説明

芳香族炭酸エステルの製造方法

【課題】副生物の少ない芳香族炭酸エステルを安定的にかつ高い生産性で製造できる、芳香族炭酸エステルの製造方法を提供する。
【解決手段】ジアルキルカーボネート、アルキルアリールカーボネート、及びそれらの混合物よりなる群から選ばれる出発物質と、芳香族モノヒドロキシ化合物よりなる反応物質とを金属含有触媒の存在下に反応させ、当該反応により得られるアルキルアリールカーボネートを金属含有触媒の存在下で反応させ、副生アルコール類及び/又は副生ジアルキルカーボネート類を反応系外に留出させながら前記出発物質と前記反応物質とに対応する、芳香族炭酸エステルを製造する工程において、反応液中の原料の合計重量に対する前記金属含有触媒を構成する金属原子濃度を0.01〜1質量%とする芳香族炭酸エステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族炭酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族炭酸エステルの代表的な一例であるジアリールカーボネートは、エンジニアリングプラスチックであるポリカーボネートの工業的な製造原料として有用である。そのため、ジアリールカーボネートを安定的に高い収率で製造する技術は重要である。
従来、ジアリールカーボネートの製造方法としては、ジアルキルカーボネートと芳香族モノヒドロキシ化合物(例えば、フェノール)とを、下記式(I)に示すエステル交換反応させることによりアルキルアリールカーボネートを得、次に、このアルキルアリールカーボネートを用いて、下記式(II)に示す不均化反応を行うことによりジアリールカーボネートを得る方法が知られている。
【0003】
【化1】

【0004】
【化2】

【0005】
前記式(I)及び式(II)中、Rは、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜12の脂肪族基、又は炭素数5〜12の脂環式脂肪族基を表す。
【0006】
しかしながら、上記式(I)に示すエステル交換反応、及び式(II)に示す不均化反応は、いずれも平衡反応であり、かつ反応速度が遅い。特に、エステル交換反応は平衡が原系に偏っているため、反応効率が悪いという問題がある。さらに、アルキルアリールカーボネートの脱炭酸反応によるエーテルが副生物として生成されるという問題もある。
かかる問題に鑑みて、上述した方法によりジアリールカーボネートを工業的に製造する際、反応速度を向上させる触媒に関する研究が行われ、各種金属含有組成物が提案されている。
【0007】
例えば、チタン化合物(例えば、特許文献1、2、非特許文献1参照。)、有機スズ化合物(例えば、特許文献3、非特許文献2参照。)、含窒素塩基性化合物(例えば、特許文献4参照。)、サマリウム化合物(例えば、非特許文献3参照。)等が提案されている。
さらには、ジアリールカーボネートの連続製造方法について、触媒成分を有効に利用するために、触媒と生成物とを含む混合物から生成物を蒸留分離し、触媒成分を含む蒸留残渣を反応工程に循環させつつ、必要に応じて副生物の蓄積を防ぐ目的で循環される触媒成分を含む蒸留残渣の一部を抜き出し、適宜新しい触媒成分を供給する連続製造方法が提案されている(例えば、下記特許文献5、6参照。)。
【0008】
前記式(I)及び式(II)に示した反応は、通常、触媒を用いることにより反応が促進される。当該触媒は固体であったり、液体であったりするが、その供給方法に関する報告もなされている。例えば、原料に用いるジアルキルカーボネートのアルキル基に対応したチタニウムテトラアルコキシドを供給し、触媒から副生するアルキルアルコールによる副生物の混入を防ぐ方法(例えば、特許文献7参照。)、長時間の運転により触媒が析出する可能性が知られているが、反応器へジアルキルカーボネートと芳香族ヒドロキシ化合物及び触媒を連続的に供給して、付設した蒸留塔より副生するアルコールを連続的に抜き出し、反応器からアルキルアリールカーボネート、炭酸ジアリー又はこれらの混合物からなる芳香族カーボネート類を抜き出すことにより閉塞を防ぐ方法(例えば、特許文献8参照。)、ジアルキルカーボネート及び芳香族ヒドロキシ化合物の供給位置と触媒の供給位置を分離することにより閉塞を防ぐ方法(例えば、特許文献9参照。)等が知られている。
上述した反応系で用いられる触媒は、通常、反応条件下では反応液に溶解した状態であり、また芳香族炭酸エステルよりも沸点が高いので、反応生成液から高純度の芳香族炭酸エステルを得るためには、まず反応液から低沸点成分を除去し、次いで高沸点成分のうちのジアリールカーボネートを該触媒と分離してジアリールカーボネートを精製する。この際に該触媒は高沸点成分として回収され、リサイクル使用されてよいし、また一部失活成分は除去されてよいことが知られている。触媒の分離方法としては特許文献10に記載された方法が提案されている。また、アルキルアミンなどの低い沸点を持つ触媒を用いることにより、触媒の分離を行う方法も知られている(例えば、特許文献11参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−259505号公報
【特許文献2】特開2000−191596号公報
【特許文献3】特開平8−259504号公報
【特許文献4】特許3528997号公報
【特許文献5】特開平9−59224号公報
【特許文献6】特開平9−110805号公報
【特許文献7】特開2000−72721号公報
【特許文献8】特開平6−157410号公報
【特許文献9】特開2000−307400号公報
【特許文献10】特開平9−169704号公報
【特許文献11】特開2003−238487号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Catalysis Communications,8(2007),355−358
【非特許文献2】Journal of Molecular Catalysis A:Chemical,246(2006),200−205
【非特許文献3】Journal of Molecular Catalysis A:Chemical,259(2006),292−295
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、工業的な生産において副生物の生成は大きな問題であり、副生物の製品への混入を防ぐために精製工程が必須であり、副生物によっては分離が困難で精製に多大なコストを要する場合がある。
上述した従来技術ではこのような問題を解決するに至っていないため、副生物の少ないジアリールカーボネート等の芳香族炭酸エステルを製造する技術の改良への要望が高まっている。
そこで本発明においては、ジアリールカーボネートの製造の際に副生物の生成を大きく低減化でき、安定的に、かつ高い生産性をもってジアリールカーボネート等の芳香族炭酸エステルを製造することができる芳香族炭酸エステルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上述した問題に鑑み、ジアリールカーボネートを始めとする芳香族炭酸エステルの製造方法について鋭意研究を行った結果、エステル交換反応及び不均化反応における金属含有触媒の濃度を所定の範囲に特定することで、副生物の生成を抑えることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0013】
〔1〕
下記式(1)で表されるジアルキルカーボネート、下記式(2)で表されるアルキルアリールカーボネート、及びそれらの混合物よりなる群から選ばれる出発物質と、
下記式(3)で表される芳香族モノヒドロキシ化合物よりなる反応物質と、
を、金属含有触媒の存在下に反応させ、
当該反応により得られる下記式(4)で表されるアルキルアリールカーボネートを、金属含有触媒の存在下で反応させ、
副生アルコール類及び/又は副生ジアルキルカーボネート類を反応系外に留出させながら前記出発物質と前記反応物質とに対応する、下記式(5)及び/又は下記式(6)で表される芳香族炭酸エステルを製造する工程において、
反応液中の原料の合計重量に対する前記金属含有触媒を構成する金属原子濃度を、0.01〜1質量%とする芳香族炭酸エステルの製造方法。
【0014】
【化3】

