説明

芽胞形成細菌の検出用ポリヌクレオチドおよび芽胞形成細菌の検出法

【課題】腐敗の原因となる芽胞形成細菌を迅速で簡便に検出・同定できるプローブおよびプライマーの提供。
【解決手段】GPR、SpoIVA、SpoVT、およびYabGからなる群から選択される芽胞形成タンパク質をコードするヌクレオチド配列またはその相補配列からなるポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができる、芽胞形成細菌の検出に用いられるプローブおよびプライマー。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、芽胞形成細菌の検出に用いられるプローブおよびプライマーに関する。本発明は、また、芽胞形成細菌の検出法に関する。
【背景技術】
【0002】
バチラス属やクロストリディウム属の細菌は耐久性と休眠性を備えた細菌内生胞子(以下、「芽胞」ということがある)を形成する(蜂須賀養悦 1988 芽胞学 東海大学出版、The Bacterial Spore Vol.2 1983 Edited by Hurst A., and Gould G.W. Academic Press)。これらの細菌内生胞子は一般的に栄養細胞よりも耐熱性が高いことから、加熱処理による生菌数の減少率を測定することにより、試料中に含まれる胞子の有無を知ることができる。あるいは、試料を胞子染色し顕微鏡観察するか、位相差顕微鏡で観察することにより、直接存在を確認することができる(近藤雅臣・渡部一仁 編著(1995)スポア実験マニュアル 技報堂出版)。これらの方法は、培養可能で胞子形成条件が知られている細菌の研究や、多数の胞子によって汚染された食品・飲料などの検査にのみ有効である。
【0003】
一方、16S rRNAなど保存性の高い遺伝子の塩基配列を比較解析することにより、既知の芽胞形成細菌との類縁性から芽胞形成の可能性を予測することもできる。しかし、バチラス属やクロストリディウム属の類縁菌には、非芽胞形成細菌であるリステリア属やスタフィロコッカス属などが存在することから、系統上の類縁性だけで芽胞形成能を判別することは容易でない(Bacterial spore formers 2004 Edited by Ricca E., Henriques A.O., and S. Cutting, Horizon Bioscience)。
【0004】
近年、細菌ゲノム研究の発展により、多くの芽胞形成細菌について遺伝情報の比較が可能となった。枯草菌は芽胞形成細菌のモデル生物であり、芽胞形成機構の遺伝学的・分子生物学的解析が最も進んでいる。枯草菌において芽胞形成期特異的に発現する遺伝子は約400種類存在する(Steil L., Serrano M., Henriques A.O., Vlker U. 2005 Microbiology 151:399-420)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Bacillus属やClostridium属に代表される芽胞形成細菌は、熱などに対する抵抗性や長期休眠能を持った芽胞を形成する。これらの芽胞は防除が困難であり、食品・飲料・医薬品などの変敗の原因となるため、芽胞形成細菌の迅速で簡便な検出法の開発が求められている。
【0006】
すなわち、本発明は、腐敗の原因となる芽胞形成細菌を迅速で簡便に検出・同定できるプローブおよびプライマー並びに方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
いわゆる芽胞細菌は全てFirmicutes門に属しているが、Firmicutes門には非芽胞形成細菌も含まれている。本発明者らは、細菌の分類から離れて、芽胞形成細菌に特異的な遺伝子の特定を試みた。その結果、GPR、SpoIVA、SpoVT、およびYabGのタンパク質の遺伝子が、芽胞形成細菌に特異的に存在することが判明した(実施例1)。Bacillales目とClostridiales目は、Lactobacillales目などの非芽胞形成グループより遺伝的に離れているが、Bacillales目にはListeria属やStaphylococcus属など非芽胞形成細菌も含まれている。芽胞形成細菌と非芽胞形成細菌が混在するFirmicutes門全般において、芽胞形成細菌にのみ共通の芽胞形成に関与するタンパク質の遺伝子が特定されたことは意外であった。
【0008】
本発明者らは、また、SpoIVA遺伝子の保存領域に対するユニバーサルプライマーを設計し、PCR法によりその効果を検討したところ、芽胞形成細菌特異的に染色体DNAが増幅された(実施例2)。以上の結果から、SpoIVAは芽胞形成能の有無を示す指標遺伝子として重要であることが示された。
