説明

芳香族ポリカーボネート樹脂組成物および成形体

【課題】ポリカーボネート樹脂本来の特性を維持し、薄肉の成形体であっても光線反射率、難燃性、耐衝撃性、更には熱安定性に優れ、良好な外観を有する製品が得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、酸化チタンをアルミナ系表面処理剤およびオルガノシロキサン系表面処理剤で表面処理してなる酸化チタン系添加剤(B)3〜30質量部と、芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)0.01〜1.0質量部と、ポリフルオロエチレン(D)0.01〜1.5質量部とを含有して成り、芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)の芳香族環は、置換基を有さないか、或いは置換基として炭素数1〜4のアルキル基のみを有し、芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)の水溶液中でのpHが6.0〜8.5であることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタンと特定の水素イオン濃度指数範囲の芳香族スルホン酸金属塩の併用で熱安定性が改善されると共に、ポリフルオロエチレンの配合により難燃性が改善された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物と、これを成形してなる芳香族ポリカーボネート樹脂成形体、具体的には光反射部材に関する。詳しくは、本発明は、ポリカーボネート樹脂本来の特性を維持しつつ、優れた光線反射率、遮光性、耐光性、色相等の光学特性、更には熱安定性、難燃性を有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物とその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、汎用エンジニアリングプラスチックとして透明性、機械的強度、電気的性質、耐熱性、寸法安定性などに優れているので、電気・電子機器部品、OA機器、機械部品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類などの幅広い分野で使用されている。
【0003】
これらの使用分野の中で、薄膜トランジスタ(TFT)を初めとする、コンピュータやテレビ等の情報表示装置では、液晶表示装置のバックライト用反射板、照光式プッシュスイッチや光電スイッチの反射板など、高度の光線反射率が要求される反射板を組み込んだ表示装置が一般的になりつつある。
【0004】
これらの高度の光線反射率が要求される光反射部材は、光反射性、成形性、衝撃強度の点から酸化チタン等の微粒子含有量の多いポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体等が使用されている。
【0005】
一方で、ポリカーボネート樹脂組成物からなる光反射部材にあっては、樹脂材料の難燃化の要望が強く、これらの要望に応えるために、芳香族ポリカーボネート樹脂に、ハロゲン系化合物、リン系化合物、シロキサン系化合物、ポリフルオロエチレン等を配合して難燃化する技術が多数提案されている。最近では、環境に対する配慮から、臭素系難燃剤あるいはリン系難燃剤を使用せず、他の難燃剤を用いた難燃性樹脂組成物が望まれている。
【0006】
例えば、特許文献1には、ポリカーボネート樹脂に難燃剤としての芳香族スルホン酸ナトリウムと、ポリテトラフルオロエチレンを配合してなる樹脂組成物について記載されている。しかしながら、特許文献1では、酸化チタンの添加がないことから、反射特性および薄肉での難燃性に劣るため、難燃性光反射材料として充分なものとはいえない。
【0007】
特許文献2には、ポリカーボネート樹脂(A)にpH6.4〜7.5である芳香族スルホン酸金属塩(具体的には、分岐化ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩)(B)とポリテトラフルオロエチレンを配合した樹脂組成物について記載されている。しかしながら、この特許文献2でも、酸化チタンの添加がないため、1.5mmより薄い厚みでの燃焼性がV−0にならず、薄肉用途には適さない。
【0008】
これに対して、有機金属塩および酸化チタンを併用した難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の例として、特許文献3,4が挙げられるが、以下のように、いずれも十分な性能を有するものではない。
【0009】
即ち、特許文献3には、(A)ポリカーボネート樹脂に、(B)酸化チタンと(C)アルキルベンゼンスルホン酸系帯電防止剤1〜8重量部(質量部)を添加した樹脂組成物について記載されている。しかしながら、この特許文献3では、アルカリ金属塩の添加量が多いため、成形時にポリカーボネート樹脂組成物の分子量低下が大きく、成形性および難燃性能が低下する。
【0010】
特許文献4には、ポリカーボネート樹脂(A)にポリテトラフルオロエチレン(B)、有機金属塩(E)、およびシリコーン化合物(D)と、更に特定の酸化チタン(C)を加えた樹脂組成物について記載されている。しかしながら、この特許文献4では、シルバーストリークスのような外観不良は、むしろ酸化チタンの二次凝集の状態に大きく依存し、請求項に記載の酸化チタンでは満足な結果は得られない。さらにシリコーン化合物の添加により、外観不良が発生しやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−239509号公報
【特許文献2】特開2007−119554号公報
【特許文献3】特開平11−181267号公報
【特許文献4】特開2006−241262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、ポリカーボネート樹脂本来の特性を維持し、薄肉の成形体であっても光線反射率、難燃性、耐衝撃性、更には熱安定性に優れ、良好な外観を有する製品が得られるポリカーボネート樹脂組成物、およびこれを成形してなる樹脂成形体、具体的には光反射部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決するため、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の配合成分について鋭意検討した。そして、難燃剤としての芳香族スルホン酸金属塩の水素イオン濃度指数に着目し、この値を制御すると共に、酸化チタンとポリフルオロエチレンを組合わせて配合することにより、光線反射率、難燃性、耐衝撃性、および熱安定性に優れ、良好な外観を有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物および光反射部材等の成形体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
