よりなる群から選択されるモノマーの1種または2種以上が共重合されたグラフト共重合体を挙げることができる。一方架橋構造を有しない熱可塑性エラストマーとして知られている各種、例えばポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリエーテルアミドエラストマー等を使用することも可能である。
ここでいうガラス転移温度が10℃以下のゴム成分としては、例えばブタジエンゴム、ブタジエン−アクリル複合ゴム、アクリルゴム、アクリル−シリコン複合ゴムを使用したゴム状弾性体が好ましい。
【0086】
かかるゴム状弾性体は市場により容易に入手することが可能である。例えばガラス転移温度が10℃以下のゴム成分として、ブタジエンゴムまたはブタジエン−アクリル複合ゴムを主体とするものとしては、例えば鐘淵化学工業(株)のカネエースBシリーズ、三菱レーヨン(株)のメタブレンCシリーズ、呉羽化学工業(株)のEXLシリーズ、HIAシリーズ、BTAシリーズ、KCAシリーズが挙げられる。ガラス転移温度が10℃以下のゴム成分としてアクリル−シリコン複合ゴムを主体とするものとしては、例えば三菱レーヨン(株)より市販のメタブレンS−2001あるいはRK−200が挙げられる。
かかるゴム状弾性体の配合量は芳香族ポリカーボネート100重量部に対して3〜40重量部であることが好ましい。
【0087】
本発明のポリカーボネートに前記の各成分を配合するには、任意の方法が採用される。例えばタンブラー、V型ブレンダー、スーパーミキサー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混錬ロール、押出機等で混合する方法が適宜用いられる。こうして得られる芳香族ポリカーボネート組成物(第1組成物)は、そのまままたは溶融押出機で一旦ペレット状にしてから、溶融押出法でシート化、あるいは射出成型法などにより、耐久性、安定性が良好な成形品を得ることができる。
【0088】
本発明の芳香族ポリカーボネートおよびその組成物は、上記のごとくラジカル量を特定値以下に抑えたことで、該ポリマーの色調、耐久性、特に厳しい温湿条件下での長時間の耐久性を保持する効果が得られる。該ポリマーを使用して得られたコンパクトディスク(CD)、CD−ROM、CD−R、CD−RW等、マグネット・オプティカルディスク(MO)等、デジタルバーサタイルディスク(DVD−ROM、DVD−Video、DVD−Audio、DVD−R、DVD−RAM等)で代表される高密度光ディスク用の基板は長期に渡って高い信頼性が得られる。特にデジタルバーサタイルディスクの高密度光ディスクの基板に有用である。
これらの光ディスク基板に有用なのは本発明の芳香族ポリカーボネートからなる光ディスク基板のラジカル濃度を1×1015(個/g)以下に抑えたからであり、また本発明の芳香族ポリカーボネート組成物からなる光ディスク基板のラジカル濃度を1×1015(個/g)以下に抑えることが可能になったためである。
【0089】
本発明の芳香族ポリカーボネートおよびその組成物からのシートは、接着性や印刷性の優れたシートであり、その特性を生かして電気部品、建材部品、自動車部品等に広く利用される。具体的には各種窓材すなわち一般家屋、体育館、野球ドーム、車両(建設機械、自動車、バス、新幹線、電車車両等)等の窓材のグレージング製品、また各種側壁板(スカイドーム、トップライト、アーケード、マンションの腰板、道路側壁板)、車両等の窓材、OA機器のディスプレイやタッチパネル、メンブレンスイッチ、写真カバー、水槽用ポリカーボネート樹脂積層板、プロジェクションテレビやプラズマディスプレイの前面板やフレンネルレンズ、光カード、光ディスクや偏光板との組合せによる液晶セル、位相差補正板等の光学用途等に有用である。かかるシートの厚みは通常0.1〜10mm、好ましくは0.2〜8mm、0.2〜3mmが特に好ましい。また、かかるシートに、新たな機能を付加する各種加工処理(耐候性を改良するための各種ラミネート処理、表面硬度改良のための耐擦傷性改良処理、表面のしぼ加工、半および不透明化加工等)を施してもよい。
【0090】
本発明の芳香族ポリカーボネートおよびその組成物から押出し成形法、射出成型法などにより、耐久性、安定性が良好な成形品を得ることができる。
【0091】