【0009】
本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0010】
本発明によれば、GPR、SpoIVA、SpoVT、およびYabGからなる群から選択される芽胞形成タンパク質をコードするヌクレオチド配列またはその相補配列からなるポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができる、芽胞形成細菌の検出に用いられるプローブまたはプライマーが提供される。
【0011】
本発明によれば、GPR、SpoIVA、SpoVT、およびYabGからなる群から選択される芽胞形成タンパク質またはその遺伝子を検出することを含んでなる、芽胞形成細菌の検出法が提供される。
【0012】
本発明によれば、試料中の芽胞形成細菌を迅速で簡便に検出することができる。従って、芽胞形成細菌による食品、飲料、医薬品などの汚染検査に用いることができる。また、細菌の分類によらず芽胞形成細菌を検出することができることから、未知の芽胞形成細菌の検出・同定にも用いることができる。特に、人工培養が困難あるいは芽胞形成条件が知られていない細菌については、食品・飲料等の生産分野における芽胞汚染リスクを知る手がかりとなることから有利である。更に、本発明による検出法をノザンブロット法やRT−PCR法を組み合わせて実施することにより、試料中に芽胞形成過程の細胞が存在することを確認できる。
【発明の具体的説明】
【0013】
[プローブおよびプライマー]
本発明によるプローブおよびプライマーにより検出される芽胞形成細菌は、環境に応じて栄養増殖と芽胞形成を行うライフサイクルを有する細菌であれば特に限定されない。本発明によるプローブおよびプライマーにより検出される芽胞形成細菌の代表例としては、Bacillus属やClostridium属に属する芽胞形成細菌が挙げられる。
【0014】
本発明によるプローブおよびプライマーは、GPR、SpoIVA、SpoVT、およびYabGからなる群から選択される芽胞形成タンパク質をコードするヌクレオチド配列またはその相補配列からなるポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができ、かつ芽胞形成細菌の検出に用いられるものであるポリヌクレオチドであればいずれも用いることができる。
【0015】
本発明によるプローブおよびプライマーとしては、GPR、SpoIVA、SpoVT、およびYabGからなる群から選択される芽胞形成タンパク質をコードするヌクレオチド配列またはその相補配列の連続する少なくとも12個、好ましくは、少なくとも15個、より好ましくは、少なくとも20個のヌクレオチドを含んでなるポリヌクレオチドが挙げられる。本発明によるプローブおよびプライマーとしては、また、GPR、SpoIVA、SpoVT、およびYabGからなる群から選択される芽胞形成タンパク質をコードするヌクレオチド配列またはその相補配列の連続する12〜50個または12〜29個、15〜50個または15〜29個、20〜50個または20〜29個のヌクレオチドを含んでなるポリヌクレオチドが挙げられる。
【0016】
GPR、SpoIVA、SpoVT、およびYabGをコードするヌクレオチド配列はBLASTゲノムデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/Blast.cgi)に登載されているものを利用することができる。GPR、SpoIVA、SpoVT、およびYabGをコードするBacillus subtilis由来の遺伝子配列は、それぞれ、配列番号14、15、16、および17に記載されている。
【0017】
本発明によるプローブおよびプライマーのうち、SpoIVA遺伝子の検出に用いることができるプローブおよびプライマーとしては、以下のポリヌクレオチドが挙げられる。
・ 配列番号1のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド配列に相補的な配列を有するポリヌクレオチドからなるプローブ(プローブ1)またはプライマー(プライマー1)、
・ 配列番号2のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド配列に相補的な配列を有するポリヌクレオチドからなるプローブ(プローブ2)またはプライマー(プライマー2)、
・ 配列番号3のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド配列に相補的な配列を有するポリヌクレオチドからなるプローブ(プローブ3)またはプライマー(プライマー3)、
