説明

苗移植機

【課題】 粉粒体貯溜部内の粉粒体を苗載台の苗載面に繰り出す繰出部を備えた粉粒体吐出装置を、支持フレームにより苗載台に支持させて設けた苗移植機において、従来のものは、粉粒体貯溜部及び繰出部の左右移動機構があるため、構造が複雑になる。また、部分クラッチにより一部の苗植付装置の駆動を停止しても、粉粒体吐出装置は粉粒体を苗載台の全ての苗載部に吐出するので、粉粒体が無駄になる。
【解決手段】 粉粒体貯溜部15内の粉粒体を苗載台の苗載面の左右方向全幅にわたって所定量づつ繰り出す左右に複数設けた繰出部17と該繰出部17を駆動する各々のモータ19を備えた粉粒体吐出装置18を設け、複数の苗植付装置のうちの一部の苗植付装置の駆動を停止する部分クラッチを設け、該部分クラッチの作動に連動して該部分クラッチで停止した一部の苗植付装置に対応する苗載部に吐出する一部の繰出部17のモータ19を停止させる制御装置55を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、苗載台上の苗に薬剤等の粉粒体を吐出する粉粒体吐出装置を備える苗移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、左右に複数設けた苗載部に苗を載せて左右移動して苗を一株分づつ前記苗載部に対応する左右に複数設けた苗取出口へ供給する苗載台と、苗取出口の苗を取って植え付ける左右に複数設けた苗植付装置を備える苗植付部を車体に設け、粉粒体となる薬剤を貯溜する粉粒体貯溜部と該粉粒体貯溜部内の粉粒体を所定量づつ繰り出す繰出部と該繰出部を駆動するモータを備えた粉粒体吐出装置を、支持フレームにより苗載台に支持させて設けた苗移植機となる乗用型田植機が知られている。この乗用型田植機の粉粒体吐出装置は、粉粒体貯溜部及び繰出部が支持部材に沿って左右に移動することにより、粉粒体を苗載台の苗載面の左右方向全幅にわたって吐出する構成となっている。また、この乗用型田植機は、粉粒体吐出装置の左右方向端部を他の部分に対して機体の左右方向内側で且つ後側に移動させると共に、左右方向端部の苗載部を他の苗載部に対して機体の左右方向内側で且つ後側に移動させることにより、機体の左右幅を縮小させる構成となっている(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2005−95053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来技術のものは、粉粒体貯溜部及び繰出部が支持部材に沿って左右に移動する構成であるので、この左右移動機構が必要となり、構造が複雑になる。また、部分クラッチにより一部の苗植付装置の駆動を停止しても、粉粒体吐出装置は粉粒体を苗載台の全ての苗載部に吐出することになるので、粉粒体が無駄になる。仮に、粉粒体を無駄にしないために、部分クラッチの作動に連動して繰出部がその左右位置に応じて繰出を入切することが考えられるが、その制御機構は複雑なものになってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明は、上記課題を解決すべく次のような技術的手段を講じた。
すなわち、請求項1に係る発明は、左右に複数設けた苗載部(11e)に苗を載せて左右移動して苗を一株分づつ前記苗載部(11e)に対応する左右に複数設けた苗取出口(11b)へ供給する苗載台(11)と、苗取出口(11b)の苗を取って植え付ける左右に複数設けた苗植付装置(13)を備える苗植付部(6)を車体(1)に設け、粉粒体を貯溜する粉粒体貯溜部(15)と該粉粒体貯溜部(15)内の粉粒体を苗載台(11)の苗載面の左右方向全幅にわたって所定量づつ繰り出す左右に複数設けた繰出部(17)と該繰出部(17)を駆動する各々のモータ(19)を備えた粉粒体吐出装置(18)を、支持フレーム(38)により苗載台(11)に支持させて設け、複数の苗植付装置(13)のうちの一部の苗植付装置(13)の駆動を停止する部分クラッチ(51)を設け、該部分クラッチ(51)の作動に連動して該部分クラッチ(51)で停止した一部の苗植付装置(13)に対応する苗載部(11e)に吐出する一部の繰出部(17)のモータ(19)を停止させる制御装置(55)を設けた苗移植機とする。