【0015】
【化4】

【0016】
【化5】

【0017】
【化6】

【0018】
前記式(1)〜(4)中の、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して炭素数4〜6のアルキル基を表し、Ar1、Ar2、及びAr3は、それぞれ独立して炭素数6〜7の芳香族基を表す。
【0019】
【化7】

【0020】
【化8】

【0021】
前記式(5)、(6)中の、R及びArは、それぞれ、出発物質及び反応物質に対応してR1、R2、R3及びAr1、Ar2、Ar3から選ばれる。
【0022】
〔2〕
前記式(1)、(2)、(4)中のR1、R2及びR3は、それぞれ独立して、n−ブチル基、2−メチルプロピル基、2−エチルブチル基からなる群より選ばれるいずれかである、前記〔1〕に記載の芳香族炭酸エステルの製造方法。
〔3〕
前記芳香族モノヒドロキシ化合物がフェノールである前記〔1〕又は〔2〕に記載の芳香族炭酸エステルの製造方法。
〔4〕
前記金属含有触媒がチタン含有組成物又は鉛含有組成物である前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載の芳香族炭酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の芳香族炭酸エステルの製造方法によれば、副生物の少ない芳香族炭酸エステルを安定的にかつ高い生産性で製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】芳香族炭酸エステルの製造に関するプロセスフロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、説明する。
図面中、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとし、さらに図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。
また、本明細書において、「略」を付した用語は、当業者の技術常識の範囲内でその「略」を除いた用語の意味を示すものであり、「略」を除いた意味自体を含むものとする。
本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0026】
〔芳香族炭酸エステルの製造方法〕
本実施形態の芳香族炭酸エステルの製造方法は、
下記式(1)で表されるジアルキルカーボネート、下記式(2)で表されるアルキルアリールカーボネート、及びそれらの混合物よりなる群から選ばれる出発物質と、
下記式(3)で表される芳香族モノヒドロキシ化合物よりなる反応物質と、
を、金属含有触媒の存在下に反応させ、
当該反応により得られる下記式(4)で表されるアルキルアリールカーボネートを、金属含有触媒の存在下で反応させ、
副生アルコール類及び/又は副生ジアルキルカーボネート類を反応系外に留出させながら前記出発物質と前記反応物質とに対応する、下記式(5)及び/又は下記式(6)で表される芳香族炭酸エステルを製造する工程において、
反応液中の原料の合計重量に対する前記金属含有触媒を構成する金属原子濃度を、0.01〜1質量%とする芳香族炭酸エステルの製造方法である。
【0027】
【化9】

【0028】
【化10】

【0029】
【化11】

【0030】
【化12】

【0031】
式(1)〜(4)中の、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して炭素数4〜6のアルキル基を表し、Ar1、Ar2、及びAr3は、それぞれ独立して炭素数6〜7の芳香族基を表す。
【0032】
【化13】

【0033】
【化14】

【0034】
式(5)、(6)中の、R及びArは、それぞれ、出発物質及び反応物質に対応してR1、R2、R3及びAr1、Ar2、Ar3から選ばれる。
【0035】
本実施形態の芳香族炭酸エステルの製造方法においては、前記式(1)のジアルキルカーボネートと前記式(3)の芳香族モノヒドロキシ化合物とのエステル交換反応、前記式(2)のアルキルアリールカーボネートと前記式(3)の芳香族モノヒドロキシ化合物とのエステル交換反応によって、前記式(4)の化合物(アルキルアリールカーボネート)を製造し、当該エステル交換反応によって得られた、前記式(4)の化合物の不均化反応によって、前記(5)及び/又は前記式(6)の芳香族炭酸エステルを製造するものである。
エステル交換反応、不均化反応のそれぞれの工程中、アルコール類及び/又はジアルキルカーボネート類が副生するので、これらを反応系外に留出させながら、出発物質に対応する構造の、前記式(5)及び/又は前記式(6)で表される芳香族炭酸エステルを製造する。なお、式(4)のアルキルアリールカーボネートは、式(5)の化合物の一形態である。
製造工程中、反応液中の原料の合計重量に対する金属含有触媒を構成する金属原子濃度を、0.01〜1質量%とする。
なお、反応液中の原料とは、前記エステル交換反応と前記不均化反応のそれぞれにおいて目的とする生成物を合成する反応に寄与する材料を言う。
【0036】
本実施形態の芳香族炭酸エステルの製造方法は、その具体的な一形態として、下記〔工程1〕及び〔工程2〕を含む。
〔工程1〕: ジアルキルカーボネートと芳香族モノヒドロキシ化合物とを、エステル交換反応に付し、副生アルコール類を反応系外に取り出しながら、用いたジアルキルカーボネートと芳香族モノヒドロキシ化合物に対応するアルキルアリールカーボネートを製造する。
〔工程2〕: 前記〔工程1〕で得られたアルキルアリールカーボネートを不均化反応に付し、前記アルキルアリールカーボネートに対応するジアリールカーボネートを製造する。
以下、これらの工程について詳細に説明する。
【0037】
〔工程1〕
ジアルキルカーボネートと芳香族モノヒドロキシ化合物とを反応させる。
金属含有触媒、好ましくは、後述するチタン含有組成物又は鉛含有組成物を用いることにより、効率よくエステル交換反応を行うことができる。
このエステル交換反応においては、副生アルコール類を反応系外に取り出しながら、反応物であるアルキルアリールカーボネートを得る。
【0038】
(ジアルキルカーボネート)
〔工程1〕で用いるジアルキルカーボネートは、下記式(1)で表される。
【0039】
【化15】