・ 配列番号4のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド配列に相補的な配列を有するポリヌクレオチドからなるプローブ(プローブ4)またはプライマー(プライマー4)、
・ 配列番号5のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド配列に相補的な配列を有するポリヌクレオチドからなるプローブ(プローブ5)またはプライマー(プライマー5)、
・ 配列番号6のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド配列に相補的な配列を有するポリヌクレオチドからなるプローブ(プローブ6)またはプライマー(プライマー6)、
・ 配列番号7のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド配列に相補的な配列を有するポリヌクレオチドからなるプローブ(プローブ7)またはプライマー(プライマー7)、
・ 配列番号8のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド配列に相補的な配列を有するポリヌクレオチドからなるプローブ(プローブ8)またはプライマー(プライマー8)、
・ 配列番号9のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド配列に相補的な配列を有するポリヌクレオチドからなるプローブ(プローブ9)またはプライマー(プライマー9)、および
・ 配列番号10のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド配列に相補的な配列を有するポリヌクレオチドからなるプローブ(プローブ10)またはプライマー(プライマー10)
(配列番号1〜10の各ヌクレオチド配列の「n」は、イノシン(I)、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、およびシトシン(C)からなる群から選択されるいずれかの塩基(好ましくは、イノシン(I))を表し、配列番号1〜10の各ヌクレオチド配列において1〜数個(好ましくは、1〜6個、より好ましくは、1、2、または3個、特に好ましくは、1または2個、最も好ましくは1個)のヌクレオチドが置換(イノシンへの置換を含む)、欠失、挿入、または付加されていてもよい)。
【0018】
ここで、「相補的」とは、AについてはTが対応し、Tに対してはAが対応し、Gに対してはCが対応し、Cに対してはGが対応し、Iに対してはA、C、G、およびTのいずれか一つが対応することを意味する。
【0019】
SpoIVAの遺伝子のPCR法による検出に用いることができるプライマーペアとしては以下のプライマーペアが挙げられる。
・ プライマー1と、プライマー6、プライマー7、およびプライマー8並びにそれらの組み合わせから選択されるプライマーとからなるプライマーペア(1)、
・ プライマー2と、プライマー6、プライマー7、およびプライマー8並びにそれらの組み合わせから選択されるプライマーとからなるプライマーペア(2)、
・ プライマー3と、プライマー6、プライマー7、およびプライマー8並びにそれらの組み合わせから選択されるプライマーとからなるプライマーペア(3)、
・ プライマー4と、プライマー6、プライマー7、およびプライマー8並びにそれらの組み合わせから選択されるプライマーとからなるプライマーペア(4)、
・ プライマー5と、プライマー6、プライマー7、およびプライマー8並びにそれらの組み合わせから選択されるプライマーとからなるプライマーペア(5)、
・ プライマー1と、プライマー9およびプライマー10並びにそれらの組み合わせから選択されるプライマーとからなるプライマーペア(6)、
・ プライマー2と、プライマー9およびプライマー10並びにそれらの組み合わせから選択されるプライマーとからなるプライマーペア(7)、
・ プライマー3と、プライマー9およびプライマー10並びにそれらの組み合わせから選択されるプライマーとからなるプライマーペア(8)、
・ プライマー4と、プライマー9およびプライマー10並びにそれらの組み合わせから選択されるプライマーとからなるプライマーペア(9)、および
・ プライマー5と、プライマー9およびプライマー10並びにそれらの組み合わせから選択されるプライマーとからなるプライマーペア(10)
(プライマー1〜10は前記の内容と同義である)。
【0020】
SpoIVAの遺伝子のPCR法による検出においては、プライマーペア(1)〜(10)の一部またはすべてを組み合わせて使用することができる。好ましい組み合わせとしては、以下の組み合わせが挙げられる。
・ プライマー1、プライマー2、およびプライマー3からなるセンスプライマーと、プライマー6、プライマー7、およびプライマー8からなるアンチセンスプライマーとからなるプライマーセット(1)