本発明の芳香族ポリカーボネートおよびその組成物はいかなる用途に使用してもよく、例えば電子・通信器材、OA機器、レンズ、プリズム、光ディスク基板、光ファイバーなどの光学部品、家庭電器、照明部材、重電部材などの電子・電機材料、車両内外装、精密機械、絶縁材などの機械材料、医療材料、保安・保護材料、スポーツレジャー用品、家庭用品などの雑貨材料、容器・包装材料、表示・装飾材料など、また他の樹脂や有機・無機材料との複合材料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0092】
分析
1)ポリカーボネートの固有粘度[η];
塩化メチレン中、20℃で、ウベローデ粘度管にて測定した。また固有粘度より粘度平均分子量(Mw)は次式により計算した。
[η]=1.23×10−4Mw0.83
【0093】
2)末端基濃度;
サンプル0.02gを0.4mlの重水素化クロロフォルムに溶解し、20℃でH−NMR(日本電子社製EX−270)を用いて、末端のフェノール性水酸基数およびフェノール性末端基濃度を測定した。またアリールオキシ基数は次式により求めた全末端基数とフェノール性水酸基数の差として計算した。
全末端基数=56.54/[η]1.4338
【0094】
3)溶融粘度安定性;
レオメトリックス社のRAA型流動解析装置を用い、窒素気流下、剪断速度1rad./sec.300℃で測定した溶融粘度の変化の絶対値を30分間測定し、1分当りの変化率を求めた。
本発明のポリカーボネートおよびその組成物の短期、長期安定性が良好であるためには、この値が0.5%を超えてはならない。特に、この値が0.5%を超えた場合、組成物の加水分解安定性が不良となる。この値は加水分解安定性の良好、不良の判定として使用した。
【0095】
4)ラジカル濃度;
芳香族ポリカーボネート試料より約3mm×17mm×2mmの測定試料を切り出し室温で、以下の測定装置、条件でラジカル濃度を測定した。
装置;Bruker社製 ESP350E
付属装置
マイクロ波周波数カウンター HP5351B(HEWLETT PACKEARD社製)
ガウスメーター ER035(BRUKER社製)
クライオスタット ESR910(OXFORD社製)
測定条件;
磁場範囲 331.7〜341.7mT
モジュレーション 100kHz 0.5mT
マイクロ波出力 9.44GHz,1.0mW
掃引時間 83.886s×16times
時定数 327.68ms
データポイント数 1048points
キャビティー TM110円筒型
【0096】
5)芳香族ポリカーボネートの耐久性(湿熱耐久性);
長時間の厳しい温度、湿度条件下での芳香族ポリカーボネートの耐久性を試験するために、85℃、相対湿度90%で1000時間保持したものを各ポリマーにつき10検体用意し、各々以下の測定を行った、
【0097】
5)−1 色相の悪化;
ポリマーペレットの色相を日本電色(株)製Z−1001DP色差計により測定した。10検体のL値、b値を求めその平均値を算出した。
L値が高いほど明度が高く、b値が0に近いほど黄色着色が少なくこのましいことを示す。
耐久テスト後のb値の悪化、すなわち表中のΔb(耐久テスト後のb値−耐久テスト前のb値)およびb値のばらつき、すなわち表中のΔb(Max−Min)(10検体中Δbの最大値と最小値の差)が0〜1であれば厳しい湿温度条件下での長時間使用においても所望の色相安定性を有しているものと評価した。
【0098】
5)−2 透明性;
50×50×2mmの色見本板を住友重機(株)製ネオマットN150/75射出成型機によりシリンダー温度280℃、成型サイクル3.5秒で成型し、平板の全光線透過率を日本電色製の(株)NDH−Σ80により測定した。
全光線透過率が高いほど透明性がよいことを示し、耐久テスト後、90%以上あれば厳しい湿温度条件下での長時間使用においても所望の透明性を維持しているものと評価した。
【0099】
5)−3 耐衝撃性の湿熱安定性;
アイゾット衝撃強度ASTM D256(ノッチつき)によって評価した。ポリカーボネートを高真空下12時間乾燥したのち、金型で3.2mmの射出成型試験片を作成した。これを使用し湿熱劣化後アイゾット衝撃強度の保持率を求めた。
保持率が90%以上あれば厳しい湿温度条件下での長時間使用においても所望の強度を維持しているものと評価した。
【0100】
6)組成物ペレットの作成およびディスク基板の成型評価;