【0040】
式(1)中、R1は、炭素数4〜6のアルキル基を表す。
好ましいアルキル基としてはn−ブチル基、2−メチルプロピル基、2−エチルブチル基が挙げられる。
上記ジアルキルカーボネートは、ジアリールカーボネートとの蒸留分離がしやすく、実用上の観点から好適である。
【0041】
(芳香族モノヒドロキシ化合物)
〔工程1〕において用いる芳香族モノヒドロキシ化合物は、下記式(3)で表される。
【0042】
【化16】

【0043】
前記式(3)中、Ar1は、炭素数6〜7の芳香族基を表す。
例えば、フェニル基が好ましいものとして挙げられる。
【0044】
(エステル交換反応)
前記ジアルキルカーボネートと前記芳香族モノヒドロキシ化合物とを用いて、金属含有触媒、好ましくは、後述するチタン含有組成物又は鉛含有組成物の存在下で、下記式(7)に示すエステル交換反応を行い、アルキルアリールカーボネートを生成する。
【0045】
【化17】

【0046】
前記式(7)中、Rはアルキル基を表し、Arはアリール基を示す。
【0047】
(アルキルアリールカーボネート)
〔工程1〕の生成物であるアルキルアリールカーボネートを下記式(4)に示す。
【0048】
【化18】

【0049】
式(4)中の、R3は、炭素数4〜6のアルキル基を表し、Ar3は、炭素数6〜7の芳香族基を表す。
【0050】
〔工程2〕
上述した〔工程1〕で得られた前記アルキルアリールカーボネートを、金属含有触媒、好ましくは、後述するチタン含有組成物又は鉛含有組成物の存在下で、下記式(8)に示す不均化反応に付し、前記アルキルアリールカーボネートの不均化反応の生成物であるジアリールカーボネートを製造する。
【0051】
【化19】

【0052】
前記式(8)中、Rはアルキル基を示し、Arはアリール基を示す。
【0053】
(金属含有触媒)
上述した〔工程1〕及び〔工程2〕においては、アルキルアリールカーボネートの脱炭酸反応を伴うエーテル副生物が生成する。
本発明者らは鋭意検討の結果、金属含有触媒を所定の濃度に特定して用いることにより、副生物の生成を効果的に抑制できることを見出した。
具体的には、〔工程1〕及び〔工程2〕における反応液中の原料の合計重量に対する、金属含有触媒を構成する金属原子濃度が0.01〜1質量%になるように調整し、エステル交換反応及び不均化反応を行う。
金属含有触媒としては、エステル交換および不均化の反応を促進する金属含有触媒であり、少なくとも1つの金属−酸素−炭素の結合を有する金属含有触媒である。このような金属含有触媒は、金属部分が第4族又は第14族であるものが使用でき、特に、後述するチタン含有組成物、鉛含有組成物が好ましい。
【0054】
<チタン含有組成物>
チタン含有組成物は、〔工程1〕のエステル交換反応及び〔工程2〕の不均化反応を促進することができるので、触媒として好ましい。
チタン含有組成物としては、反応液中に溶解するか、あるいは液状で存在するチタン含有組成物であって、少なくとも1つのチタン−酸素−炭素の結合を有するチタン含有組成物が好ましく用いられる。
チタン含有組成物としては、具体的には、チタンテトラメトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトラフェノキシド等が挙げられる。これらのチタン含有触媒は部分的に加水分解を施し、下記に説明するポリチタノキサンとしたものについても好適に使用できる。
【0055】
本実施形態で用いるポリチタノキサンは、以下の一般式(1b)、(2b)、(3b)及び(4b)からなる群より選ばれる構造単位からなるポリチタノキサンの、少なくとも1種を含むポリチタノキサンであることが好ましい。
すなわち、下記式に示す構造単位を組み合わせて、互いに、Ti−O−Ti結合を介して、直鎖状、分岐鎖状、環状構造を形成した構造や、それらの組み合わせからなる構造であってもよい。
【0056】
【化20】