・ プライマー4およびプライマー5からなるセンスプライマーと、プライマー6、プライマー7、およびプライマー8からなるアンチセンスプライマーとからなるプライマーセット(2)
・ プライマー1、プライマー2、およびプライマー3からなるセンスプライマーと、プライマー9およびプライマー10からなるアンチセンスプライマーとからなるプライマーセット(3)
・ プライマー4およびプライマー5とからなるセンスプライマーと、プライマー9およびプライマー10からなるアンチセンスプライマーとからなるプライマーセット(4)
【0021】
プライマー1〜10において、配列番号1〜10のヌクレオチド配列の相補鎖をプライマーとして用いる場合には、ペアとなる双方のプライマーについて相補鎖を使用すべきことは当業者に自明であろう。
【0022】
[芽胞形成タンパク質の検出]
本発明では、芽胞形成タンパク質を検出することにより、芽胞形成細菌の存在を検出することができる。芽胞形成タンパク質の検出は、当業者に周知である免疫学的方法により行うことができる。
【0023】
免疫学的方法による芽胞形成タンパク質の検出は、例えば、抗体抗原反応に基づく免疫学的方法により実施することができ、このような方法は、
(i)芽胞形成タンパク質に対する抗体と試料とを接触させ、
(ii)抗体抗原複合体を検出する
ことにより実施することができる。
【0024】
抗体抗原複合体の存在は、芽胞形成細菌が試料中に存在することの指標となる。
【0025】
試料は、芽胞形成細菌が含まれる可能性があればいずれのものでもよいが、典型的には、食品、飲料、医薬品などの原材料や最終製品が挙げられる。
【0026】
抗体抗原反応に基づく免疫学的方法による抗体抗原複合体の検出は当業者に周知であり、必要に応じて適切な処理(例えば、細菌の分離、タンパク質の抽出など)をした試料について、酵素免疫測定法、ウェスタンブロット法、凝集法、競合法、サンドイッチ法など既知の方法を適用することができる。標識化は蛍光物質、放射性物質、酵素、酵素の基質など公知の標識物質を用いて行うことができる。
【0027】
芽胞検出タンパク質に対する抗体は、抗体抗原複合体が検出できる限り特に限定されないが、例えば、芽胞検出タンパク質に対するポリクローナル抗体やモノクローナル抗体を用いて抗体抗原複合体を検出できる。
【0028】
抗体の作製は当業者に周知であり、例えば、ポリクローナル抗体については、芽胞検出タンパク質またはその一部のペプチドを、必要に応じて、任意の担体(例えば、ウシ血清アルブミン)や免疫賦活剤(例えば、フロイントアジュバント)とともに非ヒト動物(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、ヒツジ)に注射し、一定期間後にその動物の血清を精製することによって製造することができる。また、モノクローナル抗体については、Kohler and Milsteinの方法(Nature, 256:495-97(1975))に従って、上記動物の脾臓やリンパ節などから抗体産生細胞を取得し、その抗体産生細胞と自己抗体産生能のない哺乳動物由来のミエローマ細胞とを細胞融合させた後、抗体産生細胞であるハイブリドーマ細胞を選択し、そのハイブリドーマ細胞をインビトロで培養するか、あるいは非ヒト動物の腹水中等でインビボで培養することにより製造することができる。
【0029】
抗原として用いるタンパク質は、芽胞形成細菌から抽出して調製しても、遺伝子組み換え技術により宿主細菌から生産させて調製してもよい。GPR、SpoIVA、SpoVT、およびYabGの遺伝子のヌクレオチド配列は前記のように配列表に記載されている。
【0030】
[芽胞形成タンパク質の遺伝子の検出]
本発明では、芽胞形成タンパク質の遺伝子を検出することにより、芽胞形成細菌の存在を検出することができる。芽胞形成タンパク質の遺伝子の検出は、当業者に周知であるハイブリダイゼーション法や核酸増幅法により行うことができる。
【0031】
ハイブリダイゼーション法による芽胞形成タンパク質の遺伝子の検出は、プローブと標的核酸とが二本鎖を形成する現象を利用する限りいずれの方法を用いることができる。ハイブリダイゼーション法、例えば、
(iii)本発明によるプローブと試料由来のポリヌクレオチドとを接触させ、
(iv)ハイブリダイゼーション複合体を検出する
ことにより実施することができる。
【0032】
ハイブリダイゼーション複合体の存在は、芽胞形成細菌が試料中に存在することの指標となる。
【0033】
試料は、芽胞形成細菌が含まれる可能性があればいずれのものでもよいが、典型的には、食品、飲料、医薬品などの原材料や最終製品が挙げられる。
【0034】