溶融重合後の芳香族ポリカーボネートをギアポンプで移送し、表2−2記載の添加剤をベント式二軸押出機[神戸製鋼(株)製 KTX−46]の直前で添加、シリンダー温度240℃で脱気しながら溶融混練し、ペレットを製造した。このペレットを用いてDVD(DVD−Video)ディスク基板を製造しディスク基板の湿熱劣化試験に供した。
ディスク基板の成形条件
射出成型機(住友重機械工業製 DISK3 M III)にDVD専用の金型を取り付け、この金型にアドレス信号等の情報の入ったニッケル製のDVD用スタンパーを装着し上記ペレットを自動搬送にて成形機のホッパに投入し、シリンダー温度380℃、金型温度115℃、射出速度200mm/sec、保持圧力3432KPa(35kgf/cm)の条件で直径120mm、肉厚0.6mmのDVDディスク基板を成形した。
【0101】
7)滞留焼け評価;
成形加工時の着色安定性のパラメーターとして滞留焼けを測定した。
滞留焼け評価
住友重機(株)製ネオマットN150/75射出成型機によりシリンダー温度380℃、金型温度80℃で成形した50×50×2mmの色見本板の色相(カラー:L,a,b)とシリンダー中380℃×10分間滞留させた後成形して得た色見本板の色相(カラー:L’,a’,b’)を日本電色(株)製のZ−1001DP色差計色差計で測定し、下記式にて表すΔEにより滞留焼けを評価した。
ΔE=〔(L−L’)+(a−a’)+(b−b’)1/2
ΔE値は分子量低下の大きさとも関係する一方、成形品の官能テストを大きく左右する。
ΔE値として3を超えるものは成形品の色相を大幅に悪化し、芳香族ポリカーボネートの場合は黄色味の強い成形品が得られる可能性が大きいため、不良と判定、2.5〜3.0のもの;合格○、2.0〜2.5未満のもの;良好合格○、2未満のもの;優秀合格◎と判定した。なおこの数は小さいほど良好であり、2より1.9がさらに好ましいことは当然のことである。
【0102】
原料精製例
1)ビスフェノールA(以下BPAと略称することがある。)
市販ビスフェノールAを5倍量のフェノールに溶解、40℃でビスフェノールAとフェノールとのアダクト結晶を作成、得られたアダクト結晶を5.3KPa(40Torr)、180℃でビスフェノールA中のフェノール濃度が3%になるまでフェノールを除去し、ついでスチームストリッピングによりフェノールを除去した。ついで減圧装置、冷却装置を備えた容器に上記ビスフェノールAを仕込み、窒素雰囲気下で圧力13.3Pa(0.1Torr)、温度139℃で昇華して精製した。昇華精製を2回繰返し行い精製ビスフェノールAを得た。
【0103】
2)ジフェニルカーボネート(以下DPCと略称することがある。)
原料ジフェニルカーボネートを“プラスチック材料講座 17 ポリカーボネート 著者 立川利久ほか (日刊工業出版社)45ページ”記載の方法に従い、温水(50℃)洗浄を3回繰返し、乾燥後減圧処理を行い167〜168℃/2.000KPa(15mmHg)の留分を採取し、さらに上記昇華精製を行いジフェニルカーボネートの精製物を得た。
下記表1に原料、および精製物における金属不純物量を示す。
【0104】
【表1】

【0105】
実施例1
芳香族ポリカーボネートの製造は以下のように行った。
【0106】
攪拌装置、精留塔および減圧装置および加圧装置を備えた反応槽に、原料として精製BPAを137重量部、および精製DPCを133重量部、重合触媒としてビスフェノールAジナトリウム塩(以後BPANa2塩と略称することがある。)4.1×10−5重量部、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(以後TMAHと略称することがある)5.5×10−3重量部を仕込んで窒素雰囲気1下80℃で溶融した。
【0107】
40RPMの回転速度で攪拌下、反応槽内を13.33KPa(100mmHg)に減圧し、生成するフェノールを留去しながら20分間反応させた。次に200℃に昇温した後、徐々に減圧し、フェノールを留去しながら4.000KPa(30mmHg)で20分間反応させた。さらに徐々に昇温、220℃で20分間、240℃で20分間、260℃で20分間反応させ、その後、270℃で30RPMの回転速度で攪拌しつつ、徐々に減圧し2.666KPa(20mmHg)で10分間、1.333KPa(10mmHg)で5分間反応を続行した。ついで重合反応装置内部でもっとも温度の上昇する攪拌翼と反応槽とのせん断部の温度を320℃以下に保つため、回転動力と粘度平均分子量との関係より粘度平均分子量が10000になった時点で回転速度を20RPMに変更し、最終的に270℃/66.7Pa(0.5mmHg)で粘度平均分子量が15300になるまで反応せしめた。その後減圧を緩め窒素ガスで15MPa(15atm)に加圧しそれにドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩を3.6×10−4重量部加え、260℃で10分間攪拌した。次いで加圧を除き、ギアポンプで移送、ペレット化した。