【0005】
従って、この苗移植機は、粉粒体吐出装置(18)のモータ(19)を駆動することにより苗載台(11)上の苗の全面に粉粒体を吐出し、苗植付装置(13)により苗取出口(11b)から一株分の苗及びその苗に吐出された粉粒体を取って圃場に供給し、圃場に苗を植え付けていくと共に粉粒体を散布していく。また、圃場での植付作業において植付条数を圃場の大きさに合わせて調整するとき、部分クラッチ(51)で一部の苗植付装置(13)の駆動を停止するが、制御装置(55)によりこの停止した植付条に対応する苗載部(11e)上に繰り出す繰出部(17)のモータ(19)が停止する。
【発明の効果】
【0006】
よって、各々のモータ(19)を駆動することにより苗載台(11)上の苗の全面に粉粒体を吐出するので、従来のように粉粒体貯溜部及び繰出部を左右移動させる左右移動機構が不要になり、粉粒体吐出装置(18)の構成が簡潔になる。また、制御装置(55)により部分クラッチ(51)の作動に連動して停止した植付条に対応する苗載部(11e)上に繰り出す繰出部(17)のモータ(19)が停止する構成であるので、粉粒体を無駄に吐出させることを防止でき、コストダウンが図れると共に、部分クラッチ(51)に連動してモータ(19)を停止させるだけの構成であるため、その制御構成を簡単にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
この発明の実施例を図面に基づき説明する。
図1及び図2は、苗移植機の一例として6条植えの乗用型の田植機を示すものであり、車体1の前後には走行車輪としての左右一対の前輪2,2及び後輪3,3が架設されている。車体上前部には操作ボックス4及びステアリングハンドル5等を有する操縦装置が設置され、また、車体後方部には昇降可能な苗植付部6が装備されている。操縦装置の後側に運転席9が設置され、運転席の下側に田植機の各部に動力を伝達するエンジンEが搭載されている。
【0008】
苗植付部6は、車体の後部に昇降リンク機構7を介して昇降可能に装着され、昇降用油圧シリンダ8の伸縮作動により昇降する構成である。昇降用油圧シリンダ8を制御する昇降用油圧バルブVは、機体右側部のステップフロアの下方に設けられている。
【0009】
また、この苗植付部6には、左右に複数設けた各々の苗載部11eにマット苗を載せて左右に往復動し苗を一株分づつ各条における前板11aの苗取出口11bに供給すると共に横一列の苗を全て苗取出口11bに供給すると苗送りベルト11cにより苗を下方に移送する苗載台となる苗タンク11、先端が閉ループ軌跡Pを描いて作動する苗植付具12で一株分の苗を切取って土中に植込む6条分の苗植付装置13、苗植付面を滑走しながら整地するフロート(サイドフロート)14L,14R、センタフロ−ト14C等を備えた構成としている。
【0010】
走行車体1の前部側にミッションケース20が配置され、そのミッションケース20の左右側面部から前輪アクスルケースが側方に延び、その左右両端に変向可能に設けた前輪ファイナルケース21に前輪2,2が回転自在に軸支されている。また、ミッションケース20の背面部にメインフレーム22の前端部が固着されており、そのメインフレーム22の後端部から左右側方に延びるリヤフレームの先端部に固定して設けた後輪伝動ケース23に後輪3,3が回転自在に支承されている。
【0011】
原動機となるエンジンEからの回転動力は、ミッションケース20への入力伝動機構として、エンジン出力プーリ24からベルト25を介して油圧式無段変速装置(HST)26の入力軸に伝えられ、この入力軸から油圧ポンプを駆動し、更に、HST26の出力軸からミッションケ−ス20内のミッション入力軸に伝達されるようになっている。該ケ−ス20内のミッションに伝達された回転動力は、ケ−ス20内のトランスミッションにて変速された後、走行動力と外部取出動力とに分岐して取り出される。そして、走行動力は、前輪2,2及び後輪伝動軸27から後輪伝動ケ−ス23のギヤ機構を介して後輪3,3を駆動する。また、外部取出動力は、ミッションケース20からの出力伝動機構として、PTO出力軸、植付クラッチケース28内に設けるマイコン制御可能な植付モータ30等を介して植付伝動軸31に伝達され、更に、植付伝動軸31によって苗植付部6へ動力伝動されるようになっている。