ハイブリダイゼーション複合体の検出は当業者に周知であり、必要に応じて適切な処理(例えば、細菌の分離、染色体DNAの抽出など)をした試料について、サザンハイブリダイゼーション法、コロニーハイブリダイゼーションなど既知の方法を適用することができる。
【0035】
プローブを用いた検出法においては、プローブを標識して用いることができる。標識としては、例えば、放射性物質、蛍光物質、酵素、酵素の基質など公知の標識物質が挙げられる。
【0036】
核酸増幅法による芽胞形成タンパク質の遺伝子の検出は、例えば、以下のように実施することができる。
(v)試料由来のポリヌクレオチドを鋳型とし、本発明によるプライマーまたはプライマーセットを用いて核酸増幅法を実施し、
(vi)形成された増幅産物を検出する。
【0037】
増幅産物の存在は、芽胞形成細菌が試料中に存在することの指標となる。
【0038】
試料は、芽胞形成細菌が含まれる可能性があればいずれのものでもよいが、典型的には、食品、飲料、医薬品などの原材料や最終製品が挙げられる。必要に応じて適切な処理(例えば、細菌の分離、染色体DNAの抽出など)をすることにより調製された菌体の染色体DNAを核酸増幅法の鋳型として用いることができる。
【0039】
核酸増幅法は、PCR法、RT−PCR法、リアルタイムPCR法などを用いて実施できる。増幅産物の検出は当業者に周知であり、例えば、アガロースゲル電気泳動など既知の方法を適用することができる。
【0040】
本発明の好ましい態様によれば、芽胞形成タンパク質であるSpoIVAの遺伝子を検出することを含んでなる、芽胞形成細菌の検出法が提供される。
【0041】
この検出法は、本発明によるプローブを用いたハイブリダイゼーション法により実施することができる。
【0042】
この検出法は、また、本発明によるプライマーまたはプライマーセットを用いたPCR法により実施することができる。
【0043】
本発明による検出法によって芽胞形成細菌か否か同定可能な細菌としてはFirmicutes門に属する細菌全般が挙げられ、具体的には、Bacillales目に属する細菌(Bacillus属に属する細菌、Geobacillus属に属する細菌、Paenibacillus属に属する細菌、Brevibacillus属に属する細菌、Alicyclobacillus属に属する細菌、Staphylococcus属に属する細菌など)、Clostridiales目に属する細菌(Clostridium属に属する細菌、 Moorella属に属する細菌、Pectinatus属に属する細菌、Propionispora属に属する細菌など)、Lactobacillales目に属する細菌(Enterococcus属に属する細菌など)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
実施例1:芽胞形成細菌に保存されているタンパク質の検索
BLASTゲノムデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/Blast.cgi)を用いて、枯草菌芽胞形成遺伝子と類似性を持つ遺伝子を検索し、保存性の高い芽胞形成遺伝子としてGPR、SpoIVA、SpoVT、およびYabGを見いだした。結果は図1に示される通りであった。なお、リステリア属やスタフィロコッカス属を含めて、全ゲノムDNAの塩基配列情報が明らかにされている非芽胞形成細菌にはSpoIVA遺伝子が存在しなかった。
【0046】
実施例2:ユニバーサルプライマーによる芽胞形成菌の検出
(a)ユニバーサルプライマーの設計
BLASTゲノムデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/Blast.cgi)に登載されているSpoIVA遺伝子のヌクレオチド配列を用いて以下のユニバーサルプライマーを設計した。
[S4A67プライマー]
S4A67BA GTIGGIGCIGTICGIACIGGIAAITCIAC(配列番号1)
S4A67CL GTIGGICCIGTIAGIACIGGIAAITCIAC(配列番号2)
S4A67MO GTIGGIGGIGTICGIACIGGIAAITCIAC(配列番号3)
[S4A211プライマー]
S4A211BA ACIGAACCIAAITTTGTTCCIAAICAIGC(配列番号4)
S4A211CL ACIGAACCIAAATTTGTICCIAAIGAIGC(配列番号5)
[S4A416プライマー]
S4A416RBA GTICCGATTTCIGCIGCTTCITGIAAIGG(配列番号6)
S4A416RCL GTICCIATITCIGCIGCITIITCAAAIGG(配列番号7)
S4A416RMO GTICCIATITCIGCIGCITCCTGIAAIGG(配列番号8)
[S4A428プライマー]