【0057】
式(1b)〜(4b)中、Rは有機基を表す。
【0058】
<鉛含有組成物>
鉛含有組成物は、〔工程1〕のエステル交換反応及び〔工程2〕の不均化反応を促進することができるので、触媒として好ましい。
鉛含有組成物としては、反応液中に溶解するか、あるいは液状で存在する鉛含有組成物が好ましく用いられる。
鉛含有組成物としては、具体的には、PbO、PbO2、Pb34等の酸化鉛類;PbS、Pb2S等の硫化鉛類;Pb(OH)2、Pb22(OH)2等の水酸化鉛類;Na2PbO2、K2PbO2、NaHPbO2、KHPbO2等の亜鉛(なまり)酸塩類;Na2PbO3、Na22PbO4、K2PbO3、K2[Pb(OH)6]、K4PbO4、Ca2PbO4、CaPbO3等の鉛酸塩類;PbCO3、2PbCO3・Pb(OH)2等の鉛の炭酸塩及びその塩基性塩類;Pb(OCOCH32、Pb(OCOCH34、Pb(OCOCH32・PbO・3H2O等の有機酸の鉛塩及びその炭酸塩や塩基性塩類;Bu4Pb、Ph4Pb、Bu3PbCl、Ph3PbBr、Ph3Pb(又はPh6Pb2)、Bu3PbOH、Ph3PbO等の有機鉛化合物類(Buはブチル基、Phはフェニル基を示す。);Pb(OCH32、(CH3O)Pb(OPh)、Pb(OPh)2等のアルコキシ鉛類、アリールオキシ鉛類;Pb−Na、Pb−Ca、Pb−Ba、Pb−Sn、Pb−Sb等の鉛の合金類;ホウエン鉱、センアエン鉱等の鉛鉱物類、及びこれらの鉛化合物の水和物が挙げられる。
【0059】
金属含有触媒としては、上述したチタン含有組成物又は鉛含有組成物の他、下記のスズ化合物も使用することができる。
<スズ化合物>
例えば、スズテトラメトキシド、スズテトラブトキシド、スズテトラフェノキシド、モノブチルスズオキシドメトキシド、モノブチルスズオキシドエトキシド、モノブチルスズオキシドプロポキシド(各異性体)、モノブチルスズブトキシド(各異性体)、モノブチルスズペントキシド(各異性体)、モノブチルスズフェノキシド、モノオクチルスズオキシドメトキシド、モノオクチルスズオキシドエトキシド、モノオクチルスズオキシドプロポキシド(各異性体)、モノオクチルスズブトキシド(各異性体)、モノオクチルスズペントキシド(各異性体)、モノオクチルスズフェノキシド、ジブチルスズジメトキシド、ジブチルスズジエトキシド、ジブチルスズジプロポキシド(各異性体)、ジブチルスズジブトキシド(各異性体)、ジブチルスズジペントキシド(各異性体)、ジブチルスズジフェノキシド(各異性体)、ジオクチルスズジメトキシド、ジオクチルスズジエトキシド、ジオクチルスズジプロポキシド(各異性体)、ジオクチルスズジブトキシド(各異性体)、ジオクチルスズジペントキシド(各異性体)、ジオクチルスズジフェノキシド(各異性体)等が挙げられる。
好ましくは、チタンフェノキシド(単量体及び多量体構造)、スズテトラフェノキシド、モノブチルスズオキシドフェノキシド、モノオクチルスズオキシドフェノキシドである。
【0060】
(生成物)
本実施形態の製造方法において得られるジアリールカーボネートは、下記式(6)で表される。
【0061】
【化21】

【0062】
式(6)中のArは、それぞれ、出発物質及び反応物質に対応してR1、R2、R3及びAr1、Ar2、Ar3から選択される。
【0063】
なお、本実施形態の製造方法により得られる芳香族炭酸エステルは、上述したジアリールカーボネートに限定されることなく、〔工程2〕を経て、下記式(5)に示す芳香族炭酸エステルを得ることもできる。
【0064】
【化22】