最終的に、粘度平均分子量が15300、フェノール性末端基濃度87(eq/ton・ポリカーボネート)、フェノキシ末端基濃度152(eq/ton・ポリカーボネート)、溶融粘度安定性0%のポリカーボネートを得た。
【0108】
比較例1
攪拌装置、精留塔および減圧装置を備えた反応槽に、原料として精製BPAを137重量部、および精製DPCを133重量部、重合触媒としてビスフェノールAジナトリウム塩を4.1×10−5重量部、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドを5.5×10−3重量部を仕込んで窒素雰囲気下180℃で溶融した。
40RPMの回転速度で攪拌下、反応槽内を13.33KPa(100mmHg)に減圧し、生成するフェノールを留去しながら20分間反応させた。次に200℃に昇温した後、徐々に減圧し、フェノールを留去しながら4.000KPa(30mmHg)で20分間反応させた。
【0109】
さらに除々に昇温し、220℃で20分間、240℃で20分間、260℃で20分間反応させ、その後270℃でも攪拌速度を40RPMのままで攪拌しつつ、徐々に減圧し2.666KPa(20mmHg)で10分間、1.333KPa(10mmHg)で5分間反応を続行した。回転動力と粘度平均分子量との関係より粘度平均分子量が10000になった時点でも回転速度を40RPMのままで攪拌した。重合反応装置内部で最も温度の上昇する攪拌翼と反応槽とのせん断部の温度が340℃に上昇したが、そのまま反応を続行し、最終的に270℃/66.7Pa(0.5mmHg)で粘度平均分子量が15300になるまで反応せしめた。その後加圧操作を加えること無く、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩を3.6×10−4重量部加え、270℃/66.7Pa(0.5mmHg)で10分間混練した。
【0110】
以下実施例1と同様の操作にて、ペレット化した。最終的に、粘度平均分子量が15300、フェノール性末端基濃度85(eq/ton・ポリカーボネート)、フェノキシ末端基濃度154(eq/ton・ポリカーボネート)、溶融粘度安定性0%のポリカーボネートを得た。
【0111】
実施例2
実施例1において270℃で攪拌速度を30rpmに変更した時点でラジカルスカベンジャーとして住友化学(株)製スミライザーSM;0.05重量部を添加、さらに攪拌しつつ徐々に減圧し2.666KPa(20mmHg)で10分間、1.333KPa(10mmHg)で5分間反応を続行した。ついで重合反応装置内部でもっとも温度の上昇する攪拌翼と反応槽とのせん断部の温度を320℃以下に保つため、回転動力と粘度平均分子量との関係より粘度平均分子量が8000になった時点で回転速度を20RPMに変更し、最終的に270℃/66.7Pa(0.5mmHg)で粘度平均分子量が15300になるまで反応せしめた。その後減圧を緩め窒素ガスで1.5MPa(15atm)に加圧しドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩を3.6×10−4重量部加え260℃で10分間攪拌した。以下、実施例1と同様の操作でペレット化した。
最終的に、粘度平均分子量が15300、フェノール性末端基濃度85(eq/ton・ポリカーボネート)、フェノキシ末端基濃度154(eq/ton・ポリカーボネート)、溶融粘度安定性0%のポリカーボネートを得た。
【0112】
実施例3
実施例1で得られた芳香族ポリカーボネートを電子工業用高純度N−メチルピロリドン(以下NMPと略称することがある。)。1.5×10重量部に溶解した後電子工業用高純度メタノール1.1×10重量部を徐々に加えて、沈殿したポリマーを濾別し、さらに当量のメタノールで洗浄を2回繰返した。ついで13.3Pa(0.1mmHg)、100℃で脱溶媒、乾燥した。