S4A428RBA ATIACTTTICIIGTICCIATTTCIGCIGC(配列番号9)
S4A428RCL ATIACITTTITIGTICCIATITCIGCIGC(配列番号10)
[S4A467プライマー]
S4A467RBA GTIGTAATIACIACICCIATIGTIGAITGITC(配列番号11)
S4A467RCL GTIGTIAIIACIAIICCIATIGTIGAATGITC(配列番号12)
S4A467RMO GTIGTIACIAIIAIICCIATIGTIGAITGITC(配列番号13)
配列番号1〜13のヌクレオチド配列が上記プライマーを表す場合には、配列表中の「n」はイノシン残基(I)を表す。
【0047】
spoIVA遺伝子上における上記プライマー配列の位置は、図2に示される通りである。
【0048】
上記配列を有するユニバーサルプライマーを常法に従って化学合成し、(c)のPCR法による増幅に用いた。
【0049】
PCR法では、以下のユニバーサルプライマーペアのセットを用いた。
【0050】
セット(1):S4A67プライマーとS4A416プライマーとのセット
S4A67プライマーをセンスプライマーとして、S4A416プライマーをアンチセンスプライマーとして用いた。
【0051】
セット(2):S4A211プライマーとS4A416プライマーとのセット
S4A211プライマーをセンスプライマーとして、S4A416プライマーをアンチセンスプライマーとして用いた。
【0052】
セット(3):S4A67プライマーとS4A428プライマーとのセット
S4A67プライマーをセンスプライマーとして、S4A428プライマーをアンチセンスプライマーとして用いた。
【0053】
セット(4):S4A211プライマーとS4A428プライマーとのセット
S4A211プライマーをセンスプライマーとして、S4A428プライマーをアンチセンスプライマーとして用いた。
【0054】
セット(5):S4A67プライマーとS4A467プライマーとのセット
S4A67プライマーをセンスプライマーとして、S4A467プライマーをアンチセンスプライマーとして用いた。
【0055】
セット(6):S4A211プライマーとS4A467プライマーとのセット
S4A211プライマーをセンスプライマーとして、S4A467プライマーをアンチセンスプライマーとして用いた。
【0056】
(b)染色体DNAの抽出
寒天平板培地上で培養した菌体をかき取り、滅菌蒸留水に懸濁した。この懸濁液を遠心分離(15000rpm、5分間)し、上澄みを捨てた。沈殿した菌体に再度滅菌蒸留水を添加、懸濁し、遠心分離した。上澄みを捨て、得られた菌体にPrepMan Ultra Reagent(アプライドバイオシステムズ社製)の溶液100μlを添加し、95℃、10分間加熱した。その後、15000rpm、1分間遠心分離し、上澄みを染色体DNA溶液として(c)のPCR法による増幅に用いた。PCR法による核酸増幅では、以下の18種類の芽胞形成細菌と4種類の非芽胞形成細菌の染色体DNAから抽出した染色体DNAを鋳型として用いた。
【0057】
[芽胞形成細菌]
1 Bacillus subtilis 168
2 Bacillus pumilus (IFO 14367)
3 Bacillus megaterium (JCM 2506)
4 Bacillus thurigienesis (IFO 13865)
5 Bacillus sphaericus (IFO 3525)
6 Bacillus coagulans (JCM 2257)
7 Bacillus halodurans (C-125)
8 Geobacillus stearothemophilus (DSM 5934)
9 Paenibacillus polymyxa
10 Paenibacillus thiaminolyticus (NRBC 14293)
11 Brevibacillus brevis (NBRC 100599)
12 Alicyclobacillus sp. (DSM 11984)
13 Alicyclobacillus acidoterrestris (DSM 3922)
14 Alicyclobacillus hesperidum (DSM 12489)
15 Clostridium sporogenes (NBRC 14293)
16 Clostridium acetobutylicum (JCM 7828)
17 Clostridium thermocellum (ATCC 27405)
18 Moorella thermoacetica (DSM 521)
【0058】
[非芽胞形成細菌]
19 Staphylococcus aureus (IFO 12732)