【0065】
式(5)中の、R及びArは、それぞれ、出発物質及び反応物質に対応してR1、R2、R3及びAr1、Ar2、Ar3から選ばれる。
【0066】
(反応装置)
本実施形態の芳香族炭酸エステルの製造方法を実施する反応器や反応装置については、特に制限されるものではなく、攪拌槽方式、多段攪拌槽方式、多段蒸留塔を用いる方式、及びこれらを組み合わせた方式等、公知の種々の方式による反応を実施するための反応器、反応装置をいずれも用いることができる。
前記反応器は、バッチ式、連続式のいずれでもよい。平衡を生成系側に効率的にずらすという観点からは、多段蒸留塔を用いる方法が好ましく、多段蒸留塔を用いた連続法を適用することが特に好ましい。このような多段蒸留塔としては、例えば、オルダーショー型蒸留塔、泡鍾トレイ、多孔板トレイ、バルブトレイ、向流トレイ等のトレイを使用した棚段塔方式のものや、ラシヒリング、レッシングリング、ポールリング、ベルルサドル、インタロックスサドル、ディクソンパッキング、マクマホンパッキング、ヘリパック、スルザーパッキング、メラパック等の各種充填物を充填した充填塔方式のもの等、通常多段蒸留塔として用いられるものならばいずれでもよい。
さらに、棚段部分と充填物の充填された部分とを併せ持つ棚段−充填混合塔方式のものも好ましく用いられる。
多段蒸留塔を用いて連続法を実施する場合、ジアルキルカーボネートと芳香族モノヒドロキシ化合物とを連続多段蒸留塔内に連続的に供給し、該蒸留塔内においてチタン含有組成物の存在下に、液相又は気−液相で、両物質間の反応を実施すると同時に、生成されるジアリールカーボネート又はジアリールカーボネート混合物を含む高沸点反応混合物を蒸留塔の下部から液状で抜き出し、一方副生するアルコール又はジアルキルカーボネートを含む低沸物を蒸留によって蒸留塔の上部からガス状で連続的に抜き出すことによりジアリールカーボネート類が得られる。
【0067】
反応装置に付帯する流量計、温度計等の計装機器類、バルブ類、配管継ぎ手類、ポンプ類、熱源類等は、公知のものをいずれも使用でき、また、熱回収を行ってもよく、ジアルキルカーボネート等の原料のリサイクルを行ってもよい。
【0068】
(触媒量)
本実施形態の芳香族炭酸エステルの製造方法を実施するために用いる金属含有触媒、例えばチタン含有組成物又は鉛含有組成物の量については、その触媒の種類、原料やその量比、反応温度、反応圧力等の種々の条件によって異なってくるが、反応液中の原料の合計重量に対する割合で、前記金属含有触媒を構成する金属原子濃度が0.01〜1質量%となるように調整する。
【0069】
(反応時間)
本実施形態の芳香族炭酸エステルの製造方法を実施するための反応時間(連続法の場合は滞留時間)については、特に制限されるものではなく、通常0.001〜50時間であるものとし、0.01〜10時間が好ましく、0.05〜5時間がより好ましい。
【0070】
(反応温度)
本実施形態の芳香族炭酸エステルの製造方法を実施するための反応温度については、原料の種類によって異なるが、通常50〜350℃であるものとし、100〜280℃の範囲が好ましい。
【0071】
(反応圧力)
また、反応圧力は、原料の種類や反応温度等により異なるが、減圧、常圧、加圧のいずれであってもよく、通常、10〜1000kPaとし、100〜500kPaであることが好ましい。
【0072】
(溶媒)
本実施形態の芳香族炭酸エステルの製造方法を実施するためには、反応工程において、溶媒は必須ではないが、流動性を向上させ物質の移送操作や反応操作を容易にする目的により不活性溶媒を適用してもよい。
このような不活性溶媒としては、例えば、炭素数5〜16の鎖状、環状の炭化水素、炭素数4から16の鎖状、環状の炭化水素からなるエーテル類が挙げられる。
具体的には、ペンタン(各異性体)、ヘキサン(各異性体)、ヘプタン(各異性体)、オクタン(各異性体)、ノナン(各異性体)、デカン(各異性体)、テトラデカン(各異性体)、ヘキサデカン(各異性体)、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン(各異性体)、エチルベンゼン等から選ばれる炭素数6〜16の鎖状、環状の炭化水素;ジエチルエーテル,ジプロピルエーテル(各異性体)、ジブチルエーテル(各異性体)、ジヘキシルエーテル(各異性体)、ジオクチルエーテル(各異性体)、ジフェニルエーテル等から選ばれるエーテル類が挙げられる。
【実施例】
【0073】
以下、具体的な実施例と、これとの比較例を挙げて説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
先ず、実施例に用いた各種測定方法について説明する。
【0074】
〔反応液中の原料の合計重量に対するチタン含有組成物又は鉛含有組成物を構成する金属原子濃度の分析方法〕
分析装置:RIGAKU社製 JY−138ULTRACE高周波誘導結合型プラズマ発光分析計(ICP)システム
反応溶液を採取し、王水による前処理を行い、その後、ICP分析を実施した。
【0075】
〔式(1)〜(6)で表される化合物のガスクロマトグラフィー分析方法〕
分析装置として、島津製作所製GC−2010システムを用いた。
〔1〕分析サンプル溶液の作製
反応溶液を0.15g計り取り、脱水アセトンを約2g加えた。さらに、内部標準としてトルエン又はジフェニルエーテル約0.04gを加えて、ガスクロマトグラフィー分析サンプル溶液とした。
〔2〕ガスクロマトグラフィー分析条件
カラム:DB−1(米国、J&W Scientific社製)
液相:100%ジメチルポリシロキサン
長さ:30m
内径:0.25mm
フィルム厚さ:1μm
カラム温度:50℃(5min保持)→200℃(昇温速度10℃/min;200℃で5min保持)→300℃(5min保持)
インジェクション温度:300℃
検出器温度:300℃
検出法:FID
〔3〕定量分析法
各標準物質の標準サンプルについて分析を実施し作成した検量線を基に、分析サンプル溶液の定量分析を実施した。
【0076】
〔実施例1〕
図1に示す装置を用いて芳香族カーボネートを製造した。
段数20のシーブトレイを充填した内径2インチ塔長1mの濃縮部及びディクソンパッキング(6mmφ)を充填した内径2インチ塔長1mの回収部からなる連続多段蒸留塔3の中段からジ(n−ブチル)カーボネートとフェノール及びチタンフェノキシドからなる混合液(混合液中のジ(n−ブチル)カーボネートとフェノールとの重量比が約65/35(ジ(n−ブチル)カーボネートとフェノールのモル比として約1)、原子としてのチタンが全液量の約500ppmとなるように調整した)を、予熱器2を経て移送ライン1から約110g/Hrで連続的に供給して、反応を行った。