得られたポリカーボネートの粘度平均分子量は15300、フェノール性末端基濃度84(eq/ton・ポリカーボネート)、フェノキシ末端基濃度155(eq/ton・ポリカーボネート)溶融粘度安定性は0%であった。
【0113】
実施例4、5
実施例1においてビスフェノールAジナトリウム塩を4.1×10−5重量部に替え、各々水酸化ルビジウム3.1×10−5重量部、水酸化セシウム4.5×10−5重量部を使用し重合を行った。またドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩を3.6×10−4重量部加え、実施例1と同様の操作にてペレット化した。
得られたポリカーボネートの物性は実施例4は粘度平均分子量は15300、フェノール性末端基濃度84(eq/ton・ポリカーボネート)、フェノキシ末端基濃度155(eq/ton・ポリカーボネート)、溶融粘度安定性は0%であった。実施例5は粘度平均分子量は15300、フェノール性末端基濃度82(eq/ton・ポリカーボネート)、フェノキシ末端基濃度157(eq/ton・ポリカーボネート)、溶融粘度安定性は0%であった。
【0114】
実施例6、7、比較例2
実施例1、2および比較例1、各々において、粘度平均分子量が22500になるまで重合を継続し、粘度平均分子量が22500になった時点で末端封止剤2−メトキシカルボニルフェニルーフェニルカーボネート(以後SAMと略称することがある。)を2.1重量部添加し、ついで265℃/66.7Pa(0.5mmHg)で10分間攪拌した。その後実施例6と7については、減圧を緩め窒素ガスで1.5MPa(15atm)に加圧し、比較例2においては、窒素ガスによる加圧操作を加えることなく、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩を3.6×10−4重量部加え260℃で10分間攪拌した。次いでギアポンプで移送、ペレット化した。
最終的に各々粘度平均分子量22500、フェノール性末端基濃度30、28、29(eq/ton・ポリカーボネート)、フェノキシ末端基濃度120、122、121(eq/ton・ポリカーボネート)、溶融粘度安定性はすべて0%であった。
実施例1〜7および比較例1〜2で得られた芳香族ポリカーボネートについて上記方法により評価した結果を下記表2に示す。
【0115】
【表2】

【0116】
【表3】

【0117】
実施例8〜9および比較例3
上記実施例1〜2および比較例1の芳香族ポリカーボネートにトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトを0.01重量%、ステアリン酸モノグリセリドを0.08重量%添加した。
次にかかる組成物をベント式二軸押出機[神戸製鋼(株)製 KTX−46]によりシリンダー温度240℃で脱気しながら溶融混練し、ペレットを製造した。
このペレットの物性を表3に示した。このペレットを用いてDVD(DVD−Video)ディスク基板を製造しディスク基板の湿熱劣化試験に供した。
【0118】
ディスク基板の湿熱劣化試験
長時間で激しい温度、湿度条件での光ディスクの信頼性を試験するために、芳香族ポリカーボネート光ディスク基板を温度80℃、相対湿度85%で1000時間保持した後、以下の測定により基板を評価した。
白点発生数:偏光顕微鏡を用いて湿熱劣化試験後の光ディスク基板を観察し、20μm以上の白く見える、白点の発生数を計測した。これを25枚の光ディスク基板について行いその平均値を求め、これを白点数とした。
その結果実施例8,9および比較例3のラジカル量、ラジカル濃度および白点発生数は各々、250、8×1014個/g・ポリカーボネート、0.2個/枚、および300、6.5×1014個/g・ポリカーボネート、0.1個/枚、および800、2.2×1015個/g・ポリカーボネート、2.5個/枚であった。
【0119】
実施例10〜15および比較例4
上記実施例1および比較例1で得られた芳香族ポリカーボネートを直接ギアポンプでベント式二軸押出機(神戸製鋼(株)製 KTX−46)に移送し、シリンダー温度240℃でポリカーボネート100重量部当り表3中に記載の一連の添加物を添加し、脱気しながら溶融混練し、ペレットを製造した。なお実施例10〜15では実施例1の芳香族ポリカーボネートを、比較例4では比較例1の芳香族ポリカーボネートを用いた。得られたポリカーボネートペレットにつき初期物性、および滞留焼けテストおよび湿熱耐久テスト後の物性を表3中に記載する。