20 Staphylococcus epidermidis (IFO 12993)
21 Enterococcus faecalis (ATCC 51559)
24 Escherichia coli K12
【0059】
(c)PCR法による核酸増幅
ユニバーサルプライマーペアのセット(1)〜(6)をプライマーとして用いて、各種細菌の染色体DNAをPCR法により増幅した。PCR試薬はタカラバイオ社のTaKaRa Taqと、付属バッファー、付属dNTP溶液を使用した。PCR反応装置はBioRad社のMyCyclerを使用した。具体的には、20μlの反応溶液中に1μlのサンプルDNAを混合し、PCR試薬およびPCR反応装置の添付文書の手順に従って、以下の条件でPCR法を実施した。
ステップ1:95℃・2分を1回反応。
ステップ2:94℃・30秒,40℃・30秒,70℃・1分を10回反応。
ステップ3:94℃・30秒,52℃・30秒,72℃・30秒を50回反応。
ステップ4:4℃で保存。
増幅産物をアガロースゲル電気泳動法によって分離し、増幅産物の有無を確認した。
【0060】
プライマーペアセット(1)および(2)を用いて各種細菌の染色体DNAを増幅した結果は図3に示される通りであった。
【0061】
また、プライマーペアセット(1)〜(6)を用いて各種細菌の染色体DNAを増幅した結果を表にまとめると図4の通りであった。
【0062】
図3および図4から明らかなように、プライマーペアセット(1)〜(4)を用いて各種細菌の染色体DNAを増幅したところ、検査した全ての芽胞形成細菌について特異的なDNA断片の増幅が認められ、非芽胞形成細菌では特異的なDNA断片の増幅が認められなかった。以上の結果から、spoIVAユニバーサルプライマーの有効性が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】芽胞形成細菌に保存されているタンパク質を検索した結果を示した図である。四角で囲んだ菌種は芽胞形成細菌を示す。
【図2】SpoIVA遺伝子上におけるプライマーの位置を示した図である。
【図3】プライマーペアのセット(1)および(2)を用いて各種細菌の染色体DNAをPCR法により増幅した結果(電気泳動写真)を示した図である。上段がセット(1)を用いた場合の結果を、下段がセット(2)を用いた場合の結果を、それぞれ示す。
【図4】プライマーペアのセット(1)〜(6)を用いて各種細菌の染色体DNAをPCR法により増幅した結果を示した図である。二重丸は増幅産物が確認できたことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPR、SpoIVA、SpoVT、およびYabGからなる群から選択される芽胞形成タンパク質をコードするヌクレオチド配列またはその相補配列からなるポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができる、芽胞形成細菌の検出に用いられるプローブまたはプライマー。
【請求項2】
以下から選択される、請求項1に記載のプローブまたはプライマー:
・ 配列番号1のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド配列に相補的な配列を有するポリヌクレオチドからなるプローブ(プローブ1)またはプライマー(プライマー1)、
・ 配列番号2のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド配列に相補的な配列を有するポリヌクレオチドからなるプローブ(プローブ2)またはプライマー(プライマー2)、
・ 配列番号3のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド配列に相補的な配列を有するポリヌクレオチドからなるプローブ(プローブ3)またはプライマー(プライマー3)、
・ 配列番号4のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド配列に相補的な配列を有するポリヌクレオチドからなるプローブ(プローブ4)またはプライマー(プライマー4)、
・ 配列番号5のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド配列に相補的な配列を有するポリヌクレオチドからなるプローブ(プローブ5)またはプライマー(プライマー5)、
・ 配列番号6のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド配列に相補的な配列を有するポリヌクレオチドからなるプローブ(プローブ6)またはプライマー(プライマー6)、