前記混合液を連続的に供給する段より下部に濃縮部、上部に回収部を設置した。
反応及び蒸留に必要な熱量は、塔下部液を導管10とリボイラー11を経て循環させることにより供給し、多段蒸留塔の塔底の温度が約230℃、塔頂圧力が約200kPaになるように制御した。
反応液は、連続多段蒸留塔3の塔底から導管10を経て貯槽12へ約93g/Hrで連続的に抜き出した。
副生1−ブタノールを含む低沸点混合液は塔頂から導管4を経て抜出した後、冷却器5で液化させ一部を貯槽8へ約17g/Hrで連続的に抜き出し、残りを蒸留塔に還流させた(還流比=5)。
貯槽12へ抜き出された液の組成は、フェノール約17質量%、ジ(n−ブチル)カーボネート約65質量%、ブチルフェニルカーボネート約39質量%、炭酸ジフェニル約6.5質量%、1−ブタノール約690ppmであった。
貯槽8へ抜き出された液の組成は、1−ブタノール約90質量%、フェノール約0.1質量%、ジ(n−ブチル)カーボネート約10質量%であった。
連続多段蒸留塔3に引き続き連続多段蒸留塔15を用いて反応を行った。
連続多段蒸留塔15は連続多段蒸留塔3と同様に段数20のシーブトレイを充填した内径2インチ塔長1mの濃縮部及びディクソンパッキング(6mmφ)を充填した内径2インチ塔長1m回収部からなり、貯槽12からの反応液を連続的に供給する段より下部に濃縮部、上部に回収部を設置した。
連続多段蒸留塔3の塔底から導管10を経て貯槽12へ抜き出された反応液を導管13を経て予熱器14で予め加熱し、連続多段蒸留塔15に約93g/Hrで連続的に供給して、反応を行った。
反応及び蒸留に必要な熱量は塔下部液を導管22とリボイラー23を経て循環させることにより供給し、多段蒸留塔の塔底の温度が約230℃になるように制御した。
反応液は連続多段蒸留塔15の塔底から導管22を経て貯槽24へ約50.5g/Hrで連続的に抜き出した。
前記反応液中の、ジ(n−ブチル)カーボネート、フェノール、ブチルフェニルカーボネートの合計重量に対するチタン原子濃度は約1100ppmであった。
副生ジ(n−ブチル)カーボネートを含む低沸点混合液は塔頂から導管16を経て抜出した後、冷却器17で液化させ一部を貯槽20へ約42.5g/Hrで連続的に抜き出し、残りを蒸留塔に還流させた(還流比=5)。
貯槽24へ抜き出された液の組成は、ジ(n−ブチル)カーボネート約0.6質量%、ブチルフェニルカーボネート約7質量%、炭酸ジフェニル約92質量%であった。
貯槽20へ抜き出された液の組成は1−ブタノール約24質量%、フェノール約6質量%、ジ(n−ブチル)カーボネート約69質量%、ブチルフェニルエーテル約0.01質量%であった。
【0077】
〔実施例2〕
図1に示す装置を用いて芳香族カーボネートを製造した。
段数20のシーブトレイを充填した内径2インチ塔長1mの濃縮部及びディクソンパッキング(6mmφ)を充填した内径2インチ塔長1mの回収部からなる連続多段蒸留塔3の中段からジ(n−ブチル)カーボネートとフェノール及び鉛フェノキシドからなる混合液(原子としての鉛が全液量の約5000ppmであり、ジ(n−ブチル)カーボネート約54質量%、フェノール約35質量%(ジ(n−ブチル)カーボネートとフェノールのモル比として約1.2)、1−ブタノール約2質量%の割合で含む)を、予熱器2を経て移送ライン1から約110g/Hrで連続的に供給して、反応を行った。
前記混合液を連続的に供給する段より下部に濃縮部、上部に回収部を設置した。
反応及び蒸留に必要な熱量は塔下部液を導管10とリボイラー11を経て循環させることにより供給し、多段蒸留塔の塔底の温度が約230℃、塔頂圧力が約200kPaになるように制御した。
反応液は連続多段蒸留塔3の塔底から導管10を経て貯槽12へ約96g/Hrで連続的に抜き出した。
副生1−ブタノールを含む低沸点混合液は塔頂から導管4を経て抜出した後、冷却器5で液化させ一部を貯槽8へ約14g/Hrで連続的に抜き出し、残りを蒸留塔に還流させた(還流比=5)。
貯槽12へ抜き出された液の組成は、フェノール約25質量%、ジ(n−ブチル)カーボネート約36質量%、ブチルフェニルカーボネート約25質量%、炭酸ジフェニル約3質量%、1−ブタノール約0.1質量%であった。
貯槽8へ抜き出された液の組成は1−ブタノール約99.5質量%、フェノール約0.5質量%であった。
連続多段蒸留塔3に引き続き連続多段蒸留塔15を用いて反応を行った。
連続多段蒸留塔15は連続多段蒸留塔3と同様に段数20のシーブトレイを充填した内径2インチ塔長1mの濃縮部及びディクソンパッキング(6mmφ)を充填した内径2インチ塔長1m回収部からなり、貯槽12からの反応液を連続的に供給する段より下部に濃縮部、上部に回収部を設置した。
連続多段蒸留塔3の塔底から導管10を経て貯槽12へ抜き出された反応液を導管13を経て予熱器14で予め加熱し、連続多段蒸留塔15に約96g/Hrで連続的に供給して、反応を行った。
反応及び蒸留に必要な熱量は塔下部液を導管22とリボイラー24を経て循環させることにより供給し、多段蒸留塔の塔底の温度が約230℃になるように制御した。
反応液は連続多段蒸留塔15の塔底から導管22を経て貯槽24へ約52g/Hrで連続的に抜き出した。
反応液中のジ(n−ブチル)カーボネート、フェノール、ブチルフェニルカーボネートの合計重量に対する鉛原子濃度は約1質量%であった。
副生ジ(n−ブチル)カーボネートを含む低沸点混合液は塔頂から導管16を経て抜出した後、冷却器17で液化させ一部を貯槽20へ約44g/Hrで連続的に抜き出し、残りを蒸留塔に還流させた(還流比=2)。
貯槽24へ抜き出された液の組成は、ジ(n−ブチル)カーボネート約100ppm、ブチルフェニルカーボネート約16質量%、炭酸ジフェニル約80質量%であった。貯槽20へ抜き出された液の組成は1−ブタノール約33質量%、フェノール約12質量%、ジ(n−ブチル)カーボネート約55質量%、ブチルフェニルエーテル約0.5質量%であった。
【0078】
〔実施例3〕
図1に示す装置を用いて芳香族カーボネートを製造した。
段数20のシーブトレイを充填した内径2インチ塔長1mの濃縮部及びディクソンパッキング(6mmφ)を充填した内径2インチ塔長1mの回収部からなる連続多段蒸留塔3の中段からジ(n−ブチル)カーボネートとフェノール、及びチタンフェノキシドからなる混合液(原子としてのチタンが全液量の約1000ppmであり、ジ(n−ブチル)カーボネート約55質量%、フェノール約44質量%(ジ(n−ブチル)カーボネートとフェノールのモル比として約1.5)、ブチルフェニルカーボネート約0.6質量%の割合で含む)を、予熱器2を経て移送ライン1から約110g/Hrで連続的に供給して、反応を行った。