即ち、本発明の要旨は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、酸化チタンをアルミナ系表面処理剤およびオルガノシロキサン系表面処理剤で表面処理してなる酸化チタン系添加剤(B)3〜30質量部と、芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)0.01〜1.0質量部と、ポリフルオロエチレン(D)0.01〜1.5質量部とを含有して成り、芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)の芳香族環は、置換基を有さないか、或いは置換基として炭素数1〜4のアルキル基のみを有し、芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)の水溶液中でのpHが6.0〜8.5であることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物と、この芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から得られた成形体、に存する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、耐光性、遮光性、光線反射性、色相、難燃性、成形安定性に優れる上に、芳香族ポリカーボネート樹脂が本来有する耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性、外観特性等をも同時に維持している。よって、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる本発明の成形体は、これらの特長を生かして、液晶表示装置のバックライト用光線反射板、光反射枠又は光反射シート、電気・電子機器、広告灯などの照明用装置、自動車用メーターパネルなどの自動車用機器などの光反射部材として幅広く使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
[芳香族ポリカーボネート樹脂組成物]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、酸化チタンをアルミナ系表面処理剤およびオルガノシロキサン系表面処理剤で表面処理してなる酸化チタン系添加剤(B)3〜30質量部と、芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)0.01〜1.0質量部と、ポリフルオロエチレン(D)0.01〜1.5質量部とを含有して成り、芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)の芳香族環は、置換基を有さないか、或いは置換基として炭素数1〜4のアルキル基のみを有し、芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)の水溶液中でのpHが6.0〜8.5であることを特徴とする。
【0018】
<芳香族ポリカーボネート樹脂(A)>
本発明に使用される芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、芳香族ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性重合体又は共重合体である。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができる。また、溶融法を用いた場合には、末端基のOH基量を調整したポリカーボネート樹脂を使用することができる。
【0019】
原料の芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。また、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することもできる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、上述した芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を、以下の分岐剤、即ち、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニルヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物や、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチン、5,7−ジクロルイサチン、5−ブロムイサチン等の化合物で置換すればよい。これらの分岐剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これら分岐剤の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、0.01〜10モル%であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0021】
また、芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量を調節するには、一価の芳香族ヒドロキシ化合物を用いればよく、分子量調整のための一価の芳香族ヒドロキシ化合物としては、例えば、m−およびp−メチルフェノール、m−およびp−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)としては、上述した中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂、又は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が好ましい。また、シロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーとの共重合体等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体であってもよい。