【0012】
前記HST26は、操作ボックス4の側部に設けられた変速レバ−33の前後方向の操作で駆動し、機体の前進及び後進制御を司るように構成され、該変速レバー33を前方に向けて操作するほど前進走行速度は速くなるようになっている。また、走行速度に対する苗植付具12の作動周期を変更する株間変更手段が備えられ、操作ボックス4の下方に設けられた株間変更レバー35の操作で株間変更を行うようにしている。
【0013】
植付伝動軸31によって苗植付部6へ伝動される動力は、苗植付部6に備える植付伝動ケース50内へ伝動され、該植付伝動ケース50内から各条の苗植付装置13及び苗送りベルト11cへ伝動される。植付伝動ケース50内で動力を分岐して各2条毎の苗植付装置13へ伝動する分岐伝動部50aが設けられ、該分岐伝動部50aの伝動を入切する部分クラッチ51が設けられ、部分クラッチ51により苗植付装置13を2条毎に停止させることができる。尚、部分クラッチ51の操作に連動してそれに対応する植付条の苗送りベルト11cも停止させる連動機構が設けられている。部分クラッチ51を操作する各々の部分クラッチレバー52が運転席9の側方に設けられ、該部分クラッチレバー52の操作位置を検出する部分クラッチセンサ52aが設けられている。
【0014】
苗タンク11のマット苗の載置面と対向する位置には、薬剤等の粉粒体を貯溜する粉粒体貯溜部15と粉粒体を所定量づつ繰り出す繰出部17と前記粉粒体貯溜部15に開閉可能に設けられた蓋部16とからなる粉粒体吐出装置18が配設されている。尚、繰出部17は、苗タンク11の2条毎の苗載部11eに対応して2条分づつ設けられ、2条分の苗載部11eにわたる左右長の繰出ローラ17aにより粉粒体を繰り出す構成となっている。繰出ローラ17aは、該ローラ17aに対応する各2条毎のモータ19の駆動により、該モータ19の出力ギヤ19aと噛み合う従動ギヤ53に伝動され、該従動ギヤ53と一体回転して駆動する構成となっている。前記モータ19は繰出部17の後側に配置され、繰出部17の前側には前記従動ギヤの歯を検出して繰出ローラ17aの回転量を検出する各2条毎の繰出回転センサ54が設けられ、該繰出回転センサ54の検出に基づいて繰出ローラ17aが設定量回転するようにモータ19を制御装置となる制御ボックス55により駆動制御する構成となっている。尚、制御ボックス55により、モータ19は、苗送りベルト11cの作動を検出する苗送りセンサの検出に基づいて、苗送りベルト11cの作動に連動して駆動する。また、制御ボックス55により、部分クラッチセンサ52aが部分クラッチ51が切状態であることを検出すると、苗送りセンサの検出に拘らず、モータ19が駆動しない構成となっている。尚、前記モータ19と繰出回転センサ54とは、繰出部17の前後に振り分けて配置されているので、修理や取付あるいは取外し等のメンテナンス時に互いが邪魔にならず、メンテナンスを容易に行える。
【0015】
粉粒体吐出装置18は、支軸36を支点として回動可能な支持アーム37に装着支持され、散布作業時の起立姿勢と非散布作業時の倒伏姿勢とに切替変更できる構成としている。粉粒体吐出装置を倒伏姿勢に切り替えた時には、粉粒体貯溜部15の供給口が下向きとなって粉粒体が流れ落ちるようになっており、そして、この粉粒体貯溜部15に対しヒンジ16aを介して揺動開閉可能な蓋部16を開けると、この蓋部が流れ落ちる粉粒体を受け入れできるように上向き姿勢となる構成としている。また、この蓋部16の容積は、貯溜部15の容積と略同一若しくは貯溜部より大きく設定している。
【0016】
粉粒体吐出装置18を倒伏姿勢に切り替えた時、吐出装置の後部がフロート14の後部より略同一位置若しくはそれよりも稍前方に位置するよう構成することで、粉粒体吐出装置自体の破損を防止するようにしている。
【0017】
また、粉粒体吐出装置18を支持する支持フレーム38は、苗タンク11のマット苗毎に仕切られた仕切突条部11d上に沿わせて設けることにより、仕切突条部より内側に離れた位置に設ける場合のように苗葉の絡まりや苗滑り、苗切断の発生を防ぐことができる。
【0018】