前記混合液を連続的に供給する段より下部に濃縮部、上部に回収部を設置した。
反応及び蒸留に必要な熱量は塔下部液を導管10とリボイラー11を経て循環させることにより供給し、多段蒸留塔の塔底の温度が約230℃、塔頂圧力が約200kPaになるように制御した。
反応液は連続多段蒸留塔3の塔底から導管10を経て貯槽12へ約97g/Hrで連続的に抜き出した。
副生1−ブタノールを含む低沸点混合液は塔頂から導管4を経て抜出した後、冷却器5で液化させ一部を貯槽8へ約13g/Hrで連続的に抜き出し、残りを蒸留塔に還流させた(還流比=10)。
貯槽12へ抜き出された液の組成は、フェノール約28質量%、ジ(n−ブチル)カーボネート約28質量%、ブチルフェニルカーボネート約28質量%、炭酸ジフェニル約5質量%、1−ブタノール約0.1質量%であった。
貯槽8へ抜き出された液の組成は1−ブタノール約99.9質量%、フェノール約0.1質量%であった。
連続多段蒸留塔3に引き続き連続多段蒸留塔15を用いて反応を行った。
連続多段蒸留塔15は連続多段蒸留塔3と同様に段数20のシーブトレイを充填した内径2インチ塔長1mの濃縮部及びディクソンパッキング(6mmφ)を充填した内径2インチ塔長1m回収部からなり、貯槽12からの反応液を連続的に供給する段より下部に濃縮部、上部に回収部を設置した。
連続多段蒸留塔3の塔底から導管10を経て貯槽12へ抜き出された反応液を導管13を経て予熱器14で予め加熱し、連続多段蒸留塔15に約97g/Hrで連続的に供給して、反応を行った。
反応及び蒸留に必要な熱量は塔下部液を導管22とリボイラー23を経て循環させることにより供給し、多段蒸留塔の塔底の温度が約230℃になるように制御した。
反応液は連続多段蒸留塔15の塔底から導管22を経て貯槽24へ約55g/Hrで連続的に抜き出した。
前記反応液中のジ(n−ブチル)カーボネート、フェノール、ブチルフェニルカーボネートの合計重量に対するチタン原子濃度は約2000ppmであった。
副生ジ(n−ブチル)カーボネートを含む低沸点混合液は塔頂から導管16を経て抜出した後、冷却器17で液化させ一部を貯槽20へ約42g/Hrで連続的に抜き出し、残りを蒸留塔に還流させた(還流比=5)。
貯槽24へ抜き出された液の組成は、ジ(n−ブチル)カーボネート約0.6質量%、ブチルフェニルカーボネート約9質量%、炭酸ジフェニル約90質量%であった。
貯槽20へ抜き出された液の組成は1−ブタノール約34質量%、フェノール約11質量%、ジ(n−ブチル)カーボネート約55質量%、ブチルフェニルエーテル約0.02質量%であった。
【0079】
〔比較例1〕
図1に示す装置を用いて芳香族カーボネートを製造した。
段数20のシーブトレイを充填した内径2インチ塔長1mの濃縮部及びディクソンパッキング(6mmφ)を充填した内径2インチ塔長1mの回収部からなる連続多段蒸留塔3の中段からジ(n−ブチル)カーボネートとフェノール、及びチタンフェノキシドからなる混合液(混合液中のジ(n−ブチル)カーボネートとフェノールの重量比が約65/35(ジ(n−ブチル)カーボネートとフェノールのモル比として約1)、原子としてのチタンが全液量の約1質量%となるように調整した)を、予熱器2を経て移送ライン1から約110g/Hrで連続的に供給して、反応を行った。
前記混合液を連続的に供給する段より下部に濃縮部、上部に回収部を設置した。
反応及び蒸留に必要な熱量は塔下部液を導管10とリボイラー11を経て循環させることにより供給し、多段蒸留塔の塔底の温度が約230℃、塔頂圧力が約200kPaになるように制御した。
反応液は連続多段蒸留塔3の塔底から導管10を経て貯槽12へ約93g/Hrで連続的に抜き出した。
副生1−ブタノールを含む低沸点混合液は、塔頂から導管4を経て抜出した後、冷却器5で液化させ一部を貯槽8へ約17g/Hrで連続的に抜き出し、残りを蒸留塔に還流させた(還流比=5)。
貯槽12へ抜き出された液の組成は、フェノール約17質量%、ジ(n−ブチル)カーボネート約65質量%、ブチルフェニルカーボネート約39質量%、炭酸ジフェニル約6.5質量%、1−ブタノール約690ppmであった。
貯槽8へ抜き出された液の組成は、1−ブタノール約90質量%、フェノール約0.1質量%、ジ(n−ブチル)カーボネート約10質量%であった。
連続多段蒸留塔3に引き続き連続多段蒸留塔15を用いて反応を行った。
連続多段蒸留塔15は連続多段蒸留塔3と同様に段数20のシーブトレイを充填した内径2インチ塔長1mの濃縮部及びディクソンパッキング(6mmφ)を充填した内径2インチ塔長1m回収部からなり、貯槽12からの反応液を連続的に供給する段より下部に濃縮部、上部に回収部を設置した。
連続多段蒸留塔3の塔底から導管10を経て貯槽12へ抜き出された反応液を導管13を経て予熱器14で予め加熱し、連続多段蒸留塔15に約93g/Hrで連続的に供給して、反応を行った。反応及び蒸留に必要な熱量は塔下部液を導管22とリボイラー23を経て循環させることにより供給し、多段蒸留塔の塔底の温度が約230℃になるように制御した。
反応液は連続多段蒸留塔15の塔底から導管22を経て貯槽24へ約50.5g/Hrで連続的に抜き出した。
前記反応液中のジ(n−ブチル)カーボネート、フェノール、ブチルフェニルカーボネートの合計重量に対するチタン原子濃度は2質量%であった。
副生ジ(n−ブチル)カーボネートを含む低沸点混合液は、塔頂から導管16を経て抜出した後、冷却器17で液化させ一部を貯槽20へ約42.5g/Hrで連続的に抜き出し、残りを蒸留塔に還流させた(還流比=5)。
貯槽24へ抜き出された液の組成は、ジ(n−ブチル)カーボネート約0.6質量%、ブチルフェニルカーボネート約3質量%、炭酸ジフェニル約90質量%であった。
貯槽20へ抜き出された液の組成は1−ブタノール約23質量%、フェノール約6質量%、ジ(n−ブチル)カーボネート約69質量%、ブチルフェニルエーテル約2質量%であった。比較例2においては、副生成物であるブチルフェニルエーテルの生成量が実施例よりも多かった。
【0080】
〔比較例2〕
図1に示す装置を用いて芳香族カーボネートを製造した。