【0023】
上述した芳香族ポリカーボネート樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、その用途により任意であり、適宜選択して決定すればよいが、成形性、強度等の点から、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量[Mv]で、10000〜40000、更には10000〜30000のものが好ましい。この様に、粘度平均分子量を10000以上とすることで機械的強度がより向上する傾向にあり、機械的強度の要求の高い用途に用いる場合により好ましいものとなる。一方、粘度平均分子量を40000以下とすることで流動性低下をより抑制して改善する傾向にあり、成形加工性容易の観点からより好ましい。
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は中でも、10000〜22000、更には12000〜22000、特に14000〜20000であることが好ましい。
【0025】
なお、粘度平均分子量の異なる2種類以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この際には、粘度平均分子量が上記好適範囲外である芳香族ポリカーボネート樹脂を混合してもよい。この場合、混合物の粘度平均分子量は上記範囲となることが望ましい。
【0026】
<酸化チタン系添加剤(B)>
本発明における酸化チタン系添加剤(B)は、酸化チタンをアルミナ系表面処理剤およびオルガノシロキサン系表面処理剤で表面処理したものであり、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から得られる成形体の遮光性、白度、光線反射特性などの向上に機能する。
【0027】
酸化チタン系添加剤(B)に用いられる酸化チタンの製造方法、結晶形態および平均粒径などは、特に限定されるものではないが、好ましくは以下の通りである。
【0028】
酸化チタンの製造方法には、硫酸法および塩素法があるが、硫酸法で製造された酸化チタンは、これを添加した組成物の白度が劣る傾向があるため、本発明の目的を効果的に達成するには、塩素法で製造されたものが好適である。
【0029】
また、酸化チタンの結晶形態には、ルチル型とアナターゼ型があるが、耐光性の観点からルチル型の結晶形態のものが好適である。
【0030】
酸化チタン系添加剤(B)を構成する酸化チタンの平均粒径は、通常0.1〜0.7μm、好ましくは0.1〜0.4μmである。酸化チタンの平均粒径が0.1μm未満では、得られる成形体の光線遮蔽性に劣り、0.7μmを超える場合は、成形体表面に肌荒れを起こしたり、成形品の機械的強度が低下したりする。ここで、酸化チタンの平均粒径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)によって計測観察された1次粒径の平均値である。
なお、本発明においては平均粒径の異なる酸化チタンを2種類以上混合して使用してもよい。
【0031】
本発明で用いる酸化チタン系添加剤(B)は、酸化チタンをアルミナ系表面処理剤およびオルガノシロキサン系表面処理剤で表面処理したものであるが、酸化チタンを後述のアルミナ系表面処理剤或いはアルミナ系表面処理剤と珪酸系表面処理剤で前処理した後、後述のオルガノシロキサン系表面処理剤で表面処理したものであることが好ましい。アルミナ系表面処理剤、更に必要に応じて珪酸系表面処理剤を併用して前処理された酸化チタンは、更にその表面をオルガノシロキサン系表面処理剤で表面処理することによって、熱安定性を大幅に改善することが出来る他、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中での均一分散性および分散状態の安定性を向上させることができ、好ましい。
【0032】
ここでアルミナ系表面処理剤としてはアルミナ水和物が好適に用いられる。珪酸系表面処理剤としては珪酸水和物が好適に用いられる。前処理の方法は特に限定されるものではなく、任意の方法によることが出来る。アルミナ水和物等のアルミナ系表面処理剤、更に必要に応じて珪酸水和物等の珪酸系表面処理剤による前処理は、酸化チタンに対して1〜15質量%の範囲で行なうのが好ましい。即ち、アルミナ系表面処理剤のみで前処理を行う場合には、酸化チタン系添加剤に対して、アルミナ系表面処理剤を1〜15質量%用いて行うのが好ましく、アルミナ系表面処理剤と珪酸系表面処理剤を併用する場合には、これらの合計が酸化チタン系添加剤に対して1〜15質量%となるように用いて行なうのが好ましい。なお、アルミナ系表面処理剤と珪酸系表面処理剤を併用する場合、その使用割合は、アルミナ系表面処理剤と珪酸系表面処理剤の和に対して、珪酸系表面処理剤が35〜90質量%程度となるような量とすることが好ましい。
【0033】
一方、オルガノシロキサン系表面処理剤としては、ポリオルガノハイドロジェンシロキサン化合物が好ましく用いられる。
【0034】
酸化チタンのオルガノシロキサン系表面処理剤による表面処理法には、湿式法と乾式法とがある。
湿式法は、オルガノシロキサン系表面処理剤と溶媒との混合液に、前処理された酸化チタンを加え、撹拌した後に脱溶媒を行い、更にその後100〜300℃で熱処理する方法である。乾式法は、前処理された酸化チタンとオルガノシロキサン系表面処理剤とをヘンシェルミキサーなどで混合する方法、前処理された酸化チタンにオルガノシロキサン系表面処理剤の有機溶媒を噴霧して付着させ、100〜300℃で熱処理する方法などが挙げられる。
【0035】
前処理された酸化チタン系添加剤のオルガノシロキサン系表面処理剤による表面処理の程度は、特に制限されるものではないが、酸化チタンの反射性、得られる樹脂組成物の成形性などを勘案すると、酸化チタンに対しするオルガノシロキサン系表面処理剤量として通常1〜5質量%の範囲である。
【0036】
なかでも、本発明で使用される酸化チタン系添加剤(B)は、以下の物性を有することが、熱安定性、難燃性、光反射性の改善に優れた効果を発揮するため好ましい。
【0037】
酸化チタン系添加剤(B)を、蛍光X線分析することによって得られた酸化チタン系添加剤(B)中のアルミニウム含有量a(質量%)と、酸化チタン系添加剤(B)を高周波燃焼式炭素分析装置を用いて分析して得られた酸化チタン系添加剤中の炭素量c(質量%)と、酸化チタン系添加剤(B)中の酸化チタンの平均粒径d(μm)が、下記の(式1)および(式2)を満足する。
(式1) 6.5≦(a/d)≦15
(式2) 5≦(c/d)≦25