【0120】
A)高級脂肪酸と多価アルコールの部分エステル;
A1:グリセロールモノステアレート、 A2:グリセロールモノラウレート
A3:グリセロールモノパルミテート、 A4:プロピレングリコールモノステアレート
A5:ペンタエリスリトールモノステアレート
A6:ペンタエリスリトールジラウレート
B)ラジカルスカベンジャー;
B1:スミライザーGM, B2:スミライザーGS(住友化学製)
B3:Irganox HP 2215 (チバスペシャリティーケミカル製)
C)特定燐酸酸性ホスホニウム化合物;
C1:燐酸2水素テトラブチルホスホニウム、
C2:燐酸1水素ビス(テトラメチルホスホニウム)
C3:亜燐酸2水素テトラメチルホスホニウム、
C4:ベンゼンホスホン酸1水素テトラブチルホスホニウム
D)青み着色剤;
D1:プラストバイオレット 8840 (有本化学製)
【0121】
実施例16および比較例5
実施例4および比較例2にて得たポリカーボネートに実施例8、および比較例3と同様にして表3中に記載の上記一連の添加物を添加し脱気しながら溶融混練し、ペレットを製造した。得られたポリカーボネートペレットの初期物性、および滞留焼けテストおよび湿熱耐久テスト後の物性を表3中に記載する。
【0122】
【表4】

【0123】
【表5】

【0124】
剤の名称と略号
多価アルコールと脂肪酸の部分エステル A1:グリセロールモノステアレート、
A2:グリセロールモノラウレート、
A3:グリセロールモノパルミテート、
A4:プロピレングリコールモノステアレート、
A5:ペンタエリスリトールモノステアレート、
A6:ペンタエリスリトールジラウレート
ラジカル捕捉剤 B1:スミライザーGM、
B2:スミライザーGS、
B3:IRGANOX HP 2215
酸性ホスホニウム塩 C1:燐酸2水素テトラブチルホスホニウム、
C2:燐酸1水素ビス(テトラメチルホスホニウム)、
C3:亜燐酸2水素テトラメチルホスホニウム
C4:ベンゼンホスホン酸1水素テトラブチルホスホニウム
青み着色剤 D1:有本化学(株)製 プラストバイオレット 8840

【0125】
シート評価例
実施例17
上記実施例4の芳香族ポリカーボネートペレットを溶融し、ギアポンプで定量供給し成形機のTダイに送った。ギアポンプの手前からトリスノニルフェニルホスファイトを0.003wt%となるように添加し、鏡面冷却ロールと鏡面ロールで挟持または片面タッチで厚さ2mmまたは0.2mm、幅800mmのシートに溶融押出しを行った。
得られた芳香族ポリカーボネートシート(2mm厚み)の片面に可視光硬化型プラスチック接着剤((株)アーデル BENEFIX PC)を塗布し、同じシートを気泡が入らないように、一方に押し出すようにしながら積層後、可視光線専用メタルハライドランプを備えた光硬化装置により5,000mJ/cmの光を照射して得られた積層板の接着強度をJIS K−6852(接着剤の圧縮せん断接着強さ試験方法)に準拠して測定した結果、接着強度が10.2MPa(104Kgf/cm)で良好であった。
一方、厚み0.2mmの芳香族ポリカーボネートシートに、インキ(ナツダ 70−9132:色 136Dスモーク)および溶剤(イソホロン/シクロヘキサン/イソブタノール=40/40/20(wt%))を混合させて均一にし、シルクスクリーン印刷機で印刷を行い、100℃で60分間乾燥させた。印刷されたインキ面には転移不良もなく、良好な印刷であった。
【0126】
別に、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンとホスゲンとを通常の界面重縮合反応させて得られたポリカーボネート樹脂(比粘度0.895、Tg175℃)30部、染料としてPlast Red 8370(有本化学工業製)15部、溶剤としてジオキサン130部を混合した印刷用インキで印刷されたシート(厚み0.2mm)を射出成形金型内に装着し、ポリカーボネート樹脂ペレット(パンライトL−1225 帝人化成製)を用いて310℃の成形温度でインサート成形を行った。インサート成形後の成形品の印刷部パターンに滲みやぼやけ等の異常もなく、良好な印刷部外観を有したインサート成形品が得られた。
【0127】
ポリマーブレンドコンパウンドの評価
実施例18〜24