・ 配列番号7のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド配列に相補的な配列を有するポリヌクレオチドからなるプローブ(プローブ7)またはプライマー(プライマー7)、
・ 配列番号8のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド配列に相補的な配列を有するポリヌクレオチドからなるプローブ(プローブ8)またはプライマー(プライマー8)、
・ 配列番号9のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド配列に相補的な配列を有するポリヌクレオチドからなるプローブ(プローブ9)またはプライマー(プライマー9)、および
・ 配列番号10のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド配列に相補的な配列を有するポリヌクレオチドからなるプローブ(プローブ10)またはプライマー(プライマー10)
(上記ポリヌクレオチドにおいて、配列番号1〜10の各ヌクレオチド配列の「n」は、イノシン(I)、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、およびシトシン(C)からなる群から選択されるいずれかの塩基を表し、配列番号1〜10の各ヌクレオチド配列において1〜数個のヌクレオチドが置換(イノシンへの置換を含む)、欠失、挿入、または付加されていてもよい)。
【請求項3】
以下のプライマーペアのいずれか一つまたはその組み合わせからなる、芽胞形成細菌の検出に用いられるプライマーペア:
・ プライマー1と、プライマー6、プライマー7、およびプライマー8並びにそれらの組み合わせから選択されるプライマーとからなるプライマーペア(1)、
・ プライマー2と、プライマー6、プライマー7、およびプライマー8並びにそれらの組み合わせから選択されるプライマーとからなるプライマーペア(2)、
・ プライマー3と、プライマー6、プライマー7、およびプライマー8並びにそれらの組み合わせから選択されるプライマーとからなるプライマーペア(3)、
・ プライマー4と、プライマー6、プライマー7、およびプライマー8並びにそれらの組み合わせから選択されるプライマーとからなるプライマーペア(4)、
・ プライマー5と、プライマー6、プライマー7、およびプライマー8並びにそれらの組み合わせから選択されるプライマーとからなるプライマーペア(5)、
・ プライマー1と、プライマー9およびプライマー10並びにそれらの組み合わせから選択されるプライマーとからなるプライマーペア(6)、
・ プライマー2と、プライマー9およびプライマー10並びにそれらの組み合わせから選択されるプライマーとからなるプライマーペア(7)、
・ プライマー3と、プライマー9およびプライマー10並びにそれらの組み合わせから選択されるプライマーとからなるプライマーペア(8)、
・ プライマー4と、プライマー9およびプライマー10並びにそれらの組み合わせから選択されるプライマーとからなるプライマーペア(9)、および
・ プライマー5と、プライマー9およびプライマー10並びにそれらの組み合わせから選択されるプライマーとからなるプライマーペア(10)
(プライマー1〜10は請求項2において定義された内容と同義である)。
【請求項4】
GPR、SpoIVA、SpoVT、およびYabGからなる群から選択される芽胞形成タンパク質またはその遺伝子を検出することを含んでなる、芽胞形成細菌の検出法。
【請求項5】
芽胞形成タンパク質の遺伝子をハイブリダイゼーション法または核酸増幅法により検出する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
芽胞形成タンパク質がSpoIVAである、請求項4に記載の検出法。
【請求項7】
SpoIVAの遺伝子をPCR法により検出する、請求項4に記載の検出法。
【請求項8】
請求項2に記載のポリヌクレオチドの少なくとも一つをプローブまたはプライマーとして用いてハイブリダイゼーション法または核酸増幅法を実施する、請求項4〜7のいずれか一項に記載の検出法。
【請求項9】
請求項3に記載のプライマーペアの少なくとも一つを用いてPCR法を実施する、請求項4〜7のいずれか一項に記載の検出法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−189320(P2009−189320A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35044(P2008−35044)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(391058381)キリンビバレッジ株式会社 (94)
【Fターム(参考)】