【0038】
更に良好な熱安定性を得るためには(式1)の(a/d)の値が8以上であることが好ましく、また(式2)の(c/d)の値は好ましくは20未満であり、更に好ましくは15未満である。
【0039】
酸化チタンの平均粒径と表面積は相関があり、平均粒径が小さくなるほど表面積は大きくなる。本発明では比較的平均粒径の小さい、すなわち細かい粒径の酸化チタンを用い、小さな粒径の酸化チタンの表面に適量のアルミニウム等を分散させることにより優れた光反射性が得られるものである。(式1)の(a/d)は、酸化チタンの単位表面積に対するアルミナ系表面処理剤に含まれていたアルミニウムの量を表し、(式2)の(c/d)は酸化チタンの単位表面積に対するオルガノシロキサン系表面処理剤に含まれていた有機炭素の量を表す。
(式1)、(式2)が上記範囲を満たすことにより、酸化チタンに対する表面処理が適切となり、熱安定性、難燃性、光反射性に優れたポリカーボネート樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0040】
(a/d)の値が6.5未満であると、組成物中の酸化チタンの分散が不充分となり、二次凝集を生じやすく外観および反射率の良好な成形体が得られない。また、15を超えるとアルミナ系表面処理剤による処理により酸化チタン粒子の塩基性がより高まるため、樹脂組成物の熱安定性が低下し、衝撃性、成形安定性に劣る場合がある。(c/d)の値が5未満であると、酸化チタンによる表面活性およびアルミナ系表面処理剤により塩基性を付与された酸化チタン粒子の活性を充分に被覆できないため、樹脂組成物の熱安定性および密着性が低下し、衝撃性、成形安定性に劣る場合がある。また、25を超えると酸化チタンと化学結合していないオルガノシロキサン系表面処理剤が成形時に揮発しやすくなり、金型汚染の原因となる。
【0041】
本発明において、酸化チタン系添加剤(B)の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、3〜30質量部の範囲である。酸化チタン系添加剤(B)の配合量が3質量部未満の場合は、得られる成形体の遮光性および反射特性が不十分となり、30質量部を超える場合は耐衝撃性が不十分となる。酸化チタン系添加剤(B)の好ましい配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、3〜25質量部、更に好ましくは5〜20質量部である。なお、酸化チタン系添加剤(B)の質量は、酸化チタンを表面処理したアルミナ系、珪酸系、オルガノシロキサン系の表面処理剤も含めた質量を意味する。
【0042】
<芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)>
本発明に用いる芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)は、芳香族ポリカーボネート樹脂の難燃性を改善するための難燃剤として機能するものであり、この芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)の芳香族環は、置換基を有さないか、或いは置換基として炭素数1〜4のアルキル基のみを有し、芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)の水溶液中でのpH(水素イオン濃度指数)が6.0〜8.5、好ましくは6.5〜8.0であることを特徴とする。
なお、芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)の芳香族環は、単環に限らず、2個以上の芳香族環が結合した結合環であってもよい。また、芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)は、芳香族環を1個のみ有するものに限らず、2個以上有するものであってもよい。また、本発明における芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)とは、芳香族スルホン酸金属塩化合物とその誘導体を包含するものである。
【0043】
ここで、芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)の水溶液中でのpHとは、芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)の10質量%水溶液の23℃でのpHをさし、pHはpHメーターにより測定される。
【0044】
上記芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)のpHが6.0未満の場合は、燃焼時に芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)と芳香族ポリカーボネート樹脂との反応活性が低下するため、難燃性が不充分となり、pHが8.5を超えると芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)による芳香族ポリカーボネート樹脂の分解反応が大きく進むため、難燃性、熱安定性に劣るものとなる。
【0045】
芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)が有する芳香族環は置換基を有さないか、或いは置換基が結合している場合は、その置換基は炭素数1〜4のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基)である。芳香族環に炭素数が5以上のアルキル基やその他の置換基を有する芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)では、脂肪族基やその他の置換基の影響で難燃性が低下する。なお、置換基は、炭素数1〜4のアルキル基であれば、一つの芳香族環に2個以上置換していてもよい。
【0046】
芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)の金属としては、アルカリ金属、又はアルカリ土類金属が好ましい。アルカリ金属、およびアルカリ土類金属としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、およびバリウム等が挙げられる。中でもアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウムが、またアルカリ土類金属としてはマグネシウム、カルシウム、セシウムが、ポリカーボネート樹脂との相溶性および難燃性付与の点から好ましい。