繰出部17の繰出口部17bは、ブラシ17c取付側とは反対側の下部がブラシ取付側よりLの距離だけ下方に長く構成して、粉粒体の飛散を防止するように構成している。繰出部17の繰出口部に連設する粉粒体吐出筒39は、吐出装置18の保持枠40の中に収納するように構成することで、コンパクトな構成とすることができる。
【0019】
図6は、8条植えの乗用型の田植機における苗タンク11及び粉粒体吐出装置18を示すものである。尚、後述する構成以外は、前述の構成に準じるため、説明を省略する。この苗タンク11及び粉粒体吐出装置18は、倉庫への格納時やトラックへの積込時等に機体の左右幅を縮小するべく、各々の左右両端部を機体の左右方向へ移動させることができる構成となっている。具体的に説明すると、左右最外側の苗載部11e−1は、苗タンク11に沿う苗タンク回動軸56回りに機体左右内側に回動させ、外から2条目となる左右中央側の苗載部11e−2の上方に位置させる構成となっている。左右最外側の苗載部11e−1に対応する1条分の粉粒体吐出装置18の最外部分18−1は、上下方向に向く粉粒体吐出装置回動軸57回りに機体左右内側に回動させ、外から3条目の粉粒体吐出装置18の左右中央側部分18−3の後方に位置させる構成となっている。このとき、左右最外側の苗載部11e−1の下方で隣接する左右中央側の苗載部11e−2の上方に粉粒体吐出装置18の外から2条目の部分18−2が位置し、左右最外側の苗載部11e−1の左右方向内側に粉粒体吐出装置18の最外部分18−1が位置する。すなわち、苗タンク回動軸56は左右最外側の苗載部11e−1と外から2条目となる左右中央側の苗載部11e−2との間に位置し、粉粒体吐出装置回動軸57は粉粒体吐出装置18の外から2条目の部分18−2の後方(粉粒体吐出装置18の最外部分18−1と外から3条目の粉粒体吐出装置18の左右中央側部分18−3との左右間)に位置する。尚、左右最外1条分の粉粒体貯溜部15と繰出部17とは、その左右内側部分とは分割して構成されている。これにより、苗タンク11及び粉粒体吐出装置18をコンパクトに格納することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】乗用型の田植機の側面図
【図2】乗用型の田植機の平面図
【図3】粉粒体吐出装置を備えた田植機要部の側面図
【図4】粉粒体吐出装置の要部の背面図
【図5】粉粒体吐出装置の要部の断面側面図
【図6】8条植えの乗用型の田植機における苗タンク及び粉粒体吐出装置の要部を示す平面図
【符号の説明】
【0021】
1:車体、6:苗植付部、11:苗載台、11b:苗取出口、11e:苗載部、13:苗植付装置、15:粉粒体貯溜部、17:繰出部、18:粉粒体吐出装置、19:モータ、38:支持フレーム、51:部分クラッチ、55:制御ボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右に複数設けた苗載部(11e)に苗を載せて左右移動して苗を一株分づつ前記苗載部(11e)に対応する左右に複数設けた苗取出口(11b)へ供給する苗載台(11)と、苗取出口(11b)の苗を取って植え付ける左右に複数設けた苗植付装置(13)を備える苗植付部(6)を車体(1)に設け、粉粒体を貯溜する粉粒体貯溜部(15)と該粉粒体貯溜部(15)内の粉粒体を苗載台(11)の苗載面の左右方向全幅にわたって所定量づつ繰り出す左右に複数設けた繰出部(17)と該繰出部(17)を駆動する各々のモータ(19)を備えた粉粒体吐出装置(18)を、支持フレーム(38)により苗載台(11)に支持させて設け、複数の苗植付装置(13)のうちの一部の苗植付装置(13)の駆動を停止する部分クラッチ(51)を設け、該部分クラッチ(51)の作動に連動して該部分クラッチ(51)で停止した一部の苗植付装置(13)に対応する苗載部(11e)に吐出する一部の繰出部(17)のモータ(19)を停止させる制御装置(55)を設けた苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−106202(P2009−106202A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282280(P2007−282280)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】