上記実施例5の芳香族ポリカーボネートにグリセロールモノステアレートを500ppm加えた。この組成物は磁場3290Gにピークを有し、ラジカル量は200であり、ラジカル濃度は300×1012個/gであった。さらに該組成物の重量を100%としてトリスノニルフェニルホスファイトを0.003重量%、トリメチルホスフェートを0.05重量%、および表4、5記載の下記記号で示した各成分を、タンブラーを使用して均一に混合した後、30mmφベント付き二軸押出機(神戸製鋼(株)製KTX−30)により、シリンダー温度260℃、1.33KPa(10mmHg)の真空度で脱気しながらペレット化し、得られたペレットを120℃で5時間乾燥後、射出成型機(住友重機械工業(株)製SG150U型)を使用して、シリンダー温度270℃、金型温度80℃の条件で測定用の成形片を作成し、下記の評価を実施した結果を表4,5に示す。
【0128】
(1)−1 ABS:スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体;
サンタックUT−61;三井化学(株)製
(1)−2 AS:スチレン−アクリロニトリル共重合体;
スタイラック−AS 767 R27;旭化成工業(株)製
(1)−3 PET:ポリエチレンテレフタレート;
TR−8580 固有粘度0.8;帝人(株)製
(1)−4 PBT:ポリブチレンテレフタレート;
TRB−H 固有粘度1.07;帝人(株)製
(2)−1 MBS:メチル(メタ)アクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体;
カネエースB−56;鐘淵化学工業(株)製
(2)−2 E−1:ブタジエン−アルキルアクリレート−アルキルメタアクリレート共重合体;パラロイドEXL−2602;呉羽化学工業(株)製
(2)−3 E−2:ポリオルガノシロキサン成分およびポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分が相互侵入網目構造を有している複合ゴム;メタブレンS−2001;三菱レイヨン(株)製
(3)−1 T:タルク;HS−T0.8;林化成(株)製、
レーザー回折法により測定された平均粒子径L=5μm、L/D=8
(3)−2 G:ガラス繊維;チョップドストランドECS−03T−511
ウレタン集束処理、繊維径13μm;日本電気硝子(株)製、
(3)−3 W:ワラストナイト;サイカテックNN−4;巴工業(株)製、
電子顕微鏡観察により求められた数平均の平均繊維径D=1.5μm、平均繊維長17μm、アスペクト比L/D=20
(4) WAX:α−オレフィンと無水マレイン酸との共重合によるオレフィン系ワックス;ダイヤカルナ−P30;(無水マレイン酸含有量=10wt%)三菱化成(株)製
【0129】
測定法
(A)曲げ弾性率
ASTM D790により、曲げ弾性率を測定した。
(B)ノッチ付衝撃値
ASTM D256により厚み3.2mmの試験片を用いノッチ側からおもりを衝撃させ衝撃値を測定した。
(C)流動性
シリンダー温度250℃、金型温度80℃、射出圧力98.1MPaでアルキメデス型スパイラルフロー(厚さ2mm、幅8mm)により流動性を測定した。
(D)耐薬品性
ASTM D638にて使用する引張り試験片に1%歪みを付加し、30℃のエッソレギュラーガソリンに3分間浸漬した後、引張り強度を測定し保持率を算出した。保持率は下記式により計算した。
保持率(%)=(処理サンプルの強度/未処理サンプルの強度)×100
【0130】
【表6】

【0131】
【表7】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)主たる繰返し単位が下記式(a)
【化1】

ここで、R、R、RおよびRは互いに独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、シクロアルキル基、または炭素数7〜10のアラルキル基でありそしてWは炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数2〜10のアルキリデン基、炭素数6〜10のシクロアルキレン基、炭素数6〜10のシクロアルキリデン基、炭素数8〜15のアルキレン−アリーレン−アルキレン基、酸素原子、硫黄原子、スルホキシド基、スルホン基または単結合である、
で表され、