【0047】
芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)の例として、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸ナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム塩、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム塩が挙げられる。なかでも難燃性、熱安定性、取り扱い性の面から、パラトルエンスルホン酸ナトリウム塩、又はパラトルエンスルホン酸カリウム塩が好ましく用いられる。
これらの芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
本発明において、芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物(A)100質量部に対し、0.01〜1.0質量部である。この配合量が0.01質量部未満では、難燃性改良効果が不十分であり、1.0質量部を超えると芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の成形時における熱安定性および湿熱試験における物性が低下する場合がある。中でも、芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して0.03〜0.8質量部、特に0.05〜0.6質量部の範囲で用いられることが好ましい。
【0049】
<ポリフルオロエチレン(D)>
本発明において、(D)ポリフルオロエチレンとしては、フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンが好ましい。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンはASTM規格でタイプ3に分類される。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンとしては、例えば三井・デュポンフロロケミカル社製のテフロン(登録商標)6Jや、ダイキン化学工業社製のポリフロンF201L、FA500B、FA500Cが挙げられる。また、ポリテトラフルオロエチレンの水性分散液として、ダイキン化学工業社製のフルオンD−1や、ビニル系単量体を重合してなる多層構造を有するポリフルオロエチレン化合物が挙げられる。いずれのタイプも本発明の樹脂組成物に用いることができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
ポリフルオロエチレンを含有した難燃性樹脂組成物を射出成形した成形品の外観をより向上させるためには、有機系重合体で被覆された特定の被覆ポリフルオロエチレン(以下、「被覆ポリフルオロエチレン」と略記することがある。)を使用することができる。この被覆ポリフルオロエチレンは、被覆ポリフルオロエチレン中のポリフルオロエチレンの含有比率が40〜95質量%の範囲内、中でも43〜80質量%、更には45〜70質量%、特には47〜60質量%となるものが好ましい。このような被覆ポリフルオロエチレンとしては、例えば三菱レイヨン社製のメタブレンA−3800、A−3700、KA−5503や、PIC社製のPoly TS AD001等が使用できる。
【0051】
本発明において、ポリフルオロエチレン(D)の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.01〜1.5質量部であり、0.05〜0.9質量部が好ましく、0.1〜0.7質量部が特に好ましい。なお、被覆ポリフルオロエチレンの場合、その配合量はポリフルオロエチレン純分の量に相当する。ポリフルオロエチレン(D)の配合量が0.01質量部未満の場合には、難燃性が低下する場合があり、一方、1.5質量部を超えると成形体の外観低下が起こる場合がある。
【0052】
<その他の成分>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、上述した成分に加えて、更に芳香族ポリカーボネート樹脂以外の他の樹脂や、各種の樹脂添加剤などを用いてもよい。
【0053】
他の樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合樹脂(ABS)などが挙げられる。また、芳香族ポリカーボネート樹脂以外のポリカーボネート樹脂を用いてもよい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0054】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に芳香族ポリカーボネート樹脂以外の樹脂を用いる場合、その配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂の特性を損なわないために、芳香族ポリカーボネート樹脂とその他の樹脂との合計に対して、30質量%以下とすることが好ましい。
【0055】
また、樹脂添加剤としては、耐衝撃性改良剤、離型剤、染顔料、難燃剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤・アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、防菌剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤が挙げられる。
更に、無機系樹脂添加剤として、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維、シリカ、アルミナ、硫酸カルシウム粉体、石膏、石膏ウィスカー、硫酸バリウム、タルク、マイカ、珪酸カルシウム、カーボンブラック、グラファイト等の無機フィラーが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0056】
(熱安定剤・酸化防止剤)
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、溶融加工時や、高温下での長期間使用時等に生ずる黄変抑制、更に機械的強度低下抑制等の目的で、熱安定剤や酸化防止剤を含有することが好ましい。
【0057】
熱安定剤や酸化防止剤は、従来公知の任意のものを使用でき、熱安定剤としてはリン系化合物が、酸化防止剤としてはフェノール化合物が好ましく、これらは併用してもよい。