段数20のシーブトレイを充填した内径2インチ塔長1mの濃縮部及びディクソンパッキング(6mmφ)を充填した内径2インチ塔長1mの回収部からなる連続多段蒸留塔3の中段からジ(n−ブチル)カーボネートとフェノール、及び鉛フェノキシドからなる混合液(原子としての鉛が全液量の約60ppmであり、ジ(n−ブチル)カーボネート約54質量%、フェノール約35質量%(ジ(n−ブチル)カーボネートとフェノールのモル比として約1.2)、1−ブタノール約2質量%の割合で含む)を、予熱器2を経て移送ライン1から約110g/Hrで連続的に供給して、反応を行った。
前記混合液を連続的に供給する段より下部に濃縮部、上部に回収部を設置した。
反応及び蒸留に必要な熱量は塔下部液を導管10とリボイラー11を経て循環させることにより供給し、多段蒸留塔の塔底の温度が約230℃、塔頂圧力が約200kPaになるように制御した。
反応液は連続多段蒸留塔3の塔底から導管10を経て貯槽12へ約96g/Hrで連続的に抜き出した。
副生1−ブタノールを含む低沸点混合液は、塔頂から導管4を経て抜出した後、冷却器5で液化させ、一部を貯槽8へ約14g/Hrで連続的に抜き出し、残りを蒸留塔に還流させた(還流比=5)。
貯槽12へ抜き出された液の組成は、フェノール約40質量%、ジ(n−ブチル)カーボネート約53質量%、ブチルフェニルカーボネート約5質量%、炭酸ジフェニル約500ppm、1−ブタノール約0.1質量%であった。
貯槽8へ抜き出された液の組成は、1−ブタノール約99.5質量%、フェノール約0.5質量%であった。
連続多段蒸留塔3に引き続き連続多段蒸留塔15を用いて反応を行った。
連続多段蒸留塔15は連続多段蒸留塔3と同様に段数20のシーブトレイを充填した内径2インチ塔長1mの濃縮部及びディクソンパッキング(6mmφ)を充填した内径2インチ塔長1m回収部からなり、貯槽12からの反応液を連続的に供給する段より下部に濃縮部、上部に回収部を設置した。連続多段蒸留塔3の塔底から導管10を経て貯槽12へ抜き出された反応液を、導管13を経て予熱器14で予め加熱し、連続多段蒸留塔15に約96g/Hrで連続的に供給して、反応を行った。
反応及び蒸留に必要な熱量は塔下部液を導管22とリボイラー24を経て循環させることにより供給し、多段蒸留塔の塔底の温度が約230℃になるように制御した。
反応液は連続多段蒸留塔15の塔底から導管22を経て貯槽24へ約52g/Hrで連続的に抜き出した。
前記反応液中のジ(n−ブチル)カーボネート、フェノール、ブチルフェニルカーボネートの合計重量に対する鉛原子濃度は約150ppmであった。
副生ジ(n−ブチル)カーボネートを含む低沸点混合液は塔頂から導管16を経て抜出した後、冷却器17で液化させ一部を貯槽20へ約14g/Hrで連続的に抜き出し、残りを蒸留塔に還流させた(還流比=2)。
貯槽24へ抜き出された液の組成は、ジ(n−ブチル)カーボネート約100ppm、ブチルフェニルカーボネート約46質量%、炭酸ジフェニル約50質量%であった。貯槽20へ抜き出された液の組成は1−ブタノール約33質量%、フェノール約12質量%、ジ(n−ブチル)カーボネート約55質量%、ブチルフェニルエーテル約1.5質量%であった。比較例2においては、触媒濃度が低かったため、反応速度が不十分となり、収率が低下した。
【0081】
実施例1〜3によれば、反応液中の、原料の合計重量に対する金属含有触媒を構成する金属原子濃度を0.01〜1質量%とすることにより、副生物が少なく、かつ目的物であるジアリールカーボネートを安定的に製造できる効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の芳香族炭酸エステルの製造方法は、副生物が少なく、ジアリールカーボネートを安定的に高い生産性をもって製造する技術として産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0083】
1、4、7、10、13、16、19、22:導管
2、14 :予熱器
3、15:連続多段蒸留塔
5、17:冷却器
6、18:気液分離器
11、23:リボイラー
8、12、20、24:貯槽
9、21:圧力コントロール弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるジアルキルカーボネート、下記式(2)で表されるアルキルアリールカーボネート、及びそれらの混合物よりなる群から選ばれる出発物質と、
下記式(3)で表される芳香族モノヒドロキシ化合物よりなる反応物質と、
を、金属含有触媒の存在下に反応させ、
当該反応により得られる下記式(4)で表されるアルキルアリールカーボネートを、金属含有触媒の存在下で反応させ、
副生アルコール類及び/又は副生ジアルキルカーボネート類を反応系外に留出させながら前記出発物質と前記反応物質とに対応する、下記式(5)及び/又は下記式(6)で表される芳香族炭酸エステルを製造する工程において、
反応液中の原料の合計重量に対する前記金属含有触媒を構成する金属原子濃度を、0.01〜1質量%とする芳香族炭酸エステルの製造方法。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

(式(1)〜(4)中の、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して炭素数4〜6のアルキル基を表し、Ar1、Ar2、及びAr3は、それぞれ独立して炭素数6〜7の芳香族基を表す。)
【化5】

【化6】

(式(5)、(6)中の、R及びArは、それぞれ、出発物質及び反応物質に対応してR1、R2、R3及びAr1、Ar2、Ar3から選ばれる。)
【請求項2】
前記式(1)、(2)、(4)中のR1、R2及びR3は、それぞれ独立して、n−ブチル基、2−メチルプロピル基、2−エチルブチル基からなる群より選ばれるいずれかである請求項1に記載の芳香族炭酸エステルの製造方法。
【請求項3】
前記芳香族モノヒドロキシ化合物がフェノールである請求項1又は2に記載の芳香族炭酸エステルの製造方法。
【請求項4】
前記金属含有触媒がチタン含有組成物又は鉛含有組成物である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の芳香族炭酸エステルの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−140356(P2012−140356A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292976(P2010−292976)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】