(B)粘度平均分子量が10,000〜100,000の範囲にあり、
(C)末端基が実質的にアリールオキシ基とフェノール性水酸基からなりそしてアリールオキシ基対フェノール性水酸基のモル比が97/3〜40/60の範囲にあり、
(D)溶融粘度安定性が0.5%以下であり、そして
(E2)ラジカル濃度が1×1015(個/g・ポリカーボネート)以下である、
ことを特徴とする芳香族ポリカーボネート。
【請求項2】
ラジカル濃度が1×1012〜6×1014(個/g・ポリカーボネート)の範囲にある請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート。
【請求項3】
芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルをエステル交換触媒の存在下に溶融重合せしめて得られた請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート。
【請求項4】
380℃で10分間溶融保持した後において、ラジカル濃度が2×1015(個/g・ポリカーボネート)以下である請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート。
【請求項5】
芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを、リチウム化合物、ルビジウム化合物およびセシウム化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のエステル交換触媒の存在下に溶融重合せしめて得られた請求項4に記載の芳香族ポリカーボネート。
【請求項6】
(1)請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート100重量部および
(2)炭素数8〜25の高級脂肪酸と多価アルコールの部分エステル5×10−3〜2×10−1重量部からなり、
(3)−2 ラジカル濃度が1×1015(個/g・ポリカーボネート)以下でありそして
(4)−2 380℃で10分間溶融保持した後において、ラジカル濃度が2×1015(個/g・ポリカーボネート)以下である、
ことを特徴とする芳香族ポリカーボネート組成物。
【請求項7】
芳香族ポリカーボネートが芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを、リチウム化合物、ルビジウム化合物およびセシウム化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のエステル交換触媒の存在下に溶融重合せしめて得られたものである請求項6に記載の芳香族ポリカーボネート組成物。
【請求項8】
ブルーイング剤を1×10−7〜1×10−2重量部さらに含有する請求項6に記載の芳香族ポリカーボネート組成物。
【請求項9】
固体フィラーを1〜150重量部さらに含有する請求項6に記載の芳香族ポリカーボネート組成物。
【請求項10】
上記芳香族ポリカーボネートと異なる熱可塑性樹脂を10〜150重量部さらに含有する請求項6に記載の芳香族ポリカーボネート組成物。
【請求項11】
請求項1の芳香族ポリカーボネートからなるラジカル濃度1×1015個/g以下である光ディスク基板。
【請求項12】
請求項6の芳香族ポリカーボネート組成物からなるラジカル濃度1×1015個/g以下である光ディスク基板。
【請求項13】
請求項1の芳香族ポリカーボネートの光ディスク基板の素材としての使用。
【請求項14】
請求項6の芳香族ポリカーボネート組成物の光ディスク基板の素材としての使用。


【図1】
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【公開番号】特開2012−41548(P2012−41548A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231813(P2011−231813)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【分割の表示】特願2002−500981(P2002−500981)の分割
【原出願日】平成13年5月30日(2001.5.30)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】