【0058】
リン系化合物は一般的に、ポリカーボネート樹脂を溶融混練する際、高温下での滞留安定性や樹脂成形体使用時の耐熱安定性向上に有効であり、フェノール化合物は一般的に、耐熱老化性等の、ポリカーボネート樹脂成形体使用時の耐熱安定性に効果が高い。また、リン系化合物とフェノール化合物を併用することによって、着色性の改良効果が一段と向上する。
【0059】
本発明に用いるリン系化合物としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられ、中でも3価のリンを含み、変色抑制効果を発現しやすい点で、ホスファイト、ホスホナイト、アシッドホスフェート等の亜リン酸エステルが好ましい。
【0060】
ホスファイトとしては、具体的には例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)テトラ(トリデシル)、4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0061】
また、ホスホナイトとしては、テトラキス(2,4−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイトなどが挙げられる。
【0062】
また、アシッドホスフェートとしては、例えば、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0063】
亜リン酸エステルの中では、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、耐熱性が良好であることと加水分解しにくいという点で、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが特に好ましい。
【0064】
酸化防止剤としては特定構造を分子内に有するフェノール化合物が好ましく、具体的には2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリエチレングリコールビス[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオールビス[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、オクタデシル[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]等が挙げられる。
【0065】
中でも、ポリカーボネート樹脂と混練される際の黄変抑制の面から、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンが好ましく、特に、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンが好ましい。
【0066】
これらの熱安定性や酸化防止剤は、それぞれ1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0067】
熱安定剤および酸化防止剤の含有量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、その合計量として芳香族ポリカーボネート樹脂組成物(A)100質量部に対して0.0001〜0.5質量部であり、0.0003〜0.3質量部が好ましく、0.001〜0.1質量部が特に好ましい。熱安定剤や酸化防止剤の含有量が少なすぎると効果が不十分であり、逆に多すぎてもポリカーボネート樹脂の分子量低下や、色相低下が生ずる場合がある。
【0068】
(離型剤)
離型剤としては、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステル、ポリシロキサン系シリコーンオイルから選ばれた少なくとも1種のものが用いられる。これらの中で、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステルから選ばれた少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0069】
脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の脂肪族モノカルボン酸、ジカルボン酸又はトリカルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸は、脂環式カルボン酸も包含する。このうち好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6〜36のモノ又はジカルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和モノカルボン酸が更に好ましい。このような脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラトリアコンタン酸、モンタン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸等を挙げることができる。
【0070】
脂肪族カルボン酸エステルを構成する脂肪族カルボン酸成分としては、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、脂肪族カルボン酸エステルを構成するアルコール成分としては、飽和又は不飽和の1価アルコール、飽和又は不飽和の多価アルコール等を挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基等の置換基を有していてもよい。これらのアルコールのうち、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、更に炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが好ましい。ここで脂肪族アルコールは、脂環式アルコールも包含する。
【0071】
これらのアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等を挙げることができる。
【0072】
脂肪族カルボン酸エステルは、不純物として脂肪族カルボン酸および/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0073】
脂肪族カルボン酸エステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸オクチルドデシル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等を挙げることができる。
【0074】
離型剤の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して2質量部以下であり、好ましくは1質量部以下である。離型剤の配合量が2質量部を超えると耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染等の問題がある。該離型剤は1種でも使用可能であるが、複数併用して使用することもできる。
【0075】
<製造方法>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を構成する各成分を混合して溶融混練することにより製造される。その方法としては、従来公知の熱可塑性樹脂組成物に適用される方法を適用できる。例えば、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ドラムタンブラー、単軸又は二軸スクリュー押出機、コニーダーなどを使用する方法等が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240〜320℃の範囲である。
【0076】
<成形方法>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、各種成形体の成形材料として使用できる。その際、適用できる成形方法は、熱可塑性樹脂の成形に適用できる方法をそのまま適用することが出来、射出成形法、押出成形法、中空成形法、回転成形法、圧縮成形法、差圧成形法、トランスファー成形法などが挙げられる。
【0077】
[芳香族ポリカーボネート樹脂成形体]
本発明の成形体は、上述の本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるものであり、耐光性、遮光性、光線反射性、色相、難燃性、成形安定性に優れる上に、ポリカーボネート樹脂が本来有する耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性、外観特性等をも同時に維持しているため、これらの特長を生かして、液晶表示装置のバックライト用光線反射板、光反射枠又は光反射シート、電気・電子機器、広告灯などの照明用装置、自動車用メーターパネルなどの自動車用機器などの、光反射部材として幅広く使用することができき、特にその優れた難燃性、光反射性、耐衝撃性から、液晶バックライト用光線反射板および反射枠部品用途に有用である。
【実施例】
【0078】
以下に実施例および比較例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の例に限定されるものではない。なお、以下の実施例、比較例において「部」および「%」は、特に断りがない限り、「質量部」および「質量%」を意味する。
【0079】
[原材料]
<芳香族ポリカーボネート樹脂(A)>
ポリ−4,4−イソプロピリデンジフェニルカーボネート:三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名「ユーピロン(登録商標)H−3000」、粘度平均分子量18,000
【0080】
<酸化チタン系添加剤(B)>
Kronos社製、商品名「Kronos2233」
蛍光X線分析することによって得られた酸化チタン系添加剤中のアルミニウム含有量a(質量%)、高周波燃焼式炭素分析装置を用いて分析して得られた酸化チタン系添加剤中の炭素量c(質量%)、および酸化チタンの平均粒径(μm)をdとした場合、d=0.20μm、a/d=11.4、c/d=12.25である。
【0081】
<芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)>
芳香族スルホン酸金属塩化合物(C−1)〜(C−5)
以下のようにしてpHの異なる芳香族スルホン酸金属塩を調製した。
パラトルエンスルホン酸をイオン交換水に溶解して、20%水溶液を調製した。その後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、添加量の調整によりpHの異なるパラトルエンスルホン酸ナトリウム水溶液を調製した。その後、水溶液を加熱処理し水分を揮発させることにより、pHの異なるパラトルエンスルホン酸ナトリウム塩(C−1)〜(C−5)を得た。
【0082】
調製したパラトルエンスルホン酸ナトリウム塩(C−1)〜(C−5)をそれぞれイオン交換水で再度溶解して10%水溶液を調製し、各々その23℃におけるpHをpHメーターを用いて測定した。なお、中和反応が完了していることを確認するため、パラトルエンスルホン酸ナトリウム塩の10%水溶液と20%水溶液のpH値がほぼ同値であることを確認した。各パラトルエンスルホン酸ナトリウム塩(C−1)〜(C−5)のpHは以下の通りであった。
(C−1):pH=7.8
(C−2):pH=6.7
(C−3):pH=8.3
(C−4):pH=5.6
(C−5):pH=8.7
【0083】
芳香族スルホン酸金属塩化合物(C−6):
パラトルエンスルホン酸ナトリウム塩、Chembridge International社製、商品名「Chemguard NATS」(上記方法で測定したpH=7.6)
芳香族スルホン酸金属塩化合物(C−7):
パラトルエンスルホン酸カリウム塩、Chembridge International社製、商品名「Chemguard PABS」(上記方法で測定したpH=7.4)
芳香族スルホン酸金属塩化合物(C−8):
分岐化ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩(化学式:(CHCH−C(CH−C(CH−C(CH−C−SONa)(上記方法で測定したpH=6.8)
【0084】
<ポリフルオロエチレン(D)>
ダイキン工業社製、商品名「ポリフロンFA−500B」
【0085】
<熱安定剤(E)>
熱安定剤(E−1):
トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ADEKA社製、商品名「AS2112」
熱安定剤(E−2):
ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ADEKA社製、商品名「PEP36」
【0086】
<離型剤(F)>
ペンタエリスリト−ルジステアレート、日油社製、商品名「ユニスターH476D」
【0087】
[実施例1〜7および比較例1〜5]
表1に示した割合(質量比)となるよう、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、酸化チタン系添加剤(B)、芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)、ポリフルオロエチレン(D)、熱安定剤(E)、および離型剤(F)を配合し、タンブラーにて混合した後、2軸押出機(12ブロック、TEX30XCT)のホッパーに投入した。各樹脂成分を、シリンダー温度270℃、200rpm、押出速度25kg/時間の条件下で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。
得られた樹脂組成物について、以下の方法により各種評価を行った。
結果を表1に示す。
【0088】
[成形品の物性評価方法]
(1)燃焼性
実施例および比較例で得られた各樹脂組成物について、日本製鋼所社製射出成形機J50を用い、設定温度280℃、金型温度80℃の条件下で射出成形を行い、長さ127mm、幅12.7mm、肉厚1.0mmの成形体を試験片として得た。得られた試験片について、UL94に準拠した垂直燃焼試験を行った。試験結果は良好な順からV−0、V−1、V−2とし、規格外のものをNGと分類した。
【0089】
(2)流れ値
実施例および比較例で得られた各樹脂組成物の流動性および熱安定性の評価として、JIS K7210 付属書Cに記載の方法にてペレットの流れ値(Q値)を評価した。測定は島津製作所社製フローテスターCFD500Dを用いて、穴径1.0mmφ、長さ10mmのダイを用い、試験温度280℃、300℃および320℃の各温度で、試験力160kg/cm、余熱時間420secの条件で排出された溶融樹脂量(×0.01cc/sec)を測定した。
なお、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の調製に用いた芳香族ポリカーボネート樹脂(A)(ユーピロン(登録商標)H−3000)のQ値は17(×0.01cc/sec)であった。
【0090】
(3)外観
実施例および比較例で得られた各樹脂組成物について、日本製鋼所社製射出成形機J50を用い、シリンダー温度280℃、金型温度80℃で、厚み1mmおよび3mm部分をもつ2段プレートを成形し、目視観察して成形体の外観を評価した。シルバー、樹脂焼けなどが認められず外観の良好なものを「○」とし、外観不良が大きく発生したものを「×」と判定した。
【0091】
(4)反射率
外観評価で使用したプレートの3mm厚さ部分の反射率を測定した。測定はコニカミノルタ社製分光測色計CM3600dを用い、D65/10度視野、SCI通常測定モードにて行い、波長440nmでの反射率の値を用いた。
【0092】
【表1】

【0093】
表1の結果より、次のことがわかる。
本発明の条件を満たす実施例1〜7の樹脂組成物は、優れた燃焼性、熱安定性、外観、反射特性を有する。実施例6はスルホン酸金属塩の金属を異種にしたものであるが、実施例1および2と同等の効果を発揮する。実施例7は実施例1において酸化チタン系添加剤量を増量したものであり、実施例1と同等の熱安定性を有しながら、更に優れた反射特性を有する。
【0094】
一方、比較例1は酸化チタン系添加剤の量が不足しているため反射率に劣り、比較例2は芳香族スルホン酸金属塩の量が不足しているため十分な燃焼性が得られない。比較例3は芳香族スルホン酸金属塩のpHが低いため充分な燃焼性を発揮できず、比較例4はpHが高いため熱安定性に劣り、外観、反射率が低下する。比較例5は芳香族スルホン酸金属塩として炭素数10のアルキル基を置換基として有するドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩を用いているため、難燃性に劣り、着色により反射率が低下する。
【0095】
以上のように、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、従来の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物と比べて、熱安定性、難燃性、外観、光線反射率に優れているため、液晶表示部材等の反射部材に好適な材料といえる。よって本発明の工業的価値は顕著である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、酸化チタンをアルミナ系表面処理剤およびオルガノシロキサン系表面処理剤で表面処理してなる酸化チタン系添加剤(B)3〜30質量部と、芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)0.01〜1.0質量部と、ポリフルオロエチレン(D)0.01〜1.5質量部とを含有して成り、
芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)の芳香族環は、置換基を有さないか、或いは置換基として炭素数1〜4のアルキル基のみを有し、芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)の水溶液中でのpHが6.0〜8.5であることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
酸化チタン系添加剤(B)を、蛍光X線分析することによって得られた酸化チタン系添加剤(B)中のアルミニウム含有量a(質量%)と、酸化チタン系添加剤(B)を高周波燃焼式炭素分析装置を用いて分析して得られた酸化チタン系添加剤中の炭素量c(質量%)と、酸化チタン系添加剤(B)中の酸化チタンの平均粒径d(μm)が、下記の(式1)および(式2)を満足することを特徴とする請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
(式1) 6.5≦(a/d)≦15
(式2) 5≦(c/d)≦25
【請求項3】
芳香族スルホン酸金属塩化合物(C)が、トルエンスルホン酸ナトリウム塩および/又はトルエンスルホン酸カリウム塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から得られた成形体。
【請求項5】
光反射部材である請求項4に記載の成形体。

【公開番号】特開2010−270180(P2010−270180A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121051(P2009−121051)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】